(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】成形フィルム用導電性組成物、成形フィルムおよびその製造方法、成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20230523BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20230523BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20230523BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230523BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20230523BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20230523BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20230523BHJP
C08L 75/02 20060101ALI20230523BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230523BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230523BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20230523BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230523BHJP
B29C 45/16 20060101ALI20230523BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230523BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
C08L101/02
C08K3/01
C08L33/06
C08L67/00
C08L75/04
C08L77/00
C08L79/08 Z
C08L75/02
C08L71/02
C08K3/04
C08K3/08
B32B27/18 J
B29C45/16
B29C45/14
H01B1/22 B
(21)【出願番号】P 2019134748
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 知明
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 広一
【審査官】長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-118481(JP,A)
【文献】特許第6521138(JP,B2)
【文献】特表2001-522923(JP,A)
【文献】国際公開第00/079544(WO,A1)
【文献】特開2016-173462(JP,A)
【文献】特開2000-104015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 5/59
B29C 45/14
B29C 45/16
B32C 1/00- 43/00
H01B 1/00- 1/24
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸面または三次元曲面を有する基材表面に導電回路を形成するための成形フィルムの製造用の導電性組成物であって、
樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、ポリロタキサン化合物(C)とを含有し、
前記樹脂(A)とポリロタキサン化合物(C)との重量比率が95:5~50:50であり、
前記導電性微粒子(B)の含有率が、組成物の固形分全体中の50~92重量%であ
り、
樹脂(A)が、分子鎖末端にブロックイソシアネート基を有し、かつ重量平均分子量が2,500以上100,000以下である樹脂(A1)を含有する、成形フィルム用導電性組成物。
【請求項2】
さらに、ブロックイソシアネート架橋剤(D)を含有し、前記ブロックイソシアネート架橋剤(D)の重量平均分子量が200以上2,500未満である請求項1に記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項3】
さらに、樹脂(A)が、ヒドロキシ基またはアミノ基のうち少なくとも一種の反応性官能基を有する樹脂(A2)を含有し、
前記樹脂(A2)が、ガラス転移点を0℃以上120℃未満に有し、0℃未満に有さず、かつ 前記樹脂(A2)の重量平均分子量が、5,000以上100,000未満である請求項1または2記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項4】
ヒドロキシ基またはアミノ基のうち少なくとも一種の反応性官能基を有する樹脂(A2)が、ヒドロキシ基またはアミノ基のうち少なくとも一種の反応性官能基を分子鎖末端に有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレア樹脂、およびポリエーテル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項3記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項5】
前記ポリロタキサン化合物(C)が、反応性官能基として水酸基またはアミノ基を有する環状オリゴ糖を有するポリロタキサン化合物を含む請求項1~4のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項6】
導電性微粒子(B)が、平均粒子径0.5μm以上30μm未満であり、かつ銀粉、銅粉、銀コート粉、銅合金粉、およびカーボン微粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物。
【請求項7】
ベースフィルム上に導電層を備えた成形フィルムであって、
前記導電層が、請求項1~6のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である、成形フィルム。
【請求項8】
ベースフィルム上に、加飾層と、導電層とを有する成形フィルムであって、
前記導電層が、請求項1~6のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である、成形フィルム。
【請求項9】
前記ベースフィルムが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン及び、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムである、請求項7または8記載の成形フィルム。
【請求項10】
基材上に、導電層が積層した成形体であって、
前記導電層が、請求項1~6のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である、成形体。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
基材上に前記成形フィルムを配置する工程と、
オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む、成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、
成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む、成形体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルム中の導電層を基材側に転写する工程と、を含む、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形フィルム用導電性組成物、成形フィルムおよびその製造方法、成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂成形体と、当該樹脂成形体の一面に対して面一になるように埋め込まれたベースフィルムと、前記樹脂成形体と前記ベースフィルムとの間に配置された導電回路とを有する特定の導電回路一体化成形品が開示されている。
特許文献1には、当該導電回路一体化成形品の製造方法として、特定の導電回路が形成されたベースフィルムを射出成形用金型のキャビティ面に配置した後、溶融樹脂を射出して、樹脂成形体を射出成形することが記載されている。
特許文献1において、導電回路は、特定の透明金属薄膜をエッチングすることにより形成されている。
【0003】
エッチング法に代わる導電回路の形成方法として、導電性インキを用いた印刷方法が検討されている。導電性インキを印刷する手法によれば、エッチング法と比較して、煩雑な工程がなく、容易に導電回路を形成することができ、生産性が向上し、低コスト化を図ることができる。
例えば特許文献2には、スクリーン印刷によって高精細な導電性パターンを形成することが可能な低温処理型の導電性インキとして、特定の導電性微粒子と、特定のエポキシ樹脂とを含有する特定の導電性インキが開示されている。スクリーン印刷によれば導電パターンの厚膜化が可能であり、導電パターン低抵抗化が実現できるとされている。
【0004】
また、特許文献3には、3次元的な立体感を表現することが可能な加飾シートの製造方法として、透明樹脂層上にパターン状に印刷された印刷層を有する積層体と、ベースフィルム上に装飾層を有する積層シートとを熱圧着させることにより、前記装飾層を前記印刷層のパターンに沿った凹凸形状とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-11691号公報
【文献】特開2011-252140号公報
【文献】特開2007-296848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の手法によれば、成形体の表面に、容易に導電体を設けることができる。一方、凹凸面や曲面を有する基材など、様々な形状の基材表面に導電回路を形成したいという要望が高まっている。このような基材表面に導電層を有するフィルムを張り合わせて導電回路を形成する場合、当該フィルムは基材の表面形状に合わせて変形する必要がある。当該フィルムの変形時に、導電層には部分的に大きな引張力が生じることがある。当該引張力により導電層の破断などが生じ、導電性の低下が問題となった。さらにそのような凹凸面や曲面を有する基材上に導電回路を形成する際、前記の導電層を有するフィルムを変形させたのち、または変形させるのと同時にフィルムと前記基材とを一体化することが必要となるが、この一体化工程において高温下でプラスチック基材と摩擦されることによる応力ストレスが導電回路に加わる。当該高温下応力ストレスによっても導電層の破断などが生じ、導電性の低下が問題となった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、引張力および高温下応力ストレスによる導電性の低下が抑制された成形フィルムを製造可能な成形フィルム用導電性組成物、引張力および高温下応力ストレスによる導電性の低下が抑制された成形フィルム、及び、導電性に優れた成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施に係る成形フィルム用導電性組成物は、
凹凸面または三次元曲面を有する基材表面に導電回路を形成するための成形フィルムの製造用の導電性組成物であって、
樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、ポリロタキサン化合物(C)とを含有し、前記樹脂(A)と前記ポリロタキサン化合物(C)の重量比率が95:5~50:50であり、前記導電性微粒子(B)の含有量が、組成物の固形分全体中の50~92重量%である。
【0009】
本実施の成形フィルム用導電性組成物の一実施形態は、樹脂(A)が、分子鎖末端にブロックイソシアネートを有し、かつ重量平均分子量が2,500以上100,000以下である。
【0010】
本実施の成形フィルム用導電性組成物の一実施形態は、ブロックイソシアネート架橋剤を含有し、前記ブロックイソシアネート架橋剤(D)の重量平均分子量200以上2,500未満である
【0011】
本実施の成形フィルム用導電性組成物の一実施形態は、樹脂(A)が、ヒドロキシ基またはアミノ基のうち少なくとも一種の反応性官能基を有する樹脂(A2)を含有し、
前記樹脂(A2)が、ガラス転移点を0℃以上120℃未満に有し、0℃未満に有さず、かつ 前記樹脂(A2)の重量平均分子量が、5,000以上100,000未満である
【0012】
本実施に係る成形フィルムは、ヒドロキシ基またはアミノ基のうち少なくとも一種の反応性官能基を有する樹脂(A2)が、ヒドロキシ基またはアミノ基のうち少なくとも一種の反応性官能基を分子鎖末端に有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリエーテル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0013】
本実施の成形フィルムの一実施形態は、ポリロタキサン化合物(C)は反応性官能基として水酸基またはアミノ基を有する環状オリゴ糖を有するポリロタキサン化合物である。
【0014】
本実施の成形フィルムの一実施形態は、導電性微粒子(B)が、平均粒径0.5μm以上30μm未満であり、かつ銀粉、銅粉、銀コート粉、銅合金粉、およびカーボン微粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0015】
本実施の成形フィルムの一実施形態は、ベースフィルム上に導電層を備えた成形フィルムであって、 前記導電層が、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である
【0016】
本実施の成形フィルムの一実施形態は、ベースフィルム上に、加飾層と、導電層とを有する成形フィルムであって、 前記導電層が、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である。
【0017】
本実施の成形フィルムの一実施形態は、前記ベースフィルムが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン及び、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムである
【0018】
本実施にかかる成形体は、基材上に、導電層が積層した成形体であって、
前記導電層が、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物の硬化物である。
【0019】
本実施にかかる成形体の第1の製造方法は前記本実施の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
基材上に前記成形フィルムを配置する工程と、 オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
【0020】
本実施にかかる成形体の第2の製造方法は前記本実施の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、前記成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
【0021】
本実施にかかる成形体の第3の製造方法は前記本実施の成形フィルム用導電性組成物をベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、 前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、 射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルム中の導電層を基材側に転写する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、引張力および高温下応力ストレスによる導電性の低下が抑制された成形フィルムを製造可能な成形フィルム用導電性組成物、引張力および高温下応力ストレスによる導電性の低下が抑制された成形フィルム、及び、導電性に優れた成形体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施の成形フィルムの一例を示す、模式的な断面図である。
【
図2】本実施の成形フィルムの別の一例を示す、模式的な断面図である。
【
図3】成形体の第1の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。
【
図4】成形体の第2の製造方法の別の一例を示す、模式的な工程図である。
【
図5】成形体の第3の製造方法の別の一例を示す、模式的な工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施に係る成形フィルム用導電性組成物、成形フィルム、成形体及びその製造方法について順に詳細に説明する。
なお本実施において、硬化物とは、化学反応により硬化したもののみならず、例えば溶剤が揮発することにより硬くなったものなど、化学反応によらずに硬化したものを包含する。
【0025】
[成形フィルム用導電性組成物]
樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、ポリロタキサン化合物(C)と、を含有し、
前記樹脂(A)と、ポリロタキサン化合物(C)の重量比率が95:5~50:50であり、前記導電性微粒子(B)の含有量が、組成物の固形分全体中の50~92重量%である、
【0026】
本発明者らは、平坦でない基材表面に適用可能であり、かつプラスチック基材との一体化工程へのプロセス適性を有する成形フィルムを製造するために、スクリーン印刷可能な導電性組成物の検討を行った。成形フィルムの製造に適用するために、樹脂構造と導電性微粒子とポリロタキサン化合物とを各種調整し検討したところ、ポリロタキサン化合物を添加することによって、得られた成形フィルムを引っ張った時、さらには成形フィルム上に溶融した高粘度の熱可塑性樹脂を高圧で圧接した際に生じる抵抗値の大きさが異なるという知見が得られた。本発明者らはこのような知見に基づいて検討した結果、樹脂フィルム上にポリロタキサン化合物を全く含まない導電性組成物を印刷および加熱乾燥した場合、成形フィルムをその軟化点に当たる高温での引っ張りにより変形させた際に導電層の亀裂発生が生じ、高粘度の樹脂を高圧で圧接した際にも同様に亀裂が生じることが明らかとなった。
【0027】
このような高温での引っ張りにより変形させた際に樹脂フィルムとの接触面で密着性の低下、もしくは導電層の亀裂発生が生じるような導電層を有する成形フィルムであっても、それ単体を平坦なフィルム回路基板などとして使用する場合、また二次元曲面上に曲げた状態で使用する場合には問題とならなった。しかしながら平坦でない基材表面の形状、例えば凹凸形状や三次元曲面形状に追従させ一体化させる成形フィルムとして使用する場合には、成形フィルムは変形を伴うことになる。そのため、樹脂フィルムの変形に対し導電層が追随できず剥離乃至断線が起こることにより、導電層の導電性が低下しているものと予測される。
なお、本発明における凹凸面や三次元曲面とは、なだらかな曲線断面を有する面のみでなく、鋭角状の角や矩形形状を有する立体面全般を示す。すなわち、平面を伸縮することなく変形させることのみでは、成立させることのできない立体形状を指し、例えば半球状、円錐状、円柱状、四角柱状等の立体形状を指すものである。なお、ある立体形状が、連続した立体面内に先述の平面または二次元曲面と、三次元曲面の両方の要素を有する場合、例えば平面形状に1か所以上の部分的な半球状形状が組み合わされた立体形状に関しては、全体として平面を伸縮することなく変形させることによって成立させることのできない立体形状であることから、これも三次元曲面であるものとする。即ち本発明における凹凸面や三次元曲面は、フレキシブル基板等を折り曲げることでは実現できないものであり、たとえば、成形性フィルムの加熱下での立体成形による賦形などによって実現可能となる形状である。
【0028】
本発明者らはこれらの知見に基づいて鋭意検討を行った結果、樹脂とポリロタキサン化合物を含有し、さらに好ましくは末端にブロックイソシアネート基を有する樹脂とポリロタキサン化合物、もしくは末端にヒドロキシ基やアミノ基を有する特定構造の樹脂とポリロタキサン化合物、ブロックイソシアネート架橋剤を導電層として組み合わせたことで、成形フィルムを引っ張ったときおよび成形フィルム上に溶融した高粘度の熱可塑性樹脂を高圧で圧接した際に生じる抵抗値の変化が小さくなることを見出して、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明の成形フィルム用導電性組成物は、上記の組み合わせにより、スクリーン印刷等で、導電性に優れた厚膜の導電層を有する成形フィルムを容易に製造することができる。また、当該成形フィルム用導電性組成物を用いて製造された成形フィルムは、平坦でない基材表面に用いた場合であっても導電性の低下が抑制される。更に、当該成形フィルムを用いることで、実用的な強度をもつ立体形状プラスチックからなる基材上の凹凸面や曲面などの任意の面に導電回路が形成された成形体を得ることができる。
【0029】
本実施の成形フィルム用導電性組成物は、少なくとも、樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、ポリロタキサン化合物(C)と、を含有するものであり、必要に応じて更にブロックイソシアネート架橋剤(D)などの他の成分を含有してもよいものである。以下このような成形フィルム用導電性組成物の各成分について説明する。
【0030】
<樹脂(A)>
本実施の導電性組成物は、成膜性や、ベースフィルム乃至加飾層への密着性を付与するために、バインダー性の樹脂(A)を含有する。また、本実施においては、樹脂(A)を含有することにより、導電層に柔軟性を付与することができる。そのため、樹脂(A)を含有することにより延伸に対する導電層の断線が抑制される。
【0031】
前記樹脂(A)は、成膜性や、導電性粒子の分散性、ベースフィルム乃至加飾層への密着性を付与することが可能な熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂であればよい。樹脂(A)としては特に、末端ブロックイソシアネート樹脂(A1)、または、ヒドロキシ基またはアミノ基のうち少なくとも一種の反応性官能基を有する樹脂(A2)を用いることが好ましい。なお後述するポリロタキサン化合物(C)は樹脂(A)に含まれないものとする。
【0032】
本実施において前記樹脂(A)として末端ブロックイソシアネート樹脂(A1)を使用する場合は、末端ブロックイソシアネート樹脂(A1)単独でバインダー樹脂としての役割を発揮しながら、自己またはポリロタキサン化合物との架橋形成が可能である。
末端ブロックイソシアネート樹脂(A1)としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の2官能イソシアネートと2官能以上のポリオールやポリアミン等の活性水素化合物とのプレポリマー体樹脂の末端イソシアネート基が、ε-カプロラクタムやMEKオキシム等で保護(ブロック化)された末端イソシアネート樹脂であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、上記末端イソシアネート樹脂のイソシアネート基を、ε-カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、ジイソプロピルアミン、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。
末端ブロックイソシアネート樹脂(A1)は、重量平均分子量2,500以上100,000未満であることが好ましい。重量平均分子量を2,500以上とすることで高い柔軟性と強靭性を発現することができ、また100,000未満とすることで実用的な架橋反応性を保持することが可能となる点で好ましい。
【0033】
ヒドロキシ基またはアミノ基のうち少なくとも一種の反応性官能基を有する樹脂(A2)として、例えば、ヒドロキシ基またはアミノ基を有するアクリル系樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系ブロック共重合樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また樹脂(A2)はガラス転移点を0℃以上120℃未満に有することが好ましい。ガラス転移点を0℃以上とすることで熱成型時における配線パターンの変形・断線が抑止でき、また120℃未満とすることで熱加工時の一般的な成形温度である120℃~160℃近傍で熱成形できる点で好ましい。
さらに熱可塑性樹脂(A1)の重量平均分子量は5,000以上100,000未満であることが好ましい。重量平均分子量を5,000以上とすることで分子間相互作用による延伸性向上が期待でき、また100,000未満とすることで良好なスクリーン印刷適性を発揮できる点で好ましい。
【0034】
ヒドロキシ基またはアミノ基のうち少なくとも一種の反応性官能基を有する樹脂(A2)は、中でも、ヒドロキシ基またはアミノ基を分子鎖末端に有する、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレア樹脂、ポリエーテル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である樹脂ことが好ましい。前記群から選ばれる樹脂であることにより、後述する導電性微粒子(B)およびポリロタキサン化合物(C)との親和性が向上し、ベースフィルム等への密着性も向上するとともに、ブロックイソシアネート架橋剤との架橋形成において架橋密集部が形成されないことにより、摩耗や耐熱性に必要な架橋密度を得ながら、より成型時の延伸耐性に優れた導電層を形成することができる。
【0035】
本実施において樹脂(A)の官能基価は、1mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましく、2mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることが好ましい。なお、官能基価の算出方法の詳細は、後述する実施例で説明する。
なお樹脂(A)がヒドロキシ基と、アミノ基とを両方有する場合には、官能基価は、樹脂(A1)の水酸基価と、アミン価との合計を表す。
なお本実施における分子鎖末端とは、樹脂(A)の分子鎖を構成する繰返し構造単位のうち末端にあるもの、或いはその末端に連結された非繰返し構造をさす。
【0036】
本実施において樹脂(A)は、後述の実施例、その他公知の方法により合成して用いてもよく、また、所望の物性を有する市販品を用いてもよい。本実施において樹脂(A)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
本実施の導電性組成物中の樹脂(A)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、導電性組成物に含まれる固形分全量に対し、8質量%以上40質量%以下であることが好ましい。樹脂(A)の含有割合が上記下限値以上であれば、成膜性や、ベースフィルム等への密着性向上し、また、導電層に柔軟性を付与することができる。また、樹脂(A)の含有割合が上記上限値以下であれば、相対的に導電性微粒子(B)の含有割合を高めることができ、導電性に優れた導電層を形成することができる。
【0038】
<導電性微粒子(B)>
導電性微粒子(B)は、導電層内で複数の導電性微粒子が接触して導電性を発現するものであり、本実施においては、高温で加熱することなく導電性が得られるものの中から適宜選択して用いられる。
本実施に用いられる導電性微粒子としては、金属微粒子、導電性酸化物微粒子、カーボン微粒子などが挙げられる。
金属微粒子としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、アルミニウム、タングステン、モルブテン、白金等の金属単体粉のほか、銅-ニッケル合金、銀-パラジウム合金、銅-スズ合金、銀-銅合金、銅-マンガン合金などの合金粉、前記金属単体粉または合金粉の表面を、銀などで被覆した金属コート粉などが挙げられる。また、カーボン微粒子としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブなどが挙げられる。また、導電性酸化物微粒子としては、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウムなどが挙げられる。
形状としては、球状、連鎖球状、樹状、ワイヤー形状などが挙げられる。
【0039】
本実施においては、中でも、銀粉、銅粉、銀コート粉、銅合金粉、導電性酸化物粉、およびカーボン微粒子より選択される1種以上の導電性微粒子を含むことが好ましい。これらの導電性微粒子(B)を用いることにより、焼結することなく、導電性に優れた導電層を形成することができ、さらに後述する成形フィルムとして立体形状に成形した際の延伸性や導電性の保持性能に優れた導電層を形成することができる。
【0040】
導電性微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、導電性組成物中での分散性や印刷性の保持、成形時の導電性維持および、溶融樹脂による射出成型プロセス耐性または成形済樹脂へ高温下摩擦耐性の観点から、0.5μm以上30μm以下が好ましく、1μm以上25μm以下がより好ましい。
なお本実施において導電性微粒子(B)の平均粒子径は以下のように算出する。JISM8511(2014)記載のレーザ回折・散乱法に準拠し、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラック9220FRA)を用い、分散剤として市販の界面活性剤ポリオキシエチレンオクスチルフェニルエーテル(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製:トリトンX-100)を0.5体積%含有する水溶液に導電性微粒子(B)を適量投入し、撹拌しながら40Wの超音波を180秒照射した後、測定を行った。求められたメディアン径(D50)の値を状導電性微粒子(B)の平均粒径とした。
【0041】
導電性微粒子含有率は、組成物の固形分全体中の50~92重量%であり、より好ましくは、65~85重量%である。
【0042】
<ポリロタキサン化合物(C)>
ポリロタキサン化合物(C)は、複数の環状分子と、これらの環状分子に串団子上に包摂させる直鎖状分子とから構成される、超分子複合体である。ポリロタキサン化合物の直鎖状分子の両末端は前記環状分子の脱離を防止するために、大きな立体障害を有する封鎖基を有しており、環状分子は直鎖状分子に対し直接結合していないものの、機械的に束縛されているため、直鎖状分子と環状分子がバラバラに脱離することが無い。
前記直鎖状分子は、特に限定されないが、例えば環状オリゴ糖の包摂性と安価である点から、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシドなどが挙げられる。
また、前記封鎖基は、前記直鎖状分子の分子鎖両末端に化学的に結合している置換基であって、環状分子のすり抜けによる脱離の抑制が可能な大きさの立体障害を有していれば特に限定されないが、例えばアダマンタン基やトリフェニルメチル基、トリプチセン基などが挙げられる。
本発明における前記環状分子は、大環状分子であって直鎖状分子が通る構造であれば制限されないが、好ましくは水酸基またはアミノ基を有する環状オリゴ糖であり、水酸基またはアミノ基を有するα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを含む。環状オリゴ糖としてはα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、またこれらをプロピレンオキシド、ε-カプロラクトン等を付加反応させて変性した変性デキストリンなどが挙げられる。環状分子に水酸基、アミノ基を有する環状オリゴ糖を用いることで、導電性組成物の塗膜乾燥工程において環状分子と前期熱硬化性樹脂とを化学的に結合させることができる。この際、熱硬化性樹脂と結合した環状分子は、前記直鎖状分子に沿って自由に運動することができるため、架橋によるプロセス耐性と、成型フィルム成型時の延伸への耐性を高いレベルで両立することができる。
ポリロタキサン化合物(C)の合成法については特に限定されないが、反応性の効率や収率の観点から、前記直鎖状分子の、少なくとも一方の分子鎖末端に前記封鎖基が結合していない直鎖状分子前駆体を予め合成しておき、前記環状分子に包摂させたのちに、直鎖状分子の封鎖基が結合していない末端に封鎖基を結合させることで合成することが望ましい。
ポリロタキサン化合物(C)の含有量は、樹脂(A)とポリロタキサン化合物(C)の重量比が95:5~50:50であり、より好ましくは、90:10~60:40であり、さらに好ましくは、85:15~70:30である。
【0043】
<任意成分>
本発明の導電性組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、ブロックイソシアネート架橋剤(D)、溶剤(E)のほか、分散剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、保湿剤等が挙げられる
本実施においてブロックイソシアネート架橋剤(D)は、樹脂(A)と後述するポリロタキサン化合物(C)とを化学的に架橋させる目的で用いられる。
ブロックイソシアネート架橋剤(D)としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の2官能イソシアネートまたはそれらのアロファネート体、ビウレット体、アダクト体、イソシアヌレート体等からなる2官能以上のイソシアネートのイソシアネート基が、ε-カプロラクタムやMEKオキシム等で保護(ブロック化)されたイソシアネート化合物であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基を、ε-カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、ジイソプロピルアミン、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。これらを用いることにより、特に強靭性に優れかつ架橋により発生する架橋点構造により高温下での基材密着性に優れるため、引張力による導電性の低下が特に抑制された導電層を得ることができる
ブロックイソシアネート架橋剤(D)は、重量平均分子量200以上2,500未満であることが好ましい。重量平均分子量を200以上とすることで加熱硬化時の揮発を抑制でき、また2,500未満とすることで樹脂(A)と均一に混和しやすくなり、より均一な架橋構造を形成できる点で好ましい。
ブロックイソシアネート架橋剤(D)は樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上30質量部以下用いることが好ましく、0.3質量部以上25質量部以下用いることがより好ましい。
【0044】
溶剤(E)としては特に限定されないが、連続スクリーン印刷性の観点から沸点180℃以上270℃以下であることが好ましい。溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ガンマブチロラクトン、イソホロン、テトラリン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられるが、これらに限定されず用いることができる。
【0045】
<導電性組成物の製造方法>
本実施の導電性組成物の製造方法は、前記樹脂(A)と、導電性微粒子(B)と、ポリロタキサン化合物(C)と必要により用いられるその他の成分とを、溶解乃至分散する方法であればよく、公知の混合手段により混合することにより製造することができる。
【0046】
[成形フィルム]
本実施の成形フィルムは、ベースフィルム上に導電層を備えた成形フィルムであって、
前記導電層が、前記成形フィルム用導電性組成物の硬化物であることを特徴とする。
本実施の成形フィルムによれば、凹凸面や曲面など任意の基材面に導電回路が形成された成形体を得ることができる。
本実施の成形フィルムによれば、凹凸面や曲面など任意の基材面に導電回路が形成された成形体を得ることができる。
本実施の成形フィルムの層構成について
図1及び
図2を参照して説明する。
図1及び
図2は、本実施の成形フィルムの一例を示す、模式的な断面図である。
図1の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、導電層2を備えている。導電層2は、ベースフィルム1の全面に形成されていてもよく、
図1の例のように所望のパターン状に形成されていてもよい。
図2の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、加飾層3を有し、当該加飾層3上に、導電層2を備えている。また
図2の例に示されるように、成形フィルム10は、導電層2上に、電子部品4や、取り出し回路に接続するためのピン5を備えていてもよい。
また、図示はしないが、導電層2上、又は電子部品4上には、当該導電層や電子部品を保護するための樹脂層を備えていてもよく、当該樹脂層が、後述する基材との密着性を向上するための粘着層または接着層となっていてもよい。
また、図示はしないが、本実施の成形フィルム10が加飾層3を備える場合、
図2の例のほか、ベースフィルム1の一方の面に加飾層3を有し、他方の面に導電層2を備える層構成であってもよい。
本実施の成形フィルムは、少なくともベースフィルムと、導電層を備えるものであり、必要に応じて他の層を有してもよいものである。以下このような成形フィルムの各層について説明する。
【0047】
<ベースフィルム>
本実施においてベースフィルムは、基材形成時の成形温度条件下で基材表面の形状に追従可能な程度の柔軟性および延伸性を有するものの中から適宜選択することができ、成形体の用途や、成形体の製造方法などに応じて選択することが好ましい。
例えば、成形体の製造方法として、後述するオーバーレイ成形法や、フィルムインサート法を採用する場合には、ベースフィルムが成形体に残ることから、導電層の保護層としての機能を有することなどを考慮してベースフィルムを選択することができる。
一方、成形体の製造方法として後述するインモールド転写法などを採用する場合には、剥離性を有するベースフィルムを選択することが好ましい。
【0048】
ベースフィルムは上記の観点から適宜選択することができ、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、AES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合樹脂)、カイダック(アクリル変性塩ビ樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル、及びこれら樹脂の2種以上からなるポリマーアロイ等のフィルムや、これらの積層フィルムであってもよい。中でも、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムであることが好ましい。積層フィルムとしては、中でも、ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートの積層フィルムが好ましい。
ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートの積層フィルムの製造方法は、特に限定されず、ポリカーボネートフィルムとポリメチルメタクリレートフィルムとを貼り合わせて積層してもよく、ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートとを共押出しにより積層フィルムとしてもよい。
また、これらのベースフィルムの表面がコロナ処理等の改質処理が施されていることも好ましい。
【0049】
また、必要に応じ、導電性組成物の印刷性を向上させるなどの目的で、ベースフィルムにアンカーコート層を設け、当該アンカーコート層上に導電性組成物を印刷してもよい。アンカーコート層は、ベースフィルムとの密着性、更には導電性組成物との密着性が良好で成形時にフィルムに追従するものであれば、特に限定されず、また樹脂ビーズ等の有機フィラーや金属酸化物等の無機フィラーも必要に応じて添加してもよい。アンカーコート層を設ける方法は特に限定されず、従来公知の塗工方法にて塗布、乾燥、硬化して得ることができる。
また更に必要に応じ、成形体表面の傷つき防止のため、ベースフィルムにハードコート層を設け、その反対の面に導電性組成物および必要に応じて加飾層を印刷してもよい。ハードコート層は、ベースフィルムとの密着性、更には表面硬度が良好で成形時にフィルムに追従するものであれば、特に限定されず、また樹脂ビーズ等の有機フィラーや金属酸化物等の無機フィラーも必要に応じて添加してもよい。ハードコート層を設ける方法は特に限定されず、従来公知の塗工方法にて塗布、乾燥、硬化して得ることができる。
【0050】
また本実施の成形フィルムが加飾層を有する場合には、透明性を有するベースフィルムを選択することが好ましい。
【0051】
ベースフィルムの厚みは特に限定されないが、例えば、10μm以上500μm以下とすることができ、20μm以上450μm以下が好ましい。
【0052】
<導電層>
本実施の成形フィルムにおいて導電層は、前記導電性組成物の硬化物である。
導電層の形成方法は特に限定されないが、本実施においては、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ステンシル印刷法、スクリーンオフセット印刷法、ディスペンサー印刷法、グラビアオフセット印刷法、反転オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法により形成することが好ましく、スクリーン印刷法により形成することがより好ましい。
スクリーン印刷法においては、導電回路パターンの高精細化に対応すべく微細なメッシュ、特に好ましくは300~650メッシュ程度の微細なメッシュのスクリーンを用いることが好ましい。この時のスクリーンの開放面積は約20~50%が好ましい。スクリーン線径は約10~70μmが好ましい。
スクリーン版の種類としては、ポリエステルスクリーン、コンビネーションスクリーン、メタルスクリーン、ナイロンスクリーン等が挙げられる。また、高粘度なペースト状態のものを印刷する場合は、高張力ステンレススクリーンを使用することができる。
スクリーン印刷のスキージは丸形、長方形、正方形いずれの形状であってもよく、またアタック角度(印刷時の版とスキージの角度)を小さくするために研磨スキージも使用することができる。その他の印刷条件等は従来公知の条件を適宜設計すればよい。
【0053】
導電性組成物をスクリーン印刷により印刷後、加熱して乾燥および架橋反応を行い硬化する。
溶剤の十分な揮発および架橋反応のために、加熱温度は80~230℃、加熱時間としては10~120分とすることが好ましい。これにより、パターン状の導電層を得ることができる。パターン状導電層は、必要に応じて、導電パターンを被覆するように、絶縁層を設けてもよい。絶縁層としては、特に限定されず、公知の絶縁層を適用することができる。
【0054】
導電層の膜厚は、求められる導電性等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上20μm以下とすることができ、1μm以上15μm以下とすることが好ましい。
【0055】
<加飾層>
本実施の成形フィルムは、得られる成形体の意匠性の点から、加飾層を有していてもよい。
加飾層は単色の色味を有する層であってもよく、任意の模様が付されたものであってもよい。
加飾層は、一例として、色材と、樹脂と、溶剤とを含有する加飾インキを調製した後、当該加飾インキを公知の印刷手段によりベースフィルムに塗布することにより形成することができる。
前記色材としては、公知の顔料や染料の中から適宜選択して用いることができる。また樹脂としては、前記本実施の導電性組成物における樹脂(A)と同様のものの中から適宜選択して用いることが好ましい。
加飾層の厚みは特に限定されないが、例えば0.5μm以上10μm以下とすることができ、1μm以上5μm以下とすることが好ましい。
【0056】
[成形体]
本実施の成形体は、基材上に少なくとも導電層が積層した成形体であって、前記導電層が、請求項1~5のいずれか一項記載の成形フィルム用導電性組成物の硬化物であることを特徴とする。本実施の成形体は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物を用いた成形フィルムにより形成されるため、凹凸面や曲面など、任意の面に導電回路が形成された成形体となる。
以下、本実施の成形体の製造方法について、3つの実施形態を説明する。なお、本実施の成形体は、前記本実施の導電性組成物を用いて製造されたものであればよく、これらの方法に限定されるものではない。
【0057】
<第1の製造方法>
本実施に係る成形体の第1の製造方法は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物を、ベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
基材上に前記成形フィルムを配置する工程と、
オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
以下、
図3を参照して説明するが、成形フィルムの製造方法は前述のとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0058】
図3は、成形体の第1の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。
図3(A)~(C)はそれぞれTOM(Three dimension Overlay Method)成形機のチャンバーボックス内に配置された成形フィルム10と基材20を図示するものであり、
図3(B)および(C)ではチャンバーボックスを省略している。
第1の製造方法においては、まず、基材20を下側チャンバーボックス22のテーブル上に設置する。次いで、前記本実施の成形フィルム10を上側チャンバーボックス21と下側チャンバーボックス22との間を通し、基材20上に配置する。この際、成形フィルム10は導電層が基材20側、もしくは基材20とは反対側のどちらと面するように配置されていてもよく、最終的な成形体の用途によって選択される。次いで上側・下側チャンバーボックスを真空状態とした後、成形フィルムを加熱する。次いで、テーブルを上昇することにより基材20を上昇15する。次いで上側チャンバーボックス21内のみを大気開放する(
図3(B))。この時、成形フィルムは基材側に加圧16され、成形フィルム10と基材20とが貼り合わされて一体化する(
図3(C))。このようにして成形体30を得ることができる。
【0059】
当該第1の製造方法において、基材20は予め任意の方法で準備することができる。当該第1の製造方法において、基材20の材質は特に限定されず、樹脂製であっても金属製であってもよい。
【0060】
なお本第1の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスとは、前記
図3(C)での成形フィルムが基材側に加圧16され、成形フィルム10と基材20とが貼り合わされて一体化する際の、高温下で成形フィルムの導電回路と基材との間の摩擦応力に起因するものである。即ち本第1の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷と、高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを同時に受けることとなる。
【0061】
<第2の製造方法>
本実施に係る成形体の第2の製造方法は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物を、ベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、
成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。以下、
図4を参照して説明する。なお、第2の製造方法をフィルムインサート法ということがある。
【0062】
図4は、成形体の第2の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。第2の製造方法において、成形フィルム10は、金型11により予め所定の形状に成形する(
図4(A))。成形フィルム10は加熱して軟化した後に、又は軟化させながら、真空による金型への吸引もしくは圧空による金型への押しつけ、またはその両方を併用して行い、金型11により成形する(
図4(B))。この際、成形フィルム10は導電層が後述する基材20側、もしくは基材20とは反対側のどちらと面するように成形されていてもよく、最終的な成形体の用途によって選択される。次いで、成形後の成形フィルム10を射出成形用の金型12内に配置する(
図4(C)~
図4(D))。次いで、開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と、前記基材20とを一体化して、成形体30が得られる(
図4(E))。
【0063】
第2の製造方法において基材20は予め準備する必要はなく、基材の成形と、成形フィルムとの一体化を同時に行うことができる。基材20の材質は、射出成形用に用いられる公知の樹脂の中から適宜選択して用いることができる。
【0064】
なお本第2の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスとは、
図4(E)で開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と、前記基材20とを一体化する際の、成形フィルム上の導電層が高温の溶融樹脂の型内への射出により受ける摩擦応力に起因するものである。即ち本第2の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷を受けた後、別工程にて高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを受けることとなる。
【0065】
<第3の製造方法>
本実施に係る成形体の第3の製造方法は、前記本実施の成形フィルム用導電性組成物を、スクリーン印刷により、ベースフィルム上に印刷し、乾燥することにより成形フィルムを製造する工程と、
前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルム中の導電層を基材側に転写する工程と、を含む。
以下、
図5を参照して説明する。なお、第3の製造方法をインモールド転写法ということがある。
【0066】
図5は、成形体の第3の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。第3の製造方法において成形フィルム10は、ベースフィルムとして剥離性を有するものを選択して用いる。当該成形フィルム10を射出成形用の金型12内に、後述する基材20側に導電層が向くように配置する(
図5(A))。次いで、開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と基材20とが密着し、基材20側に、少なくとも導電層が転写され(
図5(B))、成形体30が得られる(
図5(C))。なお、成形フィルム10が加飾層を有する場合には、加飾層と導電層とが転写される。
【0067】
第3の製造方法においては、ベースフィルムを切断する必要がないため、
図5の例に示されるように長尺状のベースフィルムを配置することができる。基材20の材質は、射出成形用に用いられる公知の樹脂の中から適宜選択して用いることができる。
【0068】
なお第3の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスとは、
図5(C)で開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と基材20とが密着する際の、成形フィルム上の導電層が高温の溶融樹脂の型内への射出により受ける摩擦応力に起因するものである。即ち本第3の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷と、高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを同時に受けることとなる。
【0069】
このようにして得られた成形体は、家電製品、自動車用部品、ロボット、ドローンなどのプラスチック筐体などに、回路やタッチセンサー・各種電子部品の実装を行うことを可能にする。また、電子機器の軽薄短小化および設計自由度の向上、多機能化に極めて有用である。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
また、実施例中の重量平均分子量は、東ソー社製GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)「HLC-8320」を用いた測定におけるポリスチレン換算分子量である。
【0071】
また実施例中の「官能基価」は各原料の官能基1つあたりの分子量(これを官能基当量とする)を基に、以下の計算式によって原料1gあたりの官能基量を等モル量の水酸化カリウム換算質量(mg)として表したものである。
(官能基価)[mgKOH/g]=(56.1×1000)/(官能基当量)
上記官能基価は、例えば官能基がカルボキシル基である場合は酸価、官能基がヒドロキシ基である場合は水酸基価、官能基がアミノ基である場合はアミン価などと表現される量の総称であり、互いに異なる官能基をもつ物質同士の官能基比率を比較する際には、上記官能基価が同じ値であれば同モル量の官能基を有すると考えてよい。
【0072】
上記官能基価は、官能基がカルボキシル基やヒドロキシ基などの定量に水酸化カリウムの滴定を用いる場合は、例えばJIS K 0070に定められた公知公用の測定法を用いて中和に用いた水酸化カリウムの適定量から測定値(酸価および水酸基価)を直接求めることもでき、上記の計算式による計算値と同様に扱うことができる。
また、イソシアネート基など、官能基価の定量に上記の水酸化カリウムによる滴定を使用しない場合にも、官能基量を表すそれぞれの測定値から導かれた上記官能基当量ならびに上記計算式を用いて、便宜的に水酸化カリウム換算量として算出することができる。以下に具体的な計算例を示す。
【0073】
計算例:イソシアネート基を有する化合物として、JIS K 6806(イソシアネート基をn-ジブチルアミンと反応させ、残ったn-ジブチルアミンを塩酸水溶液で滴定する方法)に定められた方法で測定されたイソシアネート量が23%である3官能イソシアネート化合物「X」について計算する。3官能イソシアネート化合物「X」の官能基当量は、上記イソシアネート量(%)とイソシアネート基の分子量(NCO=44g/mоl)から以下のように導かれる。
(「X」の官能基当量)=1/(0.23/44)=191.3
この3官能イソシアネート化合物「X」の官能基当量と上記官能基価の計算式から、下記のように3官能イソシアネート化合物「X」の官能基価を算出することができる。
(3官能イソシアネート化合物「X」の官能基価)[mgKOH/g]
=(56.1×1000)/191.3=293.3
【0074】
<樹脂(A1-1)~(A1-2)>
樹脂(A1-1)~(A1-2)として以下の樹脂を用いた。
<合成例1:樹脂(A1-1)の合成>
・樹脂(A1-1):攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、1,6ヘキサンジオールと3-メチル-1,5ペンタンジオールとからなるポリカーボネートポリオール(クラレ社製「クラレポリオールP-2011」)127.4部、イソホロンジイソシアネート19.2部を仕込み、窒素気流下にて90℃で3時間反応させ、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー 溶液を得た。
室温まで冷却した後、MEKオキシムを3.9重量部配合し、発熱を確認した後に内温を80℃まで昇温し内温80℃で2時間撹拌した後、1,2,3,4テトラヒドロナフタレンを280重量部配合することで、重量平均分子量7,500、ガラス転移点5℃、ブロックイソシアネート基(官能基価15.0KOHmg/g)を分子両末端に有する、不揮発分35%のブロック化イソシアネート樹脂溶液(A1-1)を得た。
<合成例2:樹脂(A1-2)の合成>
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、1,6ヘキサンジオールと3-メチル-1,5ペンタンジオールとからなるポリカーボネートポリオール(クラレ社製「クラレポリオールC-2090」)155.7部、イソホロンジイソシアネート19.2部を仕込み、窒素気流下にて90℃で3時間反応させ、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー 溶液を得た。
室温まで冷却した後、ジメチルピラゾールを1.7重量部配合し、発熱を確認した後に内温を80℃まで昇温し、内温80℃で2時間撹拌した後、1,2,3,4テトラヒドロナフタレンを328重量部配合することで、重量平均分子量50,000、ガラス転移点5℃、ブロックイソシアネート基(官能基価2.2KOHmg/g)を分子両末端に有する、不揮発分35%のブロック化イソシアネート樹脂溶液(A1-2)を得た。
【0075】
<樹脂(A2-1)~(A2-5)>
樹脂(A2-1)~(A2-5)として以下の樹脂を用いた。
・樹脂(A2-1):東亜合成社製アクリル樹脂、UH2170、重量平均分子量14,000、ガラス転移点60℃、ヒドロキシ基(官能基価88mgKOH/g)を1分子中に2以上側鎖に含有する。
<合成例3:樹脂(A2-2)の合成>
攪拌機、温度計、精留管、窒素ガス導入管、減圧装置を備えた反応装置に、イソフタル酸ジメチル40.6部、エチレングリコール12.9部、ネオペンチルグリコール18.2部、及びテトラブチルチタネート0.03部を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら180℃まで徐々に加熱し、180℃で3時間エステル交換反応を行なった。ついで、セバシン酸28.3部を仕込み180~240℃まで徐々に加熱し、エステル化反応を行なった。240℃で2時間反応し、酸価を測定し、15以下になったら反応装置内を徐々に1~2トールまで減圧し、所定の粘度に達した時、反応を停止し取り出した後に表面がフッ素加工されたパレットに移して冷却することで、重量平均分子量45,000、ガラス転移点58℃、ヒドロキシ基(官能基価5mgKOH/g)を分子鎖末端に有するポリエステル樹脂(A2-2)の固形物を得た。
<合成例4:樹脂(A2-3)の合成>
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、アジピン酸およびテレフタル酸と3-メチル-1,5ペンタンジオールとから得られるポリエステルポリオール(クラレ社製「クラレポリオールP-2011」)127.4部、イソホロンジイソシアネート19.2部、及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート32.5部を仕込み、窒素気流下にて90℃で3時間反応させ、ついでイソホロンジアミン5.5部を加え更に90℃で2時間反応させることで、重量平均分子量35,000、ガラス転移点5℃、アミノ基(官能基価4mgKOH/g)を分子鎖末端に有する不揮発分40%のウレタン樹脂(A2-3)溶液を得た。
<合成例5:樹脂(A2-4)の合成>
攪拌機、温度計、滴下漏斗および加熱装置を備えた500mL反応容器に、メチルメタクリレート400部、t-ブチルメタクリレート100部、チオグリセロール4部、及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート504部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を90℃に加熱して、AIBN[2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)] 0.50部を添加した後7時間反応した。固形分測定により95%以上が反応したことを確認後、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート252部を加えて希釈し、室温まで冷却した。この合成により、水酸基価17mgKOH/g、ガラス転移点105℃、重量平均分子量27,000、ヒドロキシ基を分子鎖末端に有するアクリル樹脂(A2-4)の、不揮発分40%溶液を得た。
<合成例6:樹脂(A2-5)の合成>
攪拌機、温度計、滴下漏斗および加熱装置を備えた500mL反応容器に、ポリプロピレンジアミン(ハンツマン社製ジェファーミンD-400)100部、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸26.8部およびセバシン酸14.1部を仕込み、撹拌しながら240℃まで昇温した。その後240℃で7時間反応を続けた後加熱を停止し、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート261.7部を加えて希釈し、内容物を放冷した。この合成により、アミン価6.6mgKOH/g、ガラス転移点55℃、重量平均分子量34,000、アミノ基を分子鎖末端に有するポリアミド樹脂(A2-5)の、不揮発分35%溶液を得た。
【0076】
<その他樹脂(A3-1)~(A3-4)>
・樹脂(A3-1):クレイバレー社製スチレン無水マレイン酸樹脂、SMA EF30、重量平均分子量9,500、ガラス転移点130℃、酸無水物基(酸価215mgKOH/g)を1分子中に2以上含有する。
・樹脂(A3-2):三菱化学社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂jER―1003、重量平均分子量1,300、常温で液状、ガラス転移点0℃以下、エポキシ基(エポキシ価80mgKOH/g)を1分子中に2以上含有する。
・樹脂(A3-3):根上工業社製アクリルゴム、ME-2000SN、重量平均分子量600,000、ガラス転移点-35℃、カルボキシル基(カルボキシル価20mgKOH/g)を1分子中に2以上含有する。
・樹脂(A3-4):三菱化学社製ダイマー酸グリシジル型エポキシ樹脂、JER871、重量平均分子量260、常温で液状、ガラス転移点0℃以下、エポキシ基(エポキシ価130mgKOH/g)を1分子中に2以上含有する。
【0077】
導電性微粒子、ポリロタキサン化合物、溶剤、及び架橋剤として以下のものを用いた。
<導電性微粒子(B1)~(B7)>
・導電性微粒子(B1):福田金属箔粉社製、鱗片状銀粉、平均粒子径5.2μm
・導電性微粒子(B2):福田金属箔粉社製、凝集状銀粉、平均粒子径1.7μm
・導電性微粒子(B3):三井金属鉱業社製、樹状銀コート銅粉、銀被覆量10%、平均粒子径2μm
・導電性微粒子(B4):石原産業社製、針状導電性酸化錫粉、平均粒子径1μm
・導電性微粒子(B5):伊藤黒鉛社製、鱗片状黒鉛、平均粒子径15μm
・導電性微粒子(B6):昭和電工社製、カーボンナノチューブ、繊維径150nm、長さ10μm、アスペクト比53
・導電性微粒子(B7):DOWA社製、フレーク状銀粉、平均粒子径4μm
【0078】
<ポリロタキサン化合物(C)>
・ポリロタキサン化合物(C1):アドバンスト・ソフトマテリアルズ社製、環状オリゴ糖を含むロタキサン、SH2400P、反応性官能基としてヒドロキシ基を含有する。
・ポリロタキサン化合物(C2):アドバンスト・ソフトマテリアルズ社製、環状オリゴ糖を含むロタキサン系熱硬化性エラストマー、SH3400S、反応性官能基としてヒドロキシ基を含有する。
【0079】
<ブロックイソシアネート架橋剤(D1)~(D2)>
・ブロックイソシアネート架橋剤(D1):
Baxeneden Chemicals社製ブロックイソシアネート溶液、Trixene BI7963、ブロック化されているイソシアネート基を1分子中に3つ含有(官能基価168mgKOH/g)、不揮発分70%(溶剤(E3):2-メトキシプロパノール)
・ブロックイソシアネート架橋剤(D2):
住化コベストロウレタン社製ブロックイソシアネート溶液、デスモジュール BL-3475、ブロック化されているイソシアネート基を1分子中に3つ含有(官能基価147mgKOH/g)、不揮発分70%(溶剤(E4):ソルベントナフサと溶剤(E5)酢酸ブチルの1:1混合溶媒)
【0080】
<溶剤(E1)~(E7)>
・溶剤(E1):1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、沸点209℃
・溶剤(E2):ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、沸点217℃
・溶剤(E3):2-メトキシプロパノール、沸点120℃
・溶剤(E4):ソルベントナフサ、沸点171℃
・溶剤(E5):酢酸ブチル、沸点126℃
・溶剤(E6):メチルエチルケトン、沸点79.6℃
・溶剤(E7):酢酸エチル、沸点77.1℃
<その他添加剤(F1)~(F2)>
・その他添加剤(F1):
東ソー社製イソシアネート溶液、コロネートHL、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物、イソシアネート基を1分子中に3つ含有(官能基価170mgKOH/g)、不揮発分75%(溶剤(E7):酢酸エチル)
・その他添加剤(F2):4,4‘-メチレンジアニリン
【0081】
<実施例1:成形フィルム用導電性組成物(G1)の作成>
樹脂(A1-1)46.0部、導電性微粒子(B1)80.0部およびポリロタキサン化合物(C1)4.0部を撹拌混合し、3本ロールミル(小平製作所製)で混練したのち、ブロックイソシアネート架橋剤(D1)1.8部を配合し、プラネタリーミキサーにより均一に撹拌混合することで成形フィルム用導電性組成物(G1)を得た。
【0082】
<実施例2~実施例35:成形フィルム用導電性組成物(G2)~(G35)の作成>
実施例1において、樹脂、導電性微粒子、ポリロタキサン化合物、ブロックイソシアネート架橋剤の種類及び配合量を表1および表2のように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして、成形フィルム用導電性組成物(G2)~(G35)を得た。
なお、表1~表5中の各材料の数値はいずれも質量部であり、溶剤(E)に予め溶解した溶液原料については溶質と溶剤を個別に表記している。
また、実施例16~31、実施例34、35は参考例である。
【0083】
<比較例1~比較例3:成形フィルム用導電性組成物(G36)~(G38)の作成>
実施例1において、樹脂、溶剤、導電性微粒子、ポリロタキサン化合物、架橋剤の種類及び配合量を表5のように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にして、成形フィルム用導電性組成物(G36)~(G38)を得た。
【0084】
<実施例36~70、および比較例4~6>
ポリカーボネート(PC)フィルム(帝人社製、パンライト2151、厚み300μm)基材(300mm×210mm)上に、成形フィルム用導電性組成物(G1)~(G35)をそれぞれスクリーン印刷機(ミノスクリーン社製、ミノマットSR5575半自動スクリーン印刷機)によって印刷した。次いで、熱風乾燥オーブンで120℃で30分加熱することで、幅15mm、長さ30mm、厚み10μmの四角形ベタ状および線幅3mm、長さ60mm、厚み10μmの直線状のパターンを有する導電層を備えた成形フィルムを得た。
なお、実施例51~66、実施例69~71は参考例である。
【0085】
<実施例71>
前記実施例57において、ポリカーボネートフィルム基材の代わりに、ポリカーボネート樹脂/アクリル樹脂2種2層共押し出しフィルム(住友化学社製、テクノロイC001、厚み125μm)基材(300mm×210mm)を用い、ポリカーボネート樹脂側に成形フィルム用導電性組成物の印刷を行ったこと以外は、前記実施例57と同様にして、成形フィルムを得た。
【0086】
<実施例72~106>
前記実施例36~70において、ポリカーボネートフィルム基材の代わりに、アクリル樹脂フィルム(住友化学社製、テクノロイS001G、厚み250μm)基材(300mm×210mm)を用いたこと、及び、熱風乾燥オーブンでの乾燥条件を80℃で30分としたこと以外は、前記実施例36~70と同様にして、成形フィルムを得た。
<実施例107>
前記実施例93において、アクリル樹脂フィルムの代わりに、ポリプロピレンフィルム(出光興産社製、ピュアサーモAG356AS、厚み200μm)基材(300mm×210mm)を用いたこと以外は、前記実施例93と同様にして、成形フィルムを得た。
なお、実施例87~102、実施例105~107は参考例である。
【0087】
[塗液ポットライフ測定]
上記実施例1~35および比較例1~3にで得られた成形フィルム用導電性組成物を庫内温度10℃雰囲気で6か月間貯蔵した後に、E型粘度計を用いて25℃での溶液粘度を測定し、初期値からの変化度合いで評価した。結果を表1~5に示す
〈塗液ポットライフ評価基準〉
A:実用上優れる:初期値の1~1.5倍未満
B:実用可能:初期値の1.5倍以上~2倍未満
C:実用不可能:初期値の2倍以上、またはゲル化により粘度測定不可
[(1)体積固有抵抗測定]
上記実施例36~107、および比較例4~6の成形フィルムに形成された、15mm×30mmの四角形ベタ状の導電層について、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP MCP-T610型抵抗率計、JIS-K7194準拠、4端子4探針法定電流印加方式)(0.5cm間隔の4端子プローブ)を用いて体積固有抵抗(Ω・cm)を測定した。結果を表1~5に示す。
【0088】
[(2)剥離密着性評価]
上記実施例36~107、および比較例4~6の成形フィルムに形成された、15mm×30mmの四角形ベタ状の導電層に対し、ガードナー社製1mm間隔クロスカットガイドを使用してカッターナイフで当該導電層を貫通するように10x10マスの碁盤目状の切れ込みを入れ、ニチバン社製セロハンテープを貼り付け噛み込んだ空気を抜いてよく密着させたのち、垂直に引きはがした。塗膜の剥離度合いをASTM-D3359規格に従って下記のように評価した。結果を表1~5に示す。
(剥離密着性評価基準)
A:評価5B~4B、密着性に優れる
B:評価上は5B~4Bであるが、塗膜が凝集破壊し、表面側の塗膜の一部が脱離する
C:評価3B以下、密着性に劣る
【0089】
[(3)配線抵抗評価]
上記実施例36~107、および比較例4~6の成形フィルムに形成された、3mm×60mmの直線状パターンの導電層が真ん中に来るように長手方向に70mm、幅方向に10mmに切り出し、測定用クーポンとした。この測定用クーポン上の導電層とは反対側の面に、長手方向端から当該導電層と垂直な線を目印として油性マジックで4cm間隔に2本書き加えた。この目印に従い、4cm間隔となる位置を、テスターを用いて抵抗値測定し、これを配線抵抗(Ω)とした。結果を表1~5に示す。
【0090】
[(4)熱延伸評価1]
上記実施例36~71および比較例4~6の前記測定用クーポンを160℃の加熱オーブン中で、長手方向に引っ張り速度10mm/分で伸長率50%まで引き延ばした。オーブンから取出し、冷却後に光学顕微鏡を用いて断線の有無を評価した。また、上記配線抵抗の測定と同様の方法で、元の目印基準で4cm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表1、表2および表5に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:5倍以上10倍未満
B:10倍以上100倍未満
C:100倍以上
【0091】
なお、伸長率は以下のように算出される値である。
(伸長率)[%]={(延伸後の長さ-延伸前の長さ)/(延伸前の長さ)}×100
【0092】
[(5)熱延伸評価2]
前記熱延伸評価1において、伸長率を100%に変更した以外は、前記熱延伸評価1と同様にして、以下の基準で評価した。結果を表1、表2および表5に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:10倍以上100倍未満
B:100倍以上1000倍未満
C:1000倍以上
【0093】
[(6)熱延伸評価3]
上記実施例72~107の前記測定用クーポンを120℃の加熱オーブン中で、長手方向に引っ張り速度10mm/分で伸長率50%まで引き延ばした。オーブンから取出し、冷却後に光学顕微鏡を用いて断線の有無を評価した。また、上記配線抵抗の測定と同様の方法で、元の目印基準で4mm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表3及び表4に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:5倍以上10倍未満
B:10倍以上100倍未満
C:100倍以上
【0094】
[(7)熱延伸評価4]
前記熱延伸評価3において、伸長率を100%に変更した以外は、前記熱延伸評価3と同様にして、以下の基準で評価した。結果を表3及び表4に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:10倍以上100倍未満
B:100倍以上1000倍未満
C:1000倍以上
【0095】
[(8)オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価1]
上記実施例36~71および比較例4~6の成形フィルムの3mm×60mmの直線状パターンの位置と重なるように、半径4cmの半球状のABS樹脂成形物を導電体側の面と向かい合うように合わせ、TOM成形機(布施真空社製)を用いて設定温度160℃でオーバーレイ成形を行うことで、半球形状に成形された成形フィルムとABS樹脂成形物とが一体化した成形体を得た。この成形体の直線状パターン配線の削れおよび抵抗変動率を確認した。抵抗変動率は元の目印基準で6cm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表1、表2及び表5に示す。
(断線の有無と抵抗変動率)
A:配線の削れが見られず、かつ抵抗変動率が10倍以上50倍未満
B:1~2箇所の配線の削れによる端部欠けが確認される、または抵抗変動率が50倍以上500倍未満
C:配線の削れによる断線が1箇所以上確認される
【0096】
[(9)オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価2]
上記実施例72~107の成形フィルムの3mm×60mmの直線状パターンを使用し、120℃でオーバーレイ成形を行った以外は、前記オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価1と同様に成形体を得て、オーバーレイ成形時の直線状パターン配線の削れおよび抵抗変動率を評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0097】
[(10)フィルムインサート成形による成形体製造時の工程耐性評価1]
上記実施例36~71および比較例4~6の成形フィルムの3mm×60mmの直線状パターンの位置と重なるように、半径4cmの半球状窪みを中央に有するブロック状金属製モールドを導電体側の反対の面と向かい合うように合わせ、TOM成形機(布施真空社製)を用いて設定温度160℃でオーバーレイ成形を行うことで、半球形状に成形された内側にパターン化導電体を有する成形用フィルムを得た。
次いで、当該半球形状に成形された成形フィルムを、バルブゲートタイプのインモールド成形用テスト金型が取り付けられた射出成形機(IS170(i5)、東芝機械社製)にセットし、PC/ABS樹脂(LUPOYPC/ABSHI5002、LG化学社製)を射出成形することで、パターン化導電体付き成形用フィルムと一体化された成形体を得た(射出条件:スクリュー径40mm、シリンダー温度260℃ 、金型温度(固定側、可動側)60℃ 、射出圧力160MPa(80%)、保圧力100MPa、射出速度60mm/秒(28%)、射出時間4秒、冷却時間20秒)。この成形体の直線状パターンの溶融樹脂の射出によるウォッシュアウト(溶融熱可塑性樹脂の温度および射出圧による配線パターンの変形や断線)および抵抗変動率を確認した。抵抗変動率は元の目印基準で6cm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表1、表2及び表5に示す。
(断線の有無と抵抗変動率)
A:配線のウォッシュアウトが全く見られず、かつ抵抗変動率が10倍以上50倍未満
B:軽度のウォッシュアウトによる配線の歪みが確認される、または抵抗変動率が50倍以上500倍未満
C:配線のウォッシュアウトによる断線が1箇所以上確認される
【0098】
[(11)フィルムインサート成形による成形体製造時の工程耐性評価2]
上記実施例72~107の成形フィルムの3mm×60mmの直線状パターンを使用し、120℃でオーバーレイ成形を行った以外は、前記オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価1と同様に成形体を得て、フィルムインサート成形時の直線状パターンの溶融樹脂射出によるウォッシュアウトの程度および抵抗変動率を評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
[結果のまとめ]
ポリロタキサン化合物もしくは樹脂を含有しない導電性組成物や、樹脂とポリロタキサン化合物の重量比が50:50よりもポリロタキサン化合物過多である導電性組成物を用いて形成された比較例4~6は、熱延伸時に破断を生じ、抵抗値が上昇すると同時に、耐ウォッシュアウト性が低いことが明らかとなった。
【0105】
一方、実施例36~107の結果から、本実施の導電性組成物は、樹脂基材との一体化工程時に、成形済基材との摩擦や溶融樹脂射出に対し断線が起きず耐ウォッシュアウト性が良好であり、抵抗値の変化も良好に保たれていた。これは本実施の導電性組成物はポリロタキサン化合物を含むことにより、樹脂、ポリロタキサン化合物、ブロックイソシアネート架橋剤間で架橋が形成される場合には特に、成形体製造時への熱工程耐性を発揮するのに十分な架橋密度を有しながら、架橋点が移動することにより成形時の延伸性も両立されたものと推定される。また成形後の導電性も優れていた点に関しては、架橋時に樹脂-ブロックイソシアネート架橋剤間およびポリロタキサン化合物-ブロックイソシアネート架橋剤間の反応によって形成されるウレタン結合やウレア結合が導電フィラーとの高い親和性を有するため、上記の延伸性の高さが、導電フィラー間の導電パスの保護により強く寄与したためと考えている。また上記の特性バランス両立は、樹脂の官能基が側鎖ではなく末端に位置する場合に特に優れていた。官能基が末端に位置すると、架橋点間距離が大きくなると同時に特に導電フィラー近傍の樹脂架橋マトリクスへの応力の集中点が少なくなり、高温下でもより高い延伸性と導電性の保持特性を発現可能な樹脂-ポリロタキサン化合物ネットワークが形成したものと考えている。また、樹脂が特定の官能基を含むとともにガラス転移点が0℃以上120℃未満の樹脂である場合、さらには樹脂が特定の構造である際に、これらの特性がさらにより一層優れていた。
【0106】
また上記特性により、本発明の導電性組成物の導電層を備えた成形フィルムによれば、基材面が平坦でない立体形状であっても、優れた配線一体型の成形体が得られた。
【0107】
このように、本実施の導電性組成物を用いた成形フィルムおよび配線一体型の成形体は、家電製品、自動車用部品、ロボット、ドローンなどのプラスチック筐体および立体形状部品へ直接、デザイン自由度を損なうことなく軽量かつ省スペースな回路の作り込みやタッチセンサー・アンテナ・面状発熱体・電磁波シールド・インダクタ(コイル)・抵抗体の作り込みや、・各種電子部品の実装を行うことを可能にする。また、電子機器の軽薄短小化および設計自由度の向上、多機能化に極めて有用である。
【符号の説明】
【0108】
1 ベースフィルム
2 導電層
3 加飾層
4 電子部品
5 ピン
10 成形フィルム
11 金型
12 射出成形用金型
13 開口部
14 射出
15 上昇
16 加圧
17 樹脂
20 基材
21 上側チャンバーボックス
22 下側チャンバーボックス
30 成形体