(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】マニピュレータ機能付き原子間力顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G01Q 30/20 20100101AFI20230522BHJP
G01Q 60/24 20100101ALI20230522BHJP
G01Q 10/04 20100101ALI20230522BHJP
【FI】
G01Q30/20
G01Q60/24
G01Q10/04 101
(21)【出願番号】P 2019149584
(22)【出願日】2019-08-19
【審査請求日】2022-06-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.「マニピュレーター付き高速AFMスキャナーの開発」,生物物理Vol.58 SUPPLEMENT1-2,第56回年会予稿集,S241ページ,1D1512,発行者 一般社団法人 日本生物物理学会,発行日 平成30年8月20日 2.「マニピュレーター付き高速AFMスキャナーの開発」,集会名 第56回日本生物物理学会年会(2018年度),開催日 平成30年9月15日(会期:9月15日~9月17日),開催場所 国立大学法人岡山大学 津島キャンパス 3.「マニピュレーター機能付き高速AFMスキャナーの開発」,平成30年度中部支部講演会講演要旨集,30ページ,ポスター発表リスト P28,発行者 日本生物物理学会,発行日 平成31年3月14日 4.「マニピュレーター機能付き高速AFMスキャナーの開発」,集会名 平成30年度 生物物理学会中部支部 講演会,開催日 平成31年3月26日,開催場所 岡崎コンファレンスセンター(OCC)2階小会議室
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「高速原子間力顕微鏡1分子計測のデータ同化による生体分子4次元構造解析法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】古寺 哲幸
(72)【発明者】
【氏名】高野 純
(72)【発明者】
【氏名】執行 航希
(72)【発明者】
【氏名】開発 秀星
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 信嗣
(72)【発明者】
【氏名】安藤 敏夫
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-194395(JP,A)
【文献】特開2000-155085(JP,A)
【文献】特開2016-194511(JP,A)
【文献】特開2018-091695(JP,A)
【文献】中村 史 他,AFMを利用したナノニードルによる単一細胞操作と計測,Electrochemistry,78巻,2010年10月05日,841-845,https://www.jstage.jst.go.jp/article/electrochemistry/78/10/78_10_841/_pdf/-char/ja,2023年3月14日検索, DOI:10.5796/electrochemistry.78.841
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q10/00 -90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
探針を有するカンチレバーと、前記探針と
生体分子からなる試料の表面との間の原子間力によって生ずる相互作用量に基づいて、前記試料に関する情報を取得する原子間力顕微鏡であって、
前記探針と試料表面との相対的位置を制御するスキャンステージと、
前記試料に外力を加えるマニピュレータステージとを
有し、
前記マニピュレータステージは先端径の直径が100nm以下のナノニードルを有し、前記ナノニードルにて生体分子からなる試料に外力を加えることで、前記生体分子の機能発現や反応速度の変調を観察することができることを特徴とするマニピュレータ機能付き原子間力顕微鏡。
【請求項2】
前記スキャンステージは、スキャンX,Y,Z軸方向の位置制御手段を有し、
前記マニピュレータステージは、マニピュレータX,Y,Z軸方向の移動制御手段を有し、前記スキャンX軸と前記マニピュレータX軸とが対向配置されていることを特徴とする請求項1記載のマニピュレータ機能付き原子間力顕微鏡。
【請求項3】
前記スキャンX,Y,Z軸とマニピュレータX,Y,Z軸とは、同期制御とオフセット制御の切り替え可能になっていることを特徴とする請求項2記載のマニピュレータ機能付き原子間力顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子間力顕微鏡に関し、特に試料に外力を加えることができる高速原子間力顕微鏡に係る。
【背景技術】
【0002】
高速原子間力顕微鏡は、自由端に探針を有するカンチレバーと、このカンチレバーの変位を検出する変位センサーと、上記探針と試料とを相対的に走査する走査機構を有している(特許文献1)。
このような高速原子間力顕微鏡にあっては、ナノメートルオーダーの高い解像度で試料の観察が可能である。
タンパク質や核酸などの生体分子にあっては、張力や圧縮力等の外力を加えることで、機能発現や反応速度の変調が生じることが知られている。
例えば、線維状のアクチンは引かれるとミオシンがより結合するようになり、コフィリンが結合しなくなると言われている。
一方、コフィリンは引かれていないアクチンに結合すると言われている。
しかし、従来の高速原子間力顕微鏡は、生体分子の形態等の観察が可能であっても、生体分子にいろいろな外力を加えることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、試料に外部から力を加えることができるマニピュレータ機能付きの原子間力顕微鏡の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るマニピュレータ機能付き原子間力顕微鏡は、探針を有するカンチレバーと、前記探針と試料の表面との間の原子間力によって生ずる相互作用量に基づいて、前記試料に関する情報を取得する原子間力顕微鏡であって、前記探針と試料表面との相対的位置を制御するスキャンステージと、前記試料に外力を加えるマニピュレータステージとを有することを特徴とする。
【0006】
カンチレバーの自由端には探針を有し、この探針と試料の表面との間の原子間力によって生ずる相互作用にて、このカンチレバーに変位が生じる。
例えば、相互作用量が一定になるように試料の表面を相対的に走査すると、カンチレバーの変位量に基づく試料表面の情報が得られる。
この変位量は、光学式の変位センサー等を用いて検出される。
【0007】
本発明は、スキンステージにより試料を走査する際に、マニピュレータステージにて、この試料に外力を加えることができるようにした点に特徴がある。
例えば、前記スキャンステージは、スキャンX,Y,Z軸方向の位置制御手段を有し、前記マニピュレータステージは、マニピュレータX,Y,Z軸方向の移動制御手段を有し、前記スキャンX軸と前記マニピュレータX軸とが対向配置する形態例が挙げられる。
ここで、スキャンX軸とスキャンY軸とは、試料の表面に沿ったX-Y面を表現し、この面に対して直交する方向をスキャンZ軸と表現する。
マニピュレータステージは、スキャンX軸に対向配置されたマニピュレータX軸を有し、スキャンY軸と同じ方向に配置したマニピュレータY軸とスキャンZ軸と同じ方向に配置したマニピュレータZ軸を設けることができる。
【0008】
このようにすると、スキャンX,Y,Z軸とマニピュレータX,Y,Z軸を同期制御(X軸は相互に反対方向)することで、試料に外力を加えない状態で試料の表面をスキャンでき、スキャンX,Y,Z軸とマニピュレータX,Y,Z軸とをオフセット制御することで、試料に外力を加えながら試料の表面をスキャンできる。
よって、本発明はこの同期制御とオフセット制御が切り替え可能になっている。
【0009】
本発明において、試料が生体分子等の微細なものである場合には、前記マニピュレータステージは、前記試料に外力を加えるためのナノニードルを有し、前記ナノニードルの先端径は直径で100nm以下であるのが好ましい。
また、試料に外力を加える上記ナノニードルは1つに限定する必要はなく、観察する試料の性質によっては、複数のナノニードルであっても良い。
ナノニードルの構造は極細の線材でも良く、例えば、ナノピペット構造にしても良い。
ナノピペット構造にするとその内側の細孔を利用して、吸引や払い出し等の外力を加えることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る原子間力顕微鏡は、試料に外力を加えながら試料の形態や動態を観察することができる。
ここで外力とは、圧縮方向,引張り方向等の力のみならず、ターゲットとなる対象物を押したり,吸ったり,出したり,引き延ばしたり等の動作も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る原子間力顕微鏡(AFM)におけるスキャンステージとマニピュレータステージの構成例を示す。
【
図2】(a)は部分拡大斜視図、(b)はA-A線断面図、(c)は部分拡大断面図を示す。
【
図4】スキャンステージとマニピュレータステージのオフセット制御の例を示す。
【
図5】スキャンステージとマニピュレータステージの制御例を示す。
【
図6】直径約350nmのビーズを用いた観察例を示す。
【
図8】ナノニードルの応用例を(a)~(d)に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るマニピュレータ機能付原子間力顕微鏡は、従来の原子間力顕微鏡や高速原子間力顕微鏡のスキャン機能にマニピュレータ機能を付加した点に特徴があり、この部分について図を用いて説明する。
【0013】
図1に斜視図、
図2にその拡大図及びA-A線断面図を示す。
スキャンステージ11とマニピュレータステージ12とが、セットとして配置されている。
スキャンステージ11は、試料Sを載置する基材11aを有し、この基材11aの位置をX軸方向に制御するXピエゾ素子(圧電素子)11
Xと、これと直交するY軸方向に制御するYピエゾ素子(圧電素子)11
Yと、X-Y面に直交する方向に制御するZピエゾ素子(圧電素子)11
Zを有する。
これらを本明細書では、スキャンX,Y,Z軸と表現する。
試料の表面との相互作用量を検出するのに探針13aを自由端にするカンチレバー13を有する。
図示を省略したが、このカンチレバー13の背面に反射面等を形成することで、この変位量を光学式に検出するセンサーを有する。
【0014】
マニピュレータステージ12は、スキャンステージ11の基材11aの近傍にナノニードル14を取り付けた基部12aを有し、この基部12aを移動制御するためであって、スキャンX軸(11
X)と対向配置したXピエゾ素子12
Xと、スキャンY軸と同一方向のYピエゾ素子12
Y、スキャンZ軸と同一方向のZピエゾ素子12
Zを有する。
本明細書では、これらとスキャンステージX,Y,Z軸と区別するために、マニピュレータX,Y,Z軸と表現する。
なお、
図1に示すようにスキャンステージ11及びマニピュレータステージ12は、左右対称に一体的に形成され、Xピエゾ素子11x,12xは弾性片10cにて復帰方向に付勢力を有し、Yピエゾ素子11
Y,12
Yも同様に弾性片10a,10bにて復帰方向の付勢力が作用している。
Zピエゾ素子も同様に復帰方向の付勢力が作用している。
【0015】
本実施例においてナノニードル14は、ベース片12bを介して接着部15にて接着した例になっているが、基部12aにナノニードルを取り付ける構造に制限はない。
ナノニードル14の先端部14aの直径は、生体分子の観察に対応できるように100nm以下になっていて、好ましくは10~60nmである。
また、ナノニードル14の接着部15から先端部14aまでの長さは、マニピュレータY軸方向の移動の際の撓みを小さくするために1mm以下が好ましく、さらに短くする例として、
図9に示すようにベース片12bに第2ベース片12cを接着部15にて接着し、この第2ベース片12cに接着部15aを介して、ナノニードル14を取り付けることもできる。
このようにすると、接着部15aから先端部14aまでの長さを200μm以下にすることができた。
【0016】
本発明は、スキャンステージ11とマニピュレータステージ12とを組み合せたことにより、
図3に示すようにナノニードル14の先端部14aを試料Sに対して、X軸方向,Y軸方向,Z軸方向にそれぞれ単独又は組み合せて移動制御できる。
この場合に、
図5を用いてスキャンステージ11のX
I軸,Y
I軸,Z
I軸及びマニピュレータステージ12のX
M軸,Y
M軸,Z
M軸の動きを説明する。
試料(ターゲット)Sに外力を加えない通常のイメージング時は、X
I,X
Mを同一方向に同期して動かし、Y
I,Y
M及びZ
I,Z
Mも同期動作させる。
これに対して、例えば
図4に矢印の長さで示すように、スキャンX軸とマニピュレータX軸とでピエゾ素子に印加する電圧に逆方向以外の差を設けて制御することで、オフセット力による外力が試料Sに加わる。
【0017】
図6は、直径約350nmのビースにナノニードルの先端による外力を加えた観察例を示す。
また、
図7はアクチンを切る前後やアクチンが移動する態様を観察した例を示す。
【0018】
本発明に係るAFMは、
図8(a),(b)に示すようにナノニードル14をナノピペット状にすると、ターゲットを吸ったり出したりすることができる。
また、(c),(d)に示すように例えば、脂質膜に生体内に近い凹凸をつけることもできる。
【符号の説明】
【0019】
11 スキャンステージ
11a 基材
12 マニピュレータステージ
12a 基部
13 カンチレバー
13a 探針
14 ナノニードル
15 接着部