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特許7282854正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230522BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230522BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230522BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20230522BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230522BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230522BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/131
H01M4/1391
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/505
H01M4/62 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021178885
(22)【出願日】2021-11-01
(62)【分割の表示】P 2019151043の分割
【原出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2022009843
(43)【公開日】2022-01-14
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】10-2018-0098186
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0111347
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0062986
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0082546
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】チェ ムン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ヘオ キョン チェ
(72)【発明者】
【氏名】ユ ヒュン チョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ スン ヒュン
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-134996(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145913(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/62
H01M 4/1391
H01M 4/131
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムの吸藏および放出が可能な第1複合酸化物;および
前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する第2複合酸化物;を含み、
前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物は、固溶体を形成した状態で存在し、
前記固溶体に対するXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析時に、W4f7/2に対応するピークが35.5eV以下に存在する、正極活物質。
【請求項2】
前記固溶体に対するXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析時に、W4f7/2に対応するピークが34.0から35.5eVの範囲内に存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記固溶体に対するXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析時に、W4f 5/2 に対応するピークが36.0から37.5eVの範囲内に存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記第2複合酸化物は、下記の化学式1で表される、請求項1に記載の正極活物質
[化学式1]
LiM1
(ここで、
M1は、Ni、Mn、Co、Cu、Nb、Mo、Al、Zn、Mg、CeおよびSnから選ばれる少なくとも一つであり、
0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8である。)
【請求項5】
前記M1は、Mn、Mg、CoおよびNiから選ばれる少なくとも一つである、請求項4に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記第1複合酸化物は、下記の化学式2で表される、請求項1に記載の正極活物質:
[化学式2]
LiNi1-(x+y+z)CoM3M4
(ここで、
M3は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、
M4は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
0.5≦w≦1.5、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、0.001≦z≦0.20である。)
【請求項7】
前記固溶体は、下記の化学式3で表される、請求項1に記載の正極活物質:
[化学式3]
LiM1-LiNi1-(x+y+z)CoM3M4
(ここで、
M1は、Ni、Mn、Cu、Nb、Mo、Al、Zn、Mg、CeおよびSnから選ばれる少なくとも一つであり、
M3は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、
M4は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
M1とM2は、互いに異なり、
0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8であり、
0.5≦w≦1.5、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、0.001≦z≦0.20である。)
【請求項8】
M4は、WまたはWを含む複数の元素である、請求項7に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記固溶体の少なくとも一部をカバーするコーティング層をさらに含み、
前記コーティング層は、下記の化学式4で表される合金酸化物を含む、請求項1に記載の正極活物質:
[化学式4]
LiM5
(ここで、
M5は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
0≦e≦6、0<f≦6、0<g≦10である。)
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の正極活物質;
導電材;および
バインダー;を含む、正極スラリー組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の正極スラリー組成物を集電体にコーティングして形成された正極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質および前記正極活物質が含まれた正極を使用するリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、正極と負極に電気化学反応が可能な物質を使用することによって電力を貯蔵するものである。このような電池のうち代表的な例としては、正極および負極でリチウムイオンがインターカレーション/デインターカレーションされるときの化学電位(chemical potential)の差異によって電気エネルギーを貯蔵するリチウム二次電池がある。
【0003】
前記リチウム二次電池は、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な物質を正極と負極活物質として使用し、前記正極と負極との間に有機電解液またはポリマー電解液を充填させて製造する。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物が使用されており、その例として、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMnOなどの複合酸化物が研究されている。
【0005】
前記正極活物質のうちLiCoOは、寿命特性および充放電効率に優れているので、最も多く使用されているが、原料として使用されるコバルトの資源的限界に起因して高価であるので、価格競争力に限界があるという短所を有している。
【0006】
LiMnO、LiMnなどのリチウムマンガン酸化物は、熱的安全性に優れ、価格が安いという長所があるが、容量が小さく、高温特性が劣悪であるという問題点がある。また、LiNiO系正極活物質は、高い放電容量の電池特性を示しているが、Liと遷移金属間のカチオンミキシング(cation mixing)問題に起因して合成が難しく、それにより、レート(rate)特性に大きな問題点がある。
【0007】
また、このようなカチオンミキシングの深化程度に応じて多量のLi副産物が発生することになり、これらのLi副産物の大部分は、LiOHおよびLiCOの化合物からなるので、正極ペーストの製造時にゲル(gel)化する問題点と電極の製造後に充放電の進行によるガス発生の原因となる。残留のLiCOは、セルのスウェリング現象を増加させてサイクルを減少させると共に、バッテリーが膨らむ原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0069334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、既存リチウム二次電池用正極活物質問多様な問題点を解決するために、構造的安定性が向上し、リチウムイオンの伝導性を向上させた正極活物質を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、本願で定義された異種の複合酸化物を含むことによって、高温貯蔵安定性および寿命特性が向上した正極活物質を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、本願で定義された正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池を提供することにある。
【0012】
本発明の目的は、以上で言及した目的に制限されず、言及されていない本発明の他の目的および長所は、下記の説明により理解され得、本発明の実施例によりさらに明らかに理解されるだろう。また、本発明の目的および長所は、特許請求の範囲に示した手段およびその組合せにより実現され得ることを容易に知ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、リチウムの吸藏および放出が可能な第1複合酸化物および前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在し、前記第1複合酸化物と固溶体を形成した状態で存在する第2複合酸化物を含む正極活物質が提供され得る。
【0014】
この際、前記第2複合酸化物は、下記の化学式1で表される。
【0015】
[化学式1]
LiM1M2
【0016】
(ここで、M1は、Ni、Mn、Co、Cu、Nb、Mo、Al、Zn、Mg、CeおよびSnから選択される少なくとも一つであり、M2は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選択される少なくとも一つであり、M1とM2は、互いに異なり、0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8である。)
【0017】
また、本発明の他の態様によれば、本願に定義された正極活物質が含まれた正極を使用するリチウム二次電池が提供され得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多様な実施例による正極活物質は、異種の複合酸化物を含み、かつ特に第2複合酸化物が第1複合酸化物のうち少なくとも一部と固溶体を形成することによって、正極活物質問構造的安定性および熱的安定性(高温貯蔵安定性)を向上させることができる。
【0019】
また、上述した構造の正極活物質は、活物質内リチウムイオン伝導性が向上するにつれて、正極活物質の寿命特性、効率特性および抵抗などのような電気化学的特性も、従来の正極活物質に比べて向上することができる。
【0020】
上述した効果とともに、本発明の具体的な効果は、以下発明を実施するための具体的な事項を説明しつつ、共に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施例によって製造された正極活物質の一表面に対する透過型電子顕微鏡(TEM)分析結果を示す図である。
図2】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対するXPS分析結果を示す図である。
図3】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
図4】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
図5】本発明の一実施例によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
図6】本発明の他の実施例によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
図7】本発明の他の実施例によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
図8】本発明の他の実施例によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明をさらに容易に理解するために、便宜上、特定用語を本願に定義する。本願で別途定義しない限り、本発明に使用された科学用語および技術用語は、当該当技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解される意味を有する。また、文脈上、特に指定しない限り、単数形態の用語は、その複数形態も含むものであり、複数形態の用語は、その単数形態も含むものと理解されなければならない。
【0023】
以下、本発明による正極活物質および前記正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池についてより詳細に説明することとする。
【0024】
正極活物質
本発明の一態様によれば、リチウムの吸藏および放出が可能な第1複合酸化物および前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する第2複合酸化物を含む正極活物質が提供され得る。
【0025】
この際、前記正極活物質内前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物は、固溶体を形成した状態で存在することができる。
【0026】
例えば、前記第1複合酸化物をAと言い、前記第2複合酸化物をBと言うとき、前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物が形成した固溶体は、(AB)または(A)(B)形態であってもよい。
【0027】
ただし、本願で意味する固溶体は、(A)(B)形態の固溶体であり、ここで、(A)部分は、前記正極活物質を形成する1次粒子のコアに該当し、(B)部分は、前記正極活物質を形成する1次粒子のシェルに該当することができる。これに伴い、本願で意味する前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物の固溶体は、前記第1複合酸化物を含むコアと前記第2複合酸化物を含むシェル層が固溶体の形態で存在するコア-シェル粒子を指すものと理解されなければならない。この際、前記シェル層は、前記コアの表面のうち一部または全部をカバーするように存在することができ、前記第2複合酸化物は、前記シェル層のうち一部または全部に存在することができる。ここで、前記シェル層内に存在する前記第2複合酸化物は、前記固溶体のうち前記第2複合酸化物に該当する領域を意味するものと理解されることもできる。
【0028】
上述したように、前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物が形成した固溶体は、コア-シェル粒子の形態で存在し、前記コア-シェル粒子は、球形状、棒形状、楕円形状および/または不定形の形状を有することができる。
【0029】
また、前記正極活物質は、前記コア-シェル粒子および前記コア-シェル粒子が凝集して形成された単一の2次粒子それ自体であるか、前記2次粒子が複数個集まって形成された集合体であってもよい。
【0030】
本願で定義された第2複合酸化物は、下記の化学式1で表される粒子と定義され得る。下記の化学式1は、本願で言及された第2複合酸化物を独立して特定するために記載したものであって、本発明の一態様による正極活物質内存在する第2複合酸化物が第1複合酸化物と固溶体を形成した場合、後述する化学式3で表される。
【0031】
[化学式1]
LiM1M2
【0032】
(ここで、
M1は、Ni、Mn、Co、Cu、Nb、Mo、Al、Zn、Mg、CeおよびSnから選ばれる少なくとも一つであり、
M2は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
M1とM2は、互いに異なり、
0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8である。)
【0033】
より具体的に、M1は、Mn、Mg、CoおよびNiから選ばれる少なくとも一つであってもよい。
【0034】
例えば、M1がNiであり、M2がWである場合、第2複合酸化物は、化学式LiNiで表される。また、M1がCoであり、M2がWである場合、第2複合酸化物は、化学式LiCoで表される。また、M1がMnであり、M2がWである場合、第2複合酸化物は、化学式LiMnで表される。また、M1がMgであり、M2がWである場合、第2複合酸化物は、化学式LiMgで表される。
【0035】
この際、第2複合酸化物は、化学式LiNiで表される複合酸化物、化学式LiCoで表される複合酸化物、化学式LiMnで表される複合酸化物および化学式LiMgで表される複合酸化物から選ばれる一つの複合酸化物を意味するか、またはLiNiで表される複合酸化物、化学式LiCoで表される複合酸化物、化学式LiMnで表される複合酸化物および化学式LiMgで表される複合酸化物から選ばれる複数の複合酸化物を同時に含むこともできる。ここで、LiNiで表される複合酸化物は、LiNiWO、LiNiWOおよび/またはLiNi(WOで表される複合酸化物であってもよいが、必ずこれらに制限されるものではない。
【0036】
また、他の実施例において、第2複合酸化物を表示する化学式1のうちM1は、異種の金属元素であってもよい。例えば、第2複合酸化物は、化学式Li(Ni+Co)で表される複合酸化物、化学式Li(Ni+Mn)で表される複合酸化物および化学式Li(Ni+Mg)で表される複合酸化物から選ばれる一つの複合酸化物を意味するか、または化学式LiNiで表される複合酸化物、化学式LiCoで表される複合酸化物、化学式LiMnで表される複合酸化物、化学式LiMgで表される複合酸化物、化学式Li(Ni+Co)で表される複合酸化物、化学式Li(Ni+Mn)で表される複合酸化物および化学式Li(Ni+Mg)で表される複合酸化物から選ばれる任意の組合せの複合酸化物を同時に含むこともできる。
【0037】
上述したように、第2複合酸化物は、第1複合酸化物と固溶体を形成して、正極活物質の構造的安定性および熱的安定性を向上させることが可能であるという前提下に、M1およびM2の種類によって多様な組成を有することができる。
【0038】
この際、前記第2複合酸化物は、前記第1複合酸化物と同一または異なる結晶構造を有することができる。例えば、前記第2複合酸化物は、単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)および等軸晶系(cubic)から選ばれる少なくとも一つの結晶構造を有することができる。また、前記シェル層に存在する前記第2複合酸化物は、リチウムリッチ金属酸化物(Lithium-rich metal oxide)であってもよい。
【0039】
具体的な例として、M1がNiであり、M2がWであり、単斜晶系結晶構造を有する第2複合酸化物は、化学式LiNiで表され、三斜晶系結晶構造を有する第2複合酸化物は、化学式LiNi(Wで表される。
【0040】
一方、実際正極活物質のSEMまたはTEM写真においてコアとシェル層は、明確な境界をもって区分されにくいことがあるが、本願では、本明細書に記載された内容の理解を助けるために、正極活物質の構造をコアとシェル層とに区分して説明することとする
【0041】
すなわち、本願でコアは、第1複合酸化物が存在する領域であり、シェル層は、第2複合酸化物が存在する領域と定義され得、第1複合酸化物と第2複合酸化物が存在する領域の深さによってコアとシェル層の厚さ乃至大きさは変わることができる。
【0042】
この際、シェル層の厚さは、20nm、好ましくは10nm、より好ましくは5nm以下であってもよいが、必ずこれらに制限されるものではない。
【0043】
また、シェル層がコアの表面のうち一部に存在する場合、シェル層が存在しないコアの表面に第1複合酸化物が外部に露出することもできるものと理解されなければならない。
【0044】
本願で定義された第1複合酸化物は、下記の化学式2で表される粒子と定義され得る。
【0045】
[化学式2]
LiNi1-(x+y+z)CoM3M4
【0046】
(ここで、
M3は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、
M4は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
0.5≦w≦1.2、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、0.001≦z≦0.20である。)
【0047】
前記コア-シェル粒子は、隣り合ったコア-シェル粒子と互いに接してコア-シェル粒子の間の界面または結晶粒界(grain boundary)を形成することができる。また、前記コア-シェル粒子は、前記2次粒子の内部で隣り合ったコア-シェル粒子から離隔して内部孔隙を形成することもできる。
【0048】
ここで、前記コア-シェル粒子の平均直径は、0.1μm~6.0μmであってもよく、前記2次粒子の平均直径は、6.0μm~20.0μmであってもよい。この際、前記コア-シェル粒子は、隣り合ったコア-シェル粒子と互いに接して結晶粒界を形成せず、内部孔隙と接することによって、前記2次粒子の内部に存在する表面を形成することができる。一方、前記2次粒子の最表面に存在する前記コア-シェル粒子が外気に露出した面は、前記2次粒子の表面を形成することになる。
【0049】
また、前記2次粒子の表面部に存在する前記コア-シェル粒子内に含まれたM2および/またはM4は、前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。すなわち、前記コア-シェル粒子内に形成されたM2および/またはM4の濃度勾配の方向は、前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かう方向であってもよい。
【0050】
より具体的に、前記コア-シェル粒子内に含まれたM2および/またはM4の濃度勾配は、前記コア-シェル粒子の中心部を基準として前記2次粒子の中心部側より前記2次粒子の表面部側で大きくてもよい。
【0051】
この場合、前記2次粒子は、M2および/またはM4の濃度が互いに異なる第1領域および第2領域を含むことができる。
【0052】
ここで、前記コア-シェル粒子内に含まれたM2および/またはM4が前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示す領域は、第1領域であってもよい。すなわち、本願で定義されたM2および/またはM4の濃度勾配は、単一のコア-シェル粒子を基準として現れる濃度勾配を意味するものである。
【0053】
例えば、前記リチウム複合酸化物を形成する前記2次粒子の最表面から前記2次粒子の中心までの距離をRというとき、前記2次粒子の最表面からの距離R’が0~0.02Rである領域を第1領域と定義すると、前記第1領域内に存在するM2および/またはM4は、前記コア-シェル粒子内で前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。
【0054】
反面、前記第1領域内に存在するNiは、M2および/またはM4と反対に、前記コア-シェル粒子内で前記2次粒子の中心部に向かって増加する濃度勾配を示すことができる。ここで、前記2次粒子の中心部は、前記2次粒子の真ん中を指すことができる。
【0055】
この際、前記第1領域内に存在する前記コア-シェル粒子内に含まれたM2および/またはM4の濃度変化率は、50%以上、好ましくは60%以上であってもよいが、必ずこれに制限されるものではない。
【0056】
また、前記第1領域を除いた残りの領域が第2領域と定義され得、前記2次粒子の最表面からの距離R’が0~0.02Rである領域を第1領域と定義すれば、前記2次粒子の最表面からの距離R’が0.02R超過1.0Rである領域を第2領域と定義することができる。ここで、前記第2領域内に存在する前記コア-シェル粒子内に含まれたM2および/またはM4は、前記コア-シェル粒子内で一定方向に濃度が増加または減少する形態の濃度勾配を有してなくてもよい。
【0057】
他の実施例において、前記第2領域内に存在する前記コア-シェル粒子内M2および/またはM4の濃度変化率は、49%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは15%以下であってもよい。
【0058】
また、この場合、前記第1領域および前記第2領域に存在する前記コア-シェル粒子内に含まれたCoおよびM3の濃度変化率は、49%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは15%以下であってもよい。
【0059】
上述したように、前記リチウム複合酸化物を構成する前記2次粒子がM2および/またはM4の濃度が互いに異なる第1領域および第2領域に区切られ、M2および/またはM4は、前記第1領域および前記第2領域内で異なる様態の濃度勾配を示すことによって、前記リチウム複合酸化物の構造的安定性および熱的安定性(高温貯蔵安定性)を向上させることができる。
【0060】
また、上述した濃度勾配を有するコアを含む正極活物質は、活物質内リチウムイオン伝導性が向上するにつれて、正極活物質の寿命特性、効率特性および抵抗などのような電気化学的特性も、従来の正極活物質に比べて向上することができる。
【0061】
先立って説明したように、前記第1複合酸化物の表面のうち少なくとも一部に存在する前記第2複合酸化物は、前記第1複合酸化物と固溶体を形成した状態で存在することができる。
【0062】
ここで、前記固溶体は、下記の化学式3で表される。
【0063】
[化学式3]
LiM1M2-LiNi1-(x+y+z)CoM3M4
【0064】
(ここで、
M1は、Ni、Mn、Co、Cu、Nb、Mo、Al、Zn、Mg、CeおよびSnから選ばれる少なくとも一つであり、
M2は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
M3は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、
M4は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
M1とM2は、互いに異なり、
0≦a≦6、0<b≦2、0<c≦2、4≦d≦8であり、
0.5≦w≦1.5、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、0.001≦z≦0.20である。)
【0065】
より具体的に、M2は、M4またはM4のうち一部と同一であってもよい。すなわち、M2とM4が単一の元素である場合、M2とM4は、同一であってもよく、M2とM4がそれぞれ複数の元素である場合、M2全部または一部は、M4全部または一部と同一であってもよい。
【0066】
ここで、M2全部または一部がM4全部または一部と同一であるとき、M2およびM4は、前記正極活物質の表面部から前記正極活物質の中心部に向かって減少する濃度勾配を有することができる。
【0067】
他の実施例において、前記固溶体は、下記の化学式3-1で表される。
【0068】
[化学式3-1]
LiM1-LiNi1-(x+y+z)CoM2M3
【0069】
(ここで、
M1は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選ばれる少なくとも一つであり、
M2は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも一つであり、
M3は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
0≦a≦6、0≦b≦2、0≦c≦2、4≦d≦8、0.5≦w≦1.5、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.20、0.001≦z≦0.20である。)
【0070】
ここで、M3は、Wであるか、またはWを含むことができる。すなわち、M3が単一の元素である場合、M3は、Wである反面、M3が複数の元素である場合、M3は、WとWでない元素を含むことができる。M3がWであるか、またはWを含むとき、Wおよび(存在する場合)Wでない元素は、前記正極活物質の表面部から前記正極活物質の中心部に向かって減少する濃度勾配を有することができる。
【0071】
前記正極活物質のうち前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体の存在の有無は、XPS分析、Raman shift分析および/またはXRD分析結果等を通して確認することができる。
【0072】
XRD分析結果の場合、前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体形態のリチウム複合酸化物が存在する場合、前記固溶体は、前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物の回折ピーク特性を同時に示すことができる。
【0073】
例えば、化学式3で表される固溶体において、M1がNiであり、M2がWである第2複合酸化物とM3がAlであり、M4がWである第1複合酸化物が固溶体を形成する場合、固溶体は、化学式LiNi-LiNi1-(x+y+z)CoAlで表され、この際、固溶体は、LiNiに特異的な回折ピーク特性とLiNi1-(x+y+z)CoAlに特異的な回折ピーク特性を同時に示すことができる。
【0074】
また、化学式3-1で表される固溶体において、M1がNiである第2複合酸化物とM2がAlであり、M3がWである第1複合酸化物が固溶体を形成する場合、固溶体は、化学式LiNi-LiNi1-(x+y+z)CoAlで表され、この際、固溶体は、LiNiに特異的な回折ピーク特性とLiNi1-(x+y+z)CoAlに特異的な回折ピーク特性を同時に示すことができる。
【0075】
この場合、前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体形態のリチウム複合酸化物は、前記リチウム複合酸化物に対してCuKα線を利用したXRD(X-ray diffraction)分析時に、X線回折スペクトルが2θ=15°~20°の範囲で(001)結晶面および(003)結晶面にそれぞれ対応するピークと2θ=44°~50°の範囲で(104)結晶面に対応するピークを有することができる。また、前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体形態のリチウム複合酸化物は、2θ=42°~44°の範囲で(20-2)結晶面に対応するピークを有することができる。
【0076】
また、前記の化学式3-1で表される固溶体形態のリチウム複合酸化物は、前記リチウム複合酸化物に対するXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析時に、W4fおよびO1sに対するピークにおいてLiNiに特異的なピーク特性とLiNi1-(x+y+z)CoAlに特異的なピーク特性を同時に示すことができる。
【0077】
具体的に、前記リチウム複合酸化物に対するXPS分析時に、W4f7/2に対応するピークは、35.5eV以下、好ましくは34.0eV~35.0eVの範囲内に存在することができる。
【0078】
また、前記リチウム複合酸化物に対するXPS分析時に、W4f7/2に対応するピークは、37.5eV以下、好ましくは36.0eV~37.0eVの範囲内に存在することができる。
【0079】
LiNi組成の酸化物のW6+に対するW4f7/2ピークは、34.0eV~35.0eVの範囲内に存在し、W4f5/2ピークは、36.0eV~37.0eVの範囲内に存在することができる。反面、LiまたはW組成の酸化物のO2-に対するW4f7/2ピークは、35.0eVを超過する範囲に存在し、W4f5/2ピークは、37.0eVを超過する範囲に存在することを確認することができる。
【0080】
したがって、本発明の一実施例による正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物に対するXPS分析時に、34.0eV~35.0eVの範囲内にW4f7/2ピークが存在し、36.0eV~37.0eVの範囲内にW4f5/2ピークが存在することによって、前記リチウム複合酸化物は、LiNi固有のピークを示す。
【0081】
また、前記リチウム複合酸化物に対するXPS分析時に、O1sに対応するピークは、528.0eV~530.0eVの範囲および530.0eV~531.0eVの範囲内にそれぞれ存在することができる。
【0082】
LiNi1-(x+y+z)CoAlの組成の酸化物のO-M3+結合に対するピークは、528.0eV~529.0eVの範囲で現れる。LiNi組成の酸化物のO2-に対するピークは、530.0eV~531.0eVの範囲で存在するが、LiおよびW組成の酸化物も、530.0eV~531.0eVの範囲内でO2-に対するピークが現れるので、それぞれの酸化物を区別しにくいことがある。
【0083】
本発明の一実施例による正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物は、XPS分析時に、O1sスペクトル内でLiNi1-(x+y+z)CoAlの組成の酸化物のO-M3+結合に対応するピークとともに、LiNi組成の酸化物のO2-に対するピークを同時に有することができる。530.0eV~531.0eVの範囲内でのピークは、後述する合金酸化物によるものであってもよい。
【0084】
上述したように、前記の化学式3および/または化学式3-1で表される固溶体を含む正極活物質は、活物質内、特に活物質の表面でのリチウムイオン伝導性が向上するにつれて、正極活物質の寿命特性、効率特性および抵抗などのような電気化学的特性も、従来の正極活物質に比べて向上することができる。
【0085】
また、他の実施例において、正極活物質は、前記1次粒子および/または前記1次粒子が凝集して形成された2次粒子の少なくとも一部をカバーするコーティング層を含むことができる。
【0086】
例えば、前記コーティング層は、前記1次粒子であるコア-シェル粒子の露出した表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在することができる。特に、前記コーティング層は、前記2次粒子の最外郭に存在する前記1次粒子であるコア-シェル粒子の露出した表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在することができる。
【0087】
このように存在するコーティング層は、正極活物質の物理的および電気化学的特性の向上に寄与することができる。
【0088】
この際、前記2次粒子の最外郭に存在する1次粒子であるコア-シェル粒子において前記シェル層が前記コアの表面のうち一部をカバーする場合、前記コーティング層は、前記シェル層によってカバーされない前記コアの表面のうち少なくとも一部をカバーしたり、前記シェル層の少なくとも一部をカバーするように存在することができる。
【0089】
また、前記コーティング層は、下記の化学式4で表される合金酸化物が存在する領域と定義され得る。
【0090】
[化学式4]
LiM5
【0091】
(ここで、
M5は、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、W、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
0≦e≦6、0<f≦6、0<g≦10である。)
【0092】
前記合金酸化物は、前記第1複合酸化物と物理的および/または化学的に結合した状態であってもよい。また、前記合金酸化物は、前記第2複合酸化物と物理的および/または化学的に結合した状態であってもよい。また、前記合金酸化物は、前記第1複合酸化物と前記第2複合酸化物が形成した固溶体と物理的および/または化学的に結合した状態であってもよい。
【0093】
上述したように、本実施例による正極活物質は、上述した合金酸化物を含むことによって、構造的な安定性が高まることができ、このような正極活物質をリチウム二次電池に使用する場合、正極活物質の高温貯蔵安定性および寿命特性が向上することができる。また、前記合金酸化物は、前記正極活物質内リチウムイオンの移動経路(pathway)として作用することによって、リチウム二次電池の効率特性を向上させるのに影響を与えることができる。
【0094】
また、場合によって、前記合金酸化物は、前記コア-シェル粒子間の界面および前記2次粒子の表面のうち少なくとも一部だけでなく、前記2次粒子の内部に形成された内部孔隙にも存在することができる。
【0095】
前記の化学式4を通じて示したように、前記合金酸化物は、リチウムとM5で表される金属元素が複合化された酸化物であって、前記合金酸化物は、例えば、Li(W)O、Li(Zr)O、Li(Ti)O、Li(B)O、WO、ZrO、TiOなどであってもよいが、上述した例は、理解を助けるために便宜上記載したものに過ぎず、本願で定義された前記合金酸化物は、上述した例に制限されない。したがって、後述する実験例では、便宜上化学式4で表される代表的な合金酸化物のいくつかの例示に対する実験結果を記載することとする。
【0096】
他の実施例において、前記合金酸化物は、リチウムとM5で表される少なくとも2種の金属元素が複合化された酸化物であるか、またはリチウムとM5で表される少なくとも2種の金属元素が複合化された酸化物をさらに含むことができる。リチウムとM5で表される少なくとも2種の金属元素が複合化された合金酸化物は、例えば、Li(W/Ti)O、Li(W/Zr)O、Li(W/Ti/Zr)O、Li(W/Ti/B)Oなどであってもよいが、必ずこれらに制限されるものではない。
【0097】
また、この場合、リチウムタングステン酸化物内に少なくとも1種の金属元素がドーピングされた格子構造を有することができる。すなわち、前記の合金酸化物は、リチウムタングステン酸化物(例えば、LiWO、Li、LiWO、LiWOまたはLi)が形成する格子構造内タングステンのうち一部が金属元素で置換された格子構造を有することになる。ここで、格子構造内タングステンを置換する金属元素としては、Mn、Al、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つが使用され得る。
【0098】
一実施例において、前記合金酸化物は、前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。これに伴い、前記合金酸化物の濃度は、前記2次粒子の最表面から前記2次粒子の中心部に向かって減少することができる。
【0099】
上述したように、前記合金酸化物が前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことによって、前記正極活物質の表面に存在する残留リチウムを効果的に減少させて、未反応の残留リチウムによる副反応を未然に防止することができると共に、前記合金酸化物により前記正極活物質の表面内側領域での結晶性が低下するのを防止することができる。また、合金酸化物により電気化学反応中に正極活物質の全体的な構造崩壊を防止することができる
【0100】
他の実施例において、前記合金酸化物は、下記の化学式5で表される第1合金酸化物および下記の化学式6で表される第2合金酸化物を含むことができる。
【0101】
[化学式5]
Li
【0102】
(ここで、0≦i≦6、0<j≦6、0<k≦10である。)
【0103】
[化学式6]
LiM6
【0104】
(ここで、
M6は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ca、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
0≦k≦6、0<l≦6、0<m≦10である。)
【0105】
この際、前記第1合金酸化物および前記第2合金酸化物は、前記2次粒子の表面部から前記2次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。これに伴い、前記第1合金酸化物および前記第2合金酸化物の濃度は、前記2次粒子の最表面から前記2次粒子の中心部に向かって減少することができる。
【0106】
この際、前記第2合金酸化物の濃度減少率は、前記第1合金酸化物の濃度減少率より大きいことが好ましく、前記第2合金酸化物の濃度減少率が前記第1合金酸化物の濃度減少率より大きいことによって、合金酸化物を含む正極活物質の構造的安定性が維持され得る。また、前記正極活物質内効率的なリチウムイオンの移動経路(pathway)を形成することによって、リチウム二次電池の効率特性を向上させるのに肯定的に作用することができる。
【0107】
さらに、前記合金酸化物は、下記の化学式7で表される第3合金酸化物を含むことができる。
【0108】
[化学式7]
Li1-oM7
【0109】
(ここで、
M7は、Ti、Zr、Mg、V、B、Mo、Zn、Nb、Ba、Ta、Fe、Cr、Sn、Hf、Ce、NdおよびGdから選ばれる少なくとも一つであり、
0≦n≦6、0<o≦0.50、0<p≦6である。)
【0110】
ここで、前記第3合金酸化物は、格子構造内タングステンのうち一部がM7で置換された格子構造を有することができる。
【0111】
上述したように、本発明の多様な実施例による正極活物質を含む正極をリチウム二次電池の正極として使用する場合、高温貯蔵安定性および寿命特性をさらに向上させることができる。
【0112】
リチウム二次電池
本発明のさらに他の態様によれば、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質層とを含む正極が提供され得る。ここで、前記正極活物質層は、本発明の多様な実施例による正極活物質を含むことができる。したがって、正極活物質は、上記で説明したことと同一なので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、残りの前述しない構成のみについては、説明することとする。
【0113】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えばステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用され得る。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有し得、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して、正極活物質の接着力を高めることもできる。例えばフィルム、シート、ホイール、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で使用され得る。
【0114】
前記正極活物質層は、前記正極活物質と共に、導電材および必要に応じて選択的にバインダーを含むことができる。
【0115】
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80~99wt%、より具体的には、85~98.5wt%の含量で含まれ得る。上記した含量範囲で含まれるとき、優れた容量特性を示すことができるが、必ずこれに制限されるものではない。
【0116】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特別な制限なしに使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して0.1~15wt%で含まれ得る。
【0117】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して0.1~15wt%で含まれ得る。
【0118】
前記正極は、上記した正極活物質を利用することを除いて、通常の正極の製造方法により製造され得る。具体的に、上記した正極活物質および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することによって製造することができる。
【0119】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であってもよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以後、正極の製造のための塗布時に優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0120】
また、他の実施例において、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネーションすることによって製造されることもできる。
【0121】
また、本発明のさらに他の態様によれば、上述した正極を含む電気化学素子が提供され得る。前記電気化学素子は、具体的に電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的には、リチウム二次電池であってもよい。
【0122】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と前記負極との間に介在される分離膜および電解質とを含むことができる。ここで、前記正極は、上記で説明したことと同一なので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、前述しない残りの構成のみについて具体的に説明する。
【0123】
前記リチウム二次電池は、前記正極、前記負極および前記分離膜の電極組立体を収納する電池容器および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0124】
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含むことができる。
【0125】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用され得る。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有し得、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して、負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイール、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で使用され得る。
【0126】
前記負極活物質層は、負極活物質と共に、選択的にバインダーおよび導電材を含む。
【0127】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用され得る。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などリチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープおよび脱ドープし得る金属酸化物;またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのうちいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用され得る。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が使用されることもできる。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがすべて使用され得る。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)および硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球形状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0128】
前記負極活物質は、負極活物質層の全体重量を基準として80~99wt%で含まれ得る。
【0129】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体間の結合に助力する成分であって、通常、負極活物質層の全体重量を基準として0.1~10wt%で添加され得る。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体などが挙げられる。
【0130】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分であって、負極活物質層の全体重量を基準として10wt%以下、好ましくは、5wt%以下で添加され得る。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用され得る。
【0131】
一実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布し乾燥することによって製造されるか、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネーションすることによって製造され得る。
【0132】
また、他の実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布し乾燥するか、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、該支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネーションすることによって製造されることもできる。
【0133】
一方、前記リチウム二次電池において、分離膜は、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常、リチウム二次電池において分離膜として使用されるものであれば、特別な制限なしに使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗でありかつ電解液含湿能力に優れていることが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用され得る。また、通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されることもできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコートされた分離膜が使用されることもでき、選択的に単層または多層構造で使用され得る。
【0134】
また、本発明において使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0135】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0136】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割をすることができるものであれば、特別な制限なしに使用され得る。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1、3-ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用され得る。これらの中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用することが、電解液の性能が優秀に現れることができる。
【0137】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特別な制限なしに使用され得る。具体的に前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが使用され得る。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれる場合、電解質が適切な伝導度および粘度を有するので、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0138】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N、N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1~5wt%で含まれ得る。
【0139】
上記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および寿命特性を安定的に示すので、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0140】
本発明によるリチウム二次電池の外形は、特別な制限がないが、カンを使用した円筒形、角形、パウチ(pouch)形またはコイン(coin)形などになり得る。また、リチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用され得ると共に、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用され得る。
【0141】
本発明のさらに他の態様によれば、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよび/またはこれを含む電池パックが提供され得る。
【0142】
前記電池モジュールまたは前記電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのうちいずれか一つ以上の中大型デバイス電源として用いられる。
【0143】
以下では、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、ただ本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇がこれらの実施例により制限されるものと解されないと言える。
【0144】
実験例1.
(1)正極活物質の製造
(実施例1)
共沈法(co-precipitation method)により球形のNi0.92Co0.08(OH)水酸化物前駆体を合成した。90L級の反応器でNiSO・7HOおよびCoSO・7HOを92:8のモル比で混合した1.5Mの複合遷移金属硫酸水溶液に25wt%のNaOHと30wt%のNHOHを投入した。反応器内のpHは、11.5を維持させ、この際の反応器の温度は、60℃に維持し、不活性ガスであるNを反応器に投入して、製造された前駆体が酸化しないようにした。合成撹拌の完了後、フィルタープレス(F/P)装備を利用して洗浄および脱水を進めて、Ni0.92Co0.08(OH)水酸化物前駆体を収得した。
【0145】
水酸化物前駆体をLi含有原料物質であるLiOHおよびAl含有原料物質であるAlと共にミキサーを使用して混合し、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり1℃で昇温して熱処理温度650℃で10時間維持した後、自然冷却した。得られた正極活物質をW含有原料物質(WO)と共にミキサーを用いて混合した。同じ焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、分当たり2℃で昇温して熱処理温度600℃で5時間維持した後、自然冷却した。次に、上記と同じ条件下で熱処理および冷却を1回さらに行った。実施例1で製造された正極活物質がLi1.0Ni0.902Co0.079Al0.0140.005組成式を有することが確認された。
【0146】
(実施例2)
実施例2で得られた正極活物質がLi1.04Ni0.897Co0.084Al0.0140.005の組成式を有するように、W含有原料物質(WO)およびコバルト原料物質(Co(OH))と共に混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0147】
(実施例3)
実施例3で得られた正極活物質がLi1.04Ni0.897Co0.079Al0.0140.005Mg0.005の組成式を有するように、W含有原料物質(WO)およびマグネシウム原料物質(Mg(OH))と共に混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0148】
(実施例4)
実施例4で得られた正極活物質がLi1.04Ni0.897Co0.079Al0.0140.005Mn0.005の組成式を有するように、W含有原料物質(WO)およびマンガン原料物質(Mn(OH))と共に混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0149】
(実施例5)
実施例5で製造された正極活物質がLi1.04Ni0.901Co0.079Al0.0140.005Ti0.001の組成式を有するように、W含有原料物質(WO)およびTi含有原料物質(TiO)を使用したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0150】
(実施例6)
実施例6で製造された正極活物質がLi1.04Ni0.904Co0.079Al0.0140.005Zr0.001の組成式を有するように、W含有原料物質(WO)および代わりにZr含有原料物質(ZrO)を使用したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0151】
(実施例7)
実施例7で製造された正極活物質がLi1.04Ni0.901Co0.078Al0.0140.005Ti0.001Zr0.001の組成式を有するように、正極活物質をW含有原料物質(WO)とWおよびTi含有原料物質(TiO)およびZr含有物質を共に混合したことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0152】
(比較例1)
比較例1で製造されたLi1.04Ni0.907Co0.079Al0.014正極活物質をW含有原料物質(WO)と混合しないことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0153】
(比較例2)
固相合成法を利用してLiNiWOを合成した。Ni(OH)、WOおよびLiOH・HOをミキサーで混合した後、1000℃で熱処理して、LiNiWOリチウム複合酸化物を製造した。比較例1に製造された正極活物質にLiNiWOを0.5mol%を混合して、正極活物質を製造した。
【0154】
(比較例3)
比較例1で製造されたLi1.04Ni0.907Co0.079Al0.014正極活物質と固相合成法を利用して合成したLiWOおよびLi 0.5mol%を混合した後、熱処理しないことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0155】
(比較例4)
比較例1で製造されたLi1.04Ni0.907Co0.079Al0.014正極活物質と固相合成法を利用して合成したLiNiWO 0.5mol%を混合した後、熱処理しないことを除いて、実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0156】
【表1】
【0157】
(2)正極活物質のXPS分析
実施例および比較例によって製造された正極活物質に対してXPS分析を行って、正極活物質のうち固溶体が存在するか否かを確認した。XPS分析は、Quantum 2000(Physical Electronics.Inc.)(加速電圧:0.5~15keV、300W、エネルギー分解能:約1.0eV、最小分析領域:10micro、Sputter rate:0.1nm/min)を使用して行われた。
【0158】
図2は、実施例1によって製造された正極活物質に対するXPS分析結果を示すグラフである。
【0159】
図2を参照すると、LiNi組成の酸化物のO2-に対するW4f7/2ピークは、34.0eV~35.0eVの範囲内に存在し、W4f5/2ピークは、36.0eV~37.0eVの範囲内に存在することを確認することができる。反面、LiまたはW組成の酸化物のW6+に対するW4f7/2ピークは、35.5eVを超過する範囲に存在し、W4f5/2ピークは、37.5eVを超過する範囲に存在することを確認することができる。
【0160】
実施例1によって製造された正極活物質のW4fスペクトルの場合、34.0eV~35.5eVの範囲内にW4f7/2ピークが存在し、36.0eV~37.5eVの範囲内にW4f5/2ピークが存在することを確認することができる。すなわち、実施例1によって製造された正極活物質は、LiNi固有のピークを示す。
【0161】
したがって、図2に示したように、NCA組成の正極活物質のうちW4f結果によるLiNiに対応する固有のピークが存在することを確認することによって、実施例1により製造された正極活物質は、LiNi組成の酸化物とLiNi1-(x+y+z)CoAl組成の酸化物が固溶体を形成した複合体を含んでいることが分かる。
【0162】
下記の表2には、実施例および比較例により製造された正極活物質のW4f7/2およびW4f5/2にそれぞれ対応するピークが存在する結合エネルギー区間をそれぞれ示した。
【0163】
【表2】
【0164】
前記表2の結果を参考すると、実施例1~実施例7の場合、比較例4とは異なって、LiNi組成の酸化物を別に添加しなかったにもかかわらず、LiNi組成の酸化物に対応するW4fピークが観察されることを確認することができる。
【0165】
(3)正極活物質のXRD分析
実施例および比較例によって製造された正極活物質に対しX線回折(XRD)分析を行って、正極活物質のうちLiNi1-(x+y+z)CoAlおよびLiNi相が異存在するか否かを確認した。XRD分析は、Cu Kαradiation(1.540598Å)を利用したBruker D8 Advance回折計(diffractometer)を利用して行った。
【0166】
図3図5は、実施例1によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
【0167】
図3を参照すると、正極活物質に含まれた化合物は、LiNiに特異的な回折ピーク特性とLiNi1-(x+y+z)CoAlに特異的な回折ピーク特性を同時に示すことを確認することができる。
【0168】
より具体的に、図4および図5を参照すると、2θが18.8°付近でLiNi1-(x+y+z)CoAlの(003)結晶面に対応する回折ピークを示すことを確認することができる。また、2θが18.3°付近でLiNiWOの(001)結晶面に対応する回折ピークを示すことを確認することができる。すなわち、正極活物質に含まれた化合物は、2θが18°~20°である領域でLiNiに特異的な回折ピーク特性とLiNi1-(x+y+z)CoAlに特異的な回折ピーク特性を同時に示す。
【0169】
正極活物質に含まれた2θが20°~30°である領域で(020)結晶面、(110)結晶面、(11-1)結晶面および(021)結晶面の位置で特異的な回折ピークを示し、これは、LiNiに対応する回折ピークであることを確認することができる。
【0170】
また、図3および図5を参照すると、2θが44.5°付近で正極活物質に含まれた化合物は、LiNi1-(x+y+z)CoAlの(104)結晶面に対応する回折ピークを示し、2θが43.2°の付近でLiNiWOの(20-2)結晶面に対応する回折ピークを示すことを確認することができる。
【0171】
これに伴い、図3図5の結果を総合してみると、正極活物質に含まれた化合物は、LiNiに特異的な回折ピーク特性とLiNi1-(x+y+z)CoAlに特異的な回折ピーク特性を同時に示すことによって、化学式LiNi-LiNi1-(x+y+z)CoAlで表される固溶体であることを確認することができる。
【0172】
これと共に、実施例2~実施例7によって製造された正極活物質がいずれも固溶体およびリチウム合金酸化物に特異的な回折ピークパターンを示すが、比較例1によって製造された正極活物質の場合、LiNi1-(x+y+z)CoAl組成に対応する回折ピークパターンだけが検出された。
【0173】
一方、比較例2および比較例3によって製造された正極活物質の場合、XRD分析結果、LiNiに特異的な回折ピークを示さない反面、比較例4によって製造された正極活物質の場合、実施例1によって製造された正極活物質と類似した回折ピークパターンを示した。
【0174】
比較例4によって製造された正極活物質の場合、LiNi組成の酸化物をLiNi1-(x+y+z)CoAl組成の酸化物が単純混合された状態で存在するにつれて、LiNiおよびLiNi1-(x+y+z)CoAlそれぞれから起因する回折ピークが同時に検出されたものであり、比較例4によって製造された正極活物質を構成する成分であるLiNiとLiNi1-(x+y+z)CoAlが固溶体を形成したものを意味しない。
【0175】
さらに、実施例5~実施例7によって製造された正極活物質に対してX線回折(XRD)分析を行って、正極活物質のうち合金酸化物および合金酸化物が存在するか否かを確認した。XRD分析は、Cu Kαradiation(1.540598Å)を利用したBruker D8 Advance回折計(diffractometer)を利用して行った。
【0176】
図6図8は、実施例5~実施例7によって製造された正極活物質に対するXRD分析結果を示すグラフである。
【0177】
図6を参照すると、実施例5によって製造された正極活物質のうち合金酸化物であるLiWOに相当する特性ピークが確認され、特に、(220)ピークは、シフト(shift)されなかったが、(111)および(200)ピークが特異的に低角(low angle)側にシフト(shift)されるのに伴い、LiWOが形成する格子構造内タングステンのうち一部がTiで置換された異種の合金酸化物が存在することを確認した。
【0178】
また、図7を参照すると、実施例6によって製造された正極活物質のうち合金酸化物であるLiWOに相当する特性ピークが確認され、特に、(111)、(200)および(220)ピークが特異的に低角(low angle)側にシフト(shift)されるのに伴い、LiWOが形成する格子構造内タングステンのうち一部がZrで置換された異種の合金酸化物が存在することを確認した。
【0179】
図8を参照すると、実施例7によって製造された正極活物質は、NCA組成を有するものであることを確認することができ、これと同時に、正極活物質内LiWO、LiWO、LiTiO、LiTiOおよびLiZrOに該当するピークが存在することを確認した。
【0180】
(5)正極活物質の未反応リチウム測定
実施例および比較例によって製造された正極活物質に対する未反応リチウムの測定は、pH滴定(pH titration)によりpH4になるまで使用された0.1Mの HClの量で測定した。まず、正極活物質それぞれ5gをDIW 100mlに入れ、15分間撹拌した後、フィルタリングし、フィルタリングされた溶液50mlを取った後、これに0.1MのHClを加えてpH変化によるHCl消耗量を測定して、Q1およびQ2を決定し、これを通じて、未反応のLiOHおよびLiCOを計算した。
【0181】
M1=23.95(LiOH Molecular weight)
M2=73.89(LiCO Molecular weight)
SPL Size=(Sample weight×Solution Weight)/Water Weight
LiOH(wt%)=[(Q1-Q2)×C×M1×100]/(SPL Size×1000)
LiCO(wt%)=[2×Q2×C×M2/2×100]/(SPL Size×1000)
【0182】
前記計算式を通じて測定された未反応リチウムの測定結果は、下記の表3に示した。
【0183】
【表3】
【0184】
前記表3の結果を参考すると、実施例1~実施例7によって製造された正極活物質は、比較例1~比較例4によって製造された正極活物質に比べて残留リチウムの量が大きく減少したことを確認することができる。特に、Li、WまたはLiNi組成を有する酸化物をLiNi1-(x+y+z)CoAl組成の複合酸化物とそれぞれ単純混合した比較例2~比較例4の場合、単純LiNi1-(x+y+z)CoAl組成の正極活物質(比較例1)に比べて残留リチウムの量を十分に減少させないことを確認することができる。
【0185】
実験例2.
(1)リチウム二次電池の製造
実施例および比較例によって製造された正極活物質それぞれ94wt%、カーボンブラック(carbon black)3wt%、PVDFバインダー3wt%をN-メチル-2ピロリドン(NMP)30gに分散させて、正極スラリーを製造した。前記正極スラリーを厚さ15μmの正極集電体であるアルミニウム(Al)薄膜に塗布および乾燥し、ロールプレス(roll press)を実施して、正極を製造した。正極のローディングレベルは、10mg/cmであり、電極密度は、3.2g/cmであった。
【0186】
前記正極に対して金属リチウムを対極(counter electrode)とし、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)を2:4:4の体積比で混合した溶媒に1.15MのLiPFを添加して製造した。
【0187】
前記正極と負極との間に多孔質ポリエチレン(PE)フィルムからなるセパレーターを介在して電池組立体を形成し、前記電解液を注入して、リチウム二次電池(コインセル)を製造した。
【0188】
(2)リチウム二次電池の容量特性の評価
前記で製造されたリチウム二次電池(コインセル)に対して25℃で0.15Cの定電流(CC)で4.25Vになるまで充電し、以後、4.25Vの定電圧(CV)で充電して、充電電流が0.05mAhになるまで1回目の充電を行った。以後、20分間放置した後、0.1Cの定電流で3.0Vになるまで放電して、1サイクル目の放電容量を測定した。第1充放電時の充電容量、放電容量および充放電効率を下記の表4に示した。
【0189】
【表4】
【0190】
前記表4の結果を参考すると、実施例1~実施例7によって製造された正極活物質を使用したリチウム二次電池が、比較例1~比較例4によって製造された正極活物質を使用したリチウム二次電池に比べて充放電効率および容量特性の側面で改善されたことを確認することができる。特に、LiおよびW、LiNi組成の複合酸化物をLiNi1-(x+y+z)CoAl組成の複合酸化物とそれぞれ単純混合した比較例2~比較例4の場合、単純LiNi1-(x+y+z)CoAl組成の正極活物質(比較例1)に比べて充放電効率および4.0C/0.2Cレート特性が改善されたが、LiNi組成の複合酸化物とLiNi1-(x+y+z)CoAl組成の複合酸化物が固溶体を形成している実施例に比べて不足した性能を示すことを確認することができる。
【0191】
また、固溶体を含む実施例1~実施例7によって製造された正極活物質を使用したリチウム二次電池は、上述したように、比較例に比べて電気化学的特性を向上させると同時に、特に比較例2~比較例4とは異なって、W含有酸化物を別に添加しないことによって、製造工程の難易度および工程費用を減少させることができる。
【0192】
(3)リチウム二次電池の安定性の評価
前記で製造されたリチウム二次電池(コインセル)に対して25℃で1Cの定電流(CC)で3.0~4.25Vの駆動電圧の範囲内で充/放電を100回実施した。これにより、常温での充放電100回実施後、初期容量に対する100サイクル目の放電容量の比率であるサイクル容量維持率(capacity retention)を測定した。
【0193】
また、リチウム二次電池の高温貯蔵特性を確認するために、25℃で充放電した電池をSOC100%を基準として充電して抵抗を測定した後、60℃で7日間貯蔵後、抵抗を測定して、抵抗の変化幅を確認した。
【0194】
前記測定結果は、下記の表5に示した。
【0195】
【表5】
【0196】
前記表5の結果を参考すると、実施例1~実施例7によって製造された正極活物質を使用したリチウム二次電池が、比較例1~比較例4によって製造された正極活物質を使用したリチウム二次電池に比べて容量維持率に優れていると共に、高温貯蔵前後の抵抗変化幅が小さいことを確認することができる。特に、LiNi、LiおよびW組成の複合酸化物とLiNi1-(x+y+z)CoAl組成の複合酸化物をそれぞれ単純混合した比較例2~4の場合、単純LiNi1-(x+y+z)CoAl組成の正極活物質(比較例1)に比べて容量維持率および抵抗特性が改善されたが、LiNi組成の複合酸化物とLiNi1-(x+y+z)CoAl組成の複合酸化物が固溶体を形成している実施例に比べて不足した性能を示すことを確認することができる。
【0197】
以上、本発明の実施例について説明したが、当該技術分野において通常の知識を有する者なら、特許請求範囲に記載された本発明の思想を逸脱しない範囲内で、構成要素の付加、変更、削除または追加などにより本発明を多様に修正および変更させることができ、これも、本発明の権利範囲内に含まれると言える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8