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特許7282776ニトリルブタジエンゴムラテックスの水素化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】ニトリルブタジエンゴムラテックスの水素化
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20230522BHJP
   C08F 236/12 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
C08F8/00
C08F236/12
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020531458
(86)(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018084325
(87)【国際公開番号】W WO2019121153
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】17208061.6
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フイ・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ギャリー・レンペル
【審査官】蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-212572(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0010605(US,A1)
【文献】国際公開第2011/010716(WO,A1)
【文献】特開2018-104483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00 ~ 246/00
C08C 19/00 ~ 19/44
C08K 3/00 ~ 13/08
C08L 1/00 ~ 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の水素化触媒(a)及び少なくとも1種の乳化剤(b)の存在下に、水性懸濁液中に存在する不飽和又は部分的に飽和のニトリルブタジエンゴムラテックスを水素化させることを含む、水素化ニトリルブタジエンゴムラテックスを調製するための方法であって、前記水素化触媒(a)及び前記乳化剤(b)が、前記ニトリルブタジエンゴムの前記水性懸濁液に添加されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記水素化触媒(a)が、少なくとも1種の貴金属錯体水素化触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水素化触媒(a)が、少なくとも1種のルテニウム錯体水素化触媒である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水素化触媒(a)が、一般式(A)の少なくとも1種の触媒である、請求項1又は2に記載の方法。
【化1】
(式中、
Mは、ルテニウム又はオスミウムであり、
Yは、酸素(O)、硫黄(S)であり、
及びXは、同一であるか又は異なる配位子であり、
は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、又はCR13C(O)R であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、又はヘテロアリール基によって、置換されていても、置換されていなくてもよく、
、R、R及びRは、同一であるか又は異なり、それぞれ水素、有機若しくは無機の基であり、
は、水素又はアルキル、アルケニル、アルキニル若しくはアリール基であり、
13は、水素、又はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、若しくはアルキルスルフィニル基であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、又はヘテロアリール基によって、置換されていても、置換されていなくてもよく;
14は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、又はアルキルスルフィニル基であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、又はヘテロアリール基によって、置換されていても、置換されていなくてもよく;
Lは、配位子である)
【請求項5】
Mが、ルテニウムであり、
Yが、酸素であり、
及びXが、塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、フェノキシ、メトキシ、エトキシ、トシレート(p-CH-C-SO)、メシレート(CHSO)、又はトリフルオロメタンスルホネート(CFSO)を表しており、
が、C~C20-シクロアルキル、C~C24-アリール、又は直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル基であって、 ~C 30 -アルキル基は、1個若しくは複数の二重結合若しくは三重結合、又は1個若しくは複数のヘテロ原子によって中断されるか、又は中断されず、
、R、R、Rが、同一であるか又は異なり、それぞれ、水素、ハロゲン、ニトロ、CF、C~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルアミノ、C~C20-アルキルチオ、C~C24-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニルであって、それらは、それぞれの場合において、1種又は複数のC~C30-アルキル、C~C20-アルコキシ、ハロゲン、C~C24-アリール、又はヘテロアリール基によって置換されていても、置換されていなくてもよい、
前記一般式(A)の前記水素化触媒(a)が使用される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の水素化触媒(a)が、構造(A1)、(B1)、(C1)、(D1)、及び(E1)の触媒を含む群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【化2】
【請求項7】
前記少なくとも1種の水素化触媒(a)が、前記ラテックスの前記ニトリルブタジエンゴムの固形分含量の重量を基準にして、0.005~5.0重量%の量で使用される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の乳化剤(b)が、脂肪酸、アルキル硫酸塩、エトキシル化アルカノール、エトキシル化アルキルフェノールの硫酸モノエステル、アルキルスルホン酸、及びアルキルアリールスルホン酸のアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩;エトキシル化モノ-、ジ-、及びトリ-アルキルフェノール、若しくはエトキシル化脂肪アルコール;ビス(フェニルスルホン酸)エーテルのモノ-若しくはジ-C~C24アルキル誘導体のアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩;アルキルアリールスルホン酸、アルキルスルホン酸、及び前記エトキシル化アルカノールの硫酸モノエステルのアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種の乳化剤(b)が、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム又はドデシル硫酸ナトリウムである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の添加した乳化剤(b)の量が、前記ラテックスの前記ニトリルブタジエンゴムの固形分含量の重量を基準にして、0.1~50.0重量%の範囲である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記水素化が、60℃~200℃の範囲の温度で実施される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記水素化が、0.5MPa~35MPaの範囲の水素圧力で実施される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
いかなる有機溶剤も存在させずに実施される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水素化触媒(a)及び前記乳化剤(b)が、水素化させる前記ニトリルブタジエンゴムラテックスに直接添加される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の水素化ニトリルゴムラテックスを調製するための方法における、NBR-ラテックスの水素化プロセスの水素化速度を増大させるための、追加の乳化剤としてのオレイン酸カリウム乳化剤(b)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤の存在下に水素化触媒を使用して、ラテックスの形態(これは、水性媒体中でのニトリルブタジエンゴムの粒子の懸濁液を意味している)で存在している、不飽和又は部分的に飽和のニトリルブタジエンゴムの中の炭素-炭素二重結合を水素化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルブタジエンゴム(NBR)の中の炭素-炭素二重結合を、そのポリマーを、有機溶液中で各種の触媒の存在下に、水素を用いて処理することによって、満足のいくレベルで水素化することが可能であることは公知である。そのような方法では、二重結合を選択的に水素化することができ、したがって、炭素と窒素との間の三重結合は影響を受けない。この技術分野には、そのような水素化に適した、たとえば、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、及びイリジウムをベースとした、触媒の多くの例が含まれている。
【0003】
しかしながら、典型的には、NBR-コポリマー又はNBR-ターポリマーは、乳化重合プロセスにより製造され、そのために、それらが重合反応器から排出されるときには、ラテックスの形態で、すなわち、乳化剤の安定化効果のおかげによる、水性媒体の中に懸濁されたポリマーの粒子として得られる。したがって、ジエンベースのポリマーを、前記ラテックスの形態で直接水素化できれば極めて望ましく、この10年ほどは、そのような直接水素化に、ますます努力が傾けられるようになっている。
【0004】
ラテックスの形態にあるポリマーの中のC=C二重結合を水素化するために、いくつかの技術的経路が試みられてきた。
【0005】
(特許文献1)には、パラジウム化合物である水素化触媒の存在下に、水素を用いて、不飽和なニトリル-基含有ポリマーの炭素-炭素二重結合を、選択的に水素化するための方法が記載されている。この方法においては、不飽和な、ニトリル-基含有ポリマーのラテックスを、水素化にかけている。そのラテックスは、乳化状態を維持しながら、気相の水素又は溶解された水素と接触状態におかれる。
【0006】
(特許文献2)には、ポリマー中のエチレン性不飽和二重結合を選択的に水素化するための方法が開示されている。前記方法には、そのポリマーの水性懸濁液中で、ロジウム及び/又はルテニウムの塩及び錯化合物から選択される少なくとも1種の水素化触媒の存在下に、ポリマーを水素と反応させることが含まれている。その好適なロジウム含有触媒は、式RhX(Lのロジウムホスフィン錯体であって、ここで、Xは、ハライド、カルボン酸、アセチルアセトネート、アリール-若しくはアルキル-スルホネート、ハイドライドのアニオン、又はジフェニルトリアジンアニオンであり、そしてL、L、及びLは、独立して、CO、オレフィン、シクロオレフィン、ジベンゾホスホール、ベンゾニトリル、PR又はRP-A-PRであり、mは、1又は2であり、そしてnは、0、1、又は2であって、ただし、L、L、又はLの少なくとも一つは、式PR又はPR-A-PRの上述のリン含有配位子の一つであり、ここで、Rは、アルキル、アルキルオキシ、シクロアルキル、シクロアルキルオキシ、アリール、又はアリールオキシである。
【0007】
(非特許文献1)には、NBR-ラテックスの水素化方法が開示されていて、そこでは、ゴムラテックスが、水素化に先だってのそのラテックスの前処理をすることを必要とせずに、直接水素化された。Wilkinson触媒及びその配位子のトリフェニルホスフィン(TPP)が、それぞれ触媒及び助触媒として使用された。この研究においては、添加された過剰のTPPが、ラテックス粒子の中へ触媒を移送する重要な役割を果たしている。このシステムの一つの欠点は、その水素化速度が極めて遅いことで、そのため、この技術のさらなる開発には限度がある。
【0008】
(特許文献3)には、Hoveyda Grubbs第二世代(HG2)触媒が、NBR-ラテックスの水素化に触媒活性を示すということが開示されている。100℃、6.89MPaの水素圧力で、4時間水素化反応させた後では、その水素化度は98%に達する。そのようにして得られた水素化NBRポリマーには、目に見えるようなゲルは、生成しなかった。しかしながら、NBR-ラテックスに対して水素化触媒及び乳化剤を添加した後で、NBR-ラテックスの水素化を実施するような実施例の開示はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第A5,272,202号明細書
【文献】米国特許第A6,403,727号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A2 676 971号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Macromol.Rapid Commun.26(2005)1768-1772
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、短い反応時間の間に高い水素化度で、ニトリルブタジエンゴムラテックス(すなわち、水性懸濁液として存在する)を水素化することを可能とする改良された方法を提供することであった。反応時間が短いということは、NBRの水素化の商業的方法では、極めて重要である。したがって、本発明のさらに好ましい目的は、低い量の触媒を用いて、好ましくはラテックスのニトリルブタジエンゴム固形分含量を基準にして、0.3重量%以下の量の触媒を用いて、4時間以内に転化率が95%に達する、ニトリルブタジエンゴムラテックスを水素化するための方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、水素化ニトリルブタジエンゴムラテックスを調製するための方法を提供するが、それには、水性懸濁液の中に存在する不飽和又は部分的に飽和のニトリルブタジエンゴムラテックスを、少なくとも1種の水素化触媒(a)及び少なくとも1種の乳化剤(b)の存在下に水素化させることを含み、その特徴とするところは、水素化触媒(a)及び乳化剤(b)を、ニトリルブタジエンゴムの水性懸濁液に添加するところにある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、ニトリルブタジエンゴムラテックスの中に存在している炭素-炭素二重結合の水素化を可能とする。このことは、炭素と他の原子たとえば窒素又は酸素との間の二重結合又は三重結合には影響しないということを意味している。
【0014】
本特許出願の目的で使用される「置換される(substituted)」という用語は、指示された基又は原子の上の水素原子が、それぞれの場合において指示された基の一つによって置き換えられているということを意味しているが、ただし、指示された原子の原子価が高すぎることがなく、且つその置換で安定な化合物が生じる必要がある。
【0015】
本特許出願及び本発明の目的のためにおいては、上記及び下記において、一般的な項目又は好ましい範囲とされる、基、パラメーター又は説明の定義はすべて、各種の方法で相互に組み合わせることができる、すなわち、それぞれの範囲及び好ましい範囲の組合せを含めることが可能である。
【0016】
本発明における方法の対象のニトリルブタジエンゴムラテックス
本発明の方法に適した基材は、原理的には、不飽和又は部分的に飽和のニトリルブタジエンゴムラテックスのすべての水性懸濁液であって、このものは「NBR-ラテックス」又は「親(parent)NBR-ラテックス」とも呼ばれ、このものは、少なくとも1種のα,β-不飽和ニトリル(a)、好ましくはアクリロニトリル、少なくとも1種の共役ジエン、好ましくは1,3-ブタジエン(b)、及び任意選択的に、1種又は複数のさらなる共重合性モノマー(c)の繰り返し単位を有するコポリマーである。これらの範疇には、水性モノマーエマルションの重合により調製された懸濁液(一次懸濁液)と、そのポリマーが何か他の方法又は経路で調製された後に、水性懸濁液の形態に転換されたもの(二次懸濁液)とのいずれもが含まれる。「水性懸濁液(aqueous suspension)」という用語には、原理的には、マイクロカプセルの懸濁液も包含される。本発明の方法では、一次懸濁液を使用するのが好ましい。
【0017】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル(a)は、いかなる公知のα,β-エチレン性不飽和ニトリルであってもよいが、好ましいのはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、又はそれらの混合物の群からの(C~C)α,β-エチレン性不飽和ニトリルである。特に好ましいのは、アクリロニトリルである。
【0018】
共役ジエン(b)は各種のタイプのものであってよい。一つの実施形態においては、(C~C)共役ジエンが使用される。好ましいのは、1,3-ブタジエン、イソプレン、1-メチルブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、ピペリレン、クロロプレン、又はそれらの混合物である。特に好ましいのは、1,3-ブタジエン及びイソプレン又はそれらの混合物である。特に好ましいのは1,3-ブタジエンである。
【0019】
さらなる実施形態においては、モノマーとして、少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル(a)及び少なくとも1種の共役ジエン(b)だけではなく、追加として、少なくとも1種のさらなる共重合性モノマー(c)の繰り返し単位を含む、ニトリルブタジエンゴムを、本発明の方法の対象としてもよい。
【0020】
好適な共重合性モノマー(c)の例としては、以下のものが挙げられる:オレフィン、たとえばエチレン又はプロピレン、ビニル芳香族モノマー、たとえばスチレン、アルファメチルスチレン、o-クロロスチレン、又はビニルトルエン、脂肪族若しくは分岐状のC~C18モノカルボン酸のビニルエステル、たとえば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル、デカン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、及びステアリン酸ビニル。
【0021】
さらなる好適なモノマー(c)としては、以下のものが挙げられる:エチレン性不飽和モノカルボン酸又はジカルボン酸、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸と、一般的にはC~C12アルカノール、たとえばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert.-ブタノール、n-ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、又はC~C10シクロアルカノール、たとえばシクロペンタノール又はシクロヘキサノールとのエステル、並びに、好ましくは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のエステル、たとえば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、及びアクリル酸2-エチルヘキシル。
【0022】
特に好ましいニトリルゴムは、アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから誘導された繰り返し単位を有するコポリマーである。
【0023】
共役ジエン及びα,β-不飽和エチレン性ニトリルとは別に、ニトリルゴムには、当業界で公知の1種又は複数のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位を含んでいてもよいが、そのようなものとしては、たとえばα,β-エチレン性不飽和(好ましくはモノ不飽和)モノカルボン酸、それらのエステル及びアミド、α,β-エチレン性不飽和(好ましくはモノ不飽和)ジカルボン酸、それらのモノエステル又はジエステル、さらには前記α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸に対応する無水物又はアミドなどが挙げられる。
【0024】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸が、そのようなニトリルゴムの好ましいターモノマーである。
【0025】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステルは、特にアルキルエステル、アルコキシアルキルエステル、アリールエステル、シクロアルキルエステル、シアノアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、及びフルオロアルキルエステルを使用することもできる。
【0026】
アルキルエステルとしては、好ましくはα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸のC~C18アルキルエステル、より好ましくはアクリル酸又はメタクリル酸のC~C18アルキルエステル、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸tert.-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert.-ブチル、及びメタクリル酸2-エチルヘキシルが使用される。
【0027】
アルコキシアルキルエステルとしては、好ましくはα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸のC~C18アルコキシアルキルエステル、より好ましくはアクリル酸又はメタクリル酸のアルコキシアルキルエステル、たとえば(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸メトキシエチルが使用される。
【0028】
アリールエステル、好ましくはC~C14-アリールエステル、より好ましくはC~C10-アリールエステル、最も好ましくは上述のアクリレート及びメタクリレートのアリールエステルを使用することもまた可能である。
【0029】
別の実施形態においては、シクロアルキルエステル、好ましくはC~C12-シクロアルキル、より好ましくはC~C12-シクロアルキル-、最も好ましくは上述のシクロアルキルアクリレート及びメタクリレートが使用される。
【0030】
シアノアルキルエステル、特にそのシアノアルキル基の中のC原子の数が2~12の範囲である、アクリル酸シアノアルキル又はメタクリル酸シアノアルキルを使用することも可能であり、好ましくはアクリル酸α-シアノエチル、アクリル酸β-シアノエチル、又はメタクリル酸シアノブチルが使用される。
【0031】
別の実施形態においては、ヒドロキシアルキルエステル、特に、その中のヒドロキシルアルキル基の中のC原子の数が1~12の範囲であるアクリル酸ヒドロキシアルキル及びメタクリル酸ヒドロキシアルキル、好ましくはアクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、又はアクリル酸3-ヒドロキシプロピルが使用される。
【0032】
フルオロベンジルエステル、特にアクリル酸フルオロベンジル又はメタクリル酸フルオロベンジル、好ましくはアクリル酸トリフルオロエチル及びメタクリル酸テトラフルオロプロピルを使用することも可能である。たとえばアクリル酸ジメチルアミノメチル、及びアクリル酸ジエチルアミノエチルのような、置換されたアミノ基を含むアクリレート及びメタクリレートを使用してもよい。
【0033】
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸のその他各種のエステルを使用することもできるが、そのようなものとしては、たとえば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシメチル)アクリルアミド、又はウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0034】
すべての、上述のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のエステルの混合物も使用することができる。
【0035】
さらに、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びメサコン酸を使用してもよい。
【0036】
別の実施形態においては、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物、好ましくは無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、及び無水メサコン酸が使用される。
【0037】
さらなる実施形態においては、α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル又はジエステルを使用することもできる。好適なアルキルエステルは、たとえば、C~C10-アルキル、好ましくはエチル-、n-プロピル-、iso-プロピル、n-ブチル-、tert.-ブチル、n-ペンチル-、又はn-ヘキシルのモノエステル又はジエステルである。好適なアルコキシアルキルエステルは、たとえば、C~C12アルコキシアルキル、好ましくはC~C-アルコキシアルキルのモノエステル又はジエステルである。好適なヒドロキシアルキルエステルは、たとえば、C~C12ヒドロキシアルキル、好ましくはC~C-ヒドロキシアルキルのモノエステル又はジエステルである。好適なシクロアルキルエステルは、たとえば、C~C12-シクロアルキル、好ましくはC~C12-シクロアルキルのモノエステル又はジエステルである。好適なアルキルシクロアルキルエステルは、たとえば、C~C12-アルキルシクロアルキル、好ましくはC~C10-アルキルシクロアルキルのモノエステル又はジエステルである。好適なアリールエステルは、たとえば、C~C14-アリール、好ましくはC~C10-アリールのモノエステル又はジエステルである。
【0038】
α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルモノマーの明白な例としては、以下のものが挙げられる:
・ マレイン酸モノアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、及びマレイン酸モノn-ブチル;
・ マレイン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、及びマレイン酸モノシクロヘプチル;
・ マレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチル、及びマレイン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ マレイン酸モノアリールエステル、好ましくはマレイン酸モノフェニル;
・ マレイン酸モノベンジルエステル、好ましくはマレイン酸モノベンジル;
・ フマル酸モノアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、及びフマル酸モノ-n-ブチル;
・ フマル酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、及びフマル酸モノシクロヘプチル;
・ フマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノメチルシクロペンチル、及びフマル酸モノエチルシクロヘキシル;
・ フマル酸モノアリールエステル、好ましくはフマル酸モノフェニル;
・ フマル酸モノベンジルエステル、好ましくはフマル酸モノベンジル;
・ シトラコン酸モノアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、及びシトラコン酸モノ-n-ブチル;
・ シトラコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、及びシトラコン酸モノシクロヘプチル;
・ シトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノメチルシクロペンチル、及びシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ シトラコン酸モノアリールエステル、好ましくはシトラコン酸モノフェニル;
・ シトラコン酸モノベンジルエステル、好ましくはシトラコン酸モノベンジル;
・ イタコン酸モノアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、及びイタコン酸モノ-n-ブチル;
・ イタコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、及びイタコン酸モノシクロヘプチル;
・ イタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノメチルシクロペンチル、及びイタコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ イタコン酸モノアリールエステル、好ましくはイタコン酸モノフェニル;
・ イタコン酸モノベンジルエステル、好ましくはイタコン酸モノベンジル。
【0039】
α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステルモノマーとしては、上に明記したモノエステルモノマーをベースとした類似のジエステルを使用してもよいが、しかしながら、酸素原子を介してC=O基に結合される二つの有機基は同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
さらなるターモノマーとしては、ビニル芳香族モノマー、たとえばスチロール、α-メチルスチロール、及びビニルピリジン、さらには非共役ジエン、たとえば4-シアノシクロヘキセン及び4-ビニルシクロヘキセン、さらにはアルキン、たとえば1-若しくは2-ブチンを使用してもよい。
【0041】
さらなるターモノマーとしては、次の一般式(I)のPEGアクリレートから誘導される、PEGアクリレートモノマーを使用してもよい。
【化1】
(式中、Rは、水素、又は分岐状若しくは非分岐状のC~C20-アルキル、好ましくはメチル、エチル、ブチル、又はエチルヘキシル、nは、1~8、好ましくは2~8、より好ましくは2~5、最も好ましくは3であり、そして、Rは、水素又はCH-である)
【0042】
「(メタ)アクリレート」という用語は、本発明の文脈においては、「アクリレート」及び「メタクリレート」を表している。一般式(I)の中のR基が、CH-である場合には、その分子はメタクリレートである。「ポリエチレングリコール」又は略して「PEG」という用語は、1個のエチレングリコール繰り返し単位を有するモノエチレングリコールセクション(PEG-1;n=1)と、2~8個のエチレングリコール繰り返し単位を有するポリエチレングリコールセクション(PEG-2~PEG-8;n=2~8)との両方を表している。「PEGアクリレート」という用語もまた、略してPEG-X-(M)Aとされるが、ここで「X」は、エチレングリコールの繰り返し単位の数を表し、「MA」はメタクリレートを表し、そして「A」は、アクリレートを表している。一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるアクリレートモノマーは、「PEGアクリレートモノマー」と呼ばれる。
【0043】
好ましいPEGアクリレートモノマーは、次の式no.1~no.10から選択されるが、ここで、nは、1、2、3、4、5、6、7、又は8、好ましくは2、3、4、5、6、7、又は8、より好ましくは3、4、5、6、7、又は8、最も好ましくは3である。
【0044】
【表1】
【0045】
メトキシポリエチレングリコールアクリレート(式no.3)についての他の一般的に使用される名称は、たとえば、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、アクリロイル-PEG、メトキシ-PEGアクリレート、メトキシポリ(エチレングリコール)モノアクリレート、ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテルモノアクリレート、又はmPEGアクリレートである。
【0046】
特に好ましいのは、以下に示す式から選択されるターモノマーである:
【化2】
(式中、
は、水素又はメチル基であり、そして
、R、R、Rは、同一であるか又は異なり、H、C~C12アルキル、シクロアルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、エポキシアルキル、アリール、ヘテロアリールを表していてよい)
【0047】
PEGアクリレートターモノマーとして特に好ましいのは、メトキシ-PEG-1-アクリレート(MEA)、ブチルジグリコールメタクリレート(ブトキシ-PEG-2-MA;BDGMA)、又はエチルトリグリコールメタクリレート(エトキシ-PEG-3-MA)である。
【0048】
本発明の方法の対象のコポリマー及びターポリマーの組成
本発明の水素化プロセスにかけるNBR-ラテックスが、1種又は複数のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位を含んでいる場合には、共役ジエンと他の共重合性モノマーとの比率を、広い範囲で変えることができる。
【0049】
共役ジエンの比率又は合計量は、NBR-ラテックス固形分含量の合計量を基準にして、通常40~90重量%の範囲、好ましくは50~85重量%の範囲である。α,β-エチレン性不飽和ニトリルの比率又は合計量は、NBR-ラテックス固形分含量の合計量を基準にして、通常10~60重量%、好ましくは15~50重量%である。いずれの場合においても、モノマーの比率を合計したものが100重量%となる。追加のターモノマーが存在していても、或いは存在していなくてもよい。使用するのなら、それらは、NBR-ラテックスの固形分含量を合計した量を基準にして、典型的には0重量%より大から50重量%まで、好ましくは0.1~40重量%、特に好ましくは1~30重量%の量で存在させる。この場合においては、共役ジエン及び/又はα,β-エチレン性不飽和ニトリルの相当する比率を、追加のターモノマーの比率だけ差し引いて、それぞれの場合において、全部のモノマーの比率を合計して100重量%になるようにする。
【0050】
上述のモノマーを重合させてNBR-ラテックスを調製することは、当業者には周知のことであって、ポリマー文献に包括的に記載されている。
【0051】
本発明に従って使用されるニトリルゴムは、20~70、好ましくは30~50の範囲のムーニー粘度(ML1+4@100℃)を有している。これは、100,000~500,000の範囲、好ましくは200,000~400,000の範囲の重量平均分子量Mwに相当する。
【0052】
約34のムーニー粘度を有するニトリルゴムは、たとえば、クロロベンゼン中、35℃で測定して、約1.1dL/gの固有粘度を有している。さらに、使用されるニトリルゴムは、2.0~10.0の範囲、好ましくは2.0~4.0の範囲の、多分散性PDI=Mw/Mn(ここでMwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である)を有している。ムーニー粘度の測定は、ASTM標準D1646に従って実施する。
【0053】
本発明において有用なNBR-ラテックスは、当業者には公知の各種の方法、たとえば乳化重合、溶液重合、又はバルク重合によって調製することができる。NBR-ラテックスは、水性エマルション重合プロセスで調製するのが好ましいが、その理由は、このプロセスでは、ポリマーをラテックスの形態で直接得ることができるからである。
【0054】
本発明においては、水性エマルションにおけるポリマー固形分含量を、水性エマルションの合計重量を基準にして、好ましくは1~75重量%、より好ましくは5~45重量%の範囲とする。
【0055】
本発明に従った方法の対象とするそのようなポリマーの調製は、当業者には公知であり、原理的には、水性エマルション中での重合で実施することができる。
【0056】
この方法で調製されたポリマーの懸濁液は、一般的には、75重量%までの固形分含量を有している。本発明の水素化プロセスで使用するためには、これらの固形分含量を有する懸濁液を採用することが可能である。しかしながら、いくつかの場合においては、事前に懸濁液を希釈して、適切な固形分含量とすることが推奨される。採用される懸濁液の固形分含量は、好ましくは、懸濁液全体の重量を基準にして、5~50重量%の範囲である。
【0057】
少なくとも1種の水素化触媒(a)及び少なくとも1種の乳化剤(b)を添加する前には、水素化させる親NBR-ラテックスには、水素化反応に先だって、典型的には0.5~5重量%の乳化剤が含まれる。親NBR-ラテックスの中の乳化剤は、脂肪酸の塩、アルキル硫酸塩などの塩のような、各種の性質であってもよい。
【0058】
一般的には、そのポリマー懸濁液の中に依然として存在している乳化剤、及び使用されたさらなる物質、たとえば乳化重合における慣用される重合助剤は、本発明の水素化プロセスに顕著な影響を与えることはない。
【0059】
しかしながら、ポリマー懸濁液を、水素化の前に、化学的又は物理的脱気にかけることが推奨される。水蒸気を用いて残存モノマーをストリッピングすることによる物理的脱臭は、たとえば、欧州特許出願公開第A0 584 458号明細書からも公知である。欧州特許出願公開第A0 327 006号明細書は、その一部で、慣用される蒸留法を推奨している。化学的脱臭は、メインの重合に続けての、後重合の手段によって実施するのが好ましい。そのような方法は、たとえば、以下の特許に記載されている:独国特許出願公開第A383 4734号明細書、欧州特許出願公開第A379 892号明細書、欧州特許出願公開第A327 006号明細書、独国特許出願公開第A44 19 518号明細書、独国特許出願公開第A44 35 422号明細書、及び独国特許出願公開第A44 35 423号明細書。
【0060】
本発明の水素化プロセスでは、上述のモノマー(a)及び(b)並びに任意選択的に(c)をフリーラジカル水性エマルション重合させることにより調製したポリマーを採用するのが好ましい。それらの方法は、当業者には十分公知であり、たとえば次の文献に詳細に記述されている:Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,5th Edition,Volume A21,pp.373-393。一般的には、そのようなポリマーは、フリーラジカル開始剤、並びに、所望であれば、表面活性物質たとえば乳化剤及び保護コロイドの存在下に調製する(参照、たとえば、Houben Weyl,Methoden der organischen Chemie,Volumen XIV/1,Makromolekulare Stoffe,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,1961,pp.192-208)。
【0061】
適切なフリーラジカル重合開始剤としては、以下のものが挙げられる:有機ペルオキシド、たとえば、tert-ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゾイルペルオキシド、無機ペルオキシド、たとえば過酸化水素、ペルオキソモノ硫酸及び/又はペルオキソ二硫酸の塩、特に、過硫酸アンモニウム及び/又は過硫酸アルカリ(過硫酸塩)、並びにアゾ化合物、特に好ましくは過硫酸塩。好ましいのはさらに、少なくとも1種の有機還元剤と少なくとも1種のペルオキシド及び/又はヒドロペルオキシドとからなる系、たとえば、tert-ブチルヒドロペルオキシドとヒドロキシメタンスルホン酸のナトリウム塩、又は過酸化水素とアスコルビン酸(電解質フリーのレドックス開始剤系として)からなる複合系、並びにその重合媒体の中に可溶性であり、そしてその金属成分が、複数の原子価状態で存在しうる、金属化合物を少量をさらに含む、たとえばアスコルビン酸/硫酸鉄(II)/過酸化水素の複合系であるが、多くの場合、アスコルビン酸を、ヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、又は重亜硫酸ナトリウムと置き換えたり、過酸化水素を、tert-ブチルヒドロペルオキシド、アルカリ金属のペルオキソジスルフェート及び/又は過硫酸アンモニウムと置き換えたりすることも可能である。水溶性の鉄(II)塩に代えて、水溶性のFe/V塩の組合せを採用することもまた可能である。
【0062】
これらの重合開始剤は、慣用される量、たとえば重合させるモノマーを基準にして0.01~5、好ましくは0.1~2.0重量%の量で採用される。
【0063】
それらのモノマー混合物は、所望により、慣用される調節剤(=連鎖移動剤)、たとえばメルカプタン(その一例が、tert.-ドデシルメルカプタンである)の存在下で重合させることができる。その場合、それらの調節剤は、混合物の全量を基準にして、0.01~5重量%の量で使用される。
【0064】
フリーラジカル重合反応は、全バッチ初期仕込み法(バッチ法)によっても実施できるが、特に工業的規模の場合には、フィード法に従って実施するのが好ましい。この後者の方法では、重合させるモノマーの主要量(一般的には、50~100重量%)を、重合容器の中に既に存在しているモノマーの重合の進行に従って、その重合容器に添加する。この文脈においては、フリーラジカル開始剤系は、重合容器への初期仕込みの中に全部含まれていてもよいし、或いはそうでなければ、重合反応に対して、連続的又は段階的に、フリーラジカル水性エマルション重合の過程で消費されるような速度で添加していってもよい。
【0065】
それぞれ個々の場合において、これは、公知のように、その開始剤系の化学的性質、及び重合温度の両方に依存する。開始剤系は、それが消費される速度で、重合ゾーンに供給するのが好ましい。
【0066】
重合反応はさらに、ポリマーとしての水性ポリマー懸濁液(シードラテックス)の存在下に実施してもよい。そのような技術は、基本的には、当業者には公知であり、たとえば以下の特許に記載されている:独国特許出願公開第42 13 967号明細書、独国特許出願公開第42 13 968号明細書、欧州特許出願公開第A0 567 811号明細書、欧州特許出願公開第A0 567 812号明細書、又は欧州特許出願公開第A0 567 819号明細書(これらは、参照することにより、そのすべてを本明細書に組み入れたものとする)。原理的には、初期仕込みにシードを含ませるか、或いは重合の過程で連続的又は段階的にそれを添加していくかは、所望する特性に合わせることが可能である。その重合を、初期仕込みの中にシードを用いて実施するのが好ましい。シードポリマーの量は、モノマーa)~d)を基準にして、0.05~5重量%、好ましくは0.1~2重量%、特には0.2~1重量%の範囲とするが好ましい。使用されるシードラテックスのポリマー粒子は、10~100nm、好ましくは20~60nmの範囲、特には約30nmの重量平均直径を有しているのが好ましい。ポリスチレンシードを使用するのが好ましい。
【0067】
その重合反応は、大気圧より高い圧力で実施される。重合時間は、広い範囲で変化させることが可能であるが、一般的には1~15時間、好ましくは3~10時間である。重合温度もまた、広い範囲で変化させることが可能であるが、使用した開始剤に依存し、約0~110℃、好ましくは5~80℃である。
【0068】
水素化触媒(a)
本発明の方法で採用される少なくとも1種の水素化触媒(a)については、特段の制約はない。本発明の方法における少なくとも1種の水素化触媒(a)は、当業者公知の、どのようなものであってもよい。
【0069】
本発明の好ましい実施形態においては、本発明における方法が、少なくとも1種の貴金属錯体水素化触媒(a)の存在下で実施される。
【0070】
本発明の別の実施形態においては、本発明における方法が、少なくとも1種のルテニウム錯体水素化触媒(a)の存在下で実施される。
【0071】
本発明の一つの実施形態においては、本発明における方法が、一般式(A)の少なくとも1種の水素化触媒(a)の存在下で実施される:
【化3】
(式中、
Mは、ルテニウム又はオスミウムであり、
Yは、酸素(O)、硫黄(S)であり、
及びXは、同一であるか又は異なる配位子であり、
は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、CR13C(O)R14、アルキルスルフィニル基であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、又はヘテロアリール基によって、置換されていても、置換されていなくてもよく、
、R、R及びRは、同一であるか又は異なり、それぞれ水素又は有機若しくは無機の基であり、
は、水素又はアルキル、アルケニル、アルキニル若しくはアリール基であり、
13は、水素、又はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、若しくはアルキルスルフィニル基であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、又はヘテロアリール基によって、置換されていても、置換されていなくてもよく;
14は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、又はアルキルスルフィニル基であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、又はヘテロアリール基によって、置換されていても、置換されていなくてもよく;そして
Lは、配位子である)
【0072】
及びX
一般式(A)の水素化触媒(a)において、X及びXは、同一であるか又は異なり、アニオン性配位子を表している。
【0073】
一般式(A)の水素化触媒(a)の一つの実施形態においては、X及びXが、水素、ハロゲン、プソイドハロゲン、直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルキルジケトネート、C~C24-アリールジケトネート、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルキルスルホネート、C~C24-アリールスルホネート、C~C20-アルキルチオール、C~C24-アリールチオール、C~C20-アルキルスルホニル、又はC~C20-アルキルスルフィニルを表している。
【0074】
及びXを意味するとして上で列挙した残基が、1種又は複数のさらなる置換基、たとえばハロゲン、好ましくはフッ素、C~C10-アルキル、C~C10-アルコキシ又はC~C24-アリールによって置換されていてもよく、それらの基がさらに、ハロゲン、好ましくはフッ素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルからなる群より選択される1種又は複数の置換基によって置換されていてもよい。
【0075】
好ましい実施形態においては、X及びXが、ハロゲン、特にフッ素、塩素、臭素若しくはヨウ素、ベンゾエート、C~C-カルボキシレート、C~C-アルキル、フェノキシ、C~C-アルコキシ、C~C-アルキルチオール、C~C14-アリールチオール、C~C14-アリール、又はC~C-アルキルスルホネートである。
【0076】
特に好ましい実施形態においては、X及びXが、塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、フェノキシ、メトキシ、エトキシ、トシレート(p-CH-C-SO)、メシレート(CHSO)、又はトリフルオロメタンスルホネート(CFSO)を表している。
【0077】
配位子L:
一般式(A)の水素化触媒(a)において、Lは、配位子、通常は電子供与体機能を有する配位子である。Lは、P(R基であってよいが、ここで基Rは、それぞれ互いに独立して、C~C-アルキル、C~C-シクロアルキル、又はアリール、又は置換若しくは非置換のイミダゾリジン基(「Im」)である。
【0078】
~C-アルキルは、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、又はn-ヘキシルである。
【0079】
~C-シクロアルキルには、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチルが包含される。
【0080】
アリールには、6~24個の骨格炭素原子を有する芳香族基が包含される。6~10個の骨格炭素原子を有する好適な単環式、二環式又は三環式炭素環芳香族基は、たとえば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、及びアントラセニルである。
【0081】
イミダゾリジン基(Im)は通常、一般式(IIa)又は(IIb)の構造を有している。
【化4】
(式中、
、R、R10、R11は、同一であるか又は異なり、それぞれ以下のものである:水素、直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル、好ましくはC~C20-アルキル、C~C20-シクロアルキル、好ましくはC~C10-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、好ましくはC~C10-アルケニル、C~C20-アルキニル、好ましくはC~C10-アルキニル、C~C24-アリール、好ましくはC~C14-アリール、C~C20-カルボキシレート、好ましくはC~C10-カルボキシレート、C~C20-アルコキシ、好ましくはC~C10-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、好ましくはC~C10-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、好ましくはC~C10-アルキニルオキシ、C~C20-アリールオキシ、好ましくはC~C14-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、好ましくはC~C10-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルチオ、好ましくはC~C10-アルキルチオ、C~C20-アリールチオ、好ましくはC~C14-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル、好ましくはC~C10-アルキルスルホニル、C~C20-アルキルスルホネート、好ましくはC~C10-アルキルスルホネート、C~C20-アリールスルホネート、好ましくはC~C14-アリールスルホネート、又はC~C20-アルキルスルフィニル、好ましくはC~C10-アルキルスルフィニル)
【0082】
基R、R、R10、R11の1個又は複数を、互いに独立して1種又は複数の置換基、好ましくは直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、C~C-シクロアルキル、C~C10-アルコキシ又はC~C24-アリールによって置換されていてもよいし、置換されていなくてもよいが、ここで上述の置換基がさらに、1種又は複数の基、好ましくはハロゲン特に塩素若しくは臭素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ、及びフェニルからなる群より選択される基によって、置換されていてもよい。
【0083】
一般式(A)の水素化触媒(a)の好ましい実施形態においては、R及びRがそれぞれ、互いに独立して、水素、C~C24-アリール、特に好ましくはフェニル、直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、特に好ましくはプロピル若しくはブチルであるか、又は、それらが結合されている炭素原子を共有して、シクロアルキル若しくはアリール基を形成するが、ここで、上述の基はすべて、さらに、1種又は複数のさらなる、直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、C~C10-アルコキシ、C~C24-アリールからなる群より選択される基、並びにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボキシル、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート及びハロゲンからなる群より選択される官能基、によって置換されていてもよい。
【0084】
水素化触媒(a)の好ましい実施形態においては、基R10及びR11が同一であるか又は異なり、それぞれ、直鎖状若しくは分岐状のC~C10-アルキル、特に好ましくはi-プロピル若しくはネオペンチル、C~C10-シクロアルキル、好ましくはアダマンチル、C~C24-アリール、特に好ましくはフェニル、C~C10-アルキルスルホネート、特に好ましくはメタンスルホネート、C~C10-アリールスルホネート、特に好ましくはp-トルエンスルホネートである。
【0085】
上で好ましいとされている、これらの基R10及びR11は、以下のものからなる群より選択される1種又は複数のさらなる基によって、置換されていても、或いは置換されていなくてもよい:直鎖状若しくは分岐状のC~C-アルキル、特にメチル、C~C-アルコキシ、アリールからなる基、並びに、ヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボキシル、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、及びハロゲンからなる群より選択される官能基。
【0086】
特に、基R10及びR11が同一であるか又は異なり、それぞれ、i-プロピル、ネオペンチル、アダマンチル、又はメシチルである。
【0087】
特に好適なイミダゾリジン基(Im)は、先に挙げた構造(IIIa~f)を有するが、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6-トリメチルフェニル基である。
【化5】
【0088】

一般式(A)においては、置換基Rは、アルキル、好ましくはイソプロピル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、又はアルキルスルフィニル基であって、それらは、それぞれの場合において、1個又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0089】
置換基Rは通常、C~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルアミノ、C~C20-アルキルチオ、C~C24-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニル基であって、それらはすべて、それぞれの場合において、1個又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0090】
が、C~C20-シクロアルキル基、C~C24-アリール基、又は直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル基であるのが好ましいが、後者は、適切であるならば、1個若しくは複数の二重結合若しくは三重結合、又は1個若しくは複数のヘテロ原子、好ましくは酸素若しくは窒素によって中断されていてもよい。Rが、直鎖状又は分岐状のC~C12-アルキル基であれば特に好ましい。
【0091】
~C20-シクロアルキル基には、たとえば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチルが包含される。
【0092】
~C12-アルキル基は、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-デシル、又はn-ドデシルであってよい。特には、Rがメチル又はイソプロピルである。
【0093】
~C24-アリール基は、6~24個の骨格炭素原子を有する芳香族基である。6~10個の骨格炭素原子を有する好適な単環式、二環式又は三環式炭素環芳香族基としては、たとえば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、又はアントラセニルを挙げることができる。
【0094】
、R、R、及びR
一般式(A)において、基R、R、R及びRが同一であるか又は異なり、それぞれ水素又は有機若しくは無機の基とすることができる。
【0095】
適切な実施形態においては、R、R、R、Rが同一であるか又は異なり、それぞれ、水素、ハロゲン、ニトロ、CF、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、CR13C(O)R14又はアルキルスルフィニルであって、それらはそれぞれの場合において、1種又は複数のアルキル、アルコキシ、ハロゲン、アリール又はヘテロアリール基によって置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0096】
、R、R、Rが通常同一であるか又は異なり、それぞれ、水素、ハロゲン、好ましくは塩素若しくは臭素、ニトロ、CF、C~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルアミノ、C~C20-アルキルチオ、C~C24-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニルであって、それらは、それぞれの場合において、1種又は複数のC~C30-アルキル、C~C20-アルコキシ、ハロゲン、C~C24-アリール、又はヘテロアリール基によって置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0097】
特に有用な実施形態においては、R、R、R、Rが同一であるか又は異なり、それぞれ、ニトロ、直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、直鎖状若しくは分岐状のC~C20-アルコキシ、又はC~C24-アリール基、好ましくはフェニル若しくはナフチルである。それらのC~C30-アルキル基及びC~C20-アルコキシ基は、1個若しくは複数の二重結合若しくは三重結合、又は1個若しくは複数のヘテロ原子、好ましくは酸素若しくは窒素によって中断されていても、中断されていなくてもよい。
【0098】
さらに、基R、R、R又はRの2個以上が、脂肪族又は芳香族を介して橋かけされていてもよい。たとえば、RとRとが、式(A)のフェニル環の中でそれらが結合されている炭素原子と共に縮合フェニル環を形成すると、全体としてナフチル構造が生成する。
【0099】

一般式(A)においては、基Rは、水素、又はアルキル、アルケニル、アルキニル若しくはアリール基である。Rが、水素、C~C30-アルキル基、C~C20-アルケニル基、C~C20-アルキニル基、又はC~C24-アリール基であるのが好ましい。Rが水素であれば特に好ましい。
【0100】
13及びR14
一般式(A)において、基R13は、水素、又はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、若しくはアルキルスルフィニル基であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、又はヘテロアリール基によって、置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0101】
一般式(A)において、基R14は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、又はアルキルスルフィニル基であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、又はヘテロアリール基によって、置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0102】
以下のような一般式(A)の水素化触媒(a)が特に好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
Yが、酸素であり、
及びXが、共にハロゲン、特には共に塩素であり、
が、直鎖状又は分岐状のC~C12-アルキル基であり、
、R、R、Rが、一般式(A)について与えられた意味合いを有しており、そして
Lが、一般式(A)において与えられた一般的な意味合いを有している。
【0103】
以下のような一般式(A)の水素化触媒(a)が極めて特に好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
Yが、酸素であり、
及びXが、共に塩素であり、
が、イソプロピル基であり、
、R、R、Rが、すべて水素であり、そして
Lが、式(IIa)又は(IIb)の置換又は非置換イミダゾリジン基である。
【化6】
(式中、
、R、R10、R11が同一であるか又は異なり、それぞれ、水素、直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルチオ、C~C24-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル、C~C20-アルキルスルホネート、C~C24-アリールスルホネート、又はC~C20-アルキルスルフィニルである)
【0104】
以下のような、一般式(A)の触媒(a)を使用するのが好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
Yが、酸素であり、
及びXが、塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、フェノキシ、メトキシ、エトキシ、トシレート(p-CH-C-SO)、メシレート(CHSO)、又はトリフルオロメタンスルホネート(CFSO)を表しており、
が、C~C20-シクロアルキル、C~C24-アリール、又は直鎖状若しくは分岐状のC~C30-アルキル基であって、後者は、1個若しくは複数の二重結合若しくは三重結合、又は1個若しくは複数のヘテロ原子、好ましくは酸素若しくは窒素によって中断されるか、又は中断されず、そして
、R、R、Rが、同一であるか又は異なり、それぞれ、水素、ハロゲン、好ましくは塩素若しくは臭素、ニトロ、CF、C~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルアミノ、C~C20-アルキルチオ、C~C24-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニルであって、それらは、それぞれの場合において、1種又は複数のC~C30-アルキル、C~C20-アルコキシ、ハロゲン、C~C24-アリール、又はヘテロアリール基によって置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0105】
これらの水素化触媒(a)は、原理的には、たとえば米国特許出願公開第2002/0107138A1号明細書(Hoveydaら)からも公知であり、そこに記載されている調製法によって得ることができる。それらの触媒は市場で入手することが可能であるし、引用した科学文献の記載に従って調製することもできる。
【0106】
特に好ましいのは、構造(A1)を有する水素化触媒(a)(Hoveyda-Grubbs 第二世代触媒;HG2)であって、このものは、Materia Inc.から市販されている:
【化7】
【0107】
一般式(A)に分類される、さらなる好適な水素化触媒(a)は、式(A2)、(A3)、(A4)、(A5)、(A6)、(A7)、(A8)、及び(A9)のものであって、ここでMesは、それぞれの場合において、2,4,6-トリメチルフェニル基である:
【化8】
【0108】
本発明における方法において、特に好適である、さらなる水素化触媒(a)は、一般式(B)の触媒である:
【化9】
(式中、
M、L、X、X、R、及びRは、一般式(A)において与えられた意味合いを有し、
基R12は、同一であるか又は異なり、そして一般式(A)で基R、R、R、及びRに与えられた意味合いを有し、そして
nは、0、1、2又は3である)
【0109】
これらの水素化触媒(a)は、原理的には、たとえば国際公開第A2004/035596号パンフレット(Grela)からも公知であり、そこに示された調製法により得ることができる。
【0110】
以下のような一般式(B)の水素化触媒(a)が特に好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
及びXが、共にハロゲン、特に共に塩素であり、
が、直鎖状又は分岐状のC~C12-アルキル基であり、
12が、一般式(A)において与えられた一般的な意味合いを有しており、
nが、0、1、2又は3であり、そして
Lが、一般式(A)において与えられた一般的な意味合いを有している。
【0111】
以下のような一般式(B)の水素化触媒(a)が極めて特に好ましい:
Mが、ルテニウムであり、
及びXが、共に塩素であり、
が、イソプロピル基であり、
nが、0であり、そして
Lが、式(IIa)又は(IIb)の置換又は非置換イミダゾリジン基である。
【化10】
(式中、
、R、R10、R11が同一であるか又は異なり、それぞれ、水素、直鎖状若しくは分岐状で環状若しくは非環状のC~C30-アルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C20-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルチオ、C~C-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル、C~C20-アルキルスルホネート、C~C-アリールスルホネート、又はC~C20-アルキルスルフィニルである)
【0112】
一般式(B)に分類される、特に好適な水素化触媒(a)は、構造(B1)を有しており、
【化11】
文献では、「Grela触媒」とも呼ばれている。
【0113】
一般式(B)に分類される、さらに好適な水素化触媒(a)は、構造(B2)を有している:
【化12】
【0114】
本発明における方法において、特に好適である、さらなる水素化触媒(a)は、一般式(C)の触媒である:
【化13】
(式中、
Mは、ルテニウム又はオスミウムであり、
Yは、酸素(O)、硫黄(S)であり、
及びXは、同一であるか又は異なる配位子であり、好ましくは一般式(A)について与えられた意味合いを有する配位子であり、
は、水素又はアルキル、アルケニル、アルキニル若しくはアリール基であり、
、R、R、Rは、同一であるか又は異なり、それぞれ水素又は有機若しくは無機の基であり、
は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、又はアルキルスルフィニル基であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって、任意選択的に置換されていてもよく、
は、水素、又はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、若しくはアルキルスルフィニル基であって、それらそれぞれは、1種又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって、任意選択的に置換されていてもよく、そして
Lは、好ましくは一般式(A)について与えられた意味合いを有する配位子である)
【0115】
一般式(C)の触媒は、基本的には公知である。このタイプの化合物の代表的なものは、国際公開第A1-2008/034552号パンフレット(Arltら)に記載されている触媒である。それらの触媒は市場で入手することが可能であるし、引用した参考文献の記載に従って調製することもできる。
【0116】
一般式(C)に分類される、好ましい水素化触媒(a)は、構造(C1)を有しており、
【化14】
これは、本明細書においては、「Arlt触媒」とも呼ばれている。
【0117】
本発明における方法において、特に好適である、さらなる水素化触媒(a)は、一般式(D)の触媒である:
【化15】
(式中、
Mは、ルテニウム又はオスミウムであり、
R及びRは、独立して、水素、又は、C~C20アルケニル、C~C20アルキニル、C~C20アルキル、アリール、C~C20カルボキシレート、C~C20アルコキシ、C~C20アルケニルオキシ、C~C20アルキニルオキシ、アリールオキシ、C~C20アルコキシカルボニル、C~C20アルキルチオ、C~C20アルキルスルホニル、及びC~C20アルキルスルフィニル、からなる群より選択される炭化水素であり、
X及びXは、独立して、好ましくは一般式(A)で与えられる意味合いを有する、各種のアニオン性配位子であり、
Lは、各種の中性の配位子、たとえばホスフィン、アミン、チオエーテルであり、
は、イミダゾリジニリデン若しくはイミダゾリジン又は各種の中性のカルビン(carbine)であって、任意選択的に、L及びLが、相互に結合されて、好ましくは一般式(A)について与えられた意味合いを有する、二座中性配位子を形成していてもよい)
【0118】
本技術分野において「Grubbs(II)触媒」として知られているこれらの触媒は、原理的には、たとえば国際公開第A00/71554号パンフレットからも公知であり、そこに示された調製方法により得ることができる。
【0119】
一般式(D)に分類される、好ましい水素化触媒(a)は、構造(D1)を有している。
【化16】
(1,3-ビス-(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン)-(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム-(フェニルメチレン)ジクロリド)、第二世代Grubb’s触媒又はGrubbs II触媒として公知。
【0120】
本発明における方法において、特に好適である、さらなる水素化触媒(a)は、一般式(E)、(F)、又は(G)の触媒である:
【化17】
(式中、
Mは、ルテニウム又はオスミウムであり、
及びXは、同一であるか又は異なる配位子であり、好ましくはアニオン性配位子であり、
及びZは、同一であるか又は異なり、中性の電子供与体配位子であり、
及びRはそれぞれ独立して、水素、又は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボキシレート、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、及びアルキルスルフィニル基(これらはそれぞれ、任意選択的に、1個又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって置換されていてもよい)からなる群より選択される置換基であり、そして
Lは、配位子である)
【0121】
これらの水素化触媒(a)は、原理的には、たとえば国際公開第A2011/023788号パンフレットからも公知であり、そこに示された調製法により得ることができる。
【0122】
一般式(E)に分類される、好ましい水素化触媒(a)は、構造(E1)を有している。
【化18】
【0123】
特に好ましい水素化触媒(a)は、式(A1)、(B1)、(C1)、(D1)、又は(E1)のものであり、最も好ましいのは、(A1)である。
【0124】
水素化触媒(a)は、ラテックスのニトリルブタジエンゴムの固形分含量の重量を基準にして、0.005~5.0重量%、好ましくは0.02~2.0重量%、より好ましくは0.05~0.3重量%の量で採用される。
【0125】
乳化剤(b):
使用することが可能な乳化剤(b)については、特段の制約はない。
【0126】
好適な乳化剤は、脂肪酸(C12~C23-アルキル基)のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、好ましくはオレイン酸ナトリウム(NaO)又はオレイン酸カリウム(KO)である。
【0127】
さらなる好適な乳化剤は、たとえば以下のもののアルカリ金属塩又はアンモニウム塩である乳化剤である:アルキル硫酸塩(アルキル:C~C22)、エトキシル化アルカノール(エチレンオキシド度:4~30、アルキル:C~C22)の硫酸モノエステル、及びエトキシル化アルキルフェノール(エチレンオキシド度:3~50、アルキル:C~C20)、アルキルスルホン酸(アルキル:C~C22)、及びアルキルアリールスルホン酸(アルキル:C~C18)。好ましい乳化剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)である。
【0128】
さらなる好適な乳化剤は、エトキシル化モノ、ジ-及びトリ-アルキルフェノール(エチレンオキシド度:3~50;アルキル:C~C)、又はエトキシル化脂肪族アルコール(エチレンオキシド度:3~50;アルキル:C~C)である。
【0129】
さらなる好適な乳化剤は、ビス(フェニルスルホン酸)エーテルのモノ-又はジ-C~C24アルキル誘導体のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩である。
【0130】
さらなる好適な乳化剤は、以下のもののアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、特にはナトリウム塩である:アルキルアリールスルホン酸、アルキルスルホン酸(たとえば、スルホン化C12~C18パラフィン)、アルキル硫酸塩(たとえば、ラウリルスルホン酸ナトリウム)、及びエトキシル化アルカノール(たとえば、2~3個のエチレンオキシド単位を有するラウリルアルコールのスルホキシル化エトキシレート)の硫酸モノエステル。
【0131】
さらなる適切な乳化剤は、Houben-Weyl,loc.Cit.,pp.192-208に記載されている。
【0132】
特に好ましい乳化剤(b)は、オレイン酸ナトリウム(NaO)、オレイン酸カリウム(KO)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)である。
【0133】
最も好ましい乳化剤は、オレイン酸カリウム(KO)である。
【0134】
重合させるモノマーを基準にした、少なくとも1種の添加した乳化剤(b)の量は、ラテックスのニトリルブタジエンゴムの固形分含量の重量を基準にして、典型的には0.1~50.0重量%、好ましくは0.5~15.0重量%、より好ましくは1.0~10.0重量%、最も好ましくは5.0~10.0重量%の範囲である。
【0135】
添加した乳化剤の量が少なすぎると、水素化速度が低くなり、満足のいく時間内では、水素化度が95%以上に達することはないであろう。
【0136】
水素化プロセスのパラメーター:
水素化工程は、典型的には、60℃~200℃、好ましくは80℃~180℃、より好ましくは90℃~160℃の範囲の温度、そして0.5MPa~35MPa、好ましくは3.0MPa~15MPa、より好ましくは5.0MPa~10MPaの範囲の水素圧力で実施される。
【0137】
それに代わる実施形態においては、水素化工程が、60℃~200℃、好ましくは80℃~180℃、より好ましくは90℃~160℃の範囲の温度で実施される。
【0138】
それに代わる実施形態においては、水素化工程が、典型的には、0.5MPa~35MPa、好ましくは3.0MPa~15MPa、より好ましくは5.0MPa~10MPaの範囲の水素圧力で実施される。
【0139】
本発明における方法において、少なくとも1種の水素化触媒(a)、好ましくは貴金属錯体水素化触媒、より好ましくはルテニウム錯体水素化触媒、さらにより好ましくは一般式(A)の触媒、最も好ましくは式(A1)の触媒が、ラテックスのニトリルブタジエンゴム固形分含量の重量を基準にして、0.005重量%~5.0重量%、好ましくは0.02重量%~2.0重量%の量で使用される。
【0140】
水素化触媒(a)は、水不溶性であっても、或いは水溶性であってもよい。
【0141】
したがって、本発明の方法は、有機溶剤の非存在下又は存在下のいずれでも実施されるが、いかなる有機溶剤も存在しないのが好ましい。
【0142】
本発明の方法の一つの実施形態においては、その水素化触媒(a)が、水不溶性であり、そのために、少量の有機溶剤の中に溶解させて有機溶液を形成させ、次いでそれを、本発明の方法で処理されるニトリルブタジエンゴムラテックスを含む水性懸濁液の中に添加する。水素化触媒(a)を溶解させるのに好適な有機溶剤としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサン。最も好ましい溶媒は、トルエンである。本発明の典型的な実施形態においては、ニトリルブタジエンゴムの水性懸濁液中の水と、水素化触媒(a)を溶解させるために使用する有機溶剤とが、(100:1)から(5:1)まで、好ましくは(50:1)から(10:1)までの容積比で使用される。
【0143】
本発明における水素化は、好ましくは、出発ニトリルブタジエンゴムラテックスの中に存在する残存二重結合(RDB)の少なくとも50%、好ましくは70%~100%、より好ましくは80%~100%、さらにより好ましくは90%~100%、最も好ましくは95%~100%が水素化されると理解されたい。
【0144】
好ましくは、ニトリルブタジエンゴムラテックスの水素化時間は、10分~24時間、好ましくは15分~20時間、より好ましくは30分~10時間、さらにより好ましくは1時間~8時間、最も好ましくは1時間~5時間である。
【0145】
本発明の方法の一つの実施形態においては、そのニトリルブタジエンゴムの水性懸濁液が、少なくとも1種の水素化触媒(a)の有機溶液と接触される。その懸濁液の中でのニトリルブタジエンゴムの濃度は、それほど重要ではない。反応混合物の中のニトリルブタジエンゴムの濃度は、全反応混合物の重量を基準にして、好ましくは1~50重量%の範囲、特に好ましくは5~40重量%の範囲である。
【0146】
本発明の方法において使用される水素化触媒(a)は、極めて活性が高いので、最終的な水素化ポリマー生成物の中の触媒残分を十分に低くすることができ、そのため、触媒金属の除去又は再循環工程を、簡略化したり、さらには不必要としたりすることができる。
【0147】
しかしながら、所望の程度によって、本発明の方法において使用した水素化触媒(a)を除去してもよい。そのような除去は、たとえば、欧州特許出願公開第A-2 072 532A1号明細書及び欧州特許出願公開第A-2 072 533A1号明細書に記載されているようにして、イオン交換樹脂を使用することによって実施することができる。水素化反応が完了した後に得られる反応混合物を取り出して、イオン交換樹脂を用い、たとえば、窒素下100℃で48時間処理することも可能であり、それによって、水素化触媒(a)の樹脂への結合がもたらされるが、その一方で、その反応混合物は、通常の仕上げ方法で仕上げることもできる。
【0148】
次いで、たとえば塩凝固法、酸凝固法、又は溶媒蒸発法のような公知の仕上げ手順によって、その溶液からゴムを得ることが可能であり、そして典型的なゴム加工方法で使用できるような程度にまで乾燥させる。
【0149】
本発明の方法の一つの実施形態においては、その水素化触媒(a)を、予め乳化剤(b)と接触させてから、水素化させる親NBR-ラテックスに添加する。
【0150】
本発明の方法のまた別の実施形態においては、水素化触媒(a)及び乳化剤(b)を、水素化させるニトリルブタジエンゴムラテックスに直接添加する。
【0151】
本発明にはさらに、HNBR-ラテックスの固形分含量を基準にして、2~20重量%の乳化剤、好ましくは5~18重量%の乳化剤、より好ましくは10~15重量%の乳化剤を含む、本発明の方法によって得られる、安定化された水素化ニトリルゴムラテックス(HNBR-ラテックス)が含まれる。
【0152】
2~20重量%の乳化剤を含む水素化ニトリルゴムラテックスは安定であって、さらなる加工、たとえば、典型的な用途における混合及び浸漬を容易にすることができる。乳化剤(b)のレベルが低すぎると、そのHNBR-ラテックスが不安定となる。乳化剤(b)のレベルが高すぎると、そのHNBR-ラテックスを用いたさらなる加工、たとえば、凝集や、製造されたHNBRのコンパウンディングを実施するのが困難となる。
【0153】
本発明にはさらに、水素化ニトリルゴムラテックスを調製するための方法において、NBR-ラテックスの水素化プロセスの水素化速度を上げるための、追加の乳化剤としてのオレイン酸カリウム乳化剤(b)の使用も含まれる。
【0154】
本発明の一つの利点は、水素化触媒(a)を使用したときに、NBR-ラテックスに対して、たとえばオレイン酸カリウムのような乳化剤を添加した後で、その水素化プロセスの水素化速度が高くなることである。
【0155】
水素化速度の改良は、親NBR-ラテックスの重合の際に使用される乳化剤のタイプ及び量に依存する。
【実施例
【0156】
以下に示す実験条件を用いた、以下の実施例で、本発明の範囲を説明するが、ただし、本発明の範囲を限定しようとするものではない。NBR-ラテックスの合成及びNBR-ラテックスの水素化反応で使用した物質を、表Aに列記する。
【0157】
【表2】
【0158】
乳化NBR-ラテックスの合成:
最初に、1.5mLのACNを、0.2mLのt-DDMと混合した。そのようにして得られた混合物を、次いで、仕込みチューブの中に加え、22.5mLのBDと混合した。反応器の中で、6mLのACN、開始剤KPS及びSMBS、NaP及び界面活性剤(=SDBS、SDS、又はKO)を、200mLの蒸留水の中に加えた。この混合物を脱気し、完全に混合した。その後で、2.5mLの、ACN、t-DDM、及びBDの混合物を仕込みチューブから反応器の中に、一度に加えた。そのようにして得られた混合物を、30分間混合し続けた。次いで、その混合物を、重合が開始される反応温度にまで加熱した。次いで、セミバッチ方式で、残りの、ACN、t-DDM、及びBDの混合物を、反応器の中に仕込んだ。その添加が完了したら、その反応混合物を、妥当な(reasonable)転化率が実現されるまで、エージングさせた。氷水浴により、温度を約5℃にまで下げることにより、重合を停止させた。ラテックスが得られた後、最終的なNBR-ラテックスに対して、0.03phrのDEHAを添加した。
【0159】
採用した界面活性剤のタイプに合わせて、最終的なNBR-ラテックスを、「SDS-ラテックス」、「SDBS-ラテックス」、又は「KO-ラテックス」と名付けた。
【0160】
【表3】
【0161】
NBR-ラテックスの水素化:
水素化反応は、300mLの316ステンレス鋼製Parr反応器の中で実施した。最初に、25mLのNBR-ラテックス及び75mLの水を、反応器の中に仕込んだ。そのNBR-ラテックスを、室温で20分間、約1.38MPaの窒素ガスをバブリングさせることにより、脱気してから、加熱して100℃とした。
【0162】
次いで、固体の水素化触媒(a)及び乳化剤(b)を、450rpmで、8.5MPaの水素ガスと共に、NBR-ラテックスの中に添加した。その反応時間の間、水素圧力及び反応温度は一定に維持した。反応の間、一定時間ごとに、反応器の中に挿入したチューブを通して、水素化中のNBR-ラテックスのサンプリングを行った。
【0163】
水素化の結果を表1~6に示す。目に見えるようなゲルは生成せず、そのようにして得られた水素化NBR(「HNBR」)ポリマーについて試験すると、メチルエチルケトンの中に容易に溶解した。
【0164】
水素化度の測定:
水素化反応の転化率は、Bio-Rad FTS 3000MX分光計(Bio-Rad Laboratories)で記録したFTIRにより求めた。典型的な操作法では、最初に、あるレベルの水素化度を有するラテックスのアリコートを単離して、ポリマーの固形物を得た。次いで、乾燥させたポリマーを、メチルエチルケトン(MEK;約0.5重量%)の中に再溶解させ、FTIR分析のための塩化ナトリウム円板の上に、ポリマーフィルムを析出させた。水素化度は、IRスペクトルから、2236、970、及び723cm-1での主ピークの、相当する吸光度(A)に基づいて計算する。2236cm-1のピークは、シアノ基(C≡N)に帰属される。970cm-1のピークは、C=C(1,4-トランス)に帰属される。723cm-1は、(CH(n>4)に帰属される新しいピークである。
【0165】
実施例シリーズ
実施例1:
表1に、市販のKO-乳化NBR-ラテックス(=KO-ラテックス、市販)の水素化の結果を示す。各種異なった添加量の乳化剤(b)(KO)を採用した。
【0166】
【表4】
【0167】
実験A1~A5は、KO-乳化剤を添加すると、NBR-ラテックス水素化プロセスの水素化速度が高くなることを示している。
【0168】
KO-乳化剤を添加しない場合、その水素化度は、4時間の水素化の後でも、95%未満である。
【0169】
ラテックスのニトリルブタジエンゴムの固形分含量の重量を基準にして5~10重量%のKOを添加した、NBR-ラテックスの水素化反応では、最大の水素化速度を示し、2時間以内に99.0%以上の水素化度に達した。
【0170】
実施例2:SDBS乳化/SDS乳化NBR-ラテックス+KO添加
表2に、SDBS乳化及びSDS乳化NBR-ラテックスの水素化の結果を示す。水素化触媒(a)(HG2)の異なった添加量、及び乳化剤(b)(KO)の異なった添加量を採用した。
【0171】
【表5】
【0172】
比較実験B1においては、SDBS乳化NBR-ラテックスを、乳化剤をまったく使用せずに水素化した。HG2触媒の0.2重量%の触媒担持レベル用いてさえも、その水素化速度が遅いが、このことは、HG2触媒が、界面活性剤の界面膜に浸透することができず、SDBS界面活性剤によって乳化された粒子に入れないということを示唆している。
【0173】
実験B2及びB3においては、SDBS乳化又はSDS乳化NBR-ラテックスに対して、乳化剤(b)としてのKOを、水素化触媒(a)としてのわずか0.15重量%のHG2と共に添加した。表1に示されているように、KOを添加することによって、水素化速度が大いに改良された。
【0174】
SDBS/KOのNBR-ラテックスは、1時間以内に約95%に達し、そして4時間以内に99%に達することが可能となった。
【0175】
SDS/KO-乳化NBR-ラテックスは、早い水素化速度を有し、95%に達するのに3時間しか必要としないことがさらに見出された(実験B3)。SDS/KO-乳化NBR-ラテックス(実験B3)の水素化速度は、SDBS/KO-乳化NBR-ラテックス(実験B2)のそれよりは、少し低かった。
【0176】
実施例3:KO-乳化NBR-ラテックス+KO添加
表3は、KO-乳化NBR-ラテックスの水素化の結果を示す。水素化触媒(a)(HG2)の異なった添加量、及び乳化剤(b)(KO)の異なった添加量を使用した。
【0177】
【表6】
【0178】
KO-乳化NBR-ラテックスに対して0.3重量%のHG2触媒及び1重量%のKO乳化剤を添加することによって、4時間以内で95%を超える水素化度となる、高い水素化速度が得られることが分かった(実験C2)。
【0179】
KO-乳化NBR-ラテックスに対して0.3重量%のHG2触媒及びわずか0.5重量%のKO乳化剤しか添加しないと、実験C2に比較して、より遅い水素化速度となる(実験C1)。
【0180】
実施例4:(各種の量の)KO-乳化NBR-ラテックス+KO添加
表4は、KO-乳化NBR-ラテックスの水素化の結果を示す。親NBR-ラテックスには各種の量のKO-乳化剤(2、4、8、10phmのKO)が含まれている。
【0181】
【表7】
【0182】
水素化速度は、NBR-ラテックス合成の際に存在していた乳化剤の量によっては、大きな影響は受けない。
【0183】
NBR-親ラテックスの中に存在していたKO-乳化剤を、2phmから10phmに増やしても、実験D1~D4のすべてにおいて、水素化度は同程度であり、3時間後では、全部のニトリルゴムで水素化度が90%を超えている。
【0184】
実施例3も考え合わせると、添加したKOの量は、親NBR-ラテックスの中に既に存在している乳化剤の量よりは、水素化速度に与える影響ははるかに大きい。
【0185】
実施例5:KO-乳化NBR-ラテックス+(各種の量の)KO添加
表5は、KO-乳化NBR-ラテックスの水素化の結果を示す。各種異なった添加量の乳化剤(KO)を使用した。
【0186】
【表8】
【0187】
KO-乳化剤の添加は、水素化速度にかなりの効果を有する。添加するKO乳化剤の量が増えるにつれて、水素化速度が上昇する。
【0188】
13~40重量%もの大量の乳化剤を、NBR-ラテックスの水素化反応を妨害せずに、添加することができる。
【0189】
実施例6:KO-乳化NBR-ラテックス+SDS添加
表6は、KO-乳化NBR-ラテックスの水素化の結果を示す。各種異なった添加量の乳化剤(SDS)を使用した。水素化反応について、SDS界面活性剤の試験をした。
【0190】
【表9】
【0191】
表6に示されているように、SDSの添加量を増やすと、水素化速度が高くなる。これらの実験のすべてにおいて、転化率が65%未満であったが、このことは、HG2を使用したKO-乳化剤NBR-ラテックスの水素化速度を上げるのには、(実験Z2~Z5で使用したように)KO乳化剤を添加することが、SDS乳化剤よりも有利であるということを示唆している。