(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】赤色蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/64 20060101AFI20230522BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20230522BHJP
【FI】
C09K11/64
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2020510765
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2019011621
(87)【国際公開番号】W WO2019188632
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2018064664
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 麻里奈
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真太郎
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-210626(JP,A)
【文献】特開2017-110206(JP,A)
【文献】特開2006-269938(JP,A)
【文献】特開2004-238505(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046288(WO,A1)
【文献】特許第6273394(JP,B1)
【文献】特開2013-127076(JP,A)
【文献】特開2016-191057(JP,A)
【文献】特開平08-339761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:MSiAlN
3(但しMは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で示され、Mの一部がEuで置換されている、CaAlSiN
3結晶相と同一の結晶構造を母体結晶とする赤色蛍光体であって、嵩密度が0.70g/cm
3以上2.30g/cm
3以下である赤色蛍光体。
【請求項2】
安息角が60°以下である、請求項1記載の赤色蛍光体。
【請求項3】
MがCaであり、嵩密度が0.70g/cm
3以上1.80g/cm
3以下である、請求項1または2記載の赤色蛍光体。
【請求項4】
MがCa及びSrであり、嵩密度が1.20g/cm
3以上2.30g/cm
3以下である、請求項1または2記載の赤色蛍光体。
【請求項5】
安息角が20°以上である、請求項1~4のいずれか一項記載の赤色蛍光体。
【請求項6】
安息角が45°以下である、請求項1~5のいずれか一項記載の赤色蛍光体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項記載の赤色蛍光体と、前記赤色蛍光体の励起が可能な半導体発光素子とを有する発光素子。
【請求項8】
請求項7記載の発光素子を有する発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(Light Emitting Diode)又はLD(Laser Diode)用の赤色蛍光体、及びこの赤色蛍光体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色LEDは、半導体発光素子と蛍光体との組み合わせにより疑似白色光を発光するデバイスであり、その代表的な例として、青色LEDとYAG黄色蛍光体の組み合わせが知られている。しかし、この方式の白色LEDは、その色度座標値としては白色領域に入るものの、赤色発光成分が不足しているために、照明用途では演色性が低く、液晶バックライトのような画像表示装置では色再現性が悪いという問題がある。そこで、不足している赤色発光成分を補うために、YAG蛍光体とともに、赤色を発光する窒化物又は酸窒化物蛍光体を併用することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
赤色を発光する窒化物蛍光体として、CaAlSiN3(一般にCASNとも記載される)と同一の結晶構造を有する無機化合物を母体結晶として、これに例えばEu2+などの光学活性な元素で付活したものが知られている。特許文献2には、CASNの母体結晶にEu2+を付活して蛍光体としたもの(即ちEu付活のCASN蛍光体)は、高輝度で発光すると記載されている。CASN蛍光体の発光色は、赤色領域でも、より長い波長側のスペクトル成分を多く含むため、高く深みのある演色性を実現できる反面、視感度の低いスペクトル成分も多くなるため、白色LED用としては、よりいっそうの輝度向上が求められている。
【0004】
さらに特許文献2には、前記CaAlSiN3のCaの一部を、さらにSrで置換した(Sr,Ca)AlSiN3とも記される母体結晶(一般にSCASNとも記載される)に、Eu2+を付活した蛍光体(即ちEu付活のSCASN蛍光体)が得られることが記載されている。
【0005】
また、SCASN蛍光体の結晶格子を特定の範囲に制御することで発光スペクトルを狭くすることができ、高輝度な赤色蛍光体が得られることが開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-071726号公報
【文献】国際公開第2005/052087号
【文献】国際公開第2015/002139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液晶ディスプレイのバックライトや照明などの発光装置では発光特性の改善が常に求められ、そのために各部材の特性向上が必要とされており、LEDに用いられる蛍光体にも発光特性の改善が求められている。また発光特性そのものの改善以外にも、例えば白色LEDの発光特性の個別製品毎のバラツキを小さくするように生産精度を改善して、LED製品の歩留りを改善することも求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば白色LEDである発光素子をより安定的に作製することができ、特に色度に関するLED製品間のバラツキ(本明細書では単に「色度バラツキ」ともいう)を抑制できる、CASN蛍光体やSCASN蛍光体で代表される、一般式:MSiAlN3(但しMは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で示され、Mの一部がEuで置換されている、CaAlSiN3結晶相と同一の結晶構造を母体結晶とする赤色蛍光体(本明細書では以降、「本赤色蛍光体」とも表記する)を提供することを目的とする。本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本赤色蛍光体の嵩密度を特定の範囲で制御すると、より色度バラツキの抑制された発光素子、例えば白色LEDを安定的に作製出来ることを見出した。
【0009】
すなわち本発明の実施形態では、以下の態様を提供できる。
【0010】
(1)一般式:MSiAlN3(但しMは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で示され、Mの一部がEuで置換されている、CaAlSiN3結晶相と同一の結晶構造を母体結晶とする赤色蛍光体であって、嵩密度が0.70g/cm3以上2.30g/cm3以下である赤色蛍光体。
【0011】
(2)安息角が60°以下である、前記(1)記載の赤色蛍光体。
【0012】
(3)MがCaであり、嵩密度が0.70g/cm3以上1.80g/cm3以下である、前記(1)または(2)記載の赤色蛍光体。
【0013】
(4)MがCa及びSrであり、嵩密度が1.20g/cm3以上2.30g/cm3以下である、前記(1)または(2)記載の赤色蛍光体。
【0014】
(5)安息角が20°以上である、前記(1)~(4)のいずれか一項記載の赤色蛍光体。
【0015】
(6)安息角が45°以下である、前記(1)~(5)のいずれか一項記載の赤色蛍光体。
【0016】
(7)前記(1)~(6)のいずれか一項記載の赤色蛍光体と、前記赤色蛍光体の励起が可能な半導体発光素子とを有する発光素子。
【0017】
(8)前記(7)記載の発光素子を有する発光装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態にて提供できる、特定範囲の嵩密度を有する本赤色蛍光体は、蛍光体の励起が可能な半導体発光素子と組み合わせて発光素子を構成することが可能で、例えば白色LEDの色度に代表される発光特性バラツキを抑制し、より発光特性が安定した発光素子を提供することができる。さらに本発明の実施形態では、当該発光素子と、発光素子を収納する器具とを有する発光装置を提供することができる。そうした発光装置としては、例えば照明装置、バックライト装置、画像表示装置及び信号装置が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。本明細書における数値範囲は、別段の断わりがないかぎりは、その上限値および下限値を含むものとする。
【0020】
本発明の蛍光体は一般式:MSiAlN3(但しMは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で示され、Mは好ましくはCa、Srを含むものである。Mは、Ca単独であるか、またはSrとCaのモル数比が、Sr/(Ca+Sr)=0.35以上0.95以下となるように、Sr、CaとがMとして配分されていることが好ましい。またSrとCaのモル数比は、Sr/(Ca+Sr)=0.40以上0.90以下であることが更に好ましい。
【0021】
本赤色蛍光体は、主結晶相がCaAlSiN3結晶相と同一の構造を有する。蛍光体の主結晶相がCaAlSiN3結晶と同一の構造か否かは、粉末X線回折により確認できる。結晶構造がCaAlSiN3と異なる場合、発光色が赤色でなくなったり、蛍光強度が大きく低下したりするので、好ましくない。結晶相は、前記結晶の単相が好ましいが、蛍光体特性に大きな影響がない限り、異相を含んでいても構わない。
【0022】
CaAlSiN3結晶、または(Sr,Ca)AlSiN3結晶の骨格構造は、(Si,Al)-N4正四面体が結合することにより構成され、その間隙にCa原子やSr原子が位置したものである。Ca2+やSr2+の一部が発光中心として作用するEu2+で置換されることによって赤色蛍光体となる。
【0023】
本発明の蛍光体の付活元素であるEu含有率は、あまりに少ないと発光への寄与が小さくなる傾向にあり、あまりに多いとEu2+間のエネルギー伝達による蛍光体の濃度消光が起こる傾向にあるため、好ましくは0.01at%以上1.0at%以下、特に好ましくは0.03at%以上0.5at%以下である。
【0024】
なお、本赤色蛍光体には、不可避成分として微量の酸素(O)が含まれる。そして、M元素の占有率、Si/Al比、N/Oなどが結晶構造を維持しながら全体として電気的中性が保たれるよう調整される。
【0025】
本赤色蛍光体は、嵩密度が0.70g/cm3以上2.30g/cm3以下であることが好ましい。嵩密度が0.70g/cm3未満、または2.30g/cm3より大きいと、この蛍光体を使用して作成されるLEDの色度バラツキが大きくなる。
【0026】
一般的に粉体の嵩密度は、メスシリンダーに入れた既知重量の粉体試料の体積を測定する方法(方法1)か、ボリュメーターを通して容器内に入れた既知体積の粉体試料の質量を測定する方法(方法2)か、専用の測定用容器を用いて測定する方法(方法3)で求めることができる。これらの中で方法1及び方法3を用いるのが望ましい。以下方法3について詳しく説明する。まず、測定するのに十分な量の試料を準備する。乾いた一定容量の円筒形の測定用容器に補助円筒を装着し、必要量の試料を入れる。補助円筒付きの測定用容器を50~60回/分で複数回タップする。補助円筒を取外し、容器の上面から過剰の粉体をすり落とし、重量を測定する。あらかじめ測定しておいた空の円筒形容器の質量を差し引くことによって、粉体の質量を測定する。単位体積当たりの試料の重量を算出することにより嵩密度を求める。この嵩密度は、繰り返し測定することが好ましく、複数回測定し、それら測定値の平均値として求められることがより好ましい。
【0027】
粉体の嵩密度は、一般的に、粉体の粒子径、粒度分布や表面状態によって制御することができる。
【0028】
本赤色蛍光体は、レーザー回折散乱法で測定した質量メジアン径(D50)が30μm以下であることが好ましい。質量メジアン径が30μmを超えると、嵩密度が特定の範囲に入らず、この蛍光体を使用して作成されるLEDの色度バラつきが大きくなる。また、質量メジアン径が5μmより小さいと蛍光体の発光特性が低下するので好ましくない。なお、質量メジアン径は、JIS R1622:1995及びR1629:1997に準じてレーザー回折散乱法で測定した累積分布曲線から得られる体積メジアン径から換算、算出した値である。
【0029】
本赤色蛍光体は、さらにスパン値が1.6以下であることが好ましく、0.1以上1.5以下がさらに好ましい。なお、スパン値とは、(D90-D10)/D50で算出される値のことを意味し、ここでD10およびD90とは、上記質量メジアン径と同様に測定する質量基準の累積分布曲線から得られる10%径および90%径のことである。スパン値は、粒度分布の分布幅、即ち本赤色蛍光体の粒子の大きさのバラつきを表す指標となる。スパン値が小さいと、嵩密度が特定の範囲に入りやすく、蛍光体を使用して作成されるLEDの色度バラツキを小さくできる。
【0030】
なお粉体の表面状態は製造時の後処理方法によって変化しうる。本赤色蛍光体の後処理方法としては例えば洗浄や蛍光体粒子の表面被覆が挙げられるが、生産性と嵩密度を向上する観点からは洗浄をすることが好ましい。洗浄方法としては、特に制限されないが、酸性やアルカリ性、極性の水溶液で洗浄することが好ましく、1種の洗浄水溶液で洗浄してもよく、2種以上の洗浄水溶液を用いて複数回洗浄してもよい。
【0031】
また本赤色蛍光体は一般式:MSiAlN3(但しMは、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で示される。MとしてはMg、Ca、Sr、Baなどが挙げられるため、蛍光体組成に占めるMの質量割合が多く、Mの種類により、本赤色蛍光体の好ましい嵩密度の範囲が変化する。例えばMがCa単独である場合、嵩密度は0.70g/cm3以上1.80g/cm3以下であることが好ましく、MがCa及びSrである場合、嵩密度は1.20g/cm3以上2.30g/cm3以下であることが好ましい。
【0032】
本赤色蛍光体は、安息角が60°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましい。また本赤色蛍光体は、安息角が20°以上であることが好ましい。安息角は蛍光体の流動性を示すことから、蛍光体のLEDへの使用時の分散の程度を表す指標となる。安息角が20°以上60°以下であると作製したLEDの色度バラツキを小さくできる。
【0033】
安息角の測定方法は、試料を容器に入れ自然落下させ水平面に堆積させた時に粉末の作る角度を測定する方法(注入法)、試料を容器底部の小孔から自然落下させ、容器内に残った粉末の作る角度を測定する方法(排出法)、容器内に粉末を入れ、容器を傾けて粉末の作る角度を測定する方法(傾斜法)がある。これらの中で注入法を用いるのが望ましい。以下注入法について詳しく説明する。試料を一定の高さの漏斗から水平な基板の上に落下させ、生成した円錐状堆積物の直径及び高さから低角を算出し、この低角を安息角とする。この安息角は、繰り返し測定することが好ましく、複数回測定し、それら測定値の平均値として求められることがより好ましい。
【0034】
(赤色蛍光体の製造方法)
本赤色蛍光体の製造方法は特に制限されない。ここでは、前記一般式で表される組成物を構成しうる原料混合粉末を窒素雰囲気中において所定の温度範囲で焼成する方法を例示する。
【0035】
この製造方法では、原料として構成元素の窒化物、即ち窒化カルシウム、窒化ストロンチウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ユーロピウムが好適に使用されるが、酸化物を使用することも可能である。例えば、発光中心として作用することから添加量が非常に少ないユーロピウム源として、入手が容易な酸化ユーロピウムを使用しても構わない。
【0036】
上述した原料を混合する方法は特に限定されないが、空気中の水分及び酸素と激しく反応する窒化カルシウム、窒化ストロンチウム、窒化ユーロピウムは不活性雰囲気で置換されたグローブボックス内で取り扱うことが適切である。
【0037】
焼成容器は、高温の窒素雰囲気下において安定で、原料混合粉末及びその反応生成物と反応しにくい材質で構成されることが好ましく、窒化ホウ素製、高融点金属容器、カーボン製などが挙げられる。
【0038】
グローブボックスから、原料混合粉末を充填した焼成容器を取り出し、速やかに焼成炉にセットし、窒素雰囲気中、1600℃以上2000℃以下で焼成する。焼成温度があまりに低いと未反応残存量が多くなり、あまりに高いとCaAlSiN3結晶相と同一の結晶構造を母体結晶が分解するので好ましくない。
【0039】
焼成時間は、未反応物が多く存在したり、粒成長不足であったり、或いは生産性の低下という不都合が生じない時間範囲が選択され、2時間以上24時間以下であることが好ましい。
【0040】
焼成雰囲気の圧力は、焼成温度に応じて選択される。本発明の本赤色蛍光体は、約1800℃までの温度では大気圧で安定して存在することができるが、これ以上の温度では蛍光体の分解を抑制するために加圧雰囲気にする必要がある。雰囲気圧力が高いほど、蛍光体の分解温度は高くなるが、工業的生産性を考慮すると1MPa未満とすることが好ましい。
【0041】
焼成物の状態は、原料配合や焼成条件によって、粉体状、塊状、焼結体と様々である。蛍光体として使用する場合には、解砕、粉砕及び/又は分級操作を組み合わせて焼成物を所定のサイズの粉末にする。
【0042】
本赤色蛍光体の製造方法にあっては、粉砕工程後に、洗浄工程を設けることが好ましい。前記記載のように洗浄工程で使用する水溶液は、酸性、アルカリ性、極性の水溶液であることが好ましい。洗浄工程は、上記記載の水溶液に粉砕工程後の蛍光体を分散させ、数分から数時間撹拌する工程である。洗浄工程によって焼成容器由来の不純物元素、焼成工程で生じた異相、原料に含まれる不純物元素、粉砕工程にて混入した不純物元素を溶解除去でき、蛍光体の表面を清浄にすることで、得られる蛍光体粉末の嵩密度を向上できる。
【0043】
本赤色蛍光体の製造に当たっては、更に不純物を除去する目的で酸処理工程、結晶性を向上する目的でアニール処理工程を更に行っても良い。
【0044】
本赤色蛍光体は、蛍光体の励起が可能な半導体発光素子と組み合わせて発光素子を構成することが可能で、さらに前記発光素子を有する発光装置を得ることも可能である。半導体発光素子から特に350nm以上500nm以下の波長を含有する紫外光や可視光を、本赤色蛍光体に照射することにより、赤色発光する発光素子を得ることができる。また紫外LED又は青色LEDといった半導体発光素子と、本赤色蛍光体とを組み合わせ、さらに必要に応じて他の緑~黄色に発光する蛍光体、及び/又は青色蛍光体と組み合わせることにより、容易に白色光を発光する発光素子が得られる。
【実施例】
【0045】
本発明の実施例について、表1を参照しつつ詳細に説明する。表1は、実施例及び比較例の蛍光体のD10、D50、D90、スパン値、嵩密度、及び安息角を示したものである。
【0046】
【0047】
<実施例1>
実施例1の蛍光体の原料として、α型窒化ケイ素粉末(Si3N4、宇部興産株式会社製SN-E10グレード)、窒化カルシウム粉末(Ca3N2、Materion社製)、窒化アルミニウム粉末(AlN、トクヤマ株式会社製Eグレード)、酸化ユーロピウム(Eu2O3、信越化学工業株式会社製RUグレード)を、Ca:Eu:Al:Si=0.994:0.006:1.00:1.00となる比率で用いた。
【0048】
まず原料のうち、Si3N4、AlN、Eu2O3をV型混合機で10分間乾式混合した。混合後の原料の大きさを揃える為、混合後の原料を目開き250μmのナイロン製篩で分級し、原料混合物とした。
【0049】
篩を通過した原料混合物を、水分1質量ppm以下、酸素1質量ppm以下の窒素雰囲気を保持することができるグローブボックス中に移動させ、そこでCa3N2を原料混合物に配合し、乾式混合した。乾式にて混合した原料の大きさを揃えるため、再度、目開き250μmのナイロン製篩で分級した。分級後の原料を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(デンカ株式会社製N-1グレード)に250g充填した。
【0050】
原料を充填した容器をグローブボックスから取出し、カーボンヒーターの電気炉に速やかにセットし、炉内を0.1Pa以下まで十分に真空排気した。真空排気したまま、加熱を開始し、650℃で窒素ガスを導入し、炉内雰囲気圧力を0.1MPaとした。ガス導入後もそのまま1850℃まで昇温し、1850℃で8時間の焼成を行った。
【0051】
冷却後、炉から回収した試料は赤色の塊状物であり、乳鉢解砕を行い、最終的に目開き150μmの篩を全通させた。
【0052】
得られた蛍光体サンプルに対して、X線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用い、CuKα線を用いた粉末X線回折を行った。得られたX線回折パターンは、CaAlSiN3結晶と同一の回折パターンが認められた。
【0053】
篩を通過したものを塩酸中に1時間浸し、洗浄を行った。洗浄後、濾過を行い蛍光体と処理液を分離した。蛍光体は100℃~120℃の乾燥機中で12時間乾燥し、乾燥後目開き150μmの篩で分級し、篩を通過したものだけにした。
【0054】
<質量メジアン径及びスパン値の測定方法>
質量メジアン径及びスパン値は、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックMT3000II)を用いJIS R1622:及びR1629に準じて、レーザー回折散乱法で測定した体積平均径よりD10、D50(質量メジアン径)、D90を算出し、またスパン値((D90-D10)/D50)を求めた。
【0055】
<嵩密度の測定方法>
嵩密度は、以下の方法で測定した。測定用容器に定容容器(25cc)の円筒型容器を用いて、その質量をはかりによって量りとった。測定用容器に補助円筒を装着し、試料をあふれるまで入れ、補助円筒付きの測定用容器を50~60回/分の速さで50回タップを行い、補助円筒を取り外した。測定用容器の上端面から盛り上がった試料を、すり切り板を使ってすり切った。このときすり切り板は、粉末を圧縮しないようすり切る方向から後ろへ傾斜させて使用した。測定用容器ごと質量をはかりで量り、測定用容器の質量を差し引いて試料の質量を計算した。この測定を3回行った。各測定で計算した試料の質量を、測定用容器の容積で除した値の平均値を嵩密度として算出した。
【0056】
<安息角の測定方法>
安息角は、以下の方法で測定した。試料20gをノズル内径10mmの市販のガラス製ロートの上縁2~4cmの高さから、毎分20~60gの速さで該ロートを介して基板上に落下させ、生成した円錐状の堆積物の直径及び高さから、低角を算出した。この測定を3回行い、低角の平均値を安息角とした。
【0057】
<実施例2>
表1に示すD10、D50(質量メジアン径)、D90になるよう粉砕、分級条件を変更した以外実施例1と同じ条件で実施例2の蛍光体粉末を作製した。実施例2で得られた蛍光体の特性を実施例1の結果と合わせて表1に示す。
【0058】
<実施例3>
表1に示すD10、D50(質量メジアン径)、D90になるよう粉砕、分級条件を変更し、酸洗浄の後に、エタノール水溶液による洗浄を加えたこと以外実施例1と同じ条件で実施例3の蛍光体粉末を作製した。実施例3で得られた蛍光体の特性も合わせて表1に示す。
【0059】
<実施例4>
実施例4の蛍光体の原料として、α型窒化ケイ素粉末(Si3N4、宇部興産株式会社製SN-E10グレード)、窒化ストロンチウム(Sr2N、Materion社製)、窒化カルシウム粉末(Ca3N2、Materion社製)、窒化アルミニウム粉末(AlN、トクヤマ株式会社製Eグレード)、酸化ユーロピウム(Eu2O3、信越化学工業株式会社製RUグレード)を、Sr:Ca:Eu:Al:Si=0.850:0.130:0.020:1.00:1.00となる比率で用いた。
【0060】
次に原料のうち、Si3N4、AlN、Eu2O3をV型混合機で10分間乾式混合した。混合後の原料の大きさを揃える為、混合後の原料を目開き250μmのナイロン製篩で分級し、原料混合物とした。
【0061】
篩を通過した原料混合物を、水分1質量ppm以下、酸素1質量ppm以下の窒素雰囲気を保持することができるグローブボックス中に移動させ、そこでSr2NとCa3N2を原料混合物に配合し、乾式混合した。乾式にて混合した原料の大きさを揃えるため、再度、目開き250μmのナイロン製篩で分級した。分級後の原料を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(デンカ株式会社製N-1グレード)に250g充填した。
【0062】
原料を充填した容器をグローブボックスから取出し、カーボンヒーターの電気炉に速やかにセットし、炉内を0.1Pa以下まで十分に真空排気した。真空排気したまま、加熱を開始し、650℃で窒素ガスを導入し、炉内雰囲気圧力を0.9MPaとした。ガス導入後もそのまま1950℃まで昇温し、1950℃で8時間の焼成を行った。
【0063】
冷却後、炉から回収した試料は赤色の塊状物であり、乳鉢解砕を行い、最終的に目開き150μmの篩を全通させた。
【0064】
得られた蛍光体サンプルに対して、X線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用い、CuKα線を用いた粉末X線回折を行った。得られたX線回折パターンは、(Sr,Ca)AlSiN3結晶と同一の回折パターンが認められた。
【0065】
篩を通過したものを塩酸中に1時間浸し、洗浄を行った。洗浄後、濾過を行い蛍光体と処理液を分離した。蛍光体は100℃~120℃の乾燥機中で12時間乾燥し、乾燥後目開き150μmの篩で分級し、篩を通過したものだけにした。
【0066】
得られた蛍光体サンプルに対して、実施例1~3で得られた蛍光体と同様の粉体特性を測定し、結果を表1に示す。
【0067】
<実施例5>
表1に示すD10、D50(質量メジアン径)、D90になるよう粉砕、分級条件を変更した以外実施例4と同じ条件で実施例5の蛍光体粉末を作製した。実施例5で得られた蛍光体の特性を実施例1~4の結果と合わせて表1に示す。
【0068】
<比較例1>
酸洗浄の後に、エタノール水溶液による洗浄を実施しないこと以外実施例3と同じ条件で比較例1の蛍光体粉末を作製した。比較例1で得られた蛍光体の特性を実施例1~5の結果と合わせて表1に示す。
【0069】
<比較例2>
表1に示すD10、D50(質量メジアン径)、D90になるよう粉砕、分級条件を変更した以外実施例4と同じ条件で比較例2の蛍光体粉末を作製した。比較例2で得られた蛍光体の特性を実施例1~5、比較例1の結果と合わせて表1に示す。
【0070】
<LEDの作製>
<実施例6>
上記実施例1で得られた赤色蛍光体を用いて、LEDを作製した。即ち、蛍光体粒子を、熱硬化性を有し且つ常温で流動性を有するシリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製、商品名:KER6150)に対して10質量%添加し、撹拌混合してスラリーを調整した。次に、波長450~460nmにピークを有する青色LEDチップが実装されているトップビュータイプパッケージに、上記スラリー6mgを注入した後、150℃の温度で2時間加熱してスラリーを硬化させた。このようにして、実施例1である赤色蛍光体粒子を備えていて、波長420~480nmの範囲の光を吸収し、且つ480nmを超え800nm以下の範囲の光を放出するLEDを作製した。
【0071】
<実施例7>
実施例2で得られた赤色蛍光体粒子を使用した以外は、実施例6と同じ条件でLEDを作製した。
【0072】
<実施例8>
実施例3で得られた赤色蛍光体粒子を使用した以外は、実施例6と同じ条件でLEDを作製した。
【0073】
<実施例9>
実施例4で得られた赤色蛍光体粒子を使用した以外は、実施例6と同じ条件でLEDを作製した。
【0074】
<実施例10>
実施例5で得られた赤色蛍光体粒子を使用した以外は、実施例6と同じ条件でLEDを作製した。
【0075】
<比較例3>
比較例1で得られた赤色蛍光体粒子を使用した以外は、実施例6と同じ条件でLEDを作製した。
【0076】
<比較例4>
比較例2で得られた赤色蛍光体粒子を使用した以外は、実施例6と同じ条件でLEDを作製した。
【0077】
<LEDの発光特性評価>
上記実施例6~10、比較例3~4で作製のそれぞれについて、各50個のLEDを作製し、LED測定装置(Instrument System社製、商品名:CAS140B)を用いて、色度評価を測定した。その結果を以下に示す表2にまとめた。なお、色度評価は、CIE色度座標の一つ、XYZ表色系のx値とy値の各標準偏差σを示す。
【0078】
【0079】
表2に示される実施例、比較例の結果から、赤色蛍光体の嵩密度を特定の範囲に制御することにより、この蛍光体を使用したLEDは色度ズレが小さくなることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の本赤色蛍光体は、青色光により励起されて赤色発光を示し、従来より色度バラツキの小さいLEDが得られる。即ち本発明の本赤色蛍光体は、これを用いた発光素子、例えば青色光を発光する励起が可能な半導体発光素子と蛍光体とを組み合わせて構成する白色LED用の蛍光体のひとつとして、好適に使用できるものであり、また前記発光素子は照明器具、画像表示装置などの発光装置に好適に使用することができる。