(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】センサシステムの検査装置および検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/958 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
G01N21/958
(21)【出願番号】P 2020531273
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2019027545
(87)【国際公開番号】W WO2020017429
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2018134898
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 重之
(72)【発明者】
【氏名】綿野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】岡村 俊亮
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0006573(US,A1)
【文献】特開平10-142335(JP,A)
【文献】特開平3-28748(JP,A)
【文献】特開平11-160250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-G01N 21/958
G01B 11/00-G01B 11/30
G01M 11/00-G01M 11/08
G01S 7/48-G01S 7/51
G01S 17/00-G01S 17/95
G01C 3/00-G01C 3/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出光を出射する発光素子、当該検出光の通過を許容する透光カバー、および当該検出光の出射方向を少なくとも第一方向に変化させる走査機構を備えているセンサシステムの検査装置であって、
少なくとも前記第一方向に沿って配列された複数の検査受光素子を備えており、前記透光カバーを通過した前記検出光の光路上に配置される受光装置と、
前記複数の検査受光素子に含まれる特定の検査受光素子が正常に前記検出光を受光していない場合、前記透光カバーにおける当該特定の検査受光素子に向けて出射された前記検出光が通過した部分の異常を示す判定結果を出力するプロセッサと、
を備えており、
前記複数の検査受光素子に含まれる特定の検査受光素子に向けて出射された前記検出光が前記複数の検査受光素子に含まれる別の検査受光素子により受光された場合、前記プロセッサは、前記特定の検査受光素子に向けて出射された前記検出光が前記透光カバーにおける異常によってどのように進路を変えたのかを含む判定結果を出力
し、
前記複数の検査受光素子に含まれる特定の検査受光素子へ向けて出射された前記検出光が前記複数の検査受光素子のいずれによっても受光されない場合、前記プロセッサは、前記複数の検査受光素子が前記第一方向と交差する第二方向へ移動された後、前記特定の検査受光素子の当初の位置へ向けて、前記発光素子に前記検出光を再度出射させる、
検査装置。
【請求項2】
前記判定結果が前記透光カバーにおける異常の存在を示す場合、前記プロセッサは、前記センサシステムによる検出結果を補正するためのデータを出力する、
請求項
1に記載の検査装置。
【請求項3】
検出光を出射する発光素子、当該検出光の通過を許容する透光カバー、および当該検出光の出射方向を少なくとも第一方向に変化させる走査機構を備えているセンサシステムの検査方法であって、
少なくとも前記第一方向に沿って配列された複数の検査受光素子を備えた受光装置を、前記透光カバーを通過した前記検出光の光路上に配置するステップと、
前記発光素子に前記検出光を出射させるステップと、
前記走査機構に前記検出光を少なくとも前記第一方向に走査させるステップと、
前記複数の検査受光素子に含まれる特定の検査受光素子が正常に前記検出光を受光していない場合、前記透光カバーにおける当該特定の検査受光素子に向けて出射された前記検出光が通過した部分の異常を示す判定結果を出力するステップと、
前記複数の検査受光素子に含まれる特定の検査受光素子に向けて出射された前記検出光が前記複数の検査受光素子に含まれる別の検査受光素子により受光された場合、前記特定の検査受光素子に向けて出射された前記検出光が前記透光カバーにおける異常によってどのように進路を変えたのかを含む判定結果を出力するステップと、
前記複数の検査受光素子に含まれる特定の検査受光素子へ向けて出射された前記検出光が前記複数の検査受光素子のいずれによっても受光されない場合、前記複数の検査受光素子が前記第一方向と交差する第二方向へ移動された後、前記特定の検査受光素子の当初の位置へ向けて、前記発光素子に前記検出光を再度出射させるステップと、
を含んでいる、
検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサシステムの検査装置および検査方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両に搭載されるセンサシステムを開示している。当該センサシステムは、LiDAR(Light Detecting and Ranging)センサを用いている。LiDARセンサは、発光素子と受光素子を備えている。発光素子は、車両の外部へ向けて検出光を出射する。検出光は車両の外部に位置する物体によって反射され、反射光として受光素子に入射する。例えば、発光素子より検出光が出射されてから受光素子に反射光が入射するまでの時間に基づいて、当該反射光を生じた物体までの距離が検出されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許出願公開2018-049014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光素子と受光素子は、透光カバーによって覆われている。したがって、検出光と反射光は、透光カバーを通過する。例えば透光カバーの一部に傷がついた場合や変形が生じた場合、当該部分を通過する検出光が異常屈折し、本来の進行方向から逸脱する可能性がある。この場合、本来の進行方向上に位置する物体の情報を検出できなくなり、センサシステムの情報検出精度が低下する。
【0005】
したがって、発光素子から出射された検出光が通過する透光カバーに異常が生じた際に、センサシステムの情報検出精度の低下を抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の要求に応えるための一態様は、検出光を出射する発光素子、当該検出光の通過を許容する透光カバー、および当該検出光の出射方向を少なくとも第一方向に変化させる走査機構を備えているセンサシステムの検査装置であって、
少なくとも前記第一方向に沿って配列された複数の検査受光素子を備えており、前記透光カバーを通過した前記検出光の光路上に配置される受光装置と、
前記複数の検査受光素子の各々が正常に前記検出光を受光したか否かに基づいて、前記透光カバーにおける異常の有無を示す判定結果を出力するプロセッサと、
を備えている。
【0007】
上記の要求に応えるための一態様は、検出光を出射する発光素子、当該検出光の通過を許容する透光カバー、および当該検出光の出射方向を少なくとも第一方向に変化させる走査機構を備えているセンサシステムの検査方法であって、
少なくとも前記第一方向に沿って配列された複数の検査受光素子を備えた受光装置を、前記透光カバーを通過した前記検出光の光路上に配置するステップと、
前記発光素子に前記検出光を出射させるステップと、
前記走査機構に前記検出光を少なくとも前記第一方向に走査させるステップと、
前記複数の検査受光素子の各々が正常に前記検出光を受光したか否かに基づいて、前記透光カバーにおける異常の有無を示す判定結果を出力するステップと、
を含んでいる。
【0008】
上記のような検査装置と検査方法によれば、透光カバーを通過する検出光の光路上に受光装置を配置し、センサシステムに検出動作を実行させるという簡単な手法により、透光カバーにおける異常の有無を検出できる。透光カバーに異常が検出された場合、交換や補修などの適当な対策を講じることができる。したがって、センサシステムの情報検出精度の低下を抑制できる。
【0009】
上記の検査装置は、以下のように構成されうる。
前記プロセッサは、前記検出光の出射方向と前記受光装置における当該検出光の受光位置の関係に基づいて、前記透光カバーにおける異常の有無を示す判定結果を出力する。
【0010】
このような構成によれば、判定結果は、より詳細な情報を含みうる。例えば、本来は特定の検査受光素子に入射すべきであった検出光が、透光カバーの異常によってどのように進路を変えたのかについての情報を含みうる。
【0011】
この場合、上記の検査装置は、以下のように構成されうる。
前記複数の検査受光素子の一つへ向けて出射された前記検出光がいずれの検査受光素子によっても受光されない場合、前記プロセッサは、受光装置の位置を変更した後、前記複数の検査受光素子の一つの当初の位置へ向けて、前記発光素子に前記検出光を再度出射させる。
【0012】
このような構成によれば、透光カバーの異常によって屈折された検出光の進行方向がより広範囲にわたる場合においても、透光カバーの異常に係る情報を取得できる。
【0013】
この場合、上記の検査装置は、以下のように構成されうる。
前記判定結果が前記透光カバーにおける異常の存在を示す場合、前記プロセッサは、前記センサシステムによる検出結果を補正するためのデータを出力する。
【0014】
このような構成によれば、発光素子から出射される検出光の通過を許容する透光カバーに異常が検出された場合においても、透光カバーの交換や補修を伴わずに、センサシステムの情報検出精度の低下を抑制できる。
【0015】
上記の検査装置は、以下のように構成されうる。
前記複数の検査受光素子は、二次元的に配列されている。
【0016】
このような構成によれば、透光カバーの異常によって屈折された検出光の進行方向がより広範囲にわたる場合においても、透光カバーの異常に係る情報の取得が容易になる。また、検出光が二次元的に走査されるセンサシステムにも容易に対応が可能である。
【0017】
本明細書において用いられる「光」という語は、所望の情報を検出可能な任意の波長を有する電磁波を意味する。例えば、本明細書における「光」という語は、可視光のみならず、紫外光や赤外光、ミリ波やマイクロ波を含む意味で用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】検査装置によって検査されるセンサシステムの構成を例示している。
【
図2】一実施形態に係る検査装置の構成を例示している。
【
図3】
図2の検査装置を用いた検査方法を例示するフローチャートである。
【
図4A】
図2の検査装置を用いた検査方法を例示している。
【
図4B】
図2の検査装置を用いた検査方法を例示している。
【
図4C】
図2の検査装置の構成の別例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例について以下詳細に説明する。以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0020】
図1は、一実施形態に係る検査装置によって検査されるセンサシステム100の構成を例示している。センサシステム100は、LiDARセンサユニット110と透光カバー120を備えている。センサシステム100は、例えば車両に搭載される。その場合、LiDARセンサユニット110は、運転支援のために当該車両の外部の情報を検出する。透光カバー120は、当該車両の外面の一部を形成する。
【0021】
本明細書において用いられる「センサユニット」という語は、所望の情報検出機能を備えつつ、それ自身が単体で流通可能な部品の構成単位を意味する。
【0022】
本明細書において用いられる「運転支援」という語は、運転操作(ハンドル操作、加速、減速)、走行環境の監視、および運転操作のバックアップの少なくとも一つを少なくとも部分的に行なう制御処理を意味する。すなわち、衝突被害軽減ブレーキ機能やレーンキープアシスト機能のような部分的な運転支援から完全自動運転動作までを含む意味である。
【0023】
LiDARセンサユニット110は、発光素子111、受光素子112、および走査機構113を備えている。透光カバー120は、少なくとも発光素子111と受光素子112を覆っている。
【0024】
発光素子111は、検出光L1を出射するように構成されている。検出光L1としては、例えば波長905nmの赤外光が使用されうる。発光素子111としては、レーザダイオードや発光ダイオードなどの半導体発光素子が使用されうる。
【0025】
発光素子111から出射された検出光L1は、透光カバー120を通過する。検出光L1は、透光カバー120の外側にある物体Tにより反射され、反射光L2として透光カバー120を再度通過し、受光素子112に入射する。
【0026】
受光素子112は、入射した光量に応じた受光信号S1を出力するように構成されている。受光素子112としては、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトレジスタなどが使用されうる。LiDARセンサユニット110は、受光信号S1を増幅するための不図示の増幅回路を備えうる。
【0027】
走査機構113は、検出光L1の出射方向を第一方向D1に変化させる。第一方向D1は、例えば車両の上下方向と交差する向きである。検出光L1の可動範囲は、透光カバー12の外側において検出領域を定める。検出光L1の第一方向D1に沿う変位に伴って、検出領域が走査される。
【0028】
走査機構113は、様々な周知の手法により実現されうる。例えば、発光素子111を支持する支持体をMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)機構によって変位させることにより、検出光L1の出射方向が直接的に変更されうる。あるいは、固定された発光素子111から出射された検出光L1を、ポリゴンミラーやロータリーブレードのような回転光学系で反射することによって、検出光L1の出射方向が間接的に変更されうる。
【0029】
センサシステム100は、プロセッサ130を備えている。後述するプロセッサ130の機能は、メモリと協働して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されてもよいし、マイクロコントローラ、FPGA、ASICなどの専用集積回路によって実現されてもよい。
【0030】
プロセッサ130は、車両における任意の位置に配置されうる。プロセッサ130は、車両における中央制御処理を担うメインECUの一部として提供されてもよいし、メインECUとLiDARセンサユニット110の間に介在するサブECUの一部として提供されてもよい。あるいは、プロセッサ130は、LiDARセンサユニット110に内蔵されうる。
【0031】
プロセッサ130は、所望のタイミングで発光素子111に検出光L1を出射させる制御信号S2を出力する。また、プロセッサ130は、走査機構113に制御信号S3を出力し、検出光L1の出射方向を第一方向D1に変化させる。プロセッサ130は、受光素子112から出力された受光信号S1を受信する。
【0032】
プロセッサ130は、発光素子111より検出光L1が出射されてから受光素子112に反射光L2が入射するまでの時間に基づいて、反射光L2を生じた物体Tまでの距離を算出する。そのように算出された距離に係るデータを、走査機構113によって変更される検出光L1の照射方向と関連付けて蓄積することにより、反射光L2に関連付けられた物体Tの形状に係る情報を取得できる。
【0033】
これに加えてあるいは代えて、プロセッサ130は、検出光L1と反射光L2の波形の相違に基づいて、反射光L2に関連付けられた物体の材質などの属性に係る情報を取得できる。波形の相違に係るデータを、走査機構113によって変更される検出光L1の照射方向と関連付けて蓄積することにより、反射光L2に関連付けられた物体Tの表面状態に係る情報を取得できる。
【0034】
図2は、上記のように構成されたセンサシステム100を検査するための検査装置200の構成を例示している。検査装置200は、受光装置210と検査プロセッサ220を備えている。
【0035】
受光装置210は、複数の検査受光素子を備えている。本例においては、受光装置210は、七つの検査受光素子211a~211gを備えている。検査受光素子211a~211gは、第一方向D1に沿って配列されている。複数の検査受光素子の数は、LiDARセンサユニット110の第一方向D1における分解能に応じて適宜に定められうる。
【0036】
検査受光素子211a~211gの各々は、透光カバー120を通過した検出光L1の光路上に配置される。検査受光素子211a~211gの各々は、入射した光量に応じた受光信号を出力するように構成されている。検査受光素子211a~211gの各々としては、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトレジスタなどが使用されうる。検査受光素子211a~211gの各々は、LiDARセンサユニット110の受光素子112と同じ仕様を有することが好ましい。
【0037】
検査受光素子211a~211gの各々から出力された受光信号は、検査プロセッサ220に入力される。検査プロセッサ220は、検査受光素子211a~211gの各々から出力された受光信号に基づいて、検査受光素子211a~211gの各々が検出光L1を正常に受信したか否かを判断する。
【0038】
図示された例においては、符号L1aで示される方向へ出射された検出光L1は、透光カバー120を通過し、検査受光素子211aへ正常に入射している。したがって、検査プロセッサ220は、検査受光素子211aが正常に検出光L1を受光したと判断する。
【0039】
同様に、符号L1bで示される方向へ出射された検出光L1は、透光カバー120を通過し、検査受光素子211bへ正常に入射している。したがって、検査プロセッサ220は、検査受光素子211bが正常に検出光L1を受光したと判断する。
【0040】
符号L1cで示される方向へ出射された検出光L1は、破線で示されるように、正常に透光カバー120を通過すれば、検査受光素子211cへ入射する。しかしながら、本例においては、透光カバー120における傷や変形などにより検出光L1が異常屈折し、検査受光素子211aに入射している。この場合、検査プロセッサ220は、検査受光素子211cが正常に検出光L1を受光しなかったと判断する。
【0041】
符号L1dで示される方向へ出射された検出光L1は、透光カバー120を通過し、検査受光素子211dへ正常に入射している。したがって、検査プロセッサ220は、検査受光素子211dが正常に検出光L1を受光したと判断する。
【0042】
符号L1eで示される方向へ出射された検出光L1は、破線で示されるように、正常に透光カバー120を通過すれば、検査受光素子211eへ入射する。しかしながら、本例においては、透光カバー120における傷や変形などにより検出光L1が異常屈折し、検査受光素子211eの上方を通過している。この場合、検査プロセッサ220は、検査受光素子211eが正常に検出光L1を受光しなかったと判断する。
【0043】
符号L1fで示される方向へ出射された検出光L1は、透光カバー120を通過し、検査受光素子211fへ入射している。しかしながら、本例においては、一点鎖線で示されるように、透光カバー120における傷や変形などに起因して検出光L1の光量が低下している。したがって、検査プロセッサ220は、検査受光素子211fが正常に検出光L1を受光しなかったと判断する。
【0044】
符号L1gで示される方向へ出射された検出光L1は、透光カバー120を通過し、検査受光素子211gへ正常に入射している。したがって、検査プロセッサ220は、検査受光素子211gが正常に検出光L1を受光したと判断する。
【0045】
検査プロセッサ220は、検査受光素子211a~211gの各々が検出光L1を正常に受信したか否かに基づいて、透光カバー120における異常の有無を示す判定結果を出力する。判定結果Rは、単に異常があることを示すだけでもよいし、具体的な異常箇所を示してもよい。本例の場合、後者の判定結果は、符号L1cで示される方向へ出射された検出光L1が通過する透光カバー120の一部、符号L1eで示される方向へ出射された検出光L1が通過する透光カバー120の一部、および符号L1fで示される方向へ出射された検出光L1が通過する透光カバー120の一部に何らかの異常が存在するという情報を含む。
【0046】
検査プロセッサ220は、センサシステム100のプロセッサ130と通信可能に接続される。検査プロセッサ220は、発光素子111による検出光L1の出射と走査機構113による検出光L1の出射方向の変更を、プロセッサ130を介して行なわせることができる。
【0047】
図3を参照しつつ、上記のように構成された検査装置200を用いてセンサシステム100を検査する方法を説明する。
【0048】
まず、センサシステム100の透光カバー120と対向するように、受光装置210が配置される(STEP1)。具体的には、第一方向D1に沿って配列された検査受光素子211a~211gが透光カバー120を通過した検出光L1の光路上に配置されるように、受光装置210が配置される。
【0049】
続いて、検査プロセッサ220は、センサシステム100のプロセッサ130に制御信号S2、S3を出力させ、発光素子111に検出光L1を出射させるとともに、走査機構113に検出光L1の出射方向を第一方向D1に変化させる(STEP2)。
【0050】
次に、検査プロセッサ220により、全ての検査受光素子211a~211gが検出光L1を正常に受光したかの判断が行なわれる(STEP3)。当該判断は、検査受光素子211a~211gの各々から出力された受光信号のレベルに基づいて行なわれる。
【0051】
透光カバー120に異常がなければ、第一方向D1に走査される検出光L1は、全ての検査受光素子211a~211gへ順に入射する。したがって、全ての検査受光素子211a~211gの各々から、正常なレベルの受光信号が検査プロセッサ220へ入力される(STEP3においてY)。
【0052】
この場合、検査プロセッサ220は、透光カバー120に異常がないことを示す判定結果Rを出力する(STEP4)。
【0053】
前述した
図2に示される例においては、検査受光素子211cと検査受光素子211eから受光信号が出力されない。また、検査受光素子211fから出力される受光信号のレベルは、正常値よりも低くなる。したがって、検査受光素子211c、検査受光素子211e、および検査受光素子211fにおいて正常な受光がなされていないと判断される(STEP3においてN)。
【0054】
この場合、検査プロセッサ220は、透光カバー120に異常があることを示す判定結果Rを出力する(STEP5)。
【0055】
上記のような構成によれば、透光カバー120を通過する検出光L1の光路上に受光装置210を配置し、センサシステム100に検出動作を実行させるという簡単な手法により、透光カバー120における異常の有無を検出できる。透光カバー120に異常が検出された場合、交換や補修などの適当な対策を講じることができる。したがって、センサシステム100の情報検出精度の低下を抑制できる。
【0056】
前述の方法においては、検査プロセッサ220により出力される判定結果Rは、透光カバー120における異常の有無、あるいは正常な受光がなされなかった検査受光素子に対応する透光カバー120上の位置を情報として含みうる。しかしながら、判定結果Rは、より詳細な情報を含みうる。具体的には、本来は特定の検査受光素子に入射すべきであった検出光L1が、透光カバー120の異常によってどのように進路を変えたのかについての情報を含みうる。
【0057】
検査プロセッサ220は、センサシステム100のプロセッサ130を介して発光素子111と走査機構113を制御するので、検出光L1の出射方向と受光装置210における当該検出光L1の受光位置の関係を予め把握している。例えば、検出光L1が符号L1aで示される方向へ出射されたときは、検査受光素子211aにより受光がなされるという対応関係が、検査プロセッサ220によって保持されている。
【0058】
検査プロセッサ220は、このような対応関係に基づいて、マッピングを行ないうる。具体的には、ある検査受光素子に向かって出射された検出光L1がどの検査受光素子によって実際に受光されたのかを示す情報、およびどの検査受光素子に向かって出射された検出光L1の光量が低下したのかを示す情報を含むマップの作成が行なわれる。
【0059】
図4Aは、作成されるマップMを例示している。マップMは、第一方向D1に対応する向きに配列された七つのサイトSa~Sgを含んでいる。これらは、七つの検査受光素子211a~211gに対応付けられている。
【0060】
図2に示された例においては、符号L1aで示される方向へ出射された検出光L1は、正常に検査受光素子211aに入射している。マップMにおいては、サイトSaが検査受光素子211aに対応している。サイトSaは、異常を示す情報を含まない。
【0061】
同様に、符号L1bで示される方向へ出射された検出光L1は、正常に検査受光素子211bに入射している。符号L1dで示される方向へ出射された検出光L1は、正常に検査受光素子211dに入射している。符号L1gで示される方向へ出射された検出光L1は、正常に検査受光素子211gに入射している。マップMにおいては、サイトSb、サイトSd、およびサイトSgが、それぞれ検査受光素子211b、検査受光素子211d、および検査受光素子211gに対応している。サイトSb、サイトSd、およびサイトSgの各々は、異常を示す情報を含まない。
【0062】
図2に示された例においては、符号L1cで示される方向へ出射された検出光L1は、異常屈折により検査受光素子211aに入射している。マップMにおいては、サイトScが検査受光素子211cに対応している。サイトScは、サイトSaと関連付けられた異常情報を含む。当該情報は、検査受光素子211cに向けて出射された検出光L1は、検査受光素子211aに入射することを示している。すなわち、当該情報は、符号L1cで示される方向へ出射された検出光L1が通過する透光カバー120の一部が、検出光L1を検査受光素子211aへ向かう方向へ屈折させる異常を有していることを示している。
【0063】
図2に示された例においては、符号L1fで示される方向へ出射された検出光L1は、光量が低下した状態で検査受光素子211fに入射している。マップMにおいては、サイトSfが検査受光素子211fに対応している。サイトSfは、光量低下に係る異常情報を含む。当該情報は、検査受光素子211fに向けて出射された検出光L1は、光量が低下することを示している。すなわち、当該情報は、符号L1fで示される方向へ出射された検出光L1が通過する透光カバー120の一部が、検出光L1の光量を低下させる異常を有していることを示している。
【0064】
検査プロセッサ220は、全ての検査受光素子211a~211gについてマッピングが完了したかを判断する(
図3におけるSTEP6)。
【0065】
図2に示された例においては、符号L1eで示される方向へ出射された検出光L1は、異常屈折により検査受光素子211eの上方を通過している。すなわち、七つの検査受光素子211a~211gのいずれにも入射していない。したがって、異常屈折した検出光L1の行方についての情報が得られず、マッピングが完了しない(STEP6においてN)。
【0066】
この場合、検査プロセッサ220は、再検査を実行する(STEP7)。具体的には、
図4Bに例示されるように、受光装置210の位置が第二方向D2に沿って上方または下方に変更される。符号UPは、上方へ移動された受光装置210の位置を示している。符号LPは、下方へ移動された受光装置210の位置を示している。受光装置210の移動は、検査プロセッサ220によって制御される不図示のアクチュエータによって行なわれてもよいし、手作業で行なわれてもよい。
【0067】
続いて検査プロセッサ220は、検査受光素子211eの当初の位置へ向けて、発光素子111に検出光L1を出射させる。
図2における符号L1eで示される方向へ出射された検出光L1は、透光カバー120により上方へと屈折し、符号UPで示される位置にある検査受光素子211eに入射する。
【0068】
図4Aに例示されるマップMは、第一方向D1に対応する向きに配列された七つのサイトSa1~Sg1をさらに含んでいる。七つのサイトSa1~Sg1は、第二方向D2に対応する向きに七つのサイトSa~Sgと並ぶように配列されている。第二方向D2は、例えば車両の上下方向に対応する向きである。七つのサイトSa1~Sg1は、七つのサイトSa~Sgの上方に位置している。七つのサイトSa1~Sg1は、符号UPで示される位置にある七つの検査受光素子211a~211gに対応している。
【0069】
マップMは、第一方向D1に対応する向きに配列された七つのサイトSa2~Sg2をさらに含んでいる。七つのサイトSa2~Sg2は、第二方向D2に対応する向きに七つのサイトSa~Sgと並ぶように配列されている。七つのサイトSa2~Sg2は、七つのサイトSa~Sgの下方に位置している。七つのサイトSa2~Sg2は、符号DPで示される位置にある七つの検査受光素子211a~211gに対応している。
【0070】
すなわち、マップMにおいては、サイトSeが検査受光素子211eに対応しており、サイトSe1が符号UPで示される位置にある検査受光素子211eに対応している。サイトSeは、サイトSe1と関連付けられた異常情報を含む。当該情報は、検査受光素子211eに向けて出射された検出光L1は、符号UPで示される位置にある検査受光素子211eに入射することを示している。すなわち、当該情報は、符号L1eで示される方向へ出射された検出光L1が通過する透光カバー120の一部が、検出光L1を符号UPで示される検査受光素子211eへ向かう方向へ屈折させる異常を有していることを示している。
【0071】
処理はSTEP6に戻り、検査プロセッサ220によって、再検査の結果としてマッピングが完了したかが判断される。本例においては、受光装置210の上方への移動によりマッピングが完了している(STEP6においてY)。したがって、処理はSTEP5に進み、検査プロセッサ220は、透光カバー120に異常があることを示す判定結果Rを出力する。
【0072】
例えば受光装置210を上方へ移動しても検出光L1がいずれの検査受光素子にも入射しない場合、マッピングは完了しない(STEP6においてN)。この場合、受光装置210の位置が符号LPで示される位置へ変更される。あるいは、さらに上方へ受光装置210が移動されうる。マッピングが完了するまで、このような検査受光素子の位置変更が繰り返される。
【0073】
このような構成によれば、透光カバー120の異常によって屈折された検出光L1の進行方向がより広範囲にわたる場合においても、透光カバー120の異常に係る情報を取得できる。
【0074】
屈折された検出光L1の受光をより広範囲にわたって可能にするためには、
図4Cに例示されるような受光装置210Aが使用されうる。受光装置210Aにおいては、複数の検査受光素子が二次元的に配列されている。
【0075】
具体的には、受光装置210Aは、第一方向D1に配列された七つの検査受光素子212a~212gをさらに備えている。七つの検査受光素子212a~212gは、第二方向D2に七つの検査受光素子211a~211gと並ぶように配列されている。七つの検査受光素子212a~212gは、七つの検査受光素子211a~211gの上方に位置している。
図4Aに例示される七つのサイトSa1~Sg1は、七つの検査受光素子212a~212gに対応している。
【0076】
受光装置210Aは、第一方向D1に配列された七つの検査受光素子213a~213gをさらに備えている。七つの検査受光素子213a~213gは、第二方向D2に七つの検査受光素子211a~211gと並ぶように配列されている。七つの検査受光素子213a~213gは、七つの検査受光素子211a~211gの下方に位置している。
図4Aに例示される七つのサイトSa2~Sg2は、七つの検査受光素子213a~213gに対応している。
【0077】
センサシステム100の走査機構113は、検出光L1の出射方向を第一方向D1だけでなく第二方向D2へも変更するように構成されうる。上記のような受光装置210Aによれば、このように検出光L1が二次元的に走査されるセンサシステムにも容易に対応が可能である。
【0078】
図3に例示されるように、判定結果Rが透光カバー120における異常の存在を示す場合、検査プロセッサ220は、センサシステム100による検出結果を補正するためのデータを出力しうる(STEP8)。当該データは、マップMに基づいて作成されうる。
【0079】
図4Aに示される例においては、マップMは、検査受光素子211cに対応する方向へ出射された検出光L1が検査受光素子211aの位置へ向かうことを示している。この場合、当該検出光L1に基づいて生ずる反射光L2により検出される情報は、検査受光素子211cに対応する方向に位置する物体のものではなく、検査受光素子211aに対応する方向に位置する物体のものになる。このような検出結果の補正例としては、検査受光素子211cに対応する方向へ出射された検出光L1に基づく検出結果を採用しないことが挙げられる。
【0080】
同例において、マップMは、検査受光素子211eに対応する方向へ出射された検出光L1がより上方の位置へ向かうことを示している。この場合、当該検出光L1に基づいて生ずる反射光L2により検出される情報は、検査受光素子211eに対応する方向に位置する物体のものではなく、検査受光素子211eの上方に位置する物体のものになる。このような検出結果の補正例としては、検査受光素子211eに対応する方向へ出射された検出光L1に基づく検出結果を、より上方の位置から得られたものとして取り扱うことが挙げられる。
【0081】
同例において、マップMは、検査受光素子211fに対応する方向へ出射された検出光L1の光量が低下することを示している。この場合、当該検出光L1に基づいて生ずる反射光L2の光量もまた低下する。このような検出結果の補正例としては、検査受光素子211fに対応する方向へ出射された検出光L1により生じた反射光L2に基づいて受光素子112から出力される受光信号S1を増幅することが挙げられる。
【0082】
このような構成によれば、発光素子111から出射される検出光L1の通過を許容する透光カバー120に異常が検出された場合においても、透光カバー120の交換や補修を伴わずに、センサシステム100の情報検出精度の低下を抑制できる。
【0083】
上記の実施形態は、本開示の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の実施形態に係る構成は、本開示の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。
【0084】
センサシステム100のLiDARセンサユニット110は、発光素子、受光素子、および走査機構を備える適宜のセンサユニットにより置き換えられうる。そのようなセンサユニットとしては、TOF(Time of Flight)カメラユニットやミリ波センサユニットが挙げられる。発光素子により出射される検出光の波長、および受光素子が感度を有する波長は、使用される検出手法に応じて適宜に定められうる。
【0085】
本出願の記載の一部を構成するものとして、2018年7月18日に提出された日本国特許出願2018-134898号の内容が援用される。