(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】筆記具用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/17 20140101AFI20230519BHJP
【FI】
C09D11/17
(21)【出願番号】P 2019202935
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】西島 千裕
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第18/083824(WO,A1)
【文献】特開平06-256699(JP,A)
【文献】特開2000-345090(JP,A)
【文献】特開2001-214114(JP,A)
【文献】特開2002-265851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンおよび/または板状光輝顔料と、
増粘多糖類、セルロースナノファイバーおよびポリアクリル酸アルカリ膨潤型エマルションからなる群より選ばれる少なくとも一つの増粘剤と、
アタパルジャイトと
を含有することを特徴とする筆記具用水性インク組成物。
【請求項2】
前記アタパルジャイトと前記増粘剤との質量比(アタパルジャイト:増粘剤)が2.5:1~100:1であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項3】
前記増粘多糖類が、キサンタンガム、サクシノグリカンおよびダイユータンガムからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用水性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキングペンなどの筆記具に好適な水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン(IV)(TiO2)は、その優れた光散乱効果により、白色度および隠蔽性を付与することができる顔料である。また、酸化チタンは安価でもあることから、描線に隠蔽性を付与する目的、あるいは、パステルカラーのインクなどを調製する目的で、筆記具用水性インク組成物に添加される。しかしながら、酸化チタンは比重が3.8~4.1と大きいために、インク中で沈降しやすく、分散系中での安定分散が困難という問題があった。このため、このような系では、一般に、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を分散媒中に添加するなど、そのインク組成に関して種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、水溶性樹脂や高粘度水溶性有機溶剤を使用せずにインクの粘度を必要な範囲に増粘させた水性インク組成物として、着色剤として染料または/および顔料、溶剤として水溶性有機溶剤または/および水、その他、必要に応じて防錆剤、防腐剤および水溶性樹脂を含有する混合物に、スメクタイト構造のカチオン交換性合成ケイ酸塩を添加して増粘した水溶性ゲルインクが報告されている。特許文献1によると、スメクタイト構造のカチオン交換性合成ケイ酸塩をインク組成物に添加することにより、インク組成物は、その液相が不均一分散系となり、従来の水性ゲルインクとは異なるレオロジー的性質として、非ニュートン流動、具体的にはチキソトロピー性を発揮する。
しかしながら、特許文献1の技術では、例えば、酸化チタンのような比重や粒径の大きい顔料を使用する場合に、インク組成物の経時安定性の点で充分とはいえなかった。
【0004】
特許文献2では、顔料などの各種成分が経時により沈殿して固まることなく、容易に再分散して分散状態を形成することが可能で、かつ、繊維芯やポーラス体などのペン先でも顔料が沈降することなく、筆跡の発色性に優れた筆記具用水性インク組成物として、酸化チタン、湿式シリカ、含水カオリン、セルロース誘導体および水を含有する水性インク組成物が報告されている。セルロース誘導体は凝集コントロール剤として作用し、湿式シリカおよび顔料粒子により形成された低密度の凝集体を結合するとともに、含水カオリンなどを水性インク組成物中に分散し、嵩高い凝集体を形成する。つまり、特許文献2では、セルロース誘導体が、水性インク組成物中の凝集体のハードケーキングを防止し、再分散性を向上させる働きをする。
【0005】
特許文献3では、平均粒径の大きな光輝性顔料を使用しても、長時間静置状態におくと起こるハードケーキングを防止し、容易に顔料を再分散させることができる光輝性水性インク組成物として、結晶セルロース、剪断減粘性付与剤、光輝性の板状粒子顔料および水を含有する水性インク組成物が報告されている。特許文献3の水性インク組成物では、結晶セルロースおよび剪断減粘性付与剤が、剪断応力が加わらない静置時は、高粘度を示して板状粒子顔料の沈降を抑制し、かつ、結晶セルロースが沈降する板状粒子顔料の間に入り込んで板状粒子顔料同士の密着を防いで、ハードケーキングを防止する。そして、光輝性水性インク組成物を使用した筆記具や塗布具は、使用時に振って剪断応力が加わると、インク組成物の粘度が低下し、攪拌ボールや攪拌バーなどの攪拌子をインク組成物で容易に移動させて、板状粒子顔料を再分散させることができる。
【0006】
しかしながら、特許文献2の技術では、湿式シリカおよび顔料粒子は弱凝集体を形成しており、含水カオリンやセルロース誘導体により、該弱凝集体を嵩高くし、かつ、強く凝集させても、水性インク組成物中の凝集体のハードケーキングを充分に防止できているとはいえない。また、特許文献3の技術でも、ハードケーキングの防止や再分散性の点で改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-292672号公報
【文献】特開2018-104579号公報
【文献】特開2002-285064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、顔料の沈降を抑え、分散安定性に優れ、かつ、一定時間の経過後も沈降物の再分散性に優れた筆記具用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、酸化チタンおよび/または板状光輝顔料と、増粘多糖類、セルロースナノファイバーおよびポリアクリル酸アルカリ膨潤型エマルションからなる群より選ばれる少なくとも一つの増粘剤と、アタパルジャイトとを含有することを特徴とする。
つまり、酸化チタンおよび/または板状光輝顔料を含有する分散系中に、特定の増粘剤およびアタパルジャイトを配合することで、顔料の沈降を抑え、分散安定性および再分散性に優れた筆記具用水性インク組成物を提供することができる。
【0010】
前記アタパルジャイトと前記増粘剤との質量比(アタパルジャイト:増粘剤)は2.5:1~100:2であることが好ましい。
前記増粘多糖類は、キサンタンガム、サクシノグリカンおよびダイユータンガムからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アタパルジャイトと特定の増粘剤とを水性インク組成物中に配合することで、顔料の沈降を抑え、分散安定性に優れ、かつ、一定時間の経過後も沈降物の再分散性に優れた筆記具用水性インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の筆記具用水性インク組成物(以下単に「水性インク組成物」ともいう。)は、酸化チタンおよび/または板状光輝顔料と、増粘多糖類、セルロースナノファイバーおよびポリアクリル酸アルカリ膨潤型エマルションからなる群より選ばれる少なくとも一つの増粘剤と、アタパルジャイト(attapulgite)とを含有する。
【0013】
本発明で使用する顔料は、酸化チタンおよび/または板状光輝顔料である。前記酸化チタンは、最も一般的な4価の酸化チタン(IV)(TiO2)を指す。なお、TiO2にはルチル型およびアナターゼ型などがあるが、顔料用酸化チタンは、通常、ルチル型である。
【0014】
前記板状光輝顔料は、光輝性を水性インク組成物に付与し、光沢性のある筆跡を与えることができる顔料である。板状光輝顔料は、板状以外に、やや細い葉片状、さらに細くなった鱗片状などの形状を有してもよい。このような板状光輝顔料には、パール顔料、ラメ顔料、メタリック顔料およびガラスフレーク顔料などがある。
【0015】
パール顔料は、真珠やアワビ貝などが放つ柔らかな美しい光沢を、光の多重層反射を利用することにより人工的に発現させた無機顔料である。パール顔料には、魚鱗箔のような天然品、天然マイカの表面を金属酸化物で被膜したもの、ならびに、合成マイカおよびその表面を金属酸化物で被膜したものなどが挙げられる。天然マイカまたは合成マイカの表面を金属酸化物で被膜したパール顔料は、金属酸化物の種類や厚みによって様々な色調を呈する。市販のパール顔料には、例えば、イリオジン100(粒径10~60μm、銀色)、イリオジン151(粒径1~110μm、銀色)、イリオジン153(粒径20~100μm、銀色)、イリオジン201(粒径5~25μm、金色)、イリオジン217(粒径10~60μm、赤銅色)、イリオジン289(粒径10~125μm、青色)、イリオジン504(粒径10~60μm、ワインレッド色)、およびイリオジン530(粒径10~125μm、銅色)(以上、メルク社製)などがある。
【0016】
ラメ顔料は、光輝性のフィルムまたはホイルを裁断した箔状の顔料である。具体的には、ポリエステルフィルムの片面にアルミニウムを真空蒸着した後、所望の着色剤で両面をコーティングし、細かく切断することにより得られるアルミニウムコーティングポリエステルフィルムなどである。市販のアルミニウムコーティングポリエステルフィルムには、例えば、クリスタルカラーX-20(平均粒径100μm、ダイヤ工業社製)などがある。
【0017】
メタリック顔料は一般にアルミニウム顔料である。アルミニウム顔料は、アルミニウム粉を薄く延ばしたフレーク状の顔料であり、アルミニウム粉を高級脂肪酸やミネラルスピリットなどの石油系溶剤とともにボールミルで粉砕および研磨して得られる、薄い鱗片状のペーストである。市販のアルミニウム顔料には、例えば、アルミニウム表面をリン系化合物により防錆処理したWXMシリーズ、アルミニウム表面をモリブテン化合物により防錆処理したWLシリーズ、アルミニウムフレークの表面を密度の高いシリカでコーティングしたEMRシリーズ〔以上、東洋アルミニウム社製〕、SW-120PM〔以上、旭化成ケミカルズ社製〕などがある。
【0018】
ガラスフレーク顔料は、フレーク状ガラスの表面に金属またはガラスより屈折率の高い金属酸化物が被覆された顔料である。フレーク状ガラスの平均粒径(長手方向の寸法)は1~500μm、平均厚みは0.1~10μmである。フレーク状ガラスの表面に被覆される金属には、銀またはニッケルなどが挙げられる。フレーク状ガラスの表面に金属を被覆する場合、被覆膜の厚みは通常0.04~0.2μmである。フレーク状ガラスの表面に被覆される金属酸化物には、例えば酸化チタンのように、ガラスより屈折率が高いものが使用される。この酸化チタン膜の厚みを変えることで、銀、黄、赤、青、緑などの色が得られる。市販のガラスフレーク顔料は、例えば、メタシャイン2040PS(平均粒径40μm)、2020PS(平均粒径25μm)、5090NS(平均粒径90μm)、5090RC(平均粒径90μm)(以上、日本板硝子社製)などである。
【0019】
板状光輝顔料は、所望の色相および輝度に合わせて、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。前記板状光輝顔料の使用量は、水性インク組成物全量に対して、通常1.0~20質量%、好ましくは5.0~15質量%である。
【0020】
本発明では、増粘多糖類、セルロースナノファイバーおよびポリアクリル酸アルカリ膨潤型エマルションからなる群より選ばれる少なくとも一つの増粘剤が使用される。増粘剤は、水性インク組成物の粘度を調整するとともに、水性インク組成物中での顔料およびアタパルジャイトなどの沈降を防止する役割を有する。
【0021】
増粘多糖類には、キサンタンガム、サクシノグリカン、グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、アミロース、アガロース、アガロペクチン、アラビナン、カードラン、カロース、カルボキシメチルデンプン、キチン、キトサン、クインスシード、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、ダイユータンガム、デキストラン、ニゲラン、ヒアルロン酸、プスツラン、フノラン、ペクチン、ポルフィラン、ラミナラン、リケナン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、アルカシーガムおよびローカストビーンガムなどが挙げられる。これらのうち、キサンタンガム、サクシノグリカンおよびダイユータンガムが好ましい。市販品は、例えば、キサンタンガム(KELZAN AR;三晶社製)、サクシノグリカン(レオザンSH;Solvay社製)およびダイユータンガム(KELCO-VIS DG-F;三晶社製)などである。
前記増粘多糖類は、単独で、または二種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
セルロースナノファイバーは、パルプをリン酸エステルなどで処理することにより、繊維幅3~4nmまで解繊した材料である。セルロースナノファイバーを水性インク組成物内に均一に添加することで、筆記時の粘度を低減する役割を有する。市販品は、例えば、セルロースナノファイバー(レオクリスタ C-2SP;第一工業製薬社製、固形分2%)などである。
【0023】
ポリアクリル酸アルカリ膨潤型エマルションもまた、剪断減粘性を付与する成分として、水性インク組成物中の顔料およびアタパルジャイトなどの沈降または凝集を抑え、長期的に分散状態を安定に維持することができる。ポリアクリル酸アルカリ膨潤型エマルションは、具体的には会合性増粘剤などである。会合性増粘剤としては、RHEOTECH 3800(アルケマ社製)などが市販されている。
【0024】
アタパルジャイトは、長径1~5μmおよび短径0.01~0.5μmの大きさを持つ針状または繊維状の粘土鉱物であり、Mg5Si8O20(OH)2(OH2)4・4H2Oの組成において、マグネシウム(Mg)およびケイ素(Si)の一部がアルミニウム(Al)で置換された構造を有する。市販品には、例えば、アタゲル(長径1μm、短径0.01μm;BASF社製)がある。
アタパルジャイトは、水系またはアルコール系の液中でコロイド状のゲルを形成し始め、安定した増粘作用を示すが、剪断応力を受けるとゲルネットワークが壊れて流動性が発生し、安定状態になると再びゲルを形成するという性質を有する。このため、チキソトロピー性を持つ増粘剤として知られる。特願2019-030220号では、アタパルジャイトを0.1~15質量%含有する水性インクはチキソトロピー性を示し、該水性インクを充填した水性ボールペンは、ボールの回転による剪断応力によって、水性インクの粘度が低下して滑らかな筆記感で紙面に筆記できること、また、紙面に付着した後は水性インクの粘度が戻り、滲み難い描線が得られることが報告されている。
【0025】
本発明の水性インク組成物では、アタパルジャイトおよび前記した増粘剤を併用することで、アタパルジャイトと増粘剤との間に緩い凝集体を形成し、より安定なゲルネットワークを形成することができる。アタパルジャイトおよび増粘剤が形成するネットワーク間に顔料が保持されることで分散安定性が向上し、顔料の沈降が抑えられる。
水性インク組成物中で、アタパルジャイトと増粘剤との質量比(アタパルジャイト:増粘剤)が2.5:1~100:1が好ましい。
【0026】
本発明の水性インク組成物は、酸化チタンおよび/または板状光輝顔料、前記増粘剤、ならびにアタパルジャイトの他に、残部として水、さらに、本発明の効果を損なわない範囲内で、水性インク組成物に通常用いられる成分、例えば、顔料分散剤、pH調整剤、防腐剤、潤滑剤、防錆剤および水溶性有機溶媒などを含有することができる。
【0027】
水には、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水および純水などが用いられる。
【0028】
顔料分散剤には、例えば、スチレンアクリル酸共重合体およびスチレンマレイン酸共重合体などの樹脂系化合物、ならびに、ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの界面活性剤などが挙げられる。
顔料分散剤の含有量は、酸化チタンおよび/または板状光輝顔料に対して、通常5~100質量%である。
【0029】
pH調整剤には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ならびに、アンモニア、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリン、トリエチルアミンおよびアミノメチルプロパノールなどのアミン化合物などが挙げられる。
pH調整剤の含有量は、水性インク組成物全量に対して、通常0.1~5質量%である。
【0030】
防腐剤には、例えば、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウムおよびチアゾリン系化合物などが挙げられる。
防腐剤の含有量は、水性インク組成物全量に対して、通常0.01~1質量%である。
【0031】
潤滑剤には、多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステルおよびアルキルリン酸エステルなどのノニオン系、リン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(12~15)エーテルリン酸、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩およびアルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体、フッ素系界面活性剤、ならびに、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
潤滑剤の含有量は、水性インク組成物全量に対して、通常0.05~3質量%である。
【0032】
防錆剤には、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライドおよびサポニン類などが挙げられる。
防錆剤の含有量は、水性インク組成物全量に対して、通常0.01~1質量%である。
【0033】
水溶性有機溶剤には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコールおよびグリセリンなどのグリコール類、ならびに、エチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。
水溶性有機溶剤の含有量は、水性インク組成物全量に対して、通常1~30質量%である。
【0034】
本発明の水性インク組成物は、従来公知の方法で調製することができる。例えば、顔料および顔料分散剤を水に添加した水分散体に、アタパルジャイトと、増粘多糖類、セルロースナノファイバーおよびポリアクリル酸アルカリ膨潤型エマルションから選ばれる一種以上の増粘剤と、前記した任意の各成分を所定量配合し、ホモミキサーまたはディスパーなどの攪拌機により攪拌混合することによって調製することができる。さらに、必要に応じて、ろ過や遠心分離によって水性インク組成物中の粗大粒子などを除去してもよい。
【0035】
本発明の水性インク組成物は、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップおよび多孔質チップ(繊維芯付き・繊維芯なし)などのペン先部を備えたマーキングペン、またはボールペンなどに充填して用いられる。
【0036】
以上のとおり、本発明の水性インク組成物は、アタパルジャイトおよび前記増粘剤の両方を含有することで、増粘効果を発揮して、優れた分散性を有するとともに、酸化チタンや板状光輝顔料のハードケーキングを抑制して、優れた再分散性を有する。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
〔実施例1〕
[マーキングペン用水性インク組成物の調製]
酸化チタン(R-902+;ケマーズ社製)30質量%およびスチレンアクリル樹脂(Joncryl60;BASF社製)10質量%を精製水55.85質量%に添加した水分散体に、アタパルジャイト(アタゲル;BASF社製)3質量%、キサンタンガム(KELZAN AR;三晶社製)0.05質量%、アミノメチルプロパノール1質量%および安息香酸ナトリウム0.1質量%を添加して室温で攪拌することにより、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
なお、酸化チタン、スチレンアクリル樹脂、アタパルジャイト、キサンタンガム、アミノメチルプロパノール、安息香酸ナトリウムおよび精製水の合計を100質量%とする。
【0038】
[マーキングペン用水性インク組成物の評価]
(1)粘度
ELD型粘度計(東京計器社製)により、25℃における剪断速度191/sの粘度値を測定した。
(2)再分散性
得られた水性インク組成物を使用して、マーキングペンを作製した。マーキングペンの構成は以下のとおりである。
商品名および品番:ポスカ PC-3M、三菱鉛筆社製
軸材質:ポリプロピレン(PP)樹脂
ペン芯:ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂
軸筒内にバルブ機構および攪拌ボール(φ6.4mm、ステンレス鋼製)を内蔵
【0039】
各水性インク組成物を充填したマーキングペンを、キャップ側を上向きにして、40℃環境下において2週間静置した後、マーキングペンを振った。攪拌ボールが水性インク組成物中で移動し始めるまでに振った回数を下記の基準で評価した。
評価基準:
A:1~5回
B:6~15回
C:16回以上
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
【0040】
〔実施例2〕
ラメ顔料(エルジーNEO#500;尾池工業社製)8質量%およびスチレンアクリル樹脂(Joncryl 60;BASF社製)4質量%を精製水83.86質量%に添加した水分散体に、アタパルジャイト(アタゲル;BASF社製)3質量%、サクシノグリカン(レオザンSH;Solvay社製)0.04質量%、アミノメチルプロパノール1質量%および安息香酸ナトリウム0.1質量%を添加して、実施例1と同様に常法によって、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
【0041】
〔実施例3〕
パール顔料(イリオジン100;メルク社製 銀色)7質量%およびスチレンアクリル樹脂(Joncryl 60;BASF社製)3質量%を精製水87.82質量%に添加した水分散体に、アタパルジャイト(アタゲル;BASF社製)1質量%、ダイユータンガム(KELCO-VIS DG-F;三晶社製)0.08質量%、アミノプロパノール1質量%および安息香酸ナトリウム0.1質量%を添加して、実施例1と同様に常法によって、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
【0042】
〔実施例4〕
アルミニウム顔料(WXM 0630;東洋アルミニウム社製)7質量%およびスチレンアクリル樹脂(Joncryl 60;BASF社製)5質量%を精製水83.87質量%に添加した水分散体に、アタパルジャイト(アタゲル;BASF社製)3質量%、セルロースナノファイバー(レオクリスタ C-2SP;第一工業製薬社製、固形分2%)0.03質量%、アミノプロパノール1質量%および安息香酸ナトリウム0.1質量%を添加して、実施例1と同様に常法によって、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
【0043】
〔実施例5〕
実施例1において、アタパルジャイトの量を3質量%から2質量%に変更し、キサンタンガム0.05質量%に代えて会合性増粘剤(RHEOTECH 3800;アルケマ社製)0.1質量%を使用し、精製水の量を55.85質量%から56.8質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
【0044】
〔実施例6〕
実施例1において、アタパルジャイトの量を3質量%から1質量%に変更し、精製水の量を55.85質量%から57.85質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
【0045】
〔実施例7〕
実施例1において、アタパルジャイトの量を3質量%から6質量%に変更し、精製水の量を55.85質量%から52.85質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
【0046】
〔比較例1〕
実施例1において、アタパルジャイトを使用しなかったことと、スチレンアクリル樹脂の量を10質量%を4質量%に変更し、キサンタンガムの量を0.05質量%から0.2質量%に変更し、精製水の量を55.85質量%から64.7質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
【0047】
〔比較例2〕
実施例1において、増粘剤を使用しなかったことと、アタパルジャイトの量を3質量%を10質量%に変更し、精製水の量を55.85質量%から48.9質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
【0048】
アタパルジャイトを含まない比較例1の水性インク組成物、および、増粘剤を含まない比較例2の水性インク組成物では、いずれも分散安定性が悪く、ガラス容器の底に大きな沈殿物が認められた。これらの水性インク組成物では、アタパルジャイトおよび増粘剤によるネットワークが形成されないため、該ネットワーク間に顔料が保持されないためと考えられる。
【0049】
〔比較例3〕
実施例5において、会合性増粘剤をベントナイト(ベンゲルSH;ホージュン社製)に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、マーキングペン用水性インク組成物を調製した。
実施例1と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表1に示す。
比較例3の水性インク組成物では、分散安定性が悪く、ガラス容器の底に大きな沈殿物が認められた。アタパルジャイトおよび増粘剤によるネットワークが形成されないため、該ネットワーク間に顔料が保持されないためと考えられる。
【0050】
【0051】
〔実施例8〕
[ボールペン用水性インク組成物の調製]
酸化チタン(R-902+;ケマーズ社製)15質量%およびスチレンアクリル樹脂(Joncryl 60;BASF社製)10質量%を精製水61.5質量%に添加した水分散体に、アタパルジャイト(アタゲル;BASF社製)1質量%、キサンタンガム(KELZAN AR;三晶社製)0.4質量%、トリエタノールアミン1質量%、チアゾリン(バイオデンS;大和化学工業社製)0.3質量%、リン酸エステル(RS-610;東邦化学工業社製)0.5質量%、ベンゾトリアゾール0.3質量%およびプロピレングリコール10質量%を添加して、実施例1と同様に常法によってボールペン用水性インク組成物を調製した。
【0052】
[ボールペン用水性インク組成物の評価]
(1)粘度
EMD型粘度計(東京計器社製)により、25℃における剪断速度38.3/sの粘度値を測定した。
(2)分散安定性
100mlガラス容器中に水性インク組成物を密閉し、25℃環境下において1ヶ月間放置した後、下記の基準で分散安定性を評価した。
評価基準:
A:沈降物が認められない
B:わずかに沈降物が認められる
C:大きな沈降物が認められる
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表2に示す。
キサンタンガムの量がやや多く、キサンタンガムに対するアタパルジャイトの割合が小さい実施例13に比べて、実施例8の水性インク組成物は分散安定性に優れていた。
【0053】
〔実施例9〕
ラメ顔料(エルジーNEO#500;尾池工業社製)7質量%およびスチレンアクリル樹脂(Joncryl 60;BASF社製)5質量%を精製水72.7質量%に添加した水分散体に、アタパルジャイト(アタゲル;BASF社製)3質量%、サクシノグリカン(レオザンSH;Solvay社製)0.2質量%、トリエタノールアミン1質量%、チアゾリン(バイオデンS;大和化学工業社製)0.3質量%、リン酸エステル(RS-610;東邦化学工業社製)0.5質量%、ベンゾトリアゾール0.3質量%およびプロピレングリコール10質量%を添加して、実施例1と同様に常法によって、ボールペン用インク組成物を調製した。
実施例8と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表2に示す。
【0054】
〔実施例10〕
実施例9において、ラメ顔料に代えてパール顔料(イリオジン100;メルク社製 銀色)を使用し、アタパルジャイトの量を3質量%から2質量%に変更し、サクシノグリカン0.2質量%に代えてダイユータンガム(KELCO-VIS DG-F;三晶社製)0.5質量%を使用し、精製水の量を72.7質量%から73.4質量%に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、ボールペン用水性インク組成物を調製した。
実施例8と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表2に示す。
【0055】
〔実施例11〕
実施例9において、ラメ顔料7質量%に代えてアルミニウム顔料(WXM 0630;東洋アルミニウム社製)8質量%を使用し、サクシノグリカン0.2質量%に代えてセルロースナノファイバー(レオクリスタ C-2SP;第一工業製薬社製、固形分2%)0.1質量%を使用し、精製水の量を72.7質量%から71.8質量%に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、ボールペン用水性インク組成物を調製した。
実施例8と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表2に示す。
【0056】
〔実施例12〕
実施例8において、アタパルジャイトの量を1質量%から5質量%に変更し、キサンタンガム0.4質量%に代えて会合性増粘剤(RHEOTECH 3800;アルケマ社製)0.8質量%を使用し、精製水の量を61.5質量%から57.1質量%に変更したこと以外は、実施例8と同様にして、ボールペン用水性インク組成物を調製した。
実施例8と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表2に示す。
【0057】
〔実施例13〕
実施例8において、キサンタンガムの量を0.4質量%から0.6質量%に変更し、精製水の量を61.5質量%から61.3質量%に変更したこと以外は、実施例8と同様にして、ボールペン用水性インク組成物を調製した。
実施例8と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表2に示す。
【0058】
〔実施例14〕
実施例8において、アタパルジャイトの量を1質量%から7質量%に変更し、キサンタンガムの量を0.4質量%から0.1質量%に変更し、精製水の量を61.5質量%から55.8質量%に変更したこと以外は、実施例8と同様にして、ボールペン用水性インク組成物を調製した。
実施例8と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表2に示す。
キサンタンガムの量が多く、キサンタンガムに対するアタパルジャイトの割合が大きくなると、水性インク組成物の分散安定性は低下傾向にあることがわかった。
【0059】
〔比較例4〕
実施例8において、アタパルジャイトを使用しなかったことと、キサンタンガムの量を0.4質量%から0.5質量%に変更し、精製水の量を61.5質量%から62.4質量%に変更したこと以外は、実施例8と同様にして、水性インク組成物を調製した。
実施例8と同様にして、ボールペン用水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表2に示す。
キサンタンガムを含まない比較例4の水性インク組成物では、分散安定性が悪く、ガラス容器の底に大きな沈殿物が認められた。
【0060】
〔比較例5〕
実施例8において、アタパルジャイトの量を1質量%から8質量%に変更し、キサンタンガム0.4質量%に代えてベントナイト(ホージュン社製)0.8質量%を使用し、精製水の量を61.5質量%から54.1質量%に変更したこと以外は、実施例8と同様にして、ボールペン用水性インク組成物を調製した。
実施例8と同様にして、水性インク組成物を評価した。
水性インク組成物の調製条件および評価結果を表2に示す。
比較例5の水性インク組成物では、分散安定性が悪く、ガラス容器の底に大きな沈殿物が認められた。
【0061】