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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】溶接装置、および接合部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 3/04 20060101AFI20230519BHJP
   B23K 1/19 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
B23K3/04 F
B23K1/19 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019180726
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021053681
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【弁理士】
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】堀内 貞男
(72)【発明者】
【氏名】乙部 鉄太郎
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-140365(JP,A)
【文献】特開平6-292963(JP,A)
【文献】特開2009-28786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00 - 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被接合部材と第2の被接合部材とを有する被接合部材をろう材により接合するための溶接装置であって、
電圧が印加され、前記第1の被接合部材に対峙する第1の電極と前記第2の被接合部材に対峙する第2の電極とを有する電極と、
前記第1の電極と前記第1の被接合部材との間に設けられる第1の金属体と、前記第2の電極と前記第2の被接合部材との間に設けられる第2の金属体と、を有する金属体と、
を有し、
電気抵抗率が、
前記金属体<前記被接合部材<前記ろう材<前記電極
であることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
熱伝導率が、
前記被接合部材<前記ろう材<前記電極<前記金属体
であることを特徴とする請求項1記載の溶接装置。
【請求項3】
前記電極はカーボン単体を含有する材料で構成され、
前記金属体は、タングステンと銀、またはタングステンと銅の複合材料で構成されること
を特徴とする請求項2記載の溶接装置。
【請求項4】
第1の被接合部材と第2の被接合部材とを有する被接合部材を、電気抵抗率が当該被接合部材よりも大きいろう材を用いて接合してなる接合部材の製造方法であって、
前記ろう材よりも電気抵抗率の大きい電極である第1の電極と第2の電極とであって、当該第1の電極と前記第1の被接合部材とを対峙させおよび当該第2の電極と前記第2の被接合部材とを対峙させるに際して、
前記被接合部材よりも電気抵抗率が小さい金属体からなる第1の金属体と第2の金属体とであって、前記第1の電極と前記第1の被接合部材との間に当該第1の金属体を、および前記第2の電極と前記第2の被接合部材との間に当該第2の金属体を配置し、
前記ろう材が挟まれている前記被接合部材を前記第1の電極および前記第2の電極により押圧し、前記第1の金属体を当該第1の電極および前記第1の被接合部材に当接させ、および前記第2の金属体を当該第2の電極および前記第2の被接合部材に当接させ、
前記第1の電極および前記第2の電極に電圧を印加する
ことを特徴とする接合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置、接合部材の製造方法、接合部材およびオリフィスプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の金属板を重ねた状態で金属板同士を接合することにより、部品等を製造することが知られている。
例えば特許文献1には、金属からなる複数枚の板の積層体である被接合物と当接する一方の電極と、被接合物を挟んで一方の電極と対向する他方の電極と、両電極のうち少なくとも一方を加圧し、被接合物を両電極によって挟持させる加圧機構と、両電極に電流を供給する溶接電源とを備えた溶接装置において、各電極を、モリブデン、タングステン、鉄、ニッケル、チタンのうち少なくとも1つの元素を含む金属または合金で構成することが開示されている。
また、例えば特許文献2には、電極を介して被接合部材に電流を流し、この電流によって発生する抵抗熱によって被接合部材を接合する抵抗溶接方法であって、電気抵抗値が前記被接合部材よりも高く、かつ、融点が前記被接合部材の沸点よりも高い抵抗部材を、前記被接合部材と前記電極との間に介在させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-46917号公報
【文献】特開2005-342771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、隣接する部材同士の接触抵抗を利用して接合を行う場合には、接触抵抗が低くなっている部位よりも、接触抵抗が高くなっている部位での発熱量が大きくなる。このため、接触抵抗が高くなっている部位が選択的、優先的に溶融することとなってしまい、溶融後に固化して得られる接合部に偏りが生じることがあった。
また、ろう材を挟んだ2枚の金属板に対して加圧および通電を行うことで、ろう材を溶融および固化させることにより、2枚の金属板を接合するろう接と呼ばれる技術においても、ろう材を溶融および固化して得られる接合部に、接触抵抗等に起因する偏りが生じることがあった。
本発明は、ろう接における局所的な接合部の形成を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載された発明は、第1の被接合部材と第2の被接合部材とを有する被接合部材をろう材により接合するための溶接装置であって、電圧が印加され、前記第1の被接合部材に対峙する第1の電極と前記第2の被接合部材に対峙する第2の電極とを有する電極と、前記第1の電極と前記第1の被接合部材との間に設けられる第1の金属体と、前記第2の電極と前記第2の被接合部材との間に設けられる第2の金属体と、を有する金属体と、を有し、電気抵抗率が、前記金属体<前記被接合部材<前記ろう材<前記電極であることを特徴とする溶接装置である。
請求項2に記載された発明は、熱伝導率が、前記被接合部材<前記ろう材<前記電極<前記金属体であることを特徴とする請求項1記載の溶接装置である。
請求項3に記載された発明は、前記電極はカーボン単体を含有する材料で構成され、
前記金属体は、タングステンと銀、またはタングステンと銅の複合材料で構成されることを特徴とする請求項2記載の溶接装置である。
請求項4に記載された発明は、第1の被接合部材と第2の被接合部材とを有する被接合部材を、電気抵抗率が当該被接合部材よりも大きいろう材を用いて接合してなる接合部材の製造方法であって、前記ろう材よりも電気抵抗率の大きい電極である第1の電極と第2の電極とであって、当該第1の電極と前記第1の被接合部材とを対峙させおよび当該第2の電極と前記第2の被接合部材とを対峙させるに際して、前記被接合部材よりも電気抵抗率が小さい金属体からなる第1の金属体と第2の金属体とであって、前記第1の電極と前記第1の被接合部材との間に当該第1の金属体を、および前記第2の電極と前記第2の被接合部材との間に当該第2の金属体を配置し、前記ろう材が挟まれている前記被接合部材を前記第1の電極および前記第2の電極により押圧し、前記第1の金属体を当該第1の電極および前記第1の被接合部材に当接させ、および前記第2の金属体を当該第2の電極および前記第2の被接合部材に当接させ、前記第1の電極および前記第2の電極に電圧を印加することを特徴とする接合部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、本構成を採用しない場合と比較して、ろう接における局所的な接合部の形成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】燃料噴霧オリフィスプレートの製造方法を示す図である。
図2】(a)、(b)は、燃料噴霧オリフィスプレートの構成を説明するための図である。
図3】接合工程で用いられる溶接装置の構成を説明するための図である。
図4】(a)、(b)は、溶接装置を用いたろう接の手順を説明するための図である。
図5】(a)は実施例における接合部の状態を、(b)は比較例における接合部の状態を、超音波探傷検査により得た画像である。
図6】良好な接合部の状態の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態では、図示しない内燃機関のシリンダ内に、渦状に燃料を噴霧するために用いられる燃料噴霧オリフィスプレート100(後述する図2参照)を例とし、その製造方法および構成に関する説明を行う。なお、以下の説明で参照する図面における各部の大きさや厚さ等は、実際の寸法とは異なっている場合がある。
【0009】
〔燃料噴霧オリフィスプレートの製造方法〕
図1は、接合部材またはオリフィスプレートの一例としての燃料噴霧オリフィスプレート100の製造方法を示す図である。本実施の形態では、シート10と、シート10の片面にメッキによって形成されたろう材30と、ろう材が形成されていないシート20とを用いて、燃料噴霧オリフィスプレート100の製造を行っている。
【0010】
ここで、本実施の形態では、シート10が第1の被接合部材または第1シートの一例であり、シート20が第2の被接合部材または第2シートの一例である。また、シート10およびシート20の両者が、被接合部材の一例である。
【0011】
〔準備工程220〕
準備工程220は、第1シート取得工程と、第2シート取得工程とを含んで構成される。第1シート取得工程では、導電性を有する金属の板材であるシート10に、メッキにて片面にろう材30が形成されたシートロール材Aを取得する。また、第2シート取得工程では、導電性を有する金属の板材であって、ろう材が形成されていないシート20のロール材であるシートロール材Bを取得する。
【0012】
ここでシート10およびシート20としては、導電性を有する各種金属等を採用することが可能であるが、腐食が生じ難く、加工し易く、世の中に広く普及されていて廉価であるもの、といった観点から、ステンレス鋼を採用することが好ましい。
【0013】
また、ろう材30としては、シート10とシート20とをろう接した場合に濡れ性がよく、ろう接による接合後の強度を高く確保できるものを用いるとよい。ここで、ろう接の対象となる被接合部材として、本実施の形態のようにステンレス鋼を採用する場合には、ろう材30としてNi-P(ニッケルリン)を用いることが望ましく、特に、リンを10wt.%以上含む所謂高リンタイプのNi-Pを用いることが望ましい。一般に、ろう材30としてNi-Pを用いる場合、粉末状あるいは薄状に形成されたろう材を、被接合部材間に挟み込むことが多い。しかしながら、本実施の形態では、ろう材30がNi-Pであることから、ステンレス鋼からなるシート10に、所謂無電解ニッケルメッキ法を用いて、Ni-Pからなるろう材30を付着させている。
【0014】
また、本実施の形態の場合、シート10の厚さは、例えば0.15~2(mm)程度の範囲より選択することができ、シート20の厚さは、例えば0.1~0.5(mm)程度の範囲より選択することができる。一方、ろう材30の厚さは、例えば1~2(μm)の範囲より選択することができる。
【0015】
〔抜き工程230〕
抜き工程230では、シート10とシート20とに各種の孔を形成する。片面にろう材30が形成されたシート10には金型231を用いて加工を施し、シート20には金型235を用いて加工を施している。この例では、抜き工程230で、シート10にスワール溝を含む各種の孔を形成しており、シート20には各種の孔を形成している。
【0016】
〔重ね工程240〕
重ね工程240では、抜き工程230にてそれぞれに各種の孔が形成されたシート10とシート20とが重ね合わされる。ここで、本実施の形態では、シート10とシート20とを重ね合わせる際、シート10の片面に設けられたろう材30を、シート20の一方の面に接触させるようにしている。換言すれば、重ね工程240では、シート10とシート20とによって、ろう材30を挟み込むようにしている。
【0017】
〔接合工程250〕
接合工程250では、重ね工程240にてシート10とシート20とを重ね合わせてなる積層体が、第1の電極251aと第2の電極251bとによって上下から挟み込まれ、シート10とシート20とが、ろう材30を用いてろう接により接合される。なお、接合工程250の詳細については後述する。
【0018】
〔噴霧孔形成工程260〕
噴霧孔形成工程260では、接合工程250で接合されたシート10およびシート20のうち、シート10に設けられたスワール溝を介して露出するシート20に、金型261を用いて複数の噴霧孔を形成する。
【0019】
〔打ち抜き工程270および取り出し工程280〕
打ち抜き工程270では、シート10およびシート20を接合してなる帯状体に対し、金型271を用いて外形を打ち抜くプレス加工を施すことで、燃料噴霧オリフィスプレート100を作製する。なお、燃料噴霧オリフィスプレート100が打ち抜かれた帯状体(切断屑)は、再度ロール状に巻き取られ、その後廃棄される。
取り出し工程280では、以上のようにして製造された燃料噴霧オリフィスプレート100が取り出される。
【0020】
〔燃料噴霧オリフィスプレート100の構造〕
図2(a)、(b)は、上述した製造方法により製造された燃料噴霧オリフィスプレート100の構成を説明するための図である。図2(a)は上面から燃料噴霧オリフィスプレート100を眺めた上面図、図2(b)は、図2(a)に示す上面図の断面BBを示した図である。なお、図2(a)、(b)には、上述した打ち抜き工程270における打ち抜きによって燃料噴霧オリフィスプレート100に形成される切断面101も、併せて示している。
【0021】
燃料噴霧オリフィスプレート100は、円板状を呈しており、表面且つ中央部には、シート10に形成されたスワール溝13が設けられている。そして、溝の一例としてのスワール溝13における4枚羽根の外周端側には、シート20の表裏面すなわち厚さ方向に貫通する4つの噴霧孔26が設けられている。燃料噴霧オリフィスプレート100の直径はφ10~φ20(mm)程度である。そして、切断面101により形成される燃料噴霧オリフィスプレート100の外周面は、円筒形状を呈するようになっている。さらに、4つの噴霧孔26は同一の直径(例えば1mm程度)に設定されている。そして、噴射孔の一例としての噴霧孔26の内周面は、円筒形状を呈するようになっている。
【0022】
図2(b)に示すように、シート10とシート20との間には、ろう材30が溶解した後に固化することで得られた接合部50が存在し、この接合部50によって、シート10とシート20とが固着接合されている。スワール溝13は、シート10にて形状が打ち抜かれ、シート20によって底面が形成され、これらによって凹み容積が決定されている。
【0023】
なお、この燃料噴霧オリフィスプレート100は、表面側すなわちスワール溝13が設けられている側に燃料噴霧装置が対向し、裏面側に内燃機関のシリンダが対向した状態で使用される。
【0024】
〔接合工程の詳細〕
次に、上述した接合工程250の詳細について説明を行う。ここでは、最初に、接合工程250で用いる溶接装置の構成について説明を行い、続いて、この溶接装置を用いた接合工程250におけるろう接の手順について説明を行う。
【0025】
〔溶接装置〕
図3は、接合工程で用いられる溶接装置250aの構成を説明するための図である。
本実施の形態の溶接装置250aは、第1の電極251aと第2の電極251bとを有する電極を備えている。なお、図1に示したように、第1の電極251aは、重ね合わされたシート10およびシート20のうち、シート10に対峙して配置される。これに対し、第2の電極251bは、シート20に対峙して配置される。また、溶接装置250aには、第1の電極251aとシート10との間に設けられる第1の金属体252aと、第2の電極251bとシート20との間に設けられる第2の金属体252bとが用いられている。
【0026】
また、溶接装置250aは、第1の電極251aおよび第2の電極251bに接合のための電圧を印加する電源装置253と、第1の電極251aおよび第2の電極251bを図中上下方向に移動させることでシート10およびシート20の積層体に接触して加圧を行う加圧機構254と、これら電源装置253および加圧機構254の動作を制御する制御装置255とを備えている。
【0027】
本実施の形態の溶接装置250aは、一般的な抵抗スポット溶接装置とは異なり、母材(この例ではシート10およびシート20)そのものを溶解させて溶接する抵抗溶接を行うのではなく、ろう材30を用いてろう接を行っている。また、本実施の形態では、一般的なろう付けでは2つの母材とは別に用意されるろう材30を、一方の母材となるシート10にメッキ膜として予め付着させている。さらに、本実施の形態の溶接装置250aでは、詳細は後述するが、第1の電極251aおよび第2の電極251bの両者を、ろう材30を加熱する加熱源としても機能させている。そして、本実施の形態の溶接装置250aでは、詳細は後述するが、これら第1の電極251aおよび第2の電極251bが発生した熱を、積層体の厚さ方向と交差する面方向に拡散させる第1の金属体252aおよび第2の金属体252b、を設けている。
【0028】
第1の電極251aおよび第2の電極251bは、略円柱状を呈しており、その直径は外径Daとなっている。一般的な抵抗溶接では、電極の構成材料として、抵抗値を低くしやすい銅(Cu)や銅を含む銅合金等が使用される。第1の電極251aおよび第2の電極251bは、導電性を有する金属等の各種材料を用いて構成することが可能であるが、本実施の形態では、発熱体としての機能も考慮し、ある程度の大きさの抵抗値を実現可能な材料で構成することが望ましい。例えば、銅系の材料よりも抵抗値を高くしやすい、グラファイト状の炭素(C)を含む材料、換言すれば、カーボン単体を含む材料で第1の電極251aおよび第2の電極251bを構成することができる。そして、第1の電極251aおよび第2の電極251bとして使用可能なカーボン単体を含む材料としては、グラファイトを含むもの、グラファイト中に炭化珪素(SiC)を含有させたもの(C+SiC)、グラファイト中に炭化ホウ素(BC)を含有させたもの、グラファイト複合材等を挙げることができる。
【0029】
次に、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bからなる金属体について説明する。
第1の電極251aおよび第2の電極251bをそのままシート10およびシート20に接触させて、電流を流すと、シート10およびシート20に挟まれたろう材30のうち、接触抵抗の高い部分が局所的に高温になりやすい。そのために、ろう接させたい箇所の全体を均一に接合することが困難となる。そこで、本実施の形態では、第1の金属体252aを第1の電極251aとシート10との間に設け、かつ、第2の金属体252bを第2の電極251bとシート20との間に設け、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bを熱の拡散体として機能させている。
【0030】
この第1の金属体252aおよび第2の金属体252bは、略円板状の金属板であり、その直径は上記直径Daよりも大きい直径Dbとなっている(Da<Db)。また、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bの厚さは、2.0~10.0mm程度の範囲より選択することができる。
【0031】
第1の金属体252aおよび第2の金属体252bは、上述したように熱の拡散体としての機能も有していることから、第1の電極251aおよび第2の電極251bに比べて電気抵抗率が小さい材料で構成することが望ましく、また、第1の電極251aおよび第2の電極251bに比べて熱伝導率が大きい材料で構成することが望ましい。また、発熱体となる第1の電極251aによって加熱された際に溶融してしまわないよう、ある程度の耐熱性を有する材料で構成することが望ましい。
【0032】
第1の金属体252aおよび第2の金属体252bとして使用可能な材料としては、銀タングステン(AgW)、銅タングステン(CuW)、モリブデン(Mo)、タングステンニッケル銅(W-Ni-Cu)、銅クロム(CuCr)等を挙げることができる。また、これらの中でも、比較的小さい電気抵抗率と比較的大きい熱伝導率とを両立させるという観点から、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bには、銀タングステン(AgW)や銅タングステン(CuW)を用いることが望ましい。ただし、上述した材料のうち、銅を含む材料については、銅が、空気中に含まれる酸素との反応性が高いという問題がある。例えばろう材30としてNi-Pを用いた場合、銅は、Ni-Pの融点(850~900℃程度)付近で酸素と反応して化合物を形成することから、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気中に溶接装置250aを設置して作業を行う必要性が生じる。このため、空気中での使用を考慮すれば、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bとして銀タングステン(AgW)を用いることが望ましい。なお、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bとしてタングステン単体(W)を使用してもかまわない。ただし、この場合は、タングステン単体(W)の電気抵抗率が高いことから、第1の電極251aおよび第2の電極251bを構成する材料が、タングステン単体よりも電気抵抗率の高いものに制限される。
【0033】
次に、本実施の形態におけるろう接について説明する。ここでは、電気抵抗率(Ω・m)、熱伝導率(W/m・K)および融点(℃)の関係を例示する。
【0034】
まず、電気抵抗率に関しては、『第1の金属体252a・第2の金属体252b<シート10・シート20<ろう材30<第1の電極251a・第2の電極251b』の順となっている。すなわち、電気抵抗率に関しては、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bが最も小さく、第1の電極251aおよび第2の電極251bが最も大きくなっている。また、これを分解してみると、溶接装置250a側では、『第1の金属体252a・第2の金属体252b<第1の電極251a・第2の電極251b』となっており、積層体側では、『シート10・シート20<ろう材30』となっている。
【0035】
次に、熱伝導率に関しては『シート10・シート20<ろう材30<第1の電極251a・第2の電極251b<第1の金属体252a・第2の金属体252b』の順となっている。すなわち、熱伝導率に関しては、シート10およびシート20が最も小さく、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bが最も大きくなっている。また、これを分解してみると、溶接装置250a側では、『第1の電極251a・第2の電極251b<第1の金属体252a・第2の金属体252b』となっており、積層体側では、『シート10・シート20<ろう材30』となっている。
そして、電気抵抗率および熱伝導率の比較結果から、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bは、これらの中で最も電気抵抗率が小さく且つ最も熱伝導率が大きくなっていることがわかる。
【0036】
さらに、融点に関しては、『ろう材30<第1の金属体252a・第2の金属体252b<シート10・シート20<第1の電極251a・第2の電極251b』の順となっている。すなわち、融点に関しては、ろう材30が最も低く、第1の電極251aおよび第2の電極251bが最も高くなっている。また、これを分解してみると、溶接装置250a側では、『第1の金属体252a・第2の金属体252b<第1の電極251a・第2の電極251b』となっており、積層体側では、『ろう材30<シート10・シート20』となっている。
【0037】
〔ろう接の手順〕
図4は、溶接装置250aを用いたろう接の手順を説明するための図である。図4(a)は、図1と同様に側方から第1の電極251aおよび第2の電極251b等を眺めた図であり、図4(b)は上下方向(鉛直方向)の上方からシート10とシート20とを眺めた図である。
【0038】
以下では、主として図3および図4を参照しつつ、溶接装置250aを用いた、ろう材30によるシート10およびシート20のろう接について説明を行う。なお、初期状態において、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bは離れた状態にある。また、初期状態において、第1の電極251aおよび第1の金属体252aは離れた状態にあり、第2の電極251bおよび第2の金属体252bも離れた状態にある。さらに、初期状態において、電源装置253はオフに設定されている。
【0039】
ここで、図4に示したように、溶接装置250aに供給されてくる積層体を構成するシート10およびシート20のそれぞれには、上述した抜き工程230(図1参照)において、各種孔や溝が設けられている。
【0040】
例えばシート10には、搬送時のガイドとなる基準孔12が、積層体の搬送方向に沿って複数設けられている。また、シート10には、搬送方向に沿って複数のスワール溝13が設けられている。ただし、図4には、1個のスワール溝13のみを示している。さらに、シート10には、スワール溝13の周囲に存在する切断面101の外側を略円形状に囲む4つの溝部14が設けられており、隣接する溝部14同士の間には4つの接続部15が設けられている。
【0041】
一方、例えばシート20には、搬送時のガイドとなる孔22が、積層体の搬送方向に沿って複数設けられている。また、シート20には、切断面101の外側を略円形状に囲む4つの溝部24が設けられており、隣接する溝部24同士の間には4つの接続部25が設けられている。
【0042】
そして、シート10とシート20とを重ね合わせてなる積層体において、シート10に設けられた基準孔12と、シート20に設けられた孔22とが、厚さ方向において重なるように、それぞれの形成位置が定められている。また、この積層体において、シート10に設けられた4つの溝部14と、シート20に設けられた4つの溝部24とが、厚さ方向において略重なるように、それぞれの形成位置が定められている。そして、シート10に設けられた4つの溝部14の内部とシート20に設けられた4つの溝部24の内部とに、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bの外周縁の位置が重なるように、これら4つの溝部14あるいは4つの溝部24によって形成される円の外径が定められている。
【0043】
まず、溶接装置250aに対し、シート10とシート20との積層体が搬送により供給された後、制御装置255は、加圧機構254を用いて、第1の電極251aを下降させ、且つ、第2の電極251bを上昇させる制御を行う。これに伴い、第1の電極251aと第1の金属体252aとが接触した状態へと移行し、この状態を維持しつつ、第1の金属体252aが積層体のシート10に接触する位置まで下降していく。一方、第2の電極251bと第2の金属体252bとが接触した状態へと移行し、この状態を維持しつつ、第2の金属体252bがシート20に接触する位置まで上昇していく。その結果、第1の金属体252aと第2の金属体252bとによって、積層体が挟み込まれる。そして、制御装置255は、第1の電極251aと第2の電極251bとを用いて、積層体に予め定められた圧力(例えば数N程度)を付与した状態で、これらの移動を停止させる。
【0044】
次に、制御装置255は、電源装置253をオフ状態からオン状態へと移行させることにより、第1の電極251aおよび第2の電極251bを介して積層体に電圧を印加する。また、制御装置255は、所定の条件(経過時間や測定温度)を満足したことが検出されると、電源装置253をオン状態からオフ状態へと移行させることにより、電圧の印加を停止する。
【0045】
この間、積層体には、第1の電極251aから第2の電極251bに向かって電流が流れる。より具体的に説明すると、第1の電極251a→第1の金属体252a→シート10→ろう材30→シート20→第2の金属体252b→第2の電極251bの順で電流が流れる。そして、通電に伴ってろう材30の温度が上昇することでろう材30が溶融し、その後通電を停止することに伴ってろう材30の温度が低下することで、ろう材30が固化して接合部50となる。すなわち、シート10とシート20とが、ろう材30を用いたろう接により接合される。
【0046】
この接合を、より詳細に説明する。
ここでは、通電に伴って生じる、第1の電極251aおよび第2の電極251bからろう材30へと至る熱の流れについて説明を行う。
【0047】
まず、第1の電極251aおよび第2の電極251bが、通電に伴い、自身が有する抵抗値によって自己発熱し、自身が発生した熱を第1の金属体252aおよび第2の金属体252bに伝達する。
次に、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bは、第1の電極251aおよび第2の電極251bから受け取った熱を、シート10およびシート20に伝達する。また、第1の電極251aと第1の金属体252aとの境界および第2の電極251bと第2の金属体252bとの境界では、通電に伴い、両者の接触抵抗に起因する抵抗値によって発熱が生じ、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bは、この境界で発生した熱をシート10およびシート20に伝達する。さらに、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bは、通電に伴い、自身が有する抵抗値によって自己発熱し、自身が発生した熱をシート10およびシート20に伝達する。
【0048】
このように、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bは、第1の電極251aおよび第2の電極251bから受け取った熱と、第1の電極251aと第1の金属体252aとの境界および第2の電極251bと第2の金属体252bとの境界で発生した熱と、自身の発熱によって生じた熱とを、シート10およびシート20に供給することになる。ただし、この例では、電気抵抗率に関して、「第1の金属体252a・第2の金属体252b<第1の電極251a・第2の電極251b」であり、また、抵抗値に関して「第1の金属体252a・第2の金属体252b<第1の電極251a・第2の電極251b」である。このため、同じ大きさの電流を流した場合、発生する熱量に関して「第1の金属体252a・第2の金属体252b<第1の電極251a・第2の電極251b」となる。したがって、これらの中で一番大きいのは、第1の電極251aおよび第2の電極251bが発生する熱量である。
【0049】
また、この例では、熱伝導率に関して、「第1の電極251a・第2の電極251b<第1の金属体252a・第2の金属体252b」である。このため、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bでは、第1の電極251aおよび第2の電極251bよりも熱が伝わりやすくなっている。それゆえ、第1の電極251aおよび第2の電極251bから第1の金属体252aおよび第2の金属体252bに伝達された熱は、第1の金属体252a内および第2の金属体252b内において厚さ方向に進みつつ面方向に広がっていく(拡散されていく)状態で、第1の金属体252a内および第2の金属体252b内を進行していくことになる。
【0050】
続いて、シート10およびシート20は、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bから受け取った熱を、ろう材30に伝達する。また、第1の金属体252aとシート10との境界および第2の金属体252bとシート20との境界では、通電に伴い、両者の接触抵抗に起因する抵抗値によって発熱が生じ、シート10およびシート20は、この境界で発生した熱をろう材30に伝達する。さらに、シート10およびシート20は、通電に伴い、自身が有する抵抗値によって発熱し、自身が発生した熱をろう材30に伝達する。
【0051】
このように、シート10およびシート20は、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bから受け取った熱と、第1の金属体252aとシート10との境界および第2の金属体252bとシート20との境界で発生した熱と、自身の発熱によって生じた熱とを、ろう材30に供給することになる。ただし、この例では、電気抵抗率に関して、「第1の金属体252a・第2の金属体252b<シート10・シート20<第1の電極251a・第2の電極251b」であり、また、抵抗値に関して、「第1の金属体252a・第2の金属体252b<シート10・シート20<第1の電極251a・第2の電極251b」である。このため、同じ大きさの電流を流した場合、発熱量に関して、「第1の金属体252a・第2の金属体252b<シート10・シート20<第1の電極251a・第2の電極251b」となる。したがって、これらの中で一番大きいのは、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bから受け取る熱量である。
【0052】
このような過程を経た結果、ろう材30には、第1の電極251aから第1の金属体252aおよびシート10を介して熱が伝達されるとともに、第2の電極251bから第2の金属体252bおよびシート20を介して熱が伝達される。また、シート10とろう材30との境界、および、シート20とろう材30との境界では、通電に伴い、それぞれの接触抵抗に起因する抵抗値によって発熱が生じる。さらに、ろう材30は、通電に伴い、自身が有する抵抗値によって自己発熱する。このとき、ろう材30の自己発熱および接触抵抗によって生じる熱量は、上述した電気抵抗率の関係により、ろう材30が外部から受け取る熱量よりも小さい。
【0053】
ろう材30は、第1の電極251a側からろう材30に供給されてくる第1の熱と、第2の電極251b側からろう材30に供給される第2の熱と、自身が発生する第3の熱とによって加熱される。そして、加熱によりろう材30の融点を超えることに伴ってろう材30が溶融し、ろう材30は固体状から液体状へと移行する。
【0054】
この例では、ろう材30の融点が、上述した他の部材よりも低くなっている。このため、ろう材30が溶融し始めた時点で、これら他の部材は溶融せず、固体の状態を維持することになる。
【0055】
そして、この状態を一定期間維持することにより、シート10とシート20との積層体のうち、第1の金属体252aと第2の金属体252bとによって挟まれた部位に存在するろう材30は、略全域にわたって溶融した状態となる。その後、通電を停止することにより、この部位に存在するろう材30は、ろう材30の融点を下回ることによって今度は液体状から固体状へと移行し、シート10およびシート20の両者に接触することで接合部50となる。
【0056】
本実施の形態の溶接装置250aでは、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bを設けない場合と比べて、直列に接続される第1の電極251aおよび第1の金属体252aの合成抵抗値と、同じく直列に接続される第2の電極251bおよび第2の金属体252bの合成抵抗値とを、ともに大きくすることができる。これにより、ろう材30に電流が流れにくくなる分、ろう材30の自己発熱量を低減することができる。その結果、ろう材30の溶融において、ろう材30の自己発熱の影響よりも、第1の電極251aおよび第2の電極251bから伝達される熱の影響が高まることとなり、得られる接合部50の分布の偏りを抑制することが可能になる。
【0057】
また、本実施の形態の溶接装置250aでは、第1の電極251aとシート10との間には第1の金属体252aを、第2の電極251bとシート20との間には第2の金属体252bを、それぞれ配置している。このような構成を採用することで、これらを設けない場合と比べて、シート10とシート20との間に存在するろう材30に対し、電流を面方向により広げた状態で供給することができるようになっている。すなわち、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bを設けたことにより、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bに挟まれたろう材30に供給する電流分布のむらを少なくすることができ、ろう材30を局所的ではなく略一様に加熱して溶融できるようになる。その結果、ろう材30を溶融および固化して得られる接合部50の分布の偏りを抑制することができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、ガソリンや軽油等の燃料を噴霧する燃料噴霧オリフィスプレート100を例として説明を行ったが、噴霧するのは燃料に限られるものではなく、各種流体の噴霧に用いることもできる。
【0059】
また、本実施の形態では、燃料噴霧オリフィスプレート100を例として説明を行ったが、これに限られるものではない。すなわち、上述した構成および手法は、2つの被接合部材をろう材にて接合してなる各種接合部材および各種接合部材の製造方法に適用することができる。そして、このような接合部材としては、例えば複数の金属板を厚さ方向に重ねて接合することで構成される熱交換器や冷却プレート等を挙げることができる。
【実施例
【0060】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
本発明者は、接合工程250で用いる溶接装置250aとして、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bを備えたものと、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bを備えないものとを用意した。そして、それぞれの溶接装置250aを用いて、シート10とシート20とのろう接を行い、得られた接合部50の状態に関する評価を行った。なお、ここでは、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bを備えた溶接装置250aによる製造を実施例と称し、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bを備えない溶接装置250aによる製造を比較例と称する。
【0061】
表1は、実施例で用いた溶接装置250aと積層体とに関する、名称、構成材料、電気抵抗率、熱伝導率および融点の関係を示している。
【0062】
【表1】
【0063】
〔実施例〕
実施例では、第1の電極251aおよび第2の電極251bとして、炭素(C)を含むグラファイトを用いた。第1の電極251aおよび第2の電極251bの電気抵抗率は1.5~2.0×10-5(Ω・cm)、熱伝導率は100~250(W/m・K)、融点は3550以上(℃)であった。
【0064】
また、実施例では、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bとして、銀タングステン(AgW)を用いた。第1の金属体252aおよび第2の金属体252bの電気抵抗率は1.5~5.0×10-8(Ω・cm)、熱伝導率は280(W/m・K)、融点は960~1000(℃)であった。なお、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bの厚さは、それぞれ3.5(mm)とした。
【0065】
また、実施例では、シート10およびシート20として、ステンレス鋼の一種であるSUS304を用いた。シート10およびシート20の電気抵抗率は7.0~8.5×10-7(Ω・cm)、熱伝導率は16.7~20.9(W/m・K)、融点は1390~1450(℃)であった。
【0066】
また、実施例では、ろう材30として、Ni-Pを用いた。なお、ろう材30は、SUS304からなるシート10に、無電解ニッケルメッキ法により付着させた。このとき、Ni-Pにおけるリン(P)の濃度は10wt.%とした。ろう材30の電気抵抗率は8.5~10.0×10-7(Ω・cm)、熱伝導率は94(W/m・K)、融点は850~900(℃)であった。
【0067】
〔比較例〕
比較例では、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bを備えない溶接装置250aを用いた。すなわち、図3に示す溶接装置250aから、第1の金属体252aおよび第2の金属体252bを取り外したものを用いた。また、第1の電極251aおよび第2の電極251b、シート10およびシート20、そしてろう材30としては、実施例と同じものを用いた(表1参照)。
【0068】
〔製造方法〕
実施例および比較例の溶接装置250aでは、電源装置253による電源制御方式として、直流インバータ制御を採用した。ここで、電源装置253では、トランスとしてNT-IN8222Lを用いた。また、加圧機構254による加圧力としては、最初に積層体を挟み込んだ状態で0.75(N)の力をかけ、その後さらに3.75(N)の力を加えることにより、合計で4.5(N)の力を付与するようにした。さらに、通電時に供給する電流は1000~3000(A)とし、接合に要する時間、換言すれば、4.5(N)の力を付与しながら通電を行う時間は、5~10(sec)とした。なお、接合部50となるろう材30の温度は、非接触型の温度計を使用して監視を行うようにし、リミット温度を850(℃)に設定するとともに、測定温度がリミット温度を超えたら通電を停止させるようにした。
【0069】
〔評価〕
実施例および比較例のろう接後の積層体に対し、超音波探傷検査による評価を行った。より具体的に説明すると、ろう接後の各積層体に対し、超音波探傷検査装置を用いて撮影を行い、シート10とシート20との間に存在するために、外部からの確認が困難な接合部50の状態を観察した。
【0070】
図5は、超音波探傷検査により得た画像を示している。図5(a)は実施例における接合部50の状態を示しており、図5(b)は比較例における接合部50の状態を示している。なお、図5(a)、(b)のそれぞれにおいて、画像の略中央部にはシート10に設けられたスワール溝13が存在しており、その周囲に存在する黒っぽい部分が、ろう材30を溶融、固化してなる接合部50となっている。
【0071】
図5(a)に示すように、実施例の場合、接合部50が、スワール溝13の周囲を切れ目なく囲っていることがわかる。これに対し、比較例の場合、接合部50が略C字状となっており、スワール溝13の周囲を切れ目なく囲うことができない状態となっていることもわかる。
【0072】
燃料噴霧オリフィスプレート100は、上述したように、図示しない内燃機関のシリンダ内に、渦状に燃料を噴霧するために用いられる。このため、燃料噴霧オリフィスプレート100に設けられたスワール溝13およびその周辺には、燃料の噴霧に伴って高い圧力が加えられる。そして、高い圧力が加えられた燃料は、スワール溝13に設けられた噴霧孔26を通過することにより、霧状となって外部に出力される。
【0073】
このため、例えば比較例のように、燃料噴霧オリフィスプレート100に設けられたスワール溝13の周囲に、接合部50の切れ目が存在していると、この切れ目を介して燃料が漏れるおそれがある。そして、燃料の漏れが生じてしまうと、燃料に目的とする圧力を加えることが困難となってしまう。また、この切れ目を起点として、燃料噴霧オリフィスプレート100を構成するシート10とシート20とが分離してしまうおそれがある。
【0074】
これに対し、実施例のように、燃料噴霧オリフィスプレート100に設けられたスワール溝13の周囲に、切れ目なく接合部50を配置できれば、上述した問題は生じ難くなる。その結果、長期にわたって、安定した燃料噴霧性能を維持することが可能になる。
【0075】
なお、上述した実施例では、スワール溝13の周囲のほぼ全域に接合部50が形成されていたが、これに限られるものではない。
図6は、良好な接合部50の状態の他の例を示す図である。
図6に示す例においても、接合部50が、スワール溝13の周囲を切れ目なく囲っている。ただし、図6に示す例では、スワール溝13の形成部位と接合部50との形成部位との間に、例えばろう材30が溶融しなかったり、あるいは、溶融はしたものの固化した際にシート20と接触することができなかったりすることにより、接合部50にはなれなかった部位が存在している。
【符号の説明】
【0076】
10…シート、13…スワール溝、20…シート、26…噴霧孔、30…ろう材、50…接合部、100…燃料噴霧オリフィスプレート、220…準備工程、230…抜き工程、240…重ね工程、250…接合工程、250a…溶接装置、251a…第1の電極、251b…第2の電極、252a…第1の金属体、252b…第2の金属体、253…電源装置、254…加圧機構、255…制御装置、260…噴霧孔形成工程、270…打ち抜き工程、280…取り出し工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6