(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】薬剤パッド
(51)【国際特許分類】
E04B 1/72 20060101AFI20230519BHJP
【FI】
E04B1/72
(21)【出願番号】P 2019073894
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000133445
【氏名又は名称】株式会社ダスキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100118625
【氏名又は名称】大畠 康
(72)【発明者】
【氏名】林 義孝
(72)【発明者】
【氏名】三宅 稔
(72)【発明者】
【氏名】原田 曜男
(72)【発明者】
【氏名】田中 豊一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山中 大
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-320034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床板裏面に取り付けられる断熱部材と床下の建築木部との間の隙間に施工された状態で薬剤成分を放出するための、薬剤パッドであって、
前記断熱部材の側端面と前記建築木部との間に挟み込まれる、被挟持部と、
床板裏面に取り付けられた前記断熱部材の側部に下方から当接する、当接部と、
を有しており、
前記被挟持部及び前記当接部は、挟み込まれた際に前記断熱部材側に位置する第1板状部材と、挟み込まれた際に前記建築木部側に位置する第2板状部材とが、重ね合わされて構成されており、
前記第1板状部材は、耐水性を有しており、
前記第2板状部材は、薬剤成分を吸収して保持し、保持した薬剤成分を放出する、機能を、有して
おり、
前記当接部及び前記被挟持部を、前記建築木部に対して支持する、支持部を、更に、有しており、
前記支持部は、前記断熱部材に当接した前記当接部を下方から覆って前記建築木部に固定される、第3板状部材からなっており、
前記第3板状部材は、薬剤成分を吸収して伝達する機能を、有している、
ことを特徴とする、薬剤パッド。
【請求項2】
前記第2板状部材は、形態保持性を有している、
請求項
1記載の薬剤パッド。
【請求項3】
前記形態保持性は、剛性構造を持たせることによって、又は、弾性を有する柔軟性を持たせることによって、実現されている、
請求項
2記載の薬剤パッド。
【請求項4】
前記第2板状部材は、紙類、木綿、麻、絹、羊毛、セルロース系樹脂、キュプラ、レーヨン、アセテート、ナイロン、ビニロン、又はポリエステルで構成されている、
請求項1~
3のいずれか一つに記載の薬剤パッド。
【請求項5】
前記第1板状部材は、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、又は塩化ビニリデンで構成されている、
請求項1~
4のいずれか一つに記載の薬剤パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床板裏面に取り付けられる断熱部材と床下の建築木部との間の隙間に施工された状態で薬剤成分を放出するための、薬剤パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
冬場において床下の冷気を遮断する目的で、及び、夏場において室内の冷気を床下に逃がさない目的で、
図8に示されるように、床板1の裏面に断熱部材2を取り付けることが、従来から行われている。ところが、シロアリのような害虫は、床下のような暗く湿った環境を好むので、そのような害虫が、断熱部材2と床下の建築木部3との間の隙間41や断熱部材2と床板1の裏面との間の隙間42に、侵入して、床板1や建築木部3を侵食する、という問題があった。このような問題を解消するために、従来では、5年毎に断熱部材2を取り外して害虫駆除剤を散布する、ということを行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-040710号公報
【文献】特開2003-261994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、5年毎に断熱部材を取り外して害虫駆除剤を散布するのは、面倒である。
【0005】
本発明は、断熱部材周辺の隙間において薬剤成分を放出して、隙間に面する床板又は建築木部に薬剤成分を染み込ませることができ、その結果、害虫駆除処理又は防腐処理のための定期的な断熱部材の取り外し作業を不要にできる、薬剤パッドを、提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、床板裏面に取り付けられる断熱部材と床下の建築木部との間の隙間に施工された状態で薬剤成分を放出するための、薬剤パッドであって、
前記断熱部材の側端面と前記建築木部との間に挟み込まれる、被挟持部と、
床板裏面に取り付けられた前記断熱部材の側部に下方から当接する、当接部と、
を有しており、
前記被挟持部及び前記当接部は、挟み込まれた際に前記断熱部材側に位置する第1板状部材と、挟み込まれた際に前記建築木部側に位置する第2板状部材とが、重ね合わされて構成されており、
前記第1板状部材は、耐水性を有しており、
前記第2板状部材は、薬剤成分を吸収して保持し、保持した薬剤成分を放出する、機能を、有している、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の薬剤パッドによれば、次のような効果を発揮できる。
(1)断熱部材と建築木部との間の隙間において、第2板状部材に保持している薬剤成分を、第2板状部材から放出でき、断熱部材と建築木部との間の隙間及び断熱部材と床板裏面との間の隙間に行き渡らせることができ、隙間に面する床板又は建築木部に薬剤成分を染み込ませることができる。したがって、薬剤成分としてシロアリなどの害虫駆除成分を用いた場合には、害虫が床板及び建築木部に侵入するのを防止でき、害虫による床板及び建築木部の侵食を防止できる。或いは、薬剤成分として防腐成分を用いた場合には、床板及び建築木部が腐蝕するのを防止できる。
【0008】
(2)薬剤パッドが配設された状態のまま、第2板状部材に、薬剤成分を吸収させることによって補充できる。したがって、薬剤パッドを取り外すことなく、すなわち、断熱部材を取り外すことなく、薬剤成分を第2板状部材に補充して薬剤成分の放出を継続できるので、害虫駆除処理又は防腐処理のための定期的な断熱部材の取り外し作業を不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態の薬剤パッドを示す斜視図である。
【
図2】薬剤パッドが配設された状態を示す断面図である。
【
図3】第2板状部材の剛性構造の一例を示す図である。
【
図4】薬剤パッドの配設作業の様子を示す断面図である。
【
図6】薬剤パッドが配設された別の例の状態を示す断面図である。
【
図7】本発明の別の実施形態の薬剤パッドが配設された状態を示す断面図である。
【
図8】床下における断熱部材の取付状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態]
図1は、本発明の一実施形態の薬剤パッドを示す斜視図である。この薬剤パッド5は、
図2に示されるように、床板1の裏面に取り付けられる断熱部材2と床下の建築木部3との間の隙間41に挟まれるように、配設されるものである。薬剤パッド5は、断熱部材2の全周における隙間41の全てに渡って配設される、長尺体である。
【0011】
なお、断熱部材2としては、繊維系断熱材又は発泡プラスチック系断熱材のいずれも使用できる。繊維系断熱材としては、グラスウール、セルロースファイバー、ロックウール、インシュレーションボード等がある。発泡プラスチック系断熱材としては、ビーズ法ポリスチレンフォーム、押出法ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、高発泡ポリエチレンフォーム、フェノールフォーム等がある。また、建築木部3は、大引き又は根太を含む。
図2における建築木部3は、根太である。
【0012】
薬剤パッド5は、断熱部材2の側端面21と建築木部3との間に挟み込まれる、被挟持部51と、床板1の裏面に取り付けられた断熱部材2の側部20に、下方から当接する、当接部52と、を備えており、更に、当接部52及び被挟持部51を、建築木部3に対して支持する、支持部53も、備えている。
【0013】
被挟持部51及び当接部52は、第1板状部材56と第2板状部材57とが、重ね合わされて構成されている。第1板状部材56は、耐水性を有しており、隙間41に挟み込まれた際に断熱部材2側に位置するようになっている。第2板状部材57は、薬剤成分を吸収して保持し、保持した薬剤成分を放出する、機能を、有しており、隙間41に挟み込まれた際に建築木部3側に位置するようになっている。
【0014】
支持部53は、断熱部材2の側部20に下方から当接した当接部52を、下方から覆った状態で、建築木部3に固定される、第3板状部材58からなっている。第3板状部材58は、薬剤成分を吸収して伝達する機能を、有している。
【0015】
第2板状部材57は、隙間41において挟持された際に潰れてしまわないような形態保持性を、有している。潰れてしまうと、吸水性能、保持性能、及び放出性能が、低下するからである。形態保持性は、第2板状部材57に、剛性構造を持たせることによって、実現できる。剛性構造としては、
図3に示されるような格子状の補強フレーム6を含む構造を採用でき、又は、波状構造又はハニカム構造等を採用できる。或いは、形態保持性は、第2板状部材57に、弾性を有する柔軟性を持たせることによって実現してもよい。
【0016】
具体的には、第1板状部材56は、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、又は塩化ビニリデンで構成され、第2板状部材57は、紙類、木綿、麻、絹、羊毛、セルロース系樹脂、キュプラ、レーヨン、アセテート、ナイロン、ビニロン、又はポリエステルで構成され、第3板状部材58も、紙類、木綿、麻、絹、羊毛、セルロース系樹脂、キュプラ、レーヨン、アセテート、ナイロン、ビニロン、又はポリエステルで構成される。なお、第1板状部材56は、第2板状部材57の表面に、上述のいずれかの材料をコーティングして作製してもよい。
【0017】
なお、第2板状部材57又は第3板状部材58は、ポリエチレンテレフタレートを用いて構成してもよい。その場合には、ポリエチレンテレフタレートを用いて吸水性を発揮する構成を実現する必要があるが、例えば、毛細管作用を発揮するような構成を採用できる。
【0018】
上記構成の薬剤パッド5の配設は、例えば、次のように行う。
図4に示されるように、まず、薬剤パッド5の第1板状部材56及び第2板状部材57を、側端面21に沿わせ、その状態で、断熱部材2と共に床板1の裏面に取り付けていく。これにより、
図5に示されるように、第1板状部材56及び第2板状部材57が隙間41において挟持される。なお、第3板状部材58は、部分Aにおいて接着剤によって第2板状部材57に接合されている。次に、隙間41から下方に露出している第1板状部材56及び第2板状部材57の部分Bを、断熱部材2側に、すなわち、矢印Rに示されるように、折り曲げて、接着剤によって断熱部材2に接合する。そして、第3板状部材58の部分Cを、建築木部3の下面31に、接着剤又は留め具によって、固定する。
【0019】
なお、薬剤パッド5の第2板状部材57は、配設前に、薬剤成分を保持していなくてもよく又は保持していてもよい。
(A)配設前に第2板状部材57が薬剤成分を保持していない場合には、次の2つの作業のいずれかによって、配設後の第2板状部材57に薬剤成分を保持させる。
(a1)配設中において第3板状部材58の部分Cを固定する前に、露出している第2板状部材57に薬剤成分を直接にスプレー等することによって浸潤させる。
(a2)配設後において第3板状部材58に薬剤成分を直接にスプレー等することによって浸潤させ、薬剤成分を第3板状部材58を介して第2板状部材57に伝達させて吸収させる。
(B)配設前に第2板状部材57に薬剤成分を保持させるには、第2板状部材57に薬剤成分を直接にスプレー等することによって浸潤させる。
【0020】
上記構成の薬剤パッド5によれば、次のような作用効果を発揮できる。
(1)薬剤パッド5が
図2に示されるように配設された状態において、第2板状部材57に保持されている薬剤成分が、第2板状部材57から持続的に放出されていき、隙間41及び隙間42に行き渡っていき、隙間41、42に面する床板1又は建築木部3に染み込んでいく。したがって、薬剤成分としてシロアリなどの害虫駆除成分を用いた場合には、害虫が床板1及び建築木部3に侵入するのを防止でき、害虫による床板1及び建築木部3の侵食を防止できる。或いは、薬剤成分として防腐成分を用いた場合には、床板1及び建築木部3が腐蝕するのを防止できる。
【0021】
(2)薬剤成分を第2板状部材57に補充できる。すなわち、薬剤パッド5を
図2に示されるように配設して一定期間が経過すると、第2板状部材57に保持されている薬剤成分及び建築木部3に付着している薬剤成分が劣化する。その際、配設された状態の薬剤パッド5の第3板状部材58に、薬剤成分を吸収させると、薬剤成分が、第2板状部材57に伝達され、第2板状部材57によって吸収され、その結果、第2板状部材57に補充される。そして、薬剤成分が補充された第2板状部材57は、引き続き、薬剤成分を放出する。したがって、薬剤パッド5を取り外すことなく、すなわち、断熱部材2を取り外すことなく、薬剤成分を第2板状部材57に補充して薬剤成分の放出を継続できるので、害虫駆除処理又は防腐処理のための定期的な断熱部材2の取り外し作業を不要にできる。
【0022】
[変形形態]
(1)上記実施形態では、薬剤パッド5を、断熱部材2と「根太」である建築木部3との間の隙間41に配設しているが、
図6に示されるように、薬剤パッド5を、断熱部材2と「大引き」である建築木部3との間の隙間41に配設してもよい。この場合には、第3板状部材58の部分Cを、建築木部3の側面32に、接着剤又は留め具によって、固定する。
【0023】
(2)
図7は、本発明の別の実施形態の薬剤パッド5Aが配設された状態を示す断面図である。本実施形態の薬剤パッド5Aは、上記実施形態の薬剤パッド5に対して、第3板状部材58を備えていない点のみが異なっており、他の構成は同じである。
【0024】
薬剤パッド5Aによっても、上記実施形態の薬剤パッド5と同様の作用効果を発揮できる。しかも、薬剤パッド5Aによれば、第2板状部材57の露出している部分Dから、薬剤成分を第2板状部材57に直接に吸収させることができるので、薬剤成分の補充作業を容易に実行できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の薬剤パッドは、害虫駆除又は防腐処理のための定期的な断熱部材の取り外し作業を不要にできるので、産業上の利用価値が大である。
【符号の説明】
【0026】
1 床板
2 断熱部材
20 側部
21 側端面
3 建築木部
5、5A 薬剤パッド
51 被挟持部
52 当接部
53 支持部
56 第1板状部材
57 第2板状部材
58 第3板状部材