(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230519BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230519BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230519BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2019056736
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-153224(JP,A)
【文献】特開2016-164978(JP,A)
【文献】特開2010-108971(JP,A)
【文献】国際公開第2013/018686(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/022063(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017054(WO,A1)
【文献】特開2017-073205(JP,A)
【文献】特開2018-081907(JP,A)
【文献】国際公開第2013/121624(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と前記集電体の表面に形成された電極組成物層とを有するリチウムイオン電池であって、
前記電極組成物層が電極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆された被覆電極活物質粒子を含み、
前記集電体が導電性基材と、前記導電性基材の表面であって前記電極組成物層と接する面に高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層とを有し、
前記導電性組成物層に含まれる高分子化合物と前記被覆層に含まれる高分子化合物とが同じ組成であ
り、
前記導電性基材は、導電材料と樹脂とから構成されてなる樹脂性基材であり、
前記樹脂性基材に含まれる樹脂と、前記導電性組成物層に含まれる高分子化合物とが異なる組成であることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記高分子化合物が、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂又はこれらの混合物である請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記導電性フィラーが導電性繊維を含む請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層の表面粗さRaが0.1~5μmである請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層の膜厚が5~20μmである請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池に注目が集まっている。
【0003】
リチウムイオン電池の電極は、集電体に電極活物質等を含有する電極組成物を塗布することで、又は前記電極組成物をシート状に成形した後に集電体に積層することで得ることができる。この際、前記電極組成物からなる層と集電体との親和性、密着性が十分でないと電池の内部抵抗が高くなる。
特許文献1には、電極組成物からなる層と集電体との密着性を向上させる目的で集電体表面に略垂直方向に伸びる導電性繊維を配した集電体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の集電体と電極組成物からなる層との親和性、密着性は十分とはいえなかった。特に、電極の製造方法として電極組成物をシート状に成形した後に集電体に積層する方法を採用する場合に、シート状の電極組成物が集電体上に安定に存在できず、位置がずれる、隙間が生じる等の不具合が発生することがあり、得られる電池の性能が悪化する、生産効率が低下する等の課題があった。
上記課題を踏まえて、本発明は電極組成物からなる層に対する親和性及び密着性に優れた集電体を用いた電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これらの課題を解決するべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、集電体と前記集電体の表面に形成された電極組成物層とを有するリチウムイオン電池であって、前記電極組成物層が電極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆された被覆電極活物質粒子を含み、前記集電体が導電性基材と、前記導電性基材の表面であって前記電極組成物層と接する面に高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層とを有し、前記導電性組成物層に含まれる高分子化合物と前記被覆層に含まれる高分子化合物とが同じ組成であることを特徴とするリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電極組成物からなる層に対する親和性及び密着性に優れた集電体を用いた電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、集電体と前記集電体の表面に形成された電極組成物層とを有するリチウムイオン電池であって、前記電極組成物層が電極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆された被覆電極活物質粒子を含み、前記集電体が導電性基材と、前記導電性基材の表面であって前記電極組成物層と接する面に高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層とを有し、前記導電性組成物層に含まれる高分子化合物と前記被覆層に含まれる高分子化合物とが同じ組成であることを特徴とするリチウムイオン電池である。
【0009】
本発明のリチウムイオン電池は、集電体と前記集電体の表面に形成された電極組成物層とを有する。
【0010】
前記電極組成物層は電極組成物からなり、前記電極組成物は電極活物質粒子表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆された被覆電極活物質粒子を含む。
正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0011】
正極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
【0012】
負極活物質粒子としては、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
上記負極活物質粒子のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め負極活物質粒子の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0013】
これらの中でも、電池容量等の観点から、炭素系材料、珪素系材料及びこれらの混合物が好ましく、炭素系材料としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素及びアモルファス炭素がさらに好ましく、珪素系材料としては、酸化珪素及び珪素-炭素複合体がさらに好ましい。
【0014】
負極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、2~10μmであることがさらに好ましい。
【0015】
前記電極活物質粒子は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆されている。高分子化合物としては、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート、ポリサッカロイド(アルギン酸ナトリウム等)及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの中では電解液への濡れ性及び吸液の観点からフッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂及びこれらの混合物が好ましく、ビニル樹脂がより好ましい。
【0016】
前記ウレタン樹脂は、活性水素成分(a1)及びイソシアネート成分(a2)とを反応させて得られるウレタン樹脂(A)であることが望ましい。
ウレタン樹脂(A)は柔軟性を有するため、リチウムイオン電池活物質をウレタン樹脂(A)で被覆することにより電極の体積変化を緩和し、電極の膨脹を抑制することができる。
【0017】
活性水素成分(a1)としては、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが望ましい。
【0018】
ポリエーテルジオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(以下、PEGと略記)、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオール、ポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-ジフェニルプロパンなどの低分子グリコールのエチレンオキシド付加物、数平均分子量2,000以下のPEGとジカルボン酸[炭素数4~10の脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸など)、炭素数8~15の芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸、イソフタル酸など)など]の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエーテルエステルジオール及びこれら2種以上の混合物が挙げられる。
これらのうち、好ましくはPEG、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオールおよびポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオールであり、特に好ましくはPEGである。
【0019】
ポリカーボネートジオールとしては、炭素数4~12、好ましくは炭素数6~10、さらに好ましくは炭素数6~9のアルキレン基を有するアルキレンジオールの1種または2種以上と、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1~6のジアルキルカーボネート、炭素数2~6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネートおよび炭素数6~9のアリール基を有するジアリールカーボネートなど)から、脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートポリオール(例えばポリヘキサメチレンカーボネートジオール)が挙げられる。
【0020】
ポリエステルジオールとしては、低分子ジオールおよび/または数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールと前述のジカルボン酸の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエステルジオールや、炭素数4~12のラクトンの開環重合により得られるポリラクトンジオールなどが挙げられる。上記低分子ジオールとして上記ポリエーテルジオールの項で例示した低分子グリコールなどが挙げられる。上記数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールとしてはポリオキシプロピレングリコール、PTMGなどが挙げられる。上記ラクトンとしては、例えばε-カプロラクトン、γ-バレロラクトンなどが挙げられる。該ポリエステルジオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリカプロラクトンジオールおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0021】
イソシアネート成分(a2)としては、従来からポリウレタン製造に使用されているものが使用できる。このようなイソシアネートには、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)6~20の芳香族ジイソシアネート、炭素数2~18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4~15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8~15の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など)およびこれらの2種以上の混合物が含まれる。
【0022】
上記芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-または1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、ジフェニルメタンジイソシアネートをMDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0023】
上記脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエートなどが挙げられる。
【0024】
上記脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-または2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0025】
上記芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-またはp-キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0026】
これらのうち好ましいものは芳香族ジイソシアネートおよび脂環式ジイソシアネートであり、さらに好ましいものは芳香族ジイソシアネートであり、特に好ましいのはMDIである。
【0027】
ウレタン樹脂(A)が高分子ジオール(a11)及びイソシアネート成分(a2)を含む場合、好ましい(a2)/(a11)の当量比は10~30/1であり、より好ましくは11~28/1である。イソシアネート成分(a2)の比率が30当量を超えると硬い塗膜となる。
ウレタン樹脂(A)の数平均分子量は、40,000~500,000であることが望ましく、より望ましくは50,000~400,000である。ウレタン樹脂(A)の数平均分子量が40,000未満では被膜の強度が低くなり、500,000を超えると溶液粘度が高くなって、均一な被膜が得られないことがある。
【0028】
ウレタン樹脂(A)の数平均分子量は、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記)を溶剤として用い、ポリオキシプロピレングリコールを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記)により測定される。サンプル濃度は0.25重量%、カラム固定相はTSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH4000(いずれも東ソー株式会社製)を各1本連結したもの、カラム温度は40℃とすればよい。
【0029】
ウレタン樹脂(A)は活性水素成分(a1)とイソシアネート成分(a2)を反応させて製造することができる。
例えば、活性水素成分(a1)として高分子ジオール(a11)と鎖伸長剤(a13)を用い、イソシアネート成分(a2)と高分子ジオール(a11)と鎖伸長剤(a13)とを同時に反応させるワンショット法や、高分子ジオール(a11)とイソシアネート成分(a2)とを先に反応させた後に鎖伸長剤(a13)を続けて反応させるプレポリマー法が挙げられる。
また、ウレタン樹脂(A)の製造は、イソシアネート基に対して不活性な溶媒の存在下または非存在下で行うことができる。溶媒の存在下で行う場合の適当な溶媒としては、アミド系溶媒[DMF、ジメチルアセトアミドなど]、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシドなど)、ケトン系溶媒[メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど]、芳香族系溶媒(トルエン、キシレンなど)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものはアミド系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒およびこれらの2種以上の混合物である。
【0030】
ウレタン樹脂(A)の製造の際の反応温度は、溶媒を使用する場合は20~100℃、無溶媒の場合は20~220℃であることが望ましい。
ウレタン樹脂(A)の製造は当該業界において通常採用されている製造装置で行うことができる。また溶媒を使用しない場合はニーダーやエクストルーダーなどの製造装置を用いることができる。このようにして製造されるウレタン樹脂(A)は、30重量%(固形分)DMF溶液として測定した溶液粘度が通常10~10,000ポイズ/20℃であり、実用上好ましいのは100~2,000ポイズ/20℃である。
【0031】
上記ビニル樹脂は、ビニルモノマー(b)を必須構成単量体とする重合体(B)を含んでなることが望ましい。
ビニルモノマー(b)を必須構成単量体とする重合体(B)は柔軟性を有するため、正極活物質粒子を重合体(B)で被覆することにより電極の体積変化を緩和し、電極の膨脹を抑制することができる。
特に、ビニルモノマー(b)としてカルボキシル基を有するビニルモノマー(b1)及び下記一般式(1)で表されるビニルモノマー(b2)を含むことが望ましい。
CH2=C(R1)COOR2 (1)
[式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数4~36の分岐アルキル基である。]
【0032】
カルボキシル基を有するビニルモノマー(b1)としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸等の炭素数3~15のモノカルボン酸;(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の炭素数4~24のジカルボン酸;アコニット酸等の炭素数6~24の3価~4価又はそれ以上の価数のポリカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0033】
上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(b2)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。R1はメチル基であることが好ましい。
R2は炭素数4~36の分岐アルキル基であり、R2の具体例としては、1-アルキルアルキル基(1-メチルプロピル基(sec-ブチル基)、1,1-ジメチルエチル基(tert-ブチル基)、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、1-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、1-メチルオクチル基、1-エチルヘプチル基、1-メチルノニル基、1-エチルオクチル基、1-メチルデシル基、1-エチルノニル基、1-ブチルエイコシル基、1-ヘキシルオクタデシル基、1-オクチルヘキサデシル基、1-デシルテトラデシル基、1-ウンデシルトリデシル基等)、2-アルキルアルキル基(2-メチルプロピル基(iso-ブチル基)、2-メチルブチル基、2-エチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、2-メチルペンチル基、2-エチルブチル基、2-メチルヘキシル基、2-エチルペンチル基、2-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-メチルオクチル基、2-エチルヘプチル基、2-メチルノニル基、2-エチルオクチル基、2-メチルデシル基、2-エチルノニル基、2-ヘキシルオクタデシル基、2-オクチルヘキサデシル基、2-デシルテトラデシル基、2-ウンデシルトリデシル基、2-ドデシルヘキサデシル基、2-トリデシルペンタデシル基、2-デシルオクタデシル基、2-テトラデシルオクタデシル基、2-ヘキサデシルオクタデシル基、2-テトラデシルエイコシル基、2-ヘキサデシルエイコシル基等)、3~34-アルキルアルキル基(3-アルキルアルキル基、4-アルキルアルキル基、5-アルキルアルキル基、32-アルキルアルキル基、33-アルキルアルキル基および34-アルキルアルキル基等)、並びに、プロピレンオリゴマー(7~11量体)、エチレン/プロピレン(モル比16/1~1/11)オリゴマー、イソブチレンオリゴマー(7~8量体)およびα-オレフィン(炭素数5~20)オリゴマー(4~8量体)等に対応するオキソアルコールのアルキル残基のような1またはそれ以上の分岐アルキル基を含有する混合アルキル基等が挙げられる。
これらのうち、電解液の吸液の観点から好ましいのは2-アルキルアルキル基であり、更に好ましいのは2-エチルヘキシル基及び2-デシルテトラデシル基である。
【0034】
重合体(B)の数平均分子量の好ましい下限は3,000、さらに好ましくは50,000、とくに好ましくは100,000、最も好ましくは200,000であり、好ましい上限は2,000,000、さらに好ましくは1,500,000、とくに好ましくは1,000,000、最も好ましくは800,000である。
【0035】
重合体(B)の数平均分子量は、以下の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン
標準物質:ポリスチレン
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0036】
重合体(B)は、公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合など)により製造することができる。
重合に際しては、公知の重合開始剤〔アゾ系開始剤[2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリルなど)、パーオキシド系開始剤(ベンゾイルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなど)]など〕を使用して行なうことができる。
重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%である。
【0037】
溶液重合の場合に使用される溶媒としては、例えばエステル(炭素数2~8、例えば酢酸エチルおよび酢酸ブチル)、アルコール(炭素数1~8、例えばメタノール、エタノールおよびオクタノール)、炭化水素(炭素数4~8、例えばn-ブタン、シクロヘキサンおよびトルエン)、アミド(例えばDMFおよびジメチルアセトアミド)およびケトン(炭素数3~9、例えばメチルエチルケトン)が挙げられ、使用量はモノマーの合計重量に基づいて5~900%、好ましくは10~400%であり、モノマー濃度としては、10~95重量%、好ましくは20~90重量%である。
【0038】
乳化重合および懸濁重合における分散媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、エステル(例えばプロピオン酸エチル)、軽ナフサなどが挙げられ、乳化剤としては、高級脂肪酸(炭素数10~24)金属塩(例えばオレイン酸ナトリウムおよびステアリン酸ナトリウム)、高級アルコール(炭素数10~24)硫酸エステル金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、エトキシ化テトラメチルデシンジオール、メタクリル酸スルホエチルナトリウム、メタクリル酸ジメチルアミノメチルなどが挙げられる。さらに安定剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを加えてもよい。
溶液または分散液のモノマー濃度は5~95重量%、重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて0.01~5%、粘着力および凝集力の観点から好ましくは0.05~2%である。
重合に際しては、公知の連鎖移動剤、例えばメルカプト化合物(ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン等)およびハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、四臭化炭素、塩化ベンジル等)を使用することができる。使用量はモノマーの全重量に基づいて2%以下、粘着力および凝集力の観点から好ましくは0.5%以下である。
【0039】
また、重合反応における系内温度は-5~150℃、好ましくは30~120℃、反応時間は0.1~50時間、好ましくは2~24時間であり、反応の終点は、未反応単量体の量が使用した単量体全量の5重量%以下、好ましくは1重量%以下となることにより確認できる。
【0040】
本発明のリチウムイオン電池は、集電体の表面に形成された電極組成物層を有し、前記電極組成物層は電極活物質粒子表面の少なくとも一部が前記高分子化合物を含む被覆層で被覆された被覆電極活物質粒子を含む。
被覆電極活物質粒子を基準とした前記高分子化合物の重量割合は、1~20重量%であることが好ましく、成形性と抵抗値との観点から、2~7重量%であることがより好ましい。
【0041】
前記被覆層は、必要に応じて、導電助剤を含んでも良い。
導電助剤としては、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電助剤の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0042】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0043】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0044】
導電助剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電助剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0045】
被覆電極活物質粒子を製造する方法について説明する。
被覆電極活物質粒子は、例えば、前記高分子化合物及び電極活物質粒子並びに必要により用いる導電助剤を混合することによって製造してもよく、前記高分子化合物と導電助剤とを混合して被覆材を準備したのち、該被覆材と電極活物質粒子とを混合することにより製造してもよい。
なお、電極活物質粒子と前記高分子化合物と導電助剤とを混合する場合、混合順序には特に制限はないが、電極活物質粒子と前記高分子化合物とを混合した後、さらに導電助剤を加えて混合することが好ましい。
上記方法により、前記高分子化合物と必要により用いる導電助剤を含む被覆層によって電極活物質の表面の少なくとも一部が被覆される。
【0046】
例えば、被覆電極活物質粒子は、電極活物質粒子を万能混合機に入れて30~500rpmで撹拌した状態で、高分子化合物及び必要により導電助剤を含む樹脂組成物溶液を1~90分かけて滴下混合し、さらに必要に応じて導電助剤を混合し、撹拌したまま50~200℃に昇温し、0.007~0.04MPaまで減圧した後に10~150分保持することにより得ることができる。
【0047】
前記電極組成物層は電極組成物からなる。
前記電極組成物は、必要に応じて、導電助剤を含んでも良い。導電助剤としては、前述のものが挙げられる。前記電極組成物に含まれる導電助剤の重量割合は、前記の被覆活物質粒子の被覆層に含まれる導電助剤も併せて、前記電極活物質層の重量を基準として0.1~12重量%であることが好ましく、0.5~10重量%であることがより好ましく、1.0~8.0重量%であることが特に好ましい。前記電極組成物に含まれる導電助剤の重量割合がこの範囲であると、得られる電池の電気特性が良好となる。
【0048】
前記電極組成物に含まれる電極用バインダ(単に結着剤及びバインダとも呼ばれる)の含有量は、電極組成物の重量を基準として1重量%以下であることが好ましく、実質的には含まないことがより好ましい。
前記電極用バインダとしては、デンプン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン及びスチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。これらの電極用バインダは電極活物質同士及び電極活物質と集電体とを結着固定するために用いられる公知のリチウムイオン電池用結着剤として知られており、溶剤に溶解又は分散して用いられ、溶剤を揮発、留去して固体として析出させることで電極活物質同士及び電極活物質と集電体とを結着する。
【0049】
本発明のリチウムイオン電池が有する集電体は、導電性基材と、前記導電性基材の表面であって前記電極組成物層と接する面に高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層とを有する。導電性組成物層に含まれる高分子化合物と被覆層に含まれる高分子化合物とが同じ組成である。
前記導電性基材としては、導電性を有してさえいれば材料は特に限定されないが、公知の金属性基材及び導電材料と樹脂とから構成されてなる樹脂性基材(特開2012-150905号公報等に樹脂集電体として記載されている)等を好適に用いることができる。
金属性基材としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン及びこれらの金属を1種以上含む合金、並びに、ステンレス合金からなる群から選択される1種以上の金属材料が挙げられる。これらの金属材料は薄板や金属箔等の形態で用いてもよい。また、上記金属材料以外で構成される基材表面にスパッタリング、電着、塗布等の方法により上記金属材料を形成したものを金属性基材として用いてもよい。
【0050】
樹脂性基材を構成する導電材料としては、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電材料は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電材料としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0051】
導電材料の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電材料の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0052】
導電材料の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0053】
導電材料は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電材料が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0054】
樹脂性基材を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0055】
樹脂性基材は、例えば以下の方法で製造することができる。
前記樹脂、前記導電材料、及び、必要に応じてその他の成分を混合することにより、樹脂性基材用材料を得る。
混合の方法としては、導電材料のマスターバッチを得てからさらに樹脂と混合する方法、樹脂、導電材料、及び、必要に応じてその他の成分のマスターバッチを用いる方法、及び、全ての原料を一括して混合する方法等があり、その混合にはペレット状又は粉体状の成分を適切な公知の混合機、例えばニーダー、インターナルミキサー、バンバリーミキサー及びロール等を用いることができる。
【0056】
混合時の各成分の添加順序には特に限定はない。得られた混合物は、さらにペレタイザーなどによりペレット化又は粉末化してもよい。
【0057】
得られた樹脂性基材用材料を例えばフィルム状に成形することにより、前記樹脂性基材が得られる。フィルム状に成形する方法としては、Tダイ法、インフレーション法及びカレンダー法等の公知のフィルム成形法が挙げられる。
【0058】
導電性組成物層を構成する前記高分子化合物としては、上述の被覆電極活物質を被覆する被覆層に含まれる高分子化合物と同様のものが挙げられる。
集電体の、前記導電性基材の表面であって電極組成物層と接する面が有する導電性組成物層と、電極組成物層が有する被覆電極活物質の被覆層とが、同じ組成の高分子化合物を含むことで、集電体と電極組成物層との親和性及び密着性が増す。
【0059】
前記導電性組成物層が有する導電性フィラーとしては、上述の被覆電極活物質を被覆する被覆層に含まれる導電助剤と同様のものが挙げられる。後述する前記高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層の表面粗さを調整する観点から、前記導電性フィラーはその形状が繊維状である導電性繊維を含むことが好ましい。
前記導電性組成物層が有する導電性フィラーの重量割合は、前記高分子化合物及び導電性フィラーとを含む導電性組成物層の重量を基準として10~50重量%であることが好ましい。
【0060】
本発明のリチウムイオン電池が有する集電体の前記高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層の表面粗さRaは0.1~5μmであることが好ましく、2~5μmであることがより好ましい。前記導電性組成物層の表面粗さRaが前記範囲であると、アンカー効果により集電体と電極組成物層との密着性が良化する。
表面粗さRaとしては、約50mm×50mmの大きさの試験片を切り出し、その表面を、キーエンス製超深度形状測定顕微鏡「VK8500」を用い、レンズ100倍、ピッチ0.01μm、シャッタースピードAUTO、ゲイン835の測定条件にて40μm×40μmのエリアの表面粗さRaを4点測定し、その平均値を用いる。
【0061】
前記高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層の表面粗さRaを調整する方法は特に制限されないが、例えば、前記導電性フィラーの一部を導電性組成物層表面に露出させる方法、導電性組成物層表面をエンボス処理する方法、導電性組成物層表面をサンドブラスト処理する方法等が挙げられる。これらのうち、集電体の電気特性の観点から、前記導電性フィラーの一部を導電性組成物層表面に露出させる方法が好ましい。
【0062】
本発明のリチウムイオン電池が有する集電体の前記高分子化合物及び導電性フィラーを含む導電性組成物層の膜厚は5~20μmであることが好ましい。前記導電性組成物層の膜厚が前記範囲であると集電体の電気特性が良化する。
前記導電性組成物層の膜厚は、後述する導電性組成物スラリーを導電性基材にアプリケーターで塗工する際の導電性組成物スラリー量及びアプリケーターのギャップで調整することができる。
【0063】
本発明のリチウムイオン電池が有する集電体は、例えば以下の方法で製造することができる。
前述の通り高分子化合物を製造し、得られた前記高分子化合物の溶液と前記導電性フィラーを混合して導電性組成物スラリーを作成する。得られた導電性組成物スラリーを前記導電性基材の電極組成物層と接する面にアプリケーターを用いて塗工し、60~80℃で3時間以上真空乾燥させて脱溶剤することで、導電性組成物層を作製することができる。
【0064】
本発明のリチウムイオン電池は、例えば、以下に示す方法で得られる。
本発明の集電体と前記被覆電極活物質粒子を含む電極組成物層とを組み合わせて電極を作製する。得られた電極と対極となる電極とを組み合わせて、セパレータと共にセル容器に収容し、非水電解液を注入し、セル容器を密封する方法等により製造することができる。
また、正極集電体の一方の面だけに正極活物質層を形成した本発明のリチウムイオン電池用正極の、正極集電体の他方の面に負極活物質からなる負極活物質層を形成して双極型電極を作製し、双極型電極をセパレータと積層してセル容器に収容し、非水電解液を注入し、セル容器を密閉することでも得られる。この場合、集電体の両面に前記高分子化合物及び前記導電性フィラーを含む導電性組成物層を有することになる。
【0065】
前記セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の微多孔フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【0066】
前記非水電解液は、電解質及び非水溶媒を含有する。
電解質としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、好ましいものとしては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6及びLiClO4等の無機酸のリチウム塩系電解質、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2及びLiN(C2F5SO2)2等のフッ素原子を有するスルホニルイミド系電解質、LiC(CF3SO2)3等のフッ素原子を有するスルホニルメチド系電解質等が挙げられる。これらの内、高濃度時のイオン伝導性及び熱分解温度の観点から好ましいのはフッ素原子を有するスルホニルイミド系電解質であり、LiN(FSO2)2がより好ましい。LiN(FSO2)2は、他の電解質と併用してもよいが、単独で使用することがより好ましい。
【0067】
非水電解液の電解質濃度は、特に限定されないが、非水電解液の取り扱い性及び電池容量等の観点から1~5mol/Lであることが好ましく、1.5~4mol/Lであることがより好ましく、2~3mol/Lであることがさらに好ましい。
【0068】
非水溶媒としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0069】
上記のリチウムイオン電池用電極の対極となる電極には、公知のリチウムイオン電池に用いられる電極を用いてもよい。
【実施例】
【0070】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0071】
<製造例1:高分子化合物H1の作製>
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口コルベンに、酢酸ビニル5.0部、2-エチルヘキシルアクリレート23.7部及び酢酸エチル185.5部を仕込み75℃に昇温した。酢酸ビニル11.1部、2-エチルヘキシルアクリレート21.0部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート28.1部、アクリル酸11.1部及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.200部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.200部を混合した。得られた単量体混合液をコルベン内に窒素を吹き込みながら、滴下ロートで4時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.800部を酢酸エチル12.4部に溶解した溶液を滴下ロートを用いて、重合を開始してから6~8時間目にかけて連続的に追加した。さらに、沸点で重合を2時間継続し、酢酸エチルを702.4部加えて樹脂濃度10重量%の高分子化合物H1の溶液を得た。高分子化合物H1の重量平均分子量(以下、Mwと略記する)は420,000であった。
Mwは、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により求めた。
装置:「HLC-8120GPC」[東ソー(株)製]
カラム:「TSKgel GMHXL」(2本)、「TSKgel Multipore HXL-Mを各1本連結したもの」[いずれも東ソー(株)製]
試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:10μL
流量:0.6mL/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン[東ソー(株)製]
【0072】
以下の実施例等で使用した材料は以下の通りである。
高分子化合物
高分子化合物H2:ポリフッ化ビニリデン[商品名「ソレフ6010」、SOLVAY社製]
高分子化合物H3:ウレタン樹脂[商品名「サンプレンLQ582」、三洋化成工業(株)製]
導電性フィラー
AB:アセチレンブラック[商品名「デンカブラック」、デンカ(株)製]
FB:ファーネスブラック[商品名「#3030」、三菱ケミカル(株)製]
KB:ケッチェンブラック[商品名「EC300J」、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製]
黒鉛:黒鉛粒子[商品名「SNG-WXA1」、JFEケミカル(株)製]
CNT:カーボンナノチューブ[商品名「K-Nanos100P」、Kumho社製]
CNF:カーボンナノファイバー[商品名「VGCF-H」、昭和電工(株)製]
【0073】
<製造例2:導電性組成物スラリーの作製>
高分子化合物を固形分量として1重量部、導電性フィラー4重量部、有機溶媒95重量部になるように各材料を混合して導電性組成物スラリー1~9を得た。高分子化合物及び導電性フィラーの組合せは表1の記載の通りである。有機溶媒には、高分子化合物がH1の場合には酢酸エチルを、H2の場合にはN-メチル-2-ピロリドンを、H3の場合にはN,N-ジメチルホルムアミドを使用した。
【0074】
<製造例3:樹脂性基材の作製>
2軸押出機にて、樹脂[商品名「サンアロマーPC684S」、サンアロマー(株)製]77部、導電性フィラー[商品名「#3030」、三菱ケミカル株式会社製]10部、導電性フィラー[商品名「K-Nanos100P」、Kumho社製]8部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001(酸変性ポリプロピレン)」、三洋化成工業(株)製]5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物をTダイから押し出し、50℃に温調した冷却ロールで圧延することで、樹脂性基材を得た。得られた樹脂性基材の膜厚は50μmであった。
【0075】
<実施例1>
導電性組成物スラリー1を、樹脂性基材表面にアプリケーターを用いてギャップ150μmで塗工し、70℃で7時間真空乾燥して脱溶剤させて、樹脂性基材表面に導電性組成物層が形成された集電体を作製した。
【0076】
<実施例2~8、比較例1~3>
実施例1の導電性スラリー1を、表1の記載に従って導電性スラリー2~9に変更した以外は実施例1と同様にして集電体を作製した。
比較例1については、導電性スラリー1を高分子化合物H1の1重量%酢酸エチル溶液に変更した以外は実施例1と同様にして集電体を作製した。
比較例2については、導電性組成物層を形成せず、樹脂性基材をそのまま集電体とした。
形成された導電性組成物層の膜厚は膜厚計[ミツトヨ製]を用いて測定し、結果を表1に記載した。
【0077】
<貫通抵抗値の測定>
樹脂集電体をΦ15mmに打ち抜き、電気抵抗測定器[IMC-0240型、井元製作所(株)製]及び抵抗計[RM3548、HIOKI製]を用いて各樹脂集電体の貫通抵抗値を測定した。
電気抵抗測定器に2.16kgの荷重をかけた状態での樹脂集電体の抵抗値を測定し、2.16kgの荷重をかけてから60秒後の値をその樹脂集電体の抵抗値とした。下記の式に示すように、抵抗測定時の冶具の接触表面の面積(1.77cm2)をかけた値を貫通抵抗値(Ω・cm2)として結果を表1に記載した。
貫通抵抗値(Ω・cm2)=抵抗値(Ω)×1.77(cm2)
【0078】
<導電性組成物層の表面粗さの測定>
得られた集電体から約50mm×50mmの大きさの試験片を切り出し、その表面(導電性組成物層を上側)を、キーエンス製超深度形状測定顕微鏡「VK8500」を用い、レンズ100倍、ピッチ0.01μm、シャッタースピードAUTO、ゲイン835の測定条件にて40μm×40μmのエリアの表面粗さRaを4点測定し、その平均値を表面粗さの測定値として結果を表1に記載した。
【0079】
<製造例4:電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率でEC:PC=1:1)にLiN(FSO2)2(LiFSI)を2mol/Lの割合で溶解させ、リチウムイオン電池用電解液を調製した。
【0080】
<製造例5:正極組成物層1の作製>
万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]を用いて、炭素繊維[大阪ガスケミカル(株)製 ドナカーボ・ミルド S-243]20部と製造例1で得た高分子化合物H1の溶液300部とアセチレンブラック[デンカ(株)製デンカブラック]57部とLiNi0.8Co0.15Al0.05O2[(株)BASF戸田バッテリーマテリアルズ製HED NCA-7050、体積平均粒子径10μm]875部を室温、720rpmの条件で15分撹拌した。撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を80℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた混合物を300μmの金属メッシュを取り付けたハンマークラッシャーNH-34S[(株)三庄インダストリー製]で粉砕し造粒を行い混合造粒物を得た。得られた混合造粒物98.2部と製造例4で作製した電解液1.8部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}に入れ、2000rpmで5分間混合して、正極組成物の合計重量に基づく上記電解液の重量割合が1.8重量%である正極組成物を作製した。得られた正極組成物を指で押すと、正極組成物に含まれる正極活物質粒子の一部が、塊状に接着して合一化し、かつ、弱い力で分離することができる状態であった。
得られた正極組成物をロールプレス機にセットされた粉体投入口に入れ、以下の条件で正極組成物の成形を行った。
ロールプレス機から排出された正極組成物層1は、ガラス板の上に載せて移動しても形状が壊れない程度にしっかり固められており、厚さは均一で350μmであり、平滑な表面を有していた。なお、正極活物質層の厚さは、マイクロメータにより測定した。
ロールプレス機の条件は以下の通りである。
ロールサイズ:250mmφ×400mm
ロール回転速度:1m/分
ロールの間隔(ギャップ):350μm
圧力:10kN(線圧:25kN/m)
【0081】
<製造例6:正極組成物層2の作製>
製造例5に記載の高分子化合物H1の溶液を高分子化合物H2と同じポリフッ化ビニリデンの樹脂濃度10重量%のN-メチル-2-ピロリドン溶液に変更した以外は製造例5と同様にして正極組成物層2を得た。
【0082】
<密着性評価>
実施例1~8、比較例1~3で得られた集電体の導電性組成物層が形成されている面に前記正極組成物層を載せて、プレス機[井元製作所製手動加熱プレス]を用いて常温、2MPaでプレスした。プレス後の集電体/正極組成物層を垂直にした時に、集電体と正極組成物層に位置のずれが生じなかった場合は○、位置のずれが生じた場合は×を表1に記載した。
【0083】
<リチウムイオン電池の作製>
実施例1~8、比較例1~3で得られた集電体の導電性組成物層が形成されている面に正極組成物層1又は2を、表1に記載の通り組み合わせて正極を作製した。
前記正極にセパレータ(セルガード社製、#3501、厚さ25μm)、対極としてLi金属、負極集電体として銅箔を順に配置し、発電要素を形成した。そして、正極集電体及び負極集電体にそれぞれタブを接続し、アルミラミネートフィルム製の外装体で発電要素を挟んだ。そして外装体の3辺を熱圧着封止して発電要素を収納した。この発電要素に電解液を追加で注入し、真空下において、タブが導出するように外装体を封止することで、リチウムイオン電池を得た。
【0084】
<電池作製の効率評価>
実施例1~8、比較例1~3で得られた集電体を用いて、前述の通りにリチウムイオン電池の作製をそれぞれ10回行った。実施例1~8で得られた集電体を用いた場合、電池の作製中に正極集電体と正極組成物層がずれることはなく10回すべて問題なく電池を作製することができた。一方、比較例2又は3で得られた集電体を用いた場合には、10回中3回は正極集電体と正極組成物層の位置がずれて電池の作製がスムーズに行えなかった。
比較例1で得られた集電体は貫通抵抗値が高くなっていた。
【0085】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用に用いられる双極型二次電池用及びリチウムイオン二次電池用等に有用である。