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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】油圧アクチュエータの密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20230519BHJP
   F16D 25/12 20060101ALI20230519BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
F16J15/3232 101
F16D25/12 B
F16J15/16 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019118820
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2021004648
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】太田 崇文
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-540956(JP,A)
【文献】特開2006-242311(JP,A)
【文献】特開昭63-026464(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102008002285(DE,A1)
【文献】国際公開第2004/092620(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/18
F16J 15/3232
F16D 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の空間である駆動圧室内の油圧によって軸線に沿って移動可能なピストンを備える油圧アクチュエータの密封装置であって、
前記軸線周りに環状の前記ピストンと、
前記ピストンに取り付けられた、前記駆動圧室の密封を図るための、弾性体から形成された前記軸線周りに環状の外周シールリップと、
前記ピストンに取り付けられた、前記外周シールリップよりも内周側において前記駆動圧室の密封を図るための、前記軸線周りに環状の内周シールリップとを備えており、
前記外周シールリップは、前記軸線周りに環状の外周側に突出するメインリップ部と、前記軸線周りに環状の外周側に突出するサブリップ部と、外周側において開放されている前記軸線周りに環状の溝とを有しており、
前記メインリップ部と前記サブリップ部とは並んで設けられており、前記メインリップ部は、前記サブリップ部の駆動圧室側に設けられており、
前記溝は、前記メインリップ部と前記サブリップ部との間に形成されており、
前記メインリップ部が前記駆動圧室内の油圧を受けた際に、前記溝の断面積が減少し、前記溝内の作動油が流出することを特徴とする油圧アクチュエータの密封装置。
【請求項2】
前記メインリップ部は、前記駆動圧室内の油圧によって前記溝側に変形可能となっていることを特徴とする請求項1記載の油圧アクチュエータの密封装置。
【請求項3】
前記溝は、外周側に向かって、駆動圧室側に傾いていることを特徴とする請求項1又は2記載の油圧アクチュエータの密封装置。
【請求項4】
前記サブリップ部は、外周側に向かって、駆動圧室側に傾いていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の油圧アクチュエータの密封装置。
【請求項5】
環状の空間である駆動圧室内の油圧によって軸線に沿って移動可能なピストンを備える油圧アクチュエータの密封装置であって、
前記油圧アクチュエータにおいて前記ピストンと前記駆動圧室の反対側で環状の空間であるキャンセル圧室を形成するための前記軸線周りに環状のキャンセルプレートと、
前記キャンセルプレートに取り付けられた、前記キャンセル圧室の密封を図るための、弾性体から形成された前記軸線周りに環状のシールリップとを備えており、
前記シールリップは、前記軸線周りに環状の外周側に突出するメインリップ部と、前記軸線周りに環状の外周側に突出するサブリップ部と、外周側において開放されている前記軸線周りに環状の溝とを有しており、
前記メインリップ部と前記サブリップ部とは並んで設けられており、前記メインリップ部は、前記サブリップ部のキャンセル圧室側に設けられており、
前記溝は、前記メインリップ部と前記サブリップ部との間に形成されており、
前記メインリップ部が前記キャンセル圧室内の油圧を受けた際に、前記溝の断面積が減少し、前記溝内の作動油が流出することを特徴とする油圧アクチュエータの密封装置。
【請求項6】
前記メインリップ部は、前記キャンセル圧室内の油圧によって前記溝側に変形可能となっていることを特徴とする請求項5記載の油圧アクチュエータの密封装置。
【請求項7】
前記溝は、外周側に向かって、キャンセル圧室側に傾いていることを特徴とする請求項5又は6記載の油圧アクチュエータの密封装置。
【請求項8】
前記サブリップ部は、外周側に向かって、キャンセル圧室側に傾いていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項記載の油圧アクチュエータの密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧アクチュエータの密封装置に関し、特に、環状の駆動圧室内の油圧によって移動可能なピストンを備える油圧アクチュエータの密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧アクチュエータとして、例えば、環状のピストンを有する、自動車等の車両の自動変速機に用いられる油圧クラッチがある。油圧クラッチは、環状の空間内において、環状の駆動圧室内の油圧を高めて環状のピストンをクラッチに押し付けることによりクラッチを締結状態にし、ピストンへの油圧を解除し、バネの力でピストンを戻してクラッチを切断状態にする。このようなクラッチピストン機構では、駆動中に駆動圧室内の油が遠心力によってピストンに押し付けられ、クラッチの切断の際にピストンを戻すバネの力が影響を受け、バネによってピストンが適切に戻されないことがある。このため、キャンセルプレートが設けられ、ピストンを介して駆動圧室に対向するキャンセル圧室が設けられた油圧クラッチが従来からある。このような油圧クラッチにおいては、キャンセル圧室内の油にも遠心力が作用することにより、遠心力による駆動圧室内の油のピストンの押し付け力の相殺を図っている。
【0003】
上述のような油圧クラッチには、環状のシールリップを有する密封装置が設けられており、ピストンの外周側及び内周側に設けられたシールリップによってピストン油圧室内の密封が図られており、また、キャンセルプレートの外周側に設けられたシールリップによってキャンセル圧室内の外周側の密封が図られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述のような従来の油圧クラッチにおいては、駆動圧室内及びキャンセル圧室内において、シールリップには油圧が作用し、シールリップはハウジングの接触面に押し付けられる。これにより、駆動圧室内及びキャンセル圧室内において、より高い油圧の保持が可能になっている。また、シールリップとハウジングの接触面との間には油膜が形成され、この油膜により、シールリップの摩耗の低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-242311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、例えば自動車の自動変速機は、小型高出力化の傾向にあり、これに伴い、油圧クラッチにおける、クラッチ接続のためにピストン油圧室内に発生させる油圧も高圧化されている。油圧が高圧化されると、シールリップはハウジングの接触面により高圧で押し付けられ、シールリップとハウジングの接触面との間の油が掻き出されやすくなる。シールリップとハウジングの接触面との間の油が掻き出されると、シールリップとハウジングの接触面との間の油膜が薄くなる。シールリップとハウジングの接触面との間の油膜が薄くなると、シールリップとハウジングの接触面との間の摺動抵抗が増大し、シールリップが摩耗しやすくなる。
【0007】
このため、従来の油圧クラッチに対しては、シールリップに作用する圧力が高圧になっても、シールリップとハウジングの接触面との間の油膜が薄くなることを抑制する構成が求められている。このように、従来の油圧アクチュエータの密封装置に対しては、作用する油圧の大きさに拘わらず、シールリップの接触部における油膜の減少を抑制することができる構成が求められている。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、作用する油圧の大きさに拘わらず、シールリップの接触部における油膜の減少を抑制することができる油圧アクチュエータの密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置は、環状の空間である駆動圧室内の油圧によって軸線に沿って移動可能なピストンを備える油圧アクチュエータの密封装置であって、前記軸線周りに環状の前記ピストンと、前記ピストンに取り付けられた、前記駆動圧室の密封を図るための、弾性体から形成された前記軸線周りに環状の外周シールリップと、前記ピストンに取り付けられた、前記外周シールリップよりも内周側において前記駆動圧室の密封を図るための、前記軸線周りに環状の内周シールリップとを備えており、前記外周シールリップは、前記軸線周りに環状の外周側に突出するメインリップ部と、前記軸線周りに環状の外周側に突出するサブリップ部と、外周側において開放されている前記軸線周りに環状の溝とを有しており、前記メインリップ部と前記サブリップ部とは並んで設けられており、前記メインリップ部は、前記サブリップ部の駆動圧室側に設けられており、前記溝は、前記メインリップ部と前記サブリップ部との間に形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置の一態様において、前記メインリップ部は、前記駆動圧室内の油圧によって前記溝側に変形可能となっている。
【0011】
本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置の一態様において、前記溝は、外周側に向かって、駆動圧室側に傾いている。
【0012】
本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置の一態様において、前記サブリップ部は、外周側に向かって、駆動圧室側に傾いている。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置は、環状の空間である駆動圧室内の油圧によって軸線に沿って移動可能なピストンを備える油圧アクチュエータの密封装置であって、前記油圧アクチュエータにおいて前記ピストンと前記駆動圧室の反対側で環状の空間であるキャンセル圧室を形成するための前記軸線周りに環状のキャンセルプレートと、前記キャンセルプレートに取り付けられた、前記キャンセル圧室の密封を図るための、弾性体から形成された前記軸線周りに環状のシールリップとを備えており、前記シールリップは、前記軸線周りに環状の外周側に突出するメインリップ部と、前記軸線周りに環状の外周側に突出するサブリップ部と、外周側において開放されている前記軸線周りに環状の溝とを有しており、前記メインリップ部と前記サブリップ部とは並んで設けられており、前記メインリップ部は、前記サブリップ部のキャンセル圧室側に設けられており、前記溝は、前記メインリップ部と前記サブリップ部との間に形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置の一態様において、前記メインリップ部は、前記キャンセル圧室内の油圧によって前記溝側に変形可能となっている。
【0015】
本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置の一態様において、前記溝は、外周側に向かって、キャンセル圧室側に傾いている。
【0016】
本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置の一態様において、前記サブリップ部は、外周側に向かって、キャンセル圧室側に傾いている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置によれば、作用する油圧の大きさに拘わらず、シールリップの接触部における油膜の減少を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る油圧アクチュエータの密封装置としてのピストンシールと、本発明の実施の形態に係る油圧アクチュエータの密封装置としてのキャンセラシールとを備える油圧アクチュエータとしての油圧クラッチの概略構成を示す軸線に沿う断面における部分断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係るピストンシールの軸線に沿う断面における断面図である。
図3図2に示すピストンシールの軸線に関して一方の側の断面を示す部分断面図である。
図4図3に示すピストンシールの外周シールリップの部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
図5】駆動圧室内に駆動油圧が発生していない状態における、油圧クラッチにおけるピストンシールの外周シールリップの部分を拡大して示す断面図である。
図6図5に示す使用状態において、駆動圧室内の駆動油圧によって押圧されている状態における、外周シールリップの部分を拡大して示す断面図である。
図7図5に示す使用状態において、駆動圧室内の駆動油圧が解放されている状態における、外周シールリップの部分を拡大して示す断面図である。
図8】本発明の実施の形態に係るピストンシールにおける内周シールリップの変形例を示す、内周シールリップの部分を拡大して示す断面図である。
図9】本発明の実施の形態に係るキャンセラシールの軸線に沿う断面における断面図である。
図10図9に示すキャンセラシールの軸線xに関して一方の側の断面を示す部分断面図である。
図11図10に示すキャンセラシールのシールリップの部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
図12】キャンセル圧室内に油圧が発生していない状態における、油圧クラッチにおけるキャンセラシールのシールリップの部分を拡大して示す断面図である。
図13図12に示す使用状態において、キャンセル圧室内の油圧によって押圧されている状態における、シールリップの部分を拡大して示す断面図である。
図14図12に示す使用状態において、キャンセル圧室内の油圧が解放されている状態における、シールリップの部分を拡大して示す断面図である。
図15】本発明の実施の形態に係るピストンシールの外周シールリップの変形例を示すための、メインリップ部を拡大して示す断面図である。
図16】駆動圧室内の駆動油圧によって押圧されている状態における、図15に示すメインリップ部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る油圧アクチュエータの密封装置としてのピストンシール1と、本発明の実施の形態に係る油圧アクチュエータの密封装置としてのキャンセラシール2とを備える油圧アクチュエータとしての油圧クラッチ100の概略構成を示す軸線xに沿う断面における部分断面図である。以下、説明の便宜上、軸線x方向に直交する方向(以下、径方向ともいう。)において、軸線xから離れる方向(図1の矢印a方向)の側を外周側とし、軸線xに近づく方向(図1の矢印b方向)の側を内周側とする。また、軸線x方向において矢印c(図1参照)方向側を切断側とし、軸線x方向において矢印d(図1参照)方向側を接続側とする。
【0020】
図1に示すように、油圧クラッチ100は、ピストンシール1とキャンセラシール2とを有するピストン機構3と、環状の空間を形成するクラッチシリンダ110と、環状のクラッチハブ120と、クラッチシリンダ110とクラッチハブ120とを接続又はこの接続を切断する多板のクラッチ130とを有している。クラッチシリンダ110は駆動側に接続されており、駆動側の動力によって軸線x周りに回転可能になっている。また、クラッチハブ120は従動側に接続されており、クラッチ130が接続した際に、クラッチシリンダ110の動力が伝達されて軸線x周りに回転可能になっている。ピストン機構3は、ピストンシール1を軸線x方向において移動させることにより、クラッチ130に作用して、クラッチ130を接続及び切断させる。以下、油圧クラッチ100の構造について具体的に説明する。
【0021】
図1に示すように、クラッチシリンダ110は、軸線xを中心軸又は略中心軸とする筒状の部分である内周筒部111と、内周筒部111から外周側に延びる軸線xを中心又は略中心とする円盤状の部分である円盤部112と、内周筒部111よりも外周側において円盤部112から接続側に延びる軸線xを中心軸又は略中心軸とする筒状の部分である外周筒部113とを有している。また、クラッチシリンダ110は、軸線xに沿って延びる環状の空間114を有している。環状の空間114は、内周筒部111の外周面111aと、円盤部112の接続側の側面112aと、外周筒部113の内周面113aとによって囲まれた空間である。
【0022】
多板クラッチであるクラッチ130は、複数のドライブプレート131と、複数のドリブンプレート132とを有しており、ドライブプレート131とドリブンプレート132とは間隔を空けて交互に軸線x方向に並べられている。ドライブプレート131は、外周側の部分において、クラッチシリンダ110の外周筒部113の内周面113aに固定されている。ドリブンプレート132は、内周側の部分において、クラッチハブ120に固定されている。ドライブプレート131は、後述するように、ピストン機構3の作用によって接続方向に押されて、ドリブンプレート132に軸線x方向において押し付けられて、ドリブンプレート132と接続するようになっている。また、ドライブプレート131は、後述するように、ピストン機構3による押し付けがなくなると、軸線x方向においてドリブンプレート132から離間する方向に移動し、ドリブンプレート132との接続が切断されるようになっている。
【0023】
クラッチハブ120は、軸線x周りに環状の部材であり、軸線xを中心軸又は略中心軸とする筒状の部分である筒部121を有している。この筒部121の外周面に上述のクラッチ130のドリブンプレート132が内周側の端部において固定されている。
【0024】
クラッチシリンダ110の空間114内にはピストン機構3が設けられており、ピストン機構3は、空間114内に、環状の駆動圧室P1と環状のキャンセル圧室P2とを形成している。図1に示すように、ピストン機構3のピストンシール1は、空間114を軸線x方向に移動可能に空間114内に設けられており、ピストンシール1はその切断側に駆動圧室P1を形成している。また、図1に示すように、キャンセラシール2は、軸線x方向において接続側からピストンシール1に対向しており、ピストンシール1との間に環状の空間であるキャンセル圧室P2を形成している。キャンセル圧室P2は、空間114において、ピストンシール1に関して駆動圧室P1とは反対側に設けられている。
【0025】
後述するように、ピストンシール1は、シールリップを有しており、シールリップが内周側及び外周側において空間114を形成するクラッチシリンダ110の面に接触しており、これにより、駆動圧室P1の密封が図られている。具体的には、ピストンシール1のシールリップは、外周側においてクラッチシリンダ110の外周筒部113の内周面113aに接触しており、また、内周側においてクラッチシリンダ110の内周筒部111の内周面111aに接触している。ピストンシール1は、軸線x方向において接続側に移動した際に、クラッチ130の切断側に位置するドライブプレート131に切断側から接触可能に形成されている。
【0026】
また、後述するように、キャンセラシール2は、シールリップを有しており、シールリップが外周側においてピストンシール1に接触しており、これにより、キャンセル圧室P2の外周側の密封が図られている。具体的には、キャンセラシール2のシールリップは、外周側においてピストンシール1のクラッチ130に接触する部分に内周側から接触している。また、キャンセラシール2は、スナップリング141を介してクラッチシリンダ110の内周筒部111に支持されており、クラッチシリンダ110と共に回転する。
【0027】
ピストン機構3は、バネであるリターンスプリング140を有しており、リターンスプリング140は、キャンセル圧室P2内に設けられており、ピストンシール1とキャンセラシール2との間に挟まれて、軸線x方向において切断側にピストンシール1を付勢している。
【0028】
クラッチシリンダ110には、駆動圧室P1内に作動油を供給し、また、駆動圧室P1内から作動油を排出するための通路である駆動油孔115が形成されている。作動油は、油圧クラッチ100を制御するための油であり、例えばATF(Automatic Transmission Fluid)等である。駆動油孔115は、内周筒部111の外周面111aにおいて駆動圧室P1に開口しており、図示しない作動油の供給源と駆動圧室P1とを連通可能にしている。また、クラッチシリンダ110には、キャンセル圧室P2内に作動油を供給し、また、キャンセル圧室P2内から作動油を排出するための通路であるキャンセル油孔116が形成されている。キャンセル油孔116は、内周筒部111の外周面111aにおいてキャンセル圧室P2に開口しており、図示しない作動油の供給源とキャンセル圧室P2とを連通可能にしている。
【0029】
油圧クラッチ100においては、駆動油孔115を介して駆動圧室P1内に作動油が供給されることにより、駆動圧室P1内に油圧(駆動油圧)が発生する。この駆動油圧によってピストンシール1がリターンスプリング140の付勢力に抗して接続側に動かされ、ピストンシール1がクラッチ130のドライブプレート131に接触し、ドライブプレート131を接続側に押す。これにより、クラッチ130のドライブプレート131が、つまりクラッチシリンダ110が、接続側に動かされ、各ドライブプレート131が対応するドリブンプレート132に接触して押し付けられる。これにより、クラッチ130が接続状態になり、クラッチシリンダ110の動力がクラッチ130を介してクラッチハブ120に伝達される。
【0030】
このクラッチ130の接続状態から、駆動圧室P1内の作動油が駆動油孔115を介して排出されると、駆動圧室P1内の駆動油圧が解放されて減り、リターンスプリング140の付勢力が駆動油圧に勝るようになり、ピストンシール1がリターンスプリング140の付勢力によって切断側に動かされ、ドライブプレート131がドリブンプレート132から離れ、クラッチ130が切断状態となる。
【0031】
クラッチシリンダ110の回転時に、駆動圧室P1内の作動油には遠心力が加わり、この遠心力がピストンシール1に作用して、ピストンシール1が動かされ、意図しないクラッチ130の操作がなされてしまうことがある。このため、キャンセル油孔116を介してキャンセル圧室P2内に作動油を供給することにより、このキャンセル圧室P2内の作動油に、駆動圧室P1内の作動油と同様に遠心力が作用するようにする。これにより、キャンセル圧室P2内の作動油に作用する遠心力が、駆動圧室P1内の作動油に作用する遠心力を相殺し、意図しないクラッチ130の操作が防止される。
【0032】
油圧クラッチ100のクラッチシリンダ110、クラッチハブ120、クラッチ130、リターンスプリング140、スナップリング141は、種々の形態とすることができ、例えば従来の油圧クラッチの構成とすることができる。油圧クラッチ100のこれらの構成の詳細な説明は省略し、以下、本発明の実施の形態に係るピストンシール1及びキャンセラシール2について詳細に説明する。
【0033】
図2は、本発明の実施の形態に係るピストンシール1の軸線xに沿う断面における断面図であり、図3は、図2に示すピストンシール1の軸線xに関して一方の側の断面を示す部分断面図である。図2,3に示すように、ピストンシール1は、軸線x周りに環状のピストン10と、ピストン10に取り付けられた、駆動圧室P1の密封を図るための、弾性体から形成された軸線x周りに環状の外周シールリップ20と、ピストン10に取り付けられた、外周シールリップ20よりも内周側において駆動圧室P1の密封を図るための、軸線x周りに環状の内周シールリップ30とを備えている。外周シールリップ20は、軸線x周りに環状の外周側に突出するメインリップ部21と、軸線x周りに環状の外周側に突出するサブリップ部22と、外周側において開放されている軸線x周りに環状の溝23とを有している。メインリップ21部とサブリップ部22とは並んで設けられており、メインリップ部21は、サブリップ部22の駆動圧室側に設けられており、溝23は、メインリップ部21とサブリップ部22との間に形成されている。以下、ピストンシール1の構成について具体的に説明する。
【0034】
ピストン10は、金属からなる、軸線xを中心又は略中心とする環状の部材であり、図2,3に示すように、受圧部11と、クラッチ押圧部12とを有している。受圧部11は、軸線xを中心又は略中心とする環状の部分であり、油圧クラッチ100において(図1参照)、駆動圧室P1内の駆動油圧を受ける部分である。クラッチ押圧部12は、軸線xを中心又は略中心とする環状の部分であり、油圧クラッチ100において、ピストンシール1が接続側(矢印d方向)へ動かされた際に、クラッチ130のドライブプレート131に接触してドライブプレート131を接続側に押圧する部分である。クラッチ押圧部12は、受圧部11の外周側の端部から接続側に延びている。ピストン10は種々の形態とすることができ、例えば従来のピストンと同様の形態とすることができる。
【0035】
外周シールリップ20及び内周シールリップ30は、例えば、ピストン10の受圧部11の切断側に面する面(受圧面11a)に取り付けられた弾性体から形成されている弾性体部4の一部として一体に形成されている。外周シールリップ20及び内周シールリップ30は、別体として形成されていてもよい。
【0036】
外周シールリップ20は、図2,3に示すように、受圧部11の外周側の部分から外周側に突出する軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の部分である。外周シールリップ20は、油圧クラッチ100において(図1参照)、クラッチシリンダ110の外周筒部113の内周面113aに接触するように形成されている。また、外周シールリップ20は、油圧クラッチ100において、ピストンシール1が軸線x方向に移動する際に、外周筒部113の内周面113a上を摺動するように形成されている。外周シールリップ20の詳細な説明は後述する。
【0037】
内周シールリップ30は、図2,3に示すように、受圧部11の内周側の部分から内周側に突出する軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の部分である。内周シールリップ30は、油圧クラッチ100において(図1参照)、クラッチシリンダ110の内周筒部111の外周面111aに接触するように形成されている。また、内周シールリップ30は、油圧クラッチ100において、ピストンシール1が軸線x方向に移動する際に、内周筒部111の外周面111a上を摺動するように形成されている。
【0038】
ピストン10は上述のように金属製であり、ピストン10の金属材としては、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)等があり、主にSPFH(熱間圧延鋼)、SAPH(熱間圧延鋼)である。ピストンシール10は、例えば、金属板からプレス加工や鍛造により製造される。
【0039】
弾性体部4は、上述のように、ピストン10の受圧部11の受圧面11aを覆う弾性体であり、弾性体部4の弾性材としては、例えばゴム状弾性材がある。弾性体部4のゴム状弾性材としては、例えば、二トリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴムが用いられる。
【0040】
図4は、図3に示すピストンシール1の外周シールリップ20の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。上述したように、外周シールリップ20は、メインリップ部21と、サブリップ部22と、メインリップ部21とサブリップ部22との間に形成された溝23とを有している。
【0041】
メインリップ部21は、軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の外周側に突出している部分であり、具体的には図4に示すように、ピストン10の受圧部11の受圧面11aから外周側(矢印a方向)に向かって切断側(矢印c方向)に傾斜して突出している。メインリップ部21は、油圧クラッチ100において(図1参照)、クラッチシリンダ110の外周筒部113の内周面113aに摺動可能に接触するように形成されている。例えば、メインリップ部21は、先端部24の外周側(矢印a方向)の隅角部24aがクラッチシリンダ110の外周筒部113の内周面113aに摺動可能に接触するように形成されている。
【0042】
また、メインリップ部21は、油圧クラッチ100において駆動圧室P1内の駆動油圧によって溝23側に変形可能となっている。具体的には、メインリップ部21は、油圧クラッチ100において駆動圧室P1内の作動油による駆動油圧を受けた際に、溝23の断面積が減少するように変形可能となっている。このようにメインリップ部21が変形した際に、溝23の開口23aの面積が減少しないような形状にメインリップ部21が形成されていることが好ましい。例えば、図4に示すように、メインリップ部21の切断側(駆動圧室P1側)に面する側面25が、根元側の部分においてメインリップ部21の厚み方向に凹む凹部25aを有するように形成されている。この凹部25aにより、根元側の部分のメインリップ部21の厚み方向の厚さが薄くなっているので、油圧クラッチ100においてメインリップ部21の外周面25に駆動圧室P1の駆動油圧が加わった際に、メインリップ部21は、先端部24が内周側に向かうように根元側の部分から屈曲しやすくなる。メインリップ部21が油圧クラッチ100において駆動圧室P1内の駆動油圧を受けた際に溝23の断面積が減少するように変形可能になるメインリップ部21の形状は、他の形状であってもよい。なお、メインリップ部21の厚み方向とは、メインリップ部21が突出する方向(突出方向)に直交する方向である。
【0043】
サブリップ部22は、軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の外周側に突出している部分であり、具体的には図4に示すように、ピストン10の受圧部11の受圧面11aから外周側(矢印a方向)に向かって切断側(矢印c方向)に傾斜して突出している。サブリップ部22は、油圧クラッチ100において(図1参照)、クラッチシリンダ110の外周筒部113の内周面113aに摺動可能に接触するように形成されている。例えば、サブリップ部22は、先端部26の外周側の部分(外周部26a)がクラッチシリンダ110の外周筒部113の内周面113aに摺動可能に接触するように形成されている。
【0044】
サブリップ部22は、図4に示すように、メインリップ部21と平行に突出していない。より具体的には、サブリップ部22の突出方向は、メインリップ部21の突出方向に平行ではなく、メインリップ部21の突出方向よりも切断側に傾斜している。サブリップ部22は、メインリップ部21と平行に突出していてもよく、メインリップ部21の突出方向よりも切断側に傾斜していなくてもよい。また、サブリップ部22は、例えば、先端部26に向かって先細になるように形成されている。
【0045】
サブリップ部22は、メインリップ部21に対して、メインリップ部21の厚み方向において接続側に間隔を空けて形成されており、この間隔により溝23がメインリップ部21とサブリップ部22との間に形成されている。溝23は、図4に示すように、外周側に開口23aを有しており、開口23aにおいて解放されている。溝23は、例えば、外周側に向かって駆動圧室P1側(切断側)に傾いている。
【0046】
次いで、上述の構成を有するピストンシール1の作用について説明する。図5は、駆動圧室P1内に駆動油圧が発生していない状態における、油圧クラッチ100におけるピストンシール1の外周シールリップ20の部分を拡大して示す断面図である。図5に示すように、油圧クラッチ100に用いられたピストンシール1の使用状態において、メインリップ部21の隅角部24a及びサブリップ部22の外周部26aがクラッチシリンダ110の外周筒部113の内周面113aに摺動可能に接触している。これにより、駆動圧室P1の密封が図られている。
【0047】
また、使用状態において、駆動圧室P1内の供給される作動油が、メインリップ部21の隅角部24aとクラッチシリンダ110の内周面113aとの間の摺動部に介在し、油膜が形成され、また、サブリップ部22の外周部26aとクラッチシリンダ110の内周面113aとの間の摺動部に介在し、油膜が形成される。また、溝23内に作動油が溜まる。これにより、メインリップ部21及びサブリップ部22は、ピストンシール1の軸線x方向の移動に伴って滑らかにクラッチシリンダ110の内周面113a上を摺動する。
【0048】
駆動圧室P1内に駆動油圧が発生すると、この駆動油圧によって、メインリップ部21は、クラッチシリンダ110の内周面113aに押し付けられる。駆動油圧が高くなると、メインリップ部21は、より強くクラッチシリンダ110の内周面113aに押し付けられる。このため、駆動油圧が高くなると、メインリップ部21の摺動部に介在している油膜がより強く押しつぶされ又は掻き出され、油膜が薄くなり、メインリップ部21は摩耗しやすくなる。また、メインリップ部21がより強くクラッチシリンダ110の内周面113aに押し付けられるため、駆動圧室P1からサブリップ部22の摺動部に作動油が供給されにくくなり、サブリップ部22は摩耗しやすくなる。
【0049】
これに対し、本発明の実施の形態に係るピストンシール1においては、図6に示すように、駆動圧室P1内に駆動油圧が発生し、ピストンシール1が作動油に押されて接続方向に移動すると、外周シールリップ20も接続方向に摺動し、溝23内に溜まっていた作動油が溝23内から流出する。そして、この溝23内から流出した作動油は、メインリップ部21の摺動部及びサブリップ部22の摺動部に供給される。これにより、メインリップ部21の摺動部及びサブリップ部22の摺動部に形成される油膜の厚さの維持を図ることができる。このため、駆動油圧が高くなっても、メインリップ部21及びサブリップ部22の摩耗を抑制することができる。
【0050】
特に、駆動圧室P1内の駆動油圧が高くなると、メインリップ部21は溝23側に強く押し付けられることになる。このため、メインリップ部21は溝23側に変形し、溝23の断面積を縮小させる。これにより、溝23内に溜まっていた作動油を溝23内から強制的に流出させることができる。このため、駆動圧室P1内の駆動油圧が高くなるほど、メインリップ部21の摺動部及びサブリップ部22の摺動部に溝23内の作動油を多く供給することができ、メインリップ部21及びサブリップ部22の摩耗をより抑制することができる。
【0051】
上述のように、メインリップ部21は、駆動圧室P1内の駆動油圧によって、溝23の断面積が減少するように変形可能となっている。このため、より多くの溝23内の作動油をメインリップ部21の摺動部及びサブリップ部22の摺動部に供給することができ、メインリップ部21及びサブリップ部22の摩耗をより抑制することができる。このように溝23内の作動油を摺動部に供給する点において、上述のように、メインリップ部21は、駆動油圧によって溝23の開口23aの面積が減少しないような形状に変形可能に形成されていることが好ましい。
【0052】
一方、図7に示すように、駆動圧室P1内から作動油が排出されていき、メインリップ部21を押圧する駆動圧が解放されていくと、ピストンシール1は切断側に移動し、これに伴って外周シールリップ20及びサブリップ部22は切断側に摺動する。これにより、サブリップ部22が溝23内に作動油を掻き集める。また、メインリップ部21及びサブリップ部22をクラッチシリンダ110の内周面113aに押し付ける駆動油圧による押し付け力が解放される。これにより、作動油がメインリップ部21の摺動部及びサブリップ部22の摺動部を介して溝23内に移動する。
【0053】
上述のように、駆動圧室P1内の駆動油圧によってメインリップ部21は溝23側に変形し、溝23の断面積を縮小させているので、メインリップ部21を押圧する駆動油圧が解放されていくと、メインリップ部21は元の形状に戻っていき、溝23の断面積は元の大きさに戻るように拡大していく。この溝23の断面積の復元により、駆動油圧が解放されると、作動油をメインリップ部21の摺動部及びサブリップ部22の摺動部を介して溝23内に吸い込むことができる。この吸い込みにより、メインリップ部21の摺動部及びサブリップ部22の摺動部の油膜を厚くすることができる。
【0054】
また、サブリップ部22は、上述のように、外周側に向かって切断側により傾斜している。つまり、サブリップ部22は、クラッチシリンダ110の内周面113aに対して浅い傾斜角で接触している。このため、サブリップ部22の切断側への摺動により、溝23内に作動油を掻き集めやすくすることができる。このように、溝23内に作動油を掻き集めやすくするために、サブリップ部22は、外周側に向かって切断側により傾斜して形成されているものが好ましい。
【0055】
また、溝23は、上述のように、外周側に向かって切断側に傾斜している。つまり、溝23は、クラッチシリンダ110の内周面113aに対して浅い傾斜角となっている。このため、外周シールリップ20の切断側への摺動により、溝23内に作動油を導入しやすくすることができる。このように、溝23内に作動油を導入しやすくするために、溝23は、外周側に向かって切断側により傾斜して形成されているものが好ましい。また、溝23が外周側に向かって切断側に傾斜していると、溝23内の作動油を開口23aから排出しやすくすることができる。
【0056】
このように、外周シールリップ20は、駆動圧室P1内の駆動油圧が解放されると、溝23内に作動油を導くことができ、駆動圧室P1内の駆動油圧でメインリップ部21が押圧されることにより溝23内から作動油が排出されても、溝23内に再度作動油を蓄えることができる。また、外周シールリップ20の摺動に伴って、溝23内に作動油を導くことができ、溝23内から作動油が排出されても、溝23内に再度作動油を蓄えることができる。この過程で、薄く又は無くなったメインリップ部21の摺動部及びサブリップ部22の摺動部の油膜を厚く又は再生させることができる。このため、外周シールリップ20は、駆動圧室P1内の駆動油圧の発生及び解放が繰り返されても、溝23内の作動油の排出及び溝23内への作動油の供給を繰り返すことにより、メインリップ部21の摺動部及びサブリップ部22の摺動部の油膜の維持を図ることができ、メインリップ部21及びサブリップ部22の摩耗をより抑制することができる。高い駆動油圧がメインリップ部21の加わった場合でも、メインリップ部21の変形により、また、駆動油圧の解放により溝23内への作動油の供給がなされるので、駆動油圧の大きさに拘わらず上述の効果がなされる。
【0057】
このように、本発明の実施の形態に係るピストンシール1によれば、作用する駆動油圧の大きさに拘わらず、外周シールリップ20の接触部における油膜の減少を抑制することができる。
【0058】
上述のピストンシール1においては、内周シールリップ30は、外周側に突出する従来のシールリップとしたが、内周シールリップ30は、外周シールリップと同様の構成を有していてもよい。この場合、図8に示すように、この変形例に係る内周シールリップ30は、外周シールリップ20と同様に、軸線x周りに環状の内周側に突出するメインリップ部31と、軸線x周りに環状の内周側に突出するサブリップ部32と、内周側において開放されている軸線x周りに環状の溝33とを有している。メインリップ31部とサブリップ部32とは並んで設けられており、メインリップ部31は、サブリップ部32の駆動圧室側に設けられており、溝33は、メインリップ部31とサブリップ部32との間に形成されている。
【0059】
この変形例に係る内周シールリップ30のメインリップ部31、サブリップ部32、及び溝33は、上述の外周シールリップ20のメインリップ部21、サブリップ部22、及び溝23と夫々同様の形態を有している。以下、変形例に係る内周シールリップ30の構成について具体的に説明する。
【0060】
図8に示すように、メインリップ部31は、軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の内周側に突出している部分であり、具体的には、ピストン10の受圧部11の内周側の端部から内周側(矢印b方向)に向かって切断側(矢印c方向)に傾斜して突出している。メインリップ部31は、油圧クラッチ100において(図1参照)、クラッチシリンダ110の内周筒部111の外周面111aに摺動可能に接触するように形成されている。例えば、メインリップ部31は、先端部34の内周側(矢印b方向)の隅角部34aがクラッチシリンダ110の内周筒部111の外周面111aに摺動可能に接触するように形成されている。
【0061】
また、メインリップ部31は、油圧クラッチ100において駆動圧室P1内の駆動油圧によって溝33側に変形可能となっている。具体的には、メインリップ部31は、油圧クラッチ100において駆動圧室P1内の作動油による駆動油圧を受けた際に、溝33の断面積が減少するように変形可能となっている。このようにメインリップ部31が変形した際に、溝33の開口33aの面積が減少しないような形状にメインリップ部31が形成されていることが好ましい。例えば、図8に示すように、メインリップ部31の切断側(駆動圧室P1側)に面する側面35が、根元側の部分においてメインリップ部31の厚み方向に凹む凹部35aを有するように形成されている。この凹部35aにより、根元側の部分のメインリップ部31の厚み方向の厚さが薄くなっているので、油圧クラッチ100においてメインリップ部31の外周面35に駆動圧室P1の駆動油圧が加わった際に、メインリップ部31は、先端部34が内周側に向かうように根元側の部分から屈曲しやすくなる。メインリップ部31が油圧クラッチ100において駆動圧室P1内の駆動油圧を受けた際に溝33の断面積が減少するように変形可能になるメインリップ部31の形状は、他の形状であってもよい。
【0062】
サブリップ部32は、軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の内周側に突出している部分であり、具体的には、ピストン10の受圧部11の内周側の端部から内周側(矢印b方向)に向かって切断側(矢印c方向)に傾斜して突出している。サブリップ部32は、油圧クラッチ100において(図1参照)、クラッチシリンダ110の内周筒部111の外周面111aに摺動可能に接触するように形成されている。例えば、サブリップ部32は、先端部36の内周側の部分(内周部36a)がクラッチシリンダ110の内周筒部111の外周面111aに摺動可能に接触するように形成されている。
【0063】
サブリップ部32は、図8に示すように、メインリップ部31と平行に突出していない。より具体的には、サブリップ部32の突出方向は、メインリップ部31の突出方向に平行ではなく、メインリップ部31の突出方向よりも切断側に傾斜している。サブリップ部32は、メインリップ部31と平行に突出していてもよく、メインリップ部31の突出方向よりも切断側に傾斜していなくてもよい。また、サブリップ部32は、例えば、先端部36に向かって先細になるように形成されている。
【0064】
サブリップ部32は、メインリップ部31に対して、メインリップ部31の厚み方向において接続側に間隔を空けて形成されており、この間隔により溝33がメインリップ部31とサブリップ部32との間に形成されている。溝33は、図8に示すように、外周側に開口33aを有しており、開口33aにおいて解放されている。溝33は、例えば、内周側に向かって駆動圧室P1側(切断側)に傾いている。
【0065】
上述のように、変形例に係る内周シールリップ30は、外周シールリップ20と同様にメインリップ部31、サブリップ部32、及び溝33を有している。このため、変形例に係る内周シールリップ30は、油圧クラッチ100において上述の外周シールリップ20と同様に作用し、駆動圧室P1内の駆動油圧の発生及び解放が繰り返されても、溝33内の作動油の排出及び溝33内への作動油の供給を繰り返すことにより、メインリップ部31の摺動部及びサブリップ部32の摺動部の油膜の維持を図ることができ、メインリップ部31及びサブリップ部32の摩耗をより抑制することができる。また、高い駆動油圧がメインリップ部31の加わった場合でも、メインリップ部31の変形により、また、駆動油圧の解放により、溝33内への作動油の供給がなされるので、駆動油圧の大きさに拘わらず上述の効果がなされる。
【0066】
このように、変形例に係る内周シールリップ30を有するピストンシール1によれば、作用する駆動油圧の大きさに拘わらず、外周シールリップ20及び内周シールリップの接触部における油膜の減少を抑制することができる。
【0067】
次いで、本発明の実施の形態に係るキャンセラシール2について説明する。図9は、本発明の実施の形態に係るキャンセラシール2の軸線xに沿う断面における断面図であり、図10は、図9に示すキャンセラシール2の軸線xに関して一方の側の断面を示す部分断面図である。図9,10に示すように、キャンセラシール2は、軸線x周りに環状のキャンセルプレート40と、キャンセルプレート40に取り付けられた、キャンセル圧室P2の密封を図るための、弾性体から形成された軸線x周りに環状のシールリップ50とを備えている。上述したように、キャンセルプレート40は、油圧アクチュエータ100においてピストンシール1と駆動圧室P1の反対側で環状の空間であるキャンセル圧室P2を形成する。シールリップ50は、軸線x周りに環状の外周側に突出するメインリップ部51と、軸線x周りに環状の外周側に突出するサブリップ部52と、外周側において開放されている軸線x周りに環状の溝53とを有している。メインリップ51部とサブリップ部52とは並んで設けられており、メインリップ部51は、サブリップ部52のキャンセル圧室側に設けられており、溝53は、メインリップ部21とサブリップ部22との間に形成されている。以下、キャンセラシール2の構成について具体的に説明する。
【0068】
キャンセルプレート40は、図9,10に示すように、金属からなる、軸線xを中心又は略中心とする環状の部材であり、切断側に面する面が、油圧クラッチ100においてキャンセル圧室P2に面する受圧面41となっている(図1参照)。キャンセルプレート40は種々の形態とすることができ、例えば従来のキャンセルプレートと同様の形態とすることができる。
【0069】
シールリップ50は、図9,10に示すように、キャンセルプレート40の外周側の端部から外周側に突出する軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の部分である。シールリップ50は、油圧クラッチ100において(図1,3参照)、ピストンシール1のピストン10に内周側から接触するように形成されている。例えば、図1,3に示すように、シールリップ50は、ピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに接触するように形成されている。また、シールリップ50は、油圧クラッチ100において、ピストンシール1が軸線x方向に移動する際に、ピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12a上を摺動するように形成されている。シールリップ50は、外周側においてキャンセル圧室P2の密封を図る部材である。
【0070】
キャンセルプレート40は上述のように金属製であり、キャンセルプレート40の金属材としては、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)等があり、主にSPFH(熱間圧延鋼)、SAPH(熱間圧延鋼)である。キャンセルプレート40は、例えば、金属板からプレス加工や鍛造により製造される。
【0071】
シールリップ50は、上述のように弾性体であり、シールリップ50の弾性材としては、例えばゴム状弾性材がある。シールリップ50のゴム状弾性材としては、例えば、二トリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴムが用いられる。
【0072】
図11は、図10に示すキャンセラシール2のシールリップ50の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。上述したように、シールリップ50は、メインリップ部51と、サブリップ部52と、メインリップ部51とサブリップ部52との間に形成された溝53とを有している。
【0073】
メインリップ部51は、軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の外周側に突出している部分であり、具体的には図10,11に示すように、キャンセルプレート40の外周側の端部(外周端42)から外周側(矢印a方向)に向かって切断側(矢印c方向)に傾斜して突出している。メインリップ部51は、油圧クラッチ100において(図1参照)、ピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに摺動可能に接触するように形成されている。例えば、メインリップ部51は、先端部54の外周側(矢印a方向)の隅角部54aがピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに摺動可能に接触するように形成されている。
【0074】
また、メインリップ部51は、油圧クラッチ100においてキャンセル圧室P2内の作動油から受ける油圧によって溝53側に変形可能となっている。具体的には、メインリップ部51は、油圧クラッチ100においてキャンセル圧室P2内の作動油による油圧を受けた際に、溝53の断面積が減少するように変形可能となっている。このようにメインリップ部51が変形した際に、溝53の開口53aの面積が減少しないような形状にメインリップ部51が形成されていることが好ましい。例えば、図11に示すように、メインリップ部51の切断側(キャンセル圧室P2側)に面する側面55が、根元側の部分においてメインリップ部51の厚み方向に凹む凹部55aを有するように形成されている。この凹部55aにより、根元側の部分のメインリップ部51の厚み方向の厚さが薄くなっているので、油圧クラッチ100においてメインリップ部51の外周面55にキャンセル圧室P2の作動油の油圧が加わった際に、メインリップ部51は、先端部54が内周側に向かうように根元側の部分から屈曲しやすくなる。メインリップ部51が油圧クラッチ100においてキャンセル圧室P2内の作動油の油圧を受けた際に溝53の断面積が減少するように変形可能になるメインリップ部51の形状は、他の形状であってもよい。なお、メインリップ部51の厚み方向とは、メインリップ部51が突出する方向(突出方向)に直交する方向である。
【0075】
サブリップ部52は、軸線xを中心又は略中心とする円環状又は略円環状の外周側に突出している部分であり、具体的には図10,11に示すように、キャンセルプレート40の外周端42から外周側(矢印a方向)に向かって切断側(矢印c方向)に傾斜して突出している。サブリップ部52は、油圧クラッチ100において(図1参照)、ピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに摺動可能に接触するように形成されている。例えば、サブリップ部52は、先端部56の外周側の部分(外周部56a)がピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに摺動可能に接触するように形成されている。
【0076】
サブリップ部52は、図11に示すように、メインリップ部51と平行に突出していない。より具体的には、サブリップ部52の突出方向は、メインリップ部51の突出方向に平行ではなく、メインリップ部51の突出方向よりも切断側に傾斜している。サブリップ部52は、メインリップ部51と平行に突出していてもよく、メインリップ部51の突出方向よりも切断側に傾斜していなくてもよい。また、サブリップ部52は、例えば、先端部56に向かって先細になるように形成されている。
【0077】
サブリップ部52は、メインリップ部51に対して、メインリップ部51の厚み方向において接続側に間隔を空けて形成されており、この間隔により溝53がメインリップ部51とサブリップ部52との間に形成されている。溝53は、図11に示すように、外周側に開口53aを有しており、開口53aにおいて解放されている。溝53は、例えば、外周側に向かってキャンセル圧室P2側(切断側)に傾いている。
【0078】
次いで、上述の構成を有するキャンセラシール2の作用について説明する。図12は、キャンセル圧室P2内に作動油による油圧が発生していない状態における、油圧クラッチ100におけるキャンセラシール2のシールリップ50の部分を拡大して示す断面図である。図12に示すように、油圧クラッチ100に用いられたキャンセラシール2の使用状態において、メインリップ部51の隅角部54a及びサブリップ部52の外周部56aがピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに摺動可能に接触している。これにより、キャンセル圧室P2の外周側の密封が図られている。
【0079】
また、使用状態において、キャンセル圧室P2内の供給される作動油が、メインリップ部51の隅角部54aとピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aとの間の摺動部に介在し、油膜が形成され、また、サブリップ部52の外周部56aとピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aとの間の摺動部に介在し、油膜が形成される。また、溝53内に作動油が溜まる。これにより、メインリップ部51及びサブリップ部52は、ピストンシール1の軸線x方向の移動に伴って滑らかにピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12a上を摺動する。
【0080】
キャンセル圧室P2内に作動油に加わる遠心力に基づく油圧が発生すると、この油圧によって、メインリップ部51は、ピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに押し付けられる。作動油の遠心力に基づく油圧が高くなると、メインリップ部51は、より強くピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに押し付けられる。このため、作動油の遠心力に基づく油圧が高くなると、メインリップ部51の摺動部に介在している油膜がより強く押しつぶされ、また、強く掻き出され、油膜が薄くなり、メインリップ部51は摩耗しやすくなる。また、メインリップ部51がより強くピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに押し付けられるため、キャンセル圧室P2からサブリップ部52の摺動部に作動油が供給されにくくなり、サブリップ部52は摩耗しやすくなる。
【0081】
これに対し、本発明の実施の形態に係るキャンセラシール2においては、図13に示すように、駆動圧室P1内の駆動油圧が解放され、ピストンシール1がリターンスプリング140に押されて切断方向に移動すると、シールリップ50は相対的に接続方向に摺動し、溝53内に溜まっていた作動油が溝53内から流出する。そして、この溝53内から流出した作動油は、メインリップ部51の摺動部及びサブリップ部52の摺動部に供給される。これにより、メインリップ部51の摺動部及びサブリップ部52の摺動部に形成される油膜の厚さの維持を図ることができる。このため、キャンセル圧室P2内の油圧が高くなっても、メインリップ部51及びサブリップ部52の摩耗を抑制することができる。
【0082】
一方、図14に示すように、駆動圧室P1内に作動油が供給されていき、駆動圧室P1に駆動油圧が発生していくと、ピストンシール1は接続側に移動し、これに伴ってキャンセラシール2のシールリップ50は相対的に切断側に摺動する。これにより、サブリップ部52が溝53内に作動油を掻き集める。これにより、溝53内に作動油を導入することができる。
【0083】
サブリップ部52は、上述のように、外周側に向かって切断側により傾斜している。つまり、サブリップ部52は、ピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに対して浅い傾斜角で接触している。このため、サブリップ部52の切断側への摺動により、溝53内に作動油を掻き集めやすくすることができる。このように、溝53内に作動油を掻き集めやすくするために、サブリップ部52は、外周側に向かって切断側により傾斜して形成されているものが好ましい。
【0084】
また、溝53は、上述のように、外周側に向かって切断側に傾斜している。つまり、溝53は、クピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに対して浅い傾斜角となっている。このため、シールリップ50の切断側への摺動により、溝53内に作動油を導入しやすくすることができる。このように、溝53内に作動油を導入しやすくするために、溝53は、外周側に向かって切断側により傾斜して形成されているものが好ましい。また、溝53が外周側に向かって切断側に傾斜していると、シールリップ50の切断側への摺動により溝53内の作動油を開口53aから排出しやすくすることができる。
【0085】
また、図13に示すように、キャンセル圧室P2内の作動油の遠心力に基づく油圧により、メインリップ部51は溝53側に変形し、溝53の断面積を縮小させる。これにより、溝53内に溜まっていた作動油を溝53内から強制的に流出させることができる。このため、作動油の遠心力に基づく油圧によりメインリップ部51がピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに押し付けられて、メインリップ部51の摺動部の油膜が薄くなり、サブリップ部52の摺動部の油膜が薄くなっても、溝53からの作動油の供給によりメインリップ部51及びサブリップ部52の摺動部の油膜の減少の抑制や油膜の維持を図ることができる。
【0086】
特に、駆動源の高回転化に伴いキャンセル圧室P2内の作動油の遠心力に基づく油圧が高くなると、メインリップ部51は溝53側により強く押し付けられ、メインリップ部51の摺動部の油膜の減少が大きくなり、これによりサブリップ部52の摺動部の油膜の減少が大きくなり、メインリップ部51及びサブリップ部52の摺動部の油膜がなくなることも考えられる。これに対し、上述のように、メインリップ部51が溝53側に変形して溝53内に溜まっている作動油を溝53内から強制的に流出させることができるので、メインリップ部51及びサブリップ部52の摺動部の油膜がなくなることを防止することができる。このように、キャンセラシール2は、キャンセル圧室P2内の作動油の遠心力に基づく油圧が高くなっても、メインリップ部51及びサブリップ部52の摺動部の油膜の維持を図ることができる。
【0087】
キャンセル圧室P2内の作動油の遠心力に基づく油圧が高くなるほど、メインリップ部51が溝53側に大きく変形し、溝53内に溜まっている作動油の押し出し力を大きくすることができる。このため、メインリップ部51及びサブリップ部52が強くピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに押し付けられていても、メインリップ部51及びサブリップ部52の摺動部に油膜を供給可能にすることができる。
【0088】
上述のように、溝53内の作動油を摺動部に供給する点において、メインリップ部51は、受圧面41に作用する切断側からの力によって溝53の断面積を縮小させるように溝53側に変形可能な形状が好ましい。また、メインリップ部51は、受圧面41に作用する切断側からの力によって溝53の開口53aの面積が減少しないような形状に変形可能に形成されていることが好ましい。
【0089】
また、上述のように、キャンセル圧室P2内の油圧によってメインリップ部51は溝53側に変形し、溝53の断面積を縮小させているので、メインリップ部51を押圧する油圧が解放されていくと、メインリップ部53が元の形状に戻っていき、溝53の断面積は元の大きさに戻るように拡大していく。この溝53の断面積の復元により、油圧が解放されると、作動油をメインリップ部51の摺動部及びサブリップ部52の摺動部を介して溝53内に吸い込むことができる。この吸い込みにより、メインリップ部51の摺動部及びサブリップ部52の摺動部の油膜を厚くすることができる。
【0090】
また、メインリップ部51及びサブリップ部52をピストン10のクラッチ押圧部12の内周面12aに押し付ける作動油の油圧による押し付け力が解放されると、作動油がメインリップ部51の摺動部及びサブリップ部52の摺動部を介して溝23内に移動する。これにより、作動油を溝53内に溜めることができ、また、メインリップ部51の摺動部及びサブリップ部52の摺動部の油膜を厚くすることができる。
【0091】
このように、シールリップ50は、キャンセル圧室P2内の作動油の油圧が解放されると、溝53内に作動油を導くことができ、キャンセル圧室P2内の油圧でメインリップ部51が押圧されることにより溝53内から作動油が排出されても、溝53内に再度作動油を蓄えることができる。また、シールリップ50の摺動に伴って、溝53内に作動油を導くことができ、溝53内から作動油が排出されても、溝53内に再度作動油を蓄えることができる。この過程で、薄く又は無くなったメインリップ部51の摺動部及びサブリップ部52の摺動部の油膜を厚く又は再生させることができる。このため、シールリップ50は、駆動圧室P1内の駆動油圧の発生及び解放が繰り返されても、また、キャンセル圧室P2内の油圧の発生及び解放が繰り返されても、溝53内の作動油の排出及び溝53内への作動油の供給を繰り返すことにより、メインリップ部51の摺動部及びサブリップ部52の摺動部の油膜の維持を図ることができ、メインリップ部51及びサブリップ部52の摩耗をより抑制することができる。高い油圧がメインリップ部51の加わった場合でも、この油圧の解放により溝53内への作動油の供給がなされるので、油圧の大きさに拘わらず上述の効果がなされる。
【0092】
このように、本発明の実施の形態に係るキャンセラシール2によれば、作用する油圧の大きさに拘わらず、シールリップ50の接触部における油膜の減少を抑制することができる。
【0093】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に係る油圧アクチュエータの密封装置としてのピストンシール1又はキャンセラシール2に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0094】
本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置としてのピストンシール1及びキャンセラシール2は、油圧クラッチに適用されるものとしたが、本発明に係る油圧アクチュエータの密封装置の適用対象はこれに限られるものではなく、他の本発明の奏する効果を利用し得るすべての構成に対して、本発明は適用可能である。
【0095】
上述の実施の形態においては、油圧クラッチ100において、本発明の実施の形態に係るピストンシール1及びキャンセラシール2が適用されているが、本発明は、本発明に係るピストンシール及び本発明に係るキャンセラシールの両方が適用される態様に限られない。本発明は、本発明に係るピストンシール及び本発明に係るキャンセラシールのいずれか一方が適用される態様も含む。
【0096】
また、ピストンシール1の外周シールリップ20において、メインリップ部21は、その先端部24に、軸線x方向に延びる溝23に連通する溝27を有していてもよい。具体的には、図15,16に示すように、溝27は、メインリップ部21の先端部24の隅角部24aに設けられており、隅角部24aに内周側に凹んだ部分を形成する溝である。溝27は、軸線xと平行又は略平行に直線又は略直線状に延びている。溝27は、軸線xに対して傾斜して延びていてもよく、また、湾曲して延びていてもよい。溝27は、図5に示す駆動圧室P1内に駆動油圧が発生していない状態において、駆動圧室P1と溝23とを連通し、一方、図6に示す駆動圧室P1内に駆動油圧が発生している状態において、駆動圧室P1と溝23との連通が遮断されるような形状に形成されている。
【0097】
具体的には、駆動圧室P1内の駆動油圧によって、メインリップ部21が溝23側に変形して駆動圧室P1側から凹んで曲がった状態においては、図16に示すように、溝27に接続側(矢印d方向側)で隣接するメインリップ部21の隅角部24aの部分(遮断部24b)が外周筒部113の内周面113aに接触し、溝27の連通がなくなり、駆動油圧が溝27を介して接続側に抜けないように溝27はなっている。一方、駆動油圧が駆動圧室P1に発生していない状態では、駆動油圧によるメインリップ部21の変形は解除されており、遮断部24bは外周筒部113の内周面113aに接触せず、溝27が形成されている部分においてメインリップ部21は外周筒部113の内周面113aに接触し、駆動圧室P1と溝23とが溝27を介して連通するように溝27はなっている。
【0098】
メインリップ部21は、溝27を複数有していてもよく、また、1つのみ有していてもよい。メインリップ部21が溝27を複数有している場合、溝27は周方向に間隔を空けて設けられており、例えば周方向に等角度間隔で設けられている。溝27により、溝23内への作動油の吸い込み及び溝23内からの作動油の吐出しを容易にすることができる。同様に、ピストンシール1の内周シールリップ30のメインリップ部31やキャンセラシール2のシールリップ50のメインリップ部51にこのような軸線x方向に延びる溝27を形成してもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…ピストンシール、2…キャンセラシール、3…ピストン機構、4…弾性体部、10…ピストン、11…受圧部、11a…受圧面、12…クラッチ押圧部、12a…内周面、20…外周シールリップ、21…メインリップ部、22…サブリップ部、23…溝、23a…開口、24…先端部、24a…隅角部、24b…遮断部、25…側面、25a…凹部、26…先端部、26a…外周部、27…溝、30…内周シールリップ、31…メインリップ部、32…サブリップ部、33…溝、33a…開口、34…先端部、34a…隅角部、35…側面、35a…凹部、36…先端部、36a…外周部、40…キャンセルプレート、41…受圧面、42…外周端、50…シールリップ、51…メインリップ部、52…サブリップ部、53…溝、53a…開口、54…先端部、54a…隅角部、55…側面、55a…凹部、56…先端部、56a…外周部、100…油圧クラッチ、110…クラッチシリンダ、111…内周筒部、111a…外周面、112…円盤部、112a…側面、113…外周筒部、113a…内周面、114…空間、115…駆動油孔、116…キャンセル油孔、120…クラッチハブ、121…筒部、130…クラッチ、131…ドライブプレート、132…ドリブンプレート、140…リターンスプリング、141…スナップリング、P1…駆動圧室、P2…キャンセル圧室
図1
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