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特許7283176調製粉乳用油脂、調製粉乳用油脂組成物、および調製粉乳
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】調製粉乳用油脂、調製粉乳用油脂組成物、および調製粉乳
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230523BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20230523BHJP
   A23C 9/158 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23C9/152
A23C9/158
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019064436
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020162444
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】伊東 利博
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/113922(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/147138(WO,A1)
【文献】特開昭61-209544(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101940242(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A23C 9/152
A23C 9/158
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、調製粉乳用油脂組成物の製造方法。
(工程1)大豆油、菜種油のうち少なくとも1つを含む油脂を原料油としてエステル交換油を得る工程
(工程2)前記エステル交換油に、調製粉乳用油脂組成物中のビタミンKの含有量が13~15μg/100gとなるように、ビタミンKを添加する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調製粉乳用油脂、調製粉乳用油脂組成物、および調製粉乳に関するものである。さらに詳細には、本発明は、ビタミンK、αリノレン酸、リノール酸の含有量を調整した、乳児用または育児用の調製粉乳用油脂、調製粉乳用油脂組成物、および調製粉乳に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビタミンKはその化学構造から、いくつかの同族体に分類されているが、天然に存在するものとしては、植物、特に大豆や青菜に多く含まれるビタミンK1や、微生物により生産され、食品においては納豆や動物性食品に含まれるビタミンK2などがある。このビタミンK同族体は吸収率や血中半減期などが異なることが報告されており、生理活性に差異がある可能性があり研究が進んでいる。一方で、日本人の食事摂取基準(厚生労働省、2016年度版)では、ビタミンK同族体間の生理的活性の根拠が乏しいとして、その摂取基準の算定においてはビタミンK1とビタミンK2とを区別せず、その合計量をビタミンK量としている。本願おいても、後述するように、ビタミンKの種類を具体的に記載しない限り、ビタミンK同族体を区別せずに、構成労働省の基準にてその合計量をビタミンKとして総称している。
【0003】
ビタミンKは脂溶性ビタミンの1種であり、血液凝固作用や骨密度増加作用などが知られている。健常な成人においては、腸内細菌による合成も行なわれており、不足や過剰になることは少なく、仮になったとしても重大な健康上の懸念は報告されていない。
【0004】
ただし、新生児においては、母乳中の含有量が少なく、合成能力も低いことから、ビタミンK欠乏性出血症を発症する例も多い。そこで新生児には出生直後にビタミンK投与が実施されており、また調製粉乳においてはビタミンK製剤添加等によりビタミンKの含有量の調整が行なわれている。
【0005】
ビタミンKは上記のように大豆や青菜に多く含まれているが、食用油脂においては大豆油、菜種油に多く含まれている。
【0006】
また、母乳にはαリノレン酸が含まれているため、乳児用の調製粉乳では、乳児用調製粉乳たる表示の許可基準(消費者庁)として、αリノレン酸の含有量が定められている。しかし、工業的に利用されている食用油脂の中で、その基準を満たすために十分なαリノレン酸を含有する油脂は限られており、その代表的な食用油脂としては、大豆油や菜種油である。したがって乳幼児用調製粉乳においては、αリノレン酸を供給するために大豆油や菜種油が一般的に使用されている。
さらに大豆油や菜種油にはリノール酸も豊富に含まれている。リノール酸の含有量につても、αリノレン酸と同様、乳児用調製粉乳たる表示の許可基準(消費者庁)が定められている。すなわち、大豆油や菜種油は、乳幼児用調製粉乳で必須な成分であるリノール酸とαリノレン酸を含むことから、乳幼児用調製粉乳の原料油脂としては好適な油脂であるといえる。
【0007】
一方、大豆油や菜種油に含まれているビタミンKはその産地や収穫年度等により大きく変動する。本発明者らが測定した限りにおいても、大豆油のビタミンK含有量は200~375μg/100gの範囲で変動していた。そのため、乳児用調製粉乳に必要なリノール酸、αリノレン酸を一定量含有するように大豆油、菜種油を配合したのみでは、ビタミンKを一定の範囲に管理することが困難であった。
【0008】
この課題を解決するには、油脂中のリノール酸、αリノレン酸、ビタミンKをそれぞれ一定量含有するため、リノール酸、αリノレン酸、ビタミンKを含有する油脂から、ビタミンKのみを除去したのちビタミンKをあとから所定量添加する方法が考えられる。油脂中のビタミンKを除去する方法としては、例えば、油脂の脱ガム、脱酸および脱臭工程中にビタミンKが低減することが報告されており(非特許文献1)、これらの工程による除去が考えられる。油脂の脱ガム、脱酸および脱臭工程(160℃、230℃)によりビタミンKを除去する方法では、ビタミンKの減少率は処理前に対して最大でも82%までしか除去することができず、ビタミンKの低減量としては十分でない。また、脱臭温度を260℃まで上昇させた場合は59%まで減少が認められているが、これでもビタミンKの低減量としては十分ではなく、しかも260℃という高温で処理するため、油脂中のαリノレン酸が熱分解、異性化してしまうという問題がある。そのため、リノール酸、αリノレン酸、ビタミンKを含有する油脂から、ビタミンKのみを除去することは困難であった。
【0009】
また、油脂以外の食品においても、ビタミンKを除去する方法が知られている。例えば、特許文献1では、納豆菌培養エキスをキトサンで処理することによってビタミンKを除去する方法、特許文献2では、無機凝集剤等で処理することによって納豆菌培養液中のビタミンK2を除去する方法などが開示されている。しかしながら、油脂中に存在するビタミンKの効果的な除去方法はまだ発明されていない。
【0010】
以上のように、リノール酸、αリノレン酸のような重要な栄養機能を持つ多価不飽和脂肪酸を分解させず維持しながら、ビタミンンKのみを低減する技術は、これまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2001-299277号公報
【文献】特開2006-180790号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】日本油化学会誌 48巻 第11号 1271-1274頁(1999年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、調製粉乳用油脂、調製粉乳用油脂組成物、および調製粉乳に関し、リノール酸、αリノレン酸のような重要な栄養機能を持つ多価不飽和脂肪酸の油脂中の濃度を維持しながらビタミンKの含有量を低減させ、その後にビタミンKの含有量を容易に調整することが可能な調製粉乳用油脂、調製粉乳用油脂組成物およびそれを含む調製粉乳を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、リノール酸、αリノレン酸、ビタミンKを含有する大豆油または菜種油を含む油脂をエステル交換することにより得られるエステル交換油において、αリノレン酸、リノール酸の含有量がほとんど変化することなく、ビタミンKの含有量のみが大幅に消失していることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は下記の〔1〕~〔5〕である。
【0015】
〔1〕
エステル交換の原料として大豆油、菜種油のうち少なくとも1つの油脂を含むエステル交換油であり、ビタミンKの含有量が15μg/100g以下である調製粉乳用油脂。
〔2〕
〔1〕に記載の調製粉乳用油脂を含有し、ビタミンKの含有量が、13~15μg/100gである調製粉乳用油脂組成物。
〔3〕
〔2〕記載の調製粉乳用油脂組成物を含む調製粉乳。
〔4〕
以下の工程を含む、調製粉乳用油脂組成物の製造方法。
(工程1)大豆油、菜種油のうち少なくとも1つを含む油脂を原料油としてエステル交換油を得る工程
(工程2)前記エステル交換油に、調製粉乳用油脂組成物中のビタミンKの含有量が13~15μg/100gとなるように、ビタミンKを添加する工程
〔5〕
大豆油または菜種油からビタミンKを除去する方法であって、大豆油、菜種油のうち少なくとも1つを含む油脂を原料としてエステル交換を行うことを特徴とする、ビタミンKの除去方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リノール酸、αリノレン酸のような重要な栄養機能を持つ多価不飽和脂肪酸を維持しながら、ビタミンKの含有量が低減された調製粉乳用油脂、すなわち、ビタミンKの含有量を調製粉乳の用途において容易に調整することが可能な調製粉乳用油脂、調製粉乳用油脂組成物およびそれを含む調製粉乳を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔調製粉乳用油脂〕
本発明の調製粉乳用油脂は、エステル交換の原料として大豆油、菜種油のうち少なくとも1つの油脂を含むエステル交換油であり、ビタミンKの含有量が15μg/100g以下であることを特徴とするものである。本発明の調製粉乳用油脂は、ビタミンKの含有量が15μg/100g以下であることから、必要に応じてビタミンKを添加してビタミンKを13~15μg/100g含有する調製粉乳用油脂組成物を調製することが可能となる。なお、本発明において、ビタミンKの量は、ビタミンK1(フィロキノン)およびビタミンK2(メナキノン類)の合計量である。
【0018】
エステル交換の原料として使用する大豆油、菜種油は、構成脂肪酸としてリノール酸、αリノレン酸を含み、さらに200~400μg/100gのビタミンKを含むものである。ここで大豆油、菜種油を含む油脂をエステル交換することによりリノール酸、αリノレン酸の量を変えることがなく、ビタミンKのみ低減することができる。なお、本発明は、大豆油、菜種油のいずれか、または両方を原料油として含むエステル交換油であるが、大豆油、菜種油以外の他の油脂をエステル交換の原料として配合してもよい。大豆油、菜種油以外の他の油脂は、特に制限されないが、例えば、パーム油、パーム核油、パーム核オレイン、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、米油、ハイオレイックヒマワリ油、えごま油、ゴマ油などの植物油脂、魚油、豚脂等の動物油脂等が挙げられる。また、これらの油脂の硬化油、分別油、エステル交換油等を使用してもよい。これらの油脂は目的に応じて適宜選択され、1種類または2種類以上を任意に組み合わせても良い。好ましくは、植物油である。
【0019】
エステル交換の原料となる混合油脂において、大豆油及び菜種油の総含有量は、特に制限されないが、例えば、1~100質量%である。下限値として、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上であり、より更に好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。大豆油及び菜種油の総含有量が大きいほど、大豆油及び菜種油由来のビタミンKの含有量が多くなるため、ビタミンKの含有量を低減するという本発明の効果がより発揮される。
【0020】
エステル交換油の製造方法としては、アルカリ触媒を用いた化学的エステル交換法が好ましい。例えば、原料となる大豆油、または菜種油を含む油脂を90℃~95℃、減圧下で攪拌し、水分が100ppm以下となるまで脱水を行なったのち、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシドなどのアルカリ触媒を油脂100質量部に対して0.05~0.3質量部加え、減圧下で30分間攪拌し、化学的エステル交換反応を行う。反応終了後、水洗にてアルカリ触媒を除去したのち、活性白土による脱色、水蒸気蒸留することのより食用可能なエステル交換油を得ることができる。水蒸気脱臭の温度は、190℃~230℃の範囲が好ましい。この温度範囲で水蒸気脱臭を行うことにより、αリノレン酸、リノール酸を熱分解・異性化することなく、油脂中のビタミンKを15μg以下/100gにし、風味が良好な油脂とすることができる。本発明の調整調粉用油脂組成物は、水蒸気脱臭したエステル交換油を他の油と混合して製造しても、脱色後、水蒸気脱臭前のエステル交換油を他の油と混合して、水蒸気脱臭を行ってもかまわない。
本発明では、このエステル交換油を調製粉乳用油脂として利用する。
【0021】
なお、ビタミンKは、エステル交換の工程において原料となる大豆油、または菜種油を含む油脂から効率よく除かれることになるが、これは、本発明においてはじめて見出された知見である。本発明は、この知見から、ビタミンK含量が100g中15μg以下であるエステル交換油を使用することで、場合によってはこれにビタミンKを配合することで、油脂中にリノール酸を5.0~32.0質量%、αリノレン酸を0.8質量%以上含み、かつリノール酸/αリノレン酸が5~15であり、ビタミンK含有量が、13~15μg/100gである調製粉乳用油脂組成物を、安定して提供することができる。
【0022】
〔調製粉乳用油脂組成物〕
本発明の調製粉乳用油脂組成物は、調製粉乳用油脂を含有し、ビタミンKの含有量が、13~15μg/100gであることを特徴とするものである。本発明の調製粉乳用油脂組成物は、調製粉乳用油脂(大豆油、菜種油を原料としたエステル交換油)と、ビタミンK以外にも、該調製粉乳用油脂以外の油脂や、トコフェロール等のその他脂溶性物質を含有してもよい。
【0023】
調製粉乳用油脂以外の油脂は、特に制限されないが、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、パーム核オレイン、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、米油、ハイオレイックヒマワリ油、えごま油、ゴマ油などの植物油脂、魚油、豚脂等の動物油脂等が挙げられる。また、これらの油脂の硬化油、分別油、エステル交換油(調製粉乳用油脂を除く。)等を使用してもよい。これらの油脂は目的に応じて適宜選択され、1種類または2種類以上を任意に組み合わせても良い。好ましくは、植物油である。
【0024】
本発明の調製粉乳用油脂組成物において、調製粉乳用油脂の含有量は、特に制限されないが、例えば、1~100質量%である。下限値として、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは15質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上である。また、上限値として、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは75質量%以下であり、特に好ましくは70質量%以下である。調製粉乳用油脂の含有量が大きくなると、ビタミンKの含有量を高めずに、リノール酸及びαリノレン酸の含有量を高くすることができるという本発明の効果をより発揮する。一方、調製粉乳用油脂の含有量が小さくなると、調製粉乳用油脂以外の油脂の配合により、調製粉乳用油脂組成物の融点や、結晶形成性などの物性を調整することができる。
【0025】
本発明の調製粉乳用油脂組成物は、ビタミンK含有量が15μg/100g未満の範囲であれば、ビタミンK濃縮物もしくはビタミンKを含むトコフェロール濃縮物もしくはその両方を添加してビタミンK含有量を13~15μg/100gとすることができる。ビタミンK濃縮物としては、例えば、「K2オイル M-1500」(Jオイルミルズ製)等を挙げることができ、ビタミンKを含むトコフェロール濃縮物としては例えば、「トコフェロール80SK」(日清オイリオ製)等を挙げることができる。
【0026】
本発明の調製粉乳用油脂組成物の製造方法は、以下の工程を含むことを特徴とするものである。
(工程1)大豆油、菜種油のうち少なくとも1つを含む油脂を原料油としてエステル交換油を得る工程
(工程2)前記エステル交換油に、調製粉乳用油脂組成物中のビタミンKの含有量が13~15μg/100gとなるように、ビタミンKを添加する工程
【0027】
上記工程1は、大豆油、菜種油のうち少なくとも1つを含む油脂を原料油としてエステル交換油を得る工程であり、つまりは、上記の調製粉乳用油脂を製造する工程である。その工程については、上述したとおりである。
【0028】
上記工程2は、前記エステル交換油に、調製粉乳用油脂組成物中のビタミンKの含有量が13~15μg/100gとなるように、ビタミンKを添加する工程である。原料となるビタミンKは、特に制限されないが、上述したビタミンK濃縮物もしくはビタミンKを含むトコフェロール濃縮物等を使用することができる。また、工程2において、工程1で得られたエステル交換油以外の油脂を配合してもよい。なお、このエステル交換油以外の油脂及び配合量等については、上述した調製粉乳用油脂以外の油脂と同様であるため、記載を省略する。
【0029】
〔調製粉乳〕
本発明において調製粉乳は、調製粉乳用油脂組成物を含むことを特徴とするものである。本発明において調製粉乳とは、乳児用または育児用の調製粉乳である。
乳児用調製粉乳は授乳期に、育児用調製粉乳は離乳期にそれぞれ主に用いられる食品である。特に乳児用調製粉乳は母乳代替食品であるため、含まれる栄養素の種類および含有量について国内外で基準が定められている。
【0030】
日本国内においては、特別用途食品の基準として、消食表第403号(平成30年8月8日)に基準が定められている。その中で、乳児用調製粉乳たる表示の許可基準では、100kcal当たりの組成として、脂質が4.4~6.0g、リノール酸が0.3~1.4g、αリノレン酸が0.05g以上、リノール酸/αリノレン酸(リノール酸の質量をαリノレン酸の質量で除した比を意味する。以降、同じ。)が5~15であることが示されており、油脂としてはリノール酸を5.0~32.0質量%、αリノレン酸を0.8質量%以上含み、かつリノール酸/αリノレン酸が5~15である必要がある。
【0031】
ビタミンKについては特別用途食品の評価基準には定められていないが、日本人の食事摂取基準(厚生労働省、2015年版)には、母乳中のビタミンK1濃度は5.17μg/L、母乳中の脂質含量が35.6g/Lであることが示されている。母乳中のビタミンKは大半がビタミンK1であることから、母乳脂質中のビタミンKの含有量は14.5μg/100gであることが推定できる。0~5月齢の乳児のビタミンKの目安量が4μg/日、脂質の目安量が50%エネルギー、推定エネルギー必要量が550kcal(男児)および500kcal(女児)であることから、母乳代替食品である乳児用調製粉乳に用いる脂質中のビタミンK含量は13.4~14.7μg/100gであることと推定できる。よって、本発明の調製粉乳は、ビタミンKの含有量が13~15μg/100gである調製粉乳用油脂組成物を含有することが特徴である。
【0032】
本発明の調製粉乳は、上記調製粉乳用油脂組成物を10~40質量%含み、その他、調製粉乳に一般的に用いられる任意の成分を含むことができる。調製粉乳における調製粉乳用油脂組成物の含有量の下限値は、好ましくは15質量%以上であり、上限値は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下である。調製粉乳用油脂組成物の含有量を上記範囲とすることにより、リノール酸、αリノレン酸、ビタミンKを基準に合わせて配合しつつ、調製粉乳における油の染み出しも抑制することができる。
【0033】
〔ビタミンKの除去方法〕
本発明のビタミンKの除去方法は、大豆油または菜種油からビタミンKを除去する方法であって、大豆油、菜種油のうち少なくとも1つを含む油脂を原料としてエステル交換を行うことを特徴とするものである。
本発明のビタミンKの除去方法によれば、大豆油または菜種油を含む油脂中のビタミンKを減量することができるため、調製粉乳に限らず、様々な食品に利用することができる。
【実施例
【0034】
以下に、実施例および比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[調製粉乳用油脂の製造]
(製造例1)
大豆油1kgを90℃、減圧下で攪拌し、水分が100ppm以下となるまで、脱水を行なった。引き続き、ナトリウムメトキシドを2g加え、減圧下で30分間攪拌し、化学的エステル交換反応を行なった。反応終了後、底部に排出ラインがある容器に移し、90℃の熱水を300g加え、1時間静置後、水を底部排出ラインから排出した。再度、90℃の熱水を300g加え、1時間静置後、水を底部排出ラインから排出する作業を2回繰り返し、水洗した。
水洗を終了した後、減圧下で115℃に加熱し、10分攪拌し、脱水した後、酸性活性白土(商品名;GALLEON EARTH NV、水澤化学工業株式会社)を30g加え、15分間攪拌し、脱色精製を実施した。攪拌後、減圧濾過により、白土と油脂を分離し、得られた油脂を脱臭した。脱臭工程は210℃・3mmHgで水蒸気を吹き込みながら2時間実施し、本発明のエステル交換油である調製粉乳用油脂を製造した。
【0036】
(製造例2)
大豆油1kgに対して、脱臭工程を実施しない以外は製造例1と同様の方法でエステル交換と脱色処理を実施し、調製粉乳用油脂を製造した。
【0037】
(製造例3)
菜種油1kgに対して、製造例2と同様の方法で作成した。
【0038】
(製造例4)
大豆油500gと菜種油500gを混合し、この混合油を使用して、製造例2と同様の方法で作成した。
【0039】
(製造例5)
大豆油350gとパーム油650gを混合し、この混合油を使用して、製造例2と同様の方法で作成した。
【0040】
製造例1~5のビタミンK含量を「日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル 第3章ビタミン 24 フィロキノンおよびメナキノン類(ビタミンK) 24-1.高速液体クロマトグラフ法」に基づいて測定した。その結果、ビタミンKの含有量は、表1に示したように製造例1が2μg/100g、製造例2が3μg/100g、製造例3が10μg/100g、製造例4が6μg/100g、製造例5は1μg/100g未満だった。
表1に、製造した調製粉乳用油脂をまとめて記載する。
【0041】
【表1】
【0042】
(実施例1~7、比較例1~5)
表2及び表3に実施例および比較例に使用する調製粉乳用油脂組成物の配合油脂組成を示した。実施例1、2および比較例1~5は、表2および表3の油脂組成に従い、それぞれ単一の油で210~230℃、真空度3~5mmHgで2時間水蒸気脱臭したのち、混合して得た。実施例3~7は、製造例1~5の油脂と、それぞれの油脂を表2の油脂組成に従い混合後に210~230℃、真空度3~5mmHgで2時間水蒸気脱臭して得た。
【0043】
全ての実施例および比較例の調製粉乳用油脂組成物について、脂肪酸組成を「基準油脂分析法2.4.2.1-1996」にて分析を行った。その分析結果を用いて、リノール酸の含有量をαリノレン酸の含有量で除した商を算出した。また製造例と同様の方法にて実施例、比較例の調製粉乳用油脂組成物のビタミンK含量を測定した。結果を表2および3に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
実施例1~7において、調製粉乳用油脂組成物中、リノール酸は14.5~17.0質量%、αリノレン酸は1.4~2.4質量%で、リノール酸/αリノレン酸は7.1~10.4で、本発明の調製粉乳用油脂組成物の範囲内であった。
【0047】
実施例1~7において、調製粉乳用油脂組成物中、ビタミンK含量は1未満~4μg/100gで、15μg以下/100gであった。これに市販のビタミンK製剤(トコフェロール80SK(日清オイリオ製))をそれぞれ添加し、調製粉乳用油脂組成物中14μg/100gとすることができ、本発明の調製粉乳用油脂組成物を提供できる。
【0048】
比較例1~5においては、調製粉乳用油脂組成物中、リノール酸は16.8~17.0質量%、αリノレン酸は1.7~2.4質量%で、リノール酸/αリノレン酸は7.1~9.9で、実施例と同様、本発明が目的とする調製粉乳用油脂組成物の範囲内であった。しかしビタミンKは53~83μg/100gで、15μg/100gを大幅に超える含有量となる。