(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/66 20060101AFI20230519BHJP
B29C 45/76 20060101ALI20230519BHJP
B29C 45/84 20060101ALI20230519BHJP
B22D 17/26 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
B29C45/66
B29C45/76
B29C45/84
B22D17/26 J
B22D17/26 D
(21)【出願番号】P 2019143373
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000222587
【氏名又は名称】東洋機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 裕充
(72)【発明者】
【氏名】西川 恵三
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-162805(JP,A)
【文献】特開2000-202882(JP,A)
【文献】特開平6ー297532(JP,A)
【文献】特開平5ー278089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/66
B29C 45/76
B29C 45/84
B22D 17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側金型が取り付けられる固定ダイプレートと、
可動側金型が取り付けられる可動ダイプレートと、
前記固定側金型と前記可動側金型とを型開閉するように前記固定ダイプレートに対して前記可動ダイプレートを進退させる型締装置と、
制御装置と、を有する成形機において、
前記制御装置は、
前記型締装置を駆動する型開閉モータの出力トルクを監視するトルク監視部
として機能し、トルク上限値を格納しており、
型開動作中において前記可動ダイプレートの移動速度が速度基準値より低下したとき、前記出力トルクの監視を開始し、
前記出力トルクが
前記トルク上限値に達すると成形動作を停止させる
、ように構成されていることを特徴とする成形機。
【請求項2】
前記型締装置が、前記型開閉モータにより伸長駆動および屈曲駆動されるトグルリンク機構を有する、請求項1に記載の成形機。
【請求項3】
前記トルク上限値が、型開動作中に前記可動ダイプレートの位置に応じて前記トグルリンク機構の構成部品に生じる応力に基づいて設定されている、請求項2に記載の成形機。
【請求項4】
前記固定ダイプレートの上方に前記可動ダイプレートが配置され、
前記可動ダイプレートに射出装置が搭載され、
前記トルク上限値が、前記射出装置および前記可動側金型の重量に基づいて設定されている、請求項3に記載の成形機。
【請求項5】
前記固定側金型と前記可動側金型との間には、中間プレートが配置され、
前記固定側金型および前記可動側金型の一方と前記中間プレートとが先に開き、前記固定側金型および前記可動側金型の他方と前記中間プレートとが後に開くように、前記他方と前記中間プレートとを一時的に固定するロック機構が設けられている、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の成形機。
【請求項6】
固定側金型が取り付けられる固定ダイプレートと、
可動側金型が取り付けられる可動ダイプレートと、
前記固定側金型と前記可動側金型とを型開閉するように前記固定ダイプレートに対して前記可動ダイプレートを進退させる型締装置と、を有する成形機において、
前記型締装置を駆動する型開閉モータの出力トルクを監視するトルク監視部を有し、
前記トルク監視部が、型開動作中において前記可動ダイプレートの移動速度が速度基準値より低下したとき、前記出力トルクの監視を開始し、当該出力トルクがトルク上限値に達すると成形動作を停止させ、
前記型締装置が、前記型開閉モータにより伸長駆動および屈曲駆動されるトグルリンク機構を有し、
前記トルク上限値が、型開動作中に前記可動ダイプレートの位置に応じて前記トグルリンク機構の構成部品に生じる応力に基づいて設定されており、
前記固定ダイプレートの上方に前記可動ダイプレートが配置され、
前記可動ダイプレートに射出装置が搭載され、
前記トルク上限値が、前記射出装置および前記可動側金型の重量に基づいて設定されている、ことを特徴とする成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型開閉モータを駆動源として、固定側金型と可動側金型とを型開閉する射出成形機やダイカストマシンなどの成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の射出成形機は、ボールねじを組み込んだクロスヘッドを進退させてトグルリンク機構を作動し、型開閉動作を行うように構成されている。ボールねじは型開閉モータによって駆動される。
【0003】
この射出成形機は、設定型締力に対応した型開き位置(金型タッチ位置)でのトグル倍率を用いて、型開力の上限値に対応する型開閉モータの出力トルクのトルクリミットを設定する。そして、型締装置は、型開動作において、型開閉モータの出力トルクがトルクリミットに達した場合、型開動作を非常停止させる。
【0004】
このような射出成形機では、金型タッチ位置での型開力を監視できるものの、型開き途中での外乱等によるトルク変動に対応することができない。そのため、型開き途中での型開閉モータの出力トルクの増大を引き起こす成形不良や装置異常などの外乱に対応することが困難であった。
【0005】
そして、特許文献2に記載の射出成形機では、可動ダイプレートが型開動作で移動する全移動領域中から、始端と終端のストローク数値の入力によって選択されたストローク区間について型開閉モータの出力トルクを監視するようにしている。この射出成形機は、ストローク区間を適切に設定することで、比較的小さな出力トルクの増大を引き起こす外乱を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5387002号
【文献】特許第5121471号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
成形機において、固定側金型および可動側金型を備えた2プレート構成の金型が用いられる。または、固定側金型および可動側金型に加えて中間プレートを備えた3プレート構成の金型が用いられることもある。このような3プレート構成の金型は、型開動作において、例えば、可動側金型と中間プレートとが先に開き、固定側金型と中間プレートとが後に開くようにするために、固定側金型と中間プレートとを一時的に固定するロック機構が設けられている。ロック機構としては、強力な磁石によって固定するものや、固定側金型に設けた樹脂スリーブを中間プレートに設けた凹部に圧入させて、凹部と樹脂スリーブとの摩擦力によって固定するものなどがある。
【0008】
ロック機構は、上記摩擦力や上記磁石の磁力を上回る力で外れる。そのため、ロック機構を外すときに型開閉モータの出力トルクが高くなる。これにより、型開閉機構部品に過剰な応力(「ショックロード」ともいう)が加わり金属疲労などが蓄積されてしまうおそれがある。そのため、この応力を小さくするために、固定側金型と中間プレートとを開く際に型開閉モータの出力トルクが大きくなりすぎないように、ロック機構の固定力を調整する必要がある。しかしながら、特許文献2に記載の射出成形機は、型開閉モータの出力トルクを監視するストローク区間を設定する必要があるため、操作が煩雑であり、特に、固定側金型と中間プレートとを開くタイミングに合わせてストローク期間を設定することが困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、煩雑な操作を行うことなく、出力トルクの増大を引き起こす外乱に対応でき、型開閉機構部品の破損を防止することができる成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、外乱により型開閉モータの出力トルクが増大するメカニズムについて鋭意解析を行った。その結果、次の(1)~(3)に示すメカニズムにより出力トルクの増大が生じていることを解明した。
(1)型開動作において目標速度で可動ダイプレートを移動させる。
(2)可動ダイプレートの移動中に外乱が生じると、可動ダイプレートの移動により大きな力が必要となるため一時的に可動ダイプレートの移動速度が低下する。
(3)低下した可動ダイプレートの移動速度を目標速度に近づけようとして、型開閉モータの出力トルクが増大する。
一方、可動ダイプレートの移動速度の切り換えに伴う型開閉モータの加速時などの通常の動作においては、可動ダイプレートの移動速度の低下は生じない。本発明者は、この違いに着目して本発明に至った。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る成形機は、固定側金型が取り付けられる固定ダイプレートと、可動側金型が取り付けられる可動ダイプレートと、前記固定側金型と前記可動側金型とを型開閉するように前記固定ダイプレートに対して前記可動ダイプレートを進退させる型締装置と、制御装置と、を有する射出成形機において、前記制御装置は、前記型締装置を駆動する型開閉モータの出力トルクを監視するトルク監視部として機能し、トルク上限値を格納しており、型開動作中において前記可動ダイプレートの前記移動速度が速度基準値より低下したとき、前記出力トルクの監視を開始し、前記出力トルクが前記トルク上限値に達すると成形動作を停止させる、ように構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明において、前記型締装置が、前記型開閉モータにより伸長駆動および屈曲駆動されるトグルリンク機構を有することが好ましい。
【0013】
本発明において、前記トルク上限値が、型開動作中に前記可動ダイプレートの位置に応じて前記トグルリンク機構の構成部品に生じる応力に基づいて設定されていることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記固定ダイプレートの上方に前記可動ダイプレートが配置され、前記可動ダイプレートに射出装置が搭載され、前記トルク上限値が、前記射出装置および前記可動側金型の重量に基づいて設定されていることが好ましい。
【0015】
本発明において、前記固定側金型と前記可動型金型との間には、中間プレートが配置され、前記固定側金型および前記可動側金型の一方と前記中間プレートとが先に開き、前記固定側金型および前記可動側金型の他方と前記中間プレートとが後に開くように、前記他方と前記中間プレートとを一時的に固定するロック機構が設けられていることが好ましい。
上記目的を達成するために、本発明の他の一態様に係る成形機は、固定側金型が取り付けられる固定ダイプレートと、可動側金型が取り付けられる可動ダイプレートと、前記固定側金型と前記可動側金型とを型開閉するように前記固定ダイプレートに対して前記可動ダイプレートを進退させる型締装置と、を有する成形機において、前記型締装置を駆動する型開閉モータの出力トルクを監視するトルク監視部を有し、前記トルク監視部が、型開動作中において前記可動ダイプレートの移動速度が速度基準値より低下したとき、前記出力トルクの監視を開始し、当該出力トルクがトルク上限値に達すると成形動作を停止させ、前記型締装置が、前記型開閉モータにより伸長駆動および屈曲駆動されるトグルリンク機構を有し、前記トルク上限値が、型開動作中に前記可動ダイプレートの位置に応じて前記トグルリンク機構の構成部品に生じる応力に基づいて設定されており、前記固定ダイプレートの上方に前記可動ダイプレートが配置され、前記可動ダイプレートに射出装置が搭載され、前記トルク上限値が、前記射出装置および前記可動側金型の重量に基づいて設定されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、型開動作中において可動ダイプレートの移動速度が速度基準値より低下したとき、出力トルクの監視を開始し、当該出力トルクがトルク上限値に達すると成形動作を停止させるので、可動ダイプレートの移動速度の低下を伴う外乱による出力トルクの増大に対して適切に対応することができる。そのため、操作者による出力トルクの監視範囲の設定などの煩雑な操作を行うことなく、出力トルクの増大を引き起こす外乱が発生しても型開閉機構部品の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例に係る射出成形機の型締状態での側面図である。
【
図2】
図1の射出成形機の型開状態での側面図である。
【
図3】
図1の射出成形機の機能ブロックを説明する図である。
【
図4】
図1の射出成形機のトルク上限値の一例を説明するグラフである。
【
図5】型開動作中における型開閉モータの出力トルクおよび可動ダイプレートの移動速度の一例を示すグラフである(外乱なし)。
【
図6】型開動作中における型開閉モータの出力トルクおよび可動ダイプレートの移動速度の一例を示すグラフである(外乱あり)。
【
図8】2プレート構成の金型における型開動作を説明する断面図である。
【
図9】3プレート構成の金型における型開動作を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例に係る射出成形機の構成について、
図1~
図9を参照して説明する。
【0019】
本実施例の射出成形機は、固定側金型および可動側金型を上下方向に開閉する竪型射出成形機である。本発明は固定側金型および可動側金型を水平方向に開閉する横型の射出成形機にも適用可能である。なお、本実施例の射出成形機は、固定側金型と、可動型金型と、中間プレートとを備えた3プレート構成の金型を搭載している。
【0020】
図1、
図2は、本発明の一実施例に係る射出成形機の側面図(型締状態、型開状態)である。
図3は、
図1の射出成形機の機能ブロックを説明する図である。
図4は、
図1の射出成形機のトルク上限値の一例を説明するグラフである。
図5、
図6は、型開動作中における型開閉モータの出力トルクおよび可動ダイプレートの移動速度の一例を示すグラフである(外乱のない通常時、外乱としてのショックロード発生時)。
図7は、
図6のショックロードが発生している一部期間を拡大したグラフである。
図8は、2プレート構成の金型における型開動作を説明する断面図である。
図8(a)は型開動作開始時の状態を示す。
図8(b)は固定側金型と可動側金型とが開いた状態を示す。
図8(c)は成形品を取り出した状態を示す。
図9は、3プレート構成の金型における型開動作を説明する断面図である。
図9(a)は型開動作開始時の状態を示す。
図9(b)は可動側金型と中間プレートとが開いた状態を示す。
図9(c)は、
図9(b)に続いて固定側金型と中間プレートとが開いた状態を示す。
図9(d)は成形品およびランナーを取り出した状態を示す。
【0021】
射出成形機1は、ロータリーテーブル11と、テールストック12と、可動ダイプレート13と、複数のタイバー14と、を有している。
【0022】
ロータリーテーブル11は、円板状に形成されており、フレーム3に支持された基台4上に回転可能に配置されている。本実施例において、ロータリーテーブル11には2つの固定側金型5、5が180度間隔で取り付けられる。ロータリーテーブル11は、固定ダイプレートの役割を担う。テールストック12は、基台4の下方に上下方向に移動可能に配置されている。可動ダイプレート13は、ロータリーテーブル11の上方に上下方向に移動可能に配置されている。可動ダイプレート13には、可動側金型6と、この可動側金型6と組み合わされた中間プレート9とが取り付けられる。中間プレート9は、固定側金型5と可動側金型6との間に配置される。複数のタイバー14は、基台4を貫通して配置されており、テールストック12と可動ダイプレート13とを連結している。ロータリーテーブル11は、回転駆動機構15により回転駆動され、固定側金型5、5を交互に可動側金型6に対向する位置に移動させる。
【0023】
固定側金型5と中間プレート9と可動側金型6とは、下方から上方に向かって順に重ねられる。固定側金型5と中間プレート9とを一時的に固定するロック機構60(「パーティングロック」ともいう)が設けられている。ロック機構60を設けることにより、型開動作において、
図9(b)に示すように可動側金型6と中間プレート9とが先に開いて成形品SとランナーRとを切り離し、これに続いて、
図9(c)に示すように固定側金型5と中間プレート9とが後に開いて、
図9(d)に示すように分離された成形品SとランナーRとを取り出すことができる。中間プレート9は、複数のロッド61によって可動範囲が制限され、可動側金型6の下方に吊り下げられる。
【0024】
また、射出成形機1は、射出装置7と、型締装置8と、を有している。
【0025】
射出装置7は、可動ダイプレート13の上側に搭載されている。射出装置7は、樹脂材料を可塑化して固定側金型5と可動側金型6とにより形成されるキャビティに射出する。
【0026】
型締装置8は、固定側金型5と可動側金型6と中間プレート9を型締および型開きするようにロータリーテーブル11に対して可動ダイプレート13を進退させる。型締装置8は、基台4の下方に配置されている。型締装置8は、ボールねじ20と、トグルリンク機構30と、型開閉モータ40と、を有している。
【0027】
ボールねじ20は、ナット体21と、ナット体21に螺合されているねじ軸22とで構成されている。ナット体21は、テールストック12に回転可能に保持されている。ナット体21には、従動プーリー42が取り付けられている。ねじ軸22は、クロスヘッド34に固定されている。
【0028】
トグルリンク機構30は、基台4とテールストック12との間に配置されている。トグルリンク機構30は、第1リンク31と、第2リンク32と、第3リンク33と、クロスヘッド34と、を有している。第1リンク31は、一端がクロスヘッド34に回転可能に連結されている。第2リンク32は、一端がテールストック12に回転可能に連結され、他端が第1リンク31の他端に回転可能に連結されている。第3リンク33は、一端が基台4に回転可能に連結され、他端が第1リンク31の他端に回転可能に連結されている。
【0029】
型開閉モータ40は、トグルリンク機構30を、伸長駆動および屈曲駆動する。型開閉モータ40は、例えば、電動サーボモータであり、テールストック12に搭載されている。型開閉モータ40の出力軸41と従動プーリー42とにはベルト43が架け渡されている。型開閉モータ40は、ベルト43および従動プーリー42を介してボールねじ20のナット体21を回転させる。
【0030】
テールストック12とクロスヘッド34とが離れるようにナット体21を回転させることによりトグルリンク機構30が伸長されてテールストック12とともに可動ダイプレート13が下方に移動する。これにより、固定側金型5と可動側金型6と中間プレート9とが型締される。また、テールストック12とクロスヘッド34とが近づくようにナット体21を回転させることによりトグルリンク機構30が屈曲されてテールストック12とともに可動ダイプレート13が上方に移動する。これにより、可動側金型6と中間プレート9とが開いて成形品SとランナーRとが切り離され、そのあと、固定側金型5と中間プレート9とが開いて成形品SとランナーRとが取り出される。
【0031】
射出成形機1は、制御装置50を有している。
【0032】
制御装置50は、射出成形機1全体の動作を司る。制御装置50は、例えば、マイクロコンピュータを有して構成されている。制御装置50は、射出装置7および型締装置8などが有する各種駆動装置を制御する。
【0033】
制御装置50は、成形動作において、以下の制御を行う。
(1)固定側金型5、5を可動側金型6と対向する位置に交互に移動するようにロータリーテーブル11を回転駆動する回転駆動機構15を制御する。
(2)樹脂材料を可塑化して、固定側金型5と可動側金型6とによって形成されるキャビティに射出するように射出装置7を制御する。
(3)固定側金型5と可動側金型6と中間プレート9とを型開閉するように型締装置8を制御する。
【0034】
また、制御装置50は、型開動作において、成形不良や装置異常、ショックロードなどの外乱により過剰な応力がトグルリンク機構30の構成部品などの型開閉機構部品に生じないように、型開閉モータ40の出力トルクTの監視を行う。制御装置50はトルク監視部として機能する。制御装置50には、型開閉モータ40の出力トルクTの監視に用いられるトルク上限値Tmが格納されている。制御装置50は、型開動作において、型開閉モータ40の出力トルクTの監視を行い、当該出力トルクTがトルク上限値Tmに達したか否かを検出する。制御装置50は、型開閉モータ40の出力トルクTがトルク上限値Tmに達したことを検出すると、射出成形機1に異常が生じたものとして、成形動作を停止させる。
【0035】
トルク上限値Tmは、トグルリンク機構30の構成部品である第1リンク31、第2リンク32、第3リンク33およびクロスヘッド34に生じる応力に基づいて設定されている。
【0036】
型開動作においてトグルリンク機構30に入力される力として、(1)型開閉モータ40の出力トルクTに応じた力が挙げられる。特に、竪型射出成形機においては、トグルリンク機構30に入力される力として、(2)可動側金型6、中間プレート9および射出装置7の重量に応じた力も挙げられる。そして、トグルリンク機構30の構成部品に生じる応力は、トグルリンク機構30の屈曲度合、すなわち、可動ダイプレート13の位置に応じて変化する。
【0037】
本実施例の射出成形機1では、トグルリンク機構30に入力される力として上記(1)、(2)を考慮しつつ、型開動作の開始から終了までの可動ダイプレート13の位置と、当該位置におけるトグルリンク機構30の構成部品に生じる応力との関係をシミュレーションを用いて算出し、算出した応力に基づいてトルク上限値Tmを設定している。竪型射出成形機においては、特に上記(2)を考慮することで、より適切なトルク上限値Tmを設定できる。本実施例のトルク上限値Tmは、トグルリンク機構30の構成部品に生じる応力に可動ダイプレート13の位置に応じた安全マージンを加えた値である。トグルリンク機構30の構成部品に生じる応力およびトルク上限値Tmの一例を
図4に示す。
図4の動作時間は、可動ダイプレート13の位置と相関性を有する。
【0038】
ここで、トグルリンク機構30の構成部品に生じる応力について考察する。例えば、構成部品であるトグルリンク機構30のクロスヘッド34に着目する。クロスヘッド34に生じる応力の向きは、
図1、
図2において矢印で模式的に示すように、トグルリンク機構30が完全に伸長した状態(
図1、型締状態)および完全に折りたたまれた状態(
図2、型開状態)で大きく異なり、一方の状態から他方の状態に遷移する間に当該応力の向きは刻々と変化する。クロスヘッド34以外の構成部品についても同様である。そして、状態の遷移に伴ってトグルリンク機構30によるトグル倍率(入力に対する出力の倍率)も変化する。そのため、型開閉モータ40が比較的小さい出力トルクTで動作していても、トグルリンク機構30の構成部品には大きな応力が生じていることがある。
【0039】
例えば、通常の型開動作中に型開閉モータ40の出力トルクTが定格トルクの20%の値となる可動ダイプレート13の位置において、外乱により出力トルクTが定格トルクの70%の値となった場合に構成部品の破損が生じるおそれがある。一方で、可動ダイプレート13の他の位置では、通常の型開動作中に型開閉モータ40の出力トルクTが定格トルクの90%の値となることがあり得る。そのため、型開動作におけるトルク上限値Tmを一定の値とする場合には、定格トルクの70%の値を採用することができず、定格トルクの90%より大きな値を採用しなければならない。これに対して、本実施例の射出成形機1は、型開動作中に可動ダイプレート13の位置に応じてトグルリンク機構30の構成部品に生じる応力に基づいてトルク上限値Tmを設定する。すなわち、型開動作中に可動ダイプレート13が通過する複数の位置毎にトグルリンク機構30の構成部品に生じる応力を求め、この応力に基づいてトルク上限値Tmを設定する。そのため、型開動作中の型開閉モータ40の出力トルクTを適切に監視することができ、外乱による影響を効果的に抑制できる。
【0040】
ここで、型締動作中の型開閉モータ40の出力トルクTおよび可動ダイプレート13の移動速度Vの一例について、
図5~
図7を参照して説明する。
図5~
図7に示すグラフは、動作時間の経過により左から右に進む。なお、説明の便宜上、
図6、
図7は、トルク上限値Tmを用いた出力トルクTの規制は行わず、外乱が生じた場合の波形をそのまま示すものである。本実施例の射出成形機1の実際の動作では、制御装置50によって、出力トルクTがトルク上限値Tmに達したときに成形動作を停止させて、出力トルクTがトルク上限値Tmを超えないように規制している。すなわち、出力トルクTがトルク上限値Tmに達すると、出力トルクTおよび移動速度Vは直ちに0となる。
【0041】
図8に、2プレート構成の金型(固定側金型5と可動側金型6)を示す。2プレート構成の金型は、固定側金型5と可動側金型6とを一時的に固定するロック機構を有していない。そのため、固定側金型5と可動側金型6とを開いている際に外乱は生じない。この2プレート構成の金型を用いた場合の型開動作では、
図5に示すように、可動ダイプレート13の移動速度Vは、上昇したのち一定速度となる。この場合、型開閉モータ40の出力トルクTは、移動速度Vおよび型開動作時の負荷に応じて、急峻な増減のあと緩やかな山なりに変化する。
【0042】
図9に、3プレート構成の金型(固定側金型5と可動側金型6と中間プレート9)を示す。3プレート構成の金型は、固定側金型5と中間プレート9とを一時的に固定するロック機構60を有している。そのため、固定側金型5と中間プレート9とを開く際にロック機構60を外すために過剰な応力(外乱)が生じることがある。この3プレート構成の金型を用いた場合の型開動作では、
図6に示すように、まずは外乱のない型開動作と同様に、可動ダイプレート13の移動速度Vは、上昇したのち一定の目標速度となる。そして、この場合の型開閉モータ40の出力トルクTは、急峻な増減のあとの緩やかな山なりのカーブの途中でロック機構60を外すために一時的に増大し、そのあと出力トルクTは振動を経て山なりのカーブに収束する。
【0043】
図7は、
図6の一部期間Aについて横軸方向に拡大したグラフである。なお、
図7において、移動速度Vについては縦軸方向にも拡大している。型開動作において、
図9(b)に示すように可動側金型6と中間プレート9とを開いたあとに、可動側金型6と中間プレート9とを開こうとした際に、ロック機構60により固定側金型5と中間プレート9とが一時的に固定されているため負荷が増大する。そのため、
図7に示すように、可動ダイプレート13の移動速度Vが低下し、移動速度Vを目標速度に回復しようとして出力トルクTが増大する。そして、出力トルクTの増大により、
図9(c)に示すようにロック機構60が外れて可動側金型6と中間プレート9とが離れると、移動速度Vが振動を経て目標速度に収束し、出力トルクTも振動を経て緩やかな山なりに収束する。
【0044】
そして、本実施例の射出成形機1では、制御装置50が、型開動作において、可動ダイプレート13の移動速度Vを監視し、移動速度Vが速度基準値Vsより低下したとき(
図7においてS0時点)、型開閉モータ40の出力トルクTの監視を開始する。そして、制御装置50は、型開閉モータ40の出力トルクTがトルク上限値Tmに達したことを検出すると、射出成形機1に異常が生じたものとして、成形動作を停止させる。この場合、S0時点以降において出力トルクTがトルク上限値Tmに達しないように、ロック機構60の固定力を下げて、再度成形動作を実施する。制御装置50は、速度監視部として機能する。速度基準値Vsは、例えば、通常の型開動作中の移動速度Vを複数回計測して平均値を求め、この平均値に所定のマージンを設けた値を設定する。または、速度基準値Vsは、上記目標速度に基づいて設定してもよい。
【0045】
以上より、本実施例の射出成形機1によれば、型開動作において可動ダイプレート13の移動速度Vが速度基準値Vsより低下したとき、型開閉モータ40の出力トルクTの監視を開始し、出力トルクTがトルク上限値Tmに達すると成形動作を停止させる。このようにしたことから、可動ダイプレート13の移動速度Vの低下を伴う外乱による出力トルクTの増大に対して適切に対応することができる。そのため、操作者による出力トルクTの監視範囲の設定などの煩雑な操作を行うことなく、出力トルクTの増大を引き起こす外乱が発生しても型開閉機構部品の破損を防止することができる。
【0046】
また、型締装置8が、型開閉モータ40により伸長駆動および屈曲駆動されるトグルリンク機構30を有する。そして、出力トルクTの監視に用いられるトルク上限値Tmが、型開動作中に可動ダイプレート13の位置に応じてトグルリンク機構30の構成部品に生じる応力に基づいて設定されている。このようにしたことから、適切なトルク上限値Tmを設定することができる。なお、上述した実施例の射出成形機1はトグルリンク機構30を有する構成であったが、本発明は、直圧式など、トグルリンク機構以外の構成を有する型締装置を備えた射出成形機にも適用可能である。
【0047】
また、ロータリーテーブル11の上方に可動ダイプレート13が配置され、可動ダイプレート13に射出装置7が搭載された竪型射出成形機である射出成形機1において、トルク上限値Tmが、可動側金型6、中間プレート9および射出装置7の重量に基づいて設定されている。射出成形機1では、可動ダイプレートが水平方向に移動する横型の射出成形機と異なり、トグルリンク機構30に可動側金型6、中間プレート9および射出装置7の重量に応じた力が加わる。そのため、これらの重量を考慮してトルク上限値Tmを設定することでより適切なトルク上限値Tmを設定することができる。
【0048】
上述した実施例では、3プレート構成の金型を用いた場合について説明するものであったが、3プレート構成の金型に代えて、2プレート構成の金型を用いてもよい。2プレート構成の金型において、例えば、成形不良により固定側金型5と可動側金型6とが樹脂で固着してしまうと、金型の開き始め時点で出力トルクが増大する外乱となりえる。そして、上述した射出成形機1では、このような外乱が発生しても型開閉機構部品の破損を防止することができる。
【0049】
また、上述した実施例では、可動側金型6と中間プレート9とが先に開き、固定側金型5と中間プレート9とが後に開く構成であった。これ以外にも、固定側金型と中間プレートとが先に開き、可動側金型と中間プレートとが後に開くように可動側金型と中間プレートとを一時的に固定するロック機構を設けた構成としてもよい。
【0050】
上記に本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、本発明をダイカストマシンなどの成形機に適用してもよく、前述の実施例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施例の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨に反しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1…射出成形機、3…フレーム、4…基台、5…固定側金型、6…可動側金型、7…射出装置、8…型締装置、9…中間プレート、11…ロータリーテーブル、12…テールストック、13…可動ダイプレート、14…タイバー、15…回転駆動機構、20…ボールねじ、21…ナット体、22…ねじ軸、30…トグルリンク機構、31…第1リンク、32…第2リンク、33…第3リンク、34…クロスヘッド、40…型開閉モータ、41…出力軸、42…従動プーリー、43…ベルト、50…制御装置、T…型開閉モータの出力トルク、Tm…トルク上限値、V…可動ダイプレートの移動速度、Vs…速度基準値、S…成形品、R…ランナー