(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-18
(45)【発行日】2023-05-26
(54)【発明の名称】表面性状に優れたNi-Cr-Fe-Mo系合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 30/02 20060101AFI20230519BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20230519BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20230519BHJP
C21C 7/076 20060101ALI20230519BHJP
C21C 7/068 20060101ALI20230519BHJP
C21C 7/06 20060101ALI20230519BHJP
C21C 7/064 20060101ALI20230519BHJP
C21C 7/04 20060101ALI20230519BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20230519BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C22C30/02
C22C19/05 C
C21C7/10 J
C21C7/076 A
C21C7/068
C21C7/06
C21C7/064 Z
C21C7/04 B
C21C7/04 C
C21C7/04 F
C21C7/00 B
B22D1/00 K
(21)【出願番号】P 2022169148
(22)【出願日】2022-10-21
【審査請求日】2022-11-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】水野 建次
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 大樹
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/220242(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/151222(WO,A1)
【文献】特許第6990337(JP,B1)
【文献】特開2017-043826(JP,A)
【文献】特開2012-229463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00-19/05
C22C 30/00-30/06
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下質量%にて、C:0.03~0.30%、Si:0.05~1.50%、Mn:0.05~2.00%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:18.0~28.0%、Mo:6.0~15.0%、Cu:1.0%以下、Al:0.01~0.50%、Ti:0.01~0.40%、Nb:0.02~0.60%、Fe:15.0~22.0%、Co:0.5~4.0%、W:0.10~2.00%、B:0.0001~0.0100%、N:0.005~0.100%、O:0.0001~0.0060%、Mg:0.0001~0.0300%、Ca:0.0001~0.0080%、残部がNiおよび不可避的不純物から成るNi-Cr-Fe-Mo系合金であって、
非金属介在物はMgO、CaO、MgO-CaO系酸化物、MgO-CaO-NbO-TiO
2系酸化物のうち1種または2種以上を含み、前記MgO-CaO-NbO-TiO
2系酸化物が含まれる場合においては、MgO-CaO-NbO-TiO
2系酸化物は、質量%にて、NbOを0.1~5.0%、TiO
2を20%以下含有することを特徴とするNi-Cr-Fe-Mo系合金。
【請求項2】
前記Ni-Cr-Fe-Mo系合金中の全非金属介在物に対して、MgO-CaO-NbO-TiO
2系酸化物の個数比率が50%以下であることを特徴とする請求項1に記載のNi-Cr-Fe-Mo系合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載のNi-Cr-Fe-Mo系合金の製造方法であって、電気炉にて原料を溶解し、次いで、AODおよび/またはVODにて脱炭した後に、石灰、蛍石を投入し、次いで、一次脱酸としてフェロシリコン合金
および純シリコンのうち1種または2種、およびAlを投入し、O濃度が0.0070~0.0120%となった時点でNbを添加し、その後CaO:50~70%、SiO
2:1~8%、Al
2O
3:10~30%、MgO:5~15%、F:2~8%からなるCaO-SiO
2-MgO-Al
2O
3-F系スラグを用い、フェロシリコン合金および純シリコンのうち1種または2種、およびAlを投入してCr還元、二次脱酸、脱硫を行い、その後O濃度が0.0060%以下となった時点
でTiを添加し、連続鋳造機もしくは普通造塊によりスラブもしくはインゴットを製造し、インゴットの場合は熱間鍛造を施し、続けて熱間圧延
または熱間圧延と冷間圧延を実施することを特徴とする
Ni-Cr-Fe-Mo系合金
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、表面性状に優れたNi-Cr-Fe-Mo系合金およびその製造方法に関し、特に、スラグ組成および溶湯中のSi、Al、Mg、CaおよびOを制御することにより、溶湯中の非金属介在物を無害な組成に制御し、さらに表面の介在物個数を低減させた表面性状に優れたNi-Cr-Fe-Mo系合金およびその製造方法に関するものである。本願発明は、1000℃を超える高温のガスが流れるガスタ-ビン用燃焼塔部品に用いられ過酷な環境にも耐えうる高いクリ-プ特性を持つNi-Cr-Fe-Mo系合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタ-ビン用燃焼器は、燃料を燃焼させてタ-ビン駆動のための高温-高圧の燃焼ガスを生成させ、この燃焼ガスをタ-ビン入口まで案内する役割を担う部品である。一般にガスタ-ビンに用いられる燃焼ガスの温度は1100℃~1300℃であり、このときの燃焼器の温度は550~650℃程度になる。しかしながら、近年、発電効率の向上のために燃焼ガスの温度は年々上昇しており、1500℃を超えるものも開発されている。将来的にはさらに、燃焼ガス温度が1600℃程度のガスタ-ビンも実現されるものと考えられ、それにともない燃焼器の温度も1000℃程度になるものと予想されている。このため、従来、燃焼器用材料として使用されているNi基合金も、より高い温度でのクリ-プ特性を示すNi基合金の開発が求められている。
【0003】
高温強度および耐食性に優れるNi基合金は、主要成分であるNiに加えてCr、Mo、Nb、Tiを含有しており、それらの金属は鉄と比べて極めて高価な金属であることから、歩留まりを向上させ、製造コストを抑えることが非常に重要である。ここで、Ni-Cr-Fe-Mo系合金の表面に線状疵などの表面欠陥が発生すると、研削または切断による除去が必要となり歩留まりが大きく低下するため、表面性状に優れたNi-Cr-Fe-Mo系合金が求められている。
【0004】
特許文献1では、熱処理により炭化物、窒化物を析出させることで、常温での強度と加工性およびクリ-プ特性に優れるNi基合金材料を実現する技術が開示されている。しかしながら、炭化物あるいは窒化物は製品の表面で疵を生じる原因とはならず、本願発明が対象としている精錬過程で生成する酸化物系非金属介在物による表面性状の問題には、特許文献1の発明は適応できず、酸化物系非金属介在物による表面欠陥の問題は残されたままである。
【0005】
特許文献2では、Al、Tiを含有する高温用高Ni合金および高Ni合金の製造方法において、酸化物系介在物中のCa/Al質量比率を1.0~1.5の範囲とすることで、酸化物系介在物の組成を融点の低いCaO-Al2O3系に制御し、連続鋳造機の浸漬ノズルの閉塞を防止して製品の表面疵を防止する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2はMoを5%以下の高Ni合金を対象にしているのに対して、本願はMoを6.0~15.0%を含有するNi-Cr-Fe-Mo系合金に関する発明である。Moは脱酸材であるSiの活量を大幅に上げる成分であり、Ca、Mg、Al、Si、Oなどの微量成分が同じでも酸化物系非金属介在物の組成は大きく異なり、Mo濃度が異なる合金の介在物組成制御は異なる技術が必要になる。さらに特許文献2はCa合金を溶鋼に添加することで介在物組成を制御している。CaはAl、Si、Tiなどに比べ強力な脱酸材であり、すでに生成した介在物組成をCaO-Al2O3系に変える能力はあるが、同時に多数の介在物が生成することになる。すなわち精錬末期にCaなどの強力な脱酸材を添加すると清浄度が悪化し、製品の表面品質は悪化することになる。すなわち、特許文献2は本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金の表面性状を十分に改善するとは言えないものである。
【0007】
特許文献3では、高Ni合金において、合金中の非金属介在物の組成を制御し、熱間または冷間圧延時に延伸-分断性の良好な低融点介在物とすることで、表面疵を少なくする技術が開示されている。しかしながら、特許文献3の高Ni合金はCrを0.5%以下もしくは3~10%含有するものを対象としており、本発明のCrを18.0~28.0%含有するNi-Cr-Fe-Mo系合金と異なる。Cr含有量は介在物組成制御に大きく影響し、Ca、Mg、Al、Si、Oなどの微量成分が同じでも酸化物系非金属介在物の組成は大きく異なる。すなわち、特許文献3に記載の非金属介在物の組成制御の手法は、本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金の表面性状を十分に改善するとは言えないものである。
【0008】
特許文献4では、ステンレス鋼板において介在物を無害なMgO、CaO-Al2O3-MgO系酸化物に制御することで、表面欠陥を少なくする技術が報告されている。本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金に0.02~0.60%含有されているNbは、SiおよびMnと同程度の酸化能力がある。しかしながら、特許文献4に記載のステンレス鋼板はNbを含有していない。さらに本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金に0.01~0.40%含有されているTiも特許文献4のステンレス鋼板は含有していない。Nbと同様にTiも非金属介在物の組成に大きく影響する成分であり、特許文献4に開示の技術は、本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金の表面性状を改善はできない。
【0009】
特許文献5では、Fe-Ni-Cr系合金にNbを高い歩留りで添加する技術が報告されている。しかしながら、対象のFe-Ni-Cr系合金は、Mo含有量が1~5%であり、上述のとおり、本願はMoが6.0~15.0%のNi-Cr-Fe-Mo系合金に関する発明である。Moは脱酸材であるSiの活量を大幅に上げる成分であり、Ca、Mg、Al、Si、Oなどの微量成分が同じでも酸化物系非金属介在物の組成は大きく異なり、Mo濃度が異なる合金の介在物組成制御は異なる技術が必要になる。さらに、特許文献6はTiを含有していない。Tiは非金属介在物組成に大きく影響する成分であり、本願のTi:0.01~0.40%を含有するNi-Cr-Fe-Mo系合金に関する非金属介在物の制御とは大きく異なるものになる。すなわち、本願が対象とするFe-Ni-Cr系合金の表面欠陥には特許文献5の技術は使用できない。
【0010】
特許文献6では、Ni-Cr-Mo-Nb合金の非金属介在物をMgO単体およびMgOと(Ti,Nb)Nの複合酸窒化物に制御することにより大型のクラスタ-を抑制し、薄板の製品において、表面欠陥の無い良好な品質を得る技術を開示している。特許文献6の対象のNi-Cr-Mo-Nb合金は、Nbを2.5~5%含有しているNi-Cr-Mo-Nb合金を対象とした技術であり、本願特許のNb:0.02~0.60%を含有するNi-Cr-Fe-Mo系合金と大きく異なる。Nbは非金属介在物組成に大きく影響する成分であり、必要となる非金属介在物の制御とは大きく異なるものになる。すなわち、本願特許が対象とするFe-Ni-Cr系合金の表面欠陥には特許文献6の技術は使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2009-185352号公報
【文献】特開2021-70838号公報
【文献】特開平11-315354号公報
【文献】特開2019-35124号公報
【文献】特開2014-105341号公報
【文献】特開2017-159449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の課題に鑑み、本願発明は、表面性状に影響を及ぼす非金属介在物の組成を制御し、表面性状に優れたNi-Cr-Fe-Mo系合金を提供することを目的とする。更に、それを実現するNi-Cr-Fe-Mo系合金の製造方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究、調査を重ね、表面欠陥が生じたNi-Cr-Fe-Mo系合金と板の表面欠陥を走査電子顕微鏡(SEM)およびエネルギ-分散型X線分析装置(EDS)により詳細に分析することにより、表面欠陥の原因はMgO-CaO-TiO
2系酸化物の非金属介在物であることを見出した。
図1、
図2に、連続鋳造においてその表面欠陥が生じるメカニズムを示す。
図1において符号1は取鍋であり、溶湯2を保持している。溶湯2はタンディッシュ3に移行し、浸漬ノズル4を通じて鋳型5に注がれる。鋳型5内の溶湯2は、下方に引き抜かれ、凝固して凝固シェル6を形成するとともにスプレー冷却帯7で冷却されて、下流側でスラブが得られる。この過程においては、
図2に示すように、溶湯2に含まれる非金属介在物8aが流れ、その一部が浸漬ノズル4の内壁に付着して8bのような塊を形成する。この種の非金属介在物は連続鋳造機におけるタンディッシュから鋳型に注湯するための浸漬ノズルの内壁に付着して大型化しやすく、8cのように脱落したものが鋳型5内に流れ込み、凝固シェル6に捕捉されて表面欠陥の起点となりやすく、Ni-Cr-Fe-Mo系合金板の表面欠陥の起点となっていた。なお、普通造塊(インゴット造塊)においてはタンディッシュおよび浸漬ノズルが用いられないが、鋳型へと溶湯を導く同様の耐火物の流路が用いられるので、その流路の内壁に非金属介在物が付着するという、連続鋳造と同様の課題が存在する。
【0014】
発明者らは、さらにNi-Cr-Fe-Mo系合金において、介在物組成とメタル成分との関係について、鋭意研究を行った。具体的には、Ni-Cr-Fe-Mo系合金の製造工程にて、連続鋳造機のタンディッシュからNi-Cr-Fe-Mo系合金のメタルサンプルを採取し、サンプル中の5μmを超える介在物を任意に20点選び、SEM/EDSにて介在物組成を測定した。また、連続鋳造機のタンディッシュから鋳型へ溶湯を供給するための浸漬ノズルを採取し、
図2に示す、ノズルの内壁の付着物についてSEM/EDSにて成分を分析した。以上をもとに、介在物組成、メタル成分、および浸漬ノズルの内壁の付着物との関係について、鋭意研究を行った。
【0015】
その結果、非金属介在物はMgO、CaO、MgO-CaO系酸化物、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のうち1種または2種以上を含み、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物は、質量%にて、NbOを0.1~5.0%、TiO2を20%以下含有すれば、非金属介在物は浸漬ノズルの内壁に付着堆積しにくく、すなわち大型化しにくく、表面欠陥の発生原因になりにくいことを見出した。
【0016】
また、MgO、CaO、MgO-CaO系酸化物介在物は、連続鋳造機のタンディッシュの浸漬ノズル内壁に付着することなく、微細な非金属介在物であり、本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金板の表面品質に影響することはなく、MgO、CaO、MgO-CaO系酸化物介在物に制御すべき、好ましい非金属介在物組成の一つであることも判明した。
【0017】
そのような非金属介在物に制御するには、Si、Al、Ca、Mg、Oなどの微量成分とスラグ組成を適正範囲に制御する精錬が必要であり、さらに、Nb、Tiを添加するときの溶湯の成分が重要であることを発見した。
【0018】
よって、本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金は上記知見に基づいてなされたものであり、以下質量%にて、C:0.03~0.30%、Si:0.05~1.50%、Mn:0.05~2.00%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:18.0~28.0%、Mo:6.0~15.0%、Cu:1.0%以下、Al:0.01~0.50%、Ti:0.01~0.40%、Nb:0.02~0.60%、Fe:15.0~22.0%、Co:0.5~4.0%、W:0.10~2.00%、B:0.0001~0.0100%、N:0.005~0.100%、O:0.0001~0.0060%、Mg:0.0001~0.0300%、Ca:0.0001~0.0080%、残部がNiおよび不可避的不純物から成るNi-Cr-Fe-Mo系合金であって、非金属介在物はMgO、CaO、MgO-CaO系酸化物、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のうち1種または2種以上を含み、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物が含まれる場合においては、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物は、質量%にて、NbOを0.1~5.0%、TiO2を20%以下含有することを特徴としている。
【0019】
また、非金属介在物のうちMgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物の個数比率が50%以下であることが好ましい。
【0020】
更に、本願発明では製造方法も提供する。すなわち、電気炉にて原料を溶解し、次いで、AODおよび/またはVODにて脱炭した後に、石灰、蛍石を投入し、次いで、一次脱酸としてフェロシリコン合金および純シリコンのうち1種または2種、およびAlを投入し、O濃度が0.0070~0.0120%となった時点でNbを添加し、その後CaO:50~70%、SiO2:1~8%、Al2O3:10~30%、MgO:5~15%、F:2~8%からなるCaO-SiO2-MgO-Al2O3-F系スラグを用い、フェロシリコン合金および純シリコンのうち1種または2種、およびAlを投入してCr還元、二次脱酸、脱硫を行い、その後O濃度が0.0060%以下となった時点でTiを添加し、連続鋳造機もしくは普通造塊によりスラブもしくはインゴットを製造し、インゴットの場合は熱間鍛造を施し、続けて熱間圧延または熱間圧延と冷間圧延を実施することを特徴とする表面性状に優れたNi-Cr-Fe-Mo系合金の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金の化学成分限定理由を示す。なお、以下の説明においては、「%」は「mass%(質量%)」を意味する。
(C:0.03~0.30%)
Cは、M6C型の炭化物を形成する。また、高温において、使用中に新たなM6C型炭化物やM23C型炭化物を形成し、結晶粒界や結晶粒内を強化してクリ-プ特性を向上させる元素である。その効果を得るためには、少なくとも0.03%の添加が必要である。しかし、0.30%を超えて添加すると、粗大な未固溶の炭化物が生成し、残存して、加工性およびクリ-プ特性を悪化させる。そのため、Cは0.03~0.30%の範囲とする。好ましくは0.04~0.20%、さらに好ましくは0.05~0.10%の範囲とする。
【0023】
(Si:0.05~1.50%)
Siは、耐酸化性の向上に有効な元素であり、また、脱酸に有効な元素であるため、本願発明において重要な元素である。酸素濃度を0.0001~0.0060%に制御するためには、0.05%は必要である。更に、CaO-SiO2-MgO-Al2O3-F系スラグ中のCaOやMgOを還元し、溶湯中のMgを0.0001~0.0300%、Caを0.0001~0.0080%にそれぞれ調整する役割もある。これにより、非金属介在物組成を制御する効果がある。その観点からも0.05%は必要である。一方、1.50%を超えて含有すると、スラグ中のCaOやMgOを還元しすぎてしまい、Mgが0.0300% を超えて、また、Caも0.0080%を超えて溶湯中へMgとCaを供給してしまう。合金中にMgおよびCaを過剰に含有すると熱間加工性が低下し、熱間圧延中に割れが生じて表面欠陥をもたらす。そのため、Si含有量は、0.05~1.50%と規定した。好ましくは、0.10~1.00%である。より好ましくは0.20~0.60%である。
【0024】
(Mn:0.05~2.00%)
Mnは、オ-ステナイト相安定化元素であるとともに脱酸に寄与するため、0.05%以上は添加する必要がある。しかしながら、多量に添加すると耐酸化性が損なわれることから、2.00%を上限とした。好ましくは、0.10~1.50%である。より好ましくは、0.30~1.00%である。
【0025】
(P:0.05%以下)
Pは、粒界に偏析して熱間加工時に割れを発生させる有害元素であるため、極力低減することが望ましく、0.05%以下に制限する。好ましくは、0.04%以下である。より好ましくは、0.03%以下である。
【0026】
(S:0.005%以下)
Sは、粒界に偏析して低融点化合物を形成し、熱間加工性を阻害する有害元素であるため、極力低下させることが望ましく、0.005%以下に制限する。これを達成するために、Al含有量の下限を0.01%とし、脱酸を進行させO濃度を0.0001~0.0060%の範囲に制御することで、脱硫を進行させた。好ましくは、0.003%以下である。より好ましくは0.001%以下である。
【0027】
(Cr:18.0~28.0%)
Crは、本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金の主要元素の一つで、Cr成分には、良好な保護皮膜を形成して合金の耐酸化性を向上させる。また、高温にて使用中にはM23C6型の炭化物を形成して、結晶粒界の強度を上昇させる作用がある。重量な元素である。しかしながら、Cr含有量が18.0%未満では十分な耐酸化性が得られない。逆に、含有量が28.0%を超えると、σ相を生成し脆化を招く。以上の理由から、Cr含有量は18.0~28.0%と規定する。好ましくは、19.0~26.0%である。より好ましくは、20.0~24.0%である。
【0028】
(Mo:6.0~15.0%)
Moは、本願発明のNi基合金材料を構成する主要元素の一つである。母相に固溶してクリ-プ特性を向上させる作用を有し、またCとM6C型炭化物を形成して強化する。さらに、高温での使用中においてM6C型の炭化物を形成して結晶粒内に析出し、クリ-プ特性を向上させる作用がある。その含有量が6.0%未満になると、十分なクリ-プ特性が得られない。一方、Moの含有量が15.0%を超えると、耐酸化性が劣化する。したがって、Mo含有量の範囲は6.0~15.0%と規定する。好ましくは、7.0~12.5%である。より好ましくは、8.0~10.0%である。
【0029】
さらに、Moは主要な脱酸成分であるSiの活量係数を高めて脱酸力を強くする効果ある。したがって、介在物組成を制御するには、本願のMo成分範囲を考慮して、脱酸材であるAl、Siの添加量および添加タイミングを検討する必要がある。
【0030】
(Cu:1.0%以下)
Cuは原料であるスクラップに起因して含まれる元素であり、1.0%を超えて含有すると、耐酸化性は低下する。よって、Cuの含有量は1.0%以下とする。好ましくは、0.5%以下である。より好ましくは、0.3%以下である。
【0031】
(Al:0.01~0.50%)
Alは脱酸のために非常な有効な元素であり、本願発明において特に重要な元素である。酸素濃度を0.0001~0.0060%の範囲に制御できると共に、CaO-SiO2-MgO-Al2O3-F系スラグ中のMgOおよびCaOを還元し、溶湯中にMgを0.0001%以上、Caを0.0001%以上にそれぞれ供給し、非金属介在物を無害な組成に制御する効果がある。これらは、下記の反応による。
3(MgO)+ 2Al=3Mg +(Al2O3) …(1)
3(CaO)+ 2Al=3Ca +(Al2O3) …(2)
( )括弧内はスラグ中の成分、下線は溶湯中成分を示す。
【0032】
Al濃度が0.01%未満だと脱酸が十分に進行せず、酸素濃度が0.0060%を超えて高くなってしまう。更に、脱酸が進行しないために脱硫が阻害され、S濃度が0.005%を超えて高くなってしまう。一方で、Al濃度が0.50%を超えて高いと、Mg濃度が上記の(1)式の反応によって0.0300%を超えて高くなり、Ca濃度も上記の(2)式の反応によって0.0080%を超えて高くなってしまう。したがって、Al含有量の範囲は0.01~0.50%と規定する。好ましくは、0.03~0.40%である。より好ましくは、0.05~0.30%である。
【0033】
(Ti:0.01~0.40%)
Tiは、焼鈍後においても残存するTiN窒化物を形成し、焼鈍中の結晶粒の成長を抑制、結晶粒が微細になることで常温での強度を改善する。また、高温での使用中において結晶粒内に極微細なTiN窒化物を析出させ、それを核としてM6C型炭化物を均一微細に析出させることから、クリ-プ特性を向上させる効果がある。強度、クリ-プ特性を改善するために0.01%以上は必要である。しかしながら、0.40%を超えて過剰に添加すると熱膨張係数が高くなるほか、溶接割れ感受性を高めてしまう。したがって、Ti含有量は0.01~0.40%と規定する。好ましくは、0.02~0.30%である。より好ましくは、0.03~0.20%である。
【0034】
(Nb:0.02~0.60%)
Nbは本願発明における重要な元素であり、焼鈍後においても残存するNbN窒化物を形成し、焼鈍中の結晶粒の成長を抑制、結晶粒が微細になることで常温での強度を改善する。また、高温での使用中において結晶粒内に極微細なNbN窒化物を析出させ、それを核としてM6C型炭化物を均一微細に析出させることから、クリ-プ特性を向上させる効果がある。強度、クリ-プ特性を改善するために0.02%以上は必要である。しかしながら、0.60%を超えて過剰に添加すると熱膨張係数が高くなるほか、溶接割れ感受性を高めてしまう。よって、Nb含有量は0.02~0.60%と規定した。好ましくは、0.05~0.50%である。より好ましくは、0.10~0.30%である。
【0035】
(Fe:15.0~22.0%)
Feは、原料であるスクラップに起因して含有する主要元素の一つであり、その含有量が22.0%を超えると、相対的にNiの含有用が低下して耐酸化性が低下する。一方、15.0%未満に低減すると、相対的にNiの含有量が増加するため、原料コストが上昇するばかりでなく、熱間加工性が低下する。よって、Feの含有量は15.0~22.0%とする。好ましくは16.0~21.0%である。より好ましくは17.0~20.0%である。
【0036】
(Co:0.5~4.0%)
Coは、固溶強化作用によりクリ-プ特性を向上させる元素である。しかし、Coは高価な元素であり、また、上記効果は、4.0%を超えると飽和して、添加量に見合うだけの効果が得られなくなる。よって、Co含有量は0.5~4.0%と規定する。好ましくは、0.6~3.0%である。より好ましくは、0.7~2.0%である。
【0037】
(W:0.10~2.00%)
Wは、固溶強化作用によりクリ-プ特性を向上させる元素である。またCとM6C型炭化物を形成して強化する。さらに高温にて使用中においてもM6C型の炭化物を形成して結晶粒内に析出し、クリ-プ特性を向上させる作用がある。しかし、Wは高価な元素であり、また、上記効果は、2.00%を超えると飽和し、添加量に見合うだけの効果が得られなくなる。よって、Wの含有量は0.10~2.00%とする。好ましくは0.18~1.80%である。より好ましくは0.20~1.50%である。
【0038】
(B:0.0001~0.0100%)
Bは、結晶粒界の強度を高めてクリ-プ特性を向上させる元素である。しかし、Bは0.0100%を超えて添加すると低融点の化合物が析出し、熱間加工性を低下させる。よってBの含有量は0.0001~0.0100%とする。好ましくは0.0005~0.0080%である。より好ましくは0.0010~0.0050%である。
【0039】
(N:0.005~0.100%)
Nは、母相に固溶して常温や高温での強度を上昇させる効果があり、積極的に添加すべき有用な元素であると考えられる。しかも、Ti、NbとMN型の微細な窒化物を形成し、焼鈍中の結晶粒の成長を抑制し、結晶粒を微細にすることから、常温での強度の向上をもたらす。さらには、高温での使用中において、結晶粒内に極微細なMN型窒化物を析出し、それが核となってM6C型炭化物を均一微細に析出させてクリ-プ特性を向上させる効果がある。こうした効果は、0.005%以上の添加で発現する。しかしながら、Nが0.100%を超えて添加すると、母相の硬化や窒化物の粗大化などにより、常温での加工性の劣化を招く。従って、本発明においてこのNの含有量は0.005~0.100%とする。好ましくは0.010~0.080%、より好ましくは0.015~0.060%である。
【0040】
さらにNは精錬過程で生成する非金属介在物の性情にも影響を及ぼすため、精緻に制御すべき成分になる。Nの制御には、AODまたはVODでの溶湯への窒素ガスの吹き込みにてNを添加し、Nを下げる必要がある場合、AODまたはVODまたはLFにてArガスの吹き込みでN濃度を下げることで、溶湯のN含有量を精緻に制御することができる。
【0041】
(O:0.0001~0.0060%)
酸素濃度は介在物と密接に関連しているため、本願発明において非常に重要である。Oは、合金中に0.0060%を超えて存在すると、介在物個数が多くなって表面欠陥の発生に結びつくとともに、脱硫が阻害されてS濃度が高くなる。しかしながら、0.0001%未満だとAlがスラグ中のCaOやMgOを還元する能力を高めすぎてしまい、Mg濃度が上限の0.0300%を、Ca濃度が上限の0.0080%をそれぞれ上回ってしまう。したがって、O含有量は0.0001~0.0060%と規定する。好ましくは、0.0003~0.0050%である。より好ましくは、0.0005~0.0040%である。
【0042】
(Mg:0.0001~0.0300%)
Mgは溶湯中の非金属介在物の組成を、表面性状に悪影響の無いMgO、MgO-CaO系酸化物に制御するために有効な元素である。その効果は、含有量が0.0001%未満では得られず、逆に、0.0300%を超えて含有させると、熱間加工性が低下するために熱間圧延工程で割れが生じやすくなり、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのため、Mg含有量は、0.0001~0.0300%と規定した。好ましくは、0.0005~0.0200%である。より好ましくは、0.0010~0.0100%である。
【0043】
溶湯中に効果的にMgを添加させるには、(1)式で示す反応を利用することが好ましい。上記の範囲にMgを制御するには、スラグ組成をCaO:50~70%、SiO2:1~8%、Al2O3:10~30%、MgO:5~15%、F:2~8%に制御すればよい。
【0044】
(Ca:0.0001~0.0080%)
Caは溶湯中の非金属介在物の組成を、クラスタ-を形成せず、表面品質に悪影響の無いCaO、MgO-CaO系酸化物に制御するために有効な元素である。その効果は、含有量が0.0001%未満では得られず、逆に、0.0080%を超えて含有させると、熱間加工性が低下するために熱間圧延工程で割れが生じやすくなり、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのため、Ca含有量は、0.0001~0.0080%と規定した。好ましくは、0.0002~0.0050%である。より好ましくは、0.0003~0.0030%である。
【0045】
溶湯中に効果的にCaを供給するには、(2)式で示す反応を利用することが好ましい。Caを上記の範囲に制御するには、スラグ組成をCaO:50~70%、SiO2:1~8%、Al2O3:10~30%、MgO:5~15%、F:2~8%に制御すればよい。
【0046】
(Ni:残部)
本願発明の対象合金は、以上に説明した成分を含み、その残部はNiである。
【0047】
(非金属介在物)
本願発明では、非金属介在物はMgO、CaO、MgO-CaO系酸化物、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のうち1種または2種以上を含み、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物は、質量%にて、NbOを0.1~5.0%含有し、TiO2が20%以下であることを好ましい態様としている。
【0048】
さらに、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物の個数比率が50%以下であることが好ましい。
以下に非金属介在物の成分および個数比率を限定した根拠を示す。
(MgO、CaO、MgO-CaO系酸化物、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のうち1種または2種以上を含む)
本願発明に係るNi-Cr-Fe-Mo系合金は、Ni-Cr-Fe-Mo系合金中のSi、Al、Mg、Ca、Oの含有量およびNb、Tiの添加量、添加タイミングに従い、MgO、CaO、MgO-CaO系酸化物、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のうち1種または2種以上を含む。
【0049】
MgO、CaO、MgO-CaO系酸化は高融点の固相の非金属介在物のため、連続鋳造機のタンディッシュの浸漬ノズル内壁に付着することなく、微細な非金属介在物であり、本願発明のNi-Cr-Fe-Mo系合金板の表面品質に影響することはない。MgO、CaO、MgO-CaO系酸化物介在物は制御すべき、好ましい非金属介在物組成である。さらに、CaO、MgO-CaO系酸化物介在物は、Ni-Cr-Fe-Mo系合金が連続鋳造機での凝固過程において、CaOの一部が溶湯中のSと反応しCaSを生成する。SはNi-Cr-Fe-Mo系合金の凝固過程で粒界に偏析し、熱間加工性を悪化させ、表面割れ、耳割れを引き起こす。CaO、MgO-CaO系酸化物介在物は熱間加工性を悪化させる溶湯中のSをCaSで固着することで、表面品質を清浄の保つ効果がある。
【0050】
また、表面の存在するCaO介在物は湿潤環境で、水和反応によって、Ca(OH)2になり脱落して、小さなピットを形成し、耐食性の劣化をもたらす。しかしながら、本願の対象のNi-Cr-Fe-Mo系合金の用途は1000℃を超える高温のガスが流れるガスタ-ビン用燃焼塔部品であり、CaO介在物による湿潤環境での耐食性の劣化の問題はない。
【0051】
(MgO-CaO-NbO-TiO
2系酸化物は、質量%にて、NbOを0.1~5.0%、TiO
2を20%以下含有する)
MgO-CaO-NbO-TiO
2系物酸化物は、Ni-Cr-Fe-Mo系合金の精錬温度の1600℃で、
図3に示すように、MgO、CaO、MgO-CaO系酸化物介在物の周りに液相のMgO-CaO-TiO
2系物酸化物に形態になる。MgO、CaO、MgO-CaO系酸化物介在物の周りに液相のMgO-CaO-TiO
2系物酸化物が生成すると、液相の介在物は接着剤のような役割を果たし、さらに、固相であるMgO、CaO、MgO-CaO系酸化物は骨材の役割を果たし、
図2に示すように、非金属介在物の浸漬ノズル内壁の耐火物への付着を助長し、非金属介在物は粗大化後に脱落して、溶湯と共に鋳型内に運ばれ、凝固シェルに補足されることで、表面欠陥の原因となり得る。
【0052】
そこで、発明者らは、浸漬ノズルの内壁堆積物およびNi-Cr-Fe-Mo系合金と板の表面欠陥内部の非金属介在物を多数の調査を重ね、MgO-CaO-TiO2系物酸化物に、質量%にて、NbOを0.1~5.0%含有することで、浸漬ノズル内壁への付着を防止し、表面性状の低下を防止できることを発見した。NbOの効果について説明する。
【0053】
図4に示すようにMgO-CaO-TiO
2系物酸化物中のNbOは液相の部分に存在し、NbOは液相部分のMgO-CaO-TiO
2系物酸化物の融点を下げる効果がある。すなわち液相であるMgO-CaO-TiO
2系物酸化物の接着剤のような効果をNbOが軽減し、MgO-CaO-TiO
2系物酸化物の浸漬ノズル内壁への付着するのを防止する効果がある。しかしながら、質量%で、5.0%を超えるNbOを含有するMgO-CaO-NbO-TiO
2系物酸化物は、式(3)に示す反応で、NbOの一部がNbNに変わり非金属介在物中に含有することになる。
[NbO]+N =
O+[NbN] …(3)
[ ]括弧内は非金属介在物の成分、下線は溶湯中成分を示す。
【0054】
NbNは融点が2573℃の窒化物であり、
図5に示すようにMgO、CaO、MgO-CaO系酸化物介在物の周りに、再び融点高い液相のMgO-CaO-TiO
2系物酸化物 +NbO(-NbN)を生成することになる。高融点の液相介在物はふたたび接着剤のような役割を果たし、非金属介在物の浸漬ノズル内壁への付着を助長し、非金属介在物が内壁に付着堆積し、粗大化後に脱落して、清浄性の悪化をもたらす。上記理由から、MgO-CaO-NbO-TiO
2系酸化物は、質量%にてNbOを0.1~5.0%含有することが好ましい。
【0055】
しかしながら、質量%にて20%を超えるTiO2を含有するMgO-CaO-NbO-TiO2系物酸化物は、式(4)に示す反応で、TiO2の一部がTiNに変わり非金属介在物中に含有することになる。
[TiO2]+N = 2O+[TiN] …(4)
[ ]括弧内は金属介在物中の成分、下線は溶湯中成分を示す。
【0056】
TiNは融点が2950℃の窒化物であり、
図6に示すようにMgO、CaO、MgO-CaO系酸化物介在物の周りに融点高い液相のMgO-CaO-NbO-TiO
2(-TiN)系物酸化物を生成することになる。質量%にて20%を超えるTiO
2を含有するMgO-CaO-NbO-TiO
2系物酸化物に、質量%にてNbOを0.1~5.0%含有しても、液相介在物の融点を下げる効果がなくなり、清浄性の悪化をもたらす。上記理由から、MgO-CaO-NbO-TiO
2系酸化物は、質量%にて、NbOを0.1~5.0%含有し、TiO
2が20%以下と規定した。
【0057】
上記のNbOおよびTiO2の効果は、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物に質量%で、SiO2:2%以下、Al2O3:2%以下を含有しても変わらない。
【0058】
MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物にNbOを0.1~5.0%含有させるためには、溶湯精錬時のNbを添加するタイミングが重要である。一次脱酸としてフェロシリコン合金、純シリコンのうち1種または2種、およびAlを投入し、O濃度が0.0070~0.0120%となった時点でNbを添加することで、非金属介在物中のNbO濃度を精緻に制御することができる。
【0059】
さらに、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物にTiO2を20%以下とするためには、溶湯精錬時のTiを添加するタイミングが重要である。一次脱酸後にNbを添加し、その後CaO:50~70%、SiO2:1~8%、Al2O3:10~30%、MgO:5~15%、F:2~8%からなるCaO-SiO2-MgO-Al2O3-F系スラグを用い、フェロシリコン合金および純シリコンのうち1種または2種、およびAlを投入してCr還元、二次脱酸、脱硫を行い、その後O濃度が0.0060%以下となった時点、Tiを添加することが重要であり、非金属介在物中のTiO2濃度を20%以下に制御することができる。
【0060】
さらにN含有量の制御には、AODまたはVODでの溶湯への窒素ガスの吹き込みにてNを添加し、Nを下げる必要がある場合、AODまたはVODまたはLFにてArガスの吹き込みでN濃度を下げることで、溶湯のN含有量を精緻に制御することができる。
【0061】
本願では
図3~6に示すように2種類以上の相の酸化物からなる非金属介在物の組成は、全体の平均組成で、非金属介在物の各成分の濃度(質量%)を表している。
(MgO-CaO-NbO-TiO
2系酸化物の個数比率が50%以下)
上述の通りMgO-CaO-NbO-TiO
2系物酸化物は、浸漬ノズル内壁への付着し、粗大化後に脱落して、清浄性の悪化をもたらす非金属介在物の一つである。しかしながら、MgO-CaO-NbO-TiO
2系物酸化物の個数比率が50%以下であれば、その付着傾向は軽度であり、表面欠陥の発生数が抑えられることが判った。したがって、MgO-CaO-NbO-TiO
2系物酸化物の個数比率は50%以下と規定した。
【0062】
(製造方法)
本願発明においては、Ni-Cr-Fe-Mo系合金の製造方法も提案する。まず、電気炉にて原料を溶解し、所定の組成を有するNi-Cr-Fe-Mo系溶湯を溶製し、次いで、AOD(Argon Oxygen Decarburization)もしくはAODに続いてVOD(Vacuum Oxygen Decarburization)を用いて脱炭した後に、石灰および蛍石を投入し、一次脱酸としてフェロシリコン合金および純シリコンのうち1種または2種、およびAlを投入し、O濃度が0.0070~0.0120%となった時点でNbを添加し、その後CaO:50~70%、SiO2:1~8%、Al2O3:10~30%、MgO:5~15%、F:2~8%からなるCaO-SiO2-MgO-Al2O3-F系スラグを用い、フェロシリコン合金および純シリコンのうち1種または2種、およびAlを投入してCr還元、二次脱酸、脱硫を行い、その後O濃度が0.0060%以下となった時点、Tiを添加し、その後、取鍋に出湯して、LF(Ladle Furnace)にて温度調整ならびに成分調整を行い、連続鋳造機もしくは普通造塊によりスラブもしくはインゴットを製造する。インゴットは熱間鍛造を施し、スラブを製造する。これにより、非金属介在物はMgO、CaO、MgO-CaO系酸化物、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のうち1種または2種以上を含み、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物は、質量%にて、NbOを0.1~5.0%含有し、TiO2が20%以下であれば、表面性状に優れたNi-Cr-Fe-Mo系合金を得ることができる。製造したスラブは、表面を研削し、加熱したのちに熱間圧延または熱間圧延に続いて冷間圧延を実施し、焼鈍、酸洗を行い、表面のスケ-ルを除去し、最終的に板を製造する方法である。
【0063】
本願発明に係るNi-Cr-Fe-Mo系合金の製造方法では、上述のようにスラグの組成に特徴を有している。以下、本願発明で規定するスラグ組成の根拠を説明する。
(CaO:50~70%)
スラグ中のCaO濃度およびSiO2濃度は、脱酸および脱硫を効率よく行い、かつ介在物制御を行うための元素である。CaO濃度が70%を越えると、スラグ中CaOの活量が高くなり、(2)式の反応が進行しすぎる。そのため、溶湯中に還元されるCa濃度が0.0080%を超えて高くなると、熱間加工性が低下するために熱間圧延工程で割れが生じやすくなり、最終製品に表面欠陥をもたらす。したがって、上限を70%と規定する。一方、CaO濃度が50%未満だと、脱酸、脱硫が進まずに、本願発明におけるS濃度、O濃度を規定の範囲に制御することができなくなる。したがって、下限を50%と規定する。好ましくは、53~67%である。より好ましくは、55~65%である。
【0064】
(SiO2:1~8%)
スラグ中のSiO2は、スラグの適切な流動性を確保するために必要な元素であるため、少なくとも1%は必要である。しかしながら、8%を超えて高くなると、溶湯中のAl濃度、Mg濃度およびCa濃度が規定の範囲を下回って低くなってしまうため、上限を8%と規定する。好ましくは、2~7%である。より好ましくは、3~6%である。
【0065】
(Al2O3:10~30%)
スラグ中のAl2O3が30%を超えて高いと、脱酸が十分に進行せずにO濃度が規定の範囲に制御されず、非金属介在物としてはMgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物が個数比率で50%を超えて生成する。一方で、スラグ中のAl2O3が10%より低いと、スラグの流動性が確保できず、脱硫が進まずS濃度が既定の範囲を超えてしまう。好ましくは、12~28%である。より好ましくは、15~25%である。
【0066】
(MgO:5~15%)
スラグ中のMgOは、溶湯中に含まれるMg濃度を請求項に記載される濃度範囲に制御するために重要な元素であるとともに、非金属介在物を本願発明に好ましい組成に制御する上で重要な元素である。したがって、スラグ中のMgOは少なくとも5%以上である必要がある。一方、MgO濃度が15%を超えると、(1)式の反応が進行しすぎてしまい、溶湯中のMg濃度が高くなり、熱間加工性が低下するため、最終製品に表面欠陥をもたらす。したがって、MgO濃度の上限を15%と規定する。スラグ中のMgOは、AOD精錬、あるいはVOD精錬する際に使用されるドロマイトレンガ、またはマグクロレンガがスラグ中に溶け出すことで、所定の範囲となる。あるいは、所定の範囲に制御するため、ドロマイトレンガ、マグクロレンガの廃レンガのうち一方または両方を添加してもよい。好ましくは、7~14%である。より好ましくは、9~13%である。
【0067】
(F:2~8%)
Fはスラグ精錬を行う際に添加する蛍石に含まれ、スラグの溶融状態を精緻に調整する役割があり、少なくとも2%以上添加する必要がある。F濃度が2%を下回ると、スラグが融けず流動性が低くなってしまう。一方で、F濃度が8%を超えて高くなると、スラグの流動性が著しく高くなるため、レンガの溶損が顕著となる。したがって、2~8%と規定する。
【実施例】
【0068】
次に、実施例を提示して本願発明の効果をより明らかにする。ところで、本願発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。容量60トンの電気炉により、フェロニッケル、純ニッケル、フェロクロム、鉄屑、ステンレス屑、Fe-Ni基合金屑、Fe-Moなどを原料として溶解した。その後、AODもしくはAODに続いてVODにてCを除去するための酸素吹精すなわち酸化精錬を行い、石灰石および蛍石を投入し、CaO-SiO2-Al2O3-MgO-F系スラグを生成させ、FeSi合金および純Siのうち1種または2種、およびAlを投入し、Cr還元を行い、次いで脱酸した。その後、さらにAr撹拌して脱硫を進めた。NbおよびTiは脱酸後適宜添加した。AOD、VODでは炉体にマグクロレンガをライニングした。その後、取鍋に出湯して、LF(Ladle Furnace)にて温度調整ならびに成分調整を行い、連続鋳造もしくは普通造塊によりスラブおよびインゴットを製造した。インゴットは熱間鍛造を施し、スラブを製造した。
【0069】
製造したスラブは、表面を研削し、1200℃で加熱して熱間圧延を実施し、熱帯コイルを製造した。その後、焼鈍、酸洗を行い、表面のスケ-ルを除去した後、所定の厚みまで冷間圧延を行い、冷延コイルを製造した。得られたNi-Cr-Fe-Mo系合金の化学成分、および、AODもしくはVOD精錬終了時のスラグ組成、製造工程、非金属介在物組成、介在物の形態および品質評価を表1および表2に示す。表中、括弧を付した数値は請求項の範囲外であることを示す。なお、発明例であって括弧が付されているものがあるが、これらは、従属請求項の範囲を満たさないものの、独立請求項の範囲は満たしている。
【0070】
【0071】
【0072】
(1)合金の化学成分およびスラグ組成:蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行い、合金の酸素濃度は不活性ガスインパルス融解赤外線吸収法で定量分析を行った。
(2)非金属介在物組成: 鋳込み開始直後、タンディッシュにて採取したサンプルを鏡面研磨し、SEM/EDSを用いて、大きさが5μm以上の介在物をランダムに20点測定した。
(3)非金属介在物の個数比率:上記(2)の測定の結果から、全非金属介在物個数に対するMgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物の個数比率を評価した。
(4)表面欠陥評価:酸洗、焼鈍し、表面のスケ-ルを除去した板厚1mmであるNi-Cr-Fe-Mo系合金の板の表面を目視で観察し、幅1m、長さ10m中における、非金属介在物および熱間加工性起因の表面欠陥の個数をカウントした。品質評価にあたっては、10m2中に表面欠陥が2個以下であれば◎とし、3~5個であれば○とし、6~10個であれば△とし、11個以上であれば×と評価した。
【0073】
発明例の1~13は、本願発明の範囲を満足していたために、板における表面欠陥が少なく、良好な表面性状を得ることが出来た。
発明例12は、Si濃度が0.11%、Al濃度が0.03%と、いずれも既定の範囲内ではあるが低めで、脱酸がやや弱くなり、O濃度は0.0045%と高めになった。スラグからのMg、Caの供給も少なく、Mgは0.0008%、Caは0.0002%と低くなった。結果、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物の個数比率が65%と高くなり、粗大な介在物がいくつか発生し、表面欠陥は7個で△判定となった。
発明例13は、Si濃度が0.09%、Al濃度が0.02%と、いずれも既定の範囲内ではあるが低めで、脱酸がやや弱くなり、O濃度は0.0048%と高めになった。スラグからのMg、Caの供給も少なく、Mgは0.0007%、Caは0.0002%と低くなった。結果、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のみの非金属介在物となり、粗大な介在物がいくつか発生し、表面欠陥は9個で△判定となった。
【0074】
一方、比較例14~20は本願発明の範囲を逸脱したため、表面欠陥が多数発生し、表面性状が悪化した。以下に、各例について説明する。
比較例14は、一次脱酸後Nbを添加する前のO濃度が0.0142%と高く、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のNbOが5.5%と高くなった。MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物の液相部分にはNbNも一部生成し、高融点になった。浸漬ノズルの付着も多く、脱落した粗大な非金属介在物も多く発生し、表面欠陥も14個と多数発生した。判定は×となった。
比較例15は、二次脱酸後Tiを添加する前のO濃度が0.0075%と高く、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のTiO2が21.1%と高くなった。MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物の液相部分にはTiNも一部生成し、高融点になった。浸漬ノズルの付着も多く、脱落した粗大な非金属介在物も多く発生し、表面欠陥も16個と多数発生した。判定は×となった。
比較例16は、一次脱酸後Nbを添加する前のO濃度が0.0060%と低く、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のNbOが0.02%と高くなった。NbOが0.02%ではMgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物の液相部分の低融化の効果は少なく、高融点になった。浸漬ノズルの付着も多く、脱落した粗大な非金属介在物も多く発生し、表面欠陥も12個と多数発生した。判定は×となった。
比較例17は、一次脱酸後Nbを添加する前のO濃度が0.0058%と低く、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のNbOが0.03%と低くなった。また、Alが0.008%低めで、O濃度が高く、Mgが0.0002%、Caが0.0001%と低く、MgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物のみの非金属介在物となった。NbOが0.03%ではMgO-CaO-NbO-TiO2系酸化物の液相部分の低融化の効果は少なく、高融点になり、浸漬ノズルの付着も多く、脱落した粗大な非金属介在物も多く発生し、表面欠陥も18個と多数発生した。判定は×となった。
比較例18は、Siが1.55%と高く、Alが0.52%と高く、O濃度は0.00003%と低く、スラグからのMgの供給が多くなりMgが0.0310%と高くなった。結果、非金属介在物はMgOとCaOのみの非金属介在物となり、浸漬ノズルの付着もなかった。しかし、Mg濃度が高く、熱間加工性が低下のため、熱間圧延工程で割れが発生し、表面欠陥も20個と多数発生した。判定は×となった。
比較例19は、Alが0.45%とやや高く、O濃度は0.00003%と低く、さらに、Ca合金を精錬末期に投入したため、Ca濃度は0.0092%と高くなった。結果、非金属介在物はCaOとMgOのみの非金属介在物となり、浸漬ノズルの付着もなかった。しかし、Ca濃度が高く、熱間加工性が低下のため、熱間圧延工程で割れが発生し、さらに、精錬末期にCa合金を投入したことにより、溶湯中の非金属介在物が十分に浮上分離できず、鋳型まで流れ込んで、清浄性が悪化した。表面欠陥は22個と多数発生した。判定は×となった。
比較例20は、Siが0.04%と低く、Alが0.003%と低く、O濃度は0.0078%と低く、脱酸および脱硫が効かず、S濃度は0.0060%と高く、Mg濃度は0.00003%、Ca濃度は0.00003%となった。非金属介在物は、表2ではカウントしていないが、MgO・Al2O3とAl2O3-SiO2-MnO-Cr2O3系酸化物が検出された。MgO・Al2O3は浸漬ノズル内に付着しやすく、避けるべき非金属介在物の一つであり、Al2O3-SiO2-MnO-Cr2O3系酸化物は脱酸が十分に行われていない溶湯に生成する低級酸化物であり、脱酸不良のため、多くの非金属介在物が溶湯内に生成したまま鋳型内に流れ込むため、避けるべき非金属介在物の一つである。表面欠陥は27個と多数発生した。判定は×となった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の技術は、非金属介在物の形態を制御することにより、高いクリ-プ特性を持つガスタ-ビン用燃焼塔部品での使用に適する表面性状に優れたNi-Cr-Fe-Mo系合金を供給することができる。
【符号の説明】
【0076】
1:取鍋、2:溶湯、3:タンディッシュ、4:浸漬ノズル、5:鋳型、6:凝固シェル、7:スプレー冷却帯、8a:非金属介在物、8b:付着した非金属介在物、8c:脱落した粗大な非金属介在物
【要約】 (修正有)
【課題】表面性状に影響を及ぼす非金属介在物の組成を制御し、表面性状に優れたNi-Cr-Fe-Mo系合金およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%にて、C:0.03~0.30%、Si:0.05~1.50%、Mn:0.05~2.00%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:18.0~28.0%、Mo:6.0~15.0%、Cu:1.0%以下、Al:0.01~0.50%、Ti:0.01~0.40%、Nb:0.02~0.60%、Fe:15.0~22.0%、Co:0.5~4.0%、W:0.10~2.00%、B:0.0001~0.0100%、N:0.005~0.100%、O:0.0001~0.0060%、Mg:0.0001~0.0300%、Ca:0.0001~0.0080%、残部がNiおよび不可避的不純物から成り、非金属介在物8aの組成を制御したNi-Cr-Fe-Mo系合金。
【選択図】
図3