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特許7282214希土類含有SiC基板及びSiCエピタキシャル層の製法
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  • 特許-希土類含有SiC基板及びSiCエピタキシャル層の製法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】希土類含有SiC基板及びSiCエピタキシャル層の製法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20230519BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20230519BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20230519BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/203 Z
H01L21/20
C30B29/36 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021572228
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2020002447
(87)【国際公開番号】W WO2021149235
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松島 潔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-268995(JP,A)
【文献】国際公開第2014/189008(WO,A1)
【文献】特開2007-277049(JP,A)
【文献】特開2017-008369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/203
H01L 21/20
C30B 29/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素及びAlを含有し、前記希土類元素の濃度が1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下であり、Alの濃度が1×10 16 atoms/cm 3 以上1×10 21 atoms/cm 3 以下である、
希土類含有SiC基板。
【請求項2】
(Alの濃度)/(希土類元素の濃度)が1×10-2以上1×105以下である、
請求項に記載の希土類含有SiC基板。
【請求項3】
Nを含有し、Nの濃度が1×1017atoms/cm3以上1×1022atoms/cm3以下である、
請求項1又は2に記載の希土類含有SiC基板。
【請求項4】
(Nの濃度)/(希土類元素の濃度)が1×10-2以上1×105以下である、
請求項に記載の希土類含有SiC基板。
【請求項5】
前記希土類元素は、Y,Sm,Ho,Dy及びYbからなる群より選ばれた少なくとも一つである、
請求項1~のいずれか1項に記載の希土類含有SiC基板。
【請求項6】
c軸方向及びa軸方向の両方に配向している、
請求項1~のいずれか1項に記載の希土類含有SiC基板。
【請求項7】
前記希土類元素の濃度の深さ方向ばらつきが変動係数で0.9以上である、
請求項1~のいずれか1項に記載の希土類含有SiC基板。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の希土類含有SiC基板の表面にSiCを作製するための原料ガスを供給することにより、前記表面にSiCエピタキシャル層を形成する、
SiCエピタキシャル層の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類含有SiC基板及びSiCエピタキシャル層の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化珪素)は大電圧及び大電力を低損失で制御できるワイドバンドギャップ材料として注目を集めている。特に近年、SiC材料を用いたパワー半導体デバイス(SiCパワーデバイス)は、Si半導体を用いたものよりも、小型化、低消費電力化及び高効率化に優れるため、様々な用途における利用が期待されている。例えば、SiCパワーデバイスを採用することで、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)向けのコンバータ、インバータ、車載充電器等を小型化して効率を高めることができる。
【0003】
SiCパワーデバイスを作製するには、下地基板であるSiC単結晶基板上に、SiCエピタキシャル層を成長させる必要があるが、SiC単結晶基板に存在する基底面転位(BPD)がそのままSiCエピタキシャル層へ引き継がれると、SiCデバイスに致命的な欠陥を引き起こすことがあるため、好ましくない。そこで、特許文献1,2では、SiC単結晶基板上にSiCをエピタキシャル成長させる際に、有害なBPDを無害な刃状転位(TED)へ変換する手法が検討されている。また、特許文献3には、SiC単結晶中にNb、Ta、Mo、W、Irを所定量添加することで、SiC単結晶の成長中に生じる熱応力による転位が発生しにくく、エピタキシャル成長によってSiC単結晶上にSiC層を形成する際にも転位が発生しにくくなることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-113303号公報
【文献】特許第6122704号公報
【文献】特開2019-218229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2では、BPDからTEDへの変換率が未だ不十分であり、SiCエピタキシャル層の品質が高いとはいえなかった。また、特許文献3では、SiC単結晶に添加されるNb、Ta等の成分が半導体の特性に好ましくない影響を与える場合には、Nb、Ta等を添加することができなかった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、高品質なSiCエピタキシャル層を成長させることができるSiC基板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の希土類含有SiC基板は、
希土類元素を含有し、前記希土類元素の濃度が1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下である、
ものである。
【0008】
この希土類含有SiC基板は、希土類元素の濃度が1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下の範囲内に設定されている。そのため、この希土類含有SiC基板上に成長させたSiCエピタキシャル成長層のBPD密度を、希土類含有SiC基板のBPD密度に比べて十分に低減させることができる。このようにして得られるSiCエピタキシャル成長層は、その表面に機能層を積層してSiCデバイス(例えばSiC-MOSFETやSiC-SBDなど)を作製するのに適している。また、希土類含有SiC基板は、Nb、Ta等を含有していないため、Nb、Ta等の成分が半導体特性に影響を与える状況下であっても使用することができる。
【0009】
本発明の希土類含有SiC基板は、Alを含有していることが好ましく、その場合のAlの濃度は1×1016atoms/cm3以上1×1021atoms/cm3以下であることが好ましい。こうすれば、希土類含有SiC基板上に成長させたSiCエピタキシャル成長層のBPD密度を、より低減させることができる。(Alの濃度)/(希土類元素の濃度)が1×10-2以上1×105以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の希土類含有SiC基板は、Alの他にNを含有していることが好ましく、その場合のNの濃度は1×1017atoms/cm3以上1×1022atoms/cm3以下であることが好ましい。こうすれば、希土類含有SiC基板上に成長させたSiCエピタキシャル成長層のBPD密度を、更に低減させることができる。(Nの濃度)/(希土類元素の濃度)が1×10-2以上1×105以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の希土類含有SiC基板において、前記希土類元素は、Y,Sm,Ho,Dy及びYbからなる群より選ばれた少なくとも一つであることが好ましい。
【0012】
本発明の希土類含有SiC基板は、c軸方向及びa軸方向の両方に配向していることが好ましい。
【0013】
本発明の希土類含有SiC基板は、前記希土類元素の濃度の深さ方向ばらつきが変動係数で0.9以上であることが好ましい。こうすれば、希土類含有SiC基板上に成長させたSiCエピタキシャル成長層のBPD密度を、更に低減させることができる。なお、希土類元素の濃度の深さ方向ばらつきの変動係数の求め方は、後述する実施例(実験例1)で説明する。
【0014】
本発明のSiCエピタキシャル層の製法は、
上述したいずれかの希土類含有SiC基板の表面にSiCを作製するための原料ガスを供給することにより、前記表面にSiCエピタキシャル層を形成する、
ものである。
【0015】
このSiCエピタキシャル層の製法によれば、希土類含有SiC基板上に成長させたSiCエピタキシャル成長層のBPD密度を十分に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】SiC複合基板10の縦断面図。
図2】SiC複合基板10の製造工程図。
図3】AD装置50の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら以下に説明する。図1はSiC複合基板10の縦断面図(SiC複合基板10の中心軸を含む面でSiC複合基板10を切断したときの断面図)、図2はSiC複合基板10の製造工程図である。
【0018】
本実施形態のSiC複合基板10は、SiC単結晶層20と、希土類含有SiC層30(本発明の希土類含有SiC基板に相当)とを備えている。
【0019】
SiC単結晶層20は、SiC単結晶からなる層であり、結晶成長面を有する。SiC単結晶のポリタイプ、オフ角、極性は特に限定されるものではないが、ポリタイプは4H又は6Hが好ましく、オフ角は単結晶SiCの[0001]軸から0.1~12°であることが好ましく、極性はSi面であることが好ましい。ポリタイプは4H、オフ角は単結晶SiCの[0001]軸から1~5°、極性はSi面であることがより好ましい。
【0020】
希土類含有SiC層30は、SiC単結晶層20の結晶成長面上に設けられ、SiCがc軸方向及びa軸方向の両方に配向していることが好ましい。すなわち、希土類含有SiC層30は、2軸配向SiC層であることが好ましい。2軸配向SiC層は、c軸及びa軸の2軸方向に配向している限り、SiC単結晶であってもよいし、SiC多結晶であってもよいし、モザイク結晶であってもよい。モザイク結晶とは、明瞭な粒界は有しないが、結晶の配向方位がc軸及びa軸の一方又は両方がわずかに異なる結晶の集まりになっているものをいう。配向の評価方法は、特に限定されるものではないが、例えばEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)法やX線極点図などの公知の分析手法を用いることができる。例えば、EBSD法を用いる場合、2軸配向SiC層の表面(板面)又は板面と直交する断面の逆極点図マッピングを測定する。得られた逆極点図マッピングにおいて、(A)板面の略法線方向の特定方位(第1軸)に配向していること、(B)第1軸に直交する、略板面内方向の特定方位(第2軸)に配向していること、(C)第1軸からの傾斜角度が±10°以内に分布していること、(D)第2軸からの傾斜角度が±10°以内に分布していること、という4つの条件を満たすときに略法線方向と略板面方向の2軸に配向していると定義できる。言い換えると、上記4つの条件を満たしている場合に、c軸及びa軸の2軸に配向していると判断する。例えば板面の略法線方向がc軸に配向している場合、略板面内方向がc軸と直交する特定方位(例えばa軸)に配向していればよい。2軸配向SiC層は、略法線方向と略板面内方向の2軸に配向していればよいが、略法線方向がc軸に配向していることが好ましい。略法線方向及び/又は略板面内方向の傾斜角度分布は小さい方が2軸配向SiC層のモザイク性が小さくなり、ゼロに近づくほど単結晶に近くなる。このため、2軸配向SiC層の結晶性の観点では、傾斜角度分布は略法線方向、略板面方向共に小さいほうが好ましく、例えば±5°以下が好ましく、±3°以下がさらに好ましい。
【0021】
SiC単結晶層20は、BPDを含んでいる。SiC単結晶層20のBPD密度は、特に限定されるものではないが、1×105/cm2以下であることが好ましく、1×103/cm2以下であることがより好ましい。希土類含有SiC層30は、希土類元素を含有し、その希土類元素の濃度が1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下の範囲内である。希土類元素の濃度をこの範囲内に設定したため、希土類含有SiC層30の上に成長させたSiCエピタキシャル層のBPD密度を、希土類含有SiC層30のBPD密度に比べて十分に低減させることができる。希土類含有SiC層30は、希土類元素として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロビウム、ガドリニウム、テルビウム、ディスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムの17種類の元素からなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を含む。希土類元素としては、Y及びYbの少なくとも一方が好ましい。希土類含有SiC層30は、Alを含有する方が好ましい。その場合、Alの濃度は、1×1016atoms/cm3以上1×1021atoms/cm3以下の範囲内であることが好ましい。こうすれば、希土類含有SiC層30の上に成長させたSiCエピタキシャル層のBPD密度を、より低減させることができる。(Alの濃度)/(希土類元素の濃度)は1×10-2以上1×105以下であることが好ましい。希土類含有SiC層30は、Alに加えてNを含有する方が好ましい。その場合、Nの濃度は1×1017atoms/cm3以上1×1022atoms/cm3以下が好ましい。こうすれば、希土類含有SiC層30の上に成長させたSiCエピタキシャル層のBPD密度を、更に低減させることができる。(Nの濃度)/(希土類元素の濃度)が1×10-2以上1×105以下であることが好ましい。
【0022】
次に、SiC複合基板10の製造方法について説明する。ここでは、SiC単結晶層20上に希土類含有SiC層30を作製する場合について説明する。具体的には、(a)配向前駆体層40の形成工程、(b)熱処理工程、(c)研削工程、を含む。配向前駆体層40は、後述の熱処理により希土類含有SiC層30となるものである。以下、これらの工程を図2を用いて順に説明する。なお、SiC複合基板10の製造方法には限定がなく、希土類元素を含有するSiC層30を得られる限り特に限定はない。例えば、CVDや昇華法のような気相法でもよいし、溶液法のような液相法でもよい。
【0023】
(a)配向前駆体層40の形成工程(図2(a)参照)
配向前駆体層40の形成工程では、SiC単結晶層20の結晶成長面に配向前駆体層40を形成する。SiC単結晶層20としては、4H又は6Hポリタイプを用いることが好ましい。また、SiC単結晶層20の結晶成長面としては、SiC[0001]軸から0.1~12°のオフ角を有するSi面が好ましい。オフ角は1~5°であることがより好ましい。
【0024】
配向前駆体層40の形成方法は、公知の手法が採用可能である。配向前駆体層40の形成方法は、例えば、AD(エアロゾルデポジション)法、HPPD(超音速プラズマ粒子堆積法)法などの固相成膜法、スパッタリング法、蒸着法、昇華法、各種CVD(化学気相成長)法などの気相成膜法、溶液成長法などの液相成膜法が挙げられ、配向前駆体層40を直接SiC単結晶層20上に形成する手法が使用可能である。CVD法としては、例えば熱CVD法、プラズマCVD法、ミストCVD法、MO(有機金属)CVD法などを用いることができる。また、配向前駆体層40として、予め昇華法や各種CVD法、焼結などで作製した多結晶体を使用し、SiC単結晶層20上に載置する方法も用いることができる。あるいは、配向前駆体層40の成形体を予め作製し、この成形体をSiC単結晶層20上に載置する手法であってもよい。このような配向前駆体層40は、テープ成形により作製されたテープ成形体でもよいし、一軸プレス等の加圧成形により作製された圧粉体でもよい。
【0025】
これらの配向前駆体層40を形成するにあたり、配向前駆体層40の原料粉末に、希土類含有SiC層30の希土類元素の濃度に応じた希土類化合物が含まれるようにする。希土類化合物としては、特に限定されるものではないが、上述した17種類の希土類元素のうちの少なくとも1種類の元素の酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物などが挙げられる。また、希土類含有SiC層30にAlが含有される場合には、希土類含有SiC層30中のAl濃度に応じてAl化合物を配向前駆体層40の原料粉末に含有させる。Al化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、フッ化アルミニウムなどが挙げられる。更に、希土類含有SiC層30にNが含有される場合には、希土類含有SiC層30中のN濃度に応じて窒素化合物を配向前駆体層40の原料粉末に含有させる。窒素化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば窒化アルミニウムなどが挙げられる。また、希土類含有SiC層30にNが含有される場合には次のような方法でもNを添加することができる。配向前駆体層40の原料粉末から希土類含有SiC層を窒素雰囲気下で合成するか、あるいは合成された希土類含有SiC層を窒素雰囲気下でアニールすることでもNを含有させることができる。
【0026】
なお、SiC単結晶層20上に直接配向前駆体層40を形成する手法において、各種CVD法や昇華法、溶液成長法などを用いる場合、後述する熱処理工程を経ることなくSiC単結晶層20上にエピタキシャル成長を生じ、希土類含有SiC層30が成膜される場合がある。しかし、配向前駆体層40は、形成時には配向していない状態、即ち非晶質や無配向の多結晶であり、後段の熱処理工程でSiC単結晶を種として配向させることが好ましい。このようにすることで、希土類含有SiC層30の表面に到達する結晶欠陥を効果的に低減することができる。この理由は定かではないが、一旦成膜された固相の配向前駆体層がSiC単結晶を種として結晶構造の再配列を生じることも結晶欠陥の消滅に効果があるのではないかと考えている。従って、各種CVD法や昇華法、溶液成長法などを用いる場合は、配向前駆体層40の形成工程においてエピタキシャル成長が生じない条件を選択することが好ましい。
【0027】
しかしながら、AD法、各種CVD法でSiC単結晶層20上に直接配向前駆体層40を形成する手法又は昇華法、各種CVD法、焼結で別途作製した多結晶体をSiC単結晶層20上に載置する手法が好ましい。これらの方法を用いることで配向前駆体層40を比較的短時間で形成することが可能となる。AD法は高真空のプロセスを必要とせず、成膜速度も相対的に速いため、特に好ましい。配向前駆体層40として、予め作製した多結晶体を用いる手法では、多結晶体とSiC単結晶層20の密着性を高めるため、多結晶体の表面を十分に平滑にしておくなどの工夫が必要である。このため、コスト的な観点では配向前駆体層40を直接形成する手法が好ましい。また、予め作製した成形体をSiC単結晶層20上に載置する手法も簡易な手法として好ましいが、配向前駆体層40が粉末で構成されているため、後述する熱処理工程において焼結させるプロセスを必要とする。いずれの手法も公知の条件を用いることができるが、以下ではAD法又は熱CVD法によりSiC単結晶層20上に直接配向前駆体層40を形成する方法及び予め作製した成形体をSiC単結晶層20上に載置する手法について述べる。
【0028】
AD法は、微粒子や微粒子原料をガスと混合してエアロゾル化し、このエアロゾルをノズルから高速噴射して基板に衝突させ、被膜を形成する技術であり、常温で被膜を形成できるという特徴を有している。このようなAD法で用いられる成膜装置(AD装置)の一例を図3に示す。図3に示されるAD装置50は、大気圧より低い気圧の雰囲気下で原料粉末を基板上に噴射するAD法に用いられる装置として構成されている。このAD装置50は、原料成分を含む原料粉末のエアロゾルを生成するエアロゾル生成部52と、原料粉末をSiC単結晶層20に噴射して原料成分を含む膜を形成する成膜部60とを備えている。エアロゾル生成部52は、原料粉末を収容し図示しないガスボンベからのキャリアガスの供給を受けてエアロゾルを生成するエアロゾル生成室53と、生成したエアロゾルを成膜部60へ供給する原料供給管54と、エアロゾル生成室53及びその中のエアロゾルに10~100Hzの振動数で振動が付与する加振器55とを備えている。成膜部60は、SiC単結晶層20にエアロゾルを噴射する成膜チャンバ62と、成膜チャンバ62の内部に配設されSiC単結晶層20を固定する基板ホルダ64と、基板ホルダ64をX軸-Y軸方向に移動するX-Yステージ63とを備えている。また、成膜部60は、先端にスリット67が形成されエアロゾルをSiC単結晶層20へ噴射する噴射ノズル66と、成膜チャンバ62を減圧する真空ポンプ68とを備えている。噴射ノズル66は、原料供給管54の先端に取り付けられている。
【0029】
AD法は、成膜条件によって膜中に気孔を生じる場合や、膜が圧粉体となることが知られている。例えば、原料粉末の基板への衝突速度や原料粉末の粒径、エアロゾル中の原料粉末の凝集状態、単位時間当たりの噴射量などに影響を受けやすい。原料粉末の基板への衝突速度に関しては、成膜チャンバ62と噴射ノズル66内の差圧や、噴射ノズルの開口面積などに影響を受ける。このため、緻密な配向前駆体層中を得るには、これらのファクターを適切に制御することが必要である。
【0030】
熱CVD法では、成膜装置は市販のものなど公知のものを利用することができる。原料ガスは特に限定されるものではないが、Siの供給源としては四塩化ケイ素(SiCl4)ガスやシラン(SiH4)ガス、Cの供給源としてはメタン(CH4)ガスやプロパン(C38)ガス等を用いることができる。成膜温度は1000~2200℃が好ましく、1100~2000℃がさらに好ましく、1200~1900℃が好ましい。
【0031】
熱CVD法を用いてSiC単結晶層20上に成膜する場合、SiC単結晶層20上にエピタキシャル成長を生じ、希土類含有SiC層30を形成する場合があることが知られている。しかし、配向前駆体層40は、その作製時には配向していない状態、即ち非晶質や無配向の多結晶であり、熱処理工程時にSiC単結晶を種結晶として結晶の再配列を生じさせることが好ましい。熱CVD法を用いてSiC単結晶上に非晶質や多結晶の層を形成するには、成膜温度やSi源、C源のガス流量及びそれらの比率、成膜圧力などが影響することが知られている。成膜温度の影響は大きく、非晶質又は多結晶層を形成する観点では成膜温度は低い方が好ましく、1700℃未満が好ましく、1500℃以下がさらに好ましく、1400℃以下が特に好ましい。しかし、成膜温度が低すぎると成膜レート自体も低下するため、成膜レートの観点では成膜温度は高い方が好ましい。
【0032】
配向前駆体層40として予め作製した成形体を用いる場合、配向前駆体の原料粉末を成形して作製することができる。例えば、プレス成形を用いる場合、配向前駆体層40は、プレス成形体である。プレス成形体は、配向前駆体の原料粉末を公知の手法に基づきプレス成形することで作製可能であり、例えば、原料粉末を金型に入れ、好ましくは100~400kgf/cm2、より好ましくは150~300kgf/cm2の圧力でプレスすることにより作製すればよい。また、成形方法に特に限定はなく、プレス成形の他、テープ成形、押出し成形、鋳込み成形、ドクターブレード法及びこれらの任意の組合せを用いることができる。例えば、テープ成形を用いる場合、原料粉末にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、シート状に吐出及び成形するのが好ましい。シート状に成形した成形体の厚さに限定はないが、ハンドリングの観点では5~500μmであるのが好ましい。また、厚い配向前駆体層が必要な場合はこのシート成形体を多数枚積み重ねて、所望の厚さとして使用すればよい。これらの成形体はその後のSiC単結晶層20上での熱処理によりSiC単結晶層20近くの部分が、希土類含有SiC層30となるものである。このような手法では、後述する熱処理工程において成形体を焼結させる必要がある。成形体が焼結し、多結晶体としてSiC単結晶層20と一体となる工程を経たのちに、希土類含有SiC層30を形成することが好ましい。成形体が焼結した状態を経ない場合、SiC単結晶を種としたエピタキシャル成長が十分に生じない場合がある。このため、成形体はSiC原料の他に、焼結助剤等の添加物を含んでいてもよい。
【0033】
(b)熱処理工程(図2(b)参照)
熱処理工程では、SiC単結晶層20上に配向前駆体層40が積層又は載置された積層体を熱処理することにより希土類含有SiC層30を生成させる。熱処理方法は、SiC単結晶層20を種としたエピタキシャル成長が生じるかぎり特に限定されず、管状炉やホットプレートなど、公知の熱処理炉で実施することができる。また、これらの常圧(プレスレス)での熱処理だけでなく、ホットプレスやHIPなどの加圧熱処理や、常圧熱処理と加圧熱処理の組み合わせも用いることができる。熱処理の雰囲気は真空、窒素、不活性ガス雰囲気から選択することができる。熱処理温度は、好ましくは1700~2700℃である。温度を高くすることで、SiC単結晶層20を種結晶として配向前駆体層40がc軸及びa軸に配向しながら成長しやすくなる。したがって、温度は、好ましくは1700℃以上、より好ましくは1850℃以上、さらに好ましくは2000℃以上、特に好ましくは2200℃以上である。一方、温度が過度に高いと、SiCの一部が昇華により失われたり、SiCが塑性変形して反り等の不具合が生じたりする可能性がある。したがって、温度は、好ましくは2700℃以下、より好ましくは2500℃以下である。熱処理温度や保持時間はエピタキシャル成長で生じる希土類含有SiC層30の厚みと関係しており、適宜調整できる。
【0034】
但し、配向前駆体層40として予め作製した成形体を用いる場合、熱処理中に焼結させる必要があり、高温での常圧焼成やホットプレスやHIP又はそれらの組み合わせが好適である。例えば、ホットプレスを用いる場合、面圧は50kgf/cm2以上が好ましく、より好ましくは100kgf/cm2以上、特に好ましくは200kgf/cm2以上が好ましく、特に上限はない。また、焼成温度も焼結とエピタキシャル成長が生じる限り、特に限定はない。1700℃以上が好ましく、1800℃以上がさらに好ましく、2000℃以上がさらに好ましく、2200℃以上が特に好ましい。焼成時の雰囲気は真空、窒素、不活性ガス雰囲気又は窒素と不活性ガスの混合ガスから選択することができる。原料となるSiC粉末は、α-SiC、β-SiCのいずれでもよい。SiC粉末は、好ましくは0.01~5μmの平均粒径を有するSiC粒子で構成される。なお、平均粒径は走査型電子顕微鏡にて粉末を観察し、1次粒子100個分の定方向最大径を計測した平均値を指す。
【0035】
熱処理工程では、配向前駆体層40内の結晶はSiC単結晶層20の結晶成長面からc軸及びa軸に配向しながら成長していくため、配向前駆体層40は、結晶成長面から徐々に希土類含有SiC層30に変わっていく。生成した希土類含有SiC層30は、BPD密度の低い(例えば1×102/cm2以下)のものになる。このようにBPD密度が低くなる理由は不明だが、結晶成長に伴う欠陥の屈曲やc軸と直交する方向に進展する積層欠陥への転換、欠陥同士の対消滅等が関係していると考えられる。BPD密度は、公知のKOH融液エッチングを用いたエッチピット評価によって測定される。
【0036】
(c)研削工程(図2(c)参照)
研削工程では、アニール工程後に希土類含有SiC層30上に残った配向前駆体層40を研削除去して、希土類含有SiC層30の表面を露出させ、露出した表面をダイヤモンド砥粒を用いて研磨加工し、更にCMP(化学機械研磨)仕上げを行う。こうすることにより、SiC複合基板10を得る。
【0037】
次に、SiC複合基板10の希土類含有SiC層30の表面に、SiCエピタキシャル層を成長させる方法について説明する。SiCエピタキシャル層を成長させる方法は、特に限定するものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、CVD装置内のサセプタに、SiC複合基板10を希土類含有SiC層30の表面が上になるように配置し、原料ガスとしてシラン及びプロパンを用い、キャリアガスとして水素を供給してエピタキシャル成長を行うようにしてもよい。この際、成長温度は1570℃以上1610℃以下の範囲内で設定するのが好ましい。また、濃度比C/Siは0.7以上1.2以下の範囲内で設定するのが好ましい。
【0038】
以上説明した本実施形態のSiC複合基板10の希土類含有SiC層30は、希土類元素の濃度を1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下の範囲内に設定したため、この希土類含有SiC層30上に成長させたSiCエピタキシャル成長層のBPD密度を、希土類含有SiC層30のBPD密度に比べて十分に低減させることができる。このようにして得られるSiCエピタキシャル成長層は、その表面に機能層を積層してSiCデバイス(例えばSiC-MOSFETやSiC-SBDなど)を作製するのに適している。また、希土類含有SiC層30は、Nb、Ta等を含有していないため、Nb、Ta等の成分が半導体特性に影響を与える状況下であっても使用することができる。
【0039】
また、希土類含有SiC層30は、Alを含有していることが好ましく、その場合のAlの濃度は1×1016atoms/cm3以上1×1021atoms/cm3以下であることが好ましい。こうすれば、希土類含有SiC層30上に成長させたSiCエピタキシャル成長層のBPD密度を、より低減させることができる。
【0040】
更に、希土類含有SiC層30は、Alの他にNを含有していることが好ましく、その場合のNの濃度は1×1017atoms/cm3以上1×1022atoms/cm3以下であることが好ましい。こうすれば、希土類含有SiC層30上に成長させたSiCエピタキシャル成長層のBPD密度を、更に低減させることができる。
【0041】
更にまた、SiCエピタキシャル層は、希土類含有SiC層30の表面にSiCを作製するための原料ガスを供給することにより、その表面に形成される。この製法によれば、希土類含有SiC層30上に成長させたSiCエピタキシャル成長層のBPD密度を、希土類含有SiC層30のBPD密度に比べて十分に低減させることができる。
【0042】
加えて、SiC単結晶層20と希土類含有SiC層30との界面付近にはアルゴンを含有していた方が、SiCエピタキシャル成長層中のBPD密度を低減させる観点から好ましい。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0044】
例えば、上述した実施形態では、SiC単結晶層20上に希土類含有SiC層30を1層のみ設けたが、2層以上設けてもよい。具体的には、SiC複合基板10の希土類含有SiC層30に配向前駆体層40を積層し、熱処理、アニール及び研削をこの順に行うことにより、希土類含有SiC層30の上に2層目の希土類含有SiC層30を設けることができる。
【実施例
【0045】
以下に、本発明の実施例について説明する。以下の実験例1~12が本発明の実施例、実験例13~18が比較例に相当する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0046】
[実験例1]
1. SiC複合基板の作製
(1)配向前駆体層の作製
市販の微細β-SiC粉末(体積基準D50:0.7μm)を91.6重量%、酸化イットリウム粉末(体積基準D50:0.1μm)を7.1重量%、窒化アルミニウム粉末(体積基準D50:0.5μm)を1.3重量%含む原料粉体を、SiCボールを使用してエタノール中で24時間ボールミル混合し、乾燥することで混合粉末を得た。SiC単結晶層として市販のSiC単結晶基板(n型4H-SiC、直径50.8mm(2インチ)、Si面、(0001)面、オフ角4°、厚み0.35mm、オリフラなし、BPD密度1.0×105/cm2)を用意し、図に示すAD装置50によりSiC単結晶基板上に混合粉末を噴射してAD膜(配向前駆体層)を形成した。
【0047】
AD成膜条件は以下のとおりとした。まずキャリアガスはN2とし、長辺5mm×短辺0.4mmのスリットが形成されたセラミックス製のノズルを用いて成膜した。ノズルのスキャン条件は、0.5mm/sのスキャン速度で、スリットの長辺に対して垂直且つ進む方向に55mm移動、スリットの長辺方向に5mm移動、スリットの長辺に対して垂直且つ戻る方向に55mm移動、スリットの長辺方向且つ初期位置とは反対方向に5mm移動、とのスキャンを繰り返し、スリットの長辺方向に初期位置から55mm移動した時点で、それまでとは逆方向にスキャンを行い、初期位置まで戻るサイクルを1サイクルとし、これを1200サイクル繰り返した。このようにして形成したAD膜の厚みは約120μmであった。
【0048】
(2)配向前駆体層の熱処理
配向前駆体層であるAD膜を形成したSiC単結晶基板をAD装置から取り出し、N2雰囲気中で1950℃にて6時間アニールし、 その後アルゴン雰囲気中で2450℃にて5時間アニールした。すなわち、配向前駆体層を熱処理して熱処理層とした。
【0049】
(3)研削及び研磨
(3-1)研磨その1
得られた熱処理層の表面全域が裏面(SiC単結晶基板の底面)と平行となるように、ダイヤモンド砥粒を用いて研磨加工した後、化学機械研磨(CMP)仕上げをして複合基板を得た。
【0050】
(3-2)研磨その2
(1)、(2)と同様の方法で別途作製した試料を準備し、板面と直交する方向で基板の中心部を通るように切断した。切断した試料に対してダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工にて断面を平滑化し、化学機械研磨(CMP)により鏡面仕上げとした。
【0051】
2.熱処理層の評価
(1)2軸配向性
EBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)法を用いて、(3-1)及び(3-2)にて作製した熱処理層の表面(板面)及び板面と直交する断面の逆極点図マッピングを測定したところ、傾斜角度分布は略法線方向・略板面方向ともに0.01°以下だったため、熱処理層はc軸とa軸に配向した2軸配向SiC層であると判断した。
[EBSD測定条件]
・加速電圧:15kv
・スポット強度:70
・ワーキングディスタンス:22.5mm
・ステップサイズ:0.5μm
・試料傾斜角:70°
・測定プログラム:Aztec(version 3.3)
【0052】
(2)2軸配向SiC層内のY、Al、Nの含有量
1.(1)~(3)(3-1)と同様の方法にて作製した複合基板の研磨面に対してダイナミック二次イオン質量分析(D-SIMS)を行った。Y、Alの分析装置はCAMECA社製IMF-6fを用い、一次イオン種O2 +、加速電圧8kvにて測定を実施した。Nの分析装置はCAMECA 社製IMF-7fを用い、一次イオン種Cs+、加速電圧14.5kvにて測定を実施し、2軸配向SiC層中のY、Al、Nの含有量(深さ方向10μm範囲中データ総数224点の平均値)を求めた。また、Y/Al濃度比やN/Y濃度比も求めた。また、Yの深さ方向10μm範囲の濃度ばらつきを表すため、変動係数を算出した。すなわち、深さ方向10μm範囲中データ総数224点の標準偏差と平均値を算出した後、標準偏差を平均値で除することで変動係数を求めた。得られた結果を表1に記載した。
【0053】
3.SiCエピタキシャル層のCVD成膜
1.(1)~(3)(3-1)と同様の方法にて作製した複合基板をCVD装置内に配置し、原料ガスとしてシラン及びプロパンを用い、キャリアガスとして水素を供給して複合基板の2軸配向SiC層の上にエピタキシャル成長を行った。この際、成長温度は1600℃、濃度比C/Siは1.2とした。膜厚が10μmとなるまでSiCエピタキシャル層(単結晶層)を2軸配向SiC層上に形成して、SiCエピタキシャル基板を得た。
【0054】
4.SiCエピタキシャル層の評価
3.で得られたSiCエピタキシャル基板に対し、表面のBPD密度を以下の方法で評価した。ニッケル製のるつぼに、複合基板をKOH結晶と共に入れ、500℃で10分間、電気炉にてエッチング処理を行った。エッチング処理後の評価サンプルを洗浄し、光学顕微鏡にて観察し、公知の方法にてBPDを示すピットの数を数えた。具体的には、評価サンプル表面の任意の箇所の部位について、縦2.3mm×横3.6mmの視野を倍率50倍で100枚分撮影してピットの総数を数え、数えたピットの総数をトータル面積である8.05cm2で除することによりBPD密度を算出した。結果は表1に示される通りであった。
【0055】
【表1】
【0056】
[実験例2]
(A)β-SiC粉末を91.6重量%、酸化イットリウム粉末を7.1重量%、窒化アルミニウム粉末を1.3重量%含む原料粉体、(B)β-SiC粉末を98.5重量%、酸化イットリウム粉末を0.05重量%、窒化アルミニウム粉末を1.4重量%含む原料粉体をAD法にて(A)組成層→(B)組成層→(A)組成層・・・となるように120μm厚みとなるまで交互に2μmずつ成膜したこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、N/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0057】
[実験例3]
β-SiC粉末を99.95重量%、酸化イットリウム粉末を0.05重量%、窒化アルミニウム粉末を0.0002重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、N/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0058】
[実験例4]
β-SiC粉末を98.65重量%、酸化イットリウム粉末を0.05重量%、窒化アルミニウム粉末を1.3重量%含む原料粉体を用いたこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、N/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0059】
[実験例5]
β-SiC粉末を92.90重量%、酸化イットリウム粉末を7.1重量%、窒化アルミニウム粉末を0.0002重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、N/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0060】
[実験例6]
β-SiC粉末を89.1重量%、酸化イットリウム粉末を7.1重量%、酸化アルミニウム粉末を3.8重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0061】
[実験例7]
β-SiC粉末を99.95重量%、酸化イットリウム粉末を0.05重量%、酸化アルミニウム粉末を0.0003重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0062】
[実験例8]
β-SiC粉末を92.9重量%、酸化イットリウム粉末を7.1重量%含む原料粉体を用いたこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、N/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0063】
[実験例9]
β-SiC粉末を92.9重量%、酸化イットリウム粉末を7.1重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0064】
[実験例10]
β-SiC粉末を99.95重量%、酸化イットリウム粉末を0.05重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0065】
[実験例11]
(A)β-SiC粉末を91.6重量%、酸化イットリウム粉末を7.1重量%、窒化アルミニウム粉末を1.3重量%含む原料粉体、(B)β-SiC粉末を98.6重量%、酸化イットリウム粉末を0.005重量%、窒化アルミニウム粉末を1.4重量%含む原料粉体としたこと以外は、実験例2と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、N/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0066】
[実験例12]
β-SiC粉末を99.92重量%、酸化サマリウム粉末を0.08重量%、窒化アルミニウム粉末を0.0002重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のSm、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Sm濃度比、N/Sm濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0067】
[実験例13]
β-SiC粉末を99.995重量%、酸化イットリウム粉末を0.005重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0068】
[実験例14]
β-SiC粉末を80.0重量%、酸化イットリウム粉末を20.0重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0069】
[実験例15]
β-SiC粉末を99.995重量%、酸化イットリウム粉末を0.005重量%、酸化アルミニウム粉末を0.0001重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0070】
[実験例16]
β-SiC粉末を60.0重量%、酸化イットリウム粉末を20.0重量%、酸化アルミニウム粉末を20.0重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0071】
[実験例17]
β-SiC粉末を99.995重量%、酸化イットリウム粉末を0.005重量%、窒化アルミニウム粉末を0.0001重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、N/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0072】
[実験例18]
β-SiC粉末を60.0重量%、酸化イットリウム粉末を20.0重量%、窒化アルミニウム粉末を20.0重量%含む原料粉体を用いたこと以外は実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は2軸配向SiC層であることが確認された。2軸配向SiC層中のY、Al、Nの濃度及びYの深さ方向ばらつき、Al/Y濃度比、N/Y濃度比、SiCエピタキシャル層表面のBPD密度は表1の通りとなった。
【0073】
[考察]
実験例1~12より、原因は不明であるが、SiCエピタキシャル層中でBPDを効果的に減少させるためには、2軸配向SiC層中のイットリウムやサマリウム等の希土類元素濃度は1×1016~1×1019atoms/cm3の範囲が好適であることが分かった。また、この濃度範囲の希土類元素に加え、アルミニウムを1×1016~1×1021atoms/cm3の範囲で含有していると、よりBPDの低減効果が高められ、更に窒素を1×1017~1×1022atoms/cm3の範囲で含有していると、より一層効果的であることが分かった(実験例1~7及び実験例11,12)。また、(Alの濃度)/(希土類元素の濃度)は1×10-2~1×105が好ましいこと(実験例1~7)、(Nの濃度)/(希土類元素の濃度)は1×10-2~1×105が好ましいことがわかった(実験例1~5及び実験例8)。一方、実験例13~18より、イットリウム、アルミニウム及び窒素の含有量が前述の範囲を外れると、明確にSiCエピタキシャル層中のBPD密度が増加することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えば、パワー半導体デバイス(SiCパワーデバイス)に利用可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 SiC複合基板、20 SiC単結晶層、30 希土類含有SiC層、40 配向前駆体層、50 AD装置、52 エアロゾル生成部、53 エアロゾル生成室、54 原料供給管、55 加振器、60 成膜部、62 成膜チャンバ、63 X-Yステージ、64 基板ホルダ、66 噴射ノズル、67 スリット、68 真空ポンプ。
図1
図2
図3