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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】検査装置及び検査用学習モデル生成装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230523BHJP
   G01H 1/00 20060101ALI20230523BHJP
   G01H 3/04 20060101ALI20230523BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H1/00 Z
G01H3/04
B62D5/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019018311
(22)【出願日】2019-02-04
(65)【公開番号】P2020125971
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加納 正晃
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-108806(JP,A)
【文献】特開2018-049355(JP,A)
【文献】特開2018-147172(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168873(WO,A1)
【文献】特開2017-122665(JP,A)
【文献】特開2018-036269(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150616(WO,A1)
【文献】特開平11-212637(JP,A)
【文献】特開昭59-109831(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0241422(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108205016(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
B62D 5/00- 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動ステアリング装置の構成部品である電動モータまたは減速機を検査対象物として、前記検査対象物の振動を検出可能な振動センサの出力信号、または、前記検査対象物の振動に起因して発生する音を検出可能な音センサの出力信号である時系列の第一次データを記憶する第一次データ記憶部と、
前記第一次データを短時間フーリエ変換することにより、第一周波数成分と時間成分と振幅成分とを含むスペクトログラムである第二次データを生成する第二次データ生成部と、
前記第二次データにおいて前記第一周波数成分毎の時間-振幅データをそれぞれフーリエ変換することにより、画像データであって前記第一周波数成分および第二周波数成分の二次元座標系で表され前記振幅成分を各画素のデータとする第三次データを生成する第三次データ生成部と、
入力層、中間層および出力層を含むオートエンコーダであって、前記検査対象物の基準状態に応じた基準の前記第一次データに基づいて生成された基準の前記第三次データを前記入力層および前記出力層とした場合に得られる学習モデルであって、前記第三次データを入力データとした場合に第四次データを出力データとする学習モデルであって、前記検査対象物の状態の判定に用いる前記学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を備え
前記第三次データは、時間成分を含まないデータであり、
前記学習モデルにおける前記中間層は、時間成分を含まない特徴量を抽出するように構成される、検査用学習モデル生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査用学習モデル生成装置と、
推論フェーズにおける前記第三次データに基づいて、前記検査対象物の状態を判定する判定部と、を備え
前記判定部は、
前記推論フェーズにおける前記第一次データに基づいて生成された前記画像データとしての前記第三次データを前記学習モデルの前記入力層に入力することにより、前記学習モデルの前記出力層の画像データである前記第四次データを生成する第四次データ生成部と、
前記推論フェーズにおける前記第三次データと前記第四次データとの比較結果に基づいて、前記検査対象物の状態の前記基準状態に対する相違を判定する状態判定部と、
を備える、検査装置。
【請求項3】
前記判定部は、さらに、
前記第一周波数成分および第二周波数成分の二次元座標系において、前記第三次データの各座標の前記振幅成分の値と前記第四次データの各座標の前記振幅成分の値との差分を演算することにより得られた差分値を、前記二次元座標系における各座標に示した第五次データを生成する第五次データ生成部と、
前記第五次データの各座標の値に基づいて評価値を生成する評価値生成部と、
を備え、
前記状態判定部は、前記評価値が予め設定された閾値以下であった場合に、前記検査対象物の状態が前記基準状態から所定の範囲内に含まれていると判定する、請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記判定部は、さらに、前記第五次データに対してローパスフィルタによる処理を行うことにより第六次データを生成するフィルタ処理部を備え、
前記評価値生成部は、前記第六次データの各座標の値に基づいて前記評価値を生成する、請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記判定部は、さらに、前記第六次データに対して正値化処理を行うことにより第七次データを生成する正値化処理部を備え、
前記評価値生成部は、前記第七次データの各座標の値に基づいて前記評価値を生成する、請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記評価値生成部は、対象データの各座標の値の総和である、請求項3-5の何れか1項に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置及び検査用学習モデル生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動パワーステアリング装置(電動ステアリング装置)の検査において、電動パワーステアリング装置にマイク(音センサ)又は加速度センサを取り付け、電動パワーステアリング装置の構成部品から発生する異音を、マイク又は加速度センサによって検出する技術が開示されている。特許文献2には、ステアリングシステム(電動ステアリング装置)の評価装置(検査装置)において、車両を走行させた際にステアリングシステムから発生する異音(ラトル音)をマイクロホンによって検出する技術が開示されている。また、特許文献2には、マイクロホンが検出した音声信号のスペクトログラムデータで示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-153729号公報
【文献】特開2018-36269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加速度センサや音センサから得られる検出信号は、時系列データである。時系列データにおいて、異音が発生するタイミングが一様でないため、得られる検出信号を用いた検査に必要となる特徴量の現れるタイミングもランダムなものになる。一方、電動ステアリング装置の検査において、異音が発生するタイミングの相違は、検査対象に潜む異常の有無自体に影響を及ぼすものではない。しかし、時系列データを用いて検査装置で検査を行う場合、異音が発生するタイミングのランダム性が、検査結果に悪影響を与えるおそれがある。
【0005】
例えば、得られた検出信号をそのまま用いた学習データで、機械学習のアルゴリズムにより検査用学習モデルを生成した場合に、生成される検査用学習モデルは、特徴量の現れる時間成分のランダム性の影響を受けるため、良い学習ができない。その結果、当該検査用学習モデルを用いて検査を行ったとしても、十分な検査精度が得られない。
【0006】
本発明は、時系列データを用いた検査を行うにあたり、時間成分の相違による影響を排除した検査結果を得られる検査装置及び検査用学習モデル生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、電動ステアリング装置の構成部品である電動モータまたは減速機を検査対象物として、前記検査対象物の振動を検出可能な振動センサの出力信号、または、前記検査対象物の振動に起因して発生する音を検出可能な音センサの出力信号である時系列の第一次データを記憶する第一次データ記憶部と、
前記第一次データを短時間フーリエ変換することにより、第一周波数成分と時間成分と振幅成分とを含むスペクトログラムである第二次データを生成する第二次データ生成部と、
前記第二次データにおいて前記第一周波数成分毎の時間-振幅データをそれぞれフーリエ変換することにより、画像データであって前記第一周波数成分および第二周波数成分の二次元座標系で表され前記振幅成分を各画素のデータとする第三次データを生成する第三次データ生成部と、
入力層、中間層および出力層を含むオートエンコーダであって、前記検査対象物の基準状態に応じた基準の前記第一次データに基づいて生成された基準の前記第三次データを前記入力層および前記出力層とした場合に得られる学習モデルであって、前記第三次データを入力データとした場合に第四次データを出力データとする学習モデルであって、前記検査対象物の状態の判定に用いる前記学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を備え
前記第三次データは、時間成分を含まないデータであり、
前記学習モデルにおける前記中間層は、時間成分を含まない特徴量を抽出するように構成される、検査用学習モデル生成装置にある。
【0008】
当該検査用学習モデル生成装置によれば、第二次データ生成部は、時系列の第一次データを、第一周波数成分と時間成分と振幅成分とを含むスペクトログラムである第二次データに変換する。また、第三次データ生成部は、第二次データを、第一周波数成分と第二周波数成分と振幅成分とを含む第三次データに変換する。そして、判定部は、第三次データに基づいて検査対象物の状態を判定する。
【0009】
つまり、第三次データは、第一次データから時間成分を排除したデータである。よって、検査用学習モデル生成装置により生成された学習モデルを用いることで、時系列データを用いた検査を行うにあたり、時間成分の相違による影響を排除した検査結果を得ることができる。
【0010】
本発明の他の態様は、上記の検査用学習モデル生成装置と、
推論フェーズにおける前記第三次データに基づいて、前記検査対象物の状態を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、
前記推論フェーズにおける前記第一次データに基づいて生成された前記画像データとしての前記第三次データを前記学習モデルの前記入力層に入力することにより、前記学習モデルの前記出力層の画像データである前記第四次データを生成する第四次データ生成部と、
前記推論フェーズにおける前記第三次データと前記第四次データとの比較結果に基づいて、前記検査対象物の状態の前記基準状態に対する相違を判定する状態判定部と、
を備える、検査装置にある。
当該検査装置によれば、上記検査用学習モデル生成装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】検査システムの構成を示す図である。
図2】検査装置の概略ブロック図である。
図3】検査装置のうち、学習フェーズとして機能する構成を示すブロック図である。
図4】時系列の第一次データである波形データの一例を示した図である。
図5】第二次データ生成部により第二次データが生成される過程を示す図である。
図6】第二次データであるスペクトログラムデータの一例を示した図である。
図7】時間-振幅データの一例を示した図である。
図8】第二周波数成分-振幅データの一例を示した図である。
図9】第三次データである画像データの一例を示した図である。
図10】学習モデルを模式的に表した図である。
図11】検査装置のうち、推論フェーズとして機能する構成を示すブロック図である。
図12】第三次データを二次元座標系で示した図である。
図13】第四次データを二次元座標系で示した図である。
図14】第五次データを二次元座標系で示した図である。
図15A】第五次データにおいて第一周波数成分が特定の値である振幅成分を第二周波数毎に示したグラフである。
図15B】第六次データにおいて第一周波数成分が特定の値である振幅成分を第二周波数毎に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.検査装置100の適用対象)
検査装置100は、所定の操作が行われることで動作する検査対象物を対象とし、検査対象物が動作しているときに得られた時系列データに基づき、検査対象物の状態を判定する。検査対象物は、例えば、電動ステアリング装置の構成部品等であり、検査装置100は、電動ステアリング装置の構成部品の検査に用いることができる。また、検査対象物の状態は、例えば、検査対象物の振動の程度等であり、検査装置100は、振動の程度を判定することにより、検査対象物に関する検査を行うことができる。さらに、時系列データは、例えば、検査対象物の状態を検出可能なセンサからの出力信号の挙動を示す波形データである。検査装置100は、時系列データを解析することにより、検査対象物の状態を判定することができる。
【0013】
本実施形態において、検査対象物は、コラムタイプの電動ステアリング装置の構成部品である。検査装置100は、電動ステアリング装置に対して所定の操作を行い、当該操作が行われることで動作する電動ステアリング装置の構成部品から発生する振動の程度に基づき、電動ステアリング装置が良品であるか否かを判定する。具体的に、検査装置100は、良品である電動ステアリング装置を、基準状態の電動ステアリング装置とし、良品である電動ステアリング装置から得られる時系列データを基準の時系列データとする。そして、検査装置100は、電動ステアリング装置から得られた時系列データと基準の時系列データとを比較したときの相違量に基づき、電動ステアリング装置が良品であるか否かを判定する。
【0014】
なお、本実施形態において、検査装置100は、検査対象物が良品であるか否かの検査に用いる場合を例に挙げて説明するが、これに限られるものではない。例えば、検査装置100は、特定の不良要因を有するか否かの検査に用いることもできる。この場合、検査装置100は、不良品と判定された検査対象物に関して、不良要因を特定できる。また、検査対象物は、固定された部品や部材に限られるものでなく、可動部や変形する部位(例えば、モータや減速機)等を検査対象物とすることも可能である。
【0015】
(2.検査対象物及び検査システム1の構成)
まず、図1を参照しながら、検査対象物の構成と、検査装置100を備えた検査システム1の構成とについて説明する。上記したように、検査対象物は、コラムタイプの電動ステアリング装置50の構成部品である。
【0016】
(2-1:電動ステアリング装置50の構成)
図1に示すように、検査対象物である電動ステアリング装置50は、操舵機構10と、中間シャフト20と、転舵機構30とを主に備える。
【0017】
操舵機構10は、操舵部材11と、入力シャフト12と、トーションバー13と、出力シャフト14と、操舵補助機構40とを主に備える。操舵部材11は、運転手により操作されるハンドルである。入力シャフト12は、操舵部材11とトーションバー13とを連結する軸部材である。入力シャフト12は、操舵部材11の回転(操舵)をトーションバー13に伝達する。トーションバー13は、入力シャフト12と出力シャフト14とを相対回転可能に連結する。トーションバー13は、入力シャフト12と出力シャフト14との相対回転が生じた場合に、ねじれ方向に弾性変形する。出力シャフト14は、操舵部材11から入力シャフト12及びトーションバー13を介して入力された回転を転舵機構30に出力する軸部材である。操舵補助機構40は、出力シャフト14の回転補助(操舵部材11の操舵補助)を行う。なお、操舵補助機構40の詳細については、後述する。
【0018】
中間シャフト20は、操舵機構10と転舵機構30との間で回転の伝達を行う。中間シャフト20の軸方向一端側は、自在継手21を介して操舵機構10の出力シャフト14に連結され、中間シャフト20の軸方向他端側は、自在継手22を介して転舵機構30のピニオンシャフト31に連結される。
【0019】
転舵機構30は、ピニオンシャフト31と、転舵シャフト32と、転舵輪33とを備える。ピニオンシャフト31の軸方向一端側は、自在継手22を介して出力シャフト14に連結され、ピニオンシャフト31の軸方向他端側には、ピニオン31aが形成される。転舵シャフト32には、ピニオン31aと噛合するラック32aが形成され、転舵シャフト32の軸方向両端には、一対のタイロッド34及び一対のナックルアーム35を介して転舵輪33が連結される。転舵機構30は、転舵シャフト32を軸方向(車幅方向)へ移動させることにより、転舵輪33の転舵角を変化させる。
【0020】
ここで、操舵補助機構40の構成を説明する。操舵補助機構40は、減速機41と、電動モータ42と、トルクセンサ43と、車速センサ44と、回転角センサ45と、制御ユニット46とを備える。
【0021】
減速機41は、ウォームギヤ(図示せず)と、ウォームギヤに噛合するウォームホイール(図示せず)とを備えたウォーム減速機である。ウォームギヤは、電動モータ42のモータ軸に一体回転可能に連結され、ウォームホイールは、出力シャフト14に一定回転可能に連結される。電動モータ42は、減速機41のウォームギヤを回転駆動する。電動モータ42のモータ軸の回転は、減速機41、出力シャフト14及び中間シャフト20を介して転舵機構30に伝達され、転舵機構30において転舵シャフト32を軸方向へ移動させる力に変換される。
【0022】
トルクセンサ43は、トーションバー13のねじれ量に基づき、操舵部材11に付与された操舵トルクを検出する。車速センサ44は、電動ステアリング装置50を搭載した車両(図示せず)の車速を検出する。回転角センサ45は、電動モータ42のモータ軸の回転角を検出する。制御ユニット46は、トルクセンサ43、車速センサ44及び回転角センサ45からの出力信号に基づき、電動モータ42が減速機41に付与する操舵補助トルクの目標値を設定すると共に、実際の操舵補助トルクが目標値となるように電動モータ42に供給される電流を制御する。
【0023】
(2-2:検査システム1の構成)
続いて、検査システム1の構成を説明する。なお、検査システム1は、電動ステアリング装置50の構成部品である電動モータ42及び減速機41を検査対象物とする。検査システム1は、検査装置100と、センサとを備える。本実施形態において、検査システム1は、センサとして、2つの振動センサ151,152と、1つの音センサ153とを備える。なお、本実施形態において検査システム1に設けるセンサの種類及び数量は、一例であり、適宜変更可能である。つまり、検査システム1は、振動センサ及び音センサ以外のセンサを備えることも可能である。また、検査システム1は、振動センサの数を1つ又は3つ以上にしてもよく、音センサの数を2つ以上にしてもよい。
【0024】
振動センサ151,152は、電動モータ42の振動を検出可能な3軸加速度センサであり、2つの振動センサ151,152は、互いに離れた位置で電動モータ42に取り付けられる。検査システム1において、振動センサ151は、操舵部材11を一定の回転速度で回転させた際に動作する電動モータ42の3方向の加速度(振動)を検出し、加速度の程度に応じた出力信号を検査装置100に出力する。音センサ153は、減速機41から発生する音を検出可能なマイクである。音センサ153は、減速機41の近傍であって、減速機41から発生する音を検出可能な位置に配置される。検査システム1において、音センサ153は、操舵部材11を一定の回転速度で回転させた際に動作する減速機41の振動に起因する音を検出し、音の程度に応じた出力信号を検査装置100に出力する。
【0025】
検査装置100は、3つのセンサ151,152,153から得られた7パターンの出力信号の波形データを解析し、検査対象物である電動モータ42及び減速機41の状態(振動の程度)を判定する。以下に、検査装置100の構成について具体的に説明する。
【0026】
(3.検査装置100の概略構成)
次に、図2を参照して、検査装置100の概略構成を説明する。図2に示すように、検査装置100は、データ変換部110と、学習モデル生成部120と、学習モデル記憶部130と、判定部140とを主に備える。これらのうち、データ変換部110、学習モデル生成部120及び学習モデル記憶部130は、機械学習の学習フェーズ101として機能し、データ変換部110、学習モデル記憶部130及び判定部140は、機械学習の推論フェーズ102として機能する。
(3-1:学習フェーズ101)
【0027】
学習フェーズ101は、推論フェーズ102において、検査対象物の状態の判定に用いる学習モデルMを生成する。なお、学習フェーズ101は、検査用学習モデル生成装置に相当する。
【0028】
図3に示すように、データ変換部110は、第一次データ記憶部111と、第二次データ生成部112と、第三次データ生成部113とを備える。第一次データ記憶部111は、振動センサ151,152及び音センサ153からの出力信号を取得すると共に、各々の出力信号の波形データを時系列の第一次データD1として記憶する。第二次データ生成部112は、第一次データD1を短時間フーリエ変換することにより、第一周波数成分と時間成分と振幅成分とを含むスペクトログラムデータである第二次データD2を生成する。第三次データ生成部113は、第二次データD2において第一周波数成分毎の時間-振幅データをそれぞれフーリエ変換することにより、第一周波数成分と第二周波数成分と振幅成分とを含む第三次データD3を生成する。
【0029】
学習モデル生成部120は、推論フェーズ102において検査対象物の状態を判定する際に用いる学習モデルMを生成する。学習モデル記憶部130は、学習モデル生成部120が生成した学習モデルMを記憶する。そして、推論フェーズ102において、判定部140は、学習モデルMを用いて検査対象物の状態を判定する。
【0030】
次に、図4を参照して、第一次データD1について説明する。本実施形態において、第一次データD1は、振動センサ151,152及び音センサ153の出力信号である。図3には、第一次データD1の一例として、振動センサ151からの一の検出信号の波形データが示されている。図4に示す第一次データD1において、横軸は、時間t1を示し、縦軸は、振幅成分である加速度Gを示す。振動センサ151は、3軸の各々の方向への振動を検出可能であり、第一次データ記憶部111は、振動センサ151から各方向への振動の程度を示す3パターンの第一次データD1を取得し、記憶する。
【0031】
次に、図5及び図6を参照しながら、第二次データD2について説明する。第二次データD2は、第一次データD1を、第一周波数成分と時間成分と振幅成分とを含むデータへ変換したものである。上記したように、第二次データ生成部112は、第一次データD1を短時間フーリエ変換することにより第二次データD2を生成する。
【0032】
具体的には、図5に示すように、第二次データ生成部112は、第一次データD1の波形データから微小時間(例えば0.1秒)の短時間波形データ(第一波形データ)を取り出し、取り出した第一波形データをフーリエ変換する。短時間波形データは、時間成分と振幅成分(加速度G)とを含む時系列データであり、フーリエ変換されることにより、第一周波数成分と振幅成分とを含む波形データとなる。
【0033】
続いて、第二次データ生成部112は、第一次データD1の波形データから微小時間の短時間波形データ(第二波形データ)を取り出し、取り出した第二波形データをフーリエ変換する。なお、第二波形データは、第一波形データに対し、時間成分を所定時間(例えば0.05秒)だけずらした短時間波形データである。このように、第二次データ生成部112は、第一次データD1の波形データから所定時間ずつ時間をずらしつつ微小時間毎に取り出した全ての波形データの各々をフーリエ変換する。
【0034】
そして、図6に示すように、第二次データ生成部112は、複数の短時間波形データに対してフーリエ変換を行った結果に基づき、第一周波数成分と時間成分と振幅成分(加速度G)とを含むスペクトログラムデータを生成する。図6に示すスペクトログラムデータにおいて、横軸は、時間t2を示し、縦軸は、第一周波数f1を示し、色は、振幅成分である加速度Gを示す。
【0035】
続いて、図7から図9を参照しながら、第三次データD3について説明する。第三次データD3は、第二次データD2を、第一周波数成分と第二周波数成分と振幅成分とを含むデータへ変換したものである。第三次データ生成部113は、第二次データD1の第一周波数成分毎の時間t2-振幅データをそれぞれフーリエ変換することにより、第三次データD3を生成する。
【0036】
図7に示すグラフは、時間t2-振幅データの一例である。具体的に、図7には、第一周波数f1が4kHzとなる振幅成分(加速度G)の挙動を時系列データで表したグラフが示されている。このように、第二次データD2は、第一周波数成分毎の時間t2-振幅データを重ね合わせることにより生成されたデータである。
【0037】
そして、図8に示すように、第三次データ生成部113は、第一周波数成分毎の時間t2-振幅データをフーリエ変換し、第一周波数成分毎の第二周波数f2-振幅データを生成する。なお、図8は、第一周波数f1が4kHzとなる振幅成分(加速度G)を第二周波数成分毎に表したグラフを示す。このように、第三次データ生成部113は、第二次データD2に含まれる時間t2-振幅データを、第一周波数成分毎にフーリエ変換し、時間成分を含まないデータに変換する。
【0038】
そして、図9に示すように、第三次データ生成部113は、複数の第二周波数f2-振幅データに基づき、第一周波数成分と第二周波数成分と振幅成分とを含む画像データを生成する。図9は、スペクトログラムデータに近似した仕様の画像データであり、横軸は、第二周波数f2を示し、縦軸は、第一周波数f1を示し、色は、振幅成分である加速度Gを示す。これにより、第三次データ生成部113は、時間成分を含む画像データである第二次データD2を、時間成分を含まない画像データである第三次データD3に変換することができる。このようにして、データ変換部110は、時系列のデータである第一次データD1を、時間成分を含まない第三次データD3に変換する。
【0039】
次に、図10を参照して、学習モデルMについて説明する。図10に示すように、学習モデルMは、入力層M1と、中間層M2と、出力層M3とを含むオートエンコーダである。入力層M1には、第三次データD3が入力データとして入力される。なお、第三次データD3は、画像データである。1つの第三次データD3には、画素の数と同数の画素データが含まれ、各々の画素データが、入力データとして用いられる。中間層M2は、入力データの次元を圧縮し、入力データに含まれる特徴量を抽出する第一中間層M21と、圧縮されたデータの次元を拡張し、データの次元を入力データの次元と同数にする第二中間層M22とを含む。出力層M3は、第三次データD3から特徴量を抽出した第四次データD4を出力する。
【0040】
後述するように、判定部140は、入力データとして学習モデルMに入力された第三次データD3と、学習モデルMから出力された第四次データD4とを用いて、検査対象物の状態を判定する。そして、検査装置100は、学習フェーズ101において、適切な特徴量を抽出する学習モデルMを生成することにより、推論フェーズ102において、精度の高い検査結果を得ることができる。
【0041】
ここで、本実施形態において、検査装置100が検査対象とする検査対象物の状態は、電動ステアリング装置50の構成部品である電動モータ42及び減速機41の振動の程度である。そして、検査装置100は、電動モータ42及び減速機41の動作中に発生した振動を解析し、電動ステアリング装置50が良品であるか否かを判定する。
【0042】
この点に関して、検査装置100は、第一次データD1及び第二次データD2に含まれる振幅成分及び周波数成分を用いて、検査対象物の良否判定を行う。一方、第一次データD1及び第二次データD2に含まれる時間成分は、検査装置100による検査対象物の良否判定に必要とされない。つまり、電動モータ42及び減速機41の動作中において、振動が発生したタイミングは、検査装置100による電動ステアリング装置50の良否判定結果に影響を及ぼすものではない。
【0043】
これに対し、第一次データD1及び第二次データD2は、時間成分を含む。従って、学習モデル生成部120は、第一次データD1及び第二次データD2を入力データとして学習モデルMを生成する場合、中間層M2において抽出される特徴量に時間成分が含まれる可能性が高くなる。しかしながら上記したように、第一次データD1及び第二次データD2に含まれる時間成分は、検査対象物の良否判定結果に影響を及ぼすものではない。従って、検査装置100は、時間成分を含む特徴量を抽出する学習モデルMを用いて検査対象物の良否判定を行ったとしても、精度の高い良否判定結果が得られない。
【0044】
そこで、検査装置100は、データ変換部110において、時間成分を含む第一次データを変換し、時間成分を含まない第三次データD3を生成する。そして、学習モデル生成部120は、生成した第三次データD3を入力データとする。よって、学習モデル生成部120は、中間層M2において、時間成分を含まない特徴量を抽出する学習モデルMを生成することができる。そして、学習モデルMが出力する第四次データD4は、振動センサ151,152及び音センサ153の出力信号の波形データの中から、振幅成分及び周波数成分(第一周波数成分、第二周波数成分)に含まれる特徴量を抽出した画像データとなる。
【0045】
なお、本実施形態において、推論フェーズ102は、検査対象物が良品であるか否かを判定するのに対し、学習フェーズ101は、学習モデルMを生成するにあたり、良品である検査対象物の第三次データD3を入力データとする。つまり、学習フェーズ101において、データ変換部110は、良品である検査対象物から得られた第一次データD1に基づいて良品の第三次データD3を生成し、学習モデル生成部120は、良品の第三次データD3を入力データとすると共に、多量の第三次データD3を学習させる。これにより、学習モデルMは、中間層M2において、第三次データD3から適切な特徴量を抽出することができる。
【0046】
その結果、学習モデルMは、推論フェーズ102において、良品である検査対象物の第三次データD3を入力した際に、出力データとして、第三次データD3と相違のない第四次データD4を出力する。その一方で、学習モデルMは、推論フェーズ102において、不良品である検査対象物の第三次データD3を入力した際に、出力データとして、第三次データD3と相違のある第四次データD4を出力する。
【0047】
(3-2:推論フェーズ102)
次に、推論フェーズ102のみで機能する判定部140の構成について説明する。推論フェーズ102において、判定部140は、学習フェーズ101で生成された学習モデルMを用いて、検査対象物の状態を判定する。
【0048】
図11に示すように、判定部140は、第四次データ生成部141と、第五次データ生成部142と、フィルタ処理部143と、正値化処理部144と、評価値生成部145と、状態判定部146と、出力部147とを備える。
【0049】
第四次データ生成部141は、第四次データD4を生成する。具体的に、データ変換部110は、推論フェーズ102において、振動センサ151,152及び音センサ153からの出力信号があると、第一次データD1に基づいて第三次データD3を生成する。その後、判定部140は、第三次データ生成部113が生成した第三次データD3と学習モデル記憶部130に記憶された学習モデルMとを取得する。そして、第四次データ生成部141は、データ変換部110で生成した第三次データD3を、学習モデルMに入力し、第四次データD4を生成する。
【0050】
第五次データ生成部142は、学習モデルMに入力した第三次データD3と、学習モデルMが出力した第四次データD4との差分を演算することにより得られた差分値を、二次元座標系の各座標で示した第五次データD5を生成する。なお、第五次データD5の詳細については、図12から図14を参照しながら後述する。
【0051】
フィルタ処理部143は、第五次データD5にローパスフィルタによる処理を行うことにより、第六次データD6を生成する。つまり、フィルタ処理部143は、第一周波数f1及び第二周波数f2のそれぞれに対し、ローパスフィルタによる処理を行う。なお、第五次データD5にローパスフィルタによる処理を行う理由については、図15A及び図15Bを参照しながら後述する。
【0052】
正値化処理部144は、第六次データD6に対して正値化処理を行うことにより第七次データD7を生成する。正値化処理は、第六次データD6に含まれる全ての座標値を0又は正の値とする処理である。本実施形態において、正値化処理部144は、第六次データD6に含まれる全ての座標値を二乗することにより、全ての座標値を0又は正の値としている。しかしながらこれに限られるものではなく、正値化処理部144は、例えば、第六次データD6に含まれる全ての座標値を絶対値に変換することにより、全ての座標値を0又は正の値としてもよい。
【0053】
評価値生成部145は、第七次データD7の各座標値に基づき、第三次データD3と第四次データD4との比較結果を示す評価値を生成する。本実施形態において、評価値生成部145は、第七次データD7を第三次データD3と第四次データD4との比較に用いる対象データとし、第七次データD7の全ての座標値の総和を求める。評価値は、第三次データD3と第四次データD4との相違量を表すものであり、評価値が小さいほど、第三次データD3と第四次データD4との相違が少なく、検査対象物が良品であることを示す。
【0054】
状態判定部146は、第三次データD3と第四次データD4との比較結果に基づいて、検査対象物の状態の基準状態に対する相違を判定する。つまり、状態判定部146は、新たな第一次データD1に基づいて生成された第三次データD3を基準状態とし、第四次データD4の状態と、基準状態である第三次データD3の状態との相違を判定する。その結果、状態判定部146は、第三次データD3から把握できる振動の程度と第四次データD4から把握できる振動の程度との相違量が少ない場合に、電動ステアリング装置50が良品であると判定する。
【0055】
具体的に、第四次データ生成部141は、検査対象物が良品であれば、第三次データD3と相違のない第四次データD4を生成する。よってこの場合、状態判定部146は、検査対象物が良品であると判定する。一方、第四次データ生成部141は、検査対象物が不良品であれば、第三次データD3と相違のある第四次データD4を生成する。その結果、第三次データD3と第四次データD4との相違が大きければ、状態判定部146は、検査対象物が不良品であると判定する。これにより、判定部140は、検査対象物に対する検査結果を容易に判定できる。
【0056】
そして、状態判定部146は、評価値が予め設定された閾値以下であった場合に、検査対象物の状態が基準状態から所定の範囲内に含まれていると判定する。本実施形態において、状態判定部146は、評価値生成部145により生成された評価値が予め設定された閾値以下であった場合に、検査対象物である電動ステアリング装置50が良品であると判定する。よって、判定部140は、検査対象物に対する検査結果を容易に判定できる。そして、出力部147は、状態判定部146による判定結果を、検査装置100による検査結果として出力する。
【0057】
(4.第五次データD5)
ここで、図12に示すように、第三次データD3の画像データには、第二周波数f2の大きさを示す横軸方向にa個、第一周波数f1の大きさを示す縦軸方向にb個の画素データを有する(a×b)個の画素データにより構成される。第三次データD3において、各画素データは、振幅成分の値を画素の色で表しているのに対し、図12では、第三次データD3における振幅成分の値を、第一周波数f1及び第二周波数f2の二次元座標系における座標値で表す。なお、二次元座標系で表された第三次データD3の各座標のうち、左から数えてm個目、下から数えてn個目に位置する座標が示す振幅成分の値をD3(m,n)と記す。
【0058】
図13に示すように、第四次データD4の画像データには、第三次データD3と同数の画素データが含まれる。図13では、図12と同様に、第四次データD4における振幅成分の値を、第一周波数成分及び第二周波数成分の二次元座標系における座標値で表す。なお、二次元座標系で表された第四次データD4の各座標のうち、左から数えてm個目、下から数えてn個目に位置する座標が示す振幅成分の値をD4(m,n)と記す。
【0059】
図14に示すように、第五次データD5は、二次元座標系で表した第三次データD3及び第四次データD4と同様の二次元座標系データである。第五次データD5の座標値は、二次元座標系で表した第三次データD3及び第四次データD4の各々の対応する座標値の差分値である。なお、二次元座標系で表された第五次データD5の各座標のうち、左から数えてm個目、下から数えてn個目に位置する座標が示す振幅成分の差分値をD5(m,n)と記す。
【0060】
D5(m,n)は、D3(m,n)からD4(m,n)を引いた値であり、D3(m,n)とD4(m,n)との間で振幅成分に相違がなければ、D5(m,n)は、ゼロとなる。これに対し、D3(m,n)とD4(m,n)との間で振幅成分に相違があれば、D5(m,n)は、正の値又は負の値となる。
【0061】
(5.フィルタ処理部143)
続いて、図15A及び図15Bに示すグラフを参照しながら、第五次データD5にローパスフィルタによる処理を行う理由を説明する。ここでは、第三次データD3において、振幅成分の値が大きくなる第二周波数f2がx1であり、第四次データD4において、振幅成分の値が大きくなる第二周波数f2が、x1よりも僅かに大きな値となるx2であった場合を例に挙げる。なお、二次元座標系で表された第六次データD6の各座標のうち、左から数えてm個目、下から数えてn個目に位置する座標値が示す振幅成分の差分値をD6(m,n)と記す。
【0062】
図15Aは、第五次データD5の一例を示すグラフであり、第一周波数f1が特定の値yである差分値の相違を第二周波数成分毎に示したグラフが図示されている。図15Aに示す例では、第二周波数f2がx1であるときの振幅成分の差分値(D5(x1,y)=D3(x1,y)-D4(x1,y))は、極端に大きな値をとる。その一方、第二周波数f2がx2であるときに振幅成分の差分値(D(5x2,y)=D3(x2,y)-D4(x2,y))は、極端に小さな値をとる。
【0063】
実際、第二周波数f2の相違が誤差の範囲であれば、当該相違は、検査対象物の状態判定(良否判定)に影響を及ぼすものではない。しかしながら、第五次データD5では、第二周波数f2の相違が誤差の範囲である場合に、D5(x1,y)、及び、D5(x2,y)が、極端な値をとりうる。そのため、D5(x1,y)及びD5(x2,y)の各々の値をそのまま正値化処理部144において二乗し、評価値生成部145において正値化処理後の各座標値の総和を求めることで生成された評価値は、極端に大きな値をとる場合がある。つまり、当該評価値は、状態判定部146において閾値よりも大きいと判定される可能性が高くなる。その結果、第二周波数f2の相違は、実際には検査対象物の良否判定に影響を及ぼすものではなく、検査対象物が良品であると判定されるべきであるにも関わらず、検査装置100は、検査対象物が不良品であると判定する可能性が高くなる。
【0064】
これに対し、判定部140において、フィルタ処理部143は、第五次データD5に対し、ローパスフィルタによる処理を行う。この場合、判定部140は、第五次データD5において、座標値が極端な値をとった場合に、当該座標値が状態判定部146による判定結果に及ぼす影響を小さくすることができる。その結果、検査装置100は、第一周波数f1及び第二周波数f2の相違が、検査対象物の状態判定(良否判定)に影響を及ぼさない程度の誤差である場合に、当該誤差に基づいて検査対象物が不良品であると判定されることを回避できる。
【0065】
以上説明したように、検査装置100において、第二次データ生成部112は、時系列の第一次データD1を、第一周波数成分と時間成分と振幅成分とを含むスペクトログラムデータである第二次データD2に変換する。また、第三次データ生成部113は、第二次データD2を、第一周波数成分と第二周波数成分と振幅成分とを含む第三次データD3に変換する。そして、判定部140は、第三次データD3に基づいて検査対象物の状態を判定する。つまり、第三次データD3は、第一次データD1から時間成分を排除したデータであり、判定部140は、時間成分を含まないデータを用いて検査対象物の状態を判定する。これにより、検査装置100は、時系列データを用いた検査を行うにあたり、時間成分の相違による影響を排除した検査結果を得ることができ、その結果、精度の高い検査結果を得ることができる。また、検査装置100は、学習モデルMとしてオートエンコーダを用いることにより、高精度な検査結果を得ることができる。
【0066】
そして、検査装置100は、第一次データD1として、振動センサ151,152および音センサ153の出力信号を用いる。よって、検査システム1は、従来から用いられているセンサを用いつつ、検査装置100による検査を行うことにより、高精度な検査結果を得ることができる。
【0067】
なお、推論フェーズ102において、状態判定部146は、評価値が閾値以下であった場合に、検査対象物が良品であると判定する。つまり、状態判定部146は、検査対象物が不良要素を含む場合であっても、含まれる不良要素が少なければ、良品であると判定する。これに対し、学習フェーズ101において、学習モデル生成部120が入力データとする第三次データD3は、不良要素を含まない検査対象物から得られる第一次データD1に基づいて生成されることが望ましい。この場合、検査装置100は、実際には不良品である検査対象物を、状態判定部146が誤って良品と判定することを防止できる。
【符号の説明】
【0068】
1:検査システム、 41:減速機(検査対象物の一例)、 42:電動モータ(検査対象物の一例)、 50:電動ステアリング装置(検査対象物の一例)、 100:検査装置、 101:学習フェーズ、 102:推論フェーズ、 110:データ変換部、 111:第一次データ記憶部、 112:第二次データ生成部、 113:第三次データ生成部、 120:学習モデル生成部、 130:学習モデル記憶部、 140:判定部、 141:第四次データ生成部、 142:第五次データ生成部、 143:フィルタ処理部、 144:正値化処理部、 145:評価値生成部、 146:状態判定部、 151,152:振動センサ、 153:音センサ、 D1:第一次データ、 D2:第二次データ、 D3:第三次データ、 D4:第四次データ、 D5:第五次データ、 D6:第六次データ、 D7:第七次データ、 f1:第一周波数成分、 f2:第二周波数成分、 M:学習モデル、 M1:入力層、 M3:出力層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B