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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】音源探査方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20230523BHJP
   G01H 3/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G01M17/02
G01H3/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018232800
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020094904
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】辻井 政統
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-304403(JP,A)
【文献】特開平08-292252(JP,A)
【文献】特開2014-032087(JP,A)
【文献】特開2005-009953(JP,A)
【文献】米国特許第05515726(US,A)
【文献】特開昭51-130276(JP,A)
【文献】特開昭55-004039(JP,A)
【文献】特開平06-161339(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0151066(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 -17/10
G01H 3/00 - 3/14
G03H 3/00
G01S 5/18 - 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを回転させながら前記タイヤから離れた複数の測定位置で騒音の音圧を測定し、その測定データに基づき音響ホログラフィを用いてタイヤの接地部分における音圧分布を求め、前記音圧分布に基づき前記騒音の音源を特定する音源探査方法において、
移動可能な移動マイクロホンを用いて複数の測定位置において順番に音圧を測定し、
前記移動マイクロホンによる各測定位置での測定にあたり、所定のレファレンス信号に基づき測定を開始及び終了し、
位置が固定された固定マイクロホンを用いて、前記移動マイクロホンによる各測定位置での測定と同期させて音圧を測定し、
前記移動マイクロホンの測定データと前記固定マイクロホンの測定データとを周波数分析して、各測定位置における前記移動マイクロホンの測定データの周波数分析データと、それに対応する前記固定マイクロホンの測定データの周波数分析データとの位相差を求め、それにより、各測定位置における前記移動マイクロホンの測定データの周波数分析データの間の位相差のうちの測定位置の違いに起因する位相差を求め、
前記の測定位置の違いに起因する位相差を使用して音響ホログラフィを用いてタイヤの接地部分における音圧分布を求め
前記移動マイクロホンによる測定位置が、前記タイヤの前又は後ろにおける前記タイヤの下の場所であることを特徴とする、音源探査方法。
【請求項2】
前記移動マイクロホンによる測定位置が、前記タイヤの接地部分から25mm~100mm離れた位置である、請求項に記載の音源探査方法。
【請求項3】
前記移動マイクロホンによる隣り合う測定位置の間の距離が1mm~10mmである、請求項1又は2に記載の音源探査方法。
【請求項4】
タイヤの回転に基づくパルス信号が発生し、
前記移動マイクロホンが各測定位置に移動してから所定回目の前記パルス信号が測定開始の前記レファレンス信号として設定され、前記移動マイクロホンが各測定位置に移動してから別の所定回目の前記パルス信号が測定終了の前記レファレンス信号として設定され、
各測定位置において、測定開始の前記レファレンス信号が発せられてから測定終了の前記レファレンス信号が発せられるまでの間、前記移動マイクロホンが測定を行う、請求項1~のいずれか1項に記載の音源探査方法。
【請求項5】
タイヤの異なる2つの回転速度である第1回転速度と第2回転速度とが前記レファレンス信号としてあらかじめ設定され、各測定位置において、タイヤの回転速度が第1回転速度の時から第2回転速度の時までの間、前記移動マイクロホンが測定を行う、請求項1~のいずれか1項に記載の音源探査方法。
【請求項6】
所定の大きさの軸力が前記レファレンス信号としてあらかじめ設定され、各測定位置において、測定される軸力が前記の所定の大きさ以上の間、前記移動マイクロホンが測定を行う、請求項1~のいずれか1項に記載の音源探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音源探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数のマイクロホンが平面上で縦横に並んだマイクロホンアレイが知られている。回転しているタイヤから発生する騒音の音圧を、このようなマイクロホンアレイを構成する多数のマイクロホンで同時に測定し、測定されたデータに対して音響ホログラフィ処理を行ってタイヤの接地部分における音圧分布を求める方法が知られている(例えば特許文献1参照)。このような方法において、図8に示すように、回転するタイヤTの前方又は後方にマイクロホンアレイ112が配置されることが多い。また、このような方法において測定しようとしているのは、タイヤTの接地部分Gから発生する騒音の音圧である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5089253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような方法において、マイクロホンアレイ112がタイヤTの接地部分Gから離れていると、タイヤTの接地部分Gから発生する騒音の音圧だけでなくそれ以外の暗騒音の音圧もマイクロホンアレイ112が測定してしまい、音源を正確に特定できないという問題があった。例えば図8のようにタイヤTの前方又は後方にマイクロホンアレイ112が配置された場合、タイヤTのトレッド面T1と、タイヤTを回転させているドラムDの表面D1との間の反射音が、大きな暗騒音となっていた。
【0005】
このような暗騒音の音圧が測定されないようにするためには、タイヤTの接地部分Gの近くで音圧を測定する必要がある。しかし、マイクロホンアレイ112は多数のマイクロホンからなる大きなものであるため、タイヤTの接地部分Gに接近させて配置することができない。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、暗騒音の影響を低減することができる音源特定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の音源探査方法は、タイヤを回転させながら前記タイヤから離れた複数の測定位置で騒音の音圧を測定し、その測定データに基づき音響ホログラフィを用いてタイヤの接地部分における音圧分布を求め、前記音圧分布に基づき前記騒音の音源を特定する音源探査方法において、移動可能な移動マイクロホンを用いて複数の測定位置において順番に音圧を測定し、前記移動マイクロホンによる各測定位置での測定にあたり、所定のレファレンス信号に基づき測定を開始及び終了し、位置が固定された固定マイクロホンを用いて、前記移動マイクロホンによる各測定位置での測定と同期させて音圧を測定し、前記移動マイクロホンの測定データと前記固定マイクロホンの測定データとを周波数分析して、各測定位置における前記移動マイクロホンの測定データの周波数分析データと、それに対応する前記固定マイクロホンの測定データの周波数分析データとの位相差を求め、それにより、各測定位置における前記移動マイクロホンの測定データの周波数分析データの間の位相差のうちの測定位置の違いに起因する位相差を求め、前記の測定位置の違いに起因する位相差を使用して音響ホログラフィを用いてタイヤの接地部分における音圧分布を求め、前記移動マイクロホンによる測定位置が、前記タイヤの前又は後ろにおける前記タイヤの下の場所であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
実施形態の音源探査方法によれば、移動マイクロホンによる測定範囲を狭くすることができ、音源の近くで音圧を測定することが可能となるため、暗騒音の影響を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の音源探査方法の実施の様子を示す図。タイヤを軸方向から見た図。
図2】実施形態の音源探査方法の実施の様子を示す図。図1の矢印A方向から見た図。
図3】音源探査装置の概念図。
図4】移動マイクロホンの測定位置及び移動経路を示す図。
図5】音源探査方法の全体のフローチャート。
図6】音圧の測定のフローチャート。
図7】音響ホログラフィ処理のイメージ図。
図8】従来の音源特定方法の様子を示す図。タイヤを軸方向から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0011】
図1及び図2に本実施形態の音源探査の様子を示す。図示省略するがタイヤTのトレッド面T1には多数の溝が形成されている。タイヤTがドラムDに接触(接地)している状態でドラムDが回転すると、ドラムDの回転方向と反対方向にタイヤTが回転し、タイヤTの接地部分Gの溝等から騒音が発生する。本実施形態の音源探査方法は、そのときの騒音の音源の位置を特定する方法である。
【0012】
<実施形態の音源探査装置について>
図3に、本実施形態の音源探査方法の実施に用いられる音源探査装置10の一例を示す。音源探査装置10は、騒音の音圧を測定する機器として、移動可能な1つの移動マイクロホン12と、位置が固定されている1つの固定マイクロホン14とを有している。
【0013】
また、音源探査装置10は、移動マイクロホン12及び固定マイクロホン14が接続された音響ホログラフィ装置16と、音響ホログラフィ装置16が接続されたコンピュータ18と、コンピュータ18での計算結果を出力するディスプレイ等の出力装置20とを有している。さらに、音源探査装置10は、後述するレファレンス信号を取得するレファレンス信号装置22と、移動マイクロホン12を移動させる移動制御装置24とを有している。レファレンス信号装置22及び移動制御装置24はコンピュータ18に接続されている。
【0014】
前記の移動マイクロホン12としては、先端の測定部が小さなものが使用される。例えば、移動マイクロホン12は、先端の測定部の直径が例えば0.8mm~1.2mmのプローブマイクロホン、1/2、1/4もしくは1/8インチマイクロホン(すなわち先端の測定部の直径が1/2、1/4もしくは1/8インチのマイクロホン)、又はMEMS(Micro-Electrical-MechanicalSystems)マイクロホンである。
【0015】
移動マイクロホン12は、その先端の測定部がタイヤTのドラムDへの接地部分Gに接近するように、配置される。移動マイクロホン12による音圧の測定位置(すなわち移動マイクロホン12の先端の測定部の位置)は、タイヤTの接地部分Gから25mm~100mm(25mm及び100mmを含む)離れた位置であることが好ましい。
【0016】
移動マイクロホン12の具体的な配置場所としては、例えば、タイヤTの前又は後ろの場所や、タイヤTの軸方向(幅方向)の場所等が挙げられる。移動マイクロホン12の好ましい配置場所は、タイヤTの前又は後ろの場所である。移動マイクロホン12のさらに好ましい配置場所は、図1に示すようなタイヤTの前又は後ろにおけるタイヤTの下の場所(言い換えれば、タイヤTの前又は後ろで、かつ、タイヤTのトレッド面T1とドラムDの表面D1とに挟まれた場所)である。
【0017】
移動マイクロホン12は移動制御装置24の一部によって保持されており、移動制御装置24によって移動させられる。移動制御装置24は例えばロボットである。移動マイクロホン12の測定部は所定の面積を有する平面上を移動する。この平面が移動マイクロホン12による音圧の測定面30である(図2参照)。測定面30は、例えば、タイヤTの接地部分Gから発生する騒音の進行方向に対して垂直な平面であり、移動マイクロホン12がタイヤTの前又は後ろに配置される場合はタイヤTの前後方向に垂直な平面である。
【0018】
図4に移動マイクロホン12による音圧の測定面30を拡大して示す。図4には、移動マイクロホン12の移動経路が破線で、停止位置が丸で示されている。移動経路は格子(好ましくは図4のように正方形を形成する格子)を描く。
【0019】
移動マイクロホン12は、図4に示されている全ての停止位置で停止するが、そのための移動の順路は限定されない。一例としては、図4に矢印で示すように、移動マイクロホン12は1番上(1列目)の移動経路を右に移動し、上から2番目(2列目)の移動経路を左に移動し、3列目を右、4列目を左、と移動して、その移動中に全ての停止位置で停止する。
【0020】
移動マイクロホン12は各停止位置で停止している間に音圧の測定を行う。つまり図4に丸で示されている停止位置は、音圧の測定位置である。また、図4における一番外側の測定位置及び移動経路で囲まれている部分を測定面30とする。
【0021】
隣り合う測定位置(すなわち移動マイクロホン12の停止位置)の間の距離Lは、1mm~10mm(1mm及び10mmを含む)であることが好ましく、4mm~5mm(4mm及び5mmを含む)であることがさらに好ましい。以上のような移動マイクロホン12の移動経路及び停止位置は音源探査装置10においてあらかじめ設定されている。
【0022】
固定マイクロホン14が固定される位置は、回転するタイヤTの接地部分Gから発生する騒音を測定できる位置であればどこでも良い。例えば、図1に示すように移動マイクロホン12の背後の位置(すなわち、タイヤTの接地部分Gから見て移動マイクロホン12と同じ方向で、移動マイクロホン12よりもタイヤTの接地部分Gから離れた位置)に固定マイクロホン14が固定される。固定マイクロホン14としては様々なマイクロホンが適用可能だが、例えば1/2、1/4又は1/8インチマイクロホンが使用される。
【0023】
前記のレファレンス信号装置22は、例えば、図2に示すようにタイヤTの回転軸Sに設けられたロータリーエンコーダである。タイヤT及びその回転軸Sが回転すると、回転軸Sの回転角度に応じたパルス信号がこのロータリーエンコーダから発生しコンピュータ18へ送られる。例えば、タイヤT及びその回転軸Sが1周すなわち360°回転するたびにパルス信号が1回発生する。
【0024】
このパルス信号は、移動マイクロホン12による音圧の測定の開始と終了のためのレファレンス信号として使用される。そのために、移動マイクロホン12による測定の開始とパルス信号との関係、及び移動マイクロホン12による測定の終了とパルス信号との関係が、あらかじめ設定されている。例えば、移動マイクロホン12が新しい測定位置に移動してから所定回目(例えば1回目)のパルス信号が測定開始のレファレンス信号として設定され、移動マイクロホン12が新しい測定位置に移動してから別の所定回目(例えば2回目や3回目)のパルス信号が測定終了のレファレンス信号として設定されている。
【0025】
前記の音響ホログラフィ装置16は、移動マイクロホン12及び固定マイクロホン14から音圧の測定データを取り込み、後述する周波数分析や音響ホログラフィの処理等を行って、タイヤTの接地部分Gにおける音圧分布を計算する。また、前記のコンピュータ18は、接続されている音響ホログラフィ装置16及び移動制御装置24の制御を行う。そして、音響ホログラフィ装置16が求めたタイヤTの接地部分Gにおける音圧分布を、出力装置20へ出力する。
【0026】
<実施形態の音源探査方法について>
本実施形態の音源探査方法の大まかな流れを図5に示す。まずタイヤTが回転し(S1)、次に移動マイクロホン12及び固定マイクロホン14による音圧の測定がなされる(S2)。次に、音圧の測定データに基づき、音響ホログラフィを利用してタイヤTの接地部分Gにおける音圧分布が計算される(S3)。次に、タイヤTの接地部分Gにおける音圧分布に基づき、音源が特定される(S4)。
【0027】
詳細に説明すると、まず、図1及び図2に示すようにタイヤTがドラムDに接地するよう配置される。次に、ドラムDの回転が始まり、ドラムDに接地しているタイヤTの回転が始まる(S1)。タイヤTの回転が始まると騒音が発生し始める。また、タイヤT及び回転軸Sの回転角度に応じてレファレンス信号としてのパルス信号が発生する。
【0028】
次の音圧の測定のステップ(S2)の流れを図6に示す。図6には移動マイクロホン12による音圧の測定について示されている。まず、移動マイクロホン12が最初の測定位置に移動し(S2-1)、その測定位置で待機する(S2-2)。そして、待機中に測定開始のレファレンス信号が発せられると(S2-3のYES)、移動マイクロホン12が音圧の測定を開始する(S2-4)。次に、音圧の測定中に測定終了のレファレンス信号が発せられると(S2-5のYES)、移動マイクロホン12が音圧の測定を終了する(S2-6)。これにより、測定開始のレファレンス信号が発せられてから測定終了のレファレンス信号が発せられるまでの間、移動マイクロホン12が測定を行うことになる。その後、全ての測定位置での測定が終了していなければ(S2-7のNO)、移動マイクロホン12が次の測定位置に移動し(S2-1)、S2-2からS2-6までのステップが再度実施される。全ての測定位置での測定が終了していれば(S2-7のYES)、音圧測定のステップS2が終了する。
【0029】
これに対し、固定マイクロホン14による音圧の測定は、少なくとも移動マイクロホン12による音圧の測定と同時に行われていれば良い。従って、移動マイクロホン12による最初の測定位置での測定の開始時から最後の測定位置での測定の終了時までの間、固定マイクロホン14が継続して音圧を測定し続けても良い。また、移動マイクロホン12がレファレンス信号に基づき測定を開始したり終了したりするたびに、固定マイクロホン14も測定を開始したり終了したりしても良い。
【0030】
このようにして移動マイクロホン12による測定と固定マイクロホン14による測定とが同期して行われるので、移動マイクロホン12による各測定位置での測定データと、それに対応する固定マイクロホン14による測定データとが紐付けされる。つまり、移動マイクロホン12によるある測定位置での測定データ(「移動マイクロホンデータ」とする)と、移動マイクロホン12がその測定位置で測定しているときの固定マイクロホン14による測定データ(「固定マイクロホンデータ」とする)とが紐付けされる。
【0031】
次に、音圧の測定データに基づき、音響ホログラフィを利用してタイヤTの接地部分Gにおける音圧分布が求められるステップ(S3)について説明する。
【0032】
背景技術に記載のようにマイクロホンアレイにより音圧が測定される場合は、各測定位置に配置されたそれぞれのマイクロホンで同時に測定が行われる。そのため、各測定位置での測定データの周波数分析データ同士の間(ただし同じ周波数の波形データ同士の間)には、位相差として、測定位置の違いに起因する位相差のみが存在する。ここで周波数分析データとは、測定データを周波数分析して得られる周波数毎の波形データのことである。
【0033】
それに対し本実施形態では、上記のように、1つの移動マイクロホン12が移動しながら各測定位置で測定を行う。そのため、各測定位置での移動マイクロホンデータの周波数分析データ同士の間(ただし同じ周波数の波形データ同士の間)には、測定位置の違いに起因する位相差と、測定時刻の違いに起因する位相差とが含まれている。そこで、マイクロホンアレイで音圧を測定した場合と同じ音響ホログラフィ処理を可能とするために、測定時刻の違いから生じる位相差を解消する処理が行われる。この処理により、全ての測定位置において移動マイクロホン12で同時に音圧を測定したとみなせるようになる。
【0034】
具体的には、まず、移動マイクロホンデータ及び固定マイクロホンデータの周波数分析が行われ、それぞれの周波数分析データが求められる。そして、各測定位置における移動マイクロホンデータの周波数分析データと、それに対応する(つまり移動マイクロホンデータと紐付けされている)固定マイクロホンデータの周波数分析データとの位相差(ただし同じ周波数の波形データ同士の位相差)が求められる。この位相差のことを「マイクロホン位相差」と言うこととする。マイクロホン位相差は全ての測定位置について求められる。また、マイクロホン位相差は、全ての周波数について求めることが可能だが、注目する特定の周波数についてのみ求められても良い。なお、マイクロホン位相差は、音圧測定のステップS2において各測定位置での音圧測定が終わるたびに計算されても良い。
【0035】
次に、異なる測定位置についてのマイクロホン位相差同士の位相差(ただし同じ周波数についてのマイクロホン位相差同士の位相差)が求められる。なお、マイクロホン位相差同士の位相差は、全ての周波数について求めることが可能だが、注目する特定の周波数についてのみ求められても良い。
【0036】
移動マイクロホンデータと固定マイクロホンデータとは同時に測定されているため、マイクロホン位相差には測定時刻の違いに起因する位相差が含まれていない。そのため、マイクロホン位相差同士の位相差からは、測定時刻の違いに起因する位相差が解消されている。そのため、マイクロホン位相差同士の位相差は、測定位置の違いに起因する位相差である。
【0037】
このことについて、1点目と2点目の2つの測定位置についてのデータの処理を例にして説明する。まず、1点目の測定位置での移動マイクロホンデータの周波数分析データのある周波数f1の波形データの位相をωm1とし、それに対応する(すなわち1点目の測定位置での測定時の)固定マイクロホンデータの周波数分析データの前記周波数f1の波形データの位相をωf1とする。このとき、1点目の測定位置における前記周波数f1についてのマイクロホン位相差(すなわち、1点目の測定位置における移動マイクロホンデータの周波数分析データのある周波数f1の波形データと、それに対応する固定マイクロホンデータの周波数分析データのある周波数f1の波形データとの位相差)Δω1は、
Δω1=ωm1-ωf1
である。
【0038】
次に、2点目の測定位置での移動マイクロホンデータの周波数分析データの前記周波数f1の波形データの位相ωm2は、前記位相ωm1に対して位置の違いに起因する位相差Δωpと測定時刻の違いに起因する位相差Δωtが加わったものなので、
ωm2=ωm1+Δωp+Δωt
となる。また、2点目の測定位置での測定時の固定マイクロホンデータの周波数分析データの前記周波数f1の波形データの位相ωf2は、前記位相ωf1に対して測定時刻の違いに起因する位相差Δωtのみが加わったものなので、
ωf2=ωf1+Δωt
となる。このとき、2点目の測定位置における前記周波数f1についてのマイクロホン位相差(すなわち、2点目の測定位置における移動マイクロホンデータの周波数分析データのある周波数f1の波形データと、それに対応する固定マイクロホンデータの周波数分析データのある周波数f1の波形データとの位相差)Δω2は、
Δω2=ωm2-ωf2=(ωm1+Δωp+Δωt)-(ωf1+Δωt)=ωm1-ωf1+Δωp
である。
【0039】
このようにして求まった1点目と2点目の測定位置についてのそれぞれのマイクロホン位相差すなわちΔω1及びΔω2から、マイクロホン位相差同士の位相差Δω2-1を計算すると、
Δω2-1=Δω2-Δω1=(ωm1-ωf1+Δωp)-(ωm1-ωf1)=Δωp
となる。このように、マイクロホン位相差同士の位相差Δω2-1が測定位置の違いに起因する位相差Δωpと等しいことがわかる。
【0040】
このようにして求まった測定位置の違いに起因する位相差を使用して音響ホログラフィ処理を行えば、マイクロホンアレイを使用して全ての測定位置において同時に音圧を測定しその測定データに基づき音響ホログラフィ処理を行った場合と同じ結果を得ることができる。
【0041】
音響ホログラフィ処理では既に確立されているNAH(Near Field Acoustic Holography:近距離場音響ホログラフィ)法等が利用される。簡単に説明すると、音響ホログラフィ処理では、測定面の各測定位置での測定データ(各測定位置で同時に測定されたとみなせる測定データ)の周波数分析データの位相及びレベルに基づき、音源面における音圧分布が計算される。図7のイメージ図に基づき説明すれば、測定面における音圧の分布p(x,y,z1)のフーリエ変換P(kx,ky,z1)と、音源面から測定面までの伝達関数Hの逆特性H-1とから、音源面での音圧の分布p(x,y,0)が計算される。本実施形態では、上記の測定面30において移動マイクロホン12により測定された音圧分布から、タイヤTの接地部分Gを含む面における音圧分布が求められる。この音圧分布は、全ての周波数について求めることが可能だが、注目する特定の周波数についてのみ求められても良い。
【0042】
次の音源の特定のステップ(S4)では、タイヤTの接地部分Gを含む面における音圧分布において最も音圧の高い部分が、その周波数の騒音の音源として特定される。騒音の音源として、例えば、トレッド面T1におけるいずれかの溝又はサイプが特定される。なお、音源の特定は、人が音圧分布をみて行っても良いし、コンピュータ18が行っても良い。タイヤTの設計者は、音源の特定の結果をもとに、タイヤTのトレッドパターンの設計変更を行うことができる。
【0043】
<実施形態の効果について>
上記のように、本実施形態では、移動マイクロホン12により複数の測定位置において順番に音圧が測定され、移動マイクロホン12による各測定位置での測定と同期させて固定マイクロホン14により音圧が測定される。そして、移動マイクロホンデータ及び固定マイクロホンデータが周波数分析され、各測定位置における移動マイクロホンデータの周波数分析データとそれに対応する固定マイクロホンデータの周波数分析データとの位相差がマイクロホン位相差として求められ、マイクロホン位相差同士の位相差が測定位置の違いに起因する位相差として求められる。そして、この測定位置の違いに起因する位相差に基づき音響ホログラフィによりタイヤTの接地部分Gにおける音圧分布が計算されるので、各測定位置で同時に音圧が測定された場合と同じ音圧分布が得られる。
【0044】
すなわち、本実施形態では、移動マイクロホン12により各測定位置において順番に音圧を測定するが、固定マイクロホンデータを利用したその後の処理を行うことにより、多数のマイクロホンからなるマイクロホンアレイで音圧を測定した場合と同じ結果を得ることができる。
【0045】
ここで、マイクロホンアレイは多数のマイクロホンが並んだものであるため、隣接するマイクロホン同士を密着させたとしても所定以上の大きさになってしまい、それより小さくすることができない。
【0046】
それに対し、本実施形態では、移動マイクロホン12の隣り合う測定位置の間の距離(言い換えれば、移動マイクロホン12の移動距離)を任意に決めることができ、例えば1mm~10mmといった、マイクロホンアレイにおける隣接するマイクロホン間の距離より短い距離に設定することもできる。そのため、移動マイクロホン12による測定面30の面積を、マイクロホンアレイの面積よりも小さくすることができる。
【0047】
このように移動マイクロホン12による測定面30の面積を小さくすることができるため、移動マイクロホン12による測定面30を、マイクロホンアレイを配置できないような場所、例えばタイヤTの前又は後ろにおけるタイヤTの下のような狭い場所にも設定することができる。それにより、移動マイクロホン12による測定面30を、マイクロホンアレイよりも、タイヤTの接地部分Gに接近させて設定することができる。具体例としては、タイヤTの前又は後ろにおける、タイヤTの接地部分Gからの距離が25mm~100mmという近い場所に、移動マイクロホン12による測定面30を設定することができる。
【0048】
このように移動マイクロホン12による測定面30をタイヤTの接地部分Gに接近させて設定することができるため、移動マイクロホン12に入る暗騒音を少なくすることができる。例えば、移動マイクロホン12による測定面30を、タイヤTの前又は後ろにおけるタイヤTの下において接地部分Gに接近させて設定することにより、タイヤTのトレッド面T1とドラムDの表面D1との間の反射音が移動マイクロホン12に入ることを防ぐことができる。そのため、本実施形態によれば、暗騒音の影響を低減させて音源を特定することができる。
【0049】
また、移動マイクロホン12による各測定位置での測定にあたり、上記のようにレファレンス信号に基づき測定を開始及び終了するため、各測定位置での移動マイクロホン12による測定条件を合わせることができる。
【0050】
より具体的には、上記のように、タイヤTの回転に基づくパルス信号が発生するよう構成され、移動マイクロホン12が各測定位置に移動してから所定回目(例えば1回目)のパルス信号が測定開始のレファレンス信号として設定され、移動マイクロホン12が各測定位置に移動してから別の所定回目(例えば2回目や3回目)のパルス信号が測定終了のレファレンス信号として設定されている。そして、各測定位置において、測定開始のレファレンス信号が発せられてから測定終了のレファレンス信号が発せられるまでの間、移動マイクロホン12が測定を行う。そのため、全ての測定位置において、タイヤTの同じ回転数の間、音圧の測定を行うことができる。
【0051】
<実施形態の変更例について>
まず変更例1について説明する。
【0052】
変更例1では、移動マイクロホン12による測定の開始及び終了の基準となるレファレンス信号として、上記実施形態のパルス信号の代わりに、タイヤTの回転速度が利用される。そのために、レファレンス信号装置22として、タイヤTの回転速度を測定する回転速度計が設けられている。
【0053】
そして、タイヤTの異なる2つの回転速度である第1回転速度と第2回転速度とがレファレンス信号としてあらかじめ設定されている。そして、各測定位置において、タイヤTの回転速度が第1回転速度の時から第2回転速度の時までの間、移動マイクロホン12が測定を行う。
【0054】
具体例としては、測定開始のレファレンス信号として第1回転速度が設定され、測定終了のレファレンス信号として第1回転速度よりも遅い第2回転速度が設定される。そして、タイヤTがドラムD上で第1回転速度よりも速い高速で回転させられ、その状態でドラムDを回転させるためのモーターの電源が切られる。すると、ドラムD及びタイヤTの回転速度が徐々に落ちていく。そして、タイヤTの回転速度が第1回転速度まで落ちた時に移動マイクロホン12による測定が開始され、タイヤTの回転速度がさらに第2回転速度まで落ちた時に移動マイクロホン12による測定が終了する。これにより、モーターの音が消された状態で、タイヤTの回転速度が第1回転速度と第2回転速度との平均速度のときの騒音の音源を特定することができる。
【0055】
別の具体例としては、測定開始のレファレンス信号として第1回転速度が設定され、測定終了のレファレンス信号として第1回転速度よりも速い第2回転速度が設定される。そして、タイヤTの回転速度が徐々に上げられ、タイヤTの回転速度が第1回転速度まで上がった時に移動マイクロホン12による測定が開始され、タイヤTの回転速度がさらに第2回転速度まで上がった時に移動マイクロホン12による測定が終了する。これにより、タイヤTの回転速度が第1回転速度から第2回転速度まで加速されたときの騒音の音源を特定することができる。
【0056】
変更例1において、タイヤTの回転速度の代わりに、ドラムDの回転速度がレファレンス信号として利用されても良い。
【0057】
次に変更例2について説明する。
【0058】
変更例2では、移動マイクロホン12による測定の開始及び終了の基準となるレファレンス信号として、上記実施形態のパルス信号の代わりに、タイヤTの回転軸Sに働く軸力が利用される。そのために、レファレンス信号装置22として、タイヤTの回転軸Sに働く軸力を測定する軸力計が設けられている。
【0059】
そして、所定の大きさの軸力がレファレンス信号としてあらかじめ設定されている。そして、各測定位置において、測定される軸力が前記の所定の大きさ以上の間、移動マイクロホン12が測定を行う。つまり、軸力が徐々に大きくなって前記の所定の大きさを超えた時に移動マイクロホン12の測定が開始され、その後軸力が徐々に小さくなって前記の所定の大きさを切った時に移動マイクロホン12の測定が終了する。軸力の大きさは制駆動力に対応しているため、この方法により、所定以上の大きさの制動力や駆動力が生じているときの騒音の音源を特定することができる。
【符号の説明】
【0060】
D…ドラム、D1…ドラムの表面、G…接地部分、S…回転軸、T…タイヤ、T1…トレッド面、10…音源探査装置、12…移動マイクロホン、14…固定マイクロホン、16…音響ホログラフィ装置、18…コンピュータ、20…出力装置、22…レファレンス信号装置、24…移動制御装置、30…測定面、112…マイクロホンアレイ
図1
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図8