(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】耐疲労破壊性を向上させた7xxxシリーズアルミ合金プレート製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/053 20060101AFI20230519BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20230519BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
C22F1/053
C22C21/10
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630G
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 602
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
C22F1/00 684C
C22F1/00 692A
(21)【出願番号】P 2020569182
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 EP2019064719
(87)【国際公開番号】W WO2019238509
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-12-10
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518412058
【氏名又は名称】ノベリス・コブレンツ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Novelis Koblenz GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ザビーネ・マリア・シュパンゲル
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・マイヤー
(72)【発明者】
【氏名】アヒム・ビュルガー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・リュプナー
(72)【発明者】
【氏名】ジモン・ラハニット
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-140610(JP,A)
【文献】特開2000-119782(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133011(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03101149(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/053
C22C 21/10
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐疲労破壊性が向上した7xxxシリーズのアルミニウム合金プレート製品の製造方法であって、この方法は以下のステップ、
(a)7xxxシリーズのアルミニウム合金のインゴットを鋳造することであって、前記アルミニウム合金は(重量%で)、
Zn 5~9、
Mg 1~3、
Cu 0~3、
Fe 最大0.20まで、
Si 最大0.15まで、
Zr 最大0.5まで、
Ti 最大0.3%まで
Cr 最大0.4%まで
Sc 最大0.5%まで
Hf 最大0.3%まで
Mn 最大0.4%まで
V 最大0.4%まで
Ag 最大0.5%まで、
アルミニウム及び不純物である残余、からなるアルミニウム合金のインゴットを鋳造することと、
(b)前記鋳造インゴットを均質化および/または予熱することと、
(c)前記インゴットを複数の圧延パスで圧延することにより、前記インゴットをプレート製品に熱間圧延することであって、このプレートの中間の厚さが80~220mmの場合、少なくとも1つの大圧下熱間圧延パスが、少なくとも25%の厚さの減少で実行されることによって特徴づけられることと、を含み、
ここで、前記プレート製品は、75mm未満および10mm超の最終厚さを有し、
前記大圧下熱間圧延パスの間の変形速度が、<1s
-1である、
前記製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、さらに、以下のステップ、
(d)前記プレート製品の溶体化処理、
(e)前記溶体化処理されたプレート製品の冷却、
(f)必要に応じて、前記溶体化処理および冷却されたプレート製品を延伸すること、
(g)前記溶体化処理および冷却されたプレート製品の人為的エイジング、を含む、前記方法。
【請求項3】
前記方法が、最終
厚さへの冷間圧延ステップを含まない、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記大圧下熱間圧延パスが、少なくとも30%の厚さ減少で実行される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記大圧下熱間圧延パスの前に前記プレートの中間の厚さが100mmと200mmとの間である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金中の前記Si含有量及び/又は前記Fe含有量が0.05重量%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルミニウム合金がAA7055に従った組成を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記プレート製品の最終的な厚さが45mm未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記プレート製品の最終的な厚さが12.5mm超である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(c)において、熱間圧延機の入口温度が380℃超である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記プレート製品を、T7テンパーに人為的にエイジングする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
航空機の構造部材の製造のための、請求項1~11のいずれか1項によって製造されたアルミニウム合金プレート製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐疲労破壊性が向上した7xxxシリーズアルミニウム合金プレート製品の製造方法に関する。このプレート製品は、翼の外板パネル及び部材、その他の高強度エンドユーザーなどの航空宇宙構造用途に理想的に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
Al-Zn-Mg-(Cu)タイプの合金またはAA7xxxシリーズの合金は、50年超にわたって航空機の構造に使用されており、特に翼の部材には、例えば、とりわけAA7055シリーズの合金が使用されている。これらのアルミニウム合金は、強度、破壊靭性、及び耐食性の必要なバランスを備えており、かつ翼の上部外板パネルなどの構造航空宇宙用途に特に適している。これは、例えば、米国特許第5,221,377に開示されている。この米国特許は、これらの高い機械的特性を得るために、合金を3段階の人為的エイジングプロセスに供する必要があることを開示している。ただし、この米国特許は、AA7055合金の耐疲労破壊性の特性は扱ってはいない。
【0003】
航空機メーカーにとって、耐久性、及び損傷許容性、ならびに耐疲労破壊性に優れた高強度構造部品が非常に望ましいことは公知である。耐久性及び損傷許容性によって、航空機の検査間隔が長くなる可能性がある。航空機は通常、初期検査と航空機の耐用年数中の定期検査という2種類の検査を必要とする。検査を実施するには航空機を使用停止にする必要があるため、各種の検査には非常にコストがかかる。検査には、詳細な目視検査、ならびに外部および内部構造の広範な非破壊検査が必要になる場合がある。
【0004】
米国特許第7,097,719号では、AA7055シリーズ合金の耐疲労破壊性が、後にAA7255合金として登録された最適化された合金組成を使用することによって改善され得ることを開示している。ただし、耐疲労破壊性を向上させるには、AA7255合金の方がAA7055合金よりもSiレベル及びFeレベルの上限がはるかに厳しいことが必要である。特に、この米国特許によって、AA7055よりも低いSiおよびFeレベル(すなわち、0.06重量%未満、好ましくは0.04重量%未満のSiおよびFe濃度)を有するAA7255合金から製造された製品が、より優れた耐疲労破壊性を示すことが開示されている。特に、この米国特許は、実施例において、0.029重量%未満のSiおよび0.039重量%未満のFeを有する合金が(標準AA7055の範囲内にCu、Mg、ZnおよびZrを維持しながら)、SiおよびFeレベルが高い場合の標準AA7055製品に関して、疲労寿命の改善を達成したことを開示している。したがって、標準のAA7055製品に対するAA7255アルミニウム合金製品の疲労寿命が改善され得る。このような改善により、航空機構造の検査間隔が遅れる。しかし、不純物のSi及びFeの含有量をこのように非常に低いレベルに保つと、非常に高純度の材料が調達されるので、製造されるアルミニウム合金のコストが増大する。
【0005】
航空機が使用中に受ける周期的応力に起因して、疲労性能、特に耐疲労破壊性はアルミニウム合金航空宇宙材料の重要な工学的パラメータであるので、AA7055シリーズ合金を含む、AA7xxxシリーズ合金の耐疲労破壊性をさらに改善またはさらに進歩させる必要がある。
【0006】
したがって、望ましい強度、靭性、及び耐食性、ならびに高い耐疲労破壊性を備えたAl-Zn-Mg-(Cu)タイプの合金が必要とされている。高い耐疲労破壊性を示す航空機構造部品も必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
発明の目的
本発明の目的は、7xxxシリーズ合金と比較して高い耐疲労破壊性を有する7xxxシリーズアルミニウム合金プレート製品、特に従来の方法によって作製された同様の寸法およびテンパーのAA7055アルミニウム合金プレート製品を製造する方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、AA7055プレート製品よりも改善された耐疲労破壊性を有するアルミニウム合金プレート製品を提供することである。
【0009】
改良された耐疲労性アルミニウム合金プレート製品から、上翼の外板などの航空宇宙構造部材を提供することも別の目的である。
【0010】
発明の詳細な説明
これら及び他の目的及び更なる利点は、耐疲労破壊性が向上した航空宇宙プレート製品として使用するために理想的に適した、75未満mm、好ましくは50mm未満の最終厚さまたは最終ゲージのアルミニウム合金圧延プレート製品の製造方法を提供する本発明によって満たされるか又は上回られ、この方法は、次のステップをその順序で含む:
(a) 7xxxシリーズのアルミニウム合金のインゴットを鋳造することであって、このアルミニウム合金は(重量%で)、以下、
Zn 5~9、
Mg 1~3、
Cu 0~3、
Fe 最大0.20まで、
Si 最大0.15まで、
Zr 最大0.5まで、好ましくは0.03~0.20、
残余のアルミニウム及び不純物を含むアルミニウム合金、を鋳造することと、
(b) この鋳造インゴットを均質化および/または予熱することと、
(c) このインゴットを複数の圧延パスで圧延することにより、このインゴットをプレート製品に熱間圧延することであって、ここでこのプレートの中間の厚さが80~220mm、好ましくは100~200mmの場合、少なくとも1つの大圧下熱間圧延パスが、少なくとも25%の厚さの減少で実行されることと、
(d) 必要に応じて、プレート製品を、好ましくはクエンチングによって、溶体化処理および周囲温度への冷却することと、
(e) 必要に応じて、溶体化処理されたプレート製品を伸ばすことと、
(f) 必要に応じて、プレート製品を人為的にエイジングすること。
【0011】
アルミニウム合金の文脈における「含む」という用語は、以下に例示されるように、合金がさらなる合金化元素を含み得るという意味で理解されるべきである。
【0012】
本発明による方法は、重量%で、以下の組成からなる、広範囲の7xxxシリーズアルミニウム合金に適用され得る、
【0013】
Zn 5%~9%、好ましくは5.5%~8.5%、より好ましくは7%~8.5%、
Mg 1%~3%、
Cu 0%~3%、好ましくは0.3%~3%、
Si 最大0.15%まで、好ましくは最大0.10%まで、
Fe 最大0.20%まで、好ましくは最大0.15%まで、
以下からなる群より選択される1つ以上の元素、
Zr 最大0.5%まで、好ましくは0.03%~0.20%、
Ti 最大0.3%まで
Cr 最大0.4%まで
Sc 最大0.5%まで
Hf 最大0.3%まで
Mn 最大0.4%まで
V 最大0.4%まで
Ag 最大0.5%まで、および
アルミニウム及び不純物である残余。通常、このような不純物はそれぞれ<0.05%、合計<0.15%存在する。
【0014】
さらなる実施形態において、このアルミニウム合金は、AA7010、AA7040、AA7140、AA7449、AA7050、AA7150、AA7055、AA7255、AA7081、AA7181、AA7085、AA7185、AA7090、AA7099、AA7199、およびその改変の範囲内の化学組成を有する。
【0015】
特定の実施形態では、このアルミニウム合金は、AA7055の範囲内の化学組成を有する。
【0016】
本明細書において以下のとおり明らかなように、特に明記されていない限り、アルミニウム合金という呼称及びテンパーという呼称は、2016年にAluminium Associationが発行したAluminum Standards and Data and the Registration RecordsのAluminium Associationの呼称を指し、それは当業者には周知である。
【0017】
合金組成または好ましい合金組成の任意の説明において、パーセンテージへの全ての言及は、特に明記しない限り、重量パーセントによるものである。
【0018】
本明細書で使用する場合、「≦」「最大」及び「最大で約」という用語は、それが言及する特定の合金化成分のゼロ重量パーセントという可能性を明示的に含むが、これに限定されない。例えば、最大0.4%のCrには、Crを含まない合金が含まれる場合がある。
【0019】
本発明の方法では、好ましくは、プレート製品を最終ゲージ(厚さ)に圧延するときに冷間圧延ステップを実行せず、最終プレート製品における工学的特性のバランスに悪影響を与える、後続の溶体化処理ステップ中の少なくとも部分的な再結晶化を回避する。
【0020】
圧延プレート製品の最終的な厚さは、75mm未満、好ましくは50mm、好ましくは45mm未満、より好ましくは40mm未満、最も好ましくは35mm未満である。有用な実施形態では、プレート製品の最終的な厚さは、10mmを超え、好ましくは12.5mmを超え、より好ましくは15mmを超え、最も好ましくは19mmを超える。
【0021】
このアルミニウム合金は、鋳造製品の技術分野で一般的な鋳造技術(例えば、DC鋳造、EMC鋳造、EMS鋳造)を使用し、及び好ましくは、300mm以上(例えば、400mm、500mmまたは600mm)の範囲の厚さを有することによって、圧延インゴットまたはスラブとして提供され得る。あまり好ましくない基準では、連続鋳造から生じるスラブ、例えばベルトキャスターまたはロールキャスターも使用してもよく、これは特により薄いゲージの最終製品を製造するときに有利である可能性がある。当技術分野で周知のように、チタンとホウ素、またはチタンと炭素を含むものなどの結晶成長抑制剤も使用してもよい。圧延合金ストックを鋳造した後、そのインゴットは通常、スカルピングされて、インゴットの鋳造表面近くの偏析ゾーンが除去される。
次に、圧延インゴットは均質化および/または予熱される。
【0022】
均質化熱処理の目的は、以下の目的を有することが当技術分野で公知である、(i)凝固中に形成される粗い可溶性相を可能な限り溶解すること、および(ii)溶解ステップを容易にするために濃度勾配を低減すること。予熱処理は、これらの目的のうちいくつかも達成する。
【0023】
一般に、予熱とは、インゴットを設定温度に加熱し、この温度で設定時間浸漬した後、ほぼその温度で熱間圧延を開始することを指す。均質化とは、均質化後の最終温度が周囲温度である圧延インゴットに適用される加熱および冷却サイクルを指す。
【0024】
本発明による方法で用いられるAA7xxxシリーズ合金について典型的な予熱処理は、2~50時間、より典型的には2~20時間の範囲の浸漬時間で、400℃~460℃という温度であろう。
【0025】
最初に、合金ストックのS相、T相、及びM相などの可溶性共晶相は、通常の業界慣行を使用して溶解される。これは通常、ストックを500℃未満の温度、通常は450℃~490℃の範囲で加熱することによって実行される、なぜなら、S相共晶相(Al2MgCu相)がAA7xxxシリーズ合金では約489℃という融点であり、M相(MgZn2相)の融点が約478℃であるためである。当技術分野で知られているように、これは、前記温度範囲での均質化処理によって達成され、熱間圧延温度まで冷却されるか、または均質化後、熱間圧延の前にストックが引き続き冷却および再加熱される。定期的な均質化プロセスは、所望の場合、2つ以上のステップで行ってもよく、そしてこれは、典型的には、AA7xxxシリーズ合金について430℃~490℃の温度範囲で行われる。例えば、二段階プロセスにおいて、正確な合金組成に応じて種々の相の溶解プロセスを最適化するために455℃~465℃の第1ステップ、及び470℃~485℃の第2ステップがある。
【0026】
業界慣行に従った均質化温度での浸漬時間は、当業者に周知であるように合金に依存し、一般に1~50時間の範囲である。適用することができる加熱速度は、当技術分野で一般的なものである。
【0027】
インゴットの熱間圧延は、通常、熱間圧延機で複数の熱間圧延パスを使用して実行される。熱間圧延パスの回数は、通常、15~35の間、好ましくは20~29の間である。熱間圧延プレート製品が80mm~220mm、好ましくは100mm~200mmという中間の厚さに達したとき、この方法は、少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約30%、最も好ましいのは少なくとも約35%という厚さの減少を伴う少なくとも1つの大圧下熱間圧延パスを適用する。有用な実施形態では、この大圧下パスにおける厚さの減少は、70%未満、好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満である。圧延パスの「厚さの減少」は、減少率とも呼ばれ、好ましくは、個々の圧延パスにおいてプレートの厚さが減少するパーセンテージである。
【0028】
このような少なくとも1つの大圧下熱間圧延パスは、7xxxシリーズのプレート製品を製造する際の従来の工業用熱間圧延方法では実行されない。したがって、本発明の非限定的な例による、80mm~220mmの間の熱間圧延パスは、以下のように説明され得る(プレート中間厚さを見る):203mm-190mm-177mm-167mm-117mm-102mm-92mm。167mm~117mmへの大圧下熱間圧延パスは、約30%の厚さの減少に相当する。従来の熱間圧延プロセスによって製造されたアルミニウム合金プレートの場合、各熱間圧延パスの厚さの減少は、80mm~220mmの中間の厚さである場合、通常9%~18%の間である。したがって、従来の方法の例による、80mm~220mmの熱間圧延パスは、以下のように説明され得る(プレートの中間の厚さを見る):203mm-188mm-166mm-144mm-124mm-104mm-92mm。したがって、本発明による方法は、少なくとも1つの大圧下熱間圧延パスが実行される熱間圧延ステップを定義する。この大圧下パスは、少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約35%の厚さの減少によって定義される。
【0029】
大圧下パスの前後の本発明の方法の熱間圧延パスは、従来の熱間圧延方法の熱間圧延パスの圧下率に匹敵する圧下率を有する。したがって、大圧下熱間圧延パスの前後の各熱間圧延パスは、8%~18%の間の厚さの減少を有する可能性がある。厚さの減少は、プレートの厚さ、例えば、300mmを超える厚いプレートまたは30mm未満の薄いプレートに応じて変化するため、プレート製品の中間の厚さが220mm~80mm、好ましくは200mm~100mm、最も好ましくは200mm~120mmに達しているときに、大圧下ステップが実行されることが請求される方法の特徴である。この厚さは、プレート製品の厚さ全体にわたって高い変形/せん断が一貫することを確実にするように選択される。220mmより厚いプレート製品の場合、プレート全体で一貫した変形を確保することはより困難である。通常、より厚いプレート製品では、そのプレート製品の中央(半分の厚さ)の変形は、4分の1の厚さの位置または表面下の領域よりも少なくなる。
【0030】
好ましくは、1回の大圧下熱間圧延パスが実行される。代替の実施形態では、2つの大圧下熱間圧延パスが実行される。1つの大圧下熱間圧延パスが適用される場合、この大圧下熱間圧延パスは、好ましくは、複数の熱間圧延パスの最後の7つまたは8つのパスのうちの1つである。
【0031】
熱間圧延プロセスを開始する前に、圧延インゴットは、当技術分野で通常の温度であり、例えば、390℃~480℃、好ましくは400℃~460℃、より好ましくは、400℃~430℃、例えば、410℃という当業者に公知の温度に予熱される。したがって、熱間圧延機の入口温度を380℃超、好ましくは390℃超に維持することが可能である。熱間圧延パスの最高温度は450℃以下である。なぜなら、これは、S相の粗大化がこの温度を超えると発生する可能性があり、初期溶融のリスクがあることが観察されているためである。
【0032】
最終厚さが50mm未満のプレート製品を製造する場合、熱間圧延プロセス中の変形速度も最終プレート製品の特性に影響を与えることがわかっている。したがって、この方法の有用な実施形態における少なくとも1回の大圧下パス中の変形速度は、好ましくは<1s-1よりも低く、好ましくは≦0.8s-1である。この激しいせん断は、構成粒子、例えば、Feに富む金属間化合物の破壊を引き起こすと考えられている。
【0033】
圧延パスごとの熱間圧延中の変形速度は、次の式で表され得る。
【0034】
変形速度は、時間に対する材料のひずみ(変形)の変化である。これは「ひずみ速度」と呼ばれることもある。この式は、アルミニウム合金プレートの入口の厚さ及び出口の厚さだけでなく、作業ロールの圧延速度も変形速度に影響を与えることを示している。
【0035】
従来の工業規模の熱間圧延の実践では、各圧延パスの変形速度は通常2s-1以上である。既に上記で概説したように、この大圧下パスの間の本発明による方法の実施形態によれば、変形速度は、<1s-1に、好ましくは≦0.8s-1に低下される。低い変形速度を使用することにより、プレート材料内でより強いせん断を達成することが可能である。
【0036】
さらに、本発明により製造されたアルミニウム合金プレート製品をすることができ、所望であれば、溶体化処理(SHT)し、好ましくは、クエンチングによって冷却し、延伸して、最終ゲージステップへの熱間圧延後の人為的にエイジングしてもよい。溶体化処理(SHT)を行う場合は、熱間圧延前の均質化熱処理と同様に、プレート製品を通常430℃~490℃の範囲の温度に加熱して、可溶性亜鉛、マグネシウムおよび銅のすべてまたは実質的にすべての部分を溶液に入れる。高温で設定された浸漬時間の後、プレート製品を急速に冷却またはクエンチングして、溶体化処理手順を完了する必要がある。そのようなクエンチングは、好ましくは、例えば水浸またはウオータージェットによるウオータークエンチングによって行われる。
【0037】
周囲温度に冷却した後、プレート製品を元の長さの0.5%~8%の範囲で伸ばすことによってさらに冷間加工して、その中の残留応力を緩和し、製品の平坦性を向上させてもよい。好ましくは、延伸は、0.5%~5%、より好ましくは1%~3%の範囲である。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明により得られたプレート製品は人為的にエイジングされる。当技術分野で公知の全てのエイジングの実務およびその後に開発され得るものは、必要な強度および他の工学的特性を開発するために、本発明による方法によって得られるAA7000シリーズ合金製品に適用してもよい。
【0039】
特に好ましい実施形態では、プレート製品を、T7テンパーに、好ましくはT79またはT77テンパーに人為的にエイジングする。人為的エイジングステップは、1つのステップまたは複数のエイジングステップで実行され得る。好ましくは、2段階のエイジング手順が実行される。
【0040】
次に、これらの熱処理されたプレートの切片から、より一般的には人為的エイジング後、所望の構造形状、例えば、一体型翼桁を機械加工する。
【0041】
本発明の利点は、アルミニウム合金製品が、その鉄およびケイ素含有量を非常に低いレベルに維持する必要なしに、改善された耐疲労破壊性を示すということである。従来技術によれば、一般に、FeおよびSiは両方とも耐疲労破壊性に有害であると考えられている。しかし、本発明の方法によって製造されたアルミニウム合金プレート製品は、FeおよびSiの存在に対してはるかに耐性であり、一方では依然として高い耐疲労破壊性などの特性の必要なバランスを提供する。ある実施形態では、この合金は0.05%超、好ましくは0.06%超のFeを含んでもよい。一実施形態では、それは、0.05%を超える、好ましくは0.06%を超えるSiを含んでもよい。さらに好ましい実施形態では、Fe含有量およびSi含有量のそれぞれが0.07重量%以上である。別の実施形態では、Si含有量は0.06%~0.10%の間であり、Fe含有量は0.06%~0.15%内である。したがって、例えば、市販のAA7055アルミニウム合金は、請求された方法で使用してもよい。
【0042】
他の実施形態では、特性のさらなる改善を達成するために、FeおよびSiレベルは非常に低いレベルに保たれる。例えば、Fe含有量は、0.05%未満、好ましくは0.03%未満に維持されてもよく、Si含有量は、0.05%未満、好ましくは0.03%未満であってもよい。
【0043】
本発明によって製造されたAA7000シリーズ合金プレート製品は、航空宇宙構造部品として、とりわけ、胴体フレーム部材、上翼板、下翼板、機械加工部品用の厚板、縦通材のための薄いシート、円柱部材、リブ部材、床梁部材、及び隔壁部材として使用され得る。
【0044】
特定の実施形態では、アルミニウム合金プレート製品は、翼パネルまたは部材として、より具体的には、上部翼パネルまたは部材として使用される。
【0045】
したがって、本発明によって製造されたプレート製品は、さもなければ同じ寸法及び同じテンパーに加工されたアルミニウム合金のこのタイプの従来の標準的な方法に従って製造されたプレート製品と比較して特性が改善されている。
【0046】
本発明の実施形態を非限定的な例としてここに説明しており、最新技術を代表する比較例も示す。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明の方法に従って調製されたプレートおよび従来の方法によって調製されたプレートについての最大正味応力対破壊までのサイクルのグラフである。
【
図2】本発明の方法により作製されたプレートと従来の方法により作製されたプレートとの平均対数疲労寿命を示すグラフであり、平均に対応するデータ点を線で結んでいる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0048】
圧延インゴットは、表1に示す組成であるアルミニウム合金AA7055のDC鋳造である。
表1
【0049】
圧延インゴットの厚さは約400mmであった。インゴットの均質化は、465℃(第1段階)と475℃(第2段階)の2段階の均質化手順で実行され、その後、周囲温度に冷却された。スカルピング後、インゴットを熱間圧延のために410℃に予熱した。熱間圧延は、作業ロール半径が約575mmである熱間圧延機で行った。ロットAおよびBは、本発明に従って処理され、すなわち、両方のロットは、熱間圧延プロセス中に大圧下パスを受けた。大圧下圧延パス中に、ロットAは約30%(167mm~117mm)の厚さ減少を受け、ロットBは約28%(165mm~118mm)の厚さ減少を受けた。この大圧下パス中の圧延速度は約25m/分であり、変形速度は約0.53s-1であった。ロットC、D、およびEは、従来の熱間圧延法に従って処理された(220mm~80mmの厚さの各熱間圧延パスで9%~18%の厚さの減少)。標準の熱間圧延パス中の圧延速度は約105m/分であり、変形速度は1.61s-1(入口の厚さ188mm)~2.27s-1(入口の厚さ123mm)の間であった。プレートAは27回の熱間圧延パスを受け、大圧下パスはパス番号19であった。プレートBは25回の熱間圧延パスを受け、大圧下パスはパス番号17であった。
【0050】
熱間圧延プロセス後のプレートA、C、およびEの最終厚さは19mmであり、プレートBおよびDの最終厚さは熱間圧延プロセス後25.4mmであった。熱間圧延後、最終厚さの全てのプレートを約470℃の温度で溶体化熱処理し、クエンチングし、約2%延伸した。人為的エイジングステップを適用し、プレート製品をT7951状態にさせた。
【0051】
疲労試験は、正味応力集中係数Ktが2.3という単一の開放孔試験クーポンを使用して、DIN EN 6072に従って実施した。試験クーポンは、長さ150mm×幅30mm×厚さ3mmで直径10mmの単一の孔であった。この孔は両側に0.3mmの深さまで皿穴をあけた。試験クーポンは、R=0.1の応力比(最小荷重/最大荷重)で軸方向に応力を加えた。試験周波数は25Hzで、試験は高湿度空気(RH≧90%)で実行した。これらの試験の個々の結果を、表2ならびに
図1および2に示す。
図2の線は、計算された対数平均データポイント間の補間である。
【0052】
【0053】
図1では、本発明の方法を使用することにより、従来の方法で調製されたAA7055合金プレートと比較して、疲労寿命を大幅に改善し、したがって耐疲労破壊性を大幅に改善可能であることが示されている。たとえば、175MPaの正味断面応力が適用された場合、プレートAの寿命は470421サイクルであり、AA7055合金、つまり寿命が142655サイクルの合金CおよびEと比較して寿命の3.2倍の向上に相当している。したがって、本発明の方法によって調製され、最終的な厚さが19mmである合金において、200000サイクルの寿命(
図2の対数平均曲線を参照)は、従来の規格による7055合金の175MPaと比較して、本発明の約210MPaという最大正味応力に相当する。これは20%以上の改善を意味し、これを航空機メーカーが利用して航空機の設計応力を増大させ得、それによって航空機の同じ検査間隔を維持したままで重量を節約し得る。
【0054】
図2は、本発明の方法に従って製造されたロットAおよびBの対数平均を、
図1と同じ合金の従来の方法に従って製造されたロットC、D、およびEの対数平均と比較したものであり、計算された対数平均データポイント間の補間を示す線が付いている。この図から、本発明の方法は、同じ合金組成を使用することにより、従来の方法よりも疲労寿命の改善につながることが明らかである。
【0055】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内で広く変化し得る。