(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】先付機
(51)【国際特許分類】
B21C 5/00 20060101AFI20230523BHJP
B23B 3/26 20060101ALI20230523BHJP
B23B 5/16 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B21C5/00
B23B3/26
B23B5/16
(21)【出願番号】P 2019048779
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000161231
【氏名又は名称】宮▲崎▼機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】木下 友裕
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-109604(JP,A)
【文献】特開2003-172829(JP,A)
【文献】特開昭59-073201(JP,A)
【文献】特開平06-055314(JP,A)
【文献】実開昭49-083351(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 1/00-19/00
B23B 1/00-25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の周りに回転自在なパイプ状のスピンドルと、該スピンドルの端部に装着されて切削刃を径方向内向きに配置された切削バイトと、を備え、前記スピンドルを回転させて線材の先端部に先付加工する先付機であって、
前記切削バイトは、スピンドルの端部に固定された刃物台によって径方向に移動自在に保持されると共に、前記刃物台と隣接するバイト開閉用プーリによって径方向に移動可能とされ、
前記バイト開閉用プーリは、前記スピンドルと等しい回転速度で回転すると共に、スピンドルに対して相対的に回転変位自在とされ、前記刃物台との対向面に、切削バイトと一体に設けられた接触子を径方向に案内するカム溝が形成され、
前記バイト開閉用プーリをスピンドルと等しい回転速度で回転させる等速回転手段として、スピンドルに固定された原動側プーリと、バイト開閉用プーリと原動側プーリとを接続する
それぞれ一対のベルト及び中間プーリと、が設けられ、
一対の中間プーリが一体に回転するよう設定されると共に、原動側プーリ、一方のベルト、一対の中間プーリ及び他方のベルトが、スピンドルとバイト開閉用プーリとの間を順次接続するよう設定され、
バイト開閉用プーリをスピンドルに対して相対的に回転変位させる回転変位手段として、前記バイト開閉用プーリ又は原動側プーリと中間プーリとを接続するベルトを掛巻される複数のアイドラと、該複数のアイドラをその回転軸と直交する方向に移動させる移動手段と、が設けられたことを特徴とする先付機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材の先端部を切削して先付加工するための先付機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、線材の最終用途に求められる線径を得る目的で、ダイスを用いて線材に引抜き加工を行う伸線機が用いられ、この伸線機による加工に先立って、線材の先端部を伸線機のダイスよりも細径に形成する先付加工が施される。この先付加工には、切削バイトを用いて線材の先端部を切削加工し、所定の線径に形成するための先付機が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような先付加工では、線材を伸線機のダイスに通せるよう、線材の先付部と一般部との境界を滑らかなテーパー状に形成する必要があり、先付機を用いて線材の先端部に先付部を形成する際、切削バイトの間隔を変化させるようにしている。
【0004】
図9に示すように、切削バイトの間隔を変化させるのに、例えば、切削バイト101の外周側に円錐台状のテーパーコーン102を配置し、このテーパーコーン102の内面を切削バイト101がバイトホルダー103を介して摺動するよう、テーパーコーン102を中心軸方向に移動させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、切削バイトの間隔を変化させるための手段として、円錐台状のテーパーコーンを用いると、線材を切削する切削バイトの周囲がテーパーコーンで覆われることになる。この場合、線材の切削による切屑がテーパーコーンの内側に溜まりやすく、テーパーコーンの内面とバイトホルダーとの間に切屑を噛み込んで、摺動面の早期摩耗を生じさせるおそれがある。
【0007】
本発明は、線材の切削による切屑の噛み込みを生じさせることなく、切削バイトの間隔を変化させることのできる先付機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る先付機は、中心軸の周りに回転自在なパイプ状のスピンドルと、このスピンドルの端部に装着して切削刃を径方向内向きに配置した切削バイトと、を備え、そのスピンドルを回転させて線材の先端部に先付加工するものであり、切削バイトを、スピンドルの端部に固定した刃物台によって径方向に移動自在に保持すると共に、刃物台と隣接するバイト開閉用プーリによって径方向に移動可能とし、バイト開閉用プーリを、スピンドルと等しい回転速度で回転させると共に、スピンドルに対して相対的に回転変位自在とし、刃物台との対向面に、切削バイトと一体に設けた接触子を径方向に案内するカム溝を形成したものである。
【0009】
上記構成によれば、切削バイトを保持する刃物台とバイト開閉用プーリとを隣接させて、バイト開閉用プーリにカム溝を形成するので、このカム溝で、切削バイトと一体に設けた接触子を径方向に案内することができる。これにより、切削バイトの周囲を覆うことなく、切削バイトを径方向に移動させることができ、切削バイトの周囲に線材の切削による切屑を溜めて噛み込みを生じさせることなく、適宜、線材の先付部の径を変化させることができる。
【0010】
ここで、スピンドルと共に回転する刃物台で保持した切削バイトをバイト開閉用プーリのカム溝で径方向に案内するには、バイト開閉用プーリをスピンドルと等しい回転速度で回転させた上で、バイト開閉用プーリをスピンドルに対して相対的に回転変位自在とすればよい。
【0011】
バイト開閉用プーリをスピンドルと等しい回転速度で回転させる等速回転手段としては、スピンドルに固定した原動側プーリと、バイト開閉用プーリと原動側プーリとを接続するベルト及び中間プーリと、からなる構成を例示できる。また、バイト開閉用プーリをスピンドルに対して相対的に回転変位させる回転変位手段としては、バイト開閉用プーリ又は原動側プーリと中間プーリとを接続するベルトを掛巻する複数のアイドラと、この複数のアイドラをその回転軸と直交する方向に移動させる移動手段と、からなる構成を例示できる。
【0012】
この構成によると、スピンドルに原動側プーリを固定し、ベルト及び中間プーリを介して、バイト開閉用プーリと原動側プーリとを接続するので、バイト開閉用プーリをスピンドルと等しい回転速度で回転させることができる。しかも、バイト開閉用プーリと中間プーリとを接続するベルト、又は原動側プーリと中間プーリとを接続するベルトを複数のアイドラに掛巻して、そのアイドラを移動させるので、バイト開閉用プーリを回転させたまま、スピンドルに対して回転変位させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のとおり、本発明によると、切削バイトを保持する刃物台に隣接させてバイト開閉用プーリを設け、そのバイト開閉用プーリにカム溝を形成して、切削バイトを径方向に案内するようにしている。これにより、切削バイトの周囲を覆うことなく、適宜、切削バイトを径方向に移動させて、線材の先付部の径を変化させることができ、切削バイトの周囲に線材の切削による切屑を溜めることがない分、その切屑の噛み込みを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図7】バイト開閉用プーリがスピンドルに対して回転変位する様子を示す図
【
図8】バイト開閉用プーリが切削バイトを移動させる様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る先付機を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
図1~
図6に示すように、先付機は、線材を伸線機にセットする前に、その先端部に先付加工を施して伸線機のダイスよりも細径にするためのものであり、固定フレーム1と、中心軸の周りに回転自在なスピンドル2と、径方向内向きの切削刃3を有する切削バイト4と、スピンドル2の正面側の端部に固定されて切削バイト4を径方向に移動自在に保持する刃物台5と、刃物台5の背面側に隣接して切削バイト4を径方向に移動させるバイト開閉用プーリ6と、バイト開閉用プーリ6のうちの刃物台5との対向面に形成されたカム溝7と、カム溝7に嵌って径方向に移動するよう切削バイト4と一体に設けられた接触子8と、を備え、等速回転手段9によって、バイト開閉用プーリ6をスピンドル2と等しい回転速度で回転させながら、回転変位手段10によって、バイト開閉用プーリ6をスピンドル2に対して相対的に回転変位させるようにしたものである。
【0017】
スピンドル2は、例えば先付加工する線材の先端部を中央穴に挿入可能な鋼製のパイプ状とされ、軸受け11を介して中央部を固定フレーム1に回転自在に支持されている。このスピンドル2には、軸受け11よりも背面側部分の外周側にプーリ12が固定され、これに掛巻されたベルト13を介して、モータ14の駆動力を受けて中心軸の周りに回転するようになっている。
【0018】
切削バイト4は、例えば、スピンドル2の径方向で内側の先端部に切削刃3を取り付けられた一対の鋼製の角棒状とされ、それぞれが、鋼製で全体として略直方体のバイト取付部材15にねじ止めされている。
【0019】
バイト取付部材15は、その背面側に接触子8を突設され、切削バイト4を保持しつつ、接触子8と切削バイト4とを一体化する。このバイト取付部材15は、背面側の接触子8をバイト開閉用プーリ6のカム溝7に嵌めつつ刃物台5に保持され、バイト取付部材15及び刃物台5を介して、切削バイト4がスピンドル2の正面側の端部に装着される。
【0020】
刃物台5は、一対の略半円状の鋼製厚板とされ、切削バイト4を取り付けたバイト取付部材15を配置するだけの間隔をあけて、スピンドル2の正面側の端部に固定され、バイト取付部材15を介して切削バイト4を径方向に移動自在に保持する。
【0021】
バイト開閉用プーリ6は、刃物台5の背面側に隣接しつつスピンドル2に対して回転自在に外嵌され、刃物台5との対向面である正面に、バイト取付部材15の接触子8を嵌める一対のカム溝7が形成されている。
【0022】
カム溝7は、その長手方向を周方向に対して僅かに傾斜させて形成され、刃物台5に保持された切削バイト4及びバイト取付部材15に対して、バイト開閉用プーリ6が相対的に回転することにより、刃物台5で径方向に案内されるバイト取付部材15及び切削バイト4を移動させる。
【0023】
接触子8は、例えば、カム溝7の溝幅よりも僅かに小さい外径で、その回転軸をカム溝7の溝深さ方向に設定されたローラとされ、カム溝7の溝側面を転動しながらカム溝7に沿って移動する。
【0024】
等速回転手段9は、バイト開閉用プーリ6と等しい径でスピンドル2の背面側の端部に固定された原動側プーリ16と、それぞれ一対の中間プーリ17、18及びベルト19、20とからなり、原動側プーリ16、中間プーリ17、18及びベルト19、20が、スピンドル2とバイト開閉用プーリ6との間を順次接続する。
【0025】
中間プーリ17、18は、バイト開閉用プーリ6及び原動側プーリ16と前後方向の位置を合わせて、回転軸21の背面側及び正面側の端部に固定されている。回転軸21は、軸受け22を介して、中央部を固定フレーム1に回転自在に支持され、一対の中間プーリ17、18を互いに等しい回転速度で回転させる。ベルト19、20のうち、背面側のベルト19は、原動側プーリ16と背面側の中間プーリ17とに掛巻され、正面側のベルト20は、正面側の中間プーリ18とバイト開閉用プーリ6とに掛巻されている。
【0026】
原動側プーリ16をバイト開閉用プーリ6と等しい径に設定すると共に、中間プーリ17、18を互いに等しい径に設定することにより、バイト開閉用プーリ6がスピンドル2と等しい回転速度で回転する。
【0027】
回転変位手段10は、原動側プーリ16と背面側の中間プーリ17とを接続するベルト19を掛巻される複数のアイドラ23、24と、複数のアイドラ23、24をその回転軸と直交する方向に移動させる移動手段25と、から構成される。
【0028】
移動手段25は、アイドラ23、24をそれぞれ回転自在に保持するアイドラ保持部26、27と、アイドラ保持部26、27を両端に固定されたアイドラ保持軸28と、固定フレーム1に固定されてアイドラ保持軸28を左右方向にスライド自在に保持するスライド保持部29と、アイドラ保持軸28と平行に配置されて一方のアイドラ保持部26に螺合された移動用ねじ30と、移動用ねじ30を回転させるギアードモータ31とから構成される。
【0029】
ギアードモータ31で移動用ねじ30を回転させることにより、移動用ねじ30を螺合されたアイドラ保持部26が左右方向に移動し、アイドラ保持部26、27及びアイドラ保持軸28を介して一体的に保持されたアイドラ23、24が左右方向に移動する。アイドラ23、24の移動により、ベルト19を掛巻された背面側の中間プーリ17が原動側プーリ16に対して回転し、バイト開閉用プーリ6がスピンドル2に対して相対的に回転変位する。
【0030】
次に、
図7及び
図8を参照し、線材の先付加工の際に一対の切削バイト4の間隔を変化させる様子を説明する。
【0031】
まず、線材を伸線機のダイスに通せるよう、一対の切削バイト4の切削刃3の間隔を先付加工の目標とする径に設定して、正面側の端部に切削バイト4を装着したスピンドル2を回転させ、その際、等速回転手段9によって、バイト開閉用プーリ6をスピンドル2と等しい回転速度で回転させる。次いで、正面側からスピンドル2の中央穴に線材の先端部を挿入するようにして、切削バイト4で線材の先端部に先付加工し、線材の先端部に所定の長さの先付部を形成する。
【0032】
その後、
図7(a1)~
図7(c1)に示すように、スピンドル2を回転させたまま、ギアードモータ31で移動用ねじ30を回転させて、アイドラ23、24を左右方向に移動させる。これにより、ベルト19を原動側プーリ16及びアイドラ23、24と共に掛巻した背面側の中間プーリ17が、原動側プーリ16及びスピンドル2に対して相対的に回転する。
【0033】
図7(a2)~
図7(c2)に示すように、正面側の中間プーリ18が、回転軸21を介して、背面側の中間プーリ17と等しい回転速度で一体的に回転し、ベルト20を介して、バイト開閉用プーリ6をスピンドル2に対して相対的に回転させる。
【0034】
図7(a2)~
図7(c2)、
図8(a)~
図8(c)に示すように、刃物台5によって保持された一対のバイト取付部材15がスピンドル2と共に回転しながら、そのバイト取付部材15にそれぞれ突設された一対の接触子8が、スピンドル2に対して相対的に回転するバイト開閉用プーリ6の一対のカム溝7に沿って移動するようにして、径方向で両外向きに移動する。
【0035】
これにより、バイト取付部材15を介して接触子8と一体に装着された一対の切削バイト4の切削刃3の間隔が徐々に広がり、線材の先付部と一般部との境界に滑らかなテーパー部を形成する。
【0036】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、原動側プーリ16と背面側の中間プーリ17とを接続するベルト19をアイドラ23、24に掛巻する代わりに、バイト開閉用プーリ6と正面側の中間プーリ18とを接続するベルト20をアイドラ23、24に掛巻するようにしてもよい。
【0037】
また、バイト開閉用プーリ6をスピンドル2と等しい回転速度で回転させるには、原動側プーリ16、中間プーリ17、18及びベルト19、20を設ける代わりに、スピンドル2を回転させるモータ14とは別のモータを用いてバイト開閉用プーリ6を回転させるようにしてもよい。この場合、バイト開閉用プーリ6を回転させるモータの回転数を制御して、バイト開閉用プーリ6をスピンドル2に対して相対的に回転変位させるようにすればよい。
【符号の説明】
【0038】
1 固定フレーム
2 スピンドル
3 切削刃
4 切削バイト
5 刃物台
6 バイト開閉用プーリ
7 カム溝
8 接触子
9 等速回転手段
10 回転変位手段
11 軸受け
12 プーリ
13 ベルト
14 モータ
15 バイト取付部材
16 原動側プーリ
17 中間プーリ(背面側)
18 中間プーリ(正面側)
19 ベルト(背面側)
20 ベルト(正面側)
21 回転軸
22 軸受け
23、24 アイドラ
25 移動手段
26、27 アイドラ保持部
28 アイドラ保持軸
29 スライド保持部
30 移動用ねじ
31 ギアードモータ