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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】固体電解質接合体及び電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/409 20060101AFI20230519BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230519BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20230519BHJP
   G01N 27/407 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
G01N27/409 100
H01B1/06 A
G01N27/41 325Z
G01N27/407
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019140326
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021021711
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】大山 旬春
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-066547(JP,A)
【文献】特開平03-130657(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132791(WO,A1)
【文献】国際公開第98/041428(WO,A1)
【文献】特開平08-220060(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018149(WO,A1)
【文献】特開平11-344464(JP,A)
【文献】米国特許第05543025(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有する固体電解質層と、該固体電解質層の各面に接してそれぞれ積層され且つイオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有する第1混合伝導電極層及び第2混合伝導電極層とを備え、第1混合伝導電極層及び第2混合伝導電極層の少なくとも一方が気体非透過性である固体電解質接合体であって、
前記固体電解質接合体の平面視において前記固体電解質層から第1混合伝導電極層が延在している、固体電解質接合体
【請求項2】
イオン伝導性を有する固体電解質層と、該固体電解質層の各面に接してそれぞれ積層され且つイオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有する混合伝導電極層とを備え、該混合伝導電極層の少なくとも一方が気体非透過性である固体電解質接合体が、基板上に配置されてなる電気化学素子であって、
前記混合伝導電極層のうち、前記基板に近い側に位置するものを第1混合伝導電極層とし、前記基板から遠い側に位置するものを第2混合伝導電極層としたとき、前記電気化学素子の平面視において第1混合伝導電極層の少なくとも一部が露出している、電気化学素子。
【請求項3】
平面視における前記基板の面積をSとし、第1混合伝導電極層の面積をSとしたとき、S≧Sである、請求項2に記載の電気化学素子。
【請求項4】
平面視における前記固体電解質層の面積をSとし、第2混合伝導電極層の面積をSとしたとき、S≧Sである、請求項2又は3に記載の電気化学素子。
【請求項5】
前記基板と第1混合伝導電極層との間に、又は第2混合伝導電極層の表面に、気体透過性を有する層を更に備えている、請求項2ないし4のいずれか一項に記載の電気化学素子。
【請求項6】
第1混合伝導電極層及び第2混合伝導電極層の少なくとも一方が、ペロブスカイト系酸化物からなる請求項2ないし5のいずれか一項に記載の電気化学素子。
【請求項7】
第1混合伝導電極層及び第2混合伝導電極層の少なくとも一方が、La、Sr、Co及びNiを含む複合酸化物である請求項2ないし6のいずれか一項に記載の電気化学素子。
【請求項8】
前記固体電解質層が酸化物イオン伝導性を有する請求項2ないし7のいずれか一項に記載の電気化学素子。
【請求項9】
前記固体電解質層が、M、M及びO(Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Si、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。)を含む化合物からなる請求項2ないし8のいずれか一項に記載の電気化学素子。
【請求項10】
前記固体電解質層が、アパタイト型結晶構造を有する化合物からなる請求項2ないし9のいずれか一項に記載の電気化学素子。
【請求項11】
前記固体電解質層が、一般式:M 9.33+x[T6.00-y ]O26.0+z(式中、Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Tは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。xは-1.33以上1.50以下の数である。yは0.00以上3.00以下の数である。zは-5.00以上5.20以下の数である。Tのモル数に対するMのモル数の比率は1.33以上3.61以下である。)で表される複合酸化物からなる請求項10に記載の電気化学素子。
【請求項12】
第1混合伝導電極層及び第2混合伝導電極層の厚みが、それぞれ独立に80nm以上1000nm以下である請求項2ないし11のいずれか一項に記載の電気化学素子。
【請求項13】
前記固体電解質層の厚みが10nm以上1000μm以下である請求項2ないし12のいずれか一項に記載の電気化学素子。
【請求項14】
請求項1に記載の固体電解質接合体の全体を所定温度に保持し、第1混合伝導電極層及び第2混合伝導電極層の間に直流電圧を印加することにより、一方の混合伝導電極層側の雰囲気中に含まれるガスを、前記固体電解質層を通じて他方の混合伝導電極層側に透過させる方法。
【請求項15】
請求項2に記載の電気化学素子の全体を所定温度に保持し、第1混合伝導電極層と第2混合伝導電極層との間に直流電圧を印加することにより、第2混合伝導電極層側の雰囲気中に含まれるガスを、前記固体電解質層を通じて第1混合伝導電極層側に透過させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解質接合体に関する。また本発明は電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の薄膜型ガスセンサは、電極に対象ガスのイオン種を透過できない金属膜などが形成されており、限界電流型や起電力型センサにおいて積層された上部下部電極で必要な反応が進みにくく、高い検出精度(例えば、高速応答)を確保することが難しいという課題があった。
【0003】
2つの電極が同一面上に一定の間隔を置いて配置されたガスセンサも知られている(例えば特許文献1及び2参照)。しかしこれらのガスセンサは、固体電解質中の酸化物イオンが伝導する距離が長くなるため、イオン伝導の抵抗が高くなるという課題があった。
【0004】
特許文献3には、対象ガスの透過が可能な電極を用いた酸素濃度センサが記載されている。この酸素濃度センサは、電気絶縁性で気体非透過性の基板と、該基板に積層された気体透過性の第一電極と、該第一電極に積層された酸素イオン伝導性を有する薄膜状の薄膜固体電解質と、該薄膜固体電解質に積層された気体透過性の第二電極とを有するものである。この酸素濃度センサにおいては、電極が気体透過性を有することに起因して酸素ガスの発生が電極内で生じる。その結果、電極と薄膜固体電解質との間の密着性が経時的に低下して、酸素濃度センサ自体の酸化物イオン伝導性が低下してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-312772号公報
【文献】特開2009-229118号公報
【文献】特開平11-344464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る固体電解質接合体及び電気化学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、イオン伝導性を有する固体電解質層と、該固体電解質層の各面に接してそれぞれ積層され且つイオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有する混合伝導電極層とを備え、該混合伝導電極層の少なくとも一方が気体非透過性である固体電解質接合体を提供することにより前記の課題を解決したものである。
【0008】
また本発明は、イオン伝導性を有する固体電解質層と、該固体電解質層の各面に接してそれぞれ積層され且つイオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有する混合伝導電極層とを備え、該混合伝導電極層の少なくとも一方が気体非透過性である固体電解質接合体が、基板上に配置されてなる電気化学素子であって、
前記混合伝導電極層のうち、前記基板に近い側に位置するものを第1混合伝導電極層とし、前記基板から遠い側に位置するものを第2混合伝導電極層としたとき、前記電気化学素子の平面視において第1混合伝導電極層の少なくとも一部が露出している、電気化学素子を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イオン伝導性が良好な固体電解質接合体及び電気化学素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、本発明の電気化学素子の一実施形態の断面構造を示す模式図であり、図1(b)は図1(a)に示す電気化学素子の平面図である。
図2図2は、本発明の電気化学素子の別の実施形態の断面構造を示す模式図である。
図3図3(a)及び(b)は、本発明の電気化学素子の更に別の実施形態の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1(a)及び(b)には本発明の電気化学素子の一実施形態が示されている。同図に示す電気化学素子1は、固体電解質接合体2及び基板3を備えている。固体電解質接合体2は基板3上に配置されている。
【0012】
固体電解質接合体2は、固体電解質層10を備えている。また固体電解質接合体2は、固体電解質層10の各面に接してそれぞれ積層されている第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12を備えている。第1混合伝導電極層11と固体電解質層10とは直接に接しており、両層間に他の層は介在していない。同様に、第2混合伝導電極層12と固体電解質層10とは直接に接しており、両層間に他の層は介在していない。
【0013】
図1(b)に示すとおり、本実施形態の電気化学素子1においては、基板3、固体電解質層10、第1及び第2混合伝導電極層11,12はいずれも平面視して矩形をしている。尤も、これらの部材の形状は矩形に限られず、他の形状、例えば矩形以外の多角形、円形、楕円形、又はそれらの形状の組み合わせであってもよい。
【0014】
電気化学素子1において、固体電解質層10は一般に一定の厚みを有しており、イオン伝導性を有する材料を含んで構成されている。固体電解質層10としては、典型的には酸化物イオン伝導性を有する材料が用いられるが、電気化学素子1の具体的な用途に応じてこれ以外のイオン伝導性、例えば炭酸イオン伝導性若しくはハロゲン化物イオン伝導性又はカチオン伝導性を有する材料を用いてもよい。カチオン伝導性を有する材料としては、LiLaTa12(LLT)や、LiLaZr12(LLZ)等のLiイオン伝導性を有する材料が挙げられる。
【0015】
固体電解質層10はその厚みが、固体電解質接合体2の電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、50nm以上700μm以下であることが更に好ましく、100nm以上500μm以下であることが一層好ましい。この固体電解質層の厚みは、例えば触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察によって測定することができる。
【0016】
固体電解質層10の各面には、第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12がそれぞれ配置されている。第1混合伝導電極層11は基板3に近い側に位置している。第2混合伝導電極層12は基板3から遠い側に位置している。第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12はいずれも混合伝導性を有する材料を含んで構成されている。混合伝導性とは、イオン伝導性及び電子又はホール伝導性の双方を有する性質のことである。第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12が有するイオン伝導性は、典型的には酸化物イオン伝導性であるが、これ以外のイオン伝導性であってもよい。第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12のイオン伝導性は、上述した固体電解質層10のイオン伝導性と一致している。例えば固体電解質層10が酸化物イオン伝導性を有する場合には、第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12も同様に酸化物イオン伝導性を有する。したがってこの場合には、第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12は、酸化物イオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有するものとなる。
【0017】
第1及び第2混合伝導電極層11,12は、例えば種々の薄膜形成法を用いて固体電解質層10の各面に形成することができる。薄膜形成法としては、物理気相成長法や化学気相成長法などが挙げられる。これらの方法のうち、物理気相成長法を用いると各混合伝導電極層11,12を一層首尾よく形成することができるので有利である。物理気相成長法を用いる場合には、スパッタリング法やPLD(Pulsed Laser Deposition)法を用いることが特に好ましい。各混合伝導電極層11,12は、所定の厚みを有することで固体電解質層10との間での電気抵抗を効果的に低下させ得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、固体電解質層10に接合している各混合伝導電極層11,12の積層方向に沿う厚みはそれぞれ独立して80nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、また1000nm以下であることが一層好ましい。各混合伝導電極層11,12の厚みは触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察によって測定することができる。
【0018】
電気化学素子1において基板3は、固体電解質接合体2の支持体として用いられるものであり、固体電解質接合体2の動作に影響を与えない限りその材料に特段の制限はない。一般的には電気絶縁性の材料が用いられる。図1(a)及び(b)においては、固体電解質接合体2における第1混合伝導電極層11と基板3とが接するように、該基板3が該固体電解質接合体2を支持している状態が示されている。
【0019】
図1(b)に示すとおり、電気化学素子1の平面視において、第1混合伝導電極層11は、その2つの面のうち、固体電解質層10との対向面の少なくとも一部が外部に露出している。図1(b)においては、電気化学素子1を平面視したときに、固体電解質層10の全域から第1混合伝導電極層11が延在している状態が示されている。したがって、固体電解質層10の面積をSとし、第1混合伝導電極層の面積をSとしたときS>Sとなっている。固体電解質層10と第1混合伝導電極層11とがこのような関係になっていることの利点は後述する。
【0020】
第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12、並びに固体電解質層10から構成される固体電解質接合体2においては、第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12のうちの少なくとも一方が気体非透過性になっている。気体非透過性とは、気体を全く透過させないか、又は気体を透過させたとしても透過の程度が極めて低い性質のことである。第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12の気体透過性は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などによる断面画像から粒子間空隙面積を測定し算出する空隙率を尺度として評価できる。測定する膜の断面のみが画像に写る倍率で撮影する。この方法で測定された空隙率が10%以下である場合、第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12は気体非透過性であるということができる。気体の透過の程度をより低くするため、前記空隙率を5%以下とすることが好ましく、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下とする。空隙率はその値が低いほど好ましいので下限は特に制限はないが、該混合伝導電極層中に含まれる不可避な気泡等を考慮すると、下限値は例えば0.01%以上である。
【0021】
第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12はそれらのうちの少なくとも一方が気体非透過性であればよく、双方が気体非透過性であってもよい。特に、本実施形態の電気化学素子1を外部電源に接続して動作させる場合、第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12のうち、アノードとして作用する電極層が気体非透過性であることが有利である。この理由を、第1混合伝導電極層11及び第2混合伝導電極層12、並びに固体電解質層10が酸化物イオン伝導性を有する場合を例にとり説明する。本実施形態の電気化学素子1を含酸素雰囲気下に置き、図1(a)及び(b)に示すとおり、直流電源等の外部電源4の正極を第1混合伝導電極層11に接続し、且つ負極を第2混合伝導電極層12に接続した場合、第1混合伝導電極層11はアノードとして動作するので、酸化物イオン(O2-)の酸化反応、すなわちO2-→O+2eで表される反応が起こり、酸素ガスが発生する。この場合、第1混合伝導電極層11は酸化物イオンと電子又はホールを伝導する混合伝導性を有し、気体非透過性であることから、酸素ガスの発生は該第1混合伝導電極層11が外部空間に向けて露出している部位(すなわち気相-固相の二相界面)において起こる。具体的には、(i)第1混合伝導電極層11の側面で酸素ガスが発生し、且つ(ii)第1混合伝導電極層11の2つの面のうち、固体電解質層10との対向面であって且つ該対向面のうち固体電解質層10と当接していない領域で酸素ガスが発生する。つまり、第1混合伝導電極層11の2つの面のうち、固体電解質層10との対向面であって且つ該対向面のうち固体電解質層10と当接している領域は外部空間に露出していないため、酸素ガスは発生しない。その結果、固体電解質層10と第1混合伝導電極層11との間での密着性が保たれ、固体電解質接合体2全体としての酸化物イオン伝導性が確保される。正負極を逆に接続し、第2混合伝導電極層12側で、酸素ガスが発生する場合でも、同様の効果が得られる。
【0022】
このこととは対照的に、例えば上述した特許文献3に記載の酸素濃度センサにおいては、電極が気体透過性を有している(すなわち電極内に気相-固相の二相や電解質-電子又はホール伝導性電極-気相の三相界面が存在する)ことから酸素ガスが電極内で発生してしまい、そのことに起因して電極と固体電解質との密着性が低下しやすい。その結果、酸化物イオン伝導性が低下し、センサの検出精度が低下してしまうという不都合がある。
【0023】
第1混合伝導電極層11の面積Sが、固体電解質層10の面積Sよりも大きいことは、電気化学素子1の製造工程の点からも有利である。詳細には、図1(a)に示す電気化学素子1の製造において、同図中、下側に位置する部材から順に上側に位置する部材を、各種薄膜形成法を用いて積層していく場合、下側に位置する部材ほどその面積が大きいと、積層を容易に行える。この利点は特に、大面積の基板3上に複数の固体電解質接合体2を形成し、次いでダイシングによって複数の電気化学素子1を得て量産性を向上させる場合に顕著なものとなる。
【0024】
上述した利点を一層顕著なものとする観点から、電気化学素子1の平面視における基板3の面積をSとし、第1混合伝導電極層11の面積をSとしたとき、S≧Sであることが好ましい。図1(b)においては第1混合伝導電極層11の全域から基板3が延在している状態が示されている。尤も、基板3の延在状態はこれに限られず、第1混合伝導電極層11の周縁の少なくとも一部から基板3が延在していれば上述した利点が顕著なものとなる。
【0025】
同様に、電気化学素子1の平面視における固体電解質層10の面積をSとし、第2混合伝導電極層12の面積をSとしたとき、S≧Sであることも好ましい。こうすることで、第1混合伝導電極層11と第2混合伝導電極層12の短絡を防ぐことができる。図1(b)においては第2混合伝導電極層12の全域から固体電解質層10が延在している状態が示されている。尤も、固体電解質層10の延在状態はこれに限られず、第2混合伝導電極層12の周縁の少なくとも一部から固体電解質層10が延在していれば上述した利点が顕著なものとなる。
【0026】
図2並びに図3(a)及び(b)には本発明の別の実施形態の電気化学素子が示されている。これらの実施形態については、図1(a)及び(b)に示す実施形態と相違する点について主として説明し、特に説明しない点については図1(a)及び(b)に示す実施形態についての説明が適宜適用される。また、図2並びに図3(a)及び(b)において、図1(a)及び(b)と同じ部材には同じ符号を付してある。
【0027】
図2に示す実施形態の電気化学素子1は、基板3と第1混合伝導電極層11との間に、気体透過性を有する第1気体透過層21を備えている。これに加えて電気化学素子1は、第2混合伝導電極層12の表面に、気体透過性を有する第2気体透過層22を備えている。第1及び第2気体透過層21,22は、電気化学素子1を所定の雰囲気下に置いてこれを動作させるときに、雰囲気中のガスの流通性を高め電気化学素子1の性能を一層向上させる目的で用いられる。気体透過性は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などによる断面画像から粒子間空隙面積を測定し算出する空隙率を尺度として評価できる。この方法で測定された空隙率が10%超である場合、第1及び第2気体透過層21,22は気体透過性であるということができる。
【0028】
第1及び第2気体透過層21,22はそれらのうちの少なくとも一方が電子伝導性を有していることが好ましい。特に第2気体透過層22が電子伝導性を有していることが好ましい。第1及び/又は第2気体透過層21,22が電子伝導性を有していることで、これらの層は集電体としての機能を発揮でき、電気化学素子1全体の性能が向上する。なお第1及び/又は第2気体透過層21,22が電子伝導性を有する場合、それと同時にこれらの透過層21,22がイオン伝導性を有するか否かには特に制限はない。第1及び第2混合伝導電極層11,12に加えて第1及び第2気体透過層21,22を設けることの技術的意義を顕著なものとする観点から、第1及び第2気体透過層21,22は電子伝導性を有し且つイオン伝導性を有さないことが好ましい。この場合、第1気体透過層21が電子伝導性を有しているときには、第2気体透過層22も電子伝導性を有していることが好ましい。
【0029】
図3(a)に示す実施形態の電気化学素子1においては、図2に示す電気化学素子1と異なり、第2気体透過層22が設けられていない。一方、図3(b)に示す実施形態の電気化学素子1においては、図2に示す電気化学素子1と異なり、第1気体透過層21が設けられていない。図3(a)及び(b)に示す実施形態においても、第1気体透過層21又は第2気体透過層22が設けられているので、電気化学素子1を所定の雰囲気下に置いてこれを動作させるときに、雰囲気中のガスの流通性が高まり電気化学素子1の性能が一層向上するという利点がある。
【0030】
特に図3(b)に示す実施形態においては、基板3を気体透過性の材料から構成することで、第1気体透過層21を殊更設けなくても、基板3が第1気体透過層21と同様の作用を発揮するので好ましい。
【0031】
次に、上述した各実施形態に共通する事項について説明する。固体電解質層10が酸化物イオン伝導性を有するものである場合、該固体電解質層10は、M、M及びOを含む化合物からなることが好ましい。このような化合物を用いることで、固体電解質層10の酸化物イオン伝導性を一層高めることが可能となる。Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。一方、Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Si、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。前記の化合物はアパタイト型結晶構造を有することが好ましい。
【0032】
特に、固体電解質層10は、式(1)M 9.33+x[T6.00-y ]O26.0+zで表される複合酸化物を含むことが、固体電解質層10の酸化物イオン伝導性を一層高める点から好ましい。式中、Mは、上述のとおりLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Tは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。xは-1.33以上1.50以下の数である。yは0.00以上3.00以下の数である。zは-5.00以上5.20以下の数である。Tのモル数に対するMのモル数の比率は1.33以上3.61以下である。前記の複合酸化物はアパタイト型結晶構造を有することが好ましい。
【0033】
式(1)において、Mとして挙げられた、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Be、Mg、Ca、Sr及びBaは、正の電荷を有するイオンとなり、アパタイト型六方晶構造を構成し得るランタノイド又は第2族元素であるという共通点を有する元素である。これらの中でも、酸化物イオン伝導性をより高めることができる観点から、La、Nd、Ba、Sr、Ca及びCeからなる群のうちの一種又は二種以上の元素との組み合わせであるのが好ましく、中でも、La、又はNdのうちの一種、あるいは、LaとNd、Ba、Sr、Ca及びCeからなる群のうちの一種又は二種以上の元素との組み合わせであるのが好ましい。また、式(1)におけるTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素であるのがよい。
【0034】
式(1)におけるM元素としては、例えばB、Zn、W、Sn及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素を好ましく挙げることができる。中でも、高配向度や高生産性の点で、B、Zn及びWが特に好ましい。
【0035】
式(1)において、xは、配向度及び酸化物イオン伝導性を高めることができる観点から、-1.33以上1.50以下の数であることが好ましく、-1.00以上1.00以下であることが好ましく、中でも0.00以上あるいは0.70以下、その中でも0.45以上あるいは0.65以下であることが好ましい。式(1)中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋めるという観点、及び酸化物イオン伝導性を高める観点から、0.00以上3.00以下の数であることが好ましく、0.40以上1.00未満であることが更に好ましく、中でも0.40以上0.90以下であることが好ましく、その中でも0.80以下、特に0.70以下、とりわけ0.50以上0.70以下であることが好ましい。式(1)中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-5.00以上3.61以下の数であることが好ましく、-3.00以上2.00以下であることが好ましく、中でも-2.00以上あるいは1.50以下、その中でも-1.00以上あるいは1.00以下であることが好ましい。
【0036】
式(1)中、Tのモル数に対するMのモル数の比率、言い換えれば式(1)における(9.33+x)/(6.00-y)は、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、1.33以上3.61以下であることが好ましく、1.40以上3.00以下であることが更に好ましく、1.50以上2.00以下であることが一層好ましい。
【0037】
式(1)で表される複合酸化物のうち、Aがランタンである複合酸化物、すなわちLa9.33+x[T6.00-y y]O26.0+zで表される複合酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる観点から好ましい。La9.33+x[T6.00-y y]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.33+x(Si5.300.70)O26.0+z、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Ge4.701.30)O26.0+zなどを挙げることができる。式(1)で表される複合酸化物は、例えば国際公開WO2016/111110に記載の方法に従い製造することができる。
【0038】
第1及び第2混合伝導電極層11,12を構成する材料は、イオン伝導性及び電子又はホール伝導性を有する材料であればその種類に特に制限はない。特に、第1及び第2混合伝導電極層11,12の少なくとも一方が、ペロブスカイト系酸化物から構成されていると、酸化物イオン伝導性及び電子又はホール伝導性が高くなるので好ましい。ペロブスカイト系酸化物は組成式(2)ABO3-δで表されることが好ましく、式(2)中、Aは希土類元素又はアルカリ土類金属元素を表し、Bは遷移金属元素を表す。δは、A、B及びOの価数及び量に起因して生じる端数である。ABO3-δで表され、ペロブスカイト構造を有する酸化物は種々知られており、そのような酸化物が種々の結晶構造、例えば立方晶、正方晶、菱面体晶及び斜方晶などを有することが知られている。これらの結晶構造のうち、本発明においては立方晶ペロブスカイト構造を有するABO3-δ型の酸化物を第1混合伝導電極層11及び/又は第2混合伝導電極層12として用いることが好ましい。かかる酸化物からなる第1混合伝導電極層11及び/又は第2混合伝導電極層12と、固体電解質層10とを直接に接合して固体電解質接合体2を構成することで、該接合体2全体としての酸化物イオン伝導性を高めることができる。
【0039】
ABO3-δで表される酸化物において、遷移金属元素であるBは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta及びWからなる群より選ばれた一種又は二種以上の元素であることが、酸化物イオン伝導性及び電子又はホール伝導性の一層の向上の点から好ましい。固体電解質接合体2全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から、ABO3-δで表される酸化物は、Bサイトの一部が、コバルト及びニッケルであることも有利である。Bサイトの一部がコバルト及びニッケルであると、酸化物イオンが移動しやすくなっているのではないかと本発明者は考えている。
【0040】
固体電解質接合体2全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から、ABO3-δで表される酸化物は、Aサイトの一部にランタンを含んでいることが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。以下、この酸化物のことを「酸化物a」ともいう。酸化物aにおけるランタンの含有量は、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子数比で表して、0.05以上0.8以下であることが好ましく、0.15以上0.70以下であることが更に好ましく、0.15以上0.60以下であることが一層好ましい。酸化物aを用いることで酸化物イオン伝導性が高まる理由は明らかではないが、Aサイトの一部にランタンが含まれることで、酸化物イオンが移動しやすい経路が酸化物a中に形成されるのではないかと本発明者は考えている。
【0041】
ABO3-δで表される酸化物におけるAサイトの一部にランタンが位置しているか否かは、X線回折法によって確認することができる。また、Aサイトに位置するすべての元素に占めるランタンの原子数比は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、ICP発光分光分析法によって測定することができる。
【0042】
ABO3-δで表される酸化物におけるAサイトを占めるアルカリ土類金属元素は、バリウム及びストロンチウムからなる群より選択される一種以上の元素であることが、固体電解質接合体2全体としての酸化物イオン伝導性を高める観点から好ましい。
【0043】
ABO3-δで表される酸化物は、La、Sr、Co及びNiを含む複合酸化物であることが好ましい。かかる複合酸化物を用いることで、固体電解質接合体2全体としての酸化物イオン伝導性を更に一層向上させることができる。かかる複合酸化物の具体例としては、La0.8Sr0.2Co0.5Ni0.53-δ、La0.6Sr0.4Co0.8Ni0.23-δ、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.78Ni0.023-δ、などが挙げられる。
【0044】
第1混合伝導電極層11と第2混合伝導電極層12とは、それらを構成する材料が同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。異なる組成の混合伝導電極層を2層以上積層させてもよい。また、電子又はホール伝導性を有する金属(例えば白金族)とイオン伝導性を有する材料をそれぞれ用意し、これらを混合することで、電子とイオン両方を十分に伝導できる材料を得てもよい。
【0045】
第1及び第2気体透過層21,22は、形成が容易であり、且つ触媒活性が高い等の利点があることから、白金族の元素を含んで構成されることが好ましい。白金族の元素としては、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムが挙げられる。これらの元素は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、白金族の元素を含むサーメットを用いることもできる。第1及び第2気体透過層21,22の形成には、例えば白金族の金属の粒子を含むペーストを用いる。該ペーストを塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで多孔質体からなる第1及び第2気体透過層21,22が形成される。焼成条件は、温度は好ましくは600℃以上であり、時間は好ましくは30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。
【0046】
基板3としては、例えば前記電気絶縁性の材料や導体の材料を用いることができる。そのような材料としては例えばアルミナ、石英ガラス、シリコン、ステンレスなどを用いることができる。これらの材料は気体透過性を有していなくてもよく、あるいは必要に応じ多孔質化するか又は開孔部を形成して気体透過性を付与してもよい。
【0047】
上述した各実施形態の電気化学素子1及び該素子1を構成する固体電解質接合体2は、その高い酸化物イオン伝導性を利用して例えば酸素透過素子、ガスセンサ又は固体電解質形燃料電池などとして好適に用いられる。固体電解質接合体2を例えば酸素透過素子として使用する場合には、第1混合伝導電極層11と第2混合伝導電極層12を隔壁し、第1混合伝導電極層11を直流電源4の正極に接続するとともに、第2混合伝導電極層12を直流電源4の負極に接続して、第1混合伝導電極層11と第2混合伝導電極層12との間に所定の直流電圧を印加する。それによって、第2混合伝導電極層12側において酸素が電子を受け取り酸化物イオンが生成する。生成した酸化物イオンは固体電解質層10中を移動して第1混合伝導電極層11に達する。第1混合伝導電極層11に達した酸化物イオンは電子を放出して酸素ガスとなる。印加する電圧は、酸素ガスの透過量を高める観点から、0.1V以上4.0V以下に設定することが好ましい。両極間に電圧を印加するときには、固体電解質層10の酸化物イオン伝導性が十分に高くなっていることが好ましい。例えば酸化物イオン伝導性が、伝導率で表して1.0×10-3S/cm以上になっていることが好ましい。このため、固体電解質層10を、又は固体電解質接合体2若しくは電気化学素子1の全体を所定温度に保持することが好ましい。この保持温度は、固体電解質層10の材質にもよるが、一般に200℃以上700℃以下の範囲に設定することが好ましい。この条件下で固体電解質接合体2又は電気化学素子1を使用することで、第2混合伝導電極層12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層10を通じて第1混合伝導電極層11側に透過させることができる。
【0048】
電気化学素子1及び固体電解質接合体2を酸素センサとして使用する場合には、例えば第2混合伝導電極層12側で生成した酸化物イオンが、固体電解質層10を経由して第1混合伝導電極層11側に移動することに起因して電流が生じる。電流値は第1混合伝導電極層11側と第2混合伝導電極層12側とでの酸素ガスの濃度差に依存するので、電流値を測定することで、一方の側の酸素ガス濃度が既知であれば、他方の側の酸素ガス濃度を測定できる。また、第1混合伝導電極層11と第2混合伝導電極層12を隔壁することによって、起電力式酸素センサとしても使用できる。
【0049】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記の各実施形態においては、基板3と固体電解質接合体2との密着性を向上させる目的で、両者間に密着層を介在させてもよい。密着層としては、例えばチタン化合物を含有する層を用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 電気化学素子
2 固体電解質接合体
3 基板
4 電源
10 固体電解質層
11 第1混合伝導電極層
12 第2混合伝導電極層
21 第1気体透過層
22 第2気体透過層
図1
図2
図3