(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】透明導電積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20230519BHJP
C22C 5/08 20060101ALI20230519BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20230519BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230519BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20230519BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230519BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230519BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230519BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C23C14/14 D
C22C5/08
C23C14/08 C
C23C14/08 D
C23C14/08 K
C23C14/06 N
H01B5/14 A
B32B7/023
B32B7/025
B32B9/00 A
B32B15/08 D
(21)【出願番号】P 2019020078
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】原口 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 篤
(72)【発明者】
【氏名】石黒 好裕
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-015623(JP,A)
【文献】特開2017-031503(JP,A)
【文献】国際公開第2005/031016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/14
C22C 5/08
C23C 14/08
C23C 14/06
H01B 5/14
B32B 7/023
B32B 7/025
B32B 9/00
B32B 15/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長550nmの光の透過率が80%以上である基材と、
該基材の表面の全部又は一部の上に設けられた第1の層、該第1の層の上に設けられた銀合金層及び該銀合金層の上に設けられた第2の層を少なくとも有する積層膜と、
を有する透明導電積層体であって、
前記第1の層は、インジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層であり、
前記銀合金層は、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~
0.4質量%含有する
か、または、Agを主成分とし、Cuを3.0~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなり、
前記第2の層は、インジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層であり、
前記第1の層の厚さが25~60nmであり、
前記銀合金層の厚さが5~14nmであり、かつ、
前記第2の層の厚さが25~60nmであることを特徴とする透明導電積層体。
【請求項2】
前記第1の層は、酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層、酸化インジウムスズ層、酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層又は酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であり、かつ、
前記第2の層は、酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層、酸化インジウムスズ層、酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層又は酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電積層体。
【請求項3】
前記第1の層及び前記第2の層が、いずれも酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層であることを特徴とする請求項2に記載の透明導電積層体。
【請求項4】
前記第1の層及び前記第2の層が、いずれも酸化インジウムスズ層であることを特徴とする請求項2に記載の透明導電積層体。
【請求項5】
前記第1の層及び前記第2の層が、いずれも酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層であることを特徴とする請求項2に記載の透明導電積層体。
【請求項6】
前記第1の層及び前記第2の層が、いずれも酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であることを特徴とする請求項2に記載の透明導電積層体。
【請求項7】
前記第1の層及び前記第2の層が同じ組成を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の透明導電積層体。
【請求項8】
前記銀合金層は、さらにGeを0.01~0.5質量%含有する銀合金からなることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の透明導電積層体。
【請求項9】
前記基材が樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1~8のいずれか一つに記載の透明導電積層体。
【請求項10】
タッチパネル、有機EL素子又はLow‐E(Low Emissivity)ガラスに組み込まれていることを特徴とする請求項1~9のいずれか一つに記載の透明導電積層体。
【請求項11】
タッチパネル用電極構造であることを特徴とする請求項1~9のいずれか一つに記載の透明導電積層体。
【請求項12】
Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~
0.4質量%含有する
か、または、Agを主成分とし、Cuを3.0~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなるスパッタリングターゲットを準備する工程と、
波長550nmの光の透過率が80%以上である基材の表面の全部又は一部の上に、厚さ25~60nmのインジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層である第1の層を設ける工程と、
前記第1の層の上に、前記スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によって、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~
0.4質量%含有する
か、または、Agを主成分とし、Cuを3.0~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなり、厚さが5~14nmの銀合金層を設ける工程と、
前記銀合金層の上に、厚さ25~60nmのインジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層である第2の層を設ける工程と、
を有することを特徴とする透明導電積層体の製造方法。
【請求項13】
前記スパッタリングターゲットは、さらにGeを0.01~0.5質量%含有する銀合金からなり、前記銀合金層は、さらにGeを0.01~0.5質量%含有する銀合金からなることを特徴とする請求項12に記載の透明導電積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、透明導電積層体及びその製造方法に関し、例えば、高い透過率と低いシート抵抗を確保しつつ、厚さが薄くても、高温高湿における耐食性などの信頼性の高い銀合金層を有する透明導電積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルの業界では、フレキシブル化が進んでいることが今後のトレンドであり、タッチパネルの基材については、ガラス板からフィルムへとニーズが移行している。
【0003】
タッチパネルの透明電極に用いる酸化インジウムスズ(ITO)膜は、通常、熱を加えることで光の透過率を上げることと、抵抗値を下げることができるが、フィルム基材を用いる場合では、熱を加えることができないため、高透過率と低抵抗を両立するのは難しい状況であった。
【0004】
耐水素性及び耐酸素性を有するAgに、耐硫黄性及び耐塩素性を有するPdが、0.5~4.9原子%含有され、Cu、Crの内の一種類、あるいは二種類の元素が、それぞれ0.1~3.5原子%含有されてなるAgPdX(XはCu、Crである。)合金の薄膜形成用スパッタリングターゲット材を用いて形成した薄膜が報告されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
Agの熱による白濁化を低減するために、主成分となるAgに、Au、Pd及びRuのいずれか一種以上を0.1~3.0重量%添加し、更にCu、Ti、Cr、Ta、Ni、Mo、Al、Nbの内、少なくとも一種類以上の元素を0.1~3.0wt%添加してなるAg合金材料から形成してなる高耐熱性Ag合金反射膜が報告されている。また、樹脂基板又はガラス基板上に、密着性を助長するために、In2O3、SnO2、Nb2O5、MgO、ITO、ZnO、SiO2、TiO2、Ta2O5、ZrO2から選ばれた少なくとも一種、若しくはこれらを主成分とする二種類以上の材料からなる下地膜を設け、この積層膜上に、熱による白濁化を低減させた高耐熱性Ag合金反射膜を設け、この高耐熱性Ag合金反射膜上に、In2O3を主成分として、SnO2、Nb2O5、SiO2、MgO、Ta2O5のいずれか一種以上を添加してなる金属酸化物薄膜を設けて形成した3層構造の積層体が報告されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0006】
Agと、塩素、塩化物、酸素、硫黄、硫化物等との反応を抑制するために、Agを主成分とし、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge及びSnからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素をそれぞれ0.1原子%以上8.0原子%以下含有させたAg合金からなるスパッタリングターゲット用いて形成した薄膜が報告されている(例えば、特許文献3を参照。)。この薄膜は、反射光の黄色化を抑制することも可能である。
【0007】
Agを主成分とし、耐硫化特性を持たせるために、少なくともGeを0.01~10.0重量%含有し、かつ、Geと、他の特性を持たせるために、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuの少なくとも1種とを合計で0.01~10.0重量%含有するAg合金で形成されたAg合金薄膜が報告されている(例えば、特許文献4を参照。)。なお、特許文献4の0025段落には、「Pdを含有させることによって、耐硫化性だけでなく、耐腐食性を向上させることができる。」と記載され、同文献の0026段落には、「Cuを含有させることによって、耐硫化性だけでなく、熱による劣化を抑制することができる。」と記載されている。
【0008】
カラー液晶ディスプレイの製造工程である250℃程度の加熱工程を経ても、表面ラフネスの成長やヒロックの発生が極めて少なく、かつ硫化による黄色化を生じにくいという特性を有する反射電極膜を形成するために、Agを主成分とし、Pd含量を0.10~2.89wt%、Cu含量を0.10~2.89wt%、Ge含量を0.01~1.50wt%とし、かつPd、Cu及びGeの合計含量を0.21~3.00wt%として、少なくとも4元素からなる組成を有するAg-Pd-Cu-Ge系銀合金が報告されている。また、このAg-Pd-Cu-Ge系銀合金で形成された薄膜を成膜する際に、基板と薄膜の間に適宜密着助長下地膜を設けてもよく、各種のガラス基板の密着助長下地膜としては、Si、Ta、Ti、Mo、Cr、Al、ITO、ZnO、SiO2、TiO2、Ta2O5、ZrO2が望ましいことが報告されている。(例えば、特許文献5を参照。)。
【0009】
さらに、耐ハロゲン性、耐酸化性、耐硫化性等の耐食性を改善するために、Agに、Ge、GaおよびSbから選ばれる少なくとも1種の金属成分(A)0.05~4.85質量%と、Au、Pd及びPtから選ばれる少なくとも1種の金属成分(B)0.1~4.9質量%と、Cu0.05~4.85質量%を添加してなり、金属成分(A)と金属成分(B)とCuの合計添加量が0.2~5質量%であるAg合金より構成されているスパッタリングターゲット材を用いて形成された高反射率を有する高耐食性薄膜が報告されている。(例えば、特許文献6を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-109943号公報
【文献】特開2001-226765号公報
【文献】特開2004-2929号公報
【文献】特開2006-37169号公報
【文献】国際公開第2005/031016号
【文献】特開2002-332568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高透過率と低抵抗を両立するために、本発明者らは、2枚のITO膜の間に銀薄膜を設けたITO/Ag/ITO構造を検討した。しかし、発明者らの実験によれば、ITO/Ag/ITO構造では、銀薄膜の膜厚が10nmと非常に薄いために、銀薄膜の腐食が起きやすいことが見出された。
【0012】
特許文献1に記載のAgPdX合金の薄膜は、耐水素性、耐酸素性、耐硫黄性及び耐塩素性のほかに、純Agの薄膜と同レベルの光の高反射率の維持という課題を解決した薄膜であり、高い光透過率の薄膜ではない。
【0013】
特許文献2に記載のAg合金反射膜は、Agの熱による白濁化の低減のほかに、純Agの薄膜と同レベルの光の高反射率の保持という課題を解決した薄膜であり、高い光透過率の薄膜ではない。
【0014】
特許文献3に記載の薄膜は、Agと、塩素、塩化物、酸素、硫黄、硫化物等との反応の抑制のほかに、純Agの薄膜と同レベルの光の高反射率の保持という課題を解決した薄膜であり、高い光透過率の薄膜ではない。
【0015】
特許文献4において、光の透過に関する開示は、自発光型ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ等の有孔型半透過膜、光ディスク媒体の薄型半透過膜についてのみである。ここで、これらの有孔型半透過膜及び薄型半透過膜は、入射光のうち、その一部を反射させ、他の一部を透過させるように設計されている。したがって、特許文献4には、入射光をできるだけ透過させる薄膜の開示がない。
【0016】
特許文献5に記載の薄膜は、表面ラフネスの成長やヒロックの発生を極めて少なくすることによって、光の反射率の低下を極めて少なくしている。光の透過に関する開示は、自発光型ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ等の有孔型半透過膜、光ディスク媒体の薄型半透過膜についてのみである。ここで、これらの有孔型半透過膜及び薄型半透過膜は、入射光のうち、その一部を反射させ、他の一部を透過させるように設計されている。したがって、特許文献5には、入射光をできるだけ透過させる薄膜の開示がない。
【0017】
特許文献6に記載のAg合金の薄膜は、耐ハロゲン性、耐酸化性、耐硫化性等の耐食性のほかに、純Agの薄膜と同レベルの光の高反射率の維持という課題を解決した薄膜であり、高い光透過率の薄膜ではない。
【0018】
そこで本開示は、高い光透過率と低いシート抵抗を確保しつつ、厚さが薄くても、高温高湿における耐食性などの信頼性の高い銀合金層を有する透明導電積層体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、高い光透過率と低いシート抵抗を確保しつつ、厚さが薄くても、高温高湿における耐食性などの信頼性の高い銀合金層を2層の酸化物層の間に設けた透明導電積層体によって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明に係る透明導電積層体は、波長550nmの光の透過率が80%以上である基材と、該基材の表面の全部又は一部の上に設けられた第1の層、該第1の層の上に設けられた銀合金層及び該銀合金層の上に設けられた第2の層を少なくとも有する積層膜と、を有する透明導電積層体であって、前記第1の層は、インジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層であり、前記銀合金層は、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~0.4質量%含有するか、または、Agを主成分とし、Cuを3.0~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなり、前記第2の層は、インジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層であり、前記第1の層の厚さが25~60nmであり、前記銀合金層の厚さが5~14nmであり、かつ、前記第2の層の厚さが25~60nmであることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る透明導電積層体では、前記第1の層は、酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層、酸化インジウムスズ層、酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層又は酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であり、かつ、前記第2の層は、酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層、酸化インジウムスズ層、酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層又は酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であることが好ましい。波長550nmの光の透過率及び導電性を向上させることができる。
【0022】
本発明に係る透明導電積層体では、前記第1の層及び前記第2の層が、いずれも酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層であることが好ましい。波長550nmの光の透過率及び導電性を向上させることができる。また熱に対する安定性を向上させることができる。
【0023】
本発明に係る透明導電積層体では、前記第1の層及び前記第2の層が、いずれも酸化インジウムスズ層であることが好ましい。波長550nmの光の透過率及び導電性をより向上させることができる。
【0024】
本発明に係る透明導電積層体では、前記第1の層及び前記第2の層が、いずれも酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層であることが好ましい。波長550nmの光の透過率及び導電性をより向上させることができる。
【0025】
本発明に係る透明導電積層体では、前記第1の層及び前記第2の層が、いずれも酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であることが好ましい。波長550nmの光の透過率及び導電性をより向上させることができる。
【0026】
本発明に係る透明導電積層体では、前記第1の層及び前記第2の層が同じ組成を有してもよい。希望する透過率が得られやすくなる。
【0027】
本発明に係る透明導電積層体では、前記銀合金層は、さらにGeを0.01~0.5質量%含有する銀合金からなることが好ましい。耐硫化性が向上し、信頼性をより高めることができる。
【0028】
本発明に係る透明導電積層体では、前記基材が樹脂フィルムであることが好ましい。透明導電積層体をフレキシブル化することができる。
【0029】
本発明に係る透明導電積層体では、タッチパネル、有機EL素子又はLow‐E(Low Emissivity)ガラスに組み込まれていることが好ましい。これらの装置又は部品において、高視認性及び高信頼性を実現することができる。
【0030】
本発明に係る透明導電積層体では、タッチパネル用電極構造であることが好ましい。高視認性及び高信頼性を有する電極構造を実現することができる。
【0031】
本発明に係る透明導電積層体の製造方法は、本発明に係る透明導電積層体を製造する方法であって、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~0.4質量%含有するか、または、Agを主成分とし、Cuを3.0~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなるスパッタリングターゲットを準備する工程と、波長550nmの光の透過率が80%以上である基材の表面の全部又は一部の上に、厚さ25~60nmのインジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層である第1の層を設ける工程と、前記第1の層の上に、前記スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によって、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~0.4質量%含有するか、または、Agを主成分とし、Cuを3.0~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなり、厚さが5~14nmの銀合金層を設ける工程と、前記銀合金層の上に、厚さ25~60nmのインジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層である第2の層を設ける工程と、を有することを特徴とする。
【0032】
本発明に係る透明導電積層体の製造方法では、前記スパッタリングターゲットは、さらにGeを0.01~0.5質量%含有する銀合金からなり、前記銀合金層は、さらにGeを0.01~0.5質量%含有する銀合金からなることが好ましい。耐硫化性が向上し、信頼性がより高まる銀合金層とすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本開示によれば、高い透過率と低いシート抵抗を確保しつつ、厚さが薄くても、高温高湿における耐食性などの信頼性の高い銀合金層を有する透明導電積層体、及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本実施例に係る高温高湿試験用サンプルの一例を示す上面概略図である。
【
図2】積層膜に腐食が観察されない試験後の高温高湿試験用サンプルの一例を示す光学顕微鏡画像である。
【
図3】積層膜の端部に腐食が観察される試験後の高温高湿試験用サンプルの一例を示す光学顕微鏡画像である。
【
図4】積層膜の端部及び端部以外の部分に腐食が観察される試験後の高温高湿試験用サンプルの一例を示す光学顕微鏡画像である。
【
図5】銀合金層の厚さに対する透明導電積層体のシート抵抗の変化を示すグラフである。
【
図6】可視光域での光の波長に対する透明導電積層体の透過率の変化を示すグラフであって、銀合金層の厚さが異なるサンプルの比較を示す。
【
図7】銀合金層の厚さに対する透明導電積層体の波長550nmの光の透過率の変化を示すグラフである。
【
図8】可視光域での光の波長に対する透明導電積層体の透過率の変化を示すグラフであって、第1の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さ及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さが異なるサンプルの比較を示す。
【
図9】可視光域での光の波長に対する透明導電積層体の透過率の変化を示すグラフであって、第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さが異なるサンプルの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0036】
本実施形態に係る透明導電積層体は、波長550nmの光の透過率が80%以上である基材と、該基材の表面の全部又は一部の上に設けられた第1の層、該第1の層の上に設けられた銀合金層及び該銀合金層の上に設けられた第2の層を少なくとも有する積層膜と、を有する透明導電積層体であって、第1の層は、インジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層であり、銀合金層は、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなり、第2の層は、インジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層であり、第1の層の厚さが25~60nmであり、銀合金層の厚さが5~14nmであり、かつ、第2の層の厚さが25~60nmである。
【0037】
(基材)
本実施形態において、基材としては、例えば、ガラス板などのガラス基材、樹脂板、樹脂フィルムなどの樹脂基材がある。基材は透明であることが好ましい。本実施形態に係る透明導電積層体では、基材が樹脂フィルムであることが好ましい。好適な樹脂フィルムとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂フィルム、ポリメタクリル酸エチル樹脂フィルムなどのアクリル樹脂フィルム、PET樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルムがある。樹脂フィルムはフレキシブル性に富むため、透明導電積層体をフレキシブル化することができる。
【0038】
基材の厚さは、150μm以下であることが好ましい。150μmを超えると、波長550nmの光の透過率80%が得られにくくなる可能性がある。また、良好なフレキシブル性が得られない可能性がある。基材の厚さは限定されないが、基材の強度の観点から、下限は、例えば10μmにすることが好ましい。
【0039】
基材の波長550nmの光の透過率は、80%以上である。好ましくは90%以上であり、80%未満であると、透明導電積層体において、波長550nmの光の良好な透過率が得られにくくなる。
【0040】
(積層膜)
積層膜は、基材の表面の上に設けられた第1の層、第1の層の上に設けられた銀合金層及び銀合金層の上に設けられた第2の層を少なくとも有する。積層膜は、銀合金層が第1の層に直接設けられ、第2の層が銀合金層に直接設けられる形態に限定されず、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で、第1の層と銀合金層との間、及び/又は銀合金層と第2の層との間に、中間層がさらに設けられてもよい。
【0041】
[第1の層]
第1の層は、基材の表面の全部又は一部の上に設けられる。すなわち、第1の層の形態としては、基材の一側の表面の全部の上に第1の層が設けられた形態、基材の一側の表面の一部の上に第1の層が設けられた形態、基材の一側の表面の全部及び基材の他側の表面の全部の上に第1の層が設けられた形態、基材の一側の表面の全部及び基材の他側の表面の一部の上に第1の層が設けられた形態、又は基材の一側の表面の一部及び基材の他側の表面の一部の上に第1の層が設けられた形態がある。第1の層は、基材の表面の全部の上に設けられる形態に限定されず、用途に応じて、基材の表面の全部の上に積層膜を設ける必要がない形態では、基材の表面の一部の上に第1の層が設けられてもよい。
【0042】
第1の層の厚さは、25~60nmである。好ましくは、30nm~50nmである。透明導電積層体において、光の波長と透過率との関係は、波長400nm~700nmの間にピークを有する山型のプロファイルを示す。この山型のプロファイルのピークは、第1の層の厚さが厚くなると長波長側にシフトし、薄くなると、短波長側にシフトする。第1の層の厚さを25~60nmにすることによって、波長550nmの光の透過率を最大化することができる。第1の層の厚さが25nm未満であると、ピークトップが550nmよりも短波長側に存在し、透明導電積層体において、波長550nmの光の良好な透過率が得られにくくなる。第1の層の厚さが60nmを超えると、ピークトップが550nmよりも長波長側に存在し、透明導電積層体において、第1の層の厚さが厚くなるほど、波長550nmの光の良好な透過率が得られにくくなる。
【0043】
第1の層は、インジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層である。本明細書において、インジウム系酸化物層とは、In2O3成分を50質量%超含有し、ZnO成分を含有しない酸化物層をいう。亜鉛系酸化物層とは、ZnO成分を50質量%超含有し、In2O3成分を含有しない酸化物層をいう。インジウム・亜鉛系酸化物層とは、In2O3成分を50質量%超含有しつつ、ZnO成分を少なくとも含有する酸化物層をいう。インジウム系酸化物層としては、例えば、酸化インジウムスズ層がある。亜鉛系酸化物層としては、例えば、酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層又は酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層がある。インジウム・亜鉛系酸化物層としては、例えば、酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層がある。本明細書において、酸化インジウムスズ層とは、In2O3成分とSnO2成分とを質量比率55:45~99:1で含有する酸化物層をいう。酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層とは、ZnO成分とAl2O3成分とを質量比率55:45~99:1で含有する酸化物層をいう。酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層とは、ZnO成分とGa2O3成分とを質量比率55:45~99:1で含有する酸化物層をいう。酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層とは、In2O3成分とZnO成分とを質量比率55:45~99:1で含有する酸化物層をいう。酸化インジウムスズ層におけるIn2O3成分とSnO2成分との好ましい質量比率は、90:10~95:5である。酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層におけるIn2O3成分とZnO成分との質量比率は、例えば90:10である。酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層、酸化インジウムスズ層、酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層及び酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層の形態としては、アモルファス薄膜であることが好ましい。酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層には、例えば、SnO2、Al2O3、Sb2O3、Ga2O3、GeO2などの添加成分が添加されてもよい。酸化インジウムスズ層には、例えば、Al2O3、Sb2O3、Ga2O3、GeO2などの添加成分が添加されてもよい。酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層には、例えば、SnO2、Sb2O3、Ga2O3、GeO2などの添加成分が添加されてもよい。酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層には、例えば、SnO2、Al2O3、Sb2O3、GeO2などの添加成分が添加されてもよい。添加成分は、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で、適宜添加することができる。
【0044】
[銀合金層]
銀合金層は、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなる。Cu含有率が0.6質量%未満であると、Cu添加による腐食抑制の効果が得られず、腐食が発生する。Cu含有率が5.0質量%を超えると、Cuの性質が強くなり、腐食が発生する。Pd含有率が0.1質量%未満であると、Pd添加による腐食抑制の効果が得られず、腐食が発生する。Pd含有率が0.9質量%を超えると、高温高湿下において化学的に不安定であるため、腐食が発生する。また、透過率の低下や抵抗の増加に影響を及ぼす。好ましいCu含有率は、1.0~3.0質量%であり、より好ましくは2.0質量%以上3.0質量%未満である。好ましいPd含有率は、0.2質量%以上0.9質量%未満であり、より好ましくは0.2質量%より高く0.5質量%以下である。Ag含有率の上限値は、99.3質量%である。また、銀合金中に存在する不可避不純物としては、例えば、Fe、Ni、C又はSiがある。不可避不純物の合計含有率は、本発明の目的とする効果を損ねない範囲であればよく、少ないほど好ましい。残部はAgであり、Agは主成分である。銀合金中のAg含有率は、94.1~99.3質量%が好ましく、より好ましくは96.5~97.8質量%である。
【0045】
本実施形態に係る透明導電積層体では、銀合金層は、さらにGeを0.01~0.5質量%含有する銀合金からなることが好ましい。より好ましくは0.1~0.4質量%である。Ge含有率が0.01質量%未満であると、Ge添加による耐硫化性の効果が得られず、含硫黄化合物を含む環境下で変色及び腐食が発生する可能性がある。Ge含有率が0.5質量%を超えると、抵抗値が高いため、透明導電積層体において、良好な導電性が得られにくくなる可能性がある。また、透明導電積層体において、波長550nmの光が透過しにくくなる可能性がある。Ag含有率の上限値は、99.29質量%である。また、銀合金中に存在する不可避不純物としては、例えば、Fe、Ni、C又はSiがある。不可避不純物の合計含有率は、本発明の目的とする効果を損ねない範囲であればよく、少ないほど好ましい。残部はAgであり、Agは主成分である。銀合金中のAg含有率は、93.6~99.29質量%が好ましく、より好ましくは96.1~97.7質量%である。
【0046】
銀合金層の厚さは、5~14nmである。好ましくは、7nm~12nmである。5nm未満であると、抵抗値が高いため、透明導電積層体において、良好な導電性が得られにくくなる。また、透明導電積層体において、銀合金層の厚さと波長550nmの光の透過率との関係は、銀合金層の厚さ5~14nmの間にピークを有する山型のプロファイルを示す。銀合金層の厚さを5~14nmにすることによって、波長550nmの光の透過率を最大化することができる。銀合金層の厚さが5nm未満であると、450~550nmの波長の範囲において、銀合金層の厚さが5nm以上の場合よりも厚さが薄いにも関わらず透過率の低下が見られるため、透明導電積層体において、波長550nmの光の良好な透過率が得られにくくなる。銀合金層の厚さが14nmを超えると、透明導電積層体において、波長550nmの光の良好な透過率が得られにくくなる。
【0047】
[第2の層]
第2の層の厚さは、25~60nmである。好ましくは、30nm~50nmである。透明導電積層体において、光の波長と透過率との関係は、波長400nm~700nmの間にピークを有する山型のプロファイルを示す。第2の層の厚さとこの山型のプロファイルとの関係は、第1の層の場合と同様である。第2の層の厚さが25nm未満であると、ピークトップが550nmよりも短波長側に存在し、透明導電積層体において、波長550nmの光の良好な透過率が得られにくくなる。第2の層の厚さが60nmを超えると、ピークトップが550nmよりも長波長側に存在し、透明導電積層体において、第2の層の厚さが厚くなるほど、波長550nmの光の良好な透過率が得られにくくなる。
【0048】
第2の層は、インジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層である。インジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層については、第1の層の場合と同様である。
【0049】
本実施形態に係る透明導電積層体では、第1の層は、酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層、酸化インジウムスズ層、酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層又は酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であり、かつ、第2の層は、酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層、酸化インジウムスズ層、酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層又は酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であることが好ましい。すなわち、第1の層及び第2の層の形態としては、第1の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層であり、第2の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層である形態、第1の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層であり、第2の層が酸化インジウムスズ層である形態、第1の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層であり、第2の層が酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層である形態、第1の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層であり、第2の層が酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層である形態、第1の層が酸化インジウムスズ層であり、第2の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層である形態、第1の層が酸化インジウムスズ層であり、第2の層が酸化インジウムスズ層である形態、第1の層が酸化インジウムスズ層であり、第2の層が酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層である形態、第1の層が酸化インジウムスズ層であり、第2の層が酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層である形態、第1の層が酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層であり、第2の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層である形態、第1の層が酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層であり、第2の層が酸化インジウムスズ層である形態、第1の層が酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層であり、第2の層が酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層である形態、第1の層が酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層であり、第2の層が酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層である形態、第1の層が酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であり、第2の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層である形態、第1の層が酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であり、第2の層が酸化インジウムスズ層である形態、第1の層が酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であり、第2の層が酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層である形態、第1の層が酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であり、第2の層が酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層である形態がある。酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物及び酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物は、インジウム系酸化物、亜鉛系酸化物及びインジウム・亜鉛系酸化物の中でも、可視光の透過率が高く、導電性が良好であるため、透明導電積層体の波長550nmの光の透過率及び導電性を向上させることができる。
【0050】
本実施形態に係る透明導電積層体では、第1の層及び第2の層が、いずれも酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層であることが好ましい。酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物は、熱に対する安定性が高いため、透明導電積層体の波長550nmの光の透過率及び導電性を向上させるとともに、熱に対する安定性を向上させることができる。
【0051】
本実施形態に係る透明導電積層体では、第1の層及び第2の層が、いずれも酸化インジウムスズ層であることが好ましい。酸化インジウムスズは、高い光透過率及び良導電性のインジウム系酸化物の中でも、可視光の透過率が高く、導電性が良好であるため、透明導電積層体の波長550nmの光の透過率及び導電性をより向上させることができる。
【0052】
本実施形態に係る透明導電積層体では、第1の層及び第2の層が、いずれも酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層であることが好ましい。酸化亜鉛‐酸化アルミニウム系酸化物層は、透明導電積層体の波長550nmの光の透過率及び導電性を向上させるとともに、環境を考慮した生産ができる。
【0053】
本実施形態に係る透明導電積層体では、第1の層及び第2の層が、いずれも酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層であることが好ましい。酸化亜鉛‐酸化ガリウム系酸化物層は、透明導電積層体の波長550nmの光の透過率及び導電性を向上させるとともに、環境を考慮した生産ができる。
【0054】
本実施形態に係る透明導電積層体では、第1の層及び第2の層が同じ組成を有してもよい。両者の層の組成が同じであれば、第1の層の厚さ及び第2の層の厚さを調整することによって、希望する透過率が得られやすくなる。
【0055】
第1の層と第2の層との厚さの差は、10nm以下であることが好ましい。より好ましくは、5nm以下であり、さらに好ましくは、ゼロである。10nmを超えると、透過率が低下する可能性がある。
【0056】
本実施形態において、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で、積層膜の上及び/又は基材と積層膜との間に、第4の層がさらに設けられてもよい。
【0057】
積層膜全体の合計膜厚は、55nm~134nmであることが好ましい。より好ましくは、67nm~112nmである。55nm未満であると、抵抗値が高いため、透明導電積層体において、良好な導電性が得られない可能性がある。134nmを超えると、透明導電積層体において、波長550nmの光の良好な透過率が得られにくくなる可能性がある。
【0058】
透明導電積層体の波長550nmの光の透過率は、78%以上であることが好ましい。好ましくは80%以上である。78%未満であると、高視認性を必要とする装置の材料とすることができない可能性がある。基材の波長550nmの光の透過率は、可能な限り高いほうがよい。
【0059】
透明導電積層体のシート抵抗は、5.00Ω/□~19.00Ω/□であることが好ましい。好ましくは5.00Ω/□~15.00Ω/□である。5.00Ω/□未満であると、銀合金層の厚さが厚いため、波長550nmの光の良好な透過率が得られにくくなる可能性がある。19.00Ω/□を超えると、良好な導電性が得られない可能性がある。
【0060】
本実施形態に係る透明導電積層体では、タッチパネル、有機EL素子又はLow‐E(Low Emissivity)ガラスに組み込まれていることが好ましい。高い光透過率、低いシート抵抗及び高信頼性を有する透明導電積層体をこれらの装置に組み込むことによって、高視認性及び高信頼性を実現することができる。
【0061】
本実施形態に係る透明導電積層体では、タッチパネル用電極構造であることが好ましい。高視認性及び高信頼性を有する電極構造を実現することができる。
【0062】
本実施形態に係る透明導電積層体の製造方法は、本実施形態に係る透明導電積層体を製造する方法であって、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなるスパッタリングターゲットを準備する工程と、波長550nmの光の透過率が80%以上である基材の表面の全部又は一部の上に、厚さ25~60nmのインジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層である第1の層を設ける工程と、第1の層の上に、スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によって、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなり、厚さが5~14nmの銀合金層を設ける工程と、銀合金層の上に、厚さ25~60nmのインジウム系酸化物層、亜鉛系酸化物層又はインジウム・亜鉛系酸化物層である第2の層を設ける工程と、を有する。
【0063】
(スパッタリングターゲットを準備する工程)
スパッタリングターゲットは、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなる。Cu含有率が0.6質量%未満であると、スパッタリングによって得られる銀合金層には、Cu添加による腐食抑制の効果が得られず、腐食が発生する。Cu含有率が5.0質量%を超えると、スパッタリングによって得られる銀合金層には、Cuの性質が強くなり、腐食が発生する。Pd含有率が0.1質量%未満であると、スパッタリングによって得られる銀合金層には、Pd添加による腐食抑制の効果が得られず、腐食が発生する。Pd含有率が0.9質量%を超えると、高温高湿下で化学的に不安定であるため、腐食が発生する。また、スパッタリングによって得られる銀合金層には透過率の低下や抵抗の増加に影響を及ぼす。好ましいCu含有率は、1.0~3.0質量%であり、より好ましくは2.0質量%以上3.0質量%未満である。好ましいPd含有率は、0.2質量%以上0.9質量%未満であり、より好ましくは0.2質量%より高く0.5質量%以下である。Ag含有率の上限値は、99.3質量%である。また、銀合金中に存在する不可避不純物ついては、銀合金層の場合と同様である。不可避不純物の合計含有率は、本発明の目的とする効果を損ねない範囲であればよく、少ないほど好ましい。残部はAgであり、Agは主成分である。銀合金中のAg含有率は、94.1~99.3質量%が好ましく、より好ましくは96.5~97.8質量%である。
【0064】
スパッタリングターゲットの作製方法は、例えば、溶解法、焼結法である。いずれの形成方法においても、組織をより均一にするために塑性加工することが好ましい。
【0065】
(第1の層を設ける工程)
基材の表面の全部又は一部の上に第1の層を設ける形態としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法などの物理気相成長法(PVD)によって第1の層を設ける形態、熱CVD法、プラズマCVD法などの化学気相成長法(CVD)によって第1の層を設ける形態、塗布法、ゾル‐ゲル法などの液相成長法によって第1の層を設ける形態がある。製造における連続的な操作の観点から、好ましい形態は、スパッタリング法によって第1の層を設ける形態である。
【0066】
(銀合金層を設ける工程)
第1の層の上に、スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によって、銀合金層を設ける形態としては、例えば、DCスパッタリング法によって銀合金層を設ける形態、RFスパッタリング法によって銀合金層を設ける形態、イオンビームスパッタリング法によって銀合金層を設ける形態がある。好ましい形態は、DCスパッタリング法によって銀合金層を設ける形態、RFスパッタリング法によって銀合金層を設ける形態である。
【0067】
(第2の層を設ける工程)
銀合金層の上に第2の層を設ける形態としては、基材の表面の全部又は一部の上に第1の層を設ける形態の場合と同様である。
【0068】
本実施形態に係る透明導電積層体の製造方法では、スパッタリングターゲットは、さらにGeを0.01~0.5質量%含有する銀合金からなり、銀合金層は、さらにGeを0.01~0.5質量%含有する銀合金からなることが好ましい。より好ましくは、スパッタリングターゲットは、さらにGeを0.1~0.4質量%含有する銀合金からなる。Ge含有率が0.01質量%未満であると、Ge添加による耐硫化性の効果が得られず、含硫黄化合物を含む環境下で、変色及び腐食が銀合金層に発生する可能性がある。Ge含有率が0.5質量%を超えると、抵抗値が高いため、透明導電積層体において、良好な導電性が得られにくくなる可能性がある。また、透明導電積層体において、波長550nmの光が透過しにくくなる可能性がある。Ag含有率の上限値は、99.29質量%である。また、銀合金中に存在する不可避不純物としては、例えば、Fe、Ni、C又はSiがある。不可避不純物の合計含有率は、本発明の目的とする効果を損ねない範囲であればよく、少ないほど好ましい。残部はAgであり、Agは主成分である。スパッタリングターゲット及び銀合金層において、銀合金中のAg含有率は、93.6~99.29質量%が好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限り、各々「質量部」、「質量%」を示す。
【0070】
(スパッタリングターゲットの元素分析)
ICP発光分光分析元素分析装置(型番730‐ES、VARIAN社製)を用いた元素分析によって測定した。
【0071】
(各層の厚さ、積層膜の合計膜厚の測定)
各種スパッタリングターゲットのスパッタレート及びスパッタ時間から膜厚を算出し、各種スパッタリングターゲットを成膜し、基材に第1の層、銀合金層、第2の層の各膜厚を形成した。
【0072】
(透明導電積層体のシート抵抗の測定)
シート抵抗値は、抵抗率計(型番Loresta‐GP、三菱化学(株)製)を用いて、四探針法を採用し、透明導電積層体のシート抵抗を測定した。
【0073】
(透明導電積層体の光の透過率の測定)
分光光度計(型番UV‐3100PC、(株)島津製作所製)を用いて、可視光域(400nm~800nm)において透明導電積層体の光の透過率を測定した。
【0074】
(Ag‐Cu‐Pd合金からなる銀合金層を有する透明導電積層体の作製)
(試験番号1)
表1のターゲット番号1に示される組成のAg‐Cu‐Pd合金からなるスパッタリングターゲットを、溶解法によって作製した。表1において、スパッタリングターゲットの組成の残部はAgであった。具体的には、Agと、Cuと、Pdとを原料とし、溶解して、Ag‐Cu‐Pd合金からなるスパッタリングターゲットを作製した。
【0075】
【0076】
[基材の準備]
OA-10Gガラス(波長550nmの光の透過率92%、長さ40mm×幅20mm×厚さ0.7mm、日本電気硝子製)を準備した。
【0077】
[第1の層の形成]
酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物合金からなるスパッタリングターゲットを使用し、RFスパッタリング法によって、基材の上に、アモルファス薄膜である第1の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層を、第1の層として形成した。第1の層の厚さを35nmとした。
【0078】
[銀合金層の形成]
表1のターゲット番号1に示される組成のAg‐Cu‐Pd合金からなるスパッタリングターゲットを使用し、RFスパッタリング法によって、先に形成した第1の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の上に、Ag‐Cu‐Pd合金からなる銀合金層を形成した。銀合金層の組成は、使用したスパッタリングターゲットの組成と同じであった。銀合金層の厚さを10nmとした。
【0079】
[第2の層の形成]
酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物合金からなるスパッタリングターゲットを使用し、RFスパッタリング法によって、先に形成した銀合金層の上に、アモルファス薄膜である第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層を、第2の層として形成した。第2の層の厚さを35nmとした。
【0080】
[パターニング形成]
基材上に第1の層、Ag‐Cu‐Pd合金からなる銀合金層、第2の層を積層後、
図1に示す領域A1,A2,A3におけるh1を175μmとし、w1を50μmとなるようにレジスト材を塗布し、湿式法によりパターンを形成し、
図1に示すような基材1に形成した積層膜2a,2b,2cからなる積層膜群2と、基材1が露出した露出部分3とを有する高温高湿試験用サンプル10を形成した。
【0081】
(試験番号2~試験番号30)
表1のターゲット番号1に示される組成のAg‐Cu‐Pd合金からなるスパッタリングターゲットを、表1のターゲット番号2~ターゲット番号30に示される組成のAg‐Cu‐Pd合金からなるスパッタリングターゲットに変更した以外は、試験番号1の高温高湿試験用サンプルと同様に、試験番号2~試験番号30の高温高湿試験用サンプルを作製した。
【0082】
(Ag‐Cu‐Pd‐Ge合金からなる銀合金層を有する透明導電積層体の作製)
(試験番号31~試験番号34)
表1のターゲット番号1に示される組成のAg‐Cu‐Pd合金からなるスパッタリングターゲットを、表1のターゲット番号31~ターゲット番号34に示される組成のAg‐Cu‐Pd‐Ge合金からなるスパッタリングターゲットに変更した以外は、試験番号1の高温高湿試験用サンプルと同様に、試験番号31~試験番号34の高温高湿試験用サンプルを作製した。
【0083】
試験番号1~試験番号34の高温高湿試験用サンプルにおける積層膜の合計膜厚は、いずれも80nmであった。
【0084】
(高温高湿試験)
試験番号1~試験番号34の高温高湿試験用サンプルに対し、空気中、85℃85%RHで500時間、高温高湿試験を行い、試験後、光学顕微鏡を用いて高温高湿試験用サンプルを撮影した。表2に、Ag‐Cu‐Pd合金からなる銀合金層を有する高温高湿試験用サンプルの試験結果を示し、表3に、Ag‐Cu‐Pd‐Ge合金からなる銀合金層を有する高温高湿試験用サンプルの試験結果を示した。表2及び表3において、○は、積層膜に腐食が観察されず、十分実用に耐えることができた、△は、積層膜の端部に腐食が観察されるが、実用に耐えることができた、×は、積層膜の端部及び端部以外の部分の腐食が観察され、実用に耐えることができなかったことを示す。
図2は、試験後に○の評価を得た高温高湿試験用サンプルの一例を示し、
図3は、試験後に△の評価を得た高温高湿試験用サンプルの一例を示し、
図4は、試験後に×の評価を得た高温高湿試験用サンプルの一例を示す。
【0085】
【0086】
【0087】
表2及び表3に示すように、Agを主成分とし、Cuを0.6~5.0質量%、Pdを0.1~0.9質量%含有する銀合金からなる銀合金層を有する高温高湿試験用サンプルは、高温高湿における耐食性が良好であった。
【0088】
一方、Cu含有率0.6質量%未満の銀合金からなる銀合金層を有する高温高湿試験用サンプルは、Cu添加による腐食抑制の効果が得られず、腐食が発生した。Cu含有率5.0質量%超の銀合金からなる銀合金層を有する高温高湿試験用サンプルは、Cuの性質が強くなり、腐食という問題が発生した。Pd含有率0.1質量%未満の銀合金からなる銀合金層を有する高温高湿試験用サンプルは、Pd添加による腐食抑制の効果が得られず、腐食が発生した。Pd含有率0.9質量%超の銀合金からなる銀合金層を有する高温高湿試験用サンプルは、高温高湿下において化学的に不安定であるため、腐食が発生した。
【0089】
(耐硫化試験)
試験番号16の高温高湿試験用サンプルと同様のサンプル、及び試験番号33の高温高湿試験用サンプルと同様のサンプルを0.06mol%硫化ナトリウム水溶液に30分間浸漬させ、耐硫化試験を行った。耐硫化試験後、硫化ナトリウム水溶液から両サンプルを取り出し、光学顕微鏡を用いて両サンプルを撮影した。両サンプルにおける積層膜の端部には、腐食が観察されるが、両サンプルは実用に耐えることができた。特に、試験番号33の高温高湿試験用サンプルと同様のサンプルは、試験番号16の高温高湿試験用サンプルと同様のサンプルよりも、硫化の進行を抑制した。
【0090】
(透明導電積層体のシート抵抗の評価)
次に、第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さ並びに銀合金層の組成を、高温高湿試験にて結果が良好だった試験番号16の高温高湿試験用サンプルの場合と同様にし、銀合金層の厚さを変更したときの透明導電積層体のシート抵抗の変化を調べた。
【0091】
(試験番号35~試験番号39)
銀合金層の厚さを、表4に示す銀合金層の厚さにし、パターニング形成を行わなかった以外は、試験番号16の高温高湿試験用サンプルと同様に、試験番号35~試験番号39のシート抵抗測定用サンプルを作製した。表4に、各試験番号のシート抵抗測定用サンプルにおける銀合金層の厚さ及び透明導電積層体のシート抵抗を示した。
図5に、銀合金層の厚さに対する透明導電積層体のシート抵抗の変化を示すグラフを示した。
【0092】
【0093】
表4及び
図5に示すように、試験番号36~試験番号38のシート抵抗測定用サンプルは、シート抵抗が低く、導電性が良好であった。一方、試験番号35のシート抵抗測定用サンプル(銀合金層の厚さが4nmである。)は、銀合金層の厚さが5nm未満であるため、シート抵抗が高く、良好な導電性が得られなかった。
【0094】
(銀合金層の厚さに対する透明導電積層体の波長550nmの光の透過率の評価)
第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さ並びに銀合金層の組成を、高温高湿試験にて結果が良好だった試験番号16の高温高湿試験用サンプルの場合と同様にし、銀合金層の厚さを変更したときの透明導電積層体の波長550nmの光の透過率の変化を調べた。
【0095】
(試験番号40~試験番号44)
試験番号35~試験番号39のシート抵抗測定用サンプルとそれぞれ同様の透明導電積層体のサンプルである試験番号40~試験番号44の光透過率測定用サンプルを作製した。
図6に、可視光域での光の波長に対する透明導電積層体の透過率の変化を示すグラフを示し、銀合金層の厚さが異なる光透過率測定用サンプルの比較を示した。表5に、各試験番号の光透過率測定用サンプルにおける銀合金層の厚さ及び透明導電積層体の波長550nmの光の透過率を示した。
図7に、銀合金層の厚さに対する透明導電積層体の波長550nmの光の透過率の変化を示すグラフを示した。
【0096】
【0097】
表5及び
図7に示すように、試験番号41~試験番号43の光透過率測定用サンプルは、波長550nmの光の良好な透過率が得られた。また、
図7に示すように、銀合金層の厚さを5~14nmにすることによって、波長550nmの光の透過率を最大化することが可能であった。
【0098】
一方、試験番号40の光透過率測定用サンプル(銀合金層の厚さが4nmである。)は、
図6に示すように、450~550nmの波長の範囲において、銀合金層の厚さが5nm以上の場合よりも厚さが薄いにも関わらず透過率の低下が見られるため、波長550nmの光の良好な透過率が得られなかった。試験番号44の光透過率測定用サンプル(銀合金層の厚さが15nmである。)は、銀合金層の厚さが14nmを超えるため、透明導電積層体において、波長550nmの光の良好な透過率が得られなかった。
【0099】
(酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さに対する透明導電積層体の波長550nmの光の透過率)
銀合金層の厚さ及び組成を、高温高湿試験にて結果が良好だった試験番号16の高温高湿試験用サンプルの場合と同様にし、第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さを変更したときの透明導電積層体の波長550nmの光の透過率の変化を調べた。
【0100】
(試験番号45~試験番号49)
第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さを、表6に示す第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さにした以外は、試験番号42の光透過率測定用サンプルと同様に、試験番号45~試験番号49の光透過率測定用サンプルを作製した。
図8に、可視光域での光の波長に対する透明導電積層体の透過率の変化を示すグラフを示して、第1の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さ及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さが異なる透過率測定用サンプルの比較を示した。表6に、各試験番号の光透過率測定用サンプルにおける第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さ並びに透明導電積層体の波長550nmの光の透過率を示した。
【0101】
【0102】
表6に示すように、試験番号46~試験番号49の透過率測定用サンプルは、波長550nmの光の良好な透過率が得られた。また、
図8に示すように、可視光域での光の波長に対する透過率の変化を示すグラフは、波長400nm~700nmの間にピークを有する山型であった。この山型のグラフのピークは、第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さが厚くなると長波長側にシフトし、薄くなると、短波長側にシフトした。第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さを共に25~50nmにすることによって、波長550nmの光の透過率を最大化することができた。
【0103】
一方、試験番号45の透過率測定用サンプルは、第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さが共に25nm未満であり、
図8に示すように、ピークトップが460nm~470nmの間に存在するため、波長550nmの光の良好な透過率が得られなかった。
【0104】
(試験番号50~試験番号51)
第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さを表7に示す第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さにした以外は、試験番号47の光透過率測定用サンプルと同様に、試験番号50~試験番号51の光透過率測定用サンプルを作製した。
図9に、可視光域での光の波長に対する透明導電積層体の透過率の変化を示すグラフを示して、第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さが異なる透過率測定用サンプルの比較を示した。表7に、各試験番号の光透過率測定用サンプルにおける第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さ並びに透明導電積層体の波長550nmの光の透過率を示した。
【0105】
【0106】
表7に示すように、厚さ25~50nmの範囲において、第1の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さと、第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さとが異なっても、試験番号50~試験番号51の透過率測定用サンプルは、波長550nmの光の良好な透過率が得られた。また、
図9に示すように、試験番号50~試験番号51の透過率測定用サンプルは、類似のプロファイルを示した。
【0107】
(銀合金層の組成に対する波長550nmの光の透過率)
銀合金層の厚さ並びに第1及び第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さを、高温高湿試験にて結果が良好だった試験番号16の高温高湿試験用サンプルの場合と同様にし、銀合金層の組成を変更したときの透明導電積層体の波長550nmの光の透過率の変化を調べた。
【0108】
(試験番号52~試験番号54)
銀合金層の組成を表8に示す銀合金層の組成にした以外は、試験番号47の光透過率測定用サンプルと同様に、試験番号52~試験番号54の光透過率測定用サンプルを作製した。銀合金層の組成の残部はAgであった。第1の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さを35nmとし、銀合金層の厚さを10nmとし、第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層の厚さを35nmとした。表8に、各試験番号の光透過率測定用サンプルにおける銀合金層の組成及び透明導電積層体の波長550nmの光の透過率を示した。
【0109】
【0110】
表8に示すように、銀合金層の組成を変更しても、試験番号52~試験番号54の透過率測定用サンプルは、波長550nmの光の良好な透過率が得られた。
【0111】
(第1の層及び第2の層が、いずれも酸化インジウムスズ層である透明導電積層体の作製)
(試験番号55)
第1の層として、アモルファス薄膜である第1の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層を、アモルファス薄膜である第1の酸化インジウムスズ層に変更し、第2の層として、アモルファス薄膜である第2の酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層を、アモルファス薄膜である第2の酸化インジウムスズ層に変更した以外は、試験番号16の高温高湿試験用サンプルと同様に、試験番号55の高温高湿試験用サンプルを作製した。
【0112】
(試験番号56及び試験番号57)
表1のターゲット番号1に示される組成のAg‐Cu‐Pd合金からなるスパッタリングターゲットを、表1のターゲット番号18及びターゲット番号25にそれぞれ示される組成のAg‐Cu‐Pd合金からなるスパッタリングターゲットに変更した以外は、試験番号55の高温高湿試験用サンプルと同様に、試験番号56及び試験番号57の高温高湿試験用サンプルを作製した。
【0113】
(高温高湿試験)
試験番号55~試験番号57の高温高湿試験用サンプルに対し、空気中、85℃85%RHで500時間、高温高湿試験を行い、試験後、光学顕微鏡を用いて高温高湿試験用サンプルを撮影した。撮影された画像より、試験番号55~試験番号57の高温高湿試験用サンプルは、○の評価を得た。したがって、第1及び第2の層が酸化インジウムスズ層に変更しても、試験番号55~試験番号57の高温高湿試験用サンプルは、高温高湿における耐食性が良好であった。
【0114】
(透明導電積層体のシート抵抗の評価)
(試験番号58及び試験番号59)
試験番号37のシート抵抗測定用サンプルと同様の透明導電積層体のサンプルである試験番号58のシート抵抗測定用サンプルを作製した。また、パターニング形成を行わなかった以外は、試験番号55の高温高湿試験用サンプルと同様に、試験番号59のシート抵抗測定用サンプルを作製した。表9に、各試験番号のシート抵抗測定用サンプルにおける第1及び第2の層としての酸化物層名並びに透明導電積層体のシート抵抗を示した。
【0115】
【0116】
表9に示すように、第1及び第2の層が酸化スズ層である試験番号59のシート抵抗測定用サンプルは、第1及び第2の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層である試験番号58のシート抵抗測定用サンプルと同様に、シート抵抗が低く、導電性が良好であった。
【0117】
(波長550nmの光の透過率の評価)
(試験番号60及び試験番号61)
試験番号58及び試験番号59のシート抵抗測定用サンプルとそれぞれ同様の透明導電積層体のサンプルである試験番号60及び試験番号61の光透過率測定用サンプルを作製した。表10に、各試験番号の光透過率測定用サンプルにおける第1及び第2の層としての酸化物層名並びに透明導電積層体の波長550nmの光の透過率を示した。
【0118】
【0119】
表10に示すように、第1及び第2の層が酸化スズ層である試験番号61の透過率測定用サンプルは、第1及び第2の層が酸化インジウム‐酸化亜鉛系酸化物層である試験番号60の透過率測定用サンプルと同様に、波長550nmの光の良好な透過率が得られた。
【符号の説明】
【0120】
1 基材
2 積層膜群
2a,2b,2c 積層膜
3 露出部分
10 高温高湿試験用サンプル