(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】増幅回路
(51)【国際特許分類】
H03G 3/10 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
H03G3/10 B
(21)【出願番号】P 2018226637
(22)【出願日】2018-12-03
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】杉本 良之
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓二
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-284962(JP,A)
【文献】特開平11-205055(JP,A)
【文献】特開2004-304775(JP,A)
【文献】特開2009-053971(JP,A)
【文献】特表2018-533890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/00-H03F3/72
H03G1/00-H03G3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動入力信号を増幅して差動出力信号を出力する増幅回路であって、
第1電流を供給する第1電流源と、
第2電流を供給する第2電流源と、
前記差動入力信号に応じて前記第1電流及び前記第2電流をそれぞれ2つに分配して、差動電流信号を生成する差動回路と、
前記差動電流信号を前記差動出力信号に変換する負荷回路と、
制御電流を供給する制御用電流源と、
を備え、
前記差動回路は、
ベース、エミッタ、及びコレクタを有する第1トランジスタと、
ベース、エミッタ、及びコレクタを有する第2トランジスタと、
制御端子、第1端子、及び第2端子を有する可変抵抗回路と、
を備え、
前記第1トランジスタの前記ベース及び前記第2トランジスタの前記ベースは、前記差動入力信号を受け、
前記第1トランジスタの前記コレクタ及び前記第2トランジスタの前記コレクタは、前記差動電流信号を出力し、
前記第1端子は、前記第1トランジスタの前記エミッタに電気的に接続され、
前記第2端子は、前記第2トランジスタの前記エミッタに電気的に接続され、
前記制御端子は、前記制御電流を受け、
前記可変抵抗回路は、
前記第1端子と前記第2端子との間に直列に接続された第1抵抗素子及び第2抵抗素子と、
ゲート、ソース、及びドレインを有する第1電界効果トランジスタと、
ゲート、ソース、及びドレインを有する第2電界効果トランジスタと、
を備え、
前記第1電界効果トランジスタの前記ソースは、前記第1端子に電気的に接続され、
前記第1電界効果トランジスタの前記ドレインは、前記第2端子に電気的に接続され、
前記第1電界効果トランジスタの前記ゲート、前記第2電界効果トランジスタの前記ゲート、及び前記第2電界効果トランジスタの前記ドレインは、前記制御端子に共通に電気的に接続され、
前記第2電界効果トランジスタの前記ソースは、前記第1抵抗素子及び前記第2抵抗素子の接続点に電気的に接続され、
前記第2抵抗素子の抵抗値は、前記第1抵抗素子の抵抗値と等しく設定され、
前記制御用電流源は、前記第2電界効果トランジスタのトランスコンダクタンスが一定となるように前記制御電流を供給する、増幅回路。
【請求項2】
前記制御用電流源は、
入力された入力電流と同じ電流値を有する出力電流を出力するカレントミラー回路と、
ゲート、ソース、及びドレインを有する第3電界効果トランジスタと、
ゲート、ソース、及びドレインを有する第4電界効果トランジスタと、
第3抵抗素子と、
を備え、
前記第3電界効果トランジスタの前記ゲートは、前記第3電界効果トランジスタの前記ドレイン及び前記第4電界効果トランジスタの前記ゲートに電気的に接続され、
前記第3電界効果トランジスタの前記ソースは、接地電位に電気的に接続され、
前記第4電界効果トランジスタの前記ソースは、前記第3抵抗素子を介して接地電位に電気的に接続され、
前記第4電界効果トランジスタのドレイン電流は前記カレントミラー回路に前記入力電流として入力され、
前記カレントミラー回路の前記出力電流は、前記第3電界効果トランジスタの前記ドレインに入力され、
前記第4電界効果トランジスタのW/L比は、前記第3電界効果トランジスタのW/L比のK倍(Kは1より大きい実数)に設定され、
前記第1電界効果トランジスタのW/L比及び前記第2電界効果トランジスタのW/L比のそれぞれは、前記第3電界効果トランジスタの前記W/L比と等しく設定され、
制御信号に応じて、前記カレントミラー回路の前記出力電流のX倍(Xは1以上の実数)を前記制御電流として出力する、請求項1に記載の増幅回路。
【請求項3】
前記第1電界効果トランジスタ、前記第2電界効果トランジスタ、前記第3電界効果トランジスタ、及び前記第4電界効果トランジスタは、同一の半導体チップ上に形成され、
前記第1電界効果トランジスタ、前記第2電界効果トランジスタ、前記第3電界効果トランジスタ、及び前記第4電界効果トランジスタのそれぞれは、互いに同じ電子移動度及び同じ
ゲート容量を有する、請求項2に記載の増幅回路。
【請求項4】
前記可変抵抗回路は、前記第1端子と前記第2端子との間に接続されたキャパシタをさらに備える、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信ネットワークの大容量化に伴い、光信号のPAM4(4-level Pulse Amplitude Modulation)等の信号レベルの多値化に対応することが望まれている。このため、レーザドライバ及びトランスインピーダンスアンプといった、光フロントエンド(光信号と電気信号との相互変換部)で使用される増幅回路には、線形動作が求められている。それらの増幅回路において、入力信号の強度が変動した場合でも線形動作を行うために、出力信号の振幅が飽和して非線形動作にならないように増幅回路の利得は適切に調整され得ることが望ましい。
【0003】
特許文献1には、一対のトランジスタと、一対のトランジスタのエミッタ間に設けられ、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)を有する可変抵抗回路と、を備え、一対のトランジスタのベースに差動の入力信号が入力される可変利得型差動増幅器が記載されている。この可変利得型差動増幅器では、FETのゲートに制御電圧が印加され、制御電圧に応じてFETのソース-ドレイン間抵抗を変化させることによって、利得制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-304775号公報
【文献】特開2004-266316号公報
【文献】特開2003-168937号公報
【文献】特開2003-168938号公報
【文献】特開2003-243951号公報
【文献】特開昭63-175510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の可変利得型差動増幅器では、一対のトランジスタのベースのそれぞれに抵抗素子を介してバイアス電圧が供給されている。ところで、トランジスタのベース・エミッタ間電圧は、温度によって変動するので、FETのドレイン電位及びソース電位は、温度によって変動する。このため、FETのゲートに印加されている制御電圧が一定であっても、FETのゲート・ソース間電圧が閾値電圧に対して変動するので可変抵抗回路の抵抗値が変動し、差動増幅器の利得が変動するおそれがある。
【0006】
本発明は、利得の温度依存性を低減可能な増幅回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る増幅回路は、差動入力信号を増幅して差動出力信号を出力する増幅回路である。この増幅回路は、第1電流を供給する第1電流源と、第2電流を供給する第2電流源と、差動入力信号に応じて第1電流及び第2電流をそれぞれ2つに分配して、差動電流信号を生成する差動回路と、差動電流信号を差動出力信号に変換する負荷回路と、制御電流を供給する制御用電流源と、を備える。差動回路は、ベース、エミッタ、及びコレクタを有する第1トランジスタと、ベース、エミッタ、及びコレクタを有する第2トランジスタと、制御端子、第1端子、及び第2端子を有する可変抵抗回路と、を備える。第1トランジスタのベース及び第2トランジスタのベースは、差動入力信号を受ける。第1トランジスタのコレクタ及び第2トランジスタのコレクタは、差動電流信号を出力する。第1端子は、第1トランジスタのエミッタに電気的に接続される。第2端子は、第2トランジスタのエミッタに電気的に接続される。制御端子は、制御電流を受ける。可変抵抗回路は、第1端子と第2端子との間に直列に接続された第1抵抗素子及び第2抵抗素子と、ゲート、ソース、及びドレインを有する第1電界効果トランジスタと、ゲート、ソース、及びドレインを有する第2電界効果トランジスタと、を備える。第1電界効果トランジスタのソースは、第1端子に電気的に接続される。第1電界効果トランジスタのドレインは、第2端子に電気的に接続される。第1電界効果トランジスタのゲート、第2電界効果トランジスタのゲート、及び第2電界効果トランジスタのドレインは、制御端子に共通に電気的に接続される。第2電界効果トランジスタのソースは、第1抵抗素子及び第2抵抗素子の接続点に電気的に接続される。第2抵抗素子の抵抗値は、第1抵抗素子の抵抗値と等しく設定される。制御用電流源は、第2電界効果トランジスタのトランスコンダクタンスが一定となるように制御電流を供給する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、利得の温度依存性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る増幅回路を含む光送信装置の回路構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される制御用電流源の回路構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、比較例の増幅回路の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0011】
本発明の一側面に係る増幅回路は、差動入力信号を増幅して差動出力信号を出力する増幅回路である。この増幅回路は、第1電流を供給する第1電流源と、第2電流を供給する第2電流源と、差動入力信号に応じて第1電流及び第2電流をそれぞれ2つに分配して、差動電流信号を生成する差動回路と、差動電流信号を差動出力信号に変換する負荷回路と、制御電流を供給する制御用電流源と、を備える。差動回路は、ベース、エミッタ、及びコレクタを有する第1トランジスタと、ベース、エミッタ、及びコレクタを有する第2トランジスタと、制御端子、第1端子、及び第2端子を有する可変抵抗回路と、を備える。第1トランジスタのベース及び第2トランジスタのベースは、差動入力信号を受ける。第1トランジスタのコレクタ及び第2トランジスタのコレクタは、差動電流信号を出力する。第1端子は、第1トランジスタのエミッタに電気的に接続される。第2端子は、第2トランジスタのエミッタに電気的に接続される。制御端子は、制御電流を受ける。可変抵抗回路は、第1端子と第2端子との間に直列に接続された第1抵抗素子及び第2抵抗素子と、ゲート、ソース、及びドレインを有する第1電界効果トランジスタと、ゲート、ソース、及びドレインを有する第2電界効果トランジスタと、を備える。第1電界効果トランジスタのソースは、第1端子に電気的に接続される。第1電界効果トランジスタのドレインは、第2端子に電気的に接続される。第1電界効果トランジスタのゲート、第2電界効果トランジスタのゲート、及び第2電界効果トランジスタのドレインは、制御端子に共通に電気的に接続される。第2電界効果トランジスタのソースは、第1抵抗素子及び第2抵抗素子の接続点に電気的に接続される。第2抵抗素子の抵抗値は、第1抵抗素子の抵抗値と等しく設定される。制御用電流源は、第2電界効果トランジスタのトランスコンダクタンスが一定となるように制御電流を供給する。
【0012】
この増幅回路では、差動回路が備える第1トランジスタのベース及び第2トランジスタのベースが差動入力信号を受け、第1トランジスタのコレクタ及び第2トランジスタのコレクタが差動電流信号を出力し、負荷回路が差動電流信号を差動出力信号に変換する。第1トランジスタのエミッタの電位と第2トランジスタのエミッタの電位とは、互いに反転した関係にあり、差動入力信号に応じて変動する。第1トランジスタのエミッタと第2トランジスタのエミッタとの間に互いに同じ抵抗値を有する第1抵抗素子及び第2抵抗素子が直列に接続されているので、第1抵抗素子と第2抵抗素子との接続点の電位は、第1トランジスタのエミッタの電位と第2トランジスタのエミッタの電位との中間電圧(平均電位)となり得る。
【0013】
第1電界効果トランジスタのソース及びドレインが第1トランジスタのエミッタ及び第2トランジスタのエミッタにそれぞれ電気的に接続され、第2電界効果トランジスタのソースが第1抵抗素子と第2抵抗素子との接続点に電気的に接続されている。第1電界効果トランジスタのゲートと、第2電界効果トランジスタのゲート及びドレインとが、制御電流を受ける制御端子に共通に接続されている。つまり、第2電界効果トランジスタは、第1電界効果トランジスタのゲートと接続点との間にダイオード接続されている。この構成によって、第1電界効果トランジスタのゲートとソースとの間の電圧(ゲート・ソース間電圧)は、第2電界効果トランジスタのゲート・ソース間電圧と略等しくなる。一方、第1電界効果トランジスタのオン抵抗値は、第1電界効果トランジスタのゲート・ソース間電圧から閾値電圧を減算した値等によって定まる。これらの値は温度依存性を有するが、第2電界効果トランジスタのトランスコンダクタンスが一定となるように制御電流が供給されるので、第1電界効果トランジスタのゲート・ソース間電圧から閾値電圧を減算した値等が温度によらず略一定となる。以上のことから、第1電界効果トランジスタのオン抵抗値の温度依存性が低減される。その結果、増幅回路の利得の温度依存性を低減することが可能となる。
【0014】
制御用電流源は、入力された入力電流と同じ電流値を有する出力電流を出力するカレントミラー回路と、ゲート、ソース、及びドレインを有する第3電界効果トランジスタと、ゲート、ソース、及びドレインを有する第4電界効果トランジスタと、第3抵抗素子と、を備えてもよい。第3電界効果トランジスタのゲートは、第3電界効果トランジスタのドレイン及び第4電界効果トランジスタのゲートに電気的に接続されてもよい。第3電界効果トランジスタのソースは、接地電位に電気的に接続されてもよい。第4電界効果トランジスタのソースは、第3抵抗素子を介して接地電位に電気的に接続されてもよい。第4電界効果トランジスタのドレイン電流はカレントミラー回路に入力電流として入力されてもよい。カレントミラー回路の出力電流は、第3電界効果トランジスタのドレインに入力されてもよい。第4電界効果トランジスタのW/L比は、第3電界効果トランジスタのW/L比のK倍(Kは1より大きい実数)に設定されてもよい。第1電界効果トランジスタのW/L比及び第2電界効果トランジスタのW/L比のそれぞれは、第3電界効果トランジスタのW/L比と等しく設定されてもよい。制御信号に応じて、カレントミラー回路の出力電流のX倍(Xは1以上の実数)を制御電流として出力してもよい。この場合、電源電圧の値が制御信号に及ぼす影響が低減される。このため、電源電圧の値が第1電界効果トランジスタのオン抵抗値に及ぼす影響を低減することができる。これにより、増幅回路の利得を安定化することが可能となる。
【0015】
第1電界効果トランジスタ、第2電界効果トランジスタ、第3電界効果トランジスタ、及び第4電界効果トランジスタは、同一の半導体チップ上に形成されてもよい。第1電界効果トランジスタ、第2電界効果トランジスタ、第3電界効果トランジスタ、及び第4電界効果トランジスタのそれぞれは、互いに同じ電子移動度及び同じキャパシタの容量を有してもよい。この場合、理論上、第1電界効果トランジスタのオン抵抗値を、電界効果トランジスタの電子移動度及びキャパシタ容量に依存しない値とすることができる。したがって、第1電界効果トランジスタのオン抵抗値の温度依存性がさらに低減される。その結果、増幅回路の利得の温度依存性をさらに低減することが可能となる。
【0016】
可変抵抗回路は、第1端子と第2端子との間に接続されたキャパシタをさらに備えてもよい。この場合、差動入力信号の周波数が高周波数である場合に、可変抵抗回路の抵抗値が低下するので、増幅回路の利得を増加させることができる。これにより、増幅回路の周波数特性を補償することが可能となる。
【0017】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る増幅回路の具体例を、図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
図1は、一実施形態に係る増幅回路を含む光送信装置の回路構成の一例を示す図である。
図1に示されるように、光送信装置1は、発光素子2及び駆動回路3を主に備える。発光素子2は、例えば、直接変調用の半導体レーザ素子であり、具体的には、端面発光型レーザダイオードである。このようなレーザダイオードとしては、分布帰還型レーザダイオード(DFB-LD:Distributed FeedBack Laser Diode)、及びファブリペローレーザダイオード(FP-LD:Fabry-Perot Laser Diode)等がある。ここで直接変調とは、半導体レーザ素子に流す電流の量を変化させることによって半導体レーザ素子から出力される光出力信号Poutの強度(光パワー)を変化させる変調方式のことを意味する。
【0019】
発光素子2のアノード(陽極)は、FBI(フェライトビーズインダクタ)5及びバイアス電流源4を介して電源電圧VLDに電気的に接続されている。つまり、発光素子2は、バイアス電流源4に直列に接続されている。さらに、発光素子2のアノードは駆動回路3の端子Toutに電気的に接続されている。発光素子2のカソード(陰極)は、接地電位(グラウンド電位)に電気的に接続されている。つまり、発光素子2はカソード接地で動作する。なお、例えば、発光素子2が一つの半導体チップ上に形成され、駆動回路3が他の半導体チップ上に形成される場合、発光素子2のアノードと駆動回路3の端子Toutとは、ボンディングワイヤ(不図示)を介して接続されることがある。同様に、FBI5は、ボンディングワイヤ(不図示)を介して発光素子2のアノードと接続されることがある。バイアス電流源4は、発光素子2を所定の強度で発光させるために、直流のバイアス電流Ibiasを供給する。例えば、バイアス電流Ibiasに応じて、直接変調によって生じた光出力信号Poutの強度の時間平均値(平均光パワー)が調整される。
【0020】
駆動回路3は、直接変調方式の駆動回路であり、特にシャント駆動方式に基づいて発光素子2に駆動電流ILDを供給する回路である。駆動回路3は、オン・オフ変調(on-off keying)により発光素子2を直接変調する。すなわち、駆動回路3は、外部から入力される差動入力信号に応じて駆動電流ILDを増減することによって、光出力信号Poutを増減する。差動入力信号は、入力信号Vinpと入力信号Vinnとを含む。入力信号Vinpと入力信号Vinnとは、互いに相補的な信号である。例えば、入力信号Vinpは、入力信号Vinnの位相と180°異なる位相を持つ。すなわち、入力信号Vinpが増加するときに入力信号Vinnは減少し、入力信号Vinpが減少するときに入力信号Vinnは増加する。また、差動入力信号が0レベル及び1レベルの2つの論理値を有するNRZ(Non-Return to Zero)信号である場合、入力信号Vinpが1レベル(ピーク値)に達するときに入力信号Vinnは0レベル(ボトム値)に達し、入力信号Vinpがボトム値に達するときに入力信号Vinnはピーク値に達する。入力信号Vinpの振幅(ピーク値とボトム値との差)は、入力信号Vinnの振幅と略等しい。駆動回路3は、端子Tinp、端子Tinn、及び端子Toutを有する。端子Tinpには、駆動回路3の外部から入力信号Vinpが供給される。端子Tinnには、駆動回路3の外部から入力信号Vinnが供給される。
【0021】
駆動回路3は、端子Tinp及び端子Tinnに供給される差動入力信号(入力信号Vinp及び入力信号Vinn)に応じて出力電流(シャント電流)Ioutを生成する。出力電流Ioutは、駆動電流ILDを増減するための信号であって、バイアス電流Ibiasから分流して、端子Toutを介して駆動回路3に流れ込む。このような構成により、バイアス電流源4及び駆動回路3により規定される駆動電流ILDが、発光素子2のアノードから発光素子2に供給され、駆動電流ILDに応じて発光素子2が光出力信号Poutを出力する。例えば、駆動電流ILDが増加すると光出力信号Poutは増加し、駆動電流ILDが減少すると光出力信号Poutは減少する。また、バイアス電流Ibiasが一定の値に保たれているとき、出力電流Ioutが増加すると駆動電流ILDは減少し、出力電流Ioutが減少すると駆動電流ILDは増加する。従って、駆動電流ILDは、出力電流Ioutを反転した信号となっている。
【0022】
駆動回路3の構成について、さらに詳細に説明する。駆動回路3は、抵抗素子11と、抵抗素子12と、エミッタフォロア回路13と、エミッタフォロア回路14と、増幅回路15と、エミッタフォロア回路16と、トランスコンダクタンスアンプ17と、を備える。
【0023】
抵抗素子11及び抵抗素子12は、例えば入力終端抵抗である。抵抗素子11の一端は端子Tinpに電気的に接続され、抵抗素子11の他端は電源電圧VCCに電気的に接続される。抵抗素子12の一端は端子Tinnに電気的に接続され、抵抗素子12の他端は電源電圧VCCに電気的に接続される。ここで、「電源電圧VCCに電気的に接続される」とは、「電源電圧VCCを駆動回路3内の各回路に供給するための電源線に接続される」ことを意味する。また、以下の説明においても同じ意味で使用される。
【0024】
エミッタフォロア回路13は、入力信号Vinpを受け、入力信号Vinpを増幅回路15に出力する回路である。エミッタフォロア回路13は、トランジスタ31と、電流源32と、を備える。トランジスタ31は、例えばNPN型トランジスタである。トランジスタ31のベースは、端子Tinpに電気的に接続されている。トランジスタ31のコレクタは、電源電圧VCCに電気的に接続されている。トランジスタ31のエミッタは、電流源32の一端に電気的に接続されている。電流源32は、定電流源であって、電流源32の他端は接地電位に接続されている。トランジスタ31のエミッタは、レベルシフトされた入力信号Vinpを増幅回路15に出力する。
【0025】
エミッタフォロア回路14は、入力信号Vinnを受け、入力信号Vinnを増幅回路15に出力する回路である。エミッタフォロア回路14は、トランジスタ41と、電流源42と、を備える。トランジスタ41は、例えばNPN型トランジスタである。トランジスタ41のベースは、端子Tinnに電気的に接続されている。トランジスタ41のコレクタは、電源電圧VCCに電気的に接続されている。トランジスタ41のエミッタは、電流源42の一端に電気的に接続されている。電流源42は、定電流源であって、電流源42の他端は接地電位に接続されている。トランジスタ41のエミッタは、レベルシフトされた入力信号Vinnを増幅回路15に出力する。
【0026】
増幅回路15は、差動入力信号(入力信号Vinp及び入力信号Vinn)を増幅して差動出力信号(出力信号Voutp及び出力信号Voutn)を生成する回路である。増幅回路15は、電流源51(第1電流源)と、電流源52(第2電流源)と、差動回路53と、負荷回路54と、制御用電流源55と、を備える。
【0027】
電流源51は、電流I1(第1電流)を供給する回路である。電流源51は、電流I1を差動回路53に供給する。電流源52は、電流I2(第2電流)を供給する回路である。電流源52は、電流I2を差動回路53に供給する。電流I1と電流I2とは、同じ大きさに設定されてもよい。電流I1,I2は、通常は時間に対して一定値となるように設定される。ただし、例えば、温度の変化に対して増幅回路15に温度補償動作を行わせるような場合には設定値を適宜変える場合がある。
【0028】
差動回路53は、入力信号Vinpと入力信号Vinnとに応じて電流I1及び電流I2をそれぞれ2つに分配して、差動電流信号(電流信号Ic1及び電流信号Ic2)を生成する回路である。差動回路53は、トランジスタ56(第1トランジスタ)と、トランジスタ57(第2トランジスタ)と、可変抵抗回路58と、を備える。電流I1と電流I2との和は、電流信号Ic1と電流信号Ic2との和に略等しい。差動回路53は、入力信号Vinpと入力信号Vinnとの差に応じて、電流I1と電流I2との和を2つに分配してそれぞれ電流信号Ic1と電流信号Ic2とを生成する。
【0029】
トランジスタ56,57は、例えば、NPN型バイポーラトランジスタである。トランジスタ56のベースは、トランジスタ31のエミッタに電気的に接続されており、トランジスタ56のベースには、入力信号Vinpが入力される。トランジスタ56のエミッタは、電流源51に電気的に接続されている。トランジスタ56のコレクタは、負荷回路54に電気的に接続されており、電流信号Ic1を出力する。トランジスタ57のベースは、トランジスタ41のエミッタに電気的に接続されており、トランジスタ57のベースには、入力信号Vinnが入力される。トランジスタ57のエミッタは、電流源52に電気的に接続されている。トランジスタ57のコレクタは、負荷回路54に電気的に接続されており、電流信号Ic2を出力する。つまり、トランジスタ56のベース及びトランジスタ57のベースは、差動入力信号を受ける。トランジスタ56のコレクタ及びトランジスタ57のコレクタは、差動電流信号を出力する。
【0030】
可変抵抗回路58は、トランジスタ56のエミッタとトランジスタ57のエミッタとの間に設けられ、トランジスタ56のエミッタとトランジスタ57のエミッタとの間の抵抗値(可変抵抗回路58の抵抗値)を調整するための回路である。可変抵抗回路58は、制御端子Tc、端子T1(第1端子)、及び端子T2(第2端子)を有する。端子T1は、トランジスタ56のエミッタに電気的に接続されている。端子T2は、トランジスタ57のエミッタに電気的に接続されている。制御端子Tcには、制御用電流源55から制御電流IDACが供給される。可変抵抗回路58は、抵抗素子81(第1抵抗素子)と、抵抗素子82(第2抵抗素子)と、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)83(第1電界効果トランジスタ)と、電界効果トランジスタ84(第2電界効果トランジスタ)と、キャパシタ85と、を備える。
【0031】
抵抗素子81及び抵抗素子82は、端子T1と端子T2との間に直列に接続されている。つまり、抵抗素子81の一端は、端子T1に電気的に接続されており、端子T1を介してトランジスタ56のエミッタに電気的に接続されている。抵抗素子81の他端は抵抗素子82の一端に電気的に接続され、接続点Pを成している。抵抗素子82の他端は、端子T2に電気的に接続されており、端子T2を介してトランジスタ57のエミッタに電気的に接続されている。抵抗素子81の抵抗値R1は、抵抗素子82の抵抗値R2と等しく設定されている。
【0032】
電界効果トランジスタ83,84のそれぞれは、ゲート、ソース、及びドレインを有する。電界効果トランジスタ83のソースは、端子T1に電気的に接続されており、端子T1を介してトランジスタ56のエミッタに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ83のドレインは、端子T2に電気的に接続されており、端子T2を介してトランジスタ57のエミッタに電気的に接続されている。なお、電界効果トランジスタ83について、ソースと
ドレインとは便宜上区別するために名称を変えているだけであって、ソースと
ドレインとを入れ替えてそれぞれトランジスタ56,57に接続されてもよい。電界効果トランジスタ83のゲート、電界効果トランジスタ84のゲート、及び電界効果トランジスタ84のドレインは、制御端子Tcに共通に電気的に接続されており、制御端子Tcを介して制御用電流源55の出力端子55a(
図2参照)に電気的に接続されている。電界効果トランジスタ84のソースは、抵抗素子81と抵抗素子82との接続点Pに電気的に接続されている。つまり、電界効果トランジスタ84は、電界効果トランジスタ83のゲート(制御端子Tc)と接続点Pとの間にダイオード接続されている。電界効果トランジスタ83は、制御電流IDACにより調整可能な可変抵抗器として機能する。電界効果トランジスタ83のオン抵抗値Ronは、温度に依存しない値である。オン抵抗値Ronの詳細は後述する。
【0033】
キャパシタ85は、端子T1と端子T2との間に電気的に接続されている。つまり、キャパシタ85の一端は、端子T1に電気的に接続されており、端子T1を介してトランジスタ56のエミッタに電気的に接続されている。キャパシタ85の他端は端子T2に電気的に接続されており、端子T2を介してトランジスタ57のエミッタに電気的に接続されている。
【0034】
可変抵抗回路58では、抵抗素子81、抵抗素子82、及び電界効果トランジスタ83による合成抵抗と、キャパシタ85とにより、トランジスタ56のエミッタとトランジスタ57のエミッタとの間のインピーダンスを高周波で下げ、差動回路53の利得を上げることができる。電界効果トランジスタ83のサイズ、抵抗素子81,82、及びキャパシタ85を適切に設計することで、高周波での損失を補償でき、合成抵抗値は制御信号Cntlによって変更できるため、補償の特性も調整可能となる。
【0035】
負荷回路54は、差動電流信号(電流信号Ic1及び電流信号Ic2)を差動出力信号(出力信号Voutp及び出力信号Voutn)に変換する回路である。負荷回路54は、負荷抵抗素子59と、負荷抵抗素子60と、を備える。負荷抵抗素子59の一端はトランジスタ56のコレクタに電気的に接続されている。負荷抵抗素子59の他端は、電源電圧VCCに電気的に接続されている。負荷抵抗素子59は、電流信号Ic1に基づいて出力信号Voutnを生成する。本実施形態では、負荷抵抗素子59は、電流信号Ic1を出力信号Voutnに変換する。具体的には、電流信号Ic1が負荷抵抗素子59に流れることによって生じるトランジスタ56のコレクタ電位が出力信号Voutnとして出力される。
【0036】
負荷抵抗素子60の一端はトランジスタ57のコレクタに電気的に接続されている。負荷抵抗素子60の他端は、電源電圧VCCに電気的に接続されている。負荷抵抗素子60は、電流信号Ic2に基づいて出力信号Voutpを生成する。本実施形態では、負荷抵抗素子60は、電流信号Ic2を出力信号Voutpに変換する。負荷回路54によって出力信号Voutp及び出力信号Voutnが生成されるが、後述するように発光素子2は単一の駆動電流によって駆動されるため、出力信号Voutnに代えて出力信号Voutpが増幅回路15から出力されてもよい。なお、出力信号Voutpが出力されるときは、出力信号Voutnが出力されるときと信号の論理が反転する。
【0037】
制御用電流源55は、制御電流IDACを供給する回路である。制御用電流源55は、所定のオン抵抗値Ronが得られるように制御電流IDACを設定したときに、電界効果トランジスタ84のトランスコンダクタンスGm2が一定となるように制御電流IDACを供給する。制御用電流源55は、例えば、バンドギャップ回路によって構成される。制御用電流源55の具体的な回路構成は後述する。
【0038】
エミッタフォロア回路16は、出力信号Voutnを受け、出力信号Voutnをトランスコンダクタンスアンプ17に出力する回路である。エミッタフォロア回路16は、トランジスタ61と、電流源62と、を備える。トランジスタ61は、例えばNPN型トランジスタである。トランジスタ61のベースは、トランジスタ56のコレクタに電気的に接続されている。トランジスタ61のコレクタは、電源電圧VCCに電気的に接続されている。トランジスタ61のエミッタは、電流源62の一端に電気的に接続されている。電流源62は、定電流源であって、電流源62の他端は接地電位に接続されている。
【0039】
トランスコンダクタンスアンプ17は、出力信号Voutnに応じて出力電流(シャント電流)Ioutを生成する回路である。トランスコンダクタンスアンプ17は、端子Toutを介してバイアス電流Ibiasから出力電流Ioutを分流することによって、駆動電流ILDを増減する。トランスコンダクタンスアンプ17は、トランジスタ71と、抵抗素子72と、を備える。トランジスタ71は、例えば、NPN型バイポーラトランジスタである。トランジスタ71のベースはトランジスタ61のエミッタに電気的に接続されている。トランジスタ71のベースには、出力信号Voutnが入力される。トランジスタ71のエミッタは、抵抗素子72を介して接地電位に接続されている。つまり、トランジスタ71及び抵抗素子72は、エミッタ接地回路を構成している。トランジスタ71のコレクタは、端子Toutに電気的に接続されており、端子Toutを介して発光素子2のアノードに電気的に接続されている。
【0040】
次に、制御用電流源55の回路構成の一例を説明する。
図2は、
図1に示される制御用電流源の回路構成の一例を示す図である。
図2に示されるように、制御用電流源55は、安定化回路(補償回路)90と、n+1個の出力トランジスタ96_0~96_nと、n+1個のトランジスタ97_0~97_nと、を備える。安定化回路90は、電源電圧VCCには依存しない安定化電流Iout1(入力電流)を生成する回路である。安定化回路90は、トランジスタ91(第3電界効果トランジスタ)と、トランジスタ92(第4電界効果トランジスタ)と、トランジスタ93と、トランジスタ94と、抵抗素子95(第3抵抗素子)と、を備える。
【0041】
トランジスタ91,92は、例えば、N型MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)である。トランジスタ91,92のそれぞれは、ゲート、ソース、及びドレインを有する。トランジスタ92のゲート幅(チャンネル幅)W2をゲート長(チャンネル長)L2で除算することで得られる値(W/L比)W2/L2は、トランジスタ91のゲート幅W1をゲート長L1で除算することで得られるW/L比W1/L1のK倍(Kは1より大きい実数)に設定されている。例えば、K=5である場合について説明する。トランジスタ91のゲート幅W1を10μm、ゲート長L1を0.1μmとするとトランジスタ91のW/L比W1/L1は100となる。トランジスタ92のゲート幅W2を50μm、ゲート長L2を0.1μmとするとトランジスタ92のW/L比W2/L2はトランジスタ91のW/L比W1/L1の5倍の500となる。このように、ゲート長L2はゲート長L1と同じ値に設定されてもよい。トランジスタ91のソースは、接地電位に電気的に接続されている。トランジスタ92のソースは、抵抗素子95を介して接地電位に接続されている。抵抗素子95は、温度係数が小さい抵抗素子である。抵抗素子95は、抵抗値Rsを有する。トランジスタ91のゲートは、トランジスタ91のドレイン及びトランジスタ92のゲートに電気的に接続されている。トランジスタ91のドレイン電流が参照電流Iref(出力電流)であり、トランジスタ92のドレイン電流が安定化電流Iout1である。
【0042】
トランジスタ93,94は、例えば、P型MOSFETである。トランジスタ93,94のそれぞれは、ゲート、ソース、及びドレインを有する。トランジスタ93のゲート幅W3をゲート長L3で除算することで得られるW/L比W3/L3は、トランジスタ94のゲート幅W4をゲート長L4で除算することで得られるW/L比W4/L4と等しく設定されている。例えば、トランジスタ93のゲート幅W3を20μm、ゲート長L3を0.1μmとすると、トランジスタ93のW/L比W3/L3は200となる。トランジスタ94のゲート幅W4を20μm、ゲート長L4を0.1μmとするとトランジスタ94のW/L比W4/L4はトランジスタ93のW/L比W3/L3と同じ200となる。このように、ゲート長L4はゲート長L3と同じ値に設定されてもよい。トランジスタ93のゲートとドレインとは互いに電気的に接続され、さらにトランジスタ92のドレイン、及びトランジスタ94のゲートに電気的に接続されている。つまり、トランジスタ93のドレイン電流は安定化電流Iout1と等しい。トランジスタ94のドレインは、トランジスタ91のゲート及びドレインに電気的に接続されている。つまり、トランジスタ94のドレイン電流は参照電流Irefと等しい。トランジスタ93,94のそれぞれのソースは、電源電圧VCCに電気的に接続されている。
【0043】
トランジスタ93とトランジスタ94とは、カレントミラー回路を構成する。例えば、トランジスタ93のドレイン電流(安定化電流Iout1)の大きさに比例した大きさのドレイン電流(参照電流Iref)がトランジスタ94から出力される。本実施形態では、参照電流Irefの大きさは、安定化電流Iout1の大きさと略等しい。つまり、トランジスタ93及びトランジスタ94によって構成されるカレントミラー回路は、入力された安定化電流Iout1と同じ電流値を有する参照電流Irefを出力する。トランジスタ92のドレイン電流はカレントミラー回路に入力電流として入力され、カレントミラー回路の出力電流(参照電流Iref)は、トランジスタ91のドレインに入力される。
【0044】
ここで、安定化回路90では、抵抗素子95の抵抗値Rsを用いて、トランジスタ91のゲート・ソース間電圧Vgs_M1とトランジスタ92のゲート・ソース間電圧Vgs_M2との間に以下の式(1)が成立する。
【数1】
【0045】
トランジスタ91のゲート幅W1、ゲート長L1、電子の移動度μ
n、及びMOSキャパシタの容量C
oxを用いてFETの2乗特性に基づいて式(1)を書き改めると、式(2)が得られる。なお、トランジスタ91の電子の移動度μ
n、及びMOSキャパシタの容量C
oxは、トランジスタ92の電子の移動度μ
n、及びMOSキャパシタの容量C
oxと等しく設定されている。
【数2】
【0046】
式(2)において、閾値電圧Vth_M1と閾値電圧Vth_M2とが等しいと仮定すると、式(3)が得られる。閾値電圧Vth_M1,Vth_M2は、トランジスタ91,92のドレインの電圧(ドレイン電位)とソースの電圧(ソース電位)のいずれか低い方の電圧を基準にしてトランジスタ91,92がオフ状態からオン状態に切り替わるゲート電位である。
【数3】
【0047】
式(3)を安定化電流Iout1について整理すると式(4)が得られる。式(4)に示されるように、トランジスタ91~94が飽和領域で動作するように電源電圧VCCの値を設定すると、安定化電流Iout1は、電源電圧VCCの値に依存しない値となる。
【数4】
【0048】
一方、トランジスタ91が飽和領域で動作している場合、トランジスタ91のドレイン・ソース電流Ids_M1は、式(5)で表される。
【数5】
【0049】
このため、トランジスタ91のトランスコンダクタンスGm_M1は、式(6)で表される。
【数6】
【0050】
トランジスタ91のドレイン・ソース電流Ids_M1は安定化電流Iout1に等しいので、式(6)に式(4)を代入することで、式(7)が得られる。式(7)に示されるように、安定化電流Iout1に係るトランスコンダクタンスGm_M1は、電源電圧VCC及びMOSパラメータ(移動度μ
n及び容量C
ox)に依存しない値となる。
【数7】
【0051】
n+1個の出力トランジスタ96_0~96_nは、例えば、P型MOSFETである。n+1個のトランジスタ97_0~97_nは、例えば、P型MOSFETである。出力トランジスタ96_0~96_nのそれぞれのゲートは、トランジスタ93のゲート及びドレインに電気的に接続されている。出力トランジスタ96_0~96_nのそれぞれのソースは、電源電圧VCCに電気的に接続されている。出力トランジスタ96_0~96_nのドレインは、トランジスタ97_0~97_nのソースにそれぞれ電気的に接続されている。トランジスタ97_0~97_nのゲートには、制御信号Cntl[0]~Cntl[n]がそれぞれ供給される。トランジスタ97_0~97_nのドレインは、制御用電流源55の出力端子55aに共通に電気的に接続されている。
【0052】
トランジスタ93と各出力トランジスタ96_k(kは0以上n以下の整数)とは、カレントミラー回路を構成する。例えば、トランジスタ93のドレイン電流(安定化電流Iout1)の大きさに比例した大きさの出力電流(ドレイン電流)Id_kが出力トランジスタ96_kから出力される。本実施形態では、各出力電流Id_kの大きさは、安定化電流Iout1の大きさと略等しい。
【0053】
トランジスタ97_kの状態は、制御信号Cntl[k]によって、ドレインとソースとの間が例えば数十Ω以下の比較的小さい抵抗値(オン抵抗値)で導通するオン状態と、ドレインとソースとの間が高抵抗値によって電気的に遮断されるオフ状態と、の間で切り替えられる。制御信号Cntl[k]の電圧レベルは、トランジスタ97_kのソース電位を基準として、ゲート・ソース間電圧がトランジスタ97_kの閾値電圧よりも十分に小さい値となる0レベルと、ゲート・ソース間電圧がトランジスタ97_kの閾値電圧よりも十分に大きい値となる1レベルと、のいずれかに設定される。したがって、0レベルの制御信号Cntl[k]が入力された場合には、トランジスタ97_kの状態はオフ状態となり、1レベルの制御信号Cntl[k]が入力された場合には、トランジスタ97_kの状態はオン状態となる。したがって、個々のトランジスタ97_kは、それぞれの制御信号Cntl[k]によって制御される電気的なスイッチとして機能する。なお、接地電位を基準として考えるときには、0レベルとなる制御信号Cntl[k]の電圧値は、1レベルとなる制御信号Cntl[k]の電圧値よりも高くなる。
【0054】
このような構成により、制御用電流源55では、制御信号Cntl[k]によって制御電流IDACの大きさが制御される。具体的には、トランジスタ97_0~97_nのうち制御信号Cntl[k]によってオン状態に設定されたトランジスタ97の数と、安定化電流Iout1の大きさとを乗算することによって得られる大きさの制御電流IDACが出力端子55aから出力される。言い換えると、制御用電流源55は、制御信号Cntl[k]に応じて、安定化電流Iout1(参照電流Iref)のx倍(xは1以上の実数)を制御電流IDACとして出力する。
【0055】
次に、電界効果トランジスタ83のオン抵抗値Ronが温度に依存しないことについて具体的に説明する。
【0056】
電界効果トランジスタ84は飽和領域で動作しているので、電界効果トランジスタ84のドレイン・ソース電流Ids2は、式(5)と同様に、電界効果トランジスタ84のゲート・ソース間電圧Vgs2、電界効果トランジスタ84の閾値電圧Vth2、及び電界効果トランジスタ84のMOSパラメータを用いて式(8)で表される。なお、電界効果トランジスタ84の移動度μ
n、容量C
ox、及びW/L比W6/L6は、トランジスタ91の移動度μ
n、容量C
ox、及びW/L比W1/L1と等しく設定されている。
【数8】
【0057】
ドレイン・ソース電流Ids2は、制御電流IDACと等しい。ここでは、制御電流IDACは安定化電流Iout1のx倍と等しい(つまり、x個のトランジスタ97_kがオン状態で、残りのトランジスタ97_kがオフ状態である)と仮定して説明する。この場合、電界効果トランジスタ84のトランスコンダクタンスGm2は、式(9)で表される。
【数9】
【0058】
ドレイン・ソース電流Ids2は、制御電流IDACと等しく、安定化電流Iout1のx倍であるので、式(9)に式(4)のx倍を代入することで、式(10)が得られる。式(10)に示されるように、トランスコンダクタンスGm2は、電源電圧VCC及びMOSパラメータ(移動度μ
n及び容量C
ox)に依存しない値となる。
【数10】
【0059】
また、式(4)及び式(8)から、式(11)が得られる。
【数11】
【0060】
電界効果トランジスタ83では、ゲート・ソース間電圧Vgs1、閾値電圧Vth1、及びドレイン・ソース間電圧Vds1との関係は、2×(Vgs1-Vth1)>>Vds1である。つまり、電界効果トランジスタ83は3極管領域(線形領域)で動作する。このため、電界効果トランジスタ83のドレイン電流Id1は、式(12)で表され得る。なお、電界効果トランジスタ83の移動度μ
n、容量C
ox、及びW/L比W5/L5は、電界効果トランジスタ84の移動度μ
n、容量C
ox、及びW/L比W6/L6と等しく設定されている。つまり、W/L比W5/L5は、W/L比W1/L1と等しい。また、電界効果トランジスタ83の閾値電圧Vth1は、電界効果トランジスタ84の閾値電圧Vth2と等しく設定されている。
【数12】
【0061】
電界効果トランジスタ83のゲート・ソース間電圧Vgs1は、電界効果トランジスタ83のドレイン電位及びソース電位のいずれか低い方の電圧を基準としている。ゲート・ソース間電圧Vgs1は、ゲート・ソース間電圧Vgs2、制御電流IDAC、及び抵抗素子81の抵抗値R1を用いて、式(13)で表される。
【数13】
【0062】
ここで、ゲート・ソース間電圧Vgs2と抵抗素子81における電圧降下との関係は、Vgs2>>IDAC×R1であるので、ゲート・ソース間電圧Vgs1は式(14)で表され得る。
【数14】
【0063】
式(14)に示されるように、電界効果トランジスタ83は、ゲート・ソース間電圧Vgs2でバイアスされているので、電界効果トランジスタ83のオン抵抗値Ronは、式(15)で表され得る。式(15)に示されるように、オン抵抗値Ronは、電源電圧VCC及びMOSパラメータ(移動度μ
n及び容量C
ox)に依存しない値となる。抵抗値Rsの温度係数は小さいので、オン抵抗値Ronは温度にほとんど依存しない。
【数15】
【0064】
次に、比較例の増幅回路と比較しながら、増幅回路15の作用効果を説明する。
図3は、比較例の増幅回路の回路構成を示す図である。
図3に示される増幅回路115は、差動回路53に代えて差動回路153を備える点、抵抗素子155をさらに備える点において、増幅回路15と主に相違する。
【0065】
差動回路153は、可変抵抗回路58に代えて可変抵抗回路158を備える点において、差動回路53と主に相違する。可変抵抗回路158は、直列に接続された抵抗素子81及び抵抗素子82に代えて1つの抵抗素子181を備える点、並びに電界効果トランジスタ83及び電界効果トランジスタ84に代えて電界効果トランジスタ183を備える点において、可変抵抗回路58と主に相違する。電界効果トランジスタ83と同様に、電界効果トランジスタ183のソースは、端子T1に電気的に接続されており、電界効果トランジスタ183のドレインは、端子T2に電気的に接続されている。
【0066】
増幅回路115では、制御用電流源55と抵抗素子155とが直列に接続されている。抵抗素子155の一端は、制御用電流源55の出力端子55a(
図2参照)に電気的に接続され、制御端子Tcを介して電界効果トランジスタ183のゲートに電気的に接続されている。抵抗素子155の他端は接地電位に接続されている。抵抗素子155は、抵抗値Rrefを有する。増幅回路115では、制御電流IDACが抵抗素子155に流れることで、電界効果トランジスタ183のゲートには、IDAC×Rrefの電位が生じる。つまり、制御信号Cntlにより制御電流IDACの大きさを変えることで、電界効果トランジスタ183のゲート電位が調整される。
【0067】
電界効果トランジスタ183のソース電位Vs11及びドレイン電位Vd11は、トランジスタ31のベース・エミッタ間電圧Vbe_Q1とトランジスタ56のベース・エミッタ間電圧Vbe_Q3とを用いて、式(16)で表される。なお、トランジスタ41のベース・エミッタ間電圧Vbe_Q2は、ベース・エミッタ間電圧Vbe_Q1と等しく、トランジスタ57のベース・エミッタ間電圧Vbe_Q4は、ベース・エミッタ間電圧Vbe_Q3と等しい。
【数16】
【0068】
従って、電界効果トランジスタ183のゲート・ソース間電圧Vgs11は、式(17)で表される。式(17)に示されるように、ゲート・ソース間電圧Vgs11は、ベース・エミッタ間電圧Vbe_Q1及びベース・エミッタ間電圧Vbe_Q3によって定まる。ベース・エミッタ間電圧Vbe_Q1、ベース・エミッタ間電圧Vbe_Q2、ベース・エミッタ間電圧Vbe_Q3、及びベース・エミッタ間電圧Vbe_Q4は温度に依存するので、ゲート・ソース間電圧Vgs11(ソース電位Vs11及びドレイン電位Vd11)は温度に依存することになる。
【数17】
【0069】
ゲート・ソース間電圧Vgs11の温度依存性だけでなく電界効果トランジスタ183自体の温度依存性に起因して、電界効果トランジスタ183のオン抵抗値は温度によって変動する。これにより、増幅回路115の(低周波)利得及び周波数特性が温度によって変動する。例えば、電界効果トランジスタ183の制御がフィードバック制御でない場合には、温度による特性変動は補償されないので、伝送特性の劣化等の問題が生じる場合がある。
【0070】
一方、増幅回路15では、差動回路53が備えるトランジスタ56のベース及びトランジスタ57のベースが差動入力信号(入力信号Vinp,Vinn)を受け、トランジスタ56のコレクタ及びトランジスタ57のコレクタが差動電流信号(電流信号Ic1,Ic2)を出力し、負荷回路54が差動電流信号を差動出力信号(出力信号Voutp,Voutn)に変換する。トランジスタ56のエミッタ電位とトランジスタ57のエミッタ電位とは、互いに反転した関係にあり、差動入力信号に応じて変動する。トランジスタ56のエミッタとトランジスタ57のエミッタとの間に互いに同じ抵抗値を有する抵抗素子81及び抵抗素子82が直列に接続されているので、抵抗素子81と抵抗素子82との接続点Pの電位は、トランジスタ56のエミッタ電位とトランジスタ57のエミッタ電位との中間電圧(平均電位)となり得る。
【0071】
電界効果トランジスタ83のソース及びドレインがトランジスタ56のエミッタ及びトランジスタ57のエミッタにそれぞれ電気的に接続され、電界効果トランジスタ84のソースが接続点Pに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ83のゲートと、電界効果トランジスタ84のゲート及びドレインとが、制御電流IDACを受ける制御端子Tcに共通に接続されている。つまり、電界効果トランジスタ84は、電界効果トランジスタ83のゲートと接続点Pとの間にダイオード接続されている。この構成によって、式(13),(14)に示されるように、電界効果トランジスタ83のゲート・ソース間電圧Vgs1は、電界効果トランジスタ84のゲート・ソース間電圧Vgs2と略等しくなる。言い換えると、電界効果トランジスタ83のゲートに与えられる基準電圧が電界効果トランジスタ83のドレイン電位とソース電位との中点となるので、ゲート・ソース間電圧Vgs1の温度依存性を低減することが可能となる。
【0072】
また、式(15)に示されるように、電界効果トランジスタ83のオン抵抗値Ronは、ゲート・ソース間電圧Vgs1から閾値電圧Vth1を減算した値、移動度μn、及び容量Cox等によって定まる。これらの値は温度依存性を有するが、所定のオン抵抗値Ronが得られるように制御電流IDACを設定したときに、電界効果トランジスタ84のトランスコンダクタンスGm2が一定となるように制御電流IDACが供給されるので、ゲート・ソース間電圧Vgs1から閾値電圧Vth1を減算した値、移動度μn、及び容量Cox等の積が温度によらず略一定となる。以上のことから、電界効果トランジスタ83のオン抵抗値Ronの温度依存性が低減される。その結果、増幅回路15の利得の温度依存性を低減することが可能となる。
【0073】
可変抵抗回路58は、端子T1と端子T2との間に接続されたキャパシタ85を備えている。このため、差動入力信号の周波数が高周波数である場合に、可変抵抗回路58の抵抗値が低下するので、増幅回路15の利得を増加させることができる。これにより、増幅回路15の周波数特性を補償することが可能となる。
【0074】
図4は、利得の温度特性を示す図である。
図4の横軸は温度を示し、
図4の縦軸は増幅回路の利得を示す。グラフG1は、増幅回路15の利得の温度特性を示す。グラフG2は、増幅回路115の利得の温度特性を示す。ここで、利得は、(Voutp-Voutn)/(Vinp-Vinn)を意味する。なお、負荷抵抗素子59及び負荷抵抗素子60の抵抗値を80Ωとし、電流I1及び電流I2を4mAとし、電源電圧VCCを2.5Vとした。ゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2を1V程度とし、閾値電圧Vth1,Vth2を640mV程度とした。制御電流IDACの最大値を200μA(電流I1+電流I2の1/40)程度とした。抵抗素子81の抵抗値R1及び抵抗素子82の抵抗値R2を37.5Ωとし、抵抗素子181の抵抗値を75Ωとした。オン抵抗値Ronは制御電流IDACが53μAで200Ωとなるように設定した。抵抗素子155の抵抗値Rrefは、制御電流IDACが18μAで100KΩとなるように設定した。
図4に示されるように、増幅回路115の利得は、温度が高くなるにつれて低下するが、増幅回路15の利得は、温度の変動によらず略一定であることが確認できる。
【0075】
なお、本発明に係る増幅回路は上記実施形態に限定されない。
【0076】
例えば、増幅回路15は、光送信装置1に限られず、光受信装置にも適用され得る。
【0077】
また、可変抵抗回路58は、キャパシタ85を備えていなくてもよい。
【0078】
電界効果トランジスタ83、電界効果トランジスタ84、トランジスタ91、及びトランジスタ92のそれぞれは、互いに同じ電子の移動度μnと、互いに同じ容量Coxとを有する。このため、電界効果トランジスタ83、電界効果トランジスタ84、トランジスタ91、及びトランジスタ92は、同一の半導体チップ上に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0079】
15…増幅回路、51…電流源(第1電流源)、52…電流源(第2電流源)、53…差動回路、54…負荷回路、55…制御用電流源、56…トランジスタ(第1トランジスタ)、57…トランジスタ(第2トランジスタ)、58…可変抵抗回路、59…負荷抵抗素子、60…負荷抵抗素子、81…抵抗素子(第1抵抗素子)、82…抵抗素子(第2抵抗素子)、83…電界効果トランジスタ(第1電界効果トランジスタ)、84…電界効果トランジスタ(第2電界効果トランジスタ)、85…キャパシタ、91…トランジスタ(第3電界効果トランジスタ)、92…トランジスタ(第4電界効果トランジスタ)、93,94…トランジスタ(カレントミラー回路)、95…抵抗素子(第3抵抗素子)、Cntl…制御信号、I1…電流(第1電流)、I2…電流(第2電流)、Ic1,Ic2…電流信号(差動電流信号)、IDAC…制御電流、Iout1…安定化電流(入力電流)、Iref…参照電流(出力電流)、P…接続点、R1…抵抗値、R2…抵抗値、T1…端子(第1端子)、T2…端子(第2端子)、Tc…制御端子、Vinp,Vinn…入力信号(差動入力信号)、Voutp,Voutn…出力信号(差動出力信号)。