(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】フィンアンドチューブ型熱交換器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F28F 19/04 20060101AFI20230519BHJP
B21D 53/08 20060101ALI20230519BHJP
F28D 1/047 20060101ALI20230519BHJP
F28F 1/32 20060101ALI20230519BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
F28F19/04 Z
B21D53/08 P
F28D1/047 B
F28F1/32 C
F28F1/32 D
F28F21/08 A
F28F21/08 E
(21)【出願番号】P 2017222440
(22)【出願日】2017-11-20
【審査請求日】2020-10-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】511113718
【氏名又は名称】アルコム・ニッケイ・スペシャルティ・コーティングズ・エスデーエヌ・ビーエッチデー
【氏名又は名称原語表記】Alcom Nikkei Specialty Coatings Sdn. Bhd.
【住所又は居所原語表記】No.3, Persiaran Waja, Bukit Raja Industrial Estate, 41050 Klang, Selangor Darul Ehsan, Malaysia
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】石井 透
(72)【発明者】
【氏名】ヌルーサラフィナ モハメッドーナスリ
(72)【発明者】
【氏名】ナビラ ファーハナ アズリン シャー
(72)【発明者】
【氏名】ヌル アティカ ビンティ ダウ
(72)【発明者】
【氏名】ヌル アズリン ビンティ アフマド
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】槙原 進
【審判官】間中 耕治
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第0339206(EP,A1)
【文献】特許第5727299(JP,B2)
【文献】特許第3982768(JP,B2)
【文献】特開2009-186090(JP,A)
【文献】特開2006-226576(JP,A)
【文献】特許第5753355(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/04
F28F 1/32
F28F 21/08
F28D 1/047
B21D 53/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を伝熱媒体が流通する銅系材料製の伝熱管と、表面全面に耐食皮膜層を有するプレコートアルミ板材で形成されていると共に、外気に接触して熱交換を行う熱交換部及び前記伝熱管の表面に固着される組付け孔周縁部のカラー部を有し、前記カラー部の幅寸法を略フィンピッチとして拡管接合法で前記伝熱管に組み付けられたアルミニウム系材料製の多数のフィン材とを備えた熱交換器であり、
前記各フィン材の耐食皮膜層上には、少なくとも前記伝熱管の表面に接触するカラー部の対伝熱管接触面及び隣接するフィン材に接触する隣接フィン材接触面に、熱可塑性樹脂製の樹脂層が設けられており、また、
前記隣接フィン材接触面間には、
伝熱管に多数のフィン材が組み付けられた後に前記樹脂層が互いに加熱加圧下に融着して形成され、前記伝熱管の表面と互いに隣接する2つのフィン材との間に生じるフィン材間空隙を封止する樹脂融着部が設けられていることを特徴とするフィンアンドチューブ型熱交換器。
【請求項2】
前記樹脂層が、前記各フィン材の片面全面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のフィンアンドチューブ型熱交換器。
【請求項3】
前記樹脂層を形成する熱可塑性樹脂が、熱溶融温度60~200℃の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィンアンドチューブ型熱交換器。
【請求項4】
内部を伝熱媒体が流通する銅系材料製の伝熱管と、表面全面に耐食皮膜層を有するプレコートアルミ板材で形成されていると共に、外気に接触して熱交換を行う熱交換部及び前記伝熱管の表面に固着される組付け孔周縁部のカラー部を有し、前記カラー部の幅寸法を略フィンピッチとして拡管接合法で前記伝熱管に組み付けられた多数のフィン材とを備えた熱交換器の製造方法であり、
前記各フィン材として、その耐食皮膜層上の少なくとも前記伝熱管の表面に接触するカラー部の対伝熱管接触面及び隣接するフィン材に接触する隣接フィン材接触面に、熱可塑性樹脂製の樹脂層を有するプレコートフィン材を用い、
多数のフィン材を前記伝熱管に組み付けた後に、互いに接触する前記隣接フィン材接触面の樹脂層間を互いに加熱加圧下に融着させて樹脂融着部を形成し、
この形成された樹脂融着部により前記伝熱管の表面と互いに隣接する2つのフィン材との間に形成されるフィン材間空隙を封止することを特徴とするフィンアンドチューブ型熱交換器の製造方法。
【請求項5】
前記隣接フィン材接触面での樹脂融着部の形成は、アルミ板材から各フィン材を形成するフィンプレス加工で用いられた揮発性加工油を加熱下に除去する加工油除去処理で印加される熱を利用して行われることを特徴とする請求項4に記載のフィンアンドチューブ型熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂層が、前記各フィン材の片面全面に設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載のフィンアンドチューブ型熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フィンアンドチューブ型熱交換器及びその製造方法に係り、特に銅系材料で形成された伝熱管にアルミニウム系材料で形成された多数のフィン材が拡管接合法で組み付けられたフィンアンドチューブ型熱交換器において、伝熱管と各フィン材との間に発生するガルバニック腐食(電食)を可及的に防止することができるフィンアンドチューブ型熱交換器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、家庭用や自動車用等の空調機器(エアコン)を始めとして、冷蔵庫やヒートポンプ式給湯器等の熱交換を必要とする多くの機器で使用されており、そして、この熱交換器としては、実用上の観点及び製造上の観点から、一般に、銅系材料製の伝熱管に多数のアルミニウム系材料製のフィン材を拡管接合法により組み付けて形成されたフィンアンドチューブ型熱交換器が多用されている。しかしながら、この様なフィンアンドチューブ型熱交換器においては、銅系材料製の伝熱管とアルミニウム系材料製の多数のフィン材とが各フィン材に形成された組付け孔のカラー部を介して接触することになり、また、これら伝熱管と各フィン材との間においては、伝熱管と各フィン材のカラー部との間に不可避的に隙間が発生すると共に、伝熱管に組み付けられた互いに隣接するフィン材のカラー部の間にも隙間が発生する。そして、このようにして伝熱管と各フィン材との間に生じた隙間には、フィン材表面で雰囲気中の水蒸気が凝縮して発生した結露水やその他の原因でフィン材表面や伝熱管表面に発生した水滴が滞留し、これら結露水や水滴(以下、「結露水等」という。)が伝熱管の銅とフィン材のアルミニウムとの間に局部電池を形成してアルミニウムの腐食を促進する、いわゆるガルバニック腐食(電食)が起こり、短期間でフィン材が腐食して熱交換器の機能が失われてしまう。
【0003】
そこで、従来においても、この電食を防止するための様々な対策が提案されており、例えば、特許文献1においては、クロスフィンチューブからなる冷蔵庫用の熱交換器において、銅系材料製の冷媒配管(伝熱管)とアルミニウム系材料製フィン材との間に電食が発生し易くなる状況があることから、拡管接合法により冷媒配管にフィン材を組み付けた後に、冷媒配管とフィン材のカラー部との接合部分の外表面に、合成樹脂製の第1塗膜層を形成すると共に更にこの第1塗膜層の表面に親水性樹脂からなる第2塗膜層を形成し、これによって耐食性及び親水性の機能を有する熱交換器が提案されている。しかしながら、この特許文献1に記載の熱交換器においては、冷媒配管にフィン材を組み付けた後で一般の浸漬塗装により第1及び第2の塗膜層を形成する、いわゆるポストコート法で製造されるので、上述した電食の問題を解決できるものの、浸漬塗装で用いた塗料がフィンとフィンとの間に溜って熱交換性能を低下させることがあるほか、塗装斑が生じ易くて見栄え品質を低下させることもあり、更には製造コストが嵩むという別の問題もある。
【0004】
また、特許文献2及び3においては、扁平多穴管(伝熱管)とフィンとを共にアルミニウム系材料で形成すると共に、これら扁平多穴管とフィンとの間の伝熱性能を改善する目的で、扁平多穴管の外表面(又はフィンの組付け孔周縁部のカラー部の内面)に、100~200℃で溶融又は反応する接着性樹脂からなる接着性塗膜(樹脂層)を形成し、この接着性塗膜により扁平多穴管とフィンとの間の間隙を埋め、硬化又は固化させて一体化させた熱交換器が提案されている。しかしながら、これら特許文献2及び3に記載の熱交換器おいては、伝熱管とフィン材とが共にアルミニウム系材料で形成されて電食の問題は解決されているが、伝熱媒体が流通する伝熱管をアルミニウム系材料で形成することについては、伝熱管内面に対する伝熱効率改善のための微細加工が困難であり、また、伝熱管をアルミニウム系材料で形成するためには十分な耐圧性を確保するために管壁を肉厚にする必要が生じ、必ずしも伝熱性能の問題を十分に解決することは困難であり、しかも製造上の制約もあって、広く普及するには至っていない。
【0005】
更に、特許文献4においては、空気調和器用サーペンタイン熱交換器において、伝熱管の材質とフィンの材質とが異なる材質の場合、結露水等により伝熱管とフィンとの間で電食が発生するのを防止するために、フィンに単層(例えば、親水性又は撥水性の塗膜層)若しくは複層(例えば、耐食性塗膜層とその表面に形成される親水性又は撥水性の塗膜層)の塗膜層(樹脂層)を形成することを提案したが(特開2011-185,589号公報)、これだけではフィンの耐食性は良好であっても伝熱管が腐食する虞があることから(段落0007参照)、更にフィン群において互いに隣接するフィン間の間隔、及び複数段のフィン群において互いに隣接するフィン群間の距離をそれぞれ工夫し、伝熱管の腐食を効果的に低減させるようにした熱交換器が提案されている。しかしながら、この特許文献4に記載の熱交換器においては、特にフィン材として表面全面に耐食皮膜層を有するプレコートフィン材が用いられた場合でも、海岸近く等の過酷な環境下で用いられる家庭用や自動車用のエアコンの室外機に組み込まれた場合に、満足できる程度にまで電食の問題を防止すること(例えば、海風の影響を直接に受ける海浜地域でも4年以上の長期間に亘る防食性能を備えること;以下、単に「長期間の防食性能」ということがある。)を必ずしも達成し得ないという問題がある。
【0006】
更に、特許文献5においては、結露水等がフィン間を塞いで通風抵抗の増大や冷房能力の低下を引き起こすのを防止する目的で、フィン表面を親水性皮膜で被覆することが行われているが、このフィン表面を親水性皮膜で被覆することに起因して発生すると考えられている蜂の巣状腐食を防止するために、少なくとも管体(伝熱管)とフィン体との嵌合部の嵌合界面を被覆する親水性皮膜(樹脂層)中に金属亜鉛粉末を含有せしめ、これによって管体及び/又はフィン体の腐食を防止するようにした熱交換器が提案されている。しかしながら、この特許文献5に記載の熱交換器においても、特許文献4の場合と同様に、特にフィン材として表面全面に耐食皮膜層を有するプレコートフィン材が用いられた場合でも、過酷な環境下で用いられた場合には、必ずしも長期間の防食性能を達成できないという問題がある。
【0007】
そして、特許文献6及び7においては、伝熱管とフィンとの間の伝熱性能の改善を目的とするものではあるが、拡管接合法により互いに組み付けられる銅系材料製の伝熱管とアルミニウム系材料製のフィンとの間に、拡管時には流動性を有し、拡管後には硬化する所定の樹脂層や接着性塗膜(樹脂層)を存在させ、この樹脂層により伝熱管とフィンの組付け孔内面との間の間隙を埋めつつ硬化させ、伝熱管とフィンとの間の熱的接触を改善して伝熱性能を向上させた熱交換器が提案されている。しかしながら、これら特許文献6及び7に記載の熱交換器においても、特許文献4の場合と同様に、特にフィン材として表面全面に耐食皮膜層を有するプレコートフィン材が用いられた場合でも、過酷な環境下で用いられた場合には、必ずしも長期間の防食性能を達成できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-014,571号公報
【文献】特許第5,727,299号公報
【文献】特開2015-132,466号公報
【文献】特開2013-100,964号公報
【文献】特開平11-304,395号公報
【文献】特許第3,982,768号公報
【文献】特許第5,753,355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者は、上記の特許文献4~7に記載のフィンアンドチューブ型熱交換器において、特にフィン材として表面全面に耐食皮膜層を有するプレコートフィン材が用いられた場合でも、過酷な環境下で用いられた場合に、樹脂層のみでは電食の問題を満足できる程度にまで防止することができない理由について種々検討を行ったが、特に特許文献6及び7について検討する中で、意外なことには、拡管接合法により伝熱管にフィン材を組み付ける際に、伝熱管及び又はフィン材の表面に設けられた樹脂層(接着性塗膜)を溶融させ、軟化させて、伝熱管表面とフィン材のカラー部の対伝熱管接触面との間の間隙を樹脂で埋めるようにしても、伝熱管と各フィン材との間に発生する隙間の全てを塞ぐことができず、特に、フィン材のカラー部の幅寸法を略フィンピッチとして互いに隣接する2つのフィン材のカラー部が接するように、拡管接合法によって多数のフィン材を伝熱管に組み付けて形成したフィンアンドチューブ型熱交換器においては、伝熱管の表面と互いに隣接する2つのフィン材との間に不可避的に小さな空間(以下、「フィン材間空隙」という。)が形成され、このフィン材間空隙に起因して長期間の防食性能が達成できないことを突き止めた。
【0010】
そして、更になぜこのフィン材間空隙が原因して長期間の防食性能が達成できなくなるのかについて調べていく中で、拡管接合法により伝熱管にフィン材を組み付けた際に、銅系材料製の伝熱管とアルミニウム系材料製のフィン材との間の熱膨張係数の差に起因して、フィン材の耐食皮膜層にヒビ等の微細な欠陥(ミクロ欠陥)が形成され、そして、上記のフィン材間空隙内に結露水等が浸入すると、この結露水等がフィン材間空隙内に比較的長期間に亘って留まり、更には上記のフィン材の耐食皮膜層に形成されたミクロ欠陥を介してフィン材の表面に至り、電食の問題を引き起こすことを突き止めた。
【0011】
そこで、本発明者らは、上記のフィン材間空隙やミクロ欠陥に起因する電食の問題を解決すべく鋭意検討した結果、各フィン材の耐食皮膜層上には少なくとも伝熱管の表面に接触するカラー部の対伝熱管接触面と隣接するフィン材に接触する隣接フィン材接触面とにそれぞれ熱可塑性樹脂製の樹脂層を設け、隣接フィン材接触面間には樹脂層を互いに融着させてフィン材間空隙を封止する樹脂融着部を設けることにより、このフィン材間空隙内への結露水等の浸入を可及的に防止すると共に、拡管接合法でフィン材を伝熱管に組み付けるフィン材組付け工程でフィン材の耐食皮膜層に発生したミクロ欠陥を埋めて補修すること、すなわちフィン材組付け工程でフィン材の耐食皮膜層に発生したミクロ欠陥を後工程で自己補修させることができ、これによって電食の問題を可及的に解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明の目的は、伝熱管の表面と互いに隣接する2つのフィン材との間に不可避的に形成されるフィン材間空隙を熱可塑性樹脂で封止することにより、過酷な環境下においても長期に亘って優れた防食性能を発揮し得るフィンアンドチューブ型熱交換器を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、過酷な環境下においても長期に亘って優れた防食性能を発揮し得るフィンアンドチューブ型熱交換器を容易に製造することができるフィンアンドチューブ型熱交換器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 内部を伝熱媒体が流通する銅系材料製の伝熱管と、表面全面に耐食皮膜層を有するプレコートアルミ板材で形成されていると共に、外気に接触して熱交換を行う熱交換部及び前記伝熱管の表面に固着される組付け孔周縁部のカラー部を有し、前記カラー部の幅寸法を略フィンピッチとして前記伝熱管に拡管接合法で組み付けられたアルミニウム系材料製の多数のフィン材とを備えた熱交換器であり、前記各フィン材の耐食皮膜層上には、少なくとも前記伝熱管の表面に接触するカラー部の対伝熱管接触面及び隣接するフィン材に接触する隣接フィン材接触面に、熱可塑性樹脂製の樹脂層が設けられており、また、前記隣接フィン材接触面間には、伝熱管に多数のフィン材が組み付けられた後に前記樹脂層が互いに加熱加圧下に融着して形成され、前記伝熱管の表面と互いに隣接する2つのフィン材との間に生じるフィン材間空隙を封止する樹脂融着部が設けられていることを特徴とするフィンアンドチューブ型熱交換器。
(2) 前記樹脂層が、前記各フィン材の片面全面に設けられていることを特徴とする前記(1)に記載のフィンアンドチューブ型熱交換器。
(3) 前記樹脂層を形成する熱可塑性樹脂が、熱溶融温度60~200℃の熱可塑性樹脂であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のフィンアンドチューブ型熱交換器。
【0014】
(4) 内部を伝熱媒体が流通する銅系材料製の伝熱管と、表面全面に耐食皮膜層を有するプレコートアルミ板材で形成されていると共に、外気に接触して熱交換を行う熱交換部及び前記伝熱管の表面に固着される組付け孔周縁部のカラー部を有し、前記カラー部の幅寸法を略フィンピッチとして前記伝熱管に拡管接合法で組み付けられた多数のフィン材とを備えた熱交換器の製造方法であり、
前記各フィン材として、その耐食皮膜層上の少なくとも前記伝熱管の表面に接触するカラー部の対伝熱管接触面及び隣接するフィン材に接触する隣接フィン材接触面に、熱可塑性樹脂製の樹脂層を有するプレコートフィン材を用い、前記伝熱管に多数のフィン材を組み付けた後に、互いに接触する前記隣接フィン材接触面の樹脂層間を互いに加熱加圧下に融着させて樹脂融着部を形成し、この樹脂融着部により前記伝熱管の表面と互いに隣接する2つのフィン材との間に形成されるフィン材間空隙を封止することを特徴とするフィンアンドチューブ型熱交換器の製造方法。
(5) 前記隣接フィン材接触面での樹脂融着部の形成は、アルミ板材から各フィン材を形成するフィンプレス加工で用いられた揮発性加工油を加熱下に除去する加工油除去処理で印加される熱を利用して行われることを特徴とする前記(4)に記載のフィンアンドチューブ型熱交換器の製造方法。
(6) 前記樹脂層が、前記各フィン材の片面全面に設けられていることを特徴とする前記(4)又は(5)に記載のフィンアンドチューブ型熱交換器の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、銅系材料製の伝熱管と、表面に耐食皮膜層を有すると共に組付け孔周縁部のカラー部を有してこのカラー部の幅寸法を略フィンピッチとして拡管接合法で伝熱管に組み付けられたアルミニウム系材料製の多数のフィン材とを備えた熱交換器において、伝熱管の表面と互いに隣接する2つのフィン材との間に不可避的に形成されるフィン材間空隙が熱可塑性樹脂製の樹脂層の樹脂融着部により封止され、また、フィン材表面の耐食皮膜層に発生したミクロ欠陥が自己補修され、これによって過酷な環境下においても長期に亘って優れた防食性能を発揮し得るフィンアンドチューブ型熱交換器を提供することができる。
また、本発明によれば、フィンアンドチューブ型熱交換器において、不可避的に形成されるフィン材間空隙が熱可塑性樹脂により封止され、また、ミクロ欠陥が自己補修され、過酷な環境下においても長期に亘って優れた防食性能を発揮し得るフィンアンドチューブ型熱交換器を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明のフィンアンドチューブ型熱交換器の一例を示す斜視説明図である。
【
図2】
図2は、本発明のフィンアンドチューブ型熱交換器の要部(伝熱管とフィン材との接合部分)を拡大して示す部分断面説明図である。
【
図3】
図3は、
図2の互いに隣接するフィン材間に形成されるフィン材間空隙を更に拡大して示す部分断面説明図である。
【
図4】
図4は、本発明のフィンアンドチューブ型熱交換器の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、融着試験に際して、4個の試験用筒状サンプルをサンプル固定具にセットした状態を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、以下に、本発明のフィンアンドチューブ型熱交換器について詳細に説明する。
図1~
図3において、本発明のフィンアンドチューブ型熱交換器(以下、単に「熱交換器」と略称することがある。)の一例が示されている。この熱交換器1は、内部を伝熱媒体が流通する銅系材料製の伝熱管2と、アルミニウム板材5の表面全面に耐食皮膜層6を有するプレコートアルミ板材で形成されていると共に、外気に接触して熱交換を行う熱交換部及び前記伝熱管2の表面に固着される組付け孔周縁部のカラー部4を有し、前記カラー部4の幅寸法を略フィンピッチとして互いに隣接する2つのフィン材3a,3bが接するように、前記伝熱管2に拡管接合法で組み付けられたアルミニウム系材料製の多数のフィン材3とを備えており、各フィン材3の耐食皮膜層6上には、少なくとも前記伝熱管2の表面に接触するカラー部4の対伝熱管接触面及び隣接するフィン材3に接触する隣接フィン材接触面に、熱可塑性樹脂製の樹脂層7が設けられており、また、隣接フィン材接触面間には、前記樹脂層7が互いに融着して形成され、前記伝熱管2の表面と互いに隣接する2つのフィン材3との間に生じるフィン材間空隙8を封止する樹脂融着部9が設けられている。なお、
図1~
図3において、図中符号2aは伝熱管2のリターンベンド部であり、符号10は前記組付け孔である。
【0018】
なお、本発明において、フィン材3の「カラー部4」とは、
図2及び
図3に示されているように、伝熱管2の表面に接するフィン材3の根元側のA点から先端側のB点までの領域(AB間)をいい、また、この前位のフィン材3aのカラー部4のB点から隣接する後位のフィン材3bの表面(背面)に接するC点までの領域(BC間)を「フレア部4a」といい、更に、このフレア部4aのC点から隣接する後位のフィン材3bの表面(背面)とは反対側に折り返された先端(D点)までの領域(CD間)を「リフレア部4b」という。
また、本発明において、前記「フィン材間空隙8」とは、上記の
図2及び
図3に示されているB点、C点、及びA点で囲まれた空間(BCA)に限らず、伝熱管2の表面と互いに隣接する2つのフィン材3a,3bの間に不可避的に生じる小さな空間や隙間等であって、少なくとも水分子が浸入可能な大きさを有するものであり、リフレア部4bが存在せずに形成される空間(BCA)や、フレア部4a及びリフレア部4bが存在せずに形成される前位のフィン材3aの先端側のB点と後位のフィン材3bの根元側のA点に至る極小さな空間も含まれる。
【0019】
本発明において、前記銅系材料製の伝熱管2については、例えばJIS H3300 C1220、JIS H3300 C5010、JIS H3300 C1862等の銅又は銅合金で形成され、好ましくは表面に、カチオン電着塗装によって、あるいはタール系物質等からなる防食性塗料を塗布することによって形成された防食塗膜層、親水性塗料を塗布して形成された親水塗膜層、及び撥水性塗料を塗布して形成された撥水塗膜層等から選ばれた1種又は2種以上の塗膜層が設けられている。
【0020】
また、本発明において、前記アルミニウム系材料製のフィン材3は、表面全面に予め耐食皮膜層6が設けられたプレコートアルミ板材から作製されたプレコートフィン材であって、素材のアルミニウム板材5は、例えばJIS A1050、JIS A1100、JIS A1200、及びJIS A1050、JIS A1100、又はJIS A1200にマンガン(Mn)を所定の割合で添加して得られたアルミニウム合金から選ばれたアルミニウム又はアルミニウム合金で形成され、外気に接触して熱交換を行う熱交換部及び前記伝熱管の表面に固着される組付け孔周縁部のカラー部4を有し、このカラー部4の幅寸法を略フィンピッチ(互いに隣接するフィン材の熱交換部の間隔)として互いに隣接する2つのフィン材3a,3b(3)が接するように、拡管接合法により伝熱管2に組み付けられるものである。
【0021】
ここで、各フィン材3の表面全面に設けられる耐食皮膜層6については、例えばエポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂等からなる有機耐食性塗料を塗布して形成された有機系耐食皮膜層や、例えば反応型クロメート、3価のクロムより構成される塗布型クロメート、あるいはジルコニウム、チタニウム等からなる無機耐食性塗料を塗布して形成された無機系耐食皮膜層を例示することができるが、有機皮膜は着色も容易で、かつ加工性も良好であることから、好ましくはエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂等からなる有機耐食性塗料を塗布して形成された有機系耐食皮膜層であるのがよい。
【0022】
そして、各フィン材3の耐食皮膜層6上には、各フィン材3が前記伝熱管2に組み付けられた際に、少なくとも前記伝熱管2の表面に接触するカラー部4の対伝熱管接触面及び隣接するフィン材に接触する隣接フィン材接触面に、熱可塑性樹脂製の樹脂層7が設けられている。この樹脂層7については、各フィン材3の少なくとも対伝熱管接触面及び隣接フィン材接触面に設けられていればよいが、好ましくはこれら対伝熱管接触面及び隣接フィン材接触面を含む各フィン材3の片面全面に設けられているのがよく、また、各フィン材3の両面全面に設けられていてもよい。また、樹脂層7の厚さについては、互いに接する樹脂層7間を融着させて樹脂融着部9を形成させる必要から、通常0.5g/m2以上4g/m2以下、好ましくは2g/m2以上3g/m2以下であるのがよく、0.5g/m2より薄いと樹脂の融着に必要な樹脂量が確保できず融着が不安定になるという問題があり、反対に、4g/m2より厚くなると熱伝導性が低下するという一般的な問題以外に、金型の寸法精度の管理が難しく、また高速での連続操業が不安定になるとうの事例が増えるという問題がある。
【0023】
ここで、各フィン材3の耐食皮膜層6上に設けられる樹脂層7は、フィン材3のカラー部4の幅寸法を略フィンピッチとして組み付けた後に、互いに接触する前記隣接フィン材接触面の樹脂層7間を互いに融着させて樹脂融着部9を形成し、この樹脂融着部9により前記伝熱管2の表面と互いに隣接する2つのフィン材3a,3bとの間に形成されるフィン材間空隙8を封止することの他に、フィン材3のフィン材組付け工程でフィン材3の耐食皮膜層6に発生したミクロ欠陥を後工程で埋めて補修する、いわゆる後工程での自己補修性を付与するという重要な役割を有する。このことから、この樹脂層7を形成する熱可塑性樹脂としては、好ましくはその熱溶融温度が60℃以上200℃以下であるのがよく、より好ましくは70℃以上160℃以下であるのがよい。この様な熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド系エラストマー樹脂、及びポリエステル系エラストマー樹脂等を例示することができるほか、例えばポリビニルアルコール樹脂にポリオール樹脂を一部ブレンドする等、これらの熱可塑性樹脂や他の熱可塑性樹脂を混合して所望の熱溶融温度に調整された熱可塑性のポリマーアロイが例示され、比較的低温域で溶融し、かつ、耐水性が良好であることから、より好ましくはポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂である。
【0024】
なお、本発明で使用するフィン材(プレコートフィン材)3については、上記の耐食皮膜層6及び樹脂層7に加えて、素材のアルミ板材の表面に、クロム、ジルコニウム、あるいはチタン系等の化成皮膜層や、アクリル系、アクリルアミド系、ポリビニルアルコール系、セルロース系等の有機系親水皮膜層又はコロイドシリカ、シリケートあるいはコロイドアルミナ等の無機系親水皮膜層を有するものであってもよく、更には、最表面に、樹脂層7の溶融・融着に悪影響を及ぼさない範囲内で、ポリエーテル、ポリエチレングリコール、ワックス等の潤滑層を有するものであってもよい。
【0025】
本発明の熱交換器1においては、前記隣接フィン材接触面間に、前記樹脂層7が互いに融着して形成され、前記伝熱管2の表面と互いに隣接する2つのフィン材3a,3bとの間に生じるフィン材間空隙8を封止する樹脂融着部9が設けられており、これによって、前記伝熱管2は、少なくとも多数のフィン材3が組み付けられてカラー部4が接している領域(熱交換領域)において、この伝熱管2の表面と互いに隣接する2つのフィン材3a,3bとの間に生じるフィン材間空隙8が封止され、伝熱管2の表面は外気に直接触れることなくこの外気から遮断される。
【0026】
なお、本発明で使用するフィン材3については、一般に、プレコートアルミ板材からフィン材3を形成するフィンプレス加工において、プレコートアルミ板材の両面に揮発性加工油を塗布し、伝熱管2に組み付けるための組付け孔10やこの組付け孔10の周縁部に形成されるカラー部4を有する所定の形状に加工して形成されており、フィン材3にはその耐食皮膜層6の表面に揮発性加工油が付着しているが、この様な表面に揮発性加工油が付着したフィン材3に代えて、例えば塗布量を極限まで減らした不揮発性加工油を用いるフィンプレス加工で形成されたフィン材や、揮発性加工油を用いたフィンプレス加工で形成された後に揮発性加工油が洗浄除去されたフィン材等、耐食皮膜層6の表面に実質的に加工油が付着していないフィン材であってもよい。
【0027】
次に、以下に、本発明のフィンアンドチューブ型熱交換器(熱交換器)の製造方法について説明する。
本発明の熱交換器の製造方法は、銅系材料製の伝熱管と、外気に接触して熱交換を行う熱交換部及び伝熱管の表面に固着される組付け孔周縁部のカラー部を有すると共に、このカラー部の幅寸法を略フィンピッチとして伝熱管に拡管接合法で組み付けられた多数のフィン材とを備えた熱交換器の製造方法であって、
図4に示すように、表面全面に耐食皮膜層を有すると共に、この耐食皮膜層上の少なくとも伝熱管の表面に接触するカラー部の対伝熱管接触面及び隣接するフィン材に接触する隣接フィン材接触面に、熱可塑性樹脂製の樹脂層を有するプレコートフィン材を調製するフィン材調製工程と、各フィン材のカラー部の幅寸法を略フィンピッチとして互いに隣接する2つのフィン材が接するように、拡管接合法により前記伝熱管に多数のフィン材を組み付けるフィン材組付け工程と、このフィン材組付け工程において伝熱管に組み付けられた多数のフィン材について、互いに接触する隣接フィン材接触面の樹脂層間を互いに融着させ、これによって形成される樹脂融着部により前記伝熱管の表面と互いに隣接する2つのフィン材との間に形成されるフィン材間空隙を封止するフィン材間空隙封止工程と、前記伝熱管に略々U字形状の銅製リターンベンドを組み付けて熱交換器の基本骨格を形成するベンド挿入工程と、更に伝熱管とフィン材との間や伝熱管とリターンベンドとの間をロウ付けするロウ付け工程とで構成されている。
【0028】
ここで、前記フィン材調製工程では、先ず、表面全面に予め耐食皮膜層が設けられたプレコートアルミ板材に対して、伝熱管に組み付けられた際に少なくとも伝熱管の表面に接触するカラー部の対伝熱管接触面及び隣接するフィン材に接触する隣接フィン材接触面に、ロールコート法、パターン印刷法、オフセット印刷法等の手段で熱可塑性樹脂製の樹脂層が積層され、次いでドロー方式(張出し、絞り、打ち抜き、穴広げ、リフレア等の工程)、ドローレス方式(打ち抜き、穴広げ、しごき、リフレア等の工程)、又はこれらの複合方式(コンビネーション方式)によるフィンプレス加工により、所定の大きさ及び形状を有すると共にカラー部を備え、かつ、少なくとも前記対伝熱管接触面及び隣接フィン材接触面を含む所定の位置に樹脂層が積層され、プレコートフィン材が調製される。なお、熱可塑性樹脂製の樹脂層がプレコートフィン材の片面全面に設けられる場合には、プレコートアルミ板材の耐食皮膜層の片面側全面に更に予め樹脂層を積層してプレコートアルミ板材を形成し、このプレコートアルミ板材のフィンプレス加工によりプレコートフィン材を調製してもよい。
【0029】
また、前記フィン材組付け工程においては、フィン材調製工程で調製されて所定の位置に樹脂層を有する多数のフィン材が、各フィン材のカラー部の幅寸法を略フィンピッチとして互いに隣接する2つのフィン材が接するように、従来の拡管接合法と同様の方法により伝熱管に組み付けられる。このフィン材組付け工程で多数のフィン材が伝熱管に組み付けられた際には、伝熱管の表面と互いに隣接する2つのフィン材との間に不可避的にフィン材間空隙が生じているが、このフィン材間空隙を次のフィン材間空隙封止工程で封止する。
【0030】
本発明において、このフィン材間空隙封止工程においては、互いに接触する隣接フィン材接触面の樹脂層間を融着させて樹脂融着部を形成し、フィン材間空隙を封止する。この樹脂層間を融着させて樹脂融着部を形成する際の加熱温度は、樹脂層を形成する熱可塑性樹脂の熱溶融温度を考慮して決められ、フィン材間空隙封止工程は、上記の熱溶融温度よりも通常10~30℃程度高い温度で行う。また、フィン材間空隙封止工程において、フィン材調製工程で調製されてフィン材がそのフィンプレス加工の際に揮発性加工油が用いられてフィン材の耐食皮膜層の表面に揮発性加工油が付着している場合には、これまでも行われている揮発性加工油を加熱して除去する加工油除去処理が同時に実施される(
図4の実線の経路)。また、フィンプレス加工の際に実質的に揮発性加工油が用いられず、フィン材の耐食皮膜層の表面に揮発性加工油が実質的に付着していない場合には、互いに接触する隣接フィン材接触面の樹脂層間を加熱して互いに融着させて樹脂融着部を形成する加熱処理として実施される(
図4の破線の経路)。
【0031】
以上のようにしてフィン材間空隙封止工程において、フィン材間空隙が樹脂融着部で封止された後は、従来の方法と同様にして、ベンド挿入工程で前記伝熱管に略々U字形状の銅製リターンベンドが組み付けられ、熱交換器の基本骨格が形成され、次いでロウ付け工程において伝熱管とフィン材との間や伝熱管とリターンベンドとの間がロウ付けされ、熱交換器が製造される。この様にして製造された熱交換器は、耐圧気密検査や完成検査等の検査を経て製品となる。
【0032】
上述した本発明の熱交換器の製造方法によれば、従来のプレコートフィン材を用いて熱交換器を製造する製造工程をほとんど変更することなく、不可避的に形成されるフィン材間空隙がフィン材間空隙封止工程で熱可塑性樹脂により封止され、また、フィン材表面の耐食皮膜層に発生したミクロ欠陥も後工程で自己補修され、過酷な環境下においても長期に亘って優れた防食性能を発揮し得るフィンアンドチューブ型熱交換器を容易に製造することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明のフィンアンドチューブ型熱交換器及びその製造方法を説明する。
【0034】
〔実施例1~13〕
1.プレコートフィン材の調製
板厚0.100mmのアルミ板材(AA1200-H26)を用い、その表面全面に濃度1.5質量%の脱脂剤(日本ペイント・サーフケミカルズ社製商品名:サーフクリーナー75N-1NF)を60℃及び3秒の条件でスプレーし、その後、水洗による脱脂剤除去、脱イオン水による最終水洗、及び熱風乾燥による脱脂処理を行った。
次に、脱脂処理後のアルミニウム材の表面全面に、エポキシ系耐食塗料(日本ペイント・サーフケミカルズ社製商品名:サーフアルコート9400)を、乾燥後の膜厚が1μmとなるように塗布し、250℃及び10秒の条件で焼き付けし、表面全面に耐食皮膜層を有するプレコートアルミ板材を形成した。
更に、このようにして形成された表面全面に耐食皮膜層を有するアルミ板材の片面側の耐食皮膜層の上に、表1に示す樹脂塗料を乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗布し、180~220℃及び10~20秒の条件で乾燥させて樹脂層を形成し、表面全面に耐食皮膜層を有すると共に、更にその片面側全面に樹脂層を有するプレコートアルミ板材を調製した。
【0035】
【0036】
2.隣接フィン材接触面間樹脂層の融着試験
次に、このようにして片面側全面に樹脂層が設けられたプレコートアルミ板材を用い、その表面全面に揮発性加工油(出光興産(株)製商品名:ダフニー パンチオイル AF-2C、引火点:53℃)を塗布し、更に、フィンプレス加工でプレコートアルミ板材からプレコートフィン材を形成した際に形成されたフィン材に残留する歪の大きさを考慮し、引張り試験機(島津製作所製型式AGS-J)を用い、そのチャック間に長さ150mm×幅15mm(×厚さ0.100mm)の大きさの長方形状に切り出されたプレコートアルミ板材をセットし、引張り試験機の表示板の変位量目盛りが2.0mmを示して20%の引張り伸びが達成されるまで引張り加工を行い、次いでこの引張り加工後のプレコートアルミ板材から長さ55mm×幅15mm(×厚さ0.100mm)の大きさのアルミ板片を切り出し、更に、治具を用いて、このアルミ板片を樹脂層が外側に来るように丸めて円筒状に成形し、端部を固定代5mmで重ね合わせて接着剤で固定し、フィン材のフレア部及びリフレア部に形成される曲面に近い曲面を有する直径16mm及び長さ15mmの円筒状の試験用筒状サンプルを作製した。
【0037】
隣接フィン材接触面間樹脂層の融着試験に際しては、上で作製された4個の筒状サンプル11a,11b,11c,11dを、
図5に示すように、これら各4個の筒状サンプル11a,11b,11c,11dの間に互いに0.01~0.5MPaの圧力が作用するように底辺部長さ56mmの凹形状のサンプル固定具12内に配置し、これら全体を表2に示す加熱条件で加熱し、互いにその樹脂層で融着した筒状サンプル融着物11を調製した。そして、このようにして調製された筒状サンプル融着物11についてその樹脂層の融着性及び自己補修性を調べると共に耐食性を調べ、更に、これら融着性、自己補修性、及び耐食性の評価に基づいて総合評価を行った。ここで、樹脂層と樹脂層との間の融着性の良否は、フィン材間空隙封止工程での加熱温度、加熱時間、及び樹脂層間の加圧力とで決まり、また、加熱温度及び加熱時間が樹脂層の溶融に関係することから、樹脂種に応じて十分な樹脂層の溶融性を確保すれば、樹脂層間に作用する圧力により決まることになるので、各筒状サンプル間の加圧力0.01~0.5MPaは、実際のフィン材間空隙封止工程では各筒状サンプル間に作用する圧力が0.5MPa以上であればよいことになり、製造工程上現実的な樹脂層間の加圧力である。
【0038】
この際に、樹脂層の融着性については、筒状サンプル融着物11をサンプル固定具12から取り外した際に、4個の筒状サンプル11a,11b,11c,11dが互いに固着していれば合格「〇」とし、1箇所でも固着していない場合には不合格「×」とした。
また、樹脂層の自己補修性については、サンプル固定具12から取り外された筒状サンプル融着物11を、1wt%-硫酸及び6wt%-硫酸銅水溶液中に24時間浸漬し、筒状サンプル融着物11に発生した腐食について、水洗及び乾燥後に表面をデジタルカメラで撮影し、JIS Z2371 2000に記載されているレイティングナンバー法に準じて腐食発生率を求め、この腐食発生率で筒状サンプル融着物11における樹脂層の自己補修性を評価した。この腐食発生率が30%以下であれば樹脂層に自己補修性があるとした。
【0039】
更に、筒状サンプル融着物11の耐食性については、500時間の塩水噴霧試験(JIS Z2371:2000)を実施し、得られたレイティングナンバーが9.8以上である場合を合格とした。
そして、樹脂層の総合評価については、◎:融着性評価〇、自己補修性評価(腐食発生率)5%未満、及び耐食性(RN値)9.8以上の場合、〇:融着性評価〇、自己補修性評価(腐食発生率)5%以上30%以下、及び耐食性(RN値)9.8以上の場合、及び×:融着性評価×、自己補修性評価(腐食発生率)30%超え、及び耐食性(RN値)9.8未満の場合の3段階で行った。
以上の結果を表2に示す。
【0040】
【符号の説明】
【0041】
1…熱交換器、2…伝熱管、2a(2)…リターンベンド部、3,3a,3b…フィン材、4…カラー部、4a…フレア部、4b…リフレア部、5…アルミニウム板材、6…耐食皮膜層、7…樹脂層、8…フィン材間空隙、9…樹脂融着部、10…組付け孔、11…筒状サンプル融着物、11a,11b,11c,11d…筒状サンプル、12…サンプル固定具、A…伝熱管の表面に接するフィン材のカラー部の根元側の点、B…伝熱管の表面に接するフィン材カラー部の先端側の点、C…隣接する後位のフィン材の表面(背面)に接する前位のフィン材フレア部の先端、D…隣接する後位のフィン材の表面(背面)とは反対側に向けてC点から折り返された前位のフィン材リフレア部の先端。