(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】低炭素高純度多結晶シリコン塊とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20230519BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C01B33/02 E
C30B29/06 D
(21)【出願番号】P 2019064010
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】523119425
【氏名又は名称】高純度シリコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和之
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170122(JP,A)
【文献】特開2017-057119(JP,A)
【文献】特開2016-056066(JP,A)
【文献】特開2018-095548(JP,A)
【文献】藤本武利 他,クリーンルーム空気中およびウエハ表面上の有機汚染物の分析,Journal of aerosol research,2000年,Vol.15, No.1,p.43-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体原料用の高純度多結晶シリコン塊であって、TD-GC/MS分析法よって検出される表面付着物の50面積%以上がシロキサン化合物であり、該表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率が60%以下であって、燃焼法によって測定される炭素含有量が0.02massppm以下であることを特徴とする低炭素高純度多結晶シリコン塊。
【請求項2】
上記シロキサン化合物がジメチルシロキサンまたはメチルフェニルシロキサンである請求項1に記載する低炭素高純度多結晶シリコン塊。
【請求項3】
高純度多結晶シリコン塊を、シロキサン化合物の金属含有量が合計1massppb以下の高純度シリコーン樹脂の環境下、シロキサン濃度10ng/m
3以上の雰囲気下に置き、TD-GC/MS分析法よって検出される表面付着物の50面積%以上がシロキサン化合物になるようにし、該表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率が60%以下であって、燃焼法によって測定される炭素含有量が0.02massppm以下の低炭素高純度多結晶シリコン塊にすることを特徴とする低炭素高純度多結晶シリコン塊の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の基板材料として用いられる単結晶シリコンの原料になる多結晶シリコン塊について、その表面の炭素濃度を低減した低炭素高純度多結晶シリコン塊とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体に基板材料として用いられる単結晶シリコンは、高純度の多結晶シリコンを石英ルツボで溶融し、このシリコン融液に種結晶に接触させて引き上げながら成長させるチョクラルスキー法によって一般に製造されている。単結晶シリコンは半導体技術を支える基礎的な材料であり、半導体技術のレベル向上に従って常に品質向上が求められており、その原料となる多結晶シリコンについても同様に高純度化が要求されている。
【0003】
多結晶シリコンは、反応炉内に設置したシリコン芯棒に通電して赤熱させ、この炉内に原料のトリクロロシランと水素の混合ガスを供給して、還元または熱分解によってシリコン芯棒表面にシリコンを析出させ、棒状に成長させるシーメンス法によって一般に製造されている。製造された高純度シリコンロッドは取り扱い易い大きさ(最大辺約5mm~約100mm)に破砕して多結晶シリコン塊にし、これを表面洗浄して用いている。
【0004】
近年、多結晶シリコンの炭素濃度低減が強く求められるようになり、例えば、多結晶シリコン塊の表面炭素濃度について、0.02ppma(1E15 atoms/cm3)以下の極めて低濃度の品質が要求されるようになってきた。このレベルの品質では、表面に吸着する有機物による汚染が問題となる。
【0005】
そこで、多結晶シリコン塊を不活性ガス中で加熱することによって、表面に吸着した有機物を気化除去する方法が提案されている。例えば、特許文献1(特開2016-56066号公報)には180~300℃に加熱して有機物を除去することが開示されており、特許文献2(特開2013-170122号公報)には350~600℃に加熱して有機物を除去する方法が開示されている。また、特許文献3(特開2018-90427号公報)には、多結晶シリコン塊の周囲の樹脂から生じるアウトガスによる汚染を避けるために、アウトガス量の少ない樹脂を用い、また乾燥温度を50℃以下に下げることが有効であると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-56066号公報
【文献】特開2013-170122号公報
【文献】特開2018-90427号公報
【文献】真空、第41巻 第12号(1998)「クリーンルームの有機物汚染とその低減策」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多結晶シリコン塊を不活性ガス中で加熱して有機物を除去する従来の上記技術(特許文献1、特許文献2)では、加熱除去の直後は一時的にシリコン塊表面の付着炭素量は低減されるものの、加熱処理後の取扱いや搬送等による容器との接触、さらには輸送用の梱包袋への梱包等で有機物が再付着するため根本的な解決にはならない。また、アウトガス量の少ない樹脂を用いる方法(特許文献3)は、アウトガス量が少なくても炭素量の多いガスが含まれていると、付着炭素量を有効に低減することはできない。
【0008】
本発明は、従来技術の上記問題を解決したものであり、シリコン塊表面の有機物をできるだけ除去する従来技術とは異なり、むしろシリコン塊表面に炭素含有量の少ない有機物を吸着させることによって、炭素含有量の多い有機物の表面付着を妨げ、結果的にシリコン塊表面の付着炭素量を低減したものである。
本発明によれば、TD-GC/MS分析法によって検出される表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率を60%以下にし、燃焼法によって測定される炭素含有量を0.02massppm以下に低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成によって従来の上記課題を解消した、低炭素高純度多結晶シリコン塊とその製造方法である。
〔1〕半導体原料用の高純度多結晶シリコン塊であって、TD-GC/MS分析法よって検出される表面付着物の50面積%以上がシロキサン化合物であり、該表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率が60%以下であって、燃焼法によって測定される炭素含有量が0.02massppm以下であることを特徴とする低炭素高純度多結晶シリコン塊。
〔2〕上記シロキサン化合物がジメチルシロキサンまたはメチルフェニルシロキサンである請求項1に記載する低炭素高純度多結晶シリコン塊。
〔3〕高純度多結晶シリコン塊を、シロキサン化合物の金属含有量が合計1massppb以下の高純度シリコーン樹脂の環境下、シロキサン濃度10ng/m3以上の雰囲気下に置き、TD-GC/MS分析法よって検出される表面付着物の50面積%以上がシロキサン化合物になるようにし、該表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率が60%以下であって、燃焼法によって測定される炭素含有量が0.02massppm以下の低炭素高純度多結晶シリコン塊にすることを特徴とする低炭素高純度多結晶シリコン塊の製造方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
本発明の高純度多結晶シリコン塊は、半導体原料用の高純度多結晶シリコン塊であって、TD-GC/MS分析法よって検出される表面付着物の50面積%以上がシロキサン化合物であり、該表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率が60%以下であって、燃焼法によって測定される炭素含有量が0.02massppm以下であることを特徴とする低炭素高純度多結晶シリコン塊である。
また、本発明の製造方法は、高純度多結晶シリコン塊を、シロキサン化合物の金属含有量が合計1massppb以下の高純度シリコーン樹脂の環境下、シロキサン濃度10ng/m3以上の雰囲気下に置き、TD-GC/MS分析法よって検出される表面付着物の50面積%以上がシロキサン化合物になるようにし、該表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率が60%以下であって、燃焼法によって測定される炭素含有量が0.02massppm以下の低炭素高純度多結晶シリコン塊にすることを特徴とする低炭素高純度多結晶シリコン塊の製造方法である。
【0011】
本発明の高純度多結晶シリコン塊は半導体原料用の高純度多結晶シリコン塊である。反応炉内に設置したシリコン芯棒に通電して赤熱させ、この炉内に原料のトリクロロシランと水素の混合ガスを供給して、還元または熱分解によってシリコン芯棒表面にシリコンを析出させて棒状に成長させるシーメンス法によって製造される。製造された多結晶シリコン棒は取り扱い易い大きさ(最大辺約5mm~約100mm)に破砕した多結晶シリコン塊として使用される。
【0012】
上記多結晶シリコン塊は、例えば、フッ硝酸でエッチング洗浄し、純水でリンスした後に乾燥される。従来は純水リンスした多結晶シリコン塊をポリエチレン容器に収納して減圧乾燥しており、乾燥後の多結晶シリコン塊の表面炭素量は、通常、0.1massppm前後である。
【0013】
本発明の高純度多結晶シリコン塊は、例えば、フッ硝酸でエッチング洗浄し、純水でリンスした高純度多結晶シリコン塊を、雰囲気中のシロキサン濃度10ng/m3以上の高純度シリコーン樹脂の環境下に置くことによって、TD-GC/MS分析法によって検出される表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率を60%以下にし、または燃焼法によって測定される炭素含有量を0.02massppm以下に低減したものである。
【0014】
TD-GC/MS分析法(熱脱着ガスクロマトグラフィー質量分析法)は、SEMI規格(SEMI MF1982-0714)に示されている分析法であり、試料を400℃まで加熱して発生したガスを捕捉してGC-MS法にて分析し、GC(ガスクロマトグラフィー)のピーク面積を標準物質の有機物(C16アルカン、C20アルカン等)で換算して、表面炭素の試料に対する重量比率を求める方法である。
【0015】
燃焼法による表面炭素濃度測定方法は、試料を1000℃に加熱して燃焼させ、この燃焼により発生するCOおよびCO2について、IR(Infrared spectroscopic analysis)測定を行って、試料に含まれる炭素濃度を試料に対する重量比率で分析する方法である。
【0016】
洗浄乾燥した高純度多結晶シリコン塊について、汚染源を特定して除去することだけでは、その汚染成分は減少するものの、他の汚染成分が増加してしまい、結局は汚染をほとんど低減できない。これは、「椅子取りゲーム」論(非特許文献1)で説明されているように、多結晶シリコン塊の表面が有機物の吸着ポイントとして極めて活性が高いため、付着している有機物汚染源を除去しても、その部分に他の有機物汚染が吸着することによると考えられる。
【0017】
そこで、本発明では、有機物汚染源を洗浄除去した後に、炭素の含有比率ができるだけ小さい物質を吸着させることによって、炭素含有比率が高い物質の吸着を阻止して表面炭素濃度を低減した。
【0018】
クリーンルーム雰囲気や多結晶シリコン表面から検出された成分を中心に、各分子の炭素含有比率を調べると、アルカンの基本構成単位であるメチレン基(CH2)の場合、炭素含有比率は85%以上であり、二重結合が多いとさらに炭素含有比率が高くなる。一方、酸素や窒素を含むと、炭素含有比率は低くなり、60%以下のものもあるが、C-C結合を骨格とする有機化合物のうち、上記高純度多結晶シリコン塊から検出される成分では50%未満のものは見当たらない。
【0019】
一方、Si-O-Si結合を骨格とするシロキサン化合物の炭素含有比率は30%程度であって炭素含有比率が格段に低いので、他の有機化合物と比較したときに、炭素汚染として付着炭素量が半分程度まで抑制されることが知見された。上記高純度多結晶シリコン塊表面の有機物をシロキサン化合物に置き換えることによって、TD-GC/MS分析法によって検出される表面付着物について、分子量あたりの炭素重量を平均して60%以下にし、またはシリコン塊の燃焼法で得られる表面炭素濃度を0.02massppm以下にすることができる。シロキサン化合物は、例えば、ジメチルシロキサン〔(SiOC2H6)n〕、メチルフェニルシロキサン〔(SiOCH3(C6H5))n〕などである。
【0020】
TD-GC/MS分析法によって検出される表面付着物の分子量あたりの炭素重量比率が平均して60%を超えると、シリコン塊の燃焼法で得られる表面炭素濃度が0.02massppmを超えることがあるので、上記炭素重量比率を平均60%以下にしてシリコン塊の燃焼法で得られる表面炭素濃度を0.02massppm以下にすることが好ましい。
【0021】
また、TD-GC/MS分析法によって検出される上記多結晶シリコン塊の表面付着物の50面積%以上がシロキサン化合物であれば、TD-GC/MS分析法によって検出される表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率が60%以下になり、また燃焼法で得られる表面炭素濃度が0.02massppm以下になる。
【0022】
シロキサン化合物は主にシリコーン樹脂から放出される。シリコンウエーハプロセスにおいて、シロキサン化合物が付着することは電気接点障害や密着不良現象などのトラブルの原因と考えられており、シリコーン樹脂はシロキサン系揮発成分の発生源として、シリコンウエーハを扱う際には、通常は忌避されるものである。
【0023】
本発明は、このように従来技術からは逆行する着想に基づき、シロキサン化合物を利用して多結晶シリコン塊表面の付着炭素量を低減する。シロキサン化合物を吸着させる方法としては、高純度多結晶シリコン塊を洗浄した後の乾燥、包装工程等において、シロキサン発生源となるシリコーン樹脂の環境下に、多結晶シリコン塊を置くことによって、容易にシロキサン吸着環境が形成される。
【0024】
高純度多結晶シリコン塊の表面に、目的量のシロキサン化合物を吸着させるには、該シリコン塊を洗浄した後に、シリコーン樹脂の環境下において、シロキサン成分が10ng/m3以上含まれる雰囲気下に置くことによって吸着させることができる。
【0025】
シリコーン雰囲気を作り出すシロキサン樹脂は金属汚染されていないものが用いられる。シロキサン樹脂が金属で汚染されていると、シリコン塊表面の炭素汚染を抑制しても、金属汚染を生じる懸念がある。そこで、シロキサン系樹脂の金属含有量は、表面を1wt%の硝酸で抽出した試料について、ICP-MS法にて分析したときの金属成分が合計1massppb以下であることが好ましい。金属成分としては、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Zn,Mg,Al,Ca,Ti,Cr,Mn,Co,K,W,Li,V,Mo,Ag,Cd,Sn,Sb,Pb,Ba,Srである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の高純度多結晶シリコン塊は、半導体材料用の一般的な純度を有し、かつTD-GC/MS分析法によって検出される表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率が60%以下であり、燃焼法によって測定される炭素含有量が0.02massppm以下であるので、最近求められている極めて高純度の単結晶シリコン用のシリコン材料として好適である。
【0027】
また、本発明の製造方法によれば、半導体原料用の高純度多結晶シリコン塊について、TD-GC/MS分析法によって検出される表面付着物の分子量あたりの平均炭素重量比率が60%以下であり、燃焼法によって測定される炭素含有量が0.02massppm以下である高純度多結晶シリコン塊を容易に得ることができる。
【0028】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔実施例〕
多結晶シリコン塊(最大辺長10mm~30mm)をフッ硝酸でエッチング洗浄した後に、純水でリンス洗浄し、これを高純度シリコーン樹脂製(樹脂中の合計金属成分量1massppb以下)のシート上に置いて、減圧乾燥した。この時の雰囲気中のシロキサン濃度は10ng/m3以上である。
(イ)乾燥直後の試料、(ロ)乾燥後にクラス1000クリーンルーム(ケミカルフィルターは設置せず、TOC測定で300ng/m3程度の有機物が検出される環境)室内に1日放置した試料について、TD-GC/MS分析法によって検出される付着炭素量、および燃焼法によって測定される炭素含有量をおのおの測定した。この結果を表1に示す。
【0029】
〔比較例〕
多結晶シリコン塊(最大辺長10mm~30mm)をフッ硝酸でエッチング洗浄した後に、純水でリンス洗浄し、これをポリエチレン容器に収納し、減圧乾燥した。これを実施例と同様の上記(イ)(ロ)の環境下に置いた試料について、TD-GC/MS分析法によって検出される付着炭素量、および燃焼法によって測定される炭素含有量をおのおの測定した。この結果を表1に示す。
【0030】