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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 23/08 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
B60K23/08 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019106348
(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公開番号】P2020199803
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇彰
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-088324(JP,A)
【文献】特開平01-114533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪となるそれぞれ左右一対の前輪および後輪を有する走行車体と、
前記走行車体に装着され該走行車体の走行中に被作業面に対する作業を行う作業機と、
前記前輪のみまたは前記後輪のみが駆動輪となる2WD走行から前記前輪および前記後輪が駆動輪となる4WD走行に所定時間かけた接続によって切り替える油圧式の4WDクラッチと、
前記走行車体の走行を制動する場合に操作されるブレーキペダルと、
前記4WDクラッチを制御するとともに、前記走行車体が2WD走行の場合には前記ブレーキペダルが操作されると該走行車体を4WD走行に切り替える制御部と
前記走行車体の走行速度を検出する車速センサと、
前記走行車体の走行速度を少なくとも高速、中速、低速の3段階に変速する副変速部と
を備え、
前記制御部は、
前記走行車体の2WD走行中に前記ブレーキペダルが操作され4WD走行に切り替える場合、
前記走行車体の走行速度が所定速度以上の場合には前記4WDクラッチの接続にかかる時間を前記所定時間よりも長くし、前記走行車体の走行速度が前記所定速度よりも遅い場合には前記4WDクラッチの接続にかかる時間を前記所定時間で維持するとともに、
前記副変速部が高速および中速の場合には前記4WDクラッチの接続にかかる時間を前記所定時間よりも長くし、前記副変速部が低速または低速未満の場合には前記4WDクラッチの接続にかかる時間を前記所定時間で維持すること
を特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行しながら圃場面などの被作業面に対する作業を行う作業車両(たとえば、農用トラクタ)には、前輪のみまたは後輪のみが駆動輪となる二輪駆動(2WD)走行と、前輪および後輪の両方が駆動輪となる四輪駆動(4WD)走行とを四輪駆動切替クラッチ(4WDクラッチ)によって切り替え可能なものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このような作業車両は、たとえば、芝刈り機や芝刈り機能を有するトラクタの場合には、2WD走行中にブレーキをかけた際に4WD走行に切り替わるよう制御されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-192849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような従来の作業車両は、2WD走行から4WD走行に切り替わる際に、動力伝達経路が切り替わることに起因するショック(切り替えショック)が発生することがあった。そして、かかる切り替えショックによって被作業面である芝生にダメージを与える恐れがあった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ブレーキ時において被作業面に与えるダメージを低減させることができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、実施形態の一態様に係る作業車両(1)は、走行車体(2)と、作業機(3)と、4WDクラッチ(324)と、ブレーキペダル(310)と、制御部(100)と、車速センサ(113)と、副変速部(325)とを備える。走行車体(2)は、駆動輪となるそれぞれ左右一対の前輪(301)および後輪(302)を有する。作業機(3)は、前記走行車体(2)に装着され該走行車体(2)の走行中に被作業面に対する作業を行う。油圧式の4WDクラッチ(324)は、前記前輪(301)のみまたは前記後輪(302)のみが駆動輪となる2WD走行から前記前輪(301)および前記後輪(302)が駆動輪となる4WD走行に所定時間かけた接続によって切り替える。ブレーキペダル(310)は、前記走行車体(2)の走行を制動する場合に操作される。制御部(100)は、前記4WDクラッチ(324)を制御するとともに、前記走行車体(2)が2WD走行の場合には前記ブレーキペダル(310)が操作されると該走行車体(2)を4WD走行に切り替える。車速センサ(113)は、前記走行車体(2)の走行速度を検出する。副変速部(325)は、前記走行車体(2)の走行速度を少なくとも高速、中速、低速の3段階に変速する。前記制御部(100)は、前記走行車体(2)の2WD走行中に前記ブレーキペダル(310)が操作され4WD走行に切り替える場合、前記走行車体(2)の走行速度が所定速度以上の場合には前記4WDクラッチ(324)の接続にかかる時間を前記所定時間よりも長くし、前記走行車体(2)の走行速度が前記所定速度よりも遅い場合には前記4WDクラッチ(324)の接続にかかる時間を前記所定時間で維持するとともに、前記副変速部(325)が高速および中速の場合には前記4WDクラッチ(324)の接続にかかる時間を前記所定時間よりも長くし、前記副変速部(325)が低速または低速未満の場合には前記4WDクラッチ(324)の接続にかかる時間を前記所定時間で維持する
【発明の効果】
【0008】
実施形態の一態様に係る作業車両によれば、ブレーキ時において被作業面に与えるダメージを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る作業車両を示す図である。
図2図2は、実施形態に係るトラクタの模式的説明図である。
図3図3は、実施形態に係るトラクタの伝動機構を示す線図である。
図4図4は、実施形態に係る作業車両の制御部を中心とした機能ブロック図である。
図5図5は、実施形態に係る作業車両の駆動制御処理の概要を説明するための図である。
図6図6は、実施形態に係る作業車両の別の駆動制御処理の概要を説明するための図である。
図7図7は、実施形態に係る作業車両の別の駆動制御処理における車速と4WDクラッチの接続にかかる時間との関係を示す図(1)である。
図8図8は、実施形態に係る作業車両の別の駆動制御処理における車速と4WDクラッチの接続にかかる時間との関係を示す図(2)である。
図9図9は、実施形態に係る作業車両の別の駆動制御処理における車速と4WDクラッチの接続にかかる時間との関係を示す図(3)である。
図10図10は、実施形態に係る作業車両の別の駆動制御処理における車速と4WDクラッチの接続にかかる時間との関係を示す図(4)である。
図11図11は、実施形態に係る作業車両の駆動制御処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本願の開示する作業車両の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
まず、図1を用いて、実施形態に係る作業車両1の全体構成について説明する。図1は、実施形態に係る作業車両1を示す図である。なお、図1では、芝刈機能を有する作業車両1を模式的に示している。
【0012】
図1に示すように、実施形態に係る作業車両1は、トラクタ2と、モアユニット3とを備える。なお。トラクタ2は走行車両の一例であり、モアユニット3は作業機の一例である。
【0013】
トラクタ2は、たとえば、作業者等によって操縦される車両である。トラクタ2は、たとえば、図示しないリフトアームによりモアユニット3を昇降させたり、モアユニット3の草刈機構へ動力を供給したりする。また、トラクタ2は、図示しないコレクターを有し、モアユニット3で刈り取られた草を収容する。
【0014】
モアユニット3は、トラクタ2の前方部下方側に設けられ、たとえば上下方向に沿った軸回りに回転する刈刃を有する草刈機構により草を刈る装置である。なお、図1の例では、モアユニット3がトラクタ2の前方に設けられているが、トラクタ2の後方や、左右側方に設けられてもよい。
【0015】
ここで、これまでの作業車両では、ブレーキ時に2WD走行から4WD走行に切り替える場合に、動力伝達経路を切り替えるときのショック(切り替えショック)が発生していた。このため、かかる切り替えショックが被作業面である芝生に伝わることにより、芝生にダメージを与える恐れがあった。
【0016】
そこで、実施形態に係る作業車両1では、ブレーキ時に2WD走行から4WD走行に切り替える場合に、4WDクラッチ324(図2参照)の接続にかかる時間を所定時間Tp(図7参照)よりも長くすることとした。なお、かかる所定時間Tpとは、ブレーキ時以外の場合に4WDクラッチ324の接続にかけている時間のことである。
【0017】
このように、ブレーキ時に4WDクラッチ324をゆっくり接続することにより、ブレーキ時に2WD走行から4WD走行に切り替える場合に生じる切り替えショックを低減することができる。したがって、実施形態に係る作業車両1によれば、ブレーキ時において被作業面に与えるダメージを低減させることができる。
【0018】
走行車体としてのトラクタ2は、機体前部のボンネット内にエンジン321(図2参照)を搭載している。そして、トラクタ2は、エンジン321の動力により路上や被作業面を走行可能である。
【0019】
エンジン321からの回転動力は、変速装置であるトランスミッション130(図4参照)の走行伝動装置へ伝達され、走行伝動装置で減速されて車輪、すなわち、トラクタ2の前輪301(図2参照)や後輪302(図2参照)へ伝達される。なお、作業車両1が芝刈り機能を付与されたトラクタ2である場合、前輪301および後輪302は芝を痛めにくい芝用のタイヤに交換される。
【0020】
機体後部のキャビン内には操縦席が設けられている。操縦席の前方には前輪301を操舵するステアリングハンドルが設けられている。ステアリングハンドルの前方にはメータパネルが設けられている。
【0021】
なお、以下の説明において、前後方向とは、トラクタ2の直進時における進行方向であり、前方側を前後方向の「前」、後方側を前後方向「後」と規定する。ここで、トラクタ2の進行方向とは、トラクタ2直進時において、操縦席からステアリングハンドルに向かう方向である。
【0022】
また、左右方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向である。ここでは、前後方向「前」側に向けて左右を規定する。すなわち、操縦者が操縦席に着いて前方を向いた状態で、左手側が「左」、右手側が「右」である。さらに、鉛直方向とは、前後方向および左右方向に対して直交する方向である。したがって、前後方向、左右方向および鉛直方向は、互いに3次元で直交するようになる。
【0023】
また、キャビン内における操縦席の周りには、前述のステアリングハンドルやメータパネルの他、アクセルペダル、クラッチペダル、ブレーキペダル310(図2参照)などの各種操作ペダルや、前後進切替操作部材としての前後進レバー、さらには主変速レバー、副変速レバーなどの各種操作レバーが設けられている。
【0024】
本実施形態に係るトラクタ2は、エンジン321の回転数に応じて変速装置であるトランスミッション130を制御し、自動変速を行うことができるようになっている。すなわち、アクセルペダルや主変速レバーの操作のみでも主変速の切替えが可能になっている。このときの変速タイミングについては、後述する制御部100(図4参照)が、少なくともエンジン回転数の指示値と、実際のエンジン回転数と、車速とから判断して決定する。
【0025】
図2は、実施形態に係るトラクタ2の模式的説明図である。図2に示すように、トラクタ2は、機体の左右側それぞれに、左右の前車軸406L、406Rに取付けられた前輪301L、301Rと、左右の後車軸405L、405Rに取付られた左右の後輪302L、302Rとを備える。
【0026】
なお、以下では、符号にLを付して左側を、Rを付して右側を示すことにするが、左右を区別する必要が無い場合は、たとえば、前輪301、後輪302などのように記す場合がある。
【0027】
機体の前部には、エンジン321が搭載されており、かかるエンジン321から動力伝達機構を介して前輪301や後輪302へ伝達される。なお、本実施形態に係るトラクタ2は、4WDクラッチ324を備えており、この4WDクラッチ324の切換えによって、後輪302のみが駆動する2WD方式と、前輪301および後輪302が共に駆動する4WD方式とに切換え自在に構成されている。
【0028】
後輪302への動力伝達機構は、エンジン321の後段に、前後進切換クラッチ322を介して主変速部323が配設され、さらにその後段に副変速部325が配設され、その後段には後輪差動歯車装置326が配設される。そして、この後輪差動歯車装置326と後輪302とを連結する後車軸405の基部には、それぞれブレーキ装置312を設けている。
【0029】
また、副変速部325の後段に設けられたアイドルギヤを介して変速軸404へ入力され、4WDクラッチ324、前輪差動歯車装置320を介して前輪301への動力伝達がなされる。
【0030】
切れ角センサ304は、ステアリングハンドルの操作量、すなわち切れ角(操舵角)を検知する。なお、切れ角は、ステアリングハンドルの操作量がゼロの場合、すなわちトラクタ2の直進走行時を基準として、左右方向各々で検知される。
【0031】
後輪302に設けたブレーキ装置312は、機体に設けたブレーキペダル310を操縦者が踏み込むことで、ブレーキシリンダ311が油圧により作用して機能する。すなわち、左後車軸405Lの基部に設けた左ブレーキ装置312Lを左ブレーキシリンダ311Lに接続するとともに、右後車軸405Rの基部に設けた右ブレーキ装置312Rを右ブレーキシリンダ311Rに接続する。
【0032】
図示するように、左右のブレーキシリンダ311L、311Rは、制御部100に接続した左右のブレーキソレノイド330L、330Rと接続している。そのため、制御部100に所定のブレーキ信号が入力されると、制御部100は、ブレーキソレノイド330を駆動して、左右のブレーキ装置312L、312Rのいずれか一方または両方を作動させることができる。なお、ブレーキソレノイド330は、たとえば、油圧ポンプ341、リリーフバルブ340などと共に油圧回路を構成する。
【0033】
次に、図3を参照しながら、トラクタ2のエンジン321から前輪301、後輪302までの動力の伝達経路について説明する。図3は、実施形態に係るトラクタ2の伝動機構を示す線図である。
【0034】
図3に示すように、エンジン321の出力軸は、前・後進を切り換える前後進切換クラッチ322を介して動力伝達軸401と連結している。したがって、トラクタ2は、前後進切換クラッチ322を切換えることによって、動力伝達軸401を選択的に正逆転することができる。
【0035】
また、動力伝達軸401は、主変速部323および副変速部325に連結されている。主変速部323には、第1クラッチギヤ361と第3クラッチギヤ363とを有する一速/三速切換用クラッチ402と、第2クラッチギヤ362と第4クラッチギヤ364とを有する二速/四速切換用クラッチ403とが装着され、エンジン321からの動力を1速~4速に変速して出力可能としている。
【0036】
さらに、主変速部323は、高低クラッチ365を装着しており、1速~4速を、それぞれさらに高速あるいは低速に切換え可能としている。
【0037】
主変速部323の動力が入力される副変速部325には、図示しない副変速レバーで操作される二連の副変速クラッチの第1のシフタ381と第2のシフタ382と複数の伝達ギヤとを備える。
【0038】
かかる第1のシフタ381と第2のシフタ382とがいずれの伝達ギヤと係合するかにより、トラクタ2は、超低速、低速、中速および高速とに変速することができる。そして、副変速部325の出力軸の回転が、後輪差動歯車装置326から車軸および後輪遊星歯車機構391を介して後輪302へ伝動される。
【0039】
また、主変速部323から副変速部325へ入力される動力が、アイドルギヤを介して4WDクラッチ324を装備した変速軸404へ入力されることにより、前輪301への駆動力伝動がなされる。
【0040】
トラクタ2は、4WDクラッチ324の作用により、通常の前輪駆動から増速された前輪駆動への切り換えも可能となっている。なお、4WDクラッチ324を中立にすると、トラクタ2は、前輪301の駆動が断たれて後輪302のみの駆動、すなわち2WDとなる。
【0041】
こうして、4WDクラッチ324の後段部に伝達された動力は、前輪差動歯車装置320と前輪遊星歯車機構390とを介して前輪301へと伝達される。
【0042】
また、トラクタ2は、PTO(Power Take Off)クラッチ366を備えており、かかるPTOクラッチ366を繋ぐことで、エンジン321からの動力をPTO軸392へと伝達することができる。
【0043】
PTO軸392は、前段側にPTO変速第1シフタ371およびPTO変速第2シフタ372が設けられており、これらが操作されることにより、低速から高速でPTO軸392を順回転させることができるとともに、逆転させることも可能となっている。
【0044】
次に、図4を参照して作業車両1の制御部100の構成の一例について説明する。図4は、実施形態に係る作業車両1の制御部100を中心とした機能ブロック図である。
【0045】
制御部100は、CPU(Central Processing Unit)等の処理装置や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置、さらには入出力装置が設けられたコンピュータ等である。
【0046】
そして、図4に示すように、制御部100は、エンジン系ECU(Electronic Control Unit)101と、走行系ECU102と、作業機系ECU103とを備える。エンジン系ECU101は、エンジン321の回転数を制御する。走行系ECU102は、駆動輪の回転を制御することで、作業車両1の走行速度を制御する。作業機系ECU103は、モアユニット3(図1参照)の各種動作(たとえば、昇降動作など)を制御する。
【0047】
各ECU101、102、103は、やはりコンピュータの一種であり、CAN通信ライン(不図示)を介して交互に接続されている。なお、制御部100が備える記憶装置には、作業車両1の制御に必要な各種コンピュータプログラムや必要なデータが記憶されている。
【0048】
図4に示すように、制御部100には、エンジン回転数センサ111、アクセル操作位置検出センサ112、車速センサ113、副変速位置センサ114、切れ角センサ304、ストップランプスイッチ115、4WDスイッチ116、各種センサ121および各種スイッチ122が接続される。
【0049】
エンジン回転数センサ111は、エンジン321の回転数を検出する。アクセル操作位置検出センサ112は、アクセルペダル(不図示)の操作位置を検出する。車速センサ113は、作業車両1の走行速度(以下、車速とも呼称する。)を検出する。副変速位置センサ114は、副変速レバーの位置(超低速、低速、中速および高速)を検出する。
【0050】
切れ角センサ304は、上述のように、ステアリングハンドルの切れ角を検知する。ストップランプスイッチ115は、ブレーキペダル310(図2参照)が操作された時にON状態のブレーキ信号を出力する。そして、トラクタ2では、かかるON状態のブレーキ信号が出力される際に、図示しないストップランプが点灯する。4WDスイッチ116は、手動による4WDクラッチ324の切り替え信号を出力する。
【0051】
各種センサ121には、エンジン321の排気温度を測定するエンジン排気温度センサや、エンジン321のエンジン潤滑オイルの圧力を測定するエンジンオイル圧力センサ、エンジン321の冷却水の温度を測定するエンジン水温センサなどが含まれる。
【0052】
各種スイッチ122は、作業車両1の様々な部位を動作させる各種アクチュエータ132を含む装置類を作動させる。
【0053】
エンジン系ECU101には、たとえば、エンジン回転数センサ111からのエンジン回転数や、アクセル操作位置検出センサ112からのアクセルペダルのペダル操作位置、各種センサ121および各種スイッチ122からの情報などが入力される。そして、エンジン系ECU101は、入力される各種情報に基づいて、エンジン321に向けて回転制御信号を出力する。
【0054】
走行系ECU102には、たとえば、エンジン回転数センサ111からのエンジン回転数や各種センサ121および各種スイッチ122からの情報などが入力される。そして、走行系ECU102は、入力される各種情報に基づいて、トランスミッション130に向けて変速段切替制御信号を出力する。
【0055】
そして、作業車両1では、エンジン系ECU101と走行系ECU102とが協働してトランスミッション130を制御する。また、作業機系ECU103は、モアユニット3に設けられる作業機制御機構131に向けて作業機制御信号を出力する。
【0056】
ここで、実施形態では、走行系ECU102が4WDクラッチ制御部104を有する。かかる4WDクラッチ制御部104は、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を制御する。
【0057】
具体的には、4WDクラッチ制御部104は、4WDクラッチ324内の比例ソレノイド(不図示)を制御することで、4WDクラッチ324の昇圧を制御する。これにより、4WDクラッチ制御部104は、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を制御することができる。
【0058】
つづいて、4WDクラッチ制御部104の具体的な動作について、図5図10を用いて説明する。図5は、実施形態に係る作業車両1の駆動制御処理の概要を説明するための図である。
【0059】
作業車両1が2WD走行している場合に、操縦者がブレーキペダル310(図2参照)を操作すると、ストップランプスイッチ115がON状態のブレーキ信号を出力する(ステップS11)。
【0060】
すると、4WDクラッチ制御部104(図4参照)は、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tp(図7参照)よりも長い時間に設定する(ステップS12)。
【0061】
なお、かかる所定時間Tpとは、通常時(すなわち、ON状態のブレーキ信号が出力された場合以外の場合であり、例えば4WDスイッチ116の手動操作で走行モードを2WD走行から4WD走行に切り替える場合)において2WD走行から4WD走行に切り替える場合に、4WDクラッチ制御部104が4WDクラッチ324を接続する時間である。この所定時間Tpは、実用上支障のない範囲で、可能な限り短い時間にあらかじめ設定されている。
【0062】
そして、4WDクラッチ制御部104は、ステップS12で設定された接続にかかる時間で4WDクラッチ324を接続する(ステップS13)。これにより、作業車両1は、2WD走行から4WD走行に切り替わる。
【0063】
ここまで説明したように、実施形態では、操縦者がブレーキペダル310を操作した場合に、通常時よりもゆっくり2WD走行から4WD走行に切り替える。このように、ブレーキ時に4WDクラッチ324をゆっくり接続することにより、操縦者がブレーキペダル310を操作した場合に、2WD走行から4WD走行への切り替えショックを低減させることができる。
【0064】
したがって、実施形態によれば、ブレーキ時において被作業面に与えるダメージを低減させることができる。
【0065】
図6は、実施形態に係る作業車両1の別の駆動制御処理の概要を説明するための図である。図6の例では、作業車両1が2WD走行している場合に、操縦者がブレーキペダル310(図2参照)を操作すると、ストップランプスイッチ115がON状態のブレーキ信号を出力する(ステップS21)。
【0066】
すると、4WDクラッチ制御部104(図4参照)は、車速が所定速度Sp(図7参照)以上である場合に、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tp(図7参照)よりも長い時間に設定する(ステップS22)。
【0067】
換言すると、4WDクラッチ制御部104は、車速が所定速度Spよりも遅い場合には、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpのままで維持する。
【0068】
そして、4WDクラッチ制御部104は、ステップS22で設定された接続にかかる時間で4WDクラッチ324を接続する(ステップS23)。これにより、作業車両1は、2WD走行から4WD走行に切り替わる。
【0069】
このように、図6の例では、車速が所定速度Sp以上の速い速度である場合に、通常時よりもゆっくり2WD走行から4WD走行に切り替える。これにより、車速が速いことから4WDクラッチ324で生じる切り替えショックが大きくなる場合に、かかる切り替えショックを低減させることができる。
【0070】
したがって、図6の例によれば、車速が速いことから4WDクラッチ324で生じる切り替えショックが大きくなる場合に、被作業面に与えるダメージを低減させることができる。
【0071】
また、図6の例では、車速が遅いため4WDクラッチ324で生じる切り替えショックが必ずしも大きくない場合には、通常時と同様にすばやく2WD走行から4WD走行に切り替える。
【0072】
これにより、4WDクラッチ324がゆっくりと接続されることで生じる操縦者への違和感を低減させることができる。
【0073】
図7は、実施形態に係る作業車両1の別の駆動制御処理における車速と4WDクラッチの接続にかかる時間との関係を示す図(1)である。図7に示すように、4WDクラッチ制御部104は、作業車両1の車速が所定速度Spよりも遅い場合には、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpに設定する。
【0074】
一方で、4WDクラッチ制御部104は、作業車両1の車速が所定速度Sp以上である場合には、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpよりも長い時間T1に設定するとよい。なお、かかる時間T1は、作業車両1の車速が速い場合でも切り替えショックが小さくてすむ時間にあらかじめ設定される。
【0075】
図8は、実施形態に係る作業車両1の別の駆動制御処理における車速と4WDクラッチの接続にかかる時間との関係を示す図(2)である。4WDクラッチ制御部104(図4参照)は、図8に示すように、作業車両1の車速が所定速度Spよりも遅い場合には、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpに設定する。
【0076】
また、4WDクラッチ制御部104は、作業車両1の車速が所定速度Sp以上、かつ速度S1よりも遅い場合には、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpよりも長い時間T1に設定する。なお、速度S1は、所定速度Spよりも速い速度である。
【0077】
また、4WDクラッチ制御部104は、作業車両1の車速が速度S1以上、かつ速度S2よりも遅い場合には、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を時間T1よりも長い時間T2に設定する。なお、速度S2は、速度S1よりも速い速度である。
【0078】
また、4WDクラッチ制御部104は、作業車両1の車速が速度S2以上である場合には、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を時間T2よりも長い時間T3に設定する。なお、速度S3は、速度S2よりも速い速度である。
【0079】
このように、図8の例では、作業車両1の車速が速くなるに従い、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を長くする。これにより、車速がさらに速いことから4WDクラッチ324で生じる切り替えショックがさらに大きくなる場合に、かかる切り替えショックを低減させることができる。
【0080】
なお、図8の例では、4WDクラッチ324の接続にかける時間を4段階(Tp、T1、T2、T3)に切り替える例について示したが、切り替える時間の数は4つに限られない。
【0081】
また、図8の例では、作業車両1の車速が速くなるに従い、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を階段状に長くする例について示したが、4WDクラッチ324の接続にかかる時間は階段状に長くする場合に限られない。
【0082】
図9および図10は、実施形態に係る作業車両1の別の駆動制御処理における車速と4WDクラッチの接続にかかる時間との関係を示す図(3)、(4)である。
【0083】
たとえば、図9に示すように、4WDクラッチ324は、作業車両1の車速が速くなるに従い、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を線形的に長くしてもよい。また、図10に示すように、4WDクラッチ制御部104は、作業車両1の車速が速くなるに従い、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を非線形的に長くしてもよい。
【0084】
また、実施形態に係る4WDクラッチ制御部104は、副変速部325の位置(超低速、低速、中速および高速)に応じて、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を制御してもよい。
【0085】
たとえば、4WDクラッチ制御部104は、副変速部325の位置が中速または高速である場合に、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpよりも長く設定する。一方で、4WDクラッチ制御部104は、副変速部325の位置が低速または極低速である場合に、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpで維持する。
【0086】
なぜなら、副変速部325の位置が中速または高速である場合には、作業車両1の車速が速いと推定することができ、副変速部325の位置が低速または極低速である場合には、作業車両1の車速が遅いと推定することができるからである。
【0087】
このように、副変速部325の位置に応じて、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を制御することにより、仮に車速センサ113に不具合等が生じた場合でも、ブレーキ時において被作業面に与えるダメージを低減させることができる。
【0088】
なお、4WDクラッチ制御部104は、副変速部325の位置を副変速位置センサ114から取得するとよい。
【0089】
図11は、実施形態に係る作業車両1の駆動制御処理の一例を示すフローチャートである。図11に示すように、作業車両1の駆動制御において、制御部100は、ストップランプスイッチ115から入力されるブレーキ信号に基づいて、ブレーキペダル310が操作されたか否かを判定する(ステップS101)。
【0090】
そして、ブレーキペダル310が操作された場合(ステップS101:Yes)、制御部100は、作業車両1の走行モードを検知する(ステップS102)。なお、ブレーキペダル310が操作されていない場合(ステップS101:No)、制御部100は、ブレーキペダル310が操作されたことを検出するまで処理を繰り返す。
【0091】
そして、作業車両1の走行モードが2WD走行である場合(ステップS103:2WD)、制御部100は、副変速位置センサ114から入力される信号に基づいて、副変速部325の位置を検知する(ステップS104)。一方、作業車両1の走行モードが4WD走行である場合(ステップS103:4WD)、制御部100は駆動制御の処理を終了する。
【0092】
そして、副変速部325の位置が中速または高速である場合(ステップS105:中速または高速)、制御部100は、車速センサ113から入力される信号に基づいて、作業車両1の車速を検知する(ステップS106)。
【0093】
そして、作業車両1の車速が所定速度Sp以上である場合(ステップS107:Yes)、制御部100は、所定時間Tpよりも長い時間をかけて4WDクラッチ324を接続し(ステップS108)、駆動制御の処理を終了する。
【0094】
一方で、作業車両1の車速が所定速度Spより遅い場合(ステップS107:No)、制御部100は、所定時間Tpで4WDクラッチ324を接続し(ステップS109)、駆動制御の処理を終了する。
【0095】
なお、ステップS105において、副変速部325の位置が低速または極低速である場合(ステップS105:低速または極低速)、制御部100は、ステップS109の処理に移行する。
【0096】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。たとえば、上述の実施形態では、2WD走行の場合に後輪302のみが駆動輪となる場合について示したが、2WD走行の場合に前輪301のみが駆動輪となってもよい。
【0097】
実施形態に係る作業車両1は、走行車体(トラクタ2)と、作業機(モアユニット3)と、4WDクラッチ324と、ブレーキペダル310と、制御部100とを備える。走行車体(トラクタ2)は、駆動輪となるそれぞれ左右一対の前輪301および後輪302を有する。作業機(モアユニット3)は、走行車体(トラクタ2)に装着され走行車体(トラクタ2)の走行中に被作業面に対する作業を行う。油圧式の4WDクラッチ324は、前輪301のみまたは後輪302のみが駆動輪となる2WD走行から前輪301および後輪302が駆動輪となる4WD走行に所定時間Tpかけた接続によって切り替える。ブレーキペダル310は、走行車体(トラクタ2)の走行を制動する場合に操作される。制御部100は、4WDクラッチ324を制御するとともに、走行車体(トラクタ2)が2WD走行の場合にはブレーキペダル310が操作されると走行車体(トラクタ2)を4WD走行に切り替える。また、制御部100は、走行車体(トラクタ2)の2WD走行中にブレーキペダル310が操作され4WD走行に切り替える場合、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpよりも長くする。
【0098】
これにより、ブレーキ時において被作業面に与えるダメージを低減させることができる。
【0099】
また、実施形態に係る作業車両1は、走行車体(トラクタ2)の走行速度を少なくとも高速、中速、低速の3段階に変速する副変速部325をさらに備える。そして、制御部100は、副変速部325が高速および中速の場合、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpよりも長くする。
【0100】
これにより、仮に車速センサ113に不具合等が生じた場合でも、ブレーキ時において被作業面に与えるダメージを低減させることができる。
【0101】
また、実施形態に係る作業車両1は、走行車体(トラクタ2)の走行速度を検出する車速センサ113をさらに備える。そして、制御部100は、走行車体(トラクタ2)の走行速度が所定速度Sp以上の場合、4WDクラッチ324の接続にかかる時間を所定時間Tpよりも長くする。
【0102】
これにより、車速が速いことから4WDクラッチ324で生じる切り替えショックが大きくなる場合に、かかる切り替えショックを低減させることができる。
【0103】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 作業車両
2 トラクタ(走行車体の一例)
3 モアユニット(作業機の一例)
100 制御部
104 4WDクラッチ制御部
113 車速センサ
114 副変速位置センサ
301 前輪
302 後輪
310 ブレーキペダル
324 4WDクラッチ
325 副変速部
Tp 所定時間
Sp 所定速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11