IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許-ステアリングシステム 図1
  • 特許-ステアリングシステム 図2
  • 特許-ステアリングシステム 図3
  • 特許-ステアリングシステム 図4
  • 特許-ステアリングシステム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】ステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230523BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230523BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20230523BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230523BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019106804
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020199825
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本庄 卓也
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐哉
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-001201(JP,A)
【文献】特開2008-001246(JP,A)
【文献】特開2008-144861(JP,A)
【文献】特開2009-101858(JP,A)
【文献】特開2014-121940(JP,A)
【文献】特開2006-315595(JP,A)
【文献】特開2014-213690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B60B 35/02
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 117/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック及びピニオンを有するラックピニオン機構と、前記ピニオンを回転させる転舵モータと、前記ピニオンから前記ラックに伝達される動力によって往復直線運動する転舵シャフトと、前記転舵シャフトの往復直線運動に基づいて車輪を転舵させるために当該車輪を取り付ける車輪用軸受装置と、前記転舵モータの動作量を決定し当該動作量に応じた指令信号を当該転舵モータに与える制御ユニットと、前記車輪用軸受装置に設けられるセンサヘッドを有するセンサ装置と、を備え、
前記車輪用軸受装置は、前記車輪が取り付けられる内軸部材と、車体側に取り付けられる外輪部材と、前記内軸部材と前記外輪部材との間に介在する複数の転動体と、を有し、
前記センサ装置は、前記外輪部材に取り付けられ前記内軸部材の一部を検出対象とする前記センサヘッドを有し、当該センサヘッドからの信号に基づいて、前記外輪部材に対する前記内軸部材の中心線の傾きに関するパラメータを求め、
前記制御ユニットは、前記パラメータに基づいて前記ピニオンの補正回転角度を求めると共に、前記転舵モータによる前記ピニオンの目標となる回転角度に、前記補正回転角度を加算して、前記転舵モータの動作量を決定する、
ステアリングシステム。
【請求項2】
前記センサヘッドは、前記外輪部材の軸方向に沿って並んで配置され前記内軸部材の一部までの距離を非接触でそれぞれ検出する二つのセンサを有し、
前記センサ装置は、前記二つのセンサの軸方向の間隔寸法と、前記二つのセンサにより検出される前記距離とに基づいて、前記パラメータを求める、
請求項1に記載のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を転舵するステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ステアバイワイヤによるステアリングシステムを備える自動車では、ハンドルが連結されているステアリングシャフトと、車輪(転舵輪)を転舵するために往復直線運動する転舵シャフトとが機械的に分離されている。ハンドルの操舵角度、つまり、ステアリングシャフトの回転角度が回転センサによって検出され、その検出結果に応じて転舵シャフトが直線運動する。転舵シャフトの直線運動は、ステアリングシステムが有するラックピニオン機構及び転舵モータによって実現される。
【0003】
車輪の転舵角度は、前記ラックピニオン機構が有するピニオンの回転角度と対応する。車輪の転舵角度を所定の値とするために、ステアリングシステムが有する制御ユニットは、回転センサの検出結果に相当する指令信号を転舵モータに送信する。転舵モータは、その指令信号に対応する回転角度についてピニオンを回転させる。これにより、自動車は所望の走行軌跡に沿って走行する。特許文献1に、ステアバイワイヤによるステアリングシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-315595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のステアリングシステムでは、次のような課題がある。すなわち、自動車が旋回する際、ステアリングシャフトの回転角度に基づいて転舵モータが回転するが、その転舵モータの回転により得られる車輪の転舵角度と、実際の車輪の転舵角度とが異なる場合がある。その結果、ドライバの意図する目標走行軌跡と、実際に自動車が走行する軌跡との間で差が発生する。つまり、ドライバは、ハンドルを回転させて所望する方向に自動車を旋回させようとしても、実際ではその操作に自動車が追従せず、更にハンドルを回転させる必要がある。これは、自動車の旋回加速度が高くなるほど、顕著となる。
【0006】
前記のような、目標走行軌跡と、実際に自動車が走行する軌跡との間で差が発生する原因の一つとして、車輪を取り付けている車輪用軸受装置(ハブユニットとも呼ばれる)が挙げられる。車輪用軸受装置は、車輪が取り付けられる内軸部材と、車体側のナックルに取り付けられる外輪部材と、これら内軸部材と外輪部材との間に介在する複数の転動体とを有する。車輪用軸受装置は完全な剛体ではなく、自動車の旋回時に、外輪部材に対して内軸部材が僅かに傾くため、前記のような軌跡の差が発生する。
【0007】
そこで、本開示の目的は、ステアリングシステムにおいて、目標走行軌跡と、実際に自動車が走行する軌跡との差を小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のステアリングシステムは、ラック及びピニオンを有するラックピニオン機構と、前記ピニオンを回転させる転舵モータと、前記ピニオンから前記ラックに伝達される動力によって往復直線運動する転舵シャフトと、前記転舵シャフトの往復直線運動に基づいて車輪を転舵させるために当該車輪を取り付ける車輪用軸受装置と、前記転舵モータの動作量を決定し当該動作量に応じた指令信号を当該転舵モータに与える制御ユニットと、前記車輪用軸受装置に設けられるセンサヘッドを有するセンサ装置と、を備え、
前記車輪用軸受装置は、前記車輪が取り付けられる内軸部材と、車体側に取り付けられる外輪部材と、前記内軸部材と前記外輪部材との間に介在する複数の転動体と、を有し、
前記センサ装置は、前記外輪部材に取り付けられ前記内軸部材の一部を検出対象とする前記センサヘッドを有し、当該センサヘッドからの信号に基づいて、前記外輪部材に対する前記内軸部材の中心線の傾きに関するパラメータを求め、
前記制御ユニットは、前記パラメータに基づいて前記ピニオンの補正回転角度を求めると共に、前記転舵モータによる前記ピニオンの目標となる回転角度に、前記補正回転角度を加算して、前記転舵モータの動作量を決定する。
【0009】
前記ステアリングシステムによれば、自動車が旋回することで、車輪用軸受装置において外輪部材に対して内軸部材が傾いたとしても、その傾きに関するパラメータがセンサ装置によって求められる。制御ユニットは、そのパラメータに基づいてピニオンの補正回転角度を求め、その補正回転角度を、転舵モータによるピニオンの目標となる回転角度に加算して、転舵モータの動作量を決定する。転舵モータの動作量が決定されると、その動作量に応じた指令信号が転舵モータに与えられる。このため、車輪用軸受装置における内軸部材の傾きに起因する、目標走行軌跡と、実際に自動車が走行する軌跡との差を小さくすることが可能となる。
【0010】
また、好ましくは、前記センサヘッドは、前記外輪部材の軸方向に沿って並んで配置され前記内軸部材の一部までの距離を非接触でそれぞれ検出する二つのセンサを有し、
前記センサ装置は、前記二つのセンサの軸方向の間隔寸法と、前記二つのセンサにより検出される前記距離とに基づいて、前記パラメータを求める。
この構成により、外輪部材に対する内軸部材の中心線の傾きに関するパラメータを求めることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本開示のステアリングシステムによれば、車輪用軸受装置における内軸部材の傾きに起因する、目標走行軌跡と、実際に自動車が走行する軌跡との差を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ステアリングシステムの一例の概略構成を示す説明図である。
図2】車輪用軸受装置の断面図である。
図3】自動車が旋回する際の、車輪用軸受装置の挙動を示す模式図であり、車輪用軸受装置を上から見た図である。
図4】センサ装置、及び車輪用軸受装置の一部の説明図である。
図5】センサヘッドにより距離を検出する手段を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、ステアリングシステムの一例の概略構成を示す説明図である。図1に示すステアリングシステム10は、ラックピニオン機構11、転舵モータ14、転舵シャフト15、車輪用軸受装置16、制御ユニット17、及び、センサ装置18を備える。ステアリングシステム10は、更に、ドライバが操作するハンドル25が連結されているステアリングシャフト26、及び、ステアリングシャフト26の回転角度を検出する回転センサ27を備える。
【0014】
本開示のステアリングシステム10は、いわゆるステアバイワイヤによる装置である。つまり、ステアリングシャフト26と、車輪7(転舵輪7)を転舵するために往復直線運動する転舵シャフト15とが機械的に分離されている。ドライバによって操作されるハンドル25の操舵角度は、ステアリングシャフトの回転角度と一致し、その回転角度が回転センサ27により検出される。その検出結果に応じて、転舵モータ14がラックピニオン機構11を介して転舵シャフト15を直線運動させる。
【0015】
回転センサ27は、ステアリングシャフト26の回転角度を検出し、検出信号を、制御ユニット17に送信する。制御ユニット17は、転舵モータ14の動作量を決定し、その動作量に応じた指令信号を転舵モータ14に与える。制御ユニット17は、ステアリングシャフト26の回転角度、つまり、回転センサ27の検出信号の他に、後述するピニオン13の補正回転角度に基づいて、転舵モータ14の動作量を決定する。
【0016】
ラックピニオン機構11は、ラック12及びピニオン13を有する。ピニオン13が、そのピニオン13の中心軸回りに、第一方向及び第二方向に回転することで、ラック12は、そのラック12の長手方向の一方及び他方に直線移動する。ラック12の長手方向と転舵シャフト15の長手方向とは一致していて、ラック12は転舵シャフト15の一部に設けられている。転舵シャフト15は、自動車の左右方向に長い部材である。
【0017】
転舵モータ14は、減速歯車14aを介して、ピニオン13を回転させる。転舵モータ14の回転についての動作量は、制御ユニット17により決定される。つまり、制御ユニット17からの指令信号に応じた動作量で、転舵モータ14は正逆回転する。転舵モータ14が正回転することでピニオン13は第一方向に回転し、転舵モータ14が逆回転することでピニオン13は第二方向に回転する。
【0018】
転舵シャフト15は、ピニオン13からラック12に伝達される動力によって往復直線運動する。転舵シャフト15の両端それぞれに、タイロッド28を介して、車輪用軸受装置16が連結されている。転舵シャフト15が、その長手方向に沿って一方に直線運動することで、車輪用軸受装置16に取り付けられている車輪7に、右旋回のための転舵角が生じる。転舵シャフト15が、その長手方向に沿って他方に直線運動することで、車輪用軸受装置16に取り付けられている車輪7に、左旋回のための転舵角が生じる。
【0019】
車輪用軸受装置16は、車輪7を取り付ける部品であり、ハブユニットとも呼ばれる。車輪用軸受装置16は、転舵シャフト15の往復直線運動に基づいて、車輪7を転舵させる。図2は、車輪用軸受装置16の断面図である。車輪用軸受装置16は、車輪7が取り付けられる内軸部材21と、車体側のナックル29に取り付けられる外輪部材22と、内軸部材21と外輪部材22との間に介在する複数の転動体23とを有する。本開示の転動体23は、玉である。
【0020】
外輪部材22は、円筒形状である外輪本体部31と、外輪本体部31から径方向外方に向かって延びて設けられている固定用のフランジ部32とを有する。外輪本体部31の内周の軸方向一方側及び他方側それぞれに、外輪軌道面33が形成されている。フランジ部32がナックル29に取り付けられる。これにより、外輪部材22を含む車輪用軸受装置16が自動車の車体に固定される。
【0021】
内軸部材21は、軸状のハブ軸34(内軸ともいう。)と、ハブ軸34の軸方向他方側に固定されている内輪35とを有する。ハブ軸34は、外輪部材22の径方向内方に設けられている軸本体部36と、フランジ部37とを有する。軸本体部36は、軸方向に長い部分である。フランジ部37は、軸本体部36の軸方向一方側から径方向外方に向かって延びて設けられている部分である。フランジ部37に、ボルト穴38が形成されている。ボルト穴38に取り付けられるボルト39によって車輪7がフランジ部37に固定される。内輪35は、環状の部材であり、軸本体部36の軸方向他方側の一部36aに外嵌して固定されている。
【0022】
軸本体部36の外周側に軸軌道面40が形成され、内輪35の外周面に内輪軌道面41が形成されている。軸方向一方側の外輪軌道面33と軸軌道面40との間に複数の転動体23が設けられている。軸方向他方側の外輪軌道面33と内輪軌道面41との間に複数の転動体23が設けられている。各列において、複数の転動体23は保持器24によって保持されている。
【0023】
以上より、外輪部材22に対して内軸部材21が中心線C0を中心として回転する。本開示では、車輪用軸受装置16の中心線C0と、外輪部材22の中心線C2とが一致する。後に説明するが(図3参照)自動車が旋回する際、車輪用軸受装置16は完全な剛体ではないことから、外輪部材22の中心線C2に対して内軸部材21の中心線C1が僅かに傾く。
【0024】
図3は、自動車が旋回する際の、車輪用軸受装置16の挙動を示す模式図であり、車輪用軸受装置16を上から見た図である。車輪用軸受装置16は、前記のとおり、内軸部材21と外輪部材22との間に複数の転動体23が介在している。外輪部材22は、自動車の車体側に固定される固定部材である。内軸部材21は、車輪7を取り付けられていて、転動体23を介して外輪部材22によって支持されている。
【0025】
自動車が旋回する際、車輪7を取り付けている車輪用軸受装置16は、上下方向に延びる図外のストラットの中心線Pを中心として、所定角度(θ1)について回転する。これにより、外輪部材22の中心線C2の方向が変化する。図3において、自動車が直進する場合(旋回する前)の、外輪部材22の中心線C2を破線で示し、右方向へ旋回する場合の、外輪部材22の中心線C2を一点鎖線で示している。自動車が直進している場合を基準として、自動車が旋回する場合の計算上の車輪7の転舵角度がθ1となる。
【0026】
ここで、自動車が旋回すると、前記のとおり、外輪部材22の中心線C2の方向が変化するが、車輪7は、そのまま回転方向に直進して回転しようとする。このため、外輪部材22の中心線C2に対して、内軸部材21の中心線C1が僅かではあるが傾く。図3において、(一点鎖線で示す)中心線C2に直交する計算上の車輪7の回転方向が、矢印R1で示されている。この矢印R1の方向は、車輪用軸受装置16が剛体であって、外輪部材22の中心線C2に対して内軸部材21の中心線C1が傾かないという仮想の状態である。これに対して、実際では、外輪部材22の中心線C2に対して内軸部材21の中心線C1が傾くことから、その傾きによる車輪7の回転方向が矢印R2で示されている。特に、自動車の旋回加速度が高くなるほど、中心線C2に対する中心線C1の傾きは大きくなる。図3では、外輪部材22の中心線C2に対する内軸部材21の中心線C1の傾き角度が「Q」である。
【0027】
本開示のステアリングシステム10では(図1参照)、自動車が旋回する際、ステアリングシャフト26の回転角度(ハンドル25の操舵角度)に基づいて転舵モータ14が回転する。しかし、車輪用軸受装置16において前記傾き(傾き角度Q)が発生することにより、転舵モータ14の回転に起因する車輪7の転舵角度θ1と、実際の車輪7の転舵角度θ2とが異なる場合がある。その結果、ドライバの意図する目標走行軌跡と、実際に自動車が走行する軌跡との間で差が発生する。そこで、本開示のステアリングシステム10では、この差を小さくするための制御が行われる。その制御については、後に説明する。
【0028】
図4は、センサ装置18、及び車輪用軸受装置16の一部の説明図である。センサ装置18は、車輪用軸受装置16に設けられるセンサヘッド19を有する。センサ装置18は、更に、センサヘッド19が出力する信号を処理する演算器45(図1参照)を有する。演算器45の機能を、制御ユニット17が備えていてもよい。図4に示すように、センサヘッド19は、外輪部材22に取り付けられている。センサヘッド19は、内軸部材21の一部を検出対象とする。
【0029】
本開示では(図2及び図4参照)、センサヘッド19は、車輪用軸受装置16において車輪7が取り付けられる車両アウタ側(軸方向一方側)と反対である車両インナ側(軸方向他方側)に設けられている。本開示では、内輪35に取り付けられたターゲット部材44が検出対象とされる。ターゲット部材44は、内輪35に固定されているため、外輪部材22を基準とした場合の、内輪35を有する内軸部材21の傾き角度は、ターゲット部材44の傾き角度と一致する。そこで、センサ装置18によりターゲット部材44の傾きに関するパラメータが求められる。
【0030】
センサヘッド19は、二つのセンサ20a,20bを有する。二つのセンサ20a,20bは、ターゲット部材44に対向していて、外輪部材22の軸方向に沿って並んで配置されている。センサ20a,20bとして、様々な形式が採用可能である。二つのセンサ20a,20bそれぞれは、内軸部材21のターゲット部材44までの距離を非接触で検出する。
【0031】
図5は、センサヘッド19により前記距離を検出する手段を説明する図である。第一のセンサ20aにより検出されたターゲット部材44の一部までの距離が「Z1」とされ、第二のセンサ20bにより検出されたターゲット部材44の他部までの距離が「Z2」とされる。センサ装置18が有する演算器45は、センサヘッド19(二つのセンサ20a,20b)からの信号に基づいて、ターゲット部材44の傾きに関するパラメータ、つまり、外輪部材22に対する内軸部材21の中心線C1の傾きに関するパラメータを、演算により求める。
【0032】
本開示では、前記パラメータは、外輪部材22の中心線C2と、内軸部材21の中心線C1との傾き角度Qである。演算器45は、距離Z1,Z2と、二つのセンサ20a,20bの軸方向の間隔寸法dとに基づいて、次の式(1)により、前記パラメータとして前記傾き角度Q[rad]を求める。
【0033】
Q=atan{(Z1-Z2)/d}π×180 ・・・式(1)
【0034】
なお、前記パラメータは、傾き角度Q以外であってもよい。前記パラメータは、前記距離Z1,Z2であってもよく、前記傾き角度Qと相関のある(例えば線形関係を有する)値であってもよい。
【0035】
〔制御ユニット17が行う処理について〕
ドライバの意図する目標走行軌跡と、実際に自動車が走行する軌跡との間で発生する差を小さくするために、制御ユニット17が実行する制御について説明する。
【0036】
制御ユニット17は、前記パラメータ(傾き角度Q)に基づいてピニオン13の補正回転角度を求める。ピニオン13の補正回転角度は、自動車が旋回する再に、ピニオン13を追加的に回転させる角度である。前記パラメータ(傾き角度Q)とピニオン13の補正回転角度との関係は予め設定されていて、その設定された情報は制御ユニット17に記憶されている。前記パラメータ(傾き角度Q)とピニオン13の補正回転角度との関係は、例えば、予め求められている関数として設定される。
【0037】
このため、前記パラメータ(傾き角度Q)が求められると、補正回転角度が一義的に求められる。本開示では、ピニオン13の回転角度と車輪7の転舵角とは線形関係にある。そこで、傾き角度Qの値の転舵角を車輪7に追加的に与えるためのピニオン13の回転角度が、補正回転角度となる。なお、補正回転角度は、正の値となる場合の他に、負の値となる場合もある。
【0038】
補正回転角度が求められると、制御ユニット17は、転舵モータ14によるピニオン13の目標となる回転角度(以下、「目標回転角度」と称する。)に、その補正回転角度を加算して、転舵モータ14の動作量を決定する。前記目標回転角度は、回転センサ27によって検出されたステアリングシャフト26の回転角度(以下、「センサ検出角度」と称する。)に基づいて決定されるピニオン13の回転角度である。
【0039】
本開示では、前記センサ検出角度と前記目標回転角度との関係は予め設定されていて、その設定された情報は制御ユニット17に記憶されている。前記センサ検出角度と前記目標回転角度との関係は、例えば、予め求められている関数として設定される。このため、前記センサ検出角度が得られると、前記目標回転角度が一義的に求められる。なお、前記目標回転角度は、前記センサ検出角度の他に、操舵速度及び車速の一方又は双方を更に用いて求められてもよい。
【0040】
制御ユニット17は、ピニオン13の補正回転角度、及び、センサ検出角度に基づく目標回転角度を求めると、当該目標回転角度に当該補正回転角度を加算する。制御ユニット17は、その加算により求めた角度についてピニオン13を回転させる制御を行う。つまり、制御ユニット17は、前記目標回転角度に前記補正回転角度を加算して求めた角度についてピニオン13を回転させるために要する転舵モータ14の動作量を、決定する。制御ユニット17は、決定した転舵モータ14の動作量に相当する指令信号を生成する。その指令信号は、制御ユニット17から転舵モータ14に出力される。転舵モータ14は、その指令信号に基づいて動作し、車輪7を転舵する。これにより、センサ検出角度に基づく車輪7の転舵角に、車輪用軸受装置16における内軸部材21の傾きが考慮されて、車輪7が転舵される。
【0041】
〔本開示のステアリングシステム10について〕
以上のように、本開示のステアリングシステム10は(図1参照)、ラック12及びピニオン13を有するラックピニオン機構11と、ピニオン13を回転させる転舵モータ14と、ピニオン13からラック12に伝達される動力によって往復直線運動する転舵シャフト15と、転舵シャフト15の往復直線運動に基づいて車輪7を転舵させるために車輪7を取り付けている車輪用軸受装置16とを備える。更に、ステアリングシステム10は、制御ユニット17とセンサ装置18とを備える。
【0042】
センサ装置18は、外輪部材22に取り付けられ内軸部材21の一部を検出対象とするセンサヘッド19を有する。センサ装置18は、センサヘッド19からの信号に基づいて、外輪部材22に対する内軸部材21の中心線C1の傾きに関するパラメータを求める。
【0043】
制御ユニット17は、前記パラメータに基づいてピニオン13の補正回転角度を求める。更に、制御ユニット17は、転舵モータ14によるピニオン13の目標となる回転角度(目標回転角度)に、前記補正回転角度を加算して、転舵モータ14の動作量を決定する。制御ユニット17は、転舵モータ14の動作量を決定すると、その動作量に応じた指令信号を転舵モータ14に与える。
【0044】
前記構成を備えるステアリングシステム10によれば、自動車が旋回することで、車輪用軸受装置16において外輪部材22に対して内軸部材21が傾いたとしても、その傾きに関するパラメータがセンサ装置18によって求められる。制御ユニット17は、そのパラメータに基づいてピニオン13の補正回転角度を求める。その補正回転角度が、転舵モータ14によるピニオン13の目標となる回転角度(目標回転角度)に加算されて、転舵モータ14の動作量が決定される。転舵モータ14の動作量が決定されると、その動作量に応じた指令信号が転舵モータ14に与えられる。
【0045】
これにより、センサ検出角度に基づく車輪7の転舵角に、車輪用軸受装置16における内軸部材21の傾きが考慮されて、車輪7が転舵される。この結果、車輪用軸受装置16における内軸部材21の傾きに起因する、目標走行軌跡と、実際に自動車が走行する軌跡との差を小さくすることが可能となる。
【0046】
本開示のステアリングシステム10では、センサヘッド19は、二つのセンサ20a,20bを有する(図4及び図5参照)。センサ20a,20bは、外輪部材22の軸方向に沿って並んで配置されていて、内軸部材21の一部であるターゲット部材44までの距離を非接触でそれぞれ検出する。そして、センサ装置18は、二つのセンサ20a,20bの軸方向の間隔寸法dと、二つのセンサ20a,20bにより検出される前記距離Z1,Z2とに基づいて、外輪部材22に対する内軸部材21の中心線C1の傾きに関するパラメータを求める。
【0047】
〔その他について〕
前記実施形態では、ドライバが操作するハンドル25の操舵角が、ステアリングシャフト26における回転角として、回転センサ27によって検出される。その検出結果が用いられて(更に、補正回転角度も用いられて)、制御ユニット17によって、転舵モータ14の動作量が決定される場合について説明した。
本開示のステアリングシステム10は、前記のような、ドライバの操作に基づくことなく、自動運転が行われる自動車においても適用可能である。自動運転の自動車の場合、例えば、地図情報、GPS情報、及び車載カメラ等の車載センサによる情報を、制御ユニット17が取得し、その情報に基づいて、転舵モータ14によるピニオン13の目標となる回転角度(目標回転角度)が、演算等によって決定される。そして、決定された前記目標回転角度に、前記処理により得られる補正回転角度が加算されて、転舵モータ14の動作量が決定される。
【0048】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0049】
7:車輪 10:ステアリングシステム 11:ラックピニオン機構 12:ラック 13:ピニオン 14:転舵モータ 15:転舵シャフト 16:車輪用軸受装置 17:制御ユニット 18:センサ装置 19:センサヘッド 20a:第一のセンサ 20b:第二のセンサ 21:内軸部材 22:外輪部材 23:転動体 d:間隔寸法 Z1,Z2:距離
図1
図2
図3
図4
図5