(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】ヒートシンク
(51)【国際特許分類】
H01L 23/473 20060101AFI20230522BHJP
H05K 7/20 20060101ALN20230522BHJP
【FI】
H01L23/46 Z
H05K7/20 B
H05K7/20 M
(21)【出願番号】P 2020559931
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2019045892
(87)【国際公開番号】W WO2020116219
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2018230452
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222484
【氏名又は名称】株式会社ティラド
(74)【代理人】
【識別番号】100082843
【氏名又は名称】窪田 卓美
(72)【発明者】
【氏名】小野 純
(72)【発明者】
【氏名】坂井 耐事
(72)【発明者】
【氏名】大久保 厚
(72)【発明者】
【氏名】文後 卓也
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-239666(JP,A)
【文献】特開2015-192122(JP,A)
【文献】特開2013-157524(JP,A)
【文献】特開2012-238456(JP,A)
【文献】特開平5-318098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に冷媒が流通するコア(1)と、
コア(1)の外周を被嵌するケーシング(2)と、
ケーシング(2)に互いに離間して設けた一対の連通孔(3)と、
一端が連通孔(3)に接続されるネック部(4)を有し、他端に環状のシール面(5)を有する筒状のフランジ体(6)と、
フランジ体(6)のネック部(4)とケーシング(2)の連通孔(3)との間に介装されるろう付用のパッチプレート(7)と、を具備し、
それら各部品が一体にろう付固定されているヒートシンクにおいて、
前記パッチプレート(7)には、ろう材が被覆又は塗布されると共に、フラックスが塗布されており、
前記フランジ体(6)の外周は、前記ネック部(4)からシール面(5)に向かうにつれて、外直径が拡大する逆階段状の複数の段付き部(8)が形成されており、
前記フランジ体(6)に各段付き部(8)を有することにより、前記ろう付の際に前記フラックスが前記連通孔(3)側から前記シール面(5)まで上昇するのを阻止できるようにしたことを特徴とするヒートシンク。
【請求項2】
請求項1に記載のヒートシンクにおいて、
前記段付き部(8)は、垂直面(9)と傾斜面(10)とを有し、両面の傾斜角度(θ)が鈍角に形成されていることを特徴とするヒートシンク。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載のヒートシンクにおいて、
前記シール面(5)の外側に環状で、且つそのシール面(5)に直交して形成されている突出壁部(11)を有することを特徴とするヒートシンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、電子部品等の発熱体を冷却する液冷型ヒートシンクに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の発熱体を冷却する液冷型ヒートシンクとして、
図6に記載のものが知られている。
このヒートシンクは、皿状に形成されたカッププレート2aと、その開口を被嵌する平板2bによりケーシング2が形成されている。そのケーシング2内には、コア1が配置されている。カッププレート2a又は平板2bの平面には、互いに離間して配置された一対の連通孔3が穿設されている。連通孔3には、筒状のフランジ体6が接続される。
そのフランジ体6の一方の端部には、連通孔3に接続されるネック部4が設けられており、他方の端部には環状のシール面5が形成されている。ネック部4と連通孔3との間には、ろう付用のパッチプレート7が介装されている。そのパッチプレート7には、あらかじめフラックスが塗布されている。
その状態で、高温の炉内で、各部品が一体的にろう付固定されているものである。
このヒートシンクは、一対のフランジ体6に、図示しない、冷媒パイプがそれぞれ接続され、その冷媒がヒートシンクの内部に配置されたコア1を流通する。冷媒がコア1を流通することにより、発熱体から生じる熱を吸収するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、フラックスを用いたろう付工程の際、パッチプレート7に塗布されたフラックスは、濡れ性が良好で広がり性が大きいため、表面張力により、
図6の矢印に示す如く、ネック部4からフランジ体6の壁面を上昇する。そして、そのフラックスはシール面5に付着し、シール面の表面粗さを増大させるおそれがあった。
その結果、シール面5と、そこに接続される冷媒パイプ等との間で、冷媒漏れが生じるおそれがあり、ヒートシンクの性能が著しく低下する。
また、カシメ工程などの際、受け治具とフランジ体のシール面の頂部とが接触すると、シール面5に直接、受け治具13が当接するので、シール面にキズがつき易く、冷媒パイプ等の接続不良を起こし易い欠点があった。
そこで、本発明はこれらの問題点を解決するヒートシンクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、内部に冷媒が流通するコア1と、
コア1の外周を被嵌するケーシング2と、
ケーシング2に互いに離間して設けた一対の連通孔3と、
一端が連通孔3に接続されるネック部4を有し、他端に環状のシール面5を有する筒状のフランジ体6と、
フランジ体6のネック部4とケーシング2の連通孔3との間に介装されるろう付用のパッチプレート7と、を具備し、
それら各部品が一体にろう付固定されているヒートシンクにおいて、
前記パッチプレート7にはろう材が被覆又は塗布されると共に、フラックスが塗布されており、
前記フランジ体6の外周は、前記ネック部4からシール面5に向かうにつれて、外直径が拡大する逆階段状の複数の段付き部8が形成されており、
前記フランジ体6に各段付き部8を有することにより、前記ろう付の際に前記フラックスが前記連通孔3側から前記シール面5まで上昇するのを阻止できるようにしたことを特徴とするヒートシンクである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のヒートシンクにおいて、
前記段付き部8は、垂直面9と傾斜面10とを有し、両面の傾斜角度θが鈍角に形成されていることを特徴とするヒートシンクである。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2のいずれかに記載のヒートシンクにおいて、
前記シール面5の外側に環状で、且つそのシール面5に直交して形成されている突出壁部11を有することを特徴とするヒートシンクである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1に記載のヒートシンクは、フランジ体6の外周に、ネック部4からシール面5に向かうにつれて、外直径が拡大する逆階段状の複数の段付き部8が形成されているものである。その段付き部8の存在により、ろう付の際、フラックスが表面張力により上昇することを阻止する効果がある。
即ち、ろう材が介装され、フラックスが塗布された状態で、高温の炉内でろう付される時、表面張力で上昇するフラックスが段付き部8でトラップされ、シール面5に到達することを効果的に抑制できる。その結果、シール面5の表面粗さを一定に保つことができ、冷媒パイプ等の接続不良を起こし難いヒートシンクを提供できる。
請求項2に記載のヒートシンクは、段付き部8の垂直面9と傾斜面10とのなす傾斜角度θが鈍角に形成されているものである。
段付き部8の各段の傾斜角度θが鈍角に傾斜されているので、フラックスがその段付き部8の各段の付根にトラップされ易く、フラックスがシール面5の表面に到達するのを効果的に抑制できる。さらには、傾斜角度θを鈍角にすることにより、溜まったフラックスをブラスト処理により除去し易いものとなるため、フランジ体6周りの美観を損なうことがない。
請求項3に記載のヒートシンクは、シール面5の外側に環状で、且つそのシール面5に直交して形成されている突出壁部11を有するものである。
シール面5の外周縁に突出壁部11が設けられていることにより、パンチプレート7からシール面5までの距離がさらに延長される。そのため、フラックスがシール面5の表面に到達することをさらに効果的に抑制できる。
また、カシメ工程などの際、受け治具13とシール面5の突出壁部11の頂部とが接触するので、シール面5に直接、受け治具13が当接しない。そのため、製造工程中、シール面5にキズがつき難く、冷媒パイプ等の接続不良を起こし難いヒートシンクとなる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1は本発明のヒートシンクの要部断面図。
図2は同ヒートシンクのII部拡大図。
図3は同ヒートシンクのフランジ体6とケーシング2とのカシメ工程を示す要部断面図。
図4は同ヒートシンクの分解組立て斜視図。
図5は同ヒートシンクの他の実施例を示す分解組立て斜視図。
図6は従来技術を示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
次に、図面に基づいて本発明の実施形態につき説明する。
本発明は、
図4に示す如く、皿状に形成されたカッププレート2aと、その開口を被嵌する平板2bによりケーシング2が形成されている。カッププレート2a又は平板2bの平面に互いに離間して一対の連通孔3が穿設されている。その一対の連通孔3には、フランジ体6が接続される。フランジ部6のネック部4とケーシング2の連通孔3との間には、ろう材が被覆又は塗布されたパッチプレート7が介装されている。
ケーシング2の内部には、冷媒が内部に流通するコア1が配置されている。
このコア1は、一例として、平面状の第1プレート、第2プレートに多数の矩形孔を穿設し、隣接する第1プレートと第2プレートでは、その矩形孔の配置が一枚置きに異なるようにしておく。それらのプレートが交互に積層されてコア1を形成することができる。
このようなコア1の場合、コア1内を積層方向に対して上下方向に蛇行する冷媒流路が形成される。
また、ケーシング2の外面には、図示しない複数の半導体が、互いに離間して配置される。そして、一方のフランジ体6から冷媒が内部に導かれ、それがコア1を流通して他方のフランジ体6から流出し、図示しない、半導体からの放熱を吸収する。
(作用)
本発明の第1の実施形態の特徴は、カッププレート2a又は平板2bの平面に取付けられるフランジ体6の構造にある。
フランジ体6の一方には、連通孔3に接続されるネック部4が設けられており、他方にはシール面5が形成されている。
図1及び
図2に示す如く、フランジ体6の外周には、ネック部4からシール面5に向かうにつれて、外直径が拡大する逆階段状の複数の段付き部8が形成されている。この実施例では、各段付き部8は、垂直面9と傾斜面10とを有し、両面の傾斜角度θが鈍角(θ≧90°)に形成されている。
さらに、
図1に示す如く、フランジ体6のシール面5の外周縁に環状の突出壁部11が形成されており、且つ、その突出壁部11はシール面5に直交している。
このヒートシンクは、ろう付工程の際、ネック部4と連通孔3との間に介装されたパッチプレート7に、フラックスを塗布した状態で、高温の炉内で各部品の接触部が一体にろう付される。そのろう付の際の姿勢は、ネック部4が重力方向の上方に位置する。
そのろう付の際、フランジ体6の段付き部8の存在により、フランジ体6のシール面5までの距離を、段付き部がないフランジ体6よりも長くすることができ、表面張力で上昇するフラックスが段付き部8でトラップされる。
特に、本実施形態では、段付き部8が垂直面9と傾斜面10とにより形成され、その傾斜角度θが鈍角に形成されているので、フラックスがその段付き部8の各段の付根にトラップされ易くなっている。
また、フランジ体6のシール面5の外周縁に、シール面5に直交する環状の突出壁部11が形成されており、パンチプレート7からフランジ体6のシール面5への到達距離を長くしている。このため、フラックスがシール面5に到達することをより効果的に抑制できる。
このヒートシンク用のフランジ体6の段付き部8の傾斜角度θには、次の利点もある。
傾斜角度θを鈍角にすることにより、ろう付工程により溜まったフラックスを、ブラスト処理により除去し易く、そのため、ヒートシンクのフランジ体周りの美観を損なうことがない。
また、フランジ体6のシール面5の外周縁に設けられた突出壁部11には、次の利点もある。フランジ体6をケーシング2にろう付する前の行程として、
図3に示すようなカシメを行い仮固定のための工程を有する。
フランジ体6のカシメ工程の際、フランジ体6のシール面5側を受け治具13に嵌着した状態でカシメ治具12をフランジ体6のネック部4の孔縁に押し当ててカシメる。
ただし、
図6の従来のフランジ体6の場合、シール面5が直接、受け治具13に当接してしまい、カシメ時にシール面5にキズが生じるおそれがあり、パイプの接続時に冷媒漏れが生じるおそれがある。
図1~
図3のフランジ体6の場合は、その突出壁部11の先端が受け治具13に当接するため、シール面5が直接、受け治具13に当接しないので、シール面5にキズが生じ難い構成となっている。
次に、
図5は本発明の第2実施形態であり、この実施形態が第1実施形態と異なる部分は、ケーシング2とコア1が一体型となっている点である。
取付けられるパッチプレート7及びフランジ体6は、第1実施形態と同じものである。
この実施例は、上下一対の天板プレート2cと、底板プレート2dの間に、平板状のプレートが複数積層されるヒートシンクである。図面では、中間に配置されるプレートを省略する。各プレートは、その外周に枠部が形成され、その枠部の内側のマニホールドを介して、冷媒が流通する。
平面状のプレートには、第1実施例と同様に多数の矩形孔を穿設しておくことができ、隣接するプレートの矩形孔の配置が少なくとも一枚置きに異なっている。
なお、コア1の形状は、第1実施形態または第2実施形態のものに限定されない。
上記2つのヒートシンクについて、フランジ体6の形状の最適形状を説明した。
フランジ体6の形状は、少なくとも、フランジ体6の外周に形成されたネック部4からシール面5に向かうにつれて、外直径が拡大する逆階段状の複数の段付き部8を有していればよい。
【符号の説明】
【0008】
1 コア
2 ケーシング
2a カッププレート
2b 平板
2c 天板プレート
2d 底板プレート
3 連通孔
4 ネック部
5 シール面
6 フランジ体
7 パッチプレート
8 段付き部
9 垂直面
10 傾斜面
11 突出壁部
12 カシメ治具
13 受け治具
14 フラックス流れ
θ 傾斜角度