(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、撥水剤組成物、及び撥水性物品
(51)【国際特許分類】
C08G 63/688 20060101AFI20230519BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230519BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20230519BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C08G63/688
C08K3/36
C08L67/02
C09K3/18 101
(21)【出願番号】P 2019133675
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-06-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第19回慶應科学技術展 KEIO TECHNO-MALL2018、平成30年12月14日、東京国際フォーラム ホールE2
(73)【特許権者】
【識別番号】502435454
【氏名又は名称】株式会社SNT
(73)【特許権者】
【識別番号】506346152
【氏名又は名称】株式会社ベルポリエステルプロダクツ
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 世明
(72)【発明者】
【氏名】慶 奎弘
(72)【発明者】
【氏名】堀田 芳生
(72)【発明者】
【氏名】広辻 潔
(72)【発明者】
【氏名】池本 一輝
(72)【発明者】
【氏名】小池 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】勝間 啓太
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-000974(JP,A)
【文献】特許第4060333(JP,B2)
【文献】特開2012-198012(JP,A)
【文献】特開昭57-212250(JP,A)
【文献】米国特許第04585854(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-64/42
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C09K 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を基材に付着するためのポリエステル樹脂であって、
前記ポリエステル樹脂は、(A)酸成分と(B)アルコール成分との重合体を含み、
前記(A)成分は、前記(A)成分の総量に対して、
テレフタル酸成分を含む、
65モル%~92モル%の(A1)第1の芳香族ポリカルボン酸成分と、
8モル%~20モル%の(A2)第2の芳香族ポリカルボン酸成分と、を含み、
前記(A2)成分は、5-スルホイソフタル酸ナトリウム成分及び5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム成分を含み、
前記(B)成分は、前記(B)成分の総量に対して、
50モル%~90モル%のエチレングリコール成分と、
10モル%~40モル%のネオペンチルグリコール成分と、を含み、
1.33以上の相対粘度値を有する、ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記(A)成分は、前記(A)成分の総量に対して、
2モル%~15モル%の(A3)脂肪族ポリカルボン酸成分をさらに含み、
前記(A3)成分におけるカルボキシ基以外の部分の炭素数が2~8であり、
前記(A1)成分の含有率は、前記(A)成分の総量に対して、65モル%~
90モル%である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記(A3)成分は、コハク酸成分及びアジピン酸成分のうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記(A2)成分は、前記(A)成分の総量に対して、
8モル%~19.5モル%の5-スルホイソフタル酸ナトリウム
成分と、
0.5モル%~5モル%の5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム
成分と、を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記(B)成分は、前記(B)成分の総量に対して、
3モル%~30モル%のジエチレングリコール
成分をさらに含
み、
前記エチレングリコール成分の含有率は、前記(B)成分の総量に対して、50モル%~87モル%である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
3質量%以上の、請求項1~
5のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂と、
疎水性粉末と、
水性溶媒と、を含み、
前記ポリエステル樹脂と前記疎水性粉末の質量比が、前記ポリエステル樹脂1に対して、前記疎水性粉末が3.5以下である、撥水剤組成物。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂の含有率が、撥水剤組成物の質量に対して、10質量%以下である、請求項
6に記載の撥水剤組成物。
【請求項8】
前記疎水性粉末の含有率が、撥水剤組成物の質量に対して、0.5質量%~10質量%である、請求項
6又は
7に記載の撥水剤組成物。
【請求項9】
前記疎水性粉末は、平均一次粒子径5nm~100nmのシリカ粉末である、請求項
6~
8のいずれか一項に記載の撥水剤組成物。
【請求項10】
前記水性溶媒は、水及び低級アルコールのうちの少なくとも1つを含む、請求項
6~
9のいずれか一項に記載の撥水剤組成物。
【請求項11】
前記水性溶媒は、撥水剤組成物の質量に対して、
30質量%~80質量%の水と、
10質量%~55質量%の低級アルコールと、を含む、請求項
10に記載の撥水剤組成物。
【請求項12】
前記低級アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、トリメチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ2-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロビオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及び1,5-ペンタンジオールから選択される少なくとも1つを含む、請求項
10又は
11に記載の撥水剤組成物。
【請求項13】
界面活性剤の含有率が1質量%以下である、請求項
6~
12のいずれか一項に記載の撥水剤組成物。
【請求項14】
揮発性油性成分の含有率が、撥水剤組成物の質量に対して、5質量%以下である、請求項
6~
13のいずれか一項に記載の撥水剤組成物。
【請求項15】
基材と、
前記基材の少なくとも一部に配された、請求項1~
5のいずれか一項のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂と、
前記ポリエステル樹脂によって前記基材に付着され、少なくとも一部が前記ポリエステル樹脂から露出した疎水性粉末と、を含む、撥水性物品。
【請求項16】
前記ポリエステル樹脂及び前記疎水性粉末が配された領域における前記ポリエステル樹脂及び前記疎水性粉末の合計質量が、基材面積1m
2当たり0.1g~10gである、請求項
15に記載の撥水性物品。
【請求項17】
可撓性及び通気性の少なくとも1つを有する、請求項
15又は
16に記載の撥水性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微粒子を基材に付着するためのポリエステル樹脂に関する。本開示は、基材に撥水性を付与するための撥水剤組成物に関する。また、本開示は、撥水性を有する撥水性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
物体表面を撥水処理する撥水剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の撥水剤は、シリコーンオイル、平均粒子径5~20nmの疎水性金属酸化物微粒子、微粒子の結合剤としてのワックス及び/またはパラフィン、界面活性剤、水系溶剤及び水を含む、超撥水性を有するスプレー用撥水剤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、水系組成物は、揮発性油等の有機溶媒を含有する油系組成物に比べて、引火の危険性が低い。このため、水系組成物は、油系組成物に比べて使用者の安全性を高めることができると共に、安全対策に必要なコストを低減することができる。
【0005】
また、基材が有機溶媒に対して溶解性が高い場合、有機溶媒を含有する油系組成物を当該基材に塗布することはできない。このような場合には、当該油系組成物と同様の作用を奏する水系組成物が必要となる。
【0006】
特許文献1に記載のスプレー用撥水剤においては、金属酸化物微粒子を基材に付着させるための接着剤(結合剤)としてワックス及び/又はパラフィンが使用されている。ワックス及びパラフィンは、非水溶性であるので、界面活性剤を用いて撥水剤中に分散させている。しかしながら、界面活性剤は親水性を有するので、添加量が多くなると所望の撥水性を得ることができない。したがって、このような接着剤を用いて、撥水性を付与する水系組成物を作製することは困難である。
【0007】
そこで、酸化物微粒子を基材に接着するための、水系組成物に適用可能な接着剤が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1視点によれば、微粒子を基材に付着するためのポリエステル樹脂が提供される。ポリエステル樹脂は、(A)酸成分と(B)アルコール成分との重合体を含む。(A)成分は、(A)成分の総量に対して、テレフタル酸成分を含む、65モル%~92モル%の(A1)第1の芳香族ポリカルボン酸成分と、スルホイソフタル酸塩成分を含む、8モル%~20モル%の(A2)第2の芳香族ポリカルボン酸成分と、を含む。(A2)成分は、5-スルホイソフタル酸ナトリウム成分及び5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム成分を含む。(B)成分は、(B)成分の総量に対して、50モル%~90モル%のエチレングリコール成分と、10モル%~40モル%のネオペンチルグリコール成分と、を含む。ポリエステル樹脂は、1.33以上の相対粘度値を有する。
【0009】
本開示の第2視点によれば、3質量%以上の、第1視点に係るポリエステル樹脂と、疎水性粉末と、水性溶媒と、を含む、撥水剤組成物が提供される。ポリエステル樹脂と疎水性粉末の質量比が、ポリエステル樹脂1に対して、疎水性粉末が3.5以下である。
【0010】
本開示の第3視点によれば、基材と、基材の少なくとも一部に配された、第1視点に係るポリエステル樹脂と、ポリエステル樹脂によって基材に付着され、少なくとも一部がポリエステル樹脂から露出した疎水性粉末と、を有する、撥水性物品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示のポリエステル樹脂は、微粒子を基材に接着するために用いることができる。本開示のポリエステル樹脂は水に溶解させることができる。これにより、本開示のポリエステル樹脂は、水性組成物に適用することができる。
【0012】
本開示の撥水剤組成物は有機溶媒(アルコール除く)を必要としない。これにより、油溶性の基材に対しても本開示の撥水剤組成物を適用することができる。また、揮発性有機溶媒を使用しないことにより、健康被害、引火等に対して作業者の安全性を高めることができる。防爆設備を必要としないので、安全性に関連するコストを削減することができる。
【0013】
本開示の撥水性物品は、高い撥水性を有する。撥水性を発現する疎水性粉末は、基材に強固に接着されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0016】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(A)成分は、(A)成分の総量に対して、2モル%~15モル%の(A3)脂肪族ポリカルボン酸成分をさらに含む。(A3)成分におけるカルボキシ基以外の部分の炭素数が2~8である。(A1)成分の含有率は、(A)成分の総量に対して、65モル%~92モル%である。
【0017】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(A3)成分は、コハク酸成分及びアジピン酸成分のうちの少なくとも1つを含む。
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(A2)成分は、5-スルホイソフタル酸ナトリウム及び5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウムを含む。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(A2)成分は、(A)成分の総量に対して、 8モル%~19.5モル%の5-スルホイソフタル酸ナトリウムと、0.5モル%~5モル%の5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウムと、を含む。
【0020】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(B)成分は、(B)成分の総量に対して、3モル%~30モル%のジエチレングリコールをさらに含む。
【0021】
上記第2視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂の含有率が、撥水剤組成物の質量に対して、10質量%以下である。
【0022】
上記第2視点の好ましい形態によれば、疎水性粉末の含有率が、撥水剤組成物の質量に対して、0.5質量%~10質量%である。
【0023】
上記第2視点の好ましい形態によれば、疎水性粉末は、平均一次粒子径5nm~100nmのシリカ粉末である。
【0024】
上記第2視点の好ましい形態によれば、水性溶媒は、水及び低級アルコールのうちの少なくとも1つを含む。
【0025】
上記第2視点の好ましい形態によれば、水性溶媒は、撥水剤組成物の質量に対して、30質量%~80質量%の水と、10質量%~55質量%の低級アルコールと、を含む。
【0026】
上記第2視点の好ましい形態によれば、低級アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、トリメチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ2-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロビオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及び1,5-ペンタンジオールから選択される少なくとも1つを含む。
【0027】
上記第2視点の好ましい形態によれば、界面活性剤の含有率が1質量%以下である。
【0028】
上記第2視点の好ましい形態によれば、揮発性油性成分の含有率が、撥水剤組成物の質量に対して、5質量%以下である。
【0029】
上記第3視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂及び疎水性粉末が配された領域におけるポリエステル樹脂及び疎水性粉末の合計質量が、基材面積1m2当たり0.1g~10gである。
【0030】
上記第3視点の好ましい形態によれば、撥水性物品は、可撓性及び通気性の少なくとも1つを有する。
【0031】
以下の説明において、図面参照符号は発明の理解のために付記しているものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。また、図面は、本開示のケイ酸塩被覆体についての理解を助けるためのものであって、図示の形状、寸法、縮尺等図面の形態にケイ酸塩被覆体を限定することを意図するものではない。各実施形態において、同じ要素には同じ符号を付してある。
【0032】
本開示の第1実施形態に係るポリエステル樹脂について説明する。第1実施形態に係るポリエステル樹脂は、微粒子を基材に付着させることに適用可能なポリエステル樹脂である。
【0033】
ポリエステル樹脂は、(A)酸成分と(B)アルコール成分との重合体を含む。本開示において、重合体には、2種類以上の単量体成分から構成される共重合体(コポリマー)、及び架橋重合体(クロスポリマー)も含み得る。本明細書及び特許請求の範囲において、各酸成分及び各アルコール成分には、酸化合物及び/又はアルコール化合物の誘導体(例えばエステル)から生じた成分も含まれ得る。
【0034】
[(A)酸成分]
(A)成分は、(A1)第1の芳香族ポリカルボン酸成分と、(A2)第2の芳香族ポリカルボン酸成分と、を含む。本開示において、ポリカルボン酸とは、カルボキシ基を複数有する化合物のことをいう。
【0035】
[(A1)第1の芳香族ポリカルボン酸成分]
(A1)成分は、芳香環の置換基として、スルホン酸及び/又はその塩を有さない芳香族化合物由来の成分である。(A1)成分としては、例えば、テレフタル酸成分を挙げることができる。テレフタル酸成分は、(A1)成分の主たる成分であると好ましい。テレフタル酸成分は、例えば、(A1)成分の総量に対して、90モル%以上、95モル%以上、98モル%以上、又は100モル%とすることができる。
【0036】
(A1)成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、65モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、78モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、又は90モル%以上とすることができる。(A1)成分が65モル%未満であると、粒子の接着に利用することができない。(A1)成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、92モル%以下、90モル%以下、88モル%以下、85モル%以下、82モル%以下、80モル%以下、又は75モル%以下とすることができる。(A1)成分が92モル%を超えると、水溶性が低下してしまう。
【0037】
[(A2)第2の芳香族ポリカルボン酸成分]
(A2)成分は、芳香環の置換基として、スルホン酸及び/又はその塩を有する芳香族化合物由来の成分である。(A2)成分としては、例えば、5-スルホイソフタル酸誘導体成分を挙げることができる。5-スルホイソフタル酸誘導体成分としては、スルホン酸ナトリウム塩基を有する5-スルホイソフタル酸ナトリウム成分、及びスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩基を有する5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム成分のうちの少なくとも1つであると好ましい。5-スルホイソフタル酸誘導体成分は、(A2)成分の主たる成分であると好ましい。5-スルホイソフタル酸誘導体成分は、例えば、(A2)成分の総量に対して、90モル%以上、95モル%以上、98モル%以上、又は100モル%とすることができる。
【0038】
ポリエステル樹脂が(A2)成分を含有すると、ポリエステル樹脂に水溶性を発現させることができる。一方で、(A2)成分の含有量が増えるにつれて、重合反応時のポリマーの溶融粘度の過剰な上昇が起きる。これは、スルホン酸塩基同士の相互作用が疑似架橋のように作用し、本来のポリマー重合度に依存した溶融粘度以上の過剰な溶融粘度となるためと考えられる。
【0039】
(A2)成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、8モル%以上、10モル%以上、又は12モル%以上とすることができる。(A2)成分が8モル%未満であると、ポリエステル樹脂の水溶性が低くなりすぎてしまう。(A2)成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、25モル%以下、22モル%以下、20モル%以下、15モル%以下、13モル%以下、12モル%以下、又は10モル%以下とすることができる。(A2)成分が25モル%を超えると、ポリエステル樹脂の強度が低下してしまう。
【0040】
(A2)成分は、例えば、5-スルホイソフタル酸ナトリウム成分(以下「ナトリウム塩成分」とも表記する)、及び5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム成分(以下「ホスホニウム塩成分」とも表記する)のうち一方であってもよいし、両方含んでもよい。ホスホニウム塩成分を添加することにより、ナトリウム塩成分に起因する疑似架橋によるポリマーの溶融粘度の過剰な上昇を抑制することができ、合成で得られるポリエステル樹脂の分子量を向上させることができる。ナトリウム塩成分とホスホニウム塩成分のモル比は、ホスホニウム塩成分1モルに対して、ナトリウム塩成分は、1モル以上、2モル以上、3モル以上、4モル以上、又は5モル以上とすることができる。ナトリウム塩成分とホスホニウム塩成分のモル比は、ホスホニウム塩成分1モルに対して、ナトリウム塩成分は、7モル以下、6モル以下、5モル以下、又は4モル以下とすることができる。当該モル比は、例えば、ホスホニウム塩成分1モルに対して、ナトリウム塩成分が3モル~5モルであると好ましい。
【0041】
(A2)成分がナトリウム塩成分及びホスホニウム塩成分を含有する場合、ナトリウム塩成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、8モル%以上、9モル%以上、10モル%以上、又は12モル%以上とすることができる。ナトリウム塩成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、19.5モル%以下、17モル%以下、15モル%以下、12モル%以下、又は10モル%以下とすることができる。ホスホニウム塩成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、0.5モル%以上、1モル%以上、2モル%以上、3モル%以上、又は4モル%以上とすることができる。ホスホニウム塩成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、8モル%以下、7モル%以下、6モル%以下、5モル%以下、4モル%以下、又は3モル%以下とすることができる。
【0042】
(A2)成分は、本開示のポリエステル樹脂の作用を阻害しない範囲において、他の酸成分を含有することができる。
【0043】
[(A3)脂肪族ポリカルボン酸成分]
(A)成分は、(A3)脂肪族ポリカルボン酸成分をさらに含むことができる。(A3)成分としては、例えば、炭素数2~8の脂肪族ポリカルボン酸成分を挙げることができる。脂肪族には、脂環族も含まれ得る。脂肪族ポリカルボン酸成分には、例えば、コハク酸成分、グルタル酸成分、アジピン酸成分、ピメリン酸成分、スベリン酸、アゼライン酸、及びセバシン酸成分のうちの少なくとも1つが含まれ得る。(A3)成分を添加することにより、ポリエステル樹脂の柔軟性を高めることができる。脂肪族ポリカルボン酸成分は、炭素数が大きいほど、ガラス転移温度を低下させる影響が大きく、ひいては耐熱性の低下につながる。このため、ポリエステル樹脂の柔軟性とガラス転移温度のバランスの観点で、(A3)成分は、アジピン酸成分が好ましく、コハク酸成分がさらに好ましい。
【0044】
本開示にいう(A3)成分の炭素数とは、カルボキシ基を除く炭素数(例えば、メチレン基の数に相当)をいう。例えば、コハク酸の炭素数は2である。
【0045】
(A3)成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、2モル%以上、4モル%以上、6モル%以上、又は8モル%以上とすることができる。(A3)成分は、(A)成分の総量に対して、例えば、15モル%以下、12モル%以下、10モル%以下、9モル%以下、8モル%以下、又は5モル%以下とすることができる。(A3)成分が15モル%を超えると、ガラス転移温度が低くなり、室温で軟化してしまうおそれが生じる。
【0046】
(A)成分は、本開示のポリエステル樹脂の作用を阻害しない範囲において、他の酸成分を含有することができる。(A)成分は、例えば、イソフタル酸成分、アゼライン酸成分、セバシン酸成分、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分、4,4′-ビフェニルジカルボン酸成分、1,12-ドデカン酸成分、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸成分、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸成分、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分等をさらに含むことができる。
【0047】
[(B)アルコール成分]
(B)成分は、脂肪族ポリアルコール成分を含む。本開示において、ポリアルコールとは、ヒドロキシ基を複数有する化合物(ポリヒドロキシ化合物)のことをいう。
【0048】
(B)成分は、例えば、炭素数2~6の脂肪族ポリアルコール成分とすることができる。(B)成分としては、例えば、エチレングリコール成分、ネオペンチルグリコール成分、及びジエチレングリコール成分のうちの少なくとも1つとすることができる。(B)成分は、エチレングリコール成分、ネオペンチルグリコール成分、及びジエチレングリコール成分の総量が、例えば、(B)成分の総量に対して、90モル%以上、95モル%以上、98モル%以上、又は100モル%とすることができる。
【0049】
エチレングリコール成分は、例えば、(B)成分の総量に対して、50モル%以上、55モル%以上、58モル%以上、60モル%以上、62モル%以上、又は65モル%以上とすることができる。エチレングリコール成分は、(B)成分の総量に対して、例えば、90モル%以下、87モル%以下、85モル%以下、82モル%以下、80モル%以下、78モル%以下、75モル%以下、又は72モル%以下とすることができる。エチレングリコール成分を主成分とすることにより、接着剤として使用することができる。
【0050】
ネオペンチルグリコール成分は、例えば、(B)成分の総量に対して、8モル%以上、10モル%以上、12モル%以上、15モル%以上、18モル%以上、20モル%以上、又は22モル%以上とすることができる。ネオペンチルグリコール成分が8モル%未満であると、ポリエステル樹脂の水溶性が低下してしまう。ネオペンチルグリコール成分は、(B)成分の総量に対して、例えば、40モル%以下、35モル%以下、30モル%以下、28モル%以下、25モル%以下、22モル%以下、又は20モル%以下とすることができる。ネオペンチルグリコール成分が40モル%を超えると、反応性が低下し、生産性に影響する場合がある。
【0051】
ジエチレングリコール成分は、例えば、(B)成分の総量に対して、3モル%以上、5モル%以上、7モル%以上、又は10モル%以上とすることができる。ジエチレングリコール成分が3モル%未満であると、水溶性が低下してしまう。ジエチレングリコール成分は、(B)成分の総量に対して、例えば、30モル%以下、28モル%以下、25モル%以下、22モル%以下、20モル%以下、又は18モル%以下とすることができる。ジエチレングリコール成分が30モル%を超えると、ガラス転移温度が低下し、耐熱性の観点で好ましくない。
【0052】
(B)成分は、本開示のポリエステル樹脂の作用を阻害しない範囲において、他のアルコール成分を含有することができる。(B)成分は、例えば、プロピレングリコール成分、1,4-ブタンジオール成分、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分等をさらに含むことができる。
【0053】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、本開示の効果を阻害しない範囲において、上述した以外の公知の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、重合触媒、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、離型剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、顔料、染料等を使用することができる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などがある。中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、数種類を組み合わせてもよい。
【0054】
[ポリエステル樹脂の相対粘度値]
本開示のポリエステル樹脂の相対粘度値は、1.33以上であると好ましい。相対粘度値が1.33未満であると、ポリエステル樹脂の塗膜の強度が低くなりすぎてしまう。ポリエステル樹脂の相対粘度値は、1.80以下とすることができる。
【0055】
本開示に示す相対粘度値は、フェノール:テトラクロロエタン=60:40(質量比)の混合溶媒50mlに試料0.5000±0.0005gを溶解させ、溶液温度20℃において、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置を用いて測定することができる。
【0056】
[ポリエステル樹脂のガラス転移温度]
本開示のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、55℃以上、60℃以上、65℃以上、又は70℃以上とすることができる。本開示のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、例えば、110℃以下とすることができる。
【0057】
本開示にいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定(DSC;Differential Scanning Calorimetry)におけるガラス転移による吸熱挙動の中間点温度をいう。
【0058】
[ポリエステル樹脂の水溶解性]
本開示のポリエステル樹脂は水に対して溶解性(水溶性)を有する。本開示にいう水溶性とは、80℃の以上の熱水に対して、ポリエステル樹脂濃度が10質量%以上となるようにポリエステル樹脂を溶解できることをいう。
【0059】
[ポリエステル樹脂の製造方法]
本開示の第1実施形態に係るポリエステル樹脂の製造方法について説明する。本開示のポリエステル樹脂は、公知の方法で製造することができる。
【0060】
まず、例えば、酸成分とアルコール成分との直接エステル化反応、あるいは、酸成分のエステル誘導体(例えば、酸成分のジメチルエステル化合物)とアルコール成分とのエステル交換反応によってエステルプレポリマーを生成する。酸成分及びアルコール成分の配合割合は、上述の本開示のポリエステル樹脂に示した含有割合が得られるように適宜調整する。通常は、酸成分に対してアルコール成分を過剰に加え、エステル化反応又はエステル交換反応後の、減圧重合にて過剰分のグリコールを留去して所定の分子量のポリマーを得る。アルコール成分の過剰割合は、全酸成分に対する全アルコール成分のモル比が1.05~2.50程度となるように設定することができる。エステル化反応又はエステル交換反応は、例えば、加熱装置、攪拌機及び留出管を備えた反応槽に原料を仕込み、必要に応じて反応触媒を加えて大気圧不活性ガス雰囲気下で攪拌しつつ昇温し、反応により生じた水、メタノール等の副生物を留去しながら反応を進行させることにより行うことができる。反応温度は、例えば、150℃~270℃、好ましくは220℃~260℃とすることができる。反応時間は、例えば、3~7時間とすることができる。本開示のポリエステル樹脂は生産効率の観点から、エステル化反応を選択すると好ましい。
【0061】
一般に、ポリエステル樹脂の合成時には、副反応としてエチレングリコールの多量体としてジエチレングリコールの発生が伴う。特に本開示のようにスルホン酸塩基含有単量体を用いる際は、このジエチレングリコールの副反応が顕著に表れるため、その抑制剤として、合成初期に、有機塩基化合物を添加して、ジエチレングリコールの含有量を制御することができる。有機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。有機塩基の添加量は、生成するポリエステル樹脂の質量に対して、50ppm~3000ppmとすることが好ましい。
【0062】
エステル交換反応における触媒としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、チタン、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、スズ、コバルト等、公知の金属化合物を1種以上使用することができる。エステル交換反応の場合、反応性及び得られる樹脂の色調の観点から、特にカルシウム化合物及びマンガン化合物が好ましい。エステル交換触媒の添加量は、例えば、生成するポリエステル樹脂の質量に対して、5ppm~1000ppm、好ましくは10ppm~500ppmとすることができる。
【0063】
次の重合工程を円滑にするために、エステル化反応又はエステル交換反応が終了した後にリン化合物を添加すると好ましい。リン化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等を挙げることができる。このうち、リン酸、又はトリエチルホスフェートがより好ましい。リン化合物の添加量は、生成するポリエステル樹脂の質量に対して、例えば、10ppm~2000ppm、好ましくは20ppm~1500ppmとすることができる。
【0064】
次に、エステル交換反応又はエステル化反応につづいて、エステルプレポリマーに重合触媒を添加して、所望の分子量となるまでさらに重縮合反応を行うことができる。槽内の圧力は、例えば、常圧雰囲気下から最終的には2.6kPa以下、好ましくは1.3kPa以下まで減圧することができる。槽内の温度は、例えば、220~250℃から徐々に昇温し、最終的には250~290℃、好ましくは260~280℃まで昇温することができる。溶融粘度が所定のトルクに到達した後、槽底部から反応物を押し出して回収することができる。例えば、反応生成物を水中にストランド状に押し出し、冷却した上で、カッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0065】
重合触媒としては、公知の触媒を使用することができる。好ましい重合触媒としては、例えば、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム等の金属化合物を挙げることができる。反応性、触媒物質の生体に対する安全性、及び色調の観点から特にチタン化合物及びゲルマニウム化合物が好ましい。重合触媒の添加量は、例えば、生成するポリエステル樹脂の質量に対して、10ppm~1000ppm、好ましくは100ppm~800ppmとすることができる。
【0066】
本開示のポリエステル樹脂の製造方法においては、用途及び成形目的に応じて、滑剤、離型剤、熱安定剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を適宜配合することができる。これらの添加剤は、反応工程及び成形加工工程のいずれの工程において配合してもよい。
【0067】
第1実施形態に係るポリエステル樹脂は、粉末を基材に対して強固に付着させることができる。すなわち、第1実施形態に係るポリエステル樹脂によれば、粉末が基材から剥がれることを抑制することができる。
【0068】
第1実施形態に係るポリエステル樹脂は水溶性であるので、水性組成物に適用することができる。例えば、第1実施形態に係るポリエステル樹脂は、第2実施形態に係る撥水剤組成物において接着剤として添加することができる。
【0069】
水性組成物において、第1実施形態に係るポリエステル樹脂は粉末の分散剤としての作用も有することができる。水性組成物において、第1実施形態に係るポリエステル樹脂は増粘剤としての作用も有することができる。
【0070】
第1実施形態に係るポリエステル樹脂を用いて形成された塗膜は、柔軟性を有する。例えば、第1実施形態に係るポリエステル樹脂は、可撓性の基材に適用することができる。
【0071】
本開示の第2実施形態に係る撥水剤組成物について説明する。撥水剤組成物は、基材に塗布され、乾燥すると、基材に撥水性を付与することができる。
【0072】
第2実施形態に係る撥水剤組成物は、第1実施形態に係るポリエステル樹脂と、疎水性粉末(疎水性粒子)と、水性溶媒と、を含む。
【0073】
[ポリエステル樹脂]
撥水剤組成物中のポリエステル樹脂については、上記記載を援用し、ここでの説明は省略する。第2実施形態に係る撥水剤組成物において、第1実施形態に係るポリエステル樹脂は、疎水性粉末(粒子)を基材に付着させる接着剤として作用する。また、ポリエステル樹脂は、撥水剤組成物中において、疎水性粉末(粒子)を分散させるための分散剤として作用していると考えられる。ポリエステル樹脂は、撥水剤組成物中において、増粘剤として作用していると考えられる。
【0074】
撥水剤組成物中のポリエステル樹脂の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、又は6質量%以上とすることができる。ポリエステル樹脂が3質量%未満であると、疎水性粉末を基材に強固に付着させることが困難となる。撥水剤組成物中のポリエステル樹脂の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、12質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、又は6質量%以下とすることができる。ポリエステル樹脂が12質量%を超えると、ポリエステル樹脂が疎水性粉末を被覆してしまい、撥水性を発現させることができなくなってしまう。
【0075】
[疎水性粉末]
疎水性粉末(疎水性粒子)は、撥水性組成物が基材に塗布されて乾燥した後に、基材に撥水性を発現させるためのものである。疎水性粉末としては、撥水性を発現できるものであれば無機物質であってもよいし、有機物質であってもよい。無機粉末としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等を使用することができる。疎水性粉末は、無機基体粒子及び/又は有機基体粒子の表面を撥水性物質(例えばシランカップリング剤)で被覆したものであってもよい。疎水性粉末は、親水性粒子の表面を疎水化処理した粉末であってもよい。
【0076】
疎水性粉末の平均一次粒子径は、例えば、5nm以上とすることができる。疎水性粉末の平均一次粒子径は、例えば、100nm以下、50nm以下、又は20nm以下とすることができる。疎水性粉末における粒子形状は、例えば、球状とすることができる。
【0077】
疎水性粉末の市販品としては、例えば、日本アエロジル株式会社製、アエロジルR972、972V、R972CF、R974、R812、R805、RX200、RX300、RY200(いずれも疎水性シリカ)等を使用することができる。なかでもアエロジルR972、RX200が好ましい。
【0078】
撥水剤組成物中の疎水性粉末の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、又は6質量%以上とすることができる。疎水性粉末が0.5質量%未満であると、基材に十分な撥水性を付与することができない。撥水剤組成物中の疎水性粉末の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、10質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、又は5質量%以下とすることができる。疎水性粉末が10質量%を超えると、塗膜の基材に対する接着性が低下してしまう。
【0079】
[ポリエステル樹脂と疎水性粉末の質量比]
撥水剤組成物におけるポリエステル樹脂と疎水性粉末の質量比は、ポリエステル樹脂1に対して、疎水性粉末が0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.8以上、又は1以上とすることができる。ポリエステル樹脂の量に対して疎水性粉末が少なすぎると、ポリエステル樹脂から疎水性粉末が露出する量が少なくなり、撥水性が低下してしまう。撥水剤組成物におけるポリエステル樹脂と疎水性粉末の質量比は、ポリエステル樹脂1に対して、疎水性粉末が3.5以下、3以下、2.5以下、2以下、1.8以下、1.5以下、1.2以下、又は1以下とすることができる。ポリエステル樹脂の量に対して疎水性粉末が多すぎると、基材に接着されない疎水性粉末が生じてしまう。
【0080】
[水性溶媒]
水性溶媒は、疎水性粉末を基材に塗布ないし適用するための媒体となり得るものであればよい。水性溶媒は、疎水性粉末を溶解しないもの、及び疎水性粉末と反応しないものであると好ましい。水性溶媒は、水及び低級アルコールのうちの少なくとも1つを含むことができる。低級アルコールは、炭素数6以下のモノアルコール及び/又はポリアルコールである。低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、トリメチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(ヘキシレングリコール)、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル(ETB)、3-メトキシ-3-メチルブタノール(ソルフィット(登録商標))、1-メトキシ-2-プロパノール(PGM)、1-エトキシ2-プロパノール(PE)、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロビオネート(メトテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルジグリコール)、及び1,5-ペンタンジオール(ペンタメチレングリコール)からなる群から選択される少なくとも1つを挙げることができる。このうち、例えば、水性溶媒は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びエタノールのうちの少なくとも1つを含むことができる。水性溶媒は、水と低級アルコールの両方を含むことができる。
【0081】
撥水剤組成物中の水の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、30質量%以上、35質量%以上、又は40質量%以上とすることができる。撥水剤組成物中の水の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、又は50質量%以下とすることができる。
【0082】
撥水剤組成物中の低級アルコールの含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、10質量%以上、15質量%以上、又は20質量%以上とすることができる。撥水剤組成物中の低級アルコールの含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、又は40質量%以下とすることができる。
【0083】
撥水剤組成物中の水性溶媒の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、70質量%以上、75質量%以上、又は80質量%以上とすることができる。撥水剤組成物中の水性溶媒の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、又は80質量%以下とすることができる。
【0084】
撥水剤組成物は、引火性の高い揮発性油性成分(有機溶媒)(低級アルコール含まない)を含有しないことができる。撥水剤組成物中の揮発性油性成分の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下とすることができ、撥水剤組成物は揮発性油性成分を実質的に含有しないと好ましい。揮発性油性成分を含有しないことにより、安全性を高めることができると共に、安全を確保するためのコストを低減させることができる。
【0085】
本開示の撥水剤組成物においては、第1実施形態に係るポリエステル樹脂でもって疎水性粉末を基材に接着させる。このため、疎水性粉末を接着させるためのワックス、パラフィン等の非水溶性(疎水性)接着剤は必要としない。撥水剤組成物中の非水溶性接着剤の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下とすることができる。撥水剤組成物は、実質的に非水溶性接着剤を含有しないと好ましい。非水溶性接着剤の含有量が少ないと界面活性剤の添加量を少なくすることができる。これにより、界面活性剤に起因する撥水性の低下を抑制することができる。
【0086】
撥水剤組成物中の界面活性剤の含有率は、例えば、撥水剤組成物の質量に対して、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下とすることができる。撥水剤組成物は、実質的に界面活性剤を含有しないと好ましい。界面活性剤の含有率が高いと、親水性の効果が高くなり、撥水性が低下してしまうからである。
【0087】
本開示の第2実施形態に係る撥水剤組成物の製造方法について説明する。
【0088】
第2実施形態に係る撥水剤組成物は、上記各成分を混合することによって製造することができる。例えば、撥水剤組成物の製造方法は、まず、第1実施形態に係るポリエステル樹脂の水溶液を作製する工程を有することができる。ポリエステル樹脂の水溶液は、例えば、水とポリエステル樹脂の混合物を加熱してポリエステル樹脂を水に溶解させてもよいし、80℃以上の水にポリエステル樹脂を添加してポリエステル樹脂を水に溶解させてもよい。撥水剤組成物の製造方法は、次に、ポリエステル樹脂水溶液に、疎水性粉末及び水性溶媒を添加及び混合する工程を有することができる。これにより、撥水剤組成物を製造することができる。混合する順序は、上述の順序に限定されるものではなく、任意の順序を選択することができる。
【0089】
本開示の撥水剤組成物によれば、撥水性組成物を適用した基材領域に撥水性を付与することができる。本開示の撥水剤組成物は水性組成物であるが、疎水性粉末を基材に強固に接着させることができる。すなわち、本開示の撥水剤組成物によれば、耐久性の高い撥水性被膜を基材に形成することができる。
【0090】
本開示の撥水剤組成物においては、第1実施形態に係るポリエステル樹脂で疎水性粉末を基材に接着させる。これにより、疎水性粉末を基材に接着するためのワックス及びパラフィン等の非水溶性接着剤を使用していない。このため、非水晶性接着剤を分散させるための界面活性剤を必ずしも必要としないか、あるいは、界面活性剤の含有率を低くすることができる。これにより、界面活性剤による親水性によって撥水性の低下を抑制することができる。
【0091】
本開示の撥水剤組成物は、揮発性油性成分(例えば、トルエン、メチルエチルケトン等)を必要としない。したがって、本開示の撥水剤組成物は、このような揮発性油性成分を含む油系撥水剤組成物に比べて、揮発ガスによる健康被害、揮発ガスの引火の危険性等に対する作業者の安全性を高めることができる。本開示の撥水剤組成物によれば、使用環境において防爆設備が不要となるので、安全性に関するコストを削減することができる。また、油性溶媒を使用する必要がないので、塗布処理によって生じた排液処理が容易になると共に、排液処理に要するコストを低減することができる。
【0092】
本開示の撥水剤組成物は、揮発性油性成分を必要としない。これにより、撥水剤組成物製造時及び/又は使用時における排液処理が容易となる。
【0093】
本開示の撥水剤組成物は、有機溶媒に対して耐性の低い基材に対して適用することができる。
【0094】
本開示の撥水剤組成物から作製された撥水性被膜は透明性を有することができる。例えば、基材のデザインが見えるように撥水性被膜を形成することができる。本開示の撥水剤組成物は、透明性を有する撥水性物品を作製する場合にも適用することができる。
【0095】
本開示の第3実施形態に係る撥水性物品について説明する。
図1に、本開示の撥水性物品の概略断面図を示す。撥水性物品10は、表面の少なくとも一部が撥水処理された物品である。例えば、撥水性物品10は、少なくとも表面の一部を第2実施形態に係る撥水剤組成物で処理された物品である。
【0096】
第3実施形態に係る撥水性物品10は、基材1と、基材1の少なくとも一部に配されたポリエステル樹脂2と、ポリエステル樹脂2によって基材1に付着された疎水性粉末3と、を備える。
【0097】
基材1は、用途及び/又は目的に応じて、例えば、金属、セラミック、ガラス、樹脂、布、紙等を選択することができる。基材1の形状及び/又は寸法も特に限定されない。基材1は、例えば、板状、多孔質、繊維等であることができる。
【0098】
ポリエステル樹脂2は、第1実施形態に係るポリエステル樹脂とすることができる。ポリエステル樹脂2については、上記記載を援用する。ポリエステル樹脂2は、基材1上に膜の形態で存在することができる。ポリエステル樹脂2の平均膜厚は、疎水性粉末3の平均粒子径以下であると好ましい。
【0099】
疎水性粉末3は、第2実施形態に係る撥水剤組成物における疎水性粉末とすることができる。疎水性粉末3については、上記記載を援用する。疎水性粉末3は、ポリエステル樹脂2によって基材1に付着されている。疎水性粉末3の少なくとも一部は、ポリエステル樹脂2から露出している。すなわち、撥水性物品10が水に濡れたときに、疎水性粉末3の少なくとも一部が水と接触するように構成されている。
【0100】
ポリエステル樹脂2及び疎水性粉末3を有する撥水性被膜が形成された領域において、撥水性被膜の密度は、面積1m2当たり、0.1g以上であると好ましく、0.5g以上であると好ましく、0.8g以上であるとさらに好ましい。撥水性被膜の密度は、面積1m2当たり、1g以上、1.5g以上、2g以上、2.5g以上、3g以上、3.5g以上、4g以上、4.5g以上、又は5g以上とすることができる。撥水性被膜の密度は、面積1m2当たり、7g以下、6g以下、5g以下、4g以下、3g以下、2.5g以下、2g以下、1.5g以下、又は1g以下とすることができる。
【0101】
撥水性被膜中のポリエステル樹脂2及び疎水性粉末3の各含有率(ポリエステル樹脂2及び疎水性粉末3の各密度)は、撥水剤組成物における上述のポリエステル樹脂と疎水性粉末の質量比から算出することができる。
【0102】
単位面積当たりのポリエステル樹脂2及び/又は疎水性粉末3の分布量(撥水性被膜のの密度)が、撥水性物品10の構造又は特性により直接特定することが不可能である場合には、撥水性物品の製造方法によって特定すること、すなわち単位面積当たりの撥水剤組成物の塗布量から、ポリエステル樹脂2及び/又は疎水性粉末3の分布量を算出することが許されるべきである。すなわち、単位面積当たりのポリエステル樹脂2及び/又は疎水性粉末3の分布量は、例えば、撥水剤組成物の塗布量、並びに撥水剤組成物中の疎水性粉末3及び/又はポリエステル樹脂2の含有率(及びポリエステル樹脂と疎水性粉末の質量比)から算出することができる。
【0103】
第3実施形態に係る撥水性物品10における疎水性粉末3が配された領域における水の接触角は、135度以上、140度以上、145度以上、又は150度以上を有することができる。水の接触角は、例えば、JISR3257に準拠した静滴法により、測定対象に10μLの水滴を滴下し、測定対象と水滴の接点における接線と水平線のなす角度を顕微鏡やデジタルカメラなどで撮像し、画像解析を行うことで測定することができる。
【0104】
本開示の第3実施形態に係る撥水性物品の製造方法及び第2実施形態に係る撥水剤組成物の使用方法について説明する。撥水性物品の製造方法は、基材1を準備する工程と、第2実施形態に係る撥水剤組成物を準備する工程と、撥水剤組成物を基材1に塗布する工程と、撥水剤組成物を塗布した基材1を乾燥させる工程と、を含むことができる。
【0105】
撥水剤組成物を塗布する方法は特に限定されず、公知の塗布方法、製膜方法等を使用することができる。例えば、撥水剤組成物は、スプレー、スピンコーティング、ディッピング、ローラー、筆・刷毛等によって基材に塗布することができる。撥水剤組成物は、基材1に塗布する前に、用途及び/又は目的に応じて、濃縮してもよいし、希釈してもよい。希釈は、例えば、上述の水性溶媒で行うことができる。
【0106】
乾燥方法は、基材1に塗布した疎水性粉末3及びポリエステル樹脂2、並びに基材1に悪影響が及ばない方法であれば特に限定されない。例えば、撥水剤組成物は、自然乾燥、加熱、送風等によって乾燥させることができる。
【0107】
単位面積当たりの撥水剤組成物の塗布量は、所望のポリエステル樹脂2及び/又は疎水性粉末3の分布密度(撥水性被膜のの密度)が得られるように、撥水剤組成物の組成に応じて決定することができる。
【0108】
第3実施形態に係る撥水性物品は、高い撥水性を有している。第3実施形態に係る撥水性物品における撥水性は、持続性(耐久性)を有している。また、本開示の撥水剤組成物から作製された撥水性被膜は可撓性を有し、基材が可撓性を有する場合であっても撥水性を維持することができる。すなわち、撥水性物品は可撓性を有することができる。また、撥水性被膜は透明性を有するので、撥水性物品も透明性を有することができる。基材が通気性を有する場合、撥水性被膜の形態に応じて撥水性物品は通気性を有することができる。
【0109】
本開示のポリエステル樹脂、撥水剤組成物及び撥水性物品がその組成、構造、特性等によって直接特定することが困難であるか、又はおよそ実際的ではない場合がある。このような場合には、これらの製造方法によって本開示のポリエステル樹脂、撥水剤組成物及び撥水性物品を特定することが許されるべきものである。
【実施例】
【0110】
以下に、本開示のポリエステル樹脂、撥水剤組成物及び撥水性物品、並びにこれらの製造方法について、例を挙げて説明する。しかしながら、ポリエステル樹脂、撥水剤組成物及び撥水性物品、並びにこれらの製造方法は、以下の例に限定されるものではない。
【0111】
[試験例1~14]
本開示のポリエステル樹脂を作製し、組成、相対粘度値及びガラス転移温度を測定した。また、各ポリエステル樹脂の水に対する溶解性を確認した。以下に、各評価項目の測定方法について説明する。表1に、各ポリエステル樹脂の組成及び評価を示す。
【0112】
[ポリエステル樹脂の製造]
攪拌機、留出管及び減圧装置を装備した反応器内に、(A)成分のうち(A2)スルホン塩含有芳香族ジカルボン酸成分以外の各カルボン酸化合物及び(B)成分のアルコール化合物を投入し、窒素置換した後、150℃から230℃まで2時間かけて昇温させた。その後、内温を230℃から260℃へと引き上げながら、5時間エステル化反応を行った。エステル化によって生じた反応水は、留出管を通して系外に取出て捕集した。理論的に計算される反応水量と、実際の留出反応水量の推移を比較し、反応水量が90%以上をエステル化反応終了の目安とした。つづいて、生成するポリエステル樹脂の質量に対して、リン酸30ppm、二酸化ゲルマニウム300ppm、(A2)スルホン塩含有芳香族ジカルボン酸成分とエチレングリコールのエステル誘導体を投入し、重縮合反応を開始した。90分後に2.6kPa以下まで減圧し、この間に内温を250℃から270℃へと昇温させ、1.3kPa以下の真空下で所定の粘度となるまで撹拌して重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂をストランド状に水中に押し出してカットし、ペレット状にした。得られたポリエステル樹脂の組成及び評価物性を表1に示す。表1において、各化合物は上記略語で表してある。ただし、ジエチレングリコールはエステル化工程によって生成された副生成物である。
【0113】
[組成]
ポリエステル樹脂のプロトンNMRスペクトルを測定して、ポリエステル樹脂中の各成分の含有率を定量した。
【0114】
[相対粘度]
各組成物の相対粘度値は、1,1,2,2-テトラクロロエタンとフェノールの混合溶媒(1,1,2,2-テトラクロロエタン:フェノール=40:60(質量比))50mlに各組成物0.5000±0.0005gを溶解させた溶液を作製して、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置を用いて20℃における、溶媒の流下時間に対する試験溶液の流下時間の比(試験溶液の流下時間/溶媒の流下時間)から求めた。
【0115】
[ガラス転移温度(Tg)]
ポリエステル樹脂組成物10mgを秤量し、走査型示差熱量測定装置DSCを用いて、ポリエステル樹脂試料を窒素雰囲気中、270℃にて3分間等温保持し、270℃から0℃まで、200℃/分で冷却した後、0℃から10℃/分で昇温しながら吸熱挙動を観察し、ガラス転移による吸熱挙動の中間点温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0116】
[水に対する溶解性]
撹拌子を入れた冷却管付の三角フラスコに、90質量%の水及び10質量%のポリエステル樹脂を添加して、温度調節機能付きマグネチックスターラーにて撹拌しながら、沸騰状態(100℃)となるように加熱し、ポリエステル樹脂がすべて溶解可能かを確認した。以下に、評価基準を示す。
A:ポリエステル樹脂がすべて水に溶解した;
B:水に溶解されないポリエステル樹脂が残存した。
【0117】
[接着性]
80℃以上の水に、10質量%となるようにポリエステル樹脂を溶解させ、ポリエステル樹脂水溶液を作製した。ポリエステル樹脂水溶液をポリエステルフィルム基材に塗布し、15g/m2のポリエステル樹脂膜を形成した。形成されたポリエステル樹脂膜に、JISZ1522(2009)で規定されたセロテープ(登録商標)12mm(ニチバン:CT-12)を貼付後、セロテープを剥がし、基板上にポリエステル樹脂膜の剥離の有無を確認した。以下に、評価基準を示す。
A:ポリエステル樹脂が基材からほとんど剥がれなかった;
B:ポリエステル樹脂が基材からすこし剥がれた;
C:ポリエステル樹脂が基材からほとんど剥がれた。
【0118】
[柔軟性]
上記接着性試験と同様にして、可撓性を有するポリプロピレン不織布基材上にポリエステル樹脂膜を形成し、基材の可撓性が維持されているかを確認した。以下に、評価基準を示す。
A:ポリエステル樹脂膜を形成した基材は、基材自体と同様の柔軟性を有した;
B:ポリエステル樹脂膜を形成した基材は、基材よりも少し硬くなった;
C:ポリエステル樹脂膜に割れや剥離が生じた。
【0119】
第2の芳香族ポリカルボン酸である5-スルホイソフタル酸ナトリウムが8モル%以下であり、ネオペンチルグリコールを含有していない試験例1及び2のポリエステル樹脂は、水に対する溶解性を有していなかった。しかしながら、5-スルホイソフタル酸ナトリウムが8モル%以上であり、アルコール成分にネオペンチルグリコールを10モル%以上添加した試験例3~14においては、ポリエステル樹脂は、水に対する溶解性を有することができた。これより、ポリエステル樹脂の水溶解性を確保するために、第2の芳香族ポリカルボン酸成分は、酸成分の総量に対して8モル%以上であると好ましいと考えられる。第2の芳香族ポリカルボン酸成分は、酸成分の総量に対して25モル%以下とすることができると考えられる。ネオペンチルグリコールは、アルコール成分の総量に対して8モル%以上であると好ましいと考えられる。
【0120】
試験例3においては、第2の芳香族ポリカルボン酸が5-スルホイソフタル酸ナトリウム成分(ナトリウム塩成分)単独でも水溶解性を確保することができた。試験例4~5及び7~14において、ナトリウム塩成分に加えて5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム成分(ホスホニウム塩成分)をさらに添加すると、後述の試験例15~36において示したように、剥離試験に対する耐性を高めることができた。これより、ホスホニウム塩成分は、酸成分の総量に対して0.5モル%以上であると好ましいと考えられる。ホスホニウム塩成分は、酸成分の総量に対して8モル%以下とすることができると考えられる。ナトリウム塩成分の割合は、ホスホニウム塩成分の1倍以上とすることができると考えられる。ナトリウム塩成分の割合は、ホスホニウム塩成分の7倍以下とすることができると考えられる。
【0121】
試験例6のポリエステル樹脂は、相対粘度値が1.33未満であり、後述の試験例22において、試験例6のポリエステル樹脂は基材に対する接着性が低かった。これより、ポリエステル樹脂の相対粘度値は1.33以上であると好ましいと考えられる。
【0122】
脂肪族ポリカルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を添加した試験例9~14のポリエステル樹脂は、試験例3~8のポリエステル樹脂よりも柔軟性を高めることができた。特にコハク酸を添加した試験例9~12及び14のポリエステル樹脂は接着性も高めることができた。これより、炭素数2~8の脂肪族ポリカルボン酸成分は、酸成分の総量に対して2モル%以上であると好ましい。試験例9~12においては、コハク酸の添加量を少なくするとガラス転移温度が上昇する傾向があった。これより、ポリエステル樹脂の耐熱性を高めるためには、炭素数2~8の脂肪族ポリカルボン酸成分は、酸成分の総量に対して20モル%以下であると好ましく、15モル%以下であるとより好ましく、10モル%以下であるとより好ましく、8モル%以下であるとより好ましいと考えられる。
【0123】
【0124】
【0125】
[試験例15~36]
上記試験例のポリエステル樹脂を用いて撥水剤組成物を作製した。各撥水剤組成物について、撥水膜形成後の撥水性及び剥離試験後の撥水性を試験した。
【0126】
80℃以上に加熱した水にポリエステル樹脂を添加してポリエステル樹脂水溶液を作製した。次に、ポリエステル樹脂水溶液に、疎水性シリカ及び水性溶媒の各成分を添加し、混合した。これにより、撥水剤組成物を作製した。各試験例に係る組成を表3~表5に示す。配合割合は質量%で表記してある。疎水性粉末としては、平均一次粒子径12nmの疎水性シリカを使用した。表3~5におけるポリエステル樹脂の括弧中の数字は、上記試験例1~14の試験例番号を示している。すなわち、試験例16~21において使用したポリエステル樹脂は、試験例3のポリエステル樹脂である。試験例22において使用したポリエステル樹脂は、試験例6のポリエステル樹脂である。試験例23~26において使用したポリエステル樹脂は、試験例9のポリエステル樹脂である。試験例27及び28において使用したポリエステル樹脂は、試験例11のポリエステル樹脂である。試験例29~36において使用したポリエステル樹脂は、それぞれ、試験例4、5、7、8、10、12、13及び14のポリエステル樹脂である。水性溶媒としては、水、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(表において「BDG」と略記する)、エチレングリコールモノブチルエーテル(表において「BG」と略記する)、及びエタノールのうち、少なくとも1つを使用した。
【0127】
作製した撥水剤組成物をポリエステルフィルム基材に、コーターバー6番を用いて塗布量が2.5g/m2となるように塗布し、乾燥させて、均一な厚さを有する撥水性被膜が被覆された基板(本開示の撥水性物品に相当)を作製した。
【0128】
[撥水性試験]
撥水性被膜上に10μLの水を滴下し、接触角計(協和界面科学社製CA-DT)を用いて撥水性被膜に対する水の接触角を測定した。撥水性被膜の撥水性を以下の基準により評価した。
A:接触角が150度以上であった;
B:接触角が135度以上150度未満であった;
C:接触角が135度未満であった。
【0129】
[剥離後撥水性試験]
次に、ポリエステルフィルム基材上の撥水性被膜にセロテープ(登録商標)12mm(ニチバン:CT-12)を貼った後、剥がした。テープによって疎水性シリカが基材から剥がれた場合、撥水性は低下する。一方、疎水性シリカがポリエステル樹脂によって基材に強固に接着されており、基材上に残存していた場合には、撥水性が維持されることになる。そこで、テープを剥がした領域にスポイトで水滴を滴下し、撥水性被膜の撥水性を以下の基準により評価した。
A:水滴を滴下した箇所は水を全て弾いた。;
B:水滴を滴下した箇所の一部で水の付着が見られた;
C:水滴を滴下した箇所の全てで水の付着が見られた。
【0130】
疎水性シリカを2質量%配合した試験例15に係る撥水剤組成物から作製した撥水性物品においては、高い撥水性が得られた。これより、撥水性粉末は、撥水剤組成物の質量に対して、0.5質量%以上であると好ましく、1質量%以上であるとより好ましいと考えられる。また、疎水性シリカは、少なくとも、5質量%までは配合可能であった。
【0131】
しかしながら、ポリエステル樹脂を配合しなかった試験例15においては、テープ剥離によって疎水性シリカが基板から剥がれてしまったため、剥離試験後の撥水性は得られなかった。本開示のポリエステル樹脂を2質量%配合した試験例17においても同様に剥離試験後の撥水性は得られなかった。一方、本開示のポリエステル樹脂を4質量%配合した試験例18においては、剥離試験後においても十分な撥水性が得られた。これは、本開示のポリエステル樹脂が疎水性シリカの剥がれを抑制できたためと考えられる。これより、本開示のポリエステル樹脂は、撥水剤組成物の質量に対して、3質量%以上であると好ましく、4質量%以上であるとより好ましいと考えられる。また、ポリエステル樹脂は、少なくとも、9質量%までは配合可能であった。
【0132】
試験例16においては、疎水性シリカを2質量%配合してあっても、十分な撥水性は得られなかった。これは、疎水性シリカの量に対してポリエステル樹脂の量が多かったために、疎水性シリカがポリエステル樹脂に被覆されて、疎水性シリカの露出量が低下してしまったためであると考えられる。一方、試験例17~36に係る撥水剤組成物から作製した撥水性物品は、いずれも撥水性に問題は生じなかった。試験例17~36においては、疎水性シリカの微粒子の少なくとも一部は、基材においてポリエステル樹脂から露出していると考えられる。これより、撥水剤組成物におけるポリエステル樹脂と疎水性粉末の質量比は、ポリエステル樹脂1に対して、疎水性粉末が3.5以下であると好ましく、3以下であるとより好ましいと考えられる。撥水剤組成物におけるポリエステル樹脂と疎水性粉末の質量比は、ポリエステル樹脂1に対して、疎水性粉末が少なくとも0.2あればよいとと考えられる。
【0133】
また、上述の接着性試験の結果が良好であった試験例3~14のポリエステル樹脂を用いた試験例18~36においては、試験例22を除いて、剥離試験後の撥水性も良好であった。この結果は、ポリエステル樹脂がテープ剥離後も基材に疎水性シリカを残存させることができたためであると考えられる。試験例22においては、ポリエステル樹脂の低い相対粘度に起因して、ポリエステル樹脂が疎水性シリカの剥がれを抑制できなかったと考えられる。これより、相対粘度値が1.33以上である接着性の高い本開示のポリエステル樹脂が、本開示の撥水剤組成物に好適に適用できると考えられる。
【0134】
試験例3のポリエステル樹脂を使用した試験例16~21と、試験例4~14のポリエステル樹脂を使用した試験例23~36とを比較すると、試験例23~36のほうが全体として剥離後撥水性の結果がよかった。試験例4~14のポリエステル樹脂においては、第2の芳香族ポリカルボン酸成分に5-スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム成分が含まれている。このホスホニウム成分が5-スルホイソフタル酸ナトリウム成分に起因する疑似架橋を抑制し、ポリエステル樹脂の強度を高めることができたために、試験例23~36のほうが剥離後撥水性が高くなったと考えられる。
【0135】
試験例18~36に係る撥水剤組成物は、揮発性油性溶媒を含有していない。このため、撥水剤組成物作製時及び塗布時における作業者の安全性を確保することができる。また、防爆設備が不要となり、安全性に関連するコストを削減することができる。また、揮発性油性溶媒を使用していないので、排液処理を容易にすることができる。さらに、本開示の撥水剤組成物は、油溶性の基材に対しても撥水性膜を被覆することができる。
【0136】
試験例18~36において作製した撥水性物品は、いずれもポリエステルフィルム基材と同様の柔軟性を有していた。試験例3~5及び7~14において示したように、本開示のポリエステル樹脂は、高い柔軟性を有する。これにより、本開示の撥水剤組成物は、高い柔軟性を有する基材に適用することができる。すなわち、本開示の撥水剤組成物による撥水性被膜を有する物品は、基材自体が有する柔軟性を維持することができる。また、基材が多孔性及び通気性を有する場合、本開示の撥水剤組成物による撥水性被膜を形成した物品も多孔性及び通気性を維持することができる。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
[試験例37~39]
基材に対する撥水剤組成物の塗布量を変えて撥水性試験及び剥離後撥水性試験を行った。乾燥後のポリエステル樹脂及び疎水性シリカからなる撥水性被膜の密度がそれぞれ1.2g/m2、2.5g/m2、及び5.0g/m2となるように、試験例33で作製した撥水剤組成物をポリエステルフィルム基材に、No.3、No.6、及びNo.12のバーコーターを用いて塗布し、乾燥させて、均一な厚さを有する撥水性被膜が被覆された基板(本開示の撥水性物品に相当)を作製した。作製した撥水性物品について、試験例15~36と同様の方法で撥水性試験及び剥離後撥水性試験を行った。また、空気を可視光透過率の基準(100%)として撥水性物品の可視光透過率をUV-Vis(島津製作所製 UVmini-1240)にて測定した。表6に試験結果を示す。
【0141】
試験例37~39においては、いずれも高い撥水性を得ることができた。これより、撥水性被膜の密度が試験例37よりも低くても十分な撥水性は得ることができると考えられる。
【0142】
テープ剥離後の撥水性は、撥水剤組成物の塗布量が多いほうが、すなわち撥水性被膜密度が高いほうが高い傾向が見受けられた。しかしながら、撥水性被膜密度が低い試験例37においても、テープ剥離後であっても十分な撥水性を確認することができた。
【0143】
試験例37~39においては、厚い撥水性被膜を形成しても高い透明性を得ることができた。これより、本開示の撥水剤組成物は、撥水性物品に透明性を必要とする場合にも適用できることが分かった。
【0144】
【0145】
[試験例40~47]
試験例15~39に係る撥水性物品おいては、ポリエステル基材にして撥水性被膜を形成した。そこで、試験例40~43においては、ポリエステル基材以外の基材を有する撥水性物品を作製して撥水性を試験した。また、試験例44~47においては、シリカを含む市販の撥水剤について試験例40~43と同様の試験を行い、本開示の撥水剤組成物と撥水性及び剥離後撥水性を比較した。
【0146】
試験例15~39においては、ガラス、ステンレス、紙、及び木材のそれぞれの基材に、撥水性被膜密度が2.5g/m2となるように、バーコーター(No.6)を用いて試験例33に係る撥水剤組成物を均一に塗布して乾燥させ、各基材上に撥水性被膜を形成した。試験例44~47においては、スプレー式の市販の撥水剤の用途に従い、ガラス、ステンレス、紙、及び木材のそれぞれの基材に撥水剤を均一にスプレー塗布して、各基材上に撥水性被膜を形成した。撥水性及び剥離後撥水性の試験方法は試験例15~36と同様である。表7に試験結果を示す。
【0147】
試験例44~47における市販の撥水剤では、紙基材に対しては撥水性を得ることができなかった。一方、試験例40~43における本開示の撥水剤組成物によれば、いずれの基材に対しても高い撥水性を得ることができた。これより、本開示のポリエステル樹脂は、様々な基材に対して疎水性粉末を接着させることができることが分かった。本開示の撥水性組成物によれば、様々な基材に対して撥水性を付与することができることが分かった。
【0148】
試験例44、45及び47においては、テープ剥離を行うと撥水性が失われてしまった。一方、試験例40~43においては、テープ剥離後であっても、十分な撥水性を確認することができた。これより、本開示のポリエステル樹脂は、様々な基材に対して疎水性粉末を強固に接着させることができることが分かった。本開示の撥水性組成物によれば、様々な基材に対して耐久性のある撥水性を付与することができることが分かった。すなわち、本開示の撥水性物品は長期間撥水性を維持できることが分かった。
【0149】
【0150】
本開示のポリエステル樹脂、撥水剤組成物及び撥水性物品、並びにこれらの製造方法は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0151】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0152】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本開示のポリエステル樹脂は、粒子と基材との接着以外の接着用途にも適用することができる。本開示のポリエステル樹脂は、水を含有する水系組成物(水性組成物)及び乳化型組成物に適用することができる。
【0154】
本開示の撥水剤組成物は、塗布可能なものであれば適用することができる。
【符号の説明】
【0155】
1 基材
2 ポリエステル樹脂
3 疎水性粉末
10 撥水性物品