(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】ダイビング補助システム
(51)【国際特許分類】
B63C 11/02 20060101AFI20230522BHJP
B63C 11/08 20060101ALI20230522BHJP
B63C 11/26 20060101ALI20230522BHJP
G04G 21/02 20100101ALI20230522BHJP
【FI】
B63C11/02
B63C11/08
B63C11/26
G04G21/02 G
(21)【出願番号】P 2020158744
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】西谷 明彦
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-534516(JP,A)
【文献】国際公開第02/076820(WO,A1)
【文献】特開2017-178040(JP,A)
【文献】中国実用新案第205221039(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0329794(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/02
B63C 9/125
G04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイバーの手部に装着するためのダイブコンピュータと、前記ダイバーの胴体に着用するための浮力調整胴衣と、
水面に浮遊する中継装置と、を備えるダイビング補助システムであって、
前記ダイブコンピュータは、
潜水計画及び前記ダイバーの過去の気圧履歴を取得する取得部と、
潜水時間と潜水深度とを含む潜水状態を測定する測定部と、
前記過去の気圧履歴と前記潜水状態とに基づいて、前記ダイバーの推奨深度及び当該推奨深度における推奨滞在時間とを含む推奨行動情報を特定する行動特定部と、
前記推奨行動情報を前記浮力調整胴衣に送信する通信部と、
を備え、
前記浮力調整胴衣は、
前記ダイブコンピュータの通信部から前記推奨行動情報を受信する胴衣側通信部と、
空気袋と、
空気を充填するタンクから前記空気袋に空気を送り込むための給気弁と、
前記空気袋の中の空気を前記タンクに排出するための排気弁と、
前記推奨行動情報に基づいて前記給気弁と前記排気弁との動作を制御する弁制御部と、
を備え
、
前記中継装置は、
前記ダイブコンピュータの通信部から前記潜水状態を水中通信を介して受信する水中通信部と、
前記潜水状態を水上に存在する他の装置に気中通信を介して送信する気中通信部と、
を備える、
ダイビング補助システム。
【請求項2】
前記気中通信部は、前記他の装置から前記潜水計画を受信し、
前記水中通信部は、前記潜水計画を前記ダイブコンピュータに送信する、
請求項
1に記載のダイビング補助システム。
【請求項3】
ダイバーの手部に装着するためのダイブコンピュータと、前記ダイバーの胴体に着用するための浮力調整胴衣と、を備えるダイビング補助システムであって、
前記ダイブコンピュータは、
潜水計画及び前記ダイバーの過去の気圧履歴を取得する取得部と、
潜水時間と潜水深度とを含む潜水状態を測定する測定部と、
前記過去の気圧履歴と前記潜水状態とに基づいて、前記ダイバーの推奨深度及び当該推奨深度における推奨滞在時間とを含む推奨行動情報を特定する行動特定部と、
前記推奨行動情報を前記浮力調整胴衣に送信する通信部と、
を備え、
前記浮力調整胴衣は、
前記ダイブコンピュータの通信部から前記推奨行動情報を受信する胴衣側通信部と、
空気袋と、
空気を充填するタンクから前記空気袋に空気を送り込むための給気弁と、
前記空気袋の中の空気を前記タンクに排出するための排気弁と、
前記推奨行動情報に基づいて前記給気弁と前記排気弁との動作を制御する弁制御部と、
潜水深度を測定する胴衣側測定部と、
を備え
、
前記弁制御部は、前記ダイブコンピュータから受信した前記推奨行動情報に含まれる推奨滞在時間と前記胴衣側測定部が測定した潜水深度とに基づいて、前記給気弁と前記排気弁との動作を制御する、
ダイビング補助システム。
【請求項4】
ダイバーの手部に装着するためのダイブコンピュータと、前記ダイバーの胴体に着用するための浮力調整胴衣と、を備えるダイビング補助システムであって、
前記ダイブコンピュータは、
潜水計画及び前記ダイバーの過去の気圧履歴を取得する取得部と、
潜水時間と潜水深度とを含む潜水状態を測定する測定部と、
前記過去の気圧履歴と前記潜水状態とに基づいて、前記ダイバーの推奨深度及び当該推奨深度における推奨滞在時間とを含む推奨行動情報を特定する行動特定部と、
前記推奨行動情報を前記浮力調整胴衣に送信する通信部と、
を備え、
前記浮力調整胴衣は、
前記ダイブコンピュータの通信部から前記推奨行動情報を受信する胴衣側通信部と、
空気袋と、
空気を充填するタンクから前記空気袋に空気を送り込むための給気弁と、
前記空気袋の中の空気を前記タンクに排出するための排気弁と、
前記推奨行動情報に基づいて前記給気弁と前記排気弁との動作を制御する弁制御部と、
を備え
、
前記潜水計画は、前記ダイバー毎に定められた情報であって、水中における滞在時間の最大値を定める最大潜水時間と、浮上速度の最大値を定める最大浮上速度とを含む浮上情報を含んでおり、
前記浮力調整胴衣の前記弁制御部は、水中における滞在時間が前記最大潜水時間を経過した場合、前記最大浮上速度の範囲内で浮上するように前記給気弁と前記排気弁との動作を制御する、
ダイビング補助システム。
【請求項5】
前記ダイブコンピュータの前記取得部は、前記ダイバーの
滞在時間が前記最大潜水時間に到達した場合に、前記浮力調整胴衣の前記空気袋に空気を給気するか否かを指示する自動給気指示をさらに取得し、
前記浮力調整胴衣の前記弁制御部は、前記ダイバーの潜水時間が前記最大潜水時間に到達した場合に、前記自動給気指示に基づいて前記給気弁の動作を制御する、
請求項
4に記載のダイビング補助システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイビング補助システム、ダイブコンピュータ、及び浮力調整胴衣に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイバーや潜水士(以下、単に「ダイバー」と記載する。)が潜水をすると、ダイバーが気中にいるときと比較して、水圧によって血中に窒素が溶け込む量が多くなり、減圧症のリスクが高まることが知られている。このため、例えば特許文献1には、安全停止及び減圧停止深度の深度表示をデジタル表示のみならずグラフ表示することで、ダイバーに深度維持を促すための腕時計型のダイブコンピュータが開示されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなダイブコンピュータを所持するダイバーは、ダイブコンピュータに表示される指示にしたがい、浮力調整を行うための浮力調整胴衣(Buoyancy Control Device;BCD)の空気を手動で調整し、深度を調整する。このため、ダイバーが潜水活動に夢中になっている場合等には、ダイバーがダイブコンピュータの表示を確認することを忘れてしまうようなことも起こりうる。したがって、ダイバーが適切に深度を管理できるようにサポートすることが求められている。
【0005】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、ダイバーの深度管理をサポートするための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、ダイバーの手部に装着するためのダイブコンピュータと、前記ダイバーの胴体に着用するための浮力調整胴衣と、を備えるダイビング補助システムである。このシステムにおいて、前記ダイブコンピュータは、潜水計画及び前記ダイバーの過去の気圧履歴を取得する取得部と、潜水時間と潜水深度とを含む潜水状態を測定する測定部と、前記過去の気圧履歴と前記潜水状態とに基づいて、前記ダイバーの推奨深度及び当該推奨深度における推奨滞在時間とを含む推奨行動情報を特定する行動特定部と、前記推奨行動情報を前記浮力調整胴衣に送信する通信部と、を備える。また、前記浮力調整胴衣は、前記ダイブコンピュータの通信部から前記推奨行動情報を受信する胴衣側通信部と、空気袋と、空気を充填するタンクから前記空気袋に空気を送り込むための給気弁と、前記空気袋の中の空気を前記タンクに排出するための排気弁と、前記推奨行動情報に基づいて前記給気弁と前記排気弁との動作を制御する弁制御部と、を備える。
【0007】
前記ダイビング補助システムは、水面に浮遊する中継装置をさらに備えてもよく、前記中継装置は、前記ダイブコンピュータの通信部から前記潜水状態を水中通信を介して受信する水中通信部と、前記潜水状態を水上に存在する他の装置に気中通信を介して送信する気中通信部と、を備えてもよい。
【0008】
前記気中通信部は、前記他の装置から前記潜水計画を受信してもよく、前記水中通信部は、前記潜水計画を前記ダイブコンピュータに送信してもよい。
【0009】
前記浮力調整胴衣は、潜水深度を測定する胴衣側測定部をさらに備えてもよく、前記弁制御部は、前記ダイブコンピュータから受信した前記推奨行動情報に含まれる推奨滞在時間と前記胴衣側測定部が測定した潜水深度とに基づいて、前記給気弁と前記排気弁との動作を制御してもよい。
【0010】
前記潜水計画は、前記ダイバー毎に定められた情報であって、水中における滞在時間の最大値を定める最大潜水時間と、浮上速度の最大値を定める最大浮上速度とを含む浮上情報を含んでいてもよく、前記浮力調整胴衣の前記弁制御部は、水中における滞在時間が前記最大潜水時間を経過した場合、前記最大浮上速度の範囲内で浮上するように前記給気弁と前記排気弁との動作を制御してもよい。
【0011】
前記ダイブコンピュータの前記取得部は、前記ダイバーの潜水時間が前記最大潜水時間に到達した場合に、前記浮力調整胴衣の前記空気袋に空気を給気するか否かを指示する自動給気指示をさらに取得してもよく、前記浮力調整胴衣の前記弁制御部は、前記ダイバーの潜水時間が前記最大潜水時間に到達した場合に、前記自動給気指示に基づいて前記給気弁の動作を制御してもよい。
【0012】
本発明の第2の態様は、ダイバーの手部に装着するためのダイブコンピュータである。このダイブコンピュータは、潜水計画及び前記ダイバーの過去の気圧履歴を取得する取得部と、潜水時間と潜水深度とを含む潜水状態を測定する測定部と、前記過去の気圧履歴と前記潜水状態とに基づいて、前記ダイバーの推奨深度及び当該推奨深度における推奨滞在時間とを含む推奨行動情報を特定する行動特定部と、前記推奨行動情報に基づいて前記ダイバーの浮力を調整するための浮力調整胴衣に前記推奨行動情報を送信する通信部と、を備える。
【0013】
本発明の第3の態様は、ダイバーの胴体に着用するための浮力調整胴衣である。この浮力調整胴衣は、空気袋と、空気を充填するタンクから前記空気袋に空気を送り込むための給気弁と、前記空気袋の中の空気を外部に排出するための排気弁と、前記ダイバーの推奨深度及び当該推奨深度における推奨滞在時間を含む推奨行動情報を受信する胴衣側通信部と、前記推奨行動情報に基づいて前記給気弁と前記排気弁との動作を制御する弁制御部と、を備える。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、データ構造、記録媒体などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ダイバーの深度管理をサポートすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態に係るダイビング補助システムの全体構成の概略を模式的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係るダイブコンピュータ、浮力調整胴衣、タンク、及び中継装置の機能構成を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態に係るダイビング補助システムにおいて実行される情報処理の流れを説明するためのシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施の形態の概要>
図1は、実施の形態に係るダイビング補助システムSの全体構成の概略を模式的に示す図である。以下、
図1を参照して、実施の形態の概要を述べる。
【0018】
実施の形態に係るダイビング補助システムSにおいて、ダイバーDはダイブコンピュータ1を手部に装着するとともに、浮力調整胴衣2を胴体に着用している。また、ダイバーDは、水中における呼吸の確保のため、及び浮力調整のために浮力調整胴衣2に給気又は排気するための空気を充填するタンク3を背負っている。
【0019】
実施の形態に係るダイビング補助システムSにおいて、ダイブコンピュータ1と浮力調整胴衣2とは、水中通信を用いた無線、又は有線によって相互に通信可能な態様で接続されている。また、実施の形態に係る浮力調整胴衣2は、タンク3から空気を給排気することにより、浮力調整胴衣2が発生させる浮力の大きさを調整する機能を有している。これにより、浮力調整胴衣2は、ダイブコンピュータ1からダイバーDが待機すべき深度を受信して、ダイバーDの現在の深度が受信した深度となるように浮力を自動で調整する。結果として、実施の形態に係るダイビング補助システムSは、ダイバーDが適切に深度を維持できるようにダイバーの深度管理をサポートすることができる。
【0020】
なお、
図1に示すように、実施の形態に係るダイビング補助システムSは、水面に浮遊する中継装置4も備えている。中継装置4は、ダイブコンピュータ1及び浮力調整胴衣2と水中通信によって通信することができる。さらに、中継装置4は、陸地又は船上等の水上において、ダイバーDを監視することができる他の装置5とも通信可能である。具体的には、中継装置4は、携帯電話の通信回線又は衛星通信回線等の既知の無線通信技術を利用して他の装置5と通信することができる。これにより、ダイブコンピュータ1と浮力調整胴衣2とは、中継装置4を介して他の装置5と通信することができる。
【0021】
<実施の形態に係るダイブコンピュータ1の機能構成>
図2は、実施の形態に係るダイブコンピュータ1、浮力調整胴衣2、タンク3、及び中継装置4の機能構成を模式的に示す図である。ダイブコンピュータ1は、記憶部10、通信部11、測定部12、及び制御部13を備える。浮力調整胴衣2は、胴衣側通信部20、空気袋21、給気弁22、排気弁23、弁制御部24、及び胴衣側測定部25を備える。中継装置4は、水中通信部40と気中通信部41とを備える。
【0022】
図2において、矢印は主なデータの流れを示しており、
図2に示していないデータの流れがあってもよい。また、
図2において、破線で示す矢印は水中において行われる通信を示しており、一点鎖線で示す矢印は空気中において行われる通信を示している。
【0023】
記憶部10は、ダイブコンピュータ1を実現するコンピュータのBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)やダイブコンピュータ1の作業領域となるRAM(Random Access Memory)、OS(Operating System)やアプリケーションプログラム、当該アプリケーションプログラムの実行時に参照される種々の情報を格納する半導体メモリである。
【0024】
通信部11は、ダイブコンピュータ1と外部の装置との間の通信を行う通信インタフェースであり、既知の光無線通信や音響通信等の水中通信モジュールで実現されている。測定部12は、ダイブコンピュータ1の潜水時間と潜水深度とを含む潜水状態を測定する部位であり、既知の時計モジュールと圧力センサとで実現されている。
【0025】
制御部13は、ダイブコンピュータ1のCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサであり、記憶部10に記憶されたプログラムを実行することによって、通信制御部130、取得部131、及び行動特定部132として機能する。
【0026】
通信制御部130は、通信部11を制御することによってダイブコンピュータ1の外部に存在する外部装置との間で行われる通信を制御する。以下、ダイブコンピュータ1が外部装置と通信をする場合、通信部11は通信制御部130の制御の下で通信することを前提として、単に「通信部11が通信する」等と記載する。
【0027】
取得部131は、潜水計画及び過去の潜水(気圧)履歴を取得する。ここで「潜水計画」とは、ダイブコンピュータ1を装着したダイバーDが潜水する際に、どの深さにどれ位の時間滞在するかを定めた計画であり、ダイバーDが決めた潜水におけるいわば旅行計画である。取得部131は、他の装置5や、ダイバーDが所持するスマートフォン等の端末(不図示)から潜水計画を受信して取得する。あるいは、通信制御部130は、ダイブコンピュータ1の図示しない入力インタフェースを介してダイバーDが入力した潜水予定の深度データ等を受信して、演算によって潜水計画を取得してもよい。
【0028】
行動特定部132は、過去の気圧履歴(潜水履歴)と測定部12により観測される潜水状態とに基づいて、ダイバーDの各深度における最大滞在時間とを含む推奨行動情報を特定する。具体的には、行動特定部132は、減圧理論に基づいてダイバーDの体が吸収する窒素のレベルを算出する減圧計算を行い、推奨行動情報を特定する。つまり、行動特定部132は、ダイバーDが過去に滞在した環境における気圧履歴と、潜水時の測定情報(気圧や滞在時間)をもとに減圧計算を行い、推奨行動情報を都度計算する。推奨行動情報は、ダイバーDが今その深度にどれくらい滞在してよいかを示すリアルタイムな情報である。減圧計算は既知の技術であるため、その詳細は省略する。一般的なダイブコンピュータは減圧計算を実装している。
【0029】
図3は、潜水計画を示すグラフの模式図である。
図3に示すグラフにおいて、横軸はダイバーDが潜水を開始してから経過した時間を示し、縦軸はダイバーDが滞在すべき深度を示している。
図3に示す潜水計画の例では、潜水を開始したダイバーDは、T1分かけて深度L1メートルまで潜り、T2分が経過するまで深度L1メートルに滞在する。ダイバーDは、T2からT1を減じた(T2-T1)分間が、深度L1メートルに滞在する計画である。なお、ダイバーDが潜水を開始してからの経過時間は、ダイブコンピュータ1が備えるタイマー(不図示)が計測してもよいし、浮力調整胴衣2が備えるタイマー(不図示)が計測してもよい。
【0030】
潜水を開始してT2分経過すると、ダイバーDはT3分までの間に深度L2メートルまで浮上し、T4分経過するまで深度L2メートルに滞在する。したがって、(T4―T3)分間が、深度L2メートルにおける滞在計画時間となる。その後、ダイバーDは、T5分が経過するまでの間に再び深度L1メートルまで下降し、T6分経過するまで深度L1メートルに滞在する。(T6-T5)分間が、深度L2メートルにおける2回目の滞在計画時間となる。
【0031】
ここで、T6分は、ダイバーDに定められた最大潜水時間である。最大潜水時間は、ダイバーDの経験や、体調、潜水前の数日間の生活(例えば、睡眠時間、飛行機の搭乗の有無、ダイビングの有無)等に基づいて運用者にて定められ、ダイバーDが身に付けているダイブコンピュータ1の表示部(不図示)に表示される。
図3に示す潜水計画の例では、ダイバーDは水上に戻るために、まず、T7分経過するまでの間に深度L3メートルまで浮上し、T8分が経過するまでその深さに滞在する。その後、ダイバーDは、T9分が経過するまでの間に水上まで浮上する。
【0032】
行動特定部132は、潜水状態に含まれるダイバーDの潜水時間や深度に基づいて、減圧計算を行うことにより、ダイバーDが滞在すべき深度を取得する。行動特定部132は、潜水状態に含まれるダイバーDの現在の深度と、ダイバーDが滞在すべき深度とを比較し、ダイバーDの現在の深度が滞在すべき深度となるためにダイバーDがとるべき行動である推奨行動情報を特定する。
【0033】
例えば、ダイバーDの潜水時間Txが、T1分よりも長くT2分よりも短い時間であり、そのときのダイバーDの深度がL1メートル以下であったとする。この場合、行動特定部132は、減圧計算の結果行動計画に問題がなければ、ダイバーDが現在の深度L1メートルに、(T2-Tx)分滞在すべきことを推奨行動情報として特定する。別の例として、ダイバーDの潜水時間Txが、T4分よりも長くT5分よりも短い時間であり、そのときのダイバーDの深度がL2メートルであったとする。この場合、行動特定部132は、減圧計算の結果行動計画に問題がなければ、ダイバーDの深度がL1メートルとなるように下降を開始すべきことを推奨行動情報として特定する。なお、行動特定部132は、減圧計算の結果が行動計画と異なっている場合には、減圧計算の結果を推奨行動情報として特定する。
【0034】
図2の説明に戻り、通信部11は、行動特定部132が特定した推奨行動情報を浮力調整胴衣2に送信する。浮力調整胴衣2の胴衣側通信部20は、ダイブコンピュータ1の通信部11から推奨行動情報を受信する。
【0035】
浮力調整胴衣2において、給気弁22は、空気を充填するタンク3から空気袋21に空気を送り込むための弁である。また、排気弁23は、空気袋21の中の空気を外部に排出するための弁である。弁制御部24は、胴衣側通信部20が受信した推奨行動情報に基づいて、給気弁22と排気弁23との動作を制御する。このように、ダイビング補助システムSのサポートにより、ダイバーDは自ら給気弁22又は排気弁23を操作して深度を調整しなくても、潜水計画に沿った深度に滞在することができる。
【0036】
図1を参照して上述したように、ダイビング補助システムSは、水面に浮遊する中継装置4も備えている。中継装置4の水中通信部40は、ダイブコンピュータ1の通信部11から水中通信を介して潜水状態を受信する。気中通信部41は、気中通信を介して潜水状態を水上に存在する他の装置5に送信する。これにより、他の装置5は、潜水中のダイバーDの潜水状態を取得することができる。他の装置5の操作者は、ダイバーDの潜水状態をモニタリングすることができる。
【0037】
気中通信部41は、他の装置5から潜水計画を受信することができる。この場合、水中通信部40は、潜水計画をダイブコンピュータ1に送信する。これにより、ダイバーDは、自らダイブコンピュータ1に潜水計画を入力しなくても、ダイバーDに潜水計画をダイブコンピュータ1に入力することができる。ダイバーDがダイビングの初心者である場合等において、ダイバーDの指導者が他の装置5を用いてダイブコンピュータ1に潜水計画を入力できるため、ダイバーDの潜水行動の安全性を高めることができる。
【0038】
以上、浮力調整胴衣2の弁制御部24が、ダイブコンピュータ1から取得した潜水状態に含まれる潜水深度に基づいて給気弁22と排気弁23との動作を制御する場合について説明した。ここで、浮力調整胴衣2が潜水深度を測定するための胴衣側測定部25を備えている場合には、弁制御部24は、胴衣側測定部25が測定した潜水深度に基づいて、給気弁22と排気弁23との動作を制御してもよい。
【0039】
具体的には、弁制御部24は、ダイブコンピュータ1から受信した推奨行動情報に含まれる推奨滞在時間と胴衣側測定部25が測定した潜水深度とに基づいて、給気弁22と排気弁23との動作を制御する。潜水中のダイバーDの管理において潜水深度の情報は重要であるため、ダイブコンピュータ1と浮力調整胴衣2との両者が潜水深度を測定することができるため、万が一いずれか一方に不具合が発生したとしても他方が潜水深度を測定できるため、ダイバーDの潜水行動の安全性をより高めることができる。
【0040】
上述したように、最大潜水時間はダイバーD毎に運用者によって定められる情報であり、水中における滞在時間の最大値を定める情報である。すなわち、ダイバーDの潜水時間が最大潜水時間に到達した場合、ダイバーDは水上に浮上することが望ましい。そのため、ダイバーDの潜水時間が最大潜水時間に到達した場合、浮力調整胴衣2が自動で浮力を調整してダイバーDを浮上させられると便利である。一方で、一般に最大潜水時間は余裕を持って設定されており、ダイバーDの潜水時間が最大潜水時間に到達した場合に必ずしも直ちに浮上を開始しなければならないとは限らない。経験を積んだダイバーDであれば、ダイバーDの潜水時間が最大潜水時間に到達した場合であっても、例えば人命の救助等の緊急作業等の何らかの理由によって水中における作業を継続すべき状況がないとも限らない。
【0041】
そこで、ダイブコンピュータ1の取得部131は、ダイバーDの潜水時間が最大潜水時間に到達した場合に、浮力調整胴衣2の空気袋21に空気を給気して浮力を増加させるか否かを指示する自動給気指示をさらに取得してもよい。浮力調整胴衣2の弁制御部24は、あらかじめダイブコンピュータ1から自動給気指示を取得しておく。
【0042】
浮力調整胴衣2の弁制御部24は、ダイバーDの潜水時間が最大潜水時間に到達した場合、あらかじめ取得してある自動給気指示に基づいて給気弁22と排気弁23との動作を制御する。具体的には、自動給気指示が自動で給気することを指示している場合、弁制御部24は、ダイバーDによる明示的な操作がなくても空気袋21に自動で給気することにより、ダイバーDを浮上させることができる。これにより、ダイビング補助システムSは、例えば初心者のダイバーD等が潜水に夢中になって最大潜水時間の経過に気づかない場合であっても、ダイバーDを浮上させることができる。
【0043】
ここで、最大潜水時間は、主にダイバーDが減圧症となることを抑制する等のために設けられている。そのため、潜水計画には、最大潜水時間とともに、ダイバーDが安全に浮上する際の浮上速度の最大値を定める最大浮上速度を含む浮上情報も含んでいる。浮上速度の一例としては毎分9メートルが挙げられるがこれに限られない。ダイバーDは、潜水前に潜水計画とは別にあらかじめダイブコンピュータ1の記憶部10に設定しておくこともできる。
【0044】
浮力調整胴衣2の弁制御部24は、ダイバーDの水中における滞在時間が最大潜水時間を経過した場合、最大浮上速度の範囲内で浮上するように給気弁22と排気弁23との動作を制御する。これにより、ダイビング補助システムSは、ダイバーDが急激に浮上することに起因して減圧症を発症するリスクを低減することができる。
【0045】
実施の形態に係る浮力調整胴衣2の弁制御部24は、ダイバーDの潜水深度が0メートルとなった場合(すなわち、水上に到達した場合)に、浮力調整胴衣2の浮力が最大となるまで給気弁22を制御して空気袋21に空気を充填させる。これにより、浮力調整胴衣2は救命胴衣と同等の機能を持つことになり、ダイバーDの安全性を高めることができる。
【0046】
<ダイビング補助システムSにおいて実行される情報処理の処理シーケンス>
図4は、実施の形態に係るダイビング補助システムSにおいて実行される情報処理の流れを説明するためのシーケンス図である。
【0047】
ダイブコンピュータ1の取得部131は、潜水計画及び過去の潜水(気圧)履歴を取得する(S2)。ダイブコンピュータ1の測定部12は、ダイバーDの潜水時間と潜水深度とを含む潜水状態を測定する(S4)。ダイブコンピュータ1の行動特定部132は、過去の潜水(気圧変化)履歴と潜水状態とに基づいて減圧計算を行い、ダイバーDの推奨深度及びその推奨深度における推奨滞在時間とを含む推奨行動情報を特定する(S6)。ダイブコンピュータ1の通信部11は、行動特定部132が特定した推奨行動情報を浮力調整胴衣2に送信する(S8)。
【0048】
浮力調整胴衣2の胴衣側通信部20は、ダイバーDの推奨深度及びその推奨深度における推奨滞在時間を含む推奨行動情報をダイブコンピュータ1から受信する(S10)。浮力調整胴衣2の弁制御部24は、ダイブコンピュータ1から受信した推奨行動情報に基づいて給気弁22と排気弁23との動作を制御する(S12)。
【0049】
<実施の形態に係るダイビング補助システムSの利用シーン>
ダイブコンピュータ1を所持しているダイバーDは、ダイブコンピュータ1を潜水場所まで持参するのが一般的である。一方、ダイブコンピュータ1を所持しているダイバーDであっても、浮力調整胴衣2はダイビング開催地のダイビングショップで当日借り受けるケースも多い。このケースでは、潜水計画を取得する機器と、その潜水計画にしたがって浮力を調整する機器とが、普段は物理的に離れていることになる。
【0050】
そこで、実施の形態に係るダイビング補助システムSは、潜水計画を取得するダイブコンピュータ1と、その潜水計画にしたがって浮力を調整する浮力調整胴衣2とを通信によって接続することにより、ダイバーDが浮力調整胴衣2を借り受けて使用するシーンであっても、浮力調整胴衣2の浮力を自動で調整することを実現する。これにより、ダイビング補助システムSは、より多くのダイバーDに対して、潜水中の深度管理をサポートすることができる。なお、ダイバーDがダイブコンピュータ1と浮力調整胴衣2とを所持していても、ダイブコンピュータ1と浮力調整胴衣2とは異なる装置であるため、両者間の通信は必要である。
【0051】
<実施の形態に係るダイブコンピュータ1が奏する効果>
以上説明したように、実施の形態に係るダイビング補助システムSによれば、ダイバーの深度管理をサポートすることができる。
【0052】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果をあわせ持つ。
【0053】
<変形例>
上記では、浮力調整胴衣2の弁制御部24が、ダイブコンピュータ1から自動給気指示を受信している場合に、自動でダイバーDを浮上させることについて説明した。これに加えて、浮力調整胴衣2の胴衣側通信部20が、中継装置4を介して他の装置5から緊急浮上命令を受信するようにしてもよい。
【0054】
浮力調整胴衣2の弁制御部24が緊急浮上命令を受け付けると、弁制御部24は、ダイバーDの明示的な操作の有無、及びダイバーDの潜水時間が最大潜水時間を経過しているか否かに関わらず、空気袋21に空気を給気して浮力を増加させるようにする。これにより、ダイバーDを浮上させるべき何らかの理由がある場合に、ダイバーDを監視している他の装置5の操作者が遠隔操作でダイバーDを浮上させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1・・・ダイブコンピュータ
10・・・記憶部
11・・・通信部
12・・・測定部
13・・・制御部
130・・・通信制御部
131・・・取得部
132・・・行動特定部
2・・・浮力調整胴衣
20・・・胴衣側通信部
21・・・空気袋
22・・・給気弁
23・・・排気弁
24・・・弁制御部
25・・・胴衣側測定部
3・・・タンク
4・・・中継装置
40・・・水中通信部
41・・・気中通信部
5・・・他の装置
S・・・ダイビング補助システム