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特許7282335グアニジン誘導体を含む発毛促進用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】グアニジン誘導体を含む発毛促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/155 20060101AFI20230522BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230522BHJP
   A61K 8/43 20060101ALI20230522BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20230522BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230522BHJP
【FI】
A61K31/155
A61P17/02
A61P17/14
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K8/43
A61Q7/00
A23L33/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021526463
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-27
(86)【国際出願番号】 KR2019015572
(87)【国際公開番号】W WO2020101400
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】10-2018-0139777
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515276624
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(73)【特許権者】
【識別番号】521207070
【氏名又は名称】イミュノメット セラピューティックス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】IMMUNOMET THERAPEUTICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ミュン ジン
(72)【発明者】
【氏名】チュン,キュン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,スン ウォク
(72)【発明者】
【氏名】グク,ジアイ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ホン ボム
(72)【発明者】
【氏名】ヨー,サンヒ
(72)【発明者】
【氏名】クヲン,ヨジョン
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ソンジュ
(72)【発明者】
【氏名】アン,ジヲン
(72)【発明者】
【氏名】リュ,ジェ ソン
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-513948(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138652(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0022731(KR,A)
【文献】国際公開第2017/069113(WO,A1)
【文献】Journal of Investigative Dermatology,2018年04月,Vol.138, No.4,pp.968-972
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
A61Q 7/00 ~ 7/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(2)~(4)のいずれかの化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、毛嚢または皮膚の再生用、発毛促進用、または脱毛予防若しくは治療用薬学組成物:
【化1】
【請求項2】
上記薬学組成物は、化学式(2)~(4)のいずれかの化合物またはその薬学的に許容可能な塩を1~5%の濃度で含む、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
上記薬学組成物は、細胞のリプログラミングを促進したり幹細胞能を維持する、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
上記薬学組成物は、毛嚢の再生を促進したり毛髪の成長を促進する、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
β-カテニン、Shh(sonic hedgehog)、HK2(hexokinase 2)、LDHA(lactate dehydrogenase A)、NDUS3(NADH dehydrogenase iron-sulfur protein 3)、ATP5B(ATP synthase subunit beta)、Wnt1a、Lef-1(lymphoid enhancer binding factor 1)、Gli-1(GLI family zinc finger 1)、ベルシカン(versican)、PDH(pyruvate dehydrogenase)及びPDK(pyruvate dehydrogenase kinase)からなる群から選択される一つ以上の発現を増加させる、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項6】
上記薬学組成物は、皮膚外用剤として剤形化される、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項7】
上記皮膚外用剤は、クリーム、ゲル、パッチ、噴霧剤、軟膏剤、硬膏剤、ローション剤、リニメント剤及びパスタ剤からなる群から選択されるいずれか一つである、請求項に記載の薬学組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物またはその化粧品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、毛嚢または皮膚の再生用、発毛促進用、または脱毛予防若しくは改善用化粧料組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物またはその食品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、毛嚢または皮膚の再生用、発毛促進用、または脱毛予防若しくは改善用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発毛促進用組成物に関し、より具体的にはグアニジン誘導体を有効成分として含む発毛促進用薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪は、成長する段階である成長期(anagen)、毛髪の消滅と連結される退行期(catagen)及び成長停止期である休止期(telogen)の3段階の周期を反復する。成長期の毛髪の数が減少し、退行期及び休止期の比率が増加すれば、非正常に毛髪が抜けるようになって脱毛が進行する。脱毛を治療するための方法として、毛髪移植手術のような外科的な施術方法または薬物療法など多様な試みがなされている。外科的施術方法は、効果の側面では優れるが、費用が莫大で手術過程が難しく患者の経済的、精神的負担が非常に大きいという短所がある。また、これは、臨時の処方に過ぎず、根本的な治療方法になり得ないという問題がある。
【0003】
また、薬物療法に広く用いられている米国登録特許4,596,812(特許文献1)に記載されたミノキシジル(minoxidil)は、本来高血圧治療剤として用いられたが、副作用として発毛現象が報告されながら塗る発毛促進剤として用いられ始めた。しかし、ミノキシジルは、明確な効果の不在及び頭皮そう痒症、紅斑、角質などの接触皮膚炎のような種々の副作用の問題が台頭している(Journal of the Korean Medical Association, 56(1), 45(非特許文献1))。これにより、脱毛防止及び発毛促進効能に優れるとともに副作用がない安全な治療剤の開発が要求されている実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国登録特許4,596,812号明細書
【文献】韓国公開特許10-2016-0146852号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of the Korean Medical Association, 56(1), 45
【文献】Nature Cell Biology, 2017, 19: 1017-1027; In vivo, 2019, 33: 1209-1220
【文献】大韓薬典解説編、ムンソン社、韓国薬学大学協議会、第5改訂版、p33-48、1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、毒性がないグアニジン誘導体を有効成分として用いることにより、毛髪の成長を促進させ、毛嚢を再生させる発毛促進または脱毛予防、治療及び改善用組成物を確立して本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、グアニジン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、発毛促進用、または脱毛予防若しくは治療用薬学組成物を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、グアニジン誘導体またはその化粧品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、発毛促進用、または脱毛予防若しくは改善用化粧料組成物を提供することにある。
【0009】
また、本発明の目的は、グアニジン誘導体またはその食品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、発毛促進用、または脱毛予防若しくは改善用食品組成物を提供することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、グアニジン誘導体またはその食品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、発毛促進用、または脱毛予防若しくは改善用飼料組成物を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、グアニジン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む薬学組成物を、これを必要とする個体に投与する段階を含む、発毛促進、または脱毛予防若しくは治療方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の目的は、グアニジン誘導体、その薬学的に許容可能な塩、またはこれを有効成分として含む組成物の発毛促進、または脱毛予防若しくは治療用途を提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、グアニジン誘導体、その薬学的に許容可能な塩、またはこれを有効成分として含む組成物の発毛促進用、または脱毛予防若しくは治療用医薬品製造のための用途を提供することにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の組成物を用いる場合、商用化されたミノキシジルに比べて毛髪の成長及び毛嚢の再生を促進させる効果に優れる。また、本発明の組成物は従来のグアニジン誘導体に比べても発毛促進効能に優れ、これにより発毛促進または脱毛予防、治療及び改善のための薬学、食品、飼料及び化粧料組成物などのような多様な分野に有用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】グアニジン誘導体の化学式を示したものである。
図2】マウス胚線維芽細胞においてiPSCへのリプログラミングに対する一連のグアニジン誘導体化合物の促進効果を示した図である。
図3】ヒト包皮線維芽細胞においてiPSCへのリプログラミングに対する一連のグアニジン誘導体化合物の促進効果を示した図である。
図4】ヒト胚性幹細胞の幹細胞能維持に対する一連のグアニジン誘導体化合物の促進効果を示した図である。
図5a】マウスにおいてIM化合物処理による毛髪の成長効果を肉眼で確認したものである。
図5b】マウスにおいてIM化合物処理による毛髪の成長効果を示したグラフである。
図6a】IM化合物処理による毛髪周期に対する効果をマウス皮膚の縦断面でH&E染色を通じて確認した結果を示したものである。
図6b】IM化合物処理による毛嚢周期の変化を示したものである。
図6c】IM化合物処理による毛嚢周期に対する効果をマウス皮膚の横断面でH&E染色を通じて確認した結果を示したものである。
図6d】IM化合物処理による毛嚢数の増加効果を確認したものである。
図7a】IM化合物処理7日目に、K15、β-カテニン及びKi67の発現程度を確認したものである。
図7b】IM化合物処理7日目に、K15/β-カテニン及びKi67/ShhのFACS分析結果を示したものである。
図7c】IM化合物処理20日目に、K15、β-カテニン及びShhの組織化学分析結果を示したものである。
図7d】IM化合物処理20日目に、K15/β-カテニン及びKi67/ShhのFACS分析結果を示したものである。
図8a】IM化合物及びミノキシジル処理7日目に、K15、PDK、Ki67及びPDHの組織化学分析を比較した結果を示したものである。
図8b】IM化合物及びミノキシジル処理20日目に、K15、PDK、Ki67及びPDHの組織化学分析を比較した結果を示したものである。
図8c】IM化合物及びミノキシジル処理7日目に、K15/PDK及びKi67/PDHのFACS分析を比較した結果を示したものである。
図8d】IM化合物及びミノキシジル処理時に、OXPHOS関連酵素(NDUS3及びATP5B)、解糖作用関連酵素(HK2及びLDHA)及び幹細胞能関連遺伝子(Wntla,Lef-1,Gli-1及びベルシカン)の発現程度を比較した結果を示したものである。
図9】マウスにおいてIM化合物処理による毛髪の成長効果を肉眼で確認したものである。
図10】雌性マウスにおいてIM化合物処理による毛髪の成長効果を肉眼で確認したものである。
図11a】雄性マウスにおいてIM化合物処理による毛髪の成長効果を肉眼で確認したものである。
図11b】雄性マウスにおいてIM化合物処理による毛髪の成長効果を肉眼で確認したものである。
図12a】IM化合物処理20日目に、K15、PDK、Ki67及びPDHの組織化学分析結果を示したものである。
図12b】IM化合物及びミノキシジル処理20日目に、K15/PDH及びKi67/PDKのFACS分析を比較した結果を示したものである。
図13a】マウスにおいてIM化合物及びメトホルミンの処理による毛髪の成長効果を肉眼で比較したものである。
図13b】マウスにおいてIM化合物及びメトホルミンの処理による毛髪の成長効果を比較したグラフである。
図14a】IM化合物処理による耳介の組織修復効果を確認したものである。
図14b】IM化合物処理による耳介の組織修復効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一側面は、下記化学式(1)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、発毛促進用、または脱毛予防若しくは治療用薬学組成物を提供する:
【0017】
【化1】
上記化学式(1)において、
Aは単結合または-C(NH)-NH-であり、
1は-(CH2n-であり、ここでnは1~4の整数であり、
2は非置換、またはハロゲン及びC1-C4アルキルから選択される一つ以上の置換基で置換されたC6-C10アリールである。
【0018】
例えば、上記化合物は下記化学式(2)~(4)の化合物であってもよいが、これに制限されない:
【0019】
【化2】
【0020】
【化3】
【0021】
【化4】
【0022】
上記化学式(2)~(4)の化合物は、グアニジンまたはビグアニドコアを有する疎水性カチオン小分子であり、それぞれの化学名は(N-1-(2-メチル)フェネチルビグアニド、N-1-(3,4-ジクロロ)フェネチルビグアニド及び1-(3,4-ジメチルフェネチル)グアニドである。以下の実施例では、それぞれを「IM176OUT05」(または「IM」と表記)、「IM176OUT04」及び「IM177OUT02」と命名して用いる。
【0023】
本発明による化学式(1)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩は、ヒトを含む動物体細胞のリプログラミングを促進し、幹細胞能を維持することができ、さらに毛嚢周期の進行を促進し、毛嚢再生を加速化し、毛嚢数を増加させることができるため、発毛を促進して脱毛を予防または治療する効果を奏する。
【0024】
例えば、細胞の幹細胞能が、特にβ-カテニンシグナル伝達(β-catenin signaling)過程を通じて、発毛及び/又は毛嚢の形成に重要な役割をし、従って、幹細胞性を付与し、これを維持することが発毛、毛髪の再生及び/又は毛嚢の形成を調節する要素であることが知られている(Nature Cell Biology, 2017, 19: 1017-1027; In vivo, 2019, 33: 1209-1220(非特許文献2))。これに関連し、本発明の具体的な実施例では、グアニジン誘導体化合物が体細胞のリプログラミングを促進し、幹細胞の幹細胞能を維持し得ることを確認したところ、これは、これら化合物が発毛、毛髪の再生及び/又は毛嚢の形成を調節することにより、発毛を促進し、脱毛を予防または治療する効果を発揮することを示すものである。さらに、これをより具体的に確認するために、これら化合物を細胞水準及びさらに動物モデルに適用して毛嚢でβ-カテニン発現を増加させ、毛嚢の数を増やし、実際に発毛及び/又は毛髪の成長を促進する効果を奏することを確認した。
【0025】
本明細書で用いられた用語「発毛促進」とは、毛髪が生成されること意味し、毛髪生成速度及び生成量を増加させる意味として用いられる。また、毛根機能が強化されたり、毛髪の脱落及び生成周期が短くなって毛嚢で育つ毛髪の数が増加し、さらに毛嚢の数が増加することを意味する。
【0026】
上記薬学組成物は、従来発毛促進剤として用いられるミノキシジルに比べて毛髪の成長及び脱落周期中、休止期を短縮し、成長期の進入を促進して発毛促進に卓越した効能を有することができる。また、上記組成物は、皮膚問題を含めて如何なる副作用も認められなかった。
【0027】
本発明の一具体例において、上記薬学組成物は、化学式(1)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を1~5%の濃度で含んでもよく、具体的には1~4%または1~3%の濃度で含んでもよい。
【0028】
本発明の一具体例において、上記薬学組成物は、細胞のリプログラミングを促進したり幹細胞能を維持させることができる。また、上記薬学組成物は、毛嚢の再生を促進し、毛髪の成長を促進することができる。本発明の一具体例において、上記組成物はβ-カテニン、Shh(sonic hedgehog)、HK2(hexokinase 2)、LDHA(lactate dehydrogenase A)、NDUS3(NADH dehydrogenase iron-sulfur protein 3)、ATP5B(ATP synthase subunit beta)、Wnt1a、Lef-1(lymphoid enhancer binding factor 1)、Gli-1(GLI family zinc finger 1)、ベルシカン(versican)、PDH(pyruvate dehydrogenase)及びPDK(pyruvate dehydrogenase kinase)からなる群から選択される一つ以上の物質の発現を増加させることができる。
【0029】
具体的には、上記薬学組成物は、毛嚢の再生及び発達を媒介するβ-カテニン及びShh、解糖作用関連酵素であるHK2及びLDHA、OXPHOS関連酵素であるNDUS3及びATP5B、及び毛嚢発達に関与する幹細胞能関連遺伝子であるWntla、Lef-1、Gli-1及びベルシカンの発現を増加させることができ、解糖作用の転換を促進させる酵素であるPDK及びミトコンドリアOXPHOSに反応する酵素であるPDHの発現も増加させることができる。これは、従来発毛促進剤として用いられるミノキシジルに比べて優れた効果により上記因子の発現を促進し、発毛促進に卓越した効能を有することができる。
【0030】
上記薬学組成物は、毛嚢発達に関連する遺伝子の発現を促進し、毛髪の再生のための様々な信号を活性化することができる。また、幹細胞の代謝を直接的に刺激することにより解糖作用を促進させ、OXPHOSをさらに促進させることができる。これを通じて上記薬学組成物は、毛髪成長に必要な活性エネルギー代謝に寄与することができる。
【0031】
上記薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与されてもよく、上記「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な利益/リスクの比率で疾患を治療するのに十分な量を意味する。これは、患者の疾病種類、重症度、年齢、性別、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時に用いられる薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られている要素により決定され得る。
【0032】
上記薬学組成物は、単独または他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは順次または同時に投与されてもよい。上記要素をいずれも考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、これは、当業者により容易に決定され得る。例えば、投与経路、疾病の重症度、性別、体重、年齢などに従って増減し得るため、上記投与量が如何なる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
本明細書に用いられた用語「薬学的に許容可能な塩」とは、上記化合物の所望の生物学的及び/又は生理学的活性を保有しており、望まない毒物学的効果は最小限に示す全ての塩を意味する。有機酸または無機酸を用いて形成された酸付加塩であり得、上記有機酸は、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、イソ酪酸、トリフルオロ酢酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、コハク酸モノアミド、グルタミン酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、アントラニル酸、ジクロロ酢酸、アミノオキシ酢酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びメタンスルホン酸系塩を含み得る。また、上記無機酸は、例えば、塩酸、臭素酸、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸及びホウ酸系塩を含み得、望ましくは、塩酸塩または酢酸塩形態であってもよく、より望ましくは塩酸塩形態であってもよい。
【0034】
例えば、本発明による組成物は、薬学的組成物の製造に通常用いる適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含み得る。上記組成物は滅菌または無菌性であり、このような溶液は滅菌または無菌性であり、水、緩衝剤、等張剤または動物またはヒトに適用する場合、アレルギーまたはその他有害な反応を引き起こさない、当該技術分野の熟練家に公知となったその他の成分を含み得る。
【0035】
本発明で用いられる用語「薬学的に許容可能な担体」は、任意の全ての溶媒、分散媒質、被覆物、抗菌剤、抗真菌剤及び等張剤などを含む。薬学的活性物質用に上記媒質及び製剤を用いることは当該技術分野によく知られている。活性成分と非混和性の通常の媒質または製剤以外に、治療学的組成物におけるこの使用が考慮される。また、補充性活性成分を当該組成物に混入させることができる。
【0036】
上記組成物は液剤、乳剤、懸濁剤またはクリーム剤等の剤形に製造することができ、非経口で用いられる。上記組成物の使用量は、脱毛予防及び治療への通常の使用量で用いることができ、患者の年齢、性別、状態、体内で活性成分の吸収度、不活性率及び併用される薬物などに応じて異なって適用されることが好ましい。
【0037】
本発明の一具体例において、上記薬学組成物は、非経口投与用製剤に剤形化されることが好ましく、発毛を所望の部位に局部的に用いる皮膚外用剤または皮下注射剤として剤形化して用いられてもよい。
【0038】
本発明の一具体例において、上記皮膚外用剤は、クリーム、ゲル、パッチ、噴霧剤、軟膏剤、硬膏剤、ローション剤、リニメント剤、パスタ剤及びカタプラズマ剤からなる群から選択されるいずれか一つに剤形化されてもよい。
【0039】
また、上記薬学組成物は皮下注射剤として用いられ、上記皮下注射剤は、通常の注射針を用いて皮下注射することができる。また、直径が数十~数百μm、長さが数十~数千μmサイズである複数の微細針が配列されている微細針アレイを用いて発毛を所望の部位に直接注射することができる。
【0040】
本発明の他の側面は、上記化学式(1)の化合物またはその化粧品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、発毛促進用、または脱毛予防若しくは改善用化粧料組成物を提供する。
【0041】
本明細書に用いられた用語「化粧品学的に許容可能な塩」とは、上記「薬学的に許容可能な塩」に定義された通りである。
【0042】
上記化粧料組成物は、例えば、ヘアートニック、ヘアークリーム、ヘアーローション、ヘアーシャンプー、ヘアーリンス、ヘアーコンディショナー、ヘアースプレー、ヘアーパック、ヘアートリートメント、石鹸、眉毛発毛剤、眉毛栄養剤、まつげ発毛剤及びまつげ栄養剤などに剤形化され得る。また、上記化粧料組成物は、各剤形によって界面活性剤、ビタミン、防腐剤、粘増剤、pH調節剤、香料、色素など通常の化粧料組成物に配合される各種成分を含有してもよい。
【0043】
本発明の他の側面は、上記化学式(1)の化合物またはその食品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、発毛促進用、または脱毛予防若しくは改善用食品組成物を提供する。
【0044】
本明細書に用いられた用語「食品学的に許容可能な塩」とは、上記「薬学的に許容可能な塩」に定義された通りである。
【0045】
本発明の食品組成物は、健康機能食品として用いられる。上記「健康機能食品」とは、健康機能食品に関する法律による人体に有用な機能性を有する原料や成分を用いて製造及び加工した食品を意味し、「機能性」とは、人体の構造及び機能に対して栄養素を調節したり生理学的作用などのような保健用途に有用な効果を得る目的で摂取することを意味する。
【0046】
本発明の食品組成物は、通常の食品添加物を含んでもよく、上記「食品添加物」としての適否は他の規定がない限り、食品医薬品安全処に承認された食品添加物公典の総則及び一般試験法等によって該当品目に関する規格及び基準によって判定する。
【0047】
上記「食品添加物公典」に収載された品目としては、例えば、ケトン類、グリシン、クエン酸カリウム、ニコチン酸、桂皮酸などの化学的合成物、カキ色素、甘草抽出物、結晶セルロース、コウリャン色素、グアーガム等の天然添加物、L-グルタミン酸ナトリウム製剤、麺類添加アルカリ剤、保存料製剤、タール色素製剤などの混合製剤類を挙げることができる。
【0048】
本発明の食品組成物は、組成物の全重量に対してグアニジン誘導体またはその食品学的に許容可能な塩を0.01~95重量%、望ましくは1~80重量%で含んでもよい。また、本発明の食品組成物に含まれるグアニジン誘導体またはその食品学的に許容可能な塩は、上記薬学的組成物の製造で言及された抽出方法と同一または類似の方法で得ることができるが、これに制限されない。
【0049】
また、本発明の食品組成物は、発毛促進及び/又は脱毛改善を目的として、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、丸剤等の形態に製造及び加工することができる。
【0050】
例えば、上記錠剤形態の健康機能食品は、グアニジン誘導体またはその食品学的に許容可能な塩、賦形剤、結合剤、崩解剤、及び他の添加剤との混合物を常法で顆粒化した後、滑沢剤などを入れて圧縮成形したり、上記混合物を直接圧縮成形することができる。また、上記錠剤形態の健康機能食品は、必要に応じて矯味剤などを含有してもよく、必要に応じて適当なコーティング剤でコーティングすることができる。
【0051】
カプセル形態の健康機能食品中、硬質カプセル剤は、通常の硬質カプセルに粉末がグアニジン誘導体またはその食品学的に許容可能な塩、及び賦形剤などの添加剤との混合物またはその粒状物またはコーティングした粒状物を充填して製造することができ、軟質カプセル剤は、グアニジン誘導体またはその食品学的に許容可能な塩及び賦形剤などの添加剤との混合物をゼラチンなどカプセル基剤に充填して製造することができる。上記軟質カプセル剤は、必要に応じてグリセリンまたはソルビトールなどの可塑剤、着色剤、保存剤などを含有し得る。
【0052】
丸剤形態の健康機能食品は、グアニジン誘導体またはその食品学的に許容可能な塩、賦形剤、結合剤、崩解剤などの混合物を適当な方法で成形して調剤することができ、必要に応じて白糖や他の適当なコーティング剤でコーティングを、または澱粉、タルクまたは適当な物質で丸衣を被せることができる。
【0053】
顆粒形態の健康機能食品は、グアニジン誘導体またはその食品学的に許容可能な塩、賦形剤、結合剤、崩解剤などの混合物を適当な方法で粒状に製造することができ、必要に応じて着香剤、矯味剤などを含有し得る。顆粒形態の健康機能食品は、12号(1680μm)、14号(1410μm)及び45号(350μm)の篩を用いて、次の粒度試験を行う時に12号の篩を全量通過し、14号の篩に残るものが全量の5.0%以下であり、また45号の篩を通過するものは全量の15.0%以下であり得る。
【0054】
上記賦形剤、結合剤、崩解剤、滑沢剤、矯味剤、着香剤などに対する用語の定義は当業界において公知となった文献に記載されたもので、その機能などが同一乃至類似のものを含み得る(大韓薬典解説編、ムンソン社、韓国薬学大学協議会、第5改訂版、p33-48、1989(非特許文献3))。
【0055】
上記食品の種類には特別な制限がなく、本発明の抽出物を添加することができる食品の例としては、飲料、ガム、ビタミン複合剤、ドリンク剤などがあり、通常の意味での健康機能食品を全て含む。
【0056】
本発明の他の側面は、上記化学式(1)の化合物またはその食品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、発毛促進用、または脱毛予防若しくは改善用飼料組成物を提供する。
【0057】
本明細書に用いられた用語「飼料」とは、動物が摂取する餌を意味し、具体的には、動物の生命を維持したり、または肉、乳などを生産するのに必要な有機または無機栄養素を供給する物質を意味することができる。上記飼料は、飼料添加剤を含んでもよく、当業界の公知となった多様な形態に製造可能である。
【0058】
上記飼料の種類は特に制限されず、当該技術分野において通常に用いられる飼料を用いることができる。上記飼料の非制限的な例としては、穀物類、根果類、食品加工副産物類、藻類、繊維質類、油脂類、澱粉類、粕類または穀物副産物類等のような植物性飼料;タンパク質類、無機物類、油脂類、鉱物性類、油脂類、単細胞タンパク質類、動物性プランクトン類または飲食物などのような動物性飼料を挙げることができる。これらは単独で用いられたり2種以上を混合して用いられてもよい。
【0059】
または、上記本発明の化合物またはその食品学的に許容可能な塩は、飼料組成物に添加される飼料添加剤として用いられる。上記飼料添加剤は、対象動物の生産性向上や健康を増進させるためのものであり得るが、これに制限されない。上記飼料添加剤は、飼料管理法上の補助詞料に該当してもよい。
【0060】
本発明の飼料添加剤は、さらにクエン酸、フマル酸、アジピン酸、乳酸などの有機酸やポリフェノール、カテキン、トコフェロール、ビタミンC、緑茶抽出物、キトサン、タンニン酸等の天然抗酸化剤中の一つ以上の成分を混合して用いることができ、必要に応じて緩衝液、静菌剤等、他の通常の添加剤を添加することができる。また、必要に応じて液状、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。
【0061】
上記飼料または飼料添加剤は、栄養素の補充及び体重減少の予防、飼料内繊維素の消化易溶性の増進、乳質改善、繁殖障害の予防及び受胎率の向上、夏期高温ストレス予防など多様な効果を奏する物質をさらに含んでもよい。例えば、アミノ酸、無機塩類、ビタミン、抗酸化、抗カビ、微生物製剤などのような各種補助剤及び粉砕または破砕された小麦、麦、トウモロコシなどの植物性タンパク質飼料、血粉、肉粉、魚粉等の動物性タンパク質飼料、動物性脂肪及び植物性脂肪のような主成分以外にも栄養補充剤、成長促進剤、消化吸収促進剤、疾病予防剤と共に用いられる。
【0062】
本発明の飼料及び飼料添加剤は、哺乳類、家禽類を含む多数の動物に給餌され得る。例えば、美観を維持または改善するために、ウシ、ヤギなどの家畜;イヌ、ネコなどのペットに用いることができるが、これに制限されない。
【0063】
本発明の他の側面は、上記化学式(1)の化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む薬学組成物を、これを必要とする個体に投与する段階を含む、発毛促進、または脱毛予防若しくは治療方法を提供する。
【0064】
本発明の用語「予防」とは、本発明の組成物の投与により脱毛の発生、拡散及び再発を抑制させたり遅延させる全ての行為を意味し、「治療」とは、本発明の組成物の投与により上記症状が好転したり有益に変更される全ての行為を意味する。
【0065】
本発明の用語「個体」とは、上記脱毛が発生しているか、発生し得るヒトを含むサル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギまたはモルモットを含む全ての動物を意味し、本発明の薬学的組成物を個体に投与することにより、上記疾患を効果的に予防または治療することができる。本発明の薬学的組成物は既存の治療剤と並行して投与され得る。
【0066】
本発明の用語「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を提供することを意味し、本発明の組成物の投与経路は目的組織に到達し得る限り、任意の一般的な経路を通じて投与され得る。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与され得るが、これに制限されない。また、本発明の薬学的組成物は、活性物質が標的細胞に移動することができる任意の装置により投与され得る。
【0067】
本発明の他の側面は、上記化学式(1)の化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはこれを有効成分として含む組成物の発毛促進、または脱毛予防若しくは治療用途を提供する。
【0068】
本発明の他の側面は、上記化学式(1)の化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはこれを有効成分として含む組成物の発毛促進用、または脱毛予防若しくは治療用医薬品製造のための用途を提供する。
【0069】
以下、本発明を下記実施例により、さらに詳細に説明する。ただし、下記実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらのみに限定されるものではない。
【0070】
試薬準備
グアニジンの誘導体として(N-1-(2-メチル)フェネチルビグアニド(以下「IM176OUT05」または「IM」と表記)、N-1-(3,4-ジクロロ)フェネチルビグアニド(以下「IM176OUT04」)及び1-(3,4-ジメチルフェネチル)グアニド(以下「IM177OUT02」)を合成した。上記合成は、韓国公開特許10-2016-0146852(特許文献2)(2016年12月21日)のそれぞれ実施例22、実施例1及び実施例133と同様の方法で行った。それ以外に、ミノキシジル(Minoxidil)をHyundai Pharm(Seoul, Republic of Korea)から購入し、メトホルミン(Metformin)をCayman chemical(Ann Arbor, MI, USA)から購入した。上記本発明のグアニジン誘導体及びミノキシジルとメトホルミンの化学構造式を図1に示した。
【0071】
実施例1.グアニジン誘導体のリプログラミング効果
実施例1.1.マウス細胞においてグアニジン誘導体のリプログラミング効果の比較
ロテノン(ETCコンプレックスI抑制剤)の亜毒性投与量(sub-toxic dose, 10 nM)において効率のよい体細胞リプログラミングを促進させることが確認されたところ、iPSC生成に対するロテノンと本発明のグアニジン誘導体の効果を下記の通り比較した(図2)。
【0072】
マウス胚線維芽細胞(mouse embryonic fibroblasts, MEFs)にOSKMリプログラミング因子を導入してiPSCでリプログラミングする間、ロテノン、本発明のグアニジン誘導体、及びフェンホルミンを表記の濃度で処理した。14日後に、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase, AP)染色を行い(図2A)、AP+コロニー数を定量した結果(図2B)、IM156及びフェンホルミンはリプログラミング促進効果を奏さない一方、IM176OUT05、IM176OUT04及びIM177OUT02の処理によりAP+コロニー数が増加した。特に、IM176OUT05(以下、IM)を10nM、20nM及び50nM濃度で処理時に、それぞれ16.8倍、13.9倍及び13.7倍の効率でリプログラミングを向上させる効果を奏することを確認し、その後、実験には上記有効なリプログラミング向上効果を奏した3種化合物のみを用いて追加の効能を評価した。
【0073】
実施例1.2.ヒト細胞でグアニジン誘導体のリプログラミング効果の確認
ヒト包皮線維芽細胞(human foreskin fibroblast, HFFs)にOSKMリプログラミング因子を導入してiPSCでリプログラミングする間、上記実施例1.1.からマウス細胞に対するリプログラミング効果が確認された、IM176OUT05、IM176OUT04及びIM177OUT02を表記の濃度で処理した。28日後に、AP染色を行い(図3A)、AP+コロニー数を定量した結果(図3B)、三つの化合物がいずれも10nM濃度で処理時に最も優れたリプログラミング効能を示し、特に、IM176OUT05を10nM、100nM及び500nMの濃度で処理時に、全て2.4倍以上の効率でリプログラミングを向上させる効果を奏することを確認した。
【0074】
実施例1.3.グアニジン誘導体の幹細胞能維持効果の確認
また、本発明の化合物がヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cells, hESCs)の幹細胞能(stemness)の維持に及ぼす効能を確認した(図4)。具体的には、hESCを無条件培地(unconditioned medium, UM)に培養した場合、幹細胞能を失ってAP活性が弱くなる一方(図4A)、IM176OUT05、IM176OUT04及びIM177OUT02処理時に、低用量でAP染色の増加を確認することができた。特に、IM176OUT05を10nM及び100nMの濃度で処理時に、それぞれ7.6倍及び8.2倍に向上した幹細胞能維持効果を示すことを確認した(図4B)。
【0075】
以上の実施例1.1.~1.3.の結果から共通に10nMのIM176OUT05が最も効率よくマウス及びヒトiPSC生成過程でリプログラミング効率を向上させることはもちろん、ヒト胚性幹細胞の幹細胞能維持効能を示すことを確認したところ、その後の実施例では上記条件を用いて後続の研究を行った。
【0076】
実施例2.IM176OUT05の毛髪再生効果試験
実施例2.1.毛髪再生モデル
7週齢のC57BL/6マウス(Dae han BioLink, Chungbuk, Republic of Korea)の毛髪休止期(telogen)で背部皮膚毛を動物用クリッパー、及びワックス(Veet, Oxy Reckitt Benckiser, Seoul, Republic of Korea)を用いて除毛した。翌日から、毎日200μlの偽薬(プラセボ)(対照群)、1%IM、1%ミノキシジルまたは1%メトホルミンを殺菌された綿棒を用いて除毛した部位に適用した。各動物のイメージを毎日キャプチャし、Image J programを用いて同一の領域(1.6×3cm)で背部位の色の暗さ程度を定量化した。マウスを犠牲にして、0、7、14及び20日目の皮膚組織を得た。組織の半分をRNA分離に用い、残りの半分を組織化学分析のために一夜中、4%のパラホルムアルデヒドで固定させた。
【0077】
実施例2.2.組織学的分析
上記実施例1.1.で固定させた組織を30%スクロースに浸漬させた後、OCT化合物(Sakura Finetek USA Inc, Torrance, CA, USA)にエンベデッド(embedded)させた。低温維持装置(cryostat sectioning)(Leica, Wetzlar, Germany)を用いて凍結切片を得、ヘマトキシリン(Sigma)及びエオシン(Sigma)(H&E)または下記表1に提示されたそれぞれの抗体を用いて染色した。免疫組織化学分析を行い、Olympus顕微鏡(Olympus)で蛍光イメージを撮影した。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例2.3.定量的組織形態計測
毛髪周期の段階を正確に分類するための指針に従い、各マウス(n>10)の縦断面におけるH&E染色顕微鏡写真で個々の毛嚢を分類して毛髪周期を定量化した。それぞれの群で毛髪成長期(anagen)の百分率を計算した。同一領域(1300μm幅)における毛嚢を各マウス(n>10)の横断面におけるH&E染色顕微鏡写真で計数した。
【0080】
実施例2.4.FACS分析
マウスにPBSを潅流させて血液を除去した後、皮膚組織を収穫して小さく切れ切れにした。組織をトリプシン(Thermo Fisher Scientific)に150分間37℃で分解させた後に75μmのナイロンメッシュで濾過した後、30μmのメッシュ(BD Biosciences)で濾過した。単一細胞を免疫染色プロトコルにより固定させ、透過化し、遮断させた。細胞を特定抗体(上記表1)で染色し、BD AccuriTM C6(BD Biosciences)で分析した。
【0081】
実施例2.5.耳介パンチ(punch)分析
耳介組織の修復分析のために、パンチ器具(Fine Science Tools, British Columbia, Canada)を用いて各耳に2mm直径で3つの孔をあけた。毎日指示された濃度のIMを殺菌された綿棒で適用した。孔の面積をdigital calipers(VWR, Radnor, PA, USA)で測定した。
【0082】
統計学的分析
全ての数値は、繰り返し実験された3個以上の独立的な生物学的データを代表する。全ての動物実験はn>5の処理群で独立して6回繰り返して実験された。Student’s t-testを群間比較のために用いられ、p<0.05は統計的有意性を示す。
【0083】
実施例3.IM176OUT05の毛髪再生効果確認
実施例3.1.マウスにおいてIM176OUT05による毛髪の成長促進効果
IM化合物が毒性または他の副作用を示さずに毛髪の成長を促進させるか否かを、マウス実験を通じて確認した。7週齢のC57BL/6マウスで休止期段階の毛髪を除毛することにより同期化させ、多様な濃度のIMを毎日マウスの背部皮膚に局所塗布した。9日目に、1%IMを適用した部位で黒色の色素沈着及び毛髪成長が顕著に確認された(図9)。
【0084】
また、IM及び従来発毛促進剤であるミノキシジルの効能を比較した結果、雄性及び雌性マウスの両方で毛髪成長を促進させることを確認した。特に、IMは雌性マウスで毛髪成長に対する強力な促進効果を奏した。具体的には、IM処理8日目に、対照群またはミノキシジル処理マウスに比べてIM処理マウスで皮膚色が明確に暗くなったことを確認することができた。また、10日目に、IM処理により毛髪成長が明確に促進された(図5)。これとは別個に独立的な実験を追加で行った結果、雌性マウスにおいてIMがミノキシジルより優れた効果を奏することを確認した(図10)。一方、雄性マウスではIMの効果がミノキシジルと類似することが示された(図11a及び図11b)。
【0085】
それ以外にも、毛髪成長に対してIMと他のビグアニド誘導体であるメトホルミンを比較した結果、8日目から対照群に比べてメトホルミン処理マウスの背部皮膚の暗さの強度が多少増加したが、顕著な効果を奏することはなかった(図13a及び図13b)。
【0086】
実験期間中、IM処理マウスで皮膚問題を含むいかなる副作用も観察されなかった。
【0087】
実施例3.2.マウスにおいてIM176OUT05による毛嚢再生促進効果
組織形態計測を通じて組織を分析した結果、IMが毛嚢周期の進行を刺激させることを確認した(図6a)。20日目に縦断面で、対照群マウスで毛嚢の大部分が成長期IIIに定量的に示された一方、IM処理マウスでは毛嚢の大部分が成長期の後期段階である成長期V及びVI段階で主に示されたことを確認した(図6b)。また、7日目に横断面において、対照群に比べてIM処理マウスで毛嚢の数が顕著に増加し(図6c)、20日目に対照群に比べてIM処理マウスまたはミノキシジル処理マウスでの毛嚢数が顕著に多いことが示された(図6d)。さらに、7日目に、毛嚢幹細胞のマーカーであるケラチン15(K15)が対照群またはミノキシジル処理マウスに比べてIM処理マウスの毛嚢突出部の領域で強く発現された(図7a)。
【0088】
また、7日目に、毛嚢再生を媒介するβ-カテニンの発現がIM処理マウスで増加したことが示された。この時、IM処理マウスでKi67陽性増殖細胞が確認され、これは、毛嚢周期及び増殖前駆細胞の追加増殖(expansion)がIMにより増加したことを示す(図7a)。K15+/β-カテニン+集団をFACS分析で定量化した結果、対照群、IM処理マウス及びミノキシジル処理マウス皮膚の単一細胞でそれぞれ3.2%、11.7%及び6.0%の細胞集団を占有した(図7b)。これは、対照群に比べてIM処理マウスで3.7倍増加した水準である(図7b)。
【0089】
20日まで、K15及びβ-カテニンは全てのマウス群で強く検出され(図7c)、K15+/β-カテニン+集団は全ての群で24%以上と示された(図7d)。毛嚢発達のための他の必須要素であるShh(Sonic hedgehog)がIM処理マウスまたはミノキシジル処理マウスで明確に検出された(図7c)。7日目に、全てのマウス群で Ki67+/Shh+ 集団が5%未満と示されたが(図7b)、20日目に対照群、IM処理またはミノキシジル処理マウス皮膚の単一細胞でそれぞれ13.8%、36.7%及び34%に増加した(図7d)。20日目に、Ki67+/Shh+ 集団は対照群に比べてIM処理マウスで2.7倍増加した(図7d)。
【0090】
実施例3.3.IM176OUT05による毛嚢再生初期段階における幹細胞代謝及び増殖前駆細胞の増殖活性効果
K15陽性毛嚢幹細胞は解糖作用転換を促進させる酵素であるピルベート脱水素酵素キナーゼ(PDK)を発現する一方、Ki67陽性増殖細胞は、ミトコンドリアOXPHOSに反応する酵素であるピルベート脱水素酵素(PDH)を強く発現することが知られている。7日目に、PDK発現がIM処理マウスのK15陽性幹細胞で検出されたが、対照群またはミノキシジル処理マウスでは検出されなかった(図8a)。7日目にFACS分析を行った結果、K15+/PDK+ 集団は対照群またはミノキシジル処理マウスでは検出されなかったが、IM処理マウス皮膚の単一細胞では5.9%の細胞集団で占有されたことを確認することができた(図8c)。これを通じて、IM処理マウスが対照群に比べて少なくとも6.6倍以上解糖作用幹細胞集団(K15+/PDK+)を増加させることを確認した。
【0091】
7日目に、PDH発現がIM処理マウスのKi67陽性増殖細胞で明確に確認され(図8a)、20日目には全ての群の増殖細胞で非常に高く検出された(図8b)。また、7日目に Ki67+/PDH+ 集団はIM処理マウスで13.7%増と示された一方、対照群及びミノキシジル処理マウスではそれぞれ5.0%及び8.3%と低く示された(図8c)。続けて、各マーカーの相互発現パターンを分析した結果、20日目にIM処理マウスでそれぞれ独立的にK15/PDH及びKi67/PDK発現が検出され(図12a)、これは、PDK発現解糖作用K15陽性毛嚢幹細胞とPDH発現OXPHOS依存的Ki67陽性増殖細胞が互いに明確に区分されることを示す。さらに、FACS分析を通じて、PDK+細胞集団及びKi67+細胞集団が明確に分離され、それぞれの集団は20日目にIM処理またはミノキシジル処理により増加することを確認することができた(図12b)。PDH+細胞及びK15+細胞の分離された集団も20日目にIM処理またはミノキシジル処理により増加したことを検出した(図12b)。
【0092】
実施例3.4.IM176OUT05による代謝及び毛髪再生と関連した遺伝子の発現効果
代謝及び毛髪再生と関連した遺伝子発現程度を各マウス群の皮膚組織を通じて分析した。解糖作用関連酵素(HK2及びLDHA)の発現は、7日目にIM処理マウスで顕著に誘導され、20日目に対照群と比較してIM処理及びミノキシジル処理マウスの両方で有意に増加した。この段階で、OXPHOS関連酵素(NDUS3及びATP5B)の発現は対照群に比べてIM処理マウス及びミノキシジル処理マウスの両方で増加した。これはIMが毛嚢再生初期段階における解糖作用を促進させ、その後の段階でのOXPHOSをさらに促進させることができ、これを通じて毛髪成長に必要な活性エネルギー代謝に寄与することを示唆する。毛嚢発達に関与する幹細胞能関連遺伝子(Wnt1a, Lef-1, Gli-1 及びベルシカン(versican))の発現は7日目にIM処理マウス皮膚で顕著に上方調節され、ミノキシジル処理マウスも対照群に比べてWnt1a,Lef-1及びGli-1)の発現が多少増加した。20日目に、IM処理マウス及びミノキシジル処理マウスはいずれも対照群に比べて上記幹細胞能関連遺伝子が顕著に誘導された(図8d)。
【0093】
実施例3.5.IM176OUT05による組織再生効果
組織再生に対するIMの影響を耳介組織修復を通じて観察した。その結果、IMは用量依存的に耳介の傷面積を減少させることを確認した。これを通じて、IMは毛髪成長以外にも組織再生を活性化させることを示唆する(図14)。これを通じて、IMは脱毛により損傷した毛嚢組織を復旧することができ、引き起こされ得る損傷を予防することができる。
【0094】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図6c
図6d
図7a
図7b
図7c
図7d
図8a
図8b
図8c
図8d
図9
図10
図11a
図11b
図12a
図12b
図13a
図13b
図14a
図14b