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特許7281835ドライアイ疾患または他の眼の疾患を診断および処置するためのヒスタチンを使用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】ドライアイ疾患または他の眼の疾患を診断および処置するためのヒスタチンを使用する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230519BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20230519BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230519BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230519BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230519BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230519BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
G01N33/53 D ZNA
A61P27/04
A61P27/02
A61P35/00
A61P29/00
A61P17/02
A61K45/00
A61K38/17
C12N15/12
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021522529
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 US2019057807
(87)【国際公開番号】W WO2020086810
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】62/749,785
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513016884
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ イリノイ
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE UNIVERSITY OF ILLINOIS
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】アアカル,ヴィネイ,クマール
(72)【発明者】
【氏名】ジェイン,サンディープ
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/095769(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0224771(US,A1)
【文献】特表2015-526386(JP,A)
【文献】特開2005-249567(JP,A)
【文献】特表2009-535620(JP,A)
【文献】William H Ridder III,New drugs for the treatment of dry eye disease,Clinical Optometry,2015年09月28日,Vol.7,Page.91-102
【文献】Hui Lin,Dry eye disease: A review of diagnostic approaches and treatments,Saudi Journal of Ophthalmology,2014年06月24日,Vol.28,Page.173-181
【文献】Eduardo B. Moffa,In Vitro Identification of Histatin 5 Salivary Complexes,PLoS ONE,2015年11月06日,Vol.10 No.11,Page.e0142517
【文献】Lei Zhou,Identification of Tear Fluid Biomarkers in Dry Eye Syndrome Using iTRAQ Quantitative Proteomics,Journal of Proteome Research,2009年,Vol.8,Page.4889-4905
【文献】Nils Boehm,Alterations in the Tear Proteome of Dry Eye Patients-A Matter of the Clinical Phenotype,Investigative Ophthalmology & Visual Science,2013年,Vol.54 No.3,Page.2385-2392
【文献】PS Steele,Detection of Histatin 5 in Normal Human Schirmer Strip Samples by MassSpectroscopy,Investigative Ophthalmology & Visual Science,2002年12月,Vol.43 No.13,Page.98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
A61P 27/04
A61P 27/02
A61P 35/00
A61P 29/00
A61P 17/02
A61K 45/00
A61K 38/17
C12N 15/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
涙液欠乏性ドライアイ(aqueous deficient dry eye)(ADDE)疾患を診断するためのキットであって、以下
(a)生物学的流体試料を収集するためのデバイス、および
(b)生物学的流体試料におけるヒスタチン1またはヒスタチン5のレベルを決定するためのヒスタチン1またはヒスタチン5に選択的に結合する抗体、ここで、参照レベルと比較してヒスタチン1またはヒスタチン5の低減したレベルは、ドライアイ疾患を有すると指し示す、
を含む、前記キット。
【請求項2】
スタチン1またはヒスタチン5のレベルが、参照レベルと比較して少なくとも2倍低減している、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
スタチン1またはヒスタチン5のレベルが、5μg/ml未満である、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
対象の涙膜の質または眼表面の健康状態を査定する試験をさらに含む、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
涙膜の質が、涙のモル浸透圧濃度、涙の産生、涙液層破壊時間、またはそれらの組み合わせを測定することによって査定される、請求項に記載のキット。
【請求項6】
眼表面の健康状態が、角膜のフルオレセイン染色、眼表面疾患指標の得点、マイボスケール(Meiboscale)の得点、ドライアイ質問票(Dry Eye Questionnaire)の得点、またはそれらの組み合わせによって査定される、請求項に記載のキット。
【請求項7】
抗炎症剤、免疫抑制剤、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、細胞傷害性抗生物質、オピオイドまたはヒスタチンのうちの1つもしくはそれらの組み合わせをさらに含む、請求項1に記載のキット。
【請求項8】
涙液欠乏性ドライアイ(aqueous deficient dry eye)(ADDE)疾患についての対象を選択し、処置するためのキットであって、以下:
(a)生物学的流体試料を収集するためのデバイス;
(b)生物学的流体試料におけるヒスタチン1またはヒスタチン5のレベルを決定するためのヒスタチン1またはヒスタチン5に選択的に結合する抗体;および
(c)ヒスタチン1またはヒスタチン5のレベルが、参照レベルと比較して対象からの生物学的流体試料において低減しているときに対象に投与される、抗炎症剤、免疫抑制剤、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、細胞傷害性抗生物質、オピオイドまたはヒスタチン1またはヒスタチン5のうちの1つもしくはそれらの組み合わせ、
を含む、前記キット。
【請求項9】
スタチン1またはヒスタチン5のレベルが、参照レベルと比較して、少なくとも2倍低減している、請求項に記載のキット。
【請求項10】
スタチン1またはヒスタチン5のレベルが、5μg/ml未満である、請求項に記載のキット。
【請求項11】
有効量のヒスタチン1またはヒスタチン5を含む、涙液欠乏性ドライアイ(aqueous deficient dry eye)(ADDE)患を処置するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
導入
本出願は、2018年10月24日に出願された米国仮特許出願番号62/749,785号に対する優先権の利益を主張し、この内容は、その全体が参照されることによって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、国立衛生研究所によって授与された認可番号EY024339、EY023656、EY024966およびEY001792の政府の支援でなされた。政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
ドライアイ疾患(DED)は、何百万人もの患者を冒している一般的な障害である。涙液欠乏性DED(Aqueous deficient DED)(ADDE)は、涙腺の機能障害および涙液の水層の喪失に関連する。ADDEについてのいくつかの原因は、これらに限定されないが、シェーグレン症候群(SS)および眼移植片対宿主病(oGVHD)を包含する。涙膜の水層の喪失は、眼表面の炎症、涙の高モル浸透圧濃度およびラクリチン(lacritin)のような涙固有の数多の構成要素の低減に関連し得る。ADDEにおいてどの涙液の構成要素が失われるかを特徴づけることは、疾患の病態生理の理解を提供し、診断の手段の開発を進め、および涙膜の減った構成要素の合理的な置き換えを支持する。
【0004】
ヒスタチンは、内因性の抗微生物ペプチド(AMP)の重要なクラスである。他の例示のAMPは、LL-37およびβ-デフェンシンを包含する。ヒスタチンペプチドは、2つの遺伝子HTN1およびHTN3から生じる、ヒスチジンリッチファミリーの12のペプチド(ヒスタチン1~12)である。ヒスタチンは、最初は唾液中の抗真菌剤として記載されたが、その後抗ウイルス活性、抗細菌活性、創傷治癒活性および抗炎症活性さえも有することが見出された。最も一般的な唾液中のヒスタミンペプチドのバリアントは、H1、H3およびH5であり、典型的には唾液の総ヒスタチンプールの20~30%を表す。全唾液中で、刺激なしのH1の濃度は、12.9±3.7μg/mlである。唾液中で、H2、H4、H6~H12は、H1、H3およびH5のタンパク質分解フラグメントとして形成される。口腔の乾燥の症状を伴うリウマチ性関節炎を有する患者の唾液は、ヒスタチンのレベルが減少していることが注記されており、および疾患のマーカーとしてのヒスタチンの使用を試験することに関心が寄せられている(Jensen, et al. (1997) Oral Diseases 3:254-261; Winiarczyk, et al. (2018) Graefes Arch. Clin. Exp. Ophthalmol. 256:1127-1139; Giannobile, et al. (2000) Periodontol. 50:52-64)。
【0005】
眼表面および涙の機能性ユニットにおけるヒスタチンペプチドに潜在的な役割にいくらかの関心が寄せられている。とりわけ、ヒスタチンが、眼表面の上皮に存在することが示され(Huang, et al. (2007) Curr. Eye Res. 32:595-609)およびヒスタチン5が、健常な対象からのSchirmer涙ストリップ試料上に検出された(Steele, et al. (2002) Investig. Ophthalmol. Visual Sci. 43:98;Steele, et al. (2006) Clin. Chem. 52(S6):A20-A21)。H1がヒトの副涙腺の上皮に存在すること(Ali, et al. (2017) Curr. Eye Res. 42:491-7;Shah, et al. (2016) PLoS One 11(1):e0148018;Ubels, et al. (2012) Investig. Ophthalmol. Visual Sci. 53:6738-6747)、およびH1がヒト角膜上皮の遊走を促進し得ること(Shah, et al. (2017) PLoS One 12(5):e0178030)もまた実証された。この点において、US10,413,587B2は、ヒスタチンが、角膜の創傷治癒のために、および眼表面疾患のための処置として使用されるであろうことを教示する。同様に、外来性リンカーによって分離された天然のヒスタチンの機能ドメインの組み合わせから構成される合成ヒスタチンが、眼の疾患または疾病の処置について記載されている(US2018/0327468A1)。
【発明の概要】
【0006】
本発明の概要
本発明は、以下によってドライアイ疾患を診断するための方法を提供する(a)対象からの生物学的流体試料における1以上のヒスタチンペプチドのレベルを決定することおよび(b)該レベルを参照レベルと比較すること、ここで参照レベルと比較して1以上のヒスタチンペプチドの低減したレベルは、対象がドライアイ疾患を有することを指し示す。いくつかの側面において、ドライアイ疾患は、ADDE疾患である。ある側面において、1以上のヒスタチンは、ヒスタチン1、ヒスタチン2、ヒスタチン3、ヒスタチン4、ヒスタチン5、ヒスタチン6、ヒスタチン7、ヒスタチン8、ヒスタチン9、ヒスタチン10、ヒスタチン11、およびヒスタチン12の群から選択される。他の側面において、1以上のヒスタチンペプチドのレベルは、参照レベルと比較して、少なくとも2倍低減している、および/または1以上のヒスタチンペプチドのレベルは、5μg/ml未満である。方法は、ヒスタチンレベル単独に頼ってドライアイ疾患を診断してもよいが、方法は、さらに、対象の涙膜の質(例として、涙のモル浸透圧濃度、涙産生、涙液層破壊時間、またはそれらの組み合わせを測定することによって査定される)または眼表面の健康状態(例として、角膜フルオレセイン染色、眼表面疾患指標の得点、マイボスケール(Meiboscale)の得点、ドライアイ質問票(Dry Eye Questionnaire)の得点、またはそれらの組み合わせによって査定される)を査定するための試験を包含してもよい。ドライアイ疾患の診断に際して、方法は、抗炎症剤、免疫抑制剤、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、細胞傷害性抗生物質、オピオイドまたはヒスタチンのうちの1つもしくはその組み合わせを、ドライアイ疾患を有する対象へ投与するステップをさらに包含してもよい。
【0007】
本発明は、さらに、以下によってドライアイ疾患について対象を選択する、および処置するための方法を提供する(a)対象からの生物学的流体試料中の1以上のヒスタチンペプチドのレベルを決定すること;(b)該レベルを参照レベルと比較すること;および(c)1以上のヒスタチンペプチドのレベルが、参照レベルと比較して対象からの生物学的流体試料において低減しているときに、抗炎症剤、免疫抑制剤、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、細胞傷害性抗生物質、オピオイドまたはヒスタチンのうちの1つかまたはその組み合わせで対象を処置すること。いくつかの側面において、ドライアイ疾患は、ADDE疾患である。ある側面において、1以上のヒスタチンは、ヒスタチン1、ヒスタチン2、ヒスタチン3、ヒスタチン4、ヒスタチン5、ヒスタチン6、ヒスタチン7、ヒスタチン8、ヒスタチン9、ヒスタチン10、ヒスタチン11、およびヒスタチン12の群から選択される。他の側面において、1以上のヒスタチンペプチドのレベルは、参照レベルと比較して、少なくとも2倍低減している、および/または1以上のヒスタチンペプチドのレベルは、5μg/ml未満である。
【0008】
本発明は、さらにドライアイ疾患または他の眼の疾患を有する対象へ有効量の1以上のヒスタチンを投与することによる、ドライアイ疾患または他の眼の疾患を処置するための方法を提供する。ある側面において、1以上のヒスタチンは、ヒスタチン1、ヒスタチン2、ヒスタチン3、ヒスタチン4、ヒスタチン5、ヒスタチン6、ヒスタチン7、ヒスタチン8、ヒスタチン9、ヒスタチン10、ヒスタチン11、およびヒスタチン12の群から選択される。他の側面において、他の眼の疾患は、眼表面疾患、眼または眼内の炎症、眼の創傷、眼表面の創傷、眼上皮の機能障害または損傷、眼内または眼表面悪性腫瘍である。
【0009】
本発明はまた、(a)涙液を収集するためのデバイス、および(b)ヒスタチン1に選択的に結合する抗体、ヒスタチン2に選択的に結合する抗体、ヒスタチン3に選択的に結合する抗体、ヒスタチン4に選択的に結合する抗体、ヒスタチン5に選択的に結合する抗体、ヒスタチン6に選択的に結合する抗体、ヒスタチン7に選択的に結合する抗体、ヒスタチン8に選択的に結合する抗体、ヒスタチン9に選択的に結合する抗体、ヒスタチン10に選択的に結合する抗体、ヒスタチン11に選択的に結合する抗体、ヒスタチン12に選択的に結合する抗体、またはそれらの組み合わせ、を包含するドライアイ疾患を診断するためのキットを提供する。キットは、ヒスタチンレベルを決定することのみに使用されてもよい一方で、キットは、対象の涙膜の質(例として、涙のモル浸透圧濃度、涙産生、涙液層破壊時間、またはそれらの組み合わせを測定することによって査定される)または眼表面の健康状態(例として、角膜フルオレセイン染色、眼表面疾患指標の得点、マイボスケールの得点、ドライアイ質問票の得点、またはそれらの組み合わせによって査定される)を査定するための試験をさらに包含してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面の簡単な記載
図1図1は、正常、シェーグレン症候群(SS)患者および眼移植片対宿主病(oGVHD)患者のヒト涙試料/眼表面洗液のELISA分析を示す。ヒスタチン1(H1)濃度は、ng/ml単位で表され、および各測定(それぞれの目)は、四角(正常)、菱形(oGVHD)または円(SS)によって表される。平均濃度は、黒色の棒によって注記される。統計的比較は、正常とすべてのADDE患者との間で統計的に有意なp<0.05の差が注記され、実証されるが、oGVHDとSSとの間には有意な差はない(ns)。
【0011】
図2図2は、高い眼表面疾患指標(OSDI)または低いSchirmer I値を有する患者を検出するH1濃度の能力を示す。患者は、それらのOSDIスコアおよびSchirmer I測定に基づく群に再分類された。OSDI分類に基づくと、H1レベルは、高いOSDI(>13、「疾患にかかった」)において、正常群(≦13)よりも有意に低かった。Schirmer I分類に基づくと、H1レベルは、低いSchirmer I(<10、「疾患にかかった」)において、正常群(≧10)よりも有意に低かった。
【0012】
図3図3は、合成ペプチドでスパイクした溶液(陽性対照)、唾液、および涙液(2人の正常、非ADDE患者)においてH3を検出する多重反応モニタリング(MRM)試験を示す。
【0013】
図4図4は、合成ペプチドでスパイクした溶液(陽性対照)、唾液、および涙液(2人の正常、非ADDE患者)においてH5を検出する多重反応モニタリング(MRM)試験を示す。
【0014】
図5図5は、テトラゾリウム塩(WST)アッセイを使用した細胞生存率試験を示しており、および対照(Un)、毒性のある防腐剤(塩化ベンザルコニウム(BAK))、またはH1またはH5との共処置に曝露したときの、HCE生存率を比較している。実験は、三重で実施された。*<0.05、**<0.01。棒はSEMを表す。
【0015】
図6図6は、H5での処置がマウスモデル(BAK曝露)においてドライアイ疾患の症状を7日までには統計的に有意なやり方において低減することを示す(条件当たりn=5)。結果は、H5または平衡塩類溶液(BSS)で処置された動物において、米国眼科研究所/業界(NEI)の等級分けスケール(Lemp (1995) CLAO J. 21:221-232)に基づく。すべての実験は、三重で実施された。*<0.05、**<0.01。棒はSEMを表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の詳細な記載
ヒスタチンは、ヒト涙液中に存在し、およびヒスタチンレベル、とりわけH1、H3およびH5が、ドライアイ疾患を有する対象において低減していることが現在見出されている。具体的に言うと、低減したH1レベルは、無症候性であり、および臨床的に健常である対照(例として、いずれのドライアイの症状または目の障害も有さない対象)と比較して、シェーグレン症候群(SS)を有する対象および眼移植片対宿主病(oGVHD)患者において観察されており、およびH1レベルは、涙液欠乏性ドライアイ(aqueous deficiency dry eye)(ADDE)の従来の臨床指標と有意に相関関係があることが示されている。結果的に、本発明は、ドライアイ疾患または他の眼の疾患を診断する方法およびドライアイ疾患または他の眼の疾患の処置のための対象を選択する方法を提供する。これらの方法は、対象からの生物学的流体試料中の1以上のヒスタチンペプチドのレベルまたは量を決定し、および該レベルを対照または参照レベルと比較するステップを包含し、ここで対照または参照レベルと比較して低減したヒスタチンペプチドレベルは、ドライアイ疾患または他の眼の疾患または同処置を必要とする対象を指示している。
【0017】
用語「ドライアイ疾患」は、涙液および眼表面(角膜、結膜、およびまぶたを包含する)の多因子疾患を指し、不快感、視覚障害および眼表面への潜在的な損傷を伴う涙膜不安定性の症状をもたらし、「The Definition and Classification of Dry Eye Disease: Guidelines from the 2007 International Dry Eye Work Shop」((2007) Ocul. Surf. 5(2):75-92)によって定義される通りである。ドライアイは、涙膜の増大したモル浸透圧濃度および眼表面の炎症に付随して起こり得る。ドライアイ疾患は、ドライアイ症候群、乾性角結膜炎(KCS)、涙機能障害症候群、涙液性角結膜炎(lacrimal keratoconjunctivitis)、蒸発性涙欠乏症(evaporative tear deficiency)、涙液欠乏性ドライアイ、およびレーシックに誘発される神経栄養性上皮症(neurotrophic epitheliopathy)(LE)を包含する。
【0018】
具体的な態様において、本発明の方法におけるドライアイ疾患は、涙液欠乏性ドライアイまたはADDEである。ADDEは、低減した涙液分泌に起因しており、およびシェーグレン症候群(涙腺および唾液腺が、自己免疫プロセスによって標的化される、例として、リウマチ性関節炎)、非シェーグレン症候群のドライアイ(涙液機能障害、しかしシェーグレン症候群の全身性の自己免疫特色は除外される、例として、加齢に関するドライアイ)、および眼移植片対宿主病(oGVHD)にさらに細分され得る。本発明に従うと、低減したヒスタチンレベルは、ドライアイ疾患、好ましくはADDE、より好ましくはシェーグレン症候群およびoGVHDに関連するADDEと相関関係にある。
【0019】
当該技術分野において知られているように、2つの異なる遺伝子である、HTN1およびHTN3の産物であるヒスタチンファミリーの複数のメンバーのペプチドがある。主要なヒトヒスタチンファミリーのペプチドメンバーの配列は、表1に提供される。好ましくは、低減したレベルのH1、H3およびH5は、ドライアイ疾患、好ましくはシェーグレン症候群およびoGVHDに関連するADDEと相関関係がある。しかしながら、H2、H4、H6、H7、H8、H9、H10、H11および/またはH12のレベルは、ドライアイ疾患を有する対象の生物学的液体においてもまた低減するであろうことが仮定される。結果的に、本発明は、本発明の方法に従って、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11および/またはH12の群から選択される1以上のヒスタチンのレベルを決定することを含む。いくつかの側面において、H1、H3および/またはH5ペプチドのレベルが、決定される。他の側面において、H1ペプチドのレベルが、決定される。
【表1】
【0020】
本発明の目的のために、生物学的流体試料は、これらに限定されることはないが、涙液、唾液、血清、または尿を包含することが意図される。理想的には、対象からの生物学的流体試料は、涙の流体試料である。いくつかの側面において、生物学的流体試料は、ドライアイ疾患または別の眼の疾患を有すると疑われるかまたは有するリスクのある対象からの涙の流体試料である。
【0021】
生物学的流体試料中のヒスタチンペプチドのレベルまたは含量は、ペプチドを検出し、および任意に定量するためのいずれかの好適なアッセイを使用して決定または測定されてもよい。ヒスタチンペプチドのレベルは、対照値または参照値(例として、ドライアイ疾患または他の眼の疾患を有していない対照(健常な)対象において提示される値またはレベル)と比べた絶対量または量であってもよい。用語「対照値」、「対照レベル」、「参照値」または「参照レベル」は、比較目的のために使用される値またはレベルを意味する。いくつかの態様において、対照値または参照値は、閾値であり得る。いくつかの態様において、対照値または参照値は、健常な対象、例として、ドライアイ疾患の1以上の症状を提示していない対象またはドライアイ疾患または他の眼の疾患を有すると診断されていない対象における測定されたレベルまたは値であり得る。いくつかの態様において、対照値または参照値は、参照対象のコホートにおいて決定される。いくつかの態様において、対照値または参照値は、参照対象のコホートにおいて統計的に決定され、例として、参照対象のコホートにおける、中央値、平均値、またはパーセンタイル(例として、三分位数、四分位数、五分位数)カットオフ値(例として、上位パーセンタイル、例として、上位三分位数、四分位数、または五分位数カットオフ値)である。
【0022】
いくつかの側面において、生物学的流体試料中の1以上のヒスタチンペプチドの量は、多重反応モニタリング(MRM)または選択反応モニタリング(SRM)質量分析を使用して決定される。かかる標的化アッセイにおいて、目的のペプチドは、最初の四重極(Q1)におけるそれらの親イオンの質量に基づき選択されて、第2の四重極において断片化され(Q2は衝突セルとして作用する)、プロダクトイオンを生成する。事前に選択される親およびプロダクトイオンのペア(遷移とも呼ばれる)は、次いで第3の四重極(Q3)によってモニタリングされる。この2ステップのフィルタリング機構の後に、生物学的なバックグラウンドは、ほとんど取り除かれて、事前に選択されるペプチドを高い特異性および感度で検出することにつながる。最新の三連四重極質量分析計は、単一の実験中に数百もの遷移を走査し、複数のペプチドを同時に検出することができる。加えて、既知の分量で安定した同位体標識化ペプチドが、内部標準として試料内にスパイクされた場合に、これらの事前に選択されるペプチドの絶対量は、高い正確さで決定され得る。
【0023】
代替的に、生物学的流体試料中の1以上のヒスタチンのレベルまたは含量は、1以上のヒスタチンペプチドに選択的に結合する抗体を使用して決定されてもよい。具体的なヒスタチンペプチドについて選択的である抗体は、ポリクローナルでも、またはモノクローナルでもよく、および抗体が由来する動物種によって制限されない。ヒスタチンペプチドに選択的に結合する抗体は、理想的には、他のヒスタチンについての結合親和性よりも少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、50倍または100倍高い、具体的なヒスタチンについての結合親和性(例として、結合親和性解離定数またはKとして表される)を有する。抗体は、完全長免疫グロブリンであっても、または抗原結合活性を有する抗体フラグメントであってもよい。抗体フラグメントの例は、これらに限定されないが、FabフラグメントおよびF(ab′)フラグメントを包含する。ヒスタチンペプチドレベルの定量における抗体および抗体フラグメントの使用は、当該技術分野において知られており、およびAbcam(Cambridge、MA)、LifeSpan BioSciences(Seattle、WA)、Antibodies-online (Atlanta、GA)、Novus Biologicals(Littleton、CO)、MyBioSource.com(San Diego、CA)、United States Biological(Salem、MA)、およびCreative Biolabs(Shirley、NY)などの商業的供給源から入手可能である。
【0024】
生物学的流体試料におけるヒスタチンペプチドのレベルが測定されるときに、ヒスタチンペプチドは、例えば、免疫組織化学の技法またはウェスタンブロット分析を使用して検出されてもよく、よって試料中に検出されるヒスタチンペプチドの含量は、予め決められた標準曲線から算出され得る。代替的に、ヒスタチンペプチドのレベルは、直接競合ELISA、間接競合ELISA、およびサンドイッチELISAを包含するELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、流量測定、またはイムノクロマトグラフィーなどの定量方法を使用して決定され得る。
【0025】
ヒスタチンペプチドのレベルを決定することにおいて、抗体または抗体フラグメントが使用されるときに、好ましくはヒスタチンについて選択的である抗体(すなわち、一次抗体)、またはそれに結合する二次抗体が、可視化の目的のために標識される。標識化物質の例は、これらに限定されないが、蛍光物質(例として、FITC、ローダミン、およびファロイジン)、金などのコロイド粒子、蛍光マイクロビーズ(Luminex Corporation)、重金属(例として、金および白金)、色素タンパク質(例として、フィコエリトリンおよびフィコシアニン)、放射性同位体(例として、H、14C、32P、35S、125Iおよび131I)、酵素(例として、ペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼ)、ビオチンおよびストレプトアビジンを包含する。
【0026】
いくつかの側面において、対象の生物学的流体試料におけるヒスタチンのレベルまたは含量が、対照または参照レベルよりも少なくとも2倍、または好ましくは少なくとも5倍、またはより好ましくは少なくとも10倍低いときに、対象は、ドライアイ疾患または他の眼の疾患と診断される。ある側面において、対象の涙液におけるヒスタチンのレベルまたは含量が、対照または参照レベルよりも少なくとも2倍、または好ましくは少なくとも5倍、またはより好ましくは少なくとも10倍低いときに、対象は、ADDEと診断される。特定の側面において、対象の涙液におけるH1、H3および/またはH5のレベルまたは含量が、対照または参照レベルよりも少なくとも2倍、または好ましくは少なくとも5倍、またはより好ましくは少なくとも10倍低いときに、対象は、ADDEと診断される。
【0027】
いくつかの側面において、対象の生物学的流体試料における少なくとも1つのヒスタチンのレベルまたは含量が、5μg/ml未満、または好ましくは1μg/ml未満、またはより好ましくは600ng/ml未満、または最も好ましくは400ng/ml未満であるときに、対象は、ドライアイ疾患と診断される。ある側面において、対象の涙液における少なくとも1つのヒスタチンのレベルまたは含量が、5μg/ml未満、または好ましくは1μg/ml未満、またはより好ましくは600ng/ml未満、または最も好ましくは400ng/ml未満であるときに、対象は、ADDEを有すると決定される。特定の側面において、対象の涙液におけるH1、H3および/またはH5のレベルまたは含量が、対照または参照レベルよりも5μg/ml未満、または好ましくは1μg/ml未満、またはより好ましくは600ng/ml未満、または最も好ましくは400ng/ml未満低いときに、対象は、ADDEを有すると決定される。
【0028】
いくつかの側面において、本発明の方法は、対象におけるドライアイ疾患または他の眼の疾患の1以上の追加の症状に関してこれまでに決定された情報を決定すること、または代替的に得ること、提供すること、または使用することをさらに包含する。かかる症状は、これらに限定されないが、疼痛または目における灼熱感、涙の蒸発、高モル浸透圧濃度、涙膜の不安定性、眼瞼縁上の細菌の増殖、および/または眼表面の炎症および/または損傷の存在を包含する。この点において、本発明の方法のいくつかの側面は、ドライアイ、疼痛または目における灼熱感、高モル浸透圧濃度、涙膜の不安定性、眼瞼縁上の増大した細菌の増殖、および眼表面の炎症および損傷の1以上を包含する、対象におけるドライアイ疾患の1以上の(例として、2、3、4、または5の)追加の症状を査定することをさらに包含する。ある側面において、本発明の方法は、涙液の質を決定するための試験(例として、涙液のモル浸透圧濃度、涙液産生または涙液層破壊時間を決定するための試験)または眼表面の健康状態を査定するための試験(例として、角膜フルオレセイン染色、眼表面疾患指標(OSDI)の得点、マイボスケールの得点、およびドライアイ質問票(DEQ)の得点)を実施すること、およびそれらとヒスタチンレベルを相関づけることをさらに包含する。涙のモル浸透圧濃度、涙産生および涙液層破壊時間を決定するための方法、および角膜フルオレセイン染色、OSDIの得点、およびDEQの得点を実施することは、当該技術分野において知られている。いくつかの態様において、涙産生における減少または角膜フルオレセイン染色、涙のモル浸透圧濃度、涙液層破壊時間、マイボスケールスコア、またはOSDIのスコアにおける上昇の1以上は、対象がドライアイ疾患を有することをさらに指し示す。
【0029】
用語「角膜フルオレセイン染色」は、角膜の傷害、角膜の欠陥(単数または複数)、または対象における涙膜中の欠陥を査定するために使用される、臨床手順を意味する。この手順のいくつかの態様において、色素(例として、フルオレセイン)を含有する水和型吸い取り紙の一片は、対象の目と接触させられ、次いでその者はまばたきするよう求められ、および対象の目は、青色光で可視化される。いずれかの角膜剥離、角膜の欠陥(単数または複数)、または涙膜における構造上の不一致が、対象の目における色素の斑点状の一様でない分布によって観察されるだろう。
【0030】
「涙のモル浸透圧濃度」は、1リットル当たりの溶質粒子の総数として表される溶液の濃度を指す。涙膜のモル浸透圧濃度試験のために使用され得る、数個の診断技術がある。氷点降下法は、0.2μLの涙液の試料のみを必要とし、および非常に正確である。この方法に従うと、試料は、その氷点まで過冷却され、およびモル浸透圧濃度は試料の氷点測定値を既知の標準物質と比較することによって算出される。第2のアプローチである、蒸気圧浸透圧法は、涙のモル浸透圧濃度を測定する、相対的に単純な代替の方法である。この方法について、試料は、器械内に挿入され、そこでそれは小さな、取り囲まれたチャンバー内の紙ディスク上に拡散される。試料が蒸発すると、センサ(熱電対湿度計)が、チャンバー内の露点温度を測定する。露点温度とベースライン温度の差は、露点温度効果である。この差を計算することは、溶液の蒸気圧、すなわち、モル浸透圧濃度を提供する。さらなる代替手段をして、電気インピーダンス浸透圧計が、モル浸透圧濃度の測定のために使用される。
【0031】
「涙産生試験」または「Schirmerの試験」は、産生される涙液の容量を測定する試験を指し、およびそれぞれの目の下まぶた(結膜嚢)の内側に数分間濾紙の小さなストリップを置き、涙液が毛細管作用によって濾紙に引き入れられることを可能にすることによって実施される。次いで紙は、取り除かれ、濡れている量が、ミリメートル単位で測定される。典型的には、5mm未満の測定が、ドライアイを指し示す。
【0032】
用語「涙液層破壊時間」は、対象における涙膜の安定性を指し示す臨床スコアを意味する。数多の臨床試験は、対象における涙液層破壊時間を決定するために利用可能である。いくつかの態様において、涙液層破壊時間は、ナトリウムフルオレセイン色素を対象の目に添加する;患者がまばたきを避ける間に色素を観察する;およびごく小さなドライスポットが角膜上に現れる前の経過時間を記録することによって査定される。かかる態様において、ドライスポットが発生するまでにかかる時間が長いほど、対象において涙膜はより安定している。対象における涙液層破壊時間を決定するための様々な追加のアッセイは、当該技術分野において利用可能である。
【0033】
「ドライアイ質問票」は、その回答が、対象がドライアイ疾患を有するかどうかを指し示す、質問の1セットを指す。ドライアイ質問票の例は、例として、0~10のクーリングスケール(0-10 Cooling Scale)、4つの症状の質問票(4-Symptom Questionnaire)、眼表面疾患指標(OSDI、Allergan)、ドライアイにおける症状の査定(Symptom Assessment iN Dry Eye)(SANDE)、標準的な患者の目の乾燥の評価(Standard Patient Evaluation of Eye Dryness)(SPEED、TearScience)、ドライアイ質問票(DEQ、TearLab)、McMonnies質問票、乾燥の症状の主観的評価(Subjective Evaluation of Symptom of Dryness)(SESoD、Allergan)、毎日の生活に対するドライアイの影響(Impact of Dry Eye on Everyday Life)(IDEEL、Alcon)およびドライアイ関連クオリティオブライフスコア質問票(Dry Eye-Related Quality-of-Life Score Questionnaire)(DEQS、Dry Eye Society)、またはそれらの組み合わせを包含する。いくつかの態様において、ドライアイ質問票は、OSDIである。
【0034】
「OSDI」は、ドライアイ疾患を有すると疑われる対象によって回答される12の質問の1セットを指す。質問は、以下:(I)最近1週間にあなたは以下のいずれかを経験したか:光に敏感な目?砂の入った感じのする目?疼痛またはひりひりする目?ぼやけた視覚?乏しい視覚?(II)最近1週間に目の問題を伴い、あなたが以下のいずれかを実施するにおいて制限されたか:読書?夜間の運転?コンピュータまたは銀行の機械(ATM)を用いた仕事?TVを見る?(III)最近1週間にあなたの目は以下の事態のいずれかにおいて不快を感じたか:風の強い条件?低湿度の(極めて乾燥した)場所またはエリア?空調管理されているエリア?、を包含し、以下の各回答を最もよく表す番号を丸で囲む:4(時間のすべて)、3(時間のうちほとんど)、2(時間の半分)、1(時間のいくつか)または0(時間のうち少しもない)。質問票についての総スコアを得るために、最終的なスコアは、以下の式を使用して算出される:(A)セクション(I)、(II)、および(III)からの小計を加える;(B)セクション(I)、(II)、および(III)からの回答された質問の総数を決定する(N/Aを包含しない);(C)最終的なOSDIスコア=A×25割るB。
【0035】
いくつかの側面において、対象の涙液における1以上のヒスタチン(例として、H1、H3および/またはH5)のレベルまたは含量が、対照または参照レベルよりも少なくとも2倍、少なくとも5倍、または少なくとも10倍低い、および対象が、少なくとも13のOSDIスコアおよび/または10未満のSchirmer I測定を有するときに、対象は、ドライアイ疾患、とりわけADDEと診断される。他の側面において、対象の涙液における1以上のヒスタチン(例として、H1、H3および/またはH5)のレベルまたは含量が、5μg/ml未満、1μg/ml未満、600ng/ml未満、または400ng/ml未満である、および対象が、少なくとも13のOSDIスコアおよび/または10未満のSchirmer I測定を有するときに、対象は、ドライアイ疾患、とりわけADDEと診断される。
【0036】
いくつかの態様において、方法は、医療専門家(例として、医者、医者の補佐、看護師、看護師の補佐、および検査技師)によって実施され得る。いくつかの態様において、対象は、子ども、10代の若者、または成人(例として、少なくとも18、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、または90歳)であり得る。対象は、例として、1以上の(例として、少なくとも2、3、または4の)本明細書に記載のドライアイ疾患の症状を提示し得る。いくつかの態様において、対象は、例として、対象の目(単数または複数)の基本的な検査によって容易に検出され得るドライアイ疾患の症状を提示していなくともよい。
【0037】
本明細書に記載の方法は、ドライアイ疾患または他の眼の疾患を発症する増大したリスクを有する対象(例として、閉経の女性またはアンドロゲン欠乏症、シェーグレン症候群、乾癬、酒さ、高血圧症、または良性前立腺肥大症を有する対象、または抗アンドロゲン薬、閉経後のホルモン治療(例として、エストロゲンおよびプロゲスチン)、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬、およびレチノイド)のうち1以上を摂取している対象またはこれまでに投与された対象)に対して定期的に実施され得る(例として、少なくとも月に1回、6月毎に1回、または1年に1回)。いくつかの態様は、さらに対象の診療記録における試験の結果を記録すること(例として、コンピュータで読める媒体において結果を記録すること)を包含する。
【0038】
診断を容易にするために、本発明はまた、対象がドライアイ疾患または他の眼の疾患を有するかどうかを決定するためのキットを提供する。本発明のキットは、生物学的流体試料を収集するためのデバイスおよび1以上のヒスタチンのレベルを決定するための1以上の剤を包含する。理想的に、ヒスタチンレベルを決定するための剤は、1以上の抗ヒスタチン抗体、すなわち、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11またはH12へ選択的に結合する抗体である。好ましくは、キットは、H1へ選択的に結合する抗体、H3へ選択的に結合する抗体および/またはH5へ選択的に結合する抗体を包含する。生物学的流体試料を収集するためのデバイスは、例として、ガラスキャピラリーチューブ、試験ストリップ(例として、ヒドロゲルストリップ)、またはコンタクトレンズであり得る。涙収集デバイスは、好ましくは、試験ストリップまたはコンタクトレンズである。
【0039】
ある側面において、キットは、1以上のヒスタチンのレベルを決定するためのデバイスを包含し、ここでデバイスは、(a)生物学的流体試料、例として、患者からの涙または唾液試料を受けるように構成されている試験ストリップ;および(b)生物学的流体試料との接触の際に、検出可能なシグナルを産生するように構成されている反応を受ける、1以上の抗ヒスタミン抗体を含有する試薬パッド、を包含し、ここでシグナルの強度は、生物学的流体試料中のヒスタチンの量に比例し、およびここで試験ストリップは、試薬パッドに生物学的流体試料を送達するように構成されている。検出可能なシグナルは、例えば、電気シグナル(電気化学的アッセイ)、または光学シグナル(酵素アッセイ、免疫アッセイまたは競合結合アッセイ)であり得る。光学シグナルは、これらに限定されないが、色の形成、色、蛍光、発光、化学発光の変化、蛍光または発光強度の変化、蛍光または発光寿命、蛍光の異方性または偏光、放射スペクトルのスペクトルシフト、時間分解の異方性崩壊等の変化を包含する、光学特性の変化を指す。
【0040】
いくつかの側面において、キットは、対象の涙膜の質(例として、涙のモル浸透圧濃度、涙の産生、または涙液層破壊時間)または眼表面の健康状態を査定するための試験(例として、角膜フルオレセイン染色、眼表面疾患指標試験、マイボスケール試験、またはドライアイ質問票試験)をさらに包含する。
【0041】
ひとたび対象が、ドライアイ疾患または1以上のヒスタチンのレベルに基づく他の眼の疾患および任意に1以上の追加の症状を有すると特定されると、対象は、ドライアイ疾患および/または眼の疾患に関連する基礎にある病因の処置において使用される剤の1つまたは組み合わせで処置され得る。かかる処置は、例として、抗炎症剤(例として、TNFα結合タンパク質、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、またはアジスロマイシン、ドキシサイクリン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、カルボマイシンA、ジョサマイシン、キタサマイシン、ミデカマイシン、オレアンドマイシン、ソリスロマイシン(solithomycin)、スピラマイシン、トロレアンドマイシン、またはタイロシン(tylocine)などの抗炎症性の抗生物質)、免疫抑制剤(シクロスポリンAまたはそれらの類似体、タクロリムス/FK506、シロリムス/ラパマイシン、ミコフェノール酸、商品名ATGAM(登録商標)またはTHYMOGLOBULIN(登録商標)で販売されている抗胸腺細胞グロブリン、抗CD3抗体OKT3、T細胞受容体に対するいずれかの抗体、またはIL-2に対するいずれかの抗体、例として、バシリキシマブまたはダクリズマブ(declizumab))、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤、アルキル化剤(例として、ナイトロジェンマスタード/シクロホスファミド、ニトロソ尿素、白金化合物)、代謝拮抗剤(例として、メトトレキサート、いずれかの葉酸類似体、アザチオプリン、メルカプトプリン、いずれかのプリン類似体、いずれかのピリミジン類似体、いずれかのタンパク質合成のインヒビター)、細胞傷害性抗生物質(例として、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン)、またはオピオイド、の1つまたは組み合わせての投与が包含され得る。
【0042】
その上、本発明は、ドライアイ疾患(例として、ADDE)または他の眼の疾患の処置における、ヒスタチンまたはそのバリアント、例として、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11および/またはH12の、単独または上に参照の治療法の1以上との組み合わせのいずれかでの、投与について提供する。この側面に従って処置されるであろう他の眼の疾患は、これらに限定されないが、眼表面疾患、眼または眼内の炎症、眼の創傷、眼表面創傷、眼上皮の機能障害または損傷、眼内のまたは眼表面悪性腫瘍を包含する。この側面に従うと、ヒスタチンは、許容し得る担体と組み合わせたヒスタチンを包含する眼科の製剤で提供される。ヒスタチンペプチドは、合成ペプチドの合成または組換え産生を包含する従来の方法によって産生されてもよく、表1において本明細書に提供される配列、またはその類似体もしくは誘導体に基づいてもよい。ある態様において、本発明のこの側面において使用されるヒスタチンは、H1、H3および/またはH5である。
【0043】
許容し得る製剤材料は、好ましくは、用いられる投薬量および濃度でレシピエントに対し非毒性である。製剤は、例えば、組成物のpH、モル浸透圧濃度、粘度、透明さ、色、等張性、匂い、無菌状態、安定性、溶解または放出速度、吸着または浸透を改変、維持または保存のための材料を含有してもよい。好適な製剤材料は、これらに限定されないが、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシンなど);抗微生物剤;抗酸化剤(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウムなど);バッファー(ホウ酸塩、重炭酸塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩または他の有機酸など);増量剤(マンニトールまたはグリシンなど);キレート剤(エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)など);錯化剤(カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ-シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンなど);充填剤;単糖類、二糖類、および他の炭水化物(グルコース、マンノースまたはデキストリンなど);タンパク質(血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなど);着色料、フレーバー剤および希釈剤;乳化剤;親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど);低分子量のポリペプチド;塩形成対イオン(ナトリウムなど);保存料(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸または過酸化水素など);溶媒(グリセリン、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなど);糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど);懸濁化剤;界面活性剤または湿潤剤(PLURONICS、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート20およびポリソルベート80などのポリソルベート、TRITON、トロメタミン(trimethamin)、レシチン、コレステロール、またはチロキサポール(tyloxapal)など);安定性増強剤(スクロースまたはソルビトールなど);弾力性増強剤(アルカリ金属ハロゲン化物、好ましくはナトリウムまたはカリウム塩化物、マンニトール、またはソルビトールなど);送達ビヒクル;希釈剤;賦形剤および/または医薬用アジュバントを包含する。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、Idを参照されたい。
【0044】
医薬組成物中の主要な担体または賦形剤は、水性または非水性いずれかの性質であってもよい。例えば、好適な担体または賦形剤は、注射用水、生理食塩水または人工脳脊髄液であってもよく、あるいは非経口投与のための組成物に共通である他の材料で補充されてもよい。中性緩衝生理食塩水または血清アルブミンと混合した生理食塩水は、さらなる例示の賦形剤である。医薬組成物は、約pH7.0~8.5のトリスバッファー、または約pH4.0~5.5の酢酸バッファーを包含することができ、さらにソルビトールまたは好適な代替物を包含してもよい。本発明の組成物は、所望される純度を有する選択される組成物と任意の製剤化剤(Remington's Pharmaceutical Sciences, Id.)とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水性溶液の形態で保管のために調製されてもよい。さらに、本発明のヒスタチンは、スクロースなどの適切な賦形剤を使用した凍結乾燥物として処方されてもよい。
【0045】
ヒスタチンは、眼の薬物投与のために好適ないずれかの形態、例として、溶液、懸濁液、軟膏、ゲル、リポソーム分散体、コロイド状のマイクロ粒子懸濁液、または同種のものなどで、または眼のインサート、例として、任意に生分解性の徐放性ポリマーマトリックスで投与されてもよい。好ましくは、眼科用の製剤は、涙液中のヒスタチンのレベルを、例として、正常なレベル付近にまで、改善または回復する有効量のヒスタチンを含有する。
【0046】
以下の非限定例は、本発明をさらに説明するために提供される。
【0047】
例1:材料および方法
対象参加者および分類。イリノイ大学シカゴ校の施設内治験審査委員会に承認されたプロトコルの下、ヘルシンキ宣言および医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律の教義を忠実に守りこの調査研究を行った。ドライアイ疾患(DED)を有する症候性の患者および無症候性の健常対照の対象が登録され、および調査の性質および考えられる帰結を説明した後にすべての参加者からインフォームドコンセントを得た。
【0048】
参加者を以下の2群に分けた:(i)正常対照(n=11、22の目)(2)以下の2つの下位群を包含するADDE(n=11、22の目):(a)シェーグレン症候群(SS)の群(n=4、8つの目)および(b)眼移植片対宿主病(oGVHD)(n=7、14の目)。この試料サイズは、0.8の検出力および0.05の有意水準について1.26の標準偏差の群平均差の検出を可能とした。
【0049】
患者の分類を以下のとおり決定した。対照群は、眼の症状がなく、麻酔なしのSchirmer I試験の結果が5分で10mmを超過する、および眼表面疾患指標(OSDI)スコアが13を下回る個体を包含した。患者は、彼らの5分でのSchirmer Iが、10mm未満が濡れており、NEI-CSSに対する角膜の極めて重大な色素染色≧が1である、およびOSDI>13である場合に、ADDEを有するとみなされた(Bron, et al. (2007) Ocular Surface 5:108-152;Lemp (1995) CLAO J. 21:221-232)。Schirmer I試験は、ADDEの診断においての要素として使用される標準的な試験である(Bron (2001) Surv. Ophthalmol. 45:S221-S226;Wolffsohn, et al. (2017) Ocular Surface 15:539-574)。SSの診断は、特定の血清自己抗体の存在かまたは疾患と一致した生検(disease-consistent biopsy)および付随する上述のとおりのADDEの存在のいずれかを伴う有資格のリウマチ専門医による既存の診断に基づいた。oGVHDの診断は、これまでに報告されたコンセンサスガイドラインの基準に基づいた(Ogawa, et al. (2013) Sci. Reports 3:3419)。手短に言えば、4個の主観的基準および4個の客観的基準、角膜染色、OSDI、Schirmer I、涙液産生の測定、および結膜注射が包含された。研究に包含されたoGVHD群におけるすべての患者は、「明確な」oGVHDの診断を有した。
【0050】
臨床訪問中の検査および試験の順序は、以下の順序で実施された:OSDIの得点、Schirmer I、眼表面の細隙灯生体顕微鏡検査(中程度の強度でのブロードビームを使用する)、眼表面洗液/涙液の収集、フルオレセインを用いた極めて重大な色素染色および眼表面の評価。
【0051】
Schirmer I(麻酔なし)試験および眼表面疾患指標(OSDI)。Whatmanフィルターストリップ#41(Haag-Streit、Essex、UK)を使用して涙液産生を測定するために、Schirmer I試験に着手した。5分後に、Schirmerストリップを取り除き、濡れている長さ(mm)を測定した。OSDIスコアは0~100の範囲をとり、より高いスコアはより重度のDEDまたは身体障害に関連する。OSDIスコアを、以下の式、OSDI=[Σ(すべての質問のスコア)×25]/(総質問数)を使用して算出した(Tibrewal, et al. (2013) Invest. Ophthalmol. Visual Sci. 54:8051-8061;Schiffman, et al. (2000) Arch. Ophthalmol. 118:615-621)。
【0052】
角膜染色。角膜染色スコアを、米国眼科研究所-角膜染色スコア(NEI-CSS)、等級分けスケール(Lemp (1995) CLAO J. 21:221-232;Hamrah, et al. (2011) Eye (London、England) 25:1429-1434)を使用してリサミングリーン色素染色(それぞれの目に5μLの1%溶液を適用する)によって測定する。NEIスケールは、角膜を5個のセクションに分け、点状角膜炎の密度に基づいて、各セクションに0(不在)から3(重度)までの値の、最大15点を割り当てるチャートに依拠する。
【0053】
非侵襲的な涙液層破壊時間(NITBUT)。NITBUTは、ケラトグラフ(Oculus、Inc.、Arlington、WA)によって患者の角膜上に反映される同心円のプラシドリングの画像に歪みが現れるのにかかる時間(秒単位)である。2つのタイプのNITBUTが、ケラトグラフ5Mによって測定される:(i)NITBUT-最初は、プラシドリングの最初の歪みが発生する時間である;および(ii)平均NITBUTは、8mmの角膜径中の種々の場所における最初の破壊事象の平均時間である。ADDE下位群(oGVHDおよびSS)の間での涙液層破壊時間を比較するために、平均NITBUTを表3に提供する。
【0054】
マイボーム腺分析。マイボーム腺イメージングを、LipiView II眼表面干渉計(TearScience、Morrisville、NC)を使用して実施した。マイボーム腺の脱落を、マイボーム腺の喪失の面積に基づき、0~4のスケールを使用して等級を分けた(0、0%;1、<25%;2、25%~50%;3、51%~75%;および4、>75%)。スコアを、それぞれの目について「マイボスケール」として記録した(Pult & Riede-Pult (2013) Contact Lens Anterior Eye 36:22-27; Yeotikar, et al. (2016) Invest. Ophthalmol. Visual Sci. 57:3996-4007)。
【0055】
涙液収集。眼表面洗液(OSW)を、涙液収集のために、公開されたプロトコル(Tibrewal, et al. (2013) Invest. Ophthalmol. Visual Sci. 54:8051-8061;Caffery, et al. (2008) Optomet. Vision Sci. 85:661-667)に従って実施した。ADDEを有する患者からの涙液を直接的に収集するのには充分な涙液容量が存在しなかったために、マイクロキャピラリーチューブを用いた涙液の直接的な捕捉とは反対にOSWが好ましかった。比較可能性を維持するために、同じ方法の涙液の収集を、正常患者について実施した。手短に言えば、眼表面洗液を、ピペットにより目に滴下された、商品名REFRESH OPTIVE(登録商標) Sensitive(Allergan、Inc.)で販売されている保存料フリーの人口涙液の50μlの液滴を使用して得、次いでOSWを2分後に実施する、ここですべての患者の下眼瞼縁および下方の円蓋(inferior fornix)からの涙液を、平滑ガラスマイクロキャピラリーチューブ(5μL Drummond MICROCAPS(登録商標);Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)を使用して収集した。OSW涙液を滅菌チューブ(Thermo Fisher)中に-80℃で保管した(Tibrewal, et al. (2013) Invest. Ophthalmol. Visual Sci. 54:8051-8061)。
【0056】
唾液収集物。非刺激の全唾液を、重度の歯周炎または口渇症を包含する既知の口腔疾患を有さない正常対象から収集した。唾液を、公開されたプロトコル(Agha-Hosseini, et al. (2011) Aust. Dent. J. 56:171-174;Takehara、et al. (2013) PLoS One 8:e69059)と同様に収集した。手短に言えば、いかなる刺激も伴わず、唾液を口内に蓄積させて、および滅菌培養皿内に吐き出させた。およそ、2mlの全唾液を収集し、4℃14000RPMで10分間遠心分離した;次いで、上清を実験法のために使用した。唾液を、涙液中のH1の存在または不在を決定するための、生物学的な陽性対照としてのみの使用のために収集した。
【0057】
ヒスタチン-1合成。ヒスタチン-1(H1)ペプチドを、先の公開されたプロトコル(Shah, et al. (2017) PLoS One 12:e0178030)に従って合成した。ペプチドの配列は、「S(セリン)」のリン酸化を伴い、いずれの他の修飾も伴わない、DS(PO3)HEKRHHGYRRKFHEKHHSHREFPFYGDYGSNYLYDN(配列番号1)であった。H1の理論上のサイズは、4928.17である。手短に言えば、Fmoc化学を使用する標準的な固相をH1合成のために使用した。ペプチドを、HPLCを使用して精製し、およびエレクトロスプレイイオン化質量分析によって特徴づけた。凍結乾燥ペプチド粉末を、すべての実験における使用のために、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した。H1ペプチドを、トリフルオロ酢酸(TFA)塩として>95%の純度で合成した。
【0058】
ウェスタンブロット、免疫ドットブロットおよびクマシー染色。ウェスタンブロット分析を、標準的な方法に従って実施した(Sarkar, et al. (2012) Invest. Ophthalmol. Visual Sci. 53:1792-1802)。手短に言えば、涙液試料(2.5μl)を、12%NuPage(商標)ビス-トリスゲル(Invitrogen、Carlsbad、CA)上で電気泳動させて、ニトロセルロース膜に移した。膜を、3%脱脂粉乳および0.02%ポリエチレングリコールソルビタンモノラウラート(商品名TWEEN(登録商標)20で販売されている)を含有するトリス緩衝生理食塩水でブロッキングし、および1:1000ウサギ抗ヒトヒスタチン-1(H1)抗体(Mybiosource、San Diego、CA)を用いて4℃で終夜インキュベートし、および二次抗体として1:2000ヤギ抗ウサギ-HRP(BD Biosciences、San Jose、CA)を用いて1時間インキュベートした。X線フィルムおよびECL Pro溶液(PerkinElmer、Waltham、MA)を使用して膜を発現させた。ウェスタンブロットタンパク質定量化を、BioDrop(Biochrom Ltd.、Cambridge、UK)を使用して実施した。
【0059】
免疫ドットブロット分析のために、合成H1(Syn.H1)の段階希釈液4μlを、ニトロセルロース膜上にスポットし、乾燥させた。Syn.H1ペプチドおよび唾液を陽性対照として使用し、スクランブルペプチド(Scrambled peptide)およびPBSを陰性対照として使用した。ウサギ抗ヒトH1抗体またはマウス抗ヒトH1抗体(Abcam、Cambridge MA)を一次抗体に使用した。検出のために、ヤギ抗ウサギ(商品名IRDYE(登録商標)680 RDで販売されている蛍光色素に抱合されたもの)またはヤギ抗マウス(商品名IRDYE(登録商標)800CWで販売されている蛍光色素に抱合されたもの)を二次抗体として使用した。各バンドの相対的な強度を、商品名ODYSSEY(登録商標)(Li-Cor Biosciences)で販売されているイメージングシステムを用いて決定した。
【0060】
涙液試料間の総タンパク質のレベルの定性的比較のために、涙液中のタンパク質レベルの定性的比較のために実施したように、ゲルをクマシーブリリアントブルーR-250染色溶液(Bio-Rad Hercules、California、USA)で染色した(Grus, et al. (2001) Electrophoresis 22:1845-1850)。
【0061】
多重反応モニタリング(MRM)。MRMを、涙液中のH1の存在の特定のために、質量分析計(QTRAP(登録商標) 6500;Sciex, Framingham, MA)と一体となったLC-MS/MSシステム(Agilent 1200 HPLC(Agilent Technologies、Santa Clara、CA))上で実施した(Seki, et al. (2010) J. Immunol. 184:836)。クロマトグラフィーを、流速200μL/分でA:0.1%ギ酸および5%アセトニトリル(ACN)およびB:0.1%ギ酸および95%ACNから構成されるバイナリ溶媒システムおよび移動相ならびに逆相カラムSB-C18(2.1mmx50mm、粒子径1.8μm、Agilent Technologies)を使用して実施した。グラジエントを、5%Bから60%Bへと10分にわたって走らせた。H1についての標準曲線を、広範な濃度のSyn.H1を使用して構築した。試料を14,000RPMで9分間遠心分離し、これに続き10μLの上清をLC-MS/MSシステム内に注射した。MRMを、H1について704.9~931.0m/zの遷移をモニタリングする、陽イオンモードで操作した。
【0062】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)。H1濃度を、市販のH1 ELISAキット(MyBioSource、Inc.、San Diego、CA)を使用した、製造業者の指示に従ったELISA検出によって決定した。試料を、マイクロプレートリーダー(Biotek Synergy H1、Winooski WI)で読み取った。
【0063】
統計分析。データを、連続変数についての平均値および標準誤差によって、またはカテゴリー変数についての割合によって要約した。人口統計学的特徴(年齢、性別)を、正常群とADDE群との間で、t検定またはカイ二乗検定を使用して比較した。2つの目からのSchirmer I、OSDIおよびH1濃度の値は、最初に各参加者について平均化し、次いでt検定を使用して群間を比較した。H1濃度と他の手段(年齢、性別、Schirmer I、OSDIおよび疾患状態)の関連を、混合線形モデルを使用して査定し、このことは目の間の関係を説明し得る。最終的に、ロジスティック回帰を使用して、各個体について2個の目からの平均H1レベルから疾患のオッズ比を推定し、これに続き受信者操作特性(ROC)分析を行った。
【0064】
例2:ヒト涙液中のヒスタチン-1の存在および涙液欠乏性ドライアイ(ADDE)との関連
患者の人口統計学的および表現型の特徴。患者の人口統計学的および臨床データを、表2に示す。
【表2】
正常群と比較すると、ADDE群は、より高い年齢(53.5±2.9歳対44.6±2.6歳、t検定からのp=0.032)および同等のパーセンテージの男性(54.6%対63.6%、カイ二乗検定からのp=0.665)を有した。ADDEの臨床的定義と一致して、ADDE群が正常群よりも有意に低いSchirmer I測定(1.9±0.8mm対18.3±2.5mm、t検定からのp<0.001)および高いOSDIスコア(33.8±6.6対1.9±1.0、t検定からのp<0.001)を有することが観察された。
【0065】
1.9mmの平均Schirmer Iで、患者集団は、重度の疾患表現型を包含した。非侵襲的な涙液層破壊時間(NITBUT)、NEI-CSSおよびマイボスケールスコアを包含する追加の表現型のデータを、表3に提供する。
【表3】
注目すべきことに、NITBUT(p=0.392)および角膜染色スコア(p=0.3045)は、ADDE下位群(SSおよびoGVHD)間で有意差がなかった一方で、マイボスケールスコアの平均値では、SSとADDE下位群間で有意差があった(SS、0.4±0.2およびoGVHD 1.1±0.1、p=0.0202)。
【0066】
ヒスタチンは、眼表面洗液中に存在する。抗体特異性を、一連の濃度の合成H1にわたって免疫ドットブロット(IDB)を使用して確認した。この分析に従うと、合成H1ペプチドは、溶液中のペプチドの濃度が増加するに伴い、より大きなドット密度で検出された。スクランブルペプチド陰性対照は、検出不能であることが見出された。次いで、正常なヒト涙液中のH1の存在を、IDBおよびウェスタンブロット分析を使用して査定した。この分析は、H1ペプチドが眼表面洗液中に存在することを指し示した。陽性対照(合成H1(Syn.H1))および生物学的陽性対照(唾液)は、同様の結果を示した。
【0067】
次いで、多重反応モニタリング(MRM)を使用して眼表面洗液中のH1の存在または不在を特定し、およびこの技法が抗体特異性に依存しないために、ウェスタンブロットおよびIDBの結果を確認した。標的化されたMRMは、可溶化されたSyn.H1、正常なヒトの涙の眼表面洗液および唾液中のH1の存在を検出した(図1)。
【0068】
ヒスタチンレベルは、ADDE患者において、正常な対照よりも低い。ADDE患者および正常な対照からの眼表面洗液を、ELISAを使用して試験した(図1)。患者における入れ子になった目を用いたランダム切片の混合線状形モデルの作成は、疾患にかかった群が正常な群よりも低いH1濃度を有することを指し示した(85.9±63.7ng/ml対891.6±196.5ng/ml、β(se)=-805.7(206.5)、p<0.001)。H1レベルは、年齢(β(se)=-36.1(11.5)、p=0.002)、OSDIスコア(β(se)=-13.4(5.5)、p=0.016)、およびSchirmer(β(se)=20.9(10.00)、p=0.036)(表4)に有意に関連した。比較すると、H1レベルは、性別に依存しなかった(β(se)=-255.2(272.8)、p=0.349)。
【表4】
【0069】
年齢との関連に取り組むために、混合線形モデルの作成を実施して、年齢およびADDEの診断を制御した。この分析は、診断とH1の関連が依然として有意であることを指し示した(β(se)=-612.0(217.4)、p=0.005)。これらの結果は、疾患にかかった対象と正常な対象との間のH1濃度の差が年齢の差によって説明できなかったことを指し示す。
【0070】
総タンパク質レベルの推定がH1レベルによって変化するか、またはH1レベルとは無関係であるかを決定するために、外れ値(各群(正常、oGVHD、SS)において試験するために利用可能な残余涙液を含む試料の高いおよび低いH1濃度)を選択し、およびゲル電気泳動およびクマシー染色を実施することによって評価した。これらの試験の結果は、一般に、総タンパク質レベルとH1濃度の間に強い関係性がないことを示し、それらが互いに独立して変化するであろうことを指し示している。
【0071】
次いで、受信者操作特性(ROC)分析を実施し、これはELISA H1を使用してADDE状態を分類することが0.96の曲線下面積を生じさせることを指し示した(95%CI=0.87~1.00)。ADDEの基準として≦378ng/mlのELISA H1のカットオフを使用することによって、ADDEの診断について90.9%の感度および90.9%の特異度を得た。これらの結果は、H1レベルがADDEの診断に有用であることを指し示す。
【0072】
ADDEの診断がH1レベルに強く関連したという知見を考慮して、H1レベルが特定の診断要素に関連するかどうかを決定した。H1濃度と疾患の間の関連を、次いで対象のDEDの定義基準(OSDIおよびSchirmer I)への再分類によって査定した。OSDI分類に基づくと、H1レベルは、正常なOSDI群よりも疾患にかかった群において有意に低かった(t(20)=3.2、p=0.004)(図2)。同様にSchirmer I分類に基づくと、H1レベルは、正常なSchirmer I群よりも正常な群において高かった(t(20)=2.9、p=0.010)(図2)。したがって、これらのデータは、H1濃度が、OSDIおよびSchirmerを包含する絶対的基準の診断手段と十分に相関する、有用な診断試験であることを指し示した。
【0073】
例3:ヒスタチン3(H3)およびヒスタチン5(H5)とADDEの関連
H1を用いて行われた分析と同様に、ADDE患者および正常な対照からの眼表面洗液を、ELISAを使用してH5のレベルについて試験した。表5中に提示されたレベルによって実証されるように、H5ペプチドは、正常な対照と比較して、ADDE(すなわち、SSおよびoGVHD)を有する対象において減った。
【表5】
【0074】
MRM試験をまた、唾液および涙液中のH3およびH5の存在を査定するために行った。標的化されたMRMは、可溶化されたSyn.H5(陽性対照)、ならびに唾液および2人の正常な患者からの涙の眼表面洗液中のH3(図3)およびH5(図4)の存在を検出した。
【0075】
例4:ヒスタチンペプチドは、マウスモデルにおいてドライアイ疾患を寛解させる
ヒスタチンがドライアイ疾患の症状を改善し得るかどうかを決定するために、細胞生存率アッセイを、毒性のある防腐剤である塩化ベンザルコニウム(BAK)の存在下で実行した(Yang, et al. (2017) Int. J. Mol. Sci. 18(3):509)。ヒト角膜上皮(HCE)細胞を標準的な条件下で培養し、生存率を代謝的に活性な細胞のミトコンドリアのデヒドロゲナーゼによって赤色ホルマザン色素に還元されるテトラゾリウム塩であるWST-1試薬を使用して査定した(Bartok, et al. (2015) EXCLI J. 14:123-132)。この分析の結果は、BAKで処置された細胞をH1またはH5で共処置したときに、HCE生存率が改善することを指し示した(図5)。HCE細胞をH1またはH5で共処置したときに、HCEへのBAKの適用によって誘導されたドライアイ疾患関連サイトカインのmRNAおよびタンパク質の発現のレベルもまた有意に低減した(表6)。
【表6】
【0076】
ドライアイ疾患の処置におけるヒスタチンの使用を実証するために、確立されたマウスモデル、すなわち、塩化ベンザルコニウムへの曝露を使用した(Yang, et al. (2017) Int. J. Mol. Sci. 18(3):509)。この分析の結果は、1日2回の局所のH5(80μM)を用いたこれに続く処置が、ビヒクル対照(平衡塩類溶液(BSS))と比較して、標準的ドライアイ疾患スコア(NEIスコア)を統計的に有意な様式で7日間低減させることを指し示した(条件ごとにn=5)(図6)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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