(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】高周波誘電体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20230522BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230522BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20230522BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20230522BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
C08L23/00
C08J5/18 CES
C08J9/00 A
C08K3/26
H01B3/44 F
H01B3/44 G
(21)【出願番号】P 2021085778
(22)【出願日】2021-05-21
【審査請求日】2021-05-21
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】松田 聡
(72)【発明者】
【氏名】水野 英二
(72)【発明者】
【氏名】林 宏幸
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】松永 稔
【審判官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特許第6782505(JP,B1)
【文献】国際公開第2015/129851(WO,A1)
【文献】特開昭63-275204(JP,A)
【文献】特開2004-043984(JP,A)
【文献】特開2001-220514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と重質炭酸カルシウム粉末とを質量比40:60~30:70の割合で含有する組成物からなる高周波誘電体であって、
前記組成物は前記熱可塑性樹脂及び前記重質炭酸カルシウム粉末からなり、
前記熱可塑性樹脂はポリプロピレン単独重合体からなり、
前記高周波誘電体の1GHz以上の周波数及び25℃の温度における比誘電率εが5以下、誘電正接tanδが1×10
-3以下である、
高周波誘電体。
【請求項2】
空隙率が5%以上35%以下である、請求項1に記載の高周波誘電体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高周波誘電体の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂と前記
重質炭酸カルシウム粉末とを含有するシート状物を押出成形する工程、並びに、前記シート状物を一軸又は二軸延伸する工程を含む、高周波誘電体の製造方法。
【請求項4】
製造される前記高周波誘電体が、厚さ20μm以上1000μm以下、延伸倍率が1.1倍以上10.0倍以下の一軸又は二軸延伸シートである、請求項3に記載の高周波誘電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘電体に関する。詳しく述べると、本発明は、熱可塑性樹脂中に重質炭酸カルシウムが高充填され、良好な高周波特性と機械特性とを兼ね備える高周波誘電体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器に搭載される半導体素子の高周波数化が進んでいる。高周波数化に伴う誘電損失の増大による電力ロスを防ぐ観点から、誘電体デバイスの低誘電正接化が要求されている。高周波用の誘電体デバイスには、低誘電正接の他に、良好な機械特性や熱特性等も求められる。また、デバイスの用途やサイズに応じて、誘電率を適切な値に調整することが望ましい。従来、高周波誘電体を用いた共振器、フィルタ、アンテナ、回路基板、積層回路素子基板等の誘電体デバイスの分野では、誘電正接等の低い、高周波特性が良好な素材を得るために、熱可塑性又は熱硬化性樹脂中に酸化マグネシウムやセラミックス粉末等の無機物質粉末を添加した素材が用いられている(例えば特許文献1~4、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-24916号公報
【文献】特許2015-40296号公報
【文献】特開2009-249673号公報
【文献】特開2001-220514号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】今井、粉砕 No.58、p22~27(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で無機物質粉末として添加された酸化マグネシウム等は、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂の様な汎用の熱可塑性樹脂中に良好に分散させる上で難点がある。こうした高周波誘電体では、分散不良の結果、引張強度や伸び等の機械特性及び高周波特性のばらつきが大きく、実使用に耐えられない課題があった。無機物質粉末は、樹脂の弾性率等の機械特性を高める目的でも配合されるが、樹脂中での分散が悪いと破壊の起点となり、機械特性をむしろ低下させてしまう場合すらある。
【0006】
特許文献2や3に記載の発明では、被覆微粒子等の高価な無機物質粉末が必須であるため、高周波誘電体はコスト高なものとならざるを得ない。特許文献4の電子部品用樹脂組成物では、特定の炭酸カルシウムを添加することによって低コスト化を図っている。しかし、特許文献4記載の発明では、純度が99.5%以上という高純度の炭酸カルシウム、特に高純度軽質炭酸カルシウムの使用が必須であり、大幅なコスト低減はなし得ない。また、炭酸カルシウムや熱可塑性樹脂の種類によっては高周波特性が調整し難く、特許文献4の実施例でも、高純度炭酸カルシウムの添加によって誘電正接・誘電率共に大きくなっている事例が見られる。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、良好な高周波特性と機械特性とを兼ね備え、コスト的にも有利な高周波誘電体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、ポリオレフィン系樹脂のような汎用熱可塑性樹脂に、無機物質粉末として重質炭酸カルシウム粉末を高充填することで、良好な高周波特性と機械特性を兼ね備え、コスト的にも有利な高周波誘電体が得られること、また、1GHz以上の周波数における比誘電率及び誘電正接が特定の値以下であれば、様々な用途やサイズに応じた高周波誘電体が設計できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する高周波誘電体であって、前記熱可塑性樹脂はポリオレフィン系樹脂であり、前記無機物質粉末は重質炭酸カルシウム粉末であり、かつ1GHz以上の周波数及び25℃の温度における比誘電率εが5以下、誘電正接tanδが1×10-3以下であることを特徴とする、高周波誘電体である。
【0010】
本発明の樹脂組成物の一実施形態においては、前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂である、高周波誘電体が示される。
【0011】
本発明の樹脂組成物の一実施形態においては、前記重質炭酸カルシウム粉末は、表面処理された重質炭酸カルシウム粉末である、高周波誘電体が示される。
【0012】
本発明の樹脂組成物の一実施形態においては、前記重質炭酸カルシウム粉末は、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上7.0μm以下である、高周波誘電体が示される。
【0013】
本発明の樹脂組成物の一実施形態においては、前記重質炭酸カルシウム粉末は、BET比表面積が0.1m2/g以上10.0m2/g以下、真円度が0.50以上0.95以下である、高周波誘電体が示される。
【0014】
本発明の樹脂組成物の一実施形態においては、前記重質炭酸カルシウム粉末は、平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群を含み、かつ前記した平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群として、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上2.2μm未満の第一炭酸カルシウム粒子群と、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が2.2μm以上7.0μm以下の第二炭酸カルシウム粒子群とを、質量比1:1~5:1で含有している、高周波誘電体が示される。
【0015】
本発明の樹脂組成物の一実施形態においては、前記第一炭酸カルシウム粒子群の平均粒子径をaとし、前記第二炭酸カルシウム粒子群の平均粒子径をbとした場合に、a/b比率が0.85以下である、高周波誘電体が示される。
【0016】
本発明の樹脂組成物の一実施形態においては、空隙率が5%以上35%以下である、高周波誘電体が示される。
【0017】
本発明の樹脂組成物の一実施形態においては、上記何れかの高周波誘電体の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂と前記無機物質粉末とを含有するシート状物を押出成形する工程、並びに、前記シート状物を一軸又は二軸延伸する工程を含む、高周波誘電体の製造方法が示される。
【0018】
本発明の樹脂組成物の一実施形態においては、前記高周波誘電体が、厚さ20μm以上1000μm以下、延伸倍率が1.1倍以上10.0倍以下の一軸又は二軸延伸シートである、高周波誘電体が示される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好な高周波特性と機械特性とを兼ね備え、コスト的にも有利な高周波誘電体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0021】
≪高周波誘電体≫
本発明の高周波誘電体は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する熱可塑性樹脂組成物であり、1GHz以上の周波数及び25℃の温度における比誘電率εが5以下、誘電正接tanδが1×10-3以下である。前記熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂はポリオレフィン系樹脂であり、無機物質粉末は重質炭酸カルシウム粉末である。以下、これら熱可塑性樹脂及び無機物質粉末について説明する。
【0022】
≪ポリオレフィン系樹脂≫
本発明に係る高周波誘電体に使用し得るポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されるものではなく、当該組成物のその用途、機能等に応じて、各種のものが用いられ得る。ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂であり、具体的にはポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、その他、ポリメチル-1-ペンテン、環状オレフィンポリマー、エチレン-環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂など、さらにそれらの2種以上の混合物などが挙げられる。なお、上記「主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。特に、実質的にモノマー成分の全てがオレフィンである樹脂、中でもポリオレフィンの単独重合体(ホモポリマー)が好ましい。なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、酸素、過酸化物等のラジカル開始剤等を用いる方法等のいずれによって得られたものであっても良い。
【0023】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、プロピレン単独重合体、又はプロピレンと共重合可能な他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。プロピレン単独重合体としては、アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック及び種々の立体規則性を示す直鎖又は分枝状ポリプロピレン等の何れもが包含される。また上記共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても良く、さらに二元共重合体のみならず三元共重合体であっても良い。共重合成分(他のモノマー)としては、テトラフロロエチレンや酢酸ビニル等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明においては、好ましくは単独重合体、あるいは他のモノマーが少量、例えば5質量%未満共重合した樹脂を使用する。なお、プロピレンの単独重合体においても、重合の結果として例えばヘキセン等のα-オレフィンが共重合したかのような構造が一部に含まれる場合があるが、本発明においてはそうした重合体をも、広くプロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)として包含する。また、これらのポリプロピレン系樹脂は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
前記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等、さらにそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0025】
前記したポリオレフィン樹脂の中でも、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂、特に、機械特性と耐熱性とのバランスに特に優れることからポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。中でも、プロピレンホモポリマーが好ましい。上記のようにプロピレンホモポリマーとしては、種々の立体構造の直鎖又は分枝状ポリプロピレン等の何れであっても良く、その分子量にも特に制限はない。プロピレンホモポリマー、特にアイソタクティックポリプロピレンは、各種ポリマー材料中でも比誘電率及び誘電正接の低い熱可塑性樹脂であり、本発明の高周波誘電体に好適である。立体構造や分子量の異なる、複数のプロピレンホモポリマーを併用することも可能である。
【0026】
本発明の高周波誘電体において、熱可塑性樹脂は上記のようなポリオレフィン系樹脂であるが、さらにこれら以外の樹脂成分を含んでもよい。例としてポリ(メタ)アクリル酸(エステル)、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリビニルアルコール、石油炭化水素樹脂、クマロンインデン樹脂等の熱可塑性樹脂;さらにはスチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-ブタジエン-エチレン共重合体、スチレン-イソプレン-エチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、フッ素系エラストマー等のエラストマーが挙げられるが、これらに限定されない。これら樹脂成分の配合により、高周波誘電体を構成する樹脂組成物中で各成分がより均一に分散し、物性や加工性が改善する場合がある。しかしながら各種樹脂成分の相溶性等を考慮すると、本発明の高周波誘電体における熱可塑性樹脂は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは97質量%以上、特に好ましくは実質的に全量が、上記のポリオレフィン系樹脂から成る。ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂成分を実質的に不含の高周波誘電体であれば、原材料や組成、加工条件の選定が特に容易となる。
【0027】
≪重質炭酸カルシウム粉末≫
本発明に係る高周波誘電体においては、無機物質粉末として重質炭酸カルシウム粉末を使用する。ここで、重質炭酸カルシウムとは、天然の石灰石等を機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、乾式法によるものが好ましい。
【0028】
重質炭酸カルシウム粉末は、例えば、合成法による軽質炭酸カルシウムとは異なり、粒子形成が粉砕処理によって行われたことに起因する、表面の不定形性、比表面積の大きさに特徴を有する。重質炭酸カルシウム粉末がこの様に不定形性、比表面積の大きさを有するため、熱可塑性樹脂中に配合した場合に重質炭酸カルシウム粉末は、熱可塑性樹脂に対してより多くの接触界面を有し、均一分散に効果がある。
【0029】
重質炭酸カルシウム粉末の分散性又は反応性を高めるために、表面が常法に従い表面改質されていても良い。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するもの等が例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであっても良く、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。これらとは逆に、表面処理のされていない重質炭酸カルシウム粉末が含有されていても構わない。
【0030】
特に限定されるわけではないが、重質炭酸カルシウム粉末は、BET比表面積が0.1m2/g以上10.0m2/g以下であることが好ましい。比表面積がこの範囲内にあると、得られる成形品の加工性低下が抑制される傾向がある。
【0031】
また、重質炭酸カルシウム粉末(粒子)の不定形性は、粒子形状の球形化の度合いが低いことで表わすことが出来、特に限定されるわけではないが、具体的には、真円度が0.50以上0.95以下、より好ましくは0.55以上0.93以下、さらに好ましくは0.60以上0.90以下である。重質炭酸カルシウム粉末の真円度がこの範囲内にあると、成形品の強度や成形加工性も適度なものとなる。なお、ここで、真円度とは、(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)で表せるものである。真円度の測定方法は特に限定されず、例えば顕微鏡写真から粒子の投影面積と粒子の投影周囲長とを測定しても良く、一般に商用されている画像解析ソフトを用いても良い。
【0032】
重質炭酸カルシウム粉末としては、特に限定される訳ではないが、その平均粒子径が、0.7μm以上7.0μm以下が好ましく、0.8μm以上6.0μm以下がより好ましく、さらに好ましくは、1.0μm以上4.0μm以下である。なお、本明細書において述べる重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径は、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所製の比表面積測定装置SS-100型を好ましく用いることができる。平均粒子径が7.0μmよりも大きくなると、例えばシート状の成形品を形成した場合に、その成形品の層厚にもよるが、成形品表面より重質炭酸カルシウム粉末が突出して、当該粉末が脱落したり、表面性状や機械強度等を損なうおそれがある。特に、その粒径分布において、粒子径45μm以上の粉末(粒子)を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形品の製造が困難になる虞れがある。そうした問題は、無機物質粉末の平均粒子径を0.7μm以上7.0μm以下、特に0.8μm以上6.0μm以下とすることによって、防ぐことが可能となる。
【0033】
本発明においては、重質炭酸カルシウム粉末が、平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群を含み、かつ前記した平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群として、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上2.2μm未満の第一炭酸カルシウム粒子群と、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が2.2μm以上7.0μm以下の第二炭酸カルシウム粒子群とを、質量比1:1~5:1で含有していることが好ましい。このことによって、高周波誘電体の表面性状や、印刷性、ブロッキング性等の物性を改善することができる。また、炭酸カルシウムの偏在が抑制され、外観及び、破断伸び等の機械特性が良好な高周波誘電体を得ることができ、高周波誘電体からの炭酸カルシウムの脱落を低減することも可能となる。
【0034】
特に限定されるわけではないが、第一炭酸カルシウム粒子群の平均粒子径をaとし、第二炭酸カルシウム粒子群の平均粒子径をbとした場合に、a/b比率が0.85以下、より好ましくは0.10~0.70、さらに好ましくは0.10~0.50程度となるように大別できるものであることが望ましい。このようなある程度明確な平均粒子径の差をもったものを併用することで、特に優れた効果が期待できるためである。また、第一炭酸カルシウム粒子群と第二炭酸カルシウム粒子群のそれぞれは、その粒子径(μm)の分布の変動係数(Cv)が0.01~0.10程度であることが望ましく、特に0.03~0.08程度であることが望ましい。変動係数(Cv)で規定される粒子径のばらつきがこの程度であれば、各粉末群がより相補的に効果を与え得ると考えられる。平均粒子径分布が異なる炭酸カルシウム群として、3つ以上のものを使用してもよい。また、前記第一炭酸カルシウム粒子群及び第二炭酸カルシウム粒子群の各粉末が、何れも表面処理された重質炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0035】
本発明の高周波誘電体において、無機物質粉末は上記のような重質炭酸カルシウム粉末であるが、さらにこれら以外の無機物質粉末を含んでもよい。例としてカルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、ウォラストナイト、ドロマイト、黒鉛等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであっても良く、また、これらは単独又は2種類以上併用して含有されても良い。
【0036】
なお、高周波誘電体の物性や成形性等を考慮すると、本発明の高周波誘電体における無機物質粉末は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは不可避的不純物を除く実質的に全量が、上記の重質炭酸カルシウム粉末から成る。重質炭酸カルシウム粉末以外の無機物質粉末を実質的に不含の高周波誘電体であれば、高周波特性や機械特性等の物性が特に良好となる。
【0037】
≪熱可塑性樹脂組成物≫
本発明の高周波誘電体は、上記した熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含む熱可塑性樹脂組成物により構成される。熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とは、50:50~10:90の質量比で含有される。無機物質粉末の含有量が少ないと、熱可塑性樹脂組成物の質感や強度等の物性が得難く、多すぎると混練や成形加工が困難となり、柔軟性も不十分となるためである。
【0038】
また、熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂と無機物質粉末との合計質量に占める無機物質粉末の比率は、好ましくは52質量%以上、より好ましくは55質量%以上である。同比率の上限値に関しては、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、特に好ましくは70質量%以下とする。
【0039】
高周波誘電体を構成する熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材(流動性調整剤)、架橋剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤等を配合しても良い。これらの添加剤は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、これらは、後述の混練工程において配合しても良く、混練工程の前にあらかじめ原料成分中に配合していても良い。
【0040】
熱可塑性樹脂組成物において、これらのその他の添加剤の添加量は、所望の物性及び加工性を阻害しない限り特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100%とした場合に、これらその他の添加剤はそれぞれ0~10質量%程度、特に0.04~5質量%程度の割合で、かつ当該その他の添加剤全体で10質量%以下となる割合で配合されることが望まれる。例えば、高周波誘電体を構成する熱可塑性樹脂組成物全100質量%中には、10~45質量%、特に20~25質量%のポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂;90~45質量%、特に75~55質量%の重質炭酸カルシウム等の無機物質粉末;及び0~10質量%、特に0.04~5質量%の上記添加剤とが含有されていてもよい。
【0041】
以下に、これら添加剤のうち、重要と考えられるものについて例を挙げて説明するが、これらに限られるものではない。
【0042】
可塑剤としては、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチル・トリエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ-2-メトキシエチル、酒石酸ジブチル、o-ベンゾイル安息香酸エステル、ジアセチン、エポキシ化大豆油等が挙げられる。これら可塑剤は通常、熱可塑性樹脂に対して数質量%程度配合されるが、その量はこれら範囲に限定されず、高周波誘電体の用途によってはエポキシ化大豆油等を20~50質量部程度配合することも可能である。しかしながら本発明の高周波誘電体においては、その配合量は熱可塑性樹脂100質量部に対し0.5~10質量部、特に1~5質量部程度とするのが好ましい。
【0043】
色剤としては、公知の有機顔料又は無機顔料あるいは染料の何れをも用いることができる。具体的には、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料などの有機顔料や群青、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。
【0044】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系滑剤;脂肪族アルコール系滑剤;ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、高級脂肪酸のビスアミド酸、複合型アミド等の脂肪族アマイド系滑剤;ステアリン酸-n-ブチル、ヒドロキシステアリン酸メチル、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス等の脂肪族エステル系滑剤;脂肪酸金属石鹸系滑剤、例えばジンクステアレートやステアリン酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0045】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤が使用できる。リン系、より具体的には亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系酸化防止安定剤が好ましく用いられる。亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0046】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2-エチルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。これらリン系酸化防止剤は単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0047】
フェノール系の酸化防止剤としては、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2-t-ブチル-6-(3'-t-ブチル-5'-メチル-2'-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル、及びテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン等が例示され、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0048】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤や、あるいはリン系難燃剤や金属水和物などの非リン系ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン、ハロゲン化ビスフェニルエーテル、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル、ハロゲン化ビスフェニルスルフォンなどのハロゲン化ビスフェノール系化合物、臭素化ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールS、塩素化ビスフェノールA、塩素化ビスフェノールSなどのビスフェノール-ビス(アルキルエーテル)系化合物等が、またリン系難燃剤としては、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸トリアリールイソプロピル化物、クレジルジ2、6-キシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が、金属水和物としては、例えば、アルミニウム三水和物、水酸化マグネシウム又はこれらの組み合わせ等がそれぞれ例示でき、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。難燃助剤として働き、より効果的に難燃効果を向上させることが可能となる。さらに、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を難燃助剤として併用することも可能である。
【0049】
発泡剤は、溶融混練機内で溶融状態にされている熱可塑性樹脂組成物に混合、又は圧入し、固体から気体、液体から気体に相変化するもの、又は気体そのものであり、例えば後記のように高周波誘電体の空隙率(発泡倍率)を制御するために使用される。発泡剤は、常温で液体のものは樹脂温度によって気体に相変化して溶融樹脂に溶解し、常温で気体のものは相変化せずそのまま溶融樹脂に溶解する。溶融樹脂に分散溶解した発泡剤は、溶融樹脂を押出ダイからシート状に押出した際に、圧力が開放されるのでシート内部で膨張し、シート内に多数の微細な独立気泡を形成して発泡シートが得られる。発泡剤は、副次的に原料樹脂組成物の溶融粘度を下げる可塑剤として作用し、原料樹脂組成物を可塑化状態にするための温度を低くする。
【0050】
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;クロロジフルオロメタン、ジフロオロメタン、トリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロメタン、クロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、テトラクロロジフルオロエタン、パーフルオロシクロブタンなどのハロゲン化炭化水素類;二酸化炭素、チッ素、空気などの無機ガス;水などが挙げられる。
【0051】
発泡剤としては、さらに、例えば、キャリアレジンに発泡剤の有効成分が含まれるものを好ましく用いる事ができる。キャリアレジンとしては、結晶性オレフィン樹脂等が挙げられる。これらのうち、結晶性ポリプロピレン樹脂が好ましい。また、有効成分としては、炭酸水素塩等が挙げられる。これらのうち、炭酸水素塩が好ましい。結晶性ポリプロピレン樹脂をキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む発泡剤コンセントレートであることが好ましい。
【0052】
成形工程において発泡剤に含まれる発泡剤の含有量は、熱可塑性樹脂及び無機物質粉末の量等に応じて適宜設定することができ、熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して0.04~5.00質量%の範囲とすることが好ましい。
【0053】
流動性調整剤としても、種々の慣用のものを使用することができる。例としてジアルキルパーオキサイド等の過酸化物、例えば1,4-ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン等が挙げられるが、これらに限定されない。使用する熱可塑性樹脂の種類によっては、これら過酸化物は架橋剤としても作用する。特に上記ポリオレフィン系樹脂がジエン由来の構成単位を有する場合、上記過酸化物の作用で共重合体の一部が架橋し、熱可塑性樹脂組成物の物性や加工性を制御する上での一助となり得る。過酸化物の添加量に特に制限はないが、熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して0.04~2.00質量%、特に0.05~0.50質量%程度の範囲とすることが好ましい。
【0054】
<熱可塑性樹脂組成物の調製方法>
上記の熱可塑性樹脂組成物を調製する方法としては、通常の方法を使用することができ、成形方法(押出成形、射出成形、真空成形等)に応じて適宜設定することが可能である。例えば、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを溶融混練することにより調製できる。溶融混練は、各成分を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましい。混合装置としても、一般的な押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等種々のものを用いることができるが、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。調製した熱可塑性樹脂組成物は例えば、所望の形状及びサイズのペレットとし、本発明の高周波誘電体の製造に用いることができる。また、目的とする高周波誘電体の形状によっては、各原料を混練して熱可塑性樹脂組成物を調製すると同時に、高周波誘電体へと成形することも可能である。例えば、各種原料を二軸押出機で混練し、シート状物を押出成形することにより、シート形状の高周波誘電体を製造することができる。
【0055】
≪高周波誘電体の製造方法≫
本発明の高周波誘電体の製造方法としては、所望の形状に成形できるものであれば特に限定されず、従来公知の押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、カレンダー成形等の何れの方法を用いてもよい。さらにまた、本発明に係る高周波誘電体が発泡体である態様においても、所望の形状に成形できるものであれば従来公知の射出発泡,押出発泡,発泡ブロー等の液相発泡法、あるいは、例えば、ビーズ発泡,バッチ発泡,プレス発泡,常圧二次発泡等の固相発泡法の何れを用いることも可能である。前記した、結晶性ポリプロピレンをキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、射出発泡法及び押出発泡法が望ましく用いられ得る。
【0056】
しかしながら本発明の高周波誘電体の製造方法は、上記のような熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを含有するシート状物を押出成形する工程、並びに、該シート状物を一軸又は二軸延伸する工程を含むことが好ましい。こうした製造方法により、目的とする比誘電率及び誘電正接を有する高周波誘電体、特にシート状の高周波誘電体を、効率よく低コストで製造することができる。
【0057】
<押出成形工程>
押出成形工程に特に制限はなく、上記したような種々の公知の押出成形法により行うことができる。シート状物表面の平滑性を考慮すると、二軸押出機、特にTダイ方式の二軸押出成形機を使用するのが好ましい。こうした成形機を用い、例えば熱可塑性樹脂の融点+55℃以下、好ましくは、熱可塑性樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、熱可塑性樹脂の融点+10℃以上かつ熱可塑性樹脂の融点+45℃以下の温度で押出成形することにより、外観及び物性に優れた高周波誘電体を製造することができる。
【0058】
<延伸工程>
上記のように押出成形されたシート状物は、好ましくは次に延伸処理に付される。延伸処理としては特に限定されるものではなく、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又は二軸方向に、乃至、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能である。より好ましくは、一軸又は二軸延伸(例えば、縦及び/又は横延伸)に付す。また、延伸倍率は1.1倍以上10.0倍以下、特に1.5倍以上5.0倍以下とするのが好ましい。また、二軸延伸の場合には、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸であっても良い。こうした延伸処理により、高周波誘電体の機械特性を改善できる上、比誘電率及び誘電正接を、適切な値に調整し易くなる。また、無機物質粉末を含有する熱可塑性樹脂組成物は、延伸処理によって微小な空隙を生じ、その結果軽量化を図ることも可能である。なお、高周波誘電体の空隙率は、上記した発泡剤の配合によっても調整することができる。
【0059】
≪本発明の高周波誘電体≫
本発明の高周波誘電体は、上記のように1GHz以上の周波数及び25℃の温度における比誘電率εが5以下、好ましくは3以下、かつ誘電正接tanδが1×10-3以下、好ましくは7×10-4以下、より好ましくは5×10-4以下、さらに好ましくは4×10-4以下、特に好ましくは3×10-4以下であり、優れた高周波特性を示す。また、共振器、フィルタ、アンテナ、回路基板、積層回路素子基板等、様々な用途やサイズに好適な高周波誘電体として設計することも可能である。しかも、ポリオレフィン系樹脂及び重質炭酸カルシウム粉末を主原料とするため、良好な機械特性を兼ね備え、コスト的にも有利である。そのため、種々の誘電体デバイスに好適に使用し得る。
【0060】
本発明の高周波誘電体の形状・構成に特に制限はなく、目的に応じた所望の形状・構成とすることができる。特に、本発明の高周波誘電体は、厚さ20μm以上1000μm以下、特に50μm以上500μm以下、かつ延伸倍率が1.1倍以上10.0倍以下、特に1.5倍以上5.0倍以下の一軸又は二軸延伸シートであることが好ましい。こうしたシートから高周波誘電体を切り出し、あるいは削り出す等して、所望の形状とすることができる。
【0061】
本発明の高周波誘電体はまた、空隙率が5%以上35%以下、特に10%以上、さらには15%以上、30%以下であることが好ましい。高周波誘電体が微細空隙をこうした比率で含むと、比誘電率や誘電正接が低減する場合がある。ここで、空隙率は高周波誘電体の密度(比重)から計算することができる。例えばポリプロピレン樹脂及び炭酸カルシウムから成るシートでは、それぞれの真比重0.90及び2.71を用いて配合量から混合物の真比重ρoが算出される。その値と、実際のシートの比重ρとの比に基づき、下式に従って空隙率を計算することができる。
空隙率(体積%)=(1-ρ/ρo)×100
【0062】
高周波誘電体の空隙率や空隙のサイズは、例えば延伸加工によって調整することができる。無機物質粉末含有熱可塑性樹脂組成物を延伸すると、無機粒子を核にして延伸が行われるため、生成する空隙は大きなものになる。上記した発泡剤の添加によって空隙率を調整することも可能である。また、発泡剤の添加や延伸工程を行わずとも、押出成形によって空隙率を調整することもできる。押出成形機に混入した空気は、通常はベントによって成形機外に除去されるが、一部は熱可塑性樹脂組成物に巻き込まれ、微細な空隙を形成する場合がある。そのため、押出成形の条件を検討し、高周波誘電体の空隙率を上記の範囲内に調整することも可能である。
【実施例】
【0063】
以下本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解をより容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
(評価方法)
以下の実施例および比較例においての各物性値はそれぞれ以下の方法により評価されたものである。
【0065】
(無機物質粉末の平均粒径)
島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を用い、JIS M-8511に準拠して空気透過法による比表面積の測定結果から計算した。
【0066】
(比表面積)
マイクロトラック・ベル社製、BELSORP-miniを用い、窒素ガス吸着法によって求めた。
【0067】
(粒子の真円度)
粉末の粒度分布を代表するように、100個の粒子のサンプリングを行い、光学顕微鏡を用いて得たこれらの各粒子の投影図を市販の画像解析ソフトを用いて画像解析することによって真円度を求めた。測定原理としては、粒子の投影面積と粒子の投影周囲長とを測定し、各々(A)と(PM)とし、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の半径を(r)、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積を(B)とし、
真円度=A/B=A×4π/(PM)2
を求めるものである。
【0068】
(引張特性)
引張強さ及び破断点伸びは、JIS K 7161-2:2014に準拠して、23℃、50%RHの条件下で、オートグラフAG-100kNXplus(株式会社島津製作所)を用いて測定した。試験片としては、後記する成形品より切り出したダンベル形状とした。延伸速度は50mm/分であった。
【0069】
(電気特性)
誘電率及び誘電正接は、JIS 2565に準拠して、周波数1GHzでの値を、空洞共振器を用いて25℃にて測定した。
体積固有抵抗は、JIS K 6921-2:2018に準拠して、日東精工アナリテック株式会社製抵抗率計MCP-HT800を用いて測定した。
【0070】
(原材料)
以下の実施例および比較例において使用した原材料は、それぞれ以下のものであった。
・熱可塑性樹脂
PP: ポリプロピレン単独重合体((株)プライムポリマー製:プライムポリプロ(登録商標)E111G、融点160℃)
【0071】
・無機物質粉末
CC1:重質炭酸カルシウム粒子(表面処理なし) 平均粒径1.00μm、比表面積22,000cm2/g(備北粉化工業株式会社製、ソフトン2200)
CC2:重質炭酸カルシウム粒子(表面処理なし) 平均粒径3.60μm、比表面積6,000cm2/g、真円度:0.90(備北粉化工業株式会社製、BF100)
CC3:重質炭酸カルシウム粒子(脂肪酸表面処理) 平均粒径2.2μm(備北粉化工業株式会社製、ライトンS-4)
MgO:酸化マグネシウム微粒子 平均粒径0.2μm(宇部マテリアル製2000A)
【0072】
・添加剤
D(帯電防止剤):丸菱油化工業株式会社製のPC-4(リチウム塩)
E(滑剤):ステアリン酸マグネシウム
F1(酸化防止剤):株式会社ADEKA製のアデカスタブ(登録商標)AO-60(フェノール系酸化防止剤)
F2(酸化防止剤):株式会社ADEKA製のアデカスタブ(登録商標)2112(ホスファイト系酸化防止剤)
【0073】
[実施例1]
上記の原材料の内、40質量部のPP、40質量部のCC1、20質量部のCC2、並びに添加剤D、E、F1、及びF2それぞれ1質量部を、(株)パーカーコーポレーション製同方向回転二軸混錬押出機HK-25D(φ25mm、L/D=41)に投入し、シリンダー温度190~200℃でストランド押出後、冷却、カットすることでペレット化した。
【0074】
上記のようにして作製したペレットを(株)東洋精機製作所製ラボプラストミル一軸Tダイ押出成形装置(φ20mm、L/D=25)により、220℃で押出し、引取り方向に4倍となるように190℃で延伸を行って、厚さ約150μmのシートに成形した。得られたシートについて、上記の試験方法によって物性を評価した。評価結果を、原材料の配合及びシート成形性と共に、後記する表1に示す。
【0075】
[実施例2]
原材料として30質量部のPP、70質量部のCC3、並びに添加剤D、E、F1、及びF2それぞれ1質量部を用いて約80μm厚のシートを成形し、シート成形後に二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。二軸延伸は、引取り方向に2倍、引取り方向に対し垂直な方向に2倍となるように、同時に行った。評価結果等を、後記する表1に示す。
【0076】
[実施例3]
添加剤としてD(帯電防止剤)を3質量部使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。評価結果等を、後記する表1に示す。
【0077】
[比較例1~2]
原材料として重質炭酸カルシウム粉末を使用せず、表1に示す配合で実施例1と同様の操作を行った。評価結果等を、後記する表1に示す。
【0078】
[比較例3]
PP量を55質量部、CC3量を45質量部とした以外は、実施例2と同様の操作を行った。評価結果等を、表1に示す。
【0079】
【0080】
本発明に従い、ポリオレフィン系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する実施例1のシートでは、プロピレン単独重合体(比較例1)に比べ、比誘電率を損なうことなく、融点正接を低下させることができた。シート成形性も良好で、引張強さも高められていた。一方、無機物質粉末として酸化マグネシウムを用いた比較例2では、樹脂中での粉末の分散が悪く、40質量部を超える酸化マグネシウムを充填することはできなかった。比較例2のシートは、誘電正接こそプロピレン単独重合体よりも低い値となったものの、比誘電率が大きく上昇した。また、引張特性も低く、実用に供し難いものであった。それに対し、本発明に従う実施例1~3のシートは、比誘電率を損なうことなく良好な引張特性が発現した。また、実施例2と比較例3より、良好な高周波特性を発現する上で、熱可塑性樹脂と等量以上の重質炭酸カルシウム粉末を含有することが必要であることが示された。
【0081】
[実施例4]
原材料として40質量部のPP、60質量部のCC3、並びに添加剤E、F1、及びF2それぞれ1質量部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。評価結果等を、後記する表2に示す。
【0082】
[実施例5]
一軸延伸を行わなかった以外は、実施例4と同様の操作を行った。評価結果等を、後記する表2に示す。
【0083】
[実施例6]
シート押出後に延伸を行わず、代わりに真空プレスに付して厚さ約220μmのシートに成形した以外は、実施例4と同様の操作を行った。評価結果等を、表2に示す。
【0084】
【0085】
実施例4及び5より、延伸操作によって高周波特性が改善されることが示された。また、実施例6より、空隙率が5%未満だと、高周波特性が十分には改善されない場合があることが示された。
【0086】
上記実施例から示されるように、本発明により、良好な高周波特性と機械特性とを兼ね備えた高周波誘電体が提供された。本発明の高周波誘電体はポリオレフィン系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末を主原料とするので、コスト面でも有利である。