(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】粉末製剤、カートリッジ、及びデバイス
(51)【国際特許分類】
A61K 9/14 20060101AFI20230522BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230522BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230522BHJP
A61K 33/32 20060101ALI20230522BHJP
A61K 39/35 20060101ALI20230522BHJP
A61K 31/7072 20060101ALI20230522BHJP
A61K 31/568 20060101ALI20230522BHJP
A61K 38/095 20190101ALI20230522BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20230522BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230522BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230522BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230522BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230522BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230522BHJP
A61M 13/00 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K9/72
A61P31/00
A61K33/32
A61K39/35
A61K31/7072
A61K31/568
A61K38/095
A61K31/405
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/02
A61K47/26
A61P25/00
A61M13/00
(21)【出願番号】P 2020501655
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004331
(87)【国際公開番号】W WO2019163520
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018032498
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393030626
【氏名又は名称】株式会社新日本科学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】治田 俊志
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-536845(JP,A)
【文献】特表2015-509788(JP,A)
【文献】特開2001-131057(JP,A)
【文献】特表2016-520378(JP,A)
【文献】特開2014-028848(JP,A)
【文献】特開2016-135272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-33/44
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39/44
A61K 45/00-45/08
A61P 25/00
A61P 31/00
A61M 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分を含む、鼻腔内の嗅部領域に前記有効成分を選択的に投与するための粉末製剤であって、
前記粉末製剤のかさ密度が0.1~0.5g/cm
3であり、
前記粉末製剤のHausner比が1.6~2.4であり、
前記粉末製剤を鼻腔内に噴射するための最大の空気圧が15~100kPaであり、
最大の空気圧に到達するまでの時間が0~40msecであり、
前記粉末製剤が10kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が15~150msecである、前記粉末製剤。
【請求項2】
前記粉末製剤の比表面積が0.3~2.5m
2/gである、請求項1に記載の粉末製剤。
【請求項3】
前記粉末製剤の平均粒子径が10~150μmである、請求項1又は2に記載の粉末製剤。
【請求項4】
中枢神経系疾患を予防及び/又は治療するための、又は中枢神経系への作用に基づく検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置を施すための、請求項1~3のいずれか一項に記載
の粉末製剤。
【請求項5】
カートリッジに充填された、請求項1~4のいずれか一項に記載
の粉末製
剤。
【請求項6】
請求項5に記載の
粉末製剤と、
前
記粉末製剤を噴射するための噴射器と、
を含む、
鼻腔内の嗅部領域に前記有効成分を選択的に投与するためのデバイス
であって、
前記粉末製剤を鼻腔内に噴射するための最大の空気圧が15~100kPaであり、
最大の空気圧に到達するまでの時間が0~40msecであり、
前記粉末製剤が10kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が15~150msecである、前記デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、日本特許出願2018-32498(2018年2月26日出願)に基づく優先権を主張する。前記日本特許出願の全ての内容は、参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、鼻腔内の特定の領域に有効成分を選択的に投与するための粉末製剤に関する。また、本発明は、前記粉末製剤を含むカートリッジに関する。更に、本発明は、前記カートリッジを含むデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
従来、経鼻投与は、主に鼻炎治療等の局所治療を目的とするものであった。しかしながら、最近では、全身疾患、中枢神経系疾患や感染症等を予防又は治療するために経鼻投与を利用する試みがなされており、様々な経鼻投与用製剤及び経鼻投与器が報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、多回投与用の経鼻施薬装置に精度良く充填することができ、かつ充填後に精度良く均一に噴霧されることが可能な粉末状の経鼻投与用組成物として、「薬物と基剤とをせん断力のある混合機により混合することにより作られた粉末状経鼻投与用組成物であって、だまになり難いことを特徴とする粉末状経鼻投与用組成物」が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、定量噴霧性、小型化(携帯性)、操作の簡便性・迅速性、製造工程の簡易性、粉末製剤の分散性、部品の最小化、低コスト化等を兼ね備えるものとして、所定の構造を有する粉末薬剤多回投与器が開示されている。
【0006】
更に、特許文献3では、粘性を有する製剤を鼻腔粘膜に投与するための点鼻用噴霧ノズルが開示されている。
【0007】
本明細書において引用される文献の全ての内容は、参照により本明細書に援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-255795号公報
【文献】国際公開第01/95962号パンフレット
【文献】国際公開第2015-199130号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
経鼻投与によって各種疾患を効果的に予防及び/又は治療するためには、対象とする疾患の種類に応じて、有効成分を鼻腔内の特定の領域に選択的に投与することが必要である。
【0010】
具体的には、中枢神経系疾患を予防及び/又は治療するため、又は中枢神経系への作用に基づく検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置を施すためには、有効成分を鼻腔内の嗅部領域に選択的に投与することが必要である。嗅部領域に投与された有効成分は、血液脳関門を通過することなく、脳に直接移行することができる。
【0011】
全身疾患を予防及び/又は治療するため、又は検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置を施すためには、有効成分を鼻腔内の呼吸部領域に選択的に投与することが必要である。例えば、呼吸部領域は、網状に発達した血管系を有するために、有効成分の吸収に優れ、また、呼吸部領域を介することによって肝初回通過効果を回避できるため、有効成分を効率的に全身に循環させることが可能である。また、呼吸部領域は、抗原の取り込みに重要な鼻咽頭関連リンパ組織を有するため、有効成分としてワクチンを呼吸部領域に選択的に投与することによって、感染症を効果的に予防及び/又は治療することも可能である。
【0012】
本発明は、嗅部領域又は呼吸部領域への選択的投与に適した粉末製剤、前記粉末製剤を含むカートリッジ、及び前記カートリッジを含むデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、鼻腔内の目的の領域に応じて、粉末製剤の所定の物性を変化させることにより、当該領域に粉末製剤を選択的に投与できることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
有効成分を含む、鼻腔内の嗅部領域に前記有効成分を選択的に投与するための粉末製剤であって、
前記粉末製剤のかさ密度が0.1~0.5g/cm3であり、
前記粉末製剤のHausner比が1.6~2.4である、
前記粉末製剤。
[1-A1]
前記かさ密度が0.1~0.4g/cm3である、[1]に記載の粉末製剤。
[1-A2]
前記かさ密度が0.2~0.4g/cm3である、[1]に記載の粉末製剤。
[1-A3]
前記かさ密度が0.2~0.35g/cm3である、[1]に記載の粉末製剤。
[1-A4]
前記かさ密度が0.2~0.3g/cm3である、[1]に記載の粉末製剤。
[1-B1]
前記Hausner比が1.6~2.3である、[1]~[1-A4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[1-B2]
前記Hausner比が1.6~2.2である、[1]~[1-A4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[1-B3]
前記Hausner比が1.7~2.2である、[1]~[1-A4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[1-B4]
前記Hausner比が1.8~2.2である、[1]~[1-A4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[1-C1]
前記粉末製剤のタップ密度が0.1~0.8g/cm3である、[1]~[1-B4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[1-C2]
前記粉末製剤のタップ密度が0.1~0.6g/cm3である、[1]~[1-B4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[1-C3]
前記粉末製剤のタップ密度が0.2~0.6g/cm3である、[1]~[1-B4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[1-C4]
前記粉末製剤のタップ密度が0.3~0.55g/cm3である、[1]~[1-B4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[2]
前記粉末製剤の比表面積が0.3~2.5m2/gである、[1]~[1-C4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[2-1]
前記比表面積が0.4~2.4m2/gである、[2]に記載の粉末製剤。
[2-2]
前記比表面積が0.6~2.3m2/gである、[2]に記載の粉末製剤。
[2-3]
前記比表面積が0.8~2.3m2/gである、[2]に記載の粉末製剤。
[3]
前記粉末製剤の平均粒子径が10~150μmである、[1]~[2-3]のいずれかに記載の粉末製剤。
[3-1]
前記平均粒子径が10~120μmである、[3]に記載の粉末製剤。
[3-2]
前記平均粒子径が10~80μmである、[3]に記載の粉末製剤。
[3-3]
前記平均粒子径が10~60μmである、[3]に記載の粉末製剤。
[4]
前記粉末製剤を鼻腔内に噴射するための最大の空気圧が15~100kPaである、[1]~[3-3]のいずれかに記載の粉末製剤。
[4-1]
前記最大の空気圧が15~80kPaである、[4]に記載の粉末製剤。
[4-2]
前記最大の空気圧が15~60kPaである、[4]に記載の粉末製剤。
[4-3]
前記最大の空気圧が15~40kPaである、[4]に記載の粉末製剤。
[5]
最大の空気圧に到達するまでの時間が0~40msecである、[4]~[4-3]のいずれかに記載の粉末製剤。
[5-1]
前記最大の空気圧に到達するまでの時間が0~30msecである、[5]に記載の粉末製剤。
[5-2]
前記最大の空気圧に到達するまでの時間が0~20msecである、[5]に記載の粉末製剤。
[5-3]
前記最大の空気圧に到達するまでの時間が0~10msecである、[5]に記載の粉末製剤。
[6]
前記粉末製剤が10kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が15~150msecである、[1]~[5-3]のいずれかに記載の粉末製剤。
[6-1]
前記10kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が15~100msecである、[6]に記載の粉末製剤。
[6-2]
前記10kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が25~100msecである、[6]に記載の粉末製剤。
[6-3]
前記10kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が25~80msecである、[6]に記載の粉末製剤。
[7]
中枢神経系疾患を予防及び/又は治療するための、又は中枢神経系への作用に基づく検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置を施すための、[1]~[6-3]のいずれかに記載に粉末製剤。
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載に粉末製剤を含む、カートリッジ。
[9]
[8]に記載のカートリッジと、
前記カートリッジに含まれる粉末製剤を噴射するための噴射器と、
を含む、デバイス。
[9-1]
前記噴射器が、[4]~[4-3]のいずれかで定義した最大の空気圧を達成するように構成されている、[9]に記載のデバイス。
[9-2]
前記噴射器が、[5]~[5-3]のいずれかで定義した最大の空気圧に到達するまでの時間を達成するように構成されている、[9]又は[9-1]に記載のデバイス。
[9-3]
前記噴射器が、[6]~[6-3]のいずれかで定義した10kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間を達成するように構成されている、[9]~[9-2]のいずれかに記載のデバイス。
[10]
有効成分を含む、鼻腔内の呼吸部領域に前記有効成分を選択的に投与するための粉末製剤であって、
前記粉末製剤のかさ密度が0.2~1.1g/cm3であり、
前記粉末製剤のHausner比が1.0~2.2である、
前記粉末製剤。
[10-A1]
前記かさ密度が0.2~0.8g/cm3である、[10]に記載の粉末製剤。
[10-A2]
前記かさ密度が0.2~0.7g/cm3である、[10]に記載の粉末製剤。
[10-A3]
前記かさ密度が0.2~0.6g/cm3である、[10]に記載の粉末製剤。
[10-A4]
前記かさ密度が0.2~0.5g/cm3である、[10]に記載の粉末製剤。
[10-A5]
前記かさ密度が0.25~0.4g/cm3である、[10]に記載の粉末製剤。
[10-B1]
前記Hausner比が1.1~2.2である、[10]~[10-A5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[10-B2]
前記Hausner比が1.2~2.2である、[10]~[10-A5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[10-B3]
前記Hausner比が1.3~2.2である、[10]~[10-A5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[10-B4]
前記Hausner比が1.4~2.1である、[10]~[10-A5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[10-B5]
前記Hausner比が1.5~2.0である、[10]~[10-A5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[10-C1]
前記粉末製剤のタップ密度が0.2~1.0g/cm3である、[10]~[10-B5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[10-C2]
前記粉末製剤のタップ密度が0.2~0.8g/cm3である、[10]~[10-B5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[10-C3]
前記粉末製剤のタップ密度が0.3~0.9g/cm3である、[10]~[10-B5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[10-C4]
前記粉末製剤のタップ密度が0.4~0.7g/cm3である、[10]~[10-B5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[10-C5]
前記粉末製剤のタップ密度が0.4~0.6g/cm3である、[10]~[10-B5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[11]
前記粉末製剤の比表面積が0.2~2.5m2/gである、[10]~[10-C5]のいずれかに記載の粉末製剤。
[11-1]
前記比表面積が0.2~2.4m2/gである、[11]に記載の粉末製剤。
[11-2]
前記比表面積が0.2~2.2m2/gである、[11]に記載の粉末製剤。
[11-3]
前記比表面積が0.3~2.1m2/gである、[11]に記載の粉末製剤。
[12]
前記粉末製剤の平均粒子径が10~500μmである、[10]~[11-3]のいずれかに記載の粉末製剤。
[12-1]
前記平均粒子径が10~300μmである、[12]に記載の粉末製剤。
[12-2]
前記平均粒子径が15~250μmである、[12]に記載の粉末製剤。
[12-3]
前記平均粒子径が15~200μmである、[12]に記載の粉末製剤。
[12-4]
前記平均粒子径が15~150μmである、[12]に記載の粉末製剤。
[13]
前記粉末製剤を鼻腔内に噴射するための最大の空気圧が5~50kPaである、[10]~[12-4]のいずれかに記載の粉末製剤。
[13-1]
前記最大の空気圧が5~40kPaである、[13]に記載の粉末製剤。
[13-2]
前記最大の空気圧が5~30kPaである、[13]に記載の粉末製剤。
[13-3]
前記最大の空気圧が5~20kPaである、[13]に記載の粉末製剤。
[14]
最大の空気圧に到達するまでの時間が0~150msecである、[13]~[13-3]のいずれかに記載の粉末製剤。
[14-1]
前記最大の空気圧に到達するまでの時間が0~130msecである、[14]に記載の粉末製剤。
[14-2]
前記最大の空気圧に到達するまでの時間が5~120msecである、[14]に記載の粉末製剤。
[14-3]
前記最大の空気圧に到達するまでの時間が10~120msecである、[14]に記載の粉末製剤。
[15]
前記粉末製剤が5kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が30~200msecである、[10]~[14-3]のいずれかに記載の粉末製剤。
[15-1]
前記5kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が30~150msecである、[15]に記載の粉末製剤。
[15-2]
前記5kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が40~150msecである、[15]に記載の粉末製剤。
[15-3]
前記5kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間が60~150msecである、[15]に記載の粉末製剤。
[16]
全身疾患を予防及び/又は治療するための、又は検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置を施すための、[10]~[15-3]のいずれかに記載に粉末製剤。
[17]
感染症を予防及び/又は治療するための、[10]~[15-3]のいずれかに記載に粉末製剤。
[18]
[10]~[17]のいずれかに記載に粉末製剤を含む、カートリッジ。
[19]
[18]に記載のカートリッジと、
前記カートリッジに含まれる粉末製剤を噴射するための噴射器と、
を含む、デバイス。
[19-1]
前記噴射器が、[13]~[13-3]のいずれかで定義した最大の空気圧を達成するように構成されている、[19]に記載のデバイス。
[19-2]
前記噴射器が、[14]~[14-3]のいずれかで定義した最大の空気圧に到達するまでの時間を達成するように構成されている、[19]又は[19-1]に記載のデバイス。
[19-3]
前記噴射器が、[15]~[15-3]のいずれかで定義した5kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間を達成するように構成されている、[19]~[19-2]のいずれかに記載のデバイス。
【0014】
本発明は更に以下の実施形態を含む。
[A1]
有効成分を含み、かさ密度が0.1~0.5g/cm3であり、Hausner比が1.6~2.4である粉末製剤を、鼻腔内に噴射することを含む、前記有効成分を前記鼻腔内の嗅部領域に選択的に投与する方法。
[A2]
有効成分を含み、かさ密度が0.2~1.1g/cm3であり、Hausner比が1.0~2.2である粉末製剤を、鼻腔内に噴射することを含む、前記有効成分を前記鼻腔内の呼吸部領域に選択的に投与する方法。
[B1]
鼻腔内の嗅部領域に有効成分を選択的に投与するための、
有効成分を含み、かさ密度が0.1~0.5g/cm3であり、Hausner比が1.6~2.4である粉末製剤の使用。
[B2]
鼻腔内の呼吸部領域に有効成分を選択的に投与するための、
有効成分を含み、かさ密度が0.2~1.1g/cm3であり、Hausner比が1.0~2.2である粉末製剤の使用。
【0015】
前記実施形態[A1]及び[B1]は、前記実施形態[1]~[9-3]に記載の特徴のを更に有していてもよい。
前記実施形態[A2]及び[B2]は、前記実施形態[10]~[19-3]に記載の特徴の1つ以上を更に有していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、嗅部領域又は呼吸部領域への選択的投与に適した粉末製剤、前記粉末製剤を含むカートリッジ、及び前記カートリッジを含むデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、3Dプリンタを使用して作成したヒト鼻腔モデルを示す。
【
図2】
図2は、ヒト鼻腔モデルにおける鼻腔内(A:鼻甲介側、B:鼻中隔側)の各領域(a:嗅部領域、b:呼吸部領域、c:鼻前庭部領域、d:咽頭部領域)を示す。
【
図4】マンガン造影MRIによるサル鼻腔内分布及び脳移行を示す。
【
図5】OVA抗原製剤の呼吸部領域選択的な経鼻投与後の免疫原性を示す。
【
図6】テストステロン製剤の呼吸部領域選択的な経鼻投与後の血中濃度を示す。
【
図7】テストステロン製剤の経鼻投与後の血中濃度を示す。
【
図8】オキシトシン製剤の嗅部領域選択的な経鼻投与後及び静脈内投与後の血中濃度を示す。
【
図9】オキシトシン製剤の嗅部領域選択的な経鼻投与後及び静脈内投与後の脳脊髄液中濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、鼻腔内の嗅部領域に有効成分を選択的に投与するための粉末製剤(以下「嗅部領域用粉末製剤」と称する。)、及び鼻腔内の呼吸部領域に有効成分を選択的に投与するための粉末製剤(以下「呼吸部領域用粉末製剤」と称する。)について、それぞれ説明する。
【0019】
<嗅部領域用粉末製剤>
本発明の一実施形態は、有効成分を含む、鼻腔内の嗅部領域に前記有効成分を選択的に投与するための粉末製剤であって、前記粉末製剤のかさ密度が0.1~0.5g/cm3であり、前記粉末製剤のHausner比が1.6~2.4である、前記粉末製剤に関する。
【0020】
有効成分を鼻腔内の嗅部領域に選択的に投与することによって、有効成分が、血液脳関門を通過することなく、脳に直接移行することができる。即ち、嗅部領域への選択的投与によって、有効成分を脳に効率的に送達させることができる。その結果、中枢神経系疾患を効果的に予防及び/又は治療することが可能となる。
【0021】
嗅部領域は、本技術分野において一般的に使用されている用語である(例えば、Der Pharmacia Sinica, 2011, 2 (3): 94-106、及びPharm Res (2016) 33: 1527-1541)。本明細書において、具体的には、嗅部領域は、鼻腔前部に位置する鼻弁から鼻腔後部に位置する耳管咽頭口の手前までの範囲内で、且つ鼻腔の天蓋に位置する上鼻甲介をカバーする部分と、これに向き合った鼻中隔側の部分から成る領域を意味する。
【0022】
嗅部領域への選択的投与とは、鼻腔内に噴射された有効成分の好ましくは20重量%以上、より好ましくは35重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは60重量%以上が、嗅部領域に分布することを意味する。上限は特に存在しないが、例えば、90重量%、80重量%、又は70重量%としてもよい。有効成分の嗅部領域における分布量は、以下の実施例に記載の、ヒト鼻腔モデルを使用した方法に従って測定することができる。鼻腔内の全領域に対する嗅部領域の割合は非常に小さいため、前記の量の有効成分が嗅部領域に分布することは、有効成分の嗅部領域における濃度が、その他の領域における濃度と比較して、有意に高いことを意味する。
【0023】
嗅部領域用粉末製剤のかさ密度は0.1~0.5g/cm3であり、好ましくは0.1~0.4g/cm3であり、より好ましくは0.2~0.4g/cm3であり、更に好ましくは0.2~0.35g/cm3であり、特に好ましくは0.2~0.3g/cm3である。かさ密度は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。かさ密度は、嗅部領域用粉末製剤の比重を示す。かさ密度が前記の値であると、有効成分の嗅部領域への選択性が向上する。嗅部領域用粉末製剤は、以下で説明する呼吸部領域用粉末製剤と比較して、低いかさ密度を有することが好ましい。
【0024】
嗅部領域用粉末製剤のHausner比は1.6~2.4であり、好ましくは1.6~2.3であり、より好ましくは1.6~2.2であり、更に好ましくは1.7~2.2であり、特に好ましくは1.8~2.2である。Hausner比は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。Hausner比は、嗅部領域用粉末製剤の流動性を示す。Hausner比が前記の値であると、有効成分の嗅部領域への選択性が向上する。
【0025】
従来の経鼻投与用粉末製剤は、一般的に高い流動性を有している。一方、本発明の一実施形態に係る嗅部領域用粉末製剤は、従来の製剤と比較して、低い流動性を有する。流動性が低いという特徴を有することにより、有効成分の嗅部領域への選択性が向上する。嗅部領域用粉末製剤は、以下で説明する呼吸部領域用粉末製剤と比較して、低い流動性を有することが好ましい。なお、流動性が悪いとは、凝集性が高い又は分散性が低いと表現することもできる。
【0026】
第十七改正日本薬局法は、Hausner比と流動性との関係について、以下のとおり記載している。
Hausner比:流動性の程度
1.00~1.11:極めて良好
1.12~1.18:良好
1.19~1.25:やや良好
1.26~1.34:普通
1.35~1.45:やや不良
1.46~1.59:不良
>1.60:極めて不良
【0027】
嗅部領域用粉末製剤のタップ密度は、好ましくは0.1~0.8g/cm3であり、より好ましくは0.1~0.6g/cm3であり、更に好ましくは0.2~0.6g/cm3であり、特に好ましくは0.3~0.55g/cm3である。タップ密度は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。タップ密度が前記の値であると、有効成分の嗅部領域への選択性が向上する。
【0028】
嗅部領域用粉末製剤の比表面積は、好ましくは0.3~2.5m2/gであり、より好ましくは0.4~2.4m2/gであり、更に好ましくは0.6~2.3m2/gであり、特に好ましくは0.8~2.3m2/gである。比表面積は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。比表面積が前記の値であると、有効成分の嗅部領域への選択性が向上する。
【0029】
嗅部領域用粉末製剤の平均粒子径は、好ましくは10~150μmであり、より好ましくは10~120μmであり、更に好ましくは10~80μmであり、特に好ましくは10~60μmである。平均粒子径は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。平均粒子径が前記の値であると、有効成分の嗅部領域への選択性が向上する。
【0030】
嗅部領域用粉末製剤は、所定の空気圧で鼻腔内の噴射されることが好ましい。嗅部領域用粉末製剤を鼻腔内に噴射するための最大の空気圧(以下「最大空気圧」と称する。)は、好ましくは15~100kPaであり、より好ましくは15~80kPaであり、更に好ましくは15~60kPaであり、特に好ましくは15~40kPaである。最大空気圧は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。最大空気圧が前記の値であると、有効成分の嗅部領域への選択性が向上する。
【0031】
最大空気圧に到達するまでの時間(以下「最大空気圧到達時間」と称する。)は、好ましくは0~40msecであり、より好ましくは0~30msecであり、更に好ましくは0~20msecであり、特に好ましくは0~10msecである。最大空気圧到達時間は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。最大空気圧到達時間が前記の値であると、有効成分の嗅部領域への選択性が向上する。
【0032】
10kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間(以下「一定空気圧持続噴出時間(≧10kPa)」と称する。)は、好ましくは15~150msecであり、より好ましくは15~100msecであり、更に好ましくは25~100msecであり、特に好ましくは25~80msecである。一定空気圧持続噴出時間(≧10kPa)は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。一定空気圧持続噴出時間(≧10kPa)が前記の値であると、有効成分の嗅部領域への選択性が向上する。
【0033】
嗅部領域用粉末製剤は、以下で説明する呼吸部領域用粉末製剤と比較して、高い空気圧及び短い時間で噴射されることが好ましい。
【0034】
嗅部領域用粉末製剤の投与対象は、特に限定されないが、好ましくはヒトである。嗅部領域用粉末製剤は、特にヒトの鼻腔構造において、有効成分を嗅部領域に選択的に投与するのに適している
【0035】
嗅部領域用粉末製剤は、有効成分を脳に直接移行させることができるため、中枢神経系疾患等の予防及び/又は治療、又は中枢神経系への作用に基づく検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置を施すために有効である。中枢神経系疾患としては、例えば、脳出血、脳梗塞、中枢神経系の感染症、脳腫瘍、パーキンソン病、てんかん、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、前頭側頭型認知症、多発性硬化症、統合失調症、うつ病、双極性障害、気分変調障害、適応障害、社会不安障害、パニック障害、強迫性障害、自閉症スペクトラム障害、注意欠如・多動性障害、睡眠障害、不眠症、外傷性脳損傷、疼痛、偏頭痛を挙げることができる。中枢神経系への作用に基づく検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置としては、例えば、造影、麻酔、鎮静、鎮痛、抗不安を挙げることができる。
【0036】
嗅部領域用粉末製剤の有効成分のモダリティとしては、特に限定されないが、低分子化合物、ペプチド薬を含む中分子薬、抗体医薬を含む蛋白質医薬、核酸医薬、細胞医薬、再生医療、又はペプチド抗原を含むワクチン抗原を挙げることができる。
【0037】
嗅部領域用粉末製剤の有効成分としては、特に限定されないが、中枢神経系疾患の予防及び/又は治療、又は中枢神経系への作用に基づく検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置等に有効な成分を挙げることができる。有効成分としては、例えば、組織プラスミノーゲンアクチベーター、エダラボン、オザグレルナトリウム、選択的トロンビン阻害剤、アシクロビル、ビダラビン、バンコマイシン、セフタジジム、アンピシリン、パニペネム・ベタミプロン、デキサメサゾン、シスプラチン、カルボプラチン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、テモゾロミド、エトポシド、L-ドーパ、アドレナリン、アンフェタミン、アポモルヒネ、アマンタジン、カベルゴリン、ゾニサミド、ドロキシドパ、ピペリデン、フェノバルビタール、フェニトイン、プリミドン、エトスクシミド、ゾニサミド、クロナゼパム、ミダゾラム、レミマゾラム、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、ガバペンチン、トピラマート、カンナビド、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン、フマル酸ジメチル、ナタリズマブ、ハロペリドール、スピペロン、フルフェナジン、クロルプロマジン、リスペリドン、ブロナンセリン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、トリアゾラム、ゾピクロン、ゾルピデム、エチゾラム、ロルメタゼパム、ブロムワレリル尿素、抱水クロラール、ペントバルビタール、リルマザホン、オキシトシン、バソプレシン、デスモプレシン、インスリン、GLP-1、グルカゴン、成長ホルモン、IGF-1、リュープロレリン、レプチン、グアンファシン、メティルフェニデート、アトモキセチン、プロゲステロン、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、フェンタニル、ハイドロモルフォン、ブトルファノール、トラマドール、ブプレノルフィン、イブプロフェン、ロキソプロフェン、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、ジヒドロエルゴタミン、リザトリプタン、エレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブ、ホミビルセン、ミポマーセン、ヌシネルセン、シクロスポリン、タクロリムス、フルオロデオキシグルコース、フルオロチミジン、イオパミドール、タリウム、マンガン、テクネシウムを挙げることができる。前記有効成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
嗅部領域用粉末製剤は、有効成分に加えて、基剤を含んでいてもよい。基剤としては、例えば、生体粘膜に適用可能な、糖類及びアミノ酸を挙げることができる。前記基剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
生体粘膜に適用可能な糖類としては、例えば、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、セルロース、ヘミセルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルファー化デンプン、アミロース、ペクチン、グリコマンナン、プルラン、キトサン、キチン、マンニトール、ラクチトール、ソルビトール、キシリトール、コンドロイチン酸、へぺラン酸、及びヒアルロン酸を挙げることができる。特に限定するものではないが、嗅部領域用粉末製剤を鼻腔内に長時間滞留させる観点から、セルロースを使用することが好ましい。
【0040】
生体粘膜に適用可能なアミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンを挙げることができる。
【0041】
嗅部領域用粉末製剤は、有効成分及び基剤に加えて、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、生体粘膜に適用可能な、滑沢剤、流動化剤、結合剤、可溶化剤、緩衝剤、安定化剤、界面活性剤、防腐剤、還元剤、抗酸化剤、甘味剤、及び矯味剤を挙げることができる。前記添加剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
嗅部領域用粉末製剤は、カートリッジに充填されていてもよい。カートリッジとしては、本技術分野において一般的に知られているものを使用することができる。カートリッジは、着脱可能に噴射器に取り付けられて、デバイスを形成していてもよい。噴射器としては、例えば、単回使用型噴射器、及び多数回使用型噴射器を挙げることができる。噴射器は、前記最大空気圧、前記最大空気圧到達時間、及び前記一定空気圧持続噴出時間(≧10kPa)を達成できるように構成されていることが好ましい。
【0043】
噴射器としては、例えば、ノズル部、製剤充填又は装填部、バルブ部、及び空気発生部を含むものを挙げることができる。
【0044】
ノズル部としては、例えば、ヒトの鼻孔に挿入可能なノズル外径、ノズル先端が鼻腔の入口付近まで到達するノズル長、及び約1~5mmのノズル出口口径を有するものを挙げることができる。
【0045】
製剤充填又は装填部としては、例えば、少なくとも1回分の粉末製剤を充填可能な内容積(例えば、0.05~2mL)を有するもの、及び少なくとも1回分の粉末製剤が充填された容器等を装填可能なものを挙げることができる。製剤充填又は装填部は、ノズル部と一体化していてもよい。
【0046】
バルブ部としては、例えば、製剤充填又は装填部内の製剤を効率的に噴射するための整流機能(例えば、旋回流形成機能)を有するもの、及び一定の圧力でバルブを開放する機能を有するものを挙げることができる。
【0047】
空気発生部としては、例えば、シリンジ型空気発生部、及びポンプ型空気発生部を挙げることができる。シリンジ型空気発生部としては、例えば、プランジャーを押し込むことよって空気を発生させるものを挙げることができる。ポンプ型空気発生部としては、例えば、ポンプを押圧することによって空気を発生させるものを挙げることができる。また、空気発生部として、プロペラントガスをキャニスターに充填したものを挙げることもできる。空気発生部において発生する圧力としては、例えば、5~100kPaを挙げることができる。空気発生部において発生する空気の量としては、例えば、1~20mLを挙げることができる。
【0048】
嗅部領域用粉末製剤は、片鼻に対して1回あたり、好ましくは5~100mg、より好ましくは5~50mg、更に好ましくは10~25mg噴射される。
【0049】
嗅部領域用粉末製剤に含まれる有効成分は、片鼻に対して1回あたり、好ましくは0.001~25mg、より好ましくは0.1~20mg、更に好ましくは0.2~10mg噴射される。
【0050】
嗅部領域用粉末製剤の製造方法としては、例えば、乳鉢等を使用する圧着混合法;V型混合機等を使用する容器混合法;棚式凍結乾燥機、チューブ式凍結乾燥機、微噴凍結乾燥機、スプレー式凍結乾燥機又は攪拌型凍結乾燥機を使用する凍結乾燥法;押し出し造粒機、流動層造粒機又は攪拌造粒機を使用する造粒法;混練法;及び噴霧乾燥法を挙げることができる。嗅部領域用粉末製剤の粒子径を整えるために、例えば、篩;気流分級機;又はハンマーミル、ジェットミル若しくはピンミル等の粉砕機を更に使用してもよい。前記製造方法は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
<呼吸部領域用粉末製剤>
本発明の一実施形態は、有効成分を含む、鼻腔内の呼吸部領域に前記有効成分を選択的に投与するための粉末製剤であって、前記粉末製剤のかさ密度が0.2~1.1/cm3であり、前記粉末製剤のHausner比が1.0~2.2である、前記粉末製剤に関する。
【0052】
呼吸部領域は、網状に発達した血管系を有するために、有効成分の吸収に優れ、また、呼吸部領域を介することによって肝初回通過効果を回避することができる。そのため、有効成分を呼吸部領域に選択的に投与することによって、有効成分を効率的に全身に循環させることができる。その結果、全身疾患を効果的に予防及び/又は治療することが可能となる。
【0053】
また、呼吸部領域は、抗原の取り込みに重要な鼻咽頭関連リンパ組織を有するため、有効成分としてのワクチンを呼吸部領域に選択的に投与することによって、感染症を効果的に予防及び/又は治療することも可能である。
【0054】
呼吸部領域は、本技術分野において一般的に使用されている用語である(例えば、Der Pharmacia Sinica, 2011, 2 (3): 94-106)。本明細書において、具体的には、呼吸部領域は、鼻腔前部に位置する鼻弁から鼻腔後部に位置する耳管咽頭口の手前までの範囲内で、且つ中鼻甲介と下鼻甲介をカバーする嗅部領域の下部から鼻腔の最下部までの部分と、これに向き合った鼻中隔側の部分から成る領域を意味する。
【0055】
呼吸部領域への選択的投与とは、鼻腔内に噴射された有効成分の好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上が、呼吸部領域に分布することを意味する。上限は特に存在しないが、例えば、100重量%、95重量%、又は90重量%としてもよい。
【0056】
呼吸部領域への選択的投与の場合、鼻腔内に噴射された有効成分の好ましくは0~5重量%、より好ましくは0~3重量%、更に好ましくは0~2重量%、特に好ましくは0~1重量%が、嗅部領域に分布する。有効成分の呼吸部領域及び嗅部領域における分布量は、以下の実施例に記載の、ヒト鼻腔モデルを使用した方法に従って測定することができる。
【0057】
呼吸部領域用粉末製剤のかさ密度は0.2~1.1g/cm3であり、好ましくは0.2~0.8g/cm3であり、より好ましくは0.2~0.7g/cm3であり、更に好ましくは0.2~0.6g/cm3で・BR> り、より更に好ましくは0.2~0.5g/cm3であり、特に好ましくは0.25~0.4g/cm3である。かさ密度は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。かさ密度は、呼吸部領域用粉末製剤の比重を示す。かさ密度が前記の値であると、有効成分の呼吸部領域への選択性が向上する。呼吸部領域用粉末製剤は、上記の嗅部領域用粉末製剤と比較して、高いかさ密度を有することが好ましい。
【0058】
呼吸部領域用粉末製剤のHausner比は1.0~2.2であり、好ましくは1.1~2.2であり、より好ましくは1.2~2.2であり、更に好ましくは1.3~2.2であり、より更に好ましくは1.4~2.1であり、特に好ましくは1.5~2.0である。Hausner比は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。Hausner比は、呼吸部領域用粉末製剤の凝集性を示す。Hausner比が前記の値であると、有効成分の呼吸部領域への選択性が向上する。
【0059】
従来の経鼻投与用粉末製剤は、一般的に高い流動性を有している。一方、本発明の一実施形態に係る呼吸部領域用粉末製剤は、従来の製剤と比較して、低い流動性を有する。流動性が低いという特徴を有することにより、有効成分の呼吸部領域への選択性が向上する。呼吸部領域用粉末製剤は、上記の嗅部領域用粉末製剤と比較して、高い流動性を有することが好ましい。なお、流動性が悪いとは、凝集性が高い又は分散性が低いと表現することもできる。
【0060】
呼吸部領域用粉末製剤のタップ密度は、好ましくは0.2~1.0g/cm3であり、好ましくは0.2~0.8g/cm3であり、より好ましくは0.3~0.9g/cm3であり、更に好ましくは0.4~0.7g/cm3であり、特に好ましくは0.4~0.6g/cm3である。タップ密度は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。タップ密度が前記の値であると、有効成分の呼吸部領域への選択性が向上する。
【0061】
呼吸部領域用粉末製剤の比表面積は、好ましくは0.2~2.5m2/gであり、より好ましくは0.2~2.4m2/gであり、更に好ましくは0.2~2.2m2/gであり、特に好ましくは0.3~2.1m2/gである。比表面積は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。比表面積が前記の値であると、有効成分の呼吸部領域への選択性が向上する。
【0062】
呼吸部領域用粉末製剤の平均粒子径は、好ましくは10~500μmであり、より好ましくは10~300μmであり、更に好ましくは15~250μmであり、より更に好ましくは15~200μmであり、特に好ましくは15~150μmである。平均粒子径は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。平均粒子径が前記の値であると、有効成分の呼吸部領域への選択性が向上する。
【0063】
呼吸部領域用粉末製剤は、所定の空気圧で鼻腔内の噴射されることが好ましい。呼吸部領域用粉末製剤を鼻腔内に噴射するための最大空気圧は、好ましくは5~50kPaであり、より好ましくは5~40kPaであり、更に好ましくは5~30kPaであり、特に好ましくは5~20kPaである。最大空気圧は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。最大空気圧が前記の値であると、有効成分の呼吸部領域への選択性が向上する。
【0064】
最大空気圧到達時間は、好ましくは0~150msecであり、より好ましくは0~130msecであり、更に好ましくは5~120msecであり、特に好ましくは10~120msecである。最大空気圧到達時間は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。最大空気圧到達時間が前記の値であると、有効成分の呼吸部領域への選択性が向上する。
【0065】
5kPa以上の空気圧で持続して噴射される時間(以下「一定空気圧持続噴出時間(≧5kPa)」と称する。)は、好ましくは30~200msecであり、より好ましくは30~150msecであり、更に好ましくは40~150msecであり、特に好ましくは60~150msecである。一定空気圧持続噴出時間(≧5kPa)は、以下の実施例に記載の方法に従って測定することができる。一定空気圧持続噴出時間(≧5kPa)が前記の値であると、有効成分の呼吸部領域への選択性が向上する。
【0066】
呼吸部領域用粉末製剤は、上記の嗅部領域用粉末製剤と比較して、低い空気圧及び長い時間で噴射されることが好ましい。
【0067】
呼吸部領域用粉末製剤の投与対象は、特に限定されないが、好ましくはヒトである。呼吸部領域用粉末製剤は、特にヒトの鼻腔構造において、有効成分を呼吸部領域に選択的に投与するのに適している
【0068】
呼吸部領域用粉末製剤は、有効成分を効率的に全身に循環させることができるため、全身疾患の予防及び/又は治療、又は検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置に有効である。全身疾患としては、例えば、解熱、鎮痛、炎症、リウマチ、催眠・鎮静、不安、精神病、うつ、てんかん、パーキンソン病/症候群、脳循環代謝症、筋弛緩症、自律神経症、めまい、偏頭痛、高血圧症、狭心症、不整脈、循環器、アレルギー、気管支拡張・喘息、その他呼吸器疾患(鎮咳、去痰等)、消化性潰瘍、その他消化器疾患(止痢、整腸、健胃、消化促進、瀉下等)、痛風・高尿酸血症、脂質異常症、糖尿病、ホルモン関連疾患(下垂体ホルモン、副腎皮質ホルモン、性ホルモン、その他のホルモン等に関連する疾患)、子宮関連疾患、骨粗鬆症・骨代謝疾患、ビタミン欠損、栄養不足、中毒(解毒含む)、癌、免疫過剰、耳鼻咽喉科関連疾患、口腔関連疾患、泌尿・生殖器疾患、痔、皮膚疾患、造血・血液凝固関係疾患、麻薬依存症、麻酔、生活習慣病、生活改善(漢方)、その他検査・診断(造影、放射性ラベル等)を挙げることができる。検査若しくは診断又は手術前若しくは検査前の処置としては、例えば、造影、麻酔、鎮静、鎮痛、抗不安を挙げることができる。
【0069】
呼吸部領域用粉末製剤の有効成分のモダリティとしては、特に限定されないが、低分子化合物、ペプチド薬を含む中分子薬、抗体医薬を含む蛋白質医薬、核酸医薬、細胞医薬、再生医療、又はペプチド抗原を含むワクチン抗原を挙げることができる。
【0070】
呼吸部領域用粉末製剤は、感染症の予防及び/又は治療にも有効である。感染症としては、例えば、ワクチン・トキソイド、菌又は真菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫・原虫感染症、癌を挙げることができる。なお、感染症と全身疾患とは完全に区別されるわけではなく、一部が重複することもある。
【0071】
呼吸部領域用粉末製剤の有効成分としては、特に限定されないが、全身疾患及び/又は感染症の予防及び/又は治療等に有効な成分を挙げることができる。有効成分としては、例えば、組織プラスミノーゲンアクチベーター、エダラボン、オザグレルナトリウム、選択的トロンビン阻害剤、ビダラビン、アシクロビル、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ジドブジン、ジダノシン、ザルシタビン、ネビラピン、デラビルジン、サキナビル、リトナビル、インジナビル、ネルフィナビル、バンコマイシン、セフタジジム、アンピシリン、パニペネム・ベタミプロン、デキサメサゾン、シスプラチン、カルボプラチン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、テモゾロミド、エトポシド、L-ドーパ、アドレナリン、アンフェタミン、アポモルヒネ、アマンタジン、カベルゴリン、ゾニサミド、ドロキシドパ、ピペリデン、フェノバルビタール、フェニトイン、プリミドン、エトスクシミド、ゾニサミド、クロナゼパム、ミダゾラム、レミマゾラム、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、ガバペンチン、トピラマート、カンナビド、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン、フマル酸ジメチル、ナタリズマブ、ハロペリドール、スピペロン、フルフェナジン、クロルプロマジン、リスペリドン、ブロナンセリン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、トリアゾラム、ゾピクロン、ゾルピデム、エチゾラム、ロルメタゼパム、ブロムワレリル尿素、抱水クロラール、ペントバルビタール、リルマザホン、オキシトシン、バソプレシン、デスモプレシン、グラニセトロン、オンダンセトロン、トロピセトロン、パロノセトロン、インジセトロン、トリアゾラム、メラトニン、レベチラセタム、カンナビノイド、クロナゼパム、ジアゼパム、ニトラゼパム、ゾルビデム、ミダゾラム、レミマゾラム、ドネペジル、メマンチン、チアプリド、セファクロル、エノキサシン、アシクロビル、ジドブジン、ジダノシン、ネビラビン、インジナビル、ダントロレン、ジゴキシン、トリヘキシフェニジル、ピペリデン、デキストロメトルファン、ナロキソン、ベタヒスチン、ナファゾリン、ジルチアゼム、トラニラスト、ロペラミド、ベクロメタゾン、クロルフェニラミン、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、シアノコバラミン、フィナステリド、エピネフリン、オキシブチニン、プロピベリン、ソリフェナシン、トルテロジン、イミダフェナシン、フェソテロジン、ミラベグロン、タムスロシン、シロドシン、5-FU、テラプレビル、リバビリン、シメプレビル、グアンファシン、メティルフェニデート、アトモキセチン、プロゲステロン、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、ジヒドロエルゴタミン、リザトリプタン、エレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブ、ホミビルセン、ミポマーセン、ヌシネルセン、シクロスポリン、タクロリムス、フルオロデオキシグルコース、フルオロチミジン、イオパミドール、タリウム、マンガン、テクネシウム、インスリン、成長ホルモン、成長ホルモン放出ペプチド、グレリン、グルカゴン、カルシトニン、インターフェロン、エリスロポエチン、インターロイキン、PTH(1-84)、PTH(1-34)、PTH関連ペプチド、GLP-1、バソプレシン、リュープロレリン、顆粒球コロニー形成刺激因子、プロラクチン、下垂体性性腺刺激ホルモン、胎盤性性腺刺激Snbl2600ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン、レプチン、神経成長因子(NGF)、幹細胞増殖因子(SCGF)、角質細胞増殖因子(KGF)、低分子ヘパリン、タクロリムス、アレルゲンエキス粉末、ヒト抗体(例えば、アダリムマブ、パニツムマブ、ゴリムマブ、カナキヌマブ、オファツムマブ、デノスマブ、イピリムマブ、ベリムマブ、ラキシバクマブ、ラムシルマブ、ニボルマブ、セクキヌマブ、エボロクマブ、アリロクマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ等)、キメラ抗体のアブシキシマブ、ヒト化抗体のベバシズマブ、マウス抗体のブリナツモマブを含む抗体薬及びこれらの塩を挙げることができる。前記有効成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
更に、有効成分としては、例えば、以下のウイルスや病原体に対するワクチン抗原を挙げることができる。ウイルス及び病原体としては、例えば、アデノウイルス、AIDSウイルス、バキュロウイルス、HCMV(ヒトサイトメガロウイルス)、出血熱ウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスBウイルス、免疫不全ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、新生児胃腸炎ウイルス、感染性造血壊死ウイルス、感染性膵臓壊死ウイルス、インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、白血病ウイルス、ムンプスウイルス、オルトミクソウイルス、肺炎ウイルス、ポリオウイルス、ポリドナウイルス、ロタウイルス、 SARSウイルス、ワクシニアウイルス、RSウイルス、赤痢菌種、腸チフス菌、結核菌、破傷風菌、ジフテリア菌、髄膜炎菌、百日咳菌、肺炎連鎖球菌、炭疽菌、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシル、ウェルシュ菌、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・ファシウム、インフルエンザ菌、ヘリコバクター・ピロリ菌、らい菌、淋菌、髄膜炎菌、腸チフス菌、黄色ブドウ球菌、梅毒トレポネーマ、コレラ菌、熱帯熱マラリア原虫を挙げることができる。前記有効成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0073】
呼吸部領域用粉末製剤は、有効成分に加えて、基剤を含んでいてもよい。基剤としては、例えば、生体粘膜に適用可能な、糖類及びアミノ酸を挙げることができる。前記基剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
生体粘膜に適用可能な糖類としては、例えば、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、セルロース、ヘミセルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルファー化デンプン、アミロース、ペクチン、グリコマンナン、プルラン、キトサン、キチン、マンニトール、ラクチトール、ソルビトール、キシリトール、コンドロイチン酸、へぺラン酸、及びヒアルロン酸を挙げることができる。特に限定するものではないが、呼吸部領域用粉末製剤を鼻腔内に長時間滞留させる観点から、セルロースを使用することが好ましい。
【0075】
生体粘膜に適用可能なアミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンを挙げることができる。
【0076】
呼吸部領域用粉末製剤は、有効成分及び基剤に加えて、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、生体粘膜に適用可能な、滑沢剤、流動化剤、結合剤、可溶化剤、緩衝剤、安定化剤、界面活性剤、防腐剤、還元剤、抗酸化剤、甘味剤、矯味剤及びアジュバントを挙げることができる。前記添加剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
呼吸部領域用粉末製剤は、カートリッジに充填されていてもよい。カートリッジとしては、本技術分野において一般的に知られているものを使用することができる。カートリッジは、着脱可能に噴射器に取り付けられて、デバイスを形成していてもよい。噴射器としては、例えば、上記の呼吸部領域用粉末製剤との関係において説明した噴射器と同様のものを挙げることができる。噴射器は、前記最大空気圧、前記最大空気圧到達時間、及び前記一定空気圧持続噴出時間(≧5kPa)を達成できるように構成されていることが好ましい。
【0078】
呼吸部領域用粉末製剤は、片鼻に対して1回あたり、好ましくは5~100mg、より好ましくは5~50mg、更に好ましくは10~25mg噴射される。
【0079】
呼吸部領域用粉末製剤に含まれる有効成分は、片鼻に対して1回あたり、好ましくは0.001~25mg、より好ましくは0.1~20mg、更に好ましくは0.2~10mg噴射される。
【0080】
呼吸部領域用粉末製剤の製造方法としては、例えば、乳鉢等を使用する圧着混合法;V型混合機等を使用する容器混合法;棚式凍結乾燥機、チューブ式凍結乾燥機、微噴凍結乾燥機、スプレー式凍結乾燥機又は攪拌型凍結乾燥機を使用する凍結乾燥法;押し出し造粒機、流動層造粒機又は攪拌造粒機を使用する造粒法;混練法;及び噴霧乾燥法を挙げることができる。呼吸部領域用粉末製剤の粒子径を整えるために、例えば、篩;気流分級機;又はハンマーミル、ジェットミル若しくはピンミル等の粉砕機を更に使用してもよい。前記製造方法は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0081】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0082】
<1.粉末製剤の調製>
表1に示す組成を有する試験製剤を調製した。試験製剤の材料及び製法は、以下に記載するとおりである。
【0083】
(材料:有効成分)
タートラジン(和光純薬工業株式会社)、塩化マンガン(II)四水和物(Sigma-Aldrich Co. LLC)、オボアルブミン(Sigma-Aldrich Co. LLC)、チミジン(和光純薬工業株式会社)、テストステロン(和光純薬工業株式会社)、オキシトシン(Sigma-Aldrich Co. LLC)、インドメタシン(和光純薬工業株式会社)。
【0084】
(材料:賦形剤)
Ceolus(登録商標)PH-301(旭化成ケミカルズ株式会社)、Ceolus(登録商標)PH-F20JP(旭化成ケミカルズ株式会社)、第三リン酸カルシウム(ICL Performance Products LP)、塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社)、マンニトール(和光純薬工業株式会社)、トレハロース二水和物(和光純薬工業株式会社)、プルラン(東京化成工業株式会社)、レスピトースSV003(DEF Pharma)、軽質無水ケイ酸(富士シリシア化学株式会社)、HPMC TC-5E(信越化学工業株式会社)、アルファー化デンプン(旭化成ケミカルズ株式会社)。
【0085】
(製法:乳鉢混合)
表1に記載の成分を同記載の配合割合でガラス乳鉢に入れ10分程度混合した。
【0086】
(製法:凍結乾燥(バイアル))
表1に記載の成分を同記載の配合割合でリン酸バッファーに混和後、1mLのガラスバイアルに入れたものを棚式凍結乾燥機内(FreeZone Triad Freeze Dry System、Labconco Corp.)に置き、次の条件下で凍結乾燥品を得た。凍結乾燥条件としては、-30℃で1.5時間の事前凍結し、-45℃で0.6時間の凍結を行った後、105mTorrの減圧下において、-45℃で0.4時間、-35℃で14.5時間の一次乾燥をし、更に30℃で4時間の二次乾燥を行った。調製した凍結乾燥品をVortexを用いて粉砕したものを試験製剤とした。
【0087】
(製法:凍結乾燥(トレイ))
事前に超純水を200mLアルミトレイに入れ、-20℃でアルミトレイ内底部を凍結後、表1に記載の成分を同記載の配合割合でリン酸バッファーに混和したものをアルミトレイに入れ、-20℃で2時間の事前凍結を行い、棚式凍結乾燥機内(FreeZone Triad Freeze Dry System、Labconco Corp.)に置き、次の条件下で凍結乾燥品を得た。凍結乾燥条件としては、105mTorrの減圧下において、-25℃で30時間の一次乾燥をし、更に30℃で37時間の二次乾燥を行った。調製した凍結乾燥品をファインインパクトミル100UPZ-C(ホソカワミクロン株式会社)で粉砕したものを試験製剤とした。
【0088】
(製法:凍結乾燥(チューブ))
表1に記載の成分を同記載の配合割合で2000mLのガラス容器に入れ、リン酸バッファーで液量を調整後、混和したものをチューブ式凍結乾燥機(ICS-1-301型、共和真空技術株式会社)に投入し、次の条件下で凍結乾燥品を得た。凍結乾燥条件としては、-45℃で2時間の凍結を行った後、6.7Paの減圧下において-25℃で30時間の一次乾燥をし、更に30℃で13時間の二次乾燥を行った。調製した凍結乾燥品をファインインパクトミル100UPZ-C(ホソカワミクロン株式会社)で粉砕したものを試験製剤とした。
【0089】
(製法:微噴凍結乾燥)
表1に記載の成分を同記載の配合割合で1000mLのガラス容器に入れ、リン酸バッファーで液量を調整後、混和したものを微噴凍結乾燥機(μPD400、株式会社ULVAC)に投入し、次の条件下で凍結乾燥品を得た。凍結乾燥条件としては、棚温度-40℃で噴霧凍結し、10Paの減圧下において、30℃で16時間乾燥後、Full Vacuumで乾燥した。調製した凍結乾燥品をそのまま試験製剤とした。
【0090】
(製法:容器混合)
表1に記載の成分を同記載の配合割合でガラス容器に入れ、10分程度ボルテックス混合した。
【0091】
(製法:流動層造粒)
表1に記載のHPMC又はStarch以外の成分を同記載の配合割合で流動層造粒機(FL-LABO, フロイント産業株式会社)に投入し、70℃の空気で造粒機内の紛体を流動しながら、HPMCを精製水に溶かした5.7%溶液又はStarchを精製水に溶かした1.4%溶液を造粒機内に噴霧した。調製した造粒品をそのまま試験製剤とした。
【0092】
【0093】
<2.粉末製剤の物性>
表1に示す試験製剤の比表面積、平均粒子径、かさ密度、タップ密度、及びHausner比を測定した。各物性の測定方法は、以下に記載するとおりである。結果を表2に示す。
【0094】
(比表面積)
測定試料を吸引減圧下で100℃で1時間又は吸引減圧下で室温16時間乾燥した後、窒素又はクリプトンガスを用いたガス吸着法に基づく比表面積測定器(Autosorb-iQ-MP, カンタクローム、もしくはASAP2460,マイメリティクス)を用いて測定した。
【0095】
(平均粒子径)
レーザー回析法に基づく粒度分布測定装置(Mastersizer 2000, Malvern社)を用いて、2barの分散圧下で平均一次粒子径を測定した。
【0096】
(かさ密度)
日本薬局方一般試験法の紛体物性測定法に基づき、既知質量の各粉末製剤を、メスシリンダー内に入れた時の体積を測定し、質量を体積で除して算出した。
【0097】
(タップ密度)
日本薬局方一般試験法の紛体物性測定法に基づき、既知質量の各粉末製剤を、メスシリンダー内に入れた後、メスシリンダーをタップし、粉末製剤の体積変化が認められなくなる体積を測定し、質量を体積で除して算出した。
【0098】
(Hausner比)
かさ密度をタップ密度で除して算出した。
【0099】
【0100】
<3.試験製剤の分布評価>
(噴射器)
ノズル部(薬剤充填部を兼ねていてもよい)、薬剤充填部、バルブ部、及び空気発生部の順序で接続された噴射器を製作した。なお、空気発生部は、シリンジ型又はポンプ型であって、バルブの開放タイミングの調整を含めて、発生させる噴射空気特性(最大空気圧、最大空気圧到達時間、及び一定空気圧持続噴出時間(≧10kPa又は≧5kPa)を含む)をある程度の範囲でコントロール可能なものである。
【0101】
(噴射空気特性の測定)
噴射器の空気発生部にデータロガーを接続した圧力計を繋ぎ、空気発生部を作動させたときの1msec毎の圧変化を測定した。なお、蓄圧した状態からバルブを開放して噴射空気を発生させる場合には、蓄圧が完了するまでの圧変化のデータは収集せず、蓄圧が完了した後の圧変化を測定した。測定した圧変化データから、最大空気圧、最大空気圧到達時間、及び一定空気圧持続噴出時間(≧10kPa又は≧5kPa)を求めた。
【0102】
(噴射率の測定)
20mg又は25mgの試験製剤を薬剤充填部に充填した噴射器の重量を秤量した後、空気発生部を作動させ、再度噴射器の重量を秤量した。噴射前後の噴射器の重量差から、噴射率を算出した。
【0103】
(嗅部領域への分布割合の測定)
日本成人男性の頭部CT撮影データを元に、3Dプリンタを使ってヒト鼻腔モデル(
図1)を製作した。このヒト鼻腔モデルでは、鼻中隔から左右の鼻腔を分割でき、鼻腔モデル内に噴射した製剤の分布観察や洗浄回収が容易に可能である。なお、鼻腔内の各領域を
図2に示した。
図2から明らかなように、嗅部領域は非常に限定された領域である。タートラジンを配合した試験製剤25mgを噴射器の薬剤充填部に充填し、そのノズル部を、人口唾液で鼻腔内を湿らせたヒト鼻腔モデルの片鼻孔に挿入し、空気発生部を作動させ、鼻腔内に試験製剤を噴射した。噴射後、ヒト鼻腔モデルを分解し、
図2に示したヒト鼻腔モデルの嗅部領域又は呼吸部領域にそれぞれ付着した製剤を精製水で洗い流し、回収した(
図3に、試験製剤を噴射したヒト鼻腔モデルの製剤分布の代表例を示す)。回収した試験製剤中のタートラジン量をHPLCで測定し、噴射器から噴射されたタートラジン量を基準に、評価領域へ分布したタートラジン割合を算出し、これを分布割合とした。なお、噴射率は、ヒト鼻腔モデルから回収された全てタートラジン量を、噴射器に充填した理論タートラジン量で除して、算出した。
【0104】
【0105】
(嗅部領域への分布評価結果)
表3に示したように、実施例1~8では、噴射率が60%以上であり、そのうちの20%以上が非常に限定された領域である嗅部領域に分布した。そのため、試験製剤3、8及び17は、嗅部領域をターゲットにした送達システムにおいて有効であると判明した。また、同一又は類似の噴射空気特性を使用する実施例1~8と比較例2~6とを比較することにより、製剤の物性が、嗅部領域への選択性を向上させるために重要であると判明した。更に、同一の試験製剤を使用する実施例7及び8と比較例1及び7とを比較することにより、所定の噴射空気特性を採用すると、嗅部領域への選択性が向上することが判明した。
【0106】
【0107】
(呼吸部領域への分布評価結果)
表4に示したように、実施例9~15では、噴射率が60%以上であり、そのうちの50%以上が呼吸部領域に分布し、嗅部領域への分布は5%未満であった。なお、呼吸部領域への選択的投与を目的とする場合には、嗅部領域への分布は最小限に留めることが望ましい。そのため、試験製剤3、8、11、13及び17は、呼吸部領域をターゲットにした送達システムにおいて有効であると判明した。また、同一の噴射空気特性を使用する実施例10、11及び13~15と比較例8とを比較することにより、製剤の物性が、呼吸部領域への選択性を向上させるために重要であると判明した。更に、同一の試験製剤を使用する実施例12、13及び15と比較例9及び10とを比較することにより、所定の噴射空気特性を採用すると、呼吸部領域への選択性が向上することが判明した。
【0108】
<4.サルにおける経鼻マンガン製剤の鼻腔内分布及び脳移行性評価(実施例16)>
ヒトと鼻腔構造が類似した雄性カニクイザル(体重3.73kg、1匹、株式会社新日本科学)に対して、最大空気圧58kPa、最大空気圧到達時間0msec、及び一定空気圧持続噴出時間(≧10kPa)110msecの空気発生部を有する、嗅部領域送達用の噴射器を使って、表1に示した25mgの試験製剤4を、覚醒下で右鼻腔内に噴射した。試験製剤中に含まれるマンガンの鼻腔内分布及び脳移行性を評価するために、撮影直前に吸入麻酔を行った上で、投与前、投与直後、投与3時間後、投与6時間後及び投与24時間後に、頭部のマンガン造影MRI撮影(MAGNETOM Allegra,3T,SIEMENS)を実施した。頭部のマンガン造影MRI撮影で得られた画像を、画像解析ソフトウエアOsiriX MD(Version 6.0,64-bit,Pixmeo SARL)を使って解析を行った。なお、本試験は株式会社新日本科学の動物倫理委員会による承認を得た上で実施した。
【0109】
図4に、マンガン造影MRI撮影画像を示した。
図4は、投与直後において、鼻腔内の嗅部領域にマンガンが顕著に分布していること、及び投与3時間後以降において、脳内の嗅球へマンガンが移行していることを示している。これにより、本発明に係る嗅部領域への送達システムが、有効成分の脳移行を向上させることが確認された。
【0110】
<5.サルにおける経鼻OVA製剤の免疫原性評価(実施例17)>
ヒトと鼻腔構造が類似した雄性カニクイザル(体重2.8~5.5kg、5匹、株式会社新日本科学)に対して、最大空気圧28kPa、最大空気圧到達時間88msec、及び一定空気圧持続噴出時間(≧5kPa)146msecの空気発生部を有する、呼吸部領域送達用の噴射器を使って、表1に示した25mgの試験製剤5を、初回投与日(第1日目)、第15日目、及び第36日目の合計3回で、それぞれ1回ずつ右鼻腔内に噴射した。免疫原性評価のために、初回投与日の4日前、第14日目、第29日目、及び第50日目に血清及び鼻腔内洗浄液を採取した。
【0111】
比較例11として、雄性カニクイザル(体重3.6~4.3kg、5匹、株式会社新日本科学)に対して、最大空気圧58kPa、最大空気圧到達時間0msec、及び一定空気圧持続噴出時間(≧10kPa)110msecの空気発生部を有する、嗅部領域送達用の噴射器を使って、表1に示した25mgの試験製剤5を、初回投与日(第1日目)、第15日目、及び第36日目の合計3回で、それぞれ1回ずつ右鼻腔内に噴射した。免疫原性評価のために、初回投与日の4日前、第14日目、第29日目、及び第50日目に血清及び鼻腔内洗浄液を採取した。なお、本試験は株式会社新日本科学の動物倫理委員会による承認を得た上で実施した。
【0112】
採取した血清中の抗OVA-IgG抗体価、及び鼻腔内洗浄液中の抗OVA-sIgA抗体価については、それぞれGoat anti Monkey IgG (Fc specific) conjugated with Hourseradish peroxidase(Nordic-MUbio社)、及びGoat anti Monkey secretory component (free and bound) conjugated with Hourseradish peroxidase(Nordic-MUbio社)を使用したELISA法に基づき、プレートリーダー(F039300、テカンンジャパン株式会社)で450nmにおける吸光度を測定した。なお、各ウェルの吸光度から、陰性対照ウェルの吸光度の平均値を引いた値を測定値とし、血清試料の場合には500倍に希釈したプレ血清試料の測定値の平均値+3標準偏差(SD)を、鼻腔洗浄液試料の場合には10倍に希釈したプレ鼻腔洗浄液試料の測定値の平均値+3標準偏差(SD)を、それぞれカットオフ値とした。カットオフ値より高い測定値を抗体陽性とし、その最大試料希釈倍率を以って抗体価とした。なお、Pre試料の吸光度が低く、上記方法での抗体価算出が難しい場合は、カットオフ値を一律0.1として抗体価を算出した。血清試料の場合、検出感度未満は抗体価を250として、鼻腔洗浄液試料の場合、検出感度未満は抗体価を5として扱った。
【0113】
表5、表6及び
図5に、血清中の抗OVA-IgG抗体価の測定結果、及び鼻腔洗浄液中の抗OVA-sIgA抗体価をそれぞれ示した。表5、表6及び
図5から明らかなように、実施例17のIgG抗体価及びsIgA抗体価は、比較例11のそれらと比較して、投与50日後では2倍程度も高かった。これにより、本発明に係る呼吸部領域への送達システムが、免疫原性を高めることが確認された。
【0114】
【0115】
【0116】
<6.サルにおけるテストステロン経鼻製剤の吸収性評価(実施例18)>
ヒトと鼻腔構造が類似した雄性カニクイザル(体重5.73~5.64kg、2匹、株式会社新日本科学)に対して、最大空気圧28kPa、最大空気圧到達時間88msec、及び一定空気圧持続噴出時間(≧5kPa)146msecの、呼吸部領域送達用の空気発生部を有する噴射器を使って、表1に示した20mgの試験製剤22を、覚醒下で右鼻腔内に噴射した。テストステロンの血中濃度測定のために、投与前、並びに投与後10、30、60、及び240分(計5回)に、ヘパリンNaを含む注射器を用いて大腿静脈から採血した。テストステロン濃度は、Abbott Architect i2000(ARCHITECT Testosterone、アボットジャパン株式会社)を用いた化学発光酵素免疫法により測定した。なお、本試験は株式会社新日本科学の動物倫理委員会による承認を得た上で実施した。
【0117】
表7及び
図6に、テストステロンの血中濃度推移を示した。表7及び
図6から明らかなように、投与後10分からテストステロンの血中濃度の顕著な上昇が認められ、投与後30分において最高血中濃度(C
max)に到達した。これにより、本発明に係る呼吸部領域への送達システムが、有効成分の鼻粘膜吸収性を高めることが確認された。
【0118】
【0119】
<7.サルにおけるテストステロン経鼻製剤の吸収性評価(比較例12)>
ヒトと鼻腔構造が類似した雄性カニクイザル(体重4.94~5.76kg、6匹、株式会社新日本科学)に対して、最大空気圧28kPa、最大空気圧到達時間88msec、及び一定空気圧持続噴出時間(≧5kPa)146msecの、呼吸部領域送達用の空気発生部を有する噴射器を使って、表1に示した20mgの試験製剤28を、覚醒下で右鼻腔内に噴射した。テストステロンの血中濃度測定のために、投与前、並びに投与後5、10、20、30、45、60、120、及び240分(計9回)に、ヘパリンNaを含む注射器を用いて大腿静脈から採血した。テストステロン濃度は、Cobas 8000(ECLusys TESTO II、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いた電気化学発光免疫法により測定した。
【0120】
表8及び
図7に、比較例12の血中テストステロン濃度推移を示した。本発明に係る呼吸部領域への送達システムに関する表7及び
図6との比較からも明らかなように、呼吸部領域へ効果的に分布しない比較例12については、有効成分の鼻粘膜吸収性が実施例18に比べて低いことが確認された。
【0121】
【0122】
<8.サルにおけるオキシトシン経鼻製剤の脳移行性評価(実施例19)> ヒトと鼻腔構造が類似した雄性カニクイザル(体重3.94~5.77kg、6匹、株式会社新日本科学)に対して、最大空気圧59kPa、最大空気圧到達時間0msec、及び一定空気圧持続噴出時間(≧10kPa)69msecの空気発生部を有する、嗅部領域送達用の噴射器を使って、表1に示した25mgの試験製剤27を覚醒下で右鼻腔内に噴射した。
【0123】
比較例13として、ヒトと鼻腔構造が類似した雄性カニクイザル(体重3.91~5.29kg、6匹、株式会社新日本科学)に対して、生理食塩水で溶解したオキシトシン溶液(0.4mg/mL)を覚醒下で前腕の静脈内に注射した。
【0124】
血中のオキシトシン濃度測定のために、投与前、投与後2、5、10、30、60、120、240及び480分(計9回)に、注射器を用いて大腿静脈から採血した(EDTA-2K添加採血管へ分注)。脳脊髄液中のオキシトシン濃度測定のために、投与前、投与後10、30、60、120、240及び480分(計7回)に、大槽内に留置したカテーテルを介して脳脊髄液を採取した。オキシトシン濃度は、Oxytocin Enzyme Immunoassay Kit: Extraction-Free(Peninsula Laboratories International)を用いたEIA法により測定した。なお、本試験は株式会社新日本科学の動物倫理委員会による承認を得た上で実施した。
【0125】
表9及び
図8に示した血中オキシトシン濃度からも明らかなように、実施例19の血中濃度は比較例13と比較して顕著に低値を示した。一方で、表10及び
図9に示した脳脊髄液中オキシトシン濃度は、血中濃度の比較結果とは異なり、比較例13と比較して実施例19の方が高値を示すことが判った。
【0126】
【0127】
【0128】
また、実施例19について、経鼻投与された薬物が血液脳関門を介さずに脳へと移行した程度を見積もるために、Md,S.ら(Eur. J. Pharm. Sci., 2013 Feb14;48(3):393-405)によって報告されている、以下の式(1)及び式(2)に基づき、DTE%(Drug Targeting Efficiency)及びDTP%(Direct Transport Percentage)をそれぞれ算出した。なお、DTE%は血管から脳への薬物移行量を100%とした場合の実施例19における脳移行性を示す指標となり、DTP%は脳への総薬物移行量に対して血管以外から脳へ薬物が移行した割合、即ち血液を介さず鼻から脳へ薬物が直接移行した割合を示す指標となる。
【0129】
DTE%=[AUC0-t(in, csf)/AUC0-t(in, plasma)]
/[AUC0-t(iv, csf)/AUC0-t(iv, plasma)]×100 (式1)
【0130】
DTP%=[AUC0-t(in, csf)-F]/AUC0-t(in, csf)×100 (式2)
F=AUC0-t(iv, csf)×AUC0-t(in, plasma)/AUC0-t(iv, plasma)
【0131】
式(1)及び(2)において、
AUC0-t(in, csf):実施例19の脳脊髄液中オキシトシン濃度-時間曲線下面積
AUC0-t(in, plasma):実施例19の血中オキシトシン濃度-時間曲線下面積
AUC0-t(iv, csf):比較例13の脳脊髄液中オキシトシン濃度-時間曲線下面積
AUC0-t(iv, plasma):比較例13の血中オキシトシン濃度-時間曲線下面積
【0132】
実施例19のDTE%及びDTP%は、それぞれ450.7%及び77.8%であり、実施例19は、血液を介さず鼻から脳へ薬物が効率良く移行していることが判った。