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  • 特許-重荷重用空気入りタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20230523BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230523BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
B60C15/06 B
B60C1/00 Z
B60C11/00 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019145476
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021024475
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】山村 健太
(72)【発明者】
【氏名】野口 侑利
(72)【発明者】
【氏名】竹内 瑞哉
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-234310(JP,A)
【文献】特開2012-86638(JP,A)
【文献】特開2006-188178(JP,A)
【文献】特開2015-89784(JP,A)
【文献】特開2012-254736(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036292(WO,A1)
【文献】特開2016-68933(JP,A)
【文献】特開2010-228746(JP,A)
【文献】特開平7-172117(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0072750(US,A1)
【文献】米国特許第6374888(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
B60C 11/00
B60C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤビード部に設けられたビードフィラーと、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドゴムと、を備える重荷重用空気入りタイヤにおいて、
前記ビードフィラーは、タイヤ径方向外側に位置する上ビードフィラーと、前記上ビードフィラーに対しタイヤ径方向内側に位置する下ビードフィラーとを備え、
前記上ビードフィラーは、天然ゴム80~100質量部およびブタジエンゴム0~20質量部を含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gのカーボンブラックを30~70質量部および硫黄を2~5質量部含み、
前記下ビードフィラーは、天然ゴム60~100質量部およびブタジエンゴム0~40質量部を含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gのカーボンブラックを60~100質量部および硫黄を4~8質量部含み、
前記上ビードフィラーの100%モジュラスM100(UBF)と、前記下ビードフィラーの100%モジュラスM100(LBF)との比が、下記式を満たし、かつ
前記キャップトレッドゴムの硬度HS(CAP)と前記下ビードフィラーの硬度HS(LBF)との比が、下記式を満たす
ことを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
M100(UBF)/M100(LBF)≦0.4
HS(CAP)/HS(LBF)≦1.0
【請求項2】
タイヤ断面高さH(0)に対し、前記下ビードフィラーの高さH(LBF)と前記下ビードフィラーおよび前記上ビードフィラーの合計高さH(UBF)が、下記の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
0.1≦H(LBF)/H(0)≦0.3
0.35≦H(UBF)/H(0)≦0.55
【請求項3】
前記上ビードフィラーの断面積S(UBF)と前記下ビードフィラーの断面積S(LBF)が、下記の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
S(UBF)/S(LBF)≧0.8
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重荷重用空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、乗り心地を損なわずにウェットトラクション性を改善し得る重荷重用空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは左右一対のビード部およびサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるとともにキャップトレッドとアンダートレッドとからなるトレッド部から主に構成されている。タイヤの内側にはカーカスが設けられ、カーカスの両端部はビードコアをタイヤ内側から外側へ包みこむように折り返されている。
ビード部はビードコアとその外周上の断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラーとを備えてなる。
【0003】
一方、トラックまたはバス用タイヤのような重荷重用空気入りタイヤとしては、安全かつ快適な運行が重視されている。そのため重荷重用空気入りタイヤは、雨天時等のウェット路面での坂道発進性(ウェットトラクション性)や乗り心地が重視される。ウェットトラクション性を高めるには、キャップトレッドパターンのブロックおよび溝面積を大きくする;キャップトレッドゴムの硬度を下げる;等の手法があるが、乗り心地が悪化するという問題点がある。
このように重荷重用空気入りタイヤのウェットトラクション性と乗り心地は二律背反の関係にある。
【0004】
なお、重荷重用空気入りタイヤのウェットトラクション性の向上を図る技術としては、例えば特許文献1~2に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-48122号公報
【文献】特開平1-306304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、乗り心地を損なわずにウェットトラクション性を改善し得る重荷重用空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、上ビードフィラーおよび下ビードフィラーの組成と、上ビードフィラーおよび下ビードフィラーの100%モジュラスの関係と、キャップトレッドゴムおよび下ビードフィラーの硬度の関係とを特定化することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0008】
1.タイヤビード部に設けられたビードフィラーと、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドゴムと、を備える重荷重用空気入りタイヤにおいて、
前記ビードフィラーは、タイヤ径方向外側に位置する上ビードフィラーと、前記上ビードフィラーに対しタイヤ径方向内側に位置する下ビードフィラーとを備え、
前記上ビードフィラーは、天然ゴム80~100質量部およびブタジエンゴム0~20質量部を含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gのカーボンブラックを30~70質量部および硫黄を2~5質量部含み、
前記下ビードフィラーは、天然ゴム60~100質量部およびブタジエンゴム0~40質量部を含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gのカーボンブラックを60~100質量部および硫黄を4~8質量部含み、
前記上ビードフィラーの100%モジュラスM100(UBF)と、前記下ビードフィラーの100%モジュラスM100(LBF)との比が、下記式を満たし、かつ
前記キャップトレッドゴムの硬度HS(CAP)と前記下ビードフィラーの硬度HS(LBF)との比が、下記式を満たす
ことを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
M100(UBF)/M100(LBF)≦0.4
HS(CAP)/HS(LBF)≦1.0
2.タイヤ断面高さH(0)に対し、前記下ビードフィラーの高さH(LBF)と前記下ビードフィラーおよび前記上ビードフィラーの合計高さH(UBF)が、下記の関係を満たすことを特徴とする前記1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
0.1≦H(LBF)/H(0)≦0.3
0.35≦H(UBF)/H(0)≦0.55
3.前記上ビードフィラーの断面積S(UBF)と前記下ビードフィラーの断面積S(LBF)が、下記の関係を満たすことを特徴とする前記1または2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
S(UBF)/S(LBF)≧0.8
【発明の効果】
【0009】
本発明の重荷重用空気入りタイヤ(以下、単に空気入りタイヤと言うことがある)は、タイヤビード部に設けられたビードフィラーと、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドゴムと、を備え、前記ビードフィラーは、タイヤ径方向外側に位置する上ビードフィラーと、前記上ビードフィラーに対しタイヤ径方向内側に位置する下ビードフィラーとを備え、前記上ビードフィラーは、天然ゴム80~100質量部およびブタジエンゴム0~20質量部を含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gのカーボンブラックを30~70質量部および硫黄を2~5質量部含み、前記下ビードフィラーは、天然ゴム60~100質量部およびブタジエンゴム0~40質量部を含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gのカーボンブラックを60~100質量部および硫黄を4~8質量部含み、前記上ビードフィラーの100%モジュラスM100(UBF)と、前記下ビードフィラーの100%モジュラスM100(LBF)との比が、M100(UBF)/M100(LBF)≦0.4を満たし、かつ前記キャップトレッドゴムの硬度HS(CAP)と前記下ビードフィラーの硬度HS(LBF)との比が、HS(CAP)/HS(LBF)≦1.0を満たすことを特徴としているので、乗り心地を損なわずにウェットトラクション性を改善し得る空気入りタイヤを提供することができる。
【0010】
上述のように、ロードノイズを低減するには、キャップトレッドパターンのブロックおよび溝面積を大きくする;キャップトレッドゴムの硬度を下げる;等の手法があるが、その反面、乗り心地が低下してしまうという問題点があった。本発明では、上ビードフィラーおよび下ビードフィラーの組成と、上ビードフィラーおよび下ビードフィラーの100%モジュラスの関係と、キャップトレッドゴムおよび下ビードフィラーの硬度の関係とを特定化することにより、キャップトレッドゴムがウェットトラクション性の改善を担い乗り心地を減じた場合でも、上ビードフィラーおよび下ビードフィラーが乗り心地を補完する役割を果たし、結果として乗り心地を損なわずにウェットトラクション性を改善し得る空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】空気入りタイヤの子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
(ビードフィラー)
本発明の空気入りタイヤに用いられるビードフィラーは、タイヤビード部に設けられ、タイヤ径方向外側に位置する上ビードフィラーと、前記上ビードフィラーに対しタイヤ径方向内側に位置する下ビードフィラーとを備える。タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に直交する方向であり、タイヤ径方向内側とはタイヤ回転軸に近づく方向を指し、タイヤ径方向外側とはタイヤ回転軸から離れる方向を指す。
【0014】
本発明では、上ビードフィラーおよび下ビードフィラーの組成が特定される。すなわち、前記上ビードフィラーは、天然ゴム80~100質量部およびブタジエンゴム0~20質量部を含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gのカーボンブラックを30~70質量部および硫黄を2~5質量部含み、前記下ビードフィラーは、天然ゴム60~100質量部およびブタジエンゴム0~40質量部を含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gのカーボンブラックを60~100質量部および硫黄を4~8質量部含む。
【0015】
前記上ビードフィラーにおいて、前記天然ゴム(NR)の配合量が80~100質量部の範囲外である場合、前記カーボンブラックの配合量が30~70質量部の範囲外である場合、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gの範囲外である場合、および/または、前記硫黄の配合量が2~5質量部の範囲外である場合は、乗り心地を損なわずにウェットトラクション性を改善するという本発明の効果を奏することができない。
また、前記下ビードフィラーにおいて、前記天然ゴム(NR)の配合量が60~100質量部の範囲外である場合、前記カーボンブラックの配合量が60~100質量部の範囲外である場合、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が40~100m/gの範囲外である場合、および/または、前記硫黄の配合量が4~8質量部の範囲外である場合は、乗り心地を損なわずにウェットトラクション性を改善するという本発明の効果を奏することができない。
【0016】
ここで、本発明の効果向上の観点から、下記の形態が好ましい。
(1)前記上ビードフィラーにおいて、前記カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、35~55質量部が好ましい。
(2)前記上ビードフィラーにおいて、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は60~70m/gが好ましい。なおカーボンブラックは2種類以上をブレンドして用いてもよい。
(3)前記下ビードフィラーにおいて、前記カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、65~85質量部が好ましい。
(4)前記下ビードフィラーにおいて、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は60~70m/gが好ましい。なおカーボンブラックは2種類以上をブレンドして用いてもよい。
なお本発明でいうNRは、合成イソプレンゴム(IR)を含むものとする。また窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K 6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0017】
本発明で使用される上ビードフィラーおよび下ビードフィラーを構成するゴムは、天然ゴム(NR)およびブタジエンゴム(BR)以外にも、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等を併用することもできる。本発明で使用されるゴムは、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0018】
また、前記上ビードフィラーおよび下ビードフィラーには、前記した成分に加えて、各種充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、酸化亜鉛などのビードフィラーに一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。また加硫の際は、公知の加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤を制限なく使用できる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0019】
本発明の空気入りタイヤにおけるキャップトレッドゴムは、空気入りタイヤの接地面を構成するゴムである。
【0020】
本発明において、キャップトレッドゴムの組成は、下記で説明するHS(CAP)/HS(LBF)の関係を満たすことができれば、とくに制限されず、適宜選択することができる。
例えば、ジエン系ゴム、シリカやカーボンブラック等の各種充填剤、カップリング剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、酸化亜鉛などのキャップトレッドゴムに一般的に配合されている各種成分を配合することができる。また加硫の際は、公知の加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤を制限なく使用できる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0021】
また、本発明の空気入りタイヤにおけるその他の部材を構成する部材についても、各成分の配合割合はとくに制限されず、適宜選択することができる。
例えばその他の部材のゴム組成物として、ジエン系ゴム、各種充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、酸化亜鉛等の一般的に配合されている各種成分を配合することができる。また加硫の際は、公知の加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤を制限なく使用できる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0022】
加硫後のキャップトレッドゴムの最大厚み(アンダートレッドとの接触面からタイヤ径方向におけるタイヤ表面までの最大長さ)はとくに制限されないが、例えば10mm~30mmであり、18mm~28mmが好ましい。
【0023】
本発明の空気入りタイヤは、前記上ビードフィラーの100%モジュラスM100(UBF)と、前記下ビードフィラーの100%モジュラスM100(LBF)との比が、下記式を満たすことが必要である。
【0024】
M100(UBF)/M100(LBF)≦0.4
【0025】
すなわち、M100(UBF)/M100(LBF)の値が0.4以下であることにより、上述のように、キャップトレッドゴムがウェットトラクション性の改善を担い乗り心地を減じた場合でも、上ビードフィラーおよび下ビードフィラーが乗り心地を補完する役割を果たし、結果として乗り心地を損なわずにウェットトラクション性を改善することができる。
【0026】
本発明で言う上ビードフィラーおよび下ビードフィラーの100%モジュラスM100(UBF)、M100(LBF)は、JIS K6251に準拠し、500mm/分にて引張り試験を行い100%伸長時の応力を測定した値(MPa)とする。
【0027】
前記M100(UBF)および前記M100(LBF)の調整は、例えば可塑剤、充填剤、加硫剤または架橋剤の増減により可能である。
【0028】
なお本発明の効果が一層向上するという観点から、前記M100(UBF)/M100(LBF)は、0.15~0.35(MPa)が好ましく、0.20~0.30(MPa)がさらに好ましい。
【0029】
また本発明の効果が一層向上するという観点から、前記M100(UBF)は、1.5~4.5(MPa)であることが好ましく、2.5~3.5(MPa)であることがさらに好ましい。
さらに前記M100(LBF)は、10.0~15.0(MPa)であることが好ましく、11.5~13.5(MPa)であることがさらに好ましい。
【0030】
また本発明の空気入りタイヤは、前記キャップトレッドゴムの硬度HS(CAP)と前記下ビードフィラーの硬度HS(LBF)との比が、下記式を満たすことが必要である。
【0031】
HS(CAP)/HS(LBF)≦1.0
【0032】
前記硬度は、JIS K6253に準拠して20℃にて測定される。
【0033】
なお本発明の効果が一層向上するという観点から、前記HS(CAP)/HS(LBF)は、0.4~0.9が好ましく、0.7~0.9がさらに好ましい。
【0034】
前記HS(CAP)および前記HS(LBF)の調整は、例えば可塑剤、充填剤、加硫剤または架橋剤の増減により可能である。
【0035】
また本発明の効果が一層向上するという観点から、前記HS(CAP)は、50~75であることが好ましく、60~70であることがさらに好ましい。
さらに前記HS(LBF)は、70~95であることが好ましく、75~85であることがさらに好ましい。
【0036】
図1は、空気入りタイヤの子午線断面図である。
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドウォール2と、両サイドウォール2に連なるトレッド3からなり、ビード部1、1間にタイヤ骨格をなすカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
ビードフィラー6は2つの部材から構成され、タイヤ径方向外側に位置する上ビードフィラー62と、前記上ビードフィラー62に対しタイヤ径方向内側に位置する下ビードフィラー64とを有する。
トレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ベルト層7の両端部には、ベルトクッション8が配置されている。また、トレッド3の内周側には、アンダートレッド31が配置されている。空気入りタイヤの内面には、タイヤ内部に充填された空気がタイヤ外部に漏れるのを防止するために、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層されている。
【0037】
また、上記空気入りタイヤにおいて、図1に示すように、タイヤ断面高さH(0)に対し、前記下ビードフィラーの高さH(LBF)と前記下ビードフィラーおよび前記上ビードフィラーの合計高さH(UBF)が、下記の関係を満たすことが好ましい。
【0038】
0.1≦H(LBF)/H(0)≦0.3
0.35≦H(UBF)/H(0)≦0.55
【0039】
タイヤ断面高さH(0)は、タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した無負荷状態において、リムと当接するビードベースからキャップトレッドの接地面までの長さである。
ここで、正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。
【0040】
また前記下ビードフィラーの高さH(LBF)と前記下ビードフィラーおよび前記上ビードフィラーの合計高さH(UBF)は、図1に示されるように、タイヤを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した無負荷状態において、リムと当接するビードベースを起点とするタイヤ径方向の長さである。
【0041】
本発明の効果が向上するという観点から、前記H(LBF)/H(0)は、0.15~0.25が好ましく、0.18~0.22がさらに好ましい。
また、H(UBF)/H(0)は、0.40~0.50が好ましく、0.43~0.48がさらに好ましい。
【0042】
また、本発明の空気入りタイヤは、図1に示される子午線断面において、上ビードフィラー62の断面積S(UBF)と下ビードフィラー64の断面積S(LBF)が、下記の関係を満たすことが好ましい。
【0043】
S(UBF)/S(LBF)≧0.8
【0044】
本発明の効果が向上するという観点から、前記S(UBF)/S(LBF)は、1.0~2.0が好ましく、1.3~1.8がさらに好ましい。
【0045】
また本発明の空気入りタイヤは、従来の空気入りタイヤの製造方法に従って製造が可能である。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0047】
実施例1~5および比較例1~3
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を16リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、ゴムをミキサー外に放出して室温冷却した。次いで、該ゴムを同ミキサーに再度入れ、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、各種ビードフィラーを得た。
【0048】
一方、キャップトレッドゴムを常法にしたがい調製し、加硫剤、架橋剤、充填剤量を増減することにより、表1に示す各種硬度を有するキャップトレッドゴムを得た。
【0049】
M100(UBF)、M100(LBF)、HS(CAP)およびHS(LBF)は、上述のように測定した。また、H(LBF)/H(0)、H(UBF)/H(0)、S(UBF)/S(LBF)を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
前記ビードフィラーと、前記キャップトレッドゴムとを組み込み、タイヤサイズ275/80R22.5 151/148Jの各種試験タイヤを製造した。またビードフィラーおよびキャップトレッドゴム以外の各部材の条件は、各種試験タイヤ間で同一とした。
【0051】
得られた各種試験タイヤについて、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
ウェットトラクション性:試験タイヤを12770ccの排気量の試験車両(トラクタヘッド)に装着し、空気圧をフロント900kPa、リヤ900kPaに調整し、水深1mmの舗装路面上を走行させ、時速6~21km/hの加速時における後輪のスリップ率を計測した。結果は、実施例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど、ウェットトラクション性に優れることを意味する。
【0053】
乗り心地:前記試験車両を用い、テストドライバーによる官能評価を行った。評価は5段階評価とし、「3」点を基準とし、相対評価した。
5:「3」点に対し、乗り心地に顕著な向上が見られる。
4:「3」点に対し、乗り心地に向上が見られる。
3:基準
2:「3」点に対し、乗り心地に劣っていた。
1:「3」点に対し、乗り心地に顕著に劣っていた。
【0054】
【表1】
【0055】
上ビードフィラーの組成
*1:NR(TSR20)
*2:BR(日本ゼオン(株)製NIPOL BR 1220)
*3:カーボンブラック1(キャボットジャパン社製ショウブラックN330、NSA=70m/g)
*4:カーボンブラック2(キャボットジャパン社製ショウブラックN550、NSA=40m/g)
*5:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*6:加硫促進剤(三新化学工業(株)製NS-G)
*7:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄)
【0056】
下ビードフィラーの組成
*8:NR(TSR20)
*9:BR(日本ゼオン(株)製NIPOL BR 1220)
*10:カーボンブラック3(キャボットジャパン社製ショウブラックN330、NSA=70m/g)
*11:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*12:加硫促進剤(三新化学工業(株)製NS-G)
*13:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄)
【0057】
上記の表1から明らかなように、各実施例では、上ビードフィラーおよび下ビードフィラーの組成と、上ビードフィラーおよび下ビードフィラーの100%モジュラスの関係と、キャップトレッドゴムおよび下ビードフィラーの硬度の関係とを特定化しているので、乗り心地を損なわずにウェットトラクション性が改善されている。
これに対し、比較例1は、下ビードフィラーにおけるカーボンブラックの配合量、M100(UBF)/M100(LBF)およびHS(CAP)/HS(LBF)が本発明で規定する範囲外であるので、乗り心地が悪化した。
比較例2は、下ビードフィラーにおけるカーボンブラックの配合量およびM100(UBF)/M100(LBF)が本発明で規定する範囲外であるので、乗り心地が悪化した。
比較例3は、上下ビードフィラーにおけるカーボンブラックの配合量、硫黄の配合量およびM100(UBF)/M100(LBF)が本発明で規定する範囲外であるので、乗り心地が悪化した。
【符号の説明】
【0058】
1 ビード部
2 サイドウォール
3 トレッド
31 アンダートレッド
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
62 上ビードフィラー
64 下ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトクッション
9 インナーライナー
図1