(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】熱伝導率測定装置及び熱伝導率測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20230519BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20230519BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20230519BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
G01N25/18 E
A61B5/00 M
A61B10/00 Q
A61B10/00 T
A61B5/01 150
(21)【出願番号】P 2022097479
(22)【出願日】2022-06-16
(62)【分割の表示】P 2020107686の分割
【原出願日】2020-06-23
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390024729
【氏名又は名称】SEMITEC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101834
【氏名又は名称】和泉 順一
(72)【発明者】
【氏名】圓山 重直
(72)【発明者】
【氏名】岡部 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】井関 祐也
(72)【発明者】
【氏名】野中 崇
(72)【発明者】
【氏名】古川 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】細川 靖
(72)【発明者】
【氏名】田畑 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】松舘 直史
(72)【発明者】
【氏名】中島 利憲
(72)【発明者】
【氏名】東 雅也
(72)【発明者】
【氏名】折戸 学
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-217885(JP,A)
【文献】特表2016-501376(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0339830(US,A1)
【文献】特開2017-009584(JP,A)
【文献】特開2018-196722(JP,A)
【文献】特開2015-119895(JP,A)
【文献】特表2004-526147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
A61B 5/00
A61B 10/00
A61B 5/01
G01K 7/22
G01J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を感知する感温部と、
温度を測定可能な測定用の薄膜感温素子と、
前記測定用の薄膜感温素子に一定電力の第1の熱パルスを印加し、前記第1の熱パルスの印加停止後の一定時間に被測定体の熱伝導率を算出するとともに、前記測定用の薄膜感温素子に前記第1の熱パルスより時間幅の長い一定電力の第2の熱パルスを印加し、前記第2の熱パルスの印加停止後の一定時間に被測定体の熱伝導率を算出するように制御する制御処理部と、
を具備することを特徴とする熱伝導率測定装置。
【請求項2】
前記測定用の薄膜感温素子を、前記被測定体の温度より一定温度低い温度状態にすることが可能な温度制御素子を備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導率測定装置。
【請求項3】
温度を感知する感温部と、温度を測定可能な測定用の薄膜感温素子と、を備え、
前記感温部を被測定体に接触させるステップと、
前記測定用の薄膜感温素子に一定電力の第1の熱パルスを印加するステップと、
前記第1の熱パルスの印加停止後の一定時間に被測定体の熱伝導率を算出するステップと、
前記測定用の薄膜感温素子に前記第1の熱パルスより時間幅の長い一定電力の第2の熱パルスを印加するステップと、
前記第2の熱パルスの印加停止後の一定時間に被測定体の熱伝導率を算出するステップと、
を具備することを特徴とする熱伝導率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率測定装置及び熱伝導率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業分野や医療分野においては、物体の表面温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することが望まれている。
【0003】
例えば、医療分野において、皮膚悪性腫瘍が疑われる場合の診断は、外見の観察と触診に始まり、患部を一部切除して病理学的に判断している。メラノーマ(悪性黒色腫)に代表される皮膚癌では初期段階で発見した場合の治癒率は高いが、進行すると生存率がきわめて低くなる。この診断には、ダーマスコープを用いて視覚的検査をすることが多いが、その診断には熟練を要する。
【0004】
具体的には、皮膚悪性腫瘍が疑われる場合、皮膚生検による病理学的検査が行われるが、この皮膚生検は侵襲を伴い、検査結果が判明するまで時間を要する。また、表皮内癌である日光角化症は、時間の経過とともに有棘細胞癌に進行し、多臓器転移などの可能性が生じ、スクリーニングが必要となる場合がある。そのため、早期発見・治療が望ましく、非侵襲な皮膚癌の診断法が求められている。
【0005】
このような状況下において、非侵襲な皮膚癌の診断が可能な温度測定装置が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に示された温度測定装置は、測定用センサに一様な発熱量をパルス的に与えて患部の熱伝導率を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-217885号公報
【文献】特開2006-300765号公報
【文献】特許第5327840号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】First-in-human clinical study of novel technique to diagnose malignant melanoma via thermal conductivity measurements,
【0008】
T. Okabe, T.Fujimura, J.Okajima, Y.Kambayashi, S.Aiba, S.Maruyama, Scientific Reports, Vol.9,(2019)
【文献】Non-invasive measurement of effective thermalconductivity of human skin with a guard-heated thermistor probe, T.Okabe, T.Fujimura, J.Okajima, S.Aiba, S.Maruyama, InternationalJournal of Heat and Mass Transfer, Vol.126,(2018)
【文献】Development of a guard-heated thermistor probe for theaccurate measurement of surface temperature, T.Okabe, J.Okajima,A.Komiya, S.Maruyama, International Journal of Heat and Mass Transfer, Vol.108,(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1における温度測定用センサは、ガラス封入型のNTCサーミスタであり、熱容量が大きく温度応答性に限界があり、高速応答性を期待するのは困難である。
【0010】
本発明の実施形態は、被測定体の温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができる熱伝導率測定装置及び熱伝導率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態による熱伝導率測定装置は、温度を感知する感温部と、温度を測定可能な測定用の薄膜感温素子と、前記測定用の薄膜感温素子に一定電力の第1の熱パルスを印加し、前記第1の熱パルスの印加停止後の一定時間に被測定体の熱伝導率を算出するとともに、前記測定用の薄膜感温素子に前記第1の熱パルスより時間幅の長い一定電力の第2の熱パルスを印加し、前記第2の熱パルスの印加停止後の一定時間に被測定体の熱伝導率を算出するように制御する制御処理部と、を具備することを特徴とする。
【0012】
かかる実施形態の熱伝導率測定装置により、被測定体の温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができる。なお、温熱伝導率測定装置は、生体に好適に適用されるが、これに限るものではない。産業分野における物体の表面及び深部の熱伝導率を測定する場合においても適用可能であり、被測定体が格別限定されるものではない。
【0013】
本発明の実施形態による熱伝導率測定方法は、温度を感知する感温部と、温度を測定可能な測定用の薄膜感温素子と、を備え、前記感温部を被測定体に接触させるステップと、 前記測定用の薄膜感温素子に一定電力の第1の熱パルスを印加するステップと、前記第1の熱パルスの印加停止後の一定時間に被測定体の熱伝導率を算出するステップと、前記測定用の薄膜感温素子に前記第1の熱パルスより時間幅の長い一定電力の第2の熱パルスを印加するステップと、前記第2の熱パルスの印加停止後の一定時間に被測定体の熱伝導率を算出するステップと、を具備することを特徴とする。
【0014】
かかる実施形態の熱伝導率測定方法により、例えば、生体の表皮部分から真皮中に至るまでの熱伝導率を算出することにより、非侵襲で患部の診断を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、被測定体の温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができる熱伝導率測定装置及び熱伝導率測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る温度測定装置を示す縦断面図である。
【
図2】(a)は
図1中、A-A線に沿う断面図であり、(b)は
図1中、B-B線に沿う断面図であり、(c)は
図1中、C-C線に沿う断面図である。
【
図4】薄膜感温素子の基本的な接続状態を示す結線図である。
【
図7】温度測定の概要を示すフローチャートである。
【
図8】温度減衰測定における熱パルス発生のイメージを示すタイムチャートである。
【
図9】温度減衰測定の概要を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る温度測定装置を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
【0018】
以下、本発明の第1の実施形態に係る温度測定装置について
図1乃至
図6を参照して説明する。
図1及び
図2は、温度測定装置を模式的に示す縦断面図及び横断面図であり、
図3は、薄膜感温素子を示す断面図であり、
図4は、薄膜感温素子の基本的な接続状態を示す結線図である。また、
図5は、温度測定装置を示すブロック構成図であり、
図6は、温度測定装置の適用例を示す説明図である。なお、各図では、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している場合がある。また、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
本実施形態の温度測定装置は、カテーテルに好適に組み込まれるように構成されていて、被測定体としての生体の温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができる。
図1は、温度測定装置10をカテーテルCtの先端部に組み込んだ状態を示しており、
図2(a)はA-A線に沿う断面図、(b)はB-B線に沿う断面図、(c)はC-C線に沿う断面図である。なお、
図1及び
図2においては、リード線等の配線関係の図示は省略している。
【0020】
図1及び
図2に示すように温度測定装置10は、測定用の薄膜感温素子1と、保護加熱用の薄膜感温素子2と、温度制御素子3と、これら各構成要素が収容されるパイプ状の外郭4と、各構成要素を制御する制御処理部5(
図5参照)とを備えている。
【0021】
本実施形態では、外郭4はカテーテルCtのチューブ状のシャフトであり、このシャフトは長尺状であって管腔が形成されていて、適度の剛性と可撓性を有している。また、管腔内には、中空状のリード線挿通チューブが長手方向に沿って配設されている。シャフトを構成する材料には、例えば、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミドなどの合成樹脂を用いることができる。また、シャフトの外径寸法は、8フレンチ以下であり、長さ寸法は、900mm~1100mmに形成されている。
【0022】
したがって、外郭4であるカテーテルCtの先端部には、測定用の薄膜感温素子1、保護加熱用の薄膜感温素子2及び温度制御部3が収容されて組み込まれていて、カテーテルCtの先端部は温度を感知する感温部41でありプローブとして機能するようになっている。
【0023】
測定用の薄膜感温素子1は、後述する保護加熱用の薄膜感温素子2と基本的に同じ仕様及び特性を有している。測定用の薄膜感温素子1は、カテーテルCtのシャフトの最先端であって、内径部位に配設されている。
【0024】
図3を併せて参照して示すように、測定用の薄膜感温素子1は、薄膜サーミスタであり、基板11と、この基板11上に形成された導電層12と、薄膜素子層13と、保護絶縁層14とを備えている。
【0025】
基板11は、カテーテルCtの内径部分に嵌合可能なように略円形状をなしていて、絶縁性のアルミナ材料で形成されている。なお、基板11を形成する材料は、窒化アルミニウム、ジルコニア等のセラミックス又は半導体のシリコン、ゲルマニウム等の材料を用いてもよい。この基板11の一面(図示上、上側)上には、絶縁性薄膜がスパッタリング法等によって成膜して形成されている。基板11は極薄で厚さ寸法が200μm以下で、具体的には50μm~200μm、好ましくは150μm以下に形成されている。
このような極薄の基板11を薄膜サーミスタに用いることで、熱容量が小さくなり高感度で、かつ熱応答性の優れた感温素子の実現が可能となる。
【0026】
導電層12は、配線パターンを構成するものであり、基板11上に形成されている。導電層12は、金属薄膜をスパッタリング法等によって成膜して形成されものであり、その金属材料には、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等の貴金属やこれらの合金、例えば、Ag-Pd合金等が適用される。また、基板11の両端部には、導電層12と一体的に、導電層12と電気的に接続された一対の電極部12aが形成されている。
【0027】
薄膜素子層13は、サーミスタ組成物であり、負の温度係数を有する酸化物半導体から構成されている。薄膜素子層13は、前記導電層12の上に、スパッタリング法等によって成膜して導電層12と電気的に接続されている。なお、薄膜素子層13は、正の温度係数を有する酸化物半導体から構成してもよい。
【0028】
前記薄膜素子層13は、例えば、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)等の遷移金属元素の中から選ばれる2種又はそれ以上の元素から構成されている。保護絶縁層14は、薄膜素子層13及び導電層12を被覆するように形成されている。保護絶縁層14は、ホウケイ酸ガラスによって形成された保護ガラス層である。
【0029】
また、前記電極部12aには、金属製のリード線12bが溶接によって接合されて電気的に接続されている。具体的には、リード線12bは、例えば、コンスタンタンやハステロイ(登録商標)のような熱伝導率が低い材料から形成されていて、その熱伝導率は5W/m・K~25W/m・Kが好ましい。これらは半田等のろう材を使うことによって、又は、レーザー溶接によって接続することができる。さらに、リード線12bの線径は、φ20μm~φ100μm程度であることが好ましい。このようにリード線12bを構成することで、リード線12bによるサーミスタの熱容量及び熱放散量を小さくし、高感度で、かつ熱応答性を向上することができる。
【0030】
なお、基板11の他面側(図示上、下側の被測定体側)を保護膜で被覆するように構成してもよい。この場合、測定用の薄膜感温素子1は、保護膜を介して被測定体に接触するようになる。
【0031】
また、基板11の他面側に薄膜素子層13が配置されるように、測定用の薄膜感温素子1をカテーテルCtの内径部位に配設するようにしてもよい。この場合、測定用の薄膜感温素子1の薄膜素子層13側がさらに保護膜で被覆され、保護膜を介して測定用の薄膜感温素子1、具体的には、薄膜素子層13側が被測定体に接触するように構成される。
【0032】
保護加熱用の薄膜感温素子2は、測定用の薄膜感温素子1と同じ素子であり、同じ仕様及び特性を有している。したがって、測定用の薄膜感温素子1と同一又は相当部分には同一又は相当の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0033】
主として
図2(c)に示すように、保護加熱用の薄膜感温素子2は、薄膜素子層23を有し、基板21の周縁には、リード線の通過孔21aが複数個、具体的には8個形成されている。この通過孔21aには、測定用の薄膜感温素子1や保護加熱用の薄膜感温素子2のリード線が挿通されて制御処理部5側へ導出されるようになっている。また、通過孔21aは、線対称的に形成されている。したがって、熱的なバランスを良好に保つことが可能となる。
【0034】
再び、
図1に示すように、保護加熱用の薄膜感温素子2は、測定用の薄膜感温素子1と断熱層S
1を介して熱交換可能にカテーテルCtの長手方向に沿って配置されている。また、測定用の薄膜感温素子1と保護加熱用の薄膜感温素子2とは、薄膜素子層13、23側が相互に対向するように配置されている。
【0035】
断熱層S1は気体層であり、具体的には空気層であり、測定用の薄膜感温素子1と保護加熱用の薄膜感温素子2との間に設けられたリング状の断熱スペーサ15によって、その間隔が保持されるようになっている。断熱層S1の層厚寸法は0.05mm~1mmの微小間隔に設定されている。このように層厚寸法を設定することにより、測定用の薄膜感温素子1からの熱が保護加熱用の薄膜感温素子2に伝わるのを抑制して、適度な断熱性能を保ちつつ、測定用の薄膜感温素子1と保護加熱用の薄膜感温素子2との熱交換を可能にして双方の温度を等しくすることができる。
なお、断熱層S1は、空気層が好ましいが、窒素やアルゴン等の気体層であってもよく、また、断熱材によって構成することもできる。
【0036】
温度制御素子3は、熱電素子でありペルチェ素子である。ペルチェ素子は、ペルチェ効果を利用するものであり、直流電流を流すことにより一方の面が吸熱面となり、他方の面が放熱面となる半導体素子である。電流の向きを逆転させることにより吸熱面と放熱面とが反転する。
【0037】
温度制御素子3は、測定用の薄膜感温素子1及び保護加熱用の薄膜感温素子2の後端側に配設されている。また、温度制御素子3の先端側には、ヒートシンク31、温度制御素子用の薄膜感温素子32が設けられ、後端側には放熱フィン33が配設されている。
【0038】
図2(b)を併せて参照して示すように、ヒートシンク31は、熱伝導性が良好な金属、例えば、銅、アルミニウム、真鍮や鉄の材料で短円筒状に形成されており、ペルチェ素子の面と熱的に結合されて配置されている。
【0039】
また、ヒートシンク31には、温度制御素子用の薄膜感温素子32が熱的に結合するように配置されている。温度制御素子用の薄膜感温素子32は、ヒートシンク31の温度を感知して温度制御素子3としてのペルチェ素子から構成されるペルチェモジュールの温度を制御するように機能する。したがって、ヒートシンク31を一定の低い温度にして、環境温度を低下させ、延いては測定用の薄膜感温素子1を被測定体の温度より一定温度低い温度状態に保つことが可能となる。
【0040】
なお、ヒートシンク31の周縁には、リード線の通過孔31aが複数個、具体的には4個形成されている。また、この通過孔31aと連通するように温度制御素子用の薄膜感温素子32の基板の周縁に、図示しない通過孔が形成されている。したがって、これら通過孔31a及び温度制御素子用の薄膜感温素子32の基板の通過孔には、測定用の薄膜感温素子1、保護加熱用の薄膜感温素子2及び温度制御素子用の薄膜感温素子32のリード線が例えば、2本ずつ挿通されて制御処理部5側へ導出されるようになっている。また、これら前記通過孔は、保護加熱用の薄膜感温素子2における通過孔21aと同様に線対称的に形成されているので、熱的なバランスを良好に保つことが可能となる。
【0041】
温度制御素子用の薄膜感温素子32は、基本的には測定用の薄膜感温素子1と同様な構成であるが、仕様及び特性は同じであっても異なっていてもよく、適宜設計及び選定することができる。
【0042】
また、温度制御素子用の薄膜感温素子32と前記保護加熱用の薄膜感温素子2との間には断熱層S2が介在している。断熱層S2は、前述の断熱層S1と略同様に構成されていて、空気層であり、保護加熱用の薄膜感温素子2と温度制御素子用の薄膜感温素子32との間に設けられたリング状の断熱スペーサ25によって、その間隔が保持されるようになっている。断熱層S2の層厚寸法は1mm~3mmの間隔に設定されている。断熱層S1の層厚寸法より大きく形成されている。なお、断熱層S2は、空気層が好ましいが、窒素やアルゴン等の気体層であってもよく、また、断熱材によって構成してもよい。
【0043】
放熱フィン33は、温度制御素子3と熱的に結合されているとともに電気的に接続されている。詳しくは、熱伝導性が良好で導電性を有する材料、例えば銅やアルミニウムによって、温度制御素子3から長手方向へ延出するように細長の円筒状をなして一対形成されている。したがって、放熱フィン33は、温度制御素子3から発生する熱を放熱するとともに温度制御素子3の電極としての機能を併せ持っている。
また、一対の放熱フィン33の中央部には、これら電極兼用の放熱フィン33を電気的に絶縁する絶縁隔壁34が配設されている。
以上のような温度測定装置10は、好ましくはその外郭4(カテーテルCtのシャフト)の外径寸法が1mm~2mmに形成されている。
【0044】
図4は、薄膜感温素子Rthの基本的な接続状態を示しており、測定用の薄膜感温素子1、保護加熱用の薄膜感温素子2及び温度制御素子用の薄膜感温素子32の温度測定のための結線図である。電源Vに直列に薄膜感温素子Rthと制限抵抗器としての固定抵抗器Rとが接続され、薄膜感温素子Rthと固定抵抗器Rとの中間に出力端子が接続されている。出力端子の電圧を出力電圧Voutとして測定し、この測定結果に基づいて薄膜感温素子Rthが感知した温度を計測する。
次に、
図5を参照して温度測定装置10のブロック構成について説明する。
【0045】
本実施形態では、全体の制御を制御処理部5であるマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」という)が所定のプログラムを実行して情報を処理するようになっている。マイコンは、概略的には、演算部及び制御部を有するCPU51と、記憶手段であるROM52及びRAM53と、入出力制御手段54とから構成されている。そして、入出力制御手段54には、電源回路55が接続されている。また、電源回路55には、
図4に示す回路が接続されている。
【0046】
電源回路55は、前記電源Vを含んでいて、電源Vの電圧を各薄膜感温素子Rthに印加して薄膜感温素子Rthに電力を供給制御する機能を有している。また、電源回路55には、温度制御素子3に電力を供給制御する電源が設けられている。
【0047】
具体的には、マイコンの記憶手段に格納されたプログラムによって電源回路55における電源からの供給電力が制御される。出力電圧Voutは、マイコンに入力され、演算処理されて電源回路55へフィードバックされたり、計測出力として計測出力部O/Pに出力されたりして処理される。計測出力部O/Pは、表示手段や印刷手段である。さらに、入出力制御手段54には、入力部I/Pが接続されている。入力部I/Pは、例えばスイッチやキーボード等の入力手段であり、必要に応じ温度、電圧値や時間等の情報を入力して設定できるようになっている。
【0048】
次に、
図6を参照して温度測定装置10の適用例について説明する。人体内部を観察する内視鏡に適用する例を示している。施術者Tmが内視鏡スコープEsの先端を患者Ptの口から挿入し臓器を観察し検査する。ここで、内視鏡スコープEsの管路Pには上述のカテーテルCtが挿通されていて、プローブとしての感温部41が管路Pから延出されるようになっている。内視鏡スコープEsの先端には対物レンズO及び照明用レンズLが設けられており、また、先端付近には図示しない撮像素子が装備されている。撮像素子によって撮像された撮像画像は表示され施術者Tmが観察できる。
【0049】
したがって、内視鏡の検査において、詳細を後述するように、温度測定装置10の感温部41を患者の患部に接触させることにより、患部の温度を測定し、また、患部の熱応答探査を行って、例えば腫瘍の診断に貢献することが可能となる。
【0050】
なお、本実施形態の温度測定装置は、カテーテルに組み込まれる場合に限定されるものではない。温度測定装置として独立的に構成して、皮膚温度、体温や産業分野における物体の表面温度を測定することができる。
【0051】
続いて、温度測定装置10の動作を、被測定体の温度を測定する場合及び温度の減衰を測定する場合について、
図7乃至
図9を参照して説明する。
図7は温度測定の概要を示すフローチャートである。
図8は温度減衰測定における熱パルス発生のイメージを示すタイムチャートであり、横軸は測定時間(秒)、縦軸は測定用の薄膜感温素子の測定温度(℃)を示しており、
図9は温度減衰測定の概要を示すフローチャートである。これらの動作は主として
図5に示す制御処理部5のプログラムによって実行される。
<温度測定>
【0052】
図7に示すように、電源を投入して温度測定装置10を起動し、内視鏡スコープEsとともにプローブである感温部41を人体内部に挿入する(ステップS1)。次いで、温度制御素子3、ヒートシンク31及び温度制御素子用の薄膜感温素子32によって、環境温度を被測定体より一定の低い温度に設定制御する(ステップS2)。例えば、被測定体としての患部の温度が37℃であれば環境温度は、それより0.5℃~10℃低い温度、好ましくは2℃~3℃低い温度に設定する。
【0053】
温度測定装置10の使用において、原理的に環境温度、つまり、少なくとも測定用の薄膜感温素子1が被測定体の温度より低い必要がある。腹腔や内視鏡手術の臓器などの環境下では、被測定体としての患部と周囲環境が同一温度なので、高精度及び高確度で患部の温度を計測するのは難しくなる。
【0054】
本実施形態では、温度制御素子3としてのペルチェ素子によって、ヒートシンク31を低温化し、測定用の薄膜感温素子1の温度を被測定体の温度より若干低い温度とすることができる。ヒートシンク31は、温度制御素子用の薄膜感温素子32でモニターしながら温度制御素子3によって温度制御し、被測定体より一定温度(数℃)低い温度に保ち、保護加熱用の薄膜感温素子2を自己発熱させて、測定用の薄膜感温素子1と保護加熱用の薄膜感温素子2との熱交換を可能にして双方の温度を等しくできるようにする。温度制御素子3から発生する熱は放熱フィン33によって放熱される。
【0055】
なお、ヒートシンク31は、被測定体の温度が環境温度より常に高い場合は省略することができる。しかしながら、ヒートシンク31を設けることにより、安定的に、より高精度の温度測定が期待できる。
【0056】
続いて、感温部41(測定用の薄膜感温素子1)を被測定体の患部に接触させる(ステップS3)。この状態で測定用の薄膜感温素子1の温度をモニタリング(ステップS4)しながら、測定用の薄膜感温素子1の温度と保護加熱用の薄膜感温素子2との温度が等しくなるように制御する(ステップS5)。
【0057】
すなわち、測定用の薄膜感温素子1を被測定体に接触させたとき、保護加熱用の薄膜感温素子2の電気抵抗を、測定用の薄膜感温素子1の電気抵抗と等しくなるように制御処理部5により制御する。そして、保護加熱用の薄膜感温素子2を、測定用の薄膜感温素子1の温度と等しい温度に発熱させる。これにより、被測定体としての患部の表面の温度と測定用の薄膜感温素子1の温度と保護加熱用の薄膜感温素子2との温度とが等しくなるため、測定用の薄膜感温素子1から保護加熱用の薄膜感温素子2に、また、患部の表面から測定用の薄膜感温素子1へ熱が移動するのを防ぐことができる。
【0058】
このように、温度測定装置10は、測定用の薄膜感温素子1に対する保護加熱用の薄膜感温素子2を適切な層厚寸法の断熱層S1を介して設け、被測定体の表面から測定用の薄膜感温素子1及びリード線等へ沿って流入する熱を相殺し、損失する熱量を最小限に抑えることが可能となり、被測定体の状態を変化させることなく温度を測定することができる。
【0059】
次いで、測定用の薄膜感温素子1の温度と患部の温度とが熱平衡状態になったことを検出し(ステップ6)、被測定体としての患部の温度の計測結果を表示したり記録したりして出力する(ステップ7)。
【0060】
以上の温度測定方法の主要な工程は、環境温度を被測定体より一定の低い温度に設定制御するステップと、感温部41を被測定体に接触させるステップと、測定用の薄膜感温素子1の温度と保護加熱用の薄膜感温素子2との温度が等しくなるように制御するステップと、被測定体の温度の計測結果を出力するステップと、を含んでいる。
【0061】
このような温度測定装置10の温度測定方法によれば、被測定体の温度を高精度及び高確度で測定することができる。また、前記薄膜感温素子は熱容量が小さいので高感度で、かつ短時間でmsオーダーの高速応答性をもって測定することが可能となる。
【0062】
なお、上記環境温度を被測定体より一定の低い温度に設定制御する上記ステップ2に関し、産業分野において、周囲温度が15℃の環境下であって、被測定体としての部材の表面温度が冷却状態で10℃に想定される場合、環境温度を被測定体より一定の低い温度、例えば8℃に設定制御することにより、被測定体の高精度の温度測定が期待できる。
<温度減衰測定>
【0063】
一例として、被測定体の生体組織における皮膚癌や臓器癌の状態を診断する温度減衰測定方法について
図8及び
図9を参照して説明する。温度の減衰測定は、いわゆる熱パルス減衰法によって被測定体の熱伝導率を推定するものである。
【0064】
本実施形態では、一定電力の短時間熱パルスと長時間熱パルスとの時間が異なる複数の熱パルスを測定用の薄膜感温素子1に供給し、所定の温度で発熱させる。その後、測定用の薄膜感温素子1で被測定体の表面の温度変化を測定し、その加熱後の温度減衰から熱伝導率を算出する。なお、この場合、保護加熱用の薄膜感温素子2も測定用の薄膜感温素子1と同様に発熱させる。
【0065】
癌組織は、代謝や血流等の生物活性が健常組織より大きく、熱を与えたときに奪われるエネルギーが増えるので、見かけ上測定される熱伝導率が高くなり、癌組織の体積が大きくなるほど見かけ上の熱伝導率が高くなることが確認されている。したがって、患部の温度減衰より推定した見かけ上の熱伝導率を測定することにより腫瘍の診断が可能となる。具体的には、短時間熱パルスを患部に与え、その温度減衰より推定した見かけ上の熱伝導率から表皮部分の癌活性の状態を測定し、同様に長時間熱パルスを患部に与え、その温度減衰による熱伝導率から真皮中の癌活性の状態を測定する。真皮中の癌活性の状態の測定では、熱浸透深さが大きくなったとしても、表皮の影響は大きいので、より深部の組織の情報を含む見かけ上の熱伝導率を測定するようにする。
【0066】
このように短時間熱パルスで、初期段階の皮膚癌の診断に大きく貢献することが期待できる。また、長時間熱パルスに加え、短時間熱パルスを同時に与えるので、生体内部の深さ方向の熱物性を同定することが可能となり、皮膚表面から真皮深さまでの生体表面近傍における熱的性質の探査を行うことができる。
【0067】
図8及び
図9に示すように、測定用の薄膜感温素子1に、第1の熱パルスとして時間幅数ミリ秒オーダーの一定電力の短時間熱パルス(ショートパルス)を印加する(ステップS1)。印加停止後の一定時間、すなわち、数秒間、測定用の薄膜感温素子1をモニタリングして温度減衰特性を検出して熱伝導率を計算する(ステップS2)。次いで、第2の熱パルスとして、前記第1の熱パルスより時間幅の長い時間幅の一定電力の長時間熱パルス(ロングパルス)を印加する(ステップS3)。印加停止後の一定時間、すなわち、数秒間、測定用の薄膜感温素子1をモニタリングして温度減衰特性を検出して熱伝導率を計算する(ステップS4)。ステップS2及びステップS4の熱伝導率の計算結果やその熱伝導率に基づく診断結果を出力する(ステップS5)。
【0068】
したがって、温度減衰測定方法の主要な工程は、感温部を被測定体に接触させるステップと、測定用の薄膜感温素子に一定電力の第1の熱パルスを印加するステップと、第1の熱パルスの印加停止後の一定時間に測定用の薄膜感温素子の温度減衰特性を検出するステップと、測定用の薄膜感温素子に前記第1の熱パルスより時間幅の長い一定電力の第2の熱パルスを印加するステップと、第2の熱パルスの印加停止後の一定時間に前記測定用の薄膜感温素子の温度減衰特性を検出するステップと、を備えている。
【0069】
以上のような温度減衰測定方法によれば、生体の表皮部分から真皮中に至るまでの温度減衰特性を検出して熱伝導率を算出することにより、非侵襲で患部の診断を行うことができる。
[第2の実施形態]
【0070】
次に、本発明の第2の実施形態に係る温度測定装置について
図10を参照して説明する。
図10は温度測定装置のイメージを示し、計測状態の模式的な説明図である。なお、第1の実施形態と同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0071】
本実施形態は、基本的な構成は第1の実施形態と同様である。温度測定装置10をペンシル型のホルダー6に組み込んで構成したものである。外郭4は摺動ロッドであり、この摺動ロッドが摺動可能にホルダー6に収容されている。摺動ロッドの先端部は、温度を感知するプローブとしての感温部41となっている。
【0072】
また、摺動ロッドの後端部には、弾性体としてコイルバネ61が配設されている。コイルバネ61は、感温部41を先端方向へ突出、すなわち、被測定体(例えば皮膚表面)方向へ突出するように弾性的に付勢している。したがって、測定に際し、感温部41の被測定体への押し付け圧力が一定となり、測定精度の向上が期待できる。なお、ホルダー6の後端からはリード線62が導出され、制御処理部に接続されるようになっている。
【0073】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、被測定体、例えば皮膚の表面や物体の表面の温度を高精度、高確度及び高速応答性をもって計測することができるとともに、測定用の薄膜感温素子の温度を被測定体の温度より低い関係に保持することが可能な温度測定装置、温度測定方法及び温度減衰測定方法を提供することができる。加えて、感温部41の被測定体への押し付け圧力を一定とすることが可能となる。
【0074】
なお、前述してきた本発明の温度測定装置、温度測定方法及び温度減衰測定方法は、体温計など生体の測定に好適に適用されるが、これに限るものではない。産業分野における物体の表面温度を測定する場合においても適用可能である。
【0075】
本発明は、上記各実施形態の構成に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1・・・・・・測定用の薄膜感温素子
2・・・・・・保護加熱用の薄膜感温素子
3・・・・・・温度制御素子
4・・・・・・外郭
5・・・・・・制御処理部
6・・・・・・ペンシル型のホルダー
11・・・・・基板
12・・・・・導電層
13・・・・・薄膜素子層
14・・・・・保護絶縁層
12a・・・・電極部
12b・・・・リード線
15、25・・断熱スペーサ
31・・・・・ヒートシンク
32・・・・・温度制御素子用の薄膜感温素子
33・・・・・放熱フィン
34・・・・・縁隔壁
41・・・・・感温部
51・・・・・CPU
52・・・・・ROM
53・・・・・RAM
54・・・・・入出力制御手段
55・・・・・電源回路
61・・・・・コイルバネ
62・・・・・リード線
Ct・・・・・カテーテル
S1、S2・・・断熱層