(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】向上した付着性を示すグリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20230519BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20230519BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20230519BHJP
C10M 115/10 20060101ALN20230519BHJP
C10M 145/16 20060101ALN20230519BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20230519BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M107/02
C10M101/02
C10M115/10
C10M145/16
C10N50:10
C10N10:04
(21)【出願番号】P 2020550903
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2018084012
(87)【国際公開番号】W WO2019115398
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-10-01
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514170019
【氏名又は名称】トタル マーケティング セルヴィス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコル・ジュネ
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・ブリュージュマン
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-530732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1つの基油、
(ii)少なくとも1つのカルシウムスルホネート石鹸、及び
(iii)以下:
(a)少なくとも1つのα-オレフィン;及び
(b)α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその誘導体とアルコールとのエステル化によって形成された少なくとも1つのエステル
に由来する構成単位を含み、そのモル比(a)/(b)が0.5~4である、少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマー、
を含むグリース組成物
であって、
前記基油が、少なくとも1つのポリアルファオレフィン及び少なくとも1つの白色鉱油の混合物、又は少なくとも1つのナフテン系鉱油及び少なくとも1つのパラフィン系鉱油の混合物である、組成物。
【請求項2】
前記α-オレフィンが8~24個の炭素原子を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸が、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、及びイタコン酸から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アルコールが3~10個の炭素原子を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アルコールが、1~45のエトキシル化度を有する、エトキシル化された線状又は分岐状のアルコールから選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
組成物の総質量に対して、2質量%~20質量%の少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマーを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の総質量に対して、25質量%~75質量%の少なくとも1つの基油を含むことを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
カルシウムスルホネートが過塩基化されていることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物の総質量に対して、10質量%~50質量%の少なくとも1つのカルシウムスルホネート石鹸を含むことを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
抗酸化剤、防錆剤、防食剤、銅不動態化剤、耐摩耗剤、及び極圧剤から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1~
9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1つのポリマーをさらに含むことを特徴とする、請求項1~
10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ASTM D217規格に準拠して測定して、220~340(1/10mm単位)のコンシステンシーを有することを特徴とする、請求項1~
11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
以下の成分:
(i)少なくとも1つの基油、及び
(ii)少なくとも1つのカルシウムスルホネート石鹸、
を含むグリース組成物において、前記グリース組成物のDIN 51807規格に準拠して測定される付着力を向上させるための、以下:
(a)少なくとも1つのα-オレフィン;及び
(b)α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその誘導体とアルコールとのエステル化によって形成された少なくとも1つのエステル
に由来する構成単位を含み、そのモル比(a)/(b)が0.5~4の間にある、少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマーの使用
であって、
前記基油が、少なくとも1つのポリアルファオレフィン及び少なくとも1つの白色鉱油の混合物、又は少なくとも1つのナフテン系鉱油及び少なくとも1つのパラフィン系鉱油の混合物である、使用。
【請求項14】
機械部品を請求項1~
12のいずれか一項に記載の組成物と接触させる少なくとも1つの工程を含むことを特徴とする、機械部品の潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース、特に工業用途で使用可能なグリースの分野、特に、良好な付着特性を有するグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑グリースは、液体潤滑剤中に増粘剤を分散させることによって生じる固体又は半流動性物質であり、特定の特性を潤滑グリースに付与する添加剤を含むことがある。
【0003】
このようなグリースは、あらゆる産業用途、特に、荷重のかかる用途での潤滑、及び広い温度範囲にわたる作動のために特に有用である。実際、これらの用途のためには、液体潤滑剤は、給脂ポイントに対して「ドリフト」するので適していない。
【0004】
最近の数年、複合カルシウムスルホネート石鹸で増粘されたグリースが広く開発され、利用されており、なぜなら、それが多くの特性、例えば、極度の圧力に対する耐性、耐摩耗性、機械的強度、耐腐食性、耐水性、及び熱安定性、特に高温での熱安定性を示すからである。例えば、米国特許第5,126,062号明細書、米国特許出願公開第2015/252283号明細書、又は国際公開第2015/071331号は、そのような組成物及びそれらの調製方法を記載している。
【0005】
しかし、これらのグリースに用いられる複合カルシウムスルホネート石鹸は、特定の複合リチウム又はアルミニウム石鹸の場合にそうでありうるように、本来は付着性ではない。したがって、これらのグリース組成物は、十分なレベルの付着性を達成することを可能にはしない。
【0006】
一般に、グリースの特性を変えるため、例えば、それらの抗酸化特性を向上させるための添加剤の使用は、当業者に知られている。
【0007】
特にグリースの付着性を高めるために、添加剤、特にポリマー、例えば、ポリオレフィン、ポリイソブテン(PIB)、ポリエチレン、ポリプロピレン、重質PAO、オレフィンコポリマー(OCP)、さらにまたポリメタクリレート(PMA)を添加することもすでに提案されており、例えば、国際公開第2012/080940号に記載されているとおりである。
【0008】
しかし、推奨されるポリマーの大部分は非常に粘稠であり、このことがグリースの調製方法にかなりの制約を課す。特に、それらをグリース混合物に組み込む前にそれらを予熱するか、又はグリース加熱工程中にそれらを組み込むことが必要である。さらに、そのようなポリマーによって得られる付着性に関する特性は、依然として改善可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第5,126,062号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/252283号明細書
【文献】国際公開第2015/071331号
【文献】国際公開第2012/080940号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、前述の欠点をもたらさず、特にグリースの製造工程に過度に高い制約を示さない1つ又は複数の添加剤を選択することによって、その付着特性が改善された、工業用途において利用可能なグリースを入手可能にする必要がある。
【0011】
また、機械的安定性、耐摩耗性、耐荷重性、耐腐食性、及び耐熱性に関してその特性が保たれている、産業用途で利用できるグリースを入手可能にする必要もある。
【0012】
本出願は、従来技術のグリース組成物と比較して向上した付着性を示す、カルシウムスルホネート石鹸で増粘されたグリース組成物を提案することをまさに目的としている。
【0013】
本発明の別の目的は、グリースのその他の特性、特に、機械的安定性、特に高温での機械的安定性に関する特性が満足できるレベルに維持され、あるいは従来技術のグリース組成物と比較してさらに向上されているグリースを入手可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
より正確には、本発明者らは、グリースの中に非常に特殊な添加剤、すなわち、ジカルボン酸エステルを含有させることによって、グリースの付着性を向上させることができることを発見した。
【0015】
したがって、その第1の側面では、本発明は、以下のものを含むグリース組成物に関する。
(i)少なくとも1つの基油(ベースオイル)、
(ii)少なくとも1つのカルシウムスルホネート石鹸、及び
(iii)(a)少なくとも1つのα-オレフィン及び(b)α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその誘導体とアルコールとのエステル化によって形成された少なくとも1つのエステルに由来する構成単位を含み、そのモル比(a)/(b)が0.5~4の間にある、少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマー。
【0016】
実際、本発明者らは、驚くべきことに、グリース組成物中のそのようなジカルボン酸エステルコポリマーの存在が付着性に関してグリースに優れた性能を付与し、水の存在下でのその使用中の材料の損失を低減することを発見した。かなりの量の水の存在下でのグリースの稠度(コンシステンシー)も保持される。さらに、これらの特性は長期間持続する。
【0017】
好ましくは、この特定のエステルの存在は、グリースの他の特性、特にその機械的安定性を保つことをさらに可能にする。さらに、このようにして配合されたグリースの特定の性質、特にその機械的安定性がさらに改善されることを発見することができる。
【0018】
本発明はさらに、以下の成分:
(i)少なくとも1つの基油(ベースオイル)、及び
(ii)少なくとも1つのカルシウムスルホネート石鹸、
を含むグリース組成物において、前記グリース組成物のDIN 51807規格に準拠して測定される付着力を向上させるために、(a)少なくとも1つのα-オレフィン及び(b)α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその誘導体とアルコールとのエステル化によって形成された少なくとも1つのエステルに由来する構成単位を含み、そのモル比(a)/(b)が0.5~4の間にある、少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマーを利用することに関する。
【0019】
最後に、本発明は、機械部品を本発明に従って定義されたグリース組成物と接触させる少なくとも1つの工程を含む、機械部品の潤滑方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による組成物の実施のその他の特徴、変更、及び利点は、説明を目的とするものであり、本発明を限定するものではない、以下の説明、実施例、及び図を読むことでより明らかになる。
【0021】
以下の文章では、「・・・と・・・の間にある」、「・・・から・・・の範囲」、及び「・・・から・・・の範囲で変わる」という表現は同等であり、別段の記載のない限り、それらの限界値が含まれることを示すことを意図している。
【0022】
別段の記載がない限り、「1つを含む」という表現は、「少なくとも1つを含む」として理解されなければならない。
【0023】
組成物
ジカルボン酸エステルコポリマー
上で述べたように、本発明によるグリース組成物は、(iii)(a)少なくとも1つのα-オレフィンと(b)α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその誘導体とアルコールとのエステル化によって形成された少なくとも1つのエステルとから誘導される構成単位を含み、そのモル比(a)/(b)が0.5~4の間にある、少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマーを含む。
【0024】
(a)α-オレフィン
α-オレフィンは当業者に既知の化合物であり、エステル基油(ベースオイル)の調製のために一般的に利用されている。
【0025】
本発明に従って利用されるα-オレフィンは、好ましくは8~24個の炭素原子、好ましくは10~18個の炭素原子、特に14~16個の炭素原子を含む。
【0026】
α-オレフィンは直鎖状であることが好ましい。
【0027】
一実施態様によれば、本発明によるジカルボン酸コポリマーの構成要素であるα-オレフィン又は複数のα-オレフィンの混合物は、180g/モル~800g/モル、特に200g/モル~500g/モル、好ましくは200g/モル~300g/モル、より好ましくは220g/モル~260g/モルの平均分子量を有する。
【0028】
(b)エステル
α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸エステルは、当業者に既知の化合物であり、エステル基油の調製のために一般的に利用されている。
【0029】
本発明によれば、「α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸」とは、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその誘導体とアルコールのエステル化反応によって得られるエステル(b)を意味する。
【0030】
本発明に従って利用されるα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸は、好ましくは、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、及びイタコン酸から、特にマレイン酸及びフマル酸から選択される。
【0031】
より具体的には、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸誘導体は、無水マレイン酸又は無水イタコン酸から選択することができる。
【0032】
本発明に従って利用されるα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸エステルは、好ましくはα, β-エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル、特にα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸ジオクチルエステル又はα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸ジブチルエステルである。
【0033】
好ましくは、エステルの合成に利用されるアルコールは、直鎖状又は分枝状であることができ、3~10個の炭素原子、好ましくは4~8個の炭素原子を含む。より好ましくは、アルコールはブタノールである。
【0034】
あるいは、アルコールは、1~45、好ましくは1~20のエトキシル化度を有する、線状又は分岐状のエトキシル化アルコールから選択することができる。
【0035】
本発明による「エトキシル化度」は、ポリエチレンオキシド鎖のエテンオキシド単位の数を意味することが理解され、ここで、ポリエチレンオキシド鎖は、その末端の1つにおいてアルコールでエーテル化されている一方で、別の末端のヒドロキシル基は酸でエステル化されている。
【0036】
好ましくは、エトキシル化アルコールエステル基は、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸エステルの唯一のエステル基である。
【0037】
好ましくは、(a)のα-オレフィン/(b)のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその誘導体とアルコールとのエステル化によって形成されるエステルのモル比は、0.5~2である。
【0038】
一つの特定の実施態様によれば、本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーは、-2℃~-18℃、好ましくは-3℃~-10℃の流動点を示す。
【0039】
本発明による「流動点」は、ジカルボン酸エステルコポリマーが冷却されたときに、それが注がれる又は流れる最低温度を意味すると理解される。より具体的には、流動点は、ASTM D-97規格に準拠して測定される。
【0040】
別の特定の実施態様によれば、本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーは、20mm2/秒~3000mm2/秒、好ましくは30mm2/秒~50mm2/秒の、100℃においてASTM D-445規格に準拠して測定された動粘度を示す。
【0041】
なおさらなる特定の実施形態によれば、本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーは、200mm2/秒~11000mm2/秒、好ましくは300mm2/秒~500mm2/秒、なおさらに好ましくは350mm2/秒~450mm2/秒の、40℃においてASTM D-445規格に準拠して測定された動粘度を示す。
【0042】
なおさらなる特定の実施態様によれば、本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーは、350mm2/秒~450mm2/秒の、40℃においてASTM D-445規格に準拠して測定された動粘度を示し、かつ本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーの構成成分であるα-オレフィン又は複数のα-オレフィンの混合物は、220g/モル~260g/モルの重量平均分子量を示す。
【0043】
なおさらなる特定の実施態様によれば、本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーは、-3℃~-10℃の流動点、及び350mm2/秒~450mm2/秒の、40℃においてASTM D-445規格に準拠して測定された動粘度を示す。
【0044】
なおさらなる特定の実施態様によれば、本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーは、-3℃~-10℃の流動点、30mm2/秒~50mm2/秒の、100℃においてASTM D-445規格に準拠して測定された動粘度、及び350mm2/秒~450mm2/秒の、40℃においてASTM D-445規格に準拠して測定された動粘度を示す。
【0045】
なおさらなる特定の実施態様によれば、本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーは、(a)220g/モル~260g/モルの重量平均分子量の少なくとも1つのα-オレフィン及び(b)少なくとも1つのフマル酸をブタノールでエステル化することによって形成された少なくとも1つのエステルに由来する構成単位を含む。
【0046】
本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーは、当業者に既知の方法に従って調製することができる。
【0047】
ジカルボン酸エステルコポリマー及びこれらのコポリマーの調製方法の例は、例えば、カナダ国特許第1,238,448号明細書、特に例7、米国特許第4,931,197号明細書、米国特許第4,931,197号明細書、米国特許第5,435,928号明細書、及び国際公開第94/19337号に記載されている。
【0048】
一般に、ジカルボン酸エステルコポリマー(1又は複数)は、本発明によるグリース組成物中に、組成物の総質量に対して、2質量%~20質量%、好ましくは5質量%~15質量%、より好ましくは8質量%~10質量%の範囲の含有量で存在する。
【0049】
基油(ベースオイル)
前述のとおり、本発明によるグリースは、(i)少なくとも1つの基油(ベースオイル)を含む。
【0050】
本発明によるグリース組成物に利用される基油(1又は複数)は、鉱物、合成、又は天然起源の油(オイル)、及びそれらの混合物であることができる。
【0051】
特に、グリースの調製に一般的に使用される鉱油又は合成油は、下の表Iにまとめられているように、API分類で定義されたクラス(あるいはATI EL分類による同等物)に従って、グループIからVの1つに属する。
【0052】
API分類は、American Petroleum Institute 1509「Engine Oil Licensing and Certification System」第17版,2012年9月に定義されている。
【0053】
ATI ELの分類は、「ATI EL実施基準」,2012年11月18日に定義されている。
【0054】
【0055】
鉱油基油には、原油の常圧及び真空蒸留、それに続く精製操作、例えば、溶媒抽出、脱アスファルト、溶媒脱ろう、水素化処理、水素化分解、水素化異性化、及び水素化仕上げによって得られるあらゆるタイプの基油が含まれる。
【0056】
合成基油は、エステル、シリコーン、グリコール、ポリブテン、ポリアルファオレフィン(PAO)、アルキルベンゼン、又はアルキルナフタレンから選択できる。
【0057】
基油は、天然起源の油(オイル)、例えば、天然資源から入手可能なアルコールとカルボン酸のエステル、例えば、ヒマワリ油、菜種油、パーム油、大豆油などであることもできる。
【0058】
より具体的には、基油は、合成油、鉱油、及びそれらの混合物から選択することができる。
【0059】
一実施態様によれば、本発明によるグリース組成物は、少なくとも1つの鉱油及び少なくとも1つの合成油、例えば少なくとも1つのポリアルファオレフィン(PAO)及び少なくとも1つの白色鉱油の混合物を含有する。
【0060】
別の実施態様によれば、本発明によるグリース組成物は、少なくとも1つのナフテン系鉱油と少なくとも1つのパラフィン系、特に軽質鉱油との混合物を含む。
【0061】
一般に、基油(1又は複数)は、本発明によるグリース組成物中に、組成物の総質量に対して、25質量%~75質量%、好ましくは30質量%~60質量%、より好ましくは40質量%~60質量%の範囲の含有量で存在する。
【0062】
カルシウムスルホネート石鹸
前述したように、本発明によるグリースは、(ii)少なくとも1つのカルシウムスルホネート石鹸を含む。この化合物は当業者に洗浄剤として知られており、スルホネートのカルシウム塩から構成される。
【0063】
この石鹸は、グリース組成物を増粘させることを可能にする。
【0064】
カルシウムスルホネート石鹸は、別途、又はグリースの製造中にその場で調製できる。
【0065】
これらの増粘剤は、グリース分野で一般的に使用されている製品であり、容易に入手でき、かつ安価である。
【0066】
カルシウムスルホネート石鹸で増粘させたグリースは、例えばポリウレアに基づく増粘剤を含むグリースと比較して、非常に良好な機械的安定性を示し、このことはグリースが閉じ込められていない場所にあるアプリケーションにおける容易な利用を可能にする。 さらに、ポリウレアは、非常に毒性の高い化合物であるイソシアネートから調製される。したがって、非毒性であり、かつCLP規制(CE No. 1272/2008)に従って分類される製品を含まない生分解性グリースを入手するためには、ポリウレアに基づく増粘剤を利用することは望ましくない。
【0067】
したがって、本発明によるグリースは、ポリウレアに基づく増粘剤(1又は複数)を含まないことが好ましい。
【0068】
特に、カルシウムスルホネートは、過塩基化されていることができ、すなわち、カルシウムが過剰(石鹸のアニオン性基(1又は複数)に対する化学量論量よりも多い量)であってよい。
【0069】
過塩基性を洗剤に与える過剰の金属は、油に不溶性の金属塩、例えば、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩、好ましくは炭酸塩の形態である。
【0070】
好ましくは、過塩基性カルシウムスルホネートは、炭酸カルシウムで過塩基化されたカルシウムスルホネートである。
【0071】
過塩基性カルシウムスルホネートのBN(塩基価)は高められていることが知られており、好ましくは150mgKOH/g洗剤より高い。BNは、ASTM D-2896規格に準拠して測定される。
【0072】
本発明の一実施態様では、過塩基性カルシウムスルホネートは、少なくとも300mgKOH/g洗剤の、好ましくは300~500mgKOH/g洗剤の範囲の、有利には300~400mgKOH/g洗剤のBNを有する。
【0073】
本発明によるグリースにおいて、より特に使用可能なカルシウムスルホネートの例として、Kimes TechnologiesによってSYNCAL(登録商標)OB、特にSYNCAL(登録商標)OB 405、及びSYNCAL(登録商標)OB 408の名称で販売されているもの、Lubrizol CorporationによってLUBRIZOL(登録商標)75、特にLUBRIZOL(登録商標)75M、及びLUBRIZOL(登録商標)75WOの名称で販売されているもの、あるいは、ChemturaによってHYBASE(登録商標)、特にHYBASE(登録商標)GF 400の名称で販売されているものがある。
【0074】
カルシウムスルホネート石鹸(1又は複数)の含有量は、得たいグリースの等級(グレード)に応じて調整することができる。そのような調整は明らかに、当業者の能力の範囲内である。
【0075】
特に、カルシウムスルホネート石鹸(1又は複数)は、一般に、本発明によるグリース組成物中に、グリース組成物の総質量に対して、10質量%~50質量%、好ましくは15質量%~40質量%、好ましくは25質量%~35質量%の範囲の含有量で存在する。
【0076】
一つの特定の実施態様によれば、本発明によるグリース組成物は、以下のもの:
(i)25質量%~75質量%の少なくとも1つの基油、特に少なくとも1つの鉱油基油及び少なくとも1つのPAO基油の混合物、又は少なくとも1つのナフテン系鉱油及び少なくとも1つのパラフィン系鉱油の混合物、
(ii)10質量%~50質量%少なくとも1つのカルシウムスルホネート石鹸、特に炭酸カルシウムで過塩基化されたカルシウムスルホネート石鹸、及び
(iii)2質量%~20質量%の、(a)少なくとも1つのα-オレフィン及び(b)α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその誘導体とアルコールとのエステル化によって形成された少なくとも1つのエステルに由来する構成単位を含み、そのモル比(a)/(b)が0.5~4の間にある、少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマー、
を含む。
【0077】
別の特定の実施態様によれば、本発明によるグリース組成物は、以下のものを含む:
(i)40質量%~60質量%の少なくとも1つの基油、特に、少なくとも1つの鉱油基油と少なくとも1つのPAO基油の混合物、又は少なくとも1つのナフテン系鉱油と少なくとも1つのパラフィン系鉱油の混合物、
(ii)25質量%~35質量%の少なくとも1つのカルシウムスルホネート石鹸、特に炭酸カルシウムで過塩基化されたカルシウムスルホネート石鹸、及び、
(iii)8質量%~10質量%の、(a)少なくとも1つのα-オレフィン及び(b)α,β-エチレン性不飽和カルボン酸又はその誘導体とアルコールとのエステル化によって形成された少なくとも1つのエステルに由来する構成単位を含み、そのモル比(a)/(b)が0.5~4の間にある、少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマー。
【0078】
その他の添加剤
本発明によるグリース組成物は、その後の使用に適した任意のタイプの添加剤を含むこともできる。
【0079】
したがって、本発明によるグリース組成物は、抗酸化添加剤、例えば、フェノールタイプ又はアミンタイプの抗酸化剤、防錆添加剤、例えば、酸素含有化合物、例えば、エステル、例えば、ソルビタンモノオレエート及び酸化ワックス、又はアミンホスフェート、防食添加剤、例えば、トリルトリアゾール、あるいはまた銅不働態化剤を含むこともできる。
【0080】
本発明によるグリース組成物は、耐摩耗添加剤及び極圧添加剤、特にリン含有、例えば、アルキルホスフェート又はアルキルホスホネート、リン酸、亜リン酸、亜リン酸及びリン酸のモノ、ジ、及びトリエステル、並びにそれらの塩を含むこともできる。
【0081】
本発明によるグリース組成物はまた、硫黄含有耐摩耗添加剤及び極圧添加剤、例えば、ジチオカルバメート類、チアジアゾール類、及びベンゾチアゾール類、並びに硫化オレフィンを含むこともできる。
【0082】
本発明によるグリースにおいて、より具体的な利用可能な抗酸化剤の例として、BASF社によりIRGANOX(登録商標)、特にIRGANOX(登録商標)L57の名称で販売されているものが挙げられる。
【0083】
本発明によるグリースにおいて、より具体的な利用可能な防食剤の例として、INFINEUM社によって、INFINEUM(登録商標)、特にINFINEUM(登録商標)M7121の名称で販売されているものが挙げられる。
【0084】
これらのさまざまな化合物は、グリース組成物の総質量に対して、一般に2質量%未満、あるいはまた0.5質量%未満の含有量で存在する。
【0085】
本発明によるグリースはまた、少なくとも1つのポリマー、例えば、ポリオレフィン、ポリイソブテン(PIB)、ポリエチレン、ポリプロピレン、重質ポリアルファオレフィン(PAO)、オレフィンコポリマー(OCP)、例えば、ジエン-水素化スチレン及びポリメタクリレート(PMA)から選択される少なくとも1つのポリマーを含むことができる。
【0086】
これらのポリマーは、グリースの凝集性を向上させるために利用され、グリースはしたがって遠心分離により良く耐える。これらのポリマーはまた、表面へのグリースのより良い付着力(特にPIB)をもたらし、基油画分の粘度を高め、それによって摩擦部品間の油膜の厚さを高める。組み込まれる量は、モル質量、粘度、及び所望する効果によって変わる。
【0087】
本発明によるグリースにおいてより具体的に利用可能なポリマーの例として、Ineos Oligomers社によってINDOPOL(登録商標)、特にINDOPOL(登録商標)H300の名称で販売されているもの、及びFunctional Products社によってFUNCTIONAL V(登録商標)の名称で販売されているものが挙げられる。
【0088】
これらのポリマー(1又は複数)は一般に、本発明によるグリース組成物中に、その総質量に対して1質量%~35質量%の含有量で含まれる。
例えば、15,000~25,000ダルトンのモル質量のPIBは、金属表面へのグリースの付着力を高めるために、組成物の総質量に対して1~10質量%の含有量で利用される。
【0089】
前述の添加剤の、特にポリマーの性質、及びその量は、上で定義した少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマーの存在によってグリース組成物に付与された特性を維持するようなやり方で、当業者によって調整される。
【0090】
グリースのグレード(等級):
グリースのコンシステンシー(稠度)は、その硬さ又は静止時のその流動性の尺度である。それは、所定の寸法と質量の円錐の貫入の深さによって数値的に表現される。グリースはあらかじめ混錬される。グリースのコンシステンシーの測定のための条件は、ASTM D 217規格によって規定されている。
【0091】
そのコンシステンシーに応じて、グリースは、グリース分野で一般的に使用されている9つのクラス又は9つのNLGI(National Lubricating Grease Institute)グレードに分類される。これらのグレードを下の表IIに示す。
【0092】
【0093】
本発明によるグリースは、ASTM D217規格に準拠して測定して、好ましくは220~340(1/10ミリメートル単位)の間、好ましくは240~300(1/10ミリメートル単位)の間、より好ましくは250~290(1/10ミリメートル単位)の間のコンシステンシーを有する。好ましくは、それはNLGIグレード1、2、又は3のものである。
【0094】
上述したように、本発明によるグリース組成物は、付着性に関して優れた性能を示す。さらに、グリースのコンシステンシーは、大量の水の存在下でグリース組成物を使用している間、保たれる。
【0095】
特に、付着力はDIN 51807規格によって測定される。これは、水の存在下での使用中に失われたグリースの質量パーセントを決定することからなる。
【0096】
以下の実施例は、上で規定した少なくとも1つの極めて具体的なジカルボン酸エステルコポリマーを組み込んだ本発明によるグリースの付着力が、そのようなコポリマーを組み込んでいないグリースの付着力よりもはるかに優れていることを示すことを可能にする。
【0097】
特に、DIN 51807規格に従って測定されたグリースの損失が、本発明に従って定義されたジカルボン酸エステルコポリマーを含まない同じ組成のグリースの損失に対して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%低い場合に、グリース組成物の付着力が向上していると考えられる。
【0098】
したがって、本発明は、
(i)少なくとも1つの基油、及び
(ii)少なくとも1つのカルシウムスルホネート石鹸、
を含むグリース組成物において、
(a)少なくとも1つのα-オレフィン及び(b)α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその誘導体とアルコールとのエステル化によって形成された少なくとも1つのエステルに由来する構成単位を含み、そのモル比(a)/(b)が0.5~4の間にある、少なくとも1つのジカルボン酸エステルコポリマーを、そのグリース組成物のDIN 51807規格に準拠して測定された付着力を向上させるために利用することに関する。
【0099】
グリースの調製方法
本発明によるグリースは、その場で金属石鹸を形成することにより、又は予め形成された石鹸を利用することにより、当業者に既知の方法に従って製造することができる。
【0100】
第一の方法
第一の選択肢によれば、2段階で行われ、その場(in situ)で金属石鹸を形成する、グリースの調製のための1つの方法は、以下の通りである。
【0101】
最初のステップは、以下の工程を含む段階を踏む。
- 密閉して閉じることができ、事前に規定した特定の圧力に対して耐える反応器に以下のもの:
(1)揮発性液体及び/若しくは不揮発性液体、又はこれらと相溶性の混合物の形態の不活性液体担体、特に上で規定した少なくとも1つの基油の画分に相当するものを含む、一般的には液体の混合物;
(2)原則として少なくとも12個の炭素原子を有する脂肪族鎖を有する又は含むスルホン酸;
(3)水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウム;及び
(4)水;水に可溶性の、水と容易に混ざり合う、又は水に容易に分散可能であるC1~C4脂肪族アルコール;水に可溶性の、水と容易に混ざり合う、又は水に容易に分散可能であるアルコキシアルカノール、及びそれらの混合物からなる群から選択される少ない割合の促進剤(プロモーター);
を導入する工程;並びに、
- この反応器を密閉して、この反応器の内容物を撹拌しながら、これらの内容物を約15℃~177℃の範囲内の温度に保ち、過剰の所望する塩基を含むカルシウムスルホネート複合体によって増粘されたチキソ性組成物へとこの反応混合物を変化させることを可能にする時間の間、約172kPa~約551kPa(25~80psi)の範囲にこの反応器内の圧力を調節することを可能にする量の二酸化炭素を、これらの内容物に導入する工程。
【0102】
そのようなプロセスステップは、特にフランス国特許第2,626,277号明細書に記載されている。
【0103】
第二のステップは、前のステップで得られた、スルホン酸カルシウム複合体によって増粘されたチキソ性組成物に、好ましくは同じ反応器中で、12-ヒドロキシステアリン酸、石灰、及びホウ酸を添加することからなる。
【0104】
このようにして得られた混合物を、100℃~120℃の温度にゆっくりと加熱し、次に120℃より高い温度へとより急速に加熱する。
【0105】
ホウ酸は、したがってホウ酸カルシウムに変換される。
【0106】
反応混合物を80℃以下の温度に冷却する。
【0107】
冷却中に、残りの基油を添加する。
【0108】
最後に、グリース組成物に望まれる様々な添加剤を、60℃~90℃の温度にて添加する。
【0109】
そのようなプロセスは、その後の粉砕及びグリース回収ステップをさらに含むことができる。
【0110】
第二の方法
あるいは、本発明によるグリースは、単一のステップのプロセスに従って製造することができ、これは上で述べた第一の方法と比較して改善されており、これは例えば、国際公開第2015/071331号に記載されている。
【0111】
そのような方法は、少なくとも以下の工程を含む。
a)反応器中でカルシウムスルホネート石鹸を調製する工程、
b)反応器を閉じる工程、
c)少なくとも400kPaの圧力下で、反応器内の温度を少なくとも130℃の温度に高める工程、
d)減圧、及び反応器内に含まれる水を除去する工程、
e)反応器を冷却する工程。
【0112】
上記プロセスはさらに、工程e)の後に実施工程f)を含むことができ、少なくとも1つの補助添加剤の添加を含み、任意選択により、その後に、得られた生成物を粉砕する工程を続けることができる。
【0113】
本発明によるグリースのこれらの調製方法はよく知られており、意図する用途に適したコンシステンシー(稠度)及び特性を有するグリースを得るためにその条件を適合させることは当業者の一般的な能力の範囲内にある。
【0114】
使用
上で規定したグリース組成物は、多くの産業分野、特に、風力発電、自動車、製鋼、鉱業、製紙、さらにまた食品産業において、特に荷重が大きくかつ温度範囲が広い場合に、用途が見出される。
【0115】
本発明によるグリースは、ローラー及びスライドベアリング、オープンギア、金属ケーブル、及びチェーンドライブの潤滑のために非常に特に有用であり、より一般的には、シールシステムを含まない用途に有用である。
【0116】
したがって、本発明は、機械部品を本発明に従って定義されたグリース組成物と接触させる少なくとも1つの工程を含む、機械部品の潤滑方法に関する。
【実施例】
【0117】
物理的及び化学的特性の評価方法
評価には、グリースの物理的及び化学的特性、特にそのグレード(等級)の評価が含まれる。
等級は、60ストローク後に、ASTM D217規格に準拠して決定される。
【0118】
グリースの機械的安定性の評価方法
グリースの機械的安定性は、貫入度測定(P100000)及び「シェルローラー」試験によって評価される。
貫入度は、100000ストローク後にISO 2137規格に準拠して測定し、1/10mm単位で表される。
「シェルローラー」試験は、ASTM D1831規格に準拠して80℃において100時間後に実施され、結果は1/10mm単位で表される。この試験は原則として、ローラーによるグリースのラミネーションからなり、グリースがラミネートされたときのグリースの安定性を評価することを可能にする。
【0119】
グリースの耐熱性の評価方法
グリースの耐熱性は、滴点(dropping point)の測定及びオイル分離の評価によって評価される。
【0120】
滴点は、NF T60-627規格に準拠して測定され、摂氏温度で表される。
100℃において50時間後のオイル分離は、ASTM D6184規格に準拠して評価され、質量パーセントでのオイル損失に対応する百分率として表される。
40℃において168時間後のオイル分離は、NF T60-191規格に準拠して評価され、質量パーセントでのオイル損失に対応する百分率として表される。
より詳細には、オイル分離が、グリースの熱安定性を評価することを可能にする。得られる百分率が低ければ低いほど、耐熱性が良くなり、オイル分離の評価は、グリース中に存在するオイル(油)を保持するための増粘剤の品質をよく反映している。
【0121】
極圧特性の評価方法
4ボールEP試験をDIN 51350/4規格に準拠して実施し、極圧はdaN単位で表される。
【0122】
耐腐食性の評価方法
これには、Emcor試験によるグリースの耐腐食性の評価が含まれる。Emcor試験は、ISO 11007規格に準拠して評価がされる。
【0123】
耐摩耗性の評価方法
これには、ASTM D2266規格に準拠して4ボール試験を実施することによるグリースの耐摩耗性の評価が含まれる。
【0124】
4ボール試験は、次の条件下で実施される。
- 時間:1時間、
- 荷重:40kg、
- 温度:75℃。
【0125】
グリースの付着力の評価方法
これには、水の存在下で失われたグリースの量を測定することが含まれる。このグリースの挙動は、DIN 51807規格に準拠して測定される。
【0126】
使用される化合物
基油1はポリアルファオレフィンである。
基油2は白色鉱物油である。
基油3はナフテン系鉱油である。
基油4は「ブライト・ストック・ソルベント」とよばれる軽質パラフィン系基油である。
【0127】
本発明によるジカルボン酸エステルコポリマーは、下の表1に示される特性を示す。
【0128】
【0129】
抗酸化剤は、アルキル化ジフェニルアミンである。
ポリマーはポリブテンである。
防食剤はサリシレート洗浄剤である。
【0130】
実施例1:本発明によるグリース組成物
本発明によるグリースの組成を、下の表2に、質量パーセントで詳述する。
【0131】
【0132】
本発明によるグリースA、B、及びCは、以下の手順に従って調製される:
- 基油1、基油2の大部分、及びカルシウムスルホネート石鹸を、周囲温度で採取する、
- その混合物を75℃に加熱する、
- この加熱中に、12-ヒドロキシステアリン酸及び消泡剤を添加し、次にスルホン酸、次に水、そして最後に酢酸を一滴ずつ添加する、
- パイロットプラントを閉じ、その混合物を90℃に加熱する、
- 反応器を開け、カルサイト(calcite)への変換の開始を赤外線によって監視する、
- 石灰を添加し、反応器を閉じる、
- その混合物を140℃に加熱する、
- そのシステムをゆっくりと減圧する、
- 基油2の残りをゆっくりと添加する、
- 必要に応じて炭酸カルシウムを添加する、
- その混合物を80℃に冷却する、
- 残りの添加剤を、まだ80℃において添加する。
【0133】
上で規定された方法に従って測定された、本発明によるグリースA、B、及びCの性能を、下の表3にまとめる。
【0134】
【0135】
実施例2:本発明によらないグリース組成物
本発明の範囲外のグリースの組成を、下の表4に、質量パーセントとして詳述する。
【0136】
【0137】
本出願に記載されているように、グリースDを、2ステップでのグリース調製のための標準的な方法に従って調製する。発明外のグリースE及びFは、実施例1の手順に従って調製する。
【0138】
上で規定された方法に従って測定された、発明外のグリースDからFの性能を、下の表5にまとめる。
【0139】
【0140】
本発明によるグリースA及びBの性能は、より特に発明外のグリースD及びEの性能と比較され、本発明によるグリースCの性能は、より特に発明外のグリースFの性能と比較される。
【0141】
本発明によるグリースA、B、及びCは、水との接触時に、より低いレベルの、水による損失を示し、したがって発明外のグリースDからFに比べて、大きく向上した付着性を示している。
【0142】
これは、本発明によるグリースの付着性能における、本発明による少なくとも1つの特定のエステルコポリマーの存在による有益な効果を実証している。
【0143】
さらに、グリースA、B、及びCのその他の効果は、グリースDからFの効果と比較して、同じ桁の大きさかそれより良好である。
【0144】
特に、それらの機械的安定性が維持され、それらのオイル分離が改善されている。