(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】飲食品の香味又は風味の劣化抑制用組成物及び劣化抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20230522BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20230522BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20230522BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20230522BHJP
A23L 2/44 20060101ALI20230522BHJP
A23L 2/42 20060101ALI20230522BHJP
A23L 5/20 20160101ALI20230522BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23F3/16
A23F5/24
A23L2/00 B
A23L2/00 P
A23L2/42 101
A23L2/44
A23L5/20
(21)【出願番号】P 2019059747
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 芽以
(72)【発明者】
【氏名】今田 隆文
(72)【発明者】
【氏名】折越 英介
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-235532(JP,A)
【文献】特開2010-159213(JP,A)
【文献】特開平03-056585(JP,A)
【文献】特開2013-245171(JP,A)
【文献】特開2020-145929(JP,A)
【文献】特開2020-094182(JP,A)
【文献】Food Control,2018年,Vol.84,pp.238-245
【文献】油化学,1969年,Vol.18,No.10,pp.699-718
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23F
C12G
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シコウカ属(Lawsonia)植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する、飲食品の香味又は風味の劣化抑制用組成物。
【請求項2】
前記シコウカ属植物の抽出物が、シコウカ属植物の全草、葉部、茎部、根部、樹皮、果実、種子及び花部からなる群より選択される1種又は2種以上に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記シコウカ属植物の抽出物が、シコウカ属植物の、水、メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、酢酸エチル、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、酢酸メチル、プロピレングリコール、グリセリン、亜酸化窒素、ジエチルエーテル、2-ブタノン、食用油脂、シクロヘキサン、ジクロロメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2-トリクロロエテン、二酸化炭素、ブタン、及びプロパンからなる群より選択される1種又は2種以上の溶媒による抽出物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記精製物が、前記シコウカ属植物の抽出物が吸着剤で処理されたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の飲食品の香味又は風味の劣化抑制用組成物を含有させることを含む、香味又は風味の劣化が抑制され
た飲食品
の製造方法。
【請求項6】
シコウカ属(Lawsonia)植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する組成物を、飲食品に含有させることを含む、飲食品の香味又は風味の劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品の香味又は風味の劣化抑制用組成物、飲食品の香味又は風味の劣化抑制方法、並びに、劣化抑制用組成物を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、広く飲食品の香味や風味は、経時的に劣化する。劣化は、熱、光、水、空気、酸素、鉄等の金属成分等によって促進され、飲食品の香味成分や風味成分に種々の化学的な変化をもたらす。例えば、天然香料は、還元、脱水素、加水分解、重合、エステル化、脱炭酸等の反応によって変質する結果、劣化臭のような異臭や、飲食品本来の香味や風味の低下として感じられる。
【0003】
このような複合的な反応が関係するため、酸化を抑制すれば香味や風味の劣化が抑えられるとは限らない。例えば、カテキンを含む組成物が、シトラスの香味をもたらすシトラールの劣化生成物である、p-クレゾールの生成を抑制しないことが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、特許文献1のように、カリン、マンゴー等の溶媒抽出物と、カテキン類とを組み合わせたシトラール劣化臭生成抑制方法が開示されている一方で、特許文献2の背景技術の項には、そのような手段によれば、混濁果汁飲料の褐変がかえって促進し、外観が悪化することが記載されている。
【0005】
そこで、飲食品の香味や風味の劣化を抑えるために、安全性の観点から天然物由来の様々な組成物が提供されている。例えば、茶飲料にアブラナ科植物に含まれるメチルメチオニンスルホニウム塩を添加する手段(特許文献3)、茶飲料にエキナセア プルプレア等の抽出物を含有させる手段(特許文献4)、果汁飲料にカロテノイドを含有させる手段(特許文献5)等がこれまでに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-180081号公報
【文献】特開2016-96797号公報
【文献】特開2016-154500号公報
【文献】特開2015-080436号公報
【文献】特開2015-053936号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry,2006年、Vol.54,pp.3055-3061
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の抽出物自身の持つ風味や香味、又は色味が、使用する対象によっては調和しないという課題が見出された。こうした課題のために、上記の抽出物が適用され得る飲食品が特定のものに限られてしまうことが推測される。
【0009】
そこで本発明は、多様な飲食品の加熱又は保存時に進行する香味又は風味の劣化を抑える、汎用性の高い新規な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、シコウカ属(Lawsonia)の植物の抽出物が、多様な香味や風味を有する飲食品において、香味又は風味の減少又は変調を抑制して、香味又は風味の劣化を抑制することを新たに見出した。
【0011】
また、シコウカ属(Lawsonia)植物の抽出物が、飲食品の劣化臭をマスキングして、香味又は風味の劣化を抑制することを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、以下の飲食品の香味又は風味の劣化抑制用組成物を提供する。
項1.
シコウカ属(Lawsonia)植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する、飲食品の香味又は風味の劣化抑制用組成物。
項2.
前記シコウカ属植物の抽出物が、シコウカ属植物の全草、葉部、茎部、根部、樹皮、果実、種子及び花部からなる群より選択される1種又は2種以上に由来する、項1に記載の組成物。
項3.
前記シコウカ属植物の抽出物が、シコウカ属植物の、水、メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、酢酸エチル、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、酢酸メチル、プロピレングリコール、グリセリン、亜酸化窒素、ジエチルエーテル、2-ブタノン、食用油脂、シクロヘキサン、ジクロロメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2-トリクロロエテン、二酸化炭素、ブタン、及びプロパンからなる群より選択される1種又は2種以上の溶媒による抽出物である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
前記精製物が、前記シコウカ属植物の抽出物が吸着剤で処理されたものである、項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【0013】
また、本発明は以下の香味又は風味の劣化が抑制された飲食品を提供する。
項5.
シコウカ属(Lawsonia)植物の抽出物及び/又はその精製物を有効量含有する、香味又は風味の劣化が抑制された、飲食品。
【0014】
さらに本発明は、以下の飲食品の香味又は風味の劣化抑制方法を提供する。
項6.
シコウカ属(Lawsonia)植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する組成物を、飲食品に含有させることを含む、飲食品の香味又は風味の劣化抑制方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の組成物を飲食品に添加することで、飲食品本来の香味や風味、色味を損なわずに、香味又は風味の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[香味又は風味の劣化抑制用組成物]
本発明の組成物は、シコウカ属植物の抽出物及び/又はその精製物を含有し、飲食品の香味又は風味の劣化抑制の用途に用いられる。
【0017】
(シコウカ属植物の抽出物及びその精製物)
本発明の組成物に用いられるシコウカ属植物としては、ミソハギ科(Lythraceae)シコウカ属(Lawsonia)に属する植物であれば特に限定されないが、シコウカ(指甲花)(L. inermis)が好ましい。シコウカは、別名ヘナ、ヘンナ、ツマクレナイノキ、エジプトイボタノキ等とも呼ばれる低木で、南西アジア及び北アフリカを主な原産地とする植物である。
【0018】
本発明の組成物に用いられる植物の抽出物は、特に限定されないが、例えば、全草、葉部、茎部、根部、樹皮、果実、種子及び花部からなる群より選択される1種又は2種以上に由来し、中でも葉部、茎部及び果実からなる群より選択される1種又は2種以上に由来することが好ましく、葉部に由来することがより好ましい。
【0019】
シコウカ属植物の抽出物を得るために用いる抽出溶媒は、特に限定されないが、飲食品に使用可能な溶媒であることが好ましい。そのような溶媒は、例えば第9版食品添加物公定書のE 製造基準に例示され、水;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の炭素数1~4の低級アルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等の低級アルキルエステル;プロピレングリコール、グリセリン等のグリコール類;亜酸化窒素、ジエチルエーテル、アセトン、2-ブタノン等の極性溶媒;食用油脂;ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2-トリクロロエテン、二酸化炭素、ブタン、プロパン等の非極性溶媒、又は、これらの溶媒から選択される2種以上の混合物を用いることができる。中でも、水、エタノール、メタノール、アセトン、ヘキサン、及び酢酸エチルからなる群より選択される1種又は2種以上からなることが好ましく、エタノール及び/又は水からなることがより好ましく、エタノール及び水からなることが更に好ましい。さらに、抽出溶媒としてエタノール及び水を用いる場合、エタノールの含有量は、例えば1~99体積%が好ましく、10~90体積%がより好ましく、20~80体積%が更に好ましく、30~70体積%が特に好ましく、50体積%が最も好ましい。
【0020】
抽出方法としては、一般に用いられる方法が採用でき、例えばエキス剤、エリキシル剤、浸剤、煎剤、流エキス剤及びチンキ剤等の各種生薬製剤の調製に用いられる抽出方法を広く挙げることができる。特に限定されないが、例えば溶媒中に上記の植物(そのまま(生)若しくは粗末、細切物)、又はそれらの乾燥破砕物(粉末等)を冷浸(通常1~25℃)や温浸(通常35~45℃)等によって浸漬する方法、加温し撹拌しながら抽出を行い、ろ過して抽出液を得る方法、パーコレーション法(通常1~30℃程度)、超臨界抽出法等を挙げることができる。
【0021】
得られた抽出液は、必要に応じてろ過又は遠心分離によって固形物を除去した後、使用の態様により、そのまま用いるか、又は溶媒を留去して一部濃縮して軟エキスとして、若しくは減圧乾燥や凍結乾燥等の通常の手段により乾燥して、エキス乾燥物として使用することもできる。また濃縮ないしは乾燥後、得られる濃縮物又は乾燥物を非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いても、またこれを更に適当な溶剤に溶解若しくは懸濁して用いてもよい。
【0022】
植物は、そのまま(生)若しくは破砕物として抽出操作に付してもよく、また乾燥後、必要に応じて粉砕若しくは粉体状として抽出操作に付してもよい。
【0023】
シコウカ属植物の抽出物は、着色及び特有の臭いを低減する観点から、精製することが好ましい。精製は、特に限定されず、例えば、吸着剤による処理、ろ過処理、カラムクロマトグラフィー処理等が挙げられるが、中でも吸着剤による処理が好ましい。
【0024】
吸着剤としては、特に限定されないが、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、活性白土、珪藻土、酸性白土、イオン交換樹脂、合成吸着剤等が挙げられる。これら吸着剤としては、商業的に入手可能なものを用いることができる。
【0025】
吸着剤のうち、活性炭の由来としては、例えば、石炭、ヤシ殻、おがくず等が挙げられる。また、活性炭の形状としては、粒状、粉末状、繊維状等が挙げられる。
【0026】
シコウカ属植物の抽出物を吸着する場合に用いられる吸着剤としては、好ましくは活性炭であり、より好ましくはおがくず由来活性炭である。
【0027】
シコウカ属植物の抽出物を、吸着剤として活性炭を用いて処理する場合に、用いる活性炭の量は、特に限定されず、活性炭の種類によって適宜変更し得るが、着色及び特有の臭気を低減する観点から、抽出物の全量に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上である。
【0028】
(その他成分)
本発明の組成物は、製剤化をしやすくする観点から、さらに乳化剤を含有することができる。乳化剤の種類は、特に限定されないが、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、有機酸モノグリセリド等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチン、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、キラヤ抽出物、サポニン、ポリソルベート(例、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80)等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明の組成物は、製剤化をしやすくする観点から、さらに賦形剤を含有することができる。賦形剤の種類は、特に限定されないが、例えば、澱粉分解物(デキストリン、粉飴等)、糖類(単糖(グルコース、フルクトース等)、二糖(例えば、ショ糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース等)、オリゴ糖(セロオリゴ糖、マルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖等)、糖アルコール(キシリトール、ソルビトール、ラクチトール、マルチトール等)、還元糖化物等)、食物繊維(例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グァーガム酵素分解物等)等が挙げられる。これらの賦形剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
さらに、本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記のシコウカ属植物抽出物又はその精製物、乳化剤及び賦形剤以外に、その他成分として、公知の飲食品の風味又は香味の劣化を抑制する成分、栄養成分、アルコール、酒類、塩類、呈味成分、果汁、果肉、野菜、野菜汁、ピューレ、乳由来成分、エキス(動物、植物、微生物等由来)、香辛料、甘味料、糖アルコール、高感度甘味料、苦味料、酸味料、香料、着色料、その他食品添加物(食物繊維、pH調整剤、保存料、酸化防止剤、増粘剤、安定化剤等)等を1種又は2種以上配合することができる。
【0031】
(形態)
本発明の組成物には、シコウカ属植物の抽出物と、抽出物の精製物のいずれか単独、又はこれら両方を含有させたもの、さらに抽出物及び/又は精製物に、他の成分を加えて製剤化した製剤が包含される。
【0032】
製剤化方法は、特に限定されないが、例えば水、有機溶媒(アルコール、グリセリン、プロピレングリコール)又はこれらの混合物等の所望の溶媒に溶解させて液剤とする方法;液剤にデキストリン等の賦形剤を配合してペースト状製剤にする方法;ペースト状製剤をさらに顆粒化又は打錠して顆粒剤又は錠剤にする方法;上記液剤を噴霧乾燥又は凍結乾燥することでパウダー状製剤(粉末製剤)とする方法;さらに上記液剤に乳化剤ととともに油脂類を添加し分散・乳化させることでエマルジョン製剤とする方法を挙げることができ、用途に応じて所望の剤型を適宜選択採用することができる。
【0033】
本発明の組成物のうち、製剤の形態においては、シコウカ属植物抽出物及びその精製物の総含有量(固形分量として)は、特に限定されず、製剤の形態に応じて適宜調整され得るが、製剤の全量に対して、例えば、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上であり、
また例えば、100質量%以下、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下である。
【0034】
(用途)
本発明の組成物は、飲食品の香味又は風味の劣化抑制に用いられ、より好ましくは風味の劣化抑制に用いられる。
【0035】
本明細書において、「飲食品」とは、医薬品に該当する組成物を除く、経口摂取可能な形態の組成物を表し、いわゆる健康食品を含む一般食品(調理前食品、食品素材等を包含する)、飲料(希釈して飲用される飲料濃縮物等を包含する)のほか、食品や飲料の製造用中間物、並びに特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品をも含むものであり、更にサプリメント、飼料、食品添加物等も本発明の飲食品に包含される。
【0036】
本明細書において、「香味」とは、組成物から体外(空気中)を経て、嗅覚に知覚されるにおい(オルソネーザルフレーバーとも呼ばれる)を表す。
【0037】
本明細書において、「風味」とは、組成物を口に入れた場合に、体外を経由せずに喉を経由して嗅覚で知覚されるにおい(レトロネーザルフレーバーとも呼ばれる)、及び味覚で知覚される味によってもたらされる総合的な感覚を表す。
【0038】
本明細書において、「香味又は風味の劣化」とは、香味又は風味の減少及び/又は変調によって、好ましくない香味又は風味へと変化することを表す。ここで、香味又は風味の変調は、本来の香味又は風味が、いわゆる劣化臭(オフフレーバー)と呼ばれるものへ変化することを包含する。劣化臭は、特に限定されないが、例えば、緑茶、紅茶等の茶系飲料においては、金属臭等と表現され、また果汁飲料においては、枯れ草臭、レトルト臭、イモ臭等と表現される。また、風味の変調には、酸味、苦み、渋み、収斂味等増加など、感覚上味覚として知覚されるものも包含される。
【0039】
本明細書において、「香味又は風味の劣化の抑制」及び「香味又は風味の変調の抑制」には、香味又は風味の劣化により生じた劣化臭をマスキングすることが包含される。劣化臭のマスキングとは、劣化臭の被覆、劣化臭の中和又は化学変化による消臭、脱臭、防臭、又は除臭作用を表す。
【0040】
本発明の組成物は、特に限定されないが、劣化の中でも、いわゆる熱劣化などの、加熱時、又は保存時に経時的に引き起こされる劣化の抑制に用いられることが好ましい。
【0041】
本発明の組成物の用途は、より具体的には、飲食品の香味又は風味の減少抑制、飲食品の香味又は風味の変調抑制、飲食品の各種劣化臭(金属臭、枯れ草臭、レトルト臭、イモ臭等)の発生の抑制、飲食品の各種劣化臭のマスキング、飲食品の味の変調(酸味、苦み、渋み、収斂味等の増加等)の抑制、等が挙げられる。
【0042】
本発明の組成物の対象である飲食品としては、特に限定されないが、例えば、清涼飲料、アルコール飲料等の飲料、若しくはその濃縮物;ゼリー、プリン、ババロア、ケーキ、クッキー、マカロン等のパティスリー;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓等の冷菓;ヨーグルト、チーズ等の乳製品;タブレット、カプセル菓子、フィルム菓子、キャンディー、チューインガム、チョコレート、焼菓子等の菓子類;団子、カステラ等の和菓子類;調理食品(カレー、パスタ、唐揚げ等)、畜肉類加工品、魚介類加工品、野菜加工品(ピューレ、野菜ソース、ケチャップ、ペースト、カット野菜等)、果物加工品(ピューレ、ジャム、フルーツソース、ペースト、カットフルーツ、フルーツプレパレーション等)、海産物加工品、穀物加工品等の加工食品;ソース、ドレッシング、食用油、スパイス等の調味料;シロップ等を挙げることができるが、中でも本発明の効果を顕著に奏する観点から、飲料若しくはその濃縮物、野菜加工品又は果物加工品が好ましく、飲料若しくはその濃縮物がより好ましく、清涼飲料が更に好ましい。
【0043】
また、本発明の組成物の対象である飲食品としては、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、植物抽出物、野菜又は果物を含有する飲食品が好ましい。
【0044】
清涼飲料とはアルコール度数1度未満の飲料全般を表し、例えば、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、野菜飲料(トマトジュース、野菜ジュース、青汁等)、野菜入り混合果汁飲料、果肉飲料、炭酸飲料、乳性飲料(乳、乳酸菌飲料、乳飲料、発酵乳等)、麦芽飲料、スポーツ飲料、ゼリー飲料、ココア飲料、チョコドリンク、エネルギー飲料、健康飲料(薬系ドリンク、健康サポート飲料、機能性清涼飲料、スポーツドリンク、ビネガードリンク、麦芽ドリンク等)、植物性飲料(米、豆乳、アーモンドを主原料とする穀物飲料等)、甘酒、しるこ、スープ飲料、粉末スープ飲料等、フレーバーウォーター等が挙げられる。本発明の組成物の対象としては、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜入り混合果汁飲料、又は果肉飲料が好ましく、茶系飲料、コーヒー飲料又は果汁飲料がより好ましい。
【0045】
茶系飲料としては、特に限定されず、緑茶、紅茶、烏龍茶、ほうじ茶、杜仲茶、番茶、麦茶、プーアール茶、玄米茶、ジャスミン茶、そば茶、雑穀茶、ルイボスティー、マテ茶等が挙げられる。本発明の組成物の対象としては、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、緑茶又は紅茶が好ましい。
【0046】
果汁飲料としては、果実から得られた搾汁を使用して調製したものが挙げられる。本発明の組成物の対象に用いられる果実としては、特に限定されず、柑橘類(みかん、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等)、熱帯果実(パイナップル、バナナ、グァバ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ等)、リンゴ、白桃、ブドウ(マスカット、巨峰等を含む)、イチゴ、ウメ、ナシ(洋ナシ等を含む)、アンズ、スモモ、キウイフルーツ、メロン等が挙げられるが、中でも本発明の効果を顕著に奏する観点から、オレンジ、リンゴ、白桃、グレープフルーツ、及びパイナップルからなる群から選ばれる1種又は2種以上の果実から得られた搾汁を含有することが好ましい。
【0047】
また、果汁飲料は、搾汁後に繊維分を含有する混濁果汁と、搾汁後に酵素による分解、ろ過等の繊維分を除く処理を経て得られる清澄果汁に大きく分けられる。本発明の組成物はいずれにも用いることができるが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、混濁果汁がより好ましい。
【0048】
アルコール飲料は、飲料中のアルコール含量が1度以上の飲料を表し、例えば、酒税法上の「酒」を指すアルコール飲料が挙げられる。具体的には、清酒類(清酒、合成清酒)、焼酎、ビール、果実酒類(果実酒、梅酒等の甘味果実酒)、ウイスキー類(ウイスキー、ブランデー)、スピリッツ類(スピリッツ等)、リキュール類(酎ハイ、サワー、カクテル等)、発泡酒、その他の醸造酒(マッコリ等)、雑酒(粉末酒、その他の雑酒)等を挙げることができる。
【0049】
(用量)
本発明の組成物は、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、該組成物中のシコウカ属植物の抽出物及び精製物の固形分の総量が、用いる対象である飲食品の全量に対して、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上、更に好ましくは30ppm以上、特に好ましくは50ppm以上となるように添加又は付加される。
また、本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、着色及びシコウカ属植物の抽出物由来の香味を抑える観点から、該組成物中の抽出物及び精製物の固形分量が、用いる対象である飲食品の全量に対して、好ましくは500ppm以下となるように添加又は付加される。
【0050】
(性状)
本発明の組成物は、特に限定されないが、飲食品の着色を抑える観点から、その乾燥物(固形分)を50体積%エタノールに1mg/mlとなるように溶解したときの波長400nmでの吸光度が、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.75以下、更に好ましくは0.72以下である。
【0051】
また、本発明の組成物が、シコウカ属植物の抽出物の精製物を含有する場合は、飲食品の着色を抑える観点から、その乾燥物を50体積%エタノールに1mg/mlとなるように溶解したときの波長400nmでの吸光度が、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.3以下である。
【0052】
[香味又は風味の劣化が抑制された飲食品]
(成分)
本発明の香味又は風味の劣化が抑制された飲食品は、シコウカ属(Lawsonia)植物の抽出物及び/又はその精製物を有効量含有する。
【0053】
本発明の香味又は風味の劣化が抑制された飲食品の、シコウカ属植物の抽出物及び/又はその精製物の種類及び製法は、上記の[香味又は風味の劣化抑制用組成物]の項に記載したものと同じである。
【0054】
シコウカ属植物の抽出物及びその精製物の固形分の総含有量は、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、本発明の飲食品の全量に対して、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上、更に好ましくは30ppm以上、特に好ましくは50ppm以上である。
また、シコウカ属植物の抽出物及びその精製物の固形分の総含有量は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、着色及び植物の抽出物由来の香味を抑える観点から、本発明の飲食品の全量に対して500ppm以下とすることができる。
【0055】
さらに、本発明の飲食品には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記のシコウカ属植物抽出物又はその精製物以外に、公知の飲食品の風味又は香味の劣化を抑制する成分、栄養成分、アルコール、酒類、塩類、呈味成分、果汁、果肉、野菜、野菜汁、ピューレ、乳由来成分、エキス(動物、植物、微生物等由来)、香辛料、甘味料、糖アルコール、高感度甘味料、苦味料、酸味料、香料、着色料、その他食品添加物(食物繊維、pH調整剤、保存料、酸化防止剤、増粘剤、安定化剤、乳化剤等)等を1種又は2種以上配合することができる。中でも、風味又は香味の劣化抑制効果をさらに付与する観点から、酸化防止剤を配合することが好ましい。
【0056】
乳化剤としては、特に限定されないが、例えば[香味又は風味の劣化抑制用組成物]の賦形剤の成分として記載した乳化剤を用いることができる。
【0057】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えばアスコルビン酸類(L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸モノリン酸エステルナトリウム塩、リン酸L-アスコルビルマグネシウム、アスコルビン酸-2-グルコシド、イソアスコルビン酸(エリソルビン酸)等)、トコフェロール類(α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、酢酸トコフェロール等)、ポリフェノール類等を用いることができるが、中でもアスコルビン酸類が好ましく、L-アスコルビン酸(ビタミンC)が特に好ましい。
【0058】
酸化防止剤としてL-アスコルビン酸を配合する場合は、風味又は香味の劣化抑制効果をさらに付与する観点から、例えば、本発明の組成物の全量に対して、0.001~0.1質量%配合される。
【0059】
(形態)
本発明の飲食品の具体例及び好ましい態様は、上記の[香味又は風味の劣化抑制用組成物]の用途の項で記載した、香味又は風味の劣化抑制用組成物の対象である飲食品と同じである。
【0060】
本発明の飲食品の保存温度は、特に限定されないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、好ましくは4℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上、更により好ましくは30℃以上、特に好ましくは50℃以上である。
【0061】
本発明の飲食品が飲料である場合、飲料には、工業的に製造されて直接飲用される飲料の他に、サーバーやカップベンダー(カップ式自動販売機)によって、あるいは消費者又は飲食品の提供者等によって、飲料若しくはその濃縮物を水、シロップ、炭酸水、アルコール類等若しくはこれらの混合物により希釈して得られる飲料、又は本発明の飲料若しくはその濃縮物に二酸化炭素を注入(カーボネーション)して得られる飲料も包含される。
本発明の飲食品が直接飲用される飲料である場合、容器は特に限定されないが、例えば、瓶、アルミ缶、スチール缶、ボトル缶、PETボトル、紙パック(ゲーブルトップ、LL容器等)、スパウトパウチ等が挙げられる。
また、本発明の飲食品が飲料又は飲料の濃縮物である場合において、飲料の製造用途に供される場合は、特に限定されないが、例えば上記の容器形態の他、例えば、一斗缶、ドラム缶等に充填される。さらに消費者又は飲食品の提供者が希釈して用いる用途に供される場合は、特に限定されないが、例えば飲料として直接飲用される場合の容器形態と同様の形態のほか、プラスチックや紙等を材料とするポーションタイプのカートリッジ、アルミパウチ(スティック形状等)、ドレッシング容器やソース容器のようなキャップ付き狭口ボトル等が挙げられる。
【0062】
[飲食品の香味又は風味の劣化の抑制方法]
本発明の飲食品の香味又は風味の劣化の抑制方法は、以下の方法である。
シコウカ属(Lawsonia)植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する組成物を、飲食品に含有させることを含む、飲食品の香味又は風味の劣化抑制方法。
【0063】
植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する組成物としては、上記の[香味又は風味の劣化抑制用組成物]の項で記載した香味又は風味の劣化抑制用組成物を使用することができる。
【0064】
植物の抽出物及び/又はその精製物のその他の成分、製法、具体的用途、形態、性状、用量等、飲食品の具体例等については、いずれも上記の[香味又は風味の劣化抑制用組成物]の項に記載したとおりである。
【0065】
本発明の方法には、さらに加熱殺菌工程を含むことが好ましい。加熱殺菌工程は、植物の抽出物及び/又はその精製物を含有させる工程の後に設けることが好ましい。
【0066】
本発明の方法には、さらにシコウカ属植物の抽出物及び/又はその精製物を含有する組成物以外の、香味又は風味の劣化抑制の効果を有する組成物等を含有させる工程を含むことができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実験例及び実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、特に記載がない限り、それぞれ「質量部」「質量%」を意味する。また、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であることを示し、文中「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0068】
[試験例1.シコウカ葉抽出物の調製]
シコウカ葉粉末(インド原産)10gに対して、抽出溶媒として50体積%エタノールを300ml加え、3時間室温にて撹拌抽出後にろ過処理を行った(1次抽出エキス)。また、残渣に対して上記抽出溶媒を300ml加え、3時間室温にて撹拌抽出後ろ過処理を行い(2次抽出エキス)、1次抽出エキス及び2次抽出エキスを合わせたものを調製した。
【0069】
吸着処理のために、おがくず由来の活性炭であるタケコール50WG-T(大阪ガスケミカル(株)製)を、上記のシコウカ葉の50体積%エタノール抽出物に対して2質量%となるように加え、1時間攪拌した。吸着処理後、得られたシコウカ葉抽出物の精製物をエバポレーターで濃縮乾固させた。
【0070】
得られたシコウカ葉抽出物の精製物を、50体積%エタノールに固形分換算で50mg/mlとなるように溶解し、以下の飲食品の評価試験に用いた。
【0071】
また、濃縮乾固したシコウカ葉抽出物を50体積%エタノールに固形分換算で1mg/mlとなるように溶解したものを調製した。吸着処理前のシコウカ葉抽出物を固形分として1mg/ml含有する50体積%エタノール溶液は褐色を呈し、波長400nmの吸光度は0.705であったが、この吸着処理を経たサンプルの外観はほぼ透明であり、波長400nmの吸光度は0.244であった。
【0072】
[試験例2.飲料の香味及び風味の劣化抑制効果の検証]
(共通する試験・評価方法)
(1)シコウカ葉抽出物の精製物(固形分濃度50mg/ml)を、以下に指定する濃度で飲料に添加し、200mlのPETボトルに充填して密閉してから、50℃で以下に記載する期間保温したものを試験サンプルとした。また、官能評価の対照サンプルとして、同じ飲料をシコウカ葉抽出物の精製物を加えないでそのまま密閉し、50℃又は4℃に同じ期間保温したものをそれぞれ用意した。
(2)食品分野の開発研究に従事する20~40代の7~11名をパネリストとして、得られた試験サンプル及び対照サンプルの官能評価を実施した。まず対照サンプル2種類(50℃保存サンプル(50℃対照と呼ぶ)、4℃保存サンプル(4℃対照と呼ぶ))をそれぞれ試飲した後で、試験サンプルを試飲して評価を行った。評価は4℃対照の香味及び風味を5点、50℃対照の香味及び風味を1点、50℃対照よりも香味及び風味が劣り、飲料に適さない香味及び風味を0点とする、0~5点の範囲で、ビジュアルアナログスケール(VAS)法を用いて行った。即ち、スコアが高いほど熱劣化を受けていない飲料の状態に近く、香味及び風味の劣化が少ないことを表す。スコアが1より大きい場合は、50℃保存による香味及び風味の劣化がシコウカ葉抽出物の精製物を添加しない場合より抑制されていることを表し、逆に1より小さい場合は、50℃保存による香味及び風味の劣化がシコウカ葉抽出物の精製物を添加しない場合より促進されていることを表す。
(3)また、各パネリストにはスコア付けと合わせて、任意でサンプルの香味及び風味を自由記載形式で記入してもらった。
【0073】
(果汁飲料の評価)
果汁飲料として、オレンジ(清澄果汁、混濁果汁)、リンゴ(清澄果汁、混濁果汁)、白桃(清澄果汁、混濁果汁)、グレープフルーツ(混濁果汁)、パイナップル(混濁果汁)の各果汁にシコウカ葉抽出物の精製物を固形分換算で終濃度0.005質量%となるように加えたものをそれぞれ調製した(実施例1-1~8)。50℃で4日間保温した後、パネリスト8~9名で官能評価を実施した。結果を表1に示す。
【0074】
【0075】
その結果、実施例1-1~8のシコウカ葉抽出物の精製物を添加した果汁はいずれも精製物を添加していない場合よりも有意に香味及び風味の劣化が抑制されていることが示された。
【0076】
また、実施例1-1と1-2、実施例1-3と1-4、及び、実施例1-5と1-6を比較すると、清澄果汁の場合よりも繊維分が多い混濁果汁のほうが、香味及び風味の劣化抑制効果が顕著であることがわかった。
【0077】
さらに、パネリストから得られたコメントを表2に示す。果汁の種類によって香味又は風味の劣化の感じ方が異なるが、50℃対照では、果汁感、スッキリ感、爽やかさ等の果汁本来の香味又は風味の減少、イモ臭、枯れ草臭等の香味又は風味の変調(劣化臭の発生)、後口が重く変化すること、並びに、酸味や苦み、収斂味等の味の変調が見られるのに対して、シコウカ葉抽出物の精製物を果汁飲料に添加することによって、それらを抑制する効果があることが読み取れる。
【0078】
【0079】
(コーヒー飲料及び茶系飲料の評価)
コーヒー(市販飲料品、無糖かつブラックのもの)並びに、茶系飲料として、紅茶(市販飲料品、無糖タイプとレモンティーの2種)、及び緑茶(市販飲料品)に、シコウカ葉抽出物の精製物を固形分換算で0.005質量%となるように加えたもの(実施例2-1、2-3~5)、及びコーヒーにシコウカ葉抽出物の精製物を固形分換算で0.01質量%となるように加えたもの(実施例2-2)をそれぞれ調製した。50℃で7日間保温した後、パネリスト7~11名で官能評価を実施した。結果を表3に示す。
【0080】
【0081】
その結果、実施例2-1~5のシコウカ葉抽出物の精製物を添加したコーヒー及び茶系飲料は、いずれも精製物を添加していない場合よりも有意に香味及び風味の劣化が抑制されていることが示された。
【0082】
実施例2-1と2-2を比較すると、シコウカ葉抽出物の精製物の添加量に応じて、香味及び風味の劣化抑制効果が大きくなることがわかる。
【0083】
さらに、パネリストから得られたコメントを表4に示す。飲料の種類によって香味又は風味の劣化の感じ方は異なるが、50℃対照では、お茶の香りの減少等の香味又は風味の減少、ムレ臭、金属臭等の香味又は風味の変調(劣化臭の発生)、並びに、酸味、苦み、渋み、収斂味等の味の変調が見られるのに対して、シコウカ葉抽出物の精製物を添加することによって、それらを抑制する効果があることが読み取れる。
【0084】
【0085】
[試験例3.飲料の劣化臭のマスキング効果の検証]
本試験では、試験例2.(1)のシコウカ葉抽出物の精製物(固形分濃度50mg/ml)を添加する時点を、50℃の保温前ではなく保温後とした以外は、試験例2と同様の方法により保存試験及び評価を実施した。
【0086】
50℃で7日間保温した後、試験例2と同じ市販のコーヒーにシコウカ葉抽出物の精製物を固形分換算で0.005質量%又は0.01質量%となるように加えたものをそれぞれ調製した(実施例3-1、3-2)。パネリスト8名で官能評価を実施した。結果を表5に示す。
【0087】
【0088】
50℃保温中にコーヒー飲料本来の香味及び風味が変化した後にシコウカ葉抽出物の精製物を添加しても、香味及び風味の評点は50℃保存した対照のコーヒー飲料よりも有意に大きく、香味及び風味の劣化が抑制されることがわかった。従って、シコウカ抽出物の精製物は、50℃の保温によって生じた劣化臭をマスキングすることがわかった。
【0089】
一方、試験例2の実施例2-1及び2-2の評点と実施例3-1及び3-2評点の比較、並びにパネリストのコメントから、このようなシコウカ葉抽出物の精製物のコーヒー飲料への50℃保温後の添加によって得られる香味及び風味は、保温前に添加した場合の香味及び風味と若干異なると考えられる。そして、50℃保温前にシコウカ葉抽出物の精製物を添加した場合は、マスキングに加えて、劣化臭の発生、コーヒー飲料本来の香味・風味の減少等を抑制する効果を奏しているものと推察される。