(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】走行制御装置
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20230523BHJP
【FI】
G05D1/02 L
(21)【出願番号】P 2019006120
(22)【出願日】2019-01-17
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐太
(72)【発明者】
【氏名】中田 翔
(72)【発明者】
【氏名】開田 宏介
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-211825(JP,A)
【文献】特開2009-217456(JP,A)
【文献】実開平5-17703(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を走行経路に沿って
目的地点まで自動的に走行させる走行制御装置において、
前記移動体の位置を推定する位置推定ユニットと、
前記位置推定ユニットにより推定された前記移動体の位置に基づいて、前記移動体を前記走行経路に沿って走行させるように前記移動体の駆動部を制御する制御部と
、
前記位置推定ユニットにより推定された前記移動体の位置に基づいて、前記移動体が位置の推定精度が要求される予め指定された精度必要場所を走行するかどうかを判断する判断部とを備え、
前記位置推定ユニットは、
前記移動体の周囲にレーザを照射し、レーザの反射光を受光することにより、前記移動体の周囲の物体との距離を検出する
レーザセンサと、
前記
レーザセンサの検出データに基づいて、前記移動体の位置の推定演算を行う推定演算部とを有し、
前記精度必要場所は、前記目的地点の手前の場所または前記移動体を停止させる必要がある場所であり、
前記移動体が前記精度必要場所を走行するときは、前記移動体が前記精度必要場所以外の場所を走行するときに比べて、
前記走行経路に沿った前記移動体の近くに前記
レーザセンサから照射させるレーザを反射させる静止物体である特徴物が存在しており、
前記推定演算部は、前記判断部により前記移動体が前記精度必要場所を走行すると判断したときは、前記判断部により前記移動体が前記精度必要場所以外の場所を走行すると判断したときに比べて、前記特徴物が前記
レーザセンサの検出データの使用距離範囲内に配置されるように前記使用距離範囲を短くして、前記移動体の位置の推定演算を行う走行制御装置。
【請求項2】
前記移動体は、荷役作業を行う荷役装置を有し、
前記精度必要場所は、前記荷役装置により荷役が行われる荷役ステーションの手前である請求項1記載の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の走行制御装置としては、例えば特許文献1に記載されているような技術が知られている。特許文献1に記載の走行制御装置は、レーザを発射し、その反射光を検知して物体までの距離を測定するレーザ距離センサと、無人搬送車が走行する走行エリアの番地と走行エリアに設定されている座標との対応情報を格納するデータメモリと、レーザ距離センサからの計測データと地図データとをマッチングさせて無人搬送車の現在位置を推定し、その推定結果に基づいて無人搬送車を経路データに従って走行させる処理部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のように、レーザを使用して移動体の位置を推定する場合、位置推定精度は、レーザ距離センサの検出距離性能に依存する。このため、移動体が走行する周囲環境によっては、移動体の位置の推定精度が低下してしまう。具体的には、レーザを反射させる物体が移動体から遠い位置に存在する場合には、物体が移動体に近い位置に存在する場合に比べて、移動体の位置の推定精度が低くなる。
【0005】
本発明の目的は、移動体の位置の推定精度が要求される場所において、移動体の位置の推定精度を向上させることができる走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、移動体を走行経路に沿って自動的に走行させる走行制御装置において、移動体の位置を推定する位置推定ユニットと、位置推定ユニットにより推定された移動体の位置に基づいて、移動体を走行経路に沿って走行させるように移動体の駆動部を制御する制御部とを備え、位置推定ユニットは、移動体の周囲にレーザを照射し、レーザの反射光を受光することにより、移動体の周囲の物体との距離を検出する距離検出部と、距離検出部の検出データに基づいて、移動体の位置の推定演算を行う推定演算部とを有し、推定演算部は、移動体の走行場所に応じて距離検出部の検出データの使用距離範囲を変更して、移動体の位置の推定演算を行う。
【0007】
このような走行制御装置においては、距離検出部によって、移動体の周囲にレーザを照射することで、移動体の周囲の物体との距離が検出され、推定演算部によって、距離検出部の検出データに基づいて移動体の位置の推定演算が行われる。推定演算部では、移動体の走行場所に応じて距離検出部の検出データの使用距離範囲を変更して、移動体の位置の推定演算が行われる。ここで、位置の推定精度が要求される場所には、レーザを反射させる物体が存在する。そして、移動体が位置の推定精度が要求される場所を走行するときは、距離検出部の検出データの使用距離範囲を短くすることにより、移動体の位置の推定精度が要求される場所では、移動体の近くに位置する特徴物により位置の推定が行われるため、移動体の位置の推定精度を向上させることができる。
【0008】
走行制御装置は、位置推定ユニットにより推定された移動体の位置に基づいて、移動体が位置の推定精度が要求される精度必要場所を走行するかどうかを判断する判断部を更に備え、推定演算部は、判断部により移動体が精度必要場所を走行すると判断したときは、判断部により移動体が精度必要場所以外の場所を走行すると判断したときに比べて、距離検出部の検出データの使用距離範囲を短くして、移動体の位置の推定演算を行ってもよい。このような構成では、移動体が精度必要場所を走行するときは、距離検出部の検出データの使用距離範囲が短くなるため、移動体の位置の推定精度が向上する。
【0009】
移動体は、荷役作業を行う荷役装置を有し、精度必要場所は、荷役装置により荷役が行われる荷役ステーションの手前であってもよい。このような構成では、荷役装置により荷役が行われる荷役ステーションの手前では、移動体の位置の推定精度が高くなるため、移動体を荷役ステーションに精度良く停止させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、移動体の位置の推定精度が要求される場所において、移動体の位置の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る走行制御装置を備えた走行制御システムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1に示された走行制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示されたSLAMコントローラにより実行される演算処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【
図4】
図2に示されたSLAMコントローラにおいて設定されるレーザセンサの検出データの通常距離範囲及び短距離範囲を示す概念図である。
【
図5】
図2に示された使用距離変更判断部により実行される判断処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【
図6】
図2に示された駆動制御部により実行される制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る走行制御装置を備えた走行制御システムを示す概略構成図である。
図1において、走行制御システム1は、移動体2をスタート地点3Aから目的地点3Bまで無人で走行させるシステムである。
【0014】
移動体2は、例えばバッテリー式のフォークリフトである。移動体2の前部には、荷役作業を行う荷役装置2aが具備されている。なお、移動体2の進行方向としては、前進でもよいし、後進でもよい。
【0015】
走行制御システム1は、移動体2をスタート地点3Aから目的地点3Bまでの走行経路である仮想ガイド線3に沿って自動的に走行させる走行制御装置4と、移動体2が走行を行うための走行指示データを関連付けた磁気マーク5とを具備している。
【0016】
仮想ガイド線3は、データ上で仮想的に設定された走行経路である。なお、
図1では、仮想ガイド線3は、直線経路となっているが、曲線経路であってもよい。スタート地点3A及び目的地点3Bを含む仮想ガイド線3の位置は、2次元座標(XY座標)で表されている。ここでは、スタート地点3Aの2次元座標は、(0,0)である。目的地点3Bの2次元座標は、(100,0)である。磁気マーク5は、床面に設置されている。磁気マーク5は、床面における仮想ガイド線3の脇に相当する位置に埋設されている。
【0017】
図2は、走行制御装置4の構成を示すブロック図である。
図2において、本実施形態の走行制御装置4は、移動体2に搭載されている。走行制御装置4は、位置推定ユニット6と、磁気マークセンサ7と、自動走行制御ユニット8とを備えている。
【0018】
位置推定ユニット6は、移動体2の位置を推定する。位置推定ユニット6は、例えばSLAM(simultaneous localization and mapping)手法を用いて、移動体2の自己位置を推定する。SLAMは、センサデータ及び地図データを使って自己位置推定を行う自己位置推定技術である。SLAMは、レーザレンジスキャナー等を利用して、自己位置推定と環境地図の作成とを同時に行う。位置推定ユニット6は、レーザセンサ9と、SLAMコントローラ10とを有している。
【0019】
レーザセンサ9は、移動体2の周囲にレーザを照射し、レーザの反射光を受光することにより、移動体2の周囲の物体との距離を検出する距離検出部である。レーザセンサ9としては、例えばレーザレンジファインダが用いられる。使用するレーザとしては、2Dレーザでもよいし、3Dレーザでもよい。
【0020】
レーザセンサ9は、レーザを扇状に照射する(
図4参照)。具体的には、レーザセンサ9は、移動体2の真後ろの方向を中心した所定の角度範囲(ここでは270度)にレーザを照射する。レーザセンサ9から照射されたレーザは静止物体に当たり、その静止物体で反射したレーザ光(反射光)がレーザセンサ9で受光される。静止物体は、壁や柱等である。ここでは、レーザセンサ9により検出されて自己位置推定に使用される静止物体を特徴物30(
図4参照)とする。
【0021】
SLAMコントローラ10は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。SLAMコントローラ10は、レーザセンサ9の検出データに基づいて、移動体2の位置の推定演算を行う推定演算部である。移動体2の位置は、2次元座標(XY座標)及び向きで表される。
【0022】
SLAMコントローラ10は、レーザセンサ9により検出された特徴物30までの距離データと移動体2の周囲環境の地図データとをマッチングさせて、移動体2の位置の推定演算を行う。このとき、SLAMコントローラ10は、移動体2の走行場所に応じてレーザセンサ9の検出データの使用距離範囲を変更して、移動体2の位置の推定演算を行う。
【0023】
ここで、目的地点3Bは、移動体2の荷役装置2aにより荷役が行われる荷役ステーションである。荷役ステーションは、フォークリフトに荷物を積んだり、フォークリフトに積まれた荷物を置いたりする場所であり、例えば棚などである。また、荷役ステーションでは、棚の柱などの特徴物がフォークリフト付近に存在した状態となる。
【0024】
図3は、SLAMコントローラ10により実行される演算処理手順の詳細を示すフローチャートである。本処理は、スタート地点3Aから目的地点3Bに向けての移動体2の走行が開始されると、実行される。
【0025】
図3において、SLAMコントローラ10は、まずレーザセンサ9の検出データを取得する(手順S101)。続いて、SLAMコントローラ10は、自動走行制御ユニット8からの短距離使用指示信号(後述)が入力されたかどうかを判断する(手順S102)。
【0026】
SLAMコントローラ10は、自動走行制御ユニット8からの短距離使用指示信号が入力されていないと判断したときは、レーザセンサ9の検出データの距離範囲として通常距離範囲Pを使用して、移動体2の位置の推定演算を行う(手順S103)。具体的には、SLAMコントローラ10は、レーザセンサ9の検出データの通常距離範囲Pにおける移動体2の周囲の特徴物30までの距離データと移動体2の周囲環境の地図データとをマッチングさせて、移動体2の位置の推定演算を行う。これにより、移動体2の推定位置が得られる。
【0027】
通常距離範囲Pは、
図4(a)に示されるように、移動体2が位置の推定精度が要求される精度必要場所以外の場所を走行するときに、移動体2の位置の推定演算に使用されるレーザセンサ9の検出データの距離範囲である。精度必要場所は、ここでは荷役ステーションである目的地点3Bの手前である。レーザセンサ9から照射されたレーザは、通常距離範囲P内に配置された特徴物30に当たって反射する。
【0028】
通常距離範囲Pは、予め設定されている。通常距離範囲Pは、例えばレーザセンサ9からのレーザの照射範囲と一致している。言い換えると、通常距離範囲Pは、レーザセンサ9の検出データの全範囲である。なお、通常距離範囲Pは、レーザセンサ9からのレーザの照射範囲と一致していなくてもよい。
【0029】
SLAMコントローラ10は、手順S102で自動走行制御ユニット8からの短距離使用指示信号が入力されたと判断したときは、レーザセンサ9の検出データの距離範囲として短距離範囲Qを使用して、移動体2の位置の推定演算を行う(手順S104)。具体的には、SLAMコントローラ10は、レーザセンサ9の検出データの短距離範囲Qにおける移動体2の周囲の特徴物30までの距離データと移動体2の周囲環境の地図データとをマッチングさせて、移動体2の位置の推定演算を行う。これにより、移動体2の推定位置が得られる。
【0030】
短距離範囲Qは、
図4(b)に示されるように、移動体2が位置の推定精度が要求される精度必要場所を走行するとき、つまり移動体2が目的地点3Bの手前の場所を走行するときに、移動体2の位置の推定演算に使用されるレーザセンサ9の検出データの距離範囲である。短距離範囲Qは、通常距離範囲Pよりも短い距離範囲となるように設定されている。短距離範囲Qは、例えば通常距離範囲Pの半分以下の距離範囲である。レーザセンサ9から照射されたレーザは、短距離範囲Q内に配置された特徴物30に当たって反射する。
【0031】
SLAMコントローラ10は、手順S103または手順S104が実行された後、移動体2の推定位置を自動走行制御ユニット8に出力し(手順S105)、手順S101を再び実行する。
【0032】
図2に戻り、磁気マークセンサ7は、移動体2の下部に取り付けられている。磁気マークセンサ7は、磁気マーク5を検出する。
【0033】
自動走行制御ユニット8は、位置推定ユニット6により推定された移動体2の位置に基づいて、所定の処理を行い、移動体2をスタート地点3Aから目的地点3Bまで自動的に走行させるように走行モータ11及び操舵モータ12を制御する。
【0034】
走行モータ11は、走行輪(図示せず)を回転駆動させるモータである。操舵モータ12は、操舵輪(図示せず)を回転駆動させるモータである。走行モータ11及び操舵モータ12は、移動体2の駆動部を構成している。
【0035】
自動走行制御ユニット8は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。自動走行制御ユニット8は、記憶部13と、ずれ量算出部14と、使用距離変更判断部15と、駆動制御部16とを有している。
【0036】
記憶部13は、仮想ガイド線3及び磁気マーク5の位置と走行指示データ等といった移動体2の走行に関する情報を記憶する。仮想ガイド線3及び磁気マーク5の位置は、2次元座標として記憶されている。走行指示データは、上述したように各磁気マーク5に関連付けられている。走行指示データとしては、例えば加速指示、停止指示、右折指示及び左折指示等がある。
【0037】
ずれ量算出部14は、記憶部13に記憶された仮想ガイド線3の位置と位置推定ユニット6により推定された移動体2の位置とに基づいて、仮想ガイド線3と移動体2とのずれ量を算出する。このとき、ずれ量算出部14は、仮想ガイド線3の位置座標と移動体2の位置座標とのずれ量と、仮想ガイド線3の向きと移動体2の向きとのずれ量とを算出する。
【0038】
使用距離変更判断部15は、位置推定ユニット6により推定された移動体2の位置に基づいて、移動体2が位置の推定精度が要求される精度必要場所を走行するかどうかを判断する判断部である。使用距離変更判断部15は、移動体2が精度必要場所を走行すると判断したときに、短距離使用指示信号をSLAMコントローラ10に出力する。短距離使用指示信号は、SLAMコントローラ10において、レーザセンサ9の検出データの距離範囲として短距離範囲Qを移動体2の位置の推定演算に使用させるための指示信号である。使用距離変更判断部15の具体的な処理については、後で詳述する。
【0039】
駆動制御部16は、ずれ量算出部14により算出された仮想ガイド線3と移動体2とのずれ量に基づいて、移動体2を仮想ガイド線3に沿って走行させるように走行モータ11及び操舵モータ12を制御する。また、駆動制御部16は、磁気マークセンサ7により磁気マーク5が検出されたときに、その磁気マーク5に関連付けられた走行指示データに従って移動体2を走行させるように走行モータ11及び操舵モータ12を制御する。駆動制御部16の具体的な処理については、後で詳述する。
【0040】
以上において、ずれ量算出部14及び駆動制御部16は、位置推定ユニット6により推定された移動体2の位置に基づいて、移動体2を仮想ガイド線3に沿って走行させるように走行モータ11及び操舵モータ12を制御する制御部を構成する。
【0041】
図5は、使用距離変更判断部15により実行される判断処理手順の詳細を示すフローチャートである。本処理も、SLAMコントローラ10による演算処理と同様に、スタート地点3Aから目的地点3Bに向けての移動体2の走行が開始されると、実行される。
【0042】
図5において、使用距離変更判断部15は、まずSLAMコントローラ10により得られた移動体2の推定位置を取得する(手順S111)。そして、使用距離変更判断部15は、移動体2が位置の推定精度が要求される精度必要場所を走行するかどうかを判断する(手順S112)。
【0043】
使用距離変更判断部15は、移動体2が精度必要場所を走行しないと判断したとき、つまり移動体2が精度必要場所以外の場所を走行すると判断したときは、手順S111を再び実行する。使用距離変更判断部15は、移動体2が精度必要場所を走行すると判断したときは、短距離使用指示信号をSLAMコントローラ10に出力し(手順S113)、手順S111を再び実行する。
【0044】
図6は、駆動制御部16により実行される制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。本処理も、SLAMコントローラ10による演算処理と同様に、スタート地点3Aから目的地点3Bに向けての移動体2の走行が開始されると、実行される。
【0045】
図6において、駆動制御部16は、まず磁気マークセンサ7により磁気マーク5が検出されたかどうかを判断する(手順S121)。駆動制御部16は、磁気マーク5が検出されたと判断したときは、その磁気マーク5の番号に対応した走行指示データを記憶部13から取得する(手順S122)。
【0046】
このとき、磁気マークセンサ7によりスタート地点3Aから1つ目(1番)の磁気マーク5が検出された場合は、1番の磁気マーク5に紐づけられた走行指示データが取得される。磁気マークセンサ7によりスタート地点3Aから2つ目(2番)の磁気マーク5が検出された場合は、2番の磁気マーク5に紐づけられた走行指示データが取得される。
【0047】
そして、駆動制御部16は、取得した走行指示データに応じた制御信号を走行モータ11及び操舵モータ12に出力する(手順S123)。駆動制御部16は、例えば取得した走行指示データが加速指示である場合には、走行モータ11の回転速度を高くするような制御信号を走行モータ11に出力する。これにより、移動体2の速度が上昇するようになる。
【0048】
駆動制御部16は、手順S123が実行された後、または手順S121で磁気マーク5が検出されていないと判断したときは、ずれ量算出部14により算出された仮想ガイド線3と移動体2とのずれ量を取得する(手順S124)。そして、駆動制御部16は、仮想ガイド線3と移動体2とのずれ量が0となるような制御信号を走行モータ11及び操舵モータ12に出力する(手順S125)。これにより、移動体2の位置座標及び向きが仮想ガイド線3に近づくようになる。
【0049】
続いて、駆動制御部16は、移動体2が目的地点3Bに達したかどうかを判断する(手順S126)。駆動制御部16は、移動体2が目的地点3Bに達していないと判断したときは、手順S121を再び実行する。駆動制御部16は、移動体2が目的地点3Bに達したと判断したときは、本処理を終了する。
【0050】
以上のように構成された走行制御システム1において、移動体2の走行時、レーザセンサ9によって、移動体2の周囲にレーザを照射することで、移動体2の周囲の特徴物30までの距離が検出され、SLAMコントローラ10によって、レーザセンサ9の検出データに基づいて移動体2の位置の推定演算が行われる。
【0051】
このとき、移動体2が目的地点3Bの手前の場所に到達する前は、
図4(a)に示されるように、レーザセンサ9の検出データの距離範囲として通常距離範囲Pを使用して、移動体2の位置の推定演算が行われる。このため、移動体2から遠く離れた特徴物30も、レーザセンサ9から照射されたレーザに容易に捉えられ、移動体2の位置の推定演算に利用可能となる。これにより、特徴物30の数が少なくて済むため、特徴物30の確保を容易に行うことができる。
【0052】
移動体2が目的地点3Bの手前の場所に到達すると、自動走行制御ユニット8の使用距離変更判断部15からSLAMコントローラ10に短距離使用指示信号が送られる。すると、SLAMコントローラ10では、
図4(b)に示されるように、レーザセンサ9の検出データの距離範囲として短距離範囲Qを使用して、移動体2の位置の推定演算が行われる。従って、移動体2に近い特徴物30が移動体2の位置の推定演算に利用されることになるため、移動体2の位置の推定演算の精度が高くなる。
【0053】
以上のように本実施形態にあっては、移動体2の走行場所に応じてレーザセンサ9の検出データの使用距離範囲を変更して、移動体2の位置の推定演算が行われる。ここで、位置の推定精度が要求される精度必要場所には、棚の柱や壁などレーザを反射させる特徴物30が存在する。そして、移動体2が精度必要場所を走行するときは、レーザセンサ9の検出データの使用距離範囲を短くすることにより、移動体2の位置の推定精度が要求される場所では、移動体2の近くに位置する特徴物30により位置の推定が行われるため、移動体2の位置の推定精度を向上させることができる。
【0054】
また、レーザセンサ9の検出データの使用距離範囲を短くすることにより、移動体2から離れた場所に存在する特徴物30以外の物、例えば人やフォークリフト等を検出しなくなるため、自己位置推定に対する外乱となり得る要素を減らすことができ、移動体2の位置の推定精度の向上に貢献する。
【0055】
また、本実施形態では、移動体2が精度必要場所を走行すると判断されたときは、移動体2が精度必要場所以外の場所を走行すると判断されたときに比べて、レーザセンサ9の検出データの使用距離範囲を短くして、移動体2の位置の推定演算が行われる。従って、移動体2が精度必要場所を走行するときは、レーザセンサ9の検出データの使用距離範囲が短くなるため、移動体2の位置の推定精度が向上する。
【0056】
また、本実施形態では、荷役装置2aにより荷役が行われる荷役ステーションである目的地点3Bの手前では、移動体2の位置の推定精度が高くなるため、移動体2を目的地点3Bに精度良く停止させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、精度必要場所以外を移動体2が走行する際には、位置推定精度を保つための特徴物30を移動体2の走行経路の付近に置く必要がなく、特徴物30の数を減らすことができる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、自動走行制御ユニット8において、移動体2が位置の推定精度が要求される精度必要場所を走行するかどうかを判断しているが、特にその形態には限られず、移動体2が精度必要場所を走行するかどうかの判断をSLAMコントローラ10により行ってもよく、或いは上位システム等により行ってもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、荷役ステーションは棚等であるが、荷役ステーションの場所としては、フォークリフトが荷物を移載する場所であれば特に限定されない。また、特徴物30としては、特に棚の柱や壁でなくても、位置推定用に予め設けた静止物体等であってもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、位置の推定精度が要求される精度必要場所は、荷役装置2aにより荷役が行われる荷役ステーションである目的地点3Bの手前であるが、それ以外にも、例えば移動体2を停止させる必要がある交差点等であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、データ上で仮想的に設定された仮想ガイド線3に沿って移動体2を走行させているが、荷役の際には、例えば床面に物理的に検出可能に設置された磁気ガイド線に沿って移動体2を走行させるシステムであってもよい。この場合には、位置の推定精度が要求される精度必要場所として、例えば荷役ステーションの手前の仮想ガイド線から磁気ガイド線に切り替わる場所において、磁気ガイド線を精度良く検出するためにレーザセンサ9の検出データの使用距離範囲を短くして、移動体2の位置の推定演算を行う。
【0062】
また、上記実施形態では、位置推定ユニット6は、自己位置推定技術としてレーザを利用したSLAM手法を用いて移動体2の位置を推定しているが、本発明は、特にSLAM手法には限られず、レーザを使用して距離を検出するセンサの検出データに基づいて、移動体2の位置を推定する手法であれば、適用可能である。
【0063】
また、上記実施形態の走行制御装置は、移動体2としてフォークリフトを走行経路に沿って自動的に走行させる装置であるが、本発明は、例えば搬送台車等のような自動走行可能な移動体全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
2…移動体、2a…荷役装置、3…仮想ガイド線(走行経路)、3B…目的地点(荷役ステーション)、4…走行制御装置、6…位置推定ユニット、9…レーザセンサ(距離検出部)、10…SLAMコントローラ(推定演算部)、11…走行モータ(駆動部)、12…操舵モータ(駆動部)、14…ずれ量算出部(制御部)、15…使用距離変更判断部(判断部)、16…駆動制御部(制御部)、30…特徴物(物体)、P…通常距離範囲、Q…短距離範囲。