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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20230523BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20230523BHJP
   B60T 8/96 20060101ALI20230523BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T13/74 G
B60T8/96
H02P5/46 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019097135
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020189603
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】児玉 博之
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059345(JP,A)
【文献】特開2017-202766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 13/74
B60T 8/96
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪のホイールシリンダの液圧を制御して、前記前輪の制動トルクを調整する前輪電気モータと、
前記車両の右後輪の制動トルクを調整する第1電気モータと、
前記車両の左後輪の制動トルクを調整する第2電気モータと、
マスタシリンダと前記前輪のホイールシリンダとを接続し、端部が前記マスタシリンダに接続されているマスタシリンダ流体路と、端部が前記前輪のホイールシリンダに接続されているホイールシリンダ流体路とを含む、流体路と、
前記マスタシリンダ流体路に設けられている、遮断弁と、
前記流体路のうち前記遮断弁と前記ホイールシリンダとの合流部に接続されている連絡流体路と、
前記連絡流体路を介して前記流体路に接続され、前記前輪電気モータに駆動されて、前記流体路のうち前記遮断弁の下部の液圧を調整する、前輪アクチュエータと、
前記連絡流体路に設けられている、連絡弁と、
を備えた車両の制動制御装置において、
前記前輪電気モータ、前記遮断弁および前記連絡弁それぞれ2系統コイルを有し、前記第1、第2電気モータは1系統コイルを有する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制動制御装置であって、
前記前輪電気モータ、及び、前記第1、第2電気モータを制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記前輪電気モータの2系統コイルのうちの一方側に通電する一方側前輪駆動回路、前記前輪電気モータの2系統コイルのうちの他方側に通電する他方側前輪駆動回路、前記第1電気モータの1系統コイルに通電する第1後輪駆動回路、及び、前記第2電気モータの1系統コイルに通電する第2後輪駆動回路を有する、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の4つのホイールシリンダの圧力(液圧)が1つの電気モータによって調整される制動制御装置について記載されている。特許文献2には、車両の4つの車輪に、電気モータによって駆動される電動制動装置が設けられるとともに、前輪にのみホイールシリンダが設けられ、マスタシリンダによって加圧される制動制御装置について記載されている。また、特許文献3には、前輪の制動トルクがマスタシリンダによって調整され、後輪の制動トルクが電気モータによって調整される制動制御装置について記載されている。
【0003】
ところで、現在、電気自動車、ハイブリッド自動車等の電気モータによって駆動される車両が普及し始めている。また、将来に向けて、自動運転可能な車両の研究・開発が進められている。その中で、制動制御装置においても、電動化されたものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-106582号
【文献】特開2004-351965号
【文献】特開2014-051197号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電動化された制動制御装置において、装置の冗長性が確保され、小型・軽量化が達成され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
車両の制動制御装置は、「車両の前輪(WHf)のホイールシリンダ(WCf)の液圧(Pwf)を制御して、前記前輪(WHf)の制動トルク(Tqf)を調整する前輪電気モータ(MTf)」と、「前記車両の右後輪(WHk)の制動トルク(Tqk)を調整する第1電気モータ(MTk)」と、「前記車両の左後輪(WHl)の制動トルク(Tql)を調整する第2電気モータ(MTl)」と、「マスタシリンダ(MC)と前記前輪のホイールシリンダ(WCf)とを接続し、端部が前記マスタシリンダ(MC)に接続されているマスタシリンダ流体路(HM)と、端部が前記前輪のホイールシリンダ(WCf)に接続されているホイールシリンダ流体路(HWf)とを含む、流体路」と、「前記マスタシリンダ流体路(HM)に設けられている、遮断弁(VM)」と、「前記流体路のうち前記遮断弁(VM)と前記前輪のホイールシリンダ(WCf)との合流部に接続されている連絡流体路(HY)」と、「前記連絡流体路(HY)を介して前記流体路に接続され、前記前輪電気モータ(MTf)に駆動されて、前記流体路のうち前記遮断弁(VM)の下部の液圧を調整する、前輪アクチュエータ(YP)」と、「前記連絡流体路(HY)に設けられている、連絡弁(VR)」と、を備える。車両の制動制御装置では、前記前輪電気モータ(MTf)、前記遮断弁(VM)および連絡弁(VR)それぞれ2系統コイル(CLx、CLy)を有し、前記第1、第2電気モータ(MTk、MTl)は1系統コイル(CLk、CLl)を有する。
【0007】
車両の制動制御装置は、前記前輪電気モータ(MTf)、及び、前記第1、第2電気モータ(MTk、MTl)を制御するコントローラ(ECU)を備える。そして、前記コントローラ(ECU)は、「前記前輪電気モータ(MTf)の2系統コイル(CLx、CLy)のうちの一方側に通電する一方側前輪駆動回路(DFx)」、「前記前輪電気モータ(MTf)の2系統コイル(CLx、CLy)のうちの他方側に通電する他方側前輪駆動回路(DFy)」、「前記第1電気モータ(MTk)の1系統コイル(CLk)に通電する第1後輪駆動回路(DRk)」、及び、「前記第2電気モータ(MTl)の1系統コイル(CLl)に通電する第2後輪駆動回路(DRl)」を有する。
【0008】
上記構成によれば、車両の4つの車輪の制動トルクが電気モータによって調整される。前輪WHfにおいては、2系統のモータコイルCLx、CLy、及び、それらの夫々に通電を行う一方側、他方側前輪駆動回路DFx、DFyによって冗長性が確保される。また、後輪WHrにおいては、1系統のモータコイルCLkを有する第1電気モータMTk、及び、1系統のモータコイルCLlを有する第2電気モータMTlによって、右後輪WHkの制動トルクTqk、及び、左後輪WHlの制動トルクTqlが調整される。第1、第2電気モータMTk、MTlのモータコイルCLk、CLlは1系統ではあるが、左右後輪には、別々の独立した電気モータMTk、MTlが設けられているため、後輪制動トルクTqrとしては冗長性が確保される。従って、制動制御装置SCでは、冗長性が確保された上で、全体として簡略化され、小型・軽量化が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】制動制御装置SCの実施形態を説明するための全体構成図である。
図2】前輪アクチュエータYPの第1例を説明するための概略図である。
図3】前輪アクチュエータYPの第1例に対応するコントローラECUを説明するための概略図である。
図4】後輪コントローラECWを含む後輪アクチュエータEMk、EMlの実施形態を説明するための概略図である。
図5】前輪アクチュエータYPの第2例を説明するための概略図である。
図6】前輪アクチュエータYPの第2例に対応するコントローラECUを説明するための概略図である。
【0010】
<構成部材等の記号、記号末尾の添字>
以下の説明において、「WH」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号等は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「i」~「l」は、それが何れの車輪に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。例えば、4つの回転部材KTにおいて、右前輪回転部材KTi、左前輪回転部材KTj、右後輪回転部材KTk、及び、左後輪回転部材KTlと表記される。更に、記号末尾の添字「i」~「l」は省略され得る。添字「i」~「l」が省略された場合には、記号は4つの車輪の総称を表す。例えば、「WH」は各車輪を表す。
【0011】
記号の末尾の添字「f」、「r」は、車両の前後方向において、それが何れに関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は前輪(=添字「i、j」)、「r」は後輪(=添字「k、l」)を示す。例えば、車輪WHにおいて、前輪WHf(=WHi、WHj)、及び、後輪WHr(=WHk、WHl)と表記される。更に、添字「f」、「r」は省略され得る。
【0012】
前輪WHfの電気系統に係る記号末尾の添字「x」、「y」は、2つの独立する電気系統において、それが何れの系統に関するものであるかを示す記号である。具体的には、2つの電気系統において、「x」は一方側系統、「y」は他方側系統を示す。例えば、電気モータMTのコイルCLにおいて、一方側系統モータコイルCLx、及び、他方側系統モータコイルCLyと表記される。記号末尾の添字「x」、「y」は省略され得る。添字「x」、「y」が省略された場合には、各記号は総称を表す。例えば、「CL」は、各系統のモータコイルを表す。
【0013】
<車両の制動制御装置の第1の実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの実施形態について説明する。制動制御装置SCを搭載する車両では、前輪WHfの制動トルクTqfは作動液体(制動液BF)を介して発生されるが、後輪WHrの制動トルクTqrの発生には、制動液BFが用いられない。即ち、前輪WHfには液圧式制動装置が、後輪WHrには電気-機械式制動装置(EMB:Electric-Mechanical Brake)が備えられる。
【0014】
車両には、制動操作部材BP、回転部材KT、前輪ホイールシリンダWCf、マスタリザーバRV、マスタシリンダMC、及び、制動操作量センサBAが設けられる。
【0015】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクTqが調整され、車輪WHに制動力が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置される。
【0016】
前輪WHfにおいて、ブレーキキャリパには、ホイールシリンダWCfが設けられている。前輪ホイールシリンダWCf内の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwfが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体となって回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、前輪WHfに制動トルクTqf(摩擦ブレーキ力)が発生される。そして、制動トルクTqfよって、前輪WHfに制動力が発生される。
【0017】
マスタリザーバ(「大気圧リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタシリンダMCは、制動操作部材BPに、ブレーキロッドRD等を介して、機械的に接続されている。マスタシリンダMCとして、シングル型のものが採用されている。マスタシリンダMCの内部には、マスタピストンPAによって、マスタシリンダ室(液圧室)Rmが形成されている。制動操作部材BPが操作されていない場合には、マスタシリンダMCの液圧室RmとマスタリザーバRVとは連通状態にある。
【0018】
制動操作部材BPが操作されると、マスタシリンダMC内のマスタピストンPAが、前進方向Haに押され、マスタシリンダ室Rmは、リザーバRVから遮断される。更に、制動操作部材BPの操作が増加されると、マスタピストンPAは前進方向Haに移動され、マスタシリンダ室Rmの体積は減少し、制動液(作動流体)BFは、マスタシリンダMCから排出される。制動操作部材BPの操作が減少されると、マスタピストンPAは後退方向Hbに移動され、マスタシリンダ室Rmの体積は増加し、制動液BFはマスタシリンダMCに向けて戻される。
【0019】
制動操作量センサBAによって、運転者による制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Baが検出される。具体的には、制動操作量センサBAとして、マスタシリンダ室Rm内の液圧(マスタシリンダ液圧)Pmを検出するマスタシリンダ液圧センサPM、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。つまり、操作量センサBAは、マスタシリンダ液圧センサPM、操作変位センサSP、及び、操作力センサFPの総称であり、操作量Baは、マスタシリンダ液圧Pm、操作変位Sp、及び、操作力Fpの総称である。
【0020】
マスタシリンダMCとホイールシリンダWCfとは、マスタシリンダ流体路HM、及び、ホイールシリンダ流体路HWf(=HWi、HWj)によって接続されている。ここで、流体路は、作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管、流体ユニットの流路、ホース等が該当する。マスタシリンダ流体路HMの一方端部は、マスタシリンダMC(特に、マスタシリンダ室Rm)に接続される。マスタシリンダ流体路HMは、分岐部Bwにて、2つに分岐され、ホイールシリンダ流体路HWfに接続される。ホイールシリンダ流体路HWfの端部は、前輪ホイールシリンダWCf(=WCi、WCj)に接続される。マスタシリンダMC、ホイールシリンダWCf、及び、各流体路HM、HWfには、制動液BFが満たされている。
【0021】
≪制動制御装置SC≫
制動制御装置SCは、マスタシリンダ弁VM、ストロークシミュレータSS、シミュレータ弁VS、マスタシリンダ液圧センサPM、前輪アクチュエータYP、後輪アクチュエータEMr(=EMk、EMl)、及び、コントローラECUにて構成される。なお、流体路HM、HWfにおいて、マスタシリンダMCに近い側が「上部」、ホイールシリンダWCfに近い側が「下部」と称呼される。
【0022】
マスタシリンダ弁VM(「遮断弁」ともいう)が、マスタシリンダ流体路HMに設けられる。遮断弁VMは、開位置と閉位置とを有する、常開型の電磁弁(オン・オフ弁)である。「オン・オフ弁」では、開位置と閉位置とが選択的に実現される。制動制御装置SCの起動時に、遮断弁VMは閉位置にされ、マスタシリンダMCとホイールシリンダWCfとは遮断状態(非連通状態)にされる。
【0023】
ストロークシミュレータ(単に、「シミュレータ」ともいう)SSが、制動操作部材BPに操作力Fpを発生させるために設けられる。換言すれば、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spに対する操作力Fpの関係)は、シミュレータSSによって形成される。シミュレータSSの内部には、ピストン及び弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。制動液BFがシミュレータSS内に移動されると、流入する制動液BFによってピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液BFの流入を阻止する方向に力が加えられるため、制動操作部材BPが操作される場合の操作力Fpが形成される。
【0024】
シミュレータSSは、遮断弁VMの上部にて、マスタシリンダMC(つまり、マスタシリンダ室Rm)に接続される。マスタシリンダ室RmとシミュレータSSとの間には、シミュレータ弁VSが設けられる。シミュレータ弁VSは、開位置と閉位置とを有する、常閉型の電磁弁(オン・オフ弁)である。制動制御装置SCが起動されると、シミュレータ弁VSが開位置にされ、マスタシリンダMCとシミュレータSSとは連通状態にされる。なお、マスタシリンダ室Rmの容量が、ホイールシリンダWCfの容量に比較して、十分に大きい場合には、シミュレータ弁VSは省略されてもよい。
【0025】
遮断弁VMの上部には、マスタシリンダ室Rmの液圧(マスタシリンダ液圧)Pmを検出するよう、マスタシリンダ液圧センサPMが設けられる。マスタシリンダ液圧センサPMは操作量センサBAに相当し、マスタシリンダ液圧Pmは操作量Baに相当する。
【0026】
前輪アクチュエータYPが、連絡流体路HYを介して、遮断弁(マスタシリンダ弁)VMの下部(即ち、遮断弁VMとホイールシリンダWCfとの間の合流部)Buにて、マスタシリンダ流体路HMに接続される。前輪アクチュエータYPは、前輪電気モータMTfによって駆動され、遮断弁VMの下部の液圧Ppを調節する。このとき、遮断弁VMには通電が行われ、閉位置にされている。結果、液圧Ppによって、ホイールシリンダWCfの液圧(制動液圧)Pwfが制御される。液圧Ppは、「調整液圧」と称呼される。調整液圧Ppを検出するよう、調整液圧センサPPが設けられる。検出された調整液圧Ppは、コントローラECUに入力される。
【0027】
連絡流体路HYには、連絡弁VRが設けられる。連絡弁VRは、開位置と閉位置とを有する、常閉型の電磁弁(オン・オフ弁)である。制動制御装置SCが起動されると、連絡弁VRが開位置にされ、前輪アクチュエータYPとホイールシリンダWCfとが連通状態にされる。
【0028】
シミュレータ弁VS、遮断弁VM、及び、連絡弁VRには、夫々、電気的に2系統の巻線(コイル)が含まれている。各々の弁コイルは、コントローラECUの一方側、他方側の前輪駆動回路DFx、DFyによって通電される。つまり、シミュレータ弁VS、遮断弁VM、及び、連絡弁VRは、電気的に二重化されている。
【0029】
マスタシリンダ流体路HMは、分岐部Bwにて、ホイールシリンダ流体路HWi、HWjに分岐される。前輪WHfにおいて、分岐部Bwから下部の構成は同じである。ホイールシリンダ流体路HWf(=HWi、HWj)には、インレット弁VIf(=VIi、VIj)が設けられる。インレット弁VIfとして、常開型のオン・オフ電磁弁が採用される。
【0030】
インレット弁VIfの下部(即ち、インレット弁VIfとホイールシリンダWCfとの間)にて、減圧流体路HGf(=HGi、HGj)に接続される。また、減圧流体路HGfは、戻し流体路HRに接続され、最終的には、マスタリザーバRVに接続される。減圧流体路HGfには、アウトレット弁VOf(=VOi、VOj)が設けられる。アウトレット弁VOfとして、常閉型のオン・オフ電磁弁が採用される。
【0031】
アンチロックブレーキ制御等によって、前輪ホイールシリンダWCf内の液圧Pwfを減少するためには、インレット弁VIfが閉位置にされ、アウトレット弁VOfが開位置される。制動液BFのインレット弁VIfからの流入が阻止され、ホイールシリンダWCf内の制動液BFは、マスタリザーバRVに流出し、制動液圧Pwfは減少される。また、制動液圧Pwfを増加するため、インレット弁VIfが開位置にされ、アウトレット弁VOfが閉位置される。制動液BFのマスタリザーバRVへの流出が阻止され、前輪アクチュエータYPによって調節された調整液圧Ppが、ホイールシリンダWCfに導入され、制動液圧Pwfが増加される。更に、ホイールシリンダWCf内の液圧(制動液圧)Pwfを保持するためには、インレット弁VIf、及び、アウトレット弁VOfが、共に閉位置にされる。つまり、電磁弁VIf、VOfを制御することによって、前輪WHfの液圧Pwf(即ち、前輪制動トルクTqf)が独立で調整可能である。
【0032】
車両の後輪WHr(=WHk、WHl)には、後輪アクチュエータEMr(=EMk、EMl)が備えられる。後輪アクチュエータEMrには、後輪電気モータMTr(=MTk、MTl)が設けられる。後輪アクチュエータEMrでは、制動液BFの圧力を利用することなく、後輪電気モータMTrによって、直接、後輪制動トルクTqr(=Tqk、Tql)が制御される。具体的には、後輪電気モータMTrの回転動力が、直線動力に変換され、摩擦部材が回転部材KTr(=KTi、KTj)に対して押圧され、後輪制動トルクTqrが発生される。
【0033】
コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUは、マイクロプロセッサMP、及び、複数の駆動回路DF、DRが実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。コントローラECUによって、各種信号(Ba等)に基づいて、電気モータ(MTf等)、及び、電磁弁(VM等)が制御される。具体的には、マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、電磁弁VM、VR、VS、VI、VOを制御するための電磁弁駆動信号Vm、Vr、Vs、Vi、Voが演算される。同様に、電気モータMTを制御するためのモータ駆動信号Mtが演算される。そして、これらの駆動信号(Vm、Mt等)に基づいて、複数の電磁弁、電気モータが駆動される。
【0034】
また、コントローラECUは、前輪WHfに係る前輪コントローラECBと、後輪WHrに係る後輪コントローラECWとに分割され得る(該構成が「分割構成」と称呼される)。この場合、コントローラECUでは、車載通信バスBSを介して、前輪コントローラECBと後輪コントローラECWとがネットワーク接続される。コントローラECUには、車載の電源(蓄電池等)から電力が供給される。
【0035】
<前輪アクチュエータYPの第1例>
図2の概略図(VI、VOは図示せず)を参照して、前輪アクチュエータYPの第1例について説明する。図では、制動制御装置SCの作動中の状態が示されている。つまり、オン・オフ電磁弁VS、VM、VRには、通電が行われ、電磁弁VS、VRが開弁され、電磁弁VMが閉弁されている。従って、マスタシリンダ室RmはシミュレータSSに接続され、制動操作部材BPの操作特性は、シミュレータSSによって形成される。加えて、図では、コントローラECUにおいて、上述した分割構成(ECBとECW)が採用されている。
【0036】
前輪アクチュエータYPは、前輪コントローラECB(コントローラECUの一部)によって駆動される前輪電気モータMTf、減速機GS、回転・直動変換機構(例えば、ねじ機構)NJ、調圧ピストンPK、調圧シリンダCK、及び、戻しばねSKにて構成される。前輪アクチュエータYPは、遮断弁VMと前輪ホイールシリンダWCfのマスタシリンダ室Rmとの間(遮断弁VMの下部Bk)にて、連絡弁VRを介して、マスタシリンダ流体路HMに接続される。
【0037】
前輪電気モータMTfは、前輪アクチュエータYPの駆動源である。電気モータMTfの回転動力よって、遮断弁VMの下部の液圧(調整液圧)Ppが調節される。電気モータMTfは、前輪コントローラECBによって駆動される。
【0038】
前輪コントローラECBには、車載された電力源(蓄電池BT等)から、電力が供給される。例えば、蓄電池は、一方側、他方側蓄電池BTx、BTyとして二重化される。コントローラECBには、マイクロプロセッサMP、及び、一方側、他方側前輪駆動回路DFx、DFyを含んで構成される。
【0039】
マイクロプロセッサMPには、前輪駆動回路DFx、DFyのスイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)を駆動する制御アルゴリズムがプログラムされている。マイクロプロセッサMPには、通信バスBSが接続され、後輪コントローラECW等との間で情報が共有されている。なお、マイクロプロセッサMPにおいても、その冗長性を確保するため、二重化がなされている。
【0040】
吹出し部(A)に示すように、前輪電気モータMTfは、2系統の巻線組CLx、CLyを含んで構成される。一方側モータ巻線組(「一方側モータコイル」ともいう)CLxは、コントローラECBの一方側駆動回路DFxによって通電される。また、他方側モータ巻線組(「他方側モータコイル」ともいう)CLyは、コントローラECBの他方側駆動回路DFyによって通電される。従って、電気モータMTfは、一方側駆動回路DFx、及び、他方側駆動回路DFyのうちの少なくとも1つによって駆動される。電気モータMTfでは冗長(二重系)の構成が採用されるため、「一方側モータコイルCLx、一方側駆動回路DFx、又は、それに係る部材」、及び、「他方側モータコイルCLy、他方側駆動回路DFy、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、電気モータMTfは作動が可能である。つまり、前輪電気モータMTfは、2系統のモータコイルCLx、CLyによって、電気的に二重化されている。
【0041】
例えば、電気モータMTfとして、3相ブラシレスモータが採用される。ブラシレスモータMTfには、モータのロータ位置(回転角)Kaを検出する回転角センサKAが設けられる。一方側モータコイルCLx、及び、他方側モータコイルCLyには、3相(U相、V相、W相)のコイル組(巻線組)が、夫々、形成される。回転角(実際値)Kaに基づいて、2つの3相モータコイルCLx、CLyの通電方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、ブラシレスモータMTfが回転駆動される。なお、冗長性を確保するため、回転角センサKAにも、2組の検出部が採用され得る。
【0042】
実際の回転角Kaは、公知の方法(例えば、120度通電を行い誘起電圧のゼロクロスを検出する方法、中性点電位を利用する方法、dq回転座標モデルの推定誘起電圧を利用する方法、αβ固定座標モデルに対して拡張カルマンフィルタを適用する方法、状態オブザーバを利用した方法)によって推定可能である。従って、回転角Kaが推定演算される場合には、回転角センサKAは省略されてもよい。
【0043】
減速機GSは、小径歯車SG、及び、大径歯車DGにて構成される。減速機GSによって、電気モータMTfの回転動力が減速されて、ねじ機構NJに伝達される。具体的には、小径歯車SGが、電気モータMTの出力軸Jmに固定される。小径歯車SGが、大径歯車DGにかみ合わされる。大径歯車DGの回転軸Jkがねじ機構NJのボルト部材BLの回転軸Jkと一致するように、大径歯車DGとボルト部材BLとが固定される。即ち、減速機GSにおいて、電気モータMTfからの回転動力が小径歯車SGに入力され、それが減速されて大径歯車DGからねじ機構NJに出力される。
【0044】
ねじ機構(回転・直動変換機構)NJは、ボルト部材BL、及び、ナット部材NTで構成される。ねじ機構NJにて、減速機GSの回転動力が、調圧ピストンPKの直線動力に変換される。具体的には、ボルト部材BLが大径歯車DGと同軸に固定されており、ボルト部材BLの回転によって、それと螺合するナット部材NTが移動される。ナット部材NTによって調圧ピストンPKが押されることによって、調圧ピストンPKの直線動力に変換される。ここで、ナット部材NTの回転運動は、キー部材KYによって拘束されるため、ナット部材NTは大径歯車DGの回転軸Jk(調圧シリンダCKの中心軸線)の方向に移動される。そして、ナット部材NTによって、調圧ピストンPKが押圧される。ねじ機構NJとして、台形ねじ等の「滑りねじ」が採用される。また、ねじ機構NJとして、ボールねじ等の「転がりねじ」が採用され得る。
【0045】
調圧ピストンPKは、調圧シリンダCKの内孔に挿入され、ピストン/シリンダの組み合わせが形成されている。具体的には、「調圧シリンダCKの内周面、底面」、及び、「調圧ピストンPKの端面」によって液圧室Rk(「調圧室」という)が形成される。調圧室Rkは、連絡流体路HYを介して、マスタシリンダ流体路HMに接続される。調圧ピストンPKが移動されることによって、調圧室Rkの体積が変化する。このとき、連絡弁VRが開位置に、遮断弁VMが閉位置にされているため、制動液BFは、マスタシリンダ室Rmには移動されず、ホイールシリンダWCfに対して移動される。
【0046】
電気モータMTfが正転方向に回転駆動されると、調圧室Rkの体積が減少し、制動液BFが調圧シリンダCKからホイールシリンダWCfへ移動される。これによって、調整液圧Pp(即ち、制動液圧Pwf)が増加し、前輪制動トルクTqfが増加される。一方、電気モータMTfが逆転方向に回転駆動されると、調圧室Rkの体積が増加し、制動液BFがホイールシリンダWCfから調圧シリンダCKに戻される。これによって、調整液圧Pp(=Pwf)が減少し、前輪制動トルクTqfが減少される。連絡流体路HYには、調整液圧Ppを検出するよう、調整液圧センサPPが設けられる。なお、調圧室Rk内には、戻しばね(弾性体)SKが設けられ、電気モータMTfへの通電が停止された場合には、調圧ピストンPKは、その初期位置に戻される。
【0047】
<前輪アクチュエータYPの第1例に対応するコントローラECU等の構成>
図3の概略図を参照して、前輪アクチュエータYPの第1例に対応した、コントローラECU(特に、前輪駆動回路DFx、DFy)、前輪電気モータMTf、遮断弁VM、連絡弁VR、及び、シミュレータ弁VSの構成について説明する。
【0048】
前輪コントローラECB(コントローラECUの一部)には、電力源(蓄電池)BTx、BTyから電力が供給される。コントローラECBによって、電気モータMTf、遮断弁VM、連絡弁VR、及び、シミュレータ弁VSが駆動される。コントローラECBは、マイクロプロセッサMP、及び、前輪駆動回路DFx、DFyを含んで構成される。マイクロプロセッサMPには、電気モータMTf、遮断弁VM、連絡弁VR、及び、シミュレータ弁VSを制御するためのアルゴリズムがプログラムされている。
【0049】
制動制御装置SCの信頼度を向上するよう、マイクロプロセッサMPは二重化されている。また、電気モータMTf、遮断弁VM、連絡弁VR、及び、シミュレータ弁VSを駆動する電気回路が、駆動回路DFx、DFyとして冗長化されている。更に、電気モータMTf、電磁弁VM、VR、VSを小型化するために、駆動回路DFx、DFyには昇圧回路SH(DC/DCコンバータ)が含まれている。昇圧回路SHによって、電気モータMTf、電磁弁(VM等)の駆動電圧が、蓄電池BT等の電圧(電源電圧)よりも高くされる。また、昇圧回路SHによって、電気モータMTfのみの駆動電圧が増加され、電磁弁の駆動電圧は電源電圧のままとされてもよい。更に、一方側、他方側前輪駆動回路DFx、DFyの昇圧回路SHは省略されてもよい(即ち、コントローラECBには、昇圧回路SHが含まれない)。
【0050】
一方側、他方側前輪駆動回路DFx、DFyには、前輪電気モータMTfを駆動するよう、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によって3相(U相、V相、W相)のブリッジ回路が形成される。モータ駆動信号Mtに基づいて、前輪駆動回路DFx、DFyの各スイッチング素子の通電状態が制御され、電気モータMTfの出力が制御される。更に、前輪駆動回路DFx、DFyには、遮断弁VM、連絡弁VR、及び、シミュレータ弁VSを駆動する電気回路が含まれる。各電磁弁は、駆動信号Vm、Vr、Vsに基づいて、それらのコイルの励磁状態(通電状態)が制御(駆動)される。
【0051】
前輪電気モータMTfは、2系統の巻線組(コイル)CLx、CLyを含んで構成される。2系統コイルのうちの一方側前輪モータコイルCLxは、一方側前輪駆動回路DFxによって通電される。また、2系統コイルのうちの他方側前輪モータコイルCLyは、他方側前輪駆動回路DFyによって通電される。従って、前輪電気モータMTfは、2つの前輪駆動回路DFx、DFyのうちの少なくとも1つによって駆動される。前輪電気モータMTfでは冗長(二重系)の構成が採用されるため、「一方側前輪モータコイルCLx、一方側前輪駆動回路DFx、又は、それに係る部材」、及び、「他方側輪モータコイルCLy、他方側前輪駆動回路DFy、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、輪電気モータMTfは作動可能である。つまり、前輪電気モータMTfは、2系統コイルCLx、CLyを有することで、電気的に二重化されている。
【0052】
常開型の遮断弁VMは、2つの巻線(コイル)CMx、CMyを含んで構成される。一方側マスタシリンダ弁コイルCMxは一方側前輪駆動回路DFxによって通電され、他方側マスタシリンダ弁コイルCMyは他方側前輪駆動回路DFyによって通電される。常閉型のシミュレータ弁VSは、2つの巻線(コイル)CSx、CSyを含んで構成される。一方側シミュレータ弁コイルCSxは一方側前輪駆動回路DFxによって通電され、他方側シミュレータ弁コイルCSyは他方側前輪駆動回路DFyによって通電される。常閉型の連絡弁VRは、2つの巻線(コイル)CRx、CRyを含んで構成される。一方側連絡弁コイルCRxは一方側前輪駆動回路DFxによって通電され、他方側連絡弁コイルCRyは他方側前輪駆動回路DFyによって通電される。従って、電磁弁VM、VS、VRは、前輪駆動回路DFx、DFyのうちの少なくとも1つによって駆動される。前輪電気モータMTfと同様に、電磁弁VM、VS、VRも電気的に二重化されている。なお、マスタシリンダMCの容量(体積)が十分に大であり、シミュレータ弁VSが省略される場合には、シミュレータ弁VSに係る部材は省略される。
【0053】
以上で説明したように、前輪WHfにおいては、2系統のモータコイルCLx、CLy、2系統のマスタシリンダ弁コイルCMx、CMy、2系統のシミュレータ弁コイルCSx、CSy、2系統の連絡弁コイルCRx、CRy、及び、それらの夫々に通電を行う一方側、他方側前輪駆動回路DFx、DFyによって、電気的に二重化されている。上記構成では、複数の構成部材(MTf等)による二重化が行われないので、全体として、制動制御装置SCの小型・軽量が維持されつつ、前輪制動トルクTqfの確保において、冗長性が確保される。
【0054】
<後輪アクチュエータEMr>
図4を参照して、後輪コントローラECW(コントローラECUの一部)を含む後輪アクチュエータEMr(第1、第2後輪アクチュエータEMk、EMl)について説明する。制動制御装置SCでは、後輪WHr(第1、第2後輪WHk、WHl)の制動トルクTqr(=Tqk、Tql)の発生及び調整は、後輪電気モータMTr(第1、第2電気モータMTk、MTl)によって、制動液BFを介さずに行われる。右後輪WHkと左後輪WHlとは同じ構成であるため、右後輪WHkについて説明する。なお、[ ]内の記号は、左後輪WHlに対応する記載である。
【0055】
右後輪WHrにも、前輪WHfと同様に、回転部材KT、摩擦部材MSが設けられる。右後輪アクチュエータEMkは、ブレーキキャリパCP、右後輪電気モータMTk(「第1電気モータ」に相当)、後輪コントローラECW、蓄電池BTk、減速機GS、回転・直動変換機構NJ、ブレーキピストンPN、及び、押圧力センサFBにて構成されている。ブレーキキャリパCPは、右後輪WHkの回転部材KTkを挟み込むように設けられる。ブレーキキャリパCPには、電気モータMTk等が内蔵されている。
【0056】
電気モータMTkは、右後輪WHkの制動トルクTqkを調整するための動力源である。右後輪電気モータMTkには、前輪電気モータMTfとは異なり、1系統のモータコイルCLkが含まれる。電気モータMTkとしてブラシレスモータが採用される場合には、吹出し部(B)に示すような3相コイルCLkによって、電気モータMTkが駆動される。
【0057】
ブレーキキャリパCP内には、右後輪電気モータMTkを駆動するよう、後輪コントローラECWが設けられる。後輪コントローラECWは、マイクロプロセッサMP、及び、右後輪駆動回路DRkにて構成される。マイクロプロセッサMPには、右後輪駆動回路DRk(「第1後輪駆動回路」に相当)を制御するよう、制御アルゴリズムがプログラムされている。加えて、コントローラECB、左後輪WHlの後輪コントローラECWと情報(信号)が共有されるよう、通信バスBSが接続されている。右後輪駆動回路DRkによって、右後輪モータコイルCLkが駆動され、右後輪モータMTkへの通電量が制御される。
【0058】
ブレーキキャリパCP内には、右後輪蓄電池BTkが設けられる。蓄電池BTkは、電力線PLを介して、車体側の蓄電池BTから電力供給が行われ、充電される。蓄電池BTkによって、コントローラECW(最終的には、電気モータMTk)に電力が供給される。蓄電池BTkは省略され得る。この場合、電力線PLによって、車体側の蓄電池BTから、コントローラECWに直接給電が行われる。
【0059】
後輪電気モータMTkの回転出力は、図2を参照して説明した前輪アクチュエータYPと同様に、減速機GS、及び、回転・直動変換機構(ねじ機構)NJを介して、ブレーキピストンPNの推力(白抜き矢印の方向の力)に変換される。ブレーキピストンPNは、摩擦部材(ブレーキパッド)MSを回転部材(ブレーキディスク)KTに対して押し付ける。この際に、摩擦部材MSと回転部材KTとの間で生じる摩擦力によって、右後輪WHkに制動トルクTqkが発生される。右後輪アクチュエータEMkには、摩擦部材MSが回転部材KTを押し付ける力である押圧力Fbを検出するよう、押圧力センサFBが設けられる。
【0060】
以上、右後輪WHkのアクチュエータEMkについて説明した。左後輪WHlのアクチュエータEMlについては、上記説明において、添字「k」を添字「l」に読み替えたものが、左後輪アクチュエータEMlの説明に相当する。従って、左後輪電気ブレーキMTl(「第2電気モータ」に相当)は、左後輪駆動回路DRl(「第2後輪駆動回路」に相当)によって制御される。
【0061】
前輪WHfに係る構成要素(YP、ECB等)は車体側に搭載されるが、後輪アクチュエータEMr(=EMk、EMl)は車輪側に搭載される。このため、後輪アクチュエータEMrでは、搭載性向上のため、特に、小型・軽量が重要である。後輪アクチュエータEMrでは、前輪WHf(=WHi、WHj)用の前輪電気モータMTfとは異なり、電気的には1系統である。後輪電気モータMTr(即ち、第1、第2電気モータMTk、MTl)、及び、コントローラECW(コントローラECUの一部)内の後輪駆動回路DRr(即ち、第1、第2後輪駆動回路DRk、DRl)では電気的二重化は採用されない。これは、後輪WHrでの制動トルクTqrの発生は、左右の後輪アクチュエータEMrにて二重化されていることに基づく。上記構成によって、後輪WHrにおいて、搭載性が確保されつつ、制動トルクTqrの確保についての冗長性が達成され得る。
【0062】
<前輪アクチュエータYPの第2例>
図5の概略図(VI、VOは図示せず)を参照して、前輪アクチュエータYPの第2例について説明する。図は制動制御装置SCの作動時であり、電磁弁VS、VM、VRには通電が行われ、コントローラECUの分割構成(ECU=ECB+ECW)が示されている。前輪アクチュエータYPの第1例では、前輪電気モータMTfの回転動力が、調圧シリンダCK内の調圧ピストンPKの直線動力(推力)に変換されて、調整液圧Pp(=Pwf)が調整された。前輪アクチュエータYPの第2例では、前輪電気モータMTfの回転動力によって、制動液BFの還流(循環する制動液BFの流れ)が形成され、調圧弁UAによって、調整液圧Pp(=Pwf)が調節される。
【0063】
上述したよう、同一記号を付された構成部材等は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「i」~「l」は、「i」が右前輪、「j」が左前輪、「k」が右後輪、「l」が左後輪を表す。また、記号末尾の添字「f」、「r」は、「f」が前輪(=添字「i、j」)、「r」が後輪(=添字「k、l」)を表す。前輪の電気系統に係る記号末尾の添字「x」、「y」は、「x」が一方側系統、「y」が他方側系統を表す。添字「i」~「l」、「f」、「r」、「x」、「y」は省略され得る。これらが省略された場合には、各記号は総称を表す。以下、第1例との相違点を中心に説明する。
【0064】
前輪アクチュエータYPによって、前輪ホイールシリンダWCfの液圧(制動液圧)Pwfが調整される。前輪アクチュエータYPは、電動ポンプ(=MTf+HP)、循環流体路HK、逆止弁GC、調圧弁UA、及び、調整液圧センサPPを備えている。前輪アクチュエータYPでは、電動ポンプが吐出する制動液BFが、調圧弁UAによって調整液圧Ppに調節される。調整液圧Ppの調節された制動液BFは、連絡弁VRを介して、前輪ホイールシリンダWCfに供給される。
【0065】
電動ポンプは、前輪電気モータMTf、及び、流体ポンプHPによって構成される。電動ポンプでは、電気モータMTfと流体ポンプHPとが一体となって回転するよう、電気モータMTfと流体ポンプHPとが固定されている。電気モータMTfは、駆動信号Mtに基づいて、前輪コントローラECBによって制御される。
【0066】
流体ポンプHPにおいて、吸入部Qsと吐出部Qtとは、循環流体路HKを介して接続されている。流体ポンプHPの吸入部Qsには、リザーバ流体路HRが接続されている。従って、制動液BFは、マスタリザーバRVから、リザーバ流体路HRを通して、吸入部Qsにて吸い込まれ、吐出部Qtから循環流体路HKに排出される。循環流体路HKには、逆止弁GC(「チェック弁」ともいう)が設けられる。
【0067】
前輪電気モータMTfが駆動されると、点線矢印で示すように、制動液BFは、「(a)→(b)→(c)→(d)→(a)」の順で、循環流体路HKにて還流される。循環流体路HKには、調圧弁UAが設けられる。調圧弁UAは、通電状態(例えば、供給電流)に基づいて開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁(「比例弁」、又は、「差圧弁」ともいう)である。調圧弁UAは、駆動信号Uaに基づいて、コントローラECBによって制御される。調圧弁UAとして、常開型の電磁弁が採用される。調圧弁UAによって、制動液BFの流れ(還流)が絞られることによって、調整液圧Ppの調節が行われる(所謂、調圧弁UAのオリフィス効果)。調整液圧Ppを検出するよう、調整液圧センサPPが設けられる。
【0068】
循環流体路HKにおける調圧弁UAと逆止弁GCとの間(c)が、連絡流体路HYを介して、マスタシリンダ流体路HMにおける遮断弁VMの下部Bkに接続される。連絡流体路HYには、常閉型の連絡弁VRが設けられる。制動時には、連絡弁VRに通電が行われ、マスタシリンダ流体路HMと循環流体路HKとは連通状態にある。このため、ホイールシリンダWCfの制動液圧Pwf(結果、前輪制動トルクTqf)は、前輪アクチュエータYPによって、調整液圧Ppに調節される。
【0069】
なお、常閉型の連絡弁VRは、完全に電源が失陥した場合に、制動液圧Pwfをマニュアル制動(運転者の操作力Fpのみによる制動)するためのものである。従って、連絡弁VRは、連絡流体路HYに設けられる代わりに、破線で示すように、循環流体路HKに設けられてもよい。
【0070】
<前輪アクチュエータYPの第2例に対応するコントローラECU等の構成>
図6の概略図を参照して、前輪アクチュエータYPの第2例に対応した、コントローラECU(特に、前輪駆動回路DFx、DFy)、前輪電気モータMTf、遮断弁VM、連絡弁VR、シミュレータ弁VS、及び、調圧弁UAの構成について説明する。第2例のコントローラECU構成では、調圧弁UAによって、制動液BFの還流が絞られて、調整液圧Ppが調整されるため、第2例のコントローラECU構成に調圧弁UAが加えられる。他の部分については、基本的には、第1例のコントローラECUの構成と同じである。
【0071】
前輪コントローラECB(コントローラECUの一部)には、電力源(蓄電池)BTx、BTyから電力が供給される。コントローラECBによって、前輪電気モータMTf、遮断弁VM、連絡弁VR、シミュレータ弁VS、及び、調圧弁UAが駆動される。コントローラECBは、二重化されたマイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DFx、DFyを含んで構成される。更に、電気モータMTf、電磁弁VM、VR、VS、UAを小型化するために、前輪駆動回路DFx、DFyには昇圧回路SH(DC/DCコンバータ)が含まれている。
【0072】
一方側、他方側前輪駆動回路DFx、DFyには、3相ブリッジ回路が形成され、モータ駆動信号Mtに基づいて、電気モータMTfの出力が制御される。駆動回路DFx、DFyには、電磁弁VM、VR、VS、UAを駆動する電気回路が含まれ、駆動信号Vm、Vr、Vs、Uaに基づいて、コイルの励磁状態が制御される。
【0073】
前輪電気モータMTfは、2系統コイルCLx、CLyを含み、二重化されている。一方側前輪モータコイルCLxは一方側前輪駆動回路DFxによって通電され、他方側前輪モータコイルCLyは他方側前輪駆動回路DFyによって通電される。つまり、前輪電気モータMTfは、2つの前輪駆動回路DFx、DFyのうちの少なくとも1つによって駆動される。
【0074】
常開型の遮断弁VMは、2つのコイルCMx、CMyを含み、二重化されている。一方側マスタシリンダ弁コイルCMxは駆動回路DFxによって通電され、他方側マスタシリンダ弁コイルCMyは駆動回路DFyによって通電される。常閉型のシミュレータ弁VSは、2つのコイルCSx、CSyを含み、二重化されている。一方側シミュレータ弁コイルCSxは駆動回路DFxによって通電され、他方側シミュレータ弁コイルCSyは駆動回路DFyによって通電される。常閉型の連絡弁VRは、2つの巻線(コイル)CRx、CRyを含み、二重化されている。一方側連絡弁コイルCRxは駆動回路DFxによって通電され、他方側連絡弁コイルCRyは駆動回路DFyによって通電される。常閉型の調圧弁UAは、2つのコイルCAx、CAyを含み、二重化されている。一方側調圧弁コイルCAxは駆動回路DFxによって通電され、他方側調圧弁コイルCAyは駆動回路DFyによって通電される。従って、電磁弁VM、VS、VR、UAは、駆動回路DFx、DFyのうちの少なくとも1つによって駆動される。前輪電気モータMTfと同様に、電磁弁VM、VS、VR、UAも電気的に二重化されている。なお、マスタシリンダMCの容量(体積)が十分に大であり、シミュレータ弁VSが省略される場合には、シミュレータ弁VSに係る部材は省略される。
【0075】
以上で説明したように、第2例の前輪アクチュエータYPにおいても、2系統の前輪モータコイルCLx、CLy、2系統のマスタシリンダ弁コイルCMx、CMy、2系統のシミュレータ弁コイルCSx、CSy、2系統の連絡弁コイルCRx、CRy、2系統の調圧弁コイルCAx、CAy、及び、それらの夫々に通電を行う一方側、他方側前輪駆動回路DFx、DFyによって、電気的に二重化されている。上記構成では、複数の構成部材(MTf等)による二重化が行われないので、制動制御装置SCの小型・軽量が維持された上で、前輪制動トルクTqfの確保において、冗長性が確保される。
【0076】
<作用・効果>
制動制御装置SCでは、前輪制動トルクTqf(=Tqi、Tqj)は、制動液BFを介した制動液圧Pwfによって調節される。一方、後輪制動トルクTqrは、制動液BFを利用せず、2つの後輪電気モータMTk、MTlによって調節される。制動液圧Pwf(=Pwi、Pwj)は、1つの前輪電気モータMTfによって調整される。このため、前輪電気モータMTfは2系統コイルCLx、CLyを有している。これに対して、後輪制動トルクTqr(=Tqk、Tql)は、第1、第2電気モータMTk、MTlによって別々に調整される。後輪WHrでは2つの電気モータ(第1、第2電気モータ)MTk、MTlによって二重化されているため、第1、第2電気モータMTk、MTlは、夫々、1系統コイルCLk、CLlを有する。前輪電気モータMTf、及び、第1、第2電気モータMTk、MTlは、コントローラECUによって制御される。コントローラECUには、「前輪電気モータMTfの2系統コイルCLx、CLyのうちの一方側に通電する一方側前輪駆動回路DFx」、「前輪電気モータMTfの2系統コイルCLx、CLyのうちの他方側に通電する他方側前輪駆動回路DFy」、「第1電気モータMTkの1系統コイルCLkに通電する第1後輪駆動回路DRk」、及び、「第2電気モータMTlの1系統コイルCLlに通電する第2後輪駆動回路DRl」を含んで構成されている。
【0077】
上記構成によって、4つの車輪WHの制動トルクTqが電気モータMTによって調整される。前輪WHfに係る構成要素(MTf等)は電気的二重化されているが、後輪WHrの1輪に係る構成要素(MTk等)は電気的には一重である。これは、後輪WHrでは、左右で電気的に独立していることに基づく。該構成によって、電動化された制動制御装置SCにおいて、装置の冗長性が確保された上で、小型・軽量化が達成される。
【0078】
なお、上記の説明では、コントローラECUが、前輪コントローラECBと後輪コントローラECWとに分割されていた。これに代えて、後輪コントローラECWは、車体側に設けられた前輪コントローラECBに含まれる構成であってもよい。この場合、コントローラECB(=ECU)は、冗長化されたマイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DFx、DFy、DRk、DRlを含んでいる(図1を参照)。該構成でも、上記同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0079】
SC…制動制御装置、WHf…前輪、WHk…右後輪(第1後輪)、WHl…左後輪(第2後輪)、Tqf…前輪制動トルク、Tqk…右後輪制動トルク、Tql…左後輪制動トルク、BP…制動操作部材、MC…マスタシリンダ、WCf…前輪ホイールシリンダ、RV…マスタリザーバ、YP…前輪アクチュエータ、ECU…コントローラ(電子制御ユニット)、ECB…前輪コントローラ、ECW…後輪コントローラ、MTf…前輪電気モータ、CLx…一方側モータコイル、CLy…他方側モータコイル、MTk…第1電気モータ(右後輪電気モータ)、MTl…第2電気モータ(左後輪電気モータ)、CLk…第1モータコイル(右後輪モータコイル)、CLl…第2モータコイル(左後輪モータコイル)、DFx…一方側前輪駆動回路、DFy…他方側前輪駆動回路、DRk…第1後輪駆動回路(右後輪駆動回路)、DRl…第2後輪駆動回路(左後輪駆動回路)。


図1
図2
図3
図4
図5
図6