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特許7282766酸化物焼結体およびスパッタリングターゲット
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  • 特許-酸化物焼結体およびスパッタリングターゲット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】酸化物焼結体およびスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20230522BHJP
   C04B 35/453 20060101ALI20230522BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
C04B35/01
C04B35/453
C23C14/34 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020525347
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2019018992
(87)【国際公開番号】W WO2019244509
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2018116291
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白仁田 亮
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-238770(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021334(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/068564(WO,A1)
【文献】特開2015-157755(JP,A)
【文献】特開2011-003856(JP,A)
【文献】特開2009-275272(JP,A)
【文献】特開2008-163441(JP,A)
【文献】特開2014-105124(JP,A)
【文献】特開2013-239531(JP,A)
【文献】特開2013-183012(JP,A)
【文献】特開2014-055349(JP,A)
【文献】特開2011-238968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C23C 14/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム、ガリウムと、亜鉛と、酸素と、不可避不純物とからなる酸化物焼結体であって、
インジウムと、ガリウムと、亜鉛との原子比が
0.08<In/(In+Ga+Zn)≦0.19
0.35<Ga/(In+Ga+Zn)<0.58
0.23<Zn/(In+Ga+Zn)<0.46
を満たし、
InGaZnOまたはInGaZnで表されるホモロガス構造化合物と、ZnGaで表されるスピネル構造化合物とを含み、
前記ZnGa で表されるスピネル構造化合物の面積率が25%以上であり、
抗折強度が180MPa以上である酸化物焼結体。
【請求項2】
各元素の原子比が下記式を満たす請求項1に記載の酸化物焼結体。
0.08<In/(In+Ga+Zn)≦0.19
0.40≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.58
0.25≦Zn/(In+Ga+Zn)<0.46
【請求項3】
各元素の原子比が下記式を満たす請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
0.13<In/(In+Ga+Zn)≦0.19
0.40≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.55
0.27≦Zn/(In+Ga+Zn)<0.46
【請求項4】
各元素の原子比が下記式を満たす請求項1~のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
0.14≦In/(In+Ga+Zn)≦0.19
0.41≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.53
0.30≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.45
【請求項5】
各元素の原子比が下記式を満たす請求項1~のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
0.14<In/(In+Ga+Zn)≦0.18
0.41≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.52
0.31≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.45
【請求項6】
前記ホモロガス構造化合物の平均面積円相当径が10μm以下である
請求項1~のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項7】
前記ホモロガス構造化合物の平均アスペクト比が2.0以下である
請求項1~のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項8】
前記スピネル構造化合物の平均面積円相当径が5μm以下である
請求項1~のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項9】
前記スピネル構造化合物の平均アスペクト比が2.0以下である
請求項1~のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項10】
前記スピネル構造化合物の面積率が80%以下である
請求項1~のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項11】
相対密度が99.5%以上である
請求項1~10のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項12】
比抵抗が5.0×10-1Ωcm以下である
請求項1~11のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項13】
InGaZnOまたはInGaZnで表されるホモロガス構造化合物と、ZnGaで表されるスピネル構造化合物からなる請求項1~12のいずれか一つに記載の酸化物焼結体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一つに記載の酸化物焼結体をターゲット材として用いる
スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)などの酸化物半導体薄膜を成膜するためのスパッタリングターゲットが知られている。かかるスパッタリングターゲットに用いられる酸化物焼結体は、InGaO(ZnO)(mは1~20の整数)で表されるホモロガス構造化合物と、ZnGaで表されるスピネル構造化合物とを含む(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-163441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のスパッタリングターゲットに用いられる酸化物焼結体は、抗折強度が50MPa程度であることから、かかる酸化物焼結体を用いてスパッタリングターゲットを製造する際や、かかるスパッタリングターゲットでスパッタリングを行う際に、酸化物焼結体が破損しやすいという課題があった。
【0005】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、破損を抑制することができる酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る酸化物焼結体は、インジウム、ガリウムおよび亜鉛を含む酸化物焼結体であって、InGaZnOまたはInGaZnで表されるホモロガス構造化合物と、ZnGaで表されるスピネル構造化合物とを含み、抗折強度が180MPa以上である。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様によれば、酸化物焼結体の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1における酸化物焼結体のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットの実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施形態の酸化物焼結体は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)および亜鉛(Zn)を含む。たとえば、実施形態の酸化物焼結体は、インジウムと、ガリウムと、亜鉛と、酸素(O)とからなり、スパッタリングターゲットとして用いることができる。
【0011】
そして、実施形態の酸化物焼結体は、InGaO(ZnO)(mは整数)で表されるホモロガス構造化合物のうち、InGaZnO(すなわち、m=1)またはInGaZn(すなわち、m=2)で表されるホモロガス構造化合物と、ZnGaで表されるスピネル構造化合物とを含み、抗折強度が180MPa以上である。
【0012】
これにより、かかる酸化物焼結体を用いてスパッタリングターゲットを製造する際や、かかるスパッタリングターゲットでスパッタリングを行う際に、酸化物焼結体が破損することを抑制することができる。
【0013】
また、実施形態の酸化物焼結体は、InGaO(ZnO)(mは整数)で表されるホモロガス構造化合物のうち、InGaZnO(すなわち、m=1)またはInGaZn(すなわち、m=2)で表されるホモロガス構造化合物と、ZnGaで表されるスピネル構造化合物からなり、抗折強度が180MPa以上であることが好ましい。
【0014】
なお、InGaO(ZnO)(mは整数)で表されるホモロガス構造化合物のうち、mが3以上(たとえば、InGaZn)で表されるホモロガス構造化合物が含まれると、ホモロガス構造化合物の平均面積円相当径が大きくなり抗折強度が低くなる傾向にある。そのため、InGaO(ZnO)(mは整数)で表されるホモロガス構造化合物のうち、mが3以上で表されるホモロガス構造化合物は含まれない方が好ましい。
【0015】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、抗折強度が190MPa以上であることがより好ましく、200MPa以上であることがさらに好ましい。抗折強度の上限値は特に定めるものではないが、通常500MPa以下である。
【0016】
また、実施形態の酸化物焼結体は、各元素の原子比が、以下の式(1)~(3)を満たすことが好ましい。
0.08<In/(In+Ga+Zn)<0.31 ・・(1)
0.35<Ga/(In+Ga+Zn)<0.58 ・・(2)
0.23<Zn/(In+Ga+Zn)<0.46 ・・(3)
【0017】
これにより、酸化物焼結体の比抵抗を低減することができる。したがって、実施形態によれば、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安価なDC電源を用いたスパッタリングが可能となり、成膜レートを向上させることができる。
【0018】
また、実施形態の酸化物焼結体は、各元素の原子比が、以下の式(4)~(6)を満たすことが好ましく、
0.08<In/(In+Ga+Zn)≦0.20 ・・(4)
0.40≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.58 ・・(5)
0.25≦Zn/(In+Ga+Zn)<0.46 ・・(6)
各元素の原子比の原子比が、以下の式(7)~(9)を満たすことがより好ましく、
0.13<In/(In+Ga+Zn)≦0.19 ・・(7)
0.40≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.55 ・・(8)
0.27≦Zn/(In+Ga+Zn)<0.46 ・・(9)
各元素の原子比の原子比が、以下の式(10)~(12)を満たすことがより好ましく、
0.14≦In/(In+Ga+Zn)≦0.19 ・・(10)
0.41≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.53 ・・(11)
0.30≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.45 ・・(12)
各元素の原子比の原子比が、以下の式(13)~(15)を満たすことがさらに好ましい。
0.14<In/(In+Ga+Zn)≦0.18 ・・(13)
0.41≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.52 ・・(14)
0.31≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.45 ・・(15)
【0019】
これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、アーキングの発生を低減させることができる。
【0020】
また、実施形態の酸化物焼結体は、原料等に由来する不可避不純物が含まれ得る。実施形態の酸化物焼結体における不可避不純物としてはFe、Cr、Ni、Si、W、Cu、Al等があげられ、それらの含有量は各々通常100ppm以下である。
【0021】
また、実施形態の酸化物焼結体は、焼結体の断面観察において、ホモロガス構造化合物の平均面積円相当径が10μm以下であることが好ましく、ホモロガス構造化合物の平均アスペクト比が2.0以下であることが好ましい。これにより、酸化物焼結体内の結晶組織を微細化することができることから、酸化物焼結体の抗折強度を向上させることができる。
【0022】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、ホモロガス構造化合物の平均面積円相当径が8.0μm以下であることがより好ましく、7.0μm以下であることがさらに好ましく、6.0μm以下であることが一層好ましく、5.0μm以下であることがより一層好ましい。ホモロガス構造化合物の平均面積円相当径の下限値は特に定めるものではないが、通常2.0μm以上である。
【0023】
また、実施形態の酸化物焼結体は、ホモロガス構造化合物の平均アスペクト比が1.9以下であることがより好ましく、1.8以下であることがさらに好ましく、1.75以下であることが一層好ましい。ホモロガス構造化合物の平均アスペクト比の下限値は特に定めるものではないが、通常1.0以上である。
【0024】
また、実施形態の酸化物焼結体は、焼結体の断面観察において、スピネル構造化合物の平均面積円相当径が5.0μm以下であることが好ましく、スピネル構造化合物の平均アスペクト比が2.0以下であることが好ましい。これにより、酸化物焼結体内の結晶組織を微細化することができることから、酸化物焼結体の抗折強度を向上させることができる。
【0025】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、スピネル構造化合物の平均面積円相当径が4.5μm以下であることがより好ましく、4.0μm以下であることがさらに好ましく、3.8μm以下であることが一層好ましい。スピネル構造化合物の平均面積円相当径の下限値は特に定めるものではないが、通常2.0μm以上である。
【0026】
また、実施形態の酸化物焼結体は、スピネル構造化合物の平均アスペクト比が1.8以下であることがより好ましく、1.7以下であることがさらに好ましく、1.6以下であることが一層好ましい。スピネル構造化合物の平均アスペクト比の下限値は特に定めるものではないが、通常1.0以上である。
【0027】
また、実施形態の酸化物焼結体は、焼結体の断面観察において、スピネル構造化合物の面積率が15%以上であることが好ましい。これにより、酸化物焼結体の相対密度が高くなり、また抗折強度を向上させることができる。
【0028】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、スピネル構造化合物の面積率が25%以上であることがより好ましく、35%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが一層好ましく、45%以上であることがさらに一層好ましい。
【0029】
また、実施形態の酸化物焼結体は、スピネル構造化合物の面積率が80%以下であることが好ましい。これにより、酸化物焼結体の比抵抗を低減させることができる。
【0030】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、スピネル構造化合物の面積率が70%以下であることがより好ましく、65%以下であることがさらに好ましく、60%以下であることが一層好ましく、55%以下であることがさらに一層好ましい。
【0031】
また、実施形態の酸化物焼結体は、相対密度が99.5%以上であることが好ましい。これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、DCスパッタリングの放電状態を安定させることができる。
【0032】
相対密度が99.5%以上であると、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、スパッタリングターゲット中に空隙を少なくでき、大気中のガス成分の取り込みを防止しやすい。また、スパッタリング中に、かかる空隙を起点とした異常放電やスパッタリングターゲットの割れ等が生じにくくなる。
【0033】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、相対密度が99.8%以上であることがより好ましく、100.0%以上であることがさらに好ましく、100.5%以上であることが一層好ましく、101.0%以上であることがさらに一層好ましい。相対密度の上限値は特に定めるものではないが、通常105%である。
【0034】
また、実施形態の酸化物焼結体は、比抵抗が5.0×10-1Ω・cm以下であることが好ましい。これにより、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安価なDC電源を用いたスパッタリングが可能となり、成膜レートを向上させることができる。
【0035】
なお、実施形態の酸化物焼結体は、比抵抗が5.0×10-2Ω・cm以下であることがより好ましく、比抵抗が4.0×10-2Ω・cm以下であることがさらに好ましく、3.5×10-2Ω・cm以下であることが一層好ましい。比抵抗の下限値は特に定めるものではないが、通常1.0×10-4Ω・cm以上である。なお、実施形態の酸化物焼結体の比抵抗はJIS K 7194にしたがって測定することができる。
【0036】
<酸化物スパッタリングターゲットの各製造工程>
実施形態の酸化物スパッタリングターゲットは、たとえば以下に示すような方法により製造することができる。まず、原料粉末を混合する。原料粉末としては、通常In粉末、Ga粉末およびZnO粉末である。
【0037】
各原料粉末の混合比率は、酸化物焼結体における所望の構成元素比になるように適宜決定される。
【0038】
各原料粉末は、事前に乾式混合してもよい。かかる乾式混合の方法には特に制限はなく、たとえば、各原料粉末およびジルコニアボールをポットに入れて混合するボールミル混合を用いることができる。このように混合された混合粉末から成形体を作製する方法としては、たとえばスリップキャスト法や、CIP(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧加圧法)などが挙げられる。つづいて、成形方法の具体例として、2種類の方法についてそれぞれ説明する。
【0039】
(スリップキャスト法)
ここで説明するスリップキャスト法では、混合粉末と有機添加物とを含有するスラリーを、分散媒を用いて調製し、かかるスラリーを型に流し込んで分散媒を除去することにより成形を行う。ここで用いることができる有機添加物は、公知のバインダーや分散剤などである。
【0040】
また、スラリーを調製する際に用いる分散媒には特に制限はなく、目的に応じて、水やアルコールなどから適宜選択して用いることができる。また、スラリーを調製する方法にも特に制限はなく、たとえば、混合粉末と、有機添加物と、分散媒とをポットに入れて混合するボールミル混合を用いることができる。このようにして得られたスラリーを型に流し込み、分散媒を除去して成形体を作製する。ここで用いることができる型は、金属型や石膏型、加圧して分散媒除去を行う樹脂型などである。
【0041】
(CIP法)
ここで説明するCIP法では、混合粉末と有機添加物とを含有するスラリーを、分散媒を用いて調製し、かかるスラリーを噴霧乾燥して得られた乾燥粉末を型に充填して加圧成形を行う。ここで用いることができる有機添加物は、公知のバインダーや分散剤などである。
【0042】
また、スラリーを調製する際に用いる分散媒には特に制限はなく、目的に応じて、水やアルコールなどから適宜選択して用いることができる。また、スラリーを調製する方法にも特に制限はなく、たとえば、混合粉末と、有機添加物と分散媒とをポットに入れて混合するボールミル混合を用いることができる。
【0043】
このようにして得られたスラリーを噴霧乾燥して、含水率が1%以下の乾燥粉末を作製し、かかる乾燥粉末を型に充填してCIP法により加圧成形して、成形体を作製する。
【0044】
次に得られた成形体を焼成し、焼結体を作製する。かかる焼結体を作製する焼成炉には特に制限はなく、セラミックス焼結体の製造に使用可能である焼成炉を用いることができる。かかる焼成は、酸素が存在する雰囲気下で行うとよい。
【0045】
本発明において、焼成温度は1450℃以上が必要であり、1480℃以上であることが好ましい。焼成温度を1450℃以上とすることで本発明の高密度、高強度の焼結体を得ることができる。一方、焼結体の組織の肥大化を抑制して割れを防止する観点から、焼成温度は1600℃以下であることが好ましく、1550℃以下であることがさらに好ましい。
【0046】
次に得られた焼結体を切削加工する。かかる切削加工は、平面研削盤などを用いて行う。また、切削加工後の表面粗さRaは、切削加工に用いる砥石の砥粒の大きさを選定することにより、適宜制御することができる。
【0047】
切削加工した焼結体を基材に接合することによってスパッタリングターゲットを作製する。基材の材質にはステンレスや銅、チタンなどを適宜選択することができる。接合材にはインジウムなどの低融点半田を使用することができる。
【実施例
【0048】
[実施例1]
平均粒径が0.6μmであるIn粉末と、平均粒径が1.5μmであるGa粉末と、平均粒径が0.8μmであるZnO粉末とをポット中でジルコニアボールによりボールミル乾式混合して、混合粉末を調製した。
【0049】
なお、原料粉末の平均粒径は、日機装株式会社製の粒度分布測定装置HRAを用いて測定した。かかる測定の際、溶媒には水を使用し、測定物質の屈折率2.20で測定した。また、以下に記載の原料粉末の平均粒径についても同様の測定条件とした。なお、原料粉末の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50である。
【0050】
なお、かかる混合粉末の調製の際、すべての原料粉末に含まれる金属元素の原子比が、In:Ga:Zn=0.17:0.50:0.33となるように各原料粉末を配合した。
【0051】
次に、混合粉末が調製されたポットに、混合粉末に対して0.2質量%のバインダーと、混合粉末に対して0.6質量%の分散剤と、分散媒として混合粉末に対して20質量%の水とを加え、ボールミル混合してスラリーを調製した。
【0052】
次に、調製されたスラリーを、フィルターを挟んだ金属製の型に流し込み、排水して成形体を得た。次に、この成形体を焼成して焼結体を作製した。かかる焼成は酸素濃度が20%である雰囲気中、焼成温度1500℃、焼成時間8時間、昇温速度50℃/h、降温速度50℃/hで行った。
【0053】
次に、得られた焼結体を切削加工し、表面粗さRaが1.0μmである幅210mm×長さ710mm×厚さ6mmの酸化物焼結体を得た。なお、かかる切削加工には#170の砥石を使用した。
【0054】
[実施例2、3]
実施例1と同様な方法を用いて、酸化物焼結体を得た。なお、実施例2、3では、混合粉末の調製の際、すべての原料粉末に含まれる金属元素の原子比が、表1に記載の原子比となるように各原料粉末を配合した。
【0055】
[比較例1~4]
実施例1と同様な方法を用いて、酸化物焼結体を得た。なお、比較例1~4では、混合粉末の調製の際、すべての原料粉末に含まれる金属元素の原子比が、表1に記載の原子比となるように各原料粉末を配合した。
【0056】
なお、実施例1~3および比較例1~4において、各原料粉末を調製する際に計量した各元素の比率が、得られた酸化物焼結体における各元素の比率と等しいことをICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:誘導結合プラズマ発光分光法)により測定した。
【0057】
つづいて、上記にて得られた実施例1~3および比較例1~4の酸化物焼結体について、相対密度の測定を行った。かかる相対密度は、アルキメデス法に基づき測定した。
【0058】
具体的には、酸化物焼結体の空中質量を体積(焼結体の水中質量/計測温度における水比重)で除し、理論密度ρ(g/cm)に対する百分率の値を相対密度(単位:%)とした。
【0059】
また、かかる理論密度ρ(g/cm)は、酸化物焼結体の製造に用いた原料粉末の質量%および密度から算出した。具体的には、下記の式(7)により算出した。
ρ={(C/100)/ρ+(C/100)/ρ+(C3/100)/ρ-1 ・・(7)
【0060】
なお、上記式中のC~Cおよびρ~ρは、それぞれ以下の値を示している。
・C:酸化物焼結体の製造に用いたIn粉末の質量%
・ρ:Inの密度(7.18g/cm
・C:酸化物焼結体の製造に用いたGa粉末の質量%
・ρ:Gaの密度(5.95g/cm
・C:酸化物焼結体の製造に用いたZnO粉末の質量%
・ρ:ZnOの密度(5.60g/cm
【0061】
つづいて、上記にて得られた実施例1~3および比較例1~4のスパッタリングターゲット用酸化物焼結体について、それぞれ比抵抗(バルク抵抗)の測定を行った。
【0062】
具体的には、三菱化学株式会社製ロレスタ(登録商標)HP MCP-T410(直列4探針プローブ TYPE ESP)を用いて、加工後の酸化物焼結体の表面にプローブをあてて、AUTO RANGEモードで測定した。測定箇所は酸化物焼結体の中央付近および4隅の計5か所とし、各測定値の平均値をその焼結体のバルク抵抗値とした。
【0063】
つづいて、上記にて得られた実施例1~3および比較例1~4のスパッタリングターゲット用酸化物焼結体について、それぞれ抗折強度の測定を行った。かかる抗折強度は、ワイヤー放電加工により酸化物焼結体から切り出した試料片(全長36mm以上、幅4.0mm、厚さ3.0mm)を用い、JIS-R-1601(ファインセラミックスの曲げ強度試験方法)の3点曲げ強さの測定方法にしたがって測定した。
【0064】
つづいて、上記にて得られた実施例1~3および比較例1~4の酸化物焼結体について、それぞれX線回折(X-Ray Diffraction:XRD)測定を行い、X線回折チャートを得た。そして、得られたX線回折チャートにより、酸化物焼結体に含まれる構成相を同定した。
【0065】
なお、かかるX線回折測定の具体的な測定条件は以下の通りであった。
・装置:SmartLab(株式会社リガク製、登録商標)
・線源:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:30mA
・スキャン速度:5deg/min
・ステップ:0.02deg
・スキャン範囲:2θ=20度~80度
【0066】
つづいて、上記にて得られた実施例1~3および比較例1~4のスパッタリングターゲット用酸化物焼結体の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察するとともに、結晶の構成相や結晶形状の評価を行った。
【0067】
具体的には、酸化物焼結体を切断して得られた切断面を、エメリー紙#180、#400、#800、#1000、#2000を用いて段階的に研磨し、最後にバフ研磨して鏡面に仕上げた。
【0068】
その後、40℃のエッチング液(硝酸(60~61%水溶液、関東化学(株)製)、塩酸(35.0~37.0%水溶液、関東化学(株)製)および純水を体積比でHCl:HO:HNO=1:1:0.08の割合で混合)に2分間浸漬してエッチングを行った。
【0069】
そして、現れた面を走査型電子顕微鏡(SU3500、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察した。なお、結晶形状の評価では、倍率500倍、175μm×250μmの範囲のBSE-COMP像を無作為に10視野撮影し、図1に示すような組織のSEM画像を得た。
【0070】
図1は、実施例1における酸化物焼結体のSEM画像である。なお、図1において、色が薄い結晶がホモロガス構造化合物であり、色が濃い結晶がスピネル構造化合物である。
【0071】
また、粒子解析には、アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)が提供する画像処理ソフトウェアImageJ 1.51k(http://imageJ.nih.gov/ij/)を用いた。
【0072】
まず、上記にて得られたBSE-COMP像を、ホモロガス構造化合物の粒界に沿って描画を行い、全ての描画が完了した後、画像補正(Image→Adjust→Threshold)を行い、スピネル構造化合物を除去した。画像補正後に残ったノイズは、必要に応じて除去(Process→Noise→Despeckle)を行った。
【0073】
その後、粒子解析を実施(Analyze→Analyze Particles)して、各粒子における面積、アスペクト比を得た。その後、得られた各粒子における面積から、面積円相当径を算出した。10視野において算出された全粒子のそれらの平均値を、本発明におけるホモロガス構造化合物(なお、表1ではIGZO相と記載する。)の平均面積円相当径、平均アスペクト比とした。
【0074】
次に、上記にて得られたBSE-COMP像を、スピネル構造化合物の粒界に沿って描画を行い、全ての描画が完了した後、画像補正(Image→Adjust→Threshold)を行い、ホモロガス構造化合物を除去した。画像補正後に残ったノイズは、必要に応じて除去(Process→Noise→Despeckle)を行った。
【0075】
その後、粒子解析を実施(Analyze→Analyze Particles)して、各粒子における面積、アスペクト比を得た。その後、得られた各粒子における面積から、面積円相当径を算出した。10視野において算出された全粒子のそれらの平均値を、本発明におけるスピネル構造化合物(なお、表1ではGZO相と記載する。)の平均面積円相当径、平均アスペクト比とした。
【0076】
ここで、上述の実施例1~3および比較例1~4について、混合粉末の際に含有する各元素の原子比と、酸化物焼結体の相対密度、比抵抗(バルク抵抗)、抗折強度、構成相、ホモロガス構造化合物(IGZO相)およびスピネル構造化合物(GZO相)の平均面積円相当径および平均アスペクト比、およびスピネル構造化合物(GZO相)の面積率の測定結果とを表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例1~3の酸化物焼結体は、相対密度がすべて99.5%以上であることがわかる。したがって、実施形態によれば、かかる酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、DCスパッタリングの放電状態を安定させることができる。
【0079】
また、実施例1~3の酸化物焼結体は、比抵抗がすべて5.0×10-1Ωcm以下であることがわかる。したがって、実施形態によれば、酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いた場合に、安価なDC電源を用いたスパッタリングが可能となり、成膜レートを向上させることができる。
【0080】
また、実施例1~3の酸化物焼結体は、抗折強度がすべて180MPa以上であることがわかる。したがって、実施形態によれば、かかる酸化物焼結体を用いてスパッタリングターゲットを製造する際や、かかるスパッタリングターゲットでスパッタリングを行う際に、酸化物焼結体が破損することを抑制することができる。
【0081】
また、実施例1~3の酸化物焼結体は、InGaZnOまたはInGaZnで表されるホモロガス構造化合物と、ZnGaで表されるスピネル構造化合物とを含んでいることがわかる。したがって、実施形態によれば、抗折強度が高いIGZO酸化物焼結体を実現することができる。
【0082】
また、実施例1~3と比較例2、3との比較により、InGaO(ZnO)(mは整数)で表されるホモロガス構造化合物のうち、mが3以上で表されるホモロガス構造化合物が含まれることによって、抗折強度が低下していることがわかる。
【0083】
また、InGaZnOまたはInGaZnで表されるホモロガス構造化合物を含むとともに、上記の式(1)~(3)に示した範囲でIn、GaおよびZnを含有する実施例1~3と、かかる範囲でIn、GaまたはZnを含有しない比較例4との比較により、かかる範囲でIn、GaおよびZnを含有することによって、比抵抗が5.0×10-1Ωcm以下に低減していることがわかる。
【0084】
また、スピネル構造化合物の面積率が80%以下である実施例1~3と、スピネル構造化合物の面積率が80%より大きい比較例4との比較により、スピネル構造化合物の面積率を80%以下にすることによって、比抵抗が低減していることがわかる。
【0085】
また、実施例1~3の酸化物焼結体は、ホモロガス構造化合物の平均面積円相当径がすべて10μm以下であり、また、ホモロガス構造化合物の平均アスペクト比が2.0以下であることがわかる。これにより、酸化物焼結体内の結晶組織を微細化することができることから、酸化物焼結体の抗折強度を向上させることができる。
【0086】
また、実施例1~3の酸化物焼結体は、スピネル構造化合物の平均面積円相当径がすべて5μm以下であり、また、スピネル構造化合物の平均アスペクト比が2.0以下であることがわかる。これにより、酸化物焼結体内の結晶組織を微細化することができることから、酸化物焼結体の抗折強度を向上させることができる。
【0087】
また、実施例1~3の酸化物焼結体は、スピネル構造化合物の面積率がすべて15%以上であることがわかる。これにより、酸化物焼結体の抗折強度を向上させることができる。
【0088】
次に、上述の実施例1~3および比較例1~4の酸化物焼結体各10枚について、基材にIn半田を用いて接合を行った。その結果、実施例1~3および比較例1の酸化物焼結体に割れは見られなかった。一方、比較例2~4の酸化物焼結体にはそれぞれ3枚、4枚、2枚の割れが見られた。
【0089】
次に、上述の実施例1~3および比較例2、3の酸化物焼結体を用いてスパッタリングを行い、アーキングの発生量からターゲットの評価を行った。なお、比較例1、4の酸化物焼結体は比抵抗が高くDCスパッタリングができなかった。
(スパッタリング条件)
装置:DCマグネトロンスパッタ装置、排気系クライオポンプ、ロータリーポンプ
到達真空度:3×10-6Pa
スパッタ圧力:0.4Pa
酸素分圧:1×10-3Pa
投入電力量時間:2W/cm
時間:10時間
(アーキングカウンター)
型式:μArc Moniter MAM Genesis MAM データコレクター Ver.2.02
(LANDMARK TECHNOLOGY社製)
(アーキング評価)
A:20回以下
B:21~50回
C:51~100回
D:101回以上
【0090】
また、スパッタリング後に酸化物焼結体の割れの確認も行った。上記評価結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
各元素の原子比が式(7)~(9)を満たす実施例1、2と、各元素の原子比の原子比が式(7)~(9)を満たさない比較例2、3との比較により、各元素の原子比が式(7)~(9)を満たすことによって、アーキングおよび酸化物焼結体の割れの発生が低減していることがわかる。
【0093】
また、各元素の原子比が式(13)~(15)を満たす実施例1と、各元素の原子比が式(13)~(15)を満たさない実施例2との比較により、各元素の原子比が式(13)~(15)を満たすことによって、アーキングの発生がさらに低減していることがわかる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。たとえば、実施形態では、板状の酸化物焼結体を用いてスパッタリングターゲットが作製された例について示したが、酸化物焼結体の形状は板状に限られず、円筒状など、どのような形状であってもよい。
【0095】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
図1