(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】エクソソームに基づく抗腫瘍ワクチン
(51)【国際特許分類】
C12N 5/16 20060101AFI20230522BHJP
C12N 5/22 20060101ALI20230522BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230522BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230522BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230522BHJP
C12N 5/0786 20100101ALN20230522BHJP
【FI】
C12N5/16
C12N5/22
A61P35/00
A61K39/00 H
A61K39/395 U
C12N5/0786
(21)【出願番号】P 2021509860
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 CN2019101079
(87)【国際公開番号】W WO2020038299
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】201810946746.X
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509031567
【氏名又は名称】中国科学院過程工程研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF PROCESS ENGINEERING,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】NO.1 Zhongguancun North Second Street,Haidian District Beijing 100190,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(72)【発明者】
【氏名】馬 光輝
(72)【発明者】
【氏名】魏 ▲い▼
(72)【発明者】
【氏名】王 双
(72)【発明者】
【氏名】卿 爽
(72)【発明者】
【氏名】王 江華
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105132386(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1446583(CN,A)
【文献】American Association for Cancer Research,2007年,Vol.67, 9_Supplement,1853
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原提示細胞により腫瘍細胞核を貪食するステップを含み、
前記抗原提示細胞は
、マクロファージである、雑種細胞の調製方法。
【請求項2】
免疫調節剤により前記雑種細胞を処理するステップをさらに含み、
前記免疫調節剤は、リポ多糖、モノホスホリルリピドAまたは非メチル化シチジル酸グアニル酸モチーフである、請求項1に記載の雑種細胞の調製方法。
【請求項3】
腫瘍細胞の細胞核を抽出し、抗原提示細胞培養液に前記腫瘍細胞核を加え、インキュベートした後、この培養液の上清液を収集し、ディファレンシャル遠心分離し、エクソソームを収集するステップを含
み、
前記抗原提示細胞は、マクロファージであり、腫瘍細胞核を貪食して雑種細胞を形成する、エクソソームの調製方法。
【請求項4】
抗原提示細胞培養液に免疫調節剤が添加されており、前記免疫調節剤は、リポ多糖、モノホスホリルリピドAまたは非メチル化シチジル酸グアニル酸モチーフである、請求項
3に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソーム、その調製方法およびこのエクソソームに基づく抗腫瘍免疫治療方法に関する。前記エクソソームは、免疫活性化および腫瘍微小環境のダブル効果調整能力を有する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の治療手段には、通常外科的治療、放射線治療および化学療法の3種類がある。外科的治療は、肉眼で見える固形腫瘍の直接切除により治療効果を達成するしかできず、悪性腫瘍の浸潤性が非常に強く、外科的治療ではすべての腫瘍細胞を全部除去することが保証できず、腫瘍再発のリスクが高い。放射線治療は、細胞殺傷能力を有する放射線(例えば、α線、β線、γ線など)を用いて悪性腫瘍部位に照射することによりがん細胞を殺す治療法である。しかし、放射線療法には特異性がないため、照射過程で周囲の組織や細胞に何らかの悪影響を与えることは避けられない。化学療法は、腫瘍殺傷能力を有する化学薬品を用いて腫瘍細胞を殺傷することにより腫瘍細胞の増殖、拡散および転移を効果的に抑制する方法である。しかし、ほとんどの化学療法薬は腫瘍特異殺傷能力を有さないため、腫瘍を殺傷すると同時に生体の正常細胞を損傷する強い副作用を引き起こすことがある。
【0003】
腫瘍生物学および免疫学の発展に伴い、自己免疫システムの調節を主要特性とする免疫療法は、腫瘍治療に新しいアイデアを提供した。腫瘍免疫治療は、様々な手段により生体自身の免疫保護メカニズムを活性化および増強して非正常の腫瘍細胞を殺し、腫瘍治療および再発防止の目的を達成する療法である。現在、リンパ球の養子免疫療法、抗体治療法、腫瘍治療型ワクチンおよび免疫チェックポイントに対する阻害療法をはじめとする抗腫瘍免疫治療は、いずれもある程度の研究進展を遂げた。
【0004】
腫瘍治療型ワクチンが腫瘍治療作用を発揮する基本原理は、腫瘍抗原を含むワクチンにより患者自身の免疫システムを活性化し、生体に腫瘍細胞似対応する特異的免疫応答を引き起こし、この過程により腫瘍細胞を特異的に除去することである。この過程は、抗原提示細胞(antigen presenting cell,APC)の腫瘍抗原に対する摂取から始まり、各免疫細胞の共同作用および複雑な免疫因子信号ネットワークにより完成される。まず、腫瘍部位の腫瘍抗原は、体内を巡るAPCにより発見され、APCは抗原摂取および次の抗原加工により抗原提示能力を取得するとともに、大量のケモカインを放出し、より多いAPCを注射部位へ動員して腫瘍抗原の摂取および加工提示を行う。腫瘍ワクチンにより活性化されたAPCは、さらに自動的にリンパ節にホーミングし、リンパ節内でそれぞれCD4+T細胞およびCD8+Tリンパ球を活性化する。一方、APCは表面のMHC I複合体によりCD8+Tリンパ球を活性化し、それを増殖させ、腫瘍細胞殺傷作用を有する細胞毒性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte,CTL)に変換することができる。そして、CTLは腫瘍部位に遊走浸潤し、腫瘍細胞を分解して殺傷し、細胞免疫応答により腫瘍細胞を徹底に除去する目的を達成する。さらに、APCは、その表面のMHC II複合体によりCD4+Tリンパ球を活性化し、体液免疫応答を引き起こし、IL-12の補助作用下でTh1型ヘルパーT細胞に変換し、Th1型サイトカイン(例えば、IFN-γ)を分泌することにより、CTLの腫瘍細胞に対する殺傷作用を補助することができる。
【0005】
現在、インビトロ実験により多くの新規ナノ腫瘍ワクチンが上記細胞免疫応答を実現し、大量のCTLを産生できることが実証されている。しかし、動物レベルでの抗腫瘍効果は理想的ではなく、主に動物体内の腫瘍部位には複雑な腫瘍微小環境が存在するためである。腫瘍微小環境には大量の免疫抑制類細胞(腫瘍関連マクロファージ(TAM)、骨髄由来抑制細胞(MDSC)、制御性樹状細胞(DC-reg)および制御性T細胞(Treg)など)が存在する。これらの免疫抑制細胞は、その表面免疫抑制分子(例えば、PD-L1)または大量の抑制性サイトカイン(例えば、IL-10、TGF-β)の分泌によりエフェクターリンパ球の感作を阻害し、その浸潤能力を低下させ、浸潤したエフェクター細胞の殺傷作用を抑制することで、生体の抗腫瘍免疫作用を低下させる。
【0006】
上記の様々な研究にもかかわらず、生体をより効率的に活性化して特異的免疫を誘導可能なワクチン(例えば、体内の細胞免疫応答の活性化に加え、腫瘍部位の標的化および腫瘍免疫抑制性微小環境の改善能力を兼ね備える)の研究開発は、その臨床応用にとって非常に重要である。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、腫瘍抗原をAPC上で内因性発現させることにより、腫瘍抗原のMHC I提示を根本的に実現できるとともに、APC上での共刺激因子(例えばCD40、CD80、CD86など)の効率的な発現を実現できることを発見した。例えば、高貪食能力を有するマクロファージにより腫瘍細胞核を貪食し、形成された「雑種」細胞にリポ多糖(lipopolysaccharide,LPS)で刺激した上で、雑種マクロファージのエクソソームを抽出し、APCをシミュレートする機能を有するエクソソーム型ワクチン製剤を得る。腫瘍細胞核内に完全な腫瘍細胞遺伝情報を有し、それがエンドサイトーシスされてからマクロファージのオルガネラによりマクロファージ膜上で内因的に腫瘍抗原のMHC I複合体を発現することができる。培養過程におけるLPSの共同刺激により、マクロファージ表面の共刺激因子および腫瘍抗原-MHC I複合体の発現レベルはさらに向上するとともに、マクロファージは抗腫瘍作用を有するM1型マクロファージへ変換する。このような活性化された「雑種」細胞によって分泌された雑種エクソソームの表面に大量の共刺激分子、腫瘍抗原MHC I複合体および多種類の抗腫瘍関連免疫活性化類信号分子を持っている。これらの雑種エクソソームは、ナノレベルのAPCに類似し、ナノサイズの粒径を有するため、一部のエクソソームがリンパ節を標的化し、リンパ節内部でAPCの機能をシミュレートし、T細胞を直接活性化し、細胞免疫応答を誘導する。さらに、この雑種エクソソームが特定の腫瘍信号(例えば、接着分子)を持っているため、相同のがん細胞腫瘍を標的にして識別することができ、相同腫瘍の定向走化作用により、一部のエクソソームを腫瘍部位へ誘導する。腫瘍内部において、雑種エクソソームは、その内部の免疫活性化類の信号分子により、M2型マクロファージをM1型マクロファージに逆転することができ、これによってTreg比率が低下し、腫瘍微小環境が改善される。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、抗原提示細胞が腫瘍細胞核を貪食して形成された雑種細胞を提供する。好ましくは、抗原提示細胞は、樹状細胞、マクロファージまたはB細胞である。
【0009】
本発明は、前記雑種細胞によって分泌されたナノ細胞小胞であるエクソソームをさらに提供する。このエクソソームは雑種エクソソームである。
【0010】
本発明は、エクソソームの調製方法をさらに提供する。この方法は、腫瘍細胞の細胞核を抽出し、抗原提示細胞培養液にこの腫瘍細胞核を加え、インキュベートした後、前記培養液の上清液を収集し、ディファレンシャル遠心分離し、エクソソームを収集するステップを含む。
【0011】
本発明は、前記雑種細胞またはエクソソーム、および薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物をさらに提供する。この医薬組成物は例えば抗腫瘍ワクチンである。
【0012】
本発明は、前記エクソソーム、モノクローナル抗体、および薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物をさらに提供する。このモノクローナル抗体は、例えば、PD-1抗体、PD-L1抗体またはCTLA-4抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】マウスマクロファージが腫瘍細胞核を貪食して雑種細胞を形成する共焦点画像片である。
【
図2】本発明のマウスエクソソームの透過電子顕微鏡画像である。
【
図3】本発明のマウスエクソソームの粒度分布図である。
【
図4】本発明のマウスエクソソーム上の4種類のタンパク質分子(エクソソームマーカータンパク質CD9、共刺激分子CD86、組織適合性複合体I、組織適合性複合体II)の発現状況を示す。
【
図5】本発明のヒトエクソソームの透過電子顕微鏡画像である。
【
図6】本発明のヒトエクソソーム上の4種類のタンパク質分子(CD86、CD40、HLA-ABC、HLA-DR)の発現状況である。
【
図7】皮下注射された後の本発明のマウスエクソソームのマウスリンパ節および腫瘍での集中状況を示す。
【
図8】本発明のマウスエクソソーム信号のマウスリンパ節および腫瘍部位での経時変化状況を示す。
【
図9】本発明のマウスエクソソームが注射された48h後のマウスの異なる組織でのエクソソーム信号の集中状況を示す。
【
図10】本発明のマウスエクソソームがリンパ節内で作用する異なる免疫細胞の比率および円グラフである。
【
図11】本発明のマウスエクソソームが活性化された後のマクロファージとT細胞との相互作用の模式図およびT細胞増殖効果である。
【
図12】本発明のマウスエクソソームが活性化された後の樹状細胞とT細胞との相互作用の模式図およびT細胞増殖効果である。
【
図13】本発明のマウスエクソソームがT細胞を直接活性化した後の増殖効果を示す。
【
図14】本発明のヒトエクソソームがヒトT細胞を直接活性化した後の増殖効果を示す。
【
図15】本発明のヒトエクソソームにより活性化されたT細胞の腫瘍細胞に対する殺傷効果を示す。
【
図16】本発明のマウスエクソソームが腫瘍内注射された後、マクロファージと相互作用する雑種エクソソームとの比率を示す。
【
図17】本発明のマウスエクソソームが腫瘍内注射された後、腫瘍関連マクロファージタプ(M1/M2)に対する影響を示す。
【
図18】本発明のマウスエクソソームが腫瘍内注射された後の腫瘍内のCD4/Treg、CD8/Tregの比値である。
【
図19】本発明のマウスエクソソームが腫瘍内注射された後の腫瘍内のCTLの浸潤状況を示す。
【
図20】本発明のヒトエクソソームで刺激した後の3D腫瘍細胞球におけるマクロファージタイプに対する影響を示す。
【
図21】本発明のヒトエクソソームで刺激した後の3D腫瘍細胞球におけるTreg比率を示す。
【
図22】本発明のヒトエクソソームで刺激した後の3D腫瘍細胞球の増殖体積を示す。
【
図23】本発明のマウスエクソソームが皮下注射された後のE.G7-OVA担癌マウスの腫瘍増殖曲線である。
【
図24】本発明のマウスエクソソームが皮下注射された後のE.G7-OVA担癌マウスの生存時間曲線である。
【
図25】本発明のマウスエクソソームが皮下注射された後のMuc1-B16担癌マウスの腫瘍増殖曲線である。
【
図26】本発明のマウスエクソソームが皮下注射された後のMuc1-B16腫瘍転移モデルマウスの体重変化である。
【
図27】本発明のマウスエクソソームが皮下注射された後のMuc1-B16腫瘍転移モデルマウスの肺部転移スポットの数統計である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
エクソソーム(Exosomes)は細胞が分泌する生物膜小胞であり、その直径が約30~140nmである。通常まず細胞膜が内へ凹んで脱落し、初期エンドソームを形成し、次に、細胞質中のエスコート複合体(ESCRT)および関連タンパク質の制御下で、初期エンドソームの膜がさらに内へ凹み、内生出芽の方式で初期エンドソームにおいて複数のナノサイズの小さな小胞を形成する。このときのエンドソームは、多胞体(MVB)と呼ばれる。最後に、MVBはGTPaseファミリーのうちのRAB酵素の調節により、細胞膜と融合し、その中のナノ小胞を外へ放出する。これらの細胞外へ放出される小さな小胞はエクソソームと呼ばれる。
【0015】
エクソソームの分泌は特異性を有し、細胞間の遺伝情報の交換および信号通信に関与することができる。研究により、DCが分泌するエクソソームにはほとんどのDC細胞それ自体の表面分子(例えば、MHC分子、共刺激分子など)が「継承」されている。近年、APCのエクソソームはより天然の新型ナノ人工APCシステムとして腫瘍の免疫治療分野に幅広く使用されている。
【0016】
抗原提示細胞に比べ、抗原提示細胞の細胞外ナノ小胞、すなわち、エクソソームは腫瘍治療型ワクチンとする優位性は以下の通りである。(1)抗原提示細胞は体外で不活性化しやすいので、使用時に調製する必要がある一方、エクソソームは構造が安定し、長い貯蔵寿命を有し、-80℃で6ヶ月以上凍結保存できる。(2)抗原提示細胞は体内で腫瘍微小環境により誘導されて表現型変換し(例えば、免疫抑制のM2マクロファージまたはDCregに変換する)、T細胞活性化能力を失いやすい一方、エクソソームは、固有成分を持っている小粒径小胞として、免疫活性化分子を持っているのでより安定し、変換することがない。(3)エクソソームの内部には化学療法または光熱療法薬が担持でき、免疫治療と他の治療手段との併用治療を実現できるため、抗原提示細胞に基づくエクソソームは、複数の機能を有する腫瘍ワクチンを構築することができる。
【0017】
本発明は、抗原提示細胞が腫瘍細胞核を貪食して形成された雑種細胞を提供する。好ましくは、抗原提示細胞は、樹状細胞、マクロファージまたはB細胞である。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗原提示細胞は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上の腫瘍細胞核を貪食することができる
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、遠心分離して対数増殖期の腫瘍細胞を収集し、PBSで再懸濁させ、2回洗浄し、細胞を沈殿して再懸濁させ、再懸濁後、細胞懸濁液を処理し、篩に掛けて綿状物を除去した後、懸濁液を遠心分離し、下層沈殿は細胞核である。
【0020】
本発明は、マクロファージなどの抗原提示細胞が腫瘍細胞核をエンドサイトーシスする方式を使用して雑種細胞を調製することにより、マクロファージが腫瘍細胞を貪食する方式に比べてより優れている。腫瘍細胞表面に多種類の信号分子(例えば、CD47、MHC-I分子β鎖など)を高発現しやすいことで、マクロファージは腫瘍細胞を貪食することができず、腫瘍細胞とマクロファージの共同増殖を引き起こし、マクロファージの表現型変換を引き起こし、腫瘍細胞の増殖を促進することがある。
【0021】
本発明は、マクロファージなどの抗原提示細胞が腫瘍細胞核をエンドサイトーシスする方式を使用して雑種細胞を調製し、他の細胞融合方式、例えば、PEG融合および電気融合に比べ、本発明でされる方法は効率がより高く、雑種細胞の形成比率が100%に達し、細胞活性に影響しない。通常、細胞融合法の選択性が非常に低く、マクロファージとマクロファージの融合または腫瘍細胞と腫瘍細胞の融合を引き起こしやすいことで、大量の非目的産物である融合細胞が生成し、PEG融合または電気融合方法にもかかわらず、細胞活性に影響し、最終的に生きているマクロファージ-腫瘍雑種細胞の成功率が低く、例えば、10%-30%である。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、前記雑種細胞は免疫調節剤により活性化される。前記免疫調節剤は、例えば、リポ多糖、モノホスホリルリピドAまたは非メチル化シチジル酸グアニル酸モチーフである。リポ多糖などは、マクロファージ表面の共刺激因子および腫瘍抗原-MHC I複合体の発現レベルを向上でき、また、マクロファージを抗腫瘍作用を有するM1型マクロファージに変換させることができる。このような活性化された雑種細胞が分泌する雑種エクソソームの表面に大量の共刺激分子、腫瘍抗原MHC I複合体および多種類の抗腫瘍関連免疫活性化類信号分子を持っている。
【0023】
本発明は、エクソソームの調製方法をさらに提供する。この方法は、腫瘍細胞の細胞核を抽出し、抗原提示細胞培養液にこの腫瘍細胞核を加え、インキュベートした後、この培養液の上清液を収集し、ディファレンシャル遠心分離し、エクソソームを収集する。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗原提示細胞は腫瘍細胞核を貪食し、雑種細胞を形成する。この雑種細胞はエクソソームを分泌する。このエクソソームは雑種エクソソームである。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗原提示細胞は樹状細胞、マクロファージまたはB細胞であり、より好ましい抗原提示細胞はマクロファージである。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、マクロファージが腫瘍細胞核を貪食することにより、腫瘍抗原のマクロファージ上の内因性発現を実現する。また、腫瘍細胞核は、マクロファージオルガネラにより腫瘍接着分子を発現することができる。このような接着分子は、エクソソームの腫瘍部位への遊走をガイドすることができ、エクソソーム腫瘍の標的性の問題を解決し、腫瘍微小環境の改善のために良好の前提を提供する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗原提示細胞培養液に免疫調節剤が添加されており、好ましくは、前記免疫調節剤はリポ多糖、モノホスホリルリピドA、非メチル化シチジル酸グアニル酸モチーフのうちのいずれか1種又は2種以上の組み合わせである。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、高貪食能力を有する抗原提示細胞、例えば、マクロファージにより腫瘍細胞核を貪食し、形成された雑種細胞に免疫調節剤、例えば、リポ多糖(lipopolysaccharide,LPS)で刺激した上で、雑種マクロファージのエクソソームを抽出し、APCをシミュレートする機能を有するエクソソーム型ワクチン製剤を得る。腫瘍細胞核内に完全な腫瘍細胞遺伝情報を有し、それがエンドサイトーシスされてからマクロファージのオルガネラによりマクロファージ膜上で内因的に腫瘍抗原のMHC I複合体を発現することができる。培養過程におけるLPSの共同刺激により、マクロファージ表面の共刺激因子および腫瘍抗原-MHC I複合体の発現レベルはさらに向上するとともに、マクロファージは抗腫瘍作用を有するM1型マクロファージへ変換する。このような活性化された雑種細胞によって分泌された雑種エクソソームの表面に大量の共刺激分子、腫瘍抗原MHC I複合体および多種類の抗腫瘍関連免疫活性化類信号分子を持っている。これらの雑種エクソソームは、ナノレベルのAPCに類似し、ナノサイズの粒径を有するため、一部のエクソソームがリンパ節を標的化し、リンパ節内部でAPCの機能をシミュレートし、T細胞を直接活性化し、細胞免疫応答を誘導する。さらに、この雑種エクソソームが特定の腫瘍信号(例えば、接着分子)を持っているため、相同のがん細胞腫瘍を標的にして識別することができ、相同腫瘍の定向走化作用により、一部のエクソソームを腫瘍部位へ誘導する。腫瘍内部において、雑種エクソソームは、その内部の免疫活性化類の信号分子により、M2型マクロファージをM1型マクロファージに逆転することができ、これによってTreg比率が低下し、腫瘍微小環境が改善される。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、腫瘍細胞核を貪食したマクロファージはE.G7腫瘍抗原OVAを成功に発現し、マクロファージ表面のT細胞識別信号MHC分子、共刺激因子およびM1型マクロファージメーカー分子Ly-6Cの発現レベルは向上し、小胞表面で共刺激分子およびT細胞識別信号MHC分子が高発現され、小胞内部には高含有量の免疫活性化型サイトカインおよび多種類のケモカインを含む。
【0030】
本発明の好ましい実施形態において、本発明のエクソソームは良好なリンパ節と腫瘍二重標的化能力を有する。リンパ節標的化は、エクソソームのナノサイズ粒径による。腫瘍標的化能力は、エクソソームが持っている腫瘍信号分子が腫瘍部位に対して相同走化性を有することによる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態において、リンパ節を標的とするエクソソームは、一部がAPCにより摂取される方式によりAPCを活性化し、さらにTリンパ球の増殖を活性化し、他の部分がT細胞表面に結合し、Tリンパ球の増殖を直接活性化する。腫瘍部位を標的とするエクソソームは、約4分の1が腫瘍関連マクロファージと相互作用し、M1型マクロファージへの変換を促進する。また、エクソソームは、Tregの腫瘍部位での浸潤を低下させ、CTLの腫瘍浸潤比率を向上させ、免疫抑制性の腫瘍微小環境を効果的に改善する。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、本発明は、本発明荷記載のエクソソームを含む医薬組成物を提供する。前記エクソソームは、生理学的に許容できるキャリアに懸濁され、この生理学的に許容できるキャリアは例えばPBS緩衝液または生理食塩水である。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、本発明は、これを必要とする被験体における腫瘍またはがんの増殖もしくは進行を抑制する方法を提供する。この方法は、有効量の本発明に記載のエクソソームを被験体に投与するステップを含む。
【0034】
好ましくは、エクソソームは、静脈内注射、筋肉注射、皮下注射、髄腔内注射もしくは輸液および/または臓器内輸液(intra-organ infusion)により投与される。例えば、エクソソームは、1kgあたりの体重で約1.5×1010-約1.5×1013個のエクソソーム粒子の量で全身投与を行う。他の実施例において、エクソソームは、約1.5×1010および1.5×1011のエクソソーム粒子の量で局所組織または解剖学的空間(anatomical space)に注射または輸液することで投与する。他の実施形態において、本発明は、少なくとも1種の他の抗がん剤と併用して前記被験体治療する。
【0035】
本発明は、前記雑種細胞またはエクソソームを含む医薬組成物をさらに提供する。この医薬組成物は、例えば、抗腫瘍ワクチンであり、哺乳類被験体における腫瘍などの疾患に対する予防型または治療型処理に使用される。前記ワクチンは、調製が簡単で、腫瘍の種類に関わらず、再発予防、転移抑制および治療のいずれにも適用可能な汎用性を有し、抗腫瘍効果が高い。
【0036】
本発明は、前記エクソソームおよびモノクローナル抗体を含む医薬組成物を更に提供する。前記モノクローナル抗体は、例えば、PD-1抗体、PD-L1抗体またはCTLA-4抗体である。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、マウス体内実験結果から分かるように、本発明のエクソソームワクチンの注射は、腫瘍産生および組織器官の損傷を引き起こすことがなく、良好な生物安全性を有する。抗腫瘍インサイチュ増殖効果の研究において、雑種エクソソームワクチンは、E.G7リンパ腫およびMuc1-B16黒色腫のいずれにも良好な腫瘍抑制効果を有し、マウスの生存期を顕著に延長させる。本発明のエクソソームワクチンとPD-1抗体とを併用した後、Muc1-B16黒色腫細胞の肺臓、心臓および腎臓への転移に対して良好な予防効果を示し、Muc1-B16黒色腫が手術で切除された後のインサイチュ再発および肺転移状況を効果的に防止する。
【0038】
本発明の目的は、患者体内で腫瘍細胞または腫瘍に対する細胞毒性T細胞応答を誘導する方法を提供することである。この方法は、この患者に有効量の本発明のエクソソームを投与し、特に静脈内、注射または輸液、好ましくは輸液により投与することを含む。この方法の目的は、特に患者の樹状細胞の活性化およびCD8+細胞毒性T細胞応答を誘導することである。上記のように、特異的CD4+補助TおよびCD8+細胞毒性T応答を取得する。
【0039】
本発明の目的は、患者体内で上記のように腫瘍細胞または腫瘍に対する細胞毒性細胞応答を誘導する抗がん治療方法を提供することである。この方法は、この患者に有効量の本発明のエクソソームを投与し、特に静脈内、注射または輸液、好ましくは輸液により投与することを含む。
【0040】
本発明において、「有効量」とは、有益または所望な結果(例えば、腫瘍またはがんの進行速度の低下)を引き起こすのに十分な量を指す。有効量は、単回または複数回で投与することができる。有効量、すなわち適切な用量は、治療される被検体の体重、年齢、健康、疾患または病状および投与経路によって変化する。被験体に投与されるエクソソームの用量は被験体において所望の有益な治療反応を経時的に効果的に実現できる量である。
【0041】
当業者は、滴定用量および投与持続時間に基づいて最良の臨床応答(例えば、がんの進行速度および/または拡散速度の低下、および/または癌の退行の誘導)を達するために投与される不活化エクソソームの量を容易に特定することができる。
【0042】
本発明で提供される医薬組成物については、当業者に知られている方法により本発明のワクチンを例えば、動脈内、静脈内、経皮注射、経鼻、経気管支、筋肉内または経口により患者に投与することができる。用量および投与方法は、患者の体重、年齢および投与方法によって異なり、当業者が必要に応じて選択することができる。
【0043】
本発明は、本明細書に開示された具体的な実施形態の範囲に限定されず、これらの実施形態は、本発明のいくつかの態様を説明するものである。
【0044】
<実施例1>E.G7-マクロファージ雑種細胞の調製
(a)細胞核抽出試薬(Solarbio)を用いてリンパ腫細胞E.G7-OVA(ATCC CELL BANK)由来の細胞核を抽出する。
E.G7-OVA細胞を10%ウシ胎児血清タンパク質(Gibco社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社)、0.4mg/mLG418(Gibco社)および0.05mMβ-メルカプトエタノール(Gibco社)を含む高グルコース1640培地(Gibco社)に培養する。1:5の継代比率で2日ごとに継代する。遠心分離し、対数増殖期の腫瘍細胞を収集し、PBS(Gibco社)で再懸濁させ、2回洗浄する。細胞核提取キット(Solarbio社)におけるLysis bufferを用いて細胞を沈殿して再懸濁させた後、細胞密度は約2×107/mLである。その後、1mlあたりの細胞懸濁液に20μL Reagent A(Solarbio社)を加え、ピペットで繰り返して吹きかけて均一に混合し、200メッシュの篩に掛けて綿状物を除去する。篩掛けた後の懸濁液700gを5minで遠心分離し、下層の沈殿物は細胞核である。
【0045】
(b)可溶性澱粉(西隴化工公司)を1.2g秤量し、20mL滅菌水に溶解し、溶液が透明になるまで加熱する。牛肉ペースト(北京化工厂)0.06g、ペプトン(北京化工厂)0.2g、塩化ナトリウム(北京化工厂)0.1gが入ったビーカーに入れ、完全に溶解させ、6%澱粉ブロスをマウス腹腔マクロファージ誘導液として調製し、各匹のC57マウス(維通利華実験動物技術有限公司)に1mL腹腔注射する。3日後、マウスを頸椎脱臼で安楽死させ、75%アルコール(北京化工厂)で5min浸漬して消毒した後、マウスに5mLのPBS(Gibco社)を腹腔内注射して洗浄し、複数回軽くこねた後、腹部皮膚を切開し、腹膜を露出させ、注射器で洗浄液を吸い出して収集し、1500rpmで5min遠心分離し、12h接着培養して培養液を交換し、上清懸濁細胞を捨て、残りの接着細胞はマクロファージである。その後、エクソソームフリーのDMEM完全培地で培養する。完全培地の成分は、10%エクソソームフリーのウシ胎児血清タンパク質(Gibco社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社)の高グルコースDMEM培地(Gibco社)を含む。DRAQ5染料(Life Technologies社)でマクロファージの細胞核を染色する。
【0046】
(c)(a)で抽出した新鮮E.G7-OVA腫瘍細胞核を5μg/mLのDAPI溶液(北京泛博生物化学有限公司)で染色し、その後、細胞核:マクロファージが2:1の比率で(b)のマクロファージのエクソソームフリーDMEM完全培養液に加え、マクロファージに腫瘍細胞核をエンドサイトーシスさせ、マクロファージの細胞核およびE.G7-OVA細胞核の両方を含む腫瘍-マクロファージ雑種細胞を得る。その後、ローダミン-ファロイジン染料(Life Technologies社)で雑種細胞の細胞膜を染色する。
【0047】
レーザ走査型共焦点顕微鏡(Leica,SP5)により405nm、561nmおよび633nmで雑種細胞を観察する。
図1に示すように、調製された雑種細胞内にマクロファージの細胞核に加えて、1-6個のE.G7-OVA腫瘍細胞核を含み、左から右へ順にマクロファージが1つ、2つ、3つ、4つ、6つの腫瘍細胞核の雑種細胞を貪食したことが示される。
【0048】
<実施例2>B16-マクロファージ雑種細胞の調製
(a)細胞核抽出試薬(Solarbio)を用いて黒色腫細胞Muc-B16(ATCC CELL BANK)由来の細胞核を抽出する。
Muc1-B16細胞を接着培養し、完全培地は、ウシ胎児血清タンパク質(Gibco社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社)、1μg/mLピューロマイシン(Gibco社)を含む1640培地(Gibco社,HEPESを含まない)である。1:4の比率で2~3日ごとに継代する。対数期の細胞を選択し、遠心分離して収集し、PBS(Gibco社)で再懸濁させ、2回洗浄する。2×107個の細胞を1mL細胞核抽出キット(Solarbio社)におけるLysis bufferで再懸濁させ、その後、1mlあたりの細胞懸濁液に20μL Reagent A(Solarbio社)を加え、1mLピペットで10回吹きかけ、細胞懸濁液が透明になった後、直ちに10mL PBS(Gibco社)を加えて溶解液を希釈し、1400r/minで5min遠心分離し、下層の沈殿物を再懸濁させ、篩掛けして綿状物を除去し、分散性が良好なMuc1-B16細胞核懸濁液を得る。
【0049】
(b)可溶性澱粉(西隴化工公司)を1.2g秤量し、20mL滅菌水に溶解し、溶液が透明になるまで加熱する。牛肉ペースト(北京化工厂)0.06g、ペプトン(北京化工厂)0.2g、塩化ナトリウム(北京化工厂)0.1gが入ったビーカーに入れ、完全に溶解させ、6%澱粉ブロスをマウス腹腔マクロファージ誘導液として調製し、各匹のC57マウス(維通利華実験動物技術有限公司)に1mL腹腔注射する。3日後、マウスを頸椎脱臼で安楽死させ、75%アルコール(北京化工厂)で5min浸漬して消毒した後、マウスに5mLのPBS(Gibco社)を腹腔内注射して洗浄し、複数回軽くこねた後、腹部皮膚を切開し、腹膜を露出させ、注射器で洗浄液を吸い出して収集し、1500rpmで5min遠心分離し、12h接着培養して培養液を交換し、上清懸濁細胞を捨て、残りの接着細胞はマクロファージである。その後、エクソソームフリーのDMEM完全培地で培養する。完全培地の成分は、10%エクソソームフリーのウシ胎児血清タンパク質(Gibco社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社)の高グルコースDMEM培地(Gibco社)を含む。
【0050】
(c)(a)で抽出した新鮮なMuc1-B16細胞核を細胞核:マクロファージが2:1の比率で(b)のマクロファージのエクソソームフリーのDMEM完全培養液に加え、マクロファージに腫瘍細胞核をエンドサイトーシスさせ、マクロファージの細胞核およびMuc1-B16細胞核の両方を含む腫瘍-マクロファージ雑種細胞を得る。
【0051】
<実施例3>4T1-マクロファージ雑種細胞の調製
(a)細胞核抽出試薬(Solarbio)を用いて乳がん細胞4T1(ATCC CELL BANK)由来の細胞核を抽出する。
4T1細胞を接着培養し、完全培地は、10%ウシ胎児血清タンパク質(Gibco社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社)を含む1640培地(Gibco社,HEPESを含まない)である。1:4の比率で2~3日ごとに継代する。対数期の細胞を選択し、遠心分離して収集し、PBS(Gibco社)で再懸濁させ、2回洗浄する。2×107個の細胞を1mL細胞核抽出キット(Solarbio社)におけるLysis bufferで再懸濁させ、その後、1mlあたりの細胞懸濁液に20μL Reagent A(Solarbio社)を加え、1mLピペットで10回吹きかけ、細胞懸濁液が透明になった後、直ちに10mL PBS(Gibco社)を加えて溶解液を希釈し、1400r/minで5min遠心分離し、下層の沈殿物を再懸濁させ、篩掛けして綿状物を除去し、分散性が良好な4T1細胞核懸濁液を得る。
【0052】
(b)可溶性澱粉(西隴化工公司)を1.2g秤量し、20mL滅菌水に溶解し、溶液が透明になるまで加熱する。牛肉ペースト(北京化工厂)0.06g、ペプトン(北京化工厂)0.2g、塩化ナトリウム(北京化工厂)0.1gが入ったビーカーに入れ、完全に溶解させ、6%澱粉ブロスをマウス腹腔マクロファージ誘導液として調製し、各匹のBalbcマウス(維通利華実験動物技術有限公司)に1mL腹腔注射する。3日後、マウスを頸椎脱臼で安楽死させ、75%アルコール(北京化工厂)で5min浸漬して消毒した後、マウスに5mLのPBS(Gibco社)を腹腔内注射して洗浄し、複数回軽くこねた後、腹部皮膚を切開し、腹膜を露出させ、注射器で洗浄液を吸い出して収集し、1500rpmで5min遠心分離し、12h接着培養して培養液を交換し、上清懸濁細胞を捨て、残りの接着細胞はマクロファージである。その後、エクソソームフリーのDMEM完全培地で培養する。完全培地の成分は、10%エクソソームフリーのウシ胎児血清タンパク質(Gibco社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社)の高グルコースDMEM培地(Gibco社)を含む。
【0053】
(c)(a)で抽出した新鮮な4T1細胞核を細胞核:マクロファージが2:1の比率で(b)のマクロファージのエクソソームフリーのDMEM完全培養液に加え、マクロファージに腫瘍細胞核をエンドサイトーシスさせ、マクロファージの細胞核および4T1細胞核の両方を含む腫瘍-マクロファージ雑種細胞を得る。
【0054】
<実施例4>ヒトA375-マクロファージ雑種細胞の調製
(a)細胞核抽出試薬(Solarbio)を用いてヒト黒色腫細胞A375(ATCC CELL BANK)由来の細胞核を抽出する。
A375細胞を接着培養し、完全培地は、ウシ胎児血清タンパク質(Gibco社)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社)を含む的DMEM培地(Gibco社,HEPESを含まない)である。1:4の比率で2~3日ごとに継代する。対数期の細胞を選択し、遠心分離して収集し、PBS(Gibco社)で再懸濁させ、2回洗浄する。2×107個の細胞を1mL細胞核抽出キット(Solarbio社)におけるLysis bufferで再懸濁させ、その後、1mlあたりの細胞懸濁液に20μL Reagent A(Solarbio社)を加え、1mLピペットで10回吹きかけ、細胞懸濁液が透明になった後、直ちに10mL PBS(Gibco社)を加えて溶解液を希釈し、1400r/minで5min遠心分離し、下層の沈殿物を再懸濁させ、篩掛けして綿状物を除去し、分散性が良好なA375細胞核懸濁液を得る。
【0055】
(b)滅菌採血針を用い、静脈採血により健康ヒト末梢血50mLを収集し、リンパ球分離液によりリンパ球を抽出する。HBSS溶液を用いてヒト末梢血を1:1の比率で希釈し、内壁に沿って末梢血と等体積の密度勾配分離液に加え、2000rpmで15min遠心分離し、第2層バフィーコートリンパ球を収集し、リンパ球懸濁液体積の10倍のHBSS溶液を加えて洗浄し、次いで1500rpmで10min遠心分離し、2回洗浄下後、HBSSで再懸濁させ、さらにヒトCD14磁気ビーズ選別キット(Miltenyi社)を用いて、説明書に従って操作し、単一の核細胞の選別抽出を行い、その後、500U/mLヒトコロニー刺激因子(Invitrogen)を含む1640完全培地で培養し、3-5日後にヒトマクロファージを得る。
【0056】
(c)(a)で抽出した新鮮なA375細胞核を細胞核:マクロファージが2:1の比率で(b)のヒトマクロファージのエクソソームフリーの1640完全培養液に加え、マクロファージに腫瘍細胞核をエンドサイトーシスさせ、マクロファージの細胞核およびA375細胞核の両方を含むヒト腫瘍-マクロファージ雑種細胞を得る。
【0057】
<実施例5>E.G7-マクロファージ雑種細胞由来のエクソソームの調製
実施例1における蛍光染料で染色されていない雑種細胞を培養し、腫瘍細胞核を加え、4日後、雑種細胞の培養液上清を収集し、300gで10分間遠心分離し、残った細胞沈殿を除去し、上清を取り出して引き続き2000gで10分間遠心分離し、死細胞沈殿を除去し、上清を取り出して引き続き10000gで30分間遠心分離し、細胞破片沈殿を除去し、最後に上清を取り出し、120000gで2時間遠心分離し、上清を捨て、沈殿物をPBS(Gibco社)で再懸濁させ、エクソソーム懸濁液を得る。
【0058】
<実施例6>E.G7-マクロファージ雑種細胞由来のエクソソームの特性評価
超遠心分離により抽出された新鮮な実施例5のエクソソームと等量の4%のパラホルムアルデヒド溶液とを混合し、つまり、エクソソームを2%のパラホルムアルデヒド溶液に懸濁させ、30min固定する。その後、10μLエクソソーム懸濁液を密封膜に滴下し、メッキ層の面が液滴に接触するように銅メッシュを液滴上に被覆し、室温下で銅メッシュ膜で10min吸着する。その後、ピンセットで銅メッシュを慎重に取り出し、濾紙で銅メッシュに残った液滴を除去し、事前に密封膜に滴下したPBS液滴上で2回洗浄する(5分間/回)。その後、銅メッシュを取り外し、濾紙で銅メッシュに残った液体を除去する。その後、銅メッシュを50μLの酢酸ウラニル液滴上に移し、30s対比染色した後、銅メッシュを取り外し、濾紙で銅メッシュ上に残った酢酸ウラニル液体を吸い取って乾燥させ、銅メッシュのメッキ層面を上に向け、空気中で10min乾燥させる。その後、120kV生物学的透過型電子顕微鏡下観察し、結果を
図2に示す。超遠心分離で抽出されたエクソソーム原液をPBSで500-2000倍希釈し、注射器で1mLエクソソーム希釈液をナノ粒子トラッキングアナライザーの試料注入口に注入し、システムで検出して分析し、希釈液中のエクソソームの数を計算し、エクソソーム粒度分布図(
図3)を得る。Wes全自動タンパク質発現分析システムによりエクソソーム内の各タンパク質を検出する。まず、ビオチン化した標準サンプルladderを調製し、タンパク質濃度が同じであるエクソソームと1/5体積のFluorescent Master Mixとを均一に混合し、サンプルを調製する。Ladderとサンプルを95℃で5min加熱し、タンパク質を変性させる。その後、それぞれマイクロプレート内の対応するサンプルウェルに加え、マイクロプレートの一次抗体ウェルにCD9、CD86、MHC IおよびMHC IIの一次抗体希釈液を加え、下の行のウェルに異なる一次抗体の由来源に対応するHRP-二次抗体希釈液を加え、最も下の行のウェルにLuminol-Peroxide混合液を加える。その後、装置にキャピラリーインジェクターを取り付け、マイクロプレートをインジェクターの下に置き、装置を起動して検出分析を実行し、実験結果を
図4に示す。
【0059】
図2から分かるように、調製されたエクソソームは典型的なカップ状構造である。
図3の粒度分布図にはエクソソームの平均粒径が90nmである。
図4のwestern blottingウエスタンブロット結果から分かるように、マクロファージエクソソームおよび本発明のエクソソームの表面ではエクソソームマーカータンパク質CD 9が発現され、単一のマクロファージエクソソームに比べ、等量の本発明のエクソソーム上の共刺激分子CD86、組織適合性複合体I、組織適合性複合体IIのブロットのグレースケール値はより高く、この3種類のタンパク質の発現量が高くなることを示している。
【0060】
<実施例7>B16-マクロファージ雑種細胞由来のエクソソームの調製
実施例2の雑種細胞に終濃度1μg/mLのリポ多糖(Sigma社)で刺激し、4日後、雑種細胞の培養液の上清を収集し、300gで10分間遠心分離し、残りの細胞沈殿を除去し、上清を取り出し、引き続き2000gで10分間遠心分離し、死細胞沈殿を除去し、上清を取り出して引き続き10000gで30分間遠心分離し、細胞破片沈殿を除去し、最後に上清を取り出し、120000gで2時間遠心分離し、上清を除去し、沈殿をPBS(Gibco社)で再懸濁させ、本発明のエクソソーム懸濁液を得る。
【0061】
<実施例8>4T1-マクロファージ雑種細胞由来のエクソソームの調製
実施例3の雑種細胞に終濃度1μg/mLのリポ多糖(Sigma社)で刺激し、4日後、雑種細胞の培養液の上清を収集し、300gで10分間遠心分離し、残りの細胞沈殿を除去し、上清を取り出し、引き続き2000gで10分間遠心分離し、死細胞沈殿を除去し、上清を取り出して引き続き10000gで30分間遠心分離し、細胞破片沈殿を除去し、最後に上清を取り出し、120000gで2時間遠心分離し、上清を除去し、沈殿をPBS(Gibco社)で再懸濁させ、本発明のエクソソーム懸濁液を得る。
【0062】
<実施例9>ヒトA375-マクロファージ雑種細胞由来のエクソソームの調製
実施例4の雑種細胞に終濃度1μg/mLのリポ多糖(Sigma社)で刺激し、4日後、雑種細胞の培養液の上清を収集し、300gで10分間遠心分離し、残りの細胞沈殿を除去し、上清を取り出し、引き続き2000gで10分間遠心分離し、死細胞沈殿を除去し、上清を取り出して引き続き10000gで30分間遠心分離し、細胞破片沈殿を除去し、最後に上清を取り出し、120000gで2時間遠心分離し、上清を除去し、沈殿をPBS(Gibco社)で再懸濁させ、本発明の本発明のヒトエクソソーム(h-nc-lps-exo)懸濁液を得る。
【0063】
<実施例10>本発明のヒトA375-マクロファージ雑種細胞由来のエクソソームの特性評価
超遠心分離により抽出された新鮮な実施例9のヒトエクソソームと等量の4%のパラホルムアルデヒド溶液とを混合し、つまり、エクソソームを2%のパラホルムアルデヒド溶液に懸濁させ、30min固定する。その後、10μLエクソソーム懸濁液を密封膜に滴下し、メッキ層の面が液滴に接触するように銅メッシュを液滴上に被覆し、室温下で銅メッシュ膜で10min吸着する。その後、ピンセットで銅メッシュを慎重に取り出し、濾紙で銅メッシュに残った液滴を除去し、事前に密封膜に滴下したPBS液滴上で2回洗浄する(5分間/回)。その後、銅メッシュを取り外し、濾紙で銅メッシュに残った液体を除去する。その後、銅メッシュを50μLの酢酸ウラニル液滴上に移し、30s対比染色した後、銅メッシュを取り外し、濾紙で銅メッシュ上に残った酢酸ウラニル液体を吸い取って乾燥させ、銅メッシュのメッキ層面を上に向け、空気中で10min乾燥させる。その後、120kV生物学的透過型電子顕微鏡下観察し、結果を
図5に示す。
【0064】
実施例9のヒト雑種エクソソーム(h-nc-lps-exo)とヒトCD9抗体結合磁気ビーズ(Thermo Fisher社)とを共培養した後、マグネットスタンドによりエクソソーム結合磁気ビーズを分離洗浄し、懸濁液を得る。さらに0.25μgのPE標識anti-CD86、0.25μgのPE標識anti-CD40、0.25μgのFITC標識anti-HLA-ABC、0.25μgのBV510標識anti-HLA-DR蛍光抗体(いずれもebioscience社)でエクソソーム-磁気ビーズ懸濁液を暗所で25min(4℃)標識し、その後、マグネットスタンドにより染料-エクソソーム-磁気ビーズを分離洗浄し、PBSで再懸濁させた後、フローサイトメーターにより検出する。同時に、処理されていないヒトマクロファージエクソソーム群(h-pbs-exo)、リポ多糖で刺激されていない実施例9のエクソソーム群(h-nc-exo)、リポ多糖のみで刺激されたヒトマクロファージエクソソーム群を対照群(h-lps-exo)として作り、上記のように検出し、検出結果を
図6に示す。
【0065】
図5から分かるように、調製されたヒトエクソソームh-nc-lps-exoは典型的なカップ状構造である。
図6から分かるように、h-pbs-exo和h-nc-exoに比べ、h-lps-exoおよびh-nc-lps-exoは顕著に多い共刺激分子CD86およびCD40を含み、h-lps-exoに比べ、h-nc-lps-exo上の抗原提示に関連するI型主要組織適合性複合体分子(HLA-ABC)およびII型主要組織適合性複合体分子(HLA-DR)の発現量はやや高く、これらの活性化類信号分子の収集はエクソソームが体内でより効果的な免疫活性化反応を発揮することに有利である。
【0066】
<実施例11>本発明のマウスエクソソームのリンパ節-腫瘍の二重標的化
1μM近赤外蛍光親油性染料DiR(北京泛博生物化学有限公司)を用いて100μLエクソソームを標識し、37℃で1hインキュベートし、その後、実施例5で調製された本発明のエクソソームをゲル濾過カラム(Thermo Scientific社)の上側に滴下し、700gで2min遠心分離したところ、遊離染料はゲルカラムの内部に遮断され、下層液体はDiR標識雑種エクソソーム溶液である。3.7×10
9個のDiR-エクソソームを皮下注射によりC57BL/6マウス(維通利華実験動物技術有限公司)の背部に注射し、次いで、96時間内の異なる時点でマウスを麻酔し、小動物ライブイメージングシステムにより750nmでDiR-雑種エクソソームのマウス体内における分布状況を観察し、異なる時点の蛍光信号のリンパ節および腫瘍部位での変化状況を分析する。実験結果を
図7および
図8に示す。また、48h後にマウスを解剖し、それぞれ鼠径部および腋下のリンパ節、腫瘍、心臓、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓を取り出し、小動物ライブイメージングシステムにより蛍光信号を検出し、実験結果を
図9に示す。
【0067】
図7から分かるように、時間が経つにつれて、エクソソームの蛍光信号が鼠径部リンパ節および腫瘍(破線)で徐々に集中する。
図8は、マウス鼠径部のリンパ節および腫瘍部位での蛍光信号の経時変化の定量データである。同図から分かるように、エクソソームを皮下注射した48h内で、リンパ節および腫瘍での蛍光信号が経時に徐々に強くなり、48hの時点で最大になり、48hを超えた後、両方の蛍光信号はいずれも弱くなる。
図9から分かるように、マウス鼠径部、腋下の各リンパ節および腫瘍組織はいずれも比較的強い蛍光信号を有し、マウスの各臓器において、肝臓内で蛍光が集中する以外、他の臓器内の蛍光信号が顕著ではなく、これは、本発明のエクソソームが皮下注射により投与することにより、良好なリンパ節標的化および腫瘍標的化の二重標的能力を確実に有する。
【0068】
<実施例12>本発明のマウスエクソソームのリンパ節内の作用細胞のタイプ
実施例5で調製された本発明のエクソソームを実施例11の方法により蛍光標識し、DiR標識エクソソームを得る。3.7×10
9個のDiR-エクソソームを皮下注射によりC57BL/6マウス(維通利華実験動物技術有限公司)の背部に注射し、48hの時点でマウスを安楽死させ、リンパ節を取り出して研磨して単細胞懸濁液を得る。その後、それぞれ0.25μgのPacific Blue標識anti-F4/80、0.25μgのAlex Fluro700標識anti-CD11b、0.25μgのAlex Fluro 488標識anti-CD11c、0.25μgのBV605標識anti-MHC II、0.25μgのBV510標識anti-CD3、0.25μgのAPC標識anti-CD4、0.25μgのPE標識anti-CD8蛍光抗体(いずれもebioscience社)で単細胞懸濁液を暗所(4℃)で25分間標識する。500μL Stain buffer(ebioscience社)で細胞を2回洗浄した後、細胞を再懸濁させ、フローサイトメーターにより検出し、DiR信号が陽性である細胞集団におけるマクロファージ(F4/80
+CD11b
+)、樹状細胞(CD11c
+MHC II
+)、CD4 T細胞(CD3
+CD4
+)、CD8 T細胞(CD3
+CD8
+)の4種類の細胞タイプが占める比率を分析し、各サンプルについては500000個の細胞を収集して分析し、結果を
図10に示す。
【0069】
図10から分かるように、DiR陽性の細胞集団において、11%はF4/80とCD11b二重陽性の骨髄由来マクロファージであり、37.4%はCD11cとMHC II二重陽性の樹状細胞であり、15.8%はCD4 T細胞であり、27.8%はCD8 T細胞である。各細胞の比率を円グラフにより示す。同図分かるように、抗原提示細胞(マクロファージおよび樹状細胞)およびT細胞(CD4およびCD8)は92%になり、これは、DiR標識エクソソームがリンパ節に入った後、ほとんど抗原提示細胞またはT細胞と相互作用し、APCが免疫応答の補助細胞としてその後にT細胞と相互作用して免疫活性化信号を伝達する。
【0070】
<実施例13>本発明のマウスエクソソームのT細胞免疫活性化効果
カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)蛍光標識方法によりT細胞の増殖状況を調査する。基本的な原理は以下のとおりである。CFSEは、生細胞を蛍光標識することができる細胞染色剤である。CFSEは、細胞に入った後、不可逆的に細胞内のアミノ基に結合して細胞タンパク質にカップリングし、細胞分裂増殖の過程において、CFSE標識蛍光は2つの娘細胞に均等に分配されるため、その蛍光強度は母細胞の半分である。フローサイトメーターにより488nmの励起光で分析し、リンパ球の増殖状況を正確に検出することができる。
【0071】
(a)実施例5で調製された本発明の雑種細胞で調製された雑種エクソソームで72h刺激されたマクロファージ/樹状細胞とCFSE染色脾臓細胞とを共培養し、T細胞増殖の効果を検出する。具体的な実験手順は以下のとおりである。1、脾臓細胞染色:C57BL/6マウスの脾臓細胞を0.5μmのCFSE(Life Technologies社)作業濃度で7min(37℃)染色し、4倍体積の氷ウシ胎児血清で染色を停止させ、氷浴で5min処理した後、遠心分離する。新鮮な1640完全培地で細胞を再懸濁させ、2回洗浄する。2、96ウェルプレート前処理:96ウェルプレートを事前に1μg/mLのCD3溶液(ebioscience社)で前処理し、4℃で一晩静置し、翌日にCD3溶液を吸って取り除き、PBS(Gibco社)で2回洗浄した後、保存する。3、細胞共培養:細胞を計数した後、T細胞と雑種エクソソームで刺激された後のマクロファージ/樹状細胞とを1:2の比率で共培養し、一定の時間後に細胞を収集する。4、染色およびフローサイトメトリー:0.25μgのBV510標識anti-CD3、0.25μgのeF450標識anti-CD4、0.25μgのPE標識anti-CD8抗体(いずれもebioscience社)で細胞を染色し、フローサイトメーターによりCD3
+CD8
+T細胞、CD3
+CD4
+T細胞の分裂増殖状況を検出する。各サンプルについては10000個の細胞を収集して分析し、結果を
図11および
図12に示す。
【0072】
(b)濃度が異なるエクソソームとCFSE染色T細胞とを共培養し、T細胞増殖効果を調査する。具体的な実験手順は以下のとおりである。1、脾臓細胞染色:C57BL/6マウスの脾臓細胞を0.5μmのCFSE(Life Technologies社)作業濃度で7min(37℃)染色し、4倍体積の氷ウシ胎児血清で染色を停止させ、氷浴で5min処理した後、遠心分離する。新鮮な完全培地で細胞を再懸濁させ、2回洗浄する。2、96ウェルプレート前処理:96ウェルプレートを事前に1μg/mLのCD3溶液(ebioscience社)で前処理し、4℃で一晩静置し、翌日にCD3溶液を吸って取り除き、PBS(Gibco社)で2回洗浄した後、保存する。3.エクソソームとT細胞の共培養:CFSE-T細胞を96ウェルプレートに接種し、それぞれ異なる用量の雑種エクソソームを加えて共培養し、一定の時間後、細胞を収集する。4.染色及フローサイトメトリー:BV510標識anti-CD3、eF450標識anti-CD4、PE標識anti-CD8抗体(いずれもebioscience社)で細胞を染色し、フローサイトメーターによりCD3
+CD8
+T細胞、CD3
+CD4
+T細胞の分裂増殖状況を検出する。各サンプルについては、10000個の細胞を収集して分析する。結果を
図13に示す。
【0073】
図11および
図12から分かるように、本発明の雑種細胞で調製された雑種エクソソームで活性化されたマクロファージおよび樹状細胞は、いずれもCD8 T細胞およびCD4 T細胞の大量増殖を引き起こすことができ、これは、エクソソームがリンパ節内で抗原提示細胞(例えば、マクロファージ、樹状細胞)を活性化することによりT細胞を活性化できることを示している。
図13から分かるように、対照群に比べ、高用量(1.48×10
9個)のエクソソーム群CD8 TおよびCD4 T細胞の増殖率は40%~50%向上し、低濃度(3.7×10
8个)の刺激下においても、エクソソームは、高いCD8 T細胞増殖効果を奏することができ、エクソソームがリンパ節内でT細胞と直接相互作用してT細胞増殖を活性化可能であることを証明している。
【0074】
<実施例14>本発明のヒトエクソソーム的T細胞免疫活性化効果
実施例9のヒトエクソソームとCFSE染色ヒトT細胞とを共培養し、ヒトT細胞増殖効果を検出する。具体的な実験手順は以下のとおりである。1、ヒト末梢血T細胞染色:健康ヒト末梢血を採取し、ヒトリンパ球分離液を用いて末梢血からリンパ球を分離し、さらにPan T選別磁気ビーズ(Miltenyi社)を用いて説明書に従って操作し、ヒトT細胞の分離を行い、その後、0.5μMのCFSE(Life Technologies社)作業濃度で細胞を7min(37℃)染色し、4倍体積の氷ウシ胎児血清で染色を停止させ、氷浴で5min処理した後、遠心分離する。新鮮な培地で細胞を再懸濁させ、2回洗浄する。2、96ウェルプレート前処理:96ウェルプレートを事前に1μg/mLのヒトCD3抗体溶液(ebioscience社)で前処理し、4℃で一晩静置し、翌日にCD3抗体溶液を吸って取り除き、PBS(Gibco社)で2回洗浄した後、保存する。3.エクソソームとT細胞の共培養:CFSE-T細胞を96ウェルプレートに接種し、それぞれ異なる用量のヒト雑種エクソソームを加えて共培養し、一定の時間後、細胞を収集する。4、染色およびフローサイトメトリー:SuperBright600標識anti-CD3、APC標識anti-CD4、AF700標識anti-CD8抗体(いずれもebioscience社)を用いてヒトT細胞を染色し、フローサイトメーターによりCD3
+CD8
+T細胞、CD3
+CD4
+T細胞の分裂増殖状況を検出する。各サンプルについては、10000個の細胞を収集して分析する。結果を
図14に示す。
【0075】
図14から分かるように、本発明のヒト雑種細胞で調製されたエクソソームは、ヒトCD8 T細胞とCD4 T細胞の大量増殖を同時に直接引き起こすことができ、高い免疫活性化効果を有する。
【0076】
<実施例15>本発明のヒトエクソソームで活性化されたT細胞の腫瘍殺傷能力
実施例9のヒトエクソソームとヒトT細胞とを共培養し、増殖後のヒトT細胞とA375腫瘍細胞とを共培養し、LDHキット(碧云天公司)により腫瘍細胞の殺傷効果を調査する。具体的な実験手順は以下のとおりである。1、ヒト末梢血T細胞分離:健康ヒト末梢血を採取し、ヒトリンパ球分離液を用いて末梢血からリンパ球を分離し、さらにPan T選別磁気ビーズ(Miltenyi社)を用いて説明書に従って操作し、ヒトT細胞の分離を行う。2、96ウェルプレート前処理:96ウェルプレートを事前に1μg/mLのヒトCD3抗体溶液(ebioscience社)で前処理し、4℃で一晩静置し、翌日にCD3抗体溶液を吸って取り除き、PBS(Gibco社)で2回洗浄した後、保存する。3.エクソソームとT細胞の共培養:T細胞を96ウェルプレートに接種し、それぞれ異なる用量のヒト雑種エクソソームを加えて共培養し、一定の時間後、T細胞を収集する。4、T細胞とA375細胞の共培養:T細胞とA375細胞をそれぞれ2.5:1、5:1、15:1の比率(E:T)で混合し、新しい96ウェルプレートに接種して共培養し、24h後にCCK8キットを用い、説明書に従って操作し、マイクロプレートリーダーにより450nmでのOD値を測定し、腫瘍細胞の殺傷率を計算し、結果を
図15に示す。
【0077】
図15から分かるように、複数の対照群に比べ、本発明のエクソソーム(h-nc-lps-exo)群は、最も高い腫瘍細胞殺傷効率を有し、腫瘍殺傷効率がエフェクターT細胞と腫瘍細胞との比率に正の相関があり、本発明のエクソソームが大量のT細胞増殖を活性化できるとともに、これらのT細胞が腫瘍細胞を効果的に識別して殺傷する能力を有することを示している。
【0078】
<実施例16>本発明のエクソソームの腫瘍内での作用細胞のタイプ
(a)E.G7リンパ腫モデルの構築:週齢6~8の雄C57BL/6マウス(維通利華実験動物技術有限公司)を選択し、その左側の腋窩部位に5×105個のE.G7リンパ腫細胞(ATCC CELL BANK)を皮下注射し、E.G7リンパ腫モデルを構築する。
【0079】
(b)実施例5で調製された雑種細胞で調製された雑種エクソソームを実施例11の方法により蛍光標識し、DiR(北京泛博生物化学有限公司)標識エクソソームを得る。DiR-雑種エクソソームを腫瘍内注射によりC57BL/6マウス(維通利華実験動物技術有限公司)のE.G7腫瘍内部に注射し、48h後にマウスを安楽死させ、腫瘍組織を取り出して研磨し、赤血球を溶解し、洗浄した後、単細胞懸濁液を得る。さらに0.25μgのPacific Blue標識anti-F4/80、0.25μgのAlex Fluro 700標識anti-CD11b(いずれもebioscience社)で単細胞懸濁液を暗所(4℃)で25分間標識する。Stain buffer(ebioscience社)で細胞を2回洗浄した後、細胞を再懸濁させ、フローサイトメーターにより検出し、DiR信号が陽性である細胞集団におけるマクロファージ(F4/80
+CD11b
+)の細胞タイプが占める比率を分析し、各サンプルについては500000個の細胞を収集して分析し、結果を
図16に示す。
【0080】
図16から分かるように、腫瘍細胞懸濁液DiR-雑種エクソソーム陽性の各タイプの細胞において、CD11b
+F4/80
+二重陽性のマクロファージが26.9%を占め、腫瘍内注射されたエクソソームの1/4以上が腫瘍内の腫瘍関連マクロファージと相互作用することを示している。
【0081】
<実施例17>本発明のマウスエクソソームの腫瘍内微小環境に対する改善効果
まず、週齢6~8の雄C57BL/6マウス(維通利華実験動物技術有限公司)を選択し、0日目にその左側の腋窩部位に5×105個のE.G7リンパ腫細胞(ATCC CELL BANK)を皮下注射し、E.G7リンパ腫モデルを構築する。7日目に腫瘍体積が近いマウスを選択し、ランダムに群を分ける。腫瘍内注射により実施例5の雑種エクソソーム(nc-lps-exo)を体積が同じマウスE.G7腫瘍の内部に注入し、腫瘍内部の各免疫細胞の浸潤状況を調査し、対照群PBS群、処理されていないマクロファージエクソソーム群(pbs-exo)、リポ多糖で刺激されていない実施例5のエクソソーム群(nc-exo)、リポ多糖のみで刺激されたマクロファージエクソソーム群(lps-exo)を作る。隔日に注射し、毎回の注射量は3.7×109個であり、合計3回注射する。14日目にマウスを安楽死させ、腫瘍組織を取り出し、研磨、赤血球破砕、洗浄した後、単細胞懸濁液を得る。その後、単細胞懸濁液を染色し、異なる免疫細胞が占める比率を分析する。具体的な計画は以下のとおりである。
【0082】
腫瘍関連マクロファージ:0.25μgのPacific Blue標識anti-F4/80、0.25μgのAPC標識anti-Ly-6C、0.25μgのAlex Fluro 488標識anti-CD206抗体(いずれもebioscience社)を用いて腫瘍細胞の懸濁細胞を暗所で25min(4℃)インキュベートした後、stain buffer(ebioscience社)で2回洗浄し、フローサイトメーターにより細胞懸濁液を検出し、F4/80
+Ly-6C
+二重陽性(M1)およびF4/80
+CD206
+二重陽性(M2)のマクロファージの比率を分析し、各サンプルについては500000個の細胞を収集して分析し、実験結果を
図17に示す。
【0083】
制御性T細胞:まず、0.25μgのBV510標識anti-CD3、0.25μgのPerCP-Cy5.5標識anti-CD4、0.25μgのPE標識anti-CD8、0.25μgのFTIC標識anti-CD25抗体(いずれもebioscience社)を用いて腫瘍細胞の懸濁細胞を暗所で25min(4℃)インキュベートした後、stain buffer(ebioscience社)で1回洗浄し、fixation buffer(ebioscience社)を加え、暗所で20minインキュベートした後、permeabilization buffer(ebioscience社)を加え、遠心分離した後、さらにAlex Fluro700標識anti-Foxp3抗体(ebioscience社)を加え、暗所で30minインキュベートし、その後、permeabilization bufferを加えて洗浄し、stain buffer(ebioscience社)で再懸濁させ、フローサイトメーターにより細胞懸濁液を検出し、CD4
+CD25
+Foxp3
+(制御性T細胞)、CD3
+CD4
+およびCD3
+CD8
+のT細胞の比率を分析し、各サンプルについては500000個の細胞を収集して分析し、実験結果を
図18に示す。
【0084】
細胞毒性T細胞:まず、0.25μgのBV510標識anti-CD3および0.25μgのeF450標識anti-CD8抗体(いずれもebioscience社)を用いて腫瘍細胞の懸濁細胞を暗所で25min(4℃)インキュベートし、その後、stain buffer(ebioscience社)で1回洗浄し、fixation buffer(ebioscience社)を加え、暗所で20minインキュベートし、その後、permeabilization buffer(ebioscience社)を加え、遠心分離した後、PE標識anti-IFN-γおよびAPC標識anti-Gzms-B抗体(ebioscience社)を加え、暗所で30minインキュベートし、permeabilization bufferを加えて洗浄し、stain buffer(ebioscience社)で再懸濁させ、フローサイトメーターにより細胞懸濁液を検出し、CD3
+CD8
+二重陽性、CD8
+IFN-γ
+二重陽性およびCD8
+Gzms-B
+二重陽性のT細胞の比率を分析し、各サンプルについては500000個の細胞を収集して分析し、実験結果を
図19に示す。
【0085】
図17aから分かるように、pbs群に比べ、雑種エクソソーム群(nc-lps-exo)では、腫瘍内のM1型マクロファージおよびM2型マクロファージの比率はいずれも高くなり、この2種類のエクソソームのいずれにも大量のケモカインを含み、より多いマクロファージの腫瘍内部への浸潤を動員するためである。腫瘍部位へ動員されたマクロファージは周囲環境の誘導下でタイピングし、各群TAMsにおけるM1型マクロファージとM2型マクロファージとの比(M1/M2)は腫瘍内のどのタイプのマクロファージが支配的な地位を占めるかを反映でき、M1/M2が1未満である場合、M2型マクロファージは支配的な地位を占め、M1/M2が1を超えた場合、M1型マクロファージは支配的な地位を占める。各群の腫瘍M1/M2の計算結果を
図17bに示す。同図から分かるように、pbs-exo群のM1/M2の値(0.74)に比べ、nc-lps-exo群のM1/M2は1よりも大きく、nc-lps-exoが腫瘍内注射された後、この群の腫瘍内のM1型マクロファージは支配的な地位を占める。また、
図18から分かるように、雑種エクソソームnc-lps-exoが腫瘍内注射されたマウス腫瘍内部のCD4/TregおよびCD8/Tregの比値は顕著に高くなり、雑種エクソソームnc-lps-exoを投与した後、腫瘍内部の免疫抑制能力を有するTreg細胞浸潤の程度が弱くなる。nc-lps-exo注射群の腫瘍内M1型マクロファージが支配的な地位を占めるとともに、Treg細胞浸潤が低下するため、免疫抑制微小環境はある程度改善され、エフェクターT細胞の腫瘍での浸潤のために適切な環境を提供する。
図19から分かるように、雑種エクソソームnc-lps-exo群のCD8 TとCD8
+IFN-r
+二重陽性、CD8
+GB
+二重陽性のCTLは、腫瘍内の比率が大きく高くなり、腫瘍内で大量のCTLが腫瘍内部に十分に浸潤することを示しており、後続の効果的な腫瘍細胞殺傷に良い基盤を築いた。
【0086】
<実施例18>本発明のヒトエクソソームの3D腫瘍細胞球における微小環境改善効果
ヒト腫瘍細胞、M2ヒトマクロファージおよびヒトT細胞で3D細胞球を調製し、人体腫瘍微小環境に対してインビトロシミュレーションを行い、本発明のエクソソームを加えて刺激し、3D細胞球におけるM1/M2型マクロファージ比率およびTreg比率を測定し、顕微鏡イメージングにより3D細胞球のサイズを観察する。具体的なステップは以下の通りである。
【0087】
(a)3種類の細胞の調製および培養:滅菌採血針を用い、静脈採血により健康ヒト末梢血を50mL収集し、実施例4(b)の方法によりヒト単球の抽出およびヒトマクロファージの誘導を行い、その後、ヒトマクロファージにIL-4(20ng/mL)を添加して刺激し、それをM2型マクロファージに誘導し、実施例4の方法によりヒト末梢血T細胞を選別して収集し、実施例4(a)のDMEM完全培地によりA375黒色腫を培養する。
【0088】
(b)アガロースゲルを用いる96ウェルプレートの被覆
10mLのdMEM不完全培地に0.15gアガロースを加え、1hかけて100℃に加熱し、アガロースを融解させる。溶液が冷却して完全に凝固していないときに、調製されたアガロースを96ウェルプレートに入れ、室温に冷却し、凹型の細胞培養基質を形成する。
【0089】
(c)3D細胞球培養およびヒトエクソソーム投与:ヒト腫瘍細胞、M2ヒトマクロファージおよびヒトT細胞を700:300:300の比率で混合した後、マトリックスゲルが被覆された96ウェルプレートに加え、培養し、3D混合細胞球の形状が形成された後、本発明の雑種エクソソーム(h-nc-lps-exo)を加え、対照群PBS群、処理されていないヒトマクロファージエクソソーム群(h-pbs-exo)、リポ多糖で刺激されていない実施例9のエクソソーム群(h-nc-exo)、リポ多糖のみで刺激されたヒトマクロファージエクソソーム群(h-lps-exo)を作り、刺激する。
【0090】
(d)M1/M2比率、Treg比率測定:異なる群の3D細胞球を取り、単細胞懸濁液を調製し、単細胞懸濁液を染色し、異なる免疫細胞が占める比率を分析する。具体的な染色方法は以下のとおりである。1、0.25μgのPE-Cy7標識anti-CD11b、0.25μgのeFlour450標識anti-CD14、0.25μgのAPC標識anti-CD163、0.25μgのPE標識anti-CD86抗体(いずれもebioscience社)を用いて細胞懸濁液を暗所で25min(4℃)インキュベートし、その後、stain buffer(ebioscience社)で2回洗浄し、フローサイトメーターにより細胞懸濁液を検出し、CD14
+CD11b
+二重陽性のマクロファージにおけるCD86
+CD163
-(M1)およびCD86
-CD163
+(M2)のマクロファージの比率を分析し、各サンプルについては500000個の細胞を収集して分析し、実験結果を
図20に示す。2、0.25μgのBV605標識anti-CD3、0.25μgのPE-Cy
7標識anti-CD4、0.25μgのAPC-eFlour780標識anti-CD8、0.25μgのAPC標識anti-CD25抗体(いずれもebioscience社)を用いて腫瘍細胞の懸濁細胞を暗所で25min(4℃)インキュベートし、その後、stain buffer(ebioscience社)で1回洗浄し、fixation buffer(ebioscience社)を加え、暗所で20minインキュベートし、その後、permeabilization buffer(ebioscience社)を加え、遠心分離した後、さらにPE標識anti-Foxp3抗体(ebioscience社)を加え、暗所で30minインキュベートし、その後、permeabilization bufferを加えて洗浄し、stain buffer(ebioscience社)で再懸濁させ、フローサイトメーターにより細胞懸濁液を検出し、CD4
+CD25
+Foxp3
+(制御性T細胞)の比率を分析し、各サンプルについては100000個の細胞を収集して分析し、実験結果を
図21に示す。
【0091】
(e)3D細胞球の体積変化を記録し、顕微鏡イメージングする。
3D細胞球を軽く吸い出した後、4%パラホルムアルデヒドを固定して一晩静置し、その後、Hoechst(Solarbio社)を用いて細胞核染色を行い、室温で15min静置した後、細胞球をウェルプレートに移し、蛍光イメージングを行い、実験結果を
図22に示す。
【0092】
図20から分かるように、pbs群に比べ、ヒト雑種エクソソーム群(h-nc-lps-exo)の3D腫瘍細胞球内のM2型マクロファージの比率は顕著に低下し、M1型マクロファージの比率は高くなり、h-nc-lps-exoが3D細胞球内のマクロファージをM1型マクロファージに誘導できることを示している。さらに、
図21から分かるように、ヒト雑種エクソソーム群(h-nc-lps-exo)の3D腫瘍細胞球内のCD25
+Foxp3
+のTreg比率はpbs群の8.25%から3.89%に低下し、ヒト雑種エクソソームh-nc-lps-exoを投与した後、3D細胞球内における免疫抑制能力を有するTreg細胞の浸潤程度が弱くなることを示している。h-nc-lps-exoにおける免疫活性化型サイトカインの存在により、免疫抑制微小環境がある程度改善され、エフェクターT細胞の腫瘍内での殺傷作用の発揮に適切な環境を提供するためである。
図22の最終的な3D細胞球画像から分かるように、h-nc-lps-exo群の3D細胞球の直径が最も小さく、腫瘍増殖抑制効果が最も高い。
【0093】
<実施例19>本発明のマウスエクソソームの動物実験効果
週齢6-8の雄C57BL/6マウス(維通利華実験動物技術有限公司)を選択し、0日目にリンパ腫細胞E.G7-OVA腫瘍細胞(5×10
5)を接種し、5日目に、実施例5で調製された雑種エクソソームワクチン製剤を用いて皮下免疫を行い、エクソソームの単回接種量は3.7×10
9個である。さらに、二次免疫を受けた二次免疫群(2nc-lps-exo)を作り、8日目に強化ワクチン接種を行う。また、対照群PBS群、処理されていないマクロファージエクソソーム群(pbs-exo)、リポ多糖で刺激されたいない実施例5の雑種細胞のエクソソーム群(nc-exo)、リポ多糖のみで刺激されたマクロファージエクソソーム群(lps-exo)を作り、対照群エクソソームの注射量は3.7×10
9個である。その後、マウスの担癌体積および生存状況を記録し、結果を
図23および
図24に示す。
【0094】
図23および
図24から分かるように、本発明の雑種エクソソームを接種することにより、マウスの担癌体積を減少させ、二次免疫による治療後、ワクチン製剤は腫瘍増殖を効果的に遅延させ、マウスの平均生存期間を延長することができる。
【0095】
<実施例20>本発明のマウスエクソソームとPD-1抗体の併用の動物実験効果
本発明の実施例7で調製された雑種細胞のエクソソームとPD-1抗体との併用療法により黒色腫悪性腫瘍の免疫治療試験を行い、方法は以下の通りである。
週齢6-8の雄C57BL/6マウス(維通利華実験動物技術有限公司)を選択し、0日目にMuc1-B16黒色腫細胞(ATCC)を接種し、接種用量は5×10
5個であり、Muc1-B16黒色腫インサイチュ増殖モデルを構築する。実施例7で調製された雑種エクソソームとPD-1抗体の併用により治療を行い(a-PD1+vac.)、エクソソームの皮下投与量は1.85×10
9個のエクソソームである。一次免疫時間は腫瘍細胞接種後の5日目、二次免疫の時間は8日目であり、PD-1抗体(BioXell社)の投与は腹腔内投与を採用し、それぞれ腫瘍細胞接種後の3日目、6日目、9日目、12日目に投与し、単回投与量は100μgである。また、ブランク群(pbs)、2倍用量雑種エクソソーム単独治療群(2×vac.)、および2倍用量PD-1抗体単独治療群(2×a-PD1)の3群の対照群を作る。その後、マウスの担癌体積を記録し、結果を
図25に示す。
【0096】
週齢6-8の雄C57BL/6マウス(維通利華実験動物技術有限公司)を選択し、0日目に尾静脈からMuc1-B16黒色腫細胞(ATCC)を接種し、接種用量は1×10
5個であり、Muc1-B16黒色腫肺転移モデルを構築する。実施例7で調製された雑種エクソソームとPD-1抗体の併用により治療(a-PD1+vac.)を行い、エクソソームの皮下投与量は1.85×10
9個のエクソソームである。一次免疫の時間は0日目、すなわち、腫瘍細胞尾静脈注射の当日であり、二次免疫の時間は3日目である。PD-1抗体(BioXell社)単独投与群は腹腔内投与を採用し、それぞれ腫瘍細胞接種後の0日目、3日目、6日目、9日目に投与し、単回投与量は100μgである。また、ブランク群(pbs)、2倍用量雑種エクソソーム単独治療群(2×vac.)および2倍用量PD-1抗体単独治療群(2×a-PD1)の3群の対照群を作る。その後、マウスの体重および肺部転移スポットを記録し、結果を
図26、
図27に示す。
【0097】
図25から分かるように、PD-1抗体と雑種エクソソームとを併用して治療するときに、この群のマウスのB16黒色腫の増殖は大幅に抑制され、8匹のマウスにはわずかな4匹のマウスは体積が小さな腫瘍が現れ、治療効果は2倍用量のPD-1抗体群および2倍用量のエクソソーム単独投与群よりも顕著に高い。
【0098】
図26、
図27から分かるように、PD-1抗体と雑種エクソソームの併用治療群では、マウスの体重が観察期内で平穏に上昇し、マウス肺部の転移スポットの計数結果は、この群のマウス肺部の黒色腫転移スポットの数が顕著に低下し、かつ2倍用量PD-1抗体単独投与群および2倍用量雑種エクソソーム単独投与群よりも顕著に低く、併用治療群の治療効果は最も高いことを示している。以上の結果は、雑種エクソソーム製剤とPD-1抗体とを併用することにより、インサイチュの腫瘍の増殖および腫瘍の肺転移状況のいずれに対しても協働的な抑制効果を有し、その治療効果はいずれも2倍用量のPD-1抗体またはエクソソーム単独投与群よりも高い。
【0099】
分析したところ、相乗作用を発揮する原因は以下の通りである。単独雑種エクソソーム免疫群の腫瘍内部において、雑種エクソソームはM2型マクロファージの比率を低下させたが、M2型マクロファージを完全に除去することができず、残ったM2型マクロファージおよび腫瘍細胞はその表面のPD-L1分子を介して腫瘍内に浸潤したCTL表面のPD-1分子に結合し、CTLを疲憊させ、腫瘍を殺傷する能力を失うためである。これに対し、PD-1抗体との併用は、PD-L1とPD-1の結合を遮断することができ、両者は互いに協働し、CTLの疲憊を減少させることで、CTLはそれなりの腫瘍殺傷作用を発揮し、腫瘍抑制効果を向上させる。