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特許7282538車両、車両の制動方法、エアブレーキシステムの制御方法、および、エアブレーキシステムの制御装置
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  • 特許-車両、車両の制動方法、エアブレーキシステムの制御方法、および、エアブレーキシステムの制御装置 図1
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  • 特許-車両、車両の制動方法、エアブレーキシステムの制御方法、および、エアブレーキシステムの制御装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】車両、車両の制動方法、エアブレーキシステムの制御方法、および、エアブレーキシステムの制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20230522BHJP
   B60T 13/26 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
B60T7/12 Z
B60T13/26
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019021864
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020128170
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】510063502
【氏名又は名称】ナブテスコオートモーティブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100208188
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 薫
(72)【発明者】
【氏名】野中 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】関口 和真
(72)【発明者】
【氏名】上山 慶一
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-065235(JP,A)
【文献】特開2007-038867(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014108083(DE,A1)
【文献】特開2012-254732(JP,A)
【文献】特開2016-158485(JP,A)
【文献】特開2018-079745(JP,A)
【文献】特開2007-276508(JP,A)
【文献】特開2012-030659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、
エアブレーキシステムを含んだ車両本体と、
前記エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮して前記エアブレーキシステムの制御を決定する制御器と、を備
前記エアブレーキシステムは、圧縮空気を蓄えるエアタンクと、前記車輪に設けられたブレーキ手段と、前記エアタンクと前記ブレーキ手段とを接続する管路と、前記管路上に配置された調整弁と、を含み、
前記調整弁は、開閉動作を行うことにより前記管路を介して前記エアタンクと前記ブレーキ手段とを連通あるいは断絶させ、
前記制御器は、前記エアブレーキシステムを含んだ前記車両本体を制御対象としてモデル化し、モデル予測制御で考慮することにより、前記エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮して前記調整弁を制御して、前記ブレーキ手段に入力される空気圧の大きさを制御する、車両。
【請求項2】
前記制御器は、前記車両本体の車輪にかかる前記車両本体の荷重を考慮して、前記エアブレーキシステムの制御を決定する、請求項に記載の車両。
【請求項3】
前記制御器は、進行方向の位置、高さ方向の位置、ピッチ角の回転角度、車両に生じる力、重力、ばね上重心までの高さ、ばね下重心までの高さ、及び、慣性モーメントを考慮して、前記エアブレーキシステムの制御を決定する、請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮して前記エアブレーキシステムの制御を決定する工程と、
前記エアブレーキシステムを制御して車輪に制動力を加える工程と、を備える、車両の制動方法であって、
前記エアブレーキシステムは、圧縮空気を蓄えるエアタンクと、前記車輪に設けられたブレーキ手段と、前記エアタンクと前記ブレーキ手段とを接続する管路と、前記管路上に配置された調整弁と、を含み、
前記調整弁は、開閉動作を行うことにより前記管路を介して前記エアタンクと前記ブレーキ手段とを連通あるいは断絶させ、
前記エアブレーキシステムの制御を決定する工程において、前記エアブレーキシステムを含んだ前記車両を制御対象としてモデル化し、モデル予測制御で考慮することにより、前記エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮して前記調整弁を制御して、前記ブレーキ手段に入力される空気圧の大きさを制御する、車両の制動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、車両の制動方法、エアブレーキシステムの制御方法、および、エアブレーキシステムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車やトラックなどの自動車両のための自律移動システムの開発が盛んになされている。とりわけ、ドライバーの高齢化や通信販売の普及に伴う陸運の需要の増大により、トラックなどの大型商業車両のための自律移動システムの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3237451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、トラックなどの大型商業車両は、乗用車とは異なるブレーキシステムを採用している。すなわち、一般に、乗用車は油圧ブレーキシステムを採用しているのに対し、大型商業車両はエアブレーキシステムを採用している。エアブレーキシステムを採用することにより、より大きな制動力を効率良く得ることができる。
【0005】
一方で、エアブレーキシステムは、油圧ブレーキシステムと比較して、車両に制動が伝達されるまでに遅れが発生する。したがって、エアブレーキシステムを制御する際、この制動力の伝達遅れを考慮してなければ、意図した地点で停止できず、先行車との衝突や交差点への侵入など、実環境下において悪影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、エアブレーキシステムの制動力の伝達遅れを考慮してエアブレーキシステムを制御可能な車両、車両の制動方法、エアブレーキシステムの制御方法、及び、エアブレーキシステムの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車両は、
エアブレーキシステムを含んだ車両本体と、
前記エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮して前記エアブレーキシステムの制御を決定する制御器と、を備える。
【0008】
本発明による車両において、前記制御器は、前記エアブレーキシステムを含んだ前記車両本体を制御対象としてモデル化し、モデル予測制御で考慮することにより、前記エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮した制御を行ってもよい。
【0009】
また、本発明による車両において、前記制御器は、前記車両本体の車輪にかかる前記車両本体の荷重を考慮して、前記エアブレーキシステムの制御を決定してもよい。
【0010】
また、本発明による車両において、前記制御器は、進行方向の位置、高さ方向の位置、ピッチ角の回転角度、車両に生じる力、重力、ばね上重心までの高さ、ばね下重心までの高さ、及び、慣性モーメントを考慮して、前記エアブレーキシステムの制御を決定してもよい。
【0011】
本発明による車両の制動方法は、
エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮して前記エアブレーキシステムの制御を決定する工程と、
前記エアブレーキシステムを制御して車輪に制動力を加える工程と、を備える。
【0012】
本発明による車両の制動方法は、前記エアブレーキシステムの制御を決定する工程において、前記エアブレーキシステムを含んだ前記車両を制御対象としてモデル化し、モデル予測制御で考慮することにより、前記エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮した制御を行ってもよい。
【0013】
本発明によるエアブレーキシステムの制御方法は、エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮して前記エアブレーキシステムの制御を決定する工程を備える。
【0014】
本発明によるエアブレーキシステムの制御装置は、前記エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮して前記エアブレーキシステムの制御を決定する制御器を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エアブレーキシステムの制動力の伝達遅れを考慮してエアブレーキシステムを制御可能な車両、車両の制動方法、エアブレーキシステムの制御方法、及び、エアブレーキシステムの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態を説明する図であって、車両の全体的な構成を示すブロック図である。
図2図1に示す車両のエアブレーキシステムを含む制御系を示すブロック図である。
図3図1に示す車両をモデル化した図である。
図4】モデル化された車両の挙動の測定結果と、車両シミュレータの出力結果と、を示すグラフである。
図5】制動力の伝達遅れを考慮したMPCおよび伝達遅れを考慮しないMPCを用いたシミュレーション結果と、目標値とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明による車両の一実施の形態を説明するための図である。図1は、車両の全体的な構成を示すブロック図である。
【0019】
本実施の形態の車両10は、例えば、トラックなどの大型商業車両である。車両10は、図1に示すように、車両本体20と、一対の前輪30aおよび一対の後輪30bを含む車輪30と、エアブレーキシステム40と、エアブレーキシステム40を制御する制御装置50と、を含んでいる。また、車両10は、図示しないが、エンジンやモータを含む動力部や、エンジン出力を制御するアクセル制御手段(アクセルアクチュエータ)、前輪30aおよび/または後輪30bの向きを変えて車両10の進行方向を変えるための操舵手段を含んでいる。
【0020】
エアブレーキシステム40は、空気圧により駆動して車両10を制動する。より具体的には、エアブレーキシステム40は、圧縮空気を蓄えるエアタンク41と、各車輪30に設けられたブレーキ手段42と、エアタンク41と各ブレーキ手段42とを接続する管路43と、を含む。ブレーキ手段42は、エアタンク41からの圧縮空気により駆動して各車輪30の回転を摩擦抵抗により低減する。
【0021】
管路43上には、調整弁44が配置されている。調整弁44は、開閉動作を行うことにより管路43を介してエアタンク41とブレーキ手段42とを連通あるいは断絶させる。調整弁44は、通常、制御装置50からの入力が無い限り、閉鎖されている。図示された例では調整弁44は電磁弁であるが、これに限られない。調整弁44は、種々の公知の調整弁であってよい。
【0022】
制御装置50は、エアタンク41からブレーキ手段42に入力される空気圧の大きさを制御するものである。図示された例では、制御装置50は調整弁44に電圧を印加することにより、上記空気圧の大きさを制御する。
【0023】
制御装置50は、車両10の各部から取得される種々の情報に基づいてエアブレーキシステム40の制御を決定する制御器51を含む。図示された例では、制御器51は、上記種々の情報に基づいて、調整弁44に印加する電圧を決定する。
【0024】
ところで、エアブレーキシステムのデメリットとして、時間遅れを含むシステムであるため、車両に制動力が働くまでに遅れが発生することが挙げられる。この制動力の伝達遅れを考慮してエアブレーキシステムを制御しなければ、意図した地点で停止することができず、先行車との衝突や交差点への侵入など、実環境下において悪影響を及ぼす可能性がある。
【0025】
このような問題を解決するため、本実施の形態では、制御器51は、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮して、エアブレーキシステム40の制御を決定する。そして、このような制御器51と、エアブレーキシステム40を有する車両本体20と、を含む制御系を構築する。また、本実施の形態のエアブレーキシステム40の制御方法は、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮してエアブレーキシステム40の制御を決定する工程を備える。また、本実施の形態による車両10の制動方法は、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮してエアブレーキシステム40の制御を決定する工程と、エアブレーキシステム40を制御して車輪30に制動力を加える工程と、を含む。
【0026】
図示された例では、制御器51は、エアブレーキシステム40を含んだ車両本体20を制御対象としてモデル化し、モデル予測制御(MPC:Model Predictive Control)で考慮することにより、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮した制御を行う。MPCは制御器内で制御対象のモデルに基づき、有限時間未来までの挙動を予測して制御入力を決定する手法である。そのため、制御対象をエアブレーキシステムも含んだ上でモデル化しMPCで考慮することで、エアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮した制御が可能になると考えられる。
【0027】
さらに、図示された例では、制御器51は、車両本体20の車輪30にかかる車両本体20の荷重を考慮して、エアブレーキシステム40の制御を決定する。ここで、車輪の最大制動力は車輪にかかる荷重に依存するため、車両の状態によって発生できる制動力は変化する。したがって、車輪30にかかる荷重に応じて制動力が制限されるように制約条件を設けることで、最大制動力を考慮した制御が可能になると期待できる。
【0028】
さらに、図示された例では、制御器51は、進行方向の位置、高さ方向の位置、ピッチ角の回転角度、車両に生じる力、重力、及び、慣性モーメントを考慮して、エアブレーキシステム40の制御を決定する。また、図示された例では、図2に示すように、車両10は、車両本体20とペイロードとを合わせたばね上と、前後それぞれのアクスルシャフトと車輪30とを合わせたばね下と、により構成されるものとする。そして、制御器51は、ばね上重心までの高さ及びばね下重心までの高さを考慮して、エアブレーキシステム40の制御を決定する。
【0029】
ここでは、エアブレーキシステム40を含む制御系として、図2に示す制御系を考える。この制御系は、エアブレーキシステム40の他に、制御器51と車輪30とを含む。そして、制御器51でMPCを考慮して制御入力である電圧を決定し、エアブレーキシステム40を介して車輪30に制動力が加わるシステムを構築する。
【0030】
まず、実際の大型商業車両のエアブレーキシステムの応答を、1次遅れ系として式(1)で同定した。式(1)において、Tは時定数、Kは定常ゲインを表す。
【数1】
【0031】
また、制動時に生じるばね上、前後それぞれのばね下における高さ方向、進行方向、ピッチ回転の運動を考え、次の10状態をもつモデルを作成し縦断面モデルとする。
【数2】
【0032】
各状態を表すモデルを式(2)~(6)に示す。式内におけるx、z、θ、f、m、h、l、Jは、それぞれ、進行方向の位置、高さ方向の位置、ピッチ角の回転角度、車両に生じる力、重量、ばね上重心までの高さ、ばね下重心までの距離、慣性モーメントを表し、添え字b、f、rでばね上、前後のばね下を区別する。
【数3】
【0033】
<作成したモデルの妥当性検証1>
作成したモデルの妥当性を検証するため、大型車両向けの車両運動シミュレータであるMechanical Simulation社のTruckSimを用いて応答の比較を行った。TruckSimは、エンジンから車輪までの駆動系をモデル化したパワートレインモデルやサスペンションモデルを有している高精度の車両シミュレータである。したがって、ここでは、TruckSimの出力結果に近いほどモデルとしての精度が高いものとする。図4(a)に、本検証により得られた図3に示す縦断面モデルおよびTruckSimの挙動を示す。図4(a)において、実線は縦断面モデルの挙動を示し、一点鎖線は、TruckSimの挙動を示す。
【0034】
図4(a)から理解されるように、図3に示す縦断面モデルの挙動が、シミュレータの挙動に一致している。このことから車両10の挙動として妥当なモデルを作成できたといえる。
【0035】
<作成したモデルの妥当性検証2>
実際のブレーキシステムと1次遅れ系に対してそれぞれステップ入力を印加した際のそれぞれの応答を図4(b)に示す。図4(b)において、実線は1次遅れ系の応答を示し、一点鎖線は実際のブレーキシステムの応答を示す。図4(b)に示すように、初期時刻での応答に誤差が発生している。これは元となったエアブレーキシステムの応答が厳密な1次遅れ系の傾向ではないため生じたものと考えられる。しかし、定常値に比べ十分に小さい値での誤差であるため、妥当なモデルであるといえる。
【0036】
<モデル予測制御>
MPCは有限時間未来までを評価区間とし、制約条件を考慮した入力を決定する最適制御手法である。図示された例において、評価関数は、状態x、入力uを用いて、式(7)のように表せる。
【数4】
式(7)において、Hは予測長を表し、評価区間の長さを定義している。φ(・)は、終端コストを表し、予測長における終端での目標状態との偏差を評価する項である。L(・)はステージコストを表し、予測区間内での目標状態との偏差や入力値を評価する項である。
【0037】
図示された例では、ステージコストと終端コストは、次の式(8)、(9)のように表される。
【数5】
【0038】
また、車輪が発生可能な最大の制動力は、路面摩擦係数μ、車輪にかかる荷重Wの積で表され、制動力をfとすると式(10)が成立する。
【数6】
この式を制約条件としてMPCで考慮することで、車輪の最大制動力を超えない範囲での制御入力の決定が可能となる。
【0039】
<数値シミュレーションによる制動検証>
本実施の形態の手法の有効性を検証するため、エアの伝達遅れを考慮しないMPCを比較手法とした速度制御を数値シミュレーションにより検証した。ここでは、時速54kmから一定速度で走行後、5秒かけて減速、停止する走行を制御目標とする。
【0040】
検証により得られた速度と走行距離の結果を、それぞれ図5(a)および図5(b)に示す。図5(a)および図5(b)において、実線はエアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮したMPCを用いた場合を示し、一点鎖線はエアブレーキシステムによる制動力の伝達遅れを考慮しないMPCを用いた場合を示し、二点鎖線は目標値を表す。
【0041】
比較手法の場合は、図5(a)に示すように、目標速度から外れ、追従が間に合わない結果となった。また、図5(b)に示すように、走行距離が最終的な目標値を5m程度超過する結果となった。
【0042】
本実施の形態の手法の場合、図5(a)に示すように、目標値の手前からあらかじめ減速を開始し、減速時も目標値に沿って減速し、目標値に遅れることなく追従ができた。また、図5(b)から、走行距離についても、シミュレーション終了時に目標値を超過せずに停止できていることが確認できる。これは本実施の形態の制御器51では、エアブレーキシステム40を含めたモデルに基づいて入力(調整弁44に印加する電圧)を決定しており、モデルに含まれる時間遅れを予測したことによる効果だと考えられる。
【0043】
また、比較手法では最終的な走行距離の誤差が5mであり、これは車両の全長と同程度以上の数値である。実環境で考えた場合、交差点への侵入や先行車との衝突などの事故が想定される。したがって、本実施の形態の手法は大型商業車両の制動において有効であるといえる。
【0044】
以上に説明した本実施の形態による車両10は、エアブレーキシステム40を含んだ車両本体20と、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮してエアブレーキシステム40の制御を決定する制御器51と、を備える。これにより、エアブレーキシステム40を採用した車両10を精度良く制御して、意図した地点で停止させることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、制御器51は、エアブレーキシステム40を含んだ車両本体20を制御対象としてモデル化し、モデル予測制御で考慮することにより、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮した制御を行う。これにより、車両10をさらに精度良く制御して、意図した地点で停止させることができる。
【0046】
また、本実施の形態では、制御器51は、車両本体20の車輪30にかかる車両本体20の荷重を考慮して、エアブレーキシステム40の制御を決定する。これにより、車両10をさらに精度良く制御して、意図した地点で停止させることができる。
【0047】
また、本実施の形態では、制御器51は、進行方向の位置、高さ方向の位置、ピッチ角の回転角度、車両に生じる力、重力、ばね上重心までの高さ、ばね下重心までの高さ、及び、慣性モーメントを考慮して、エアブレーキシステム40の制御を決定する。これにより、車両10をさらに精度良く制御して、意図した地点で停止させることができる。
【0048】
また、本実施の形態による車両10の制動方法は、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮してエアブレーキシステム40の制御を決定する工程と、エアブレーキシステム40を制御して車輪30に制動力を加える工程と、を備える。これにより、エアブレーキシステム40を採用した車両10を、意図した地点で停止させることができる。
【0049】
また、本実施の形態では、エアブレーキシステム40の制御を決定する工程において、エアブレーキシステム40を含んだ車両10を制御対象としてモデル化し、モデル予測制御で考慮することにより、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮した制御を行う。これにより、車両10をさらに精度良く制御して、意図した地点で停止させることができる。
【0050】
また、本実施の形態のエアブレーキシステム40の制御方法は、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮してエアブレーキシステム40の制御を決定する工程を備える。これにより、エアブレーキシステム40を採用した車両10を精度良く制御して、意図した地点で停止させることができる。
【0051】
また、本実施の形態のエアブレーキシステム40の制御装置50は、エアブレーキシステム40による制動力の伝達遅れを考慮してエアブレーキシステム40の制御を決定する制御器51を備える。これにより、エアブレーキシステム40を採用した車両10を精度良く制御して、意図した地点で停止させることができる。
【符号の説明】
【0052】
10 車両
20 車両本体
30 車輪
40 エアブレーキシステム
50 制御装置
51 制御器
図1
図2
図3
図4
図5