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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】粒子形状分析方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/60 20170101AFI20230522BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230522BHJP
【FI】
G06T7/60 150S
G06T7/00 610Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019238027
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021105938
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】乘藤 南海子
(72)【発明者】
【氏名】越前谷 木綿子
【審査官】笠田 和宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116391(JP,A)
【文献】特開2018-077112(JP,A)
【文献】特開2010-197269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/60
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末中に存在する連結粒子や多角形粒子を含む異形粒子を抽出する粒子形状分析方法であって、
球形粒子及び異形粒子を含む金属粉末を、走査電子顕微鏡を用いて撮影する撮影ステップと、該撮影ステップによって得られた複数枚の粒子画像にそれぞれ二値化を含む画像処理を施して二値化画像データを取得する画像処理ステップと、該画像処理ステップで取得された二値化画像の各粒子を異形粒子の形状特徴値に基づいて分類し、球形粒子と異形粒子を識別して異形粒子を抽出する異形粒子抽出ステップとを備え
前記画像処理ステップが、前記撮影ステップで得られた粒子画像を複製する複製ステップと、ソーベルフィルタ処理を施し粒子のエッジを強調させるエッジ強調ステップと、粒子のエッジを抽出後、二値化処理によって二値化画像データを取得する二値化データ取得ステップと、該二値化データ取得ステップで取得された画像と前記複製ステップで複製された元画像とを重ね合わせる重ね合せステップと、重ね合わせた画像から粒子とバックグラウンドのコントラスト差を利用してバックグラウンドの情報を除去するバックグラウンド除去ステップと、元画像の粒子の形状に合わせるために粒子の二値化画像データを膨張処理して画像中の粒子形状データを取得する粒子形状データ取得ステップと、を有することを特徴とする粒子形状分析方法。
【請求項2】
前記撮影ステップが、分析の対象となる金属粉末を走査電子顕微鏡の反射電子検出器を用いて、複数の画像に対し粒子表面の輝度が一定に調整された画像を撮影することを特徴とする請求項1に記載の粒子形状分析方法。
【請求項3】
前記異形粒子抽出ステップが、粒子の形状特徴値から粒子形状ごとにそれぞれ検出する際のしきい値を設定し、前記粒子形状データに基づいて特定の形状の粒子を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子形状分析方法。
【請求項4】
前記金属粉末が、ニッケル粉末、鉄粉末、銅粉末であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粒子形状分析方法。
【請求項5】
前記金属粉末の平均粒径が0.05μm~2μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の粒子形状分析方法。
【請求項6】
金属粉末中に存在する連結粒子や多角形粒子を含む異形粒子を抽出する粒子形状分析装置であって、
球形粒子及び異形粒子を含む金属粉末を撮影する走査電子顕微鏡と、該走査電子顕微鏡によって撮影された複数枚の粒子画像にそれぞれ二値化を含む画像処理を施して二値化画像データを取得すると共に、取得された二値化画像の各粒子を異形粒子の形状特徴値に基づいて分類し、球形粒子と異形粒子を識別して異形粒子を抽出する画像処理装置とを備え
前記画像処理装置は、前記走査電子顕微鏡の撮影によって得られた粒子画像を複製する画像複製手段と、ソーベルフィルタ処理を施し粒子のエッジを強調させるエッジ強調手段と、粒子のエッジを抽出後、二値化処理によって二値化画像データを取得する二値化データ取得手段と、該二値化データ取得手段で取得された画像と前記画像複製手段で複製された元画像とを重ね合わせる重ね合せ手段と、重ね合わせた画像から粒子とバックグラウンドのコントラスト差を利用してバックグラウンドの情報を除去するバックグラウンド除去手段と、元画像の粒子の形状に合わせるために粒子の二値化画像データを膨張処理して画像中の粒子形状データを取得する粒子形状データ取得手段とを有することを特徴とする粒子形状分析装置。
【請求項7】
走査電子顕微鏡が、反射電子検出器を用いて、複数の画像に対し粒子表面の輝度が一定に調整された画像を撮影するものであることを特徴とする請求項6に記載の粒子形状分析装置。
【請求項8】
前記画像処理装置は、粒子の形状特徴値から粒子形状ごとにそれぞれ検出する際のしきい値を設定し、前記粒子形状データに基づいて特定の形状の粒子を検出する異形粒子抽出手段を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の粒子形状分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば積層セラミックコンデンサ、積層インダクタ等の電子部品の電極材料、電子機器部品に用いられる導電性ペーストのフィラーなどに好適なニッケル粉末のような、ナノ及びサブミクロンサイズの粒子集合体から異形粒子を抽出する粒子形状分析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ等の電極材料に使用されるニッケル粉末は、電子部品の小型化、高容量化、低背化が進む中で電子回路中の電極の多様化、薄層化に伴い、小径化と粒子形状の均一化が強いられてきた。そのため、ニッケル粉末の粒度解析は粒子形状や粒子径を評価する上で重要な分析項目といえる。
【0003】
電極層を薄層化するには、内部電極厚を薄層化する必要があり、それに伴い、例えば連結粒子のような異形粒子が電極材料中に存在することが問題となる。そのため、このような異形粒子の存在率を正確かつ迅速に解析する必要があり、粒子形状分析の自動化は必須である。
【0004】
粒子形状分析を自動化するものとして画像解析を利用するものがある。画像解析による一般的な自動粒子計測方法は、撮影した粒子のデジタル画像を画像解析ソフトに読み込み、粒子とバックグラウンドのコントラスト差を利用して二値化処理を行ない、粒子の検出及び粒子形状計測をおこなう方法である。
このような画像解析を利用したものとして、例えば特許文献1に開示された「粒径解析方法」があり、単層の状態で密集した粒子の集合体が撮影され原始画像データを画像処理することによって、粒子の集合体の粒径解析を高速かつ複数枚の画像に対して行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-92566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の方法は、計測対象の粒子の基準形状が円形あるいは正多角形で、粒子形状および粒径が均一なものを対象としてその粒径を計測するものである。
一方、本願発明が対象としているニッケル粉末における異形粒子の抽出は、例えばニッケル粉末の各粒子を以下に示す定義に基づいて分類する。
・円形粒子:球形で粒子輪郭に凹凸間のない粒子
・多角形粒子:三角や四角形など粒子輪郭に複数の角を持つ粒子
・楕円粒子:粒子形状が円形粒子を引き伸ばしたような針状の粒子
・連結粒子:二つ以上の粒子が連結した形状の粒子
特許文献1に開示の技術では、本願発明が対象としているニッケル粉末の異形粒子の抽出のように、連結粒子や多角形粒子等の粒子径及び粒子形状が不均一な異形粒子を形状通りに二値化し、上記のような定義に従って分類することは困難である。
【0007】
このため、現状では、走査電子顕微鏡で撮影された画像を画像解析ソフトに読み込み、コントラストを利用した粒子計測を行い、誤認識した粒子の補正と異形粒子の抽出に関しては、形状別に目視で確認後、手動で分類している。
しかしながら、手動での分類は熟練を要し、また熟練者であっても多大な時間と労力を要するという問題がある。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、ニッケル粉末のようなナノ及びサブミクロンサイズの粒子集合体から連結粒子や多角形粒子のような異形粒子を、人間の目視によることなく自動的に検出することでオペレータの負担を軽減できる粒子形状分析方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る粒子形状分析方法は、金属粉末中に存在する連結粒子や多角形粒子を含む異形粒子を抽出する粒子形状分析方法であって、球形粒子及び異形粒子を含む金属粉末を、走査電子顕微鏡を用いて撮影する撮影ステップと、該撮影ステップによって得られた複数枚の粒子画像にそれぞれ二値化を含む画像処理を施して二値化画像データを取得する画像処理ステップと、該画像処理ステップで取得された二値化画像の各粒子を異形粒子の形状特徴値に基づいて分類し、球形粒子と異形粒子を識別して異形粒子を抽出する異形粒子抽出ステップとを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記撮影ステップが、分析の対象となる金属粉末を走査電子顕微鏡の反射電子検出器を用いて、複数の画像に対し粒子表面の輝度が一定に調整された画像を撮影することを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記画像処理ステップが、前記撮影ステップで得られた粒子画像を複製する複製ステップと、ソーベルフィルタ処理を施し粒子のエッジを強調させるエッジ強調ステップと、粒子のエッジを抽出後、二値化処理によって二値化画像データを取得する二値化データ取得ステップと、該二値化データ取得ステップで取得された画像と前記複製ステップで複製された元画像とを重ね合わせる重ね合せステップと、重ね合わせた画像から粒子とバックグラウンドのコントラスト差を利用してバックグラウンドの情報を除去するバックグラウンド除去ステップと、元画像の粒子の形状に合わせるために粒子の二値化画像データを膨張処理して画像中の粒子形状データを取得する粒子形状データ取得ステップと、を有することを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記異形粒子抽出ステップが、粒子の形状特徴値から粒子形状ごとにそれぞれ検出する際のしきい値を設定し、前記粒子形状データに基づいて特定の形状の粒子を検出することを特徴とするものである。
【0013】
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、前記金属粉末が、ニッケル粉末、鉄粉末、銅粉末であることを特徴とするものである。
【0014】
(6)また、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、前記金属粉末の平均粒径が0.05μm~2μmであることを特徴とするものである。
【0015】
(7)本発明に係る粒子形状分析装置は、金属粉末中に存在する連結粒子や多角形粒子を含む異形粒子を抽出する粒子形状分析装置であって、球形粒子及び異形粒子を含む金属粉末を撮影する走査電子顕微鏡と、該走査電子顕微鏡によって撮影された複数枚の粒子画像にそれぞれ二値化を含む画像処理を施して二値化画像データを取得すると共に、取得された二値化画像の各粒子を異形粒子の形状特徴値に基づいて分類し、球形粒子と異形粒子を識別して異形粒子を抽出する画像処理装置とを備えたことを特徴とするものである。
【0016】
(8)また、上記(7)に記載のものにおいて、走査電子顕微鏡が、反射電子検出器を用いて、複数の画像に対し粒子表面の輝度が一定に調整された画像を撮影するものであることを特徴とするものである。
【0017】
(9)また、上記(7)又は(8)に記載のものにおいて、前記画像処理装置は、前記走査電子顕微鏡の撮影によって得られた粒子画像を複製する画像複製手段と、ソーベルフィルタ処理を施し粒子のエッジを強調させるエッジ強調手段と、粒子のエッジを抽出後、二値化処理によって二値化画像データを取得する二値化データ取得手段と、該二値化データ取得手段で取得された画像と前記画像複製手段で複製された元画像とを重ね合わせる重ね合せ手段と、重ね合わせた画像から粒子とバックグラウンドのコントラスト差を利用してバックグラウンドの情報を除去するバックグラウンド除去手段と、元画像の粒子の形状に合わせるために粒子の二値化画像データを膨張処理して画像中の粒子形状データを取得する粒子形状データ取得手段とを有することを特徴とするものである。
【0018】
(10)また、上記(7)乃至(9)のいずれかに記載のものにおいて、前記画像処理装置は、粒子の形状特徴値から粒子形状ごとにそれぞれ検出する際のしきい値を設定し、前記粒子形状データに基づいて特定の形状の粒子を検出する異形粒子抽出手段を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ニッケル粉末のようなナノ及びサブミクロンサイズの粒子集合体から連結粒子や多角形粒子のような異形粒子を、人間の目視によることなく自動的に検出でき、これによって分析を行うオペレータの負担を軽減できる。
また、計測する画像枚数が異なる場合でも、人の目を介さず異形粒子のみの検出が可能となるため、定量的かつ客観的な粒子データを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施の形態に係る粒子形状分析方法のフロー図である。
図2】本実施の形態に係る粒子形状分析方法の各ステップで得られる画像を示す図である。
図3】本実施の形態に係る粒子形状分析方法における異形粒子抽出ステップのフロー図である。
図4】本実施の形態に係る粒子形状分析装置の外観を示す図である。
図5】本実施の形態に係る粒子形状分析装置を構成する画像処理用PCのブロック図である。
図6】実施例1のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施の形態に係る粒子形状分析方法は、金属粉末中に存在する連結粒子や多角形粒子を含む異形粒子を抽出する方法であって、球形粒子及び異形粒子を含む金属粉末を、走査電子顕微鏡を用いて撮影する撮影ステップ(S1)と、撮影ステップS1によって得られた複数枚の粒子画像にそれぞれ二値化を含む画像処理を施して二値化画像データを取得する画像処理ステップ(S2)と、画像処理ステップS2で取得された二値化画像の各粒子を異形粒子の形状特徴値に基づいて分類し、球形粒子と異形粒子を識別して異形粒子を抽出する異形粒子抽出ステップ(S3)とを備えたことを特徴とするものである。
以下分析対象である金属粉末及び各ステップを図1に基づいて詳細に説明する。
【0022】
<金属粉末>
本実施の形態で分析の対象としている金属粉末は、積層セラミックコンデンサ、積層インダクタ等の電子部品の電極材料、電子機器部品に用いられる導電性ペーストのフィラーなどに好適なニッケル粉末のようなナノからサブミクロンサイズの金属粒子の集合体である。また、ニッケル粉末の他、鉄粉末や銅粉末も対象となる。
さらに、本実施の形態に係る粒子形状分析方法は、平均粒径が0.05μm~2μmの金属粉末の分析に適用するのが好適である。
【0023】
<撮影ステップ(S1)>
撮影ステップ(S1)は、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)を用いて、金属粒子の集合体を撮影して粒子画像(SEM画像)を得るステップである。
また、撮影ステップ(S1)は、分析の対象となる金属粉末を、走査電子顕微鏡の反射電子検出器を用いて、複数の画像に対し粒子表面の輝度が一定に調整された画像を撮影するのが好ましい。
【0024】
また、精度の高い検出能力を得るために、走査電子顕微鏡像を粒子表面のコントラストを均一かつ、粒子とバックグラウンドのコントラスト差を強調させる撮影条件の設定をおこなうのが好ましい。このため、粒子表面の凹凸を平滑化する撮影手法として、4分割または5分割に区分されているシリコン半導体素子の全面で検出し対象物の組成像が得られる反射電子像で撮影をおこなう。
反射電子像の粒子画像は、画像サイズが大きすぎると画像処理時間が長くなるため、1視野の画像サイズを1280×960画素サイズとした。そして、1視野あたりに存在する粒子個数を算出し、粒子計測(異形粒子の抽出)に必要な粒子個数との関係で、必要な視野数分の枚数とした。
【0025】
撮影されたSEM画像のキャリブレーションを行う。キャリブレーションを行うことにより、画像データに基づいて測定した粒子径や面積等の測定値を指定した単位で抽出することが可能になる。
【0026】
<画像処理ステップ(S2)>
画像処理ステップ(S2)は、撮影ステップ(S1)によって得られた複数枚の粒子画像にそれぞれ二値化を含む画像処理を施して二値化画像データを取得するステップであり、より具体的には、図1に示すように、元画像の複製である複製ステップ(S21)、ソーベルフィルタ処理であるエッジ強調ステップ(S22)、二値化処理をして二値化画像データを取得する二値化データ取得ステップ(S23)、元画像と二値化画像の重ね合わせを行う重ね合わせステップ(S24)、バックグラウンドの除去を行うバックグラウンド除去ステップ(S25)、粒子膨張処理(排他的膨張)を行う粒子形状データ取得ステップ(S26)を含む。
以下、各ステップを、各ステップで得られる画像を示した図2を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
《複製ステップ(S21)》
複製ステップ(S21)は、撮影ステップ(S1)で得られたキャリブレーション設定を行った粒子画像を複製するステップである(図2(a)参照)。粒子画像を複製するのは、重ね合わせステップ(S24)で使用するためである。
【0028】
《エッジ強調ステップ(S22)》
エッジ強調ステップ(S22)は、下式(1)(2)によるソーベルフィルタ処理を施して粒子のエッジを強調させるステップである(図2(b)参照)。
【数1】
f'(x,y)=(fx(x,y)2+fy(x,y)2)1/2 ・・・(2)
【0029】
《二値化データ取得ステップ(S23)》
二値化データ取得ステップ(S23)は、粒子のエッジを抽出後、二値化処理によって二値化画像データを取得するステップである。
このステップは、バックグラウンドと検出対象物である粒子を分離する為に、画像中の粒子のエッジのみを抽出した画像に二値化処理を行い、粒子部分とバックグラウンドに分類した二値化画像を得るものである(図2(c)参照)。
【0030】
なお、変換された二値化画像データは別解析フォルダに一時的に格納して、一連の画像解析におけるバックアップデータとして使用するようにしてもよい。
【0031】
《重ね合わせステップ(S24)》
重ね合わせステップ(S24)は、二値化データ取得ステップ(S23)で取得された画像と複製ステップ(S21)で複製された元画像とを重ね合わせるステップである(図2(d)参照)。
【0032】
《バックグラウンド除去ステップ(S25)》
バックグラウンド除去ステップ(S25)は、重ね合わせた画像から粒子とバックグラウンドのコントラスト差を利用して、バックグラウンドの情報を除去するステップである。すなわち、重ね合わせた画像から粒子とバックグラウンドのコントラスト差を利用して、バックグラウンド領域データを、画像データ中から除去することで粒子形状データを抽出する(図2(e)参照)。
バックグラウンド領域データの除去は、デジタル画像のコントラストと二値化画像データのPixel数を用いて実施する。
【0033】
《粒子形状データ取得ステップ(S26)》
粒子形状データ取得ステップ(S26)は、元画像の粒子の形状に合わせるために粒子の二値化画像データを膨張処理して画像中の粒子形状データを取得するステップである。
より具体的には、粒子形状データに排他的膨張処理を行ない、各粒子形状を1ピクセルずつ膨張させることで、粒子を分離する際に失ったエッジ部分の情報を補う処理であり、これによって正確な粒子径のデータに変換される(図2(f)参照)。
【0034】
<異形粒子抽出ステップ(S3)>
異形粒子抽出ステップ(S3)は、粒子形状データ取得ステップ(S26)で得られた二値化画像に基づいて、各粒子について、異形粒子の形状特徴値と対比することで分類し、球形粒子と異形粒子を識別して異形粒子を抽出するステップである(図2(g)参照)。
より具体的には、異形粒子抽出ステップ(S3)は、粒子の形状特徴値から粒子形状ごとにそれぞれ検出する際のしきい値を設定し、粒子形状データに基づいて特定の形状の粒子を検出する。
【0035】
異形粒子抽出ステップ(S3)について、ニッケル粉末を例に挙げて以下説明する。
ニッケル粉末に存在する異形粒子の形状を特徴づける要素としては、(1)粒子輪郭の凹凸を重要視した指数と、(2)粒子全体の形状変化を示す指数の二つの要素が考えられる。二つの要素からなる形状特徴値はそれぞれの粒子毎に異なる。
【0036】
(1)粒子輪郭の凹凸を重要視した指数(凹凸度)は、三角形や四角形などの多角形粒子と、連結粒子のような凹凸のある粒子を分類するための指数である。そして、この凹凸度は、粒子の外形を近似する近似円を想定し、元の粒子の外形(エッジ)と近似円の差を360度放射線状に比較し、近似円から粒子エッジの凹み側の最大値と凸側の最大値の大きい方の値を算出し、この値を指数とする。
(2)粒子全体の形状変化を示す指数は、楕円粒子や連結粒子のような、針状の粒子を分類するための指数であり、粒子アスペクト比や楕円アスペクト比が挙げられる。
粒子アスペクト比は、(絶対最大長)/(対角幅)で求まる指数である。
ここで、対角幅とは、絶対最大長に平行な2本の直線で、図形をはさんだときの2直線間の最短距離をいう。
【0037】
楕円アスペクト比は、Width/Lengthで求まる指数であり、Length及びWidthは以下に示す式によって定義される。
【数2】
なお、上記の数式において、X,Yは、画面左上を原点とする座標系において、物体(粒子)が存在するX軸、Y軸の座標の値である。
また、u軸、v軸は、物体(粒子)の重心を原点とする座標系である。
さらに、Gx、Gyは、物体(粒子)の重心座標である。
【0038】
異形粒子抽出ステップ(S3)では、(1)粒子輪郭の凹凸を重要視した指数(凹凸度指数)と、(2)粒子全体の形状変化を示す指数(形状変化指数)の二つの特徴量を組み合わせ、粒子の二値化画像内の探索をおこない、検出されたものを同一形状粒子とみなし、関連付けをおこなう。
具体的には、図3に示すように、凹凸度指数が規定値以上かどうかを判断し(S31)、規定値以上でない場合には、円形粒子とする。凹凸度が規定値以上の場合には、粒子アスペクト比が規定値以上かどうかを判断し(S32)、規定値以上でない場合には多角形粒子とする。粒子アスペクト比が規定値以上の場合には、楕円アスペクト比が規定値以上かどうかを判断し(S33)、規定値以上でない場合には楕円粒子とする。楕円アスペクト比が規定値以上の場合には、連結粒子とする。
このように、対象とする粒子について、凹凸度指数と形状変化指数を用いて分類することで、対象とする粒子を円形粒子、多角形粒子、楕円粒子、連結粒子に分類することができる。なお、円形粒子とされたものが球形粒子で、多角形粒子、楕円粒子、連結粒子とされたものが異形粒子である。
【0039】
分類される形状のうち円形粒子以外の多角形粒子、楕円粒子、連結粒子が異形粒子であるが、図3に示すフローによれば、凹凸度指数のしきい値の決め方によって、異形粒子とされるか否かがきまり、例えば凹凸度指数のしきい値を小さく設定すれば異形粒子として抽出される率が大きくなる。そのため、凹凸度指数のしきい値の決め方が重要になるが、経験的に異形粒子のうち異形粒子として抽出される率、すなわち異形粒子抽出率が70%乃至99%の範囲で抽出される値をしきい値として採用するのが好ましい。
【0040】
異形粒子抽出ステップ(S3)では、計測した全粒子、検出した異形粒子の計測結果をExcelファイルに出力すると共に、画像処理後の二値化画像データを保存するようにするのが好ましい。
このようにすれば、測定結果に異常がある場合でも、計測結果のフィードバックを行うことが可能となり、分類異常が出た場合などにその原因を特定することができる。
【0041】
以上に説明したように、本発明の実施の形態によれば、走査電子顕微鏡の反射電子像画像を用いて、検出対象物であるナノからサブミクロンサイズの粒子集合から異形粒子を自動抽出することができる。
【0042】
なお、上述した粒子形状分析方法は、図4に示すように、画像撮影用SEM3及び画像処理装置としての画像処理用PC5からなる粒子形状分析装置1を用いて行うことができる。
以下、粒子形状分析装置1について説明する。
【0043】
<画像撮影用SEM>
画像撮影用SEM3は、画像を撮影するための走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)である。
走査電子顕微鏡は、反射電子検出器を有し、複数の画像に対し粒子表面の輝度が一定に調整された画像を撮影できるものが好ましい。
さらに、半導体の反射電子検出器は、4分割または5分割に区分されているものが好ましく、4分割または5分割に区分されている半導体素子の全面で検出し、対象物の組成像が得られる反射電子像で撮影できるものが好ましい。
【0044】
<画像処理用PC>
画像処理用PC5は、図1に示した画像処理ステップ(S2)と異形粒子抽出ステップ(S3)を行うものであり、図5に示すように、表示装置7と、入力装置9と、主記憶装置11と、補助記憶装置13と、演算処理部15を有している。演算処理部15には、表示装置7、入力装置9、主記憶装置11及び補助記憶装置13が接続され、演算処理部15の指令によって各機能を行う。
【0045】
表示装置7は実行結果の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。入力装置9はオペレータからの入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。主記憶装置11は演算処理部15で使用するデータの一時保存や演算等に用いられRAM等で構成される。補助記憶装置13はデータの記憶等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
補助記憶装置13には、後述する各手段を実現するプログラムや、画像処理及び異形粒子抽出に必要な各種のデータが記憶されている。
【0046】
演算処理部15はCPU等によって構成されており、演算処理部15で予め設定されたプログラムが実行されることで、図5に示すように、複製手段17、エッジ強調手段19、二値化データ取得手段21、重ね合わせ手段23、バックグラウンド除去手段25、粒子形状データ取得手段27、異形粒子抽出手段29が実現される。
【0047】
これら、複製手段17、エッジ強調手段19、二値化データ取得手段21、重ね合せ手段23、バックグラウンド除去手段25、粒子形状データ取得手段27及び異形粒子抽出手段29の処理内容は、それぞれ上述した複製ステップ(S21)、エッジ強調ステップ(S22)、二値化データ取得ステップ(S23)、重ね合わせステップ(S24)、バックグラウンド除去ステップ(S25)、粒子形状データ取得ステップ(S26)及び異形粒子抽出ステップ(S3)で説明したものである。
【実施例1】
【0048】
本発明の効果を確認するための実験を行ったので、以下これについて説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
観察試料として、平均粒子径0.2μmのNi超微粉を用い、粒子形状分析を行った。実験は、検出する不定形粒子の形状として円形粒子、三角形・四角形を含む多角形粒子と、楕円粒子、連結粒子の4つを抽出することを目的とする。
粒子形状分析に使用する粒子画像は、日立ハイテク社製走査電子顕微鏡SU-5000の反射電子像を用いて観察倍率2万倍で8視野撮影した画像であり、この画像の解析を、本発明を適用して実施する。
他方、同様の画像を熟練工A、経験の浅いB、Cが目視で粒子形状分析を行い、本発明を適用した計測結果と比較することにより、その精度を確認した。
【0049】
図6は実施例1の処理フローであり、図1のS25以降の処理に相当する。
取得した粒子のデジタル画像の画像処理は、図1のフローに従い実施する。バックグラウンドの除去(S25)には、デジタル画像のコントラストと二値化画像データのPixel数を用いて実施する。設定するしきい値は、計測する粒子のサイズ、取得したデジタル画像のコントラストによって設定するのが効果的である。コントラスト、Pixel数共に設定したしきい値を満たさない場合は、バックグラウンドとして除去処理される。
【0050】
次に、粒子の二値化画像に膨張処理を行う(S26)。膨張処理後、粒子識別アルゴリズムにより各形状特徴を持つ粒子に分類される。この実施例1では、
(1)粒子輪郭の凹凸を重要視した指数
(2)粒子全体の形状変化を示す指数
上記二つの要素からなる形状特徴値のしきい値を決定し、粒子形状別に分類した。熟練工Aによって分類された粒子と比較して自動での計測結果は90%以上適合した。一方で経験の浅いB、Cの目視計測結果はAと比較すると80%の適合率となり、自動計測の高い件出力が確認された。
【実施例2】
【0051】
観察試料として、平均粒子径0.15μmのNi超微粉を用い、連結粒子の抽出を行った。
計測する画像を8視野撮影し、粒子識別段階で設定するしきい値を連結粒子のみを抽出するしきい値に設定し自動計測を実施した。それ以外は[実施例1]と同様の条件を用い計測を行った。
また、目視計測については熟練工Aが目視で粒子形状分析を行い、計測結果と比較することにより、その精度を確認した。計測結果、目視計測と自動計測では連結粒子抽出正解率が88%と目視計測と遜色のない結果となった。
【符号の説明】
【0052】
1 粒子形状分析装置
3 画像撮影用SEM
5 画像処理用PC
7 表示装置
9 入力装置
11 主記憶装置
13 補助記憶装置
15 演算処理部
17 複製手段
19 エッジ強調手段
21 二値化データ取得手段
23 重ね合わせ手段
25 バックグラウンド除去手段
27 粒子形状データ取得手段
29 異形粒子抽出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6