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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/12 20060101AFI20230522BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20230522BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20230522BHJP
【FI】
B22F9/12 Z
B22F1/102
C22C1/04 B
C22C1/04 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019566984
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2019000468
(87)【国際公開番号】W WO2019146411
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018011480
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226954
【氏名又は名称】日清エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 周
(72)【発明者】
【氏名】末安 志織
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭太郎
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-209417(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104259455(CN,A)
【文献】特開2007-138287(JP,A)
【文献】特開2013-159830(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052275(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnまたはNiの粉末を用いて、熱プラズマ法により微粒子を製造する製造方法であって、
前記SnまたはNiの前記粉末を、熱プラズマ炎中に供給し、前記熱プラズマ炎の尾部に、冷却ガスを供給して、原料微粒子を生成し、前記原料微粒子有機酸を供給する工程を有することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記有機酸を供給する工程は、前記有機酸を含む水溶液を前記有機酸が熱分解する雰囲気に噴霧する請求項1に記載の微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸は、C、OおよびHだけで構成されている請求項1又は2に記載の微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸は、L-アスコルビン酸、ギ酸、グルタル酸、コハク酸、シュウ酸、DL-酒石酸、ラクトース一水和物、マルトース一水和物、マレイン酸、D-マンニット、クエン酸、リンゴ酸、およびマロン酸のうち、少なくとも1種である請求項1~3のいずれか1項に記載の微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相法を用いた微粒子の製造方法および微粒子に関し、特に、pHをコントロールした微粒子の製造方法および微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、金属微粒子、酸化物微粒子、窒化物微粒子、炭化物微粒子、酸窒化物微粒子、樹脂微粒子等の微粒子が種々の用途に用いられている。微粒子は、絶縁部品等の電気絶縁材料、センサ等の機能性材料、燃料電池の電極材料、切削工具用材料、機械工作材料、焼結材料、導電性材料、および触媒等に用いられている。
例えば、現在、タブレット型コンピュータおよびスマートフォン等、液晶表示装置等の表示装置とタッチパネルとが組み合わされて利用されており、タッチパネルを用いた入力操作が広く普及している。特許文献1には、タッチパネルの配線に利用できる銀微粒子の製造方法が記載されている。
また、例えば、特許文献2には、窒素雰囲気下において150℃以下の温度で加熱すると焼結し、導電性を示す銅微粒子材料が記載されている。
さらには、特許文献3には、珪素微粒子が炭化珪素で被覆された珪素/炭化珪素複合微粒子が記載され、特許文献4には、タングステン複合酸化物粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/080528号
【文献】特開2016-14181号公報
【文献】特開2011-213524号公報
【文献】国際公開第2015/186663号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、微粒子は用途に応じたものが用いられる。しかしながら、組成が同じであっても、用途に応じて要求される性質が異なることがある。例えば、親水性であることが要求されたり、疎水性が要求されることがある。この場合、微粒子の表面性質のコントロール等が必要である。上述のように、種々の微粒子が提案されており、上述の特許文献3の珪素/炭化珪素複合微粒子は珪素微粒子が炭化珪素で被覆されているが、親水性、または疎水性等の微粒子の表面性質はコントロールされていない。現状では、用途に応じた表面性質を備える微粒子が要求されている。
【0005】
本発明の目的は、前述の従来技術に基づく問題点を解消し、微粒子の表面性質の1つである酸性度をコントロール可能な微粒子の製造方法および微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明は、原料の粉末を用いて、気相法により微粒子を製造する製造方法であって、原料微粒子に有機酸を供給する工程を有することを特徴とする微粒子の製造方法を提供するものである。
【0007】
気相法は、熱プラズマ法、または火炎法であることが好ましい。
有機酸を供給する工程は、有機酸を含む水溶液を有機酸が熱分解する雰囲気に噴霧することが好ましい。
有機酸は、C、OおよびHだけで構成されていることが好ましい。有機酸は、L-アスコルビン酸、ギ酸、グルタル酸、コハク酸、シュウ酸、DL-酒石酸、ラクトース一水和物、マルトース一水和物、マレイン酸、D-マンニット、クエン酸、リンゴ酸、およびマロン酸のうち、少なくとも1種であることが好ましい。
例えば、原料の粉末は銀を除く金属の粉末であり、気相法により金属微粒子が製造される。
【0008】
また、本発明は、表面被覆物を有し、表面被覆物は、少なくともカルボキシル基を含むことを特徴とする微粒子を提供するものである。
例えば、微粒子は粒子径が1~100nmである。
また、本発明は、表面被覆物を有し、表面被覆物は、有機酸の熱分解で生じた有機物で構成されることを特徴とする微粒子を提供するものである。
例えば、微粒子は粒子径が1~100nmである。
有機酸は、C、OおよびHだけで構成されていることが好ましい。有機酸は、L-アスコルビン酸、ギ酸、グルタル酸、コハク酸、シュウ酸、DL-酒石酸、ラクトース一水和物、マルトース一水和物、マレイン酸、D-マンニット、クエン酸、リンゴ酸、およびマロン酸のうち、少なくとも1種であることが好ましい。この中で、有機酸は、クエン酸であることが好ましい。微粒子は、銀を除く金属微粒子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微粒子のpH等の表面性質をコントロールすることができる。
また、本発明によれば、pH等の表面性質がコントロールされた微粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る微粒子の製造方法に用いられる微粒子製造装置の一例を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る微粒子の一例を示す模式図である。
図3】本発明の製造方法で得られた金属微粒子と、従来の製造方法で得られた金属微粒子とのX線回折法による結晶構造の解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の微粒子の製造方法および微粒子を詳細に説明する。
以下、本発明の微粒子の製造方法について、微粒子として、金属微粒子を例にして説明する。
図1は本発明の実施形態に係る微粒子の製造方法に用いられる微粒子製造装置の一例を示す模式図である。
図1に示す微粒子製造装置10(以下、単に製造装置10という)は、微粒子の製造、例えば、金属微粒子の製造に用いられるものである。製造装置10によれば、金属微粒子を製造することができ、かつ金属微粒子のpHを変えることもでき、pHをコントロールすることができる。
なお、製造装置10は、微粒子であれば、その種類は特に限定されるものではなく、原料の組成を変えることにより、金属微粒子以外にも微粒子として、酸化物微粒子、窒化物微粒子、炭化物微粒子、酸窒化物微粒子、樹脂微粒子等の微粒子を製造することができる。
【0012】
製造装置10は、熱プラズマを発生させるプラズマトーチ12と、微粒子の原料の粉末をプラズマトーチ12内へ供給する材料供給装置14と、原料に応じた材料の1次微粒子15を生成させるための冷却槽としての機能を有するチャンバ16と、酸供給部17と、原料に応じた材料の1次微粒子15から任意に規定された粒子径以上の粒子径を有する粗大粒子を除去するサイクロン19と、サイクロン19により分級された所望の粒子径を有する、原料に応じた材料の2次微粒子18を回収する回収部20とを有する。有機酸が供給される前の、原料に応じた材料の1次微粒子15は、本発明の微粒子の製造途中のものであり、原料に応じた材料の2次微粒子18が本発明の微粒子に相当する。
材料供給装置14、チャンバ16、サイクロン19、回収部20については、例えば、特開2007-138287号公報の各種装置を用いることができる。なお、原料に応じた材料の1次微粒子15のことを単に1次微粒子15ともいい、原料に応じた材料の2次微粒子18のことを単に2次微粒子ともいう。
【0013】
本実施形態において、金属微粒子の製造には、金属の粉末が原料の粉末として用いられる。金属の粉末は、熱プラズマ炎中で容易に蒸発するように、その平均粒子径が適宜設定されるが、平均粒子径は、例えば、100μm以下であり、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
金属の粉末は、単一組成の金属の粉末、および複数の組成を含む合金の粉末も含む。金属微粒子には、単一組成の金属微粒子、および複数の組成を含む合金の合金微粒子が含まれる。金属の粉末としては、銀を除いた、例えば、Cu、Si、Ni、W、Mo、Ti、Sn等の粉末を用いることが好ましい。これらの金属の粉末により、例えば、銀微粒子を除いた上述の金属の金属微粒子が得られる。
上述のように、金属微粒子以外の微粒子として、酸化物微粒子、窒化物微粒子、炭化物微粒子、酸窒化物微粒子、樹脂微粒子等の微粒子を製造する場合には、原料の粉末として、酸化物の粉末、窒化物の粉末、炭化物の粉末、酸窒化物の粉末、樹脂の粉末等が用いられる。
【0014】
プラズマトーチ12は、石英管12aと、その外側を取り巻く高周波発振用コイル12bとで構成されている。プラズマトーチ12の上部には、原料の粉末、例えば、金属微粒子の金属の粉末をプラズマトーチ12内に供給するための後述する供給管14aがその中央部に設けられている。プラズマガス供給口12cが、供給管14aの周辺部(同一円周上)に形成されており、プラズマガス供給口12cはリング状である。
【0015】
プラズマガス供給源22は、プラズマガスをプラズマトーチ12内に供給するものであり、例えば、第1の気体供給部22aと第2の気体供給部22bとを有する。第1の気体供給部22aと第2の気体供給部22bは配管22cを介してプラズマガス供給口12cに接続されている。第1の気体供給部22aと第2の気体供給部22bには、それぞれ図示はしないが供給量を調整するためのバルブ等の供給量調整部が設けられている。プラズマガスは、プラズマガス供給源22からリング状のプラズマガス供給口12cを経て、矢印Pで示す方向と矢印Sで示す方向からプラズマトーチ12内に供給される。
【0016】
プラズマガスには、例えば、水素ガスとアルゴンガスの混合ガスが用いられる。この場合、第1の気体供給部22aに水素ガスが貯蔵され、第2の気体供給部22bにアルゴンガスが貯蔵される。プラズマガス供給源22の第1の気体供給部22aから水素ガスが、第2の気体供給部22bからアルゴンガスが配管22cを介してプラズマガス供給口12cを経て、矢印Pで示す方向と矢印Sで示す方向からプラズマトーチ12内に供給される。なお、矢印Pで示す方向にはアルゴンガスだけを供給してもよい。
高周波発振用コイル12bに高周波電圧が印加されると、プラズマトーチ12内で熱プラズマ炎24が発生する。
【0017】
熱プラズマ炎24の温度は、金属の粉末(原料の粉末)の沸点よりも高い必要がある。一方、熱プラズマ炎24の温度が高いほど、容易に金属の粉末(原料の粉末)が気相状態となるので好ましいが、特に温度は限定されるものではない。例えば、熱プラズマ炎24の温度を6000℃とすることもできるし、理論上は10000℃程度に達するものと考えられる。
また、プラズマトーチ12内における圧力雰囲気は、大気圧以下であることが好ましい。ここで、大気圧以下の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、0.5~100kPaである。
【0018】
なお、石英管12aの外側は、同心円状に形成された管(図示されていない)で囲まれており、この管と石英管12aとの間に冷却水を循環させて石英管12aを水冷し、プラズマトーチ12内で発生した熱プラズマ炎24により石英管12aが高温になりすぎるのを防止している。
【0019】
材料供給装置14は、供給管14aを介してプラズマトーチ12の上部に接続されている。材料供給装置14は、例えば、粉末の形態で金属の粉末(原料の粉末)をプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に供給するものである。
金属の粉末(原料の粉末)を粉末の形態で供給する材料供給装置14としては、上述のように、例えば、特開2007-138287号公報に開示されているものを用いることができる。この場合、材料供給装置14は、例えば、金属の粉末(原料の粉末)を貯蔵する貯蔵槽(図示せず)と、金属の粉末(原料の粉末)を定量搬送するスクリューフィーダ(図示せず)と、スクリューフィーダで搬送された金属の粉末(原料の粉末)が最終的に散布される前に、これを一次粒子の状態に分散させる分散部(図示せず)と、キャリアガス供給源(図示せず)とを有する。
【0020】
キャリアガス供給源から押出し圧力がかけられたキャリアガスとともに金属の粉末(原料の粉末)は供給管14aを介してプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中へ供給される。
材料供給装置14は、金属の粉末(原料の粉末)の凝集を防止し、分散状態を維持したまま、金属の粉末(原料の粉末)をプラズマトーチ12内に散布することができるものであれば、その構成は特に限定されるものではない。キャリアガスには、例えば、アルゴンガス等の不活性ガスが用いられる。キャリアガス流量は、例えば、フロート式流量計等の流量計を用いて制御することができる。また、キャリアガスの流量値とは、流量計の目盛り値のことである。
【0021】
チャンバ16は、プラズマトーチ12の下方に隣接して設けられており、気体供給装置28が接続されている。チャンバ16内で、原料に応じた材料(金属)の1次微粒子15が生成される。また、チャンバ16は冷却槽として機能するものである。
【0022】
気体供給装置28は、チャンバ16内に冷却ガスを供給するものである。気体供給装置28は、第1の気体供給源28aおよび第2の気体供給源28bと配管28cとを有し、さらに、チャンバ16内に供給する冷却ガスに押出し圧力をかけるコンプレッサ、ブロア等の圧力付与手段(図示せず)を有する。また、第1の気体供給源28aからのガス供給量を制御する圧力制御弁28dが設けられ、第2の気体供給源28bからのガス供給量を制御する圧力制御弁28eが設けられている。例えば、第1の気体供給源28aにアルゴンガスが貯蔵されており、第2の気体供給源28bにメタンガス(CHガス)が貯蔵されている。この場合、冷却ガスはアルゴンガスとメタンガスの混合ガスである。
【0023】
気体供給装置28は、熱プラズマ炎24の尾部、すなわち、プラズマガス供給口12cと反対側の熱プラズマ炎24の端、すなわち、熱プラズマ炎24の終端部に向かって、例えば、45°の角度で、矢印Qの方向に、冷却ガスとしてアルゴンガスとメタンガスの混合ガスを供給し、かつチャンバ16の内側壁16aに沿って上方から下方に向かって、すなわち、図1に示す矢印Rの方向に上述の冷却ガスを供給する。
【0024】
気体供給装置28からチャンバ16内に供給される冷却ガスにより、熱プラズマ炎24で気相状態にされた原料の粉末(金属の粉末)が急冷されて、原料に応じた材料(金属)の1次微粒子15が得られる。これ以外にも上述の冷却ガスはサイクロン19における1次微粒子15の分級に寄与する等の付加的作用を有する。冷却ガスは、例えば、アルゴンガスとメタンガスの混合ガスである。
原料に応じた材料(金属)の1次微粒子15の生成直後の微粒子同士が衝突し、凝集体を形成することで粒子径の不均一が生じると、品質低下の要因となる。しかしながら、熱プラズマ炎の尾部(終端部)に向かって矢印Qの方向に冷却ガスとして供給される混合ガスが1次微粒子15を希釈することで、微粒子同士が衝突して凝集することが防止される。
また、矢印R方向に冷却ガスとして供給される混合ガスにより、1次微粒子15の回収の過程において、1次微粒子15のチャンバ16の内側壁16aへの付着が防止され、生成した1次微粒子15の収率が向上する。
【0025】
なお、冷却ガスとして用いた、アルゴンガスとメタンガスの混合ガスに、さらに水素ガスを加えてもよい。この場合、さらに、第3の気体供給源(図示せず)とガス供給量を制御する圧力制御弁(図示せず)を設けて、第3の気体供給源には水素ガスを貯蔵しておく。例えば、水素ガスは、矢印Qおよび矢印Rのうち、少なくとも一方から予め定めた量を供給すればよい。なお、冷却ガスは、上述のアルゴンガス、メタンガス、および水素ガスに限定されるものではない。
【0026】
酸供給部17は、冷却ガスにより急冷されて得られた、原料に応じた材料(金属)の1次微粒子15(原料微粒子)に有機酸を供給するものである。温度10000℃程度を有する熱プラズマを急冷して生成させた、有機酸の分解温度よりも高い温度域に供給された有機酸は熱分解し、1次微粒子15の上に炭化水素(CnHm)と親水性および酸性をもたらすカルボキシル基(-COOH)、またはヒドロキシル基(-OH)を含む有機物となって析出する。その結果、例えば、酸性の性質を有する金属微粒子が得られる。
例えば、原料に応じた材料(金属)の1次微粒子15への有機酸の供給量を変えることにより、金属微粒子のpHを変えることができ、例えば、酸性であっても、その程度、すなわち、表面性質の1つである酸性度を変えることができる。有機酸の供給量は、例えば、有機酸を含む水溶液の供給量および有機酸の濃度によって変えることができる。
【0027】
酸供給部17は、原料に応じた材料の1次微粒子15、例えば、金属の1次微粒子15に有機酸を付与することができれば、その構成は特に限定されるものではない。例えば、有機酸の水溶液が用いられ、酸供給部17は、チャンバ16内に有機酸の水溶液を噴霧するものである。
酸供給部17は、有機酸の水溶液(図示せず)を貯蔵する容器(図示せず)と、容器内の有機酸の水溶液を液滴化するための噴霧ガス供給部(図示せず)とを有する。噴霧ガス供給部では、噴霧ガスを用いて水溶液を液滴化し、液滴化された有機酸の水溶液AQが、予め定められた量、チャンバ16内の、原料に応じた材料(金属)の1次微粒子15に供給される。この有機酸の水溶液AQを供給する際(有機酸を供給する工程)、チャンバ16内の雰囲気は有機酸が熱分解する雰囲気である。
【0028】
有機酸の水溶液では、例えば、溶媒に純水が用いられる。有機酸は、水溶性であり、かつ低沸点であることが好ましく、C、OおよびHだけで構成されていることが特に好ましい。有機酸としては、例えば、L-アスコルビン酸(C)、ギ酸(CH)、グルタル酸(C)、コハク酸(C)、シュウ酸(C)、DL-酒石酸(C)、ラクトース一水和物、マルトース一水和物、マレイン酸(C)、D-マンニット(C14)、クエン酸(C)、リンゴ酸(C)、およびマロン酸(C)等を用いることができる。上述の有機酸のうち、少なくとも1種を用いることが好ましい。
有機酸の水溶液を液滴化する噴霧ガスは、例えば、アルゴンガスが用いられるが、アルゴンガスに限定されるものではなく、窒素ガス等の不活性ガスを用いることができる。
【0029】
図1に示すように、チャンバ16には、有機酸が供給された、原料に応じた材料(金属)の1次微粒子15を所望の粒子径で分級するためのサイクロン19が設けられている。このサイクロン19は、チャンバ16から1次微粒子15を供給する入口管19aと、この入口管19aと接続され、サイクロン19の上部に位置する円筒形状の外筒19bと、この外筒19b下部から下側に向かって連続し、かつ、径が漸減する円錐台部19cと、この円錐台部19c下側に接続され、上述の所望の粒子径以上の粒子径を有する粗大粒子を回収する粗大粒子回収チャンバ19dと、後に詳述する回収部20に接続され、外筒19bに突設される内管19eとを備えている。
【0030】
サイクロン19の入口管19aから、1次微粒子15を含んだ気流が、外筒19b内周壁に沿って吹き込まれ、これにより、この気流が図1中に矢印Tで示すように外筒19bの内周壁から円錐台部19c方向に向かって流れることで下降する旋回流が形成される。
そして、上述の下降する旋回流が反転し、上昇流になったとき、遠心力と抗力のバランスにより、粗大粒子は、上昇流にのることができず、円錐台部19c側面に沿って下降し、粗大粒子回収チャンバ19dで回収される。また、遠心力よりも抗力の影響をより受けた微粒子は、円錐台部19c内壁での上昇流とともに内管19eから系外に排出される。
【0031】
また、内管19eを通して、後に詳述する回収部20から負圧(吸引力)が生じるようになっている。そして、この負圧(吸引力)によって、上述の旋回する気流から分離した金属微粒子が、符号Uで示すように吸引され、内管19eを通して回収部20に送られるようになっている。
【0032】
サイクロン19内の気流の出口である内管19eの延長上には、所望のナノメートルオーダの粒子径を有する2次微粒子(例えば、金属微粒子)18を回収する回収部20が設けられている。回収部20は、回収室20aと、回収室20a内に設けられたフィルター20bと、回収室20a内下方に設けられた管を介して接続された真空ポンプ30とを備える。サイクロン19から送られた微粒子は、真空ポンプ30で吸引されることにより、回収室20a内に引き込まれ、フィルター20bの表面で留まった状態にされて回収される。
なお、上述の製造装置10において、使用するサイクロンの個数は、1つに限定されず、2つ以上でもよい。
【0033】
次に、上述の製造装置10を用いた微粒子の製造方法について、金属微粒子を例にして説明する。
まず、金属微粒子の原料の粉末として、例えば、平均粒子径が5μm以下の金属の粉末を材料供給装置14に投入する。
プラズマガスに、例えば、アルゴンガスおよび水素ガスを用いて、高周波発振用コイル12bに高周波電圧を印加し、プラズマトーチ12内に熱プラズマ炎24を発生させる。
また、気体供給装置28から熱プラズマ炎24の尾部、すなわち、熱プラズマ炎24の終端部に、矢印Qの方向に、冷却ガスとして、例えば、アルゴンガスとメタンガスの混合ガスを供給する。このとき、矢印Rの方向にも、冷却ガスとして、アルゴンガスとメタンガスの混合ガスを供給する。
次に、キャリアガスとして、例えば、アルゴンガスを用いて金属の粉末を気体搬送し、供給管14aを介してプラズマトーチ12内の熱プラズマ炎24中に供給する。供給された金属の粉末は、熱プラズマ炎24中で蒸発して気相状態となり、冷却ガスにより急冷されて金属の1次微粒子15(金属微粒子)が生成される。さらに、酸供給部17により、液滴化された有機酸の水溶液が予め定められた量、金属の1次微粒子15に噴霧される。
【0034】
そして、チャンバ16内で得られた金属の1次微粒子15は、サイクロン19の入口管19aから、気流とともに外筒19bの内周壁に沿って吹き込まれ、これにより、この気流が図1の矢印Tに示すように外筒19bの内周壁に沿って流れることにより、旋回流を形成して下降する。そして、上述の下降する旋回流が反転し、上昇流になったとき、遠心力と抗力のバランスにより、粗大粒子は、上昇流にのることができず、円錐台部19c側面に沿って下降し、粗大粒子回収チャンバ19dで回収される。また、遠心力よりも抗力の影響をより受けた微粒子は、円錐台部19c内壁での上昇流とともに内壁から系外に排出される。
【0035】
排出された2次微粒子(金属微粒子)18は、真空ポンプ30による回収部20からの負圧(吸引力)によって、図1中、符号Uに示す方向に吸引され、内管19eを通して回収部20に送られ、回収部20のフィルター20bで回収される。このときのサイクロン19内の内圧は、大気圧以下であることが好ましい。また、2次微粒子(金属微粒子)18の粒子径は、目的に応じて、ナノメートルオーダの任意の粒子径が規定される。
上述のように、例えば、酸性の性質を有する金属微粒子を、金属の粉末をプラズマ処理し、例えば、有機酸の水溶液を噴霧するだけで容易かつ確実に得ることができる。
なお、熱プラズマ炎を用いて金属の1次微粒子を形成しているが、気相法を用いて金属の1次微粒子を形成することができる。このため、気相法であれば、熱プラズマ炎を用いた熱プラズマ法に限定されるものではなく、火炎法により、金属の1次微粒子を形成する製造方法でもよい。
しかも、本実施形態の金属微粒子の製造方法により製造される金属微粒子は、その粒度分布幅が狭い、すなわち、均一な粒子径を有し、1μm以上の粗大粒子の混入が殆どない。
【0036】
ここで、火炎法とは、火炎を熱源として用い,金属の原料の粉末を火炎に通すことにより微粒子を合成する方法である。火炎法では、金属の粉末(原料の粉末)を、火炎に供給し、そして、冷却ガスを火炎に供給し、火炎の温度を低下させて金属粒子の成長を抑制して金属の1次微粒子15を得る。さらに、有機酸を予め定められた量、1次微粒子15に供給して、金属微粒子を製造する。
なお、冷却ガスおよび有機酸は、上述の熱プラズマ炎と同じものを用いることができる。
【0037】
上述の金属微粒子以外にも、上述の酸化物微粒子、窒化物微粒子、炭化物微粒子、酸窒化物微粒子、樹脂微粒子等の微粒子を製造する場合には、原料の粉末として、酸化物の粉末、窒化物の粉末、炭化物の粉末、酸窒化物の粉末、樹脂の粉末を用いることにより、金属微粒子と同様にして、上述の酸化物微粒子、窒化物微粒子、炭化物微粒子、酸窒化物微粒子、樹脂微粒子等の微粒子を製造することができる。
金属微粒子以外の微粒子を製造する際、プラズマガス、冷却ガスおよび有機酸は、各組成に応じたものが適宜利用される。
【0038】
次に、微粒子について説明する。
本発明の微粒子は、ナノ粒子と呼ばれるものであり、例えば、粒子径が1~100nmである。粒子径はBET法を用いて測定された平均粒子径である。本発明の微粒子は、例えば、上述の製造方法で製造され、粒子状態で得られる。このように本発明の微粒子は、溶媒内等に分散されている状態ではなく、微粒子単独で存在する。このため、溶媒との組合せ等も特に限定されるものではなく、溶媒の選択の自由度は高い。
【0039】
図2に示すように微粒子50は、その表面50aに表面被覆物51がある。微粒子50として、例えば、金属微粒子について表面の表面被覆物を含め、その表面状態を調べたところ、炭化水素(CnHm)が表面に存在し、この炭化水素(CnHm)以外に、親水性および酸性をもたらすヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)が明らかに存在していることを示唆する結果が得られている。
表面被覆物51は、有機酸の熱分解によって生じた、炭化水素(CnHm)と親水性および酸性をもたらすカルボキシル基(-COOH)、またはヒドロキシル基(-OH)を含む有機物で構成されている。例えば、表面被覆物は、クエン酸の熱分解で生じた有機物で構成される。
このように表面被覆物51はヒドロキシル基およびカルボキシル基を含むものであるが、ヒドロキシル基およびカルボキシル基のうち、少なくともカルボキシル基を含む構成であればよい。
なお、従来の金属微粒子について表面状態を調べたところ、炭化水素(CnHm)が存在していることを確認しているが、明らかにヒドロキシル基およびカルボキシル基の存在を示唆する結果が得られていなかった。
なお、微粒子50の表面状態は、例えば、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて調べることができる。
【0040】
本発明の微粒子の一例である金属微粒子のpHと、従来の金属微粒子のpHとを求めたところ、後に示すように金属微粒子のpHは3.0~4.0であり、従来の金属微粒子のpHは5~7程度である。このように、微粒子のpHを酸性側にコントロールすることができ、微粒子の表面性質の1つである酸性度をコントロールすることができる。これにより、pH等の表面性質がコントロールされた微粒子を提供することができる。
【0041】
<金属微粒子のpH>
金属微粒子のpHは、以下のようにして測定することができる。
まず、所定の量の各金属微粒子を容器に収納し、金属微粒子に純水(20ミリリットル)を滴下し、120分放置した後、純水部分のpHを測定する。pHの測定にはガラス電極法を用いる。
なお、金属微粒子以外の微粒子も、上述の方法でpHを測定できる。
【0042】
上述のように従来の金属微粒子よりも本発明の金属微粒子は、より酸性の性質を有している。このため、金属微粒子を、図2に示す微粒子50のように溶液52中に分散させる場合、少量の塩基性分散剤(図示せず)で必要な分散状態を得ることができる。
また、少量の塩基性分散剤で必要な分散状態を得ることができることから、塗膜をより少ない量の分散剤で作製することができる。
なお、分散剤には、例えば、BYK-112(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等を用いることができる。
【0043】
次に、微粒子の具体例について、金属微粒子を例にして説明する。
原料にSn(スズ)の粉末を用いてSn微粒子(サンプル1)を製造した。Sn微粒子(サンプル1)では、クエン酸を含む水溶液(クエン酸の濃度30W/W%)を、噴霧ガスを用いてSnの1次微粒子に噴霧した。噴霧ガスにはアルゴンガスを用いた。
原料にNi(ニッケル)の粉末を用いてNi微粒子(サンプル3)を製造した。Ni微粒子(サンプル3)では、クエン酸を含む水溶液(クエン酸の濃度30W/W%)を、噴霧ガスを用いてNiの1次微粒子に噴霧した。噴霧ガスにはアルゴンガスを用いた。
また、比較のために有機酸を供給しない従来の製造方法で、原料にSn(スズ)の粉末を用いてSn微粒子(サンプル2)と、Ni(ニッケル)の粉末を用いてNi微粒子(サンプル4)を製造した。
なお、金属微粒子の製造条件は、プラズマガス:アルゴンガス200リットル/分、水素ガス5リットル/分、キャリアガス:アルゴンガス5リットル/分、急冷ガス:アルゴンガス900リットル/分、メタンガス10リットル/分、内圧:40kPaとした。
得られた微粒子の粒子径を、BET法を用いて測定した。下記表1に示すように、本発明の金属微粒子の製造方法では、pHを酸性側にコントロールすることができる。
【0044】
【表1】
【0045】
サンプル3およびサンプル4のNi微粒子については、X線回折法による結晶構造の解析を行った。その結果を図3に示す。図3は本発明の製造方法で得られた金属微粒子と、従来の製造方法で得られた金属微粒子とのX線回折法による結晶構造の解析結果を示すグラフであり、縦軸の強度の単位は無次元である。
図3の符号60は本発明の微粒子の製造方法で得られたNi微粒子(サンプル3)のスペクトルを示し、符号61は従来の微粒子の製造方法、すなわち、有機酸を供給せずに製造して得られたNi微粒子(サンプル4)のスペクトルを示す。
図3に示すように、サンプル3のスペクトル60と、サンプル4のスペクトル61は同じであり、サンプル3とサンプル4はpHだけが異なる。このようなことからも、本発明の微粒子の製造方法では、金属微粒子のpHをコントロールすることができることは明らかである。
【0046】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の微粒子の製造方法および微粒子について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0047】
10 微粒子製造装置
12 プラズマトーチ
14 材料供給装置
15 1次微粒子
16 チャンバ
17 酸供給部
18 微粒子(2次微粒子)
19 サイクロン
20 回収部
22 プラズマガス供給源
24 熱プラズマ炎
28 気体供給装置
30 真空ポンプ
50 微粒子
51 表面被覆物
図1
図2
図3