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特許7282136パラジウムめっき液及びパラジウムめっき補充液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】パラジウムめっき液及びパラジウムめっき補充液
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/50 20060101AFI20230519BHJP
   C25D 21/14 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C25D3/50 102
C25D21/14 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021155514
(22)【出願日】2021-09-24
(62)【分割の表示】P 2021020671の分割
【原出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123819
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2021-09-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水橋 正英
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】山本 佳
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-335986号公報(JP,A)
【文献】特開2001-262390号公報(JP,A)
【文献】特開昭58-130297号公報(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105401182号明細書(CN,A)
【文献】特表2011-520036号公報(JP,A)
【文献】特開昭59-211588号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D3/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン濃度が10mg/L以下であるパラジウムめっき液のパラジウム成分を補給するパラジウムめっき補充液であって、
可溶性のパラジウム塩と電解質と水とを含み、
パラジウムめっき補充液中のリン濃度が10mg/L以下である、パラジウムめっき補充液(但し、有機アミンを含むものを除く)。
【請求項2】
前記可溶性のパラジウム塩が、テトラアンミンパラジウムクロライドである、請求項1に記載のパラジウムめっき補充液。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムめっき液及びパラジウムめっき補充液に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウムめっき液及びパラジウムめっき補充液に含まれる可溶性のパラジウム塩として、アンモニア系のパラジウム錯体が用いられている。当該錯体として、例えば特許文献1には、テトラアンミンパラジウムクロライドの製造方法が開示されている。
【0003】
一方でパラジウムめっきは、めっき被膜層が厚くなると、被膜にクラックが生じやすいという問題があり、特許文献2においては、パラジウムめっき液に添加剤としてカルボキシル基を2個以上有するカルボン酸を加えることで、クラックの問題を解決しようとする試みが開示されている。
【0004】
また、パラジウムめっき液への添加剤として、特許文献3にはゲルマニウムが開示されており、ゲルマニウムの添加によりパラジウムめっき被膜のバリア作用が向上し、耐熱性
の高い接合部を形成できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-115127号公報
【文献】特開平8-60395号公報
【文献】特開2007-262573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献2に提案された方法を用いてパラジウムめっきの厚付けを検討したところ、クラックの問題が解決されない場合があった。本発明は、上記特許文献2に開示された方法とは異なる方法で、パラジウムめっきの厚付けが可能となるパラジウムめっき液及びパラジウムめっき補充液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねたところ、パラジウムめっき液及びパラジウムめっき補充液中に存在する特定の物質が、パラジウムめっき被膜のクラックを生じさせる原因であることを見出した。特許文献3のように、ゲルマニウムを添加することでパラジウムめっき被膜のバリア作用が向上するという報告があり、添加物によりめっき特性が改善する場合がある。しかしながら本発明者らの検討により、パラジウムめっき液中にシアン化物イオン(CN)、又はリン(P)が存在することで、パラジウムめっき被膜にクラックが生じやすいことが判明した。
【0008】
具体的には、パラジウムめっき液中にシアン化物イオンが存在することで、急速にパラジウムめっき成膜速度が遅くなり、成膜したパラジウムめっき被膜にクラックが生じやすいことが判明した。また、パラジウムめっき液中にリンが存在することで、他の不純物、例えば銀との間で反応しリン化銀となり、めっき界面にリン化銀が存在することでクラックが生じやすいことが判明した。
そして、上記知見に基づいて、シアン化物イオン濃度、及びリン濃度を一定濃度以下に低減することで、クラックが生じず、パラジウムめっきの厚付けが可能となるパラジウムめっき液及びパラジウムめっき補充液を提供できることを見出した。
【0009】
本発明は、可溶性のパラジウム塩と電解質と水とを含むパラジウムめっき液であって、パラジウムめっき液中のシアン化物イオン濃度が1.0mg/L以下である、及び/又はパラジウムめっき液中のリン濃度が10mg/L以下である、パラジウムめっき液である。
また、本発明の別の形態は、可溶性のパラジウム塩と水とを含むパラジウムめっき補充液であって、パラジウムめっき補充液中のシアン化物イオン濃度が1.0mg/L以下である、及び/又はパラジウムめっき液中のリン濃度が10mg/L以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、めっき被膜にクラックが生じず、パラジウムめっきの厚付けが可能となるパラジウムめっき液及びパラジウムめっき補充液を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明の一実施形態は、可溶性のパラジウム塩と電解質と水とを含むパラジウムめっき液である。本実施形態では、パラジウムめっき液中のシアン化物イオン濃度が1.0mg/L以下であり、及び/又はパラジウムめっき液中のリン濃度が10mg/L以下である。
本発明は、パラジウムめっき被膜のクラックを生じさせる原因を見出したことに基づくものである。具体的には、パラジウムめっき液中にシアン化物イオンが存在することで、急速にパラジウムめっき成膜速度が遅くなり、成膜したパラジウムめっき被膜にクラックが生じやすいことを、本発明者らは見出した。当該知見を基に、パラジウムめっき液中のシアン化物イオン濃度を1mg/L以下とすることで、パラジウムめっき被膜のクラックを抑制することができる。
【0013】
パラジウムめっき液中にシアン化物イオンが混入し得る理由は定かではないが、パラジウムはリサイクルにより得られることが多く、そのためパラジウムめっき液製造の環境においてパラジウム精製が行われる場合がある。そして、その際に貴金属の溶剤として使用するシアン化カリウムが揮発して、パラジウムめっき液に不可避的に混入してしまうことなどが考えられる。
パラジウムめっき液中のシアン化物イオンを低減させる方法としては、イオン交換樹脂またはキレート樹脂によりシアン化物イオンを除去する方法があげられる。
【0014】
また本発明者らは、パラジウムめっき液中にリンが存在することで、他の不純物、例えば銀との間で反応しリン化銀となり、めっき界面にリン化銀が存在することでクラックが生じやすいことを見出した。当該知見を基に、パラジウムめっき液中のリン濃度を10mg/L以下とすることで、パラジウムめっき被膜のクラック発生を抑制することができる。特にパラジウム被膜を厚付けした際のパラジウムめっき被膜のクラック発生を抑制することができる。
【0015】
パラジウムめっき液中にリンが混入し得る理由は定かではないが、パラジウムを精製する際に溶媒抽出を用いて精製する際の、抽出溶媒中へのリン混入などが考えられる。
パラジウムめっき液中のリン濃度を低減させる方法としては、活性炭による吸着除去があげられる。
【0016】
パラジウムめっき液中の可溶性のパラジウム塩は特に限定されないが、ジクロロジアン
ミンパラジウム、ジクロロテトラアンミンパラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、ジニトロテトラアンミンパラジウム、などが挙げられ、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)が特に好ましい。
【0017】
本実施形態のパラジウムめっき液の調製方法は特段限定されないが、水を含む水性媒体にパラジウム塩と電解質とを添加して、混合することで調製することができる。電解質は、パラジウムめっき液に含有させることができる既知の電解質を用いることができる。
パラジウムめっき液中、パラジウム塩の含有量は特段限定されないが、通常パラジウム濃度に換算して1g/L以上150g/L以下であり、好ましくは2g/L以上100g/L以下である。また、パラジウムめっき液中、電解質の含有量は特段限定されないが、通常20g/L以上300g/L以下である。
その他、パラジウムめっき液に含有され得る他の成分、例えばpH調整剤などを含有してもよい。
【0018】
本発明の別の実施形態は、可溶性のパラジウム塩と水とを含むパラジウムめっき補充液であって、パラジウムめっき補充液中のシアン化物イオン濃度が1.0mg/L以下であり、及び/又はパラジウムめっき液中のリン濃度が10mg/L以下である。パラジウムめっき補充液は、パラジウムめっき液中のパラジウムを補充する液である。パラジウムめっき補充液中、パラジウム塩の含有量は特段限定されないが、通常パラジウム濃度に換算して1g/L以上150g/L以下であり、好ましくは2g/L以上150g/L以下である。
パラジウムめっき補充液は、パラジウムめっき液のパラジウム成分を補給する補充液であり、パラジウムめっき補充液についてもパラジウムめっき液と同様に、シアン化物イオン濃度が1.0mg/L以下であり、及び/又はパラジウムめっき液中のリン濃度が10mg/L以下であることで、パラジウム被膜のクラック発生を抑制できる。
【0019】
本発明に係る実施形態は、特にパラジウムめっきを厚付けした場合、例えば1μm以上、好ましくは3μm以上のパラジウムめっき被膜を形成する際に、好ましく適用できる。
【実施例
【0020】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により限定されないことはいうまでもない。
【0021】
<シアン濃度に関する比較例1>
ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)をパラジウム濃度で15g/L、電解質として塩化アンモニウムを85g/L、を水中に含むパラジウムめっき液1を準備した。シアン濃度を測定したところ、1.2mg/Lであった。
パラジウムめっき液1に試験片(純銅板、厚さ0.3mm、大きさ25mm×40mm)を、浴温55℃で60分間浸漬し、電流密度1A/dmで電解めっきを行ったところ、めっきの析出速度は8.7μm/hであった。
【0022】
<シアン濃度に関する実施例1~2>
パラジウムめっき液1に対し、シアンを揮発させる処理を行い、シアン濃度が0.9mg/Lであるパラジウムめっき液2(実施例1)、シアン濃度が0.5mg/Lであるパラジウムめっき液3(実施例2)を調製した。これらのパラジウムめっき液についても同様に、試験片に対して電解めっきを行ったところ、めっきの析出速度はそれぞれ14.8μm/h、15.1μm/hであった。
【0023】
【表1】
【0024】
<リン濃度に関する比較例2>
ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)をパラジウム濃度で15g/L、電解質として塩化アンモニウムを85g/L、を水中に含むパラジウムめっき液4を準備した。リン濃度を測定したところ、11mg/Lであった。
パラジウムめっき液4に試験片(純銅板、厚さ0.3mm、大きさ25mm×40mm)を、浴温55℃で15分間浸漬し、電流密度1A/dmで電解めっきを行い、めっき厚3.8μmのパラジウムめっき被膜Aを得た。
【0025】
<リン濃度に関する実施例3~4>
パラジウムめっき液4に対し、リンを除去する処理、具体的には活性炭による吸着処理を行い、リン濃度が10mg/Lであるパラジウムめっき液5(実施例3)、リン濃度が4mg/Lであるパラジウムめっき液6(実施例4)を調製した。これらのパラジウムめっき液についても同様に、試験片に対して電解めっきを行い、それぞれめっき厚3.7μmのパラジウムめっき被膜B、Cを得た。
得られたパラジウムめっき被膜を観察したところ、パラジウムめっき液のリン濃度が10mg/Lを超えるパラジウムめっき被膜Aは、クラックが生じていた。一方で、パラジウムめっき液のリン濃度が10mg/L以下であるパラジウムめっき被膜B及びCは、クラックの発生が見られなかった。
【0026】
【表2】