(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】細胞賦活剤及びヒアルロン酸分解抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/717 20060101AFI20230523BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230523BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230523BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230523BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230523BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20230523BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230523BHJP
A61L 15/14 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A61K31/717
A61K9/70
A61P31/12
A61P43/00 111
A61P43/00 107
A61K8/73
A61Q19/10
A61Q19/00
A61L15/14
(21)【出願番号】P 2019073663
(22)【出願日】2019-04-08
【審査請求日】2022-03-31
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 一平
(72)【発明者】
【氏名】長江 明日香
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】多田 孝清
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/147287(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/078586(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/131721(WO,A1)
【文献】特開2003-313201(JP,A)
【文献】国際公開第2008/066193(WO,A1)
【文献】特開2008-222604(JP,A)
【文献】特開2006-274245(JP,A)
【文献】特開2020-066658(JP,A)
【文献】特開2017-014509(JP,A)
【文献】特開2017-155030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸エステル化セルロースナノファイバーを含み、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーがI型結晶構造を有し、
I型結晶の結晶化度が30%以上であり、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーの硫酸エステルの置換度が0.1~1であり、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径が2~100nmであり、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーが不織布状であ
り、
不織布の構成繊維の総量100重量部当たり、硫酸エステル化セルロースナノファイバーが10重量部以上である、細胞賦活剤。
【請求項2】
請求項
1に記載の細胞賦活剤を含む、細胞賦活用の医薬品。
【請求項3】
請求項
1に記載の細胞賦活剤を含む、細胞賦活用の医療材料。
【請求項4】
請求項
1に記載の細胞賦活剤を含む、細胞賦活用の化粧品。
【請求項5】
硫酸エステル化セルロースナノファイバーを含み、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーがI型結晶構造を有し、
I型結晶の結晶化度が30%以上であり、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーの硫酸エステルの置換度が0.1~1であり、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径が2~100nmであり、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーが不織布状であ
り、
不織布の構成繊維の総量100重量部当たり、硫酸エステル化セルロースナノファイバーが10重量部以上である、ヒアルロン酸分解抑制剤。
【請求項6】
請求項
5に記載のヒアルロン酸分解抑制剤を含む、ヒアルロン酸分解抑制用の医薬品。
【請求項7】
請求項
5に記載のヒアルロン酸分解抑制剤を含む、ヒアルロン酸分解抑制用の医療材料。
【請求項8】
請求項
5に記載のヒアルロン酸分解抑制剤を含む、ヒアルロン酸分解抑制用の化粧品。
【請求項9】
硫酸エステル化セルロースナノファイバーを含み、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーがI型結晶構造を有し、
I型結晶の結晶化度が30%以上であり、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーの硫酸エステルの置換度が0.1~1であり、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径が2~100nmであり、
硫酸エステル化セルロースナノファイバーが不織布状であ
り、
不織布の構成繊維の総量100重量部当たり、硫酸エステル化セルロースナノファイバーが10重量部以上である、抗ウイルス剤。
【請求項10】
請求項
9に記載の抗ウイルス剤を含む、抗ウイルス用の医薬品。
【請求項11】
請求項
9に記載の抗ウイルス剤を含む、抗ウイルス用の医療材料。
【請求項12】
請求項
9に記載の抗ウイルス剤を含む、抗ウイルス用の清拭具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、医療材料、化粧品等の分野で使用される細胞賦活剤、ヒアルロン酸分解抑制剤、及び抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーは、木材から得られるセルロース(パルプ)をナノオーダーにまで高度にナノ化したバイオマス素材である。セルロースナノファイバーは、植物由来であるため環境負荷が小さく、しかも高強度、軽量、耐熱変形性等の優れた特性を有しているので、化粧品、医薬、ヘルスケア製品、フィルター素材、高ガスバリア包装部材、エレクトロニクスデバイス等の多岐にわたる分野で利用が期待されている。
【0003】
また、セルロースナノファイバーの表面を官能基で修飾することによって、官能基の種類によって親水性から疎水性まで様々な特性を付与でき、ナノマテリアルとしての高機能化が図れるため、従来、硫酸エステル化、硝酸エステル化、リン酸エステル化、カルボキシル化、アセチル化、カルボキシメチル化、アルキル化、ヒドロキシアルキル化等の表面修飾が施された化学修飾セルロースナノファイバーが種々開発されている。化学修飾セルロースナノファイバーの中でも、硫酸エステル化セルロースナノファイバーについては、近年、ジメチルスルホキシド、無水酢酸及びプロピオン酸無水物から選択される少なくとも1つのカルボン酸無水物、並びに硫酸を含む解繊溶液をセルロースに浸透させてセルロースを解繊するという簡便な手法で、平均繊維径が1nm~500nm且つ天然セルロース固有のI型結晶構造が破壊されずに維持された状態で製造できることが報告されており(特許文献1参照)、その応用が期待されている。
【0004】
しかしながら、従来、硫酸エステル化セルロースナノファイバーをはじめとする化学修飾セルロースナノファイバーについては、物理的特性や化学的特性については精力的に検討されているものの、生物学的活性についての検討は十分とはいえないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、化学修飾セルロースナノファイバーの新規用途を提供することである。具体的には、本発明は、化学修飾セルロースナノファイバーを用いて、細胞賦活剤、ヒアルロン酸分解抑制剤、及び抗ウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、硫酸エステル化セルロースナノファイバーには、細胞を賦活化する作用、ヒアルロニダーゼを阻害する作用、及び抗ウイルス作用があることを知見し、細胞賦活剤、ヒアルロン酸分解抑制剤、及び抗ウイルス剤として利用できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーを含む、細胞賦活剤。
項2. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーがI型結晶構造を有する、項1に記載の細胞賦活剤。
項3. I型結晶の結晶化度が30%以上である、項2に記載の細胞賦活剤。
項4. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーの硫酸エステルの置換度が0.1~1である、項1~3のいずれかに記載の細胞賦活剤。
項5. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径が2~100nmである、項1~4のいずれかに記載の細胞賦活剤。
項6. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーが不織布状又はフィルム状である、項1~5のいずれかに記載の細胞賦活剤。
項7. 項1~6のいずれかに記載の細胞賦活剤を含む、細胞賦活用の医薬品。
項8. 項1~6のいずれかに記載の細胞賦活剤を含む、細胞賦活用の医療材料。
項9. 項1~6のいずれかに記載の細胞賦活剤を含む、細胞賦活用の化粧品。
項10. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーを含む、ヒアルロン酸分解抑制剤。
項11. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーがI型結晶構造を有する、項10に記載のヒアルロン酸分解抑制剤。
項12. I型結晶の結晶化度が30%以上である、項11に記載のヒアルロン酸分解抑制剤。
項13. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーの硫酸エステルの置換度が0.1~1である、項10~12のいずれかに記載のヒアルロン酸分解抑制剤。
項14. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径が2~100nmである、項10~13のいずれかに記載のヒアルロン酸分解抑制剤。
項15. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーが不織布状又はフィルム状である、項10~14のいずれかに記載のヒアルロン酸分解抑制剤。
項16. 項10~15のいずれかに記載のヒアルロン酸分解抑制剤を含む、ヒアルロン酸分解抑制用の医薬品。
項17. 項10~15のいずれかに記載のヒアルロン酸分解抑制剤を含む、ヒアルロン酸分解抑制用の医療材料。
項18. 項10~15のいずれかに記載のヒアルロン酸分解抑制剤を含む、ヒアルロン酸分解抑制用の化粧品。
項19. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーを含む、抗ウイルス剤。
項20. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーがI型結晶構造を有する、項19に記載の抗ウイルス剤。
項21. I型結晶の結晶化度が30%以上である、項20に記載の抗ウイルス剤。
項22. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーの硫酸エステルの置換度が0.1~1である、項19~21のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
項23. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径が2~100nmである、項19~22のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
項24. 硫酸エステル化セルロースナノファイバーが不織布状又はフィルム状である、項19~23のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
項25. 項19~24のいずれかに記載の抗ウイルス剤を含む、抗ウイルス用の医薬品。
項26. 項19~24のいずれかに記載の抗ウイルス剤を含む、抗ウイルス用の医療材料。
項27. 項19~24のいずれかに記載の抗ウイルス剤を含む、抗ウイルス用の清拭具。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを使用した細胞賦活剤が提供される。本発明の細胞賦活剤は、医薬品、医療材料、化粧品等の分野で使用され、創傷治癒の促進、肌の状態の改善又は正常化、保湿、肌荒れ改善、敏感肌の解消、皮膚老化の防止等に有効である。
【0010】
また、本発明によれば、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを使用したヒアルロン酸分解抑制剤が提供される。本発明のヒアルロン酸分解抑制剤は、医薬品、医療材料、化粧品等の分野で使用され、抗炎症、抗アレルギー、創傷治癒促進、肌の状態の改善又は正常化、保湿、肌荒れ改善、敏感肌の解消、皮膚老化の防止等に有効である。
【0011】
更に、本発明によれば、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを使用したウイルス剤が提供される。本発明のヒアルロン酸分解抑制剤は、医薬品、医療材料、清拭具等の分野で使用され、ウイルス感染の防止に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】試験例1において、硫酸エステル化セルロースナノファイバーの細胞賦活作用を評価した結果を示す図である。
【
図2】試験例2において、硫酸エステル化セルロースナノファイバーのヒアルロニダーゼ活性阻害作用を評価した結果を示す図である。
【
図3】試験例3において、硫酸エステル化セルロースナノファイバーの抗ウイルス作用を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の細胞賦活剤、ヒアルロン酸分解抑制剤、及び抗ウイルス剤は、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを含有することを特徴とする。以下、本発明の細胞賦活剤、ヒアルロン酸分解抑制剤、及び抗ウイルス剤について詳述する。
【0014】
[硫酸エステル化セルロースナノファイバーの特性]
本発明では、細胞賦活効果、ヒアルロン酸分解抑制、及び抗ウイルス効果を奏する成分として、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを使用する。硫酸エステル化セルロースナノファイバーとは、セルロースナノファイバー表面の水酸基が硫酸エステル化されている化学修飾セルロースナノファイバーである。
【0015】
本発明で使用される硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー表面の水酸基の全てが硫酸エステル化修飾されていてもよく、また一部のみが硫酸エステル化修飾されていてもよい。本発明で使用される硫酸エステル化セルロースナノファイバーにおける硫酸エステルの置換度については、特に制限されないが、細胞賦活効果、ヒアルロン酸分解抑制効果、及び抗ウイルス効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは0.1~1、より好ましくは0.12~0.80、更に好ましくは0.15~0.60が挙げられる。硫酸エステルの置換度が0.1より低くなると、細胞賦活効果等の所望の効果が発現し難くなる傾向が現れることがある。また、硫酸エステルの置換度が1.0を超えると、結晶化度が低く、水に溶ける恐れがあるため好ましくない。水に溶ける性質になると、製造過程の精製不足による不純物の残留や硫酸エステル化CNFを使用する過程に流失して効果が低下する問題が生じ得る。即ち、細胞賦活効果、ヒアルロン酸分解抑制効果、抗ウイルス効果、精製又は純度、及び水耐性を踏まえて、最も好ましくは0.15から0.6である。なお、本発明において、「硫酸エステル化セルロースナノファイバーにおける硫酸エステルの置換度」とは、セルロースナノファイバーに含まれるアルコール性水酸基への硫酸エステルの導入頻度、即ち、セルロースナノファイバーを構成するグルコース残基数に対するセルロースナノファイバーにおける硫酸エステルの数の比率である。
【0016】
硫酸エステル化セルロースナノファイバーにおける硫酸エステルの置換度は、燃焼吸収―イオンクロマトグラフィー(IC)法によって硫黄含有率を測定し、当該硫黄含有率から算出することによって求めることができる。また、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを精製水に0.3重量%の濃度で分散させた液の電気伝導度は、燃焼吸収―IC法で測定される硫黄含有率と相関があり、当該相関から下記式によって電気伝導度(0.3重量%分散液)から硫酸エステルの置換度を算出できることが確認されている。従って、硫酸エステルの置換度は、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを精製水に0.3重量%の濃度で分散させた液の電気伝導度を測定して、下記式から算出することもできる。
算出式:硫酸エステルの置換度=0.001067×電気伝導度
【0017】
本発明で使用される硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径については、特に制限されないが、細胞賦活効果及びヒアルロン酸分解抑制をより一層向上させるという観点から、好ましくは2~100nmであり、より好ましくは3~50nmであり、更に好ましくは3~20nm、特に好ましくは3~10nmが挙げられる。なお、本発明において、硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した写真の画像からランダムに50個の繊維を選択して繊維幅を計測し、加算平均した値である。
【0018】
本発明で使用される硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維長については、特に制限されないが、細胞賦活効果、ヒアルロン酸分解抑制効果、及び抗ウイルス効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは500nm以上、より好ましくは600~5000nmであり、更に好ましくは700~4000nm、特に好ましくは800~3000nmが挙げられる。平均繊維長が500nm未満になると、精製し難く不純物が残留する恐れがあり、更にフィルムや不織布に成形すると、脆くて弱く成り易い傾向が現れる。また、平均繊維長が長くなる程、ネットワークが形成しやすく、フィルムや不織布に成形しても十分な強度が得られ易くなるが、5000nmを超えると、粘度が高くなり、加工性や取扱性が低下する傾向が現れ易くなる。なお、本発明において、硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維長は、TEMで観察した写真の画像からランダムに50個の繊維を選択して繊維長を計測し、加算平均した値である。
【0019】
本発明で使用される硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、I型結晶構造を有していることが好ましい。I型結晶構造とは、天然セルロースが有する固有の結晶構造である。本発明で使用される硫酸エステル化セルロースナノファイバーのI型結晶の結晶化度としては、好ましくは30%以上、より好ましくは35~80%、更に好ましくは40~70%が挙げられる。I型結晶の結晶化度が30%以上である場合、硫酸エステル化セルロースナノファイバーは水に対して不溶性になり、このような特性が細胞賦活効果及びヒアルロン酸分解抑制を効果的に奏させる上で重要になる。また、I型結晶の結晶化度が30%より低くなると、水に溶ける性質になり易く、製造過程の精製不足による不純物が残留し易くなり、このような不純物が硫酸エステル化セルロースナノファイバーを使用する過程に流出して所望効果を低下させる要因になることがある。なお、本発明において、I型結晶の結晶化度は、以下の方法で測定される値である。
【0020】
<I型結晶の結晶化度の測定方法>
参考文献(Textile Res. J. 29:786-794(1959))の記載に基づき、XRD分析法(Segal法)により、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度及びアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度を測定し、以下の式に従って算出される値である。
I型結晶の結晶化度(%)=[(I200-IAM)/I200]×100
[式中、I200はX線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、IAMはアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度である]。
【0021】
前記特性を有する硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、公知の手法で製造できる。例えば、特許文献1には、ジメチルスルホキシド、無水酢酸及びプロピオン酸無水物から選択される少なくとも1つのカルボン酸無水物、並びに硫酸を含む解繊溶液をセルロース(特にI型結晶構造を有するセルロース)に浸透させてセルロースを解繊する方法によって、前記特性を有する硫酸エステル化セルロースナノファイバーが得られることが開示されているので、特許文献1に記載の方法で、前記特性を有する硫酸エステル化セルロースナノファイバーを簡便に製造することができる。
【0022】
[硫酸エステル化セルロースナノファイバーの形状]
本発明で使用される硫酸エステル化セルロースナノファイバーの形状については、適用する製品の形態に応じて適宜設定すればよいが、例えば、粉末状、フィルム状、不織布状、ゲル状、のり上、粒状等が挙げられる。セルロースナノファイバーを粉末状、フィルム状、不織布状等の形状に加工する方法は公知であり、本発明で使用される硫酸エステル化セルロースナノファイバーも、セルロースナノファイバーの場合と同様の方法で、所望の形状に加工することができる。
【0023】
また、硫酸エステル化セルロースナノファイバーをフィルム状にする場合、硫酸エステル化セルロースナノファイバー以外の素材を基材成分として用いて形成したフィルムに対して硫酸エステル化セルロースナノファイバーで表面コートしたり、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを基材成分として使用してフィルムを形成したりすればよい。硫酸エステル化セルロースナノファイバーを基材成分として使用してフィルムを形成する場合、基材成分には、硫酸エステル化セルロースナノファイバーのみが用いられていてもよく、また硫酸エステル化セルロースナノファイバーと共に他の有機材料及び/又は無機材料が用いられていてもよい。硫酸エステル化セルロースナノファイバーと他の有機材料及び/又は無機材料を基材成分として使用してフィルムにする場合、フィルムの基材成分全体に含まれる硫酸エステル化セルロースナノファイバーの比率については、特に制限されないが、細胞賦活効果、ヒアルロン酸分解抑制効果、及び抗ウイルス効果をより一層向上させるという観点から、フィルムの基材成分の総量100重量部当たり、硫酸エステル化セルロースナノファイバーが10重量部以上、好ましくは50重量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上、特に好ましくは90質量部以上又は95質量部以上を占めていることが挙げられる。
【0024】
また、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを不織布状にする場合、硫酸エステル化セルロースナノファイバー以外の素材を構成繊維として用いて形成した不織布に対して硫酸エステル化セルロースナノファイバーで表面コートしたり、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを構成繊維として使用して不織布を形成したりすればよい。硫酸エステル化セルロースナノファイバーを構成繊維として使用して不織布を形成する場合、不織布の構成繊維には、硫酸エステル化セルロースナノファイバーのみが用いられていてもよく、また硫酸エステル化セルロースナノファイバーと共に他の素材の繊維が用いられていてもよい硫酸エステル化セルロースナノファイバーと共に他の素材の繊維を構成繊維として使用して不織布にする場合、不織布の構成繊維全体に含まれる硫酸エステル化セルロースナノファイバーの比率については、特に制限されないが、細胞賦活効果、ヒアルロン酸分解抑制効果、及び抗ウイルス効果をより一層向上させるという観点から、不織布の構成繊維の総量100重量部当たり、硫酸エステル化セルロースナノファイバーが10重量部以上、好ましくは50重量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上、特に好ましくは90質量部以上又は95質量部以上を占めていることが挙げられる。
【0025】
[細胞賦活剤の製品形態・用途]
前記硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、細胞を賦活化する作用があるので、細胞賦活剤として使用される。本発明において、「細胞賦活剤」とは、増殖能等の細胞の機能を回復又は向上させるために使用される素材である。
【0026】
本発明の細胞賦活剤が使用される製品としては、例えば、医薬品、医療材料、化粧品等が挙げられる。
【0027】
本発明の細胞賦活剤を医薬品に使用する場合、粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを医薬品に配合すればよい。医薬品における粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーの配合量については、医薬品の剤型等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.0001~95重量%、好ましくは0.001~20重量%、より好ましくは0.001~1重量%が挙げられる。また、本発明の細胞賦活用剤を含む医薬品は、外用医薬品又は内服用医薬品のいずれであってもよいが、好ましくは外用医薬品が挙げられる。外用医薬品の剤型については、特に制限されないが、例えば、クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、エアゾール剤、軟膏剤等が挙げられる。また、硫酸エステル化セルロースナノファイバーは皮膚線維芽細胞の賦活化作用に優れているので、本発明の細胞賦活剤を含む医薬品は、創傷治癒の促進用途に好適に使用される。
【0028】
本発明の細胞賦活剤を医療材料に使用する場合、不織布状又はフィルム状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを創傷被覆材等として使用すればよい。前述の通り、硫酸エステル化セルロースナノファイバーは特に皮膚線維芽細胞の賦活化作用に優れているので、本発明の細胞賦活剤を含む医療材料(特に創傷被覆材)は、創傷治癒の促進用途に好適に使用される。
【0029】
本発明の細胞賦活剤を化粧品に使用する場合、粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを化粧品に配合したり、不織布状又はフィルム状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを基材としてシート状パック化粧品に使用したりすればよい。粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを配合した化粧品としては、具体的には、軟膏、クリーム、乳液、化粧水、ローション、ゲル等が挙げられる。これらの化粧品における粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーの含有量については、化粧品の剤型等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.0001~95重量%、好ましくは0.001~20重量%、より好ましくは0.001~1重量%が挙げられる。不織布状又はフィルム状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを基材として使用したシート状パック化粧品については、例えば、不織布状又はフィルム状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーに化粧水等を含浸用すればよい。前述の通り、硫酸エステル化セルロースナノファイバーは特に皮膚線維芽細胞の賦活化作用に優れているので、本発明の細胞賦活剤を含む化粧品は、角層の形成促進や角層の機能向上が期待でき、肌の状態の改善又は正常化、保湿、肌荒れ改善、敏感肌の解消、皮膚老化の防止等のスキンケア用途に好適に使用できる。
【0030】
[ヒアルロン酸分解抑制剤の製品形態・用途]
前記硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、ヒアルロニダーゼ阻害活性を示し、ヒアルロン酸の分解を抑制する作用があるので、ヒアルロン酸分解抑制剤として使用される。本発明において、「ヒアルロン酸分解剤」とは、ヒアルロン酸の分解を抑制するために使用される素材である。
【0031】
本発明のヒアルロン酸分解剤が使用される製品としては、例えば、医薬品、医療材料、化粧品等が挙げられる。
【0032】
本発明のヒアルロン酸分解抑制剤を医薬品に使用する場合、粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを医薬品に配合すればよい。医薬品における粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーの含有量については、医薬品の剤型等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.0001~95重量%、好ましくは0.001~20重量%、より好ましくは0.001~1重量%が挙げられる。また、本発明のヒアルロン酸分解抑制剤を含む医薬品は、外用医薬品又は内服用医薬品のいずれであってもよいが、好ましくは外用医薬品が挙げられる。外用医薬品の剤型については、特に制限されないが、例えば、クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、エアゾール剤、軟膏剤等が挙げられる。ヒアルロニダーゼは炎症やアレルギー反応に関与していることが知られており、更にヒアルロン酸は創傷治癒の促進に寄与することも知られているので、本発明のヒアルロン酸分解抑制剤を含む医薬品は、抗炎症、抗アレルギー、創傷治癒促進等の用途に好適に使用される。
【0033】
本発明のヒアルロン酸分解抑制剤を医療材料に使用する場合、不織布状又はフィルム状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを創傷被覆材等として使用すればよい。前述の通り、ヒアルロニダーゼ活性の阻害は、抗炎症、抗アレルギー、創傷治癒促進等に有効であるので、本発明のヒアルロン酸分解抑制剤を含む医療材料(特に創傷被覆材)は、抗炎症、抗アレルギー、創傷治癒促進等の用途に好適に使用できる。
【0034】
本発明のヒアルロン酸分解抑制剤を化粧品に使用する場合、粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを化粧品に配合したり、不織布状又はフィルム状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを基材としてシート状パック化粧品に使用したりすればよい。粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを配合した化粧品としては、具体的には、軟膏、クリーム、乳液、化粧水、ローション、ゲル等が挙げられる。これらの化粧品における粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーの含有量については、化粧品の剤型等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.0001~95重量%、好ましくは0.001~20重量%、より好ましくは0.001~1重量%が挙げられる。不織布状又はフィルム状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを基材として使用したシート状パック化粧品については、例えば、不織布状又はフィルム状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーに化粧水等を含浸させて使用すればよい。ヒアルロン酸は、肌の弾力や保湿性を保つ上で重要な役割を果たしているので、本発明のヒアルロン酸分解抑制剤を含む化粧品は、角層の形成促進や角層の機能向上が期待でき、肌の状態の改善又は正常化、保湿、肌荒れ改善、敏感肌の解消、皮膚老化の防止等のスキンケア用途に好適に使用できる。
【0035】
[抗ウイルス剤の製品形態・用途]
前記硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、抗ウイルス活性を示すので、抗ウイルス剤として使用される。本発明において、「抗ウイルス剤」とは、ウイルスの増殖を抑制したり、ウイルスを死滅させたりする目的で使用される素材である。
【0036】
本発明の抗ウイルス剤の適用対象となるウイルスの種類については、特に制限されないが、例えば、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス(ノロウイルス)、ヘルペスウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、SARSウイルス、AIDSウイルス、サイトメガロウイルス、肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ポリオウイルス、パピローマウイルス、ムンプスウイルス、ロタウイルス、コレラウイルス、狂犬病ウイルス、HIV等の病原性ウイルスが挙げられる。
【0037】
本発明の抗ウイルス剤が使用される製品としては、例えば、医薬品、医療材料、清拭具等が挙げられる。
【0038】
本発明の抗ウイルス剤を医薬品に使用する場合、粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを医薬品に配合すればよい。医薬品における粉末状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーの含有量については、医薬品の剤型等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.0001~95重量%、好ましくは0.001~20重量%、より好ましくは0.001~1重量%が挙げられる。また、本発明の抗ウイルス剤を含む医薬品は、外用医薬品又は内服用医薬品のいずれであってもよいが、好ましくは外用医薬品が挙げられる。外用医薬品の剤型については、特に制限されないが、例えば、クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、エアゾール剤、軟膏剤等が挙げられる。本発明の抗ウイルス剤を含む医薬品は、ウイルス感染症の予防又は治療の用途に使用される。
【0039】
本発明の抗ウイルス剤を医療材料に使用する場合、不織布状又はフィルム状の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを創傷被覆材等として使用すればよい。本発明の抗ウイルス剤を含む医療材料(特に創傷被覆材)は、適用される患部におけるウイルス感染症の予防又は治療の用途に好適に使用できる。
【0040】
本発明の抗ウイルス剤を清拭具に使用する場合、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを不織布状又はフィルム状にして、身体、医療機器、調理機器、水廻り(台所、浴室、トイレ等)等、ウイルスの不活化が求められる部位に適用される清拭用品等として使用すればよい。本発明の抗ウイルス剤を含む清拭具は、清拭した部位に存在するウイルスを不活化できるので、ウイルス感染リスクが低い身体又は環境にするために好適に使用できる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
製造例:硫酸エステル化セルロースナノファイバーの製造
ジメチルスルホオキシド(以下、DMSO)132g、無水酢酸15.5g、及び硫酸1.6gを300mLのセパラブルフラスコに入れ、30℃の湯浴下で攪拌機(AS ONE製、トルネードPM-204)を用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0043】
次いで、2cm角程度になるまで手で細かく千切ったセルロースパルプ(Canfor社製、ECF90)4.0gを加え、同じ温度で更に120分間撹拌した。撹拌後、イオン交換水20mLをセルロースを含む解繊溶液に添加・混合し、反応を停止した。その後、目開き150μmのフィルター上に内容物を広げ、イオン交換水を連続投入して内容物を10分洗浄した。濾過後の内容物を500mLビーカーに投入し、300mLのイオン交換水を加えてガラス棒で均一になるまで攪拌を行った。その後、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpH8~9になるまで攪拌を続けた。再度、目開き150μmのフィルター上に内容物を広げ、イオン交換水を連続投入して内容物を10分間洗浄した。次いで、内容物を3Lビーカーに取り出し、全体重量が1333gになるまでイオン交換水で希釈した。次に、希釈物100gをファイバーミキサー(Panasonic製、MX-X701-Tミキサー)を用いて3分間撹拌することにより、均一な硫酸エステル化セルロースナノファイバーの水分散液を得た。得られた水分散液の外観は透明ゲル状の溶液であった。
【0044】
得られた硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径、I型結晶の結晶化度、及び硫酸エステルの置換度を以下の方法で測定した。
【0045】
<平均繊維径と繊維長の測定>
硫酸エステル化セルロースナノファイバーの形状を透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、製品名:「JEM-2100F」、測定条件:120~200kV)を用いて観察した。なお、TEM観察用試料の作製と観察手法として、0.3%の硫酸エステル化CNFに重量100倍のジメチルアセトアミドと水の混合溶媒を加え、均一まで攪拌した後、カーボン支持膜の上に滴下、乾燥、酢酸ガドリニウムによるネガティブ染色等の処理を経て観察した。異なる観察画面から50本の繊維を選択して繊維幅と繊維長をそれぞれ計測し、加算平均し、平均繊維径と繊維長を算出した。
【0046】
<I型結晶の結晶化度の測定>
参考文献(Textile Res. J. 29:786-794(1959))の記載に基づき、XRD分析法(Segal法)により、硫酸エステル化セルロースナノファイバーのX線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度及びアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度を測定し、以下の式に従ってI型結晶の結晶化度を算出した。
I型結晶の結晶化度(%)=[(I200-IAM)/I200]×100
[式中、I200はX線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、IAMはアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度である]。
【0047】
<硫酸エステルの置換度の測定>
(1)相関式の作成
複数の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを精製水で希釈して0.3重量%濃度に調整し、電気伝導計(AS ONE製、ECPCWP45004K)を用いて電気電導度を測定した。
【0048】
また、別途、同一サンプルにて燃焼吸収―IC法を用いて硫黄含有率を定量した。磁性ボードに乾燥した硫酸エステル化修飾セルロースナノファイバー(0.01g)を入れ、酸素雰囲気(流量:1.5L/分)環状炉(1350℃)にて燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させた。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップし、希釈液のイオンクロマトグラフィー測定結果から硫酸イオン濃度(重量%)を算出した。
【0049】
その結果、電気伝導度と燃焼吸収―IC法の硫酸イオン濃度には相関(直線状の相関曲線になる)があり、相関式:硫酸エステルの置換度=0.001067×電気伝導度を使用して、電気伝導度から硫酸エステルの置換度を算出できることが確認された。
【0050】
(2)サンプルの硫酸エステルの置換度の測定
測定対象となる硫酸エステル化セルロースナノファイバーを精製水で希釈して0.3重量%濃度に調整し、電気伝導計(AS ONE製、ECPCWP45004K)を用いて電気電導度を測定した。得られた電気伝導度の値を使用して前記相関式に従って、硫酸エステルの置換度を算出した。
【0051】
その結果、製造された硫酸エステル化セルロースナノファイバーの平均繊維径、I型結晶の結晶化度、及び硫酸エステルの置換度は、表1に示す通りであった。
【0052】
【0053】
実施例1:細胞賦活活性の評価
細胞賦活効果の検証のため、MTT還元法によって繊維芽細胞に対する硫酸セルロースナノファイバー添加効果を評価した。
【0054】
<試験方法>
サブコンフルエントになったヒト正常皮膚繊維芽細胞(NHDF(NB),クラボウ社)(をトリプシンでプレートから剥がし、細胞数1×106個の細胞懸濁液を遠心分離で集め、上清を除去した。5%ウシ胎児血清(FBS)含有MEM培地5mLで細胞を懸濁し,96ウエルプレートに1各ウェル当たりコンフルエントになるように播種し、CO2インキュベータ中で一晩培養した。次いで、上清を除去後、前記で得られた硫酸エステル化セルロースナノファイバーを0.5w/v%を含むMEM培地を各ウェルに添加し、CO2インキュベータ中で一晩静置した。その後、上清を除去し、0.4mg/mLのMTT溶液を1ウェル当たり100μL添加して、CO2インキュベータで2時間静置後上清を除去した。その後、1ウェル当たりイソプロパノールを200μLずつ添加し、細胞溶解を溶解させ、上清の吸光度(540nm及び660nm)を測定した。また、硫酸エステル化セルロースナノファイバーの代わりに硫酸エステル化セルロース(硫酸エステルの置換度は2程度、CarboMer社)を使用して、前記と同条件で試験を行った。
【0055】
サンプルを添加せずに同条件で測定した場合(コントロール)の吸光度の差分(540nmの吸光度-660nmの吸光度)を100%として、硫酸エステル化セルロースナノファイバー又は硫酸エステル化セルロースを添加した場合の同吸光度の差分の比率を、細胞賦活効果の相対値として算出した。
【0056】
<試験結果>
本試験では、硫酸エステル化セルロースナノファイバー又は硫酸エステル化セルロースを添加した際に培地としてMEM培地(血清非含有)を使用しており、栄養不足条件での細胞の賦活効果が評価されている。得られた結果を
図1に示す。この結果、硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、栄養不足の環境下におかれた細胞に対して賦活効果を奏しており、硫酸セルロースと比較して2.6倍高い細胞賦活活性を示した。
【0057】
実施例2:ヒアルロニダーゼ阻害活性の評価
ヒアルロン酸分解抑制効果の検証のため、ヒアルロニダーゼ活性に対する硫酸セルロースナノファイバー添加効果を評価した。
【0058】
<試験方法>
前記で得られた硫酸エステル化セルロースナノファイバーを0.1重量%、0.2重量%及び0.3重量%の濃度の懸濁液を準備した。これらの各懸濁液0.1mLを試験管に入れ、更に4mg/mL ヒアルロニダーゼ溶液(Type IV-S from Bovine testes,Sigma社)を0.05mL加えて、37℃で20分間静置した後、Compound48/80を0.1mL加えた。そして、37℃で20分間静置した後、ヒアルロン酸0.8mg/mL(Sigma社)0.25mLを加えた。次いで、37℃で40分間静置した後、0.4N水酸化ナトリウム水溶液を0.1mL加えた。更にホウ酸カリウム水溶液0.1mLを添加し、沸騰水浴中で3分間加熱後、室温まで冷却した。その後、試験管を氷中に移し、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド(DAD)試薬を6mL加えた。そして、37℃で20分間静置した後に、585nmの吸光度(遊離しているN-アセチルグルコサミン量)を求めた。
【0059】
サンプルを添加せずに同条件で測定した場合(コントロール)の585nmの吸光度を100%として、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを添加した場合の同吸光度の比率を、ヒアルロニダーゼ活性の相対値として算出した。
【0060】
<試験結果>
得られた結果を
図2に示す。この結果、硫酸エステル化セルロースナノファイバーには、濃度依存的にヒアルロニダーゼ活性を阻害することが確認された。
【0061】
実施例3:抗ウイルス活性の評価
抗ウイルス活性の検証のため、ネコカリシウイルス(ノロウイルス)、インフルエンザウイルス及びヘルペスウイルスを用いて抗ウイルス活性を評価した.
【0062】
<試験方法>
硫酸エステル化セルロースナノファイバーを加工してシート(3×3cm、吸湿している水分を除くと、硫酸エステル化セルロースナノファイバーが100%)を製造した。得られたシートの上に、ネコカリシウイルス、インフルエンザウイルス及びヘルペスウイルスの各ウイルス懸濁液(1×104pfu/ml)100μlを添加して、室温で24時間静置した。ついで、シート上のウイルスをピペットマンを用いて全量回収した。
【0063】
回収したウイルス中の抗ウイルス活性を測定するために50%組織培養感染量を評価した。具体的には、回収したウイルスの段階希釈液(10倍,100倍,1000倍希釈液)を調製し、ネコカリシウイルスはネコ腎由来細胞(CRFK細胞)、インフルエンザウイルスはイヌ腎臓尿細管上皮由来細胞(MDCK細胞)、ヘルペスウイルスはヒト喉頭癌由来細胞(HEP2細胞)の各培養液(1×106cells/mL)2mLに各ウイルス希釈液を100μL添加した。各細胞液は、各ウイルス濃度で10ウェル用意し、1~7日間培養した時点で変性細胞(ウイルス感染細胞)を位相差顕微鏡で確認した.10ウェル中半分のウェルの細胞が感染するウイルス濃度を50%組織培養感染量として求めた。
【0064】
<試験結果>
得られた結果を
図3に示す。この結果、硫酸エステル化セルロースナノファイバーには、優れた抗ウイルス活性があることが確認された。