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特許7282928電力動揺中のインテリジェント電子装置の動作
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】電力動揺中のインテリジェント電子装置の動作
(51)【国際特許分類】
   H02H 3/50 20060101AFI20230522BHJP
   H02H 3/38 20060101ALI20230522BHJP
   H02H 3/02 20060101ALI20230522BHJP
   H02J 3/24 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
H02H3/50 D
H02H3/38 D
H02H3/02 D
H02J3/24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021577643
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2020068103
(87)【国際公開番号】W WO2020260636
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】201941025771
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(31)【優先権主張番号】19191785.5
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナイドゥ,オブバラレッディ・デムドゥ
(72)【発明者】
【氏名】ヤッラー,プリーサム・ベンカット
(72)【発明者】
【氏名】プラダーン,ベーダーンタ
(72)【発明者】
【氏名】マツル,スレーシュ
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-177120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/50
H02H 3/38
H02H 3/02
H02J 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力動揺状態においてインテリジェント電子装置(IED)を動作させる方法であって、前記IEDは、送電線の端子に対応付けられ、前記方法は、
前記送電線の前記端子の各相ごとの電圧測定値を受信するステップを含み、前記電圧測定値をサンプリングして複数のサンプルを取得し、前記複数のサンプルのうちの各サンプルは、サンプルが捕捉された時点であるサンプリング時点に対応し、前記方法はさらに、
各相ごとの前記測定値の複数の二乗平均平方根(RMS)値を、対応する前記相の前記電圧測定値に基づいて求めるステップを含み、前記複数のRMS値のうちの各RMS値は、前記複数のサンプリング時点のうちの対応するサンプリング時点に対応付けられ、予め定められた数のサンプルを用いて計算され、前記予め定められた数のサンプルは、前記対応するサンプリング時点で捕捉されたサンプルと、先行するサンプリング時点で捕捉されたサンプルとを含み、前記方法はさらに、
各相ごとの複数のデルタ量を求めるステップを含み、前記複数のデルタ量のうちの各デルタ量は、前記対応するサンプリング時点に対応付けられ、前記対応するサンプリング時点に対応付けられるRMS値と、前記予め定められた数のサンプルに先行するサンプリング時点に対応付けられるRMS値との差として計算され、前記方法はさらに、
前記複数のデルタ量のうちのあるデルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいか否かを、前記複数のデルタ量の連続監視に基づいて、検出するステップと、
前記デルタ量が前記予め定められたしきい値よりも大きいという判断に応じて、ピークデルタ量を検出するステップと、
前記ピークデルタ量に対応付けられるサンプリング時点と、前記複数のデルタ量のうちの第1のデルタ量に対応付けられるサンプリング時点との間の時間間隔を求めるステップと、
前記時間間隔としきい値時間との比較に基づいて、擾乱状態を検出するステップと、
前記擾乱状態が電力動揺であることを検出したことに応じて、前記IEDにおける故障検出を阻止するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記擾乱状態は、前記時間間隔が前記しきい値時間よりも大きいという判断に応じて、電力動揺として検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ピークデルタ量を検出するステップは、
前記複数のサンプリング時点のうちの2つの連続するサンプリング時点に対応付けられる、前記複数のデルタ量のうちの2つのデルタ量の大きさの差を求めるステップと、
前記大きさの差のゼロ交差点を特定するステップと、
前記大きさの差の前記ゼロ交差点に基づいて前記ピークデルタ量を求めるステップとを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記予め定められたしきい値は、約0.5キロボルトである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記しきい値時間の範囲は、50ミリ秒と55ミリ秒との間である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
電力動揺状態において動作可能なインテリジェント電子装置(IED)であって、前記IEDは、送電線の端子に対応付けられ、前記IEDは、
プロセッサと、
前記プロセッサに結合された擾乱状態検出モジュールとを備え、前記擾乱状態検出モジュールは、
前記送電線の前記端子の各相ごとの電圧測定値を受信し、前記電圧測定値をサンプリングして複数のサンプルを取得し、前記複数のサンプルのうちの各サンプルは、サンプルが捕捉された時点であるサンプリング時点に対応し、前記擾乱状態検出モジュールはさらに、
各相ごとの複数の二乗平均平方根(RMS)値を、対応する前記相の前記電圧測定値に基づいて求め、前記複数のRMS値のうちの各RMS値は、前記複数のサンプリング時点のうちの対応するサンプリング時点に対応付けられ、前記複数のRMS値のうちの各RMS値は、予め定められた数のサンプルを用いて計算され、前記予め定められた数のサンプルは、前記対応するサンプリング時点で捕捉されたサンプルと、先行するサンプリング時点で捕捉されたサンプルとを含み、前記擾乱状態検出モジュールはさらに、
各相ごとの複数のデルタ量を求め、前記複数のデルタ量のうちの各デルタ量は、前記対応するサンプリング時点に対応付けられ、前記対応するサンプリング時点に対応付けられるRMS値と、前記予め定められた数のサンプルに先行するサンプリング時点に対応付けられるRMS値との差であり、前記擾乱状態検出モジュールはさらに、
前記複数のデルタ量のうちのあるデルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいか否かを、前記複数のデルタ量の連続監視に基づいて、検出し、
前記デルタ量が前記予め定められたしきい値よりも大きいという判断に応じて、ピークデルタ量を検出し、
前記ピークデルタ量に対応付けられるサンプリング時点と、前記複数のデルタ量のうちの第1のデルタ量に対応付けられるサンプリング時点との間の時間間隔を求め、
前記時間間隔としきい値時間との比較に基づいて、擾乱状態を検出し、
前記IEDは阻止モジュールをさらに備え、前記阻止モジュールは、前記プロセッサに結合され、前記擾乱状態が電力動揺であるという検出に応じて、前記IEDにおける故障検出を阻止する、IED。
【請求項7】
前記擾乱状態は、前記時間間隔が前記しきい値時間よりも大きいという判断に応じて、電力動揺として検出される、請求項6に記載のIED。
【請求項8】
ピーク検出モジュールをさらに備え、前記ピーク検出モジュールは、
前記複数のサンプリング時点のうちの2つの連続するサンプリング時点に対応付けられる、前記複数のデルタ量のうちの2つのデルタ量の大きさの差を求め、
前記大きさの差のゼロ交差点を特定し、
前記大きさの差の前記ゼロ交差点に基づいて前記ピークデルタ量を求める、請求項6または7に記載のIED。
【請求項9】
前記予め定められたしきい値は、約0.5キロボルトである、請求項6~8のいずれか1項に記載のIED。
【請求項10】
前記しきい値時間の範囲は、50ミリ秒と55ミリ秒との間である、請求項6~9のいずれか1項に記載のIED。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して送電系統に関する。本発明は、より具体的には電力動揺(power swing)状態においてインテリジェント電子装置(IED:Intelligent Electronic Device)を動作させることに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
インピーダンス型距離リレーおよびインテリジェント電子装置(IED)等の電力系統装置は、一般的に、電気回路網における送電線の監視および保護のために使用される。電気回路網の電力系統は、通常は定常状態条件で動作する。定常状態条件において、電力系統機器および送電線は、公称電圧および電流を搬送し、結果として電力系統および電気回路網は正常に動作する。電気回路網の定常状態は、送電線に電気的擾乱が発生した場合、影響を受ける可能性がある。
【0003】
電気的故障および電力動揺等の電気的擾乱は、電力系統を定常状態から逸脱させることがある。これらの故障は、電気の流れを遮断し、機器を損傷させ、人間の命に危険を及ぼす可能性がある。電気的故障は、電圧および電流を公称値から逸脱させる。故障が発生すると、電力系統の機器および装置にとって有害な過剰に高い電流が流れる。電力動揺とは、送電線上の有効および無効電力潮流の振動のことである。電力動揺は、電力系統の故障、回線の切り替え、発電機の断線、および大きな負荷ブロックのスイッチオン/オフに起因して発生する場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
距離リレー/インテリジェント電子装置(IED)等の保護装置は、送電線の一次保護およびバックアップ保護を提供するように設計される。電気回路網の定常状態条件において、線間電圧の値は線路電流よりも大きい状態を保つ。故障が発生すると、電流の大きさが増し、電圧は小さくなるので、送電線の故障区間の線路インピーダンス(線間電圧対電流比)は減少する。距離リレー/IEDは、線路電流および電圧の流れを連続的に監視する。電圧対電流ベクトル(current phasor)比(インピーダンス)が、リレー/IEDで設定された予め定められたしきい値未満に低下すると、リレー/IEDは、その動作ゾーンに入り、回路遮断器等の開閉部品にトリップコマンドを送って回路を切断することにより、電力系統の構成要素を損傷から守る。これは通常の短絡故障状態中においてのみ生じると予想される。しかしながら、リレー/IEDから見たインピーダンスは、負荷侵入(load encroachment)および電力動揺状態等の特殊なケースにおいて、トリップ範囲の中に入る可能性がある。負荷侵入は、厳しい負荷条件に起因するインピーダンスリレーの望ましくない動作を引き起こす可能性がある。負荷侵入に起因する誤動作を防止する方法として、インピーダンス特性の形状の変更およびロードブラインダー(load blinder)方式の実現など、いくつかの方法がある。
【0005】
もう1つのシナリオは電力動揺である。電力動揺は、送電線のトリップ、発電損失、および大きな負荷ブロックのスイッチ等の、重大な擾乱によって生じることが多い。電力動揺中、送電線の皮相インピーダンスはIEDの動作特性内に入る可能性がある。なぜなら、電流の最大振幅と電圧の最小振幅とが電力動揺中に同時に起こり得るからである。結果として、故障がなかったとしても、IEDはその動作ゾーンに入りIEDが測定した皮相インピーダンスに鑑みてトリップする傾向を持つ場合がある。これに基づいて、電力動揺が誤って故障とみなされ、IEDがトリップし、結果としてカスケード回線障害につながる場合がある。
【0006】
以下の詳細な説明は以下の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一例に係る、2電源等価電気回路網のブロック図を示す。
図2】一例に係る、インテリジェント電子装置(IED)のブロック図を示す。
図3】一例に係る、時間に対してプロットされたサンプリング時点に対応付けられる電圧のRMS値を示すグラフを示す図である。
図4】一例に係る、フィルタリング後の、時間に対してプロットされたサンプリング時点に対応付けられる電圧のRMS値を示すグラフを示す図である。
図5】一例に係る、時間に対してプロットされた各サンプリング時点に対応付けられる電圧のデルタ量を示すグラフを示す図である。
図6】一例に係る、フィルタリング後の、時間に対してプロットされた各サンプリング時点に対応付けられる電圧のデルタ量を示すグラフを示す図である。
図7】一例に係る、時間に対してプロットされた2つの連続するデルタ量の大きさの差の値を示すグラフを示す図である。
図8】一例に係る、電気的擾乱の異なるシナリオにおいてデルタ量がそのピーク値に到達するのに要する時間を示すグラフを示す図である。
図9A】一例に係る、電力動揺中にインテリジェント電子装置(IED)を動作させる方法を示す図である。
図9B】一例に係る、電力動揺中にインテリジェント電子装置(IED)を動作させる方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
電力動揺阻止機能は、電力動揺と故障とを区別するため、および、電力動揺中にIEDが動作するのを阻止するために、IEDに含まれている。一般的に、さまざまな方法が、電力動揺を検出し電力動揺中IEDを阻止するために使用される。ブラインダーまたは同心特性に基づいて故障と電力動揺とを区別することが用いられる場合がある。同心特性に基づいた区別は、線路および電力系統インピーダンスならびに動揺周波数に依存する、ブラインダー位置および時間設定等の、いくつかのパラメータの値を求めることを含む。そのため、ブラインダーに基づく区別を用いるためには、電力系統のさまざまな動作シナリオの下で、細心の詳細な故障研究および安定性研究プログラムを実行しなければならない。さらに、再生可能な電力源の導入に伴い、動揺周波数は減少する傾向を持つ可能性があり、そうすると、電力動揺と故障とをタイマーに基づいて区別することは、複雑になり間違いが発生し易い可能性がある。
【0009】
電力動揺と故障とを区別するために使用し得るもう1つの方法は、動揺中心電圧(SCV:Swing Center Voltage)を求めることに基づいていてもよい。SCVは、2つの電源間の角度が180度のときに電圧の大きさがゼロである2電源等価系統におけるあるポイントの電圧である。電力動揺中、SCVは、連続的に変化するが、故障後の初期期間中の急激な変化を除いて、故障中はほぼ一定のままである。よって、SCVの大きさの変化率を、電力動揺の検出のため、ひいてはIEDを動作させるために、使用することができる。しかしながら、この方法の懸念材料は、信頼性のあるしきい値の設定である。たとえば、しきい値は、低周波数(0.2~0.5Hz)の電力動揺を検出するには非常に小さくしておかなければならない。また、180度の電力角度で生じる高抵抗故障(動揺中心点により近い故障)の場合は、SCV電圧の変化が検出されないということが起こり得る。
【0010】
別の方法は、減少した抵抗と抵抗変化率とに基づいて、電力動揺と故障とを区別してもよい。電力動揺中、測定されたインピーダンスの抵抗は連続的に変化する。しかしながら、故障が発生すると、測定されたインピーダンスの抵抗は、故障の最初の瞬間を除いて、変化しない。抵抗の変化率は、スリップ周波数が低い電力動揺中に大幅に減少し、結果として、この方法では3相故障と電力動揺とを区別できない可能性がある。さらに、重畳電流および電圧信号を用いて電力動揺を検出してもよい。しかしながら、この技術は、動揺中心電圧に近いところで生じ電力角度が180度に近い場合に生じる高インピーダンス故障を検出しない場合がある。なぜなら、これらの条件下では重畳量が無視できるほど小さくなる傾向があるからである。
【0011】
本発明は、電力動揺状態においてインテリジェント電子装置(IED)を動作させることに関する。一例において、IEDは、電力系統の電気回路網内の送電線の端子に対応付けられる。本発明に従うと、IEDは、電力動揺を確実かつ正確に識別することができ、したがって、電力動揺中はIEDにおける故障検出を阻止することにより、望ましくないトリップを防止することができる。本発明に係る方策は、ブラインダー位置設定および時間設定等の安定性研究パラメータとは無関係に、定常状態条件から発生した電力動揺を識別することを可能にする。さらに、本発明の技術は、線路および系統インピーダンス等の電力系統パラメータとも無関係である。また、本発明の技術は、3相故障と電力動揺とを区別することを可能にする。
【0012】
本発明の一例に従うと、IEDは、送電線の端子の各相ごとの電圧測定値を受けることができる。一例において、IEDは、電圧測定値を計器用変圧器(PT:potential transformer)から受けてもよい。電圧測定値は、送電線の線間電圧の瞬時電圧読取値であってもよい。電圧測定値をサンプリングして複数のサンプルを取得し、複数のサンプルのうちの各サンプルは、サンプルが捕捉される時点であるサンプリング時点に対応する。IEDは、各相ごとの複数の二乗平均平方根(RMS)値を、対応する相の電圧測定値に基づいて求める。複数のRMS値のうちの各RMS値は、複数のサンプリング時点のうちの対応するサンプリング時点に対応付けられる。複数のRMS値のうちの各RMS値は、予め定められた数のサンプルを用いて計算される。予め定められた数のサンプルは、対応するサンプリング時点で捕捉されたサンプルと、先行するサンプリング時点で捕捉されたサンプルとを含む。一例において、予め定められた数のサンプルは、サンプリングレートと、IEDのハードウェア能力とに応じて決まる。一例において、予め定められた数のサンプルは、20サンプルであってもよく、または、20を超える数のサンプルであってもよい。IEDは、各相ごとに複数の電圧デルタ量を求める。電圧デルタ量をデルタ量と呼ぶ場合もある。複数のデルタ量のうちの各デルタ量は、対応するサンプリング時点に対応付けられる。複数のデルタ量のうちの各デルタ量は、対応するサンプリング時点に対応付けられるRMS値と、あるサンプリング時点または予め定められた数のサンプルに先行するサンプリング時点に対応付けられるRMS値との差である。さらに、複数のデルタ量のうちのあるデルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいか否かを検出する。IEDは、このデルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいという判断に応じて、電圧のピークデルタ量を検出する。ピークデルタ量に対応付けられるサンプリング時点と、第1のデルタ量に対応付けられるサンプリング時点との間の時間間隔を求める。この時間間隔としきい値時間との比較に基づいて、擾乱状態を検出する。擾乱状態は電力動揺であるという検出に応じて、IEDにおける故障検出を阻止する。
【0013】
このように、本発明は、電力動揺を、より簡単なやり方で、他のブラインダーまたは同心特性に基づいた故障と電力動揺とを区別する技術では必要な場合がある故障および安定性研究パラメータならびに電力系統パラメータを使用することなく、検出することを可能にする。さらに、本発明の技術を用いると、電力動揺を3相故障から確実に区別することもできる。したがって、電力動揺の検出に応じて、IEDにおける故障検出を阻止することにより、電力系統内の回路遮断器等の開閉部品の望ましくないトリップを防止することができる。さらに、この方法は、2相の電圧のデルタ量を監視することで、2相システムで実現することもできる。
【0014】
以下の詳細な説明は、添付の図面を参照する。図面および以下の説明では、可能な限り、同一または同様の部分を示す場合は同一の参照番号を使用する。この説明ではいくつかの例が記載されるが、変形、修正、およびその他の実装形態も可能である。したがって、以下の詳細な説明は、開示される例を限定しない。むしろ、開示される例の適切な範囲は、添付の請求項によって定めることができる。
【0015】
図1は、一例に係る、2電源等価電気回路網100のブロック図を示す。電気回路網100は、送電線102および104を含む二重回路線と、2つの電源すなわち電源106および108とを含む。電気回路網100は、キロボルトの範囲等の高電圧で、数十または数百キロ等の長距離にわたり、電力を送ることができる。
【0016】
送電線102および104は、2つのバス110および112の間に接続される。送電線102、104はさらに、1つ以上の回路遮断器114-1、114-2、114-3および114-4(まとめて回路遮断器114と呼ぶ)を備える。回路遮断器114は、回路を開くことにより、電気回路網100内の電流の流れを制限する。電気回路網100は、本発明の範囲から逸脱することなく、さらに他の構成要素を含み得る。
【0017】
電気回路網100には、インテリジェント電子装置(IED116と呼ぶ)がさらに設けられる。IED116は、直接または他の接続手段を介して送電線102、104と電気的に通信してもよい。図1に示されるように、IED116は、バス110に配置され、保護される線の電圧および電流信号を測定する。したがって、IED116は、送電線104のある端子に対応付けられる。IED116は、動作中、電気回路網100の中に設置することができる1つ以上のセンサおよび計器用変圧器(PT)からデータを受けることができる。IED116は、受けたデータに基づいて、回路遮断器114を制御するための1つ以上の信号を生成することができる。
【0018】
IED116は、擾乱状態検出モジュール118をさらに含む。擾乱状態検出モジュール118は、IED116内にインストールされたソフトウェアとして、または電子回路の形態のハードウェアとして実装することができる。一例において、擾乱状態検出モジュール118を、IED116のプロセッサと結合してもよい。本発明は、電気回路網100において発生する電力動揺を検出することができ、それに応じてIEDにおける故障検出を阻止し、それによって回路遮断器114の不必要なトリップを防止することができる。
【0019】
動作中、擾乱状態検出モジュール118は、送電線104の端子の各相ごとの電圧測定値を受ける。一例において、電圧測定値は、送電線のPTから受けた、送電線104の線間電圧の瞬間電圧読取値であってもよい。各相ごとのこれらの電圧測定値の分析に基づいて、IED116は、対応する相における電力動揺の発生を検出することができる。一例では、3相電力系統において、以下で説明する方法を、1つの相の電圧測定値を用いて実行することにより、電力動揺を検出してもよい。別の例では、送電線における電力動揺を、3相電力系統のすべての相における電力動揺の検出時に、検出してもよい。以下の説明は1つの相を参照しながら詳しく述べるが、この説明は電気回路網100のすべての相に準用できる。
【0020】
一例において、IED116は、予め定められたサンプリングレートに基づいて電圧測定値をサンプリングしてもよい。一例において、予め定められたサンプリングレートは、20サンプル/サイクルであってもよい。一例において、IED116は、IED116のハードウェア能力に応じて、およそキロヘルツ(KHz)からメガヘルツ(MHz)の範囲の異なるサンプリング周波数でこのサンプリングを実行してもよい。したがって、1サイクル当たりの数が異なるサンプルを得ることができる。このように、IED116によるサンプリング後に、複数のサンプルが得られる。複数のサンプルのうちの各サンプルは、サンプルが捕捉される時点であるサンプリング時点に対応する。
【0021】
受けた電圧測定値がサンプリングされると、擾乱状態検出モジュール118は、各相ごとの複数の二乗平均平方根(RMS)値を、対応する相の電圧測定値に基づいて、求めることができる。複数のRMS値のうちの各RMS値は、複数のサンプリング時点のうちの対応するサンプリング時点に対応付けられる。複数のRMS値のうちの各RMS値は、予め定められた数のサンプルを用いて計算される。予め定められた数のサンプルは、対応するサンプリング時点で捕捉されたサンプルと、先行するサンプリング時点で捕捉されたサンプルとを含む。一例において、予め定められた数のサンプルは、サンプリングレートおよびIED116の構成に応じて、20サンプルであってもよい。
【0022】
各相ごとのRMS値が求められると、擾乱状態検出モジュール118は、各相ごとに複数のデルタ量を求める。複数のデルタ量のうちの各デルタ量は、対応するサンプリング時点に対応付けられ、複数のデルタ量のうちの各デルタ量は、対応するサンプリング時点に対応付けられるRMS値と、予め定められた数のサンプルに先行するサンプリング時点に対応付けられるRMS値との差である。
【0023】
擾乱状態検出モジュール118は、デルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいか否かを検出することができる。一例において、擾乱状態検出モジュール118は、連続的にデルタを予め定められたしきい値と比較することにより、電圧のデルタ量が予め定められたしきい値と交差したか否かを検出してもよい。一例において、予め定められたしきい値は、約0.5キロボルトである。デルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいという判断に応じて、IED116はピークデルタ量を検出する。ピークデルタ量は、デルタ量の最大値を表す。次に、擾乱状態検出モジュール118は、ピークデルタ量に対応付けられるサンプリング時点と、複数のデルタ量のうちの第1のデルタ量に対応付けられるサンプリング時点との間の時間間隔を求める。擾乱状態検出モジュール118は、この時間間隔をしきい値時間と比較することで、擾乱状態を検出する。擾乱状態が電力動揺であるという検出に応じて、IED116における故障検出を阻止することができる。結果として、IED116が電力動揺中にトリップしないようにすることができる。このように、電力動揺を検出することにより、本発明は、電力動揺を故障と区別することを可能にし、電力動揺が誤って故障とみなされるのを防止することができ、結果として、電力動揺中の望ましくないトリップを防止することができる。これらおよびその他の側面を図2図9Bとの関連でさらに説明する。
【0024】
図2は、一例に係る、インテリジェント電子装置(IED)116のブロック図を示す。IED116は、プロセッサ202とメモリ204とを含む。プロセッサ202は、単一の処理ユニットであってもよく、または複数のユニットであってもよく、これらはすべて、複数のコンピューティングユニットを含み得る。プロセッサ202は、1つ以上のマイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、デジタル信号プロセッサ、中央処理装置、ステートマシン、論理回路、および/または動作命令に基づいて信号を操作する任意の装置として実現されてもよい。プロセッサ202は、他の能力のうちでも特に、メモリ204に格納されたプロセッサ読取可能命令をフェッチし実行することにより1つ以上の機能を実現するように適合させたものである。
【0025】
メモリ204は、プロセッサ202に結合されてもよい。メモリ206は、たとえば、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)およびダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)等の揮発性メモリ、および/または読出専用メモリ(ROM)、消去可能プログラム可能ROM(EPROM)、フラッシュメモリ、ハードディスク、光ディスク、および磁気テープ等の不揮発性メモリを含む、当該技術において周知の任意のコンピュータ読取可能媒体を含み得る。
【0026】
IED116は、インターフェイス206を含む。インターフェイス206は、さまざまなソフトウェアおよびハードウェア対応インターフェイスを含み得る。インターフェイス206は、IED116と電気回路網100のような電気回路網の他の構成要素との間の通信および接続性を可能にすることができる。そのような構成要素の例は、回路遮断器114およびセンサを含むが、これらに限定される訳ではない。インターフェイス206は、多種多様なプロトコル内の複数の通信を容易にすることができ、かつ、1つ以上のコンピュータ対応端末または同様のネットワーク構成要素との通信を可能にすることもできる。
【0027】
IED116は、モジュール208をさらに含む。モジュール208は、モジュール208の多様な機能を実現するために、ハードウェアとプログラミング(たとえばプログラム可能命令)との組み合わせとして実現されてもよい。本明細書に記載の例において、ハードウェアとプログラミングとのそのような組み合わせは、いくつかの異なるやり方で実現することができる。たとえば、モジュール208に対するプログラミングは、実行可能命令であってもよい。そうすると、そのような命令は、IED116と直接または間接的に(たとえばネットワーク化された手段を通して)結合することができる非一時的なマシン読取可能記憶媒体に格納されてもよい。モジュール208は、ハードウェアとして実現される場合、そのような命令を実行するための処理リソース(たとえば単一のプロセッサまたは複数のプロセッサの組み合わせのいずれか)を含み得る。この例において、プロセッサ読取可能記憶媒体は、処理リソースによって実行されるとモジュール208を実現する命令を格納することができる。他の例において、モジュール208は、電子回路によって実現されてもよい。
【0028】
一例において、モジュール208は、擾乱状態検出モジュール118を含む。加えて、モジュール208は、阻止モジュール210と、デルタピーク検出モジュール212と、その他のモジュール214とをさらに含み得る。その他のモジュール214は、IED116によってまたはモジュール208のうちのいずれかによって実行されるアプリケーションまたは機能を補う機能を実現してもよい。加えて、IED116は、他の構成要素216をさらに含み得る。そのような他の構成要素216は、電気回路網100の動作を管理および制御する機能を可能にするさまざまな他の電気構成要素を含み得る。そのような他の構成要素230の例は、リレー、コントローラ、スイッチ、および電圧レギュレータを含むが、これらに限定される訳ではない。
【0029】
動作中、IED116は、IED116が接続されている送電線の端子の各相ごとの電圧測定値を、送電線のPTから受信することができる。一例において、電圧測定値を、擾乱状態検出モジュール118が受信してもよい。一例において、IED116は、電圧測定値を予め定められたサンプリングレートでサンプリングすることにより、複数のサンプルを得てもよい。一例において、サンプリングレートは、およそKHz~MHzの範囲であってもよい。複数のサンプルのうちの各サンプルは、サンプルが捕捉された時点であるサンプリング時点に対応する。複数のサンプルのうちの各サンプルは、特定のサンプリング時点における特定の相の相電圧の値を表す。したがって、複数のサンプルのうちの各サンプルを、V(1)、V(2)、V(3)、…、V(k)などとして表すことができ、ここで「k」は電圧に対応付けられるサンプリング時点を表す。本明細書は、1つの相を参照しているが、電気回路網100のすべての相に準用される。一例では、3相電力系統において、以下で説明する方法を1つの相の電圧測定値を用いて実行することにより、電力動揺を検出してもよい。別の例では、3相電力系統における電力動揺を、3相電力系統の相すべてにおいて電力動揺が検出された場合に限り、検出してもよい。
【0030】
擾乱状態検出モジュール118は、各相ごとの複数の二乗平均平方根(RMS)値を、対応する相の電圧測定値に基づいて求める。RMS値の各々は、複数のサンプリング時点のうちの対応するサンプリング時点に対応付けられ、予め定められた数のサンプルを用いて計算される。それに基づいてRMS値が計算される、サンプルの予め定められた数を「N」としてもよい。一例において、サンプルの予め定められた数「N」は、基本電圧/電流サイクルの1周期内で捕捉されるサンプルの数である。
【0031】
擾乱状態検出モジュール118がRMS値を20個のサンプルに基づいて計算するものとする。一例において、サンプルの予め定められた数は、IEDの構成およびハードウェア能力に応じて、20より多くても20より少なくてもよい。よって、20番目のサンプリング時点に対応付けられるRMS値は、以下の式(1)に示されるように計算することができる。
【0032】
【数1】
【0033】
式(1)において、V(20)、V(19)、V(18)、…、およびV(1)は、それぞれ、20番目、19番目、18番目、…および1番目のサンプリング時点において収集されたサンプルに対応する。同様に、40番目のサンプリング時点に対応付けられるRMS値は、式(2)に示されるように計算することができる。
【0034】
【数2】
【0035】
式(2)において、V(40)、V(39)、V(38)、…およびV(21)は、それぞれ、40番目、39番目、38番目、…および21番目のサンプリング時点において収集されたサンプルに対応する。
【0036】
上記の例において、20番目および40番目のサンプリング時点に対応付けられるRMS値の計算が示されているが、一例において、RMS値は、20番目のサンプリング時点と40番目のサンプリング時点との間の各サンプリング時点の各々について計算され、その後の各サンプリン時点ごとに計算される。このように、RMS値は、対応するサンプリング時点で捕捉されたサンプルと、先行するサンプリング時点で捕捉されたサンプルとを含む、予め定められた数のサンプルを用いて計算される。したがって、RMS値の計算は、以下の式(3)および(4)に示されるように、表すことができる。
【0037】
【数3】
【0038】
式(3)および式(4)において、「k」は、RMS値に対応付けられるサンプリング時点を表し、Nは、RMS値の計算に使用するサンプルの予め定められた数を表す。
【0039】
図3は、一例に係る、時間に対してプロットされたサンプリング時点に対応付けられる電圧のRMS値を示すグラフ300を示す。図3のグラフのY軸は、それぞれのサンプリング時点に対応付けられる電圧のRMS値をキロボルト(kV)の単位で表し、X軸は、時間をミリ秒の単位で表す。図3から、1秒と1.5秒との間においてRMS値の急激な変化があることがわかるであろう。
【0040】
一例において、擾乱状態検出モジュール118は、RMS値の取得後に、移動平均フィルタをRMS値に適用することにより、電圧のリップル効果を低減してもよい。このように、擾乱状態検出モジュール118は、取得したRMS値を平滑化することにより、ノイズの影響を取り除くことができる。フィルタリング後の、時間に対してプロットされたサンプリング時点に対応付けられる電圧のRMS値を示すグラフ400が、図4に示される。
【0041】
RMS値が計算されると、擾乱状態検出モジュール118は、各相ごとに複数のデルタ量を求める。デルタ量は、2つのRMS値間の電圧の差を表す。複数のデルタ量のうちの各デルタ量は、対応するサンプリング時点に対応付けられる。擾乱状態検出モジュール118は、以下のようにデルタ量を計算することができる。40番目のサンプリング時点に対応付けられるデルタ量を、デルタVrms(40)とすると、
デルタVrms(40)=Vrms(40)-Vrms(20) (5)
となる。
同様に、41番目のサンプリング時点に対応付けられるデルタ量を、デルタVrms(41)とすると、これは次のように計算される。
デルタVrms(41)=Vrms(41)-Vrms(21) (6)
したがって、デルタ量は、
デルタVrms(k)= Vrms(k)-Vrms(k-N) (7)
と表すことができる。
式(7)において、kはサンプリング時点であり、NはRMS値の計算に使用されるサンプルの予め定められた数である。したがって、デルタ量の各々は、対応するサンプリング時点に対応付けられるRMS値と、予め定められた数のサンプルに先行するサンプリング時点に対応付けられるRMS値との間の差として計算される。
【0042】
図5は、一例に係る、時間に対してプロットされた各サンプリング時点に対応付けられる電圧のデルタ量を示すグラフ500を示す。図5のグラフのY軸は、それぞれのサンプリング時点に対応付けられる電圧のデルタ量(デルタVrms)をキロボルト(kV)の単位で表し、X軸は、時間をミリ秒の単位で表す。図5から、電圧のRMS値の差は、1000ミリ秒と1100ミリ秒との間で急激に増加していることがわかるであろう。
【0043】
一例において、擾乱状態検出モジュール118は、デルタ量の取得後に、移動平均フィルタを電圧のデルタ量に適用することにより、電圧のリップル効果を低減してもよい。このように、擾乱状態検出モジュール118は、取得したデルタ量を平滑化することにより、ノイズの影響を取り除くことができる。フィルタリング後の、時間に対してプロットされたそれぞれのサンプリング時点に対応付けられる電圧のデルタ量を示すグラフ600が、図6に示される。
【0044】
次に、擾乱状態検出モジュール118は、複数のデルタ量のうちのあるデルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいか否かを検出する。一例において、予め定められたしきい値は、IED116の中で設定される。予め定められたしきい値は、約0.5キロボルトであってもよい。
【0045】
デルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいという判断に応じて、擾乱状態検出モジュール118は、ピークデルタ量を検出することができる。ピークデルタ量は、デルタ量の最大値に相当する。一例において、擾乱状態検出モジュール118は、デルタピーク検出モジュール212を初期化してピークデルタ量を検出してもよい。デルタピーク検出モジュール212は、複数のサンプリング時点のうちの2つの連続するサンプリング時点に対応付けられる、複数のデルタ量のうちの2つのデルタ量間の大きさの差を求めることができる。一例において、デルタピーク検出モジュール212は、デルタVrms(41)とデルタVrms(40)との大きさの差を、
X=|デルタVrms(41)|-|デルタVrms(40)| (8)
として求めてもよい。
式(8)において、大きさの差はXで表される。
【0046】
デルタピーク検出モジュール212は、この大きさの差のゼロ交差点を特定することができる。一例において、デルタピーク検出モジュール212は、ゼロ交差検出器を使用することにより、大きさの差の符号の変化を特定してもよい。Xの値が正から負に変化したときに、デルタ量のピークの発生を識別してもよい。したがって、デルタピーク検出モジュール212は、大きさの差のゼロ交差点に基づいて、ピークデルタ量を求めることができる。一例において、ピークデルタ量を求めるために他の最大値を求める技術を使用してもよい。
【0047】
図7は、2つの連続するデルタ量の大きさの差の値を時間に対してプロットすることによって得られるグラフを示す。図7のグラフのY軸は、大きさの差を表し、X軸は、時間をミリ秒の単位で表す。図7から、電圧の2つのデルタ量の大きさの差が1600ミリ秒と1800ミリ秒との間で+veから-veに変化したことがわかるであろう。したがって、デルタ量のピークは、1600ミリ秒と1800ミリ秒との間で生じ得る。
【0048】
ピークデルタ量が求められると、擾乱状態検出モジュール118は、複数のデルタ量のうちの、ピークデルタ量に対応付けられるサンプリング時点と、第1のデルタ量に対応付けられるサンプリング時点との間の、時間間隔を求める。ピークデルタ量と第1のデルタ量との間の時間間隔は、デルタ量がピークに到達するのに要する時間を表す。上記の例では、求められたピークデルタ量はデルタVrms(41)としている。したがって、擾乱状態検出モジュール118は、デルタVrms(41)に対応付けられるサンプリング時点とデルタVrms(40)に対応付けられるサンプリング時点との間の時間間隔を求める。
【0049】
この時間間隔をしきい値時間と比較する。一例において、しきい値時間は50ミリ秒~55ミリ秒の範囲である。この時間間隔がしきい値時間よりも大きい場合、電力動揺の発生が特定される。したがって、擾乱状態検出モジュール118は、上記時間間隔としきい値時間との比較に基づいて擾乱状態を検出することができる。擾乱状態が電力動揺であることが検出されたことに応じて、阻止モジュール210を初期化することにより、IED116における故障検出を阻止する、または、IED116が回路遮断器114にトリップコマンドを送信することを防止することができる。このように、本発明は、電力動揺の検出を可能にするとともに、電力動揺が検出されたことに応じたIEDにおける故障検出の阻止を可能にする。
【0050】
図8は、一例に係る、電気的擾乱の異なるシナリオにおいてデルタ量がそのピーク値に到達するのに要する時間を示すグラフ800を示す。図8は、長さ100kmの400kV、50Hzの二重回路送電線からなる電力系統のシミュレーションに基づく試験結果から得られたものである。図8のグラフは、50Ωの故障抵抗を有する保護された線路の95%における3相故障を含む4つのテストケースと、1Hz、3Hz、および5Hzの動揺周波数を有する3つの電力動揺ケースとについて、時間に対してプロットされたデルタ電圧を示す。図8の例では、信号は、図1に示すようにバス110で測定される。
【0051】
図8を参照して、Aとして参照する線は、故障の場合のデルタ量の曲線を表す。Bとして参照する線は、動揺周波数5Hzの電力動揺の場合のデルタ量の曲線を表す。Cとして参照する線は、動揺周波数3Hzの電力動揺の場合のデルタ量の曲線を表す。Dとして参照する線は、動揺周波数1Hzの電力動揺の場合のデルタ量の曲線を表す。これらの曲線の各々が、故障または動揺の時点からピーク点に到達するのに必要な時間を、図8に示す。この図から、3相故障の場合のピーク点に到達するのに必要な時間は21ミリ秒(ms)であるのに対し、動揺周波数1、3および5Hzの電力動揺の場合の時間間隔は、それぞれ293ms、126msおよび85msであることを観察できる。したがって、本発明では、ピークデルタ量と第1のデルタ量との間の時間間隔を監視することにより、約0.1Hz~5Hzの周波数範囲の電力動揺を確実に検出することができ、したがって、IED116における故障検出を阻止することができる。
【0052】
図9Aおよび図9Bは、一例に係る、電力動揺中にインテリジェント電子装置(IED)を動作させる方法900を示す。方法900は、IED116等のシステムによって実行されてもよい。方法900は、処理リソースまたは電気制御システムにより、任意の適切なハードウェア、プログラム可能命令、またはそれらの組み合わせを通して実現することができる。一例において、方法900のステップは、擾乱状態検出モジュール118、デルタピーク検出モジュール212、および阻止モジュール210等のハードウェアまたはプログラミングモジュールによって実行されてもよい。さらに、方法900は、上記IED116との関連で説明されるが、他の適切なシステムが、方法900の実行のために使用されてもよい。方法900に関連するプロセスを、非一時的なコンピュータ読取可能媒体に格納された命令に基づいて実行し得ることを、理解されたい。非一時的なコンピュータ読取可能媒体は、たとえば、デジタルメモリ、磁気ディスクおよび磁気テープ等の磁気記憶媒体、ハードドライブ、または光学的に読取可能なデジタルデータ記憶媒体を含み得る。
【0053】
図9Aを参照して、ブロック902において、送電線の端子の各相ごとの電圧測定値を受信する。一例において、端子は、図1のバス110等のバスであってもよく、送電線は、IED116等のIEDが結合される、図1に示す送電線114であってもよい。一例において、電圧測定値は、送電線内の計器変圧器(PT)から連続的に受信される。
【0054】
一例において、3相電力系統では、以下で説明する方法を、1つの相ごとの電圧測定値を用いて実行することにより、電力動揺を検出してもよい。別の例において、3相電力系統における電力動揺を、3相電力系統のすべての相の電力動揺が検出されたときに限り、検出してもよい。
【0055】
ブロック904において、各相の電圧測定値を、予め定められたサンプリングレートでサンプリングすることにより、複数のサンプルを得る。複数のサンプルのうちの各々は、サンプルが捕捉される時点であるサンプリング時点に対応する。
【0056】
ブロック906において、各相ごとの複数の二乗平均平方根(RMS)値を、対応する相の電圧測定値に基づいて求める。複数のRMS値のうちの各RMS値は、複数のサンプリング時点のうちの対応するサンプリング時点に対応付けられ、予め定められた数のサンプルを用いて計算される。予め定められた数のサンプルは、対応するサンプリング時点において捕捉されるサンプルと先行するサンプリング時点において捕捉されるサンプルとを含む、サンプルを含む。
【0057】
ブロック908において、各相ごとの複数のデルタ量を、対応する相のRMS値に基づいて求める。複数のデルタ量の各々は、対応するサンプリング時点に対応付けられ、対応するサンプリング時点に対応付けられたRMS値と、予め定められた数のサンプルに先行するサンプリング時点に対応付けられたRMS値との間の差として計算される。
【0058】
ブロック910において、デルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいか否かを検出する。一例において、複数のデルタ量を、連続的に監視し、予め定められたしきい値と比較することにより、デルタ量が予め定められたしきい値を交差したか否かを検出する。一例において、予め定められたしきい値は、約0.5キロボルトである。図9Aの末尾の接続点Aは、この図面の説明が次の図面に続くことを意味する。
【0059】
図9Bを参照して、デルタ量が予め定められたしきい値よりも大きいという判断に応じて、ブロック912においてピークデルタ量を検出する。一例において、複数のサンプリング時点のうちの2つの連続するサンプリング時点に対応付けられる、複数のデルタ量のうちの2つのデルタ量の大きさの差を求める。大きさの差のゼロ交差点を特定する。大きさの差のゼロ交差点に基づいて、ピークデルタ量を求めることができる。
【0060】
ブロック914において、複数のデルタ量のうちの、ピークデルタ量に対応付けられるサンプリング時点と、第1のデルタ量に対応付けられるサンプリング時点との間の時間間隔を求める。一例において、この時間間隔をしきい値時間と比較する。一例において、しきい値時間は50ミリ秒~55ミリ秒の範囲である。
【0061】
ブロック916において、時間間隔としきい値時間との比較に基づいて擾乱状態が検出される。時間間隔がしきい値時間よりも大きいという判断に応じて、擾乱状態が電力動揺として検出される。ブロック918において、擾乱状態が電力動揺であるという検出に応じて、IEDにおける故障検出が阻止される、または、IEDが回路をトリップするための信号を回路遮断器に送信することが妨げられる。
【0062】
本発明の実装形態について構造的特徴および/または方法に固有の表現で説明してきたが、本発明は必ずしも記載されている固有の特徴または方法に限定される訳ではないことに注意されたい。むしろ、固有の特徴および方法は、本発明のいくつかの実装形態の文脈で開示および説明される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B