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特許7282191UV硬化型組成物およびそれを用いたUV硬化型シート
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  • 特許-UV硬化型組成物およびそれを用いたUV硬化型シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】UV硬化型組成物およびそれを用いたUV硬化型シート
(51)【国際特許分類】
   C08F 279/02 20060101AFI20230519BHJP
   C08J 7/043 20200101ALI20230519BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20230519BHJP
   C09J 4/06 20060101ALI20230519BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20230519BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20230519BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230519BHJP
   C09J 109/00 20060101ALI20230519BHJP
   C09J 109/06 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
C08F279/02
C08J7/043 Z
C08L9/00
C09J4/06
C09J5/00
C09J7/30
C09J11/06
C09J109/00
C09J109/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021549027
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036206
(87)【国際公開番号】W WO2021060446
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2019177651
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】島口 龍介
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-187744(JP,A)
【文献】特開2019-099622(JP,A)
【文献】特開2010-115792(JP,A)
【文献】特開2010-150432(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091476(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/084351(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-2102
C08K 3/00-13/08
C08F 279/00-279/02
C09J 107/00-157/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン骨格を有するゴム成分と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含むUV硬化型組成物であって、
前記ジエン骨格を有するゴム成分が25℃において固体状のゴム成分(但し、鎖長延長されたブタジエン系重合体を除く)25℃において液状のゴム成分とを含有し、
前記固体状のゴム成分または液状のゴム成分の少なくとも一方は、変性ゴムを含有するものであり、
前記変性ゴムは、カルボキシ基、酸無水物基、アミノ基、アルコキシシリル基および水酸基から選択される少なくとも1種で変性されているゴムであり、
前記架橋剤は、エチレン性不飽和基の数が2~15である多官能(メタ)アクリレートであるUV硬化型組成物。
【請求項2】
前記変性ゴムは、変性ブタジエンゴム、変性スチレンブタジエンゴムおよび変性イソプレンゴムから選択される少なくとも1種を有する請求項1に記載のUV硬化型組成物。
【請求項3】
前記変性ゴムは、25℃において液状のゴム成分である請求項またはに記載のUV硬化型組成物。
【請求項4】
前記液状ゴムの配合量が、ゴム成分の総量に対して質量比で3~50%の範囲である請求項1~の何れか1項記載のUV硬化型組成物。
【請求項5】
前記固体状のゴム成分として、ブタジエンゴムおよびスチレンブタジエンゴムから選択される少なくとも1種を含有する請求項1~の何れか1項に記載のUV硬化型組成物。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載のUV硬化型組成物から形成された接着剤層を有するUV硬化型シート。
【請求項7】
前記接着剤層の厚みが5~200μmである請求項に記載のUV硬化型シート。
【請求項8】
請求項1~の何れか1項に記載のUV硬化型組成物の硬化物。
【請求項9】
請求項またはに記載のUV硬化型シートの硬化物。
【請求項10】
ゲル分率が50%以上である請求項またはに記載の硬化物。
【請求項11】
室温で高圧水銀灯により、積算光量1600mJ/cmのUVを照射した後の、JISK-6854に基づく90度剥離力が4N/inch以上である請求項またはに記載のUV硬化型シート。
【請求項12】
請求項1~5の何れか1項に記載のUV硬化型組成物から形成された接着剤層を有するUV硬化型シートであって、室温で高圧水銀灯により、積算光量1600mJ/cmのUVを照射した後の、JISK-6251に基づく切断時引張強さが、25μm~50μmのシート厚みの範囲で3.5MPa以上であるUV硬化型シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はUV(紫外線、ultraviolet)硬化型組成物およびUV硬化型シートに関し、さらに詳しくは、接着シート、ストレッチャブルシート等に好適に用いることができるUV硬化型樹脂組成物およびUV硬化型シートに関する。
【背景技術】
【0002】
材料と材料とを接合した場合、その接合界面は熱収縮・変形・振動等によって常に応力を受けている。その応力は接合界面に徐々に蓄積され、いずれは接合界面の破壊を引き起こす。特にその材料が異種材である場合、材料の組み合わせによって反りや皺の発生やそれに起因する材料の破壊が問題となることがあった。
これらの応力を緩和させる方法としては、接着剤に可塑剤等の柔軟成分を用いる方法が挙げられる。接着材層を柔軟化させることは、塑性変形を誘発することを意味し、材料の変形に追従するように接着材層を塑性変形させることで材料と接着材層の破壊を抑制することになる。ところが、一旦変形した材料が元に戻ろうとすると、接着材層の変形によって生じた歪みは接着材層や接合界面に内部応力として蓄積され、ひいては凝集力低下による材料破壊のリスクにつながる。
特許文献1には、(A)ジエン骨格を有するゴム成分と、(B)エチレン性不飽和基の数が6以上であるモノマーおよび/またはオリゴマーと、(C)有機過酸化物からなるラジカル開始剤と、を含むことを特徴とする接着剤組成物が開示されている。特許文献1には、ゴムを含み優れた接着力を有し、かつ、反りや皺を十分に抑制低減することのできる接着剤組成物およびこれを用いた接着シートが得られることが記載されている。
しかしながら、特許文献1の接着剤組成物は、ラジカル源として熱ラジカル開始剤である有機過酸化物を用いているため、その熱硬化には180℃程度の加熱工程を要しており、耐熱性の低い被着体への適用が難しい点で改善する余地があった。
【0003】
特許文献2には、不飽和結合を有する共役ジエン系未架橋ゴムを、光重合開始剤の存在下で、活性光線の照射により架橋反応させることを特徴とする架橋ゴムの製造方法が開示されている。そして、この製造方法では、均一な薄膜が得られやすく、生産効率もよく、得られた架橋ゴムは、未架橋ゴムに比べて耐熱性等が優れ、粘着剤等として有用であることが記載されている。
特許文献2の方法により、低温且つ短時間で硬化物を得ることが可能となる。このため、加熱工程が不要なことで、耐熱性の低い被着体にも適用可能と考えられる。しかしながら、この方法により得られる架橋ゴムでは、被着体との十分な接着性が得られないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-193658号公報
【文献】特開2010-180370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、高温の加熱工程を経ることなく硬化可能で、且つ優れた接着性(粘着力)を有するUV硬化型組成物およびそれを用いたUV硬化型シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、ジエン骨格を有するゴム成分と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含むUV硬化型組成物において、上記ゴム成分として、25℃において固体状のゴム成分と液状のゴム成分を併用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明の接着剤組成物は、UV硬化型組成物であって、ジエン骨格を有するゴム成分と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含み、上記ジエン骨格を有するゴム成分は、25℃において固体状のゴム成分と液状のゴム成分を含有することを特徴とする。
【0007】
上記固体状ゴム成分または液状ゴム成分の少なくとも一方は、変性ブタジエンゴム、変性スチレンブタジエンゴムおよび変性イソプレンゴムから選択される少なくとも1種を含む変性ゴムを含有することが好ましい。
また、上記変性ゴムは、カルボキシ基、酸無水物基、アミノ基、アルコキシシリル基、水酸基およびエポキシ基から選択される少なくとも1種で変性されているゴムを含有することが好ましい。
さらに、上記変性ゴムは、25℃において液状のゴム成分であることが好ましい。
上記液状ゴムの配合量は、ゴム成分の総量に対して質量比で3~50%の範囲であることが好ましい。
また、上記固体状のゴム成分として、ブタジエンゴムおよびスチレンブタジエンゴムから選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0008】
本発明のUV硬化型シートは、上記何れかのUV硬化型組成物から形成された接着剤層を有する。
上記接着剤層の厚みは5~200μmであることが好ましい。
また、上記UV硬化型シートは、室温で高圧水銀灯により、積算光量1600mJ/cmのUVを照射した後の、JISK-6854に基づく90度剥離力が4N/inch以上であることが好ましい。
【0009】
上記UV硬化型組成物またはUV硬化型シートの硬化物は好適に用いることができる。上記硬化物のゲル分率は50%以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の一態様におけるUV硬化型シートは、ジエン骨格を有するゴム成分を含有するUV硬化型シートであって、室温で高圧水銀灯により、積算光量1600mJ/cmのUVを照射した後の、JISK-6251に基づく切断時引張強さが、25μm~50μmのシート厚みの範囲で3.5MPa以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のUV硬化型組成物は、短時間のUV照射により硬化させることができるため、耐熱性の高い被着体のみならず幅広い部材に適用することが可能である。本発明のUV硬化型組成物から得られる硬化物は、優れた接着性を有するとともに、薄膜化しても均一で、高い機械強度を有する。このため、接着シートのみならず、ストレッチャブルシートとしても好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例と参考例の試料の厚さと引張破壊応力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を表す「~」は、その上限値および下限値としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も上限値と同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。
また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率または含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率または含有量を意味する。
【0014】
本発明のUV硬化型組成物は、ジエン骨格を有するゴム成分と、光重合開始剤と、架橋剤と、を含み、上記ジエン骨格を有するゴム成分は、25℃において固体状のゴム成分と液状のゴム成分を含有する。
一般にラジカル重合型の接着剤組成物では、ラジカル源として熱ラジカル開始剤を用いているために加熱工程が必須であり、その加熱工程によって軟化した接着剤組成物が被着体表面の凹凸部に入り込み、アンカー効果により、優れた接着性が得られていた。
これに対して、UV硬化型組成物は、ラジカル源として光ラジカル開始剤を使用し、UV照射によって硬化させるため、加熱工程を経ることなく短時間で硬化物を得ることができる。しかしながら、従来のUV硬化型組成物では、加熱工程を経ないことから、アンカー効果を得にくく、十分な接着性が得られなかった。
本発明は、ジエン骨格を有するゴム成分として、25℃において固体状のゴム成分と液状のゴム成分を併用することにより、加熱工程を経ることなく、被着体との接着性を向上させることができることを見出し、完成されたものである。さらに、本発明のUV硬化型組成物では、薄膜化しても均一で、高い機械強度を有するシートが得られる。
【0015】
本発明のUV硬化型組成物が含有する成分を以下に説明する。
【0016】
(A)ジエン骨格を有するゴム成分
本発明のUV硬化型組成物はジエン骨格を有するゴム成分(以下「(A)成分」ともいう。)を含む。このため、UV照射による硬化後、この(A)成分が架橋してゴム弾性を有する。その結果、硬化後の樹脂組成物は、熱収縮や熱衝撃により発生する応力集中を緩和し、反りや皺を十分に抑制低減することができる。
なお、本発明においては、(A)成分として、(A―1)25℃において固体状のゴム成分(以下、「固体状ゴム成分」という。)および(A―2)25℃において液状のゴム成分(以下、「液状ゴム成分」という。)を含有する。以下にそれぞれの成分について説明する。
【0017】
(A―1)固体状ゴム成分
固体状ゴム成分として、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)等またはこれらに官能基が導入された変性BR、変性SBR、変性IR、変性NBR、変性CR、変性IIR、変性NR等の変性ゴムが挙げられる。これらの中でも、溶剤溶解性、接着性等の観点から、BR、SBR、変性BR、変性SBRが好ましい。
変性ゴムの官能基としては、例えばアミノ基、アルコキシシリル基、水酸基、エポキシ基、カルボキシ基、酸無水物基等が挙げられる。官能基が導入される位置は特に限定されず、官能基を有する単量体を直接共重合してポリマー鎖に導入する場合、変性剤により変性させて重合体の末端に導入する場合、または重合体の側鎖に導入する場合の何れであってもよい。
なお、SBR、変性SBRはブロックコポリマー、ランダムコポリマーの何れを用いることもできる。SBR、変性SBRのスチレン含量の下限は、15質量%であることが好ましく、18質量%であることがより好ましい。SBR、変性SBRのスチレン含量の上限は60質量%であることが好ましく、50質量%であることがより好ましい。SBR、変性SBRのビニル含量の下限は、10質量%であることが好ましい。SBR、変性SBRのビニル含量の上限は、50質量%であることが好ましい。なお、ビニル含量とはポリマー鎖のブタジエンモノマー単位における1,2結合体の含有比率を言う。固体状ゴム成分は、1種類を用いることもできるし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
固体状ゴム成分は、25℃で固体であれば特に限定されない。ムーニー粘度が10~90の範囲であることが好ましく、20~60の範囲であることがより好ましい。ムーニー粘度を10以上とすることにより、機械強度が向上し、シート化した際の沁み出しや液垂れを抑制する効果が期待できる。一方、ムーニー粘度を90以下とすることにより、溶剤への溶解性を満たすことができる。
なお、本明細書において、ムーニー粘度は、100℃で測定したムーニー粘度(ムーニー粘度ML1+4(100℃))を意味し、JISK-6300-1:2013に準じて測定される。
ムーニー粘度とは、回転可塑度計の1種であるムーニー粘度計で測定される工業的な粘度の指標である。ML1+4(100℃)とは、Mはムーニー粘度、Lは大ローター(L型)、1+4は予備加熱時間が1分間、ローターの回転時間が4分間であり、100℃の条件下にて測定した値であることを意味する。固体ゴム成分の分子量や分子量分布あるいはスチレン含量、ミクロ構造等を調整することにより、ムーニー粘度を上記範囲に制御することができる。
【0019】
変性ゴムの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下の方法により製造することができる。アニオン重合で合成されたBR、SBR、IR、NBR、CR、IIRまたは天然物であるNRのそれぞれを変性剤で変性することにより上記官能基を導入する方法、または上記官能基を有する単量体を、ベースポリマーを構成する単量体とともに共重合することによりポリマー鎖に上記官能基を導入する方法等が挙げられる。
【0020】
(A―2)液状ゴム成分
本発明のUV硬化型組成物は、固体状ゴム成分に加えて、液状ゴム成分を含有することを特徴とする。
液状ゴム成分を加えることにより、加熱工程を経ることなく、硬化物の接着性を向上させることができる。さらに、薄膜化した場合にもより均一で、高い機械強度を有するシートを得ることができる。
ここで液状とは、常温常圧(1atm、25℃)において流動性を有することをいう。具体的には、容器に入れたゴム成分を45°傾けた場合、その形状を5分以上保持できず、形状の変化を生じることを意味する。
液状ゴム成分としては、BR、SBR、IR、NBR、CR、IIR、NR等またはこれらに官能基が導入された変性BR、変性SBR、変性IR、変性NBR、変性CR、変性IIR、変性NR等の変性ゴムが挙げられる。これらの中でも、変性ゴムが好ましい。官能基を導入することにより、極性が向上し、被着体との密着性の向上が期待できる。
【0021】
本発明のUV硬化型組成物は、液状ゴム成分を含有するため流動性に優れ、被着体表面の凹部にも入り込みやすい。そのため、被着体表面の凹凸形状と密着し、優れた接着性を有する。さらに、官能基が導入された変性ゴムを用いることにより、被着体表面の極性官能基と変性ゴムの官能基が相互作用し、被着体との接着性がさらに向上すると考えられる。なお、変性ゴムとして、固体状ゴム成分を用いた場合も同様の効果を得ることができる。もちろん、固体状の変性ゴムと液状の変性ゴムを併用することもできる。
官能基としては、例えばアミノ基、アルコキシシリル基、水酸基、エポキシ基、カルボキシ基、酸無水物基等が挙げられる。
被着体の極性官能基との相互作用を考慮すると、これらの中でも、カルボキシ基、酸無水物基が好ましい。カルボキシ基を有する変性ゴムとしては、例えば、(i)酸無水物基を有するゴム組成物の酸無水物基をアルコールで開環させたジカルボン酸モノエステル変性のゴム組成物、あるいは(ii)酸無水物基を有するゴム組成物の酸無水物基を水で加水分解することで得られるジカルボン酸変性のゴム組成物が挙げられる。酸無水物基を有するゴム組成物としては、無水マレイン酸変性のゴム組成物等が挙げられる。
なお、官能基が導入される位置は特に限定されず、官能基を有する単量体を直接共重合する場合、変性剤により変性させて重合体の末端に導入する場合、または重合体の側鎖に導入する場合の何れであってもよい。また、SBR、変性SBRはブロックコポリマー、ランダムコポリマーの何れを用いることもできる。液状ゴム成分は、1種類を用いることもできるし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
変性BR、変性SBR、変性IR、変性NBR、変性CR、変性IIR、変性NRの製造方法は特に限定されるものではないが、(A―1)固体状ゴム成分で記載した製造方法と同様の方法で調製することができる。
【0022】
液状ゴム成分の分子量は、25℃で流動性を有していれば特に制限はされないが、数平均分子量で80,000以下であることが好ましく、数平均分子量で1,000~50,000であることがより好ましく、2,000~40,000であることが特に好ましい。
【0023】
液状ゴム成分の含有量の下限は、ゴム成分全体、すなわち固体状ゴム成分と液状ゴム成分の総量に対して、3質量%であることが好ましく、8質量%であることがさらに好ましい。一方、液状ゴム成分の含有量の上限は、ゴム成分全体、すなわち固体状ゴム成分と液状ゴム成分の総量に対して、50質量%であることが好ましく、40質量%であることがさらに好ましい。
液状ゴム成分の含有量をゴム成分全体、すなわち固体状ゴム成分と液状ゴム成分の総量に対して、3質量%以上とすることにより、樹脂のフロー性が向上し、基材との密着性向上の効果が期待できる。
一方、液状ゴム成分の含有量をゴム成分全体、すなわち固体状ゴム成分と液状ゴム成分の総量に対して、50質量%以下とすることにより、高い機械強度を保持する効果が期待できる。
【0024】
なお、UV硬化型組成物が液状ゴム成分を含有することは、公知の方法を適宜組み合わせることにより確認することができる。例えば、UV硬化型組成物を溶媒で抽出した後、その抽出物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定、赤外分光(IR)測定、核磁気共鳴(NMR)測定等の手段を用いて確認することができる。
【0025】
(B)光重合開始剤
本発明のUV硬化型組成物は、光重合開始剤を含有するため、UV照射により短時間で硬化させることができる。このため、熱ラジカル開始剤として有機過酸化物を含有する接着剤組成物のように、180℃程度の高温で加熱する必要がなくなり、より多くの被着体材料に適用することが可能となる。
本発明のUV硬化型組成物に用いる光重合開始剤としては、アルキルフェノン系重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、ベンゾイン系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、α-アシロキシムエステル系化合物、フェニルグリオキシレート系化合物、ベンジル系化合物、アゾ系化合物、ジフェニルスルフィド系化合物、有機色素系化合物、鉄-フタロシアニン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、アントラキノン系化合物等が挙げられる。
光重合開始剤は、1種類を用いることもできるし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
これらのうち、反応性等の観点から、アルキルフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物が好ましい。
【0026】
アルキルフェノン系重合開始剤としては、α-アミノアルキルフェノン系またはベンジルメチルケタール系が挙げられ、具体的には、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン-1、2-メチル-1-[4-(メトキシチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-2-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、複数混合して使用してもよい。
【0027】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、複数混合して使用してもよい。
【0028】
光重合開始剤の含有量は、ゴム成分全体、すなわち固体状ゴム成分と液状ゴム成分の総量に対して、0.01質量%~10質量%であることが好ましく、0.1質量%~5質量%であることがさらに好ましく、0.5質量%~3質量%であることが特に好ましい。
光重合開始剤の含有量をゴム成分全体、すなわち固体状ゴム成分と液状ゴム成分の総量に対して、0.01質量%以上とすることにより、低い積算光量で架橋させることができる。
一方、光重合開始剤の含有量をゴム成分全体、すなわち固体状ゴム成分と液状ゴム成分の総量に対して、10質量%以下とすることにより、膜厚方向で均一に架橋させることができる。
光重合開始剤の含有量を上記範囲とすることにより、UV硬化型組成物の硬化がより効果的に進行し、得られる硬化物の接着性および機械強度をさらに向上させることができる。
【0029】
(C)架橋剤
本発明のUV硬化型組成物は、(C)架橋剤を含有するため、硬化物の凝集力が向上し、硬化後のシートの機械強度と接着性が向上する。
架橋剤としては、例えば、エチレン性不飽和基の数が2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは6以上の多官能(メタ)アクリレートを用いることができる。具体的には、エチレン性不飽和基の数が2以上である公知のポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらエチレン性不飽和基の数が2以上の多官能(メタ)アクリレートは、1種類を用いることもできるし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。なお、(メタ)アクリレートとはアクリレートまたはメタクリレートのことを示す。
熱ラジカル開始剤を用いた従来技術では、180℃程度の加熱工程が必要となる。このため、エチレン性不飽和基の数が5以下の架橋剤を用いた場合、加熱時に当該架橋剤が揮発するため、機械強度と接着性を満足するUV硬化型シートが得られない場合がある。これに対し、UV硬化を用いた本発明では、加熱硬化工程が必要ないため、エチレン性不飽和基の数が5以下の架橋剤は揮発することがなく、優れた機械強度と接着性を有するUV硬化型シートを得ることができるものと推測される。
なお、架橋剤のエチレン性不飽和基は、15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。エチレン性不飽和基の数が15以下であれば、紫外線照射時に官能基が十分反応し、使用時に経時反応が生じることを抑制できるため、耐候性のより優れたUV硬化型シートを得ることができる。
架橋剤の含有量は、ゴム成分全体、すなわち固体状ゴム成分と液状ゴム成分の総量に対して、0.1質量%~100質量%であることが好ましく、1質量%~40質量%であることがより好ましい。架橋剤の含有量を上記範囲にすることにより、より優れた接着性を有するUV硬化型組成物およびUV硬化型シートを得ることができる。
【0030】
本発明のUV硬化型組成物は、上記成分の他に必要に応じて各種成分を含有することができる。以下にそれらの成分について説明する。
【0031】
(D)粘着付与剤
本発明のUV硬化型組成物には、(D)粘着付与剤を含有させることができる。粘着付与剤を加えることにより、硬化後の接着力をさらに向上させることができる。また、粘着付与剤を含有させることにより、UV硬化型組成物にタック性を付与することもできる。
【0032】
粘着付与剤としては、スチレン樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、ロジン、重合ロジン、不均化ロジンおよびその誘導体、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール、ロジンフェノール等のフェノール変性樹脂、アルキルフェノール樹脂、クマロン-インデン樹脂、キシレン樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、脂環族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂およびその水添物等を用いることができる。
粘着付与剤は、1種類を用いることもできるし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
粘着付与剤の含有量は、ゴム成分全体、すなわち固体状ゴム成分と液状ゴム成分の総量に対して、0.1質量%~100質量%であることが好ましく、1質量%~50質量%であることがより好ましい。粘着付与剤を上記範囲とすることにより、UV硬化型組成物の未硬化時の作業性と硬化後の接着性をさらに向上させることができる。
【0033】
本発明のUV硬化型組成物には、さらに、成膜助剤、各種充填剤、機能性充填剤、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、難燃剤、消泡剤、レベリング剤、滑剤、分散剤、加工助剤、可塑剤、カップリング剤等の従来公知の各種添加剤を適宜配合することもできる。
【0034】
次に、本発明のUV硬化型シートについて説明する。
本発明のUV硬化型シートは、上記UV硬化型組成物から形成された接着剤層を有する。本発明のUV硬化型シートは、離型フィルムの表面に上記UV硬化型組成物を塗布して接着剤層を形成した後、離型フィルムから接着剤層を剥離して接着剤層のみを得ることもできる。また、基材の少なくとも一面に上記UV硬化型組成物を塗布することにより複数の接着剤層を積層させることもできる。以下、離型フィルム、基材および接着剤層について説明する。
【0035】
離型フィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム、シリコーン離型剤付きポリエチレンフィルム、シリコーン離型剤付きポリプロピレンフィルムおよびシリコーン離型剤付きポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレン樹脂コート紙、ポリプロピレン樹脂コート紙およびTPX樹脂コート紙等を用いることができる。離型フィルムの厚みは、必要に応じて適宜選択することができる。フィルムベースでは、12~250μmが好ましく、紙ベースでは、50~300μmが好ましい。
【0036】
基材は、特に限定されずUV硬化型シートの用途に応じて適宜選択することができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、アラミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、ポリスルホン等の合成樹脂からなるフィルム、不織布、紙等を用いることができる。基材の厚みは、特に限定されず、用途に応じて適宜選択することができる。
【0037】
接着剤層の厚みは、UV硬化型シートの用途に応じて適宜設定することができる。下限は5μmが好ましく、10μmとすることがさらに好ましい。上限は200μmが好ましく、150μmとすることがさらに好ましい。接着剤層の厚みを上記範囲とすることにより、被着体表面の凹凸に追従することができ優れた接着性能を維持することができ、且つ薄膜化が要求される用途にも好適に用いることができる。
本発明のUV硬化型組成物を用いることにより、熱硬化の場合と比較して薄くて均一な構造を有するシートを生産性よく製造することができる。得られるUV硬化型シートは、薄くしても機械強度が高く、伸縮性が高いため、接着シート、ストレッチャブルシート等として好適に用いることができる。
【0038】
次に、本発明のUV硬化型シートの製造方法について説明する。
本発明のUV硬化型組成物を溶剤に溶解または分散して、接着剤層形成用塗工液(以下、「塗工液」という。)を調製する。塗工液の固形分濃度は、10質量%~90質量%とすることが好ましく、20質量%~60質量%とすることがより好ましい。離型フィルムを用いる場合には、離型フィルム表面に塗工液を塗布した後、乾燥し、フィルム状またはシート状に形成して、離型フィルムから剥離して接着剤層のみからなるUV硬化型シートを得る。また、基材を用いる場合には、基材の片側または両側の表面に塗工液を塗布した後、乾燥してUV硬化型シートとする。
【0039】
塗工液の塗布方法は特に限定されず、ワイヤーバー、アプリケータ、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースコーター、スピンコーター等を用いた公知の方法を用いることができる。なお、必要に応じて、塗工液を塗布する離型フィルムや基材の表面は、予め表面処理しておくこともできる。
【0040】
塗工液の乾燥方法は特に限定されず、熱風乾燥、減圧乾燥等公知の方法を利用することができる。乾燥条件は、UV硬化型組成物の種類や塗工液調整に用いた溶剤の種類、接着剤層の膜厚等に応じて適宜設定することができる。通常、60℃~130℃で、1分~10分間乾燥を行う。
【0041】
本発明のUV硬化型シートは、UV照射が可能であれば、通常の接着シートとして用いることができる。具体的には、線膨脹係数(CTE)の異なる素材間の接着、リワーク性を付与した接着シート、異方導電性接着シート、放熱性接着シート、素材の伸縮に追従可能な接着シート、シリコーン系やウレタン系粘接着シートの代替、振動耐久性を付与した接着シート等として好適に用いることができる。
【0042】
上述のようにして得られたUV硬化型シートにUVを照射して、ジエン骨格を有するゴム成分を架橋させ、硬化物を得ることができる。UVは、高圧水銀ランプ、フュージョン製Hランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、UV-LEDランプ等により照射することができる。積算光量で300~3,000mJ/cm2程度であることが好ましい。
基材の表面に接着剤層が設けられているUV硬化型シートの場合、接着剤層側からUVを照射してもよいし、基材側から照射してもよい。ただし、基材側から照射する場合には、基材が紫外線透過性でなければならない。
【0043】
(硬化物のゲル分率)
得られた硬化物のゲル分率は、50%~100%であることが好ましく、50%~95%であることがより好ましい。ゲル分率が50%以上であることにより、高い機械強度を得ることができる。ゲル分率が95%以下であることにより、より高い伸縮性を得ることができる。なお、ゲル分率は、95%を超えてもよいが、この場合、硬くなりすぎ、用途によっては、適さない可能性もある。ゲル分率は、以下の方法に従って測定した。
所定の厚みの接着剤層のみからなるUV硬化型シートに、高圧水銀灯により、室温で積算光量1600mJ/cmのUVを照射して硬化させた後、サイズ30mm×30mmのテストピースを作製した。このテストピースを、ポリエステル製メッシュ[質量(Ag)]で包み込んだ状態で、質量(Bg)を測定した。次いで、100mlのトルエン中に浸漬し、室温にて96時間以上放置した。その後、メッシュ付きテストピースを取り出し、トルエンで洗浄し、120℃で、3時間乾燥した。乾燥後の質量(Cg)を測定し、以下の式によりゲル分率を算出した。
ゲル分率(質量%)=[(C-A)/(B-A)]×100
【0044】
(UV硬化型シートの剥離力)
本発明のUV硬化型シートの90度剥離力は、4N/inch以上であることが好ましく、7N/inch以上であることがさらに好ましく、10N/inch以上であることが特に好ましい。UV硬化型シートの90度剥離力は、以下の方法に従って測定した。
被着体として、厚み50μmのPET基材と光輝焼鈍されたステンレス鋼(SUS304、厚み1.5mm)とを用いた。所定の厚みの接着剤層のみからなるUV硬化型シートを上記被着体の間に挟んでハンドローラにより貼合し、高圧水銀灯により、室温で積算光量1600mJ/cmのUVをPET基材側から照射して硬化させ、試験片とした。この試験片を用いてJISK-6854に準拠し、引張速度50mm/minでステンレス鋼に対する90度剥離力の測定を行った。測定には、インストロン社製万能試験機#5982を用いた。
【0045】
(UV硬化型シートの機械強度)
本発明においては、以下の方法によって機械強度の評価を行った。
所定の厚みの接着剤層のみからなるUV硬化型シートに、室温で積算光量1600mJ/cmのUVを照射して硬化させた後、試験片を10mm×150mmに変更した以外は、JISK-6251に準拠して、切断時引張強さ(MPa)および切断時伸び(%)を測定した。なお、引張速度は500mm/minとした。
本発明のUV硬化型シートの硬化後の切断時引張強さは、2MPa以上であることが好ましく、3MPa以上であることがさらに好ましい。
本発明のUV硬化型シートの硬化後の切断時伸びは、200%以上であることが好ましく、300%以上であることがさらに好ましい。
なお、本発明のUV硬化型シートは、薄くても硬化後の切断時引張強さが高いことが特徴である。具体的には、本発明のUV硬化型シートでは、シート厚みが25μm、50μmおよび100μmの何れでも、室温で高圧水銀灯により、積算光量1600mJ/cmのUVを照射した後の、JISK-6251に基づく切断時引張強さが、3.5MPa以上の値を示すことが確認されている。
一方、熱硬化型接着シートでは、シート厚みが厚いときには、切断時引張強さは高い値を示すが、シート厚みを薄くすると切断時引張強さは急激に低下する。そのため、熱硬化型接着シートでは、シート厚み25μm~50μmの範囲において、3.5MPa以上の切断時引張強さを実現することはできなかった。これに対して、本発明のUV硬化型シートでは、シート厚み25μm~100μmの全範囲で、3.5MPa以上の切断時引張強さを有する。したがって、25μm~50μmのシート厚みの範囲に調製されたUV硬化型シートの硬化物の上記方法で測定した切断時引張強さが3.5MPa以上であれば、本発明のUV硬化型シートであることが確認できる。
【実施例
【0046】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」および「部」は質量%および質量部を示す。
【0047】
(UV硬化型組成物の構成成分)
(A)ジエン骨格を有するゴム成分
(A-1)固体状ゴム成分
(A-1-1)スチレンブタジエンゴム:(スチレン含量:25%、ムーニー粘度ML1+4(100℃):47)
(A-1-2)スチレンブタジエンゴム:(スチレン含量:46%、ムーニー粘度ML1+4(100℃):45)
(A-1-3)ブタジエンゴム:(ムーニー粘度ML1+4(100℃):45)
(A-2)液状ゴム成分
(A-2-1)スチレン・ブタジエンランダムコポリマー:(1,2ビニル(ブタジエン):70%、スチレン含量:25%、Mn:4.5×1000)
(A-2-2)無水マレイン酸変性スチレンブタジエンゴム:(Mn:9.1×1000、酸価:34mgKOH/g)
(A-2-3)無水マレイン酸変性ブタジエンゴム:(Mn:5.0×1000、酸価:57mgKOH/g)
(A-2-4)カルボキシ基変性スチレンブタジエンゴム:(ジカルボン酸変性スチレンブタジエンゴム)
(A-2-5)カルボキシ基変性スチレンブタジエンゴム:(ジカルボン酸モノエステル変性スチレンブタジエンゴム)
(A-2-6)無水マレイン酸変性イソプレンゴム:(Mn:34.0×1000、酸価:9~11mgKOH/g)
(A-2-7)カルボキシ基変性イソプレンゴム:(Mn:30×1000、38℃における粘度430Pa・s)
(A-2-8)エポキシ基変性ブタジエンゴム:(Mn:1000~2000、エポキシ当量:190~210(g/eq))
(A-2-9)水酸基変性ブタジエンゴム:(Mn:3.2×1000、水酸基価:0.64meq/g)
(B)光重合開始剤
(B-1)1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
(B-2)2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン
(B’)有機過酸化物からなるラジカル開始剤
(B’-1)ジクミルパーオキサイド
(C)架橋剤
(C-1)ポリエステルアクリレートの一種であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エチレン性不飽和基の数:6
(C-2)芳香族ポリエステルアクリレート、エチレン性不飽和基の数:2)
(C-3)ウレタンアクリレート:エチレン性不飽和基の数:10)
(D)粘着付与剤
(D-1)芳香族変性テルペン樹脂:YSレジンTO115(ヤスハラケミカル社製)
(D-2)アルキルフェノール変性キシレン樹脂:ニカノールGHP-150(フドー社製)
【0048】
なお、上記A-2-4成分は、以下の製造方法により調製した。 上部にアリーン冷却器を接続した三角フラスコに無水マレイン酸変性スチレンブタジエンゴム(A-2-2成分、25g)、ならびに希釈溶剤としてトルエン10.3g、モノグライム12.5gおよび純水2.7gを投入し、マグネチックスターラーにて樹脂不溶分が確認できなくなるまで撹拌した。なお、純水添加量は、酸無水物当量の10倍量とした。
その後、外浴95℃のウォーターバスにて7時間かけて開環反応を行った。
反応後、減圧濃縮器および真空乾燥機を用いて、希釈溶剤と水を除去し、カルボキシ基変性スチレンブタジエンゴム(A-2-4)を得た。
得られたカルボキシ基変性スチレンブタジエンゴム(A-2-4)の赤外線吸収スペクトルを、反応前の無水マレイン酸変性スチレンブタジエンゴム(A-2-2)の赤外線吸収スペクトルと比較した。A-2-4では、酸無水物基のC=O伸縮振動に起因する吸収ピーク(1785cm-1)のピーク強度がA-2-2に比べて減少した。さらに、A-2-2では認められないカルボキシ基のC=O伸縮振動に起因する吸収ピーク(1710cm-1)が発現することが確認された。この結果から、ジカルボン酸変性のゴム組成物が得られたことを確認した。
【0049】
一方、上記A-2-5成分は、以下の製造方法により調製した。
上部にアリーン冷却器を接続した三角フラスコに無水マレイン酸変性スチレンブタジエンゴム(A-2-2成分、25g)、ならびに希釈溶剤としてトルエン19.4gおよびエタノール7.0gを投入し、マグネチックスターラーにて樹脂不溶分が確認できなくなるまで撹拌した。なお、エタノール添加量は、酸無水物当量の10倍量とした。
その後、外浴95℃のウォーターバスにて7時間かけて開環反応を行った。
反応後、減圧濃縮器および、真空乾燥機を用いて、希釈溶剤とエタノールを除去し、カルボキシ基変性スチレンブタジエンゴム(A-2-5)を得た。
カルボキシ基変性スチレンブタジエンゴム(A-2-5)の赤外線吸収スペクトルを、反応前の無水マレイン酸変性スチレンブタジエンゴム(A-2-2)の赤外線吸収スペクトルと比較した。A-2-5では、酸無水物基のC=O伸縮振動に起因する吸収ピーク(1785cm-1)のピーク強度がA-2-2に比べて減少した。さらに、A-2-2では認められないカルボキシ基およびエステル基のC=O伸縮振動に起因する吸収ピーク(1710cm-1および1740cm-1)が発現することが確認された。この結果から、ジカルボン酸モノエステル変性のゴム組成物が得られたことを確認した。
【0050】
(実施例1~16、比較例1~2および参考例1~4)
表1~表4に示す質量比で各構成成分を配合し、トルエン中に入れて混合撹拌した後、減圧下で脱泡して塗工液を得た。得られた塗工液を、アプリケータを用いて離型フィルム(シリコーン離型剤付きPETフィルム)上に塗布した。ここで、乾燥後の接着剤層の厚みが表1~表4に記載の厚みになるように調製した。120℃で3分乾燥した後、離型フィルムを剥離して、UV硬化型シートを得た。
その後、実施例1~16および比較例1~2のUV硬化型シートに、室温で高圧水銀灯により、積算光量1600mJ/cmのUVを照射して、硬化物を得た。得られた硬化物のゲル分率、90度剥離力、切断時引張強さおよび切断時伸びを上述した方法で測定した結果を表1、表2および表4に示す。表3には、硬化物のゲル分率および90度剥離力の測定結果を示す。
なお、参考として、ラジカル源として熱ラジカル開始剤である有機過酸化物を用いた参考例1の組成物も調整した。参考例では、180℃で1時間加熱することにより、硬化物を得た。
【0051】
表1に示すように、ジエン骨格を有するゴム成分として固体状ゴム成分のみを含有する比較例1では、得られた硬化物のゲル分率は、72.8%であったが、90度剥離力は、1.1N/inchと低かった。一方、ジエン骨格を有するゴム成分として液状ゴム成分のみを含有する比較例2では、得られた硬化物のゲル分率は、5.0%で、シートとすることができなかった。
これに対して、実施例1では、得られた硬化物のゲル分率は、69.2%と比較例1と同程度であったが、90度剥離力は、5.1N/inchと大幅に向上した。このことから、ジエン骨格を有するゴム成分として固体状ゴム成分および液状ゴム成分を含有する本発明のUV硬化型組成物の効果が確認された。ゴム成分として液状ゴム成分を含有することにより、固体状ゴム成分のみを含有する比較例1に比べUV硬化型組成物の流動性が向上して、被着体表面の凹部にもUV硬化型組成物が入り込みアンカー効果が得られたためと考えられる。
なお、実施例1の硬化物のゲル分率は、熱硬化により得られた参考例1(従来法)の硬化物と同程度であった。また、実施例1の硬化物においては、熱硬化により得られた厚み100μmの参考例1の硬化物と同様にゴム組成物として通常求められる機械強度を有することも確認された。なお、参考例1では180℃での加熱を要するが、被着体としてPETを使用しているため、90度剥離力を測定することができなかった。
一方、実施例1では、加熱を要しないため被着体としてPETを使用しているにも関わらず、90度剥離力を測定することができた。そして、得られた値も接着シートとして通常求められる接着力を有することが確認された。このことから、本発明により、高温の加熱工程を経ることなく硬化可能で、且つ優れた接着性(粘着力)を有し、耐熱性に劣る被着体に対しても使用可能なUV硬化型組成物が得られることがわかった。
【0052】
【表1】
【0053】
表2に、実施例1の液状ゴム成分である(A-2-1)スチレン・ブタジエンランダムコポリマーに変えて、変性ゴムである(A-2-2)無水マレイン酸変性スチレンブタジエンゴム(実施例2)、(A-2-3)無水マレイン酸変性ブタジエンゴム(実施例3)、(A-2-4)カルボキシ基変性スチレンブタジエンゴム(A-2-2の水開環品)(実施例4)および(A-2-5)カルボキシ基変性スチレンブタジエンゴム:(A-2-2のエタノール開環品)(実施例5)を用いた結果を示す。実施例2、3、4および5では、実施例1と比べて、接着力がさらに向上することがわかった。実施例2~5でも、液状ゴム成分を含有するため、固体状ゴム成分のみを含有する比較例1に比べUV硬化型組成物の流動性が向上し、被着体の凹部にもUV硬化型組成物が入り込み、アンカー効果が得られたと考えられる。
そして、官能基が導入された変性液状ゴム成分を用いた実施例2~5では、変性液状ゴム成分中の官能基と被着体表面の極性官能基との相互作用に起因して接着力がさらに向上したと推測される。特に、カルボキシ基変性スチレンブタジエンゴムを用いた実施例4および5の90度剥離力が高いことから、カルボキシ基を導入した変性ゴムが特に有効であると考えられる。なお、実施例2と実施例3は何れも無水マレイン酸変性の液状ゴムを使用した例であるが、固体状ゴム成分と液状ゴム成分ともスチレンブタジエンゴムである実施例2の方が、90度剥離力、切断時引張強さおよび切断時伸びが良好な結果を示すことも確認できた。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例2の接着剤層の厚みを変更した以外は実施例1と同様にUV硬化型シートおよび硬化物を調製し、実施例6および実施例7とした。評価結果については、後述する。
実施例6の固体状ゴム成分である(A-1-1)スチレンブタジエンゴムに変えて、(A-1-2)スチレンブタジエンゴムまたは(A-1-3)ブタジエンゴムを用いた他は、実施例1と同様に、UV硬化型シートおよび硬化物を調製し、それぞれ実施例8および実施例9とした。上記UV硬化型シートおよび硬化物の評価結果より、上記固体状ゴム成分を用いても本発明の効果が得られることが確認された。
また、実施例2の変性液状ゴム成分である(A-2-2)無水マレイン酸変性スチレンブタジエンゴムに変えて、(A-2-6)無水マレイン酸変性イソプレンゴム、(A-2-7)カルボキシ基変性イソプレンゴム、(A-2-8)エポキシ基変性ブタジエンゴムおよび(A-2-9)水酸基変性ブタジエンゴムをそれぞれ用いた他は、実施例1と同様に、UV硬化型シートおよび硬化物を調製した。表中には記載していないが、上記硬化型シートおよび硬化物の評価結果より、上記液状ゴム成分を用いても本発明の効果が得られることが確認された。
さらに、表中には記載していないが、粘着付与剤である(D-1)芳香族変性テルペン樹脂または(D-2)アルキルフェノール変性キシレン樹脂を添加した構成でも、本発明の効果が得られることが確認された。
【0056】
参考例1の液状ゴム成分である(A-2-1)スチレン・ブタジエンランダムコポリマーに変えて、変性ゴムである(A-2-2)無水マレイン酸変性スチレンブタジエンゴムを用いた他は、参考例1と同様に、熱硬化型シートおよび硬化物を調製し、参考例2とした。参考例2の塗工液を用いて、乾燥時の接着剤層の厚みが、それぞれ50μm(参考例3)および25μm(参考例4)となるように調製して硬化物を得た。図1に、上述の実施例(実施例2、6および7)と参考例(参考例2~4)の厚みと切断時引張強さの関係を示す。図1より、参考例の硬化物では、厚みが薄くなるにつれて、切断時引張強さが低下するのに対して、実施例の硬化物では、厚みに依存せず、一定の切断時引張強さが得られることが確認された。具体的には、厚みが100μmのとき、参考例2の硬化物の切断時引張強さは5.3MPaであった。しかし、厚みが50μm(参考例3)および25μm(参考例4)と薄くなるにつれて、切断時引張強さは顕著に減少した。これに対して、実施例2、6および7の硬化物では、厚みが25μm~100μmの範囲において、厚みに依存することなく、切断時引張強さはほぼ4MPaに維持されることがわかった。以上の結果、本発明では、厚みが25μm~100μmにおいて、硬化物の切断時引張強さが3.5MPa以上であるUV硬化型シートが得られることが確認された。
本発明において薄くても優れた機械強度を有する硬化物が得られる理由は、以下のように考えられる。熱硬化型樹脂では、参考例3~4のように、シートの厚みが薄くなると固体状ゴム成分と液状ゴム成分の熱対流の影響が顕著になる。その結果、例えば、液状ゴム成分が集まって結晶化する等、局所的に不均一な箇所が発生し、そこを起点として破断が生じやすくなる。一方、UV硬化型の実施例2、6および7では、UV照射時の熱量が少ないため、シート内での固体状ゴム成分と液状ゴム成分の熱対流が生じにくく、局所的な不均一箇所が生じにくいため、薄くても切断時引張強さの高いシートが得られるものと考えられる。
【0057】
実施例2の固体状ゴム成分と液状ゴム成分の比率を変えた他は、実施例1と同様の方法でUV硬化型組成物およびUV硬化型シートを調製し、実施例10~13とした。ジエン骨格を有するゴム成分の総量に対する液状ゴム成分の含有量はそれぞれ5質量%(実施例10)、30質量%(実施例11)、50質量%(実施例12)および70質量%(実施例13)である。表3に、得られた硬化物のゲル分率と90度剥離力を評価した結果を示す。比較として、比較例1の結果も示す。全ての実施例で高い接着性を示し、ジエン骨格を有するゴム成分として固体状ゴム成分と液状ゴム成分を含有する本発明の効果が確認された。また、本実施例では、液状ゴム成分の含有量の増加に伴い、90度剥離力は上昇し、液状ゴム成分含有量が30質量%付近で最大となり、その後、液状ゴム成分の上昇とともに減少することがわかった。
【0058】
【表3】
【0059】
光重合開始剤を、(B-1)1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンから(B-2)2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンに変えた他は、実施例1と同様の方法でUV硬化型組成物およびUV硬化型シートを調製して評価した結果を表4に示す(実施例14)。上記結果より、光重合開始剤として、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンを用いても優れた接着性と機械強度を示し、本発明の効果が得られることが確認された。
架橋剤を(C-1)ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートに変えて、(C-2)芳香族ポリエステルアクリレート(実施例15)および(C-3)ウレタンアクリレート(実施例16)とした他は、実施例14と同様の方法でUV硬化型組成物およびUV硬化型シートを調製して評価した結果についても表4に示す。上記結果より、実施例14、実施例15、および実施例16のいずれの架橋剤を用いても、接着性が向上し、かつ優れた機械強度が得られることがわかった。
表中の結果より、エチレン性不飽和基の数が2以上であれば、優れた接着性が得られることが確認された。そして、表中には記載していないが、エチレン性不飽和基の数が15までの架橋剤を用いることにより、より優れた接着性が得られることがわかった。
【0060】
【表4】
図1