(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ(CNT)ペーストエミッタ、その製造方法及びそれを利用するX線管装置
(51)【国際特許分類】
H01J 35/06 20060101AFI20230522BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20230522BHJP
【FI】
H01J35/06 B
C01B32/168
(21)【出願番号】P 2022539762
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 KR2020006518
(87)【国際公開番号】W WO2021137363
(87)【国際公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0178646
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0034214
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】314000442
【氏名又は名称】高麗大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145, Anam-ro Seongbuk-gu Seoul 02841, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】イ,チョル ジン
(72)【発明者】
【氏名】ゴ,ハン ビン
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン ホン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108172488(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0123831(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0109154(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0014636(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0033669(KR,A)
【文献】特表2007-505474(JP,A)
【文献】特表2009-518806(JP,A)
【文献】特開2015-078096(JP,A)
【文献】国際公開第2012/057320(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/06
C01B 32/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CNTペーストの製造方法において、
CNTパウダー、グラファイトナノ粒子、分散剤、及び蒸留水を混合した後、超音波処理により分散工程を行うステップと、
前記分散工程により分散された溶液とグラファイト接着剤を混合した後、ボールミル工程によりCNTペーストを生成するステップとを含む、CNTペーストの製造方法。
【請求項2】
CNTペーストの製造方法において、
第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子、分散剤、及び蒸留水を混合した後、超音波処理により分散工程を行うステップと、
前記分散工程により分散された溶液を濾過して第2のCNTパウダーを得るステップとを含む、CNTペーストの製造方法。
【請求項3】
前記第2のCNTパウダーとグラファイト接着剤を混合した後、ボールミル工程によりCNTペーストを生成するステップをさらに含む、請求項2に記載のCNTペーストの製造方法。
【請求項4】
前記第2のCNTパウダーを得るステップは、
減圧濾過(vacuum filtration)を利用してPTFE(Poly-tetra Fluoroethylene)素材の濾過膜(membrane)上に濾過してフィルム形態に乾燥させるステップを含み、
前記第2のCNTパウダーは、第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子が満遍なく分散されたものである、請求項2に記載のCNTペーストの製造方法。
【請求項5】
前記第2のCNTパウダーは、SiO
2ナノ粒子及びTiO
2ナノ粒子をさらに含む、請求項3に記載のCNTペーストの製造方法。
【請求項6】
前記CNTペーストは、円形又は棒形の薄膜に形成し、単一型又はアレイ型に形成する、請求項3に記載のCNTペーストの製造方法。
【請求項7】
前記CNTペーストを生成するステップは、
前記ボールミル工程を10分以下で行う、請求項3に記載のCNTペーストの製造方法。
【請求項8】
CNTペーストエミッタの製造方法において、
その上部面に界面層が積層された金属又はグラファイト基板を提供するステップと、
スクリーンプリンティング技法により、前記基板にCNTペーストを押し付けるステップと、
焼成工程を行うステップと、
前記焼成工程が完了したCNTペーストの表面に対して表面処理を行うステップとを含む、CNTペーストエミッタの製造方法。
【請求項9】
前記CNTペーストは、
第2のCNTパウダーと、グラファイト接着剤とを含み、
前記第2のCNTパウダーは、第1のCNTパウダーと、グラファイトナノ粒子と、SiCナノ粒子と、Niナノ粒子とを含む、請求項8に記載のCNTペーストエミッタの製造方法。
【請求項10】
前記第2のCNTパウダーは、SiO
2ナノ粒子及びTiO
2ナノ粒子をさらに含む、請求項9に記載のCNTペーストエミッタの製造方法。
【請求項11】
前記その上部面に界面層が積層された基板を提供するステップは、
銅ホイル上にグラフェンを合成するステップと、
前記グラフェン上にPMMA薄膜をコーティングするステップと、
エッチング溶液により前記銅ホイルを除去するステップと、
前記銅ホイルが除去されたグラフェンを前記基板に転写するステップと、
転写工程が完了した後に前記PMMA薄膜を除去するステップとを含む、請求項8に記載のCNTペーストエミッタの製造方法。
【請求項12】
前記基板にCNTペーストを押し付けるステップは、
1つ以上のパターンを有するマスクを前記基板上に固定するステップと、
前記マスク上に前記CNTペーストを配置した後、スクイージにより前記CNTペーストを繰り返して前記基板上に押し付け、前記パターンと対応するCNTペーストエミッタを前記基板上に形成するステップとを含む、請求項8に記載のCNTペーストエミッタの製造方法。
【請求項13】
前記焼成工程を行うステップは、
大気雰囲気において第1次熱処理工程を行い、真空雰囲気において第2次熱処理工程を行うステップを含み、
前記CNTペーストのうちNiナノ粒子は、前記熱処理工程により、前記CNTペーストの内部及び前記基板上において溶融状態となる、請求項9に記載のCNTペーストエミッタの製造方法。
【請求項14】
CNTペーストエミッタを利用するX線管装置において、
CNTペーストエミッタが結合されたカソード電極と、
前記カソード電極の上部に前記CNTペーストエミッタの大きさよりも面積が広い孔が形成され、その下部又は上部面にグラフェン薄膜が結合されたゲート電極と、
前記ゲート電極の上部に配置された集束レンズと、
前記集束レンズの上部に前記カソード電極と対向して配置されたアノード電極と、
前記カソード電極、ゲート電極、集束レンズ、及びアノード電極を囲むチューブハウジングとを含み、
前記カソード電極は、
金属又はグラファイト基板の上部に配置されたCNTペーストエミッタと、
前記基板と前記CNTペーストエミッタの間に挿入された界面層とを含み、
前記界面層は、グラフェン又はグラファイト薄膜である、X線管装置。
【請求項15】
前記CNTペーストエミッタは、第2のCNTパウダーとグラファイト接着剤とを含み、
前記第2のCNTパウダーは、第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子を含む、請求項14に記載のX線管装置。
【請求項16】
前記第2のCNTパウダーは、SiO
2ナノ粒子及びTiO
2ナノ粒子をさらに含む、請求項15に記載のX線管装置。
【請求項17】
前記集束レンズは、楕円形の構造に形成される、請求項14に記載のX線管装置。
【請求項18】
前記ゲート電極は、
銅ホイル上にグラフェンを合成するステップと、
前記グラフェン上にPMMA薄膜をコーティングするステップと、
エッチング溶液により前記銅ホイルを除去するステップと、
前記銅ホイルが除去されたグラフェンを前記孔が形成された基板に転写するステップと、
転写工程が完了した後に前記PMMA薄膜を除去するステップとにより形成される、請求項14に記載のX線管装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイト素材をベースとするカーボンナノチューブ(CNT)ペーストエミッタ、その製造方法及びそれを利用するX線管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、CNTペーストエミッタは、電子を放出するCNT、CNTを分散及び固定する役割をする充填剤(フィラー、filler)、並びにCNTと充填剤を基板に接着する役割をする接着剤(binder)を混合してペースト状にし、次いで基板上にCNTペーストを付着する方法で製作されている。
【0003】
このとき使用される接着剤は、一般に伝導性粒子と溶媒(solvent)で構成されている。溶媒は、ペースト電界電子放出源の製作過程で熱処理工程により除去され、最終的に伝導性粒子のみがCNTペーストの内部に残って接着及び電気的通路の役割をする。例えば、従来のCNTペーストは、エチルセルロース(ethyl cellulose、EC)粒子とテルピネオール(terpineol)溶媒からなるEC接着剤(binder)を利用して製作されている。
【0004】
しかしながら、従来のCNTペースト製作時に使用されるEC接着剤は、電気伝導性が良くないという問題があった。具体的に、EC接着剤の場合、EC粒子とテルピネオール(terpineol)溶媒により構成される。EC粒子は、数マイクロ大きさの高分子粒子であって、電気伝導度が約1s・m-1以下であり、銅の電気伝導度が107s・m-1程度であるのに比べて相対的に非常に低い。
【0005】
よって、CNTペーストに製作する場合、ペーストのバルク抵抗を増加させる。ペーストバルク抵抗が増加すれば、ペースト内での電子の移動度が大きく減少し、電界電子放出の性能及び効率が減少する。また、ペースト内部の高いバルク抵抗により、電界電子放出源が動作する際、ペーストに大きいジュール(joule)熱が発生する。このような場合、熱安定性の良くない有機高分子物質であるECが熱により分解され、有機高分子物質の脱ガス(out gassing)現象が起こる。結局、このような脱ガス現象は、真空チューブ内の真空度を下げることで電界電子放出素子の寿命を短縮させるという問題があった。
【0006】
このような問題を解決するために、電気伝導性に優れたグラファイト接着剤(binder)を使用したCNTペースト電界電子放出源が求められている。また、電気伝導性に優れ、安定した特性を有するCNTペースト電界電子放出源を製作するためには、CNTペーストの内部でCNT、フィラー粒子、並びに接着剤(binder)を均一に混合する分散工程が必ず必要となる。従来のCNTペースト電界電子放出源は、ジルコニアボール(zirconia ball)を利用したボールミル(ball milling)方法のみを使用して分散工程を行っている。
【0007】
それに関し、大韓民国登録特許第10-1700810号(発明の名称:グラファイト接着物質を利用した電界放出素子及びその製造方法)は、溶媒に電界放出用ナノ物質及びグラファイト接着物質を混合して分散するステップと、ナノ物質及びグラファイト接着物質が混合された混合溶液を乾燥するステップと、乾燥した混合物質に接着剤(Binder)を混合してペーストを製作するステップとを含み、グラファイト接着物質は、約200nm~500nmの大きさを有するボール(ball)形状のグラファイトナノ粒子(Graphite Nano Particles)又はグラファイトナノ板(Graphite Nano platelet)により構成されることを開示している。
【0008】
しかし、既存のグラファイト接着物質を利用した電界放出素子は、ペースト内部でのCNTの分散性が悪く、また、カソード電極である金属又はグラファイト基板とCNTペーストとの接着性が相対的に弱いという問題点が存在する。言い換えれば、ペースト内でCNTが満遍なく分散されなければ、1つのCNTが放出する電流の量が増加する。これにより、CNTにかかる電流負荷が増加してCNTの電界放出特性が不安定になり、CNTが劣化しやすくなるという問題点がある。また、平均直径が200nm程度のグラファイトナノ粒子は、カソード電極として使用される金属又はグラファイト基板の間で強い機械的接着力を形成していない。これにより、CNTペースト電界電子放出源が高電界又は高電流の条件下において動作する際、CNTペーストが基板から脱着されて電界電子放出素子の電気的なアーキング現象を誘発するという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような問題を解決するために、本発明の一実施例は、電界電子放出源として使用されるCNTペーストエミッタの安定性を向上させるために、第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、及びNiナノ粒子により構成された第2のCNTパウダーと、グラファイト接着剤とを含むCNTペーストの製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
また、本発明の一実施例は、CNTペーストエミッタとカソード電極の間の電気的接触抵抗を減少させるために、CNTペーストエミッタと金属又はグラファイト基板の間に界面層が挿入されたCNTペーストエミッタの製造方法を提供することを目的としている。
【0011】
さらに、本発明の一実施例は、電子ビームの透過直進性を向上させるために、その下部又は上部面にグラフェン薄膜が結合されたゲート電極を利用し、CNTペーストエミッタと、楕円形状の電子ビーム集束レンズとを含むX線管装置を提供することを目的としている。
【0012】
但し、本実施例が達成しようとする技術的課題は、上記したような技術的課題に限定されるものではなく、他の技術的課題が存在し得る。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した技術的課題を解決するための技術的手段として、本発明の一実施例に係るCNTペーストの製造方法は、CNTパウダー、グラファイトナノ粒子、分散剤、及び蒸留水を混合した後、超音波処理により分散工程を行うステップと、分散工程により分散された溶液とグラファイト接着剤を混合した後、ボールミル工程によりCNTペーストを生成するステップとを含む。
【0014】
CNTペーストの製造方法は、第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子、分散剤、及び蒸留水を混合した後、超音波処理により分散工程を行うステップと、分散工程により分散された溶液を濾過して第2のCNTパウダーを得るステップと、第2のCNTパウダーとグラファイト接着剤を混合した後、ボールミル工程によりCNTペーストを生成するステップとを含む。
【0015】
第2のCNTパウダーを得るステップは、減圧濾過(vacuum filtration)を利用して第1のCNTパウダーをPTFE(Poly-tetra Fluoroethylene)素材の濾過膜(membrane)上に濾過してフィルム形態に乾燥させるステップを含み、第2のCNTパウダーは、第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子が満遍なく分散されたものである。
【0016】
CNTペーストは、円形又は棒形の薄膜に形成し、単一型又はアレイ型に形成される。
【0017】
CNTペーストを生成するステップは、ボールミル工程を10分以下で行うことを含む。
【0018】
本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタの製造方法は、その上部面に界面層が積層された金属又はグラファイト基板を提供するステップと、スクリーンプリンティング技法により、金属又はグラファイト基板にCNTペーストを押し付けるステップと、焼成工程を行うステップと、焼成工程が完了したCNTペーストの表面に対して表面処理を行うステップとを含む。
【0019】
CNTペーストは、第2のCNTパウダーと、グラファイト接着剤とを含み、第2のCNTパウダーは、第1のCNTパウダーと、グラファイトナノ粒子と、SiCナノ粒子と、Niナノ粒子とを含む。
【0020】
その上部面に界面層が積層された基板を提供するステップは、CVD法により銅ホイル上にグラフェンを合成するステップと、グラフェン上にPMMA薄膜をコーティングするステップと、エッチング溶液により銅ホイルを除去するステップと、銅ホイルが除去されたグラフェンを基板に転写するステップと、転写工程が完了した後にPMMA薄膜を除去するステップとを含む。
【0021】
基板にCNTペーストを押し付けるステップは、1つ以上のパターンを有するマスクを基板上に固定するステップと、マスク上にCNTペーストを配置した後、スクイージによりCNTペーストを繰り返して押し付け、パターンと対応するCNTペーストエミッタを基板上に形成するステップとを含む。
【0022】
焼成工程を行うステップは、大気雰囲気において第1次熱処理工程を行い、真空雰囲気において第2次熱処理工程を行うステップを含み、CNTペーストのうちNiナノ粒子は、熱処理工程により、ペースト内部及びペーストと基板の間の界面において溶融状態で存在させる。
【0023】
本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタを利用するX線管装置は、CNTペーストエミッタが結合されたカソード電極と、カソード電極の上部にCNTペーストエミッタの大きさよりも面積が大きい孔が形成され、その下部又は上部面にグラフェン薄膜が結合されたゲート電極と、ゲート電極の上部に配置された集束レンズと、集束レンズの上部にカソード電極と対向して配置されたアノード電極と、カソード電極、ゲート電極、集束レンズ、及びアノード電極を囲むチューブハウジングとを含み、カソード電極は、金属基板と、金属基板の上部に配置されたCNTペーストエミッタと、金属基板とCNTペーストエミッタの間に挿入された界面層とを含み、界面層は、グラフェン又はグラファイト薄膜である。
【0024】
CNTペーストエミッタは、第2のCNTパウダーとグラファイト接着剤とを含み、第2のCNTパウダーは、第1のCNTパウダーと、グラファイトナノ粒子と、SiCナノ粒子と、Niナノ粒子とを含む。
【0025】
集束レンズは、楕円形の構造に形成される。
【0026】
ゲート電極は、CVD法により銅ホイル上にグラフェンを合成するステップと、グラフェン上にPMMA薄膜をコーティングするステップと、エッチング溶液により銅ホイルを除去するステップと、銅ホイルが除去されたグラフェンを孔が形成された金属基板に転写するステップと、転写工程が完了した後にPMMA薄膜を除去するステップとにより形成される。
【発明の効果】
【0027】
上述した本発明の課題を解決するための手段によれば、有機高分子物質であるEC粒子を使用したEC接着剤ではなく、伝導性と熱安定性に優れた無機物質であるグラファイトナノ粒子を使用したグラファイト接着剤としてCNTペーストを製造する。よって、既存のEC接着剤が有する問題点を解決することができる。つまり、CNTペーストの製造時にグラファイトナノ粒子が接着剤として使用される。よって、高分子物質であるECとは異なって高い熱安定性を有しているので、高電流動作の際にジュール(Joule)熱が高く生じないだけでなく、脱ガス(out gassing)現象が大きく抑制され、結局、電界電子放出素子の寿命短縮を防止することができる。
【0028】
さらに、本発明は、グラファイトナノ粒子(約200nmの大きさ)の他にもSiCナノ粒子(約50nmの大きさ)を追加することにより、CNTペーストの内部でCNTの分散性を向上させることができる。つまり、50nm程度のSiCナノ粒子をフィラーに使用してCNTの分散性を向上させれば、電子放出の均一度と全体的な放出電流量が向上し、CNTペーストエミッタ内でCNTが受ける電流負荷を減少させることができる。それにより、安定的に動作が可能なCNTペーストエミッタを製作することができる。
【0029】
また、本発明は、グラファイトナノ粒子(約200nmの大きさ)の他にNiナノ粒子(約30nmの大きさ)を追加することにより、CNTペーストの内部でのCNTの接着性を向上させることができる。さらに、CNTペーストエミッタと基板(カソード電極)との間の機械的な接着性も向上させることができる。つまり、30nm程度のNiナノ粒子をフィラーに使用することで、高電界、高電流の条件においてCNTペーストエミッタの脱着現象なしに安定的に動作可能な電界電子放出素子を製作することができる。
【0030】
本発明は、金属又はグラファイト素材により作られるカソード電極とCNTペーストエミッタの間にグラフェン又はグラファイト薄膜の界面層を挿入させる。よって、カソード電極とCNTペーストエミッタとの間の機械的接着性を向上させると共に電気的接触抵抗を減少させ、電界電子放出特性が向上した電界電子放出素子を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタの構造を説明するための図である。
図1(a)は、単一形態のCNTペーストエミッタを示すものであり、
図1(b)は、アレイ形態のCNTペーストエミッタを示すものである。
【
図2】本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタを走査電子顕微鏡(SEM)で分析した図である。
図2(a)は、CNTペーストエミッタの走査電子顕微鏡(SEM)イメージであり、
図2(b)は、CNTペーストエミッタ表面の高倍率SEMイメージを示す。
【
図3】本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタがカソード電極に適用されるために、グラフェンが付着された様々な形態の金属基板を示す図である。
【
図4A】本発明の一実施例に係るX線管装置を説明するための図である。
【
図4B】本発明の一実施例に係るX線管装置の断面図である。
【
図5】本発明の一実施例に係るCNTペーストの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタの電界放出特性を測定した結果を示すものである。
図6(a)は、既存のボールミル工程だけで製造したCNTペースト(Only BM)と、本発明に係るボールミル工程の前に超音波処理を行うことで製造したCNTペースト(TS+BM)とをそれぞれ測定して比較した電流電圧特性曲線(I-V Curve)を示し、
図6(b)は、長期間電子放出安定性(Long-term emission Stability)を測定した結果を示す。
【
図7】本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタの電界放出特性を測定した結果を示すものである。
図8(a)は、本発明により製造されたCNTペーストに界面層を適用していないCNTペーストエミッタ(W/O graphene)と界面層を挿入したCNTペーストエミッタ(Graphene)とをそれぞれ測定して比較した電流電圧特性曲線(I-V Curve)を示し、
図8(b)は、長期間電子放出安定性(Long-term emission Stability)を測定した結果を示す。
【
図9】本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタを製作する際にグラフェン薄膜を金属又はグラファイト基板に積層する方法を説明するためのフローチャートである。
【
図10】本発明の一実施例に係るX線管装置のゲート電極に適用するために、グラフェンを金属又はグラファイト基板に積層する方法を示す図である。
図10(a)は、PMMA薄膜がコーティングされたグラフェンを孔が形成された金属基板に転写する工程を示すものであり、
図10(b)は、PMMA薄膜が除去されて基板にグラフェンのみが残っている状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、添付した図面を参照しながら、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の実施例を詳しく説明する。ところが、本発明は様々な異なる形態に具現されることができ、ここで説明する実施例に限定されるものではない。そして、図面において、本発明を明確に説明するために、説明とは関係ない部分は省略しており、明細書全体に亘って類似した部分に対しては類似した図面符号を付けている。
【0033】
明細書全体において、ある部分が他の部分と「連結」されているという場合、これは「直接的に連結」されている場合だけでなく、その中間に他の素子を挟んで「電気的に連結」されている場合も含む。また、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味し、1つ或いはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、動作、構成要素、部分品、又はこれらを組み合わせたものの存在又は付加可能性を予め排除するものではないと理解されなければならない。
【0034】
図1は、本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタの構造を説明するための図である。
図1(a)は、単一形態のCNTペーストエミッタを示すものであり、
図1(b)は、アレイ形態のCNTペーストエミッタを示すものである。このとき、CNTペーストは、円形又は棒形の薄膜に形成し、1つ又は複数のアレイ形態に形成しても良い。
【0035】
図1を参照すると、本発明は、カソード電極の役割をする金属又はグラファイト基板110と、基板110の上部に配置された第2のCNTパウダーとグラファイト接着剤とを含むCNTペーストエミッタ130と、基板110とCNTペーストエミッタ130の間に挿入された界面層120とを含む。ここで、界面層120は、グラフェン又はグラファイト薄膜であり、第2のCNTパウダーは、第1のCNTパウダーと、グラファイトナノ粒子と、SiCナノ粒子と、Niナノ粒子とを含む。
【0036】
図2は、本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタを走査電子顕微鏡(SEM)で分析した図である。
図2(a)は、CNTペーストエミッタの走査電子顕微鏡(SEM)イメージである、
図2(b)は、CNTペーストエミッタ表面の高倍率SEMイメージを示す。
【0037】
図2(a)を参照すると、CNTペーストが基板110上に均一に塗布されていることを確認することができる。
図2(b)を参照すると、CNTペースト表面に電子を放出させる素材である薄膜多重壁CNT(t-MWCNT、thin multi-walled carbon nanotube)が電界放出に適したチップ(tip)形態で多くのフィラー(グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子)の間に部分的に分布していることを示している。
【0038】
図3は、本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタがカソード電極に適用されるために、グラフェンが付着された様々な形態の金属基板を示す図である。
【0039】
例えば、
図3を参照すると、カソード電極11a~11eは、様々な形状の金属棒又はグラファイト棒、あるいは金属基板又はグラファイト基板110により形成されても良い。このとき、金属棒又は金属基板110は、コバール(kovar)又はステンレススチール(SUS)材質であることが好ましい。そして、基板110の上部にナノ物質であるグラフェン120が転写され、グラフェン120の上部に上述したCNTペーストを塗布することで、様々な用途の冷陰極X線管装置に適用できるCNTペーストエミッタを製作しても良い。一例において、カソード電極11a、11d、11eは、棒の形態に構成される場合、その上部面が円形又は円錐形に形成され、グラフェン120は、円形又は円錐形をカバーするように形成されても良い。他の例において、カソード電極11b、11cは、基板の形態に構成される場合、その上部面が円形又は四角形に形成され、グラフェン120は、円形又は四角形をカバーするように形成されても良い。
【0040】
図4Aは、本発明の一実施例に係るX線管装置を説明するための図である。
【0041】
図4Bは、本発明の一実施例に係るX線管装置の断面図である。
【0042】
図4Aを参照すると、CNTペーストエミッタを利用するX線管装置は、CNTペーストエミッタが付着されたカソード電極10と、カソード電極10の上部にCNTペーストエミッタ130の大きさよりも広い孔が形成され、その下部面又は上部面にグラフェン薄膜121が結合されたゲート電極20と、ゲート電極20の上部に配置された集束レンズ30と、集束レンズ30の上部にカソード電極10と対向して配置されたアノード電極40と、カソード電極10、ゲート電極20、集束レンズ30及びアノード電極40を囲むチューブハウジング1とを含む。ここで、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、カソード電極10は、基板110の上部に配置された第2のCNTパウダーとグラファイト接着剤とを含むCNTペーストエミッタ130と、基板110とCNTペーストエミッタ130の間に挿入された界面層120とを含む。
【0043】
界面層120は、グラフェン又はグラファイト薄膜であり、第2のCNTパウダーは、第1のCNTパウダーと、グラファイトナノ粒子と、SiCナノ粒子と、Niナノ粒子とを含む。
【0044】
図4Aに示すように、集束レンズ30は、楕円形の構造に形成されても良い。例えば、集束レンズ30は、CNTペーストエミッタの電子ビーム形態に合う楕円形の構造に形成されても良い。楕円形の構造の集束レンズは、円形の構造の集束レンズに比べてアノード電極の表面に非常に小さい大きさの電子ビーム焦点が得られるため、結果的にX線の解像度を大きく向上させることができる。
【0045】
一例において、本発明のX線管装置は、カソード電極10とアノード電極40との電圧差によりCNTペーストエミッタから電界放出される電子がアノード電極40のターゲット面に衝突する際、ターゲットから発生するX線がガラス又はセラミック材質で作られたチューブハウジング1の側面を介してX線管の外部へ放出される構造である。
【0046】
例えば、
図4Bを参照すると、チューブハウジング1は、X線管装置の外観を形成し、時々チューブの側面にアノード電極40のターゲット面から放出されるX線が外部へ投射されるベリリウム窓が形成されても良い。X線管のハウジング1は、カソード電極10の役割をする金属又はグラファイト基板110、界面層120及びCNTペーストエミッタ130、アノード電極40、及び、CNTペーストエミッタ130よりも広い孔が形成された金属基板111を含み、金属基板111の下部面にグラフェン121が配置されたゲート電極20の外面を囲んで外部と区分された真空領域を定義する。
【0047】
また、カソード電極10とアノード電極40とは向い合うように位置され、アノード電極40は、カソード電極10と所定距離に離隔してカソード電極10の上部に位置しても良い。アノード電極40の下部面、即ち、カソード電極10と向い合う表面は、所定角度傾いていても良い。
【0048】
アノード電極40は、本体内部に向けた一面に、CNTペーストエミッタ130から放出された電子が衝突するターゲット面を備えていても良い。
【0049】
基板110は、カソード電極10の役割をするものであり、上部に界面層120及びCNTペーストエミッタ130が形成される。
【0050】
ゲート電極20は、カソード電極10の上部に位置し、CNTペーストエミッタ130と対応する位置に開口部(例えば、孔状)が形成された金属基板111を含んでいても良い。また、カソード電極10上にアレイ型のCNTペーストエミッタ130が形成される場合、ゲート電極20の金属基板111は複数の開口部(例えば、所定間隔で配列された形態)を含んでいても良い。
【0051】
好ましくは、本発明のゲート電極20は、CNTペーストエミッタ130の大きさよりも広い面積の孔が形成された金属基板111と、金属基板111の下部に形成されたグラフェン121とを含む。つまり、グラフェン121が配置されたゲート電極20により、電子ビームのゲート電極20への透過性を高くし、電子ビームの直進性を高くする。よって、アノード電極40における電子ビームの集束度を高くすると共に電子ビーム密度の均一性を高くする効果が得られるという長所がある。
【0052】
以下では、本発明のCNTペーストの製造方法とそれを適用したCNTペーストエミッタの製造方法について詳しく説明することとする。上述した構成のうち、同じ機能を実行する構成の場合はその説明を省略する。
【0053】
図5は、本発明の一実施例に係るCNTペーストの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0054】
図5を参照すると、本発明の一実施例に係るCNTペーストの製造方法は、第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子、分散剤、及び蒸留水を混合した後、超音波処理により分散工程を行うステップS110と、分散工程により分散された溶液を濾過して第2のCNTパウダーを得るステップS120と、第2のCNTパウダーとグラファイト接着剤を混合した後、ボールミル工程によりCNTペーストを生成するステップS130とを含む。
【0055】
一例において、グラファイトナノ粒子を接着剤と混合したグラファイト接着剤は、電気伝導性に優れ、熱安定性が高い。具体的に、グラファイト粒子の電気伝導度は約10,000s・m-1以上であり、EC粒子の電気伝導度よりも104倍以上高い。従って、CNTペーストを製作する際、ペースト内で電子の円滑な移動が可能となり、電界電子放出素子の効率的な動作が可能となる。また、ペースト内部の低いバルク抵抗により、電界電子放出源素子が動作する際、ジュール(joule)熱が非常に小さく発生する。
【0056】
例えば、ステップS110において、SiCナノ粒子(約50nmの大きさ)を追加することにより、ペースト内部でCNTの分散性を向上させることができる。
【0057】
具体的に、CNTペーストの製作時にSiCナノ粒子を添加すれば、第1のCNTパウダーとグラファイトナノ粒子の間にSiCナノ粒子が割り込む。これにより、電子放出源物質であるCNTがペースト内でさらに満遍なく分布される。つまり、CNTが均一に分布されたCNTペーストを電界電子放出源として利用すれば、放出電流値を高くすると共に電子ビーム発生の均一度を向上させることができる。さらに、複数のCNTから電子が放出されるため、同じ放出電流値を設定する際に、既存対比1つのCNTから放出される電流の大きさが減少する。結局、1つのCNTにかかる電流負荷が減少することにより、CNTからの長期間にわたる安定した電界放出が可能となる。
【0058】
言い換えれば、50nm程度のSiCナノ粒子をフィラーに使用してCNTの分散性を向上させれば、電子放出の均一度と全体的な放出電流量を向上させることができる。また、CNTが受ける電流負荷を減少させることにより、長期間にわたって安定的に動作が可能なCNTペーストエミッタを製作することができる。
【0059】
また、S110ステップにおいて、Niナノ粒子(30nmの大きさ)を追加することにより、ペースト内部でCNTの接着性を向上させることができる。
【0060】
具体的に、CNTペーストの製作時にNiナノ粒子を添加すれば、第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子又はSiCナノ粒子の間にNiナノ粒子が割り込む。かかるNiナノ粒子は、高温熱処理工程において殆ど溶けてしまうので(溶融)、結局、ペースト内部で第1のCNTパウダーとフィラー(グラファイトナノ粒子及びSiCナノ粒子)との機械的結合力が増加する。
【0061】
また、S110ステップにおいて、SiCナノ粒子、Niナノ粒子の他にも充填剤としてSiO2ナノ粒子及びTiO2ナノ粒子をさらに含んでいても良い。上記SiO2ナノ粒子及びTiO2ナノ粒子を追加すれば、ペースト内部で第1のCNTパウダーの分散性を向上させることができる。
【0062】
一方、後述する高温熱処理工程の際、ペースト内部に存在する溶融状態のNiナノ粒子の一部は、CNTペーストエミッタと金属基板(カソード電極)の間の界面に移動する。熱処理工程の終了後に温度が下がると、界面に溶けていたNiナノ粒子が再び固まりながらCNTペーストエミッタと金属基板(カソード電極)の間で強い結合が形成される。結局、金属基板とCNTペーストエミッタの間で強い機械的接着力と低い電気的接触抵抗が発生する。
【0063】
つまり、30nm程度のNiナノ粒子をフィラーに使用することで、金属基板(カソード電極)からのCNTペーストの脱着現象が効率的に防止される。従って、高電界、高電流の条件において安定的に動作可能なCNTペーストエミッタを製作することができる。
【0064】
例えば、ステップS110においては、第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子、分散剤SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)、及び蒸留水(DI water)を混合した後、超音波処理を利用して1時間ほど分散させれば、粒子が蒸留水中に満遍なく分散されることができる。一例において、超音波処理により分散工程を行う場合、チップ超音波処理(tip sonication)を行うことが好ましい。チップ超音波処理の場合、超音波処理機のチップが第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子、分散剤、及び蒸留水が混合されている溶液に直接混入されて超音波を強く発生させる。よって、分散エネルギーの効率が大きく向上する。
【0065】
次いで、ステップS120においては、分散した溶液を減圧濾過(vacuum filtration)を利用してPTFE(Poly-tetra Fluoroethylene)素材の濾過膜(membrane)上に濾過することで、第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子が満遍なく分散された第2のCNTパウダーを得ることができる。
【0066】
次いで、ステップS130においては、第2のCNTパウダーとグラファイト接着剤(グラファイトナノ粒子と接着物質を混合)を共に混ぜた後、ボールミル工程(3mmのジルコニアボール、2000rpm、10min)により上記第2のCNTパウダーとグラファイト接着剤を良く混合することでCNTペーストを生成しても良い。一例において、ボールミル工程は、3mmの大きさのジルコニアボールを利用して回転速度2000rpm、回転時間10分以下で行われても良い。つまり、本発明のCNTペーストを製作する際、超音波処理により既に均一に分散されている第2のCNTパウダーをボールミル工程によりグラファイト接着剤と混合するため、ボールミル工程の回転時間を短縮することができる。
【0067】
一方、一般的な従来のCNTペースト製作の場合、CNTとフィラーを混合する第1次ボールミル工程と、CNT混合物と接着剤を混合する第2次ボールミル工程の回転時間はそれぞれ20分以上行われても良い。つまり、計40分以上のボールミル工程過程で発生するCNTとジルコニアボールとの間における機械的摩擦により、CNTが大きく損傷するという問題があった。しかし、本発明のCNTペースト製作の場合、超音波処理工程により満遍なく分散されている第2のCNTパウダーとグラファイト接着に対して10分以下のボールミル工程が行われるため、CNT損傷が著しく減少する。
【0068】
よって、ボールミル又は超音波処理工程のみを利用してCNT分散を行っていた従来のCNTペースト製作方法とは異なり、本発明は、チップ超音波処理による分散工程を1次的に行った後、10分以下のボールミル工程による分散工程を2次的に行う。CNTペースト内に存在するCNTが機械的に損傷することなくCNTパウダーとフィラー物質(グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子)を均一に分散させることができる。
【0069】
これにより、本発明のCNTペーストは、ペースト内部にCNTパウダーとフィラー物質(グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子)が全体的に満遍なく分散されている。CNTペーストの特定部分ではなく全ての部分において電界電子放出が均一に起こるので、CNTペーストエミッタの性能が大きく向上することができる。
【0070】
また、均一に分散された溶融状態のNiフィラー物質は、CNTペーストの内部でCNTを安定的に固着化することで、電界放出動作の際に電気的なアーキング現象が起こることなく電界電子放出源が長期間にわたって安定的に動作するように維持される。また、Niフィラー物質は、CNTペーストを金属基板(カソード電極)に機械的に強く固定することによって、電界電子放出の際にCNTペーストが金属基板から脱着される現象を防止することができる。
【0071】
図6は、本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタの電界放出特性を測定した結果を示すものである。
図6(a)は、既存のボールミル工程だけで製造したCNTペースト(Only BM)と、本発明に係る超音波処理工程とボールミル工程を複合的に行うことで製造したCNTペースト(TS+BM)との電流電圧特性曲線(I-V Curve)を比較した結果を示し、
図6(b)は、長期間電子放出安定性(Long-term emission stability)を測定して比較した結果を示す。
【0072】
図6(a)に示すように、既存のCNTペースト(Only BM)と本発明のCNTペースト(TS+BM)との電流電圧特性曲線を比較した結果、本発明のCNTペースト(TS+BM)の場合、最大放出電流が6.0mAから13.5mAに増加し、I-V Curveは右側に移動したことが分かった。また、
図6(b)に示すように、エミッタの放出電流値の劣化(degradation)が33.66%から28.79%に減少することで、長期間電子放出安定性が向上したことが分かった。
【0073】
図7は、本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0074】
図7を参照すると、本発明のCNTペーストエミッタの製造方法は、その上部面に界面層が積層された金属基板を提供するステップS210と、スクリーンプリンティング技法により、金属基板にCNTペーストを押し付けるステップS220と、焼成工程を行うステップS230と、焼成工程が完了したCNTペーストの表面に対して表面処理を行うステップS240とを含む。
【0075】
例えば、ステップS210においては、基板110の上部面に界面層120を積層しても良く、グラフェン又はグラファイト薄膜からなる界面層120を積層する具体的な方法は、
図9を参照しながら後述することとする。
【0076】
ステップS220においては、スクリーンプリンティング方法により、CNTペーストを、その上部面に界面層120を有する基板110上に塗布しても良い。例えば、スクリーンプリンティング装置は、固定板、マスクホルダー、ゴム素材のスクイージにより構成されている。スクリーンプリンティング工程は、固定板に基板110を固定した後、所望のパターンが刻まれたマスクを基板110上の所望の位置にマスクホルダーにより固定する。固定されたマスク上に製作したCNTペーストを配置した後、スクイージによりCNTペーストを繰り返して押し付けると、CNTペーストがマスクのパターンと同じ形状で基板110上に塗布されることができる。つまり、
図1(a)及び
図1(b)に示されたCNTペーストエミッタ130は、単一又はアレイ形態のパターンを有するマスクと対応する形状に形成されても良い。従って、スクリーンプリンティング工程の際にマスクを使用してパターンの大きさ及び個数を調整することにより、単一又はアレイ形態のCNTペーストを基板110上に塗布することができる。
【0077】
この場合、CNTペーストエミッタ130は、円形又は棒形の形状を有することを含む。例えば、CNTペーストエミッタ130は、円形又は棒形の薄膜に形成し、単一型(single type)又はアレイ型(array type)に形成しても良い。一例において、CNTペーストエミッタ130は、直径が数百μm~数mmの円形又は幅100~500μm、長さ1~20mmの棒形に形成しても良い。
【0078】
ステップS230においては、基板110上にCNTペーストを塗布した後、第1次焼成工程(90℃、30分→130℃、30分→370℃、90分)をエア雰囲気で進行し、次いで、第2次焼成工程(810℃、30分)を10-5torr以下の真空雰囲気で進行しても良い。例えば、ステップS230において、焼成工程(熱処理工程)により、CNTペーストのうちNiナノ粒子が溶融状態となる。これにより、溶融状態のNiナノ粒子の一部は、CNTペーストの内部における結合力(第1のCNTパウダー、グラファイトナノ粒子、SiCナノ粒子、Niナノ粒子の間の結合力)を上げることができる。また、溶融状態のNiナノ粒子のうち他の一部は、CNTペーストと基板110の間の界面層120に移動する。その後、熱処理工程の終了後に温度が下がると、界面層120に溶けていたNiナノ粒子が再び固まりながらCNTペーストと基板110の間で強い機械的接着力と低い電気的接触抵抗を形成することができる。
【0079】
ステップS230においては、真空雰囲気での焼成工程の完了後、3Mテープと紙やすり(sand paper)を利用しCNTペーストの表面を磨いて活性化(activation)させる表面処理(surface treatment)工程を進行しても良い。表面処理工程により、CNTペーストの表面を均一に平坦化すると共に、CNTペーストの表面において垂直方向に露出したCNTの長さを均一にすることで、CNTペーストエミッタの性能を向上させることができる。
【0080】
また、本発明は、CNTペーストエミッタ130とカソード電極である基板110との間にグラフェンからなる界面層120が配置されることで、基板110とCNTペーストエミッタ130の間の電気的接触抵抗が大幅に低くすることができる。つまり、基板110と界面層120の間で量子力学的なトンネリング(tunneling)により電子の急激な移動が発生し、また、界面層120とCNTペーストエミッタ130は仕事関数の差がなくなり、界面層120からCNTペーストエミッタ130への電子の移動が円滑に行われる。従って、界面層120が存在しない場合に比べて基板110とCNTペーストエミッタ130の電気的接触抵抗(electrical contact resistance)値が大きく減少する。これにより、CNTペーストエミッタ130から放出される電流値が大きく増加する。結論として、基板110の上部に配置されたCNTペーストエミッタ130と界面層120からなるカソード電極10の電気的接触抵抗を大きく減少させることができるので、電界電子放出に必要な動作電圧が低くなると共に電界電子放出電流値が大きく増加するという長所がある。
【0081】
図8は、本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタの電界放出特性を測定した結果を示すものである。
図8(a)は、本発明により製造されたCNTペーストに界面層を適用していないCNTペーストエミッタ(W/O graphene)と界面層を挿入したCNTペーストエミッタ(Graphene)との電流電圧特性曲線(I-V Curve)を比較した結果を示しており、
図8(b)は、長期間電子放出安定性(Long-term emission stability)を測定した結果を比較している。
【0082】
図8(a)に示すように、界面層(グラフェン)の有無に応じた放出電流値を比較測定した結果、界面層を挿入した場合は、CNTペーストエミッタの最大放出電流が13.5mAから29.8mAに増加した。また、
図8(b)に示すように、界面層を挿入した場合は、CNTペーストエミッタの放出電流値の劣化率(degradation rate)が28.79%から17.35%に減少することにより、CNTペーストエミッタの長期間放出電流安定性が向上したことが示された。
【0083】
図9は、本発明の一実施例に係るCNTペーストエミッタを製作する際にグラフェン薄膜を金属又はグラファイト基板上に積層する方法を説明するためのフローチャートである。
【0084】
図9を参照すると、具体的に、ステップS210は、CVD法により銅ホイル上にグラフェンを合成するステップS211と、グラフェン上にPMMA薄膜をコーティングするステップS212と、エッチング溶液を使用して銅ホイルを除去するステップS213と、銅ホイルが除去されたグラフェンを金属基板に転写するステップS214と、転写工程が完了した後にPMMA薄膜を除去するステップS215とを含む。
【0085】
例えば、ステップS211においては、数百nm~数μmの厚さの銅ホイルをアセトン(acetone)とIPA(Isopropyl Alcohol)を利用して洗浄する。その後、銅ホイルを石英管(quartz tube)に入れ、アルゴン(Ar)ガスを流しながら石英管の温度を1,000℃まで上げる。石英管の温度が1,000℃に到逹すると、キャリアガス(H2)と反応ガス(CH4)を流して銅ホイル上にグラフェンを合成する。グラフェン合成は、CH4ガスにある炭素(C)原子が高温で熱分解され、そのうち一部が銅ホイルに吸収されることで起こる。銅の炭素溶解度は1,000℃で0.04%程度であり、少量の炭素のみを溶解させることができる。1,000℃において約30分ほどCH4ガスを流すことで銅ホイルへ炭素を最大に供給した後、温度を急激に下げる。銅ホイルに溶解されていた過飽和状態の炭素原子が六角形構造を形成しながら銅ホイル外へはみ出されることでグラフェンが合成されることができる。グラフェンを合成する際、反応条件(温度、CH4ガスの流量など)を調整すれば銅ホイル上に一層又は多層のグラフェンを合成することが可能である。
【0086】
ステップS212においては、グラフェン上にPMMA(Poly-methyl Methacrylate)薄膜を形成する工程を行う。先ず、PMMA溶液をグラフェン上に落とした後、PMMA溶液をグラフェン上に均一に塗布するためにスピンコーティング(2,000rpm、20sec)を行う。このとき、使用されたPMMA溶液は、PMMA粒子とクロロホルム(chloroform)溶媒又はアセトン(acetone)溶媒からなっている。スピンコーティングが終了した後、クロロホルム溶媒又はアセトン溶媒を除去するために、PMMAがコーティングされた銅ホイルを85℃のオーブンで40分間乾燥させる。乾燥が終われば均一なPMMA薄膜(thin film)がグラフェン上に形成される。PMMA薄膜は、グラフェン転写過程においてグラフェンが反ったり破れたりしないようにグラフェンを固定する役割をする。
【0087】
ステップS213においては、銅ホイルを除去するために、グラフェンが合成された銅ホイルを銅エッチング溶液(copper etch 49-1、transene company,inc.)上に約6時間ほど浸しておく。次いで、約6時間後、銅ホイルが完全に除去されると、グラフェンを蒸留水を使用して数回洗うことで銅エッチング溶液及び異物を完全に除去することができる。
【0088】
ステップS214においては、異物の除去が終わった後、銅ホイルが除去されたグラフェンを基板110の上部に転写しても良い。一例において、
図3に示すように、カソード電極10に適用されるためには様々な形態の金属棒又は金属基板110の上部にグラフェンを転写しても良い。
【0089】
ステップS215においては、基板110にグラフェンを転写した後、グラフェン上に存在するPMMA薄膜を除去する工程を行う。例えば、PMMA除去工程は、PMMA薄膜上に10分間アセトンを流す湿式方法と、PMMA薄膜を熱処理(エア雰囲気、370℃、60分)で除去する乾式方法とを複合的に使用しても良い。PMMA除去工程の際、グラフェンの損傷を最小化するために湿式及び乾式方法を共に使用する。一例において、アセトンは、PMMAを効果的に除去するが、グラフェンを損傷させる。それに対し、熱処理工程は、PMMAの除去率は低いが、グラフェンを殆ど損傷させない。よって、1次的に殆どのPMMAをアセトンを使用して除去した後、2次的に熱処理工程を進行してグラフェンの表面に残留する一部のPMMAを除去することによって、グラフェンの損傷を最小化することができる。
【0090】
図10は、本発明の一実施例に係るX線管のゲート電極に適用するために、グラフェンを金属又はグラファイト基板に積層する方法を示す図である。
図10(a)は、PMMA薄膜がコーティングされたグラフェンを孔が形成された金属基板に転写する工程を示すものであり、
図10(b)は、PMMA薄膜が除去されて金属基板にグラフェンのみが残っている状態を示すものである。
【0091】
図10(a)及び
図10(b)を参照すると、他の一例として、ゲート電極20に適用されるためには、ステップS211乃至ステップS213を行った後、ステップS214において、PMMA薄膜140がコーティングされたグラフェン121を孔が形成された金属又はグラファイト基板110の上又は下部に転写しても良い。次いで、ステップS215において、PMMA薄膜140を除去しても良い。
【0092】
一方、グラフェンは、炭素原子からなる1つ又は複数の原子層により構成される。グラフェン内の炭素原子は強いsp2結合により六角形構造を有するナノスケールのメッシュ(mesh)形態を示す。さらに、グラフェンは、電気伝導度と熱伝導度に優れ、機械的強度や伸縮性が非常に優秀という特性を有している。このような特性に基づき、グラフェンをゲート電極に使用すれば、非常に均一な電界分布が得られると共に、高い電子ビーム透過率が得られる。さらに、グラフェンに電子が衝突する際に発生する熱エネルギーを容易に放出する特性を有するようになるので、ゲート電極の損傷や変形を防止することができる。従って、グラフェンをゲート電極に使用すれば、既存の金属ゲート電極に比べて高い電子ビーム透過率と均一な電子ビームの分布、並びにゲート電極への熱的損傷の減少が可能となる。結局、高電圧高電流条件においても安定的に動作するX線管の具現が可能となる。
【0093】
上述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に容易に変形可能であるということを理解できるはずである。それゆえ、上記した実施例は全ての面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。例えば、単一型で説明されている各構成要素は分散して実施されても良く、同様に、分散したものと説明されている構成要素も結合された形態で実施されても良い。
【0094】
本発明の範囲は、上記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導出される全ての変更又は変形された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。