(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】分光測定装置及び分光測定方法
(51)【国際特許分類】
G01J 3/45 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
G01J3/45
(21)【出願番号】P 2019072488
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 勝也
(72)【発明者】
【氏名】世良 英之
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-156310(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087370(WO,A1)
【文献】特開2015-194359(JP,A)
【文献】特開2017-125834(JP,A)
【文献】特表2003-516522(JP,A)
【文献】特開平07-027613(JP,A)
【文献】特開2013-002951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01J 7/00 - G01J 9/04
G01M 11/00 - G01M 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に光を照射する光源と、
光源からの光が照射された対象物からの光を受光するアレイ受光器と、
光源からの光が照射された対象物からの光をアレイ受光器の受光面上で干渉させる干渉光学系と、
アレイ受光器からの出力信号を処理してスペクトルを算出する演算手段と
を備えており、
干渉光学系は、光源からの光が照射された対象物からの光でアレイ受光器の受光面をケーラー照明するケーラー照明光学系を構成しており、且つ、光源からの光が照射された対象物からの光を二つの光に分ける分離素子と、分けられた二つの光をアレイ検出器の受光面上で重ね合わせる合波素子とを備えていることを特徴とする分光測定装置。
【請求項2】
前記干渉光学系は、前記分離素子としてサバール板を備えたシアリング干渉光学系であることを特徴とする請求項1記載の分光測定装置。
【請求項3】
前記シアリング干渉光学系は、対象物からの光を中間集光位置に集光させる光学素子を備え、対象物からの光を中間集光位置に集光した後、前記アレイ受光器の受光面上で前記二つの光を重ね合わせる光学系であり、
前記サバール板は、前記光学素子の出射側に配置されていることを特徴とする請求項2記載の分光測定装置。
【請求項4】
前記サバール板は、前記中間集光位置に配置されていることを特徴とする請求項3記載の分光測定装置。
【請求項5】
光源からの光を対象物に照射する照射ステップと、
照射ステップにおいて光が照射された対象物からの光を干渉光学系によりアレイ受光器の受光面上で干渉させ、干渉光をアレイ受光器に受光させる受光ステップと、
アレイ受光器からの出力信号を演算手段により処理してスペクトルを算出する演算ステップとを備えており、
干渉光学系はケーラー照明光学系を構成しており、受光ステップは、対象物からの光でアレイ受光器の受光面をケーラー照明するステップであり、且つ、対象物からの光を分離素子で二つの光に分け、分けられた二つの光を合波素子によりアレイ検出器の受光面上で重ね合わせるステップであることを特徴とする分光測定方法。
【請求項6】
前記干渉光学系は、前記分離素子としてサバール板を備えたシアリング干渉光学系であり、前記受光ステップは、前記対象物からの光をサバール板により二つに分けるステップであることを特徴とする請求項5記載の分光測定方法。
【請求項7】
前記受光ステップは、前記対象物からの光を中間集光位置に集光させた後、前記アレイ受光器の受光面上で前記二つの光を重ね合わせるステップであり、
前記サバール板は、中間集光位置に前記対象物からの光を集光させる光学素子の出射側に配置されていることを特徴とする請求項6記載の分光測定方法。
【請求項8】
前記サバール板は、前記中間集光位置に配置されていることを特徴とする請求項7記載の分光測定方法。
【請求項9】
前記対象物の出射側の面が散乱面又はランベルト面であることを特徴とする請求項5乃至
8いずれかに記載の分光測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、分光測定の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
対象物に光を照射し、その対象物からの光(透過光、反射光、散乱光等)のスペクトルを測定する分光測定の技術は、対象物の組成や性質を分析する技術として代表的なものである。典型的な分光測定の手法は、回折格子を用いる手法である。入射スリットから入射する被測定光を凹面鏡によって平行光にして回折格子に照射し、回折格子からの分散光を同様に凹面鏡で集光し、集光位置に受光器を配置して検出する。回折格子の姿勢を変化(スキャン)させることで、受光器には順次異なった波長の光が入射し、受光器の出力が分光スペクトルとなる。
【0003】
このような回折格子を使用した分光測定では、回折格子のスキャンが必要なため、高速の測定ができない。また、入射スリットにおいて光を限定するため、測定のSN比を高くすることができない。このため、スキャンを何回か繰り返して受光器に入射する光の総量(光量)を多くすることが必要で、この点も高速測定ができない要因となっている。
【0004】
近年、多数の光電変換素子を一列に配列したエリアセンサを使用するマルチチャンネル型の分光計が開発されている。マルチチャンネル型の場合、回折格子のスキャンは不要であるため、高速化が期待できる。しかしながら、入射スリットで光を限定して凹面鏡で回折格子に照射するという基本構造はそのままであるため、SN比が小さいという問題は解決されず、光量をかせぐために測定時間が長くなる欠点が依然として存在している。
【0005】
一方、上記以外の分光測定の技術として、光の干渉を利用する技術が知られている。光の干渉を利用した分光技術の代表的なものは、マイケルソン干渉計を使ったフーリエ変換分光計である。マイケルソン干渉計を使ったフーリエ変換分光計では、光路長が固定である第一の光路に対し、可動ミラーにより光路長を可変とした第二の光路を設定し、光を二つに分けて一方を第一の光路に沿って進ませ、他方を第二の光路に沿って進ませた後、両者を重ね合わせて干渉させる。そして、可動ミラーを連続的に移動(スキャン)することで光路差を時間的に連続して変化させながら干渉光の強度を検出器で検出する。検出器からは、可動ミラーのスキャンに伴って強度が変化する信号が出力されるが、干渉光の強度は波長と光路差に応じて決まるから、出力される信号強度の時間的変化は光路差の変化によってもたらされたものであり、干渉信号の強度変化を表している。これは、インターフェログラムに相当しており、そのデータをフーリエ変換することで分光スペクトルが得られる。
【0006】
このような光の干渉を利用した分光測定では、入射スリットで光を限定することはないので、SN比を高くでき、高精度の測定が可能となる。しかしながら、可動ミラーのスキャンが必要なため、測定の高速化という点では大きな進歩とはなっていない。
光の干渉を利用した分光測定において、可動ミラーのスキャンを不要にして測定の高速化を図る技術として、光路差を時間的に連続して変化させるのではなく、空間的に連続して変化させる技術が特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0007】
これら特許文献に開示された技術は、シアリング干渉系を採用した技術であり、対象物の一点から出た光をサバール板によって平行に進む二つの光(光波)に分け、フーリエ変換レンズによってそれらが受光器の受光面上で結ぶようにして干渉させる。受光面上で結ぶ二つの光の光路差は、光軸からの距離に応じて異なるものとなり、空間的に光路差が連続して変化した状態となる。受光器としてはラインセンサのようなアレイ受光器が採用され、配列されたピクセルに光路差が順次異なった各二つの光が入射する。このため、アレイ受光器からはインターフェログラムが出力され、それをフーリエ変換することで分光スペクトルが得られる。このように光路差を空間的に連続して変化させる構成は、マルチチャンネル型のフーリエ変換分光計と呼び得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-45906号公報
【文献】特開2015-194359号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】鶴田匡夫著、1990年株式会社培風館発行、「応用光学▲2▼」、156~158頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように光路差を空間的に連続して変化させながら干渉光を得るマルチチャンネル型のフーリエ変換分光計では、マイケルソン干渉計のように可動ミラーをスキャンすることは不要なので、高速の測定が可能となる。
しかしながら、発明者の研究によると、このような技術を対象物の分光特性を測定する用途に用いる場合、対象物の光学的性質によっては特有の課題が生じ、そのために測定精度が低下する問題が発生し得ることが判った。
この出願の発明は、この知見に基づいて為されたものであり、マルチチャンネル型のフーリエ変換分光計の構成を備えた分光測定装置において、対象物の光学的性質によって測定精度の低下が生じるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願発明の分光測定装置は、対象物に光を照射する光源と、光源からの光が照射された対象物からの光を受光するアレイ受光器と、光源からの光が照射された対象物からの光をアレイ受光器の受光面上で干渉させる干渉光学系と、アレイ受光器からの出力信号を処理してスペクトルを算出する演算手段とを備えている。干渉光学系は、光源からの光が照射された対象物からの光でアレイ受光器の受光面をケーラー照明するケーラー照明光学系を構成しており、且つ、光源からの光が照射された対象物からの光を二つの光に分ける分離素子と、分けられた二つの光をアレイ検出器の受光面上で重ね合わせる合波素子とを備えている。
また、上記課題を解決するため、干渉光学系は、分離素子としてサバール板を備えたシアリング干渉光学系であり得る。
また、上記課題を解決するため、分光測定装置は、シアリング干渉光学系が、対象物からの光を中間集光位置に集光させる光学素子を備え、対象物からの光を中間集光位置に集光させた後、アレイ受光器の受光面上で二つの光を重ね合わせる光学系であり、サバール板は、前記光学素子の出射側に配置されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、分光測定装置は、サバール板が中間集光位置に配置されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、本願の分光測定方法は、光源からの光を対象物に照射する照射ステップと、照射ステップにおいて光が照射された対象物からの光を干渉光学系によりアレイ受光器の受光面上で干渉させ、干渉光をアレイ受光器に受光させる受光ステップと、アレイ受光器からの出力信号を演算手段により処理してスペクトルを算出する演算ステップとを備えている。この方法において、干渉光学系はケーラー照明光学系を構成しており、受光ステップは、対象物からの光でアレイ受光器の受光面をケーラー照明するステップであり、且つ、対象物からの光を分離素子で二つの光に分け、分けられた二つの光を合波素子によりアレイ検出器の受光面上で重ね合わせるステップである。
また、上記課題を解決するため、分光測定方法は、干渉光学系が分離素子としてサバール板を備えたシアリング干渉光学系であり、受光ステップが対象物からの光をサバール板により二つに分けるステップであるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、分光測定方法は、受光ステップが、対象物からの光を中間集光位置に集光させた後、アレイ受光器の受光面上で二つの光を重ね合わせるステップであり、サバール板が、中間集光位置に対象物からの光を集光させる光学素子の出射側に配置されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、分光測定方法は、サバール板が中間集光位置に配置されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、分光測定方法は、対象物の出射側の面が散乱面又はランベルト面であるという構成を持ち得る。
【発明の効果】
【0012】
以下に説明する通り、本願の分光測定装置又は分光測定方法によれば、干渉光学系がケーラー照明光学系を構成しているので、対象物の光学特性が空間的に周期的に変化している場合でも、その変化はキャンセルされる。このため、このような変化が起因した光の強弱がフーリエ変換の結果に含まれてしまうことがなく、スペクトル測定の精度が低下することはない。したがって、対象物の光学特性の空間的な分布によらず、常に高い精度でスペクトル測定が行える。
また、干渉光学系が、サバール板を備えたシアリング干渉光学系であると、全体としてコンパクトになり、装置が小型化される。
また、中間集光位置に対象物の像を結像させるレンズの出射側にサバール板が配置されていると、サバール板の作用との関係でスペクトル測定の精度が低下する恐れがなくなる。
また、サバール板が中間集光位置に配置されていると、サバール板のサイズを小さくでき、コスト上のメリットがある。
また、対象物の出射側の面が散乱面又はランベルト面であると、アレイ検出器の受光面で照度分布がより均一となり、良好な測定結果が安定して得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】空間的に連続した光路差の変化について示した概略図である。
【
図4】マルチチャンネル型のフーリエ変換分光計に特有の課題について示した概略図である。
【
図5】クリティカル照明光学系である干渉光学系(参考例の構成)と、ケーラー照明光学系である干渉光学系(実施形態の構成)とを対比して示した概略図である。
【
図6】マルチチャンネル型のフーリエ変換分光計におけるクリティカル照明とケーラー照明との測定精度の違いを確認したシミュレーション実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、実施形態の分光測定装置の概略図である。
図1に示す分光測定装置は、対象物に光を照射し、光照射された対象物からの光のスペクトルを測定する装置である。この装置は、前述したマルチチャンネル型のフーリエ変換分光計の構成を採用している。
具体的には、実施形態の分光測定装置は、光源1と、光源1からの光が照射された対象物Sからの光を受光するアレイ受光器2と、光照射された対象物Sからの光をアレイ受光器2の受光面上で干渉させる干渉光学系3と、アレイ受光器2からの出力信号を処理してスペクトルを算出する演算手段4とを備えている。
【0015】
光源1は、分光測定に必要な波長域の光を出射するものであり、例えば近赤外域で分光測定を行うのであれば、近赤外域の光を出射するものが使用される。光源1は、ハロゲンランプやLEDのようなインコヒーレント光源の場合もあるし、半導体レーザのようなある程度のコヒーレンスを持った光源の場合もある。
光源1からの光の照射位置に対象物Sを保持するため、この実施形態で受け板5が設けられている。この実施形態では、対象物Sの透過光を分光測定するので、受け板5は測定波長域において透明な材質となっている。
【0016】
図2は、アレイ受光器の受光面の概略図である。アレイ受光器は受光した光の強度を電気信号に変換(光電変換)してその信号を出力する。
図2に示すように、この実施形態では、アレイ受光器2は、長方形のピクセル21を多数配列したものが採用されている。長方形の各ピクセル21は、配列方向の長さに比べてそれと直交する方向(Y方向)の長さの方が長い。これは、干渉縞のY方向における積分量を多くしてSN比を高くする観点からである。このようなアレイ受光器2としては、例えば、浜松ホトニクス株式会社製のInGaAsリニアイメージセンサG14237-512WA等を使用することができる。
【0017】
干渉光学系3は、この実施形態では、シアリング干渉光学系となっている。即ち、光照射された対象物Sの一点から出た光を二つの光(光波)に分け、アレイ受光器2の受光面上で干渉させる光学系となっている。したがって、干渉光学系3は、分離素子と、合波素子とを備えている。
【0018】
分離素子には、この実施形態では、サバール板31が使用されている。サバール板31は、偏光プリズムの一種で、二枚の複屈折結晶板311で形成されている。各複屈折結晶板311は、板厚方向が光学軸に対して45度の傾きを持つように切断されており、両者の厚さは厳密に等しいものとなっている。そして、互いの光学軸が直交するよう重ね合わせて接合される。
【0019】
サバール板31は、45度の角度の直線偏光光を二つの異なる角度の直線偏光光L1,L2に分離する性質を持っている。すなわち、光源1からの光が照射された対象物Sの一点から出た光は、サバール板31によって互いに平行な光路に沿って進む二つの光に分けられる。分離した直線偏光光L1,L2は、それぞれ0度(紙面と平行)、90度(紙面に垂直)の向きの偏光であり、互いに平行な光路に沿って進む。
図1に示すように、サバール板31の入射側には偏光子33が配置されており、サバール板31の出射側には検光子34が配置されている。偏光子33は、対象物Sから出た無偏光の光を直線偏光光に変換するためのものである。例えば、方解石等の結晶系の偏光板、偏光フィルムや染料系偏光板のような有機系の偏光板、さらにはワイヤーグリッド偏光板のようなグリッド偏光板等が偏光子33として使用できる。
【0020】
検光子34は、この実施形態では、分離された二つの直線偏光光の偏光の向きを揃える目的で配置されている。検光子34も一種の偏光板であり、直線偏光光L1,L2に対して、±45度の方向の直線偏光光を透過させる姿勢で配置されている。このため、検光子34を透過すると、光L1,L2は、互い平行なずれた光路に沿って進みつつも偏光の方向が揃った直線偏光光となって進むようになっている。
【0021】
合波素子としては、この実施形態では、レンズ32が使用されている。レンズ32は、分離素子により分離した二つの光がアレイ受光器2の受光面上で重なり合うよう設けられたレンズである。二つの光は、対象物Sの一点から出た光であり、偏光子33、サバール板31、検光子34を経ることで同じ方向の直線偏光光となっているため、受光面上で干渉してインターフェログラムを形成する。尚、レンズ32は、フーリエ変換を行うレンズであるので、以下、フーリエ変換レンズという。
【0022】
図3は、空間的に連続した位相差の変化について示した概略図である。
前述したように、サバール板31は、対象物Sの一点から出た光を互いに平行な光路に沿って進む二つの光に分離する。いま、二つの光の組が三つあるとし、これらを光L
11とL
21、光L
12とL
22、光L
13とL
23とする。光L
11とL
21、光L
12とL
22、光L
13とL
23は、サバール板31からの出射角がそれぞれ等しい。但し、組と組との関係では出射角は異なっており、光軸Aから離れるほど出射角は大きい。これらの光L
11~L
13,L
21~L
23において、各二つの光は光路差を持ってサバール板31を出射している。光路差Δdは、サバール板31を出射した際の出射角と、サバール板31を出射して平行に進む際の光路のずれ幅に比例する。光路のずれ幅は一定であり、出射角は光軸Aから離れるに従って大きくなるから、二つの光L
11,L
21の光路差をΔd
1、光L
12,L
22の光路差をΔd
2、光L
13,L
23の光路差をΔd
3とすると、Δd
1<Δd
2<Δd
3となる。尚、この例では、L
11,L
21は光軸A上を進んできた光が分離された光であるので、Δd
1=0である。
【0023】
これらの光
11~L
13,L
21~L
23は、
図3に示すように、合波素子としてのフーリエ変換レンズ32によりそれぞれアレイ受光器2上の受光面の一点に結ぶ。つまり、アレイ受光器2の各ピクセル21についてみると、光軸Aに近いピクセル21ほど光路差は小さく、光軸Aから離れるに従って順次大きくなる。これは、光路差を空間的に連続して変化させていることになり、その変化する光路差の各々において光を結ばせて各ピクセル21に入射させている。各ピクセル21において結ぶ光L1,L2は対象物Sから出た一つの光を分離したものであり、したがって良好に干渉する。このため、各ピクセル21が並んでいる順に光電変換結果を出力させると、それはインターフェログラムということになる。
【0024】
演算手段4としては、この実施形態では汎用PCが使用されている。アレイ受光器2と演算手段4の間にはAD変換器6が設けられており、アレイ受光器2の出力はAD変換器6を介して演算手段4に入力される。
演算手段4は、プロセッサ41や記憶部(ハードディスク、メモリ等)42を備えている。記憶部42に記憶されたプログラムには、アレイ受光器2からの出力信号(インターフェログラム)を処理してスペクトルを算出するスペクトル算出プログラム43が含まれる。スペクトル算出プログラム43は、離散フーリエ変換を含む演算処理を行ってスペクトルを算出する。尚、記憶部42には、基準スペクトルデータを記録したファイル44が記憶されている。基準スペクトルデータは、対象物Sを配置しない状態で予め測定したスペクトルデータであり、吸収スペクトル等の算出の際に参照される。
【0025】
このような実施形態の分光測定装置において、干渉光学系3は、対象物Sからの光でアレイ受光器2の受光面をケーラー照明する光学系となっている。この点は、実施形態のようなマルチチャンネル型のフーリエ変換分光計の構成が持つ特有の課題を解決する意義を有している。以下、この点について説明する。
【0026】
上述したように、マルチチャンネル型のフーリエ変換分光計では、重ね合わせた二つの光の光路差を時間的に変化させるのではなく、空間的に変化させる。このため、アレイ受光器を用い、アレイ受光器における各ピクセルの配列方向において光路差を変化させる。重ね合わされて各ピクセルに入射する二つの光の波長と光路差に応じて干渉が生じ、したがって各ピクセルから光電変換結果を順次出力させてフーリエ変換すると、スペクトルが得られる。
【0027】
この場合、各ピクセルからの光電変換結果には、干渉によって生じた信号の強弱の他、対象物の光学特性の不均一性に起因した信号の強弱が含まれ得る。発明者の研究によると、この点が、マルチチャンネル型のフーリエ変換分光計の弱点になり得る。この点について、
図4を参照して説明する。
図4は、マルチチャンネル型のフーリエ変換分光計に特有の課題について示した概略図である。
【0028】
実施形態のように対象物Sに光を照射し、その対象物Sからの光をアレイ受光器2の受光面上で干渉させる光学系は、対象物Sからの光で受光面を照明する照明光学系であるともいえる。つまり、対象物Sをある種の光源とし、そこからの光で受光面を照明する光学系である。この場合、受光面における照明の均一性、即ち照度分布は、光源の発光分布(発光強度の空間的分布)に影響を受ける。
【0029】
この場合、
図4に示すように光源(対象物S)の発光分布において強弱(発光の強弱)が存在しており、その強弱が周期的である場合、深刻な問題が生じる。即ち、インターフェログラムデータをフーリエ変換してスペクトルを算出する際、光源の発光分布に起因した強弱が紛れ込み、フーリエ変換の結果に含まれてしまう。この結果、スペクトルの測定精度が低下する。
【0030】
この場合の光源の発光分布は、対象物Sの光学特性に相当している。例えば、対象物Sに細かな模様のようなものが形成されており、模様のパターンで光の透過率が変化しているとする。模様のパターンが周期的であると、分光測定の精度を低下させてしまう。模様は明暗のような色の違いの場合や、凹凸のような形状の違いの場合もあり得る。
【0031】
また、模様ではなくとも、対象物Sの媒質としての光学特性が周期的に変化している場合もあり得る。例えば、対象物の組成配分(不純物の配分)が光軸に垂直な方向で周期的に変化しており、このために透過率が周期的に変化しているような場合も、同様にスペクトルの測定精度を低下させてしまう。
より具体的な例を示すと、実施形態の分光測定装置は、錠剤のような固体化成品の検査に利用され得る。この場合、この種の製品は、表面に刻印がされていて細かな凹凸がある場合がある。この凹凸が上記のようにスペクトル測定の精度低下の要因となり得る。
【0032】
実施形態の分光測定装置は、このような特有の課題を考慮し、干渉光学系3としてケーラー照明を行う光学系を採用している。この点について、クリティカル照明光学系と対比しながら説明する。
図5は、クリティカル照明光学系である干渉光学系(参考例の構成)と、ケーラー照明光学系である干渉光学系(実施形態の構成)とを対比して示した概略図である。
図5(1)がクリティカル照明光学系の場合、
図5(2)がケーラー照明光学系の場合を示す。
【0033】
図5(1)に示すように、クリティカル照明光学系である場合、干渉光学系3は、対象物Sの一点aからの光を、サバール板31で二つの光に分け、それらをアレイ受光器2の受光面の一点a’に結ばせる。
図5(1)では、図示の都合上、サバール板31からの光線は一つになっているが、実際には二本が出射し、受光面で結ぶ。そして、対象物Sの同じ一点aから別の角度で出射した光も、サバール板31で二つの光に分けてられ、アレイ受光器2の受光面の同一の点a’に結ぶ。対象物Sの別の一点bから出た光は、同様にサバール板31で二つの光に分けられた後、受光面の別の一点b’に結ぶ。さらに別の一点cから出た光は、同様に受光面のさらに別の一点c’に結ぶ。このように、クリティカル照明光学系では、対象物Sの一点からの光を出射角によらずに同じ一点に結ばせるようになっており、対象物Sの各点とアレイ受光器2の受光面の各点とが一対一で対応している。
【0034】
一方、
図5(2)に示すように、ケーラー照明光学系である場合、干渉光学系3は、対象物Sの一点aから出た光を、出射角に応じて受光面上の異なる位置に結ばせる。例えば、対象物Sの一点aからある出射角で出射した光は、サバール板31で二つの光に分けられた後、受光面の一点a’に結ぶが、別の出射角で点aから出射した光は、サバール板31で二つの光に分けられた後、受光面の別の一点b’に結ぶ。一点aからさらに別の出射角で出射した光は、受光面のさらに別の一点c’に結ぶ。対象物Sの別の一点bから出た光も同様で、出射角に応じて受光面において異なる点a’,b’,c’に結ぶ。
【0035】
上記説明から解るように、クリティカル照明光学系の場合、対象物Sの各点と受光面の各点とが一対一で対応しているので、対象物Sを光源としてみた場合、その発光分布に起因する強弱が受光面にそのまま現れてしまう。このため、上述したように、対象物Sの光学特性が空間的に周期的に変化していてその周期が二つの光の光路のずれ幅dに近い場合、アレイ受光器2からの出力データをフーリエ変換して得られるスペクトルの精度が低下してしまう。
一方、ケーラー照明光学系の場合、対象物Sの一点からの光は、出射角に応じて受光面上の異なる点に分散して集光するので、対象物Sの光学特性に空間的・周期的な変化があったとしても、その変化は受光面上ではキャンセルされる。したがって、スペクトルの測定精度が低下することはない。
【0036】
また、対象物Sの出射側の面が散乱面である場合、受光面での照度分布がより均一となり、良好な測定結果が安定して得られる。特に、対象物Sの出射側の面がランベルト面である場合、受光面での強度がさらに均一となり、さらに良好な測定結果が安定して得られる。
【0037】
図6は、マルチチャンネル型のフーリエ変換分光計における上記クリティカル照明とケーラー照明との測定精度の違いを確認したシミュレーション実験の結果を示す図である。
図6に結果を示すシミュレーション実験では、
図5(1)(2)に示す干渉光学系3をそれぞれ使用し、対象物Sのシミュレーションとして、
図6(1)に示すような二つの異なる発光分布の光源を想定した。発光分布Aは均一な強度分布であり、発光分布Bは正弦波状に異なる強度分布である。つまり、対象物Sからの光がこのような均一又は正弦波状の強弱分布を持っているとしてシミュレーションを行った。波長については、1050nmの単一波長であるとし、この光の干渉光により得られたデータについてフーリエ変換を行うシミュレーションとした。
【0038】
図6(2A)(2B)には、クリティカル照明光学系を使用した場合のフーリエ変換結果を示している。このうち、
図6(2A)は、均一な強度分布Aの場合のフーリエ変換結果、
図6(2B)は周期的に変化する強度分布Bの場合のフーリエ変換結果を示す。
また、
図6(3A)(3B)には、ケーラー照明光学系を使用した場合のフーリエ変換結果が示されている。同様に、
図6(3A)は、均一な強度分布Aの場合のフーリエ変換結果、
図6(3B)は周期的に変化する強度分布Bの場合のフーリエ変換結果を示す。
【0039】
図6(2A)と(2B)を比べると判るように、クリティカル照明光学系の場合、対象物Bからの光の強度が空間的に一定の場合と周期的に変化する場合とで、フーリエ変換の結果が異なっている。これは、クリティカル照明の場合、対象物Sの発光強度分布の影響がフーリエ変換の精度に影響を与えることを示している。
一方、
図6(3A)と(3B)とを比べると判るように、ケーラー照明光学系の場合、対象物Bからの光の強度が空間的に一定の場合と周期的に変化する場合とで、フーリエ変換の結果は全く一緒となっている。即ち、ケーラー照明の場合、対象物Sの発光強度分布はフーリエ変換の精度に影響を与えることがないことがシミュレーションによって確認された。このような点を考慮し、実施形態の分光測定装置は、干渉光学系3としてケーラー照明光学系を構成するものを採用している。
【0040】
具体的な光学系の構成としては、ケーラー照明光学系の場合、
図1及び
図5(2)に示すように、クリティカル照明光学系に対してレンズ35を一枚追加した構成となる。
図5(1)に示すクリティカル照明光学系の場合、サバール板31のところでいったん集光し、この部分では一対一に対応していないが、フーリエ変換レンズで結像させた際には、クリティカル照明(一対一で対応した照明)となってしまう。ケーラー照明光学系の場合、
図5(2)に示すように、レンズ35を一枚追加し、サバール板31のところの集光位置ではクリティカル照明としておき、フーリエ変換レンズ32で結像させる際にケーラー照明となるようにしている。いったん集光させる位置を、以下、中間集光位置f1という。中間集光位置は、途中でいったん集光する位置の意味であり、長さ方向の中央を必ずしも意味しない。
尚、この実施形態おいて、中間集光位置f1を形成するレンズ36を前段集光レンズという。前段集光レンズ36については、通常の丸レンズやシリンドリカルレンズ、フライアイレンズ又はロッドレンズなど、適宜のものが用いられる。
【0041】
サバール板31の位置は、必ずしも中間集光位置f1でなくとも良い。但し、中間集光位置f1にサバール板31を配置しておくと、サバール板31のサイズを小さくできるので、コスト上のメリットがある。即ち、サバール板31は複屈折結晶より成っており、サイズが大きくなるとコスト高となるからである。中間集光位置f1に配置するとは、サバール板31のいずれかの箇所が中間集光位置f1にあれば足り、サバール板31の光軸方向の中央に中間集光位置f1が位置している必要はない。
尚、フーリエ変換レンズは、各ピクセル21の配列方向で結像作用を有するものの、それに対して垂直な方向では必ずしも結像作用はなくて良い。
【0042】
また、サバール板31をレンズ35と前段集光レンズ36の間に配置した構成であっても実施は可能であるが、サバール板31が分離して生成した二つの光の光路が歪む(平行でなくなる)場合があり、スペクトル測定の精度低下につながる可能性がある。したがって、サバール板31は、前段集光レンズ36の出射側に配置されることが好ましい。
【0043】
次に、このような実施形態の分光測定装置の動作について説明する。以下の説明は、分光測定方法の実施形態の説明でもある。
実施形態の分光測定装置は、対象物Sの分光分析のために使用される装置であり、測定に先立って対象物Sが受け板5に載置される。光源1からの光が照射光学系により対象物Sに照射される。光の一部は対象物Sを透過し、干渉光学系3に達する。
【0044】
干渉光学系3内の分離素子(サバール板31)は、光を二つの光波に分離し、互いに平行な光路に沿って進ませる。これらの光は、合波素子としてのフーリエ変換レンズ32によりアレイ受光器2の受光面上で重なり合う。これらの光は、元は一つの光であるので、受光面上で良好に干渉し、インターフェログラムを形成する。
【0045】
この結果、アレイ受光器2からはインターフェログラムの信号が出力され、AD変換器6を介して演算手段4に入力される。演算手段4では、離散フーリエ変換を含む演算処理が行われ、スペクトルが算出される。算出されたスペクトルは、記憶部42に記憶されているファイル44内の基準スペクトルデータと比較され、吸収スペクトルが算出される。吸収スペクトルは、測定結果としてディスプレイへの表示等が行われる。
【0046】
このような実施形態の分光測定装置及び分光測定方法によれば、干渉光学系3がケーラー照明光学系を構成しているので、対象物Sの光学特性が空間的に周期的に変化している場合でも、その変化はキャンセルされた状態で各干渉光がアレイ受光器2の各ピクセルで受光される。このため、スペクトル測定の精度が低下することはない。即ち、実施形態の分光測定装置及び分光測定方法によれば、対象物Sの光学特性の空間的な分布によらず、常に高い精度でスペクトル測定が行える。
【0047】
上記実施形態において、サバール板31としては、フランコン型サバール板が使用されることもあり得る。フランコン型サバール板は、二枚の複屈折結晶の間にλ/2波長板を配置したサバール板である。非特許文献1に示されているように、フランコン型サバール板の場合、Y方向での干渉縞の歪みを防止できる。このため、光量を多く確保しつつスペクトル測定の精度低下を防止することができる。
【0048】
また、干渉光学系3としては、サバール板31を使用する構成の他、三角光路コモンパス干渉光学系の構成が採用されることもあり得る。但し、三角光路コモンパス干渉光学系は、二枚のミラーで三角形状の光路を形成するので、光学系全体として大かがりになり易い。これと比較すると、サバール板31を使用した干渉光学系3は全体としてコンパクトになるので、装置の小型化に貢献できる。
【0049】
尚、上記実施形態では、対象物Sの透過光のインターフェログラムを取得して分光スペクトルを算出する例を説明したが、反射光や散乱光等のインターフェログラムを取得して分光スペクトルを算出する場合もある。したがって、対象物Sからの光とは、光照射された対象物Sからの透過光、反射光、散乱光などを含むものである。
また、基準スペクトルデータについては予め測定しておくと説明したが、リアルタイムで基準スペクトルデータを取得する場合もあり得る。この場合は、光源1からの光を二つに分け、一方を対象物Sに照射し、他方は対象物Sを経由せずに受光器で受光して基準スペクトルデータとする。
【符号の説明】
【0050】
1 光源
2 アレイ受光器
21 ピクセル
3 干渉光学系
31 サバール板
32 フーリエ変換レンズ
33 偏光子
34 検光子
35 レンズ
36 前段集光レンズ
4 演算手段
43 スペクトル算出プログラム
5 受け板
6 AD変換器
S 対象物